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  • 特許-タンパク質プリント用の基材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】タンパク質プリント用の基材
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20230728BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20230728BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230728BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230728BHJP
   B05D 5/04 20060101ALI20230728BHJP
   C07K 17/00 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
B32B9/00 Z
B32B17/10
B32B27/00 103
B05D7/24 302C
B05D5/04
C07K17/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020551291
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2019056849
(87)【国際公開番号】W WO2019180025
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】1852391
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517113934
【氏名又は名称】アルヴェオル
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】517113657
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ボルドー
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スチューダ,ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】ボンヌメイ,ルイーズ
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-500608(JP,A)
【文献】特表2015-512984(JP,A)
【文献】特表2008-530540(JP,A)
【文献】国際公開第2014/058061(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B05D
C07K 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(1)と、
ポリマーからなるナノスケールの第1層(3)と、
ベンゾフェノンからなる固体第2層(2)と、を備え、
前記第1層(3)は、タンパク質に対して非付着性で、前記基材(1)の上に配置されており、
前記第2層(2)は、前記第1層(3)の上に配置されており、
前記第2層(2)は溶媒に可溶であり、前記第1層(3)は前記溶媒に不溶である、
タンパク質プリント用の製品。
【請求項2】
前記第2層(2)は極性溶媒に可溶である、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記第1層(3)はポリマーブラシである、請求項1または2に記載の製品。
【請求項4】
前記基材(1)はガラス製である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製品。
【請求項5】
前記第2層(2)は水に可溶である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製品。
【請求項6】
前記第2層(2)はエタノールに可溶である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製品。
【請求項7】
前記第2層(2)はイソプロパノールに可溶である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製品。
【請求項8】
前記ポリマーはポリエチレングリコール(PEG)である、請求項3~7のいずれか1項に記載の製品。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の製品を得るための方法であって、
前記第1層(3)を前記基材(1)の上に配置する工程と、
前記第2層(2)を前記第1層(3)の上に配置する工程と、を含む、方法。
【請求項10】
前記第1層(3)の上に前記ベンゾフェノンの溶媒溶液を配置する工程と、
前記溶媒を蒸発させる工程と、
によって、前記第2層(2)を前記第1層(3)の上に配置する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ベンゾフェノンの物理蒸着(PVD)によって、前記第2層(2)を前記第1層(3)の上に配置する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
タンパク質に対する付着性のあるパターンを前記第1層(3)にフォトプリントするために、
前記パターンに従って、ベンゾフェノンの吸収スペクトルで、前記第1層(3)に光線を照射する工程と、
前記第2層(2)を前記溶媒に溶解する工程と、
前記溶媒を洗い流す工程と、
をさらに含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記パターンに従って、前記第1層(3)の上にタンパク質をプリントするために、
タンパク質の水溶液を前記第1層(3)に配置する工程と、
前記タンパク質の水溶液を洗い流す工程と、
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、タンパク質を基材にグラフトする一般的な分野に関し、特に、光学的な手段によって、あらかじめ定められたパターンでタンパク質を基材にグラフトすることに関する。
【背景技術】
【0002】
WO2016/050980号として公開された国際出願(以下、「Studer公報」と称する)は、ナノスケール(1nm~20nm)の防汚(英語の「antifouling」)層、すなわち生細胞に対して非付着性の層、で覆われたプリント基材または光化学基材に、タンパク質を微細構造またはパターンの形でグラフトする方法に関する。このタイプの非付着性層は、具体的にはポリマーブラシ、特にPEG(ポリエチレングリコール)のブラシである。タンパク質に対して非付着性の層には、この公知の方法では、当然ながら水溶液であるタンパク質溶液との接触が想定されており、その用途で必要とされるかぎり、この層は水に対して不溶である。また、ベンゾフェノンの吸収スペクトル(300nm~400nm)の放射線が照射されることも想定されており、このような層は、そのプリントに必要な範囲では当該放射線に対する耐性がある。
【0003】
Studer公報の方法は基本的に、PEGブラシで表面処理した基材にベンゾフェノン水溶液の液滴を接触させて、すなわち基材上に配置して、その液滴がある状態で、波長がベンゾフェノンの吸収スペクトル(300nm~400nm)の範囲内にある放射線をあらかじめ定められたパターンでブラシのナノスケール層に照射することからなる。溶液中でベンゾフェノンを洗い流した後に得られる基材は、放射線が照射された領域でタンパク質に対して選択的に付着性を有する。したがって、パターンの領域内すなわち特定の付着状態でのみ、タンパク質、ひいては細胞を、基材にプリントすなわち配置して増やすことが可能になる。
【0004】
Studer公報で用いられるベンゾフェノンは、当然ながら水である溶媒に可溶なベンゾフェノンであり、水溶液にすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Studer公報の方法では、層に放射線を照射するときに水溶液の液滴が存在する場合において、タンパク質のパターンの基材上へのプリントの再現性を得るには、照射時に避けられない液滴の蒸発分を相殺して水溶液中のベンゾフェノンの濃度を安定させる必要がある。このため、この公知の方法では、ベンゾフェノン水溶液の液滴から水分が奪われることが問題になる。1つの解決策として、液滴の体積を一定に保てるように、マイクロ流体手段を介して液滴に水を供給し、液滴から水分が奪われたり液滴が蒸発したりして生じる液体の損失を補うことがあげられよう。しかしながら、そのような解決策では、実験装置が複雑になる。以上のとおり、Studer公報の方法では液滴のベンゾフェノン濃度を一定に保つことが望ましいように思われるが、それは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に関連して、本発明は、基材と、ポリマーからなるナノスケールの第1層と、ベンゾフェノンからなる固体第2層と、を備え、第1層は、タンパク質に対して非付着性で、基材に配置されており、固体第2層は、第1層に配置されている、タンパク質プリント用の製品に関する。固体第2層は溶媒に可溶であり、第1層はこの溶媒に不溶である。
【0007】
「可溶」という語は、本開示において、固体材料が所与の溶媒に溶解できる特性として理解される。
【0008】
「溶媒」という語は、本開示において、固体を溶解できるか、または、その分子あるいは原子を分散させることができる液体を意味すると理解される。
【0009】
「層」という語は、本開示では、液体材料からなる薄膜以外の、固体、特にペースト状またはゲル状の材料からなる薄膜として理解される。層の厚さについては、その面が平らで平行な薄膜であれば一定にすることができ、波打っていたり湾曲していたりする(特にドーム型の)薄膜の場合は可変にすることができる。
【0010】
「配置」という語は、本開示では、「機械的な接触状態にある」と理解される。固体基材上に位置する材料からなる層の場合、この語は、基材に対する材料原子の相対的な位置の変化、または流れがない、機械的な接触の形態を示し、「接着」を表すのに対し、固体基材上に位置する、材料が液体中にある溶液の場合は、この語は、基材に対する材料原子および液体の起こり得る流れ、または相対的な位置変化がある、機械的な接触を示す。
【0011】
「薄い」または「ナノスケールの」層という語は、本開示では、タンパク質に対して非付着性で1ナノメートルより薄い層を除外せずに、厚さが1nm~2000nmの層として理解される。
【0012】
本製品の変形例では、以下の規定が単独で、あるいは一緒に組み合わされて採用される。
第2層は極性溶媒に可溶であり、
第1層はポリマーブラシであり、
基材はガラスであり、第2層は、水、エタノールまたはイソプロパノールに可溶であり、
ポリマーはポリエチレングリコール(PEG)である。
また、本発明は、
基材を準備する工程と、
タンパク質に対して非付着性で、ポリマーからなるナノスケールの第1層を基材の上に配置する工程と、
ベンゾフェノンからなる第2層を第1層の上に配置する工程と、を含み、第2層は溶媒に可溶であり、第1層は前記溶媒に不溶である、方法に関する。
【0013】
この方法によって、上述したようなタンパク質プリント用の製品を入手または製造することが可能になる。
本方法の変形例では、
ベンゾフェノンの溶媒溶液を第1層の上に配置する工程と、
溶媒を蒸発させる工程と、によって、第2層を第1層の上に配置する。
【0014】
本方法の別の変形例では、ベンゾフェノンの物理蒸着(PVD)によって、第2層を第1層の上に配置する。
また、本方法は、タンパク質に対する付着性のあるパターンを第1層の上にフォトプリントするために、
上記のパターンに従って、ベンゾフェノンの吸収スペクトルで、第1層に光線を照射する工程と、
第2層を溶媒に溶解する工程と、
溶媒を洗い流す工程と、をさらに含む。
また、本方法は、上記のパターンに従って、第1層の上にタンパク質をプリントするために、
タンパク質の水溶液を第1層に配置する工程と、
タンパク質の水溶液を洗い流す工程と、
をさらに含む。
【0015】
上記の特徴および利点は、他の特徴および利点とともに、本発明の例示的な実施形態についての以下の詳細な説明を読むことで明らかになるであろう。この詳細な説明では、添付の図面を参照している。しかしながら、本発明は、これらの例に限定されないことに留意されたい。
【0016】
添付の図面は概略図であり、必ずしも縮尺どおりではない。図は主に、本発明の原理を説明することを目的としたものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、タンパク質プリント用の製品の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すタンパク質プリント用の製品は、
ガラス基材1と、
ポリマーからなるナノスケールの第1層3と、
ベンゾフェノンからなる第2層すなわち固体配置物2と、を備え、
第1層3は、タンパク質に対して非付着性で、基材1の一面に付着すなわち配置されており、第2層2は、非付着性のポリマー層3の上に配置されており、溶媒に可溶である。
【0019】
非付着性の第1層3は、基材1およびベンゾフェノンの層2と機械的に接触し、非付着性の第1層3は、第2層2とガラス基材1との間に設けられている。基材1は、図示のように、平坦にすることができる。
【0020】
第1の実施形態では、基材1は、従来技術において知られた方法で、ポリマーからなる生細胞に対して非付着性の第1層3、すなわち非付着性層、すなわち上述したStuder公報における意味における防汚(英語の「antifouling」)層で覆われている。この第1層は、第1の実施形態ではポリマーブラシであり、ポリマーはPEG(ポリエチレングリコール)である。また、第1層3は、従来技術において知られた手段によって、基材1の上に配置されている。
【0021】
この製品を得るための第1の方法では、粉末形態では可視光域で透明ではない可溶性ベンゾフェノンの結晶性粉末と脱イオン水から、水に可溶なベンゾフェノンの溶液が調製される。可溶性ベンゾフェノンは、例えば、化学式が(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドである。
【0022】
次に、平行または波状または湾曲した面を持つ溶液の膜が第1層の表面で得られるように、溶液が基材、すなわち第1層で覆われた基材、の上に広がるまで、1滴または数滴の溶液を第1層3の上に配置する。
【0023】
次に、溶液の水分を蒸発させる。このため、蒸発によって溶液から水分を取り除くためには、得られた系を例えば70℃で温めるか、あるいは室温で自然に乾燥させればよい。使用する溶媒が第1層3に適合するかぎり、水以外の溶媒にも同じ方法を用いることができよう。こうして、乾燥後には、透明すなわち非結晶性のベンゾフェノンからなる多少なりとも硬い第2層2が得られる。
【0024】
なお、当業者であれば、ベンゾフェノンが第1層3および基材から分離して、結晶性であるがゆえに不透明なベンゾフェノン粉末が再び得られると考えるであろう。しかしながら、このタイプのベンゾフェノンの場合、驚くべきことに、光学的に透明かつ非結晶性の、恐らくはアモルファス個体であるベンゾフェノンが、基材に付着した均質な層に個体のまま残る。この第2層の堅さと厚さゆえ、第2層は特に持続性のある方法で引っ掻くことが可能になる。
【0025】
一般に、層として配置されると、可視光域での透明性を呈するすなわち非結晶性のベンゾフェノンは、本開示の教示内容に整合し、よって、本発明の枠内で使用することができる。この層は、ベンゾフェノンの溶媒溶液から水分を蒸発させてもよいし、ベンゾフェノン層を第1層3の上に配置するための他の任意の方法によって得てもよい。
【0026】
好都合なことに、得られたベンゾフェノン層が非結晶性であるがゆえ、結晶による層3の劣化を生じることなく、第1層3に光線を照射してパターンをフォトプリントすることができる。フォトプリントは、ベンゾフェノンの吸収スペクトルの放射線を使用して、照射される放射線に対して十分に透明になるように選択された第2層2または基材1を介して実行される。
【0027】
光線の照射後、例えば可視光などの光線を斜入射で第2層2に当てると、第1層3にアクセスしなくても、第2層2の裏面にある第1層3に画像化されたパターンが、第2層2の外面に都合よく現れる。
【0028】
このように、フォトプリントされたパターンには耐久性があり、これを第2層2の表面で肉眼によって認識可能であるため、フォトプリントされた層とフォトプリントされていない層とを容易に区別することができる。
【0029】
既知の方法において、パターンの照射に用いられる放射線は、300nm~400nmの間にあるベンゾフェノンの吸収帯に含まれる波長またはスペクトルを有する。
【0030】
層の厚さを測定するには、層を引っ掻けばよく、100ミクロンを超える層を容易に得ることができる。制御された層厚にするために、ベンゾフェノン溶液の初期量を制御することも可能である。当業者であれば、いずれの場合も、単純な作業によって達成可能な最も薄い層を決定することができるであろう。
【0031】
層厚を抑えることにより、層の面間での放射線の干渉と、パターンのプリントエラーを防止または最小化できるようになる点に留意されたい。また、溶媒の混合物を使用して層の広がりを均一化することも可能である。これらの溶媒は、後に除去される。
【0032】
いったんベンゾフェノン層が得られたら、この製品は、特別な注意を払うことなく容易に保管および輸送することができる。また、光線が照射された領域に後から制御した状態でタンパク質を付着させられるように、光線照射時に第1層の上にあるベンゾフェノンを一定濃度にすべく、Studer公報の方法では不可避であろうベンゾフェノン水溶液の液滴の水分が奪われたり蒸発したりすることへの対処として、マイクロ流体手段または流体手段を使用せずに、当該製品を光学系で光線に曝露することができる。この利点が得られるのは、ベンゾフェノンからなる第2層2が固体(例えば、ペースト状またはゲル化など)であって、液体であるベンゾフェノン溶液の液滴よりも、光線照射のタイムスケール上、ベンゾフェノン濃度が安定していることによる。
【0033】
なお、当業者は、先行技術および上記のStuder公報においては、光線照射時にベンゾフェノン水溶液の液滴から水分が奪われる問題が大きくなるのを避けるために、水より揮発性の高い溶媒を使用しないであろう。
【0034】
また、フォトプリント後に本製品を輸送して、第2層を適切な溶媒に溶解させてクリーンルームで洗い流すことも可能である。
【0035】
この溶媒は脱イオン水であってもよいが、極性溶媒であるエタノールまたはイソプロパノールが本発明に好適であることが判明した。したがって、極性溶媒に可溶なベンゾフェノンは、本発明に特に適している。
【0036】
洗い流した後、光線照射によってタンパク質をパターン状に付着させられるようになった非付着性の第1層をタンパク質の溶液と接触させ、光線が照射されたパターン通りにタンパク質のパターンを第1層にプリントすることができる。
【0037】
層の乾燥時に結晶が観察されない溶媒が見つかった場合は、水に可溶ではないベンゾフェノンを使用することも可能であろう。したがって、溶媒としてアセトンを用いるのであれば、ベンゾインエチルエーテルを使用することができる。
【0038】
第2の実施形態では、非付着性の層を破損することなく、PVD(物理蒸着)容器内で、あるいは透明な(非結晶性の)ベンゾフェノン層を基材に配置することのできる他の任意の技術(PVD、CVDなど)によって、より一層厚さを制御して第2層を配置する。
【0039】
物理蒸着により、厚さが極めて均一であってフォトプリント時の干渉を生じにくいベンゾフェノン薄層を創製することが可能になる。したがって、この配置方法は、特に好都合である。
【0040】
この方法は、特定のベンゾフェノンについて、少なくとも結晶を伴わない乾燥によって得ることは困難かもしれない、厚さ1000nm未満すなわちサブミクロンの薄層に好ましい。
【0041】
このタイプのサブミクロン蒸着に適したベンゾフェノンは、例えば、スリソベンゾンタイプまたはベンゾフェノン-4タイプまたは(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドタイプのベンゾフェノンの可溶性ベンゾフェノンである。
【0042】
所定の厚さの薄層として配置される未知のベンゾフェノンについては、乾燥させた層の観察が光学的に可能である場合には、当業者は、それが非結晶性であるか否か、特にそれが均質かつ透明であるか否かを観察し、その未知のベンゾフェノンが本発明に十分に適するか否かを判断することができよう。結晶の場合、当業者であれば、蒸着を行うことができよう。
【0043】
したがって、本出願の教示内容は、所与の厚さでの配置時に薄層で結晶化しないベンゾフェノンにまで及ぶ。この基準を使用して、未知のベンゾフェノンに適した配置方法を選択する、あるいは既知のベンゾフェノンに新たな厚さを得ることができよう。したがって、当業者は、最初に一滴のベンゾフェノン溶液の乾燥を利用し、次に薄層技術による蒸着を利用して、所与のベンゾフェノンについて、本発明に従って達成可能なベンゾフェノン層の厚さの範囲を決定することができる。
【0044】
このような液相または気相での薄層の配置を組み合わせることで、基材に配置されたナノスケール厚の非付着性層へのタンパク質のフォトプリントに適合する任意のベンゾフェノンについて、潜在的にはかなりの範囲の厚さでベンゾフェノン層を創製することが可能になる。
【0045】
光線照射波長で最も均一かつ制御された厚さである可溶性ベンゾフェノンの層の配置と整合する、従来技術から知られている任意の薄層配置方法を使用して、本発明の製品を製造することができる。
【0046】
第2層の洗い流しすなわち溶解に用いられる溶媒は、基材および非付着性層に適合していれば、特に非付着性層が基材と同様に溶媒に対して不溶であれば、どのような溶媒であってもよい。生細胞との生体適合性がゆえ、洗い流しの作業には水が好ましい溶媒であり、タンパク質に対して非付着性の層、および通常基材として用いられるガラスは、耐水性である。
【0047】
特にゲルの形で固体層を配置するための操作により、液体と比較してベンゾフェノンの濃度が増し、他のすべての条件が等しい場合のフォトプリント時間が短縮されることに留意されたい。このため、水溶液の液滴が第1層と接触している場合のパターンプリント時間40秒に対し、本出願による液滴の蒸発で得られる第2層ではプリント時間0.5秒が容易に得られる。
【0048】
さらに、光線が照射された領域がタンパク質に対して接着性を有するようにするメカニズムに、酸素または二酸素が関与していることがわかると、ベンゾフェノン層を配置することで、第2層2よりも厚いがゆえに酸素透過性が低い水溶液の液滴を用いる場合より第1層3で二酸素を入れ替えしやすくし、フォトプリントの均一性と瞬間的な再現性を向上させることができる。
【0049】
乾燥またはCVDまたはPVDによって、本発明に従って配置されたベンゾフェノンの配置層は濃度が安定しており、基材の非付着性層上へのタンパク質のプリントの長期的な再現性が改善される点にも留意されたい。
【0050】
本発明は、タンパク質に対して非付着性である層の上に配置された、ベンゾフェノンの透明すなわち非結晶性の固体配置物にも及ぶ。具体的には、第3の実施形態では、例えば、一般に厚さが100ミクロンで、形状が可変、実質的には円形、特に湾曲した形状またはドーム形の形状を有する膜を得るためにベンゾフェノン溶液の液滴をピペットで配置するとともに、液滴を拡げないで乾燥させて、これによって透明性または非結晶性を保持することにより、即座に実質的に均一な厚さとすることを求めることなく、ベンゾフェノン層を透明な塊の形で配置することができる。
【0051】
上記の配置物を使用するには、上述した固体配置物すなわち塊の上に、溶媒の液滴を配置してこれを溶解し、再構成した溶液を再び第1層3の上に拡げる。溶媒の蒸発後、非結晶性の透明層が再び現れる。
【0052】
この第3の実施形態に従って配置された、最初に拡げたベンゾフェノン層が時間の経過とともに古くなったら、塊すなわち層の上に、一滴の溶媒を配置して、溶液を再構成し、例えば数ミクロン台の均一な厚さの薄層の形で乾燥させればよい点に留意されたい。したがって、この方法があれば、タンパク質に対して非付着性である第1層3上で表面を変形させる薄層としてのベンゾフェノンゲルの拡がりの欠陥を、埋め合わせまたは修復することが可能である。
【0053】
概して、この一滴の溶媒を加えることによる埋め合わせまたは修復の方法は、本発明のすべての実施形態すなわち、配置されたベンゾフェノン層に適用される。
【0054】
最後に、本出願の教示内容は、タンパク質に対して非粘着性である層の表面に配置された任意の透明または非透明の非結晶性ベンゾフェノン層にまで及ぶと思われ、このベンゾフェノン層は、非付着性層が不溶性である溶媒に可溶である。
【0055】
本発明は、タンパク質を基材にプリントする分野において、産業上利用可能または有用である。
図1