(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】医薬組成物、包装体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/47 20060101AFI20230728BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230728BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20230728BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230728BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230728BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230728BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230728BHJP
【FI】
A61K38/47
A61P43/00 111
A61K9/19
A61K47/36
A61K47/26
A61K47/42
A61K47/10
(21)【出願番号】P 2020503548
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007437
(87)【国際公開番号】W WO2019167983
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018035884
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195524
【氏名又は名称】生化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】樋口 美音
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-236336(JP,A)
【文献】特開平11-193245(JP,A)
【文献】特開平07-067642(JP,A)
【文献】特開平06-135851(JP,A)
【文献】伊豆津 健一,タンパク質の凍結乾燥,蛋白質科学会アーカイブ, 2, e053 (2009),2009年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物が容器に収容されてなる包装体の製造方法であり、
2.5μg以上
5μg以下の
コンドロイチナーゼABCを含む溶液を容器に収容する工程と、
前記溶液を凍結乾燥して単位用量の医薬組成物を得る工程とを含む、製造方法。
【請求項2】
前記容器に収容される溶液の酵素活性が4ユニット以下である、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記医薬組成物は、薬学上許容される担体を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記薬学上許容される担体は、緩衝剤、デキストラン類、スクロース、ラクトース、マルトース、キシロース、トレハロース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、イノシトール、血清アルブミン、ゼラチン、クレアチニン、ポリアルキレングリコール、および非イオン性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記薬学上許容される担体は、リン酸緩衝剤、スクロース、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記容器に収容するコンドロイチナーゼABCを含む溶液のpHが、6.5以上7.5以下の範囲である、請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖分解酵素を有効成分として含む医薬組成物、並びにこれが容器に収容された包装体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖分解酵素を有効成分として含む医薬組成物は、様々な疾患分野で利用されている。例えば、アウドラザイム(登録商標)、エラプレース(登録商標)、ナグラザイム(登録商標)、リプレガル(登録商標)、およびビミジム(登録商標)など、約3mg/バイアルから約10mg/バイアルの糖分解酵素を有効成分として含むリソソーム病治療用医薬組成物が、注射用の液体製剤として市販されている。また、例えば、国際公開第2012/081227号には、糖分解酵素(特にコンドロイチナーゼABC)を有効成分として含む椎間板ヘルニア治療剤が記載されている。
【発明の概要】
【0003】
液体製剤と比較して、凍結乾燥製剤は、物流コストが抑えられるという点で優れている。一方、一般に酵素の力価は凍結乾燥により大きく低下する場合があり、酵素が微量であればなおさらであるため、凍結乾燥製剤の製造に際しては、所望の酵素活性を有する製品が生産できるよう、工夫がされている。例えば、国際公開第2012/081227号の実施例では、凍結乾燥による力価の大幅な低下を考慮して、投薬1回分のために必要なユニット数を大きく超える酵素を容器に収容した後に凍結乾燥して凍結乾燥製剤を得ている。そして当該文献では、得られた凍結乾燥製剤を溶解希釈した後、投与に必要な量を分取することで、1回投与に必要な活性成分が含まれる投与液を調製している。
【0004】
ここで、単位用量を大きく超える凍結乾燥製剤を予め調製してから、その一部を1回投与量として分取する手法では、投与に使用されなかった多くの残部の酵素は廃棄されることとなる。このため、高価な酵素の多くの残部が無駄になる場合があった。
【0005】
したがって、本発明の一側面は、糖分解酵素を有効成分として含む医薬組成物であって、凍結乾燥による製剤化に伴う力価の低下が抑制された医薬組成物を提供することを目的とする。
【0006】
上記課題に鑑みて本発明者が鋭意検討を重ねた結果、凍結乾燥前後における力価の低下が抑制される糖分解酵素を含む医薬組成物を提供する手段を見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明の一側面は、力価が0.3ユニット/μg以上である凍結乾燥された糖分解酵素を有効成分として含み、前記酵素量が2μg以上8μg以下の単位用量製剤である、医薬組成物に関する。
【0008】
本発明の別の側面は、医薬組成物とそれを収容する容器とを含む包装体の製造方法であり、2μg以上8μg以下の糖分解酵素を含む溶液を容器に収容する工程と、前記溶液を凍結乾燥して単位用量の医薬組成物を得る工程とを含む、製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一側面によれば、凍結乾燥による力価の低下が大きく抑制された、凍結乾燥された糖分解酵素を含む医薬組成物が提供できる。
【0010】
以下、本発明を詳説するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
(1)医薬組成物および包装体
医薬組成物は、糖分解酵素を有効成分として含む凍結乾燥製剤である。医薬組成物は、力価が0.3ユニット/μg以上である凍結乾燥された糖分解酵素を有効成分として含み、前記糖分解酵素量が2μg以上8μg以下の単位用量製剤である。本明細書において「単位用量」は、1回の投薬のために用意される必要量であり、単位用量製剤は医薬組成物が単位用量で製剤化されてなる。単位用量は、有効量に加えて、1回の投与液調製のために必要な増仕込み量を含み得る。
【0012】
医薬組成物では、凍結乾燥による糖分解酵素の力価の低下が大きく抑制される。また貯蔵による力価の低下も大きく抑制される。さらに医薬組成物は、単位用量毎に予め準備された凍結乾燥製剤であるため、医療現場における利便性、衛生面、安全性等の観点からも優れた医薬組成物である。
【0013】
包装体は、少なくとも、容器と、前記容器に収容される医薬組成物とを含み、前記医薬組成物が前記容器に収容されてなる。
【0014】
「糖分解酵素」とは、医薬に用いられ得るものであれば、特に限定されない。例えば、糖分解酵素としては、グリコサミノグリカン分解酵素;グリコシダーゼ;ペプチド:N-グリカナーゼ(PNGaseF、エンドグリコシダーゼHなど)、α-L-イズロニダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、イデュルスルファーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ等を挙げることができる。グリコサミノグリカン分解酵素としては、例えば、ケラタナーゼI、ケラタナーゼIIなどのケラタナーゼ;ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、ヘパリナーゼIIIなどのヘパリナーゼ;ヘパリチナーゼIV、ヘパリチナーゼV、ヘパリチナーゼT-I、ヘパリチナーゼT-II、ヘパリチナーゼT-III、ヘパリチナーゼT-IVなどのヘパリチナーゼ;コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼACI、コンドロイチナーゼACII、コンドロイチナーゼACIII、コンドロイチナーゼB、コンドロイチナーゼCなどのコンドロイチナーゼ;放線菌由来のヒアルロニダーゼ、連鎖球菌由来のヒアルロニダーゼなどのヒアルロニダーゼ等が挙げられる。またグリコシダーゼとしては、例えば、微生物由来のβ-ガラクトシダーゼ、α-ガラクトシダーゼなどが挙げられる。
【0015】
一実施形態では、グリコサミノグリカン分解酵素が、糖分解酵素として用いられる。グリコサミノグリカン分解酵素としては、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ヘパリナーゼ、ケラタナーゼ、ヘパラナーゼ、ヘパリチナーゼ等が挙げられる。糖分解酵素としては、中でもコンドロイチナーゼが好ましく、コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼB、コンドロイチナーゼACI、コンドロイチナーゼACIIがより好ましく、コンドロイチナーゼABCが特に好ましい。コンドロイチナーゼABCは、コンドリアーゼであってもよい。
【0016】
糖分解酵素の由来は特に限定されない。好ましい一実施形態では、微生物由来の糖分解酵素が採用される。微生物の非制限的な例としては、例えば、バチルス属、エスケリキア属、シュードモナス属、フラボバクテリウム属、プロテウス属、アースロバクター属、ストレプトコッカス属、バクテロイデス属、アスペルギルス属、エリザベトキンギア属、およびストレプトマイセス属等が挙げられる。例えば、糖分解酵素がコンドロイチナーゼABCである場合は、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)由来のもの(例えば、プロテウス・ブルガリス由来のコンドロイチナーゼABC)が例示できる。
【0017】
糖分解酵素の製造方法等は特に限定されない。糖分解酵素の例示的な製造方法は、糖分解酵素を産生する微生物または動物細胞の培養物を得る工程、および培養物から糖分解酵素を回収する工程を含む。
【0018】
微生物によって産生される糖分解酵素は、当該微生物が本来的に有するものであってもよく、または後述する遺伝子工学的手法等により目的とする酵素を産生するように当該微生物を改変して得たものであってもよい。例えば、糖分解酵素がコンドロイチナーゼABCである場合は、プロテウス・ブルガリス等の微生物を培養して生産させてもよく、コンドロイチナーゼABCをコードするDNA等を用いて遺伝子工学的手法で生産させてもよい。また、糖分解酵素は、生物が本来的に有するものと同一アミノ酸配列であってもよいが、医薬品としての所望の目的を達成し得る限りにおいて、一部のアミノ酸が欠損、置換および/または付加等されたものであってもよい。
【0019】
微生物としては、例えば、バチルス属、エスケリキア属、シュードモナス属、フラボバクテリウム属、プロテウス属、アースロバクター属、ストレプトコッカス属、バクテロイデス属、アスペルギルス属、エリザベトキンギア属、およびストレプトマイセス属の微生物が例示できる。微生物の生育条件(培地や培養条件等)は、用いる微生物に合わせて適宜選択され、当業者であれば任意に設定できる。微生物を用いて糖分解酵素を製造することにより、動物細胞を用いて糖分解酵素を製造する場合に比べ、安価に大量に製造することが可能である。
【0020】
糖分解酵素の製造方法は、目的の糖分解酵素をコードする遺伝子を発現する組替えベクターを宿主に導入する工程を含んでもよい。ベクターとしては、例えば、導入した遺伝子を発現させることが可能な適当な(好ましくは、プロモーター等の調節配列を含む)発現ベクター(ファージベクター、プラスミドベクター等)を使用することができる。ベクターは、宿主細胞に応じて適宜選択する。より具体的には、このような宿主-ベクター系としては、大腸菌(E.coli)と、pETシリーズ、pTrcHis、pGEX、pTrc99、pKK233-2、pEZZ18、pBAD、pRSET、およびpSE420等の原核細胞用の発現ベクターとの組み合わせ;COS-7細胞、HEK293細胞などの哺乳類細胞と、pCMVシリーズ、pME18Sシリーズ、pSVL等の哺乳類細胞用発現ベクターとの組み合わせの他、宿主細胞として昆虫細胞、酵母、枯草菌などが例示され、これらに対応する各種ベクターが例示される。
【0021】
また、上記ベクターは、組み込んだ遺伝子がコードするタンパク質と、マーカーペプチドやシグナルペプチドとの融合タンパク質を発現するように構築されたものを用いることもできる。当該ペプチドとしては例えばプロテインA、インスリンシグナル配列、His、FLAG、CBP(カルモジュリン結合タンパク質)、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)などが挙げられる。いずれのベクターを用いる場合であっても、常法に従って、挿入核酸配列とベクターとを連結することが可能なように制限酵素などによって処理し、必要に応じて平滑化や粘着末端の連結を行った後、挿入核酸配列とベクターとを連結をすることができる。
【0022】
宿主のベクターによる形質転換は、常法によって行うことができる。例えば、市販のトランスフェクション用試薬を用いる方法や、DEAE-デキストラン法、エレクトロポレーション法、遺伝子銃による方法等によってベクターを宿主に導入し、形質転換を行うことができる。
【0023】
糖分解酵素を産生する微生物または動物細胞の生育条件(培地や培養条件等)は、用いる微生物や細胞に合わせて適宜選択される。例えば、大腸菌を用いる場合は、LB培地等を主成分として適宜調製した培地を用いることができる。また例えば、宿主細胞としてCOS-7細胞を用いる場合には、2%(v/v)程度のウシ胎仔血清を含有するDMEM培地を用い、37℃条件下で培養することができる。
【0024】
生育物からの糖分解酵素の回収は、産生される糖分解酵素の形態に応じて、公知のタンパク質の抽出・精製方法によって行うことができる。例えば糖分解酵素が、培地(培養液の上清)中に分泌される可溶性の形態で産生される場合には、培地を採取し、これをそのまま糖分解酵素として用いてもよい。また糖分解酵素が細胞質中に分泌される可溶性の形態、または不溶性(膜結合性)の形態で産生される場合には、窒素キャビテーション装置を用いる方法、ホモジナイズ、ガラスビーズミル法、音波処理、浸透ショック法、凍結融解法等の細胞破砕による抽出、界面活性剤抽出、またはこれらの組み合わせ等の処理操作によって抽出することができる。糖分解酵素は、塩析、硫安分画、遠心分離、透析、限外ろ過法、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法等や、これらの組み合わせ等の従来公知の手法により精製してもよい。
【0025】
糖分解酵素は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、糖分解酵素は、アセチル化、ポリアルキレングリコール化(例えば、ポリエチレングリコール化)、アルキル化、アシル化、ビオチン化、ラベル化(例えば蛍光物質、発光物質などのラベル)、リン酸化、硫酸化などの、従来公知の化学修飾基が付加されたものであってもよい。
【0026】
医薬組成物は、薬学上許容される担体を含み得る。本明細書において、「薬学上許容される担体」としては、慣用の賦形剤、結合剤、緩衝剤、注射用水、等張化剤、保存剤、無痛化剤等、通常医薬に用いられる成分が例示される。
【0027】
緩衝剤としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、アミノ酢酸、安息香酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、エタノールアミン、アルギニン、エチレンジアミン等の1種以上を含有する緩衝剤が例示され、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。
【0028】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、ブドウ糖、プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0029】
その他の薬学上許容される担体として具体的には、例えば、デキストラン類、スクロース、ラクトース、マルトース、キシロース、トレハロース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、イノシトール、血清アルブミン、ゼラチン、クレアチニン、ポリアルキレングリコール、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)などが挙げられ、中でもスクロースおよび/またはポリアルキレングリコールが好ましく、スクロースおよび/またはポリエチレングリコールがより好ましい。ポリエチレングリコールは平均分子量が200以上25000以下であるものが好ましく、さらには常温で固体であるもの、例えば、平均分子量が2000以上9000以下であるものがより好ましく、3000以上4000以下であるものが更に好ましい。ポリエチレングリコールとしては、例えば平均分子量3250、3350および4000のものを例示することができる。薬学上許容される担体としてポリエチレングリコールとスクロースとの混合物を用いる場合、ポリエチレングリコール/スクロースの重量比が一般に1/10から10/1までの範囲となるようにすることが好ましく、ポリエチレングリコール/スクロースの重量比が2/1程度となるようにすることがより好ましい。
【0030】
本明細書において、「容器」とは、医薬組成物を収容できるものであれば特に限定されない。容器としては、シリンジ、バイアル、アンプル、注射器などが例示され、バイアルであることが好ましい。容器の材質はガラス、プラスチックなどが例示でき、ガラスであることが好ましい。ガラスには例えば、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスなどが含まれる。容器は、栓部材又はキャップをさらに有することが好ましく、ゴム栓を有することがより好ましい。容器のサイズは特に限定されないが、0.5mL以上100mL以下が例示され、1mL以上10mL以下が好ましく、2mL以上4mL以下がより好ましく、3mLが更に好ましい。医薬組成物が容器に収容された包装体は、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスが封入されていてもよく、あるいは、脱気されていてもよい。
【0031】
凍結乾燥製剤の水分含量は、例えば5%(w/w)以下であり、3%(w/w)以下であることが好ましく、2%(w/w)以下であることがより好ましい。なお、本明細書において水分含量は、電量滴定法によって測定された値である。
【0032】
本発明では、医薬組成物の単位用量あたりの糖分解酵素量が2μg以上8μg以下であることを特徴とする。一般に酵素の存在量が少ないほど凍結乾燥前後での力価の低下が顕著になるところ、本発明者は驚くべきことに、医薬組成物の単位用量あたりの糖分解酵素量を2μg以上8μg以下とすることで凍結乾燥前後での力価低下を顕著に抑制できることを見出した。凍結乾燥前後での力価低下抑制効果の観点から、好ましい一実施形態では、医薬組成物の単位用量あたりの糖分解酵素量は、2μg以上7μg以下や、2μg以上6μg以下や、2.5μg以上6μg以下である。より好ましい一実施形態では、医薬組成物の単位用量あたりの糖分解酵素量は、2μg以上5μg以下や、2.5μg以上5μg以下である。特に好ましい一実施形態では、医薬組成物の単位用量あたりの糖分解酵素量は、3μg以上5μg以下である。
【0033】
好ましい一実施形態では、容器あたりの糖分解酵素の収容量は、2μg以上8μg以下である。より好ましい一実施形態では、容器あたりの糖分解酵素の収容量は、2μg以上7μg以下や、2μg以上6μg以下や、2.5μg以上6μg以下である。さらに好ましい一実施形態では、容器あたりの糖分解酵素の収容量は、2μg以上5μg以下や、2.5μg以上5μg以下である。特に好ましい一実施形態では、容器あたりの糖分解酵素の収容量は、3μg以上5μg以下である。
【0034】
「力価」とは、糖分解酵素1μgに対する酵素の活性(ユニット)を意味し、ユニット/μgの単位で示される。本発明では、凍結乾燥された糖分解酵素の力価は0.3(ユニット/μg)以上である。一実施形態では、凍結乾燥された糖分解酵素の力価は0.3(ユニット/μg)以上1(ユニット/μg)以下である。別の実施形態では、凍結乾燥された糖分解酵素の力価は0.32(ユニット/μg)以上1(ユニット/μg)以下である。より好ましい別の実施形態では、凍結乾燥された糖分解酵素の力価は0.34(ユニット/μg)以上1(ユニット/μg)以下である。さらに好ましい別の実施形態では、凍結乾燥された糖分解酵素の力価は0.36(ユニット/μg)以上1(ユニット/μg)以下である。特に好ましい別の実施形態では、凍結乾燥された糖分解酵素の力価は0.38(ユニット/μg)以上1(ユニット/μg)以下である。
【0035】
一実施形態では、凍結乾燥された糖分解酵素の力価は0.3(ユニット/μg)以上0.5(ユニット/μg)以下である。別の実施形態では、凍結乾燥された糖分解酵素の力価は0.36(ユニット/μg)以上0.5(ユニット/μg)以下である。
【0036】
「ユニット(U、単位)」とは、糖分解酵素が有する活性を示しており、1Uは、至適温度、至適pH条件下で、単位時間あたりに基質から1マイクロモルに相当する分解物を遊離させる量を意味する。例えば、糖分解酵素がコンドロイチナーゼABCの場合、1ユニットとは、pH8.0、37℃の条件下で、コンドロイチン硫酸ナトリウム(日本薬局方外医薬品規格2002に適合するコンドロイチン硫酸エステルナトリウム)から1分間あたり1マイクロモルの不飽和二糖を遊離させる量を意味する。
【0037】
一実施形態では、単位用量あたりの酵素活性(糖分解酵素の酵素活性)は、例えば、4ユニット以下である。別の一実施形態では、単位用量あたりの酵素活性は、例えば、0.1ユニット以上4ユニット以下である。好ましい実施形態では、単位用量あたりの酵素活性は、0.5ユニット以上3ユニット以下である。さらに好ましい実施形態では、単位用量あたりの酵素活性は、0.9ユニット以上3ユニット以下や、0.9ユニット以上2.5ユニット以下である。別の好ましい実施形態では、単位用量あたりの酵素活性は、0.9ユニット以上2ユニット以下、1.25ユニット以上2ユニット以下、または1.5ユニットである。
【0038】
一実施形態では、容器あたりの酵素活性は、例えば、4ユニット以下である。別の一実施形態では、容器あたりの酵素活性は、例えば、0.1ユニット以上4ユニット以下である。好ましい一実施形態では、容器あたりの酵素活性は、0.5ユニット以上3ユニット以下である。さらに好ましい一実施形態では、容器あたりの酵素活性は、0.9ユニット以上3ユニット以下や、0.9ユニット以上2.5ユニット以下である。別の好ましい一実施形態では、容器あたりの酵素活性は、0.9ユニット以上2ユニット以下、1.25ユニット以上2ユニット以下(例えば、1.5ユニット)である。
【0039】
本発明によれば、力価が高い(0.3ユニット/μg以上)糖分解酵素量を少量(2μg以上8μg以下)含有する、凍結乾燥された単位用量製剤の形態の医薬組成物が提供される。
【0040】
凍結乾燥製剤の形態である医薬組成物中に含まれる糖分解酵素の酵素活性は、凍結乾燥前の酵素活性の値を100%とした場合に、例えば75%以上であり、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。これが100%ならば、凍結乾燥前後で酵素活性の値が等しいことになる。
【0041】
本発明の一実施形態によれば、例えば、12ヶ月以上の貯蔵安定性を有する医薬組成物が提供され得る。好ましい一実施形態では、24ヶ月以上の貯蔵安定性を有する医薬組成物であり、より好ましい一実施形態では、36ヶ月以上の貯蔵安定性を有する医薬組成物である。貯蔵安定性の上限は特に制限されないが、例えば、48ヶ月以下(例えば、36ヶ月以下)であり得る。
【0042】
ここで、「貯蔵安定性を有する」とは、所定条件(例えば、5℃±3℃で12ヶ月以上、25℃±2℃で6か月以上、または40℃±2℃で3ヶ月以上もしくは6ヶ月以上)で遮光して貯蔵した後における力価(%)が、薬学上許容される程度に維持されていることをいう。本明細書において「貯蔵安定性」は、例えば力価残存率(%)で評価される。例えば、5℃±3℃で遮光して12ヶ月以上の間試料を貯蔵した後の力価残存率は、例えば90%以上であり、95%以上であることが好ましい。5℃±3℃で遮光して24ヶ月以上の間試料を貯蔵した後の力価残存率は、例えば、90%以上であり、95%以上であることが好ましい。5℃±3℃で遮光して36ヶ月以上の間試料を貯蔵した後の力価残存率は、例えば、90%以上であり、95%以上であることが好ましい。25℃±2℃で遮光して6ヶ月以上の間試料を貯蔵した後の力価残存率は、例えば、90%以上であり、95%以上であることが好ましい。40℃±2℃で3ヶ月以上の間試料を遮光して貯蔵した後の力価残存率は、例えば、90%以上であり、95%以上であることが好ましい。40℃±2℃で6ヶ月以上の間試料を貯蔵した後の力価残存率は、例えば、65%以上であり、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましい。なお、「力価残存率(%)」とは、本発明に係る医薬組成物又は包装体を所定温度(例えば、5℃±3℃、25℃±2℃または40℃±2℃)の条件下で遮光して貯蔵した後における力価(%)を、貯蔵開始時の力価を100%として算出した値を意味する。これが100%ならば、貯蔵開始前後で酵素活性の値が等しいことになる。
【0043】
本発明の一実施形態によれば、12ヶ月以上の有効期間を有する医薬組成物が提供され得る。好ましい一実施形態では、24ヶ月以上の有効期間を有する医薬組成物であり、より好ましい一実施形態では、36ヶ月以上の有効期間を有する医薬組成物である。有効期間の上限は特に制限されないが、例えば、48ヶ月以下(例えば、36ヶ月以下)であり得る。
【0044】
本明細書における「有効期間」とは、医薬品がその有用性を確認された時点から一定の貯蔵方法(例えば、5℃±3℃で遮光下、25℃±2℃で遮光下または40℃±2℃で遮光下)で保管した時、その確認時点における医薬品と同等の有用性が期待できる期間を意味する。
【0045】
本明細書において、前記医薬組成物は、「容器に収容された医薬組成物」を含み得る。容器に収容された医薬組成物は、糖分解酵素の単位用量を含む。
【0046】
本明細書において、前記医薬組成物の用途は、糖分解酵素の用途として公知の種々の用途が選択され得る。例えば、糖分解酵素を有効成分として含む医薬組成物の用途は、特に限定されないが、ヘルニア症、リソソーム病、ケロイド、肥厚性瘢痕、筋ジストロフィー、または脊髄損傷の治療が例示できる。好ましい一実施形態では、医薬組成物はヘルニア症の治療用に用いられる。より好ましい一実施形態では、椎間板ヘルニア(例えば、腰椎椎間板ヘルニア)の治療用に用いられる。
【0047】
本明細書において「治療」は、完全な治癒のみならず、疾患の一部又は全部の症状の改善、および疾患の進行の抑制(維持および進行速度の低下を含む)ならびに予防を含む。ここで予防とは、疾患に伴う諸症状が生じていない場合において、当該諸症状の発生を未然に防ぐことを含む。また、予防とは、例えば明確な器質的病変が認められていないものの、疾患に伴う諸症状が生じている場合において、当該器質的な病変の発生を未然に防ぐことや当該諸症状のうち顕在化していない症状の発展を抑制することを含む。
【0048】
本明細書において「有効成分として」および「有効量」とは、合理的なリスク/ベネフィット比に見合う量であり、且つ過度の有害副作用(毒性、刺激性など)を有さずに、所望の応答を得るのに十分な成分の量を意味する。当該「有効成分として」および「有効量」は、投与対象となる患者の症状、体格、年齢、性別等の諸要素によって変化し得る。しかしながら、当業者であれば、諸要素の組み合わせのそれぞれについての個別の試験を要するまでもなく、一又は複数の具体的な試験例の結果と技術常識とに基づいて、他の場合における有効量を決定することができる。
【0049】
本明細書において「患者」とは、動物、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ等)、より好ましくはヒトを意味する。
【0050】
好ましい一実施形態では、容器に収容された医薬組成物は、滅菌状態で提供される。医薬組成物の滅菌方法は特に制限されず、ろ過滅菌、乾熱滅菌等、従来公知の手法によって行われ得る。
【0051】
医薬組成物の投与形態も特に制限されず、治療すべき疾患、症状、重症度、患者の属性(例えば、年齢など)等に応じて、適宜選択され得る。凍結乾燥製剤は、任意の溶媒(例えば、注射用水、生理食塩液など)に溶解させて使用され得る。投与形態は、例えば、椎間板内注射、静脈注射、筋肉注射、皮下注射、点滴などの任意の投与経路が挙げられる。医薬組成物の投与量もまた、治療すべき疾患、症状、重症度、患者の属性(例えば、年齢など)等に応じて、当業者であれば適宜設定できる。
【0052】
本発明の好ましい具体的態様を以下に例示するが、本発明の技術的範囲を制限するものではない。以下、医薬組成物の適用が椎間板ヘルニアであるものを例に説明することもあるが、適用される疾患等を問わない「医薬組成物」であってもよいことは当然である。
【0053】
(医薬組成物1)
有効成分: コンドロイチナーゼABC
単位用量あたりの酵素量: 2μg以上7μg以下
酵素力価: 0.36(ユニット/μg)以上1(ユニット/μg)以下
単位用量あたりの酵素活性: 0.9ユニット以上3ユニット以下
適用: 椎間板ヘルニア
【0054】
(医薬組成物2)
有効成分: コンドロイチナーゼABC
単位用量あたりの酵素量: 2μg以上5μg以下
酵素力価: 0.36(ユニット/μg)以上0.5(ユニット/μg)以下
単位用量あたりの酵素活性: 0.9ユニット以上2.5ユニット以下
適用: 椎間板ヘルニア
【0055】
(医薬組成物3)
有効成分: コンドロイチナーゼABC
単位用量あたりの酵素量: 2μg以上5μg以下
酵素力価: 0.36(ユニット/μg)以上0.5(ユニット/μg)以下
単位用量あたりの酵素活性: 0.9ユニット以上2ユニット以下
適用: 椎間板ヘルニア
【0056】
(医薬組成物4)
有効成分: コンドロイチナーゼABC
単位用量あたりの酵素量: 2μg以上5μg以下
酵素力価: 0.36(ユニット/μg)以上0.5(ユニット/μg)以下
単位用量あたりの酵素活性: 1.25以上2ユニット以下
適用: 椎間板ヘルニア
【0057】
(医薬組成物5)
有効成分: コンドロイチナーゼABC
単位用量あたりの酵素量: 3μg以上5μg以下
酵素力価: 0.36(ユニット/μg)以上0.5(ユニット/μg)以下
単位用量あたりの酵素活性: 1.5ユニット
適用: 椎間板ヘルニア
【0058】
(2)キット
一実施形態では、前記医薬組成物が容器に収容されてなる包装体、およびヘルニア症、リソソーム病、ケロイド、肥厚性瘢痕、筋ジストロフィー、または脊髄損傷の治療のための前記医薬組成物の使用を説明する添付文書又はラベルを含むキットが提供される。
【0059】
キットは、前記医薬組成物が容器に収容されてなる包装体、ならびにヘルニア症、リソソーム病、ケロイド、肥厚性瘢痕、筋ジストロフィー、または脊髄損傷の治療のための前記医薬組成物の使用を説明する添付文書又はラベルを含んでいればよい。すなわち、更に他の構成成分を含むものであってもよい。
【0060】
(3)製造方法
本発明の一側面は、医薬組成物が容器に収容されてなる包装体の製造方法であり、2μg以上8μg以下の糖分解酵素を含む溶液を容器に収容する第1工程と、前記溶液を凍結乾燥して単位用量の医薬組成物を得る第2工程とを含む、製造方法に関する。
【0061】
第1工程において、糖分解酵素を含む溶液の調製に用いる溶媒は、特に限定されないが、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液等の緩衝液が採用され得る。また、溶液は、上記したような薬学上許容される担体を含んでいてもよい。容器に収容する糖分解酵素を含む溶液のpHは特に限定されないが、6.5以上7.5以下の範囲であることが好ましい。
【0062】
好ましい一実施形態では、第1工程において、容器あたりの酵素活性が4ユニット以下となるように、糖分解酵素を含む溶液を容器に収容する。より好ましい一実施形態では、容器あたりの酵素活性が0.5ユニット以上4ユニット以下となるように、溶液を容器に収容する。さらに好ましい一実施形態では、容器あたりの酵素活性が1ユニット以上3ユニット以下となるように、溶液を容器に収容する。特に好ましい一実施形態では、容器あたりの酵素活性が、1.25ユニット以上2.5ユニット以下となるように、溶液を容器に収容する。
【0063】
第2工程は、糖分解酵素を含む溶液を凍結させ、その凍結状態のまま昇華させることにより水分を除去して乾燥させる凍結乾燥工程を含む。第2工程においては、凍結乾燥後の医薬組成物の水分含量が、例えば5%(w/w)以下となるまで乾燥が行われる。第2工程における乾燥は、凍結乾燥後の医薬組成物の水分含量が3%(w/w)以下となるまで行われることが好ましく、2%(w/w)以下となるまで行われることがより好ましい。
【0064】
本発明に係る製造方法は、「前記(1)組成物および包装体」や「前記(2)キット」の記述、例示、好ましい範囲などがそのまま適用できる。
【0065】
本発明は、別の態様として、ヘルニア症、リソソーム病、ケロイド、肥厚性瘢痕、筋ジストロフィー、または脊髄損傷の処置に用いられる医薬組成物の製造における単位用量製剤の使用であって、力価が0.3ユニット/μg以上である凍結乾燥された糖分解酵素を有効成分として含み、前記糖分解酵素量が2μg以上8μg以下の単位用量製剤の使用をも包含する。また、別の態様として、ヘルニア症、リソソーム病、ケロイド、肥厚性瘢痕、筋ジストロフィー、または脊髄損傷の処置における単位用量製剤の使用であって、力価が0.3ユニット/μg以上である凍結乾燥された糖分解酵素を有効成分として含み、前記糖分解酵素量が2μg以上8μg以下の単位用量製剤の使用をも包含する。さらに、別の態様として、ヘルニア症、リソソーム病、ケロイド、肥厚性瘢痕、筋ジストロフィー、または脊髄損傷の処置に使用される単位用量製剤であって、力価が0.3ユニット/μg以上である凍結乾燥された糖分解酵素を有効成分として含み、前記糖分解酵素量が2μg以上8μg以下の単位用量製剤をも包含する。
【0066】
以下に本発明の実施形態を例示するが、本発明はこれらに限定されない。
【0067】
<1>力価が0.3ユニット/μg以上である凍結乾燥された糖分解酵素を有効成分として含み、前記糖分解酵素量が2μg以上8μg以下の単位用量製剤である、医薬組成物。
【0068】
<2>酵素活性が4ユニット以下である、<1>に記載の医薬組成物。
【0069】
<3>前記糖分解酵素の酵素活性が、凍結乾燥前の値を100%とした場合に、75%以上である、<1>または<2>に記載の医薬組成物。
【0070】
<4>5℃±3℃で12ヶ月以上の貯蔵安定性を有する、<1>から<3>のいずれかに記載の医薬組成物。
【0071】
<5>前記糖分解酵素がグリコサミノグリカン分解酵素である、<1>から<4>のいずれかに記載の医薬組成物。
【0072】
<6>前記グリコサミノグリカン分解酵素がコンドロイチナーゼである、<5>に記載の医薬組成物。
【0073】
<7>前記コンドロイチナーゼがコンドロイチナーゼABCである、<6>に記載の医薬組成物。
【0074】
<8>薬学上許容される担体を含む、<1>から<7>のいずれかに記載の医薬組成物。
【0075】
<9>前記担体が、ポリアルキレングリコールおよびスクロースの少なくとも一方を含む、<8>に記載の医薬組成物。
【0076】
<10>前記医薬組成物が、ヘルニア症、リソソーム病、ケロイド、肥厚性瘢痕、筋ジストロフィー、または脊髄損傷の治療用である、<1>から<9>のいずれかに記載の医薬組成物。
【0077】
<11><1>から<10>のいずれかに記載の医薬組成物が、容器に収容されてなる包装体。
【0078】
<12>前記容器が、バイアル、シリンジ、またはアンプルである、<11>に記載の包装体。
【0079】
<13><1>から<10>のいずれかに記載の医薬組成物が容器に収容されてなる包装体、およびヘルニア症、リソソーム病、ケロイド、肥厚性瘢痕、筋ジストロフィー、または脊髄損傷の治療のための前記医薬組成物の使用を説明する添付文書またはラベルを含む、キット。
【0080】
<14>医薬組成物が容器に収容されてなる包装体の製造方法であり、2μg以上8μg以下の糖分解酵素を含む溶液を容器に収容する工程と、前記溶液を凍結乾燥して単位用量の医薬組成物を得る工程とを含む、製造方法。
【0081】
<15>凍結乾燥された前記糖分解酵素の力価が0.3(ユニット/μg)以上である、<14>に記載の製造方法。
【0082】
<16>前記容器に収容される溶液の酵素活性が4ユニット以下である、<14>または<15>に記載の製造方法。
【0083】
<17>凍結乾燥後の前記糖分解酵素の酵素活性が、凍結乾燥前の酵素活性を100%とした場合に、75%以上である、<14>から<16>のいずれかに記載の製造方法。
【0084】
<18>前記糖分解酵素はグリコサミノグリカン分解酵素である、<14>から<17>のいずれかに記載の製造方法。
【0085】
<19>前記グリコアミノグリカン分解酵素がコンドロイチナーゼである、<18>に記載の製造方法。
【0086】
<20>前記コンドロイチナーゼがコンドロイチナーゼABCである、<19>に記載の製造方法。
【0087】
<21>前記医薬組成物が薬学上許容される担体を含む、<14>から<20>のいずれかに記載の製造方法。
【0088】
<22>前記担体が、ポリアルキレングリコールおよびスクロースの少なくとも一方を含む、<21>に記載の製造方法。
【0089】
<23>前記医薬組成物が、ヘルニア症、リソソーム病、ケロイド、肥厚性瘢痕、筋ジストロフィー、または脊髄損傷の治療用である、<14>から<22>のいずれかに記載の製造方法。
【0090】
<24>前記容器は、バイアル、シリンジ、またはアンプルである、<14>から<23>のいずれかに記載の製造方法。
【実施例】
【0091】
以下、本発明をより具体的に詳説する。しかしながら、これにより本発明の技術的範囲が限定されるべきものではない。
【0092】
<調製例>
1)コンドロイチナーゼABCの調製
コンドロイチナーゼABCは、特開平6-153947号公報に記載の方法に準じて調製した。すなわち、プロテウス・ブルガリスの培養上清から精製することによって製造した。得られたコンドロイチナーゼABCの力価は、0.4U/μgであった。
【0093】
2)コンドロイチナーゼABCの酵素活性測定と濃度測定
コンドロイチナーゼABCの酵素活性は以下の方法で測定した。
酵素試料(コンドロイチナーゼABC)を0.01%(w/v)カゼイン試薬(20mMリン酸緩衝液)で4000倍希釈した。この希釈された酵素試料100μLに基質溶液400μL(3mg/mlコンドロイチン硫酸エステルナトリウム(日本薬局方外医薬品規格)、50mM 2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、50mM酢酸ナトリウム、pH8)を加えて混和した。溶液を37℃で20分間反応させた後、100℃の水浴中で1分間加熱した。室温まで冷却後、0.05M 塩酸を5.0mL加え、試料溶液を調製した。コンドロイチナーゼABC標準物質を0.01%(w/v)カゼイン試薬で400倍希釈した。この希釈されたコンドロイチナーゼABC標準物質の溶液100μLに対し、試料溶液の調製と同様の操作を行い、標準溶液を調製した。また、0.01%(w/v)カゼイン試薬100μLに対し、試料溶液の調製と同様の操作を行い、対照溶液を調製した。試料溶液、標準溶液並びに対照溶液につき、紫外可視吸光度測定法により、波長232nmにおける吸光度AT、AS、およびABを測定し、下記式により酵素溶液活性(U/mL)を求めた。ここで酵素溶液活性は、単位液量当たりの酵素活性である。
【0094】
酵素溶液活性(U/mL)=(AT-AB)/(AS-AB)×4000/400×Us
AT:試料溶液の吸光度
AB:対照溶液の吸光度
AS:標準溶液の吸光度
Us:コンドロチナーゼABC標準物質の酵素溶液活性(U/mL)
【0095】
なお、1U(ユニット、単位)は、上記反応条件下において1分間に不飽和二糖を1マイクロモル遊離する反応を触媒する酵素活性の値と定義した。本明細書において用いた酵素活性の値は、酵素溶液活性に基づいて求めた。
【0096】
コンドロイチナーゼABCの酵素量(タンパク量、μg)は以下のLowry法(ローリー法)で測定した。すなわち、純水で50倍希釈した酵素試料(コンドロイチナーゼABC)0.5mLにアルカリ性銅試薬2.5mL加えて混和し、室温(20℃以上25℃以下)に10分間放置した。この液に1mol/Lフェノール試薬0.25mLを加え混和し、室温に30分間放置し、試料溶液とした。ウシ血清アルブミンを水に溶かし、それぞれ30μg/mL、40μg/mL、50μg/mL、60μg/mL、または70μg/mLとなるように溶液を調製し、これら溶液0.5mLそれぞれに対し、前記50倍希釈した酵素試料と同様の操作を行い、標準溶液とした。また、水0.5mLに対し、前記50倍希釈した酵素試料と同様の操作を行い、ブランク液とした。これらの液について、波長750nmにおける吸光度を測定した。直線回帰法により標準溶液の吸光度とタンパク質濃度をプロットし、各点に最も近似した標準曲線を求めた。得られた標準曲線と試料溶液の吸光度から試料溶液中のタンパク量を求めた。
【0097】
3)酵素用緩衝液の調製
以下の組成となるよう、酵素用緩衝液を用意した。
(組成;注射用蒸留水1L中)
リン酸水素ナトリウム水和物(リン酸水素ニナトリウム) 1.125mg
リン酸ニ水素ナトリウム 0.3mg
スクロース 5mg
ポリエチレングリコール3350 10mg
pH:6.5以上7.5以下。
【0098】
<試験例1>
酵素用緩衝液を用いて調製したコンドロチナーゼABC溶液を、酵素量が以下になるように3mlサイズのガラスバイアル(SCHOTT社製)に収容した:
試料1: 1.3μg/バイアル(0.5U/バイアル)
試料2: 2.5μg/バイアル(1.00U/バイアル)
試料3: 5.0μg/バイアル(2.00U/バイアル)
試料4: 9.1μg/バイアル(3.63U/バイアル)
【0099】
これらバイアルに収容した酵素溶液を、以下の条件で凍結乾燥した(水分含量2%(w/w)以下)。凍結乾燥後、窒素ガスでバイアル内を復圧し、ゴム栓を打栓し、単位用量製剤を得た。
【0100】
(凍結乾燥条件)
工程1:常圧下で、温度を室温からマイナス35℃に冷却させ、試料を凍結させた。
工程2:温度マイナス35℃、常圧の状態を30分間維持した。
工程3:温度マイナス35℃、真空度13.3Paの状態を5時間維持した。
工程4:真空度を13.3Paに維持したまま、温度をマイナス35℃から25℃に昇温させた。
工程5:温度25℃、真空度13.3Paの状態を5時間維持した。
【0101】
各バイアルについて、凍結乾燥後の酵素活性(U/単位用量)をそれぞれ測定した。また、力価(U/μg)、及び相対酵素活性(凍結乾燥前の酵素活性を100%とした場合の、凍結乾燥後の酵素活性)(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0102】
【0103】
表1の結果より、単位用量あたりの糖分解酵素量を特定の範囲(2.0μg以上8.0μg以下)にすることで、力価が極めて高い凍結乾燥製剤を提供することができた。
【0104】
<試験例2>
酵素用緩衝液を用いてコンドロチナーゼABC溶液を調製した。この調製した酵素溶液を、酵素量が1.5U/バイアルとなるように試験例1と同様にガラスバイアルに収容し、凍結乾燥した(水分含量2%(w/w)以下)。凍結乾燥後、窒素ガスでバイアル内を復圧し、ゴム栓を打栓し、単位用量製剤を得た。
【0105】
得られた単位用量製剤について、凍結乾燥後の酵素活性(U/バイアル)を測定した。その結果、凍結乾燥後も1.5U/バイアルの酵素活性が維持されていた。
【0106】
<試験例3>
試験例1の方法に準じて単位用量製剤(1.5U/バイアル)を得た。得られた単位用量製剤を、以下の条件1又は2で貯蔵した。各貯蔵期間後の酵素の力価を求めた。
【0107】
条件1):25℃±2℃、遮光
条件2):5℃±3℃、遮光
【0108】
その結果、条件1では、貯蔵開始後1ヶ月、3ヶ月及び6ヶ月において、貯蔵開始時の力価を100%とした場合の力価残存率が95%以上であった。条件2では、貯蔵開始後3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月及び36ヶ月において、貯蔵開始時の力価を100%とした場合の力価残存率が、95%以上であった。
【0109】
本発明は具体的実施例と様々な実施形態とに関連して記載されているが、本明細書に記載される実施形態の多くの改変や応用が、本発明の精神および範囲を逸脱することなく可能であることは、当業者によって容易に理解される。
本出願は、2018年2月28日付で日本国特許庁に出願された特願2018-35884号に基づく優先権を主張し、その内容は参照によって全体として本出願に組み込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。