(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】印刷装置における調整方法および印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20230728BHJP
【FI】
B41J2/01 201
B41J2/01 401
B41J2/01 451
(21)【出願番号】P 2019174055
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】野村 星也
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-134771(JP,A)
【文献】特開2010-188632(JP,A)
【文献】特開2015-66852(JP,A)
【文献】特開2004-284064(JP,A)
【文献】特開2019-209483(JP,A)
【文献】米国特許第6126263(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズル群から印刷媒体に対してインク滴を吐出して印刷を行う印刷装置における調整方法において、
前記ノズル群の調整に関する印刷モードを
予め定められた複数の印刷モードの中から選択して設定する過程と、
前記ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲と、前記複数の印刷モードのそれぞれと、を、対応づけたテーブルをノズル群ごとに取得する過程と、
前記設定された印刷モードに対応す
る駆動電圧の調整可能範囲を
、前記テーブルに基づいて前記
ノズル群ごとに取得する過程と、
前記設定された印刷モードのもとで取得された調整可能範囲に基づいてテストチャートを生成する過程と、
を備え
、
前記テストチャートは、前記ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲の上限電圧に対応するパッチと、前記ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲の下限電圧に対応するパッチと、を含むことを特徴とする印刷装置における調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置における調整方法において、
取得された前記調整可能範囲に基づいて前記ノズル群が所定の印刷濃度で印刷を行うように前記駆動電圧の調整値をノズル群毎に決定する過程
を備えていることを特徴とする印刷装置における調整方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の印刷装置における調整方法において、
前記テストチャートに基づいて印刷濃度と前記駆動電圧との関係を取得する過程
を備えていることを特徴とする印刷装置における調整方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載の印刷装置における調整方法において、
前記印刷モードは、インクの種類に対応していることを特徴とする印刷装置における調整方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載の印刷装置における調整方法において、
前記印刷モードは、印刷の使用目的に対応していることを特徴とする印刷装置における調整方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載の印刷装置における調整方法において、
前記印刷モードは、前記ノズル群を駆動するときの電圧波形に対応していることを特徴とする印刷装置における調整方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載の印刷装置における調整方法において、
前記印刷モードは、印刷速度に対応していることを特徴とする印刷装置における調整方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載の印刷装置における調整方法において、
前記印刷モードは、前記ノズル群の温度に対応していることを特徴とする印刷装置における調整方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載の印刷装置における調整方法において、
前記印刷モードは、前記インクの粘度に対応していることを特徴とする印刷装置における調整方法。
【請求項10】
印刷媒体に対してインク滴を吐出して印刷を行う印刷装置において、
インク滴を吐出するノズルを備え、印刷媒体にインク滴を吐出して印刷を行うノズル群と、
前記ノズル群の調整に関する印刷モードを
予め定められた複数の印刷モードの中から選択して設定させる印刷モード設定部と、
前記ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲と、前記複数の印刷モードのそれぞれと、を、対応づけたテーブルをノズル群ごとに取得する手段と、
前記設定された印刷モードに対応す
る駆動電圧の調整可能範囲を
、前記テーブルに基づいて前記
ノズル群ごとに取得する調整可能範囲設定部と、
前記設定された印刷モードのもとで取得された調整可能範囲に基づいてテストチャートを生成する手段と、
を備え
、
前記テストチャートは、前記ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲の上限電圧に対応するパッチと、前記ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲の下限電圧に対応するパッチと、を含む
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項11】
請求項1
0に記載の印刷装置において、
前記テーブルを記憶するテーブル記憶部を備えることを特徴とする印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷装置における調整方法および印刷装置に係り、特にヘッドの駆動電圧を変更することにより印刷濃度を調整することができる印刷装置における調整方法および印刷装置に関する。
【0002】
近年、インクジェットプリンターとしての印刷装置が開発されている。このような構成の印刷装置は、複数のヘッドを有し、ヘッドに羅列されている複数のノズルからインクを一斉に吐出することにより印刷を行う。
【0003】
このような印刷装置のヘッドには、これを制御する制御基板が設けられている。この制御基板の各々は電気的な特性が異なる。従って、ヘッドに対して同じ制御を行っても、インク滴を吐出しやすいヘッドと吐出しにくいヘッドが出てくる。従って、ヘッドを一律の駆動電圧で駆動させても、印刷結果にムラが出てしまう。
【0004】
従来装置によれば、ヘッドの駆動電圧を調整することにより、上述した制御基板に起因するムラを消去する構成となっている。従来装置における駆動電圧の調整方法について説明する。まず、各ヘッドに係る駆動の基準電圧V0を決めておく。そして、ヘッドを駆動するに当たり、基準電圧V0から電圧を上げていくときに許容される最大の電圧である上限電圧Vmaxと、基準電圧V0から電圧を下げていくときに許容される最小の電圧である下限電圧Vminとを予め定めておく。そして、例えば、各ヘッドに駆動電圧の異なる3回のテスト印刷を実行させる。1回目に印刷をするときの駆動電圧は、上限電圧Vmaxであり、2回目に印刷をするときの駆動電圧は、基準電圧V0であり、3回目に印刷するときの駆動電圧は、下限電圧Vminである。このようなテスト印刷の結果をテストチャートとよぶ。
【0005】
上述した例のテストチャートには、濃度の異なる3つのパッチがヘッド毎に印刷されており、上限電圧Vmaxに係るパッチが最も濃く、下限電圧Vminに係るパッチが最も薄く印刷されている。このテストチャートに基づいて、印刷濃度と駆動電圧との関係を示す近似式を得ることができる。ヘッドが出力すべき適正な濃度である目標濃度を決めておけば、近似式に基づいてヘッドの駆動電圧をこの目標濃度となるように決定することができる。このような駆動電圧の調整をヘッド毎に行えば、ヘッドを駆動する制御基板の電気的特性の差に関わらず印刷濃度が全て目標濃度に調節されることになる。調整後、例えば目標濃度でベタ印刷を行おうとすれば、各ヘッドは、目標濃度に対応する駆動電圧で駆動されることにより、全て同じ目標濃度で印刷を完了することになる。なお、各制御基板には電気的特性の差があるから、各ヘッドの駆動電圧は互いに異なっているのが通常である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の印刷装置では、上限電圧Vmaxおよび下限電圧Vminを一律に決定していることにより不都合が発生している。
【0008】
上述の上限電圧Vmaxおよび下限電圧Vminは、ヘッドの電圧調整可能範囲を規定するように設定される。すなわち、上限電圧Vmaxおよび下限電圧Vminは、いずれも正常に印刷が可能な駆動電圧となっていなければならない。上限電圧Vmaxおよび下限電圧Vminを設定する目的は近似式を作成することにあったことからすれば、印刷の品質として許容できない程度に上限電圧Vmaxを高く設定してしまうと、印刷濃度の調整に用いることができる近似式が得られない。この様な事情は下限電圧Vminについても同様である。
【0009】
従来構成では、上限電圧Vmaxおよび下限電圧Vminが異なる印刷条件の間で流用される構成となっている。すると、ある印刷条件で電圧調整を行っても別の印刷条件では適正な印刷濃度を得ることができないことがあった。極端な場合、インク滴の吐出ができずテストチャートすら作成できないという状況が起こりえる。
【0010】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、印刷条件が変更されてもヘッドの駆動電圧を適切に調整することができる印刷装置における調整方法および印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る発明者は、研究の結果、次の様な見解を得た。すなわち、ある印刷条件においては上限電圧および下限電圧がヘッドの電圧調整可能範囲を規定するようになっていたとしても、別の印刷条件において上限電圧および下限電圧がヘッドの電圧調整可能範囲に収まるとは限らない。すなわち、従来構成によれば、上限電圧および下限電圧が正常な印刷を行おうとするときに許容できない駆動電圧となってしまうことが起こりえる。このような不適切な駆動電圧によりテストチャートを作成したとしても、目標濃度に対応する駆動電圧が正しく求められない。
【0012】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る印刷装置における調整方法は、複数のノズル群から印刷媒体に対してインク滴を吐出して印刷を行う印刷装置における調整方法において、ノズル群の調整に関する印刷モードを予め定められた複数の印刷モードの中から選択して設定する過程と、ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲と、複数の印刷モードのそれぞれと、を、対応づけたテーブルをノズル群ごとに取得する過程と、設定された印刷モードに対応する駆動電圧の調整可能範囲を、テーブルに基づいてノズル群ごとに取得する過程と、設定された印刷モードのもとで取得された調整可能範囲に基づいてテストチャートを生成する過程と、を備え、テストチャートは、ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲の上限電圧に対応するパッチと、ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲の下限電圧に対応するパッチと、を含むことを特徴とするものである。
【0013】
[作用・効果]上述の構成によれば、印刷装置において、印刷条件が変更されてもヘッドの駆動電圧を適切に調整することができる。すなわち本発明によれば、ノズル群の駆動電圧の調整可能範囲を印刷モードによって変更する構成となっている。また、本発明によれば、テーブルを参照することにより設定された印刷モードに対応する調整可能範囲を取得する。これにより、各印刷モードに適合した調整可能範囲内でノズル群の駆動電圧を決定することができる。
【0014】
また、上述の印刷装置における調整方法において、取得された調整可能範囲に基づいてノズル群が所定の印刷濃度で印刷を行うように駆動電圧の調整値をノズル群毎に決定する過程を備えていればより望ましい。
【0015】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示している。取得された調整可能範囲に基づいてノズル群が所定の印刷濃度で印刷を行うように駆動電圧の調整値をノズル群毎に決定するようにすれば、各ノズル群の間で印刷濃度が確実に一定となる。
【0016】
(削除)
【0017】
(削除)
【0018】
また、上述の印刷装置における調整方法において、テストチャートに基づいて印刷濃度と駆動電圧との関係を取得する過程を備えていればより望ましい。
【0019】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示している。取得されたテストチャートに基づき印刷濃度と駆動電圧との関係を取得するようにすれば、対象のノズル群について駆動電圧の変化に応じて印刷の濃度がどのように変化するかを知った状態で、ノズル群の駆動電圧を決定することができる。
【0020】
また、上述の印刷装置における調整方法において、印刷モードは、インクの種類に対応していればより望ましい。
【0021】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示している。印刷モードがインクの種類に対応していれば、インクの種類を変化させてもノズル群の駆動電圧を適切に決定できる。
【0022】
また、上述の印刷装置における調整方法において、印刷モードは、印刷の使用目的に対応していればより望ましい。
【0023】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示している。印刷モードが印刷の使用目的に対応していれば、印刷の使用目的を変化させてもノズル群の駆動電圧を適切に決定できる。
【0024】
また、上述の印刷装置における調整方法において、印刷モードは、ノズル群を駆動するときの電圧波形に対応していればより望ましい。
【0025】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示している。印刷モードが電圧波形に対応していれば、電圧波形を変化させてもノズル群の駆動電圧を適切に決定できる。
【0026】
また、上述の印刷装置における調整方法において、印刷モードは、印刷速度に対応していればより望ましい。
【0027】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示している。印刷モードが印刷速度に対応していれば、印刷速度を変化させてもノズル群の駆動電圧を適切に決定できる。
【0028】
また、上述の印刷装置における調整方法において、印刷モードは、ノズル群の温度に対応していればより望ましい。
【0029】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示している。印刷モードがノズル群の温度に対応していれば、ノズル群の温度が変化してもノズル群の駆動電圧を適切に決定できる。
【0030】
また、上述の印刷装置における調整方法において、印刷モードは、インクの粘度に対応していればより望ましい。
【0031】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示している。印刷モードがインクの粘度に対応していれば、粘度の異なるインクを使用した場合であってもノズル群の駆動電圧を適切に決定できる。
【0032】
また、本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る印刷装置は、印刷媒体に対してインク滴を吐出して印刷を行う印刷装置において、インク滴を吐出するノズルを備え、印刷媒体にインク滴を吐出して印刷を行うノズル群と、ノズル群の調整に関する印刷モードを予め定められた複数の印刷モードの中から選択して設定させる印刷モード設定部と、ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲と、複数の印刷モードのそれぞれと、を、対応づけたテーブルをノズル群ごとに取得する手段と、設定された印刷モードに対応する駆動電圧の調整可能範囲を、テーブルに基づいてノズル群ごとに取得する調整可能範囲設定部と、設定された印刷モードのもとで取得された調整可能範囲に基づいてテストチャートを生成する手段と、を備え、テストチャートは、ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲の上限電圧に対応するパッチと、ノズル群における駆動電圧の調整可能範囲の下限電圧に対応するパッチと、を含むことを特徴とするものである。
【0033】
[作用・効果]本発明に係る印刷装置によれば、印刷条件が変更されてもヘッドの駆動電圧を適切に調整することができる。すなわち本発明によれば、ノズル群の駆動電圧の調整可能範囲を印刷モードによって変更する構成となっている。また、本発明によれば、テーブルを参照することにより設定された印刷モードに対応する調整可能範囲を取得する。これにより、各印刷モードに適合した調整可能範囲内でノズル群の駆動電圧を決定することができる。
【0034】
また、上述の印刷装置において、テーブルを記憶するテーブル記憶部を備えればより望ましい。
【0035】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示している。テーブルを記憶するテーブル記憶部を備えれば、より確実にテーブルを参照して動作できる印刷装置が提供できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、印刷装置において、印刷条件が変更されてもヘッドの駆動電圧を適切に調整することができる。すなわち本発明によれば、ノズル群の駆動電圧の調整可能範囲を印刷モードによって変更する構成となっている。また、本発明によれば、テーブルを参照することにより設定された印刷モードに対応する調整可能範囲を取得する。これにより、各印刷モードに適合した調整可能範囲内でノズル群の駆動電圧を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】実施例に係る印刷装置の全体構成を説明する機能ブロック図である。
【
図2】実施例に係るヘッドと基準電圧との関連性を図示している。
【
図3】実施例に係るヘッド駆動電圧の調整可能範囲を図示している。
【
図4】実施例に係る記憶部が記憶している調整可能範囲と印刷モードとが関連づけられたテーブルを図示している。
【
図5】実施例に係る下限設定値および上限設定値を用いてヘッド駆動電圧の調整可能範囲の上限および下限を求める方法について図示している。
【
図6】実施例に係る所定の印刷モードにおいてヘッドを用いて実際に印刷を行った結果を図示している。
【
図7】実施例に係るテストチャート中の各パッチにおけるヘッド駆動電圧と印刷濃度との相関を図示している。
【
図8】実施例に係るヘッドと調整電圧とが関連したテーブルを図示している。
【
図9】実施例に係る調整電圧の算出に関する印刷装置の動作について説明するフローチャートである。
【
図10】本発明の変形例に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。なお、実施形態における印刷装置10は、ピエゾ方式のインクジェットヘッドを複数有する構成となっている。本発明における印刷媒体の一例としては紙(例えばロール紙)が挙げられる。
【実施例】
【0039】
図1は、本発明に係る印刷装置10を説明する機能ブロック図である。
図1に示すように本発明に係る印刷装置10は、コンソールを有する主制御部11と、印刷装置10を構成する各装置を一括に制御するプリンタ制御部12と、インクジェットヘッド(以下、単にヘッドとよぶ)を制御するヘッド制御部13と、インク滴を吐出するヘッド14a,14b,14c,14dとを備えている。プリンタ制御部12は、主制御部11の命令を受けてヘッド制御部13および印刷装置10に設けられた各種ローラを駆動するモーター16および印刷媒体を乾燥させるヒートローラ17を制御する。記憶部15は、印刷装置10の制御に関する情報を記憶する記憶装置であり、主制御部11がアクセス可能である。主制御部11,プリンタ制御部12,ヘッド制御部13は、CPUやマイコンなどのプロセッサによって実現される。主制御部11は、本発明の印刷モード設定部および調整可能範囲設定部に相当する。
【0040】
ヘッド14a,14b,14c,14dには、インク滴が吐出される開口を有するノズルが複数個設けられており、複数のノズルを一括的に制御することで印刷媒体へのインク滴の飛翔を実現する。ヘッド14a,14b,14c,14dの各々にはEEPROMが設けられており、後述の基準電圧V0等が記憶されている。
図1においてはヘッドが4つしか描かれていないが、本発明に係る印刷装置10はこれ以上のヘッドを有していてもよい。具体的には、印刷装置10はヘッドが羅列されたヘッドユニットを有していてもよい。実施例では、特に
図1に示す4つのヘッド14a,14b,14c,14dに関して説明する。ヘッド14a,14b,14c,14dの各々は、本発明のノズル群に相当する。
【0041】
これらヘッド14a,14b,14c,14dには、インク滴の吐出のしやすさに関して個体差がある。この個体差を打ち消す目的で、ヘッド14a,14b,14c,14dの各々について基準電圧V0を求めている。この基準電圧V0は、ヘッド14a,14b,14c,14dから吐出されるインク滴の飛翔速度を測定して決定される。すなわちインク滴の飛翔速度がヘッド14a,14b,14c,14dの間で一定となるように基準電圧V0が決定される。
図2は、ヘッド14a,14b,14c,14dと基準電圧V0との関連性をテーブルで表している。ヘッド14a,14b,14c,14dの各々に基準電圧V0(a),V0(b),V0(c),V0,(d)が設けられている。この基準電圧V0は、ヘッドが印刷装置10に取り付けられる前に求められたものであり、ヘッド14a,14b,14c,14dの各々に設けられたEEPROMには、そのヘッドに関連する基準電圧V0を示す情報が記憶されている。
【0042】
ヘッド14a,14b,14c,14dが基準電圧V0を考慮した制御を受けて印刷を実行すれば、ムラのない印刷ができそうである。しかし、実際にはそうはならない。ヘッド14a,14b,14c,14dの各々には、ヘッド制御に関する制御基板が設けられる。この制御基板の各々は電気的特性が異なっている。従って、制御基板とヘッド14a,14b,14c,14dとを電気的に接続した状態で、もう一度ヘッド駆動電圧に関する調整を行わないと、制御基板の電気的特性の差異によって印刷結果にムラが出てしまう。
【0043】
そこで、本発明によれば、ヘッド駆動電圧を二段階で調整する構成となっている。調整の1段目は、上述した基準電圧V0の取得である。調整の2段目は、これより説明する調整電圧Vsの取得である。調整電圧Vsは、
図2ないし
図7で説明しているヘッド駆動電圧の調整動作を終えたときに得られる調整後のヘッド駆動電圧のことであり、基準電圧V0に基づいて取得される。ヘッド駆動電圧の調整はヘッド14a,14b,14c,14dが濃度ムラのない印刷を行えるようにするための調整作業である。調整電圧Vsは基準電圧V0近傍の電圧であり、基準電圧V0から電圧をいくらか上下させることで到達できる。
【0044】
調整電圧Vsはいかなる電圧も許容するわけではない。調整電圧Vsが基準電圧V0に対して高すぎると、例えば、ヘッド14a,14b,14c,14dから吐出されるインク滴に不要なサテライトが発生してしまい、印刷の品質が損なわれることがある。また、調整電圧Vsが基準電圧V0に対して低すぎると、例えば、ヘッド14a,14b,14c,14dからインク滴が吐出されなくなり、印刷の品質が損なわれる。このように、ヘッド駆動電圧を調整する際には、調整が可能な電圧範囲があるということになる。このような電圧範囲を調整可能範囲とよぶことにする。調整可能範囲には、上述の基準電圧V0が含まれている。
【0045】
図3は、ヘッド駆動電圧の調整可能範囲を図示している。複数種類あるインクのうち特定のインクAを印刷に使用した場合、ヘッド駆動電圧の調整可能範囲は、例えば、基準電圧V0を3%低くした下限から基準電圧V0を3%高くした上限までの間の範囲となる。
図3では、この範囲の下限を-3%、上限を+3%として表している。この範囲は、駆動電圧を変えながら実際にヘッドをさせてみて、その印刷結果に基づいて決定される。ヘッド駆動電圧を少なくともこの調整可能範囲以内とすれば印刷の品質は許容できるものとなる。
【0046】
インクの種類が変わると、それに連れてヘッド駆動電圧の調整可能範囲が変化することには注意が必要である。このような変化が起こる理由としては、インクの種類に応じて粘度が変化することが挙げられる。インクの粘度が高いと、インクが比較的ヘッドから吐出されにくくなるから、それだけヘッド駆動電圧を高くする必要がある。逆に、インクの粘度が低いと、インクが比較的ヘッドから吐出されやすくなるから、それだけヘッド駆動電圧を低くする必要がある。
【0047】
特定のインクBを印刷に使用した場合、ヘッド駆動電圧の調整可能範囲は、例えば、基準電圧V0を2%低くした下限から基準電圧V0を3%高くした上限までの間の範囲となる。
図3では、この範囲の下限を-2%、上限を+3%として表している。ヘッド駆動電圧を少なくともこの調整可能範囲以内とすれば印刷の品質は許容できるものとなる。
【0048】
また、特定のインクCを印刷に使用した場合、ヘッド駆動電圧の調整可能範囲は、例えば、基準電圧V0を2%低くした下限から基準電圧V0を4%高くした上限までの間の範囲となる。
図3では、この範囲の下限を-2%、上限を+4%として表している。ヘッド駆動電圧を少なくともこの調整可能範囲以内とすれば印刷の品質は許容できるものとなる。本発明に係る印刷装置10においては、このようなインクの違いによって生じるヘッド駆動電圧の調整可能範囲の変動を考慮した構成となっている。使用可能なインクの種類に応じてヘッド駆動電圧の調整可能範囲は互いに異なるのが一般的である。なお、
図3においては、三種類のインクについて記載しているが、これは、使用可能なインクのうち、三種類について例示した結果となっている。
【0049】
図4は、記憶部15が記憶している調整可能範囲と印刷モードとが関連づけられたテーブルT1を例示している。印刷モード1は、インクAを使用する場合の印刷様式に相当し、印刷モード2は、インクBを使用する場合の印刷様式に相当する。印刷モード3は、インクCを使用する場合の印刷様式に相当する。テーブルT1における印刷モード1には、ヘッド駆動電圧の調整可能範囲の下限を示す値と、ヘッド駆動電圧の調整可能範囲の上限を示す値とが関連づけられている。下限を示す値とは、具体的には
図3で説明した-3%を示す値であり、下限設定値Sminとよぶことにする。上限を示す値とは、具体的には
図3で説明した+3%を示す値であり、上限設定値Smaxとよぶことにする。
【0050】
テーブルT1における印刷モード2には、ヘッド駆動電圧の調整可能範囲の下限を示す値と、ヘッド駆動電圧の調整可能範囲の上限を示す値とが関連づけられている。印刷モード2における下限設定値Sminは-2%を示す値であり、上限設定値Smaxは+3%を示す値となっている。同様に、テーブルT1における印刷モード3には、ヘッド駆動電圧の調整可能範囲の下限を示す値と、ヘッド駆動電圧の調整可能範囲の上限を示す値とが関連づけられている。印刷モード3における下限設定値Sminは-2%を示す値であり、上限設定値Smaxは+4%を示す値となっている。
【0051】
図5は、上述の下限設定値Sminおよび上限設定値Smaxを用いてヘッド駆動電圧の調整可能範囲の上限および下限を求める方法について説明している。ヘッド14aに関する当該範囲を決定する必要があるときは、主制御部11は、記憶部15に記憶されているテーブルT1およびヘッド14aに設けられたEEPROMに記憶されているヘッド14aに係る基準電圧V0(a)を読み出して、基準電圧V0(a)に下限設定値Smin,上限設定値Smaxを作用させる。
【0052】
すなわち、印刷モード1におけるヘッド14aの駆動電圧の調整可能範囲を得ようとする場合、
図5に示すように、主制御部11は、テーブルT1における印刷モード1に関連づけられた下限設定値Sminを読み出して基準電圧V0(a)に下限設定値Sminを作用させて駆動電圧の調整可能範囲の下限を求める。下限は、下限設定値Sminが示す通り基準電圧V0(a)を3%低くした値である。この値は、ヘッド14aおよび印刷モード1についての値であるので、下限電圧Vmin(a,M1)とよぶことにする。また、主制御部11は、テーブルT1における印刷モード1に関連づけられた上限設定値Smaxを読み出して基準電圧V0(a)に上限設定値Smaxを作用させて駆動電圧の調整可能範囲の上限を求める。上限は、上限設定値Smaxが示す通り基準電圧V0(a)を3%高くした値である。この値は、ヘッド14aおよび印刷モード1についての値であるので、上限電圧Vmax(a,M1)とよぶことにする。
【0053】
図6は、印刷モード1においてヘッド14aを用いて実際に印刷を行った結果を示している。この時使用されたインクは、例えば、印刷モード1に関連したインクAである。印刷媒体Pには、ヘッド駆動電圧を調整可能範囲の上限電圧Vmax(a,M1)としたときに印刷されたパッチと、ヘッド駆動電圧を基準電圧V0(a)としたときに印刷されたパッチと、ヘッド駆動電圧を調整可能範囲の下限電圧Vmin(a,M1)としたときに印刷されたパッチとが印刷されている。
図6に示すように、上限電圧Vmax(a,M1)に係るパッチが最も濃く印刷され、下限電圧Vmin(a,M1)に係るパッチが最も薄く印刷される。そして基準電圧V0(a)に係るパッチが上述の両パッチの中間の濃度で印刷される。このようにして印刷媒体Pに印刷された各パッチの印刷結果がテストチャートである。テストチャートをスキャナで読み取れば、各パッチの印刷濃度を得ることができる。
【0054】
図7は、テストチャート中の各パッチにおける印刷濃度とヘッド駆動電圧との相関を示している。グラフ中、下限電圧Vmin(a,M1)に係るパッチは、最も電圧が低く、印刷濃度も薄くなる。そして、上限電圧Vmax(a,M1)に係るパッチは、最も電圧が高く、印刷濃度も濃くなる。基準電圧V0(a)に係るパッチは、電圧も印刷濃度も中間的な値となる。これらグラフ上の三点を用いてヘッド駆動電圧と印刷濃度との関連性を示す近似式を得ることができる。
図7における近似式は、一次式となっている。
【0055】
この近似式は、ヘッド駆動電圧の調整に用いることができるのでこの点について説明する。ヘッド14aは、他のヘッド14b,14c,14dに比べてインク滴を吐出しにくいヘッドであったとする。このインク滴の出にくさは、例えばヘッド14a,14b,14c,14dの各々に設けられたヘッド制御に関する制御基板の電気的特性の差異に起因している。従って、ヘッド14aが平均的なインク滴の吐出状態となるには、ヘッド14aを基準電圧V0(a)よりも高い電圧で制御する必要がある。基準電圧V0(a)から具体的にどの程度電圧を上げる必要があるかは、
図7で説明した近似式により求められる。なお、
図7に示している目標濃度TDは、インクAを用いてヘッド14a,14b,14c,14dをそれぞれ基準電圧V0(a),V0(b),V0(c),V0(d)で駆動させて印刷を実行して
図6で示したようなパッチを取得し、このパッチをスキャナで読み取ることにより、各パッチの印刷濃度を測定し、得られた印刷濃度を平均することで求められる。ヘッド14aは、インク滴を吐出しにくいヘッドであるので、基準電圧V0(a)で駆動されたときに印刷されるパッチの印刷濃度は目標濃度TDよりも薄くなる。近似式に目標濃度TDを代入したときに得られる駆動電圧がヘッド14aに関する目標濃度TD相当の駆動電圧となる。このようにして得られる駆動電圧を調整後の駆動電圧という意味で調整電圧Vs(a,M1)とよぶことにする。
【0056】
ヘッド14b,14c,14dに対しても
図2ないし
図7で説明した方法を用いて調整電圧を得ることができる。調整電圧は、ヘッド14a,14b,14c,14dに固有の値であり、それぞれ、Vs(a,M1),Vs(b,M1),Vs(c,M1),Vs(d,M1)である。
【0057】
図8は、ヘッド14a,14b,14c,14dと調整電圧Vs(a,M1),Vs(b,M1),Vs(c,M1),Vs(d,M1)とが関連したテーブルT2を示している。このテーブルT2を参照しながら印刷を実行すれば、ヘッド14a,14b,14c,14dの各々に設けられたヘッド制御に関する制御基板の電気的特性の差異にも関わらずムラのない印刷が可能となる。テーブルT2は、記憶部15に記憶され、印刷実行の際、主制御部11に読み出されて印刷に用いられる。具体的には、所望の文字や図形の印刷(本印刷)を実行の際、ヘッド14a,14b,14c,14dは、ヘッド駆動電圧を調整電圧Vs(a,M1),Vs(b,M1),Vs(c,M1),Vs(d,M1)に設定されて動作することになる。
【0058】
なお、印刷モードが変更されると、ヘッド14a,14b,14c,14dに係る調整電圧は上述のVs(a,M1),Vs(b,M1),Vs(c,M1),Vs(d,M1)とは異なるものとなる。印刷モード2のもとインクBで印刷を行う場合、主制御部11は、テーブルT2とは異なるヘッド14a,14b,14c,14dと印刷モード2に係る調整電圧Vs(a,M2),Vs(b,M2),Vs(c,M2),Vs(d,M2)が関連したテーブルを記憶部15から読み出して動作する。このように、記憶部15は、
図8で説明したテーブルT2と同様なテーブルを印刷モードの数だけ記憶し、主制御部11は、指定された現在の印刷モードに関するテーブルを参照して動作する。各テーブルは、
図2ないし
図7で説明した方法で作成が可能である。
【0059】
続いて、
図9のフローチャートを参照しながら調整電圧Vsの算出に関する印刷装置10の動作について説明する。
【0060】
<印刷モード設定ステップS1>
主制御部11に接続されたコンソールを通じてユーザが印刷に用いるインクの種類を選択する。この動作により印刷モードが設定されたことになる。
【0061】
<V0取得ステップS2>
主制御部11は、各ヘッド14a,14b,14c,14dに設けられたEEPROMにアクセスし、各ヘッド14a,14b,14c,14dに対応する基準電圧V0(a),V0(b),V0(c),V0(d)を取得する。
【0062】
<電圧調整範囲取得ステップS3>
主制御部11は、テーブルT1を参照して設定された印刷モードに対応する下限設定値Sminおよび上限設定値Smaxを取得する。そして、主制御部11は、基準電圧V0(a),V0(b),V0(c),V0(d)に下限設定値Sminおよび上限設定値Smaxを作用させ、各ヘッド14a,14b,14c,14dに関する下限電圧Vminおよび上限電圧Vmaxを算出する。
【0063】
<テストチャート印刷ステップS4>
主制御部11は、プリンタ制御部12およびヘッド制御部13を制御し、各ヘッド14a,14b,14c,14dに関するテストチャートを印刷する。
図6におけるテストチャートはヘッド14aについてのみであったのでパッチは3つであったが、本動作説明においては、4つのヘッド14a,14b,14c,14d毎に3つのパッチが印刷されるので、3×4の二次元マトリックス状にパッチが配列されたテストチャートが印刷されることになる。
【0064】
<テストチャート読み取りステップS5>
印刷されたテストチャートはスキャナによって読み取られる。その後の画像解析によって各パッチの印刷濃度が測定される。なお、スキャナは、印刷装置10が備える図示しないインライン型のものであってもよいし、印刷装置10とは別体のオフライン型のものであってもよい。
【0065】
<近似式算出ステップS6>
解析用のコンピュータまたは主制御部11によって各パッチにおける印刷濃度と駆動電圧との関係を示す近似式が各ヘッド14a,14b,14c,14dについて算出される。
【0066】
<Vs算出ステップS7>
解析用のコンピュータまたは主制御部11によって近似式および目標濃度TDに基づいた調整電圧Vsが各ヘッド14a,14b,14c,14dについて算出される。各調整電圧Vsは、各ヘッド14a,14b,14c,14dおよび印刷モードと関連づけられたテーブルT2として記憶部15に記憶される。テーブルT2は、後続の印刷の際にムラを除去する目的で参照される。
【0067】
以上のように本発明によれば、印刷装置10において、印刷条件が変更されてもヘッド14a,14b,14c,14dの調整電圧Vsを適切に取得することができる。すなわち本発明によれば、ヘッド14a,14b,14c,14dのヘッド駆動電圧の調整可能範囲を印刷モードによって変更する構成となっている。また、本発明によれば、テーブルT1を参照することにより設定された印刷モードに対応する調整可能範囲を取得する。これにより、各印刷モードに適合した調整可能範囲内でヘッド14a,14b,14c,14dの調整電圧Vsを決定することができる。
【0068】
本発明は、上述の実施例の構成に限られず下記のように変形実施が可能である。
【0069】
(1)上述の実施例では、調整電圧Vsが下限電圧Vminを下回る場合、および調整電圧Vsが上限電圧Vmaxを上回る場合について言及がなかったが、このような場合に備えて解析用のコンピュータまたは主制御部11を構成することもできる。
【0070】
図10は、本変形例に関するフローチャートである。本変形例においては、ステップS1からステップS7までは上述の実施例と同様である。本変形例の構成は、次の様なステップS8ないしステップS11を備えている。以降、各ステップについて説明する。
【0071】
<Vmax比較ステップS8>
解析用のコンピュータまたは主制御部11は、取得された調整電圧Vsとヘッド駆動電圧の調整可能範囲の上限電圧Vmaxとを比較し、調整電圧Vsが上限電圧Vmaxを上回っている場合はステップS9に進み、調整電圧Vsが上限電圧Vmaxと等しいか、下回っている場合はステップS10に進む。
【0072】
<Vmax設定ステップS9>
解析用のコンピュータまたは主制御部11は、調整電圧Vsを上限電圧Vmaxに再設定する。このようにすることで、調整電圧Vsを確実に調整可能範囲内に収めることができる。調整可能範囲は、印刷の品質が許容できるヘッド駆動電圧の範囲を表していたことからすると、調整電圧Vsによって印刷を実行する場合、印刷結果の品質は許容できるものとなる。もしくは、上限電圧Vmax設定時の濃度を目標濃度TDに変更し、他のヘッドの濃度をその目標濃度TDに合わせるといったことも可能である。
【0073】
<Vmin比較ステップS10>
解析用のコンピュータまたは主制御部11は、取得された調整電圧Vsとヘッド駆動電圧の調整可能範囲の下限電圧Vminとを比較し、調整電圧Vsが下限電圧Vminを下回っている場合はステップS11に進み、調整電圧Vsが下限電圧Vminと等しいか、上回っている場合は処理を終了する。
【0074】
<Vmin設定ステップS11>
解析用のコンピュータまたは主制御部11は、調整電圧Vsを下限電圧Vminに再設定する。このようにすることで、調整電圧Vsを確実に調整可能範囲内に収めることができる。調整可能範囲は、印刷の品質が許容できるヘッド駆動電圧の範囲を表していたことからすると、調整電圧Vsによって印刷を実行する場合、印刷結果の品質は許容できるものとなる。もしくは、下限電圧Vmin設定時の濃度を目標濃度TDに変更し、他のヘッドの濃度をその目標濃度TDに合わせるといったことも可能である。
【0075】
(2)上述の実施例の構成によれば、テストチャートにはヘッド1つ当たり3つのパッチが印刷されていたが、もっと多くのパッチを印刷するようにしてもよい。
図11の例では、電圧の変化量を1%ずつ変えながらヘッド1つ当たり7つのパッチがテストチャートに印刷されている。このようにヘッド1つ当たりのパッチ数を増やすことで、近似式をより正確に算出することができる。
【0076】
(3)上述の実施例の構成によれば、ヘッド14a,14b,14c,14d単位で調整電圧Vsを求めるようにしていたが、本発明はこの構成に限られない。ヘッド1つ当たり複数の調整電圧Vsを求めるようにしてもよい。
図12に示すようにヘッド14には、複数のノズルが縦横に配列されている。すなわち、ヘッド14には、印刷媒体送り方向と直交するノズルアレイL1,L2,L3,L4が印刷媒体送り方向に配列されている。本変形例では、このノズルアレイL1,L2,L3,L4毎に調整電圧Vsを求める。本変形例の場合は、EEPROMは、ノズルアレイL1,L2,L3,L4毎に基準電圧V0を保持しておく必要があり、テストチャートを作成するときには、ノズルアレイ1つにつき下限電圧Vmin,基準電圧V0,上限電圧Vmaxに係る3つのパッチを印刷する必要がある。つまり1つのパッチは調整電圧Vsを求めようとするノズル群がインク滴を吐出した結果生じたものであることになる。また、ノズルアレイL1,L2をひとまとめにして単一の調整電圧Vsを求めるようにしてもよい。この場合、ノズルアレイL3,L4についても単一の調整電圧Vsが求められることになる。
【0077】
(4)上述の実施例は、印刷モードがインクの種類に関連づけられていたが、印刷モードと他の印刷条件を関連づけるようにしてもよい。印刷モードとヘッド14a,14b,14c,14dを制御するときにヘッド制御部13からヘッドに向けて出力される電圧波形(駆動波形)の種類とが関連づけられている場合、駆動波形A,駆動波形B,駆動波形C・・・の種類に応じて印刷モード1,印刷モード2,印刷モード3・・・が準備されていることになる。この場合も記憶部15は、
図4で説明したような印刷モードと下限設定値Smin,上限設定値Smaxが関連したテーブルを有しており、これに従って調整電圧Vsがヘッド14a,14b,14c,14d毎に求められる。また、駆動波形に代えて印刷モードと印刷速度とを関連づけるようにしてもよいし、印刷モードと印刷の使用目的とを関連づけるようにしてもよい。ここで「印刷の使用目的」とは、濃度優先で行う印刷または文字品質優先で行う印刷の例が挙げられる。
印刷装置10には、使用目的に合わせた多様な印刷モードが用意されている。本発明は、この印刷の使用目的に係る印刷モードと下限設定値Smin,上限設定値Smaxが関連したテーブルを有する構成としてもよい。また、印刷モードとインクの粘度とを関連づけるようにしてもよく、印刷モードとインクの表面張力を示す値とを関連づけるようにしてもよい。
【0078】
(5)変形例(4)の更なる1変形例として、印刷モードとヘッド14a,14b,14c,14dの温度、より具体的にはヘッド14a,14b,14c,14dに含まれるノズル群の温度を関連づけるようにしてもよい。ヘッドの温度は、各ヘッドの付属しているサーミスタより取得ができる。本変形例においては、求められた調整電圧Vsに基づいて印刷を行う際、ユーザが印刷モードを主制御部11に付属のコンソールを用いて設定する必要はない。本変形例では、主制御部11がサーミスタより印刷モードを自動で変更する構成としてよい。
【0079】
(6)上述の実施例では、テーブルT1およびテーブルT2は、印刷装置10内に保持するようになっていたが、本発明はこの構成に限られない。テーブルT1,テーブルT2の一方または両方を印刷装置10外に保持するようにしてもよい。この場合、例えば、テーブルの保持に係る装置と印刷装置10とを同一のネットワーク内に置き、印刷装置10の主制御部11がサーバなどの外部装置からテーブルを読み取って動作する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10 印刷装置
11 主制御部
12 プリンタ制御部
13 ヘッド制御部
14 ヘッド
15 記憶部
16 モーター
17 ヒートローラ