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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】差動減速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20230728BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019147413
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028500
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591218307
【氏名又は名称】株式会社ニッセイ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛章
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-096552(JP,U)
【文献】特開2019-019839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、
前記内歯歯車と同軸で前記内歯歯車内に貫通するように配置されており、自身の中心軸である入力中心軸に対して偏心する第1偏心部及び、前記第1偏心部とは偏心方向が異なる第2偏心部を有している入力軸と、
第1ニードルベアリングを介して前記第1偏心部に回転可能に外装され、前記内歯歯車に内接して噛み合う第1外歯歯車と、
第2ニードルベアリングを介して前記第2偏心部に回転可能に外装され、前記内歯歯車に内接して噛み合う第2外歯歯車と、
前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車を挟むように配置されるキャリアと、
を備えており、
前記第1外歯歯車と前記第1ニードルベアリングとは、前記第1外歯歯車の厚さ方向の中心と、前記第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見てずれた位置に配置されていると共に、
前記第2外歯歯車と前記第2ニードルベアリングとは、前記第2外歯歯車の厚さ方向の中心と、前記第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見てずれた位置に配置されており、
前記第1外歯歯車の厚さ方向の中心と前記第2外歯歯車の厚さ方向の中心との距離よりも、前記第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心と前記第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心との距離のほうが短い
ことを特徴とする差動減速機。
【請求項2】
内歯歯車と、
前記内歯歯車と同軸で前記内歯歯車内に貫通するように配置されており、自身の中心軸である入力中心軸に対して偏心する第1偏心部及び、前記第1偏心部とは偏心方向が異なる第2偏心部を有している入力軸と、
第1ニードルベアリングを介して前記第1偏心部に回転可能に外装され、前記内歯歯車に内接して噛み合う第1外歯歯車と、
第2ニードルベアリングを介して前記第2偏心部に回転可能に外装され、前記内歯歯車に内接して噛み合う第2外歯歯車と、
前記第1外歯歯車及び前記第2歯車を挟むように配置されるキャリアと、
を備えており、
前記第1外歯歯車と前記第1ニードルベアリングとは、前記第1外歯歯車の厚さ方向の中心と、前記第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見て一致する位置に配置されており、
前記第1偏心部と前記第1ニードルベアリングとは、前記第1偏心部の前記入力中心軸方向における中心と、前記第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見てずれた位置に配置されており、
前記第2外歯歯車と前記第2ニードルベアリングとは、前記第2外歯歯車の厚さ方向の中心と、前記第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見て一致する位置に配置されており、
前記第2偏心部と前記第2ニードルベアリングとは、前記第2偏心部の前記入力中心軸方向における中心と、前記第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見てずれた位置に配置されており、
前記第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心と前記第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心との距離よりも、前記第1偏心部の前記入力中心軸方向における中心と前記第2偏心部の前記入力中心軸方向の中心との距離のほうが短い
ことを特徴とする差動減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心搖動型の差動減速機に関し、特に部品の摩耗を低減させることができる構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、クランク軸により外歯歯車を揺動させることで内歯歯車と外歯歯車との間に相対回転を発生させ、その相対回転を出力する偏心搖動型減速装置が開示されている。この偏心搖動型減速装置によれば、外歯歯車の軸方向両側に配置されるキャリアが出力部材となっている。また、外歯歯車と、内ローラと、転動体とが、軸方向の位置がほぼ一致するように配置されており、これらが軸方向にずれている場合と比べ、外歯歯車の軸心が回転中心線に対して傾斜するような転倒モーメントが生じ難くなり、偏心搖動型減速装置の寿命の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-19839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような偏心搖動型減速装置の構造において、外歯歯車はキャリアに対して摺動可能でなければならないので、外歯歯車とキャリアとの間には僅かな隙間がある。この隙間は機能上必ず必要であるため、外歯歯車と、内ローラと、転動体とを、軸方向の位置がほぼ一致するように配置しても、これらの隙間により外歯歯車は軸方向に僅かに移動してしまい、転倒モーメントを完全に無くすことはできない。
【0005】
また、外歯歯車に転倒モーメントが発生した場合、外歯歯車には転倒モーメントに起因して軸方向へのスラスト力も生じる。実際に、本発明者が、特許文献1のような構造の偏心搖動型減速装置の耐久試験を実施したところ、外歯歯車がキャリアに当接してキャリアの側面が摩耗してしまうという現象が見られた。これは、外歯歯車に発生するわずかなスラスト力により、外歯歯車がキャリアに押し付けられて摺動したことにより、キャリアの側面が摩耗したものと推測される。
【0006】
また、一般的に外歯歯車には熱処理を施して硬度を高くすることが多いが、キャリアには必ずしも熱処理が施されるとは限らない。このため、特許文献1のような構造において、仮に、熱処理を施した外歯歯車と熱処理を施していないキャリアとが摺動した場合、キャリアの方がより摩耗してしまう可能性が高くなってしまう。
【0007】
本発明は、上述した状況を鑑みてなされ、その目的は、外歯歯車に発生するスラスト力をコントロールすることにより、摩耗を低減させることができる差動減速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1記載の差動減速機は、内歯歯車と、前記内歯歯車と同軸で前記内歯歯車内に貫通するように配置されており、自身の中心軸である入力中心軸に対して偏心する第1偏心部及び、前記第1偏心部とは偏心方向が異なる第2偏心部を有している入力軸と、
第1ニードルベアリングを介して前記第1偏心部に回転可能に外装され、前記内歯歯車に内接して噛み合う第1外歯歯車と、
第2ニードルベアリングを介して前記第2偏心部に回転可能に外装され、前記内歯歯車に内接して噛み合う第2外歯歯車と、
前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車を挟むように配置されるキャリアと、を備えており、
前記第1外歯歯車と前記第1ニードルベアリングとは、前記第1外歯歯車の厚さ方向の中心と、前記第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見てずれた位置に配置されていると共に、
前記第2外歯歯車と前記第2ニードルベアリングとは、前記第2外歯歯車の厚さ方向の中心と、前記第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見てずれた位置に配置されており、
前記第1外歯歯車の厚さ方向の中心と前記第2外歯歯車の厚さ方向の中心との距離よりも、前記第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心と前記第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心との距離のほうが短いことを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項記載の差動減速機は、内歯歯車と、前記内歯歯車と同軸で前記内歯歯車内に貫通するように配置されており、自身の中心軸である入力中心軸に対して偏心する第1偏心部及び、前記第1偏心部とは偏心方向が異なる第2偏心部を有している入力軸と、
第1ニードルベアリングを介して前記第1偏心部に回転可能に外装され、前記内歯歯車に内接して噛み合う第1外歯歯車と、
第2ニードルベアリングを介して前記第2偏心部に回転可能に外装され、前記内歯歯車に内接して噛み合う第2外歯歯車と、
前記第1外歯歯車及び前記第2歯車を挟むように配置されるキャリアと、を備えており、
前記第1外歯歯車と前記第1ニードルベアリングとは、前記第1外歯歯車の厚さ方向の中心と、前記第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見て一致する位置に配置されており、
前記第1偏心部と前記第1ニードルベアリングとは、前記第1偏心部の前記入力中心軸方向における中心と、前記第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見てずれた位置に配置されており、
前記第2外歯歯車と前記第2ニードルベアリングとは、前記第2外歯歯車の厚さ方向の中心と、前記第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見て一致する位置に配置されており、
前記第2偏心部と前記第2ニードルベアリングとは、前記第2偏心部の前記入力中心軸方向における中心と、前記第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心とが、前記入力中心軸に垂直な方向から見てずれた位置に配置されており、
前記第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心と前記第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心との距離よりも、前記第1偏心部の前記入力中心軸方向における中心と前記第2偏心部の前記入力中心軸方向の中心との距離のほうが短いことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1及び2に記載の差動減速機によれば、2つの外歯歯車には、厚さ方向で隣り合う外歯歯車とは反対側に押される方向のスラスト力がそれぞれ発生する。このため、外歯歯車同士の側面の摩耗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係る差動減速機の中央縦断面図である。
図2図1におけるニードルベアリング及びその付近の一部拡大図である。
図3図1におけるピン及びその付近の一部拡大図である。
図4図1の差動減速機を出力側から見た図(左側面図)である。
図5図4における止め輪及びその付近の一部拡大図である。
図6】第1キャリア部材にピンを圧入する際の状態を示す説明図である。
図7】第2キャリア部材の断面図である。
図8】第2実施形態に係る差動減速機のニードルベアリング及びその付近の一部拡大図である。
図9】第3実施形態に係る差動減速機のニードルベアリング及びその付近の一部拡大図である。
図10】第4実施形態に係る差動減速機のニードルベアリング及びその付近の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態である差動減速機1Aの中央縦断面図である。
【0024】
差動減速機1Aは、第1外歯歯車2aと、第2外歯歯車2bと、ケーシング3と、キャリア4と、入力軸5とを備えている。ケーシング3は、内周面に内歯歯車6を一体に設けた円筒状の中ケース7と、中ケース7における軸方向の一方(出力側、図1の左側)に配置される円筒状の外ケース8と、他方(入力側、図1の右側)に配置される円盤状のケースカバー9とから成り、中ケース7、外ケース8、及びケースカバー9は、ケースカバー9側から中ケース7を貫通して外ケース8に螺合される複数のボルト10により一体に結合されている。ケーシング3における中ケース7と外ケース8との間には、シールのためのOリング11が挟まれている。また、中ケース7とケースカバー9との間には、シールのためのOリング12が挟まれている。外ケース8はクロスローラベアリング13の外輪も兼ねているため熱処理が施されており、硬度が高くなっている。外ケース8における出力側の側面には、複数のボルト穴14が形成され、該ボルト穴14を利用して、相手側装置の固定部と連結される。
【0025】
キャリア4は、第1キャリア部材4aと第2キャリア部材4bとで構成されている。第1キャリア部材4aは、外ケース8の内側にクロスローラベアリング13を介して回転可能に軸支されている。第1キャリア部材4aはクロスローラベアリング13の内輪も兼ねているため熱処理が施されており、硬度が高くなっている。一方、第2キャリア部材4bには熱処理は施されていない。第1キャリア部材4aにおける軸方向の出力側の側面には、複数のボルト穴15が形成され、該ボルト穴15を利用して、相手側装置の被駆動部と連結される。
【0026】
ケーシング3の内側には、2個のボールベアリング16,16を介して、中空筒状の入力軸5が、内歯歯車6の軸線と同軸で、第1キャリア部材4a、第2キャリア部材4b、及びケースカバー9に回転可能に軸支されている。入力軸5において、ボールベアリング16,16の間には、軸方向の出力側から順に第1偏心部17a及び第2偏心部17bが隣接して形成されている。第1偏心部17aと第2偏心部17bとは、外径及び偏心量δ1が互いに等しく、偏心方向が互いに180度異なる位相となっている。入力軸5における軸方向の入力側の端部には、中心軸に垂直な方向に複数のボルト穴18が形成されている。
【0027】
第1偏心部17aには、全周に亘って配設される円柱状の複数のころ20,20・・からなる第1ニードルベアリング21aが設けられている。第2偏心部17bには、第1ニードルベアリング21aと同形状の第2ニードルベアリング21bが設けられている。第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bは、中心に貫通穴23が形成され、それぞれの貫通穴23の内周面に、第1ニードルベアリング21a及び第2ニードルベアリング21bが配置されている。第1ニードルベアリング21aを介して、第1偏心部17aには第1外歯歯車2aが回転可能に外装され、第2ニードルベアリング21bを介して、第2偏心部17bには第2外歯歯車2bが回転可能に外装されている。
【0028】
第1キャリア部材4aにおける軸方向の入力側には、第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bが配置され、第1キャリア部材4aと第2キャリア部材4bとで、第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bを挟むようになっている。第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bは、内歯歯車6の歯数よりも僅かに少ない歯数を有して内歯歯車6に偏心位置で内接している。第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bは、それぞれ形状が同じ歯車であり、入力軸5の軸線である入力中心軸O1からそれぞれ互いに180度異なる方向に偏心量δ1だけオフセットした軸線O2を中心に配置されている。第1外歯歯車2aと第2外歯歯車2bとは、僅かな隙間をあけて互いに摺動するようになっている。第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bには、熱処理が施されており、表面硬度が高くなっている。
【0029】
第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bには、軸線O2を中心とした同心円上に、複数の円形のピン孔24が、周方向に等間隔で形成されて、このピン孔24に、入力中心軸O1を中心とした同心円上で当該軸線と平行に架設される外径D1のピン25がそれぞれ遊挿されている。このピン25の両端は、第1キャリア部材4a及び第2キャリア部材4bに設けられた孔に圧入され、ピン25によって第1キャリア部材4a及び第2キャリア部材4bは一体に回転可能となっている。ピン25の外周には筒状のメタル26が外装され、第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bのピン孔24の内周面には、メタル26が接触している。
【0030】
外ケース8と第1キャリア部材4aとの間でクロスローラベアリング13の外側には、オイルシール41が配置されている。また、第1キャリア部材4aと入力軸5との間でボールベアリング16の外側には、オイルシール42が配置されている。また、ケースカバー9と入力軸5との間でボールベアリング16の外側には、オイルシール43が配置されている。Oリング11、Oリング12、オイルシール41、オイルシール42、及びオイルシール43により、差動減速機1Aの内部空間が封止されている。
【0031】
図2は、図1のA部拡大図であり、第1ニードルベアリング21a、第2ニードルベアリング21b、及びその付近を詳細に説明した図である。第1ニードルベアリング21aと第1外歯歯車2aとは、入力中心軸O1に垂直な方向より見て、第1ニードルベアリング21aのころ20の長さ方向の中心B1と第1外歯歯車2aの厚さ方向の中心C1とがずれた位置になるように配置されている。また、第2ニードルベアリング21bと第2外歯歯車2bとは、同じく入力中心軸O1に垂直な方向より見て、第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B2と第2外歯歯車2bの厚さ方向の中心C2とが、ずれた位置になるように配置されている。
【0032】
第1外歯歯車2aの厚さ方向の中心C1と第2外歯歯車2bの厚さ方向の中心C2との距離L1よりも、第1ニードルベアリング21aの長さ方向の中心B1と第2ニードルベアリング21bの長さ方向の中心B2との距離L2のほうが長い(L1<L2)。つまり、第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bに対して、第1ニードルベアリング21a及び第2ニードルベアリング21bは、入力中心軸O1方向の外側寄りにそれぞれ配置されるようになっている。また、第1外歯歯車2aの厚さ方向の中心C1と第1ニードルベアリング21aのころ20の長さ方向の中心B1とのずれ量L5と、第2外歯歯車2bの厚さ方向の中心C2と第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B2とのずれ量L6とが等しい(L5=L6)。
【0033】
図3は、図1のB部拡大図であり、ピン25及びその付近を詳細に説明した図である。第1キャリア部材4aには、ピン25の一端が圧入されるピン孔27が形成されており、ピン孔27は、入力中心軸O1方向における出力側から順に、ピン25の軸方向の移動を規制する止め輪28が配置されるザグリ穴29、ピン25の外径D1よりもわずかに大きい内径D3でピン25に対して非接触の内周面を有する逃がし部30(D1<D3)、及びピン25の外径D1よりも小さい内径D2の内周面を有する第1圧入部31が形成されている(D1>D2)。第1圧入部31とピン25との締め代は、D1-D2である。
【0034】
ピン25の出力側の一端の外周には、溝32が形成されており、溝32には、止め輪28が配置されている。止め輪28がザグリ穴29の底面に当接することにより、ピン25の入力側への移動が規制される。図4は、図1の差動減速機1Aを出力側から見た図(左側面図)であり、図5は、図4のC部拡大図である。ザグリ穴29は円型であり、ザグリ穴29の軸線O4はピン孔27の軸線O3よりも径方向内側になるように形成されている。止め輪28は、切割り部33を入力中心軸O1に向かう方向A1に向けて配置されている。
【0035】
尚、本実施形態では、ピン25は、第1キャリア部材4aにおける出力側から圧入することが好ましい。図6は、第1キャリア部材4aにピン25を圧入する際の状態を示す説明図である。このように圧入することで、逃がし部30が、ピン25圧入時の案内として機能する。また、逃がし部30の軸方向の長さL4は、ピン25の外径D1よりも長くなっている(L4>D1)。
【0036】
図7は、第2キャリア部材4bの断面図である。第2キャリア部材4bには、ピン25の入力側の一端が圧入される第2圧入部34が形成されている。第2圧入部34の内径D4は、ピン25の外径D1よりは小さいが、第1圧入部31の内径D2よりは大きくなっている(D2<D4<D1)。第2圧入部34とピン25との締め代はD1-D4であり、第1圧入部31とピン25との締め代のほうが、第2圧入部24とピン25との締め代のよりも大きい(D1-D2>D1-D4)。つまり、第1圧入部31におけるピン25の圧入荷重Faのほうが、第2圧入部34におけるピン25の圧入荷重Fbよりも大きい(Fa>Fb)。
【0037】
以上のように構成された差動減速機1Aにおいて、図示しないモータによって入力軸5が回転することで、第1偏心部17a及び第2偏心部17bがそれぞれ対称的に偏心運動し、第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bが内歯歯車6に内接した状態で偏心及び自転運動する。このため、各ピン孔24も偏心及び自転運動するが、各ピン孔24はメタル26を含むピン25よりも大径に形成されているので、各ピン25はピン孔24に内接した状態で相対的に偏心運動して偏心成分を吸収し、各ピン25からは自転成分のみが取り出される。よって、ピン25を介して第1キャリア部材4a及び第2キャリア部材4bが同期回転し、第1キャリア部材4aに設けられた出力部から相手側装置に回転が伝達される。このとき、差動減速機1A内に充填された潤滑剤は、オイルシール41、オイルシール42、オイルシール43、Oリング11、及びOリング12によって封止される。
【0038】
また、入力軸5が回転する際、第1偏心部17aは第1ニードルベアリング21aを介して第1外歯歯車2aを押すため、第1ニードルベアリング21aは第1外歯歯車2aから反力を受ける。このとき、第1ニードルベアリング21aのころ20の長さ方向の中心B1と、第1外歯歯車2aの厚さ方向の中心C1とが、入力中心軸O1に垂直な方向から見てずれているため、第1外歯歯車2aには転倒モーメントと、転倒モーメントに起因するスラスト力(入力中心軸O1方向の力)が発生する。第1外歯歯車2aには、第2外歯歯車2b側に押される方向のスラスト力F1が発生する。
【0039】
また、第2偏心部17bは第2ニードルベアリング21bを介して第2外歯歯車2bを押すため、第2ニードルベアリング21bは第2外歯歯車2bから反力を受ける。このとき、第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B2と、第2外歯歯車2bの厚さ方向の中心C2とが、入力中心軸O1に垂直な方向から見てずれているため、第2外歯歯車2bには転倒モーメントと、転倒モーメントに起因するスラスト力が発生する。第2外歯歯車2bには、第1外歯歯車2a側に押される方向のスラスト力F2が発生する。
【0040】
このように、上記形態の差動減速機1Aによれば、第1外歯歯車2aまたは第2外歯歯車2bに発生するスラスト力の方向をコントロールできるため、第2キャリア部材4bに熱処理を施していない場合であっても、第2外歯歯車2bに対して第2キャリア部材4bとは反対側の方向にスラスト力を発生させることができ、第2キャリア部材4bの摩耗を低減させることができる。
【0041】
また、第1外歯歯車2aまたは第2外歯歯車2bの少なくとも一方には、他方の外歯歯車側に押される方向のスラスト力が発生する。このため、第1キャリア部材4aまたは第2キャリア部材4bの少なくとも一方の摩耗を低減させることができる。
【0042】
また、第1外歯歯車2aに発生するスラスト力F1の向きと、第2外歯歯車2bに発生するスラスト力F2の向きとが対向しているため、お互いにスラスト力を相殺できる。このため、第1キャリア部材4a及び第2キャリア部材4bにかかる力が低減され、第1キャリア部材4a及び第2キャリア部材4bの摩耗を低減することができる。
【0043】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について図8を参照して説明する。図8は、第2実施形態における差動減速機1Bのニードルベアリング及びその付近を詳細に説明した図であり、第1実施形態の図2に対応した図である。第2実施形態では、第1外歯歯車2aの厚さ方向の中心C1と第2外歯歯車2bの厚さ方向の中心C2との距離L1と、第1ニードルベアリング21aのころ20の長さ方向の中心B1と第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B1との距離L2との関係が、第1実施形態とは異なる。尚、上記を除く差動減速機1Bの構成と動作とについては、上述の第1実施形態と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0044】
第1外歯歯車2aの厚さ方向の中心C1と第2外歯歯車2bの厚さ方向の中心C2との距離L1よりも、第1ニードルベアリング21aのころ20の長さ方向の中心B1と第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B2との距離L2のほうが短い(L1>L2)。つまり、第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bに対して、第1ニードルベアリング21a及び第2ニードルベアリング21bは、入力中心軸O1方向の内側寄りに配置されるようになっている。また、第1外歯歯車2aの厚さ方向の中心C1と第1ニードルベアリング21aのころ20の長さ方向の中心B1とのずれ量L5と、第2外歯歯車2bの厚さ方向の中心C2と第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B2とのずれ量L6とが等しい(L5=L6)。
【0045】
以上のように構成された差動減速機1Bにおいて、入力軸5が回転する際、第1偏心部17aは第1ニードルベアリング21aを介して第1外歯歯車2aを押すため、第1ニードルベアリング21aは第1外歯歯車2aから反力を受ける。このとき、第1ニードルベアリング21aのころ20の長さ方向の中心B1と、第1外歯歯車2aの厚さ方向の中心C1とが、入力中心軸O1に垂直な方向から見てずれているため、第1外歯歯車2aには転倒モーメントと、転倒モーメントに起因するスラスト力(入力中心軸O1方向の力)が発生する。第1外歯歯車2aには、第2外歯歯車2bとは反対側に押される方向のスラスト力F3が発生する。
【0046】
また、第2偏心部17bは第2ニードルベアリング21bを介して第2外歯歯車2bを押すため、第2ニードルベアリング21bは第2外歯歯車2bから反力を受ける。このとき、第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B2と、第2外歯歯車2bの厚さ方向の中心C2とが、入力中心軸O1に垂直な方向から見てずれているため、第2外歯歯車2bには転倒モーメントと、転倒モーメントに起因するスラスト力が発生する。第2外歯歯車2bには、第1外歯歯車2aとは反対側に押される方向のスラスト力F4が発生する。
【0047】
尚、第1実施形態においては、第2キャリア部材4bには熱処理が施されていないが、第2実施形態においては、第2キャリア部材4bには熱処理を施しておいたほうが好ましい。
【0048】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得る。上記形態の差動減速機1Bによれば、第1外歯歯車2aまたは第2外歯歯車2bの少なくとも一方には、他方の外歯歯車とは反対側に押される方向のスラスト力が発生する。このため、外歯歯車同士の側面の摩耗を低減することができる。
【0049】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について図9を参照して説明する。図9は、第3実施形態における差動減速機1Cのニードルベアリング及びその付近を詳細に説明した図であり、第1実施形態の図2に対応した図である。第3実施形態では、第1外歯歯車2a、第1ニードルベアリング21a、及び第1偏心部17aの位置関係と、第2外歯歯車2b、第2ニードルベアリング21b、及び第2偏心部17bの位置関係とが、第1実施形態とは異なる。尚、上記を除く差動減速機1Cの構成と動作とについては、上述の第1実施形態と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0050】
第1ニードルベアリング21aと第1偏心部17aとは、入力中心軸O1に垂直な方向より見て、第1ニードルベアリング21aのころ20の長さ方向の中心B1と第1偏心部17aの軸方向の中心E1とがずれた位置になるように配置されている。また、第1外歯歯車2aは、厚さ方向の中心が第1ニードルベアリング21aの軸方向の中心B1と一致している。
【0051】
第2ニードルベアリング21bと第2偏心部17bとは、入力中心軸O1に垂直な方向より見て、第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B2と第2偏心部17bの軸方向の中心E2とがずれた位置になるように配置されている。また、第2外歯歯車2bは、厚さ方向の中心が第2ニードルベアリング21bの軸方向の中心B2と一致している。
【0052】
第1偏心部17aの軸方向の中心E1と第2偏心部17bの軸方向の中心E1との距離L3よりも、第1ニードルベアリング21aのころ20長さ方向の中心B1と第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B2との距離L2のほうが短い(L3>L2)。つまり、第1偏心部17a及び第2偏心部17bに対して、第1ニードルベアリング21a及び第2ニードルベアリング21bは、入力中心軸O1方向の内側寄りに配置されるようになっている。また、第1偏心部17aの軸方向の中心E1と第1ニードルベアリング21aのころ20の長さ方向の中心B1とのずれ量L7と、第2偏心部17bの軸方向の中心E2と第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B2とのずれ量L8とが等しい(L7=L8)。
【0053】
以上のように構成された差動減速機1Cにおいて、入力軸5が回転する際、第1偏心部17aは第1ニードルベアリング21a及び第1外歯歯車2aを押すため、第1偏心部17aは第1ニードルベアリング21aから反力を受ける。このとき、第1ニードルベアリング21aのころ20及び第1外歯歯車2aの軸方向の中心B1と、第1偏心部17aの厚さ方向の中心E1とが、入力中心軸O1に垂直な方向から見てずれているため、第1ニードルベアリング21a及び第1外歯歯車2aには転倒モーメントと、転倒モーメントに起因するスラスト力(入力中心軸O1方向の力)が発生する。第1外歯歯車2aには、第2外歯歯車2b側に押される方向のスラスト力F1が発生する。
【0054】
また、第2偏心部17bは第2ニードルベアリング21b及び第2外歯歯車2bを押すため、第2偏心部17bは第2ニードルベアリング21bから反力を受ける。このとき、第2ニードルベアリング21bのころ20及び第2外歯歯車2bの軸方向の中心B2と、第2偏心部2bの厚さ方向の中心E2とが、入力中心軸O1に垂直な方向から見てずれているため、第2ニードルベアリング21b及び第2外歯歯車2bには転倒モーメントと、転倒モーメントに起因するスラスト力が発生する。第2外歯歯車2bには、第1外歯歯車2a側に押される方向のスラスト力F2が発生する。
【0055】
第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得る。上記形態の差動減速機1Cによれば、第1外歯歯車2aまたは第2外歯歯車2bに発生するスラスト力の方向をコントロールできるため、第2キャリア部材4bに熱処理を施していない場合であっても、第2外歯歯車2bに対して第2キャリア部材4bとは反対側の方向にスラスト力を発生させることができ、第2キャリア部材4bの摩耗を低減させることができる。
【0056】
また、第1外歯歯車2aまたは第2外歯歯車2bの少なくとも一方には、他方の外歯歯車側に押される方向のスラスト力が発生する。このため、第1キャリア部材4aまたは第2キャリア部材4bの少なくとも一方の摩耗を低減させることができる。
【0057】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について図10を参照して説明する。図10は、第4実施形態における差動減速機1Dのニードルベアリング及びその付近を詳細に説明した図であり、第3実施形態の図9に対応した図である。第4実施形態では、第1ニードルベアリング21a及び第1外歯歯車2aの軸方向の中心B1と第2ニードルベアリング21b及び第2外歯歯車2bの軸方向の中心B2との距離L2と、第1偏心部17aの軸方向の中心E1と第2偏心部17bの軸方向の中心E2との距離L3との関係が、第3実施形態とは異なる。尚、上記を除く差動減速機1Dの構成と、動作とについては、上述の第3実施形態と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0058】
第1ニードルベアリング21aのころ20の長さ方向の中心B1と第2ニードルベアリング21bのころ20の長さ方向の中心B2との距離L2よりも、第1偏心部17aの軸方向の中心E1と第2偏心部17bの軸方向の中心E2との距離L3のほうが短い(L2>L3)。つまり、第1外歯歯車2a、第2外歯歯車2b、第1ニードルベアリング21a、及び第2ニードルベアリング21bに対して、第1偏心部17a及び第2偏心部17bは、入力中心軸O1方向の内側寄りに配置されるようになっている。また、第1ニードルベアリング21a及び第1外歯歯車2aの軸方向の中心B1と第1偏心部17aの軸方向の中心E1とのずれ量L7と、第2ニードルベアリング21b及び第2外歯歯車2bの軸方向の中心B2と第2偏心部17bの軸方向の中心E2とのずれ量L8とが等しい(L7=L8)。
【0059】
以上のように構成された差動減速機1Dにおいて、入力軸5が回転する際、第1偏心部17aは第1ニードルベアリング21a及び第1外歯歯車2aを押すため、第1偏心部17aは第1ニードルベアリング21aから反力を受ける。このとき、第1ニードルベアリング21a及び第1外歯歯車2aの軸方向の中心B1と、第1偏心部17aの厚さ方向の中心E1とが、入力中心軸O1に垂直な方向から見てずれているため、第1ニードルベアリング21a及び第1外歯歯車2aには転倒モーメントと、転倒モーメントに起因するスラスト力(入力中心軸O1方向の力)が発生する。第1外歯歯車2aには、第2外歯歯車2bとは反対側に押される方向のスラスト力F3が発生する。
【0060】
また、第2偏心部17bは第2ニードルベアリング21b及び第2外歯歯車2bを押すため、第2偏心部17bは第2ニードルベアリング21bから反力を受ける。このとき、第2ニードルベアリング21b及び第2外歯歯車2bの軸方向の中心B2と、第2偏心部2bの厚さ方向の中心E2とが、入力中心軸O1に垂直な方向から見てずれているため、第2ニードルベアリング21b及び第2外歯歯車2bには転倒モーメントと、転倒モーメントに起因するスラスト力が発生する。第2外歯歯車2bには、第1外歯歯車2aとは反対側に押される方向のスラスト力F4が発生する。
【0061】
尚、第3実施形態においては、第2キャリア部材4bには熱処理が施されていないが、第4実施形態においては、第2キャリア部材4bには熱処理を施しておいたほうが好ましい。
【0062】
第4実施形態においても、第3実施形態と同様の効果を得る。上記形態の差動減速機1Dによれば、第1外歯歯車2aまたは第2外歯歯車2bの少なくとも一方には、他方の外歯歯車とは反対側に押される方向のスラスト力が発生する。このため、外歯歯車同士の側面の摩耗を低減することができる。
【0063】
[変形例]
上記実施形態においては、第1ニードルベアリング21a及び第2ニードルベアリング21bのころ20の形状は円柱状であるのに対し、変形例においては、ころ20は円柱状ではなく樽型であってもよい。このように構成することで、第1外歯歯車2a及び第2外歯歯車2bに発生する転倒モーメントがより大きくなり、転倒モーメントに起因するスラスト力も、より大きくなる。
【符号の説明】
【0064】
1A,1B,1C,1D 差動減速機
2a 第1外歯歯車
2b 第2外歯歯車
4 キャリア
4a 第1キャリア部材
4b 第2キャリア部材
5 入力軸
6 内歯歯車
17a 第1偏心部
17b 第2偏心部
20 ころ
21a 第1ニードルベアリング
21b 第2ニードルベアリング
O1 入力中心軸
B1 第1ニードルベアリングのころの長さ方向の中心
B2 第2ニードルベアリングのころの長さ方向の中心
C1 第1外歯歯車の厚さ方向の中心
C2 第2外歯歯車の厚さ方向の中心
E1 第1偏心部の軸方向の中心
E2 第2偏心部の軸方向の中心
F1,F2,F3,F4 スラスト力
L1 外歯歯車の中心間の距離
L2 ニードルベアリングの中心間の距離
L3 偏心部の中心間の距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10