(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】記憶および認知を改善する、ならびに記憶および認知障害を処置するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/44 20060101AFI20230728BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230728BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
A61K31/44
A61P25/28
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2019558399
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(86)【国際出願番号】 US2018029616
(87)【国際公開番号】W WO2018200850
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-22
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517169735
【氏名又は名称】カビオン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Cavion, Inc.
【住所又は居所原語表記】600 East Water Street, Suite E, Charlottesville, VA 22902, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】マリシック,ユリ
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-533020(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0044924(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0137403(US,A1)
【文献】特表2011-518860(JP,A)
【文献】特表2009-534320(JP,A)
【文献】Neurobiol. Dis. (2016) vol.94, p.106-115
【文献】Learn. Mem. (1999) vol.6, no.5, p.399-416
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/44
A61P 25/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶および/または認知を改善するために処置することを必要とする対象において記憶および/または認知を改善するために処置する方法で用いるための医薬組成物であって、
前記処置は、対象において長期増強を増加させ、前記医薬組成物は、T型カルシウムチャネルアンタゴニストを含み、前記方法が、それを必要とする前記対象に治療有効量のT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含み、前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、MK-8998:
【化1】
またはその薬学的に許容できる塩である、医薬組成物。
【請求項2】
前記処置が前記対象において認知を改善する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記処置が前記対象において記憶を改善する、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記処置が認知障害を対象とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記処置が記憶障害を対象とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記処置が、認知および/または記憶機能に影響を与える障害を対象とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記認知および/または記憶機能に影響を与える障害が、不安障害、気分障害および精神病性障害から選択される、請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記方法が、前記対象に更なる治療薬を投与することを更に含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記更なる治療薬が更なるT型カルシウムチャネル阻害剤である、請求項
8に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年4月26日出願の米国仮出願第62/490,377号の利益を主張する。先行出願の開示は、本出願の開示の一部とみなされる(参照により組み込まれる)。
【0002】
技術分野
本開示は、医薬化合物を投与することによる疾患の処置に関する。特に、本開示は、T型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することにより、記憶もしくは認知を改善するため、または記憶もしくは認知障害を処置するため、または疾患もしくは状態の認知症状を処置するための処置に関する。
【0003】
背景
T型カルシウムチャネルは膜脱分極の間に開口する低電圧活性化型カルシウムチャネルであり、活動電位または脱分極シグナル後に細胞へのカルシウム流入を媒介する。心筋および平滑筋内に存在することが知られているT型カルシウムチャネルは、更に、中枢神経系内の多くのニューロン細胞にも存在する。T型カルシウムチャネル(一過性開口型カルシウムチャネル)は、より陰性側の膜電位によって活性化される能力、それらの単一チャネルコンダクタンスの小ささ、および、L型カルシウムチャネルを標的とする従来のカルシウムチャネルアンタゴニスト薬に対するそれらの非反応性により、L型カルシウムチャネル(長時間作用性カルシウムチャネル)とは異なっている。
【0004】
T型カルシウムチャネルは、小規模な膜脱分極の後で開口する。T型カルシウムチャネルは、主にニューロンおよび心筋細胞の機能に関連して研究されており、癲癇や心機能不全などの過興奮性障害との関係が知られている。電位開口型カルシウムチャネルは、非興奮性細胞では一般的に発現しないが、T型カルシウムチャネルが非興奮性系列の癌細胞で発現することを示す証拠が存在する。
【0005】
T型カルシウムチャネルは、小規模な膜脱分極により活性化、不活性化され、また遅い非活性化速度を示す。ゆえに、これらのチャネルは低膜電位で脱分極電流を担い、細胞の「ウインドウ」電流(window current)を媒介することができるが、この電流は低膜電位または静止膜電位における、活性化と定常状態不活性化との間での電圧の重なり範囲内で生じる。T型カルシウムチャネルは、ウインドウ電流を非刺激または静止膜電位に維持することができ、それにより、不活性化されない一部のチャネルによる持続的なカルシウム内向き流を可能にする。ウインドウ電流の媒介により、非刺激または静止細胞条件下で、ニューロンなどの電気的な発火細胞および非興奮性組織の両方における、T型カルシウムチャネルによる細胞内カルシウムレベルの制御が可能となる。
【0006】
電位開口型カルシウムチャネルは、幾つかのサブユニットから構成される。α1サブユニットは、チャネルの膜貫通孔を形成する主なサブユニットである。α1サブユニットはまた、カルシウムチャネルのタイプを決定する。あるタイプのカルシウムチャネルのみに存在するβ、α2δおよびγサブユニットは、チャネルにおける第2の役割を果たす補助サブユニットである。α1サブユニットは4つのドメイン(I~IV)から構成され、各ドメインが6つの膜貫通部分(S1~S6)を含み、各ドメインのS5およびS6セグメント間の疎水性ループがチャネルの孔を形成する。T型カルシウムチャネルのサブタイプは、表1に示すような特定のα1サブユニットによって定義される。
【0007】
【0008】
認知は、思考、経験および感覚によって知識および理解を取得する精神活動または過程である。認知は、知識、注意、記憶および作業記憶、判断および評価、理由付けおよび計算、問題解決および意思決定、言語の理解および生成などの過程を包含する。心理学では、この用語は、記憶、関連付け、概念の形成、パターン認識、言語、注意、知覚、行動、問題解決および心的イメージなどの過程に適用するために使用される。神経認知機能は、細胞分子レベルで神経マトリックスの脳基質層における特定の区域、神経経路または皮質ネットワークの機能に密接に関連している。認知は、認知症によって重度の損傷を受ける。
【0009】
記憶は心の機能(faculty of the mind)であり、それによって情報がコード化、保存および検索される。短期記憶は、少量の情報を活性で容易に利用可能な状態で心の中に短時間保持する能力であって、操作する能力ではない。作業記憶は、コード化および検索プロセッサとして機能する。刺激の形態の情報は、作業記憶プロセッサによる明示的または暗示的機能に従ってコード化される。作業記憶は、また、以前に保存された材料から情報を検索する。最後に、長期記憶の機能は、様々な分類モデルまたは系統を通してデータを保存することである。
【0010】
長期増強(LTP)は、最近の活動パターンに基づいたシナプスの持続的な強化である。これらは、2つのニューロンの間のシグナル伝達に長期増加を生じるシナプス活性パターンである。長期増強は、シナプス可塑性の基礎になっている幾つかの現象のうちの1つであり、化学シナプスが強度を変化する能力である。記憶はシナプス強度の変更によってコード化されると考えられるので、LTPは、学習および記憶の基礎となる主要な細胞機構の1つと広く考慮されている。
【0011】
認知障害は、主に学習、記憶、知覚および問題解決に影響を及ぼす精神保健障害の分類にあり、健忘症、認知症およびせん妄が挙げられる。
【0012】
せん妄は、そのように診断された人にとって状況を認識すること、および新たな情報を処理することが非常に困難になる障害である。せん妄は、注意の変化、気分変動、暴力的または普通でない行動、ならびに幻覚を伴うこともある。せん妄は、以前の医学的状態の悪化、投薬または薬物の乱用、アルコールまたは薬物離脱、精神の病気、激痛、運動抑制、断眠および催眠によって引き起こされることがある。
【0013】
認知症は、患者の記憶を部分的に、または全て消し去る遺伝性または外傷誘発性障害として知られている。認知症は、遺伝、脳外傷、卒中および心臓の問題などの多数の原因を有することがある。認知症を引き起こす疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病が挙げられる。
【0014】
健忘症患者は、長期記憶を保有することが困難である。前向性健忘症は、長期記憶にコード化された、またはコード化されている過程の記憶が消し去られる現象を指す。健忘症は、脳振盪、外傷性脳傷害、外傷後ストレスおよびアルコール依存症によって引き起こされる可能性があり、これらは、海馬などの脳の主要な記憶コード化部分に損傷を引き起こすことがある。
【0015】
認知障害には、認知および記憶機能に影響を与える不安障害、気分障害および精神病性障害に頻繁に関連している認知症状も挙げることができるが、これらの状態は、認知機能の損失が主な原因症状ではないので、それ自体認知障害と考慮されない場合もありうる。
【0016】
記憶障害は、多くの場合に神経解剖学的構造への損傷の結果としてもたらされる、記憶の保存、保有および想起に対する妨害を特徴とする障害である。記憶障害は進行性でありえ、アルツハイマー病が挙げられる、または即時型でありえ、脳傷害によってもたらされる障害が挙げられる。
【0017】
認知または記憶を改善できる幾つかの処置が利用可能であるが、特に特定の状態または障害の場合に、利用可能な処置は、限定された有効性および/または限定された用途を有し、副作用を特徴とする。したがって、認知または記憶を改善する、あるいは認知障害、記憶障害、または認知および記憶機能に影響を与える不安障害、気分障害もしくは精神病性障害などの障害の認知症状を処置する、新たな処置の必要性が存在する。
【0018】
概要
本開示は、T型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することにより、記憶もしくは認知を改善するため、または記憶もしくは認知障害を処置するため、または疾患もしくは状態の認知症状を処置するための処置に関する。方法は、かかる処置を必要とする対象に治療有効量のT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む。認知および/または記憶を改善する処置のためにT型カルシウムチャネルアンタゴニストを使用することも、提供される。本開示は、記憶を改善する処置のための医薬の製造におけるT型カルシウムチャネルアンタゴニストの使用も提供する。
【0019】
幾つかの実施形態では、処置は、対象において認知を改善する。
【0020】
幾つかの実施形態では、処置は、対象において記憶を改善する。
【0021】
幾つかの実施形態では、処置は、認知障害を対象とする。
【0022】
幾つかの実施形態では、処置は、記憶障害を対象とする。
【0023】
幾つかの実施形態では、処置は、加齢性認知機能障害、失認症、健忘症、健忘障害、筋萎縮性側索硬化症、アンジェルマン症候群、アスペルガー症候群、注意欠陥障害、注意欠陥/活動過多障害(ADHD)、自閉症、脳アミロイド血管症、認知機能不全、アルコールまたは薬物が原因の認知機能障害、せん妄、認知症、AIDS関連認知症、アルコール性認知症、アルツハイマー病、大脳外傷に関連する認知症、クロイツフェルトヤコブ病および他のプリオン誘発性認知症、変性認知症、ハンチントン病、頭蓋内腫瘍に関連する認知症、レビー小体病、多発脳梗塞性認知症、パーキンソン病、パーキンソン病様ALS認知症複合(Parkinsonian-ALS demential complex)、ピック病、物質誘発性持続性認知症、血管性認知症、ドラベ症候群、頭部外傷、虚血、学習障害、学習機能障害、記憶機能障害、記憶喪失、精神遅滞、軽度認知機能障害、外傷性ストレス障害、プラダー・ウィリー症候群、進行性核上性麻痺、卒中、外傷性脳傷害、トリソミー(21番染色体トリソミー(ダウン症候群)を含む)、およびウェルニッケ・コルサコフ症候群からなる群から選択される状態を対象とする。
【0024】
幾つかの実施形態では、処置は、認知および/または記憶機能に影響を与える障害を対象とする。幾つかの実施形態では、認知および/または記憶機能に影響を与える障害は、不安障害、気分障害および精神病性障害から選択される。
【0025】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである。
【0026】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、L型カルシウムチャネルよりもT型カルシウムチャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである。
【0027】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは小分子である。
【0028】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは抗体である。
【0029】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはsiRNAである。
【0030】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCaV3.1を選択的に標的とする。
【0031】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCaV3.2を選択的に標的とする。
【0032】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCaV3.3を選択的に標的とする。
【0033】
幾つかの実施形態では、細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば約-40mVであるとき、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、細胞でT型カルシウムチャネルをアンタゴナイズする。
【0034】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ミベフラジル、MK-8998、ジルチアゼム、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニモジピン、ニルジピン、ニグルジピン、ニカルジピン、ニソルジピン、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、リオシジン、ガロパミル、ベラパミル、チアパミル、ピモジド、チオリダジン、NNC55-0396、TTL-1177、アナンダミド、ピモジド、ペンフルリドール、クロピモジド、フルスピリレン、ハロペリドール、ドロペリドール、ベンペリドール、トリペリドール、メルペロン、レンペロン、アザペロン、ドンペリドン、アントラフェニン、アリピペラゾール、シプロフロキサシン、ダピプラゾール、ドロプロピジン、エトペリドン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、レボドロプロピジン、メピプラゾール、ナフトピジル、ネファゾドン、ニアプラジン、オキシペルチン、ポサコナゾール、トラゾドン、ウラピジル、ベスナリノン、マニジピン、ニルバジピン、ベニジピン、エホニジピン、フルナリジン、アナンダミド、ロメリジン、ゾニサミド、U-92032、テトラロール(tetralol)、ミベフラジル、NNC55-0396、TTA-A2、TTA-A8、TTA-P1、4-アミノメチル-4-フルオロピペリジン(TTA-P2)、TTA-Q3、TTA-Q6、MK-5395、MK-6526、MK-8998、Z941、Z944、フェンスクシミド、メスクシミド(mesuximide)、デスメチルメトスクシミド(desmethylmethsuximide)、エホニジピン、トリメタジオン、ジメタジオン、ABT-639、TTL-1177、KYSO5044、ニッケルおよびクルトキシン(kurtoxin)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0035】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、TTA-A2である。
【0036】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、血液脳関門を実質的に通過する。
【0037】
幾つかの実施形態において、処置は、対象に更なる治療薬を投与することを更に含む。
【0038】
幾つかの実施形態において、更なる治療薬は、更なるT型カルシウムチャネル阻害剤である。
【0039】
本明細書に記載のものと類似するかまたは同等の方法および材料が、本発明の実施または試験に使用できるが、適切な方法および材料については後述する。本明細書に記載の全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照によりそれらの全開示内容が組み込まれる。参考文献の最初のページ番号のみが引用される場合には、その参照はその文献の全ページに及ぶことを理解すべきである。不一致が生じた場合には、定義を含め、本明細書が優先する。更に、材料、方法および実施例は例示のみを目的とし、限定を目的とするものではない。
【0040】
本発明の他の特徴および効果は、以下の詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】ビヒクルだけで処置された認知欠乏マウス(AS)が対照マウスと比較してLTP欠陥を有したが、MK-8998(「CX」)を30mg/kgまたは60mg/kgで投与すると、ASマウスのLTP欠陥を、ビヒクルで処置した対照(wt)マウスで観察されたものと同様のレベルまで完全に戻したことを示すプロットである。
【0042】
詳細な説明
本開示は、T型電位開口型カルシウムチャネルがドラベ症候群(すなわち、乳児重症ミオクロニー癲癇;SMEI)に関与していることを記載する。本開示は、かかるT型電位開口型カルシウムチャネルの調節がドラベ症候群の処置に有効でありうることを更に記載する。
【0043】
I.定義
特に定義されない限り、本明細書で用いられる全ての専門および科学用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。
【0044】
「例えば」および「~など」の用語ならびにその文法的に同等の用語については、特に明確に記載されない限り、「限定されないが」のフレーズが後に続くものと解釈される。
【0045】
単数形の「1つの」(a/anおよびthe)には、特に明記されない限りその複数形が包含される。
【0046】
「約」という用語は、「およそ」(例えば、示される数値のプラスマイナスおよそ10%)を意味する。
【0047】
「小分子」という用語は、約1000またはそれ未満の分子量の有機化合物を意味する。
【0048】
処置の対象としての「対象」という用語は、例えばヒトなどの哺乳動物を含むあらゆる動物を意味する。
【0049】
「治療有効量」というフレーズは、研究者、獣医師、医師または他の臨床医により、組織、系、動物、個体またはヒトにおいて検討される生物学的または医薬的反応を誘発する活性化合物または医薬品の量を指す。
【0050】
「処置すること」または「処置」という用語は、(1)疾患を予防すること;例えば、疾患、状態または障害の体質を有しうるが、疾患の病理または症候を未だ経験しないかまたは示さない個体において当該疾患、状態または障害を予防すること;(2)疾患を阻害すること;例えば、疾患、状態または障害の病理または症候を経験しているかまたは示している個体において、当該疾患、状態または障害を阻害すること(すなわち、病理および/または症候の更なる進行を抑制すること);ならびに(3)疾患を改善すること;例えば疾患、状態または障害の病理または症候を経験しているかまたは示している個体において、疾患の重症度を低下させるか、または疾患の1つもしくは複数の症状を低減もしくは軽減することなど、当該疾患、状態または障害を改善すること(すなわち、病理および/または症候を好転させること)の1つまたは複数を指す。
【0051】
「T型カルシウムチャネルアンタゴニスト」という用語は、例えば、チャネルへの結合、またはさもなければその活性の阻害もしくはブロックを通じて、あるいはT型カルシウムチャネルの発現を低下させることを通じて、T型カルシウムチャネルの活性を低下させる物質を指す。
【0052】
「薬学的に許容できる」というフレーズは、本明細書では、堅実な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答または他の問題もしくは合併症がなく、妥当な利益/危険率に相応する、ヒトおよび動物の組織に接触させる使用に適する化合物、材料、組成物および/または剤形を指すものとして用いられる。
【0053】
念のために述べると、別々の実施形態の文脈において記載される本発明の特定の特徴は、1つの実施形態中において組合せでも提供されうると認められる。言い換えると、簡潔に述べると、1つの実施形態の文脈で記載される本発明の様々な特徴は、別々に、またはいかなる適切なサブコンビネーションにおいても提供できる。
【0054】
以下の略語および記号が、本発明の開示において用いられる場合がある:DNA(デオキシリボ核酸);dsRNA(二本鎖RNA);g(グラム);IC50(最大に対する半数阻害濃度);kg(キログラム);mg(ミリグラム);mRNA(メッセンジャーRNA);RNA(リボ核酸);RNAi(RNA干渉);siRNA(小分子干渉RNA);wt(重量)。
【0055】
II.処置方法
本開示は、認知を改善する、記憶を改善する、認知障害を処置する、記憶障害を処置する、認知および/または記憶機能に影響を与える障害の認知症状を処置する方法を提供する。幾つかの実施形態では、方法は、処置を必要とする対象に、治療有効量の、本明細書に記載されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む。処置の対象には、マウス、ラット、他の齧歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、霊長類、およびヒトを挙げることができる。幾つかの実施態様において、対象はヒトである。
【0056】
本開示は、認知を改善する方法を提供する。幾つかの実施形態では、方法は、処置を必要とする対象に、治療有効量の、本明細書に記載されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む。
【0057】
本開示は、記憶を改善する方法を提供する。幾つかの実施形態では、方法は、処置を必要とする対象に、治療有効量の、本明細書に記載されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む。
【0058】
本開示は、認知障害を処置する方法を提供する。幾つかの実施形態では、方法は、処置を必要とする対象に、治療有効量の、本明細書に記載のT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む。幾つかの実施形態では、認知障害は、発達性認知障害または神経認知障害でありうる。
【0059】
本開示は、記憶障害を処置する方法を提供する。幾つかの実施形態では、方法は、処置を必要とする対象に、治療有効量の、本明細書に記載されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む。
【0060】
本開示は、認知および/または記憶機能に影響を与える障害の認知症状を処置する方法を提供する。認知および/または記憶機能に影響を与える障害には、不安障害、気分障害および精神病性障害が挙げられる。幾つかの実施形態では、方法は、処置を必要とする対象に、治療有効量の、本明細書に記載されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む。
【0061】
幾つかの実施形態では、処置は、対象において認知を改善する。
【0062】
幾つかの実施形態では、処置は、対象において記憶を改善する。幾つかの実施形態では、処置は、対象において短期記憶を改善する。幾つかの実施形態では、処置は、対象において作業記憶を改善する。幾つかの実施形態では、処置は、対象において長期記憶を改善する。幾つかの実施形態では、処置は、対象において長期増強を増加させる。
【0063】
幾つかの実施形態では、認知障害、記憶障害、発達性認知障害、神経認知障害、または認知および/もしくは記憶機能に影響を与える障害(不安障害、気分障害および精神病性障害を含む)は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition ("DSM 5"). Edited by American Psychiatric Association (2013)に記載されている基準によって定義されたものでありうる。
【0064】
幾つかの実施形態では、認知障害および記憶障害には、加齢性認知機能障害、失認症、健忘症、健忘障害、筋萎縮性側索硬化症、アンジェルマン症候群、アスペルガー症候群、注意欠陥障害、注意欠陥/活動過多障害(ADHD)、自閉症、脳アミロイド血管症、認知機能不全、アルコールまたは薬物が原因の認知機能障害、せん妄、認知症(AIDS関連認知症、アルコール性認知症、アルツハイマー病(初期、中期または後期アルツハイマー病を含む)、大脳外傷に関連する認知症、クロイツフェルトヤコブ病および他のプリオン誘発性認知症、変性認知症、ハンチントン病、頭蓋内腫瘍に関連する認知症、レビー小体病、多発脳梗塞性認知症、パーキンソン病、パーキンソン病様ALS認知症複合、ピック病、物質誘発性持続性認知症、血管性認知症を含む)、ドラベ症候群、頭部外傷、虚血、学習障害、学習機能障害、記憶機能障害、記憶喪失、精神遅滞、軽度認知機能障害、外傷性ストレス障害、プラダー・ウィリー症候群、進行性核上性麻痺、卒中、外傷性脳傷害、トリソミー(21番染色体トリソミー(ダウン症候群)を含む)、およびウェルニッケ・コルサコフ症候群を挙げることができる。
【0065】
幾つかの実施形態では、認知および/または記憶機能に影響を与える障害には、不安障害、気分障害および精神病性障害を挙げることができる。不安障害には、全般不安症、恐怖症、パニック障害、広場恐怖症、社交不安障害、外傷後ストレス障害、分離不安障害、場面不安症(situational anxiety)、強迫性障害および選択性緘黙症(selective mutism)が挙げられる。気分障害には、うつ病性障害(例えば、大うつ病性障害、うつ病性障害、非定型うつ病、メランコリー型うつ病(melancholic depression)、精神病性大うつ病(psychotic major depression)、緊張病性うつ病(catatonic depression)、産後うつ病、季節性感情障害、気分変調症、重複うつ病(double depression)、特定不能のうつ病性障害(depressive disorder not otherwise specified)、抑うつ性パーソナリティ障害(depressive personality disorder)、反復性短期うつ病(recurrent brief depression)および小うつ病性障害(minor depressive disorder))、双極性障害(例えば、双極性障害、双極I型、双極II型、気分循環症、特定不能の双極性障害)、ならびに物質誘発性気分障害(例えば、アルコール誘発性またはベンゾジアゼピン誘発性)が挙げられる。精神病性障害には、統合失調症、統合失調症様障害、統合失調感情性障害、短期精神病性障害、妄想性障害または慢性幻覚性精神病が挙げられる。
【0066】
認知および/または記憶機能に影響を与えうる障害には、統合失調症を挙げることができる。認知能力の欠陥が、統合失調症の中心的な特徴であると広く認識されている。認知機能に影響を与える欠陥には、作業記憶、長期記憶、言語陳述記憶(verbal declarative memory)、意味処理、エピソード記憶、注意および学習(特に、言語学習)における欠陥を挙げることができる。
【0067】
処置は、特定の化合物を有効用量で投与することにより実施できる。ヒトにおける適切な用量の例としては、約1mgから約2000mg、例えば、約1mgから約2000mg、約2mgから約2000mg、約5mgから約2000mg、約10mgから約2000mg、約20mgから約2000mg、約50mgから約2000mg、約100mgから約2000mg、約150mgから約2000mg、約200mgから約2000mg、約250mgから約2000mg、約300mgから約2000mg、約400mgから約2000mg、約500mgから約2000mg、約1000mgから約2000mg、約1mgから約1000mg、約2mgから約1000mg、約5mgから約1000mg、約10mgから約1000mg、約20mgから約1000mg、約50mgから約1000mg、約100mgから約1000mg、約150mgから約1000mg、約200mgから約1000mg、約250mgから約1000mg、約300mgから約1000mg、約400mgから約1000mg、約500mgから約1000mg、約1mgから約500mg、約2mgから約500mg、約5mgから約500mg、約10mgから約500mg、約20mgから約500mg、約50mgから約500mg、約100mgから約500mg、約150mgから約500mg、約200mgから約500mg、約1mgから約250mg、約2mgから約250mg、約5mgから約250mg、約10mgから約250mg、約20mgから約250mg、約50mgから約250mg、約100mgから約250mg、約1mgから約100mg、約2mgから約100mg、約5mgから約100mg、約10mgから約100mg、約20mgから約100mg、約50mgから約100mgの投与量範囲が挙げられる。用量は、例えば約1mg、約2mg、約5mg、約10mg、約20mg、約50mg、約100mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約400mg、約500mg、約1000mg、約1500mgまたは約2000mgでありうる。用量は、約2000mg未満、約1500mg未満、約1000mg未満、約5000mg未満、約400mg未満、約250mg未満、約200mg未満、約150mg未満、約100mg未満、約50mg未満、約20mgまたは約10mg未満でありうる。各用量は、1日1回、1日2回、1日3回もしくは1日4回、または1日1回未満の周期で投与される用量でありうる。各用量はまた、小児患者への投与用と同等の(スケールの)用量を、成人に投与する用量であってもよい。
【0068】
用量は、約100ng/mL、約200ng/mL、500ng/mL、約1μg/mL、約2μg/mL、約5μg/mL、約10μg/mL、約20μg/mL、約50μg/mL、約100μg/mL、約200μg/mL、約250μg/mL、もしくは約500μg/mL、約1000μg/mL、または、これらの数値間の範囲、またはそれはこれらの数値より少ない濃度の血漿中レベル(例えば定常状態または最大レベル)を提供する用量でありうる。
【0069】
幾つかの実施形態では、処置は約1週間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約2週間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約3週間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約4週間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約8週間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約12週間、もしくは約13週間、またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約24週間、もしくは約26週間、またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約6カ月間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約12カ月間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約18カ月間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約24カ月間またはそれよりも長く継続される。
【0070】
III.T型カルシウムチャネルアンタゴニスト
本明細書に記載の方法のいずれか、またはその実施形態のいずれかで用いられるT型カルシウムチャネルアンタゴニストは、後述するT型カルシウムチャネルアンタゴニストの1つまたは複数でありうる。
【0071】
T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、処置される対象がヒトであるとき、ヒトT型カルシウムチャネルのアンタゴニストでありうる。
【0072】
T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、小分子でありうる。本発明で提供される方法で用いられうる小分子のT型カルシウムチャネルアンタゴニストの例としては、限定されないが、ミベフラジル、ジルチアゼム、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニモジピン、ニルジピン、ニグルジピン、ニカルジピン、ニソルジピン、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、リオシジン、ガロパミル、ベラパミル、チアパミル、ピモジド、チオリダジン、NNC55-0396、TTL-1177、アナンダミド、ベンザゼピン誘導体、ジフェニルブチルピペリジン誘導体(例えばピモジド、ペンフルリドール、クロピモジドおよびフルスピリレン)、ブチロフェノン誘導体(例えばハロペリドール、ドロペリドール、ベンペリドール、トリペリドール、メルペロン、レンペロン、アザペロンおよびドンペリドン)、およびフェニルピペラジン誘導体(例えばアントラフェニン、アリピプラゾール、シプロフロキサシン、ダピプラゾール、ドロプロピジン、エトペリドン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、レボドロプロピジン、メピプラゾール、ナフトピジル、ネファゾドン、ニアプラジン、オキシペルチン、ポサコナゾール、トラゾドン、ウラピジルおよびベスナリノン)、ジヒドロピリジン誘導体(例えばマニジピン、ニルバジピン、ベニジピンおよびエホニジピン)、フルナリジン、アナンダミド、ロメリジン、ゾニサミド、U-92032、テトラロール、テトラロール誘導体(例えばミベフラジル)、ミベフラジル誘導体(例えばNNC55-0396ジヒドロクロライド)、TTA-A2、TTA-A8、TTA-P1、4-アミノメチル-4-フルオロピペリジン(TTA-P2)、TTA-Q3、TTA-Q6、MK-5395、MK-6526、MK-8998、Z941、Z944、スクシンイミド鎮痙剤の誘導体(例えばエトスクシミド、フェンスクシミドおよびメトスクシミドとしても知られているメスクシミド、(α)-メチル-(α)-フェニル-スクシンイミドとしても知られているN-デスメチルメトスクシミド)、およびエホニジピン(例えば(R)-エホニジピン)、トリメタジオン、ジメタジオン、ABT-639、TTL-1177、KYSO5044、クルトキシンが挙げられる。T型カルシウムチャネル阻害剤のいずれも、薬学的に許容できる塩の形態とすることができる。代表的なT型カルシウムチャネル阻害剤の構造を以下に示す。
【0073】
【0074】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネル小分子アンタゴニストは、Giordanetto et al, "T-type calcium channels inhibitors: a patent review," Expert Opin. Ther. Pat., 2011, 21, 85-101に列記される、各々の全内容が参照により組み込まれる特許明細書および特許出願公開明細書、例えば国際公開第2004/035000号パンフレット、国際公開第93/04047号パンフレット、国際公開第2006/098969号パンフレット、国際公開第2009/009015号パンフレット、国際公開第2007/002361号パンフレット、国際公開第2007/002884号パンフレット、国際公開第2007/120729号パンフレット、国際公開第2009/054982号パンフレット、国際公開第2009/054983号パンフレット、国際公開第2009/054984号パンフレット、米国特許出願公開第2009/0270413号明細書、国際公開第2008/110008号パンフレット、国際公開第2009/146539号パンフレット、国際公開第2009/146540号パンフレット、米国特許第8133998号明細書、国際公開第2010/083264号パンフレット、国際公開第2006/023881号パンフレット、国際公開第2006/023883号パンフレット、国際公開第2005/007124号パンフレット、国際公開第2005/009392号パンフレット、米国特許出願公開第2005/245535号明細書、国際公開第2007/073497号パンフレット、国際公開第2007/07852号パンフレット、国際公開第2008/033447号パンフレット、国際公開第2008/033456号パンフレット、国際公開第2008/033460号パンフレット、国際公開第2008/033464号パンフレット、国際公開第2008/033465号パンフレット、国際公開第2008/050200号パンフレット、国際公開第2008/117148号パンフレット、国際公開第2009/056934号パンフレット、欧州特許第1568695号明細書、国際公開第2008/007835号パンフレット、韓国特許第754325号明細書、米国特許第7319098号明細書、米国特許出願公開第2010/0004286号明細書、欧州特許第1757590号明細書、韓国特許出願公開第2009/044924号明細書、米国特許出願公開第2010/094006号明細書、国際公開第2009/035307号パンフレット、米国特許出願公開第2009/0325979号明細書、韓国特許第75758317号明細書、国際公開第2008/018655号パンフレット、米国特許出願公開第2008/0293786号明細書および米国特許出願公開第2010/0056545号明細書などに記載されたものからなる群から選択されうる。
【0075】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは小分子である。幾つかの実施形態では、小分子は1000もしくはそれ未満の分子量、例えば約900もしくはそれ未満、約800もしくはそれ未満、約700もしくはそれ未満、約600もしくはそれ未満、約500もしくはそれ未満、約400もしくはそれ未満の分子量、または、約100から約500、約200から約500、約200から約400、約300から約400もしくは約300から約500の範囲の分子量を有する。
【0076】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、選択的なT型カルシウムチャネルアンタゴニストである。本文脈における「選択的」とは、T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、L型、N型、P型、Q型および/またはR型カルシウムチャネルのいずれか1つまたは複数などの、他のタイプのカルシウムチャネル、例えばL型カルシウムチャネルと比較し、より強力にT型カルシウムチャネルをアンタゴナイズすることを意味する。選択性は、例えば、T型カルシウムチャネルを阻害する際の化合物のIC50を、他のタイプのカルシウムチャネルを阻害する際のIC50と比較することにより測定でき、T型チャネルを阻害するためのIC50が他のタイプのカルシウムチャネルを阻害するためのIC50より低い場合、化合物は、選択的であるとみなされる。0.1(またはそれ未満)のIC50比は、10倍(またはそれ超)の選択性を意味する。0.01(またはそれ未満)のIC50比は、100倍(またはそれ超)の選択性を意味する。0.001(またはそれ未満)のIC50比は、1000倍(またはそれ超)の選択性を意味する。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチャネルに対して、L型、N型、P型、Q型および/またはR型カルシウムチャネルのいずれか1つまたは複数などの他のタイプのカルシウムチャネル、例えばL型カルシウムチャネルと比較し、10倍もしくはそれ超、100倍もしくはそれ超または1000倍もしくはそれ超の選択性を有する。
【0077】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、フェンスクシミド、メトスクシミド、メチルl-フェニル-スクシンイミド、エホニジピンのR異性体、トリメタジオン、ジメタジオン、ミベフラジル、TTA-A2、TTA-A8、TTA-P1、TTA-P2、TTA-Q3、TTA-Q6、MK-5395、MK-6526、MK-8998、Z941、Z944、ABT-639、TTL-1177、KYSO5044、NC55-0396ジヒドロクロライド、クルトキシンまたはその誘導体からなる群から選択される選択的なT型カルシウムチャネル阻害剤である。
【0078】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、L型カルシウムチャネルよりもT型カルシウムチャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである。
【0079】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、TTA-A2である。
【0080】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ベラパミル以外でありうる。処置は、ベラパミルの投与なしで実施することができる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムアンタゴニストは、ベラパミルと組み合わせて投与される。
【0081】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、エトスクシミド以外でありうる。処置は、エトスクシミドの投与なしで実施することができる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムアンタゴニストは、エトスクシミドと組み合わせて投与される。
【0082】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ゾニサミド以外でありうる。処置は、ゾニサミドの投与なしで実施することができる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムアンタゴニストは、ゾニサミドと組み合わせて投与される。
【0083】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ジメタジオン以外でありうる。処置は、ジメタジオンの投与なしで実施することができる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムアンタゴニストは、ジメタジオンと組み合わせて投与される。
【0084】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、バルプロエート以外でありうる。処置は、バルプロエートの投与なしで実施することができる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムアンタゴニストは、バルプロエートと組み合わせて投与される。
【0085】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、トピラマート以外でありうる。処置は、トピラマートの投与なしで実施することができる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムアンタゴニストは、トピラマートと組み合わせて投与される。
【0086】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、カンナビジオールまたはテトラヒドロカンナビノールなどのカンナビノイド以外でありうる。処置は、カンナビジオールまたはテトラヒドロカンナビノールなどのカンナビノイドの投与なしで実施することができる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムアンタゴニストは、カンナビジオールまたはテトラヒドロカンナビノールなどのカンナビノイドと組み合わせて投与される。
【0087】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチャネルの孔ブロッカーとして作用しない分子でありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、例えばT型カルシウムチャネルのアロステリック阻害剤でありうる。
【0088】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、NaV1.1、NaV1.2、NaV1.3、NaV1.4、NaV1.5、NaV1.6、NaV1.7、NaV1.8もしくはNaV1.9αサブユニット、および/またはNaVβ1、NaVβ2、NaVβ3、NaVβ4サブユニットを有するナトリウムチャネルなどの、1つまたは複数のナトリウムチャネルに実質的に影響を及ぼさないものでありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ナトリウムチャネルの阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばKiに換算して表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。T型カルシウムチャネル阻害剤は、視床皮質のニューロンにおける非不活性化ナトリウム電流を実質的に減少させない、例えば、約20%もしくはそれ未満、約10%もしくはそれ未満、約5%もしくはそれ未満、約2%もしくはそれ未満または約1%もしくはそれ未満で不活性化ナトリウム電流を減少させるものでありうる。
【0089】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、カルシウム活性化型カリウムチャネル(BKチャネル、SKチャネル、IKチャネル)、内向き整流カリウムチャネル(ROMK、GPCR制御型、ATP感受性型)、直列ポアドメインカリウムチャネル(TWIK(TWIK-1、TWIK-2、KCNK7)、TREK(TREK-1、TREK-2、TRAAK)、TASK(TASK-1、TASK-3、TASK-5)、TALK(TASK-2、TALK-1、TALK-2)、THIK(THIK-1、THIK-2)、TRESK)、または電位開口型カリウムチャネル(hERG、KvLQT、KvLQT2)などの1つまたは複数のカリウムチャネルに実質的に影響を及ぼさないものでありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、カリウムチャネルの阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばKiに換算して表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0090】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、GABAA受容体、GABAA-ρサブクラス(GABAC)受容体またはGABAB受容体などの1つまたは複数のGABA受容体に実質的に影響を及ぼさないものでありうる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、例えばα-サブユニット(GABRA1、GABRA2、GABRA3、GABRA4、GABRA5、GABRA6)、β-サブユニット(GABRB1、GABRB2、GABRB3)、γ-サブユニット(GABRG1、GABRG2、GABRG3)、δ-サブユニット(GABRD)、ε-サブユニット(GABRE)、π-サブユニット(GABRP)、θ-サブユニット(GABRQ)、特にGABARA5、GABRB3およびGABRG5などのGABAA受容体の1つまたは複数のサブユニットに実質的に影響を及ぼさないものでありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、GABA受容体の阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばKiまたは結合親和性に換算して表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0091】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、カンナビノイド1型受容体(CB1)またはカンナビノイド2型受容体(CB2)の受容体などの、1つまたは複数のカンナビノイド受容体に実質的に影響を及ぼさないものでありうる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、CB1受容体に実質的に影響を及ぼさないものでありうる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、CB2受容体に実質的に影響を及ぼさないものでありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、CB1および/またはCB2受容体の阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばKiまたは結合親和性に換算して表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0092】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、GABAの脳レベル(例えば、CNSレベル)に実質的に影響を及ぼさないものでありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、GABAの濃度増加と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばGABAの濃度を増加する有効用量のED50と比較し、Kiまたは結合親和性に換算して表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0093】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、GluR1、GluR2、GluR3もしくはGluR4を含む、例えば、2つのGluR2ユニットを、2つのGluR1、2つのGluR3もしくは2つのGluR4ユニットと組み合わせる、AMPA受容体、ならびに/またはGluR5、GluR6、GluR7、KA1および/もしくはKA2受容体を含むカイニン酸受容体などの、1つまたは複数のAMPAまたはカイニン酸型グルタミン酸受容体に実質的に影響を及ぼさないものでありうる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、上記に列記されたものなどの、1つまたは複数のAMPAおよび/またはカイニン酸受容体サブユニットに実質的に影響を及ぼさないものでありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、AMPAまたはカイニン酸受容体の阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばKiまたは結合親和性に換算して表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0094】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ヒストンデアセチラーゼを実質的に阻害しないものでありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ヒストンデアセチラーゼの阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばヒストンデアセチラーゼの阻害のIC50と比較し、Kiまたは結合親和性に換算して表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0095】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、GABAトランスアミナーゼを実質的に阻害しないものでありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、GABAトランスアミナーゼの阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばGABAトランスアミナーゼの阻害のIC50と比較し、Kiまたは結合親和性に換算して表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0096】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼを実質的に阻害しないものでありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼの阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばコハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼの阻害のIC50と比較し、Kiまたは結合親和性に換算して表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0097】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、カルボニックアンヒドラーゼまたは1つもしくは複数のそのアイソザイムを実質的に阻害しないものでありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、カルボニックアンヒドラーゼの阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばカルボニックアンヒドラーゼの阻害のIC50と比較し、Kiまたは結合親和性に換算して表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0098】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ヒトなどの動物への投与後に、以下の副作用または有害事象の1つまたは複数を生じさせないものでありうる:肝損傷、動物の肝臓の形態的変化、動物の肝臓の機能的変化、腎障害、動物の腎臓の形態的変化、動物の腎臓の機能的変化、全身性エリテマトーデス、自殺志向、自殺行為、自殺念慮、自殺リスク増加、鬱の発症または悪化、異常な情緒または行動の変化、出産時欠損、アレルギー反応。
【0099】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、動物への投与後に、以下の副作用または有害事象の1つまたは複数を生じさせないものでありうる:胃腸系の有害事象(例えば摂食障害、漠然とした異常亢進、悪心嘔吐、痙攣、上腹部および腹部の疼痛、体重減少、下痢、歯肉肥大ならびに舌の腫大);白血球減少、無顆粒球症、汎血球減少などの造血系の有害事象(骨髄抑制および好酸球増加の有無は問わない);神経学的反応、感覚的反応または精神医学的もしくは心因性変調を含む、神経系の有害事象(例えば嗜眠状態、頭痛、眩暈感、多幸感、しゃっくり、過敏性、活動過多、嗜眠、疲労、運動失調、錯乱、睡眠障害、夜驚、集中力の欠如、攻撃性、妄想性精神病、性欲亢進、または明白な自殺意図を伴う悪化した鬱状態);皮膚病理学的徴候を含む外皮系の有害事象(例えばじんま疹、スティーブンス・ジョンソン症候群、全身性エリテマトーデス、そう痒性紅斑性の発疹および多毛);近視などの特殊感覚器官の有害事象;ならびに、性器出血または顕微鏡的血尿などの尿生殖器系の有害事象。
【0100】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは抗体である。抗体の調製のための様々な方法が当分野で公知である。Antibodies: A Laboratory Manual, CSH Press, Eds., Harlow, and Lane (1988);Harlow, Antibodies, Cold Spring Harbor Press, NY (1989)を参照。例えば、抗体は、患者から単離された細胞を丸ごと含むサンプルで適切な哺乳動物の宿主を免疫することにより調製することができる。抗体は、本明細書に記載のモノクローナル抗体の作製を含む細胞培養技術によって、または組換え抗体の製造を可能にするために、適切な細菌細胞もしくは哺乳動物細胞宿主に抗体遺伝子をトランスフェクションすることによって製造できる。
【0101】
幾つかの実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体であり、すなわち、当該集団を構成する抗体は、少ない量で存在しうる天然に生じる突然変異を除き同一である。
【0102】
幾つかの実施形態では、本発明で提供される抗体は、組換え法により製造できる。幾つかの実施形態では、抗体は「ヒト化」またはヒト抗体である。「ヒト化」またはヒト抗体は、また製造することもでき、治療の状況での使用が好ましい。マウスおよび他の非ヒト抗体をヒト化する方法は、非ヒト抗体配列の1つまたは複数を対応するヒト抗体配列で置換することによりなされ、また当該方法は周知である。例えば、Jones et al., Nature, 1986, 321, 522-25;Riechmann et al., Nature, 1988, 332, 323-27;Verhoeyen et al., Science, 1988, 239, 1534-36、Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1993, 89, 4285;およびSims et al., J. Immunol., 1993, 151, 2296を参照。これらのヒト化抗体は、齧歯目の抗ヒト抗体分子に対する望ましくない免疫学的応答を最小化するよう設計され、それにより、ヒト受容者へのそれらの部分の治療的適用の期間および効果が制限される。したがって、本明細書に記載の治療方法で用いられる好ましい抗体は、完全なヒト抗体であるか、または高い親和性を有するが対象における抗原性が低いかもしくは存在しない、ヒト化抗体である。
【0103】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはオリゴヌクレオチド阻害剤である。オリゴヌクレオチド阻害剤の例としては、限定されないが、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAi、dsRNA、siRNAおよびリボザイムが挙げられる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはsiRNAである。本明細書で用いられる「アンチセンスオリゴヌクレオチド」とは、通常化学的に修飾された、一本鎖のDNAまたはRNAの伸長体を指し、その配列(3’-5’)はmRNA分子のセンス配列と相補的である。アンチセンス分子は、RNA/DNAデュプレックスを形成することによって、効果的に遺伝子発現を阻害する。アンチセンスとは、メッセンジャーRNAに沿ってリボソームが移動する能力を物理的にブロックすることや、mRNAがサイトゾル中で分解される速度を高めることを含む様々な機序による作用であると理解されている。
【0104】
DNAseによる分解を回避するため、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、化学的に修正されうる。例えば、ホスホロチオネートオリゴデオキシヌクレオチドは、DNAの非架橋ホスホリル酸素の1つを硫黄部分で置換することにより安定化し、ヌクレアーゼによる分解が防止される。アンチセンスオリゴヌクレオチドの安定性増加は、参照により組み込まれる米国特許第6451991号明細書および米国特許出願公開第2003/0158143号明細書に概して記載のような、2-メトキシエチル(MOE)置換された骨格を有する分子を用いても実施できる。このように、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、修飾されることにより、同じ配列の未修飾オリゴヌクレオチドと比較し、インビボでの安定性が強化されうる。修飾は、例えば(2’-O-2-メトキシエチル)修飾であってもよい。オリゴヌクレオチドは全体的にホスホロチオネート骨格を有してもよく、ヌクレオチド1~4および18~21の糖部分は2’-O-メトキシエチル修飾を有してもよく、その他のヌクレオチドは2’-デオキシヌクレオチドであってもよい。
【0105】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが効果を発揮するために、その標的配列の相補配列と100%の同一性を有する必要がないことは、当分野で理解されている。アンチセンスオリゴヌクレオチドはしたがって、標的配列の相補配列と少なくとも約70%同一である配列を有しうる。一実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的配列の相補配列と少なくとも約80%同一である配列を有しうる。他の実施形態では、それらは、幾つかの塩基のギャップまたはミスマッチを考慮に入れ、標的配列の相補配列と少なくとも約90%同一であるか、または少なくとも約95%同一である配列を有する。同一性は、例えばウィスコンシン大学のComputer Group(GCG)のソフトウェアであるBLASTNプログラムを用いて決定できる。
【0106】
本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドは、典型的には7から100ヌクレオチド長の間である。一実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約7から約50ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む。別の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約7から約35ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む。他の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約12から約35ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体、また約15から約25ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む。
【0107】
本発明に係るオリゴヌクレオチド阻害剤は、その配列が前記遺伝子の一部に対応するような、目的の遺伝子を標的とするsiRNA分子であってもよい。本発明で用いられるRNA分子は一般的に、RNA部分と、若干の更なる部分(例えばデオキシリボヌクレオチド部分)とを含む。
【0108】
本発明の開示は更に、T型カルシウムチャネルを含むタンパク質などの、目的のタンパク質をコードするmRNAを特異的に標的とするリボザイムオリゴヌクレオチド調節物質を包含する。リボザイムは酵素活性を有するRNA分子であり、その活性により、当該リボザイムが、ヌクレオチド配列特異的な方法で、繰り返し他の別個のRNA分子を切断することを可能にする。そのような酵素的RNA分子は実質的にいかなるmRNA転写産物も標的とすることができ、効果的な切断がインビトロで実施できる。Kim et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1987, 84, 8788;Haseloff et al., Nature, 1988, 334, 585;Cech, JAMA, 1988, 260, 3030;およびJefferies et al., Nucleic Acids Res., 1989, 17, 1371。
【0109】
典型的に、リボザイムは、近接する位置に保持される2つの部分、すなわち、標的mRNA配列と相補的な配列を有するmRNA結合部分と、当該標的mRNAを切断するよう作用する触媒部分とを含む。リボザイムは、最初に、リボザイムの標的mRNAとの結合部分を通じて、相補的塩基対形成により標的mRNAを認識し、結合する作用を示す。その標的と特異的に結合した後、リボザイムは標的mRNAの切断を触媒する。そのような戦略的な切断により、コードされたタンパク質の合成を導く標的mRNAの能力を無効化する。そのmRNA標的と結合し、切断した後、当該リボザイムは放出され、また繰り返し新たな標的mRNA分子と結合し、切断することができる。
【0110】
幾つかの実施形態では、選択的なT型カルシウムチャネルアンタゴニストは、実質的に血液脳関門を通過する。
【0111】
幾つかの実施形態では、選択的なT型カルシウムチャネルアンタゴニストは、血液脳関門を実質的に通過しない。
【0112】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、本明細書に記載の小分子である。
【0113】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCaV3.1を選択的に標的とする。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCaV3.2を選択的に標的とする。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCaV3.3を選択的に標的とする。この文脈における「選択的」とは、T型カルシウムチャネルアンタゴニストが別のタイプのカルシウムチャネルよりも、あるタイプのT型カルシウムチャネルをより強力にアンタゴナイズすること、例えば、CaV3.2またはCaV3.3またはその両方よりもCaV3.1を強力にアンタゴナイズ、CaV3.1またはCaV3.3またはその両方よりもCaV3.2を強力にアンタゴナイズ、CaV3.1またはCaV3.2またはその両方よりもCaV3.3を強力にアンタゴナイズすることを意味する。選択性は、例えば、あるタイプのT型カルシウムチャネルを阻害する際の化合物のIC50を、他のタイプのT型カルシウムチャネルを阻害する際のIC50と比較することにより測定でき、あるタイプのT型チャネルを阻害するためのIC50が他のタイプのT型カルシウムチャネルを阻害するためのIC50より低い場合、化合物は、選択的であるとみなされる。0.1(またはそれ未満)のIC50比は、10倍(またはそれ超)の選択性を意味する。0.01(またはそれ未満)のIC50比は、100倍(またはそれ超)の選択性を意味する。0.001(またはそれ未満)のIC50比は、1000倍(またはそれ超)の選択性を意味する。幾つかの実施形態では、CaV3.1、CaV3.2またはCaV3.3に対する選択性は、10倍もしくはそれ超、100倍もしくはそれ超または1000倍もしくはそれ超である。
【0114】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、例えばNaV1.1、NaV1.2、NaV1.3、NaV1.4、NaV1.5、NaV1.6、NaV1.7、NaV1.8もしくはNaV1.9αサブユニット、および/またはNaVβ1、NaVβ2、NaVβ3、NaVβ4サブユニットを有するナトリウムチャネルなどのナトリウムチャネルよりも、T型カルシウムチャネル(例えばCaV3.1、CaV3.2および/またはCaV3.3)を選択的に標的とする。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ナトリウムチャネルの阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありうる。選択性は、例えば、1つまたは複数のタイプのT型カルシウムチャネルを阻害する際の化合物のIC50を、1つまたは複数のタイプのナトリウムチャネルを阻害する際のそのIC50と比較することにより測定でき、T型カルシウムチャネルを阻害する際のIC50が、ナトリウムチャネルを阻害する際のIC50より低い場合、化合物は選択的であるとみなされる。0.1(またはそれ未満)のIC50比は、10倍(またはそれ超)の選択性を意味する。0.01(またはそれ未満)のIC50比は、100倍(またはそれ超)の選択性を意味する。0.001(またはそれ未満)のIC50比は、1000倍(またはそれ超)の選択性を意味する。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルに対する選択性は、10倍もしくはそれ超、100倍もしくはそれ超または1000倍もしくはそれ超である。
【0115】
T型カルシウムチャネルを阻害する化合物の効果は、T型カルシウムチャネルアンタゴニストが阻害するT型カルシウムチャネルの状態によって変化しうる。T型カルシウムチャネルは、細胞膜の電位によって異なる状態を示す場合がある。本明細書に記載の方法に効果的であるT型カルシウムチャネルアンタゴニストには、膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば好ましくは約-40mVであるときに、T型カルシウムチャネルをブロックするT型カルシウムチャネルアンタゴニストが含まれうる。「約-60から約-30mVの範囲」の膜電位には、-70mVから-20mVの範囲、または-65mVから-25mVの範囲の膜電位が含まれえ、また例えば約-40mVから約-30mV、約-50mVから約-30mV、約-70mVから約-30mV、約-50mVから約-40mV、約-60mVから約-40mV、約-70mVから約-40mV、約-60mVから約-50mV、および約-70から約-50mVの膜電位の範囲、ならびに約-30mV、約-40mV、約-50mVおよび約-60mVも包含されうる。幾つかの実施形態では、本明細書に記載の方法に効果的であるT型カルシウムチャネルアンタゴニストには、膜電位が約-100mVから約-80mVの範囲、例えば好ましくは約-90mVであるときにT型カルシウムチャネルをブロックするT型カルシウムチャネルアンタゴニストが含まれうる。「約-100から約-80mVの範囲」の膜電位には、-110mVから-70mVの範囲、または-105mVから-75mVの範囲の膜電位が含まれえ、また、例えば約-100mVから約-80mV、約-90mVから約-80mVおよび約-100mVから約-90mVの膜電位の範囲、ならびに約-100mV、約-90mVおよび約-80mVも包含されうる。
【0116】
いかなる理論にも拘束されないが、本明細書に記載の方法に効果的であるT型カルシウムチャネルアンタゴニストには、膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば-40mVであるときにT型カルシウムチャネルを、膜電位が約-100mVから約-80mVの範囲、例えば約-90mVであるときのT型カルシウムチャネルのブロックと比較して選択的にブロックするT型カルシウムチャネルアンタゴニストが含まれうると考えられる。
【0117】
効果的であるT型チャネル阻害剤は、膜電位が約-40mVであるときのT型カルシウムチャネルを阻害するためのIC50で、すなわち約10μMもしくはそれ未満、例えば、約1μMもしくはそれ未満、約500nMもしくはそれ未満、約100nMもしくはそれ未満、約50nMもしくはそれ未満、約10nMもしくはそれ未満、約5nMもしくはそれ未満、または約1nMもしくはそれ未満で、T型カルシウムチャネルを阻害しうる。効果的であるT型カルシウムチャネルアンタゴニストは、約-90mVの膜電位におけるT型カルシウムチャネルの阻害と比較し、選択的に、約-40mVの膜電位においてT型カルシウムチャネルを阻害しうる。例えば、約-40mVの膜電位においてT型カルシウムチャネルを選択的に阻害するT型カルシウムチャネルアンタゴニストのIC50の、約-90mVの膜電位におけるT型カルシウムチャネルの阻害時のそれに対する比率は、約1:2またはそれ未満、例えば約1:5またはそれ未満、約1:10またはそれ未満、約1:20またはそれ未満、約1:50またはそれ未満、約1:100またはそれ未満、約1:500またはそれ未満、約1:1000またはそれ未満でありうる。幾つかの実施形態では、約-90mVのT型カルシウムチャネルの阻害と比較し、約-40mVのT型カルシウムチャネルを阻害する選択性は、2倍もしくはそれ超、5倍もしくはそれ超、10倍もしくはそれ超、100倍もしくはそれ超、または1000倍もしくはそれ超である。
【0118】
効果的であるT型チャネル阻害剤は、膜電位が約-90mVであるときのT型カルシウムチャネルを阻害するためのIC50で、すなわち約10μMまたはそれ未満、例えば、約1μMもしくはそれ未満、約500nMもしくはそれ未満、約100nMもしくはそれ未満、約50nMもしくはそれ未満、約10nMもしくはそれ未満、約5nMもしくはそれ未満、または約1nMもしくはそれ未満で、T型カルシウムチャネルを阻害しうる。効果的であるT型カルシウムチャネルアンタゴニストは、約-40mVの膜電位におけるT型カルシウムチャネルの阻害と比較し、選択的に、約-90mVの膜電位においてT型カルシウムチャネルを阻害しうる。例えば、約-90mVの膜電位においてT型カルシウムチャネルを選択的に阻害するT型カルシウムチャネルアンタゴニストのIC50の、約-40mVの膜電位におけるT型カルシウムチャネルの阻害時のそれに対する比率は、約1:2またはそれ未満、例えば約1:5またはそれ未満、約1:10またはそれ未満、約1:20またはそれ未満、約1:50またはそれ未満、約1:100またはそれ未満、約1:500またはそれ未満、約1:1000またはそれ未満でありうる。幾つかの実施形態では、約-40mVのT型カルシウムチャネルの阻害と比較し、約-90mVのT型カルシウムチャネルを阻害する選択性は、2倍もしくはそれ超、5倍もしくはそれ超、10倍もしくはそれ超、100倍もしくはそれ超、または1000倍もしくはそれ超である。
【0119】
全ての化合物およびその薬学的に許容できる塩は、水および溶媒などの他の物質と共に存在することができ(例えば水和物と溶媒和化合物)、または単離されうる。幾つかの実施形態では、本発明で提供される化合物またはその薬学的に許容できる塩は、実質的に単離されている。「実質的に単離されている」とは、化合物が、それが形成されたかまたは検出された環境から、少なくとも部分的にまたは実質的に分離されていることを意味する。部分的な分離としては、例えば、本発明で提供される化合物が富化された組成物を挙げることができる。実質的な分離としては、本発明で提供される化合物またはその塩を、重量ベースで少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%または少なくとも約99%含有する組成物を挙げることができる。化合物およびそれらの塩を単離する方法は、当分野ではルーチンである。
【0120】
本明細書で用いられる「薬学的に許容できる塩」とは、親化合物中の既存の酸または塩基部分が、その塩の形に変換されることによって修飾された、開示された化合物の誘導体を指す。薬学的に許容できる塩の例としては、限定されないが、アミンなどの塩基性残基の無機または有機酸塩、カルボン酸などの酸性残基のアルカリまたは有機塩などが挙げられる。本願の薬学的に許容できる塩としては、例えば無毒性の無機または有機酸から形成される、親化合物の従来の無毒性の塩が挙げられる。本願の薬学的に許容できる塩は、従来の化学的方法によって、塩基性または酸性部分を含有する親化合物から合成することができる。通常、そのような塩は、これらの化合物の遊離の酸または塩基の形態と、これの化学量論量の適切な塩基または酸とを、水、または有機溶媒、またはそれら2つの混合液中で、反応させることにより調製でき、通常、エーテル、酢酸エチル、アルコール(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールまたはブタノール)またはアセトニトリルなどの非水性媒体が好ましい。適切な塩のリストは、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1985, p. 1418およびJournal of Pharmaceutical Science, 66, 2 (1977)に見出される。塩形態の調製方法は、例えばHandbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use, Wiley-VCH, 2002に記載されている。
【0121】
IV.併用療法
記憶および/または認知を改善する処置のために、1つまたは複数の更なる治療薬が、本明細書に提供される化合物との組合せで使用できる。更なる治療薬の例としては、限定されないが、カルシウムチャネルアンタゴニスト(L型およびT型カルシウムチャネルアンタゴニストを含む)が挙げられる。薬物の組合せは、いずれかの薬物単独より安全または有効でありうる。加えて、本発明の化合物は、本発明の化合物の副作用または毒性の危険性を処置、予防、制御、改善または低減する1つまたは複数の他の薬物と組み合わせて使用することができる。かかる他の薬物は、その薬物に一般的に使用される経路および量により、本発明の化合物と同時に、または経時的に投与することができる。したがって、本発明の医薬組成物には、T型カルシウムチャネル阻害剤に加えて、1つまたは複数の他の活性成分を含有するものが挙げられる。組合せは、単位剤形形態の組合せ製品の一部として、または1つもしくは複数の更なる薬物が処置レジメンの一部として別々の剤形で投与されるキットもしくは処置プロトコルとして投与することができる。
【0122】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストによる処置は、認知および/または記憶を改善するのに有用な更なる治療薬がない場合にも提供することができる。幾つかの実施形態では、処置は、1つのT型カルシウムチャネルアンタゴニストで実施できる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストによる処置は、処置される疾患または状態を処置ための更なる治療薬がない場合にも提供することができる。
【0123】
カルシウムチャネルアンタゴニストの例としては、限定されないが、本明細書に記載のT型カルシウムチャネルアンタゴニストおよびL型カルシウムチャネルアンタゴニストが挙げられる。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストは、本明細書に提供されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストから選択される。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストはL型カルシウムチャネルアンタゴニストである。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストはT型カルシウムチャネルアンタゴニストである。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストは、ミベフラジル、MK-5395、MK-6526、MK-8998およびZ944からなる群から選択されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストである。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチャネルアンタゴニストおよびL型カルシウムチャネルアンタゴニストである。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチャネルアンタゴニスト、またはACT-28077、ミベフラジルおよびTTL-1177からなる群から選択されるL型カルシウムチャネルアンタゴニストである。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストはミベフラジルである。
【0124】
アルツハイマー病、軽度認知機能障害または関連する状態の処置のために、T型カルシウムチャネル阻害剤は、ドネペジルおよびリバスチグミンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬、メマンチンなどのNMDAアンタゴニスト、ムスカリン受容体調節物質、AMPA受容体調節物質、mGluR3受容体調節物質、ニコチンアルファ-7および/またはアルファ4ベータ2受容体調節物質、5-HT6または5-HT4受容体調節物質、ホスホジエステラーゼ(PDE)の調節物質、アルファ2c受容体アンタゴニスト、ヒストンデアセチラーゼ、または抗酸化療法と組み合わせて用いてもよい。
【0125】
T型カルシウムチャネル阻害剤は、BACE1阻害剤、ガンマ-セクレターゼ調節物質、タウおよび/またはリン-タウ調節物質などのベータ-アミロイド調節療法、ならびに抗体、RNAi、miRNAを含む、神経障害に関連するプラークを調節する生物学的療法、ならびに細胞療法が挙げられる、疾患の進行過程を変更または修飾しうる療法と組み合わせて用いてもよい。
【0126】
特定の実施形態では(例えば、アルツハイマー病またはパーキンソン病などの神経変性により特徴付けられる認知障害および/または状態の処置において)、T型カルシウムチャネル阻害剤は、例えば、ドネペジル、タクリン、リバスチグミン、メマンチン(AXURA(登録商標)、AKATINOL(登録商標)、NAMENDA(登録商標)、EBIXA(登録商標)、ABIXA(登録商標))、アリセプト、フィゾスチグミン、ニコチン、アレコリン、フペルジンアルファ(huperzine alpha)、セレギリン、Rilutek(登録商標)(リルゾール)、レボドパ・カルビドパ(SINEMET(登録商標)またはSINEMET CR(登録商標))、レボドパ・ベンセラジド(PROLOPA(登録商標)またはMADOPAR(登録商標))、エンタカポン(COMTAN(登録商標)またはTASMAR(登録商標))、ドーパミンアゴニスト(例えば、プラミペキソール(MIRAPEX(登録商標))、ロピニロール(REQUIP(登録商標))、ブロモクリプチン(PARLODEL(登録商標))およびペルゴリド(PERMAX(登録商標))、アマンタジン(SYMMETREL(登録商標))、ベンズトロピン(COGENTIN(登録商標))、トリヘキシフェニジル(ARTANE(登録商標))、デプレニル(ELDEPRYL(登録商標))などと組み合わせて用いることができる。
【0127】
特定の実施形態では(例えば、統合失調症、双極性障害などの処置において)、神経医薬品は、抗精神病薬であってもよい。抗精神病薬の例としては、限定されることなく、ブチロフェノン(例えば、ハロペリドール(HALDOL(登録商標))およびドロペリドール(DROLEPTAN(登録商標)));フェノチアジン(例えば、クロルプロマジン(THORAZINE(登録商標))、フルフェナジン(PROLIXIN(登録商標))、ペルフェナジン(TRILAFON(登録商標))、プロクロルペラジン(COMPAZINE(登録商標))、チオリダジン(MELLARIL(登録商標))、トリフロペラジン(STELAZINE(登録商標))、メソリダジン、プロマジン、トリフルプロマジン(VESPRIN(登録商標))、レボメプロマジン(NOZINAN(登録商標))およびプロメタジン(PHENERGAN(登録商標)));チオキサンテン(例えば、クロルプロチキセン(CLOXAN(登録商標)、TARACTAN(登録商標)、TRUXAL(登録商標))、クロペンチキソール(SORDINAL(登録商標))、フルペンチキソール(DEPIXOL(登録商標)、FLUANXOL(登録商標))、チオチキセン(NAVANE(登録商標))およびズクロペンチキソール(CLOPIXOL(登録商標)、ACUPHASE(登録商標)));クロザピン(CLOZARIL(登録商標));オランザピン(ZYPREXA(登録商標));リスペリドン(RISPERDAL(登録商標)、RISPERDAL CONSTA(登録商標));クエチアピン(SEROQUEL(登録商標));ジプラシドン(GEODON(登録商標));アミスルプリド(SOLIAN(登録商標));アセナピン(SAPHRIS(登録商標));パリペリドン(INVEGA(登録商標));イロペリドン(FANAPT(登録商標));ゾテピン(NIPOLEPT(登録商標)、LOSIZOPILON(登録商標)、LODOPIN(登録商標)、SETOUS(登録商標));セルチンドール(SERDOLECT(登録商標));アリピプラゾール(ABILIFY(登録商標));ドーパミン部分アゴニスト(BIFEPRUNOX(登録商標)、NORCLOZAPINE(登録商標)(ACP-104));ラモトリギン(LAMICTAL(登録商標));メマンチン(AXURA(登録商標)、AKATINOL(登録商標)、NAMENDA(登録商標)、EBIXA(登録商標)、ABIXA(登録商標));テトラベナジン(NITOMAN(登録商標)、XENAZINE(登録商標));カンナビジオール;LY2140023などが挙げられる。
【0128】
特定の実施形態では(例えば、うつ病、パニック障害、社交不安症、全般不安症(GAD)などの処置において)、T型カルシウムチャネル阻害剤は、抗うつ薬および/または気分安定剤と組み合わせて用いてもよい。抗うつ薬の例としては、限定されることなく、三環系抗うつ薬(例えば、IMIPRAMINE(登録商標)およびバリアント(variant));選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)(例えば、フルオキセチン(PROZAC(登録商標))、パロキセチン(PAXIL(登録商標)、SEROXAT(登録商標))、エスシタロプラム(LEXAPRO(登録商標)、ESIPRAM(登録商標))、シタロプラム(CELEXA(登録商標))、セルトラリン(ZOLOFT(登録商標))およびフルボキサミン(LUVOX(登録商標)));セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRT)(例えば、ベンラファキシン(EFFEXOR(登録商標)));ミルナシプランおよびデュロキセチン(CYMBALTA(登録商標));ノルアドレナリン作動性および特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NASSA)(例えば、ミルタザピン(AVANZA(登録商標)、ZISPIN(登録商標)、REMERON(登録商標))およびミアンセリン);ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)再取り込み阻害剤(NRI)(例えば、レボキセチン(EDRONAX(登録商標)));ノルエピネフリン-ドーパミン再取り込み阻害剤(例えば、ブプロピオン(WELLBUTRIN(登録商標)、ZYBAN(登録商標)));アミトリプチリン;ノルトリプチリン;プロトリプチリン;デシプラミン;トリミプラミン;アモキサピン;ブプロピオン;ブプロピオンSR;S-シタロプラム;クロミプラミン;ドキセピン;イソカルボキサジド;ベンラファキシンXR;トラニルシプロミン;トラゾドン;ネファゾドン;フェネルジン;ラモトリギン;リチウム;トピラマート;ガバペンチン;カルバマゼピン;オクスカルバゼピン;バルプロエート;マプロチリン;ミルタザピン;ブロファロミン;ゲピロン;モクロベミド;イソニアジド;イプロニアジドなどが挙げられる。
【0129】
特定の実施形態では(例えば、ADDまたはADHDの処置において)、T型カルシウムチャネル阻害剤は、スタチン、アンフェタミン、モダフィニル、デソキシン(Desoxyn)、メタンフェタミン、コカイン、アレコリン、デクスメチルフェニデート(Focalin、Focalin XR)、デキストロアンフェタミン(Dexedrine、Dexedrine Spansules、Dextroamphetamine ER、Dextrostat)、メチルフェニデート(Concerta、Daytrana、Metadate CD、Metadate ER、Methylin、Methylin ER、Ritalin、Ritalin-LA、Ritalin-SR)、リスデキサンフェタミンメシル酸塩(lisdexamfetamine dimesylate)(Vyvanse)、混合アンフェタミン塩(Adderall、Adderall XR)、アトモキセチン(Strattera)、クロニジン塩酸塩(Catapres)、グアンファシン塩酸塩(Tenex)、アレコリン、またはペモリンなどのADHD投薬と組み合わせて用いてもよい。
【0130】
幾つかの実施形態では、療法は単独療法として実施できる。幾つかの実施形態では、療法は、更なる鎮痙性の療法がない場合に実施できる。療法は、本セクションに記載の更なる薬剤のいずれかがない場合に実施できる。例えば、療法は、更なる薬剤がない場合に実施できる。
【0131】
1つまたは複数の更なる治療薬は、同じ投与スケジュールまたは異なる投与スケジュールを使用して、患者に同時にまたは経時的に投与することができ、これは、使用される特定の組合せおよび処方する医師の判断によって決定される。
【0132】
V.医薬組成物
本明細書に記載の方法で用いられるT型カルシウムチャネル阻害剤は、医薬組成物の形態で投与することができる。このように、本発明の開示は、特許請求される処置方法、または本明細書に記載の状態を処置するため医薬の製造に使用される、T型カルシウムチャネル阻害剤と少なくとも1つの薬学的に許容できる担体とを提供する。これらの組成物は、製薬分野で公知の方法で調製することができ、種々の経路により投与することができる。投与は、局所投与(経皮、表皮、眼内、ならびに鼻腔内、膣内および直腸内送達を含む経粘膜を含む)、肺内投与(例えば、ネブライザーなどによる粉末またはエアゾールの吸入または注入、気管内または鼻腔内)、経口または非経口投与であってもよい。非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内または注入もしくは点滴、あるいは頭蓋内(例えばクモ膜下または脳室内)投与が挙げられる。非経口投与は、単回ボーラス投与の形態であってもよく、または連続灌流ポンプによるものであってもよい。局所投与用の医薬組成物および製剤としては、経皮パッチ、軟膏、ローション剤、クリーム、ゲル、ドロップ、坐薬、スプレー、液剤および粉末剤が挙げられうる。従来の医薬用担体、水性、粉末性もしくは油性のベース剤、増粘剤などが必要となり、または望ましい場合もある。
【0133】
本願は、1つまたは複数の薬学的に許容できる担体(賦形剤)との組合せで、有効成分としてのT型カルシウムチャネル阻害剤(薬学的に許容できる塩の形態であってもよい)を含有する医薬組成物を提供する。幾つかの実施形態では、組成物は局所投与に適する。本発明の組成物の調製の際、有効成分は典型的には、賦形剤と混合されるか、賦形剤により希釈されるか、またはカプセル、サシェ、ペーパーもしくは他の容器などの形態で、かかる担体中に充填される。賦形剤が希釈剤として用いられるとき、それは固形状、半固形状または液状の材料であってもよく、それは有効成分のビヒクル、担体または媒体として機能する。このように、組成物は、錠剤、ピル、粉末、ロゼンジ、サシェ、カシェ、エリキシル、懸濁液、エマルジョン、溶液、シロップ、エアゾール(固形状または液体媒体中)、例えば最大10重量%の活性化合物を含有する軟膏、軟質および硬質ゼラチンカプセル、坐薬、無菌の注射液ならびに無菌包装粉末の形態とすることができる。
【0134】
製剤を調製する際に、T型カルシウムチャネル阻害剤は、他の成分と組み合わせる前に、適切な粒径とするために粉砕することができる。活性化合物が実質的に不溶性である場合、200メッシュ未満の粒径に粉砕することができる。活性化合物が実質的に水溶性である場合、粒径は、粉砕により、製剤中で実質的に同一の分布(例えば約40メッシュ)となるように調整できる。
【0135】
本発明の化合物は、錠剤の形成、および他の剤形とするのに適する粒径を得るため、湿式ミリングなどの公知の粉砕処理を使用して粉砕してもよい。本発明の化合物の微細粉末化(ナノ粒子化)調製物を、当分野で公知のプロセスによって調製することができる。
【0136】
幾つかの適切な賦形剤の例としては、ラクトース、ブドウ糖、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカントゴム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップおよびメチルセルロースが挙げられる。製剤は更に、潤滑剤(例えばタルク、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイル)、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、保存料剤(例えばヒドロキシ安息香酸のメチルおよびプロピルエステル)、甘味料、ならびに香料を含むことができる。
【0137】
幾つかの実施形態では、医薬組成物は、ケイ化結晶性セルロース(SMCC)と、本明細書に記載の少なくとも1つの化合物またはその薬学的に許容できる塩を含む。幾つかの実施形態では、ケイ化結晶性セルロースは、重量ベースで、約98%の結晶性セルロースと約2%の二酸化ケイ素とを含む。
【0138】
幾つかの実施形態では、組成物の製造に湿式造粒プロセスが用いられる。幾つかの実施形態では、組成物の製造に乾式造粒プロセスが用いられる。
【0139】
組成物は、各投薬単位が約5から約1,000mg(1g)、より一般的には約100mgから約500mgの有効成分を含有する単位投与形態で製剤化することができる。幾つかの実施形態では、各投薬単位は約10mgの有効成分を含有する。幾つかの実施形態では、各投薬単位は約50mgの有効成分を含有する。幾つかの実施形態では、各投薬単位は約25mgの有効成分を含有する。「単位投与形態」という用語は、ヒト対象および他の哺乳動物のための単回投与に適する、物理的に分割された単位を指し、各単位は、適切な医薬賦形剤との組合せで、望ましい治療効果を得るために算出された所定量の活性物質を含有する。
【0140】
医薬組成物を製剤化するのに用いられる成分は、高純度で、潜在的に有害な混入物を実質的に含まない(例えば、少なくとも国内の食品グレード、一般には少なくとも分析グレード、より典型的には少なくとも医薬グレードである)。特にヒトが摂取する場合、組成物は、好ましくは米国食品医薬品局の関連規則において定義される医薬品製造品質管理基準に従い製造または製剤化される。例えば適切な製剤は無菌で、および/または、実質的に等張で、および/または、米国食品医薬品局の全ての医薬品製造品質管理基準に完全準拠したものでありうる。
【0141】
活性化合物は、広範囲な投薬量にわたり有効でありうるが、通常は治療有効量で投与される。しかしながら、実際に投与される化合物の量は、処置を受ける状態、選択された投与経路、投与される実際の化合物、個々の患者の年齢、体重および反応、患者の症状の重症度などの関連する状況に応じて、医師により決定されることが理解されるであろう。
【0142】
本発明の化合物の治療的投薬量は、例えば、処置がなされる際の特定の使用、化合物の投与方法、患者の健康状態および処方する医師の判断により変化しうる。医薬組成物中の本発明の化合物の比率または濃度は、投薬量、化学的特性(例えば疎水性)および投与経路などの多くの要因に応じて変化しうる。例えば、本発明の化合物は、非経口投与の場合、当該化合物を約0.1~約10%(w/v)で含有する生理的緩衝水溶液として提供されうる。幾つかの典型的な用量範囲は、1日当たり約1μg/kgから約1g/kg体重である。幾つかの実施形態では、用量範囲は、1日当たり約0.01mg/kgから約100mg/kg体重である。投薬量は、そのような変動要因、疾患の重症度、特定の患者の全体的な健康状態、選択される化合物の相対的な生物学的有効性、賦形剤の組成および投与経路に依存する傾向を有する。有効用量は、インビトロまたは動物におけるモデル試験系に由来する用量反応曲線から推定できる。ヒトの場合の有効用量は、例えば約1mg、2mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、100mg、110mg、120mg、125mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、500mg、600mg、700mg、800mg、900mgまたは1000mgでありうる。用量は、例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0143】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストがミベフラジルであるとき、ミベフラジルは例えば約0.1mg、0.3mg、1mg、3mg、5mg、15mg、10mgまたは30mgの用量で投与できる。用量は、例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0144】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストがMK-5395であるとき、MK-5395は例えば約0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、30mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与できる。用量は、例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0145】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストがMK-6526であるとき、MK-6526は例えば約0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、30mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与できる。用量は、例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0146】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストがMK-8998であるとき、MK-8998は例えば約0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、30mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与できる。用量は、例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0147】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストがZ944であるとき、Z944は例えば約0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、30mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与できる。用量は、例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0148】
錠剤などの固形組成物を調製する場合、主要な有効成分を医薬賦形剤と混合し、本発明の化合物の均一な混合物を含有する固形状の予備処方組成物を形成させる。これらの予備処方組成物が均一であるとは、典型的には、有効成分が組成物全体に均一に分散していることで、組成物が等しく有効な単位投与形態(例えば錠剤、ピルおよびカプセル)に容易に再分割できる状態のことを指す。この固形状の予備処方剤を、次に、例えば本発明の有効成分を約0.1から約1000mgで含有する、上記のタイプの単位投与形態に再分割する。
【0149】
本発明の化合物および組成物を経口投与用または注入用に配合できる溶液形態としては、水溶液、適切に風味付けしたシロップ、水中または油中懸濁液、ならびに綿実油、胡麻油、ヤシ油または落花生油などの食用油で風味付けしたエマルジョン、ならびにエリキシルおよび同様の薬学的ビヒクルが挙げられる。
【0150】
吸入またはガス注入用の組成物としては、薬学的に許容できる水性もしくは有機溶媒、またはその混合物中の溶液および懸濁液、ならびに粉末が挙げられる。液状または固形状の組成物は、上記のような適切な薬学的に許容できる賦形剤を含有してもよい。幾つかの実施形態では、組成物は、局所的または全身的効果を得るために経口または鼻呼吸経路で投与される。組成物は、不活性ガスの使用により霧状にすることができる。霧状にされた溶液は、ネブライザーから直接呼吸してもよく、または、ネブライザーをマスク、テントもしくは間欠的陽圧呼吸装置に取り付けることができる。溶液、懸濁液または粉末状の組成物は、適切な方法で、製剤を送達する装置から経口的に、または鼻腔内に投与することができる。
【0151】
局所用製剤は、1つまたは複数の担体を含有することができる。幾つかの実施形態では、軟膏は、水と、例えば、流動パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、プロピレングリコール、白色ワセリンなどから選択される1つまたは複数の疎水性担体とを含有することができる。クリーム状の担体組成物は、グリセロールおよび1つまたは複数の他の成分(例えばグリセリンモノステアレート、PEG-グリセリンモノステアレートおよびセチルステアリルアルコール)と組み合わせた水ベースの組成とすることができる。ゲルは、イソプロピルアルコールおよび水を使用し、適宜他の成分(例えばグリセロール、ヒドロキシエチルセルロースなど)と組み合わせて製剤化することができる。幾つかの実施形態では、局所用製剤は、本発明の化合物を少なくとも約0.1、少なくとも約0.25、少なくとも約0.5、少なくとも約1、少なくとも約2または少なくとも約5重量%含有する。
【0152】
患者に投与される化合物または組成物の量は、投与する物質や、予防または療法などの投与目的、患者の状態、投与方法などにより変化する。治療的な使用では、組成物は疾患およびその合併症の症状を除去するか、または少なくとも部分的に軽減するのに十分な量で、既に疾患に罹患する患者に投与することができる。有効用量は、処置を行おうとする疾患の状態、ならびに、疾患の重症度、患者の年齢、体重および全般的状態などの要因を踏まえた主治医の判断などに応じて変化する。
【0153】
患者に投与される組成物は、上記の医薬組成物の形態とすることができる。これらの組成物は、従来の滅菌法により滅菌することができ、または濾過滅菌してもよい。水溶液は包装してそのまま使用するか、または凍結乾燥することができ、当該凍結乾燥した調製物を、投与前に滅菌した水性担体と合わせる。化合物の調製物のpHは、典型的には3から11の間、より好ましくは5から9、最も好ましくは7から8である。上記の賦形剤、担体または安定化剤の適宜の使用により、製薬塩が形成されることが理解されよう。
【0154】
本明細書に記載の方法で用いられるT型カルシウムチャネルアンタゴニストの治療的投薬量は、例えば、処置がなされる際の特定の使用、化合物の投与方法、患者の健康状態および処方する医師の判断により変化しうる。医薬組成物中の本発明の化合物の比率または濃度は、投薬量、化学的特性(例えば疎水性)および投与経路などの多くの要因に応じて変化しうる。例えば、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、非経口投与の場合、当該化合物を約0.1~約10%(w/v)で含有する生理的緩衝水溶液として提供されうる。幾つかの典型的な用量範囲は、1日当たり約1μg/kgから約1g/kg体重である。幾つかの実施形態では、用量範囲は、1日当たり約0.01mg/kgから約100mg/kg体重である。投薬量は、疾患または障害のタイプおよび進行度などの変動要因、特定の患者の全体的な健康状態、選択される化合物の相対的な生物学的有効性、賦形剤の組成ならびに投与経路に依存する傾向を有する。有効用量は、インビトロまたはインビボにおけるモデル試験系に由来する用量反応曲線から推定できる。
【実施例】
【0155】
本発明を下記の実施例で更に記載するが、それは特許請求の範囲で定義される本発明の範囲を限定するものではない。
【0156】
実施例1.認知欠乏マウスにおけるLTP欠陥に対するT型カルシウムチャネル阻害剤(MK-8998)の効果
全ての行動実験および電気生理的実験において、雌のUbe3am-/p+ KOマウス(すなわちASマウス)と野生型の雄とを交配させ、F1雑種129S2-C57BL/6のバックグラウンドを有するヘテロ接合ASマウス同腹仔コントロールを作製した。ASマウスは、長期増強(LTP)欠陥が挙げられる認知欠陥を有する。
【0157】
LTPプロトコル
対照マウス(「wt」)は、ビヒクルで処置し、ASマウスは、ビヒクル、または30mg/kgもしくは60mg/kgの用量のMK-8998(「CX」)を午前と午後の1日2回経口で与えて処置した。投与は、試験の1週間前に実施し、次に行動試験を動物に5週間にわたって実施した。
【0158】
行動試験の後、動物を最後の薬物投与の1時間後に殺処分するまで、動物に処置を続けた。動物を殺処分した後、矢状切片(400μm)をビブラトームの使用によって作製し、氷冷人工CSF(ACSF)に沈め、海馬を切開により取り出した。これらの矢状海馬切片を室温で少なくとも1.5時間保持して、実験を開始する前に回収した。次に、これらを水没型記録チャンバーに入れ、95%O2および5%CO2で平衡にして、2ml/分の速度により31℃でACSFを連続的に潅流させた。ACSFは、以下を含有した(mM):120 NaCl、3.5 KCl、2.5 CaCl2、1.3 MgSO4、1.25 NaH2PO4、26 NaHCO3、および10 D-グルコース。EPSP場(fEPSP)の細胞外記録を、白金/イリジウム(Pt/Ir)電極(FHC)によりCA1放線状層において作製した。双極Pt/Ir(FHC)を使用して、シェファー側枝/交連求心路を100μsの刺激時間で刺激した。LTPは、10シータバーストプロトコル(100Hzで200ms間隔による10連続4回刺激)を使用し、最大fEPSPの三分の二において実施して、誘起させた。fEPSPのサイズを、毎分1回記録した。増強は、ベースラインの持続期間の平均fEPSP勾配の正規化された増加として測定した。安定した記録のみが含まれ、この判断は、遺伝子型について盲検によって行われた。最終LTPは、最後の10分間の記録によって決定した。
【0159】
LTPの結果および結論:
行動試験の後、動物を殺処分して海馬切片におけるシナプス可塑性を決定するまで、動物に処置を続けた。マウスをLTP測定のために2つの群にわけた。電極は、これらの実験の間で交換した。この設計は、実験変動を低減するが、薬物間の相互比較を可能にしない。
【0160】
LTPは、10シータバーストプロトコル(100Hzで200ms間隔による10連続4回刺激)を使用し、最大fEPSPの三分の二において実施して、誘起させた。最終LTPは、最後の10分間の記録によって決定した。本発明者たちは、両方の実験において、遺伝子型の有意な効果を観察した(F3,103=6.6、P<0.001;反復測定ANOVA)。
【0161】
ASマウスは、また、群において野生型動物と比較して有意な差を示した(F
3,102=5.0、P<0.01;反復測定ANOVA)(
図1)。事後ボンフェローニ多重比較分析は、両方の投与量でのCX-8998による処置において有意な改善を示し(ASビヒクル対CX-8998 30mg/kg;P=0.01)(ASビヒクル対CX-8998 60mg/kg;P=0.02)、MK-8998処置ASマウスは、対照(「wt」)マウスと識別不能であった。
【0162】
CX-8998は、LTPに有意な改善を示した。これは両方の投与量(30および60mg/kg)において観察され、CX-8998を用いたAS処置マウスは、野生型マウスと識別不能であった。
【0163】
実験の結果を
図1に示す。プロットは、ビヒクルで処置されたASマウスが対照マウスと比較してLTP欠陥を有したが、MK-8998(「CX」)を30mg/kgまたは60mg/kgで投与すると、ASマウスのLTP欠陥を完全に戻したことを示す。
【0164】
実施例2.軽度認知機能障害を患っている患者の処置
患者は、個体の年齢および教育から予測されるものを超えた認知機能障害の発症および進展を特徴とするが、日常の活動に差し支えるほど重大ではない、軽度認知機能障害を有する。この患者は、New York University(NYU)Paragraph Delayed Recall試験などのアルツハイマー病(AD)Cooperative Study Clinician’s Global Impression of Change for MCI(ADCS CGIC-MCI)、改変AD Assessment Scale-認知症サブスケール(ADAS-cog)、および/またはPatient Global Assessment(PGA)など、1つまたは複数の試験を使用して評価する。
【0165】
患者に、治療有効量の本明細書に提供されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストを単独で、または他の治療薬(例えば、ミベフラジル、エホニジピン、MK-8998など)と組み合わせて投与する。十分な投与量のT型カルシウムチャネルアンタゴニストが一定期間にわたって投与された後(例えば、1~2週間にわたる1用量の後、または一連の用量の後)、患者の認知機能を再び評価する。患者は、神経心理学評価の成績に改善を示している。
【0166】
他の実施形態
本発明を、「発明の詳細な説明」に関連して記載したが、上記の記載は、あくまで例示を意図するものであり、本発明の範囲を限定することを目的とするものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されると理解すべきである。本発明の多くの実施形態を記載した。しかしながら、本発明の技術思想および範囲から逸脱することなく、様々な修飾をなしうることが理解されよう。したがって、他の側面、効果、実施形態および修飾も、以下の特許請求の範囲内に含まれる。明確さのために、別々の実施形態の文脈で記載されている本発明の特定の特徴を単一の実施形態に組み合わせて提供できることも、更に理解される。逆に、簡素さのために、単一の実施形態の文脈で記載されている本発明の様々な特徴を別々に、または任意の適切な副組合せによって提供することもできる。
以下の態様を包含し得る。
[1] 対象において記憶および/または認知を改善するために処置する方法であって、前記対象に治療有効量のT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む方法。
[2] 前記処置が前記対象において認知を改善する、上記[1]に記載の方法。
[3] 前記処置が前記対象において記憶を改善する、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記処置が認知障害を対象とする、上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5] 前記処置が記憶障害を対象とする、上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6] 前記処置が、加齢性認知機能障害、失認症、健忘症、健忘障害、筋萎縮性側索硬化症、アンジェルマン症候群、アスペルガー症候群、注意欠陥障害、注意欠陥/活動過多障害(ADHD)、自閉症、脳アミロイド血管症、認知機能不全、アルコールまたは薬物が原因の認知機能障害、せん妄、認知症、AIDS関連認知症、アルコール性認知症、アルツハイマー病、大脳外傷に関連する認知症、クロイツフェルトヤコブ病および他のプリオン誘発性認知症、変性認知症、ハンチントン病、頭蓋内腫瘍に関連する認知症、レビー小体病、多発脳梗塞性認知症、パーキンソン病、パーキンソン病様ALS認知症複合、ピック病、物質誘発性持続性認知症、血管性認知症、ドラベ症候群、頭部外傷、虚血、学習障害、学習機能障害、記憶機能障害、記憶喪失、精神遅滞、軽度認知機能障害、外傷性ストレス障害、プラダー・ウィリー症候群、進行性核上性麻痺、卒中、外傷性脳傷害、トリソミー(21番染色体トリソミー(ダウン症候群)を含む)、およびウェルニッケ・コルサコフ症候群からなる群から選択される状態を対象とする、上記[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7] 前記処置が、認知および/または記憶機能に影響を与える障害を対象とする、上記[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
[8] 前記認知および/または記憶機能に影響を与える障害が、不安障害、気分障害および精神病性障害から選択される、上記[7]に記載の方法。
[9] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、T型カルシウムチャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである、上記[1]から[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、L型カルシウムチャネルよりもT型カルシウムチャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである、上記[1]から[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが小分子である、上記[1]から[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが抗体である、上記[1]から[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがsiRNAである、上記[1]から[11]のいずれか一項に記載の方法。
[14] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa
V
3.1を選択的に標的とする、上記[1]から[13]のいずれか一項に記載の方法。
[15] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa
V
3.2を選択的に標的とする、上記[1]から[14]のいずれか一項に記載の方法。
[16] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa
V
3.3を選択的に標的とする、上記[1]から[14]のいずれか一項に記載の方法。
[17] 細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば約-40mVであるとき、前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、前記細胞でT型カルシウムチャネルをアンタゴナイズする、上記[1]から[16]のいずれか一項に記載の方法。
[18] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、ミベフラジル、MK-8998、ジルチアゼム、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニモジピン、ニルジピン、ニグルジピン、ニカルジピン、ニソルジピン、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、リオシジン、ガロパミル、ベラパミル、チアパミル、ピモジド、チオリダジン、NNC55-0396、TTL-1177、アナンダミド、ピモジド、ペンフルリドール、クロピモジド、フルスピリレン、ハロペリドール、ドロペリドール、ベンペリドール、トリペリドール、メルペロン、レンペロン、アザペロン、ドンペリドン、アントラフェニン、アリピペラゾール、シプロフロキサシン、ダピプラゾール、ドロプロピジン、エトペリドン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、レボドロプロピジン、メピプラゾール、ナフトピジル、ネファゾドン、ニアプラジン、オキシペルチン、ポサコナゾール、トラゾドン、ウラピジル、ベスナリノン、マニジピン、ニルバジピン、ベニジピン、エホニジピン、フルナリジン、アナンダミド、ロメリジン、ゾニサミド、U-92032、テトラロール、ミベフラジル、NNC55-0396、TTA-A2、TTA-A8、TTA-P1、4-アミノメチル-4-フルオロピペリジン(TTA-P2)、TTA-Q3、TTA-Q6、MK-5395、MK-6526、MK-8998、Z941、Z944、フェンスクシミド、メスクシミド、デスメチルメトスクシミド、エホニジピン、トリメタジオン、ジメタジオン、ABT-639、TTL-1177、KYSO5044、ニッケルおよびクルトキシン、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、上記[1]から[17]のいずれか一項に記載の方法。
[19] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがTTA-A2である、上記[1]から[18]のいずれか一項に記載の方法。
[20] 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが実質的に血液脳関門を通過する、上記[1]から[19]のいずれか一項に記載の方法。
[21] 前記対象に更なる治療薬を投与することを更に含む、上記[1]から[20]のいずれか一項に記載の方法。
[22] 前記更なる治療薬が更なるT型カルシウムチャネル阻害剤である、上記[21]に記載の方法。