(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】形状記憶合金ワイヤおよび相変化材料粒子を有するコーティングを含むアクチュエータアセンブリ
(51)【国際特許分類】
F03G 7/06 20060101AFI20230728BHJP
【FI】
F03G7/06 D
(21)【出願番号】P 2019570015
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 IB2018054853
(87)【国際公開番号】W WO2019003198
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】102017000073563
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511020829
【氏名又は名称】サエス・ゲッターズ・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・チトロ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・フリジェリオ
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0083431(US,A1)
【文献】特開2004-301227(JP,A)
【文献】特開2003-129945(JP,A)
【文献】特開昭61-193670(JP,A)
【文献】特開2005-098241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金ワイヤで作られたコアと、前記コアの少なくとも一部に適用されたまたは形成された電気絶縁材料で作られたコーティングとを含み、
前記コーティングには相変化材料(PCM)粒子が分布し、
コーティング中に分散された相変化材料粒子の重量と、コーティングが適用されたまたは形成された形状記憶合金ワイヤ部分の重量との間の比が
7から
16の間であることを特徴とする、アクチュエータアセンブリ。
【請求項2】
前記コーティングが、形状記憶合金ワイヤの長さの少なくとも80%に適用されているまたは形成されている、請求項1に記載のアクチュエータアセンブリ。
【請求項3】
形状記憶合金ワイヤの直径が、0.1mmから0.8mmの間である、請求項1または2に記載のアクチュエータアセンブリ。
【請求項4】
コーティングの厚さが、0.1mmから3mmの間である、請求項1から3の何れか一項に記載のアクチュエータアセンブリ。
【請求項5】
形状記憶合金ワイヤが、Ni-Ti系合金で作られている、請求項1から4の何れか一項に記載のアクチュエータアセンブリ。
【請求項6】
前記コーティング材料が、プラスチックおよび熱可塑性ポリマー材料、熱硬化性ポリマー材料、樹脂、およびシリコーンから選択される、請求項1から5の何れか一項に記載のアクチュエータアセンブリ。
【請求項7】
前記相変化材料粒子が、有機または無機化合物、脂肪酸、エステル、塩、水和物またはワックス、好ましくはパラフィンワックスで作られている、請求項1から6の何れか一項に記載のアクチュエータアセンブリ。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の1つ以上のアクチュエータアセンブリを備える能動システム。
【請求項9】
前記能動システムが、能動織物である、請求項
8に記載の能動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶合金(SMA)ワイヤの熱処理の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチュエータの一部としての形状記憶合金ワイヤおよびアクチュエータシステムの使用については、例えばマイクロモーターなど、技術的に同等な解決方法と比較して、それらの簡便性、多くのデバイスにおける一体化の容易性、およびコストが低いことに起因して、さらにその真価が認められている。
【0003】
形状記憶合金ワイヤを採用するアクチュエータアセンブリおよびアクチュエータシステムは、従来技術において知られている。本出願人による国際公開第2016/156283号は、例えば、緊急用アクチュエータを有するロックに関する。本出願人による欧州特許第2615951号明細書は、複数の飲料の自動販売機に取り付けられたバルブのためのアクチュエータシステムを記載する。本出願人による欧州特許第2171183号明細書は、作動温度の範囲が広がったアクチュエータを記載する。国際公開第2015/150377号は、家庭用機器におけるアクチュエータ要素を記載する。
【0004】
上述の特許刊行物は、如何に形状記憶合金ワイヤの特徴を上手く利用するか、特にジュール効果により加熱されたときに、マルテンサイト系微細構造からオーステナイト系微細構造への相転移により力を生じるそれらの性能を教示する、多くの他の文献の中のいくつかの例に過ぎない。上記例において、形状記憶合金ワイヤは、直線状の構成で配置され、ワイヤの線形の短縮の結果として力が生じる。米国特許第9068561号明細書に記載されるものなど、他の例および用途が存在し、らせん状に巻かれるように形状記憶合金ワイヤを配置する可能性が想定される。
【0005】
他の用途は、ボディマッサージ機に関する国際公開第2016/153917号、または船の帆を制御および調整する手段としてのSMAワイヤの使用を教示する欧州特許第2782824号明細書において開示されるように、布または織物中に組み込まれる特定のパターンに従って配置される複数のSMAワイヤの使用を想定する。
【0006】
頻繁に作動される形状記憶合金ワイヤに基づくアクチュエータシステムは、ワイヤの熱処理を必要とする。実は、熱はそれぞれの作動サイクルにおいて生成され、経時的にSMAワイヤアクチュエータまたはアクチュエータシステムの動作を維持するために、残留する熱は適切に管理されなくてはならない。米国特許第9068561号明細書は、熱伝導体である電気絶縁性コーティングを用いて残留する熱を如何に管理するかを教示する。米国特許第6835083号明細書は、それぞれの作動サイクルの後冷却を改善することを可能にする封入シースを有する形状記憶合金ワイヤを記載する。
【0007】
相変化材料(PCM)を使用することによるSMAワイヤを採用するアクチュエータの熱処理も知られており、これは吸収特性を示し、例えば固体と液体との間の相転移を生じたとき、大量の熱を放出する。米国特許第8739525号明細書は、如何にこのような材料を使用し得るかの例を記載する。PCMビーズは、例えば、SMAワイヤ上のコーティングとして適用される熱伝導性ポリマーマトリックス内に分散され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/156283号
【文献】欧州特許第2615951号明細書
【文献】欧州特許第2171183号明細書
【文献】国際公開第2015/150377号
【文献】米国特許第9068561号明細書
【文献】国際公開第2016/153917号
【文献】欧州特許第2782824号明細書
【文献】米国特許第6835083号明細書
【文献】米国特許第8739525号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
SMAワイヤを採用するアクチュエータおよびアクチュエータシステムの多くの例における有効性にもかかわらず、SMAワイヤの熱処理に関する限り、改善された解決方法を見つける必要性が未だ存在し、これが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、形状記憶合金ワイヤで作られたコア、および前記形状記憶合金ワイヤの少なくとも一部に適用されるコーティングを有するアクチュエータ要素であり、コーティングは相変化材料(PCM)の粒子を含み、コーティング中に分散されたまたは分布した相変化材料粒子の重量と、コーティングが適用されたまたは形成された形状記憶合金ワイヤ部分の重量との間の比が1から30の間であることを特徴とする。
【0011】
重量比は、アクチュエータ要素のSMAワイヤのコーティングされた部分を参照するが、これは、SMAワイヤの動作を可能にする電源へのその接続を可能にするために、その一端または両端がコーティングされていない場合があるからである。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によれば、形状記憶合金ワイヤの長さの少なくとも80%は、PCM粒子を含むコーティングによって覆われる。
【0013】
本発明は、添付の図面を用いてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1Aは、従来技術によるアクチュエータシステムの写真であり、コーティングされていない形状記憶合金ワイヤが布に埋め込まれている。
図1Bは、従来技術によるアクチュエータシステムの写真であり、PCM粒子を持たないコーティングを有する形状記憶合金ワイヤが布に埋め込まれている。
【
図1C】本発明によるアクチュエータシステムの写真であり、形状記憶合金ワイヤはPCM粒子が分散しているコーティングを有する。
【
図2】
図2-7は、それぞれ従来技術および本発明によるSMAワイヤアクチュエータアセンブリのサンプルの実験的なキャラクタリゼーションの図であり、アセンブリがその後の活性化サイクルを受けるとき、各々のSMAワイヤのストロークが経時的に如何に変化するかを概略的に示す図である。
【
図3】
図2-7は、それぞれ従来技術および本発明によるSMAワイヤアクチュエータアセンブリのサンプルの実験的なキャラクタリゼーションの図であり、アセンブリがその後の活性化サイクルを受けるとき、各々のSMAワイヤのストロークが経時的に如何に変化するかを概略的に示す図である。
【
図4】
図2-7は、それぞれ従来技術および本発明によるSMAワイヤアクチュエータアセンブリのサンプルの実験的なキャラクタリゼーションの図であり、アセンブリがその後の活性化サイクルを受けるとき、各々のSMAワイヤのストロークが経時的に如何に変化するかを概略的に示す図である。
【
図5】
図2-7は、それぞれ従来技術および本発明によるSMAワイヤアクチュエータアセンブリのサンプルの実験的なキャラクタリゼーションの図であり、アセンブリがその後の活性化サイクルを受けるとき、各々のSMAワイヤのストロークが経時的に如何に変化するかを概略的に示す図である。
【
図6】
図2-7は、それぞれ従来技術および本発明によるSMAワイヤアクチュエータアセンブリのサンプルの実験的なキャラクタリゼーションの図であり、アセンブリがその後の活性化サイクルを受けるとき、各々のSMAワイヤのストロークが経時的に如何に変化するかを概略的に示す図である。
【
図7】
図2-7は、それぞれ従来技術および本発明によるSMAワイヤアクチュエータアセンブリのサンプルの実験的なキャラクタリゼーションの図であり、アセンブリがその後の活性化サイクルを受けるとき、各々のSMAワイヤのストロークが経時的に如何に変化するかを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
相変化材料(PCM)は、融解潜熱が高い物質であり、特定の温度において、例えば溶融および固化によって多量の熱を吸収および放出することができる物質である。材料が、例えば固体から液体に、または液体から気体に、およびその逆に、相転移を受けるとき、熱が吸収または放出される。PCM材料は、潜熱貯蔵(LHS)ユニットとして分類される。
【0016】
PCM粒子の存在は、SMAワイヤアクチュエータアセンブリの熱処理を改善するための既知の手法である。発明者らは、形状記憶合金ワイヤの少なくとも一部に適用されたコーティング中に分散されたPCM粒子を採用することによって、これが電流の供給を中断することによって不活性化されるとき、そのより迅速な冷却を実現することが可能となることを観察した。残留する活性化熱が吸収されているため、電流を供給することによって再度活性化されるとき、形状記憶合金ワイヤのより迅速な応答をもたらす。
【0017】
本発明によれば、形状記憶合金ワイヤに適用されたコーティング中に分散されたPCM粒子の重量と、コーティングが適用されたまたは形成された形状記憶合金ワイヤの部分の重量との間の比は、1から30の間である。
【0018】
本発明の実施形態によれば、形状記憶合金ワイヤの直径は、0.1から0.8mmの間であり、それぞれのコーティングの厚みは0.1から3mmの間である。この点について、形状記憶合金ワイヤは現実の物質であるため、円形部分からのずれが起こり得、直径という用語が取り囲む最小の円の直径を意図することが重要である。
【0019】
大きな直径を有する形状記憶合金ワイヤは、厚いコーティングを有する。より詳細には、コーティングされた形状記憶合金ワイヤの直径と、単独の形状記憶合金ワイヤの直径との間の幅の比は2から5の間である。
【0020】
本発明の実施形態によれば、PCM粒子の寸法は0.01から0.1mmの間である。PCM粒子が実質的に球形であるとき、用語「寸法」はそれらの直径を示し、一方で不規則な形状を有するPCM粒子の場合、用語「寸法」はそれらの最大寸法を示す。
【0021】
様々な材料は、本発明のアクチュエータアセンブリの形状記憶合金ワイヤに適用されたまたは形成されたコーティングを作製するために使用することができる。好ましい材料は、プラスチックおよび熱可塑性ポリマー材料、熱硬化性ポリマー材料、樹脂およびシリコーンである。
【0022】
好ましいPCM材料は、ワックス(好ましくはパラフィンワックス)、脂肪酸、エステル、塩、水和物、有機化合物、および無機化合物の中から選択される。
【0023】
本発明の実施形態によれば、PCM粒子は、PCM材料の融解熱よりも高い融解熱を有する非PCM材料で作られたシェルに封入される。ハウジングとして働くシェルは、相転移の後、PCM材料の損失を防ぐ。この特徴により、PCMのずれおよび損失を防ぐために緻密かつ不透過性のコーティングを使用することを回避することが可能になる。
【0024】
シェルの重量は、PCM粒子重量の一部であり、典型的には5%から50%の間である。
【0025】
本発明は、任意の特定の形状記憶合金材料に限られることはないが、Nitinolという商品名で一般的に知られる合金などNi-Ti系合金が好ましく、その基本的特性は米国特許第4830262号明細書に記載される。SAES Smart Materialsによる米国特許第8152941号明細書および米国特許第8430981号明細書に記載される新規のおよび改善された形状記憶合金もまた使用されてよい。
【0026】
特に、用語Ni-Ti系形状記憶合金は、顕著な量のニッケルおよびチタン(少なくとも60原子パーセント、at%)を有する形状記憶合金を含み、追加の元素は、例えば米国特許第4565589号明細書に記載されるNi-Ti-Cu合金の場合の低いヒステリシス、例えば米国特許第5114504号明細書に記載されるNi-Ti-Hf合金の場合の高い変形温度など、様々な性質を付与してよい。
【0027】
本発明によるアクチュエータアセンブリは、織物または布に埋め込まれ、互いに平行に配列された複数のコーティングされた形状記憶合金ワイヤを採用する能動システムにおいて有利に使用されてよく、典型的には単位幅あたり2から100の間である多数のワイヤに起因して、熱処理は最も重要である。
【0028】
本発明の実施形態によれば、単一のコーティングされたSMAワイヤが、例えば曲がった端部を有する平行な線状部分など、特定のパターンに縫い込まれた織物または布に埋め込まれる。形状記憶合金ワイヤの総断面積は、例えば0.007mm2から0.5mm2の間であってよい。
【0029】
用語「織物」または「布」は、最も広い意味で、すなわち、織ったまたは編んだ繊維によって製造されたウェブであると解釈されなくてはならない。
【0030】
本発明は、SMAワイヤにコーティングを形成するまたは適用する特定の技術に限定されないものとする。コーティングは、能動システムに組み込む前に、例えば、それぞれの単一のワイヤに形成されてよく、または能動システムにおける組み込みの後で、後の段階で適用されてよい。
【0031】
本発明は、以下の非限定的な例を用いてさらに説明される。
【0032】
実施例1:サンプル構造
4つの異なるサンプルが調製された。全てのサンプルは、直径が0.15mmであり、長さが100mmであるNitinolで作られた9つのSMAワイヤを組み込んだナイロン-綿織布からなる同じ基本構造を有する。9つのSMAワイヤは、互いに平行に配置された。
【0033】
図1Aは、コーティングされていないSMAワイヤを組み込んだ比較サンプルC1を示す。比較サンプルC2は、PCM粒子を分散させることなくポリウレタンで作られた300ミクロンの厚みのコーティングを有する形状記憶合金ワイヤが組み込まれ、その写真が
図1Bに示される。比較サンプルC3(図示されない)は、4mg/cm
2の量の分散されたPCM粒子を含むポリウレタンで作られた300ミクロンの厚みのコーティングを有する形状記憶合金ワイヤを組み込んだものである。粒子は、パラフィンで作られ、ポリマーシェルを含む(パラフィンを90wt%、シェルを10wt%)。コーティング中に分散されたPCM粒子の重量と、コーティングが適用されたまたは形成された形状記憶合金ワイヤの部分の重量との間の比は0.7であり、したがって上述の範囲の下限よりも低い。
【0034】
本発明により作られたサンプルS1は、40mg/cm
2の量の分散されたPCM粒子を含むポリウレタンで作られた300ミクロンの厚みのコーティングを有する形状記憶合金ワイヤを組み込んだものである。粒子は比較サンプルC3において使用されるPCM材料と同じもので作られるが、コーティング中に分散されたPCM粒子の重量と、コーティングが適用されたまたは形成された形状記憶合金ワイヤの部分の重量との間の比は7であり、したがって上述の範囲内である。サンプルS1は
図1Cに示される。
【0035】
比較サンプルC4は、PCM材料で充填された内径12mmの円筒形容器の中央にSMAワイヤを配置することによって作られる。この状況は、使用されるPCMの量が多いとき、本発明から外れた状況を示す。
【0036】
比較サンプルC3およびC4およびサンプルS1およびS2において、PCM粒子の量は、面積(cm2)に対する重量(ミリグラム)で表され、これはコーティングが均一な表面分布を有すること、およびコーティングの厚みを考慮することにより、例えば試験されたサンプル(C2、C3、C4、S1、S2)の全てのコーティングされたワイヤについて300ミクロンと設定することにより、密度が決定されることを意味する。
【0037】
様々なサンプルの特徴を、以下の表1にまとめる。
【0038】
【0039】
実施例2:サンプルキャラクタリゼーション
サンプルは、1Hzの振動数で8アンペアの電流を与えることによって、その後の活性化サイクルを受ける。
【0040】
図2、3、4、5、6、および7は、比較サンプルC1、C2、C3、C4、S1、およびS2において、それぞれ経時的にストロークが如何に変化するかを示す。
【0041】
図2において理解され得るように、SMAワイヤ長の百分率として表現されるストロークは、累進的に、経時的に減少する。これは、それぞれの作動サイクルの後の、SMAワイヤにおける、残留熱に基づく残留歪みに起因している。ストロークの減少は、初めの40回の活性化サイクルについて実質的に線形の傾向を有し、約30%の残留歪みをもたらす。その代わりに、サンプルS1は、無視し得る程度のストローク減少を示し、一方でサンプルC3は、コーティングが上述の範囲の下限よりも低い重量比を有するPCM粒子の分散を含み、約30回の活性化サイクルに関してただ10-15%未満だけに残留歪みを制限することを可能にする。
【0042】
意外にも、PCM材料の量が多い比較サンプルC4は、試験された全てのサンプルの中で最低の挙動を示すが、これは「コーティング」材料(そのままのPCM)のモルフォロジーまたは多孔性が、「コーティング」全体における有効な熱拡散を妨げ、その結果非常に低い性能をもたらしている。サンプルC4は、「そのままの」PCM材料を用いて作られるが、過剰な量のPCMが使用されるとき、何が起こるかを示す。
【0043】
残留歪みの絶対値を考えるよりもむしろ、コーティング中のPCM粒子の存在が熱吸収に影響し、その結果作動プロファイルにおけるストロークの傾向を変更することを観察することが重要である。比較サンプルC2におけるコーティングの存在はより低いストローク減少の実現を可能にするが、サンプルC1およびC2において、作動プロファイルの形状は実質的に同じである。実は、各活性化サイクルの後、残留歪みは増加し、最後に熱移動におけるある種の動的平衡(プラトー)に達する。動的平衡は、周囲温度、サンプルの形状、および材料の熱伝達係数、すなわちSMAワイヤが作られた材料、コーティングの材料、および周囲空気に依存する。動的平衡は、SMAワイヤによって熱が生成されるときに確立され、この熱はコーティングと周囲空気との間の界面において消散する熱に対応する。
【0044】
同様の挙動は、比較サンプルC3において見ることができるが、コーティングにおけるPCM粒子の提供が、比較サンプルC2およびC1と比較して低いストローク減少を実現することを可能にする。それとは異なり、サンプルS1およびS2において、各々のSMAワイヤのコーティングされた部分の重量に対して上述の範囲内の量でPCM粒子が分散しているコーティングの提供に起因して、2つの異なる平衡プラトーが観察され得る。特に、サンプルS1に関して、第1のもの(初めの30回の活性化サイクルにおけるもの)は、コーティング内に分散したPCM粒子の熱貯蔵に関し、コーティングはSMAワイヤによって生成される熱エネルギーの部分を吸収し、その結果コーティング自身の温度が上昇することを防ぐ。PCM粒子の熱貯蔵容量が飽和すると、コーティング温度は上昇し、アクチュエータアセンブリは第2の動的平衡プラトーに達する。本発明の利点は、サンプルS2でより立証され、この場合第1のプラトー平衡のみが、試験の間にわたって観察可能である。
【0045】
この技術的効果は、以下の表2においてさらに立証され、それぞれが、回復されない歪みである0.3%および0.6%を実現するのに必要である活性化サイクルの数を示す。
【0046】
【0047】
表2から、サンプルS1が、その活性化特性(27/48サイクル)の維持を可能にすること、すなわち約50回の活性化サイクルに関して0.6%以内の回復できない歪みを有し、並びに25回を超える活性化サイクル(0.3%以内の回復できない歪み)に関して高い補償特性を有すること、を可能にすること、そしてコーティングされていないワイヤ(比較サンプルC1、3/6活性化サイクル)並びにPCM粒子を持たないコーティングされたワイヤ(比較サンプルC2、7/15活性化サイクル)、低い濃度で分散されたPCM粒子を有するコーティングされたワイヤ(比較サンプルC3、19/38活性化サイクル)、および高いPCMの量を有する比較サンプルC4(1/2)と比べて、大きな改善をもたらすことを理解することができる。本発明の利点は、実験の間、0.6%未満の点はなく、約0.3%の回復できない歪みを有する約45サイクルを有するサンプルS2を見ることによって、さらに明らかになる。