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特許7321211付加製造プロセスで使用するための水系バインダ溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】付加製造プロセスで使用するための水系バインダ溶液
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/14 20210101AFI20230728BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20230728BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20230728BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230728BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230728BHJP
【FI】
B22F10/14
B22F3/02 M
B29C64/165
B33Y10/00
B33Y70/00
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021084904
(22)【出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2022000533
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】63/029,964
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルンクマール、ナタラジャン
(72)【発明者】
【氏名】アルバーツ、ウィリアム シー.
(72)【発明者】
【氏名】ブロンバーグ、ヴァディム
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/036126(WO,A1)
【文献】特開2017-222163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/14
B22F 3/02
B29C 64/165
B33Y 10/00
B33Y 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末(202)の層を作業面(204)上に堆積させるステップと、
0.1重量%以上5重量%以下の沸点が100℃を超え175℃未満である非水系溶媒と熱可塑性バインダ(216)とを含有する水系バインダ溶液(206)を、部品の構造を描くパターンで粉末(202)の層に選択的に堆積させるステップであって、
前記熱可塑性バインダ(216)が、
5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖(220)と、
1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖と、を含有し、
前記第1のポリマー鎖(220)は、前記第3のポリマー鎖と異なり、
前記第1のポリマー鎖(220)を前記第3のポリマー鎖と結合させてグリーン体部品を形成するステップと、
を有する付加製造方法。
【請求項2】
前記水系バインダ溶液(206)中に、1質量%以上4質量%未満の量の前記非水系溶媒が存在する、請求項1に記載の付加製造方法。
【請求項3】
前記非水系溶媒が、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、テルト-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコールブチルエーテル、又はこれらの組合せを含む、請求項1又は2に記載の付加製造方法。
【請求項4】
第1のポリマー鎖(220)が、水系バインダ溶液(206)の総重量に基づいて、5重量%以上20重量%以下の量で存在する、請求項1又は請求項2に記載の付加製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性バインダ(216)は、10,000g/mol以上50,000g/molの重量平均分子量を有し、前記第1のポリマー鎖(220)及び前記第3のポリマー鎖の何れとも異なる第2のポリマー鎖(222)を、前記水系バインダ溶液(206)の総重量に基づいて0.5重量%以上7重量%以下の量含み、且つ
前記第1のポリマー鎖(220)を前記第2のポリマー鎖(222)と結合させてグリーン体部品を形成するステップを有する
請求項1又は請求項2に記載の付加製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性バインダ(216)が、前記水系バインダ溶液(206)の総重量に基づいて、0.1重量%以上5重量%以下の量で、前記第3のポリマー鎖を含む、請求項1又は請求項2に記載の付加製造方法。
【請求項7】
前記水系バインダ溶液(206)は、さらに0.1重量%以上2重量%以下の界面活性剤を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の付加製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性バインダ(216)は、更に、10,000g/mol以上50,000g/molの重量平均分子量を有する第2のポリマー鎖(222)を含み、
前記第2のポリマー鎖(222)は、前記第1のポリマー鎖(220)及び前記第3のポリマー鎖の何れとも異なるとともに、
前記第1のポリマー鎖(220)は、ポリビニルピロリドン(PVP)を含み、
前記第2のポリマー鎖(222)は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、その誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択され、
前記第3のポリマー鎖は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択され、且つ
前記第1のポリマー鎖(220)を前記第2のポリマー鎖(222)と結合させてグリーン体部品を形成するステップを有する
請求項1又は2に記載の付加製造方法。
【請求項9】
5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖(220)、及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖を含み、
前記第1のポリマー鎖(220)は、前記第3のポリマー鎖とは異なる、熱可塑性バインダ(216)と、
0.1質量%以上5質量%以下の沸点が100℃を超える非水系溶媒と、
水と、
を含む、付加製造に使用される水系バインダ溶液(206)。
【請求項10】
前記熱可塑性バインダ(216)は、更に、10,000g/mol以上50,000g/molの重量平均分子量を有する第2のポリマー鎖(222)を含み、
前記第2のポリマー鎖(222)は、前記第1のポリマー鎖(220)及び前記第3のポリマー鎖の何れとも異なるとともに、
前記第1のポリマー鎖(220)は、ポリビニルピロリドン(PVP)を含み、
前記第2のポリマー鎖(222)は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、その誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択され、且つ
前記第3のポリマー鎖は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択される、
請求項9に記載の水系バインダ溶液(206)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、2020年5月26日出願の米国仮特許出願第63/029,964号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、「付加製造プロセスにおける使用のための水系バインダ溶液」と題する。
【0002】
本開示は、付加製造に関し、より詳細には、付加製造プロセスで使用されるバインダに関する。
【背景技術】
【0003】
付加製造は、3Dプリンティングとしても知られ、素材を一層ずつ積層して立体的な部品を形成するプロセスである。バインダ噴射は、粉体の粒子を接合して三次元の部品を形成するためにバインダを用いることを基本とした付加製造技術である。特に、バインダはプリントヘッドからビルド堆積の粉体の連続した層に噴射され、そこで粉体とバインダの層が互いに接着してグリーン体部品を形成する。用途によっては、グリーン体部品が最終用途に適している。他の用途では、バインダの除去や粉末の焼結のようなその後の処理が、グリーン体部品を仕上げられた三次元の部品に変形させるために必要となる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のバインダ溶液は、粉体の層にウィックするのに比較的長い時間を必要とすることがあり、これは、ビルド容積内に後続の粉体層を堆積させることができる前に必要な時間の量を増加させ得る。より長いウィック時間は、付加製造装置のスループット、従って生産性を低下させる。しかしながら、改良されたウィック時間を達成したいくつかのバインダ溶液は、表面粗さに悪影響を及ぼす蒸発速度も示す。
【0005】
従って、ウィック時間の減少及び付加製造装置のスループットの増加を可能にする代替バインダ溶液の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される種々の実施形態は、第1のポリマー鎖(Polymer Strand)と、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖の少なくとも1つと、を含む熱可塑性バインダを含有する水系バインダ溶液を提供することによって、これらのニーズを満たす。種々の実施形態において、第1のポリマー鎖は、5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有し、第2のポリマー鎖は、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量を有し、第3のポリマー鎖は、1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量を有する。水系バインダ溶液は、更に、沸点が100℃を超える非水系溶媒を0.1重量%以上5重量%以下含む。組成物は粉末層に急速にウィックする一方、従来のバインダ溶液と比較して短縮された硬化時間と表面粗さに悪影響を及ぼさない蒸発速度とのバランスも有している。さらなる特徴及び利点は、以下により詳細に説明される。
【0007】
本明細書に開示される第1の態様によれば、付加製造方法は、粉末の層を作業面上に堆積させることと、100℃超175℃未満の沸点を有する非水系溶媒を0.1重量%以上5重量%以下含むとともに熱可塑性バインダを含有する水系バインダ溶液を、粉末の層に、部品の構造を描くパターンで選択的に塗布することとを含み、熱可塑性バインダは、5000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖のうちの少なくとも1つと、を含有し、第1のポリマー鎖は、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖のそれぞれと異なり、第2のポリマー鎖は、第3のポリマー鎖と異なり、第1のポリマー鎖を、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖のうちの少なくとも1つと結合させて、グリーン体部品を形成する。
【0008】
本明細書に開示された第2の態様によれば、第1の態様による方法において非水系溶媒が、水系バインダ溶液中に、1重量%以上4重量%未満の量で存在する方法を含む。
【0009】
本明細書に開示される第3の態様によれば、非水系溶媒が、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコールブチルエーテル、又はそれらの組み合わせを含有する第1又は第2の態様による方法を含む。
【0010】
本明細書に開示される第4の態様によれば、前述の態様のいずれかに係る方法において、第1のポリマー鎖がポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、又はこれらの組み合わせを含有する方法を含む。
【0011】
本明細書に開示される第5の態様によれば、前述の態様のいずれかに係る方法において、第1のポリマー鎖が、水系バインダ溶液の総重量に基づいて5重量%以上20重量%以下の量で存在する方法を含む。
【0012】
本明細書に開示される第6の態様によれば、前述の態様のいずれかに係る方法において、熱可塑性バインダが、水系バインダ溶液の総重量に基づいて、0.5重量%以上7重量%以下の量の第2のポリマー鎖を含有する方法を含む。
【0013】
本明細書に開示される第7の態様によれば、前述の態様のいずれかに係る方法において、前記熱可塑性バインダ溶液が、0.1重量%以上5重量%以下の量で第3のポリマー鎖を含有する方法を含む。
【0014】
本明細書に開示される第8の態様によれば、第2のポリマー鎖が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、それらの誘導体及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、前述の態様のいずれかに係る方法を含む。
【0015】
本明細書に開示される第9の態様によれば、第3のポリマー鎖が、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、それらの誘導体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、前述の態様のいずれかに係る方法を含む。
【0016】
本明細書に開示される第10の態様によれば、前述の態様のいずれかに係る方法において、水系バインダ溶液が、更に0.1重量%以上2重量%以下の界面活性剤を含有する方法を含む。
【0017】
本明細書に開示される第11の態様によれば、前述の態様のいずれかに係る方法において、水系バインダ溶液中に存在するポリマーの総重量が、水系バインダ溶液の総重量に基づいて5重量%以上20重量%以下である方法を含む。
【0018】
本明細書に開示される第12の態様によれば、前記第1のポリマー鎖が、ポリビニルピロリドン(PVP)を含み、前記第2のポリマー鎖が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、これらの誘導体、及びこれらの組合せからなる群から選択され、前記第3のポリマー鎖が、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体、及びこれらの組合せからなる群から選択される、前述の態様のいずれかに係る方法を含む。
【0019】
本明細書に開示される第13の態様によれば、グリーン体部品は、熱可塑性バインダを含む水系バインダ溶液によって結合された粉末から形成された複数の層を含み、前記熱可塑性バインダは、重量平均分子量(Mw)が5,000g/mol以上15,000g/mol以下の第1のポリマー鎖と、重量平均分子量(Mw)が10,000g/mol以上50,000g/mol以下の第2のポリマー鎖及び重量平均分子量(Mw)が1,000以上5,000g/mol以下の第3のポリマー鎖の少なくとも一方と、を含有し、前記第1のポリマー鎖は前記第2のポリマー鎖及び前記第3のポリマー鎖の各々と異なり、前記第1のポリマー鎖は、前記第2のポリマー鎖と第3のポリマー鎖の少なくとも一方と非共有結合である。
【0020】
本明細書に開示される第14の態様によれば、第13の態様に記載のグリーン体部品であって、第1のポリマー鎖が、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、又はこれらの組み合わせを含む、グリーン体部品を含む。
【0021】
本明細書に開示される第15の態様によれば、第13又は第14の態様に記載のグリーン体部品であって、第2のポリマー鎖が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、それらの誘導体及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、グリーン体部品を含む。
【0022】
本明細書に開示される第16の態様によれば、グリーン体部品は、第13から第15の態様のいずれかに係るグリーン体部品であって、第3のポリマー鎖が、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、グリーン体部品を含む。
【0023】
本明細書に開示される第17の態様によれば、第13から第16の態様のいずれかに係るグリーン体部品であって、x及びyプリント配向上で10MPa以上のグリーン強度を有する、グリーン体部品を含む。
【0024】
本明細書に開示される第18の態様によれば、付加製造に使用するための水系バインダ溶液は、重量平均分子量(Mw)が5,000g/mol以上15,000g/mol以下である第1のポリマー鎖と、重量平均分子量(Mw)が10,000g/mol以上50,000g/mol以下の第2のポリマー鎖及び重量平均分子量(Mw)が1,000g/mol以上5,000g/mol以下である第3のポリマー鎖の少なくとも一方とを含有し、第1のポリマー鎖が、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖とそれぞれ異なる熱可塑性バインダと、0.1重量%以上5重量%以下の沸点が100℃を超える非水系溶媒と、水と、を含有する。
【0025】
本明細書に開示された第19の態様によれば、第18の態様による水系バインダ溶液であって、さらに、0.1重量%以上2重量%以下の界面活性剤を含有する水系バインダ溶液を含む。
【0026】
本明細書に開示される第20の態様によれば、第18又は第19の態様に係る水系バインダ溶液であって、第1のポリマー鎖が、ポリビニルピロリドン(PVP)を含み、第2のポリマー鎖が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、これらの誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択され、第3のポリマー鎖が、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水水素化マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択される水系バインダ溶液を含む。
【0027】
本明細書に開示される実施形態のさらなる特徴及び利点は、以下の詳細な説明に記載され、且つ前記特徴及び利点の一部は、当業者にとってこれらの記載から自明であり、又、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、及び添付図面に開示された実施形態を実施することによって認識されるであろう。
【0028】
前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明の両方が、クレームされた実施形態の性質及び特徴を理解するための概観又はフレームワークを提供することを意図した実施形態であることを理解されたい。添付図面は、更なる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ、その一部を構成する。図面は、開示の種々の実施形態を図示し、説明とともに、その原理及び動作を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本明細書に示され説明される1つ又は複数の実施形態に従う熱可塑性バインダを含む水系バインダ溶液を用いた付加製造による部品の付加製造方法の例示的な方法のフロー図である。
図2図1の方法による部品の製造に使用される付加製造装置の一実施形態のブロック図である。
図3】比較サンプルA、サンプル1、及びサンプル3のバインダ溶液で調製したサンプルのグリーン強度(lbf;Y軸)を示すグラフである。
図4A】比較サンプルA及びCのバインダ溶液で調製したサンプルのグリーン強度(lbf、Y軸)を示すグラフである。
図4B】サンプル1及び3のバインダ溶液で調製したサンプルについてのグリーン強度(lbf、Y軸)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここで、本開示の現在の好ましい実施形態を詳細に参照する。前記実施形態の実施例は添付図面に図示されている。同一又は同様の部品を指すために、図面の全体にわたって可能な限り同一の参照番号を使用する。しかしながら、この開示は、多くの異なる形態で実施されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されるものと解釈されるべきではない。
【0031】
範囲は、本明細書では、「約」1つの特定の値をから、且つ/又は「約」他の特定の値までとして表すことができる。そのような範囲が表されるとき、他の実施形態は、1つの特定の値及び/又は他の特定の値を含む。同様に、値が、例えば、先行する「約」の使用によって近似として表されるとき、特定の値が他の実施形態を形成することが理解されるであろう。範囲の始点及び終点は、それぞれ他方の点(終点及び始点)との関連において重要な意味を持ち、且つ、当該他方の点とは独立した意味を有している。
【0032】
本明細書で使用される方向用語-例えば、上、下、右、左、前、後、上、下-は、描画されるような図を参照してのみ作成され、絶対的な向きを意味するものではない。
【0033】
本明細書で使用されるように、特異形「a」、「an」及び「the」は、文脈が他の点を明確に指示しない限り、複数の言及を含み、従って、例えば、「a」構成要素への言及は、文脈が他の点を明確に示さない限り、2つ以上のそのような構成要素を有する態様を含む。
【0034】
本明細書で使用される「非共有結合」とは、第1及び第2の官能基が相互作用又は結合などの弱い非共有結合力を介して相互作用し、熱可塑性ポリマー鎖をリンク又は他の方法で結合することを意味する。本明細書で使用されるように、「弱い非共有結合力」という用語は、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力などを示すことを意図している。
【0035】
ここでいう「グリーン体金属部品」及び「グリーン体部品」とは、化学バインダを除去するための熱処理を施していない部品を示し、ここでいう「ブラウン体金属部品」及び「ブラウン体部品」とは、化学バインダを除去するための熱処理を施した部品を示し、ここでいう「金属部品」とは、金属材料を有する部品をいう。種々の実施形態が金属部品の文脈で説明されるが、本明細書に記載されるバインダ溶液は、ポリマー部品及びセラミック部品を含むがこれに限定されない多種多様な部品に適用可能である。
【0036】
本明細書で用いる「水系」という用語は、水を体積で一次液体として含む混合物、溶液、懸濁液、分散液等を包含するが、一つ以上の他の液体を含んでいてもよい。したがって、種々のバインダ溶液に用いる溶媒は、大部分が水である。いくつかの実施形態では、水は、体積でバインダ溶液の少なくとも約50%の濃度で存在し、特に実施形態では、水は、少なくとも約75体積%の濃度で存在する。本明細書で用いる「水」という用語は、特に規定しない限り、純水、蒸留水、水道水を含む。実施形態において、水は、ASTM D1193タイプIV水以上である。
【0037】
多くのバインダ噴射付加製造プロセスでは、化学バインダ(例えば、ポリマー接着剤)を用いて、粉体の層を互いに結合し、三次元物体を形成する。化学バインダは、例えば、製造される部品の層を表すパターンで粉体層上に選択的に堆積されるポリマー接着剤であってもよい。
【0038】
したがって、本明細書に記載される種々の実施形態は、熱可塑性バインダ及び100℃を超える沸点を有する非水系溶媒を含む水系バインダ溶液を提供する。熱可塑性バインダは、5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖の少なくとも1つとを含む。そのような実施形態は、部品の表面品質に悪影響を及ぼすことなく、芯上げ時間を減少させた水系バインダ溶液を可能にすることができる。これら及び付加的な利点については、以下により詳細に説明する。
【0039】
上述したように、種々の実施例では、水系バインダ溶液は、熱可塑性バインダと、100℃を超える沸点を有する非水系溶媒とを含む。熱可塑性バインダは、5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖の少なくとも一方とを含む。実施形態において、重量平均分子量が減少したポリマー鎖と蒸気圧が低下した非水系溶媒とを組み合わせると、各層のウィック速度が増加した水系バインダ溶液が得られ、これにより、従来のバインダ溶液と比較して、付加製造機械によるより高いスループットが可能となり得る。これら及び付加的な利点については、以下により詳細に説明する。
【0040】
種々の実施形態では、熱可塑性バインダは、第1のポリマー鎖と、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖のうちの少なくとも1つとを含む。本明細書で使用される用語「ポリマー鎖」は、ポリマー骨格及びその上にグラフトされた官能基を含む。実施形態において、熱可塑性バインダは、酸素(O)の存在を必要とせず(例えば、真空、不活性又は還元性雰囲気で)、一般的に非常に低いチャー収率で分解する熱可塑性バインダであり、従って、実施形態において、熱可塑性バインダは、焼結中に、部品から清浄かつ容易に除去され、熱可塑性バインダ、及びプリントされた金属部品の熱処理中に生成され得る分解生成物であって金属酸化物及びチャーを含むがこれらに限定されない分解生成物を実質的に含まない圧密化部品を生成し得る。
【0041】
第1のポリマー鎖は、少なくとも第1の官能基を含む。第1の熱可塑性ポリマー鎖の官能基は、限定するものではなく例として、水素結合ドナー、水素結合アクセプタ、負に荷電した基、正に荷電した基、又はこれらの組み合わせを含むことができる。例えば、種々の実施形態において、第1の官能基は、ポリマー鎖の骨格(例えば、ビニル骨格、アミド骨格、アクリル骨格など)に組み込まれるか、又はその上にグラフトされ、水酸基、カルボキシラート基、アミン、チオール、アミド、又は第1のポリマー鎖及び第2及び/又は第3のポリマー鎖の弱い、非共有結合(例えば水素結合)を可能にする他の適切な官能基から選択される。
【0042】
種々の実施形態では、第1のポリマー鎖は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)誘導体、及びこれらの組み合わせなどのポリマーを含むが、これらに限定されない。実施形態において、第1のポリマー鎖は、5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw即ち重量平均)を有する。第2のポリマー鎖は、例えば5000g/mol以上15,000g/mol以下、5000g/mol以上12,500g/mol以下、7000g/mol以上15,000g/mol以下、7000g/mol以上12,500g/mol以下、9,000g/mol以上15,000g/mol以下、9,000g/mol以上12,500g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有し得、これらの範囲の全て、並びにこれらの範囲の間の部分範囲を含む。
【0043】
前記第1のポリマー鎖は、前記バインダ溶液中に、水系バインダ溶液の全重量に基づいて5重量%以上20重量%以下、5重量%以上18重量%以下、5重量%以上16重量%以下、7重量%以上20重量%以下、7重量%以上18重量%以下、7重量%以上16重量%以下、10重量%以上20重量%以下、10重量%以上18重量%以下、10重量%以上16重量%以下含まれ、これらの範囲の全て、並びにこれらの範囲の間の部分範囲を含む。
【0044】
熱可塑性バインダは、第1のポリマー鎖に加えて、第2のポリマー鎖、第3のポリマー鎖、又は第2及び第3のポリマー鎖を含む。第2のポリマー鎖は、少なくとも第2の官能基を含む。第2の熱可塑性ポリマー鎖の官能基は、限定としてではなく例として挙げると、水素結合ドナー、水素結合アクセプタ、負に荷電した基、正に荷電した基、又はそれらの組み合わせを含むことができる。実施形態において、第2のポリマー鎖の第2の官能基は、熱可塑性バインダの第1のポリマー鎖の官能基を補完し、第1及び第2のポリマー鎖の非共有結合を容易にする。種々の実施形態では、ポリマー鎖の骨格(例えば、ビニル骨格、アミド骨格、アクリル骨格など)に組み込まれるか、又はその上にグラフト化された第二の官能基は、例えば水酸基、カルボキシラート基、アミン、チオール、アミド、又は第1及び第2のポリマー鎖の弱い、非共有結合(例えば、水素結合)を可能にする他の適切な官能基から選択される。
【0045】
種々の実施形態では、第2のポリマー鎖は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリビニルメチルエーテル無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせなどのポリマーを含むが、これらに限定されない。実施形態において、第2のポリマー鎖は、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw即ち重量平均)を有する。第2のポリマー鎖は、例えば10,000g/mol以上50,000g/mol以下、10,000g/mol以上30,000g/mol以下、10,000g/mol以上25,000g/mol以下、10,000g/mol以上23,000g/mol以下、13,000g/mol以上50,000g/mol以下、13,000g/mol以上30,000g/mol以下、13,000g/mol以上25,000g/mol以下、13,000g/mol以上23,000g/mol以下、23,000以上50,000以下の重量平均分子量(Mw)、23,000g/mol以上30,000g/mol以下、23,000g/mol以上25,000g/mol以下、25,000g/mol以上50,000g/mol以下、25,000g/mol以上30,000g/mol以下又は30,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有し得、これらの範囲の全て、及びにこれらの範囲の間の部分範囲を含む。
【0046】
第2のポリマー鎖は、存在する場合、水系バインダ溶液の総重量に対して、0.5重量%以上7重量%以下、1重量%以上7重量%以下、1重量%以上5重量%以下、又は1重量%以上4重量%以下、これらの範囲の全て、及びにこれらの範囲の間の部分範囲を含む量でバインダ溶液に含まれる。
【0047】
第3のポリマー鎖は、第1のポリマー鎖の第1の官能基及び第2のポリマー鎖の第2の官能基とは異なる少なくとも第3の官能基を含む。第3の熱可塑性ポリマー鎖の官能基は、限定するものではなく例として、水素結合ドナー、水素結合アクセプタ、負に荷電した基、正に荷電した基、又はそれらの組み合わせを含むことができる。実施形態において、第2及び第3のポリマー鎖の第2及び第3の官能基は、それぞれ、熱可塑性バインダの第1のポリマー鎖の第1の官能基を補完して、第1、第2及び第3のポリマー鎖の非共有結合を容易にする。種々の実施形態において、第3の官能基は、例えばヒドロキシル基、カルボキシラート基、アミン、チオール、アミド、又は第1及び第3のポリマー鎖の弱い、非共有結合を可能にする他の適切な官能基から選択されてもよい。
【0048】
種々の実施形態では、第3のポリマー鎖は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせなどのポリマーを含むが、これらに限定されない。実施形態において、第3のポリマー鎖は、1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw即ち重量平均)を有する。第2のポリマー鎖は、例えば1,000g/mol以上5,000g/mol以下、1,500g/mol以上3,000g/mol以下、又は1,500g/mol以上2,000g/mol以下、これらの範囲の全て、及びこれらの範囲の間の部分範囲を含む重量平均分子量(Mw)を有する。
【0049】
実施形態において、第3のポリマー鎖として選択される特定のポリマーは、第1のポリマー鎖として選択される特定のポリマー、及び存在する場合には第2のポリマー鎖に応じて変化することができる。第1のポリマー鎖は例えばPVPであってよく、第2のポリマー鎖はPVAであってよく、第3のポリマー鎖はPAAであってよい。それらの官能基が互いに非共有結合を形成することができるならば、他の重合体の組合せを使用することができる。実施形態において、例えば、官能基の1つは水素ドナーであるが、他の官能基は水素アクセプタである。
【0050】
第3のポリマー鎖は、存在する場合、バインダ溶液中に、水系バインダ溶液の総重量に基づいて0.1質量%以上~5質量%以下、0.1質量%以上~3質量%以下%、0.1質量%以上~2質量%以下、0.5質量%以上~5/質量%以下、0.5質量%以上~3質量%以下、0.5質量%以上~2質量%以下、1質量%以上~5質量%以下、1質量%以上~3質量%以下、1質量%以上~2質量%以下、これらの範囲の全て、及びこれらの範囲の間の部分範囲を含む量で存在する。
【0051】
上述したように、実施形態において、第2及び第3のポリマー鎖の一方又は両方が、バインダ溶液に含まれていてもよい。バインダ溶液は、例えば、第1のポリマー鎖及び第2のポリマー鎖、第1のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖、又は第1のポリマー鎖、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖を含むことができる。加えて、種々の実施形態では、第1のポリマー鎖は、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖のそれぞれと異なり、第2のポリマー鎖は、第3のポリマー鎖と異なることが理解されるべきである。各ポリマー鎖として選択される特定のポリマーは、他のポリマー鎖として選択される特定のポリマー(複数可)に応じて変化し得る。実施形態において、バインダ溶液は、第1のポリマー鎖としてPVPを含み、第2のポリマー鎖としてPVAを含む。実施形態において、バインダ溶液は、第1のポリマー鎖としてPVPを含み、第3のポリマー鎖としてPAAを含む。実施形態において、バインダ溶液は、第1のポリマー鎖としてPVP、第2のポリマー鎖としてPVA、及び第3のポリマー鎖としてPAAを含む。他のポリマー鎖の組み合わせも可能であり、考えられる。
【0052】
実施形態において、熱可塑性バインダ(例えば、第1のポリマー鎖、第2のポリマー鎖及び/又は第3のポリマー鎖)のポリマーは、水系バインダ溶液の総重量に基づいて、5重量%以上20重量%以下の総重量で含まれる。ポリマーの総重量は、例えば5重量%以上20重量%以下、5重量%以上19重量%以下、5重量%以上18重量%以下、10重量%以上20重量%以下、10重量%以上19重量%以下、10重量%以上18重量%以下、12重量%以上20重量%以下、12重量%以上19重量%以下、又は12重量%以上18重量%以下、これらの範囲の全て、及びこれらの範囲の間の部分範囲を含む範囲である。
【0053】
第1のポリマー鎖及び第2及び/又は第3のポリマー鎖は、第1のポリマー鎖と第2及び/又は第3のポリマー鎖との間の適当な結合度を可能にする量でバインダ溶液中に含まれ、ポストプリンティング工程中の取り扱いに適したグリーン強度を有するグリーン体部品が得られる。さらに、ポリマー鎖は、バインダ溶液がレオメータを使用して約1センチポアズ(cP)~約40cPの粘度を有するような量で存在する。実施形態において、バインダ溶液は、2cP~40cP、2cP~35cP、2cP~25cP、2cP~20cP、2cP~15cP、4cP~40cP、4cP~30 cP、4cP~20cP、4cP~15cP、6cP~40cP、6cP~30cP、6cP~20cP、6cP~15cP、8cP~40cP、8cP~35cP、8cP~25cP、8cP~20cP、8cP~15cP、8cP~12cPのこれらの範囲の全て、及びこれらの範囲の間の部分範囲を含む粘度を有する。
【0054】
実施形態において、第1のポリマー鎖は、5重量%以上20重量%以下の量で存在し、第2のポリマー鎖は、0.5重量%以上7重量%以下の量で存在する。実施形態において、第1のポリマー鎖は、10重量%以上16重量%以下の量で存在し、第2のポリマー鎖は、1重量%以上4重量%未満の量で存在する。
【0055】
実施形態において、第1のポリマー鎖は、5重量%以上20重量%以下の量で存在し、第3のポリマー鎖は、0.1重量%以上5重量%以下の量で存在する。実施形態において、第1のポリマー鎖は、10重量%以上16重量%以下の量で存在し、第3のポリマー鎖は、0.5重量%以上2重量%以下の量で存在する。
【0056】
実施形態において、第1のポリマー鎖は、5重量%以上~20重量%以下の量で存在し、第2のポリマー鎖は、0.5重量%以上~7重量%以下の量で存在し、第3のポリマー鎖は、0.1重量%以上~5重量%以下の量で存在する。実施形態において、第1のポリマー鎖は、10重量%以上~16重量%以下の量で存在し、第2のポリマー鎖は、1重量%以上~4重量%未満の量で存在し、第3のポリマー鎖は、0.5重量%以上~2重量%未満の量で存在する。
【0057】
熱可塑性バインダに加えて、バインダ溶液は、バインダ媒体を含む。バインダ媒体は、例えば、水、1つ以上の非水系溶媒、及びそれらの組み合わせを含むことができる。実施態様において、水系バインダ溶液は、1気圧において100℃より高く175℃以下の沸点を有する非水系溶媒を含む。非水系溶媒は、一般に、粉末材料、熱可塑性バインダ、又は水系バインダ溶液に含まれ得る他の添加物と反応しないように、非反応性(例えば、不活性)である。実施形態において、ポリマー鎖のための溶媒であることに加えて、非水系溶媒は、湿潤剤として作用することができ、バインダ媒体中の水の蒸発を遅くし、これは、次に、堆積の信頼性を維持し、プリント中のフラッシュ・キュアリングのリスクを低減し得る。非水系溶媒は、例えば2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコールブチルエーテル、又はそれらの組み合わせであり得るが、これらには限定されない。特定の非水系溶媒は、熱可塑性バインダのポリマー鎖及び水系バインダ溶液に含まれ得る任意の他の付加に少なくとも部分的に基づいて選択することができる。
【0058】
種々の実施形態において、非水系溶媒は、100℃超175℃以下、125℃以上175℃以下、150℃以上175℃以下、又は165℃以上175℃以下の沸点を有し、これらの範囲の全て、及びこれらの範囲の間の部分範囲を含む。
【0059】
理論に拘束されることなく、沸点が100℃を超える非水系溶媒の使用を制限することは、水系バインダ溶液の蒸気圧を増加させ、水系バインダ溶液の粘度及びウィック特性を維持しつつ、要求される硬化エネルギーを減少させることができると考えられる。しかし、沸点が175℃を超える溶媒は、一般にポスト・キュアの時間が最大50%増加することがわかった。したがって、種々の実施形態において、非水系溶媒は、水系バインダ溶液の総重量に基づいて、0.1重量%から5重量%以下の量で、水系バインダ溶液に含まれる。非水系溶媒は、例えば0.1質量%~4質量%、0.1質量%~3.9質量%、1質量%~3質量%、1質量%~3.9質量%、又は2質量%~3.9質量%、これらの範囲の全て、及びこれらの範囲の間の部分範囲を含む量で水系バインダ溶液に含まれてよい。さらに、実施態様において、水系バインダ溶液は、沸点が1気圧において200℃より高い溶媒、195℃より高い溶媒、190℃より高い溶媒、185℃より高い溶媒、180℃より高い溶媒、又は175℃より高い溶媒を含まない。
【0060】
実施形態において、水系バインダ溶液は、随意に、熱可塑性バインダの粉末材料への堆積を容易にし、粉末材料の濡れ性を改善し、水系バインダ溶液の表面張力を修正することができる添加剤などの、1つ以上の添加剤を含んでもよい。任意の添加剤としては、界面活性剤、希釈剤、粘度調整剤、分散剤、安定剤、染料又は他の着色剤、又は当技術分野で公知で使用される他の付加が挙げられる。いくつかの実施態様において、水系バインダ溶液は、少なくとも1つの界面活性剤を含む。
【0061】
実施形態において、界面活性剤は、濡れ速度を改善し、熱可塑性バインダと粉体との間の相互作用を媒介する。水系バインダ溶液中での使用に適した界面活性剤には、熱可塑性バインダ及び/又は粉末材料の特性に応じて、イオン性(例えば、両性イオン性、カチオン性、又はアニオン性)又は非イオン性が挙げられる。種々の実施形態では、界面活性剤は、2-[4-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)フェノキシ]エタノール(例えば、Dow Chemical Companyから入手可能なTRITON(登録商標)X-100)、ポリオキシエチレン(80)ソルビタンモノオレート(例えば、Croda Americas,Inc.から入手可能なTWEEN(登録商標) 80)、ポリオキシエチレン-23-ラウリルエーテル(例えば、Croda Americas,Inc.から入手可能なBRIJ(登録商標) L23)、アルキレンオキシド共重合体(例えば、Croda Americas,Inc.から入手可能なHYPERMER(登録商標) KD2)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム臭化物(CTAB)、ドデシルトリメチルアンモニウム臭化物(DTAB)、ポリプロポキシ四元塩化アンモニウム(例えばEvonik Industries社から入手可能なVARIQUANT(登録商標)CC42NS)、及びこれらの組み合わせがある。
【0062】
理論に束縛されるものではないが、バインダ溶液中に界面活性剤を含有させると、バインダ溶液の表面張力が低下し、それによってバインダ溶液による粉末材料の濡れ性が改善される可能性があると考えられる。従って、実施形態では、界面活性剤は、バインダ溶液中に、バインダ溶液の総重量に基づいて0.1重量%以上2重量%以下、0.1重量%以上1重量%以下、0.25重量%以上2重量%以下、又は0.25重量%以上1重量%以下から1重量%以下これらの範囲の全て、及びこれらの範囲の間の部分範囲を含むの量の量で含まれる。
【0063】
種々の実施形態では、種々の実施形態では、バインダ媒体は、溶液のバランス量の水を含む。種々の実施形態では、バインダ溶液の総重量に基づいて、水が75重量%以上、80重量%以上、又は85重量%以上の量で存在する。
【0064】
さらに、種々の実施形態において、本明細書に記載される水系バインダ溶液を用いて形成されるグリーン体部品は、x及びyプリント配向のそれぞれにおいて10MPa以上のグリーン強度を示す。本明細書で使用されるように、「x配向」は、x軸に沿った最大の寸法(例えば、長さ)を有する部分を指し、「y配向」は、y軸に沿った最大の寸法(例えば、長さ)を有する部分を指す。特に断らない限り、本明細書で使用されるように、「x軸」は、図2に示されるように、グリーン体部分が製造されるビルドプレートに対してプリントヘッドが移動する方向である。本明細書で使用されるように、「y軸」は、x軸(図2に示されるように)に垂直な方向であって、グリーン体部分の各層がx-y平面内にある。「z軸」は、x-y平面に垂直な軸であり、ここで、図2に示されるように、層がz軸に沿って互いに積層される。例えば、グリーン体部品は、3点曲げ試験に従って測定されるように、10MPa以上25MPa以下、10MPa以上20MPa以下、12MPa以上25MPa以下、又は12MPa以上20MPa以下のグリーン強度を示し得る。
【0065】
図1は、本明細書に記載される水系バインダ溶液を用いて、付加製造によって物品を製造する方法100の実施形態を示すブロック図である。方法100の態様の議論を容易にするために、方法100を実行するために使用され得る付加製造装置200の実施形態を示すブロック図である図2を参照する。
【0066】
図1に描かれているように、方法100は、部品を製造するために使用される粉末材料202の層を堆積することから始まる(ブロック102)。種々の実施形態において、粉末材料202の層は、付加製造装置の作業面204上に堆積される。粉末材料は、ニッケル合金、コバルト合金、コバルトクロム合金、鋳造合金、チタン合金、アルミニウム基材料、タングステン、ステンレス鋼等の金属粉末とすることができる。特定の実施形態に応じて、他の粉末材料を使用してもよい。
【0067】
次に、方法100は、水系バインダ溶液206を、部品の構造を描くパターンで粉末材料202の層に選択的に堆積させるステップ(ブロック104)に続く。バインダ溶液206は、例えば、本明細書に記載されるバインダ溶液の種々の実施形態のうちの任意の1つであり得る。種々の実施形態では、バインダ溶液206は、印刷される部品の層の表現を含むCAD設計に基づいてコントローラ210によって操作されるプリントヘッド208を用いて選択的に印刷される。
【0068】
種々の実施形態では、プリントヘッド208を制御するためのコントローラ210は、分散制御システム、又は汎用コンピュータ又は特定用途向け装置を採用する任意の適切な装置を含んでもよい。コントローラ210は、一般に、プリントヘッド208の動作を制御するための1つ又は複数の命令を記憶するメモリ212を含む。実施形態において、メモリ212は、製造される部品の構造を描くCAD設計を記憶する。実施形態において、CAD設計は、歪み補正を含むことができ、例えば、CAD設計は、最終的な所望の部品の幾何学的形状と正確に一致しない場合がある。プロセッサ214(例えば、マイクロプロセッサ)を含み、メモリ212は、本明細書に記載されるアクションを制御するためにプロセッサ214によって実行可能な命令を集合的に記憶する、1つ以上の有形で、一時的でない、機械読み取り可能な媒体を含んでもよい。
【0069】
バインダ溶液206が粉末材料202の層に選択的に堆積された後、バインダ溶液206中の熱可塑性バインダ216は、粉末粒子の外側表面を少なくとも部分的にコーティングし、それによってバインダコーティングされた粒子218を生成する。後述するように、熱可塑性バインダ216は、粉末材料202の層に印刷されたバインダ溶液206のパターンに従ってバインダ被覆粒子218を結合して、グリーン体部品の層を形成する。
【0070】
方法100は、粉末材料の層(ブロック102)を堆積させ、所望の数の層が印刷されるまで、バインダ溶液206を粉末材料の層(ブロック104)に選択的に堆積させるステップを繰り返して、層毎に部分を構築し続けることができる。バインダ溶液206の熱可塑性バインダ216は、各連続する層を結合し、グリーン体部分にある程度の強度(例えば、グリーン強度)を提供し、グリーン体部分の構造の完全性がポストプリンティング工程(例えば、移送、検査、及び/又は脱電力)中に維持されるようにする。すなわち、バインダ溶液206の熱可塑性バインダ216によってもたらされるグリーン強度は、層及びブロック(例えば、レジスト及び/又は)内の粉末材料202の粒子間の結合を維持し、グリーン体部品の取り扱い及び印刷後処理の間の層の層間剥離を防止する。
【0071】
種々の実施形態では、方法100は、熱可塑性バインダの硬化を続ける(ブロック106)。例えば、本明細書において上記されたように、バインダ溶液206は、熱可塑性バインダ216と少なくとも1つの溶媒との混合物である。種々の実施形態では、熱可塑性バインダ216の第1及び第2のポリマー鎖220、222は、それぞれ、第1及び第2のポリマー鎖の第1及び第2の官能基間の相互作用を介して互いに結合される。図1に示される実施形態は、第1及び第2のポリマー鎖220及び222を参照するが、他のポリマー鎖(例えば、第3のポリマー鎖)もまた、存在する場合、熱可塑性バインダ216中の他のポリマー鎖と相互作用し得る。
【0072】
バインダ溶液206中の溶媒の一部は、バインダ溶液206の堆積(例えば、プリンティング)中に蒸発してよいが、ある量の溶媒が粉末材料202の層内に残ってもよい。したがって、実施形態では、バインダ溶液206は、溶媒を蒸発させ、印刷層の効率的な結合を可能にし、それによってグリーン体部品を形成するのに適した温度で熱硬化されてもよい。熱は、IRランプ及び/又は加熱プレートを用いてグリーン体部分に加えてもよいし、オーブン内にグリーン体部分を配置して行ってもよい。
【0073】
結合していない粒子(例えば、バインダ溶液206によって結合していない粉末材料)は、ブロック106の硬化工程の前又は後に粉末層から除去して、脱バインダ及び焼結のような後処理工程のためのグリーン体部品を準備してもよい。
【0074】
図1に描かれた実施形態では、方法100は、グリーン体部品から熱可塑性バインダの一部を除去(例えば、脱バインダ)して、ブラウン体部品を生成するステップ(ブロック108)を含む。種々の実施形態において、バインダは、グリーン体部品に強度(例えば、グリーン強度)を提供し、焼結前の結果として生じるブラウン体部品の取り扱い強度を改善するために、グリーン体部品の脱バインダ中に、熱可塑性バインダの一部(すなわち、全て未満)のみが除去される。
【0075】
ブロック108で脱バインダする間、グリーン体部品は加熱されて、熱可塑性バインダ216のポリマー鎖の一部を破壊する。例えば、グリーン体部品は、約600℃以下、又は約450℃以下の温度に加熱することができる。実施形態において、グリーン体部品は、250℃~450℃の温度に加熱される。加熱は、例えば、無酸素環境(例えば、真空中、又は不活性雰囲気中、又は両者の組合せ)、又はセラミック部品焼結の場合は大気中で行うことができる。脱バインダが不活性雰囲気で行われる実施形態では、アルゴン、窒素、又は他の実質的に不活性なガスを使用することができる。いくつかの実施形態では、最終的に圧密化部品を作るために、脱バインダ工程を焼結工程と組み合わせてもよい。
【0076】
種々の実施形態によれば、ブロック108の脱バインダ工程は、熱可塑性バインダ216の約95%超を除去するのに有効である。例えば、脱バインダの間に除去される熱可塑性バインダの総量の95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上である。いくつかの実施態様において、ブラウン体部品に残留する熱可塑性バインダ216の部分は、脱バインダ工程の前に存在した熱可塑性バインダの量の5%以下、4%以下、3%以下又は2%以下、又は1%以下である。実施形態において、ブラウン体部品に留まる熱可塑性バインダ216の部分は、脱バインダ工程の前に存在し、焼結工程の後の段階(例えば、ステンレス鋼、ニッケル合金等についてのブロック110に従って説明されるように、600℃を超え、より高い焼結温度に入る)で除去される熱可塑性バインダの量の0.05%~2%又は0.1%~1%である。
【0077】
方法100は、ブロック108における脱バインダに続いて、ブラウン体部品を焼結して圧密化部品を形成するステップ(ブロック110)に続く。焼結の際、熱可塑性バインダの残りの部分(例えば、脱バインダの際に形成されるオリゴマー)は、ブラウン体部品から除去され、金属粉末の粒子が圧密化されて、圧密化部品を形成する。焼結は、ブラウン体部品に強度及び一体性を付与し、圧密化部品が、冷却後、例えば、機械での使用に適するようにする。
【0078】
いくつかの実施形態では、焼結は、熱可塑性バインダの残りの部分が除去される予備焼結工程と、金属粉末粒子が圧密化される焼結工程とを含む2段階プロセスに従って行われてもよい。いくつかの実施形態では、焼結は、単一の工程として実施されてもよい。焼結時に、ブラウン体部品は500℃より高い温度、800℃より高い温度、又は1000℃より高い温度に加熱される。実施形態において、熱は、ブラウン体部品を炉内に配置することによって、又は、ブラウン体部品を、特定の実施形態に応じて、レーザービーム、電子ビーム、又は他の適切なエネルギー源などの集中エネルギー源に曝すことによって加えてもよい。
【0079】
本明細書に記載される種々の実施形態は、方法100を参照して説明されるが、本明細書に記載される水系バインダ溶液の実施形態は、当業者によって公知であり、使用される種々の方法で使用され得ることが理解されるべきである。特に、硬化及び焼結は、多数の異なる方法、多数の異なるステップ、及び多数の異なる位置で達成され得る。
【実施例
【0080】
以下の例は、種々の実施形態を例示するために提供されるが、クレームの範囲を限定することを意図したものではない。特に指定しない限り、部及びパーセンテージは全て重量当たりである。種々の加工例、比較例、及び加工・比較例で使用される材料について、概略の性質、文字、パラメータなどを以下に示す。
【実施例1】
【0081】
6つの実施例の水系バインダ溶液(サンプル1~6)及び3つの比較の水系バインダ溶液(比較サンプルA、B、及びC)を、1つ以上のポリマー鎖の形態の熱可塑性バインダを水及び少なくとも1つの追加の共溶媒中で混合することによって調製した。全ての調合物(比較サンプルA~C及びサンプル1~6)は、主溶媒としての水と、1気圧で沸点171℃、蒸気圧0.8mmHgの非水系溶媒であるエチレングリコールブチルエーテルと、を含んでいた。比較サンプルAはまた、第2の非水系溶媒として1気圧での沸点が197℃であって蒸気圧が0.06mmHgであるエチレングリコールを含んでいた。
【0082】
比較サンプルA~Cは、第2ポリマー鎖としてポリ(ビニルアルコール)(PVA)、第3のポリマー鎖としてポリ(アクリル酸)(PAA)を含んでいたが、第1ポリマー鎖(ポリビニルピロリドン(PVP))は含んでいなかった。サンプル1は、第1のポリマー鎖としてPVPを含み、第3のポリマー鎖としてPAAを含んでいた。サンプル2、3、4、5、及び6は、第1のポリマー鎖としてPVP、第2のポリマー鎖としてPVA、及び第3のポリマー鎖としてPAAを含んでいた。比較サンプルC及びサンプル3~6は、さらに界面活性剤、Triton-X又はKD-2を含んでいた。サンプル1~6及び比較サンプルA~Cのそれぞれについての処方を以下の表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
ウィック速度を評価するために、サンプルは、粗粉末としてPraxair Truform 316-L00又はSandvik 316L粉末を、微粉末(アスタリスク(*)として表1に示す)としてSandvik 316L(Fe-17Cr-12Ni-3Mo)粉末をペトリ皿に沈着させ、AutoTapタップ密度分析器を用いて、粉末を入れたペトリ皿を表面から約0.5~1インチにおいてAutoTap密度分析器で332回繰り返し叩くことによって調製した。各サンプルについて、3滴のバインダ溶液の20μLの液滴を粉体層上に分注し、ビデオを用いて観察し、又はストップウォッチを用いて時間を計った。液滴のウィックは、バインダ溶液が最初に接触してから光沢が消滅するまでの時間を計った。ウィック時間(秒単位)は表1に報告されている。
【0085】
バインダ溶液の粘度は、Brookfieldレオメータを用いて決定し、Du Nouyリング法を用いて表面張力を決定した。金属粉末を円形のシリコーン型(4cm×0.45cm)に充填し、バインダを添加して湿式ブロックとし、グリーン体サンプルを作製した。サンプルは通常のオーブンで200℃又は170℃で1時間硬化させた。冷却後、サンプルブロックは鋳型から排出され、さらなる研究のために使用された。グリーン強度は3点インストロン試験機を用いて測定した。グリーン強度を表1に示す。
【0086】
表1に示すように、比較サンプルAは6.2秒のウィック時間を示したが、サンプル1は3.5秒のウィック時間を示した。理論に束縛されるものではないが、比較サンプルAのバインダ配合物中に存在する主ポリマーは、18,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有し、より高い重量%の非水系溶媒(12%まで)の存在は、金属粉末中の全体の粘度及び吸い上げ時間を増加させると考えられる。サンプル1のバインダ配合物中のポリマーのより低い分子量によって粉末床への吸い上げ速度が改善された。
【0087】
さらに、サンプル1のバインダ処方におけるポリマーの分子量がより低いことによって、全体としてより多くのポリマー(比較サンプルAにおける約5.0重量%と比較してサンプル1において16重量%)の添加も可能になったと考えられ、これによって、オフマシンシリコーンモールドサンプルについて表1に示されるように、改善されたグリーン強度が得られた。更に、比較サンプルA、サンプル1、及びサンプル3のバインダ溶液を機械上において12~15μmのD50を有する316Lサンドビック微粉末上に印刷した15mm×15mm×105mmの大きさの矩形サンプルについてグリーン体部品サンプルを用いて若干の比較を行った(図3)。図3に示すように、3つのポリマー系を使用すると、従来のバインダ溶液よりもグリーン強度が増加した。
【0088】
バインダ溶液中の界面活性剤の役割を探求するために、比較サンプルA及びCならびにサンプル1及び3と共に追加のグリーン強度試験を実施した。グリーン体部品は、比較サンプルA、CについてはD50が25μmのSS316L粗粉を用い、サンプル2、6についてはD50が12~15μmのSS316L微粉を用いて作製した。グリーン体部品は、上記の方法で作成した。結果を図4A及び4Bに示す。図4Aに示すように、比較サンプルCへの界面活性剤の添加は、比較サンプルAの他の同一のバインダ溶液よりも低いグリーン強度をもたらした。理論に束縛されるものではないが、界面活性剤は、熱可塑性バインダ中のポリマー間の水素結合に影響を与え、それにより、グリーン体部分のグリーン強度を低下させ、これは、ポリマー鎖間の相互作用に大きく由来して強度を提供すると考えられる。しかしながら、図4Bに示すように、サンプル6における界面活性剤の添加は、実際には、サンプル2を印刷したグリーン体部品と比較して、改良されたグリーン強度をもたらし、より高いポリマー充填及び複数の水素結合の可能性が、界面活性剤の効果を上回ることを示唆している。
【0089】
発明のさらなる態様は、以下の項の主題によって提供される。
【0090】
1. 作動面上に粉末の層を堆積するステップと、0.1重量%以上5重量%以下の沸点が100℃よりも高く175℃よりも低い非水系溶媒と、熱可塑性バインダと、を含有する水系バインダ溶液を、部品の構造を描くパターンで粉末の層に選択的に堆積するステップとを含む付加製造方法であって、前記熱可塑性バインダは、5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖の少なくとも1つとを含み、第1のポリマー鎖は、第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖のそれぞれと異なり、第2のポリマー鎖は第3のポリマー鎖と異なり、且つ第1のポリマー鎖を第2のポリマー鎖及び第3のポリマー鎖の少なくとも一方と結合させてグリーン体部品を形成する。
【0091】
2. 前記水系バインダ溶液中に非水系溶媒が1wt%以上4wt%未満の量で存在する、上記いずれかの項に記載の方法。
【0092】
3. 前記非水系溶媒が、2-メトキシエタノール、ブタノール、2-ブタノール、テルト-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコールブチルエーテル、又はこれらの組合せを含む、上記いずれかの項に記載の方法。
【0093】
4. 前記第1のポリマー鎖が、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)又はこれらの組合せを含む、上記いずれかの項に記載の方法。
【0094】
5. 前記第1のポリマー鎖が、前記水系バインダ溶液の総重量に基づいて、5重量%以上20重量%以下の量で存在する、上記いずれかの項に記載の方法。
【0095】
6. 前記熱可塑性バインダが、前記水系バインダ溶液の総重量に基づいて、0.5重量%以上7重量%以下の量の第2のポリマー鎖を含む、上記いずれかの項に記載の方法。
【0096】
7. 前記熱可塑性バインダ溶液が、前記第3のポリマー鎖を0.1重量%以上5重量%以下の量で含む、上記いずれかの項に記載の方法。
【0097】
8. 前記第2のポリマー鎖が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、これらの誘導体及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、上記いずれかの項に記載の方法。
【0098】
9. 前記第3のポリマー鎖が、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択される、上記いずれかの項に記載の方法。
【0099】
10. 前記水系バインダ溶液が、0.1重量%以上2重量%以下の界面活性剤をさらに含む、上記いずれかの項に記載の方法。
【0100】
11. 水系バインダ溶液中に存在するポリマーの総重量が、水系バインダ溶液の総重量に基づいて5重量%以上20重量%以下である、上記いずれかの項に記載の方法。
【0101】
12. 前記第1のポリマー鎖が、ポリビニルピロリドン(PVP)を含み、前記第2のポリマー鎖が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、これらの誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択され、前記第3のポリマー鎖が、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択される、上記いずれかの項に記載の方法。
【0102】
13. 複数の層を含み、少なくとも1つの層が熱可塑性バインダを含む水系バインダ溶液によって結合された粉末から形成されるグリーン体部品であって、前記熱可塑性バインダは、5,000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1,000g/mol以上5,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖の少なくとも1つと、を含み、前記第1のポリマー鎖は、前記第2のポリマー鎖及び前記第3のポリマー鎖のそれぞれとは異なり、前記第2のポリマー鎖は前記第3のポリマー鎖とは異なり、前記第1のポリマー鎖は、前記第2のポリマー鎖の少なくとも1つと非共有結合である、義リーン体部品。
【0103】
14. 前記第1のポリマー鎖が、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)又はこれらの組合せからなる、上記いずれかの項に記載のグリーン体部品。
【0104】
15. 前記第2のポリマー鎖が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、これらの誘導体及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、上記いずれかの項に記載のグリーン体部品。
【0105】
16. 前記第3のポリマー鎖が、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、上記いずれかの項に記載のグリーン体部品。
【0106】
17. グリーン体部が、x及びyプリント配向上で10MPa以上のグリーン強度を有する、上記いずれかの項に記載のグリーン体部品。
【0107】
18. 5000g/mol以上15,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリマー鎖と、10,000g/mol以上50,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリマー鎖及び1000g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する第3のポリマー鎖の少なくとも一方とを含む熱可塑性バインダと、0.1wt%以上5wt%以下の沸点が100℃を超える非水系溶媒と、水と、を含有し、前記第1のポリマー鎖が、前記第2のポリマー鎖及び前記第3のポリマー鎖の各々とは異なり、前記第2のポリマー鎖が前記第3のポリマー鎖とは異なる、付加製造に使用するための水系バインダ溶液。
【0108】
19. 0.1重量%以上2重量%以下の界面活性剤をさらに含む、上記いずれかの項に記載の水系バインダ溶液。
【0109】
20. 前記第1のポリマー鎖は、ポリビニルピロリドン(PVP)を含み、前記第2のポリマー鎖は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、その誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択され、前記第3のポリマー鎖は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体及びこれらの組合せからなる群から選択される、上記いずれかの項に記載の水系バインダ溶液。
【0110】
開示の精神及び範囲から逸脱することなく、本開示の実施形態に対して種々の修正及び変形を行うことができることは、当業者には明らかである。従って、本開示は、それらが特許請求範囲及びそれらの同等物の範囲内にあるならば、そのような修正及び変形をカバーすることが意図されている。
図1
図2
図3
図4A
図4B