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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】圧縮機、室外機および空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/356 20060101AFI20230728BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
F04C18/356 J
F04C29/02 351A
F04C18/356 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019134294
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021017853
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 謙治
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-091392(JP,A)
【文献】実開昭58-169190(JP,U)
【文献】特開2008-231959(JP,A)
【文献】国際公開第2017/072867(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/023694(WO,A1)
【文献】特開2015-197044(JP,A)
【文献】実開昭51-108218(JP,U)
【文献】特開2019-035391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮機であって、
電動機と、
前記電動機により駆動され、偏心部を有する回転軸と、
前記電動機の下方に配置され、前記流体を圧縮するための圧縮室を有する容器と、
前記偏心部の周囲に設けられ、前記圧縮室の内周面に接触しながら該圧縮室内を回転する回転体と、
前記回転体に当接し、前記圧縮室を2つの空間に仕切る仕切部材と、
前記仕切部材の一端を押圧する弾性体と
を含み、
前記容器は、前記圧縮室の側方を構成し、前記仕切部材と前記弾性体とが装着される側方体と、前記圧縮室の両端の開口を閉鎖し、前記回転軸を回転可能に支持する2つの軸受とを含み、
前記2つの軸受のうちの電動機側の上軸受は、前記容器の下方に貯留される油を上方へ供給するための螺旋状溝と、前記螺旋状溝に連続し、該螺旋状溝を通して供給された油を排出するための油排出穴とを有し、前記油排出穴が、前記螺旋状溝の幅の中央より前記回転軸の回転方向とは反対方向の側の位置に設けられ、前記回転軸の周囲の前記電動機と前記容器との間の空間へ向けて下方に傾斜して延びる、圧縮機。
【請求項2】
前記電動機と前記容器との間の空間側に向いた前記油排出穴の開口が、前記電動機の下端より下方に位置する、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記上軸受に取り付けられ、前記流体の吐出により発生する音を消音するための消音器を含み、
前記消音器は、前記上軸受の径方向に延びる2以上の突出部と、前記突出部間に形成される1以上の凹部とを有し、
前記油排出穴が、前記1以上の凹部のうちの1つに向けて延びる、請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記上軸受は、外周部に、前記油排出穴から排出された前記油が所定の方向へ流れるように誘導する誘導壁を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記側方体は、前記仕切部材が摺動可能に収容される収容溝を有し、
前記上軸受は、前記収容溝上に形成された油戻り穴を有し、
前記油排出穴は、前記油戻り穴が存在する方向に向けて延びる、請求項1~のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の圧縮機を含む、室外機。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の圧縮機を含む、空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を圧縮する圧縮機、室外機および空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリ圧縮機は、密閉容器内に電動機と圧縮機構とを収納し、電動機により回転軸を介して圧縮機構を構成する回転体(ローラ)を回転することにより圧縮室内の流体を圧縮する。圧縮機構の上下には、回転軸を回転可能に支持する軸受が設けられる。
【0003】
密閉容器内の底部には、潤滑油として用いられる冷凍機油が貯留され、回転軸の内部を通して吸い上げられ、圧縮機構や上下の軸受に供給される。下の軸受に供給された冷凍機油は、密閉容器内の底部の油溜りへ直接戻るが、上の軸受に供給された冷凍機油は、電動機と圧縮機構との間の圧縮機構で圧縮した流体の吐出空間へ上向きに放出される。
【0004】
吐出空間に放出された冷凍機油は、大部分が落下して油溜りへ戻るが、一部は圧縮機構から吐出された高圧の流体とともに密閉容器の外部へ排出される。この排出される量が増加すると、油溜りの油面高さが低下し、圧縮機の信頼性が低下する。
【0005】
このような問題に鑑み、上の軸受の上端部に環状溝を設け、環状溝から径方向に延びる油排出穴を設け、環状溝の径方向の幅より油排出穴の径を大きくし、環状溝から上部への排出通路より油排出穴への通路抵抗を小さくし、外部へ排出される量を低減する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4992496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術では、油排出穴を下方に傾斜させて設けることで、外部へ排出される量を低減させているが、冷凍機油が環状溝の上部開口から吐出空間へ上向きにも放出されるため、外部へ排出される量を充分に低減させることができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、流体を圧縮する圧縮機であって、
電動機と、
電動機により駆動され、偏心部を有する回転軸と、
電動機の下方に配置され、流体を圧縮するための圧縮室を有する容器と、
偏心部の周囲に設けられ、圧縮室の内周面に接触しながら圧縮室内を回転する回転体と、
回転体に当接し、圧縮室を2つの空間に仕切る仕切部材と、
仕切部材の一端を押圧する弾性体と
を含み、
容器は、圧縮室の側方を構成し、仕切部材と弾性体とが装着される側方体と、圧縮室の両端の開口を閉鎖し、回転軸を回転可能に支持する2つの軸受とを含み、
2つの軸受のうちの電動機側の上軸受は、容器の下方に貯留される油を上方へ供給するための螺旋状溝と、螺旋状溝に連続し、螺旋状溝を通して供給された油を排出するための油排出穴とを有し、油排出穴が、回転軸の周囲の電動機と容器との間の空間へ向けて下方に傾斜して延びる、圧縮機が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、必要な箇所への冷凍機油の供給を確保しつつ、外部へ排出される冷凍機油の量を充分に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】空気調和装置の構成例を示した図。
図2】室外機の構成例を示した図。
図3】圧縮機の構成例を示した図。
図4】油排出穴が延びる方向の第1の例を示した図。
図5】油排出穴が延びる方向の第2の例を示した図。
図6】螺旋状溝に連続して設けられる油排出穴の位置の一例を示した図。
図7】油排出穴が延びる方向の第4の例を示した図。
図8】油排出穴が延びる方向の第5の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る圧縮機は、流体を圧縮する装置として、単体で使用し、また、いかなる装置やシステムにも搭載することができるが、ここでは、空気調和装置の室外機に搭載するものとして説明する。
【0012】
図1は、空気調和装置の構成例を示した図である。空気調和装置は、同一空間内に設けられる1以上の室内機と、その空間の外部に設置される1以上の室外機とを含む。図1に例示した装置は、室内に設置された1台の室内機10と、室外に設置された1台の室外機11とから構成されている。
【0013】
室内機10と室外機11は、2本の配管12により接続され、配管12内を冷媒が循環するように構成されている。冷媒は、熱を移動させるために用いられる熱媒体で、例えばオゾン層破壊の影響がないハイドロフルオロカーボン(HFC)が使用される。
【0014】
室内機10は、室内の空気を吸い込み、循環する冷媒により室内の空気を冷却または暖め、冷却または暖めた空気を吹き出す。これを繰り返すことにより、室内を冷やし、または暖める。室外機11は、冷媒を室内機へ供給するとともに、室内機から回収し、加熱または冷却して、再び室内機10へ供給する。
【0015】
図2は、室外機11の構成例を示した図である。室外機11は、外気を吸い込み、吹き出すファン20と、吸い込んだ空気を温め、または冷却する熱交換器21と、室内機10と室外機11との間で冷媒を循環する圧縮機22と、室外機11を制御する制御基板23と、膨張弁24とを備えている。また、室外機11は、外気温を計測する温度センサ、圧縮機22に供給する電流を計測するセンサ、冷媒の流量を計測するセンサ、冷媒の圧力を計測するセンサ、四方弁、アキュムレータ等を備えている。
【0016】
制御基板23は、室内機10からの指示を受けて、室外機11を運転または停止し、通知された情報に基づき、ファン20や圧縮機22を制御して室内温度が設定温度になるように運転負荷を変え、室内機10へ供給する冷媒の温度や冷媒を循環する流量等を調整する。膨張弁24は、圧縮された冷媒を膨張させ、冷媒の温度を下げるために使用される。
【0017】
ここで、運転中の空気調和装置における室外機11の動作を簡単に説明しておく。室外機11の運転が開始されると、圧縮機22が起動され、室内機10と室外機11との間の冷媒の循環が開始される。
【0018】
空気調和装置を冷房に使用する場合、圧縮機22が冷媒を圧縮し、吐出すると、高温、高圧の冷媒は、熱交換器21内に供給される。冷媒は、ファン20により吸い込まれた外気と熱交換され、冷却される。冷却後、冷媒は、膨張弁24により膨張され、温度が下がり、配管12を通して室外機11から室内機10へ送られる。
【0019】
室内機10は、ファンと、熱交換器と、制御基板とを備えており、熱交換器内に冷媒が供給され、ファンにより吸い込まれた室内の空気と熱交換される。空気は、冷媒により冷却され、室内へ吹き出される。
【0020】
冷媒は、配管12を通り、圧縮機22へ戻される。この動作を繰り返し、吹き出された冷たい空気で室内を設定温度になるように冷却していく。
【0021】
空気調和装置を暖房に使用する場合、冷房の場合と逆の動作となり、圧縮機22が冷媒を断熱圧縮し、高温、高圧の状態にして吐出すると、熱交換器21ではなく、配管12を通して室内機10へ送られる。室内機10では、熱交換器内に冷媒が供給され、ファンにより吸い込まれた室内の空気と熱交換される。空気は、冷媒により温められ、室内へ吹き出される。
【0022】
冷媒は、空気に熱を与えて冷却され、配管12を通して室外機11へ送られる。室外機11では、膨張弁24により凝縮した高圧の冷媒を膨張させる。これにより、冷媒は、低温、低圧の状態になる。その後、熱交換器21内に供給され、ファン20により吸い込まれた外気と熱交換された後、圧縮機22へ戻される。この動作を繰り返し、吹き出された温かい空気で室内を設定温度になるように暖めていく。
【0023】
図3は、圧縮機22の構成例を示した図である。圧縮機22は、部品数が少ないロータリ圧縮機であり、密閉容器30内に収容された電動機40と圧縮機構50とを含んで構成される。電動機40は、圧縮機構50を、回転軸31を介して回転駆動させるように構成され、固定子41と回転子42とを含む。
【0024】
固定子41は、鉄心やコイル等で構成され、回転子42は、永久磁石を含み、固定子41のコイルに電流を流すことで電磁石を形成し、電流の向きを変えて、回転子42を回転させる。なお、これは一例であり、固定子41が永久磁石を含み、回転子42が鉄心やコイル等で構成されていてもよい。
【0025】
固定子41には、電流をコイル以外へは流さないように絶縁するための絶縁体(インシュレータ)43が設けられている。インシュレータ43は、回転軸31が延びる方向と同じ鉛直方向に延び、鉛直方向への長さが固定子41より長くされ、その下端が電動機40の下端となっている。また、密閉容器30と固定子41との間、固定子41と回転子42との間には、隙間が存在している。なお、電動機40には、上記の隙間のほか、冷媒の流速を遅くするため、一次空間32と二次空間33とを連絡する貫通孔が設けられていてもよい。
【0026】
圧縮機構50は、電動機40の下方に離間して配置される。電動機40と圧縮機構50との間の空間が一次空間32とされ、電動機40の上部の空間が二次空間33とされる。圧縮機構50の下部には、圧縮機構50の各摺動箇所の潤滑や後述する圧縮室のシール等に使用される油として冷凍機油が貯留されている。
【0027】
圧縮機22は、密閉容器30の外部に、気液分離器34を備える。気液分離器34は、密閉容器30と接続され、液冷媒を分離し、ガス冷媒のみを密閉容器30内へ供給する。
【0028】
密閉容器30内に供給された冷媒は、圧縮機構50へ入り、圧縮され、高温、高圧の冷媒となり、一次空間32へ排出される。回転軸31は、電動機40により駆動され、偏心部を有する。偏心部は、回転軸31の軸の周囲を取り囲むように取付けられる円盤状のもので、偏心部の重心が軸の中心からずれた位置に存在している。
【0029】
圧縮機構50は、電動機40の下方に配置され、冷媒を圧縮するための圧縮室51を有する容器と、回転軸31の偏心部の周囲に設けられ、圧縮室51の内周面に接触しながら圧縮室51内を回転する回転体(ローラ)とを含む。また、圧縮機構50は、ローラに当接し、圧縮室51を2つの空間に仕切る仕切部材(ベーン)と、ベーンの一端を押圧する弾性体とを含む。弾性体は、例えばバネを用いることができるが、これに限られるものではなく、ゴムであってもよい。
【0030】
容器は、圧縮室51の側方を構成し、ベーンとバネとが装着される側方体(シリンダ)52と、圧縮室51の両端(上下)の開口を閉鎖し、回転軸31を回転可能に支持する2つの軸受(上軸受、下軸受)53、54とを含む。上軸受53には、高圧の冷媒を吐出する際に発生する音を消音するための消音器(サイレンサ)55が設けられる。サイレンサ55は、冷媒が通過するための穴を備えている。圧縮室51において圧縮された高圧の冷媒は、サイレンサ55内へ吐出され、サイレンサ55が備える穴を通して一次空間32に排出される。
【0031】
一次空間32に排出された冷媒は、密閉容器30と固定子41との間の隙間や固定子41と回転子42との間の隙間を通して二次空間33へと流れる。密閉容器30の頂部には、二次空間33と外部とを連絡する吐出管35が設けられており、二次空間33へと流れた冷媒は、吐出管35を通して外部へと吐出される。
【0032】
圧縮機構50の下部に貯留される冷凍機油は、回転軸31の下端から長手方向に形成された軸穴36内に、螺旋状の羽根(スパイラルシャフト)が設けられ、回転軸31およびスパイラルシャフトの少なくとも一部、下軸受54の全部、シリンダ52の少なくとも一部が冷凍機油に浸漬されている。冷凍機油は、回転軸31の回転に伴ってスパイラルシャフトが回転し、軸穴36内に吸い上げられていく。
【0033】
軸穴36内に吸い上げられた冷凍機油は、回転軸31と下軸受54との間、回転軸31とローラとの間、回転軸31と上軸受53との間等へ供給される。上軸受53は、内面に、軸穴36内に吸い上げられた冷凍機油をさらに上方へ供給するための螺旋状(スパイラル)溝56を有する。スパイラル溝56は、回転軸31と上軸受53との間へ冷凍機油を供給し、余剰の油が上軸受53の外部へ排出される。
【0034】
上軸受53は、余剰の油を排出するための油排出穴57を有する。油排出穴57は、スパイラル溝56に連続し、一次空間32へ向けて下方に傾斜して延びている。スパイラル溝56を通して供給された冷凍機油は、油排出穴57の上端部の回転軸31と上軸受53との間へも供給され、その余剰の油が油排出穴57から排出される。
【0035】
上軸受53の上端部は、回転軸31の振れ回りにより片当たりの発生しやすい箇所である。しかしながら、油の全量が油排出穴57から排出されるものではなく、上軸受53の上端部へも適切に油を供給することができる。このため、上軸受53の上端部の信頼性は失われない。
【0036】
また、油排出穴57は、電動機40と上軸受53との間の一次空間32へ下方に向けて延びているため、油排出穴57の下方にあるサイレンサ55や上軸受53の径方向に広がったシリンダ52の上部開口を閉鎖する閉鎖部上へ排出され、上部の電動機40へ向けては排出されない。したがって、電動機40の隙間(密閉容器30と固定子41との間の隙間や固定子41と回転子42との間の隙間等)を通して一次空間32から二次空間33へ移動する冷媒の流れの沿って放出される冷凍機油の量を減少させることができる。
【0037】
サイレンサ55上に排出された冷凍機油は、上部から見ると円形の上軸受54の閉鎖部上の縁部へ向けて流れ、その縁部に設けられる油戻り穴を通して落下し、密閉容器30の底部に貯留された冷凍機油の油溜りへ戻る。
【0038】
なお、油排出穴57から排出された冷凍機油の一部は、少ない量ではあるが、高圧の冷媒とともに二次空間33へ運ばれ、密閉容器30の外部へ吐出される。冷媒が循環する流路は、密閉空間であり、冷媒に含まれる冷凍機油は、再び圧縮機へ戻り、シリンダ52にローラが接触する際やベーンが摺動する際の摩擦低減のため等に使用される。
【0039】
図4は、油排出穴57が延びる方向の第1の例を示した図である。油排出穴57は、スパイラル溝56に連続し、一次空間32へ向けて下方に延びる穴であればいかなる穴であってもよいが、図4に示すように、油排出穴57が、固定子41に設けられるインシュレータ43の下端より下側へ向けて開口していることが望ましい。これは、油排出穴57から排出された冷凍機油が、インシュレータ43に付着しないようにして、高圧の冷媒とともに二次空間33へ運ばれるのを防ぐことができるからである。
【0040】
油排出穴57は、上軸受53の閉鎖部やサイレンサ55に向けて開口していることがさらに望ましい。上軸受53の閉鎖部とインシュレータ43の下端との間に向けて開口していると、密閉容器30の内面に向けて冷凍機油が排出されることになる。密閉容器30と固定子41との間には隙間があり、その隙間を通して高圧の冷媒が流れる。すると、密閉容器30の内面に付着した冷凍機油は、高圧の冷媒の流れに乗って二次空間33へ運ばれ、油溜りに戻る冷凍機油が少なくなるからである。
【0041】
図5は、油排出穴57が延びる方向の第2の例を示した図である。上軸受53の閉鎖部58の上には、略十字形のサイレンサ55が設けられる。サイレンサ55は、圧縮室51から排出される際の高圧の冷媒の音を低減する。サイレンサ55が略十字形であるのは、4方向に突出した部分のそれぞれの間に形成された凹部59に上軸受53をシリンダ52等と連結するためのボルトを通すためのボルト穴を設けるためであり、且つ圧縮機構50から吐出されたガスの流路の圧縮・膨張の繰り返しによる消音効果向上を狙っているためである。サイレンサ55は、冷媒が通過する冷媒排出穴60を有し、冷媒は、冷媒排出穴60を通して一次空間32へ排出される。
【0042】
上軸受53の閉鎖部58の縁部には、1以上の油戻り穴61が設けられ、油排出穴57から排出された冷凍機油は、サイレンサ55や閉鎖部58の上を流れ、油戻り穴61から油溜りへ落下する。
【0043】
サイレンサ55は、中央部から縁部に向けて下方に傾斜し、閉鎖部58も、中央部から縁部に向けて下方に傾斜している。このため、冷凍機油がどの位置に落下しても、閉鎖部58の縁部へ向けて導くことができる。したがって、油排出穴57は、鉛直方向に対しては一次空間32に向けて下方に傾斜して延びる必要があるが、水平方向に対してはどの向きに延びていてもよいことになる。
【0044】
しかしながら、サイレンサ55上に冷凍機油が排出されると、サイレンサ55上を流れる油と、サイレンサ55の両側の凹部59へ流れ落ち、各凹部59を流れる油とに分かれ、冷凍機油が流れる範囲が広がり、油溜りに冷凍機油を回収するのに時間がかかる。その間、油溜りの油面が下がり、軸穴36に吸い上げられる油量が少なくなり、各箇所へ適切な量の冷凍機油を供給することができなくなる。
【0045】
そこで、油排出穴57は、水平方向に対して延びる方向が、4つの凹部59のうちのいずれか1つに向けて延びるように設けることができる。これにより、冷凍機油が流れる範囲を限定し、排出された冷凍機油を早く油溜りに回収することができる。
【0046】
図6は、スパイラル溝に連続して設けられる油排出穴の位置の一例を示した図である。油排出穴57は、上軸受53の出来るだけ上側で、スパイラル溝56に連続して設けられる。油排出穴57の径は、スパイラル溝56の幅より大きい方が望ましい。これは、油排出穴57とスパイラル溝56との連結部分より上側の、上軸受53と回転軸31との間に供給される冷凍機油の量を制限し、上軸受53の上端部から排出され、二次空間33へ運ばれる冷凍機油の量を減少させるためである。
【0047】
スパイラル溝56に連続する部分の油排出穴57の位置は、回転軸31が所定の方向に回転することから、その回転方向に対してスパイラル溝56の幅の中心より後方となる位置が望ましい。スパイラル溝56は、上軸受53の内面を、下端部から上端部へ向けて回転軸31の回転方向とは反対方向に螺旋状に形成されている。したがって、スパイラル溝56の幅の中心より後方となる位置は、当該中心より、スパイラル溝56が上端部へ向けて形成された側に寄った位置となる。図6に示す例では、回転軸31が矢線Aに示す方向に回転し、矢線Aに示す方向とは反対方向に寄った位置に、スパイラル溝56に連続する油排出穴57が設けられている。
【0048】
スパイラル溝56を通って上昇する冷凍機油は、回転軸31の回転方向とは反対方向へ移動することから、スパイラル溝56の幅の中心より後方となる位置に油排出穴57を設けることで、油排出穴57へ入りやすくなる。このため、より多くの冷凍機油を油排出穴57から排出させ、上軸受53の上端部から排出される冷凍機油の量を減少させることができる。
【0049】
図7は、油排出穴57が延びる方向の第3の例を示した図である。図7も、図5に示した例と同様、水平方向における油排出穴57が延びる方向を例示している。油排出穴57は、略十字形のサイレンサ55の4方向に突出する部分の1つの上に、冷凍機油を排出するように延びている。ここでは、油排出穴57がサイレンサ55の突出する部分の上に冷凍機油を排出するように延びているが、これに限られるものではなく、凹部59に向けて延びていてもよい。
【0050】
この例では、油排出穴57が延びる方向の上軸受53の閉鎖部58の縁部に、油戻り穴61が存在していない。このため、冷凍機油は、縁部の外周側である外周部に設けられた壁に衝突し、二手に分かれ、壁面に沿って周方向を移動し、近くの油戻り穴61から落下し、油溜りに戻ることになる。二手に分かれることで、一方に流れる冷凍機油の量が減少し、流速が遅くなり、油溜りに冷凍機油を回収するのに時間がかかることになる。
【0051】
そこで、上記の壁を、回転軸31が存在する中央部へ向けて凸部を設け、一方に流れるように誘導する誘導壁62とする。誘導壁62は、油排出穴57が延びる方向に対して傾斜した面を有している。なお、面は、平面に限らず、曲面であってもよい。
【0052】
図7に示した例では、油排出穴57から排出された冷凍機油は、誘導壁62に衝突し、矢線Bで示す方向へと流れ、油戻り穴61を通して油溜りへ戻る。このように一方にのみ冷凍機油を流すように誘導することで、冷凍機油を早く回収することができる。
【0053】
図8は、油排出穴57が延びる方向の第4の例を示した図である。上軸受53の下側には、シリンダ52が存在し、シリンダ52は、偏心回転するローラに当接し、圧縮室51を2つに分割するベーン63を備えている。シリンダ52は、常にローラにベーン63の一端である先端を当接させるため、他端の背面を押圧する弾性体を備えている。弾性体は、ゴムであってもよいが、例えばコイルバネとされる。
【0054】
ベーン63は、摺動することによりローラへの当接を維持するため、ベーン63とシリンダ52とが接する部分は擦れ、次第に摩擦抵抗が大きくなっていく。このため、摩擦抵抗が大きくなるのを抑制するため、摺動部分には、冷凍機油の供給が必要となる。摺動部分は、コイルバネが収容されるスプリング穴に連続している。
【0055】
そこで、油戻り穴61の下側に、スプリング穴に繋がる開口64を設け、その油戻り穴61へ向けて冷凍機油が排出されるように油排出穴57を設ける。図8に示す例では、油排出穴57が、上軸受53の径方向であって、サイレンサ55の突出部の1つへ向けて延び、その突出部の上部を通して流れた先に油戻り穴61が存在し、その油戻り穴61の真下に上記の開口64が設けられている。
【0056】
このため、油戻り穴61を通して落下した冷凍機油は、開口64を通してスプリング穴へ入り、ベーン63とシリンダ52とが接する摺動部分へと供給される。これにより、摺動部分の摩擦抵抗を小さくすることができる。
【0057】
このようにして、冷媒とともに圧縮機の外部の冷凍サイクルへ放出される冷凍機油の量を減少させることで、冷凍サイクルの効率を向上させ、圧縮機の信頼性を向上させることができる。
【0058】
これまで本発明の圧縮機、室外機および空気調和装置について上述した実施形態をもって詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
10…室内機
11…室外機
12…配管
20…ファン
21…熱交換器
22…圧縮機
23…制御基板
24…膨張弁
30…密閉容器
31…回転軸
32…一次空間
33…二次空間
34…気液分離器
35…吐出管
36…軸穴
40…電動機
41…固定子
42…回転子
43…インシュレータ
50…圧縮機構
51…圧縮室
52…シリンダ
53…上軸受
54…下軸受
55…サイレンサ
56…スパイラル溝
57…油排出穴
58…閉鎖部
59…凹部
60…冷媒排出穴
61…油戻り穴
62…誘導壁
63…ベーン
64…開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8