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特許7321118ケーキ生地用起泡組成物、ケーキ生地の製造方法、ケーキの製造方法、菓子類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】ケーキ生地用起泡組成物、ケーキ生地の製造方法、ケーキの製造方法、菓子類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/30 20060101AFI20230728BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20230728BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20230728BHJP
   A23G 3/36 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
A21D2/30
A21D2/18
A21D13/80
A23G3/36
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020048138
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021145599
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村川 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泉
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-187311(JP,A)
【文献】特開2016-096761(JP,A)
【文献】特開2019-154245(JP,A)
【文献】特開2019-208472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に乳化剤を含有しないケーキ生地を製造するためのケーキ生地用起泡組成物であって、
フィチン酸と、カルボキシメチルセルロース、LMペクチン及びHMペクチンから選ばれた増粘剤とを含有することを特徴とするケーキ生地用起泡組成物。
【請求項2】
前記増粘剤として、カルボキシメチルセルロースを含有する、請求項に記載のケーキ生地用起泡組成物。
【請求項3】
実質的に乳化剤を含有しないケーキ生地原料に、請求項1又は2に記載のケーキ生地用起泡組成物を含有させる第1工程と、
前記ケーキ生地原料を用いて含気したケーキ生地を生成する第2工程と、を含むことを特徴とするケーキ生地の製造方法。
【請求項4】
前記ケーキ生地原料は、澱粉質原料を含み、
前記第1工程において、前記ケーキ生地原料中の前記澱粉質原料100質量部に対して、前記ケーキ生地用起泡組成物に含有されているフィチン酸を0.05~5.00質量部含有させることを特徴とする、請求項に記載のケーキ生地の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程において、オールインミックス法で縦型ミキサーを用いて前記ケーキ生地を生成する、請求項3又は4に記載のケーキ生地の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程または第2工程において、さらに、水中油型乳化物を含有させる、請求項乃至の何れかに記載のケーキ生地の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のケーキ生地用起泡組成物を、ケーキ生地原料に含有させる工程を含むことを特徴とする、実質的に乳化剤を含有しないケーキ生地の起泡性改善方法。
【請求項8】
請求項乃至の何れかに記載されたケーキ生地の製造方法により製造されたケーキ生地を加熱処理する工程を含むことを特徴とする、実質的に乳化剤を含有しないケーキの製造方法。
【請求項9】
請求項に記載のケーキの製造方法により製造された、実質的に乳化剤を含有しないケーキを原材料とすることを特徴とする、実質的に乳化剤を含有しない菓子類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ生地用起泡組成物、ケーキ生地の製造方法、ケーキの製造方法、菓子類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキの生地を作製する際に、鶏卵を泡立たせて、その泡を保ち、生地の比重を軽くすることが行われている。このような、生地の作製方法には、例えば、共立て法、別立て法等のいわゆる、後粉法と呼ばれる鶏卵を泡立てた後に小麦粉や油脂を添加する方法や、すべての原料を混合して泡立てるオールインミックス法がある。
【0003】
オールインミックス法においては油脂が卵の起泡を阻害するため、卵の起泡力を補助する目的で、乳化剤を主要な成分とするケーキ用起泡剤や起泡性乳化脂を用いることが一般的である。しかしながら、乳化剤を用いると、ケーキ本来の自然な風味が損なわれるという問題があった。また最近、一部の消費者の間では、乳化剤を含む菓子が敬遠される場合があり、製造者は対応を求められることがあった。
【0004】
そこで、オールインミックス法において、乳化剤を使用せずにケーキ生地気泡安定剤を用いてケーキ生地を作製することが行われている。このようなケーキ生地気泡安定剤としては、ゲル化性テストで200cP以上の粘度を示すペクチンを含有し、実質的に乳化剤を含有しないケーキ生地用気泡安定剤が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-208472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、オールインミックス法によってケーキ生地を作製する際には、さらに高い起泡性を有するケーキ生地用起泡組成物の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、高い起泡性を有するケーキ生地用起泡組成物、ケーキ生地の製造方法、ケーキの製造方法、菓子類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のケーキ生地用起泡組成物は、フィチン酸を有効成分として含有することを特徴とする。
【0009】
本発明のケーキ生地用起泡組成物によれば、高い起泡性を有するため、気泡を効率的に抱き込ませて、短い撹拌時間でケーキ生地の比重を軽くすることが可能となる。そして、そのケーキ生地を焼成して得られるケーキの膨らみを良好にすることができる。
【0010】
本発明のケーキ生地用起泡組成物においては、更に増粘剤を含有することが好ましい。
【0011】
ケーキ生地起泡組成物に増粘剤が含有されることにより、ケーキ生地の気泡を安定したものとすることが可能となり、かつ、そのケーキ生地を焼成することにより、ソフトな食感で口溶けのよいケーキを得ることができる。
【0012】
本発明のケーキ生地用起泡組成物においては、前記増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、LMペクチン及びHMペクチンから選ばれたものであることが好ましく、また、前記増粘剤は、カルボキシメチルセルロースであることが好ましい。
【0013】
また、本発明のケーキ生地の製造方法は、フィチン酸を有効成分として含有するケーキ生地用起泡組成物をケーキ生地原料に含有させる第1工程と、前記ケーキ生地原料を用いて含気したケーキ生地を生成する第2工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明のケーキ生地の製造方法によれば、ケーキ生地用起泡組成物をケーキ生地原料に含有させ、その後にケーキ生地原料を用いて含気したケーキ生地を生成する。ケーキ生地用気泡組成物の高い起泡性により、鶏卵の泡立ちを高めることができ、ケーキ生地に気泡を効率的に抱き込ませて、比重を低くすることができる。その結果、そのケーキ生地を焼成して得られるケーキの膨らみを良好にすることができる。
【0015】
本発明のケーキ生地の製造方法においては、前記ケーキ生地原料は、澱粉質原料を含み、前記第1工程において、前記ケーキ生地原料中の前記澱粉質原料100質量部に対して、前記ケーキ生地用起泡組成物に含有されているフィチン酸を0.05~5.00質量部含有させることが好ましい。
【0016】
本発明のケーキ生地の製造方法においては、前記第1工程において、更に増粘剤を前記ケーキ生地原料に含有させることが好ましい。
これにより、ケーキ生地の気泡を安定したものとすることが可能となり、かつ、そのケーキ生地を焼成することにより、ソフトな食感で口溶けのよいケーキを得ることができる。
【0017】
本発明のケーキ生地の製造方法においては、前記増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、LMペクチン及びHMペクチンから選ばれたものであることが好ましい。
【0018】
本発明のケーキ生地の製造方法においては、前記増粘剤は、カルボキシメチルセルロースであることが好ましい。
【0019】
本発明のケーキ生地の製造方法においては、前記第2工程において、オールインミックス法で縦型ミキサーを用いて前記ケーキ生地を生成することが好ましい。
【0020】
本発明のケーキ生地の製造方法によれば、気泡を効率的に抱き込ませて比重を軽くすることができる。したがって、加圧下で撹拌を行う加圧式ミキサー等による強制的な発泡を行わずに、大気圧下の雰囲気中で原料を混合する縦型ミキサーにおいても、容易に、オールインミックス法でケーキ生地を製造することができる。
【0021】
本発明のケーキ生地の製造方法においては、前記ケーキ生地原料は、実質的に乳化剤を含有しないことが好ましい。
【0022】
本発明のケーキ生地の製造方法においては、前記第1工程または第2工程において、さらに、水中油型乳化物を含有させることが好ましい。
【0023】
本発明のケーキ生地の起泡性改善方法は、前記ケーキ生地用起泡組成物を、ケーキ生地原料に含有させる工程を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明のケーキ生地の起泡性改善方法によれば、ケーキ生地用起泡組成物が高い起泡性を有するため、短い撹拌時間で、気泡をより多く抱き込ませて、ケーキ生地の起泡性を改善することが可能となる。そして、そのケーキ生地を焼成して得られるケーキの膨らみを良好にすることができる。
【0025】
本発明のケーキ生地の製造方法は、前記ケーキ生地の製造方法により製造されたケーキ生地を加熱処理することを特徴とする。
【0026】
本発明のケーキの製造方法によれば、ケーキ生地に気泡をより多く抱き込ませて、比重を軽くすることが可能となり、そのケーキ生地を焼成することにより、ケーキの膨らみを良好にして、さらにはソフトな食感で口溶けのよいケーキを得ることができる。
【0027】
本発明のケーキの製造方法の好ましい態様においては、前記ケーキ生地の製造方法により製造された、実質的に乳化剤を含有しないケーキ生地を加熱処理することにより、実質的に乳化剤を含有しないケーキを製造する。
【0028】
上記態様によれば、実質的に乳化剤を含有しないケーキ生地を加熱処理することによって、実質的に乳化剤を含有しないケーキが製造される。したがって、本来の自然な風味が損なわれることなくケーキを製造することが可能となる。
【0029】
本発明の菓子類の製造方法は、前記ケーキの製造方法により製造された、実質的に乳化剤を含有しないケーキを原材料とすることを特徴とする、実質的に乳化剤を含有しない菓子類の製造方法である。
【0030】
本発明の菓子類の製造方法によれば、実質的に乳化剤を含有しないケーキ生地を加熱処理することによって得られた、実質的に乳化剤を含有しないケーキを原材料とすることにより、実質的に乳化剤を含有しない菓子類を得ることができる。したがって、乳化剤によって本来の自然な風味が損なわれることなく菓子類を製造することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のケーキ生地用起泡組成物によれば、高い起泡性を有するため、ケーキ生地に気泡を効率的に抱き込ませて、より短い時間でケーキ生地の比重を軽くすることが可能となる。そして、そのケーキ生地を焼成して得られるケーキの膨らみを良好にし、食感がソフトで口溶けのよいケーキを得ることができる。
【0032】
本発明のケーキ生地の製造方法によれば、鶏卵の泡立ちを高めることができ、ケーキ生地に気泡をより多く抱き込ませて、比重の低いケーキ生地を安定して製造することができる。
【0033】
本発明のケーキの製造方法によれば、乳化剤を用いなくても、比重の低いケーキ生地が得られるので、ケーキの膨らみを良好にして、本来の自然な風味が損なわれることもなく、ソフトな食感で口溶けのよいケーキを得ることができる。
【0034】
本発明の菓子類の製造方法によれば、本来の自然な風味が損なわれることなく、ソフトな食感で口溶けのよいケーキを原材料とする菓子類を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明のケーキ生地用起泡組成物は、フィチン酸を有効成分として含有する。フィチン酸は、ケーキ生地用起泡組成物中に0.1~20.0質量%含有されるとよく、好ましくは、0.5~10.0質量%含有されているとよく、より好ましくは、2.0~8.0質量%含有されているとよく、さらに好ましくは3.0~6.0質量%されているとよい。
【0036】
ケーキ生地起泡組成物は、更に増粘剤を含有することが好ましい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、LMペクチン(ローメトキシルペクチン)及びHMペクチン(ハイメトキシルペクチン)から選ばれたものが使用でき、特に、口溶けの良いケーキが得られる観点からカルボキシメチルセルロース及びLMペクチンから選ばれたものを用いることが好ましく、中でもカルボキシメチルセルロースを用いることがより好ましい。
【0037】
増粘剤は、ケーキ生地用起泡組成物中に0.05~10.00質量%含有されるとよく、好ましくは、0.10~8.00質量%含有されているとよく、より好ましくは、0.50~5.00質量%含有されているよい。
【0038】
尚、ケーキ生地用起泡性組成物には、フィチン酸及び増粘剤以外に、本発明の奏する効果を阻害しない範囲で、一般的にケーキ生地用起泡性組成物に使用される、その他の食品や食品添加物を含むことができる。
【0039】
このような成分としては、例えば、油脂、卵類、穀粉類、糖類、澱粉類、食物繊維、無機塩及び有機酸塩、乳製品、乳や卵、大豆由来のタンパク素材、その他各種食品素材全般、着香料、調味料等の呈味成分、加工澱粉、酸化防止剤、着色料、保存料、pH調整剤等を挙げることができる。
【0040】
また、ケーキ生地用起泡性組成物は、その形態は問わないが、例えば、フィチン酸を水等の溶媒に溶解して溶液とすることができ、さらにフィチン酸を含有する粉末状とすることができ、また粉末状のフィチン酸を油脂に分散した形態や、フィチン酸を含有する水溶液を含む水中油型の乳化形態とすることもできる。特に、水中油型の乳化形態とした場合には、後述のケーキ生地の製造方法においてフィチン酸を容易に添加することができる。
【0041】
以上で説明したケーキ生地用起泡組成物を用いたケーキ生地及びケーキの製造方法について説明する。
【0042】
ケーキ生地の製造方法は、フィチン酸を有効成分として含有するケーキ生地用起泡組成物をケーキ生地原料に含有させる第1工程と、前記ケーキ生地原料を用いて含気したケーキ生地を生成する第2工程と、を含む。
【0043】
ケーキ生地原料としては、通常用いられるものを使用すればよく、特に限定されないが、例えば、全卵、卵黄、卵白等の卵類、強力粉、準強力粉、薄力粉、中力粉、デュラム粉、全粒粉、焙焼小麦粉等の小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉等の穀紛類、上白糖、グラニュー糖、粉糖等の糖類、コーン油、大豆油、菜種油、パーム油、乳脂肪、バター等の油脂類、生乳、牛乳、脱脂乳、粉乳等の乳製品、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉等の澱粉、これら澱粉に、酸処理、酵素処理、エステル化、エーテル化、架橋化等の化学的処理、あるいは高周波処理、湿熱処理、放射線処理等の物理的処理を、単独もしくは複数施してなる加工澱粉、チョコレート、ココアパウダー、アーモンドプードル等の風味材、ベーキングパウダー等の膨張剤、増粘剤が挙げられる。なお、本発明においては、前記穀粉類、澱粉、加工澱粉を合わせて、「澱粉質原料」とする。ケーキ生地原料としては、一般に卵類、澱粉質原料が含まれる。
【0044】
第1工程において、すべての種類のケーキ生地原料及びケーキ生地原料の全量を用いることもできる。例えば、オールインミックス法では、ケーキ生地原料のうち主要な原料である、卵類、穀粉類、糖類、油脂類を含むほとんどのケーキ生地原料を第1工程において用いることができる。
【0045】
また、第1工程においてケーキ生地原料のうちの一部の種類及び/又はケーキ生地原料の全量のうちの一部を用い、第2工程又は第2工程の後において、ケーキ生地原料の残りの種類及び/又は残りの量を添加して混合してもよい。
【0046】
第1工程及び第2工程において、ケーキ生地原料の一部が用いられているような場合には、第2工程の後において、残りのケーキ生地原料を添加混合するとよい。
【0047】
例えば、別立て法、共立て法を含む後粉法や、後油法では、ケーキ生地原料のうち、主要な原料である卵類、糖類を第1工程および第2工程において用いることが必須であるが、穀粉類、油脂類の全てもしくは一部が第2工程の後に添加されてもよい。
【0048】
本発明は、オールインミックス法、後粉法、後油法のいずれにおいても用いることができるが、特に、第2工程において卵の起泡および気泡の保持を阻害する穀粉類や油脂類を混合する場合にも、効率的に起泡することができる点で有効であり、その中でもオールインミックス法において有効である。尚、後油法は、油脂以外の原料を混合後、油脂を添加しながら混合するケーキ生地の製造方法である。
【0049】
尚、オールインミックス法では、油脂類をケーキ生地に直接添加すると、その消泡作用により起泡の安定性に影響を与える。このため、油脂類は、水中油型乳化物の形で添加することが好ましい。水中油型乳化物の形で油脂類を添加することにより、油脂類による消泡作用を最小限に抑えることが可能となる。
【0050】
尚、増粘剤は、第1工程又は、第2工程において、ケーキ生地原料に含有させるようにしてもよいが、第1工程において、ケーキ生地原料に含有させることが好ましい。増粘剤がケーキ生地原料に含有されることにより、気泡安定性の高いゲルを形成することが可能となる。ゲルの気泡安定性を高めることにより、気泡の合一及び消失を防ぐことができ、比重の軽いケーキ生地を得ることができる。
【0051】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、LMペクチン(ローメトキシルペクチン)及びHMペクチン(ハイメトキシルペクチン)から選ばれたものが使用できる。特に、口溶けの良いケーキが得られる観点からカルボキシメチルセルロース及びLMペクチンから選ばれたものを用いることが好ましく、中でもカルボキシメチルセルロースを用いることがより好ましい。
【0052】
増粘剤は、ケーキ用起泡組成物の一成分として含有させることが好ましい。ケーキ用気泡組成物の一成分として増粘剤を含有させることにより、増粘剤を計量して添加する作業工程を省略することができ、ケーキ生地の製造工程を簡便なものとすることができる。
【0053】
増粘剤は、ケーキ生地原料中の澱粉質原料100質量部に対して、0.05~1.00質量部含有させるとよく、より好ましくは、0.08~0.50質量部含有させるとよく、さらに好ましくは、0.10~0.40質量部含有させるとよく、最も好ましくは0.15~0.30質量部含有させるとよい。
【0054】
増粘剤を前記ケーキ用起泡組成物の一部としてではなく、それ以外の形態で添加する場合には、その添加形態は問わないが、例えば、増粘剤を含む粉末状で添加することができ、増粘剤を溶解した水溶液の形態で添加することができ、また、粉末状の増粘剤を油脂に分散した形態や、増粘剤を含有する水溶液を含む、水中油型の乳化形態とすることもできる。特に、水中油型の乳化形態とした場合には、後述の、ケーキ生地の製造方法において容易に増粘剤を添加することも可能である。
【0055】
また、ケーキ生地の副原料としては、イースト、酸化防止剤、pH調整剤、着色料、香料、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等のチーズ類、アルコール、フルーツ、野菜、ハーブ、スパイス、食塩、保存料、ビタミン、カルシウム、蛋白質、アミノ酸等が挙げられる。
【0056】
さらに、ケーキ生地原料中の澱粉質原料100質量部に対して、ケーキ生地用起泡組成物に含有されているフィチン酸を0.05~5.00質量部含有させるとよく、より好ましくは、0.10~2.00質量部含有させるとよく、さらに好ましくは、0.15~1.50質量部含有させるとよい。
【0057】
本発明のケーキ生地原料は、実質的に乳化剤を含有しないものとすることができる。ここで、「実質的に乳化剤を含有しない」とは、ケーキ生地用起泡組成物を製造する際に乳化剤を意図的に添加しないという意味であり、ケーキ生地用起泡組成物を製造中又は保管中に不可避的に混入する微量の乳化剤を含んでいても構わない。
【0058】
尚、後述するケーキ生地、ケーキ及び菓子類も実質的に乳化剤を含有しないものとすることができる。この場合の「実質的に乳化剤を含有しない」も、上述のように、これらを製造する際に乳化剤が意図的に添加されないという意味であり、これらの製造中又は保管中に不可避的に混入する微量の乳化剤が含まれていても構わない。
【0059】
乳化剤としては、食品表示法に基づく食品表示基準において、乳化剤の一括名での表示が認められている添加物が挙げられ、特に、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグルセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン(酵素処理レシチン、酵素分解レシチン、分別レシチンを含む)等が挙げられる。これらの乳化剤はそれぞれ特有の風味を有し、ケーキや菓子の本来の風味を損なう。
【0060】
一方で、一般的にケーキ生地、ケーキ、菓子類の原料として用いられる小麦粉や卵類、乳製品、油脂等に微量含有されるレシチンやモノアシルグリセロール、ジアシルグリセロールといった成分を含有する場合には、風味に悪影響を及ぼすことはない。これらは意図的に添加された物でなく不可避的に混入された場合に当たり、「実質的に乳化剤を含有しない」とみなすことができる。
【0061】
本発明において、「実質的に乳化剤を含有しない」の具体的な基準としては、意図的に添加された乳化剤の含有量が、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下であることを意味している。
【0062】
第2工程において、原料を均一に混合し、含気させたケーキ生地を生成することができるミキサー等を用いて、上記ケーキ生地原料とケーキ生地用起泡組成物とを混合するとよい。
【0063】
ここで第2工程においては、ケーキ生地の比重を0.20~0.80程度までケーキ生地に含気させるとよい。混合に用いるミキサーとしては、特に限定されないが、縦型ミキサー、横型ミキサー、スラリーミキサー、加圧式ミキサー、連続ミキサー等を用いることができる。
【0064】
本発明は、加圧下で撹拌を行う加圧式ミキサーや、配管中に強制的に空気を送り込み混合するモンドミキサー、オークスミキサー、ターボミックス等に代表される連続ミキサーのような強制的に発泡する装置に依らずに、ケーキ生地に効率的に含気させることができる点で特徴的である。
【0065】
このため、縦型ミキサー、横型ミキサー、スラリーミキサー等の大気圧下の雰囲気中で原料を混合するミキサーを用いることができ、より好ましくは、縦型ミキサーを用いることができる。
【0066】
本発明においては、ケーキ生地原料における油脂を水中油型乳化物の形態で含有させることが好ましい。ケーキ生地原料における油脂を水中油型乳化物の形態で添加することによって、ケーキ生地原料中の油脂がケーキ生地の起泡や気泡の保持を阻害することを抑制することができる。従って、水中油型乳化物を添加することで、より効率的にケーキ生地中に気泡を抱き込ませることができ、よりケーキの膨らみを改善してソフトな食感とすることができる。この効果は、特に油脂を第1工程において添加する場合において有効であり、上述したケーキ生地の作製方法の種類の中でもオールインミックス法によってケーキ生地を作製する場合において有効である。
【0067】
水中油型乳化物は少なくとも油脂と水を含有する。水中油型乳化物に含有される油脂は、食用に適するものであれば限定されず、例えば、菜種油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、コーン油、こめ油、大豆油、ヒマワリ油、パーム油、パーム軟質油、パーム核油、ヤシ油等の植物性油脂;ラード、牛脂、乳脂、魚油等の動物性油脂;及びそれらの水素添加油、分別油、エステル交換油等が挙げられる。
【0068】
水中油型乳化物中の油脂の含量は、ケーキ生地に必要な油脂を与えることのできる量であれば構わないが、水中油型乳化物をケーキ生地原料中に添加する量および水中油型乳化物の安定性を鑑みて、好ましくは10質量%~90質量%、より好ましくは15質量%~70質量%、さらに好ましくは18%~60%である。
【0069】
ケーキ生地原料に水中油型乳化物を含有させることによって、ケーキ生地原料中に含有される油脂の量は、一般的にスポンジケーキを製造する際に用いられる油脂の量であればよく、ケーキ生地原料中に含まれる澱粉質原料を100質量部として、1~60質量部、好ましくは5~50質量部である。
【0070】
水中油型乳化物は油脂及び水以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、乳製品、乳化剤、増粘剤、食塩、塩化カリウムなどの塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸などの酸味料、糖類、甘味料、着色料、酸化防止剤、植物蛋白、卵および各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、および香辛料などの副原料を含有することができる。
【0071】
また、水中油型乳化物がフィチン酸を含有することにより、当該水中油型乳化物を本発明のケーキ用起泡組成物の一部としてみなすこともできる。また、水中油型乳化物が増粘剤を含有することで、当該水中油型乳化物に含有される当該増粘剤を本発明の増粘剤の一部としてみなすこともできる。また、水中油型乳化物は、上述のとおり、ケーキの風味への影響を避ける等の観点から、乳化剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【0072】
一方、ケーキ生地原料として食用油脂、ショートニング、油中水型乳化物等の連続相を油相とする油脂組成物を、ケーキ生地原料中の澱粉質原料を100質量部として20質量部以下含むことが好ましく、10質量部以下含むことがより好ましく、5質量部以下含むことがさらに好ましく、1質量部以下含むことが最も好ましい。ただし、油脂を第1工程において添加せず、第2工程以降において添加する場合には、このような油脂組成物の量を制限することなく、所望の量を添加することができる。
【0073】
本発明のケーキは、ケーキ生地を目的にあったケーキ型に流し入れたり、鉄板上に一定の厚さとなるように流し入れたりして、オーブンや蒸し器で加熱処理等することによって得ることができる。こうして得られるケーキとしては、スポンジケーキ(シフォンケーキ、バタースポンジ、カステラ、エンゼルケーキ等)、バウムクーヘン、生地をホイップするタイプの蒸しケーキ等が挙げられる。
【0074】
本発明の菓子類は、上記ケーキに、例えばクリーム類(生クリーム、ホイップクリーム、バタークリーム、カスタードクリーム等)、バター、ジャム、及び果物等を挟んだり載せたりして得ることができる。この場合、ケーキ以外の原料も実質的に乳化剤を含まないことが好ましく、また、本発明の菓子類の10質量%以上が上記ケーキであることが好ましい。
【0075】
本発明の菓子類は、上記ケーキ以外のケーキを併せて用いても構わないが、上記ケーキ以外のケーキも実質的に乳化剤を含まないことが好ましい。また、使用するケーキの50質量%以上が上記ケーキであることが好ましい。
【実施例
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0077】
[試験例1:フィチン酸添加試験]
(スポンジケーキ生地の調製)
後述する実施例1~6及び比較例1~25のケーキ生地用起泡組成物を用いて、表1に示す配合でスポンジケーキ生地を調製するホイップテストを行った。スポンジケーキの生地は、オールインミックス法で作製した。具体的には、表1に示すスポンジケーキの原料をすべて5コートのミキサーボウルに投入し、ホバートミキサーで2速において5分間撹拌することで含気させた。
【0078】
【表1】
【0079】
(ケーキ生地用起泡組成物)
60℃に加温した水にフィチン酸又は各種pH調整剤を溶解、混合し、実施例1~6及び比較例1~25のケーキ生地用起泡組成物を調製した。これらを表1に従い、薄力粉に対して20質量部添加してケーキ生地を調製した。薄力粉を100質量部とした場合の各成分(フィチン酸、各種pH調整剤)の量を、質量部で表3乃至表5に示した。
【0080】
尚、フィチン酸は50%水溶液として加えられている。表3乃至5に表されているフィチン酸の量は、ケーキ生地用起泡組成物中に含有されているフィチン酸の量である。したがって、フィチン酸の50%水溶液のうち、フィチン酸以外の部分は水として計算されている。また、フィチン酸以外のpH調整剤については、添加する水分の量を調整することによって、各々のケーキ生地用起泡組成物の質量を統一した。
【0081】
(水中油型乳化物A)
表2に示す配合の水中油型乳化物を調製した。具体的には、水に脱脂粉乳、カゼインナトリウム、炭酸ナトリウムを溶解し、水相とした。この水相と菜種油を含む油相をそれぞれ60℃に加温し、水相に油相を添加し攪拌して乳化した後、均質化して水中油型乳化物を得た。この水中油型乳化物を、加熱殺菌機で約142℃で殺菌し、冷却した。更に、この水中油型乳化物を5℃の温度条件下で、48時間エージングし、水中油型乳化物Aを得た。
【表2】
【0082】
実施例1~6及び比較例1~25のケーキ生地用起泡組成物を用いて調製したケーキ生地のホイップ後の比重を測定した。その結果を表3乃至5に示す。
【0083】
【表3】
【表4】
【表5】
【0084】
表3乃至5に示すように、実施例1乃至6のケーキ生地用気泡組成物を用いて一定時間撹拌して調製したケーキ生地は、いずれも比重が比較例1乃至25の比重を下回った。
【0085】
具体的には、フィチン酸を添加した実施例1乃至6のケーキ用気泡組成物を用いたケーキの比重は、0.60~0.65であった。これに対して、比較例1乃至25のケーキ用気泡組成物を用いたケーキの比重は、0.66~0.85であった。
【0086】
[試験例2:フィチン酸及び増粘剤添加試験]
後述する実施例7~30及び比較例26のケーキ生地用起泡組成物を用いて、表6に示す配合でスポンジケーキを調製した。
【0087】
(スポンジケーキの作製)
スポンジケーキ生地は、オールインミックス法で調製した。スポンジケーキの原料の混合は、ホバートミキサーで3速において2分間行った後、2速において5分間行った。スポンジケーキの生地を170℃で36分焼成してスポンジケーキを得た。
【0088】
【表6】
【0089】
(ケーキ生地用起泡組成物)
60℃に加温した水にフィチン酸及び増粘剤を溶解、混合し、実施例7~30及び比較例26のケーキ生地用起泡組成物を調製した。これらを表6に従い、薄力粉に対して20質量部添加してケーキ生地を調製した。薄力粉を100質量部とした場合の各成分(フィチン酸、各種増粘多糖類)の量を、質量部で表7乃至表9に示した。尚、表中のCMCは、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose)であり、HPMCは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methylcellulose)である。
【0090】
実施例7~30及び比較例26のケーキ生地用起泡組成物を用いて調製したスポンジケーキ生地のホイップ後の比重を測定した。その結果を表7乃至9に示す。また、スポンジケーキ生地の脱泡の有無、分離の状態、スポンジケーキの食感について、以下の基準にて評価した。その結果を表7乃至9に示す。
【0091】
(脱泡の有無)
○:脱泡がみられない
△:わずかに脱泡がみられる
×:明らかな脱泡がみられる
【0092】
(分離の状態)
○:縞模様がみられない
△:縞模様がわずかにみられる
×:明らかな縞模様がみられる
【0093】
(官能評価)
パネル10名がスポンジケーキを食して以下の基準で評価した。平均点を表6及び7に示した。尚、評価は下記の基準にて行った。
【0094】
(ソフトさ)
4:比較例26より明らかに柔らかい
3:比較例26よりやや柔らかい
2:比較例26と同等の柔らかさ
1:比較例26よりもかたい
【0095】
(口どけ)
4:比較例26より明らかに口溶けが良い
3:比較例26よりやや口溶けが良い
2:比較例26と同等
1:比較例26より口溶けが悪い(くちゃつく)
【0096】
【表7】
【0097】
【表8】
【0098】
【表9】
【0099】
(比重について)
表7乃至9に示すように、実施例7乃至30のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキ生地は、いずれもその比重が比較例26の比重を下回った。
【0100】
具体的には、フィチン酸を添加した実施例7乃至30のケーキ用気泡組成物を用いたケーキ生地の比重は、0.51~0.62であった。これに対して、比較例26のケーキ用気泡組成物を用いたケーキの比重は、0.64であった。
【0101】
(脱泡の有無について)
表7乃至9に示すように、実施例7乃至30のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキ生地は、いずれも脱泡がみられないか、又は、わずかに脱泡がみられた。これに対して比較例26のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキは、明らかな脱泡がみられた。
【0102】
(分離の状態について)
表7乃至9に示すように、実施例7乃至30のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキ生地は、いずれも縞模様がみられないか、縞模様がわずかにみられた。これに対して比較例26のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキ生地は、明らかな縞模様がみられた。
【0103】
(ソフトさについて)
表7乃至9に示すように、実施例7乃至30のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキは、評価が2.0~3.8であった。したがって、実施例7乃至30のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキは、比較例26のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキと同等か、又はそれよりも柔らかい食感を有していた。
【0104】
(口どけについて)
表7乃至9に示すように、実施例7乃至25のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキは、評価が2.0~3.8であった。したがって、実施例7乃至25のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキは、比較例26のケーキ生地用気泡組成物を用いて調製したケーキよりも口どけが良い食感を有していた。