(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】乾燥セルロースナノクリスタル(CNC)の溶媒およびポリマー再分散性配合物の調製
(51)【国際特許分類】
C08L 1/08 20060101AFI20230728BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230728BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20230728BHJP
C08L 23/36 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C08L1/08
C08L71/02
C08L79/02
C08L23/36
(21)【出願番号】P 2019563103
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(86)【国際出願番号】 CA2018050574
(87)【国際公開番号】W WO2018209435
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-07
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515228656
【氏名又は名称】セルフォース インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】フィリッペ ブラッサ
(72)【発明者】
【氏名】ミリアム メソット
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ベリー
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-143336(JP,A)
【文献】特開2008-303361(JP,A)
【文献】特開2017-082202(JP,A)
【文献】特開2016-056253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08B 15/00-15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再分散性セルロースナノクリスタル(CNC)であって、前記
再分散性CNCは、プロトン化アミン化合物から形成されるカチオン性基と滴定酸性基から形成されるアニオン性基との非共有イオン性付加物を含み、前記滴定酸性基は、前記
再分散性CNCの表面に位置し、前記滴定酸
性基は、硫酸塩ハーフエステルを含み、前記再分散性CNCは、単離された乾燥形態である、再分散性セルロースナノクリスタル。
【請求項2】
前記硫酸塩ハーフエステルが、未修飾であるまたは脱硫酸化されている、請求項1に記載の再分散性CNC。
【請求項3】
前記アミン化合物が、アミン末端ポリアルカン、アミン末端ポリアルキルエーテルまたはアミン末端ポリアルキレンイミンである、請求項1または2に記載の再分散性CNC。
【請求項4】
前記アミン化合物が、モノアミン末端ポリアルカン、モノアミン末端ポリアルキルエーテルまたはモノアミン末端ポリアルキレンイミンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の再分散性CNC。
【請求項5】
前記アミン化合物が、以下の式を有するモノアミン末端ポリアルキルエーテル:
R
1-[O(CH
2)
x]
a-[OCH
2CH(CH
3)]
b-NH
2
(前記ポリアルキルエーテルは、ホモポリマー、ABもしくはABAブロックコポリマー、または交互コポリマーであってもよく;
R
1は、H、または任意で置換された、1~14個の炭素原子の直鎖または分岐アルキルから選択され;または、R
1は、任意に置換された6~10個の炭素原子のアリールであり;または、R
1は、アルキル-アリーレン-基であり、ここで前記アルキルおよびアリーレン残基のそれぞれは、独立して任意に置換されており、さらに前記アルキル残基は、1~14個の炭素原子の直鎖または分岐アルキルであり、前記アリーレン残基は、6~10個の炭素原子を含み;
aまたはbは、それぞれ独立して、1~60の整数であり、任意に、ホモポリマーの場合、前記aまたはbの一方は、ゼロ(0)であってもよく;
xは、1~4の整数である)
である、請求項1~4のいずれか一項に記載の再分散性CNC。
【請求項6】
前記アミン化合物が、以下の式を有するアミン末端ポリアルキルエーテル:
【化1】
(式中、aおよびbは、それぞれ独立して、1~60の整数であり、任意に、ホモポリマーの場合、前記aまたはbの一方は、ゼロ(0)であってもよく;
モノマーbの各出現時のR
2は、エチレンオキシド(EO)ではR
2=H、プロピレンオキシド(PO)ではR
2=CH
3であり得る)
である、請求項1~4のいずれか一項に記載の再分散性CNC。
【請求項7】
ポリエチレン/ポリプロピレンオキシド比が、1/10~10/1である、請求項6に記載の再分散性CNC。
【請求項8】
前記アミン化合物が、300~5000g/molの分子量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の再分散性CNC。
【請求項9】
ペレット形態または成形された形態である、請求項1~8のいずれか一項に記載の再分散性CNC。
【請求項10】
単離された乾燥再分散性セルロースナノクリスタル(CNC)の製造方法であって、
i)硫酸を含む酸性CNCの水性懸濁液を準備すること;
ii)ある量のアミン化合物を酸性CNCの前記懸濁液と混合すること(前記量は、前記懸濁液のpHを、前記プロトン化アミン化合物のpKaを下回るまで上昇させるのに十分である);および
iii)ステップiiからの懸濁液を乾燥して、硫酸塩ハーフエステルを含む滴定酸
性基を有する前記再分散性CNCを製造すること、を含む、単離された乾燥再分散性セルロースナノクリスタル(CNC)の製造方法。
【請求項11】
前記アミン化合物と前記酸性CNC中の滴定酸
性基とのモル比が、1:1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アミン化合物と前記酸性CNC中の滴定酸
性基とのモル比が、懸濁液の前記pHが3~10の間であるようなものである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記懸濁液の前記pHが、7である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アミン化合物が、以下の式を有するモノアミン末端ポリアルキルエーテル:
R
1-[O(CH
2)
x]
a-[OCH
2CH(CH
3)]
b-NH
2
(前記ポリアルキルエーテルは、ホモポリマー、ABもしくはABAブロックコポリマー、または交互コポリマーであってもよく;
R
1は、H、または任意で置換された、1~14個の炭素原子の直鎖または分岐アルキルから選択され;または、R
1は、任意に置換された6~10個の炭素原子のアリールであり;または、R
1は、アルキル-アリーレン-基であり、ここで前記アルキルおよびアリーレン残基のそれぞれは、独立して任意に置換されており、さらに前記アルキル残基は、1~14個の炭素原子の直鎖または分岐アルキルであり、前記アリーレン残基は、6~10個の炭素原子を含み;
aまたはbは、それぞれ独立して、1~60の整数であり、任意に、ホモポリマーの場合、前記aまたはbの一方は、ゼロ(0)であってもよく;
xは、1~4の整数である)
である、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記アミン化合物が、以下の式を有するアミン末端ポリアルキルエーテル:
【化2】
(式中、aおよびbは、それぞれ独立して、1~60の整数であり、任意に、ホモポリマーの場合、前記aまたはbの一方は、ゼロ(0)であってもよく;
モノマーbの各出現時のR
2は、エチレンオキシド(EO)ではR
2=H、プロピレンオキシド(PO)ではR
2=CH
3である)
である、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
セルロースナノクリスタル(CNC)は、様々な方法によって針葉樹繊維などのセルロース系バイオマスから抽出することができる。ほとんどの工業的に生産されるセルロースナノクリスタルは、硫酸加水分解抽出プロセスによって結晶の表面に導入された滴定酸性硫酸塩ハーフエステル部分を含む。工業的には行われていないが、CNCは、硫酸の代わりにリン酸を使用することで製造することができ、それによって、リン酸塩ハーフエステル表面官能基となる。また、酸化によって生成または修飾することもでき、CNCにカルボン酸基を単独でまたは硫酸塩ハーフエステルと混合して与えることができる。
【0002】
酸性CNC懸濁液は、水中で完全に再分散可能とするために、商業生産中にアルカリ金属水酸化物で典型的には中和される。テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドなどの有機水酸化物を使用することもできる(S.Beckら、米国特許出願公開20110290149A;X.M.Dongら、Langmuir,第13巻、第2404~2409頁、1997)。中和に使用される塩基の種類により、粘度および自己組織化挙動などの懸濁液特性が変わる。しかし、ほとんどの有機溶媒および非極性マトリックス中での、乾燥した静電帯電CNCの再分散は、依然として困難である。乾燥CNCの再分散性に関しては、媒体が対イオンを溶媒和する能力も重要であり;溶媒は、高い誘電率を有することができるが、特定の対イオンを溶媒和し得ない。乾燥すると、セルロースナノクリスタルは、粒子間で顕著な水素結合を生じる。また、溶媒は、ナノメートル分散液を達成するために、これらのナノ粒子-ナノ粒子の相互作用を破ることができなければならない。
【0003】
高濃度の電解質は、CNC表面電荷を遮り、これは、二重層圧縮、静電反発力の減少、したがって粒子間距離の減少、それに続くセルロースナノクリスタルの凝集を引き起こす。荷電CNC懸濁液を乾燥させる場合に、抑制静電反発力がナノ結晶間の全体的な引力相互作用を克服することができない場合、再分散特性が悪影響を受け得る。その結果、例えば、高イオン強度媒体では、乾燥CNCの完全な再分散は困難である。
【0004】
種々の溶媒/ポリマーマトリックスにおけるCNCの分散を容易にするために、表面修飾CNCを提供するニーズがある。特に、複雑な化学反応、複数のステップを伴う有害な有機溶媒の使用を必要としない方法に対するニーズがある。さらに、表面修飾CNCおよび商業的に許容可能な製造コストで工業的規模でそれを製造する方法に対するニーズがある。
【発明の概要】
【0005】
一態様は、再分散性セルロースナノクリスタル(CNC)に関し、前記CNCは、プロトン化アミン化合物から形成されるカチオン性基と滴定酸性基から形成されるアニオン性基との非共有イオン性付加物を含み、前記滴定酸性基は、前記CNCの表面に位置し、前記滴定酸性基は、硫酸塩ハーフエステルまたはリン酸塩ハーフエステル、カルボン酸またはそれらの組合せを含み、前記再分散性CNCは、単離された乾燥形態である。
【0006】
一態様は、単離された、乾燥再分散性セルロースナノ結晶(CNC)の製造方法に関し、それは、
i)酸性CNCの水性懸濁液を準備すること;
ii)ある量のアミン化合物を酸性CNCの前記懸濁液と混合すること(前記量は、前記懸濁液のpHを、プロトン化アミン化合物のpKaをほぼ下回るまで上昇させるのに十分である);および
iii)ステップiiからの懸濁液を乾燥して、前記再分散性CNCを製造すること、を含む。
【0007】
一態様は、本明細書に記載される再分散性CNCを含むポリマー複合体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、異なるレベルの電荷密度でのCNC/アミン末端化合物付加物を示す。
【
図2】
図2は、異なる重量比でポリスチレンに分散されたCNCおよびJeffamine M-3085から調製された複合体の写真である。
【
図3】
図3は、異なる重量比でポリラクチドに分散されたCNCおよびJeffamine M-3085から調製された複合体の写真である。
【
図4】
図4は、異なる重量比でポリスチレン中に硫酸抽出されたCNCのナトリウム形態から調製された複合体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、再分散性CNCを提供する。本明細書に開示されるCNCは、エタノール、アセトン、トルエンおよびクロロホルムなどの非極性有機溶媒および極性有機溶媒に再分散可能である。CNCの本配合物はまた、ポリ乳酸などの極性ポリマーおよびポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリスチレンなどの非極性ポリマーに、CNCを適切に分散させるのに有用である。驚くべきことに、本開示は、水性系、特に分散を達成するために通常かなりの混合エネルギーを必要とする高イオン強度水性系での向上した再分散性を有する再分散性CNCも提供する。
【0010】
本明細書に開示される再分散性CNCは、先行技術に記載されているような、セルロースナノクリスタル上へポリマー鎖を共有結合的にグラフトする必要性を回避する。
【0011】
本開示は、前記CNCの製造方法を提供する。この方法は、市販のCNCまたは酸化もしくは脱硫酸などの方法で修飾されたCNCを使用して、水性媒体中で実施することができる。
【0012】
本明細書の方法において、プロトン化アミン化合物は、CNC滴定酸基(すなわち、ナノクリスタルの表面に位置する)からのアニオン性荷電基と非共有イオン性付加物を形成する。滴定酸基の内容は、最も一般的には、硫酸塩ハーフエステル、リン酸塩ハーフエステル、カルボン酸またはこれらの基の組合せであるが、これらに限定されない。
【0013】
アミン化合物が滴定酸基を含むCNC懸濁液に添加されると、そのアミン基は、CNC表面上の酸性基のプロトンを除去すると考えられ、これは以下の酸塩基中和反応により模式的に表すことができる。
CNC-OSO3
-H++アミン化合物→CNC-OSO3
- +アンモニウム化合物(式1)
CNC-COO-H++アミン化合物→CNC-COO- +アンモニウム化合物(式2)
CNC-OPO3
-H++アミン化合物→CNC-OPO3
- +アンモニウム化合物(式3)
H+-O3SO-CNC-COO-H++アミン化合物→アンモニウム化合物+ -O3SO-CNC-COO- +アンモニウム化合物(式4)
したがって、一実施形態では、再分散性セルロースナノクリスタル(CNC)が提供され、前記CNCは、アミン化合物と滴定酸基との反応から作られた非共有イオン性付加物を含み、前記滴定酸基は、前記CNCの表面に位置し、前記滴定酸基は、硫酸塩ハーフエステル、リン酸塩ハーフエステル、カルボン酸、またはそれらの組合せを含み、前記再分散性CNCは、単離された乾燥形態である。
【0014】
・CNC
本明細書で使用される「酸性CNC」は、そのナノクリスタルの表面に存在する中和可能な酸性プロトン(すなわち、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基またはそれらの組合せの)を有するCNCを指す。
【0015】
本開示によれば、使用され得る酸性CNCは、購入することができ、または強い鉱酸での制御された加水分解を用いる様々なアプローチから得ることができる。硫酸を使用すると、露出したセルロースの一次ヒドロキシル基の一部が部分的にエステル化され、ナノクリスタル表面に単一の負電荷を保持する硫酸塩ハーフエステル基が残る(J.-F.Revolら、米国特許第5,629,055号)。
【0016】
その表面電荷は、硫酸加水分解後の後処理での脱硫酸化(DS)によって減少させることができる(F.Jiangら、Langmuir,第26巻,第17919~17925頁,2010)。
【0017】
また、リン酸を使用して、リン酸ハーフエステルの導入を介して、同様の懸濁特性を有するセルロースナノクリスタルを生成することができる(S.C.Espinosaら、Biomacromolecules,第14巻,第1223~1230頁,2013)。
【0018】
木材パルプなどのバイオマスから酸化によってセルロースナノクリスタルを抽出することも可能である。そのような酸化プロセスは、ナノクリスタルの表面にカルボン酸を生成する。過硫酸塩を使用して、酸性環境で過酸化水素と同様に、荷電セルロースナノクリスタルのカルボキシル化形態を生成することができる(C.Woon Leungら、米国特許出願公開第2012/0244357号)(B.G.Refineries,2016年11月 <The R3TM Technology-Renewable>:http://bluegoosebiorefineries.com/our-technology/)。どちらの方法でも、カルボキシル化セルロースナノクリスタルが得られる。
【0019】
硫酸抽出セルロースナノクリスタルは、例えば、触媒TEMPO/NaOCl/NaBr系を使用することによってさらに酸化することができる(Y.Habibiら、Cellulose,第13巻,第679~687頁,2006)。この方法では、硫酸塩ハーフエステル基がそのまま残り、硫酸塩ハーフエステルとカルボン酸の両方を有する表面が得られる。
【0020】
セルロースナノクリスタルは、そのまま使用するか、または上記のように、脱硫もしくは酸化での抽出後にアミン化合物を添加する前に修飾して、異なる最終再分散特性を有する生成物を得ることができる。この追加ステップとアミン化合物の選択によって、乾燥CNCの分散性を調整することができる。
【0021】
一実施形態において、前記滴定酸基は、硫酸塩ハーフエステル(未修飾または脱硫酸化)、カルボン酸またはそれらの組合せを含む。一実施形態において、前記滴定酸基は、硫酸塩ハーフエステル(未修飾または脱硫酸化)を含む。一実施形態では、前記滴定酸基は、カルボン酸を含む。一実施形態では、前記滴定酸基は、硫酸塩ハーフエステル(未修飾または脱硫酸化)およびカルボン酸を含む組合せである。
【0022】
この方法では、アミン化合物と滴定酸の異なる化学量論比を使用することができるが、最適な再分散のためには少なくとも1対1の比が好ましい。
【0023】
セルロースナノクリスタルの初期表面電荷密度ならびに添加されるアミン化合物の量は、乾燥生成物の再分散性を制御する。
【0024】
本明細書で記載される再分散性CNCは、いくつかの重要な特徴を有する。乾燥生成物は、乾燥時にかなり低いかさ密度を有する。この材料のもう1つの注目すべき特徴は、プレス時により柔軟であることである。未処理のCNCとは異なり、乾燥生成物は、その材料をプレスするだけで再分散性の透明なペレットに成形することができる。そのような形態の変化は、その材料の取り扱いを改善し、その材料の他の形態で生じ得る粉塵を防ぐ。
【0025】
・アミン化合物
本開示は、アミン化合物、好ましくはアミン末端ポリアルカン、アミン末端ポリアルキルエーテルまたはアミン末端ポリアルキレンイミンなどのアミン末端化合物を使用して、アルカリ金属もしくは第四級アンモニウム水酸化物またはその塩ではなく、酸性CNCを中和する。
【0026】
より具体的には、モノアミンが再分散品質のために好ましい。アミン末端ポリアルカン、アミン末端ポリアルキルエーテルまたはアミン末端ポリエチレンイミンモノアミン化合物の分子量は、300~5000g/mol、より好ましくは2000~3000g/molであり得る。ポリマーアミンの分子量が高いほど、CNC-ポリマーアミン付加物をより広い範囲の溶媒に分散させることができる。
【0027】
アミン化合物は、塩基性であり、好ましくは10~12のアミンのpKaを有し、CNCの酸性基とアンモニウム塩を形成する。
【0028】
一実施形態では、アミン末端ポリアルキルエーテルは、以下の式を有し:
R1-[O(CH2)x]a-[OCH2CH(CH3)]b-NH2 (I)
前記ポリアルキルエーテルは、ホモポリマー、ABもしくはABAブロックコポリマー、または交互コポリマーであってもよい。
R1は、H、または任意で置換された、1~14個の炭素原子の直鎖または分岐アルキルから選択され、最も好ましくは、R1は、CH3であり;または、R1は、任意に置換された6~10個の炭素原子のアリールであり;または、R1は、アルキル-アリーレン-基であり、ここで前記アルキルおよびアリーレン残基のそれぞれは、独立して任意に置換されており、さらに前記アルキル残基は、1~14個の炭素原子の直鎖または分岐アルキルであり、前記アリーレン残基は、6~10個の炭素原子を含む。
aまたはbは、それぞれ独立して、1~60または1~50の整数であり、任意に、ホモポリマーの場合、前記aまたはbの一方は、ゼロ(0)であってもよい。
xは、1~4の整数であり、好ましくはエチレンオキシドの場合、2である。メチレンオキシド(x=1)、トリメチレンオキシド(x=3)、またはテトラメチレンオキシド(x=4)ベースのポリアルキルエーテルも考えられる。
【0029】
一実施形態では、アミン末端ポリアルキルエーテルの式(I)において、R1は、CH3であり;aまたはbは、それぞれ独立して1~60の整数であり;xは、2である。
【0030】
エチレンオキシド(EO)ベース、プロピレンオキシド(PO)ベース、または異なる比率の両方のモノマーを有するコポリマーが好ましいが、ポリ(テトラメチレングリコール)などの他のタイプのアミノ末端ポリアルキルエーテルも使用することができる。
【0031】
一実施形態は、アミン末端ポリエチレンオキシド、アミン末端ポリプロピレンオキシドまたはアミン末端ポリエチレン/ポリプロピレンオキシドを含む。一実施形態では、アミン末端ポリエチレン/ポリプロピレンオキシドは、1/10~10/1のPO/EO比を有する。
【0032】
一実施形態では、アミン末端ポリアルキルエーテルの例は、以下の式を有するものが挙げられる:
【化1】
式中、aおよびbは、上記定義のとおりであり、モノマーbの各出現時のR2は、エチレンオキシド(EO)ではR2=H、プロピレンオキシド(PO)ではR2=CH
3であり得る。一実施形態では、ポリエチレン/ポリプロピレンオキシド(PO/EO)比は、1/10~10/1であり、好ましくは、分子量は、300~5000g/mol、より好ましくは600~3000g/molであってもよい。
【0033】
特に、アミン末端ポリアルキルエーテルの例は、上記式において以下のものが挙げられる。
【表1】
【0034】
一実施形態では、アミン末端ポリアルキルエーテルのさらなる例は、以下を含む:
CH
3(CH
2)
12-OCH
2CH(CH
3)-OCH
2CH(CH
3)-NH
2(Huntsman社のカタログ番号XJT-435とも呼ばれる);および
【化2】
(Huntsman社のカタログ番号XTJ-436とも呼ばれる)
アミン末端ポリアルキルエーテルの分子量は、500~3000g/molであってもよい。
一実施形態では、アミン末端ポリアルカンは、式:R
11-NH
2 を有し、
式中、R
11は、任意に置換された、3~18個の炭素原子の直鎖または分岐アルキルから選択される。
【0035】
そのような化合物の例は、n-プロピルアミンまたはn-オクチルアミンである。
【0036】
アミン末端ポリアルカンの分子量は、50~500g/molであってもよい。
【0037】
適切な分散を促進するために、アミン化合物は、対象の再分散溶媒に可溶であることが望ましい。実施例4の場合、Jeffamine M-2070は主にポリエチレングリコールベースであり、シクロヘキサンに可溶ではないのに対し、主にポリプロピレングリコールベースのM-2005は、可溶である。TEMPO酸化CNC/M-2070サンプルは、シクロヘキサンで良好な再分散能力を示さないのに対し、M-2005を使用すると特定の溶媒で良好な再分散が得られることが分かった。再分散のために、特定の付加物配合物で使用されるアミン化合物が、対象の媒体と適合することが有益である。
【0038】
・再分散性CNCの調製方法
アミン化合物からのアミン基は、CNC表面の硫酸塩またはリン酸塩ハーフエステルまたはカルボン酸基に結合したプロトンを除去し、したがって、ナノクリスタルの表面と、アミン化合物の鎖の末端基との両方をイオン化する。これにより、アミン化合物は、ナノクリスタルの表面に位置するアニオン性荷電基と非共有イオン性付加物を形成することができる。このイオン結合は、極性の低い溶媒ではより強くなる。アミン化合物の鎖は、乾燥形態でのナノクリスタルの充填を立体的に妨げ、有機溶媒ならびに低イオン強度または高イオン強度の水性媒体でのその乾燥材料の再分散を向上すると考えられる。
【0039】
セルロースナノクリスタルの酸基とアミン化合物のアミノ末端基との間のプロトン交換は、先行技術で述べられているような工業的に困難な条件下で数時間かかるグラフト反応とは対照的に、迅速である。
【0040】
一実施形態では、酸性CNCの水性懸濁液は、約0.1~約10重量/重量%、または好ましくは5~8重量/重量%の酸性CNCを含む。
【0041】
一実施形態では、前記アミン化合物中のアミンと酸性CNC中の滴定酸基とのモル比は約1:1であってもよい。あるいは、アミン化合物の混合物は、水酸化ナトリウムなどの従来の塩基と一緒に使用することができる。一実施形態では、アミン化合物のモル量は、懸濁液の最終pHがアミン化合物のpKaを下回り、アミン基をその荷電カチオン状態に保つような量である。一実施形態では、前記量は、前記懸濁液のpHを3~10、より好ましくは6~9の値に上昇させるのに十分である。一実施形態では、懸濁液の最終pHは、ほぼ中性(すなわち約7)である。
【0042】
一実施形態では、酸性形態のCNC懸濁液から再分散性CNCを調製するための本明細書に開示される方法は、さらなる精製ステップを必要としない。
【0043】
一実施形態では、乾燥ステップは、空気乾燥、真空蒸発、凍結乾燥または噴霧乾燥のうちの1つ以上を含むことができる。
【0044】
・表面電荷密度と鎖間の相互作用の形態
図1は、異なるレベルの電荷密度でのCNC/アミン末端化合物付加物を示す。より高い表面電荷密度は、より多くの滴定酸性部位が利用可能であるため、より多くのアミン化合物吸着を可能にする。これにより、ナノ粒子の周囲の立体的反発が増大することなる。CNC/溶媒相互作用が好ましくない非極性媒体での再分散には、CNCを完全に被覆することが必要であり;アミン化合物の鎖は、その粒子を溶媒から効果的に覆う。
【0045】
アミン化合物の鎖とCNC表面との間の相互作用の形態は、克服するのが困難であり得る乾燥形態の凝集および強い粒子-粒子を防止している(S.Beckら、Cellulose,第22巻,第101~116頁,2015)。
【0046】
比較のために、アミン末端ポリエーテルの代わりに通常の非イオン性ポリエチレングリコールを添加しても、有機溶媒中の乾燥CNCの再分散は改善されない。ポリエチレングリコールは、ナノクリスタルの表面上に平らに横たわっていると仮定されており、これは、
図1に示されているものとは対照的に、最小の立体的反発となる(H.Oguzluら、Cellulose,第24巻,第131~146頁,2017)。
【0047】
・ポリマーにおける分散
CNCの1つの用途は、ポリマーナノ複合体の分野である。CNCは、その卓越した特定の機械的特性、ナノスケールの寸法、および高いアスペクト比により、ポリマーマトリックスの強化に適した候補と考えられる。
【0048】
複合材料へのCNCの組み込みは、例えば、輸送部門のために特別に標的化されたコンポーネントの軽量化を支援する。さらに、サイジング剤としてグラスファイバーなどの他の強化繊維と共にCNCを使用すると相乗効果があることが示されている。最後に、ポリ乳酸(PLA)などのバイオ由来ポリマーにおけるバイオベースの強化剤を使用すること、およびCNCを組み込むことにより天然ゴムの生分解性を改善することに対して、市場の需要がある。
【0049】
CNCが補強を提供するために、セルロースナノクリスタルは、ナノスケールで分散し、ポリマーマトリックス内に均一に分布しなければならない。一度この状態になり、臨界閾値を超えると、CNC粒子がポリマーマトリックス内で3次元ネットワークを形成できることが広く報告されている。さらに、CNCが最大の補強を提供できるようにするには、CNC表面とポリマーマトリックスとの間に強い相互作用と適合性がなければならない。
【0050】
本開示は、様々なポリマーマトリックス中のCNC噴霧乾燥凝集体のナノメートル分散を促進する再分散性CNCを提供する。モノアミンポリマーの鎖長と化学構造を調整することにより、ポリオレフィン(ポリエチレンおよびポリプロピレン)などの疎水性ポリマーのナノメートル分散を達成できると考えられる。構造を調整すると、ポリウレタンおよびエポキシポリマーなどのより極性の高いポリマーにおける良好な分散が期待される。
【0051】
以下の実施例は、本発明の化合物の調製および使用の詳細をさらに説明するために提供される。それらは、決して本開示の範囲を制限することを意図したものではなく、そのように解釈されるべきではない。さらに、以下の実施例に記載される化合物は、本発明とみなされる唯一の部類を形成すると解釈されるべきではなく、化合物の任意の組み合わせまたはそれらの部分自体が部類を形成し得る。
【実施例】
【0052】
試験したCNCサンプルの非網羅的リストおよびそれらの滴定酸量を表1に示す。滴定酸量は、文献(S.Beckら、Cellulose,第22巻,第101~116頁,2015)に記載されている方法を使用して、水酸化ナトリウムに対する酸性CNC懸濁液の電気伝導度滴定によって測定した。硫酸抽出CNCサンプルは、CelluForceおよびUS Forest Products Laboratory(USFPL)から入手した(ロット番号2018-FPL-CNC-116)。過硫酸塩抽出CNCは、カナダ国立研究機関(NRC)から入手した。部分脱硫酸化CNCとTEMPO酸化酸性CNCは、カナダ ケベック州のPoint-ClaireにあるFPInnovationの実験室で調製した。再分散試験のために、固体サンプルを噴霧乾燥または凍結乾燥形態で準備または作成した。
【0053】
【0054】
以下に、試験した異なる溶媒の範囲を開示する:
【表3】
【0055】
再分散の質はまた、以下のように定性的に評価する:
・優れた分散:透き通った安定した分散(少なくとも24時間)
・普通の分散:より高いヘイズまたは濁度の安定した分散(少なくとも24時間)
・不良:ミクロンサイズの凝集体を有する不安定な分散
【0056】
例1)タイプ2 CNC:凍結乾燥硫酸抽出CNC:極性溶媒(誘電率>20)(水、エタノール、アセトンおよびエチレングリコール)中の分散
Huntsman社の市販のポリエーテルアミン(Jeffamine(商標)M-2070、分子量2000g/mol)を、pH7になるまで、2重量%の硫酸抽出酸性CNC懸濁液(pH2.3~3.0、CelluForce CNCの場合は240mmol/kgの滴定酸、USFPL CNCの場合は340mmol/kgの滴定酸)200gに溶解した。Jeffamine(商標)M-2070は、テストした3つの溶媒すべてに混和する。次いで、その懸濁液を真空下で凍結乾燥し、20mLの溶媒中の200mgの乾燥した材料(1重量/体積%の最終固体濃度)を使用して固体生成物を再分散させた。その懸濁液を、最大振幅で2000Jのエネルギー入力で8mmプローブソニケーター(Cole-Parmer、米国)を使用して超音波処理した。次いで、粒子サイズの適切な測定のため、その懸濁液を適切な溶媒で20倍に希釈して、0.05重量/体積%の最終濃度にした。超音波処理は、ナノメートル分散を達成するために必須ではないが、粒子サイズを縮小する。得られた懸濁液中のCNCの粒子サイズを、動的光散乱(DLS)によって測定し、表2に示す。通常、200nm未満の粒子サイズは、優れた分散の指標である。
【0057】
【0058】
例2)タイプ2 CNC:噴霧乾燥した硫酸抽出CNC:極性溶媒(エタノール、アセトンおよびエチレングリコール)中の分散
乾燥硫酸抽出CNC/M-2070付加物も噴霧乾燥によって調製した。簡単に説明すると、CelluForceの4.35重量%の硫酸抽出酸性CNC懸濁液を、pH7になるまでJeffamineTM M-2070で中和した。次に、その懸濁液を噴霧乾燥した。収集した固体を、実施例1に記載したのと同じ方法で再分散した。その生成物の性能は、凍結乾燥サンプルと非常に類似しており、アセトン中の分散のみがわずかに大きい粒子サイズを示した。すべての懸濁液は、再分散後少なくとも24時間安定だった。
【0059】
【0060】
例3)タイプ4 CNC:凍結乾燥した過硫酸塩抽出CNC:極性溶媒(エタノール、アセトンおよびエチレングリコール)中の分散
製品をカナダ国立研究機関(NRC)から入手した。酸性過硫酸塩抽出CNC懸濁液を得るために、最初に酸性形態の強酸カチオン交換樹脂カラム(Dowex(商標) Marathon C)を通過させた。Jeffamine(商標)M-2070を、pH7になるまで、2重量%の過硫酸塩抽出酸性CNC懸濁液(620mmol/kg滴定酸、pH3.1)200gに溶解した。次いで、生成物を凍結乾燥し、前述のように超音波処理によって再分散させた。生成物は、水、ならびにエタノールおよびエチレングリコールに優れた再分散性を示す。生成物はまた、実施例1および2と比較して、アセトン中の小さな再分散粒子サイズ、ならびに向上した透明性、良好な再分散性を示す。
【0061】
【0062】
例4)タイプ5 CNC:凍結乾燥したTEMPO酸化CNC:非極性溶媒(誘電率<5)(クロロホルム、トルエンおよびシクロヘキサン)中の分散
CNCの表面へのポリマーのより高い表面被覆率は、非極性媒体中にCNCを再分散させるときに有用な、良好な立体的安定化を導入するであろう。この実験では、CelluForceの硫酸抽出CNCを、文献(Y.Habibiら、Cellulose,第13巻,第679~687頁,2006)からの適応手順を使用して酸化した。簡単に説明すると、0.03当量のTEMPO触媒の無水グルコースユニットを2重量%のCNC懸濁液に添加した。次に、完全に溶解するまで撹拌しながら、0.25当量の臭化ナトリウムをCNC懸濁液に加えた。懸濁液のpHを10に設定し、水酸化ナトリウムを使用して反応全体を通じて一定に保った。0.4当量の一次酸化剤の次亜塩素酸ナトリウムを滴下し、反応を1時間撹拌し続けた。最後に、懸濁液を12~14kDaの分子量カットオフセロファン膜で透析した。透析およびカチオン性樹脂処理後の電気伝導度滴定によって測定して、最終的な酸量は、1000mmol/kgであった。
【0063】
酸性CNC懸濁液を得るために、酸化後、懸濁液を酸性形態の強酸カチオン交換樹脂カラムに通した。市販のポリエーテルアミン(Jeffamine(商標))を、対象の溶媒への溶解度に基づいて選択し(クロロホルムとトルエンの場合はM-2070、シクロヘキサンの場合はM-2005)、pH7になるまで、2重量%のTEMPO酸化酸性CNC懸濁液(1000mmol/gの合計滴定酸、pH2.5)200gに溶解した。次に、得られた懸濁液を凍結乾燥した。簡単に説明すると、200mgの乾燥生成物を20mLの溶媒に加えた。懸濁液は、5000Jの超音波処理エネルギーを適用したシクロヘキサンを除き、2000Jのエネルギー入力で超音波処理した。次いで、粒子サイズの適切な測定のため、その懸濁液を適切な溶媒で20倍に希釈して、0.05重量/体積%の最終濃度にした。得られた懸濁液中の粒子サイズをDLSで測定し、表5に報告する。
【0064】
【0065】
例5)タイプ2 CNC:凍結乾燥したCelluForce硫酸抽出CNC:水性媒体中の再分散性の向上
ポリエーテルアミンの添加はまた、水系における乾燥セルロースナノクリスタルの分散にも有用である。懸濁媒体に再分散した後、乾燥ナノ粒子が未乾燥材料の元の懸濁特性(粒子サイズなど)を保持することが、典型的には目的である。表3は、市販のCNCと、修飾ポリエーテルアミン/硫酸抽出CNC付加物の純水中の再分散した粒子サイズを報告する。簡単に説明すると、200mgの乾燥材料を20mLの脱イオン水に加えた。懸濁液をそれぞれ1分間ボルテックスし、約30分間放置した。その懸濁液を20倍に希釈して、0.05重量/体積%の最終濃度にした。乾燥前後のDLS実験による粒子サイズの測定結果を表3に示す。
【0066】
すべての場合において、ポリエーテルアミンを含むサンプルは、CelluForceから入手した水酸化ナトリウム中和した硫酸抽出CNC(Na-CNC)よりも小さい再分散粒子サイズを有していた。比較のために、同様の分子量のポリエチレングリコールを、凍結乾燥の前に中性硫酸抽出懸濁液に加えて、このようなサンプルの再分散性を評価した。再分散した粒子サイズはわずかに減少するが、ポリアルキルエーテルアミンを使用した場合ほど重要ではない。これは、PEGではイオン結合が不可能であるため、ポリマーとCNC表面との間の相互作用のさまざまな形態が原因である可能性がある。その結果、非アミン末端ポリアルキルエーテルは、CNCの乾燥形態に組み込まれた場合、同じ能力を示さない。
【0067】
【0068】
さらに、ブラインまたは塩水などの高イオン強度媒体中の乾燥材料の直接再分散が可能である。ある程度の凝集のためにそのような懸濁液の粒子サイズは大きいが、24時間を超えて安定した懸濁液が達成される。
【0069】
例6)タイプ1 CNC:凍結乾燥脱硫酸化CNC:水性媒体中の分散
非常に低い表面電荷の脱硫酸化CNC(滴定酸量60mmol/kg)のポリエーテル修飾も、乾燥状態から水へのその再分散を向上する。文献(L.Lewisら、Biomacromolecules,第17巻,第2747~2754頁,2016)からの適応方法を使用して、脱硫酸化CNCを製造した。簡単に説明すると、pH2.3になるまで、HClを2重量%のCelluForceの硫酸抽出CNC懸濁液に添加した。次いで、懸濁液を、トリエチレングリコールに浸した密閉ステンレス鋼容器内で、水熱条件下で150℃で30分間加熱した。滴定酸量を、精製した物質の電気伝導度滴定によって分析した。処理後、懸濁液を12~14kDaの分子量カットオフセロファン膜を使用して透析し、次いで、酸性イオン交換樹脂で処理した。通常、これらの低電荷レベルのCNC懸濁液は、不安定であり、水酸化ナトリウムまたは水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAOH)などの水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用して中和すると、凝集する傾向があり、再分散しにくくなる。ポリエーテルアミンを使用すると、非常に低電荷のCNC粒子でさえも、超音波処理を使用せずに、乾燥状態から再分散可能になる。適切な塩基(NaOH、TBAOHまたはM-2070)を使用して、pH7まで懸濁液を中和することによって、サンプルを調製した。次いで、再分散評価のために懸濁液を凍結乾燥した。
【0070】
分散試験のために、200mgの凍結乾燥材料を20mLの脱イオン水に加えた。懸濁液をそれぞれ1分間ボルテックスし、T25 Ultra Turrax(商標)高せん断ミキサー(IKA)で5分間混合した。その懸濁液を20倍に希釈して、0.05重量/体積%の最終濃度にした。DLS実験による乾燥前後の粒子サイズの測定結果を表4に示す。その表面にM-2070ポリエーテルアミンを有する脱硫酸CNCのみが、満足できる粒子サイズで再分散することができた。
【0071】
【0072】
例7)タイプ5 CNC:凍結乾燥TEMPO酸化CNC:表面電荷密度とポリマー鎖長または組成による分散特性の調整可能性
高表面電荷CNC粒子とより短いポリエーテルアミン鎖との組合せは、低電荷CNC粒子とより長いポリマー鎖との組合せとは異なる分散特性をもたらす。エタノール、アセトンおよびエチレングリコール中の再分散したTEMPO酸化CNC/Jeffamine M-1000乾燥材料の粒子サイズを表8に示す。サンプルは、エタノール中でより小さい再分散粒子サイズを示し、これは良好な再分散を示している(112対175nm)。サンプルは、例1、2および3の前述のサンプルとは異なり、エチレングリコール中で同様の粒子サイズを示し、アセトン中で安定した分散液を形成することができなかった。
【0073】
【0074】
例8)タイプ2および3 CNC:凍結乾燥した硫酸抽出CNC:非極性溶媒(クロロホルム、トルエンおよびシクロヘキサン)中の分散
この例では、Huntsman社の市販のポリエーテルアミン(Jeffamine(商標)M-3085、分子量3000g/mol)を、pH7になるまで、2重量%の硫酸抽出酸性CNC懸濁液(pH2.3~3.0、CelluForce CNCの場合は240mmol/kgの滴定酸、USFPL CNCの場合は340mmol/kgの滴定酸)200gに溶解した。次に、得られた中性懸濁液を凍結乾燥した。再分散のために、200mgの乾燥材料を20mLの溶媒(1重量/体積%の最終固形分濃度)に入れた。懸濁液を、最大振幅で2000Jのエネルギー入力で8mmプローブソニケーター(Cole-Parmer、米国)を使用して超音波処理した。次いで、粒子サイズの適切な測定のため、その懸濁液を適切な溶媒で20倍に希釈して、0.05重量/体積%の最終濃度にした。粒子サイズを表9に報告する。CelluForceの硫酸抽出CNCとJeffamine M-3085の組合せは、クロロホルムおよびトルエンなどの非極性溶媒に再分散可能であることが分かった。USFPLの硫酸抽出CNCは、クロロホルムに再分散可能だった。サンプルは、シクロヘキサンに再分散しなかった。
【0075】
【0076】
例9)タイプ2 CNC:凍結乾燥した硫酸抽出CNC:極性非プロトン性溶媒(メチルエチルケトン(ε=18.5)および酢酸エチル(ε=6))中の分散
この例では、Huntsman社の市販のポリエーテルアミン(Jeffamine(商標)M-3085、分子量3000g/mol)を、pH7になるまで、2重量%の硫酸抽出酸性CNC懸濁液(pH2.3~3.0、240mmol/kgの滴定酸)200gに溶解した。次に、得られた中性懸濁液を凍結乾燥した。再分散のために、200mgの乾燥材料を20mLの溶媒(1重量/体積%の最終固形分濃度)に入れた。懸濁液を、最大振幅で2000Jのエネルギー入力で8mmプローブソニケーター(Cole-Parmer、米国)を使用して超音波処理した。次いで、粒子サイズの適切な測定のため、その懸濁液を適切な溶媒で20倍に希釈して、0.05重量/体積%の最終濃度にした。粒子サイズを表10に報告する。生成物は、メチルエチルケトンおよび酢酸エチルに再分散可能である。
【0077】
【0078】
例10)タイプ2 CNC:Jeffamine XTJ-436を用いたCelluForceの凍結乾燥した硫酸抽出CNC付加物)
この例では、疎水性Jeffamine XTJ-436、分子量1000g/molを用いて、pH7になるまで、2重量%のCelluForceの硫酸抽出酸性CNC懸濁液(pH2.3~3.0、240mmol/kgの滴定酸)200gを中和する。この特定のJeffamineは水溶性が低いため、懸濁液中のJeffamineの適切な分布を確保するために、IKA(登録商標)ULTRA-TURRAX T-25分散機を用いて、22kRPMで、懸濁液を均質化した。次に、得られた中性懸濁液を凍結乾燥した。再分散のために、200mgの乾燥材料を20mLの溶媒(1重量/体積%の最終固形分濃度)に入れた。懸濁液を、最大振幅で2000Jのエネルギー入力で8mmプローブソニケーター(Cole-Parmer、米国)を使用して超音波処理した。次いで、粒子サイズの適切な測定のため、その懸濁液を適切な溶媒で20倍に希釈して、0.05重量/体積%の最終濃度にした。粒子サイズを表11に報告する。乾燥生成物がエタノールに再分散可能であることがわかる。
【0079】
【0080】
例11)タイプ2 CNC:凍結乾燥した硫酸抽出CNC:極性溶媒(水、エタノール、アセトンおよびエチレングリコール)中の分散
Huntsman社の市販のポリエーテルアミン(Jeffamine(商標)M-1000、分子量2000g/mol)を、pH7になるまで、2重量%の硫酸抽出酸性CNC懸濁液(pH2.3~3.0、CelluForce CNCの場合は240mmol/kgの滴定酸、USFPL CNCの場合は340mmol/kgの滴定酸)200gに溶解した。次に、その懸濁液を凍結乾燥し、20mLの溶媒中の200mgの乾燥材料(1重量/体積%の最終固形分濃度)を用いてその固体生成物を再分散した。懸濁液を、最大振幅で2000Jのエネルギー入力で8mmプローブソニケーター(Cole-Parmer、米国)を使用して超音波処理した。次いで、粒子サイズの適切な測定のため、その懸濁液を適切な溶媒で20倍に希釈して、0.05重量/体積%の最終濃度にした。超音波処理は、ナノメートル分散を達成するために必須ではないが、粒子サイズを縮小する。得られた懸濁液中のCNCの粒子サイズを、動的光散乱(DLS)によって測定し、表12に示す。硫酸抽出CNCの両方のサンプルについて、良好な再分散性を有するJeffamine M-1000付加物の溶媒範囲が狭いことがわかる。水とエチレングリコールで優れた再分散特性が見られたのに対して、エタノール中のサンプルは、粒子サイズが大きく、再分散がより困難であることを示している。生成物は、アセトンに再分散しなかった。
【0081】
【0082】
例12)タイプ2 CNC:凍結乾燥した硫酸抽出CNC:乾燥生成物からの透明フィルムの形成
この特許に記載された方法から製造した乾燥生成物は、圧縮によってフィルムを含む透明な形態にペレット化または成形することができる。標準的な手順では、例1の乾燥したCelluForceのCNC/M-2070ポリエーテルアミン付加物100mgをCrushIRデジタル油圧プレス(PIKE)に置いた。2.5、5または10トンの力を加えて20秒間保持することで、3つの異なるサンプルを生成した。そのサンプルを回収し、透明度を目視検査によって定性的に評価した。例1および2の凍結乾燥および噴霧乾燥形態の両方が、この性質を示す。
【0083】
例13)タイプ2 CNC:クロロホルムからの溶液キャスティングを使用したCelluForce 硫酸抽出CNC/Jeffamine M-3085付加物のポリスチレンへの組み込み
Jeffamine M-3085で中和したCelluForceの硫酸抽出CNCの乾燥付加物を、超音波処理を用いて、3重量/体積%の濃度でクロロホルム中に再分散する。ペレットが完全に溶解するまで、磁気撹拌することで、ポリスチレン(M.W.192,000g/mol、Sigma-Aldrich社製)の3重量/体積%の溶液を調製する。ポリマー/CNC複合体を調製するために、CNC懸濁液を異なる量でポリマー溶液に加えて、CNC付加物/ポリマーの最終質量比を1、10および50重量%とする。ドラフト内でクロロホルムを乾燥させることにより、固体フィルムが得られる。複合体(
図2)は、CNCの含有量が多い場合でも透明であり、これは粒子サイズが小さいことを示している。サンプルの青色の色相も増大しており、これはCNCによる光の散乱が原因である。
【0084】
例14)タイプ2 CNC:クロロホルムからの溶液キャスティングを使用した市販のポリ乳酸樹脂へのCelluForceの硫酸抽出CNC/Jeffamine M-3085付加物の組み込み
Jeffamine M-3085で中和したCelluForceの硫酸抽出CNCの乾燥付加物を、超音波処理を用いて、3重量/体積%の濃度でクロロホルム中に再分散する。ペレットが完全に溶解するまで、磁気撹拌することで、ポリ乳酸樹脂(NatureWorks社のIngeo(商標) Biopolymer 2003D)の3重量/体積%の溶液を調製する。ポリマー/CNC複合体を調製するために、CNC懸濁液を異なる量でポリマー溶液に加えて、CNC付加物/ポリマーの最終質量比を1、10および50重量%とする。ドラフト内でクロロホルムを乾燥させることにより、固体フィルムが得られる。複合体(
図3)は、透明であり、これは粒子サイズが小さいことを示している。サンプルの青色の色相も増大しており、これはCNCによる光の散乱が原因である。
【0085】
例15)タイプ2 CNC:クロロホルムからの溶液キャスティングを使用したナトリウム形態CelluForceの硫酸抽出CNCのポリスチレンへの組み込み
乾燥ナトリウム形態のCelluForceの硫酸抽出CNCを、超音波処理を用いて、3重量/体積%の濃度でクロロホルム中に再分散する。ペレットが完全に溶解するまで、磁気撹拌することで、ポリスチレン(M.W.192,000g/mol、Sigma-Aldrich社製)の3重量/体積%の溶液を調製する。ポリマー/CNC複合体を調製するために、CNC懸濁液を異なる量でポリマー溶液に加えて、CNC付加物/ポリマーの最終質量比を1、10および50重量%とする。ドラフト内でクロロホルムを乾燥させることにより、固体フィルムが得られる。複合体(
図4)は、乾燥CNCの目に見える凝集体を示しており、これは粒子のナノメートル分散が達成されていないことを示している。
【0086】
引用された参考文献はすべて、参照により本明細書に完全に組み込まれる。