IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本アクアの特許一覧

<>
  • 特許-高湿度環境構造物の断熱構造 図1
  • 特許-高湿度環境構造物の断熱構造 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】高湿度環境構造物の断熱構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20230728BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
E04B1/76 500F
E04B1/76 400H
E04B1/94 E
E04B1/94 Q
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021128362
(22)【出願日】2021-08-04
(65)【公開番号】P2023023127
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2023-05-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505015587
【氏名又は名称】株式会社日本アクア
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】中村 文隆
(72)【発明者】
【氏名】永田 和久
(72)【発明者】
【氏名】江川 慎一
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特許第6725606(JP,B2)
【文献】特開昭63-258791(JP,A)
【文献】特開平5-98692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下ピット、サウナまたは風呂場等の高湿度環境下にある構造物における断熱構造であって、
前記構造物の躯体表面に対し、現場吹き付け式のウレタンフォームのみからなり、前記躯体側にプライマー層を有さず、かつ屋内側に耐火コート層を有しない断熱層を設けてあり、
前記断熱層が、
ポリイソシアネート化合物、エステル系ポリオール化合物、三量化触媒、添加剤、発泡剤およびアクリル系表面調整剤を少なくとも含み、かつシリコン系整泡剤を含まないものであり、さらに前記添加剤が、赤リンを必須成分とし、且つ、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、モノリン酸塩、ピロリン酸塩およびポリリン酸塩の中から一種以上を少なくとも含んでなり、
前記ウレタンフォームが、JISA9526A種2Hに属する透湿性を有し、ISO-5660に準拠した発熱性試験において少なくとも準不燃性を有し、かつ、独立気泡率が80%以上であることを特徴とする、
高湿度環境構造物の断熱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下ピット、サウナ、風呂場等の高湿度環境下にある構造物における断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高湿度環境下にある構造物の一例として、例えば免震構造の確保や配管等のメンテナンスの為に構造物の地下に確保する空間である地下ピットがある。
この地下ピットに形成する断熱層として現場発泡式のウレタンフォームを用いる場合、当該ウレタンフォームが難燃性に乏しい場合には、吹付施工後のウレタンフォームの表面に、下記の非特許文献1等に記載された耐火コートを塗布する方法が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】https://www.fuji-material.com/example_5.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法を用いた場合、以下の問題のうち少なくとも何れか1つの問題が生ずる。
(1)耐火コートの塗布作業や、当該塗布作業に先立って行うプライマーの塗布作業等の分だけ工期を要することになる。
(2)高湿度または水に濡れやすい環境下にある躯体上にウレタンフォームを形成する場合、ウレタンフォームに吸湿または吸水箇所の発生によってウレタンフォームが躯体等から脱落しやすくなる。
【0005】
よって、本発明は、高湿度または水に濡れやすい環境である地下ピットやサウナ、風呂場等の湿気の多い場所である高湿度環境構造物での使用に好適な断熱構造の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべくなされた本願発明は、地下ピット、サウナまたは風呂場等の高湿度環境下にある構造物における断熱構造であって、前記構造物の躯体表面に対し、現場吹き付け式のウレタンフォームのみからなり、前記躯体側にプライマー層を有さず、かつ屋内側に耐火コート層を有しない断熱層を設けてあり、前記断熱層が、ポリイソシアネート化合物、エステル系ポリオール化合物、三量化触媒、添加剤、発泡剤およびアクリル系表面調整剤を少なくとも含み、かつシリコン系整泡剤を含まないものであり、さらに前記添加剤が、赤リンを必須成分とし、且つ、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、モノリン酸塩、ピロリン酸塩およびポリリン酸塩の中から一種以上を少なくとも含んでなり、前記ウレタンフォームが、JISA9526A種2Hに属する透湿性を有し、ISO-5660に準拠した発熱性試験において少なくとも準不燃性を有し、かつ、独立気泡率が80%以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち、少なくとも何れか1つの効果を奏する。
(1)本発明に係る断熱層の形成工程のみで難燃性を付与できることから、耐火コートやプライマーの塗布作業が不要となり、工期の短縮化に寄与する。
(2)ウレタンフォームが良好な耐湿(透湿)性を有し、自然乾燥に優れるため、断熱層の内部や表面に結露が発生しにくく、躯体から断熱層が脱落する恐れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る断熱構造の一例を示す概略図。
図2】各試験体の重量変化率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例
【0010】
<1>全体構成
本実施例に係る断熱構造は、高湿度環境構造物の一例である地下ピットAを構成するコンクリート製の躯体Bに設けた断熱層10を有している。
図1では、断熱層10の躯体B側にプライマー層を有さない構成とし、かつ断熱層の屋内側に耐火コート層を有しない構成としている。
なお、断熱層10の屋内側には適宜内装材などを設けることができるが、本図では図示を省略している。
以下、断熱層10の詳細について説明する。
【0011】
<2>断熱層(図1
断熱層10は、躯体Bの屋内側表面に形成する、断熱性能を有する層である。
断熱層10は、現場吹き付け式のウレタンフォームで構成しており、当該ウレタンフォームを、ポリイソシアネート化合物、エステル系ポリオール化合物、三量化触媒、添加剤、発泡剤およびアクリル系表面調整剤を少なくとも含み、かつシリコン系整泡剤を含まないものであり、さらに前記添加剤が、赤リンを必須成分とし、且つ、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、モノリン酸塩、ピロリン酸塩およびポリリン酸塩の中から一種以上を少なくとも含んでなる、組成物で構成する。
上記の組成物を、ポリイソシアネート化合物(第1液)とそれ以外との成分(第2液)とに分けておき、両者を噴霧しながら混合して吹き付ける方法や、両者を混合しながら吹き付ける方法等によって、断熱層を形成することができる。
断熱層10の厚さ(t)は特段限定しないが、通常15mm~300mmの範囲で設計される。
【0012】
<2.1>断熱層の材料について
なお、断熱層10を構成する各材料の詳細については、特許第6725606号に開示されている内容から適宜選択すればよく、詳細な説明は省略する。
【0013】
<2.2>断熱層の不燃性能について
前記の組成によって得られる発泡体は、以下の表1に示すISO-5660に準拠した発熱性試験において少なくとも準不燃性を有するものとすることが好ましい。
[表1]
上記した不燃性能を有するための各材料の最適な配合比は、実験によって適宜導けば良い。
【0014】
<2.3>断熱層の透湿性能について
また、前記の組成によって得られる発泡体は、JISA9526A種2Hに属する透湿性(透湿率が4.5[ng/(m・s・pa)]以下)を有するものとする。
上記した透湿性を有するための各材料の最適な配合比は、実験によって適宜導けば良いが材料の混合状態が良く、汎用な設備が使用できる1:1が望ましい。また、独立気泡率も透湿性が小さいものが得られやすい80%以上、更には90%以上のものが望ましい。。
【0015】
<2.4>断熱層の密度について
さらに、前記の組成によって得られる発泡体は、密度が25kg/m以上を有するものとする。
上記した密度を有するための各材料の最適な配合比は、実験によって適宜導けば良いが、特に、現場発泡式吹付け設備で多い第1液と第2液の容積比1:1で設けることにより、良好な密度を得ることができる。
また、断熱層10は吹付けの積層によって形成されるが積層回数が多いほうが密度は高くなり透湿性は小さくなり、1層当たりの吹付け厚みは50mm以下、更に好ましくは30mm以下で積層することが望ましい。
【0016】
<3>性能試験
以下、本発明に係る断熱構造の性能試験について説明する。
【0017】
<3.1>試験材料
本発明に係る断熱層として用いるウレタンフォームからなる実施例1およびその他の従来技術によるウレタンフォームからなる比較例1について各種試験を行った。
実施例1および比較例1で使用した各成分の施工条件は次の通りである。
【0018】
[表1]
両試験体について、性能試験を行った結果を以下に示す。
【0019】
<3.2>重量変化率について
各試験体を2日間水中に浸漬後、23℃.50%RH下に放置した際の重量変化率を以下の表2および図2に示す。
[表2]
上記の通り、本発明に係る試験体は、吸水後1日以上の乾燥期間があれば浸水前と同等の重量に戻り、比較例1と同等の性能を有する結果を得られた。
【0020】
<3.3>熱伝導率について
次に、吸水前と、吸水乾燥後の各試験体についての熱伝導率の対比結果を以下の表3に示す。
[表3]
上記の通り、本発明に係る発泡体は、吸水前および吸水・乾燥後において、熱伝導率に変化は見られず、断熱性能に悪影響は生じないことが判った。
これは本発明に係る発泡体が、独立気泡構造(独立気泡率:80%以上)の為、発泡体の表面から水との接触によって吸水するものの、水と接触しない環境になればすぐ乾燥し、吸水乾燥後にも、発泡体内の気泡中に閉じ込められた発泡剤が維持されているためと考えられる。
【符号の説明】
【0021】
10 断熱層
A 地下ピット
B 躯体
図1
図2