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特許7321062繊維用抗菌防臭剤、繊維用処理液および抗菌防臭繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】繊維用抗菌防臭剤、繊維用処理液および抗菌防臭繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/463 20060101AFI20230728BHJP
   A01N 33/12 20060101ALI20230728BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230728BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20230728BHJP
   D06M 13/453 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
D06M13/463
A01N33/12 101
A01P3/00
D06M13/17
D06M13/453
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019208011
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021080597
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】黒田 幸乙綾
(72)【発明者】
【氏名】梅村 深雪
(72)【発明者】
【氏名】柘植 好揮
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-095607(JP,A)
【文献】特開平08-268806(JP,A)
【文献】特開2019-077646(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00 - 65/48
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩(以下、成分A)と、下記一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩(以下、成分B)と、を含んでなる繊維用抗菌防臭剤。
【化1】
【化2】
上式中、Rは炭素数16~20のアルキル基であり、Rは炭素数10~14のアルキル基であり、Rは各々独立にメチル基またはエチル基であり、Rは炭素数2~3のヒドロキシアルキル基であり、nは1または2であり、Xはメチル硫酸イオンまたはエチル硫酸イオンであり、そしてYn-は炭素数2~6のモノアルキルリン酸エステルイオンまたはジアルキルリン酸エステルイオンである。
【請求項2】
成分Aと成分Bの配合質量比が60:40~95:5である請求項1記載の繊維用抗菌防臭剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の繊維用抗菌防臭剤とグリコール系化合物とを含んでなる繊維用処理液。
【請求項4】
繊維の表面に、請求項1または2記載の繊維用抗菌防臭剤を0.03~0.50質量%(対繊維質量)付着させてなる抗菌防臭繊維。
【請求項5】
前記繊維の表面に、さらにフェノトリンおよび/またはイカリジンが付着している、請求項4記載の抗菌防臭繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用抗菌防臭剤、繊維用処理液および抗菌防臭繊維に関する。特に、環境や人体への安全性が考慮された低濃度付着において優れた抗菌防臭性を有すると共に、例えば寝装中綿として他繊維、木綿(コットン)や羊毛等と混用されても良好な効果を発揮し、また洗濯耐久性をも提供する繊維用抗菌防臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用寝装製品やインテリア製品等の清潔さへのニーズに対し、例えば、寝具類の布団、枕、クッション(抱き枕)、シーツなどや、インテリア類のカーペット、マット、カーテンなどへの抗菌性能付与、あるいは繊維上の細菌の増殖抑制による防臭効果を目的とした抗菌性付与が行われる。またペット保有者も増え、小型ペットの人気により室内で飼うケースも年々増えてきている。
【0003】
また近年、アトピー性を含む皮膚炎や小児喘息などのアレルギー性疾患者数が年々増加傾向にあり、そのアレルゲンの一つであるダニの駆除にも注目が集まっている。かかる要求に対して、抗菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸クロルヘキシジン及び5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシル)フェノール等の低分子有機系抗菌剤、第4級アンモニウム塩類の他、ゼオライト、シリカゲル等に抗菌性を有する金属である銀、亜鉛及び銅等を担持した無機系抗菌剤が多用されている。これらで抗菌加工された合成繊維は、加工直後の抗菌性(いわゆる初期抗菌性)は高いが、洗濯条件によっては抗菌性を維持することが困難である。また他の繊維(木綿や羊毛等)と混用されると洗濯耐久性がさらに低下し、さらに皮膚に対する刺激性も強くなる傾向にある。
【0004】
抗菌・防ダニ性を有する合成繊維として、第4級アンモニウム塩化合物とカチオン系活性剤とを含む処理剤で処理された合成繊維があるが、繊維に対する付着量が高く、アレルギー性疾患の患者が好ましく使用できるものではない。
【0005】
寝装製品においては、ダニ類(糞、死骸などを含む)によるアレルギー対策として洗濯することが効果的であり、近年、洗濯できる布団等が増えつつある。しかしながら、毎晩密着使用し就寝中の発汗による湿気を含む布団はかさばるため、衣類と同様な頻度で洗濯や乾燥(天日干しの場合、天候にも左右され)を繰り返し行うことは難しく、ダニ忌避効果を有する製品が求められている。また布団においては、洗濯ニーズから、通常の合成繊維等と混綿して使用される場合があるが、根強い天然繊維志向があることなどの理由により、羊毛や木綿などの天然繊維等と混綿して使用されることも少なくない。これら天然繊維は、十分に洗浄されたものであっても、特有の臭気などを有しており、抗菌剤を付与した繊維との混綿による抗菌防臭効果が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-333665号公報
【文献】特開平1-085367号公報
【文献】特開平10-317279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、洗濯耐久抗菌防臭性を具備する繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、多種多様な繊維と混綿しても、低濃度付与で優れた抗菌防臭性が得られ、かつ洗濯耐久性のある、そのような抗菌防臭剤を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩(以下、成分A)と、下記一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩(以下、成分B)と、を含んでなる繊維用抗菌防臭剤を提供する。
【0010】
【化1】
【化2】
【0011】
上式中、Rは炭素数16~20のアルキル基であり、Rは炭素数10~14のアルキル基であり、Rは各々独立にメチル基またはエチル基であり、Rは炭素数2~3のヒドロキシアルキル基であり、nは1または2であり、Xはメチル硫酸イオンまたはエチル硫酸イオンであり、そしてYn-は炭素数2~6のモノアルキルリン酸エステルイオンまたはジアルキルリン酸エステルイオンである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、洗濯耐久抗菌性を付与できる抗菌防臭剤、及びこれを用いて処理加工された洗濯耐久抗菌防臭性に優れた繊維、特に合成繊維が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
本発明の繊維用抗菌防臭剤は、下記一般式(1)で表される成分Aと下記一般式(2)で表される成分Bを含む。
【0014】
【化3】
【化4】
【0015】
上式中、Rは炭素数16~20のアルキル基であり、Rは炭素数10~14のアルキル基であり、Rは各々独立にメチル基またはエチル基であり、Rは炭素数2~3のヒドロキシアルキル基であり、nは1または2であり、Xはメチル硫酸イオンまたはエチル硫酸イオンであり、そしてYn-は炭素数2~6のモノアルキルリン酸エステルイオンまたはジアルキルリン酸エステルイオンである。
【0016】
成分Aにおいて、Rは炭素数16~20のアルキル基である。炭素数が15以下であると洗濯耐久抗菌性が低下し、特に、他繊維(木綿や羊毛等)と混用したときの洗濯耐久抗菌性が低下する。一方、炭素数が21以上であると結晶性が高くなり加工適性が低下し、十分な初期抗菌性が得られない。Rは各々独立にメチル基またはエチル基である。すなわち、成分Aに複数存在するRは、すべてがメチル基またはエチル基であってもよいし、またメチル基とエチル基が混在していてもよい。X-はメチル硫酸イオンまたはエチル硫酸イオンである。メチル硫酸イオンまたはエチル硫酸イオンであると洗濯耐久抗菌性が向上する。X-がメチル硫酸イオンである場合には、成分AのRはメチル基であることが好ましく、X-がエチル硫酸イオンである場合には、成分AのRはエチル基であることが好ましい。
【0017】
このような成分Aとしては、具体的には、オクタデシルトリメチルアンモニウム-メチル硫酸塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム-メチル硫酸塩、オクタデシルトリエチルアンモニウム-エチル硫酸塩、等が挙げられる。特に得られる繊維製品の初期抗菌性および洗濯耐久抗菌性の観点から、成分Aはヘキサデシルトリメチルアンモニウム-メチル硫酸塩であることが好ましい。
【0018】
成分Bにおいて、Rは炭素数10~14のアルキル基である。炭素数が9以下であると初期抗菌性が低下する。一方、炭素数15以上であると繊維用抗菌防臭剤の結晶性が高くなり加工適性が低下し、十分な初期抗菌性が得られない。Rは各々独立にメチル基またはエチル基である。すなわち、成分Bに複数存在するRは、すべてがメチル基またはエチル基であってもよいし、またメチル基とエチル基が混在していてもよい。Rはメチル基またはエチル基のいずれかに統一されることが好ましい。Rは炭素数2~3のヒドロキシアルキル基であり、特に成分Aの結晶性緩和(溶解性向上)の点から、ヒドロキシエチル基であることが好ましい。Yn-は炭素数2~6のモノアルキルリン酸エステルイオンまたはジアルキルリン酸エステルイオンである。
【0019】
このような成分Bとしては、具体的には、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩、テトラデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-エチルリン酸エステル塩、テトラデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-エチルリン酸エステル塩、等が挙げられる。特に、得られる繊維製品の初期抗菌性、防錆性の観点から、成分Bはドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩であることが好ましい。
【0020】
本発明の繊維用抗菌防臭剤は成分Aと成分Bとを含んでなる。成分Aは、繊維表面との親和性が強いゆえに合成繊維の洗濯耐久抗菌性、他繊維(木綿や羊毛等)と混用した時の洗濯耐久抗菌性に優れるが、結晶性が高く水溶液にした場合に常温で結晶が析出し易く、繊維を安定的に処理加工することが難しくなる。また、成分Aは腐食性があり処理加工された繊維の防錆性が低下しやすくなり、例えば繊維の生産設備や繊維の後加工設備(紡績や不織布の生産工程)に錆発生させる懸念がある。
【0021】
成分Aに加えて成分Bを含むことで、繊維用抗菌防臭剤の結晶性を低下させ、繊維を安定的に処理加工することが可能となり、得られる繊維は初期抗菌性と洗濯耐久抗菌性とに優れたものとなり、また他繊維と混用されたときにもこの効果が良好に発現する。成分Aに加えて成分Bを含むことで、成分Aによる錆の発生を抑制することができ、さらに処理加工された繊維の防錆性が向上する。
【0022】
また、本発明の繊維用抗菌防臭剤に用いられる成分Aと成分Bとの配合質量比は、好ましくは60:40~95:5であり、さらに好ましくは70:30~90:10である。成分Aの成分Bに対する配合質量比が60未満であると、洗濯耐久抗菌性が劣る傾向がある一方、95超であると初期抗菌性が低下する傾向がある。
【0023】
本発明の繊維用処理液は、成分Aと成分Bを必須成分とする抗菌防臭剤を含む処理液であるが、所期の目的を阻害しない限り、さらに第3成分を追加してもよい。特に、本発明の繊維用処理液に、成分Aと成分Bに加えて、下記一般式(3)で表されるグリコール系化合物を含めることが好ましい。このようなグリコール系化合物を含めることで、初期抗菌性を阻害することなく、繊維を処理加工する際に繊維の隅々まで均一に抗菌防臭剤を付与させることができ、加工された繊維の初期抗菌性が向上する。
-O(AO)H (3)
上式中、Rは水素または炭素数1~10の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基であり、AOは、炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、そしてpは1~10、好ましくは1~6の整数である。
【0024】
本発明の繊維用処理液に用いられるグリコール系化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のグリコール、これらのモノアルキル(炭素数1~6)エーテル、等を挙げることができる。上記グリコール系化合物としては、直鎖のエチレングリコールモノブチルエーテルが特に好ましい。
【0025】
グリコール系化合物は、本発明の抗菌防臭剤の溶解性を高め、抗菌防臭剤の凝固点を低下させるため作業性が向上し、また繊維束内部への抗菌防臭剤の浸透性を促進するため初期抗菌性を向上させることができる。さらにグリコール系化合物は、乾燥時に水と共沸するため繊維表面に残留せず、繊維製品の染色堅ろう度や風合いを低下させない。
【0026】
グリコール系化合物の配合量に特に制限はないが、成分Aと成分Bの合計100質量部に対して30~200質量部であることが好ましく、50~150質量部であることがさらに好ましい。30質量部より少ないと加工した時の均一性が損なわれ十分な初期抗菌性が得られず、一方で200質量部より多く加えても追加の効果は得られない。
【0027】
本発明の繊維用処理液における抗菌防臭剤(成分A+成分B)の濃度は、グリコール系化合物の有無に係わらず、一般に5質量%~25質量%、好ましくは10質量%~20質量%の範囲内である。抗菌防臭剤の溶解を促進するため繊維用処理液を加温してもよい。
【0028】
本発明による抗菌防臭剤を、繊維表面に繊維質量に対して0.03~0.50質量%付着させることにより、従来の知見よりも少ない付着量で初期抗菌性が得られ、その効果が洗濯後も保持される。また木綿や羊毛などの天然繊維、通常の合成繊維と混綿してもその効果を有するが、特に通常の合成繊維との混綿が好ましい効果を発揮する。また、天然繊維との混綿においては、一般に抗菌防臭効果が洗濯後に大きく低下するが、本発明の抗菌消臭剤を用いた場合には、従来品に比べ抗菌防臭効果の低下率が小さくなり、特に抗菌性の失活が抑制される。
【0029】
本発明による繊維用処理液は、繊維表面に付着する成分A及び成分Bの合計量が50質量%以上となり、本発明の所期の目的を損なわない限り、追加の成分をさらに含むことができる。そのような追加の成分として、ノニオン系あるいはカチオン系界面活性剤、帯電防止剤、平滑剤、消泡剤、減粘剤その他の機能剤が挙げられる。いずれにしても、繊維表面に付着している繊維用抗菌防臭剤における成分A及び成分Bの合計含有量は、繊維用抗菌防臭剤の固形分中50~100質量%の範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明による抗菌防臭剤を付与した繊維にさらに防ダニ性を付与するため、防ダニ剤としてフェノトリン系化合物および/又はイカリジンを付着させることができる。フェノトリン系化合物の場合、繊維質量に対して極少量の0.01~0.05質量%付着させることにより、防ダニ性が得られ、その効果は木綿や羊毛などの天然繊維、通常の合成繊維と混綿してもその効果を有する。
【0031】
防ダニ剤は、本発明による抗菌防臭剤に添加しても構わないが、熱処理温度を最適化する必要があるため、まず抗菌防臭剤を含む繊維用処理液で繊維を処理し、必要な熱処理を施した後に、その繊維を防ダニ剤で処理することが好ましい。防ダニ剤の処理方法としては、スプレー処理など公知の方法を任意に採用すればよい。
【0032】
本発明による抗菌防臭剤を繊維に付与する方法としては、公知の方法を任意に採用することができる。特に、製糸・製綿工程で付与することが好ましく、延伸工程以降の熱処理前の段階で付与することがより好ましい。通常の処理方法として、本発明の繊維用処理液を延伸後の繊維に浸漬法、オイリングローラー法、スプレー法等によって付与することが挙げられる。製綿工程での付与例として、繊維用処理液を付与後、順次、熱処理工程、捲縮工程、任意の短繊維長へのカット工程、エージング工程を施すことが挙げられる。尚、カット工程とエージング工程の順序は任意であり、またエージング工程の実施も任意である。
【0033】
本発明の繊維用処理液の繊維表面への付与量は、抗菌防臭剤である第4級アンモニウム塩(成分Aと成分Bの混合物)が、繊維質量に対して0.03~0.50質量%、好ましくは0.05~0.40質量%、より好ましくは0.08~0.30質量%、付着するような量であればよい。付着量が0.03質量%未満の場合には、抗菌性は不十分となる可能性あると共に、製糸・製綿工程のトラブルや、特に製綿製品(短繊維、原綿)においては、その後の加工工程(不織布生産工程や紡績糸生産工程などのカード、ニードルパンチなどの交絡処理、スライバーや粗糸・精糸などの紡績加工など)でのトラブルが発生しやすくなる。また付着量が0.50質量%超の場合には、付着量の増加に比例した抗菌性効果や抗菌による防臭効果は得られない。したがって、多くても0.50質量%付着していればよい。
【0034】
本発明によると、抗菌防臭剤を含む処理剤の繊維表面の付着量が従来技術よりも低付着量で、本発明の目的を満足する効果が得られる。
【0035】
本発明による抗菌防臭処理の対象となる繊維は合成繊維であることが好ましい。合成繊維は、紡糸・延伸が可能な繊維形成性ポリマーからなるものであれば特に制限はなく、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等の溶融紡糸繊維、アセテート繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、芳香族ポリアミド繊維等の乾式もしくは湿式紡糸繊維の何れであっても構わない。例えば、布団等の中綿の詰綿として使用する場合には、軽量かつ嵩高で保温性や通気性、尚且つ洗濯可能で速乾性等が求められ、それらの観点から特にポリエステル繊維が好ましく推奨される。より具体的には、好ましいポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維などを挙げることができる。さらに使用される合成繊維としては、所期の目的を損なわない限り、共重合されていても、ポリマーコンジュゲート(芯鞘コンジュゲート糸、サイド/サイドコンジュゲート糸)であっても良い。更に捲縮付与手段(例えば、異方冷却法、機械捲縮法、ポリマーコンジュゲート等)等を用いることも好ましい形態である。
【0036】
合成繊維は、長繊維でも短繊維でもよいし、また加工糸でも紡績糸でも製織編物でもよい。特に布団等中綿の詰綿として使用する場合には、捲縮された短繊維(原綿)が好ましく、その捲縮特性(捲縮数、捲縮度、残留捲縮度、嵩高性等)やカット長、また繊径(繊度)や断面形状については特に制限はなく、用途に応じて適宜設定すればよい。好ましくは、繊度は0.5~17dtex、カット長は30~76mm程度であることが汎用性の面で適当であるが、必ずしもこれらに限定するものではない。
【0037】
また、本発明の繊維としては、処理加工された繊維のみを用いても良いが、未処理の繊維をその一部に用いることも好ましい。例えば処理加工された短繊維と未処理の短繊維とを混紡し、混合綿として用いることが好ましい。処理加工する繊維として耐水性や耐熱性に優れた合成繊維であることが、特にはポリエステル繊維であることが好ましい。未処理の繊維としては処理された繊維と同じ繊維を用いることもできるが、各種の性能や風合いを得るためには、異なる繊維を用いることが好ましい。特に加工が困難なウールやコットン等の天然繊維を未処理の繊維として用いることが好ましい。処理されたポリエステル繊維と未処理のウールやコットンとの組み合わせであるポリエステル/ウール混や、ポリエステル/コットン混が、特に好ましい例として挙げることができる。
【0038】
また天然繊維であるウールとしては、寝具等に使用されるものが好ましい。より具体的に例示すると、寝具等に使用されるウールとしては、主にオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどで生産され、各国に輸出されているものを好ましく用いことができる。様々な色相、繊度、カット長、弾力および反発性などが異なる各種のウールを用いることができる。さらに原毛をウオッシャブル加工および/または酸化処理加工等することにより不純物を少なくし、汚れ、臭いなどを除去することが好ましい。さらに、紡績用に用いる場合、色相、繊度、カット長などにより選別したものを使用することが特に好ましい。
【0039】
また天然繊維としてコットンを用いる場合も同様に寝具等に使用されるものを用いることが好ましい。インドやパキスタン産のデシ綿(繊維が太く短いもの)を用いることが、寝返りの打ちやすい適度な硬さとクッション性を持ち、敷布団の中綿に好ましく用いられる。またメキシコやアメリカ産などの綿花を用いることが、繊維が細くて長い特徴をもち、肌沿いがよいことから掛け布団の中綿に好ましく用いられる。
【0040】
本発明の抗菌防臭繊維は、ダウンジャケット、中綿入りジャケット、スポーツウエア、作業衣、防護衣、防寒服、寝袋、座布団、こたつ布団、布団などの中綿や、カーペット、カーテンなどのインテリア用不織布、製織編物等に好適に使用されるが、特に布団中綿が好ましい。
【実施例
【0041】
次に本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)処理液の防錆性
直径9cmのシャーレにガーゼを4枚重ねにして敷き、これに後述する各処理液を水で100倍に希釈した水溶液10mlを加えてガーゼを十分に浸漬させた。次いで、ガーゼの上にアセトン洗浄した虫ピン(ライオン株式会社製:商品名「ピン針」CS-P23、鉄製、亜鉛メッキ)10本を置き、45℃で48時間接触させた後に錆が発生した虫ピンの本数を百分率で表した。
(2)抗菌防臭剤の凝固点
JIS K0065-1992(化学製品の凝固点測定方法)に従い測定した。
(3)抗菌防臭剤の付着量(質量%):OPU(%)
繊維用処理液で処理した繊維の絶乾後質量と、その繊維の脱脂後の絶乾質量との差分から処理液固形分の付着量を算出し、さらにその固形分に含まれる抗菌防臭剤の配合比から抗菌防臭剤の付着量を割り出し、当該繊維に対する質量比としてOPU(%)を算出した。
(4)繊維表面の防ダニ剤の付着量(質量%):OPU(%)
ガスクロマトグラフにより、防ダニ剤(固形分)付着量を算出し、当該繊維に対する質量比としてOPU(%)を算出した。
【0042】
(5)皮膚貼布試験
閉塞法にて健常人20名の上腕内側部に閉塞下48・72時間貼付し、その後貼付部分の反応状態を観察、香粧品の皮膚刺激指数による分類(閉塞法:1995年度の分類)に基づく皮膚刺激指数を以下式より算出し、最大付着量において安全品であることを確認した。
(皮膚刺激指数の算出方法)
貼付48時間後と72時間後の判定において、貼付試験判定基準に基づき強い方の判定に評点を与え、各被験物質の評点総和を被験者数で除した値を百分率で表現した。
・皮膚刺激指数=評点総和/被験者数×100
・皮膚判定基準
【表1】

・香粧品の皮膚刺激指数による分類
(須貝哲郎,香粧品科学,Vol.19,臨時増刊,49-56(1995))
【表2】
【0043】
(6)洗濯方法
洗濯方法は、JEC326(SEKマーク繊維製品の洗濯方法)に従い、洗剤としてJAFET標準配合洗剤を使用した。
(7)抗菌試験
JIS L1902-2015(繊維製品の抗菌性試験方法および抗菌効果;細菌種:黄色ぶどう球菌、試験方法:菌液吸収法)に従い実施した。培養後の生菌数測定方法はコロニー法とした。抗菌性は、対照試料での試験成立の判定を行った上で抗菌活性値を求め、抗菌活性値が2.2以上である場合に抗菌効果を有するものと判断した。
(8)防ダニ試験
JIS L1920-2007(繊維製品の防ダニ性試験方法;忌避試験-ガラス管法)に従い実施した。忌避率が50%以上である場合に防ダニ効果を有するものと判断した。
【0044】
[合成例1]
反応容器(ガラス製、容量1L)にヘキサデシルジメチルアンモニウムアミン216質量部(130グラム)を仕込む。反応容器を50℃に冷却しながら、ジメチル硫酸100質量部を滴下しながら徐々に添加する。滴下終了後に1時間50℃にて反応させた後、水684質量部を加えて、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム-メチル硫酸塩(成分A)を31.6質量%含む組成物1000質量部を得た。
【0045】
[合成例2]
n-ブタノール3モルと無水リン酸1モルとから調整したモノ体/ジ体の混合比が約1/1のアルキルリン酸エステル143質量部(100グラム)と水500質量部を反応容器(ガラス製耐圧容器、容量1L)に仕込み、ドデシルジメチルアミン260質量部を加えて中和した。この中和物のなかにエチレンオキサイド100質量部を仕込み、100℃で3時間反応させ、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩(成分B)を50.0質量%含む組成物1000質量部を得た。
合成例1および2の組成物を用いて、下記表1に記載の組成を有する処理液1~3を調製した。表中の「部」は質量部をさす。
【0046】
【表3】

*ジエチレングリコールモノブチルエーテルは、ダウ・ケミカル日本株式会社製のブチルジグリコールを使用した。
【0047】
[実施例1]
固有粘度が0.6のポリエチレンテレフタレートを孔径0.3mm、孔数180ホール、錘数24ケを有する紡糸口金から、紡糸温度300℃、吐出量560g/分で溶融押出し、巻取り速度1050m/分で紡糸し、70℃の温水中で延伸速度30m/分で延伸倍率2.9倍に、次いで90℃の温水中で延伸速度150m/分で定倍に延伸した延伸糸をシリンダ乾燥した。次いで、乾燥した延伸糸を、オイルバス(浴)で30℃に保温した処理液1に浸漬処理し、クリンパーで絞り、51mmの長さにカットし、170℃で乾燥を行い、処理液1の固形分付着量OPUが0.10質量%となる抗菌防臭短繊維を得た。得られた短繊維に付着した抗菌防臭成分量(成分Aと成分Bの合計)は0.08質量%であった。
この時使用した処理液1には、合成例1の組成物80質量部に対し、さらにノニオン系減粘剤(有効成分80質量%)19.8質量部と、消泡剤(有効成分37質量%)0.2質量部を配合した。
次いで、得られた抗菌防臭短繊維に対して、防ダニ剤(フェノトリン)をその固形分付着量OPUが0.03質量%となるようにスプレー処理し、単繊維繊度が6.6dtexのポリエステル短繊維を得た。得られたポリエステル短繊維をヘッドスペースGC-MS(アジレント・テクノロジー株式会社製:Agilent 7890A)を用いてジエチレングリコールモノブチルエーテル量を測定したところ、検出限界(1mg/kg)以下であった。
このように抗菌防臭処理と防ダニ処理とを施した処理済短繊維を用い、(1)処理済短繊維(ポリエステル)100%(T100)、(2)処理済短繊維と処理前の未処理ポリエステル繊維(6.6dtex、カット長51mm)との50%混合綿(T/T)、(3)処理済短繊維とウール繊維との50%混合綿(T/W)、および(4)処理済短繊維とコットン繊維(T/C)との50%混合綿の4水準について、それぞれ洗濯なしと洗濯3回後の抗菌性能と防ダニ性能の評価を行った。ウール繊維としてはオーストラリア産原毛を炭化処理(カーボナイズド加工)された羊毛(ウール)を用い、またコットン繊維としては繊維が太くて短いデジ綿を用いた。結果を表2に示す。
【0048】
[実施例2]
実施例1における(2)の50%混合綿(T/T)について、さらに洗濯5回後および10回後の抗菌性能と防ダニ性能を評価した。結果を表2に示す。
[実施例3]
クリンパ―の絞り圧を変更して処理液1の固形分付着量OPUが0.21質量%(成分Aと成分Bの合計は0.17質量%)となるように処理した以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表2に示す。
[実施例4]
クリンパ―の絞り圧を変更して処理液1の固形分付着量OPUが0.375質量%(成分Aと成分Bの合計は0.30質量%)となるように処理した以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表2に示す。実施例4については皮膚貼布試験を実施した。
[実施例5]
防ダニ処理を実施しなかった以外は、実施例1と同様に処理し評価した。結果を表2に示す。実施例5は、防ダニ処理を実施していないが、抗菌防臭剤のみで多少の忌避効果が認められた。
【0049】
[比較例1]
処理液1を処理液2に変更し、かつ、クリンパ―の絞り圧を変更して処理液2の固形分付着量OPUが0.275質量%(成分Aは0.22質量%)となるように処理した以外は、実施例1と同様に処理した。尚、処理液は、処理液2(有効成分16質量%)/ノニオン系減粘剤(有効成分80質量%)/消泡剤(有効成分37質量%)=486部/23.5部/0.5部の質量比配合とし、処理液中の有効成分(固形分)質量比は、成分A/ノニオン系減粘剤/消泡剤=80/19.8/0.2であった。結果を表3に示す。
得られた繊維は、特に混綿品の洗濯後の抗菌性において、不十分なものであり、また防錆性に劣るものであった。
【0050】
[比較例2]
クリンパ―の絞り圧を変更して処理液2の固形分付着量OPUが0.166質量%(成分Aは0.133質量%)となるように処理した以外は、比較例1と同様に処理し評価した。結果を表3に示す。洗濯後のみならず洗濯前においても、十分な抗菌性が得られにくいものであった。
[比較例3]
処理液1を処理液3に変更し、かつ、クリンパ―の絞り圧を変更して処理液3の固形分付着量OPUが0.10質量%(成分Bは0.08質量%)となるように処理した以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表3に示す。
[比較例4]
クリンパ―の絞り圧を変更して処理液3の固形分付着量OPUが0.375質量%(成分Bは0.30質量%)となるように処理した以外は、比較例3と同様に処理した。結果を表3に示す。特に混綿品の洗濯後の抗菌性において、このように処理濃度を上げても不十分なものであった。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、環境や人体への安全性が考慮された低濃度付着において優れた抗菌防臭性を有すると共に、例えば寝装中綿として他の繊維、羊毛やコットン等と混用された場合にも良好な抗菌防臭効果を発揮し、また必要に応じて防ダニ性を追加付与することができ、かつ洗濯耐久性をも有する抗菌防臭繊維が提供されるので、その工業的価値は極めて大である。