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特許7321092定量的プロテオミクス用の低エネルギーで開裂可能な質量タグ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】定量的プロテオミクス用の低エネルギーで開裂可能な質量タグ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230728BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/68
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019524885
(86)(22)【出願日】2017-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2017079211
(87)【国際公開番号】W WO2018087397
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】16198748.2
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598165611
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(72)【発明者】
【氏名】マイスナー,フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】マン,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】マイアー,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ビレイラ,ビンター・ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ジフリンスキー,アルトゥーロ
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0143951(US,A1)
【文献】特表2009-523234(JP,A)
【文献】国際公開第2011/136237(WO,A1)
【文献】特表2011-503553(JP,A)
【文献】特表2009-524688(JP,A)
【文献】特表2010-520999(JP,A)
【文献】特表2010-521681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)と(b):
[(a)反応部分(前記反応部分は、ペプチドの官能基と反応して共有結合を形成して;それへ共有結合で結合することが可能である);
(b)質量分析計において、
(i)ペプチドを断片化するのに必要とされるエネルギー未満のエネルギー、及び/又はペプチドより高い変換率で;並びに
(ii)(i)による前記エネルギーで、そして前記反応基を介してペプチドへ結合する場合は、ペプチドへ結合する前記化合物内の単一部位で断片化して、第一部分と第二部分(前記第二部分は、前記ペプチドへ結合している)を生じる部分]を含むか又はそれらからなる化合物であって、 式(I):
-X-CH-(Y)-Z- (I)
[式中:
Xは、SCH、SO、又はSOであり;
Yは、CH、NH、又はOであり(但し、(Y)は、NHとOより選択される0又は1つの基を含む);
nは、0、1、2、3、4、5、6、7、又は8であり;そして
Zは、CHA-Y又はCH-COであり、ここでAは、電子吸引基である]の部分を含む、化合物。
【請求項2】
同位体標識されている、請求項1の化合物。
【請求項3】
式(I)の部分において:
nは、0又は1であり;そして
Aは、NO、又はFのようなハロゲンである、請求項1~請求項2のいずれか1項の化合物。
【請求項4】
式(II):
-式(I)-B-D (II)
[式中:
式(I)は請求項1に定義されるものであり;
とBは、多重化同位体ラベリングに適した部分であり;
Dは、請求項1に定義される反応部分である]を有する化合物、又はその塩又は溶媒和物、又は適用可能な場合は、その互変異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、又は混合物。
【請求項5】
が、
式(IIIa)又は式(IIIb):
C-(Y)-E-(Y) (IIIa)、又は
K-CH-(Y)-E-(Y) (IIIb)
[式中:
Eは、O-CO、N-CO、S-CO、O-CS、S-CS、(CH、又はNH-COであり;
Yは、請求項1において定義されるものであるか又はCH(CH)であり;
mは、1、2、又は3であり;そして
pは、1、2、又は3であり;
Kは、濃縮部分である]によって定義され);
及び/又は
が、式(IVa)、式(IVb)、又は式(IVc):
NR-(CH-G (IVa)、
CHR-(CH-G (IVb)、又は
OR-(CH-G (IVc)
[式中:
は、H、C~Cアルキル、又はシクロペンチル又はシクロヘキシルのようなシクロアルキルであり;
Gは、求められる場合は、Bを前記反応基Dへ連結するための官能基であり;
qは、1、2、3、4、5、6、7、又は8である]によって定義される、請求項4の化合物。
【請求項6】
(a)同位体標識されている(ここで同位体標識は、B、式(I)、及びBの1以上又はすべてに存在する);及び/又は
(b)式(Va)又は式(Vb):
【化1】
[式中:Rは、水素、又はハロゲン、NH 、NR5+、又はNOのような電子吸引基であり、ここでR、R、及びRは、独立して、C~Cアルキル若しくはシクロアルキル、C~Cアルケニル若しくはシクロアルケニル、又はC~Cアルキニルであり;
Jは、同位体ラベリングに適して、Cを含有する部分であり;
nは、0と19の間の整数であり;そして
rは、0と20の間の整数である];
【化2】
[式中:Rは、ハロゲン、NH 、NR5+、又はNOのような電子吸引基であり、ここでR、R、及びRは、独立して、C~Cアルキル若しくはシクロアルキル、C~Cアルケニル若しくはシクロアルケニル、又はC~Cアルキニルであり;
rとtは、独立して、1と20の間の整数である]を有する、請求項4又は請求項5の化合物。
【請求項7】
前記第一部分が帯電していない、請求項1~請求項6のいずれか1項の化合物。
【請求項8】
(a)請求項1~請求項7のいずれか1項に定義される1以上の化合物を担っているペプチド;及び
(b)(a)の化合物(複数可)より、式(I)中のXとCHの間の結合を切断することによって入手される1以上の相補的部分(ここで前記単数又は複数の相補的部分は、前記ペプチドと第二部分からなるか又はそれらを含む)より選択される第二化合物。
【請求項9】
請求項4に定義される式(II)の化合物より、請求項1に定義される式(I)中のXとCHの間の結合を切断することによって入手される第一部分であって、Bを含む、前記第一部分。
【請求項10】
請求項1~請求項7のいずれか1項の複数の化合物(ここで前記化合物は、化学的に同一であって、異なって同位体標識される)を含んでなるか又はそれらからなるキット。
【請求項11】
前記第二部分がそれらの精密質量に関して異なる、請求項10のキット。
【請求項12】
請求項1~請求項8のいずれか1項に定義される化合物、又は請求項10若しくは請求項11のキットの、同重体ラベリング(isobaric labeling)への使用。
【請求項13】
質量分析法を実施する方法であって:
(a)請求項1~請求項8のいずれか1項に定義される化合物とペプチドを反応させて、化合物-ペプチドコンジュゲートを入手する工程;
(b)(a)の成果をイオン化する工程;及び
(c)
(i)前記コンジュゲートが前記化合物内で分解するエネルギーで(b)の成果を断片化する工程;及び
(ii)前記化合物と前記ペプチドの両方を断片化するエネルギーで(b)の成果を断片化する工程の一方又は両方を実施する工程(ここで(i)と(ii)がともに実施される場合、それらは、同時的に又は任意の順序で連続的に実施される)を含んでなる、前記方法。
【請求項14】
ペプチドを定量する方法であって、請求項13の方法と、
(d)(c)(i)において入手されるフラグメントの量、及び/又は(c)(ii)において入手されるフラグメントの量より、所与ペプチドの量を決定する工程の追加工程を含んでなる、前記方法。
【請求項15】
質量分析法用の試料調製の方法であって、前記試料は、タンパク質、ポリペプチド、及び/又はペプチドを含んでなり、そして:
(a)有っても無くてもよい、前記試料のタンパク分解消化;及び
(b)前記タンパク質、ポリペプチド、及び/又はペプチド、又は工程(a)が実施される場合は、工程(a)において入手されるペプチドを、請求項1~請求項のいずれか1項に定義される化合物と反応させる工程を含んでなる、前記方法。
【請求項16】
請求項1~請求項7のいずれか1項に定義される少なくとも1つの化合物の、タンパク質、ポリペプチド、及び/又はペプチドの質量分析法による定量のための使用。
【請求項17】
請求項1~請求項7のいずれか1項に定義される化合物の、質量分析法におけるペプチドの単離又は濃縮のための使用。
【請求項18】
質量分析法においてペプチドを単離するか又は濃縮する方法であって:
(a)請求項1~請求項7のいずれか1項に定義される化合物とペプチドを反応させる工程;
(b)(a)の成果をイオン化する工程;
(c)(b)において入手されるイオンをそれらのm/z比に従って分離させる工程;
(d)前記イオンを、化合物を断片化するがペプチドは断片化しないエネルギーで使用することによって断片化する工程;
(e)(d)において入手されるイオンをそれらのm/z比に従って分離させる工程;;及び
(f)(c)のスキャンと比較してm/zのシフトを明示する(e)のイオンを単離する工程(前記シフトは、請求項1に定義される第一部分に対応する)を含んでなり、それによって前記ペプチドを単離する、前記方法。
【請求項19】
イオンが単離される場合、そのような単離工程は、12Cイオンだけが単離されるように実施される、請求項18の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)と(b)[(a)反応部分(前記反応部分は、ペプチドの官能基と反応して共有結合を形成して;それへ共有結合で結合することが可能であると、(b)質量分析計において、(i)ペプチドを断片化するのに必要とされるエネルギー未満のエネルギー、及び/又はペプチドより高い変換率で;並びに(ii)(i)による前記エネルギーで、そして前記反応基を介してペプチドへ結合する場合は、ペプチドへ結合する前記化合物内の単一部位で断片化して、第一部分と第二部分(前記第二部分は、前記ペプチドへ結合している)を生じる部分)]を含むか又はそれらからなる化合物に関する。
【0002】
本明細書では、特許出願と製造業者のマニュアルが含まれる多数の文献が引用される。これら文献の開示は、本発明の特許性に関連するとみなされないが、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。より具体的には、すべての関連文書は、それぞれ個々の文書が具体的かつ個別的に参照により組み込まれると示されるのと同じ程度で、参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
質量分析法(MS)は、分析物を(i)定量する、及び/又は(ii)同定することを可能にする分析法である。処理能力(throughput)を高めること、及び/又は2種以上の試料間の直接比較の目的では、異なる起源の試料を一緒にする場合がある。そのような実験設定では、質量スペクトルにおいてどのピークがどの試料に由来するのかを決定すること、そしてさらに、個別の試料をプールする前に所定分析物のどのくらいの量がそこに存在するのかを決定することが可能であることが重要である。同定の側面に関しては、このことは、典型的には、特にタンパク質とペプチドの分野では、タンパク様分析物の断片化をもたらすモードにおいて質量分析計を操作することによってなされる。
【0004】
同重体ラベリング(isobaric labeling)は、定量的プロテオミクス用に技術確立された方法である。上記に言及した試料プーリングと共に使用される場合、個々の試料を異なる質量タグで標識する。前記質量タグが同重体であるということは、それらが同一の質量を有することを意味する。同重体であることに加えて、前記質量タグは、断片化部位を含有する。断片化部位は、質量タグを第一部分と第二部分へ分割する。第一部分は、「レポーター部分」とも呼ばれて、第二部分は、「バランス部分」とも呼ばれる。同重体質量タグのセットが定義上は同じ質量のタグを含有する場合でも、このことは、前記定量タグのセットに含まれる個別のレポータータグとバランスタグに当てはまるわけではない。差次的(differential)同位体標識スキームを使用すると、それぞれのレポーター部分とそれぞれのバランス部分がその個別の質量を有するので、シグナルの起源を同定して、それが由来する試料へそれを帰属させることが可能になる。バランス部分は、分析物又はそのフラグメントへ付いたままである。分析物(又はそのフラグメント)とバランス部分からなる化合物は、相補的フラグメント又は相補的イオンとも呼ばれる。
【0005】
技術確立された同位体質量タグは、ペプチドとポリペプチドも断片化するエネルギーで断片化する。このことは、定量と同定を同じ時点で実施することを可能にする。つまり、断片化すると、レポーター部分及び/又はバランス部分により、シグナルの起源を決定してその量を定量することが可能になり、そして分析物それ自体より入手されるフラグメントによって、その本性(identity)を決定することが可能になるのである。
【0006】
このアプローチには、言及した利点があるものの、本発明者は、いくつかの欠点を認識した。特に、標的ペプチドと同時に単離して同時に断片化する干渉性のペプチドイオンによって、正確度と精度がともに損なわれる。プロトン転移イオン-イオン反応と高調波MS3スキャンのような追加の気相単離工程は、これらの課題に対処しようとするものであるが、これらの方法は、取得速度及び感度の低下を犠牲にして成り立つものである(Ow, S. Y., et al., J プロテオーム Res, 2009. 8(11): p. 5347-55; Wenger, C. D., et al., Nat Methods, 2011. 8(11): p. 933-5)。TMT質量バランサーを担うフラグメントイオンに基づいた、標識ペプチドのMS2レベルでの定量が代替法を提供するのは、これらの相補的TMT(TMT)イオンが前駆体特異的であって、同時流出性のペプチドによって影響を受けないからである(Wuhr, M., et al., Anal Chem, 2012. 84(21): p. 9214-21)。PTR戦略やMS3戦略と異なって、この方法は、四重極 Orbitrap 機器(Q Exactive)のような、広範囲の高分解質量分析計で実施することができる。しかしながら、この方法の現行の制約は、大部分のペプチド、特により高い荷電状態と高移動性のプロトンを有するペプチドでは、相補的イオンの形成が非効率であることである。さらに、ペプチド同位体クラスターの同時単離の故に、TMTイオンが干渉して、定量性を損なってしまう。
【0007】
先行技術の制約に照らせば、本発明の根底にある技術課題は、質量分析法のための同重体ラベリングについて改善された手段及び方法の提供にあると見ることができる。
【発明の概要】
【0008】
この技術課題は、本明細書で開示される特許請求項によって解決された。従って、第一の側面において、本発明は、(a)と(b)[(a)反応部分(前記反応部分は、ペプチドの官能基と反応して共有結合を形成して;それへ共有結合で結合することが可能である)と、(b)質量分析計において、(i)ペプチドを断片化するのに必要とされるエネルギー未満のエネルギー、及び/又はペプチドより高い変換率で;並びに(ii)(i)による前記エネルギーで、そして前記反応基を介してペプチドへ結合する場合は、ペプチドへ結合する前記化合物内の単一部位で断片化して、第一部分と第二部分(前記第二部分は、前記ペプチドへ結合している)を生じる部分]を含むか又はそれらからなる化合物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本化合物は、第一の側面に従って、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質へ共有結合で結合されるように設計される。このことは、要件(a)によって実行される。化合物をペプチドへカップリングするための数多くの化学法が当業者に利用可能であって知られている。その目的に対する好ましい解決法及び/又は例示の解決法をさらに詳しく下記に開示する。第一の側面による反応部分と反応することが可能である、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質の好ましい官能基は、アミノ基、例えば、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質のN末端主鎖アミノ基、又は側鎖アミノ基である。従って、好ましい反応部分は、アミン反応部分である。
【0010】
分析物、より具体的にはペプチドと反応すると、化合物-ペプチドコンジュゲートが生成される。前記単一部位でのフラグメンテーション時に、前記化合物-ペプチドコンジュゲートは、前記第一部分と第二コンジュゲートを生じる。第二コンジュゲートは、前記第一部分の損失後の本発明の前記化合物の残存部分(第二部分)と前記ペプチドのコンジュゲートである。本発明による同じ化合物で複数のペプチドが誘導される場合、フラグメンテーションにより、複数の第二コンジュゲートが生じるものである。これらの第二コンジュゲートは、定常部分と可変部分を有する。可変部分は、特定の第二部分に含まれる特定のペプチドによって決定されて、定常部分とは、本発明の化合物に由来する、第二コンジュゲートの成分である。この部分は、本明細書において、第二コンジュゲートの定常部分とも呼ばれる。当該技術分野では、そして本発明の同重体タグとは異なる同重体タグに関しては、定常部分は、「バランシング(balancing)部分」とも呼ばれる。第二部分又は定常部分は、第一の側面に準拠して、所定の化合物について同じ化学構造をいつでも有するという意味において、定常である。同位体置換に関しては、同じ化学構造を有する本発明の化合物のセット内では、例えば、本発明に準拠したキット内では、前記第二部分又は定常部分がそれらの同位体置換に関して互いに異なり、その結果は、本発明の化合物のそのようなセット内、又は本発明のキット内の異なる第二部分が異なる質量、少なくとも異なる精密質量と、好ましくは異なる整数質量も有すると理解される。構造に関して言えば、第二部分の定常部分とは、一般に、開裂可能な結合から始まって、前記第二コンジュゲート中の分析物又はペプチドの第一元素に先行する原子で終わる、本発明の化合物の部分である。ある状況下では、プロトン、水素、又は水、等の損失が起こり得る。
【0011】
前記反応部分へ共有結合で結合した前記化合物は、質量分析計において断片化する部分をさらに含むか、又はそれから追加的になる。その点において重要な特徴は、断片化が、ペプチドを断片化するのに必要とされるエネルギー未満であるエネルギーで起こることである。あるいは、又はさらに、該部分は、質量分析計において、ペプチドより高い変換率で断片化する。「変換率」という用語については、下記にさらに定義される。一般的に言えば、ペプチドより高い変換率という要件は、全ペプチドフラグメンテーション未満のすべてのエネルギーに適用される。好ましい態様では、ペプチドフラグメンテーションが、(例えば、約23と約30の間の間隔において)約30以上の正規化高エネルギー衝突解離(HCD)衝突エネルギー(NCE)で起こる。本発明に準拠した部分(b)は、好ましくは、約23未満の正規化HCD衝突エネルギー(NCE)で断片化する。
【0012】
フラグメンテーション閾値がHCD衝突エネルギーに関連して規定される一方で、本発明の化合物の使用は、特別な解離法に制約されない。例えば、衝突誘起解離(CID)、SID、ETD、ECD、又はUVを同様に使用してよい。
【0013】
当該技術分野では、質量分析計を異なるモードで操作し得ることが確立されている。モードは、質量分析計においてイオンによって獲得されるエネルギーによって区別することができる。ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質である分析物に関連すると、質量分析計を断片化モードと非断片化モードで操作することが可能である。非断片化モードにおいて、分析物は、本質的にインタクトなままであるが、このことは、断片化モードに当てはまらない。より高いエネルギーの使用により、分析物、特にペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質は、断片化するものである。所定の画分又は試料が断片化モードと非断片化モードで同時に解析されるように、この2種のモード間で速やかに転換するように質量分析計を操作してもよい。
【0014】
先行技術では、ペプチドも断片化するエネルギーで断片化する同重体ラベルが提供されるが、このことは、本発明に当てはまらない。本発明は、より低いエネルギーで、及び/又はより高い変換率で断片化する、第一の側面の部分(b)を提供する。結果として、本発明の第一の側面に準拠した化合物は、新しい選択肢、即ち、部分(b)だけが断片化してペプチドは断片化しないエネルギーで質量分析計を操作すること、及び/又は部分(b)がペプチドより高い変換率で断片化するようにそれを操作することを提供する。後者の機能要件に準拠すると、所定エネルギーでのペプチドフラグメンテーションは、完全に非存在である必要はないと理解される。むしろ、重要であるのは、部分(b)が所定エネルギーで、より高い変換率で断片化することである。閾値については、下記にさらに定義される。明らかに、十分に高いエネルギーでは、部分(b)とペプチドがともに同等で高い度合いまで断片化するものである。
【0015】
好ましい態様において、上記に言及したペプチドの断片化は、ペプチド骨格の断片化である。「ペプチド骨格」という用語は、その技術確立された意味を有する。それは、αアミノ基の窒素原子、α炭素原子、及び所定ペプチドの各構成アミノ酸のα炭素原子へ直接結合したカルボニル基の炭素原子によって形成される共有結合鎖を意味する。
【0016】
「より高い変換率」という用語は、好ましくは、ペプチドと比較して少なくとも2倍以上、好ましくは、ペプチドと比較して少なくとも3倍、少なくとも5倍、又は少なくとも10倍以上断片化される部分(b)に関連する。好ましくは、これらの倍率変化値は、化合物フラグメンテーションの最適エネルギーに適用される。好ましくは、化合物フラグメンテーションについての前記最適エネルギーは、22以下の正規化衝突エネルギー(NCE)においてである。
【0017】
さらに注記すべきは、部分(b)が単一の一定部位で断片化することである。フラグメンテーションにより、第一部分と第二部分が生じる。第一の側面の化合物の低エネルギーフラグメンテーション及び/又は高変換特性のある化合物について、先行技術では、記載することも示唆することもされていないが、我々は、言及した第一部分と第二部分が技術確立された同重体ラベリング化合物のレポーター部分とバランス部分に対応することに注記している。
【0018】
第一部分が解放されるのに対し、第二部分は、ペプチドへ結合したままである。第二部分とペプチドからなる分子又はイオンは、相補的部分、相補的分子、又は相補的イオンとも呼ばれる。
【0019】
本発明による化合物は、結合したペプチドを本質的にそのままにしておく条件の下で、それらのフラグメンテーションを可能にしながらの高い変換率を特徴とする。「変換」という用語は、本明細書において、フラグメンテーションと同等であるとして使用される。本発明による化合物の変換は、上記に概説したような技術確立されたタンデム質量タグ(TMT)のそれより少なくとも5倍高いか又は少なくとも10倍高い。好ましくは、これらの倍率変化値は、化合物フラグメンテーションの最適エネルギーに適用される。好ましくは、前記化合物フラグメンテーションの最適エネルギーは、22以下の正規化衝突エネルギー(NCE)でのものである。開示の実施例において、対応するデータを示す。
【0020】
1つ以上の部位で断片化する、例えば、2つの部位で断片化するDSSO又はTMTのような、さらに技術確立された質量タグがある。本発明の部分(b)は、それが1つの部位で効率的に断片化するという点で、それらから識別される。
【0021】
本発明の化合物は、それらが同位体標識される(詳細については、さらに下記を参照のこと)場合、同重体質量タグとして使用することができる。最新の質量タグは、上記に考察したように、分析物(分析物は、好ましくは、ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質である)の定量と同定を同時に提供する。本発明の第一の側面に準拠した化合物のフラグメンテーション特性により、質量分析法の上記2つの側面のもつれを解くことができる。特に、本発明の化合物の断片化をもたらすが、結合されたペプチド分析物は断片化しないエネルギーを選択することによって、分析物のさらなる断片化が起こらないか又はほとんど起こらない間に、定量を実施することができる。このことは、例えば、分析物の本性がすでにわかっている、及び/又は分析物のフラグメントが定量に否定的に干渉する状況の下で、有利である。
【0022】
第一の側面に準拠した化合物は、好ましい態様において同位体標識される一方で、同位体標識されなくてもよい。第一の側面に準拠した化合物の非同位体標識型も、明瞭な利点を与える。例えば、それは、目的のペプチドについてのMSベースの濃縮又は単離の方法を提供する。例を挙げると、目的のペプチドがシステイン残基を含有するものである場合である。システインは、反応性のスルフヒドリル基を含有する。第一の側面に準拠した化合物は、前記スルフヒドリル基と反応する反応部分を備えてよい。前記スルフヒドリル基と反応するそのような反応部分の例は、ヨードアセトアミドである。本発明のそのような化合物へ共有結合で結合しているシステイン含有ペプチドが質量分析計において第一の側面に準拠した化合物だけが断片化するエネルギーで断片化されると、相補的フラグメントが得られるが、この相補的フラグメントは、該ペプチドを含有するが、第一の側面に準拠した化合物の第一部分は含有しない。換言すると、第一の側面に準拠した化合物のフラグメンテーション挙動によって、システインを有して、第一の側面に準拠した化合物をそれへ結合させるすべてのペプチドは、同一の分子量を失うことになる。そのような特性は、第一の側面に準拠した非標識型の化合物によって付与されて、単離及び濃縮の目的のために利用することが可能であり、この場合は、目的の各ペプチドの生化学的な濃縮又は単離が不要となる。下記にさらに詳述される本発明の側面は、第一の側面に準拠した非標識化合物の上記タイプの応用に関する。
【0023】
第一の側面に準拠した部分(b)の断片化時に生成される第一部分と第二部分は、同一でないと理解される。前記部分(b)は、対称的に断片化しないし、それは、対称的な分子でもない。さらに、第一の側面に準拠した化合物を全体として考慮すれば、単一の反応部分だけが存在することが少なくとも好ましい。前記単一の反応部分は、前記第二部分である部分(b)のその部分へ共有結合で結合する。それによってのみ、該化合物がそのペプチド結合型で断片化するときに、相補的フラグメントが生成されて、その相補的フラグメントが分析物(前記ペプチドである)と前記第二部分を含むか又は好ましくはそれらからなることが確実になるのである。
【0024】
さらに、少なくとも好ましい態様では、第一の側面に準拠した前記化合物が単一の部分(b)を含むと理解される。
第一の側面の項目(b)(ii)では、ペプチドへ結合した場合の化合物のフラグメンテーションにより2つのフラグメントが生じると定義されているが、第一の側面に準拠した化合物は、ペプチドへ結合していない場合でも、部分(b)内の単一部位で断片化するものであると理解されたい。その非ペプチド結合型での部分(a)(即ち、反応部分)のフラグメンテーション挙動に関して言えば、それは、ある特定の応用のために選択される特別な反応部分に左右されるものである。もっとも、そのことは本発明に特に関連しない。重要であるのは、部分(b)が上記に注記したような単一部位で断片化することである。
【0025】
第一の側面の項目(ii)に述べられるような「(i)による前記エネルギー」は、(有意な)ペプチドフラグメンテーションの閾値未満のエネルギーを意味すると理解される。さらに、「より高い変換率」は、統計学的に有意により高い変換率を意味すると理解される。好ましくは、統計学的に有意により高い変換率は、約22までの正規化衝突エネルギー(NCE:下記参照)で起こる。
【0026】
第一の側面の化合物の好ましい態様において、(a)前記化合物は、前記反応基を介してペプチドへ結合した場合、約17、約19、約21、又は約23の正規化HCD衝突エネルギーで、それぞれ約35%、約55%、約75%、又は約90%のメジアン変換率で断片化する;及び/又は(b)前記単一部位以外の部位でのフラグメンテーションは、(a)に準拠したエネルギーで、20%未満、好ましくは10%未満である。
【0027】
第一の側面の化合物のさらに好ましい態様において、(a)前記化合物は、前記反応基を介してペプチドへ結合した場合、約12、約14、約16、約18、又は約20以上の正規化HCD衝突エネルギーで、それぞれ約30%、約45%、約65%、約75%、又は85%以上のメジアン変換率で断片化する。
【0028】
上記に注記したように、「変換」と「フラグメンテーション」は、本明細書において同等に使用される。例えば、30%の変換率とは、該化合物の30%が断片化された一方で70%がインタクトなままであることを意味する。化合物フラグメンテーション(化合物変換とも呼ばれる)の百分率は、ペプチド結合性レポーターイオン(非断片化ペプチドへ結合した断片化化合物)の強度をインタクト化合物と断片化化合物にある前駆イオン(非断片化ペプチド)の総計強度で割ることによって計算される。
【0029】
「HCD」という略語は、技術確立されていて、高エネルギー衝突解離を意味する。実際問題として、化合物を断片化するのに必要とされるエネルギーは、前記化合物の質量と電荷に依存する。衝突エネルギー(CE)の均一な尺度を有するために、正規化衝突エネルギーという概念が導入されてきた。絶対衝突エネルギーは、正規化衝突エネルギー(NCE)より、以下のように計算することができる:
【0030】
【化1】
【0031】
[式中、mは、考慮下の化合物の質量であって、zは、その電荷である]。絶対衝突エネルギーが可変であって、電荷と質量に依存するのに対し、NCEは、各イオンでいつでも同じ値である;例えば、Neta et al., Journal of the American Society for Mass Spectrometry 20, 469-476 (2009) を参照のこと。
【0032】
好ましくは、上記に定義された正規化衝突エネルギーは、Thermo Fisher 製の Q exactive(精密)質量分析計で決定される。他の機器でも、同様に正規化されるエネルギーを使用してよい。
【0033】
上記より、本発明の化合物には、ペプチド骨格より低いエネルギーで断片化するという特徴があることが明らかである。当業者には、フラグメンテーションが、一般に、エネルギー増加時の瞬間的な開始を特徴としないプロセスであることが理解されよう。むしろ、所定のNCEで完全に断片化する分子のフラグメンテーションは、ある程度まで、所定値より低いエネルギーでも起こり得るのである。例えば、ペプチド骨格の有意なフラグメンテーションは、27以上のNCE値で起こるが、より低いエネルギーでも、有意に低い度合いまでは、起こり得る。本発明の目的にとって重要であるのは、ペプチドの骨格が本質的にインタクトなままである間に本化合物の選好的なフラグメンテーションが起こるという条件が存在することである。このことが当てはまる典型的なNCE値は、5と22の間、好ましくは10と22の間のNCEである。これらは、ペプチド骨格のフラグメンテーションに比較した場合に、本化合物のフラグメンテーションが統計学的に有意に高い程度で起こるエネルギーである。一方を本化合物のフラグメンテーション率として他方をペプチド骨格のフラグメンテーション率とする両者間の統計学的有意差という概念を受け入れると、以下のように定義されるΔNCE:(ペプチド骨格が少なくとも30%断片化される)NCE-(本発明に準拠した分子が少なくとも30%断片化される)NCEという変数を導入することができる(化合物フラグメンテーションの定義については、上記8頁を参照のこと)。この値は、本発明に準拠した分子では、正数である。TMTのような先行技術の同重体タグでは、それが負数又は0である。
【0034】
ペプチド骨格フラグメンテーション(ペプチド骨格変換とも呼ばれる)の百分率は、すべてのフラグメントイオン(インタクト化合物と断片化化合物のbイオンとyイオン)の合計をペプチドフラグメントイオンとペプチド前駆イオンの総計強度(インタクト化合物と断片化化合物のb及びyイオンと前駆イオンの総計強度)で割ることによって計算される。
【0035】
さらに好ましい態様では、前記化合物が同位体標識されて、好ましくは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の同位体標識原子を含み、同位体標識原子は、好ましくは、13C及び/又は15Nである。
【0036】
第一の側面に準拠した化合物の同位体標識型は、同重体質量タグとして有用である。本明細書の序論部分で概説したような、同重体質量タグについての確立された概念に一致して、同位体標識質量タグは、典型的には、2種以上の異なる標識型で提供されて、ここで全質量は、いつでも同じである。複数の異なる同位体標識化合物があって、前記化合物は、同じ構造を有して、本発明の好ましいキットを構成する。
【0037】
全質量が同一である一方で、標識化スキームは、第一部分と第二部分の質量の変動を許容するやり方で選択される。所定のラベリングスキーム下で同じ全質量を有する、様々に標識される可能な化合物の最大数は、所定のラベリングパターンによって提供可能な最大度の多重化(multiplexing)を決定する。単純な例を挙げると、第一の側面に準拠した化合物は、第一部分に、標識され得る正確に1つの位置が存在して、第二部分にも、標識され得る正確に1つの位置が存在するように設計され得る。ラベリングは、例えば、13Cラベリングであり得る。部分(b)に正確に1つの13C標識があるならば、このことは2通りのやり方で、即ち、第一部分中の言及位置を標識することによるか又は第二部分中の言及位置を標識することによって実行され得る。これにより、質量は同一であるが、部分(b)のフラグメンテーション時に識別可能なシグナルを生じる2種の同重体質量タグが生じる。
【0038】
第一及び/又は第二部分がラベリングに適用可能な1より多い位置を含有する事例では、より高度の多重化が可能である。
さらに好ましい態様では、前記化合物が同位体標識されない。
【0039】
構造上の条件では、前記化合物が式(I):
-X-CH-(Y)-Z- (I)
[式中:
Xは、SCH、SO、又はSOであり;Yは、CH、NH、又はOであり(但し、(Y)は、NHとOより選択される0又は1つの基を含む);nは、0、1、2、3、4、5、6、7、又は8、好ましくは0又は1であり;そしてZは、CHA-Y又はCH-COであり、ここでAは、電子吸引基、好ましくはNO、又はFのようなハロゲンである]の部分を含むことが好ましく、ここで前記部分は、-SO-(CH-CO-である。
【0040】
前記化合物が式(I)の部分を含むとすると、その(完全な)化合物では、XとZ上の自由原子価が飽和していると理解される。
前記式(I)内にある、(X)と隣接CH基の間の結合は、そこでフラグメンテーションが起こる、上記に言及したような単一部位である。重要にも、前記結合は、ペプチド結合ではない。先行技術の同重体タグでは、断片化部位としてペプチド結合が頻繁に使用される。それ故に、先行技術の同重体タグでは、分析物をインタクトにしたままでのタグの選択的フラグメンテーションをもたらさない。それとは著しく異なって、本発明は、ペプチド結合よりフラグメンテーションを受けやすい化合物を提供する。他方で、断片化されることになる本発明の化合物中の結合は、さほど脆いわけでもない。さらに説明すると、ごく脆い結合の場合は、フラグメンテーションがイオン化のプロセスの間にすでに起きてしまうので、それは望ましいことではない。かくして、本発明の化合物は、一方で分析物(特にペプチド)より低いエネルギーで断片化するタグを使用することの利点を認識することと、イオン化相で生じ得る関連のフラグメンテーションを回避することの間で均衡をはかるものである。関連のフラグメンテーションが起こるとみなされるのは、本発明の化合物の5%より多くがイオン化相の間に断片化する場合であろう。
【0041】
式(I)に図示していない部分は、式(I)中のX-CH結合より高いエネルギーで断片化する。
Xは、SOであることが特に好ましい。
【0042】
Yは、CHであることが特に好ましい。
nは、0であることが特に好ましい。
Zは、CH-COであることが特に好ましい。
【0043】
Xは、本発明の化合物の対称中心を規定するものではない。
式(I)中の原子、好ましくはC原子とN原子は、同位体標識することができる。
さらに好ましい態様では、前記反応基が、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS);アジド類(フェニルアジド及びニトロフェニルアジドのようなアリールアジド類が含まれる);ペンタフルオロフェニル(PFP)エステル類;ソラレン;ジアジリン類;ホスフィン類;アセトアミド類(ヨードアセトアミド、ブロモアセトアミド、及びクロロアセトアミドのような);ヨード酢酸;マレイミド;チオスルホネート;ビニルスルホネート;ピリジルジチオール;アルキン類;イミドエステル類;ジフルオロアリールのようなハロゲン化アリール;ヒドラジド類;アルコキシアミン類;カルボジイミド類;イソシアネート、及びグリオキサールより選択される。
【0044】
特に好ましいのは、NHSである。
さらなる反応基は、当業者の自由裁量であって、標的指向される、目的の所定ペプチド内の官能基に基づいて選択することができる;例えば、Greg T. Hermanson, Bioconjugate Techniques(ISBN: 978-0-12-382239-0)を参照のこと。標的指向され得るペプチド中の官能基は、N末端のアミノ基と塩基性アミノ酸中のアミノ基、システインのスルフヒドリル基、セリン、スレオニン、及びチロシンのヒドロキシル基、並びにアスパラギン酸とグルタミン酸の側鎖カルボキシレートを含む。
【0045】
第一の側面に関連するが、別の異なる第二の側面において、本発明は、好ましくは、先行の請求項のいずれかの化合物[前記化合物は、式(II):
-式(I)-B-D (II)
(式中、BとBは、好ましくはC原子での多重化同位体標識、好ましくはC原子での多重化同位体ラベリングに適した部分であり;Dは、第一の側面に関連して定義されるような反応部分である)を有する]、又はその塩又は溶媒和物、又は適用可能な場合、その互変異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、又は混合物を提供する。
【0046】
反応部分Dは、Bだけに連結することが明らかである。少なくとも好ましい態様において、Bは、どの反応部分も含まない。
多重化同位体ラベリングの概念については、本明細書の上記に説明されている。従って、部分Bと部分Bのいずれか一方が差次的同位体ラベリングに適している少なくとも1個の原子を含有すると理解される。差次的同位体ラベリングの例は、ある同位体標識型の所定位置に13Cが存在して、別の同位体標識型の所定位置に12C(またあるいは、天然の同位体分布)が存在することである。
【0047】
13Cは、炭素原子の好ましい同位体標識型である。あるいは、又はさらに、窒素原子も、それらが部分Bと部分Bに存在する場合は、同位体標識され得る。窒素に好ましい同位体標識は、15Nである。
【0048】
第二の側面に準拠した化合物の好ましい態様では、Bが、式(IIIa)又は式(IIIb):
C-(Y)-E-(Y) (IIIa)
K-CH-(Y)-E-(Y) (IIIb)
[式中:Eは、O-CO、S-CO、O-CS、S-CS、(CH、又はNH-COであり;Yは、式(I)に関連して定義されるか又はCH(CH)であり;mは、1、2、又は3であり;そしてpは、1、2、又は3であり;Kは、濃縮部分である]によって定義され(ここで好ましくは、Bは、CH-CH-O-CO-CH、CH-CH-NH-CO-CH、CH-CH(CH)-O-CO-CH、又はCH-CH(CH)-NH-CO-CHである);及び/又は
が、式(IVa)、式(IVb)又は、式(IVc):
NR-(CH-G (IVa)
CHR-(CH-G (IVb)
OR-(CH-G (IVc)
[式中:Rは、H、C~Cアルキル、又はシクロペンチル及びシクロヘキシルのようなシクロアルキルであり;Gは、求められる場合、Bを前記反応基Dへ連結するための官能基であり;qは、1、2、3、4、5、6、7、又は8、好ましくは1である]によって定義され、ここで好ましくは、Bは、NH-CH-COである。
【0049】
は、濃縮部分Kを含んでもよい。このことは、式(IIIb)のように示される。
Eは、O-COであることが特に好ましい。
mは、1であることが特に好ましい。
【0050】
pは、1であることが特に好ましい。
上記に注記したように、部分Bは、反応基Dへ連結し、さらに基Dは、ペプチドのアミノ酸中の官能基へ結合するように設計される。前記反応基Dの特別な設計に依存して、この反応基Dを部分Bへ連結することをもたらす連結基Gがあることは、有利であるか又は必要であり得る。例を挙げると、反応基DがNHSである場合、連結させるための官能基、即ち、基Gは、COである。NHSのヒドロキシ基が前記COへ結合すると、活性エステルが生成される;例えば、下記の式(V)を参照のこと。
【0051】
は、Hであることが特に好ましい。
qは、1であることが特に好ましい。
特に好ましいのは、式(IVa)である。
【0052】
さらに好ましい態様では、前記化合物が(a)同位体標識されていて、ここで同位体標識は、B、式(I)、及びBの1以上又はすべてに存在し;及び/又は(b)式(Va)又は式(Vb):
【0053】
【化2】
【0054】
[式中:Rは、水素、又はハロゲン、NH 、NR5+、又はNOのような電子吸引基であり、ここでR、R、及びRは、独立して、C~Cアルキル若しくはシクロアルキル、C~Cアルケニル若しくはシクロアルケニル、又はC~Cアルキニルであり;
Jは、同位体ラベリングに適して、Cと場合によってはN及び/又はOを含有する部分であり;好ましくは置換又は未置換C~Cアルキル若しくはシクロアルキル、置換又は未置換C~Cアルケニル若しくはシクロアルケニル、又は置換又は未置換C~Cアルキニルであり、ここで1又は2個の炭素原子は、O、N、S、及びPより選択されるヘテロ原子、OH、ハロゲン、メチル、及びメトキシが含まれる置換基で置き換えてよく;Jは、最も好ましくは、HC-(CH-O、HC-(CH-NH、HC-CH(CH)-O、又はHC-CH(CH)-NHであり;
nは、0と19の間の整数、好ましくは1であり;そして
rは、0と20の間の整数、好ましくは1である];
【0055】
【化3】
【0056】
[式中:Rは、ハロゲン、NH 、NR5+、又はNOのような電子吸引基であり、ここでR、R、及びRは、独立して、C~Cアルキル若しくはシクロアルキル、C~Cアルケニル若しくはシクロアルケニル、又はC~Cアルキニルであり;
rとtは、独立して、1と20の間の整数である]を有する。
【0057】
特に好ましい態様では、式(Va)が式(Va1):
【0058】
【化4】
【0059】
[式中、rは、0と20の間の整数であり;そして
sは、0と19の間の整数である]によって実行される。
特に好ましい態様では、式(Vb)が式(Vb1):
【0060】
【化5】
【0061】
[式中、rとtは、独立して、1と20の間の整数であって、R、R、及びRは、上記に定義される通りである]によって実行される。
式(Va1)に関しては、s=r-1であることが好ましい。このことは、ラベリングに適した同数のC原子がフラグメンテーション部位の両側にあることを可能にする。
【0062】
好ましい態様では、r=2であってs=1である(これは、式(Va3)の化合物に該当する)、又はr=4であってs=3である(式(Va2)の化合物)。この要件に合致する分子を式(Va2)と式(Va3)に示す。数字は、フラグメンテーション部位の両側でのラベリングに適したC原子を示す。
【0063】
【化6】
【0064】
式(Va2)の化合物では、多重化ラベリング、即ち、8重化(8-plexing)が可能であって、式(Va3)の化合物では、6重化が可能である。
式(Va)を実行するさらに好ましい分子は:
【0065】
【化7】
【0066】
である。
同様に、式(Va1)において、r=1でs=0であれば5重化、r=2でs=1であれば6重化、そしてr=3でs=2であれば7重化が可能である。
【0067】
式(Vb)に関しては、r=tであることが好ましい。このことは、ラベリングに適した同数のC原子がフラグメンテーション部位の両側にあることを可能にする。好ましい態様では、r=t=4である。
【0068】
上記に注記したように、R、R、及びRは、独立して、置換又は未置換C~Cアルキル若しくはシクロアルキル、置換又は未置換C~Cアルケニル若しくはシクロアルケニル、又は置換又は未置換C~Cアルキニルである。好ましい置換基は、OH、ハロゲン、メチル、及びメトキシである。R=R=R=メチルであることが好ましい。R、R、及びRのうち2つが一緒にO又はSであってよい。R、R、及びRの3個目は、O又はSであってよい。例えば、NRは、NOであってよい。
【0069】
式(Vb)の好ましい態様を下記に示す。
【0070】
【化8】
【0071】
式(Va)のさらに好ましい化合物は、式(Va7):
【0072】
【化9】
【0073】
の化合物である。
式(Va)のさらに特に好ましい化合物は:
【0074】
【化10】
【0075】
である。
式(Va)のNHS含有化合物のペプチド(前記ペプチドは、アミノ基NHを保有する)へのカップリングを、式(Va7)の化合物についての以下のスキームに例示する:
【0076】
【化11】
【0077】
本発明に準拠した化合物のさらに好ましい態様では、前記第一部分が帯電していない。換言すると、化合物-ペプチドコンジュゲートが開裂して第一部分と第二部分を生じる時には、中性損失が起こって、前記コンジュゲートに元は存在した電荷は、分析物を含むフラグメントである第二部分上にその全体が残存する。結果として、分析物を含んでなるイオンのm/zは、フラグメンテーション時に不変のままである。このことが有利であるのは、分析物のイオンが、高い分解能及び/又は高い正確度を概して特徴とするスペクトルの部分(低位のm/z範囲)に出現することになるからである。特に、より高い荷電状態がフラグメンテーション時に維持されるので、先行技術に比べて感度が増加する。
【0078】
第三の側面において、本発明は、第一及び/又は第二の側面に準拠して定義されるような複数の化合物を含んでなるか又はそれらからなるキットを提供し、ここで(a)前記化合物は、化学的に同一であって、異なって同位体標識されている;又は(b)前記化合物は、化学的に異なっていて、同位体標識されていない。
【0079】
この側面は、異なる2タイプのキットに関する。項目(a)に準拠したキットが同重体ラベリングのためにに設計される一方で、項目(b)に準拠したキットは、下記にさらに詳述される、一定質量損失(loss-of-a-constant-mass)応用のために設計される。
【0080】
項目(a)に関連すると、差次的に標識されるすべての可能な型がキットに含まれることが好ましい。
項目(a)にまた関連すると、前記第二部分及び/又は第二コンジュゲートの上記に開示された定常部分がそれらの精密質量に関して、そして場合によってはそれらの整数質量に関して異なることが好ましい。「整数質量」という用語は、化合物に含まれる質量数の総和を意味する。「精密質量」という用語は、統一原子量単位(u)での化合物の実際の(通常は非整数の)質量を意味する。本発明に準拠したキットに含まれる化合物の第二部分がその精密質量に関して、そして場合によってはそれらの整数質量に関して互いに異なるならば、第一部分もまたそれらの質量において異なるはずであると理解される。
【0081】
一般的に言えば、第二部分の定常部分がそれらの整数質量に関して異なるキットが優先されよう。しかしながら、ある事例では、例えば、多重化の度合いを高める目的のために、前記化合物のある対又はサブセットについて、第二部分の定常部分の間で、精密質量に関してのみ違いがあって、整数質量に関しては違いが無い化合物を本発明のキットに含めることが望ましい。
【0082】
項目(b)に関しては、アミノ基へ結合させるために設計される反応部分を第一化合物が含み、スルフヒドリル基へ結合させるために設計される反応部分を第二化合物が含む、等のように前記複数の化合物を選択してよい。
【0083】
いずれの場合でも、前記キットは、説明書付きのマニュアルを含み得る。項目(a)の場合、前記説明書は、同重体質量タグを使用する定量的質量分析法を実施する方法に関し得る。項目(b)の場合、マニュアルは、一定質量損失に基づく方法を実施するための説明書を提供し得る。その点では、下記にさらに開示されるような本発明の方法についてマニュアルが記載することが好ましい。
【0084】
第四の側面において、本発明は、(a)第一又は第二の側面に準拠して定義されるような1以上の化合物を担うペプチド;及び(b)上記に定義されるような式(I)中のXとCHの間の結合を断片化することによって(a)の化合物(複数)より入手される1以上の相補的部分より選択される第二化合物を提供し、ここで前記相補的部分(単数又は複数)は、前記ペプチドと第二部分からなるか又はそれらを含む。
【0085】
この側面の項目(a)は、第一又は第二の側面に準拠した化合物のペプチド結合型に関する。項目(b)は、(a)のフラグメンテーション生成物に関する。
好ましい態様では、前記第二化合物に含まれる前記ペプチドがタンパク質のタンパク分解消化によって入手されて、好ましくは、トリプシン消化ペプチドである。
【0086】
さらに好ましい態様では、前記ペプチドと前記第二化合物がイオン化されている。
前記ペプチドがイオン化されている、第二化合物の好ましい態様において、前記ペプチドの電荷は、少なくとも2である。
【0087】
第五の側面において、本発明は、第二化合物のライブラリーを提供し、前記第二化合物は、本明細書の上記に定義されている。
前記ライブラリーの好ましい態様では、(a)前記ライブラリーが第二化合物を含むか又はそれからなり、前記第二化合物は、1つのタンパク質又は複数のタンパク質より、タンパク分解消化、好ましくはトリプシン消化によって入手される複数のペプチド、又は好ましくはそのすべてのペプチドを含んでなる;及び/又は(b)第一又は第二の側面の所定化合物についてのすべての可能な化学的に同一で異なって同位体標識される化合物、又は対応する第二部分がそれぞれ、前記第二化合物に含まれる。
【0088】
本発明に準拠した第二化合物が、第一又は第二の側面の化合物へ結合したペプチドであっても、それから入手される相補的部分であってもよいことに注目すると、第五の側面に準拠したライブラリーも、一方又は両方のタイプの第二化合物を含み得るか又はそれからなり得ると理解される。
【0089】
第六の側面において、本発明は、第一部分を提供し、前記第一部分は、上記に定義されるような式(II)の化合物より、式(I)中のXとCHの間の結合を断片化することによって入手され、ここで前記第一部分は、Bを含む。前記第一部分は、それが帯電していれば、MSによって検出可能であろう。しかしながら、上記に注記したように、前記第一部分は、好ましくは、非電荷である。
【0090】
それに関連して、本発明は、第七の側面において、第六の側面に準拠して定義されるような、複数の異なって同位体標識される第一部分を提供する。
第六の側面と第七の側面は、第四の側面、特にその項目(b)に準拠した第二化合物と第五の側面に準拠した第二化合物のライブラリーに対して相補的であると見ることができる(再び、前記第二化合物が第四の側面の項目(b)に準拠した第二化合物である場合)。換言すると、言及した単一部位で断片化が起こる場合には、第一部分と第二化合物(第四の側面の項目(b)に準拠した)が創出される。
【0091】
第八の側面において、本発明は、第一又は第二の側面に準拠して定義されるような化合物、又は第三の側面の項目(a)に準拠したキットの同重体ラベリングへの使用を提供する。
【0092】
同重体ラベリングという概念それ自体は、技術確立されていて、本明細書において上記で考察した。同重体ラベリングは、多重化を可能にする。本発明の好ましい化合物に関連した多重化のより具体的な考察を上記に提供している。
【0093】
第九の側面において、本発明は、質量分析法のための試料調製の方法を提供し、前記試料は、タンパク質、ポリペプチド、及び/又はペプチドを含んでなり、そして前記方法は:(a)有っても無くてもよい、前記試料の、好ましくはトリプシンでのタンパク分解消化;及び(b)前記タンパク質、ポリペプチド、及び/又はペプチド、又は工程(a)が実施される場合は、工程(a)において入手されるペプチドを、第一又は第二の側面に準拠して定義されるような化合物と反応させる工程を含んでなる。
【0094】
前記方法の好ましい側面において、該方法は、(c)少なくとも1つのさらなる試料について、第一又は第二の側面に準拠して定義されるような化合物で第九の側面の前記方法を反復する工程をさらに含み、この化合物は、工程(b)において使用される化合物と比較すると、それと化学的に同一で、異なって同位体標識されている。「異なって同位体標識されている」という用語は、一方は第一試料、他方はさらなる試料のペプチドへ結合した化合物のフラグメンテーション時に、いずれの場合でもその定常部分がそれらの精密質量に関して、そしてさらには、それらの整数質量に関しても異なる場合がある(好ましくは、そのように異なる)第二部分が生成されることを示唆する。
【0095】
第十の側面において、本発明は、定量的質量分析法の方法を提供し、前記方法は、第九の側面の方法と、(d)(b)と(c)の成果をプールする工程;(e)(d)の成果の質量分析法を実施する工程を含んでなり、ここでは、第一部分及び/又は相補的部分のピーク強度が所定試料に含まれる所定ペプチドの量を示している。好ましくは、所定試料に含まれる所定ペプチドの量を決定する目的のために、相補的部分のピーク強度を使用する。このことは、異なる試料に由来するピークだけでなく、異なる分析物(即ち、所定試料内の異なるペプチド)もスペクトル中の異なるm/z値で出現するので、有利である。これは、質量分析計において解析されるイオンが分析物をその一部として含むからである。これにより、本発明は、レポーター強度しかモニターされない先行技術の方法から区別される。
【0096】
相補的部分を解析することのさらなる利点は、同時流出する分析物による干渉が有意に低下することである。レポーターイオンについて解析する先行技術の方法が一般に比圧縮(ratio compression)に悩まされるのに対し、このことは、本発明のアプローチにあてはまらない。「比圧縮」という用語は、2つの試料を比較するときに、所定分析物の相対存在量を全体的に過少評価することを意味する。
【0097】
本発明の化合物を使用する、本発明のこの側面では、同重体ラベリングのアプローチを実行する。
好ましい態様では、好ましくは第一の側面に準拠して定義されるような値以下で正規化HCD衝突エネルギーを使用することによって、断片化が第一の側面に準拠して定義される単一部位でのみ、又は実質的に単一部位でのみ起こるように、工程(e)を実施する。
【0098】
この態様は、第一と第二の側面に準拠した化合物の特性から利益を得る。特に、分析物の定量と分析物の同定のもつれが解かれる。質量分析計においてより低いエネルギーを使用することによって、本発明の化合物だけが断片化するがペプチド分析物は断片化しない、及び/又は該化合物は、ペプチド分析物より高い変換率で断片化する。これにより、本発明の開裂した化合物を含有する相補的ペプチドレポーターイオンのMS2スキャンでのMS2ベースの定量が可能になる。
【0099】
第十の側面に関連して、本発明は、第十一の側面において、第一又は第二の側面に準拠して定義されるような少なくとも1つの化合物の、タンパク質、ポリペプチド、及び/又はペプチドの質量分析法による定量への使用を提供する。
【0100】
前記使用に準拠して、好ましくは、第一又は第二の側面の1以上の化合物を担うペプチドをイオン化して、選好的には、データ依存性取得法(TopXのような)で選択し、引き続き約23未満、約21未満、約19未満、又は約17未満のNCEで断片化して、前記ペプチドと開裂した本発明の化合物を含んでなる相補的レポーターイオンをMS2スキャンにおいて定量する。
【0101】
前記使用の好ましい態様では、第一又は第二の側面に準拠して定義されるような2以上の化合物が使用されて、ここで該化合物は、化学的に同一であって異なって同位体標識される。
【0102】
さらに好ましい態様では、前記使用が、前記タンパク質、前記ポリペプチド、及び/又は前記ペプチドの質量分析計における同定及び/又はフラグメンテーションに関与しない。
【0103】
第十二の側面において、本発明は、質量分析法におけるペプチドの単離工程又は濃縮工程への第一又は第二の側面の化合物の使用を提供し、前記単離する工程又は濃縮する工程は、好ましくは、中性損失及び/又は一定損失に基づく。
【0104】
上記に注記したように、本発明に準拠した化合物の断片化特性は、同位体ラベリングを必要としない(特に、差次的な同位体ラベリングスキームを必要としない)応用においても利用され得る。それとは反対に、上記に開示された使用である、そのような応用の1つでは、考慮下の分析物のそれぞれが本発明の化合物へ結合して、対応するコンジュゲートが低いエネルギーで断片化されるときに相補的イオンが生成され、ここでは、前記相補的イオンの質量がすべての事例において、それらが生成されるペプチド-化合物コンジュゲートより同じ質量だけ異なることが求められる。この同じ質量だけの差は、「一定損失」とも呼ばれる。しかしながら、このことは、本発明の化合物が第十二の側面に準拠して使用されるときに、同位体標識されることを排除するものではない。
【0105】
第十二の側面に関連して、本発明は、第十三の側面において、ペプチドを質量分析法で単離するか又は濃縮する方法を提供し、前記方法は:(a)第一又は第二の側面に準拠して定義されるような化合物とペプチドを反応させる工程;(b)(a)の成果をイオン化する工程;(c)(b)において入手されるイオンをそれらのm/z比に従って分離する工程;(d)化合物を断片化するがペプチドは断片化しないエネルギーで、好ましくは、第一又は第二の側面に準拠して定義されるような値以下で正規化HCD衝突エネルギーを使用することによって、前記イオンを断片化する工程;(e)(d)において入手されるイオンをそれらのm/z比に従って分離する工程;及び(f)MS1スキャンに比較した場合にm/zのシフトを明示する(e)のイオンを単離して(前記シフトは、第一又は第二の側面に準拠して定義されるような第一部分に対応する)、それによって前記ペプチドを単離する工程を含んでなる。
【0106】
工程(c)は、通常は、「MS1スキャン」と呼ばれる。MS1スキャンの間は、フラグメンテーションが起こらない。工程(d)に準拠した断片化は、技術確立された全イオンフラグメンテーション(AIF)スキャンに類似しているが、第十二の側面に準拠して定義されるように、選択される正規化衝突エネルギーはより低くて、その帰結として、ペプチドは、断片化されないか又は実質的に断片化されない。工程(f)において単離されるイオンは、フラグメンテーションのような、さらなる下流処理へ処すことが可能であって、前記フラグメンテーションは、一般に、「MS2スキャン」と呼ばれる。
【0107】
工程(f)に準拠した前記単離工程は、例えば以下の好ましい態様に準拠して、質量分析計における前記イオンのあらゆる下流処理において目的の特定イオンへより多くの取得時間を投入することを可能にする。より多くの時間を投入することは、より良好な感度、及び/又はより高い取得速度を意味する。
【0108】
好ましい態様では、第十三の側面の前記方法が、工程(f)の後に、(g)ペプチドを断片化する工程;及び(h)(g)の成果をm/z比に従って分離して、それによって前記ペプチドを同定する工程をさらに含む。
【0109】
この好ましい態様は、MS2スキャンである。有利にも、本発明の第十三の側面は、MS3スキャンを必要としない。
さらに好ましい態様では、前記方法が、工程(a)に先立って、(a’)タンパク質を含んでなる試料の(好ましくはトリプシンでの)タンパク分解消化によって、(a)の前記ペプチドを入手する工程をさらに含む。
【0110】
第十又は第十三の側面の方法のさらに好ましい態様では、イオンが単離される場合、そのような単離は、12Cイオンだけが単離されるように実施される。
さらに、別の側面において、本発明は、質量分析計を操作する方法を提供し、前記方法は、イオンを単離する工程を含んでなり、ここで前記単離する工程は、12Cイオンだけが単離されるように実施される。
【0111】
12Cイオン」という用語は、12C原子である炭素原子だけを含有するイオンを指定する。
このこと(即ち、12Cイオンだけが単離されるような単離)は、大抵の質量分析計の標準設定から逸脱する、熟慮された選択であると理解されたい。さらに説明すると、デフォルトによる質量分析計では、最も豊富なイオンが同位体クラスターより選択される。これは、12C、13C、又は14C同位体であり得る。その機器によってなされる選択は、同位体のタイプに基づくのではなくて、単にその存在度に基づくのである。上記に開示した好ましい態様に準拠すると、存在度は、イオン選択を支配するパラメータとしては棄却される。むしろ、12Cイオンだけが単離されることが実行されるのである。このことは、上記に考察した比圧縮を有意に抑制するか又は回避するためのさらなる手段となる。
【0112】
「同位体クラスター」という用語は、その技術確立された意味を有する。それは、単一の所定構造のある分子に属する、質量スペクトル中のピークの群又はクラスターを意味する。多数のピークが発現することの理由は、それぞれの単一分子中に、天然の同位体分布及び/又は意図的な同位体ラベリングの結果として、異なる同位体が存在することの結果である。
【0113】
好ましい態様では、単離ウィンドウを目的のモノアイソトピック(monoisotopic)イオンに中心化することによって、前記単離が実効される。
前記中心化は、前記単離ウィンドウの中心をより低いm/z比の方向へ、好ましくは約0.05Thと約0.5Thの間だけ、好ましくは約0.1Thだけ補正すること(offsetting)によって実効されることが好ましい。「Th」は、m/zスケールの共通単位であるトムソン(Thomson)を意味し、即ち、1Thomson=1amu/電荷である。
【0114】
さらに説明すると、機器デフォルトは、単離ウィンドウを選択される前駆イオンに集中させることになる。単離ウィンドウが一定のサイズを有するので、選択される前駆イオンのデフォルト対称下限公差と上限公差を使用する場合には、同時流出イオンの同時選択が起こり得て、多くの場合は、必然的に起こるものである。前記単離ウィンドウの前記一定のサイズは、一般的に0.4Thと2.0Thの間の範囲にある。典型的な値は、1.4Thである。本出願の出願日に利用可能な機器で可能な最小の単離ウィンドウは、約0.4Thである。
【0115】
それとは異なって、上記に開示した好ましい態様では、単離ウィンドウの中心を補正することが求められる。換言すると、デフォルト対称単離ウィンドウを非対称なものに置き換えるのである。「非対称」という用語は、単離ウィンドウが、好ましくはその形状と幅を変化させることなく、より低いm/z比の方向へ好ましくは約0.05Thと約0.5Thの間だけシフトされることを意味する。このことは、特に1より高い荷電状態のペプチドの、13C標識イオンの同時単離を回避するさらなる手段である。結果として、12Cフラグメントイオンだけが該部分のさらなる開裂によってMS2スペクトルにおいて産生されて、第一の側面と第二の側面の1以上の化合物を担うペプチドの正確で低干渉の選択、並びにMS2ベースの定量を可能にする。
【0116】
荷電状態2の場合は、例えば、ごく狭い単離ウィンドウにより、13Cピークの同時単離が一部減少される可能性がある。しかしながら、単離ウィンドウのサイズを減少させることは、単離効率の減少をもたらすので、該イオンには、より長い注入時間と、それ故により多くの時間が必要とされる。この補正の利点は、ほとんどイオン損失が無いままでより大きなウィンドウを使用し得て、それでも13Cピークの同時単離を回避し得ることである。
【0117】
上記に開示した特に好ましい態様では、質量分析計のデフォルト設定からの2種の逸脱:(i)最も豊富なイオンではなくて、意図的に12Cを単離することと、及び(ii)非対称な単離ウィンドウを使用することが一体になることを理解されたい。換言すると、12Cイオンだけを単離することが、好ましくは、(i)12Cイオンを所定の同位体クラスター内で選択すること;及び(ii)非対称な単離ウィンドウを使用することによって実効される。
【0118】
さらに好ましい態様では、前記単離ウィンドウが約0.2Thと約0.4Thの間の幅を有する。
実施例7と図面7は、上記に考察したような質量分析計デフォルトの変更に関する態様を例示する。
【0119】
第十四の側面において、本発明は、質量分析法を実施する方法に関し、前記方法は:(a)本発明に準拠して定義されるような化合物とペプチドを反応させて、化合物-ペプチドコンジュゲートを入手する工程;(b)(a)の成果をイオン化する工程;及び(c)(i)前記コンジュゲートが前記化合物内の単一部位で選好的に断片化するエネルギーで(b)の成果を断片化する工程;及び(ii)前記化合物と前記ペプチドの両方を断片化するエネルギーで(b)の成果を断片化する工程の一方又は両方を実施する工程(ここで(i)と(ii)がともに実施される場合、それらは、同時的に又は任意の順序で連続的に実施される)を含んでなる。
【0120】
この方法は、本発明の化合物を使用するMSを対象とする。
工程(d)が利用される場合、この側面は、ペプチドがインタクトである相補的イオンの同時解析を対象として、イオンは、第二部分の定常部分とペプチドのフラグメントを含んでなる。このことは、2つの断片化工程(c)及び(d)によって表される。いずれの場合も、工程(b)において入手されるイオンを利用する。従って、工程(c)では(b)の成果の1分量が使用されて、工程(d)では、好ましくは、工程(b)の成果の別の分量が使用されると理解される。上記に示したような本発明のこの側面の規定では、エネルギーが関数用語で規定される。当業者は、有利にも低いエネルギーで断片化する本発明の化合物と本開示の教示を提供されたならば、どのくらいのエネルギーが工程(c)に、そしてどのくらいのエネルギーが工程(d)に適しているのかを即座に決定することができる。すでに述べたが、我々は、工程(c)に好ましいNCEが22以下であることに注目している。工程(d)に好ましいNCEは、27以上である。
【0121】
上記に開示した方法と第十一の側面の使用の好ましい態様では、前記使用の経過においてペプチド分析物の断片化が起こる場合、入手されたMSスペクトルは、スタッキング(stacking)を含んでなる後処理へ処される。前記後処理は、好ましくは、コンピュータで実行される。「スタッキング」という用語は、同じペプチドフラグメントに由来する全ピークの強度を合計することを意味する。さらに説明すると、(多重化の目的のために)差次的に標識される本発明の化合物の使用の故に、同じペプチドフラグメントに由来するがその質量が異なる、(別個のピークを生じる)複数のイオンが産生される。これらのイオンのピーク強度を合算する。これにより、より信頼度の高い同定が可能になる。
【0122】
好ましくは、前記「スタッキング」には、MSスペクトルの表示の変更も関与する。特に、1つの特定のペプチドフラグメントに由来するすべてのイオンについて、各ペプチドフラグメントにつき1つのピークを、好ましくは該ペプチドフラグメントのm/z値で、本発明の非断片化化合物とともに提示する。このピークの高さは、すべての重畳(stacked)ピークの合計である。
【0123】
好ましくは、スペクトルの表示における前記変更は、定量の後でなされる。この重畳ピークは、(改善された)同定に使用される。一般的に言って、定量と同定は、互いに独立していて、決まった順序で実施するに及ばない。
【0124】
ペプチドフラグメントの例は、bイオンとyイオンである。「ペプチドフラグメント」という用語には、非断片化ペプチドも含めてよい。
所定のスタッキングでは、1つの特定のペプチドフラグメントに由来するピーク群だけを使用する。これらのピークを生じる分子種は、本発明の化合物に由来する部分に関してのみ異なっていて、その部分とは、非断片化化合物と、同位体ラベリングに関して異なる、第二部分の定常部分である。
【0125】
この側面の好ましい態様では、前記方法が、(d)(c)(i)において入手されるフラグメントの量、及び/又は(c)(ii)において入手されるフラグメントの量より、所定ペプチドの量を決定する工程の追加工程を含む。定量には、(c)(i)と(c)(ii)の両方を実施することが好ましい。
【0126】
所定ペプチドの量は、(c)(i)において入手されるフラグメントと(c)(ii)において入手されるフラグメントについて観測されて、所定ペプチド分子種に属するか又はそれらに由来するピーク強度のメジアン又は平均として、又はその加重メジアン又は平均として決定し得る。加重平均を使用する場合、そのピークがより正確であれば、好ましくは、より高いピークへより高い重みを付ける。また、信号雑音比が3未満のピークは、好ましくは無視される。本発明の化合物で入手されるMSデータの処理を改善する追加又は代替の手段は、以下の通りである。それぞれの定常部分(即ち、ペプチド分析物へ付いた本発明の化合物のフラグメント)により「チャネル(channel)」が規定される。それぞれのbイオンとそれぞれのyイオンがスペクトル中のクラスターを規定して、各チャネルには、複数のクラスターがある。あるクラスターが他のすべてから異なる強度分布を有するならば、前記異なる分布を明示するチャネルは、削除される。
【0127】
利点に関して言えば、我々は、本明細書の上記において、本発明の化合物が、同時流出するペプチドによる干渉の有意な低下を可能にすることに注目した。この好ましい態様は、干渉をさらに抑制するためのさらに追加の手段である。この好ましい態様によって、比圧縮の問題(これについては当該技術分野でよく知られていて、本明細書の上記に考察した)がさらに軽減される。特に、平均化は、正確度と精度を改善する。変動係数は、典型的には、少なくとも25%低下する。最後に、これらの手段が無い場合はMS3が必要になるかもしれないが、平均化を実施する多くの事例では、MS2で十分である。MS3は、さらに正確でない場合もあろう。MS3に対するペプチド結合性レポーターイオンの利益は、オービトラップ(orbitrap)検出器によるm/z定量の分解能がMS3のような四重極ベースの単離よりいつでも高いことである。
【0128】
第十五の側面において、本発明は、検出器を含んでなる質量分析計を操作する方法を提供し、前記検出器は、好ましくは Orbitrap 検出器であり、前記方法は、前記検出器におけるフラグメントイオンの解析の間に経過する時間において、1以上のさらなる前駆イオンを採取して断片化する工程を含んでなる。
【0129】
ある状況では、前駆イオンよりフラグメンテーションによって入手されるフラグメントイオンを検出器において解析するための時間が後続の前駆イオンを採取して断片化するのに必要とされる時間を超えてしまう。結果として、分光計の最新の配置を使用するとき、前駆体の単離及びフラグメンテーションに使用される、前記分光計に含まれるデバイスは、検出器がビジーである間、アイドルになる。オービトラップ解析機付きの Q Exactive 機器では、ペプチドの同定に十分なイオンを含有するMS2スキャンを入手するのに10~5x10個のイオンが通常収集される。Q Exactive 機器では、先のフラグメンテーションスキャンのm/zがオービトラップにより解析される間に、前駆イオンが採取されて断片化される。フラグメントイオンのm/zをオービトラップにおいて解析するための時間が所望される分解能に左右される一方で、十分な前駆イオンを採取して断片化するのに必要とされる時間は、前駆イオンの存在度に左右される。故に、典型的には、オービトラップが先のスキャンを解析するのに依然としてビジーである間に、十分に豊富な前駆体に対して十分な前駆イオンを採取することができる。
【0130】
MS2スキャンの分解能が高いほど、(ほとんど質量差の無いピークを分解してから互いに識別し得るので)その質量精度はより高くて、同定と定量はより良好である。1つのMS2スキャンにおいて一緒に解析される前駆体の数が多いほど、複雑なペプチド混合物において同定されるペプチド配列の数も多い。
【0131】
上記の側面は、有利にも、言及したアイドル時間を利用する(十分なイオンが採取されて断片化されるが、検出器は依然としてビジーである)。最新の配置を使用すると、このアイドル時間は、さらなるイオンを単離して断片化するのに使用されない。本発明では、このアイドル時間を使用して、第二の、そして時間が許せば、第三、第四、等の前駆イオンを単離して断片化する。それによって、同一のMS2(フラグメンテーション)スキャンにおいて、多数の前駆イオンを読み出すことが可能である。複数の前駆体を採取することによって、より高い分解能でMS2スキャンを実施することができる。あるいは、複数の前駆体を採取することによって、より多くの前駆体を、解析時間を延長することなく、同じ分解能で解析することができる。
【0132】
より多くの前駆体のMS2スキャンを同じ分解能で実施する例を挙げると:
Q Exactive HF オービトラップ機器での標準法では、10個の前駆イオンを55ms以内に採取してから断片化し、m/z 200で30,000の分解能で解析し、64msの遷移時間を生じる。本発明の方法を使用すると、例えば、2種の異なる前駆イオン(それぞれ10個のイオン)を55ms以内に採取し(例えば、各前駆体の10個のイオンを採取するには25msで十分である)、そして引き続き断片化して、m/z 200で30,000の分解能で解析し、64msの遷移時間を生じる。
【0133】
MS2スキャンをより高い分解能で実施する例を挙げると:
Q Exactive HF オービトラップ機器での標準法では、10個の前駆イオンを55ms以内に採取してから断片化して、m/z 200で30,000の分解能で解析し、64msの遷移時間を生じる。本発明の方法を使用すると、例えば、2種の異なる前駆イオン(それぞれ10個のイオン)を110ms以内に採取し(各前駆体の10個のイオンを採取するには55msで十分である)、そして引き続き断片化して、m/z 200で60,000の分解能で解析し、128msの遷移時間を生じる。その場合、2種の前駆体は、同一の時間枠内で、より高い分解能で解析される。
【0134】
質量分析計を操作する前記方法は、本発明の他の方法及び使用のいずれもの好ましい態様であって、第一の側面と第二の側面に準拠した化合物を利用する方法及び使用が含まれて、さらにまた、12Cイオンを単離する工程を含んでなる上記開示の方法が含まれる。
【0135】
本明細書において特徴づけられる態様に関しては、特に請求項において、従属請求項において言及される各態様が、前記従属請求項が従属する各請求項(独立又は従属)の各態様と組み合わされると企図される。例えば、独立請求項1が3つの代替態様:A、B、及びCを列挙し、従属請求項2が3つの代替態様:D、E、及びFを列挙して、請求項3が請求項1と請求項2に従属して、3つの代替態様:G、H、及びIを列挙する場合、本明細書は、他に具体的に述べなければ、以下の組合せに対応する態様を明確に開示すると理解されたい:A、D、G;A、D、H;A、D、I;A、E、G;A、E、H;A、E、I;A、F、G;A、F、H;A、F、I;B、D、G;B、D、H;B、D、I;B、E、G;B、E、H;B、E、I;B、F、G;B、F、H;B、F、I;C、D、G;C、D、H;C、D、I;C、E、G;C、E、H;C、E、I;C、F、G;C、F、H;C、F、I。
【0136】
同様に、そしてまた独立及び/又は従属請求項が代替態様を列挙しない場合には、従属請求項が複数の先行請求項に再言及するならば、それによって網羅される主題のあらゆる組合せが明確に開示されているとみなされると理解される。例えば、独立請求項1があって、従属請求項2が請求項1に再言及して、従属請求項3が請求項と2請求項1にともに再言及している場合、請求項3と請求項1の主題の組合せは、請求項3、請求項2、及び請求項1の主題の組合せとして明瞭かつ明確に開示されていることいなる。請求項1~請求項3のいずれか1項に言及するさらなる従属請求項4が存在する場合は、請求項4と請求項1の主題、請求項4、請求項2、及び請求項1の主題、請求項4、請求項3、及び請求項1の主題、並びに請求項4、請求項3、請求項2、及び請求項1の主題の組合せが明瞭かつ明確に開示されていることになる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
図1-1】図面1:対称的なスルホキシドリンカー:SL1の化学構造とフラグメンテーション挙動。
図1-2】図面1:対称的なスルホキシドリンカー:SL1の化学構造とフラグメンテーション挙動。
図2-1】図面2:非対称なスルホキシドリンカー:ASL1の化学構造とフラグメンテーション挙動。
図2-2】図面2:非対称なスルホキシドリンカー:ASL1の化学構造とフラグメンテーション挙動。
図2-3】図面2:非対称なスルホキシドリンカー:ASL1の化学構造とフラグメンテーション挙動。
図2-4】図面2:非対称なスルホキシドリンカー:ASL1の化学構造とフラグメンテーション挙動。
図3-1】図面3:活性化誘導変換率。「変換」は、非断片化部分から断片化部分への変換を意味する。例えば、0.4の変換率は、化合物の60%が断片化されずに、40%が断片化したことを意味する。
図3-2】図面3:活性化誘導変換率。「変換」は、非断片化部分から断片化部分への変換を意味する。例えば、0.4の変換率は、化合物の60%が断片化されずに、40%が断片化したことを意味する。
図3-3】図面3:活性化誘導変換率。「変換」は、非断片化部分から断片化部分への変換を意味する。例えば、0.4の変換率は、化合物の60%が断片化されずに、40%が断片化したことを意味する。
図3-4】図面3:活性化誘導変換率。「変換」は、非断片化部分から断片化部分への変換を意味する。例えば、0.4の変換率は、化合物の60%が断片化されずに、40%が断片化したことを意味する。
図4-1】図面4:別個の衝突エネルギーにより、ASL1結合性ペプチドの定量と同定が可能になる。
図4-2】図面4:別個の衝突エネルギーにより、ASL1結合性ペプチドの定量と同定が可能になる。
図5-1】図面5:ASL1ベースの同重体ラベリング試薬(複数)。
図5-2】図面5:ASL1ベースの同重体ラベリング試薬(複数)。
図5-3】図面5:ASL1ベースの同重体ラベリング試薬(複数)。
図5-4】図面5:ASL1ベースの同重体ラベリング試薬(複数)。
図5-5】図面5:ASL1ベースの同重体ラベリング試薬(複数)。
図6-1】図面6:慣用のTMT標識ペプチドの相補的前駆イオンへの変換
図6-2】図面6:慣用のTMT標識ペプチドの相補的前駆イオンへの変換
図6-3】図面6:慣用のTMT標識ペプチドの相補的前駆イオンへの変換
図7-1】図面7:単離ウィンドウの全体シフトにより、12Cモノアイソトピック前駆イオンだけの正確な選択が可能になる。
図7-2】図面7:単離ウィンドウの全体シフトにより、12Cモノアイソトピック前駆イオンだけの正確な選択が可能になる。
図8】図面8:三重化同位体コード化合物(Va7)を用いた正確で無干渉性のMS2ベースのプロテオーム定量の設計及び概念。
図9】図面9:三重化同位体コード(ASL2)を用いた多重化定量のプロテオームワイド評価。
図10】図面10:トリプシン処理ヒーラ(HeLa)消化物の単測解析における非対称な四重極単離ウィンドウシフトの最適化。
図11】図面11:化合物フラグメンテーションとペプチド骨格フラグメンテーションの(Va7)とTMTzeroについてのΔ(デルタ)NCE。
図12】図面12:(ASL2)で標識した、消化された酵母及びヒトのヒトプロテオームの精密定量。
図13】図面13:レポーターイオンとフラグメントイオンを使用することによる、レポーター定量。
図14】図面14:レポーターイオンとフラグメントイオンを使用することによる、レポーター定量。
図15】図面15:「標識フラグメンテーション」対「ペプチド骨格フラグメンテーション」の比較。
【実施例
【0138】
以下の実施例は、本発明を例証する。
参考実施例1
対称的な同重体質量タグ
以下の記載は、図面1に言及する。
【0139】
(A1)対称的なスルホキシドリンカー:SL1の化学構造。SL1では、R1=デスチオビオチン(desthiobiotin)で、R2=トリアゾール-ペグ(peg)-ヨードアセトアミドである。SL1のフラグメンテーション時に産生されることが予測される構造は、それぞれR1部分とR2部分のアルケンフラグメント(A2、A5)、スルフェン酸フラグメント(A3、A6)、又はチオールフラグメント(A4、A7)である。(B~C)SL1について静電スプレーで解析して、SIDエネルギーを0~50eVまで0.5eVずつ段階的に高めて、MSスペクトルをm/z 200と1000の間で記録した。各スキャンの全イオン電流に従ってイオン強度を正規化して、生じる強度を各荷電状態について観測される最大強度で割って、異なる存在度のイオンを同じY軸上にプロットすることを可能にした。(B)全長SL1に対応するイオンの荷電状態:z=1とz=2での相対強度。衝突エネルギーの増加に伴って、全長SL1が開裂する。(C)指定のSL1フラグメントに対応するイオンの相対強度。
【0140】
実施例2
非対称的な同重体質量タグ
以下の記載は、図面2に言及する。
【0141】
(A8)非対称的なスルホキシドリンカー:ASL1の化学構造。ASL1では、R1=デスチオビオチンで、R2:ペグ(peg)-ヨードアセトアミドである。ASL1のスルホキシド部位での開裂により3種のフラグメント:(A9)デスチオビオチンスルフェン酸フラグメント、(A10)デスチオビオチンチオールフラグメント、及び(A11)スルフヒドリルアルケンフラグメントが産生される。(B及びC)ASL1について静電スプレーで解析して、SIDエネルギーを0~100eVまで1eVずつ段階的に高めて、MSスペクトルをm/z 100と2500の間で記録した。各スキャンの全イオン電流に従ってイオン強度を正規化して、生じる強度を各荷電状態について観測される最大強度で割って、異なる存在度のイオンを同じY軸上にプロットすることを可能にした。(B)全長ASL1に対応するイオンの荷電状態:z=1とz=2での相対強度。衝突エネルギーの増加に伴って、全長ASL1が開裂する。(C)指定のASL1フラグメントに対応するイオンの相対強度。(D及びE)ASL1について静電スプレーで解析して、HCDエネルギーを0~100eVまで1eVずつ段階的に高めて、MSスペクトルをm/z 200と2500の間で記録した。各スキャンの全イオン電流に従ってイオン強度を正規化して、生じる強度を各荷電状態について観測される最大強度で割って、異なる存在度のイオンを同じY軸上にプロットすることを可能にした。(D)全長ASL1に対応するイオンの荷電状態:z=1とz=2での相対強度。衝突エネルギーの増加に伴って、全長ASL1が開裂する。(E)指定のASL1フラグメントに対応するイオンの相対強度。
【0142】
実施例3
変換率
以下の記載は、図面3に言及する。
【0143】
(A~C)SL1とASL1について静電スプレーで解析して、SIDエネルギーを0~100eVまで1eVずつ段階的に高めて、MSスペクトルをm/z 100と2500の間で記録した。イオン強度を各スキャンの全イオン電流によって正規化した。(A)R1部分のイオンについての、SID=0eVでのAIFスキャンにおける全SL1に対する、指定エネルギーでのAIFスキャンにおけるSL1フラグメントの正規化強度の比。0.1の変換率とは、そのリンカーの10%が開裂型として存在して、90%が全長イオンとして存在していることを示す。(B)R2部分のイオンについての、SID=0eVでのAIFスキャンにおける全SL1に対する、指定エネルギーでのAIFスキャンにおけるSL1フラグメントの正規化強度の比。(C)R1部分とR2部分のイオンについての、SID=0eVでのAIFスキャンにおける全ASL1に対する、指定エネルギーでのAIFスキャンにおけるASL1フラグメントの正規化強度の比。(D)ASL1について静電スプレーで解析して、HCDエネルギーを0~100eVまで1eVずつ段階的に高めて、MSスペクトルをm/z 200と2500の間で記録した。イオン強度を各スキャンの全イオン電流によって正規化した。R1部分とR2部分のイオンについての、SID=0eVでのAIFスキャンにおける全ASL1に対する、指定エネルギーでのAIFスキャンにおけるASL1フラグメントの正規化強度の比。
【0144】
実施例4
定量と同定の分離
以下の記載は、図面4に言及する。
【0145】
ASL1結合性ペプチドについてLC-MSで測定して、HCDセルを使用して、指定の正規化衝突エネルギー(NCE)でMS2スキャンを実施した。MS生データについて、MaxQuant ソフトウェアで解析した。各スキャンの全イオン電流に従って、イオン強度を正規化した。(A)同定された全ASL1結合性ペプチドの異なるNCEでのスコア。(B)開裂したASL1と全ASL1でのMS2スペクトルにおけるbイオンとyイオンのイオンカウント比。垂線は、メジアン値を示す。2の比は、全長ASL1より開裂性ASL1に対して2倍多いbイオンとyイオンが結合したことを示す。(C)開裂したASL1と全ASL1でのMS2スペクトルにおけるbイオンとyイオンのイオン強度比。垂線は、メジアン値を示す。2の比は、開裂性ASL1に対して結合したbイオンとyイオンが全長ASL1とのその対応相手より2倍強く結合していることを示す。
【0146】
実施例5
本発明のラベリング試薬
以下の記載は、図面5に言及する。
【0147】
(A)R1:同位体コード質量レポーター(TMT命名法に従うが、使用されない)とR2:同位体コード質量バランサー(質量レポーターに対応する)を含有するASL1と活性スクシンイミドエステル(ASL2)に基づく、同重体ラベリング戦略用の化学構造。このリンカーにより、3種の前駆分子が同一の質量を有して、断片化された分子が異なり質量を有する、三重化定量が可能になる。(B~E)ヒーラ(HeLa)ペプチドをASL2の軽いバージョン(すべてC12同位体)で標識した。(B)HCDを使用する多様な正規化衝突エネルギー(NCE)でのMS2スキャンにおける、ASL2標識化前駆イオン(非開裂性ペプチド骨格と非開裂性リンカー)の相補的前駆イオン(開裂性リンカーのある非開裂性ペプチド骨格)に対する変換比。この前駆イオンは、ペプチド骨格でのフラグメンテーションが無いままMS2スキャンのために単離されたペプチドに対応する。10%の変換比とは、この前駆イオンの10%が開裂性ASL2を含有して、その90%が全長ASL2を含有することを示す。(C)HCDを使用する多様なNCEでのMS2スキャンにおいて、全イオン電流(TIC)の%として表される、ASL2標識化前駆イオンの強度。(D)HCDを使用する多様なNCEでのMS2スキャンにおける、相補的ASL2標識化前駆イオンの強度。(E)HCDを使用する多様なNCEでのMS2スキャンにおいて、全イオン電流(TIC)の%として表される、相補的ASL2標識化前駆イオンの強度。
【0148】
実施例6
TMT質量タグとの比較
以下の記載は、図面6に言及する。
【0149】
(A~C)ヒーラ(HeLa)ペプチドを慣用のTMTデュプレックス(duplex)で標識した。HCDを使用する27の正規化衝突エネルギー(NCE)でのMS2スキャンにおける、TMT標識化前駆イオンの相補的前駆イオンに対する変換比。この前駆イオンは、ペプチド骨格でのフラグメンテーションが無いままMS2スキャンのために単離されたペプチドに対応する。10%の変換比とは、この前駆イオンの10%が開裂性ASL2を含有して、その90%が全長ASL2を含有することを示す。この前駆イオンは、ペプチド骨格でのフラグメンテーションが無いままMS2スキャンのために単離されたペプチドに対応する。(B)HCDを使用する27のNCEでのMS2スキャンにおいて、全イオン電流(TIC)の%として表される、相補的TMT標識化前駆イオンの強度。(C)HCDを使用する多様なNCEでのMS2スキャンにおいて、全イオン電流(TIC)の%として表される、TMT標識化前駆イオンの強度。
【0150】
実施例7
単離ウィンドウの最適化
以下の記載は、図面7に言及する。
【0151】
(A)二重荷電:z=2ペプチド分子種でのフルスキャン。(B)0.8Th単離ウィンドウでの単離、中心化。(C)三重荷電:z=3ペプチド分子種でのフルスキャン。(D)0.4Th単離ウィンドウでの単離、中心化。(E)三重荷電z=3ペプチド分子種でのフルスキャン。(F)0.4Th単離ウィンドウでの単離、-0.1Th補正。
【0152】
実施例8
以下の記載は、図面8に言及する。
(a)1:3:10の比で混合した(Va7)標識化酵母ペプチドの質量スペクトル。二重荷電前駆イオンのHCDフラグメンテーションにより、中性損失基が分離されて、ペプチド結合性レポーターイオンのクラスターを生じる。(b)前駆体質量の情報は、(Va7)標識ペプチドのペプチド結合性レポーターイオンにおいて保持される。色付きピークは、2種のプロテオーム実験(混合比:酵母では1:3:10、ヒトでは1:1:1)において同定された酵母ペプチド由来のペプチド結合性レポーターイオンを示す。灰色のピークは、同時単離ペプチド由来のペプチド結合性レポーターイオンである。(c)(重い同位体無しのVa7)とTMT-0で標識したヒーラ(HeLa)ペプチドを10と34の間の正規化衝突エネルギーで断片化した((Va7)についてN=17,565個の前駆体で、TMTについて20,610個の前駆体)。
【0153】
実施例9
以下の記載は、図面9に言及する。
(a)少なくとも2つのペプチド結合性レポーターチャネルで種々の強度シグナルを用いた、1つのプロテオーム/2つのプロテオーム実験におけるMS/MSスキャン。(b)ヒーラ(HeLa)バックグラウンドプロテオーム(1:1:1で混合)の非存在又は存在下に1:3:10の比で混合した酵母ペプチドの、単測LC-MS/MS実験において定量されたペプチド結合性レポーターイオン比(常用対数)(1:3の混合比ではN=7,419スキャンと3,055スキャン、そして1:10の混合比ではN=6,729スキャンと2,622スキャン)。(c)1:12:144の比で混合した酵母ペプチドの、単測LC-MS/MS実験において定量されたペプチド結合性レポーターイオン比(常用対数)(1:12の混合比ではN=6,606スキャン、そして1:144の混合比ではN=2,642スキャン)。(d)3連のLC-MS/MS測定において、混合した酵母/ヒーラの2プロテオームモデルの16種の高pH画分において全部で9,607のタンパク質群を同定した。この中で、9,471のタンパク質群を少なくとも2つのペプチド結合性レポーターチャネルにおいて種々の強度シグナルで定量した。(e)(d)より定量された酵母タンパク質群の比分布(常用対数)(1:3の混合比では、N=3,160、3,212、3,139、そして1:10の混合比では、N=3,022、3,059、2,990)。(f)少なくとも2回の反復実験において、同定されたタンパク質群の92%(8,881)を定量した。(g)(ASL2)で定量した、酵母とヒトのタンパク質群の順位付け存在度。(g)(ASL2)を用いた、酵母転写因子のような低存在性タンパク質の正確な定量。Kulak et al.20 より推定されるコピー数を括弧に示す。
【0154】
実施例10
以下の記載は、図面10に言及する。
(a)0.8Th(N=2,076)、1.0Th(N=2,070)、及び1.4Th(N=2,041)の単離幅での単離ウィンドウ補正の関数としての、モノアイソトピック前駆イオンに対するM+1同位体ピークのメジアン存在度。(b)上記のように、0.8Thの単離幅について、二重荷電前駆イオン(N=1,476)だけを図示する。(c)パネルcにあるように、三重荷電前駆体(N=284)だけを図示する。誤差のバーは、+/-四分位範囲を示す。この統計からは、0強度値を除外した。
【0155】
実施例11
以下の記載は、図面11に言及する。
(a)(Va7)で標識したヒーラ(HeLa)ペプチドと、TMT-0で標識したヒーラ(HeLa)ペプチドを10と34の間の正規化衝突エネルギーで断片化した。ペプチド骨格フラグメンテーションに対する化合物フラグメンテーションの差としてΔNCEを計算した((Va7)ではN=6,523、そしてTMT-0ではN=13,067の前駆体)。化合物フラグメンテーション(化合物変換とも呼ばれる)のNCEは、化合物が少なくとも30%断片化される最小NCEとして定義した。ペプチド結合性レポーターイオン(非断片化ペプチドへ結合した断片化化合物)の強度をインタクト化合物と断片化化合物にある前駆イオン(非断片化ペプチド)の総計強度で割ることによって、化合物フラグメンテーションを計算した。化合物フラグメンテーションが30%に達しなければ、化合物フラグメンテーションのNCEは、最大の化合物フラグメンテーションのNCEとして定義した。ペプチド骨格フラグメンテーション(ペプチド骨格変換とも呼ばれる)のNCEは、すべてのフラグメントイオン(bイオンとyイオン)の合計がペプチドフラグメントとペプチド前駆イオン(bイオンとyイオン、及び前駆イオン)の総計強度の30%に達するときのNCEとして定義した。ペプチド骨格フラグメンテーションが30%より上に達しなければ、ペプチド骨格フラグメンテーションのNCEは、ペプチド骨格フラグメンテーションがその最大に達するときのNCEとして定義した。NCE10又はNCE34でのペプチド骨格フラグメンテーションのNCEでの前駆体、又は荷電状態が2未満又は3より高い前駆体は、解析から除外した。
【0156】
実施例12
以下の記載は、図面12に言及する。
(a)酵母(混合比1:3:10)とヒト(混合比1:1:1)のペプチド(上パネルのヒト/酵母ではN=198,307/122,335で、下パネルのヒト/酵母ではN=197,939/101,496)のMS/MSスキャンにおけるペプチド結合性レポーターイオン比の分布(常用対数)。(b)3連注入における、(ASL2)標識化されて定量された酵母とヒトのタンパク質群の変動係数分布(酵母とヒトではN=8856/8705で、酵母ではN=3287/3152)。
【0157】
実施例13
以下の記載は、図面13に言及する。
(a)ヒーラ(HeLa)プロテオームをASL2で標識して、1:1:1(チャネル1:チャネル2:チャネル3)の比で混合した。チャネル3でのシグナル強度を他のチャネルでの強度で割ることによって、個々のヒーラペプチドの比を計算した。レポーターイオン(即ち、中性損失のある前駆イオン)だけを使用すること、又は中性損失のあるすべてのフラグメントイオンからの定量情報を考慮することのいずれかによって比を計算した。(b)各チャネルと定量の方法について変動係数(CV)を計算した。CVは、多数のフラグメントイオンからの定量情報を使用することによって抑えられる。
【0158】
実施例14
以下の記載は、図面14に言及する。
(a)ヒーラ(HeLa)プロテオームをASL2で標識して、1:3:10(チャネル1:チャネル2:チャネル3)の比で混合した。チャネル3でのシグナル強度を他のチャネルでの強度で割ることによって、個々のヒーラペプチドの比を計算した。レポーターイオン(即ち、中性損失のある前駆イオン)だけを使用すること、又は中性損失のあるすべてのフラグメントイオンからの定量情報を考慮することのいずれかによって比を計算した。(b)各チャネルと定量の方法について変動係数(CV)を計算した。CVは、多数のフラグメントイオンからの定量情報を使用することによって抑えられる。
【0159】
実施例15
以下の記載は、図面15に言及する。
(a)(Va7、非標識三重)-標識ヒーラ(HeLa)ペプチドを10と34の間の正規化衝突エネルギーで断片化した。ペプチド結合性レポーターイオン(非断片化ペプチドへ結合した断片化化合物)の強度をインタクト化合物と断片化化合物にある前駆イオン(非断片化ペプチド)の総計強度で割ることによって、化合物フラグメンテーション(化合物変換とも呼ばれる)の百分率を計算した。ペプチド骨格フラグメンテーション(ペプチド骨格変換とも呼ばれる)の百分率は、すべてのフラグメントイオン(インタクト化合物と断片化化合物のbイオンとyイオン)の合計をペプチドフラグメントイオンとペプチド前駆イオンの総計強度(インタクト化合物と断片化化合物のb及びyイオンと前駆イオンの総計強度)で割ることによって計算した。NCE10又はNCE34でのペプチド骨格フラグメンテーション(実施例11を参照のこと)のNCEでの前駆体、又は荷電状態が2未満又は3より高い前駆体は、解析から除外した(化合物フラグメンテーションではN=6,509の前駆体で、ペプチド骨格フラグメンテーションではN=6,511の前駆体)。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15