(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】ブロックポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 293/00 20060101AFI20230728BHJP
【FI】
C08F293/00
(21)【出願番号】P 2020521594
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(86)【国際出願番号】 FR2018052526
(87)【国際公開番号】W WO2019077236
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-05
(32)【優先日】2017-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-バティスト-ディ-ドミニク フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ラファキエール ヴァンサン
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-515015(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128545(WO,A1)
【文献】特開平04-356544(JP,A)
【文献】特開2017-222856(JP,A)
【文献】特開2014-015613(JP,A)
【文献】特開平09-255742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00-297/08
C08L 53/00- 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のブロックと第2のブロックを含むブロックポリマーであって、第1のブロックが、シス-1,4-イソプレン単位を含み、そのモル含有量が第1のブロックのトランス-1,4-イソプレン単位のモル含有量よりも大きく、第2のブロックが、1,3-ジエンのモノマー単位とエチレン、α-モノオレフィンおよびその混合物からなる群から選択されるオレフィンのモノマー単位とを含み、ブロックポリマーが、ブロックポリマー中のイソプレン単位の少なくとも8mol%に相当する3,4-イソプレン単位を含み、第2のブロックが、1,3-ブタジエンとエチレンのコポリマー鎖または1,3-ブタジエン、エチレンおよびスチレンのターポリマー鎖であ
り、ブロックポリマーが、ジブロックであり、第1のブロックが、イソプレンのホモポリマー鎖である、ブロックポリマー。
【請求項2】
第1のブロックがアタクチック鎖である、請求項1
に記載のブロックポリマー。
【請求項3】
第1のブロックが、100を超えるモノマー単位を含有する、請求項1
および2のいずれか1項に記載のブロックポリマー。
【請求項4】
第2のブロックが、0mol%超~50mol%の1,3-ジエンのモノマー単位と50mol%~100mol%未満のオレフィンのモノマー単位を含む、請求項1から
3のいずれか1項に記載のブロックポリマー。
【請求項5】
第1のブロックのモノマー単位の炭素原子と第2のブロックのモノマー単位の炭素原子との直接結合により、第1のブロックが第2のブロックに共有結合されている、請求項1から
4のいずれか1項に記載のブロックポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプレン単位およびモノオレフィン単位を含む、両方のジエン単位を有するブロックポリマーの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
常に異なる材料を提供する目的で新規な微細構造を有する新しいブロックポリマーを開発することは常に有利である。しかしながら、ブロックの1つがイソプレン単位を含有し、その1,4-単位が主にシス-1,4単位であり、また別のブロックがジエン単位およびモノオレフィン単位を含有し、ブロックポリマー中の3,4-イソプレン単位のモル含有量が少なくとも8%であるブロックポリマーは知られていない。
特定のプロセスを使用することにより、出願人の会社は、新しいブロックポリマーを合成することを発見した。ブロックの1つがアニオン重合によって入手可能な微細構造を有し、他のブロックの1つがメタロセンの存在下で実施された重合によって入手可能な微細構造を有するので、このポリマーは、特定の組成を有している。
【発明の概要】
【0003】
したがって、本発明は、第1のブロックと第2のブロックを含むブロックポリマーであって、第1のブロックが、シス-1,4-イソプレン単位を含み、そのモル含有量が第1のブロックのトランス-1,4-イソプレン単位のモル含有量よりも大きく、第2のブロックが、1,3-ジエンのモノマー単位とエチレン、α-モノオレフィンおよびその混合物からなる群から選択される第2のオレフィンのモノマー単位とを含み、ブロックポリマーが、ブロックポリマーのイソプレン単位の少なくとも8mol%に相当する3,4-イソプレン単位を含む、ブロックポリマーに関する。
【発明を実施するための形態】
【0004】
I.本発明の詳細な説明
表現「aとbの間」で示される値の間隔は、「a」より大きい値から「b」より小さい値の範囲を表し(すなわち、端点aとbは除外される)、一方、表現「a~b」で示される値の間隔は、「a」から「b」までの値の範囲を意味する(すなわち、厳密な端点aおよびbを含む)。
説明に記載されている化合物は、化石または生物起源のものであってもよい。後者の場合には、それらは、部分的または完全に、バイオマスに由来するか、またはバイオマスに由来する再生可能な原料から得ることができる。これは、特にモノマーに関する。
2つのブロックを含む本発明によるブロックポリマーは、有利にはジブロックポリマーである。
第1のブロックは、シス-1,4-イソプレン構造のジエン単位を含有するという本質的な特徴を有している。第1のブロック中のシス-1,4-イソプレン単位のモル含有量は、ブロックポリマー中に含有されているトランス-1,4-イソプレン単位のモル含有量よりも多い。好ましくは、第1のブロックは、イソプレンのホモポリマー鎖である。第1のブロックは、優先的にはアタクチック鎖であり、より優先的にはアタクチックポリイソプレン鎖である。
第1のブロックは、優先的には100を超えるモノマー単位を含有する。
ブロックポリマーはまた、1,3-ジエンのモノマー単位とオレフィンのモノマー単位を含む第2のブロックから形成されるという別の本質的な特徴を有している。1,3-ジエンは、優先的には1,3-ブタジエン、イソプレンまたはその混合物であり、より優先的には1,3-ブタジエンである。オレフィンは、エチレン、α-モノオレフィンおよびその混合物からなる群から選択される。α-モノオレフィンは、脂肪族または芳香族であってよい。脂肪族α-モノオレフィンは、好ましくは3~18個の炭素原子を有するアルケン、例えばプロペン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ヘキサデセンまたはその混合物である。芳香族α-モノオレフィンは、式CH2=CH-Ar’のα-モノオレフィンであり、Ar’は、置換または非置換の芳香族基、好ましくはフェニルまたはアリールを表す。それは、優先的にはスチレンまたは1個もしくは複数のアルキル基によって置換されたスチレンであり、より優先的にはスチレンである。
【0005】
本発明の一実施形態によれば、第2のブロックは、0mol%超~50mol%の1,3-ジエンのモノマー単位と50mol%~100mol%未満のオレフィンのモノマー単位を含む。
本発明の好ましい実施形態によれば、第2のブロックは、1,3-ブタジエンとエチレンのコポリマー鎖または1,3-ブタジエン、エチレンおよびα-モノオレフィンのターポリマー鎖であり、α-モノオレフィンは、優先的にはスチレンである。好ましくは、ポリマーは、ジブロックであり、第1のブロックは、イソプレンのホモポリマー鎖であり、第2のブロックは、1,3-ブタジエンとエチレンのコポリマー鎖または1,3-ブタジエン、エチレンおよびα-モノオレフィンのターポリマー鎖であり、α-モノオレフィンは、優先的にはスチレンである。
本発明の別の好ましい実施形態によれば、ブロックポリマーは、飽和炭化水素単位、好ましくは1,2-シクロヘキサンジイル単位である6員環単位を含有する。環式単位は、従来のエチレンおよび1,3-ブタジエン単位、それぞれ-(CH2-CH2)-、-(CH2-CH=CH-CH2)-および-(CH2-CH(C=CH2))-に加えて、エチレンおよび1,3-ブタジエンモノマーのポリマー鎖への特定の挿入の結果として生じる。このような微細構造を得るためのメカニズムは、例えば、文献Macromolecules 2009, 42, 3774-3779に記載されている。
【0006】
本発明によるブロックポリマーでは、第1のブロックおよび第2のブロックは、好ましくは互いに直接結合されている。言い換えれば、第1のブロックのモノマー単位の炭素原子と第2のブロックのモノマー単位の炭素原子との直接結合により、第1のブロックは、優先的には第2のブロックに共有結合されている。
本発明によるブロックポリマーは、ブロックポリマーの新規な微細構造、特に各ブロックの組成、2つのブロックの直接結合の特定の特徴およびブロックポリマー中の飽和6員環炭化水素構造の存在を与えるプロセスによって調製することができる。
ブロックポリマーを調製するためのプロセスは、ステップa)およびステップb)を含み、ステップa)は、希土類メタロセンと第1のモノマーのリビングアニオンポリマーの反応であり、ステップb)は、ステップa)の反応生成物の存在下での第2のモノマーの重合である。第1のモノマーは、イソプレンを含有するモノマー混合物である。好ましくは、第1のモノマーは、イソプレンである。第2のモノマーは、上記で定義されている1,3-ジエンとオレフィンの混合物である。したがって、プロセスは、あらかじめリビングアニオンポリマーを調製した後に、後続の重合によってブロックポリマーの第2のブロックを形成することにある。プロセスの終わりに、リビングアニオンポリマーは、ブロックポリマーの第1のブロックの形態のブロックポリマーの不可欠な部分を形成する。プロセスを実施するために、リビングアニオンポリマーは、第2のモノマーの重合に関してメタロセンを活性化するためにメタロセンをアルキル化するための薬剤として本発明の要件に役立つ。ステップa)は、リビングアニオンポリマーによるメタロセンのアルキル化反応である。好ましくは、リビングポリマーのモル数とメタロセン中の希土類原子のモル数の比は、0.8~1.2の範囲内で異なる。
【0007】
アルキル化剤はリビングアニオンポリマーなので、別の性質のアルキル化剤、例えば炭素-金属結合、特にC-AlまたはC-Mg結合を有する化合物の添加は、このプロセスでは不必要である。特に、そのような化合物、例えば、トリアルキルアルミニウムまたはジアルキルマグネシウムなどの添加は、ブロックポリマーの収率を低下させ、ホモポリマーの存在を促進する結果をもたらすことになる。第2のモノマーの重合媒体は、優先的にはC-AlまたはC-Mg結合を有する化合物を欠いている。
【0008】
したがって、リビングアニオンポリマーは、従来は、重合溶媒と呼ばれる溶媒中での第1のモノマーのアニオン重合によって得られる。重合溶媒は、1,3-ジエンモノマーと芳香族α-モノオレフィンモノマーの重合で使用されることで知られている任意の炭化水素溶媒であり得る。好ましくは、重合溶媒は、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンまたはトルエンである。
第1のモノマーの重合のための溶媒は、ポリマー鎖の微細構造および重合反応の速度を制御するために添加剤を含んでいてもよい。この添加剤は、極性の剤、例えばエーテルまたは第三級アミン、好ましくは第三級アミン、より優先的には「キレート化」第三級アミン、例えばN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンであってもよい。添加剤は特にアニオン重合の成長部位の非活性化のための反応を制限するために、一般に少量で使用される。従来、重合媒体中の炭素-金属結合の数に関連付けられる重合溶媒中の添加剤の量は、ポリマー鎖の所望の微細構造に基づいて調整され、したがって添加剤の錯化力によって決まる。添加剤、特にN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンは、優先的には最大で1の炭素-金属結合当量の含有量、より優先的には0.01~0.5の炭素-金属結合当量の含有量で使用される。
【0009】
リビングポリマーの形成に使用される溶媒の量と第1のモノマーの量との比は、リビングポリマー溶液に望ましい粘度に基づいて当業者によって選択される。この粘度は、ポリマー溶液の濃度だけでなく、多くの他の要因、例えばポリマー鎖の長さ、リビングポリマーの対イオンの性質、リビングポリマー鎖間の分子間相互作用、溶媒の錯化力、ポリマー溶液の温度にも依存する。その結果、当業者は、ケースバイケースで溶媒の量を調整している。
重合反応を開始させるための反応では、本発明の要件に使用されるモノマーのアニオン重合の開始剤として知られている化合物が使用される。好ましくは、開始剤は、炭素-金属結合を有する化合物である。開始剤は、リビングポリマーに望まれる鎖長に応じて選択された含有量で使用され、したがって大幅に異なる可能性がある。
好ましくは、リビングポリマーは、リチウム化合物である開始剤によって開始される第1のモノマーの重合によって調製される。リチウム開始剤として、本発明の要件に使用されるモノマーのアニオン重合で一般に使用される有機リチウム化合物、例えばn-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムおよびtert-ブチルリチウムを挙げることができる。
【0010】
リビングポリマーを形成するための重合温度は、大幅に異なり得る。重合温度は、特に、重合溶媒中の炭素-金属結合の安定性、開始反応および成長反応の相対速度係数、リビングポリマーの標的微細構造に応じて選択される。従来、重合温度は、-20~100℃、優先的には20~70℃までの範囲内で異なる。
ステップa)で本発明の要件に使用されるメタロセンは、希土類メタロセンである。希土類は、金属であり、その原子番号が57~71まで異なる元素スカンジウム、イットリウムおよびランタニドを表すことに留意されたい。希土類は、優先的にはランタニド、より優先的にはネオジム(Nd)である。
【0011】
好ましくは、希土類メタロセンは、式(Ia)または(Ib)の部分を含み、
P(Cp1)(Cp2)Met (Ia)
(Cp1)(Cp2)Met (Ib)
Metは、希土類金属原子を表し、
Cp1およびCp2は、同一または異なり、シクロペンタジエニル基、インデニル基およびフルオレニル基からなる群から選択され、これらの基は、置換または非置換であり得、
Pは、2つのCp1およびCp2基を架橋し、少なくとも1個のケイ素または炭素原子を含む基である。
置換シクロペンタジエニル、フルオレニルおよびインデニル基として、1~6個の炭素原子を有するアルキルラジカルまたは6~12個の炭素原子を有するアリールラジカルによって置換されたものを挙げることができる。ラジカルの選択は、置換シクロペンタジエン、フルオレンおよびインデンである対応する分子は市販されているかまたは容易に合成できるので、それらの利用のしやすさによっても左右される。
本出願では、シクロペンタジエニル基の場合、2(または5)位は、下の図に示すように、橋Pが結合している炭素原子に隣接する炭素原子の位置を表す。
【0012】
【化1】
2&5位で置換されたシクロペンタジエニル基として、テトラメチルシクロペンタジエニル基を特に挙げることができる。
インデニル基の場合、2位は、下の図に示すように、橋Pが結合している炭素原子に隣接する炭素原子の位置を表す。
【0013】
【化2】
2位で置換されたインデニル基として、2-メチルインデニルまたは2-フェニルインデニルを特に挙げることができる。
置換フルオレニル基として、2,7-ジ(tert-ブチル)フルオレニルおよび3,6-ジ(tert-ブチル)フルオレニル基を特に挙げることができる。2、3、6および7位は、それぞれ下の図に示されている環の炭素原子の位置を表し、9位は、橋Pが結合している炭素原子に対応する。
【0014】
【化3】
好ましくは、Cp
1およびCp
2は、同一または異なり、それぞれ非置換シクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、非置換フルオレニル基または置換フルオレニル基を示す。有利には、Cp
1は、置換または非置換シクロペンタジエニル基を示し、Cp
2は、置換または非置換フルオレニル基を示し;好ましくは、Cp
1は、非置換シクロペンタジエニル基を示し、Cp
2は、非置換フルオレニル基を示す。
式(I-a)では、Met原子は、橋Pによって一緒に結合されている2個のCp
1およびCp
2基からなるリガンド分子と結合している。好ましくは、橋の用語で表される記号Pは、式MR
3R
4に対応し、Mは、ケイ素または炭素原子、好ましくはケイ素原子を示し、R
3およびR
4は、同一または異なり、1~20個の炭素原子を含むアルキル基を示す。より優先的には、橋Pは、式SiR
3R
4であり、R
3およびR
4は、前記で定義した通りである。さらにより優先的には、Pは、式SiMe
2に対応する。
【0015】
メタロセンは、式(II-a)または(II-b)、好ましくは式(IIa)であり得、
{P(Cp1)(Cp2)Met-G}b (II-a)
(Cp1)(Cp2)MetG (II-b)
式中:
・Metは、希土類金属原子を示し、
・記号Gは、塩素、フッ素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるハロゲン原子または水素化ホウ素(BH4)単位もしくはアミド単位を含む基を表し、
・Cp1、Cp2およびPは、前記で定義した通りであり、好ましい代替形態によるものを含み、
・bは、1または2に等しい。
【0016】
Gがハロゲン原子を表す場合、Gは、優先的には、塩素原子である。
有利には、式(II-a)または(II-b)では、Cp1は、置換または非置換シクロペンタジエニル基を示し、Cp2は、置換または非置換フルオレニル基を示し;好ましくは、Cp1は、非置換シクロペンタジエニル基を示し、Cp2は、非置換フルオレニル基を示す。
メタロセンが式(I-a)、(I-b)、(II-a)または(II-b)であろうと、記号Metは、好ましくはランタニド(Ln)原子を示し、その原子番号は、57~71まで異なり、より好ましくはネオジム(Nd)原子である。
【0017】
メタロセンは、好ましくはランタニド水素化ホウ素メタロセン(lanthanide borohydride metallocene)またはランタンハロゲン化メタロセン(lanthanum halide metallocene)、特にランタニド塩化メタロセン(lanthanide chloride metallocene)である。本発明で使用されるメタロセンとして、式(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII)、(IX)または(X)のメタロセンを挙げることができる。
[Me2Si(C5H4)(C13H8)NdCl] (III)
[Me2Si(C5H4)(C13H8)Nd(BH4)2Li(THF)] (IV)
[Me2Si(C5H4)(C13H8)Nd(BH4)(THF)] (V)
[Me2Si(C13H8)2NdCl] (VI)
[Me2Si(C13H8)2Nd(BH4)2Li(THF)] (VII)
[Me2Si(C13H8)2Nd(BH4)(THF)] (VIII)
[{Me2Si(C13H8)2Nd(BH4)2Li(THF)}2] (IX)
[Me2Si(C13H8)2Nd(BH4)] (X)
【0018】
メタロセンは、結晶または非晶質の粉末あるいは単結晶の他の形態であってもよい。メタロセンは、モノマーまたはダイマー形態であってもよく、これらの形態は、メタロセンの調製方法によって決まり、例えば、出願WO 2007054223およびWO 2007054224に記載されている。メタロセンは、文献EP 1 092 731、WO 2007054223およびWO 2007054224に記載されたものと類似のプロセスにより、特に、不活性および無水条件下、適当な溶媒、例えばエーテル、例としてジエチルエーテルもしくはテトラヒドロフラン、または当業者に公知の任意の他の溶媒中での、リガンドのアルカリ金属の塩と、希土類塩、例えば希土類ハロゲン化物もしくは水素化ホウ素物、または第4族金属の塩との反応によって、従来通り調製することができる。反応後、当業者に公知の技術、例えば第2の溶媒からのろ過または沈殿によって、メタロセンを反応副生成物から分離する。メタロセンは、最終的に乾燥させ、固体の形態で単離する。
通常、プロセスは、リビングアニオンポリマーを含有する第1のモノマーの重合のための媒体にメタロセンを添加することによって実施される。第1のモノマーの重合のための媒体中に存在する炭素-金属結合は、重合すべきモノマーの不在下でいくらか不活性化しやすいので、メタロセンの添加は、リビングアニオンポリマーの合成後にできるだけ早く実施することが好ましい。当業者に公知のように、モノマーの、メタロセンの、リビングアニオンポリマーの、重合溶媒の、反応および取り扱いも、無水条件下および不活性雰囲気下で実施する。
【0019】
メタロセンは、優先的には、周囲温度に近い温度(23℃)、例えば周囲温度でリビングアニオンポリマーと接触させる。この接触操作は、リビングアニオンポリマーによるメタロセンの活性化を引き起こす。言い換えれば、メタロセンは、リビングアニオンポリマーと接触させることにより、重合に関して活性化する。活性化されたメタロセンを含有する溶液に第2のモノマーを導入することは、第2のモノマーの後続の重合を誘発する。重合は、文献EP 1 092 731、WO 2004035639およびWO 2007054224に従って実施する。
【0020】
第2のモノマーの重合反応の望ましい度合いでの変換が達成されると、重合反応を、例えば、アルコールなど酸性プロトンを有する化合物などの停止剤によって停止させる。ブロックポリマーは、特に反応媒体から分離することによって、例えばその凝固をもたらす溶媒中で凝固させることによって、または減圧下もしくは水蒸気蒸留の影響下(ストリッピング操作)で重合溶媒および任意の残留モノマーを除去することによって、回収することができる。
プロセスは、本発明によるブロックポリマーを、通常少なくとも90%の高収率で合成することを可能にし、したがってブロックポリマーの分離および精製の工程が回避される。ブロックポリマーの高収率は、ブロックポリマーの合成にも関連し、その各ブロックの数平均モル質量は、5000g/molより大きい。
したがって、プロセスは、新規なブロックポリマーをもたらす。第1のブロックおよび第2のブロックは、異なる重合システムによって合成されるので、プロセスは、アニオン重合によって入手可能な微細構造とメタロセンの存在下で触媒された重合によって入手可能な微細構造を合わせることを可能にする。特に、第1のブロックの広いガラス転移温度の範囲を達成することができ、一方第2のブロックの結晶化度の範囲も可能である。さらに、ブロックポリマー中のブロックの相対比率は、大幅に異なる可能性がある。例えば、第1のブロックは、ブロックポリマーの0.1%~99.9質量%を示し得る。
【0021】
ブロックポリマーは有利にはジブロックポリマーであるが、本発明によるブロックポリマーは、ジブロックポリマーに限定されず、他のブロックを含んでいてもよい。これは、記載された調製プロセス中、アルキル化剤は、それ自体が後続の異なるモノマー供給原料の重合から生じている可能性があり、この場合、それ自体がいくつかのブロックを含むからである。さらに、プロセスは、ステップb)で異なるモノマー供給原料の添加も可能にし、その後第2のブロックに続いて第2のブロックと異なる組成のブロックの形成をもたらし得る。
本発明およびその利点は、説明および以下の例示的な実施形態に照らして、例示として与えられ、限定することなく、容易に理解されるであろう。
【0022】
II.本発明の例示的な実施形態
1)ポリマーのガラス転移温度の決定:
標準ASTM D3418(1999)に基づいて示差走査熱量測定器を用いてガラス転移温度を測定する。
2)ポリマーの融点の決定:
以下の手順に基づいて示差走査熱量測定器を用いて融点を測定する:ヘリウム雰囲気下で、周囲温度から100℃に最初に温度を上昇させ、-150℃まで急冷し、20℃/分の勾配に従って-150℃から200℃に2回目に温度を上昇させる。
試料を25℃から-150℃にする
- -150℃で5分間等温
- -150℃から+200℃まで加熱;20℃/分で
- +200℃で5分間等温
- +200℃から-150℃まで冷却;20℃/分で
- -150℃で5分間等温
- -150℃から+200℃まで加熱;20℃/分で
3)核磁気共鳴(NMR)によるポリマーの分析:
BRUKER AV600分光計でスペクトルを取得する。試料を、1,2-ジクロロベンゼン-d4に溶解する。較正は、1H NMRで7.20ppmにおける1,2-ジクロロベンゼンのプロトン化不純物に対して実施する。
【0023】
3-1)ポリマーの微細構造の決定:
ポリマーの微細構造は、NMR分析によって決定する。
定量1H NMR実験は、単純な30°パルスシーケンスおよび各取得の間に5秒の繰り返し時間を使用する。64~256回の積算を実施する。ポリマーの単位の構造を決定する目的で、2次元1H/13C実験を使用する。
1H NMRスペクトルおよび編集HSQC 1J 1H/13C 2D NMR相関スペクトルにより、ブロックポリマーの微細構造および試料中の各ブロックの比率を決定することができる。
【0024】
3-2)DOSYによるブロックポリマーのパーセント値の決定:
DOSY、NMR法の実験により、複雑な混合物の分析および極微量の検出が可能になる。この実験の目的は、ブロックポリマーが試料の大部分を占め、ホモポリマーの存在が極めて少ないことを実証することである。
DOSY NMR分析は、溶液中のそれらの拡散係数の分析により、存在する化学種、特にポリマーマトリックスを分離することを可能にする。技術の原理は以下の通りである:
DOSY実験は、適用されている勾配の強度G、したがって拡散強度を変化させることにより、プロトンスペクトルを記録することに帰着する。勾配の強度が線形的に増加すると、NMRシグナルの強度が指数関数的に減少することになる。DOSY実験は、2次元マップを与えることになる。DOSYの2次元F2は、フーリエ変換処理後に、1H次元に対応する。1次元F1は、適用された勾配強度に応じてNMRシグナルの減少に対応する。次元F2の処理後、拡散係数を方程式(1)から抽出し、DOSYマップを得る。
I=I0・exp(-Dγ2G2δ2(Δ-δ/3)) (1)
2つのマトリックスが同じ拡散係数を有する場合、これは、2つのマトリックスが同じ流体力学的半径を有し、したがってグラフトされることを意味する。他方では、2つのマトリックスが2つの異なる拡散係数を有する場合、これは、それらが互いに関して自由であることを意味する。拡散係数を表す方程式は、以下のとおりである:
【0025】
【数1】
4)ポリマーの調製:
トルエンおよび1,3-ブタジエンをアルミナガード上で精製した。ブチルリチウムはヘキサン溶液であり、Aldrichに由来し(1.4mol.l
-1)、さらに精製することなく使用した。メタロセン[Me
2SiFlu
2Nd(BH
4)
2Li(THF)]
2および[Me
2SiCpFluNd(BH
4)
2Li(THF)]
2を、特許出願FR 2 893 028およびFR 2 893 029に記載されているプロトコルに従って調製した。N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)は、Aldrichに由来し、アルミナガード上で精製し、不活性雰囲気下で貯蔵する。
ブロックポリマーは、後述の手順によって調製される。
0.19mol/lブチルリチウムトルエン溶液(0.5ml)を、窒素で不活性にしたスタイニーボトルで調製されたトルエン(100ml)中のイソプレン(1.5ml)の溶液に加える。次に、特に指示がない限り、反応媒体を60℃で1時間30分撹拌する。その間にイソプレンの重合が起こっているこの時間が経過した後、次いで、得られたリビングアニオンポリマー溶液をカニューレを使用して、アルゴンで不活性化されメタロセン[Me
2SiFlu
2Nd(BH
4)
2Li(THF)]
2を含有するスタイニーボトルにデカントする。全てのメタロセンがアルキル化されて溶液になるまで、反応混合物を周囲温度で5分間撹拌する。次に、80mol%のエチレンと20mol%の1,3-ブタジエンとの混合物(E/B)を1gの量で反応媒体に導入する。反応媒体を60℃で2時間撹拌する。反応の終わりに、反応媒体を減圧し、エタノール1mlを加えて重合反応を停止させる。Santoflex 13のトルエン溶液(100g/l)0.2mlを加え、ポリマー溶液を60℃で24時間、部分真空および窒素フラッシュ下に置く。
【0026】
ブロックポリマーは、以下の特徴を有している:
第1のブロックのTg:-62℃;第2のブロックのTg:-44℃;第2のブロックのTm:-35℃から-20℃に広がる吸熱現象;第1のブロックの質量パーセント値:49%。