(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】銀-樹脂複合粒子、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20230728BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230728BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230728BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20230728BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20230728BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20230728BHJP
C08F 283/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C08F2/44 C
A01P3/00
A01P1/00
A01N59/16 A
A01N61/00 D
A01N25/12
C08F283/00
(21)【出願番号】P 2021159252
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2023-03-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521426338
【氏名又は名称】パーカー サーフェス テクノロジー アジア パシフィック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モーラコット ワッタナチャイヤポン
(72)【発明者】
【氏名】シャンヤー ワットシャラナンタデージ
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336251(JP,A)
【文献】特開2006-104254(JP,A)
【文献】特開2006-008969(JP,A)
【文献】特開2008-045024(JP,A)
【文献】特開2020-045454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
A01P 3/00
A01P 1/00
A01N 59/16
A01N 61/00
A01N 25/12
C08F 283/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオンと、エチレン構造単位を有し、
アミン価が5mgKOH/g以上であり、且つ二級アミ
ンを有する、水溶性の樹脂(a)と、を水中で混合する混合ステップ、及び
前記混合ステップで得られた銀-樹脂複合体(A)と、重合性モノマー(B)と、を混合して重合する重合ステップ、を含む、銀-樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性の樹脂(a)は、ポリエチレンイミン樹脂である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合ステップは、40℃以上85℃以下で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記重合性モノマー(B)は、メタクリル酸メチル(MMA)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
コア-シェル構造を有する銀-樹脂複合粒子であって、
前記コアは重合性モノマー(B)の重合体であり、
前記シェルは、エチレン構造単位を有し
、アミン価が5mgKOH/g以上であり、且つ二級アミ
ンを有する水溶性の樹脂(a)に銀が固定化された銀-樹脂複合体(A)である、銀-樹脂複合粒子。
【請求項6】
前記重合性モノマー(B)はメタクリル酸メチル(MMA)である、請求項5に記載の銀-樹脂複合粒子。
【請求項7】
前記銀-樹脂複合粒子は、銀の含有量が1.0質量%以上2.5質量%以下である、請求項5又は6に記載の銀-樹脂複合粒子。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の銀-樹脂複合粒子を含む、抗菌剤。
【請求項9】
請求項5~7のいずれか1項に記載の銀-樹脂複合粒子を含む、抗真菌剤。
【請求項10】
請求項5~7のいずれか1項に記載の銀-樹脂複合粒子を含む、抗ウィルス剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭・抗菌作用を有する複合粒子、その製造方法、及び複合粒子を含む組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
銀は、抗菌・消臭作用を有する物質として、広く知られており、消臭スプレー・抗菌スプレーなどに用いられている。
例えば、特許文献1には、ポリマー粒子と、ポリマー粒子の表面に担持された銀などの金属を有する複合粒子に関する技術が開示されており、分散液に適用した際に沈降しにくく、消臭スプレー等に好適に用いられている。
また、特許文献2には、銀などの抗菌性無機金属含有成分(A)と、ポリリジンなどの窒素含有高分子(B)と、ラベンダーエキス(C)とを有する抗菌・消臭組成物に関する技術、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/092808号
【文献】特開2008-280306号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、銀の抗菌・消臭作用は知られており、この性質を利用して消臭・殺菌組成物に適用されているが、上記技術では、銀の有する殺菌力が十分に発揮できなかった。
本発明は、このような状況下でなされたものであり、銀の有する殺菌力が十分に発揮できる複合粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく銀と樹脂成分(高分子)との複合粒子を鋭意検討した結果、銀を固定化できる特定の樹脂を用いて銀-樹脂複合体を形成させた後、重合性モノマーと混合し、重合させることで得られるコアシェル構造を有する複合体により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は以下のものを含む。
【0006】
(1)銀イオンと、エチレン構造単位を有し、且つ二級アミン及び/又は三級アミンを有する水溶性の樹脂(a)と、を水中で混合する混合ステップ、及び
前記混合ステップで得られた銀-樹脂複合体(A)と、重合性モノマー(B)と、を混合して重合する重合ステップ、を含む、銀-樹脂複合粒子の製造方法。
(2)前記水溶性の樹脂(a)は、ポリエチレンイミン樹脂である、(1)に記載の製造方法。
(3)前記混合ステップは、40℃以上85℃以下で行う、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)前記重合性モノマー(B)は、MMAである、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)コア-シェル構造を有する銀-樹脂複合粒子であって、
前記コアは重合性モノマー(B)の重合体であり、
前記シェルはエチレン構造単位を有し、且つ二級アミン及び/又は三級アミンを有する水溶性の樹脂(a)に銀が固定化された銀-樹脂複合体(A)である、銀-樹脂複合粒子。(6)前記重合性モノマー(B)はMMAである、(5)に記載の銀-樹脂複合粒子。
(7)前記銀-樹脂複合粒子は、銀の含有量が1.0質量%以上2.5質量%以下である、(5)又は(6)に記載の銀-樹脂複合粒子。
(8)(5)~(7)のいずれかに記載の銀-樹脂複合粒子を含む、抗菌剤。
(9)(5)~(7)のいずれかに記載の銀-樹脂複合粒子を含む、抗真菌剤。
(10)(5)~(7)のいずれかに記載の銀-樹脂複合粒子を含む、抗ウィルス剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、銀の有する殺菌力が十分に発揮できる複合粒子を提供できる。驚くことに、得られた複合粒子は、抗真菌作用及び抗ウィルス作用も有し、極めて高い抗微生物作用を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例で得られた複合粒子のTEM画像である(図面代用写真)
【
図2】参考例で得られた複合粒子のTEM画像である(図面代用写真)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<銀-樹脂複合粒子>
本発明の一実施形態は、銀-樹脂複合粒子であり、コア-シェル構造を有する。
コアは重合性モノマー(B)の重合体であり、シェルは、エチレン構造単位を有し且つ二級アミン及び/又は三級アミンを有する水溶性の樹脂(a)に銀が固定化された銀-樹脂複合体(A)である。
本形態の銀-樹脂複合粒子(以下、単に複合粒子とも称する。)は、シェルを形成する水溶性の樹脂(a)に銀が固定化されており、高い消臭・抗菌作用を有するのみならず、抗真菌作用、抗ウィルス作用を有する複合粒子である。
【0010】
<銀-樹脂複合体(A)>
シェルを形成する銀-樹脂複合体(A)(以下、単に複合体(A)とも称する。)は、水溶性樹脂(a)に銀が固定化されてなる。
水溶性樹脂(a)は、エチレン構造単位を有し、且つ二級アミン及び/又は三級アミンを有する水溶性樹脂であり、典型的にはポリエチレンイミンなどが挙げられるがこれに限られない。水溶性樹脂が二級アミン及び/又は三級アミンを有することで、水溶液中で銀イオン(Ag+)とアミンのNHとの間で働く力により、銀が水溶性樹脂(a)に固定化される。
【0011】
水溶性樹脂(a)の分子量は特に限定されないが、通常500以上であり、好ましくは1000以上であり、また通常1000000以下であり、好ましくは800000以下である。なお、水溶性樹脂(a)の分子量は、重量平均分子量であり、GPC(ゲル浸透カラムクロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレンで換算した値である。
【0012】
水溶性樹脂(a)が有する二級アミン及び三級アミンのアミン価は特に限定されないが、通常5mgKOH/g以上であり、好ましくは10mgKOH/g以上であり、また通常25mgKOH/g以下であり、好ましくは40mgKOH/g以下である。アミン価はASTM D2074に準じて測定される。
【0013】
水溶性樹脂(a)の典型例としては、ポリエチレンイミンがあげられるが、これに限られるものではなく、ポリプロピレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリアルキレンアミン、ポリアゼチジン、ポリビニルグアニジンなどがあげられる。
直鎖ポリエチレンイミンは、以下の一般式(1)で表されるポリマーである。
【化1】
なお、式(1)中、nは正の数であり、通常2~30000の範囲内である。
ポリエチレンイミンは直鎖状のものであってもよく、分岐状のものであってもよく、デンドリマー型であってもよい。分岐状のポリエチレンイミンの場合、その分子量は通常500以上、好ましくは1000以上であり、また通常1000000以下、好ましくは800000以下である。なお、上記ポリエチレンイミンの分子量は、重量平均分子量であり、GPC(ゲル浸透カラムクロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレンで換算した値である。
【0014】
銀は、水中で銀イオン(Ag+)になり、上記水溶性樹脂(a)に固定化されるものであればよく、銀イオンの供給源としては塩化銀、硫酸銀、硝酸銀、炭酸銀、酢酸銀などがあげられるがこれらに限られない。
【0015】
<重合性モノマー(B)>
重合性モノマー(B)は、重合することで本形態の複合粒子のコアとなる。重合性モノマーは、重合性基を有するモノマーであれば特に限定されるものではない。重合性基は、典型的にはビニル基、エポキシ基、などが挙げられ、具体的な重合性モノマーとしては、アクリル系モノマー、メタクリル系モノマー、エポキシ系モノマーなどが挙げられる。
重合性モノマー(B)が重合してコアとなった際の、コア粒子の平均粒子径は特に限定されないが、ハンドリングの観点から50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、また1μm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。なお、平均粒子径は、電子顕微鏡による観察において、任意に選択した20個以上の粒子の粒子径をそれぞれ測定し、その平均として算出できる。なお、球状ではない粒子の場合、その長径を粒子径とする。
重合性モノマーの重合体であるコアは、多孔質の重合体あってもよく、中空の重合体であってもよいが、孔を有しない重合体であってもよい。
【0016】
<銀-樹脂複合粒子の製造方法>
本発明の別の実施形態は、銀イオンと、エチレン構造単位を有し、且つ二級アミン及び/又は三級アミンを有する水溶性の樹脂(a)と、を水中で混合する混合ステップ、及び前記混合ステップで得られた銀-樹脂複合体(A)と、重合性モノマー(B)と、を混合して重合する重合ステップ、を含む、銀-樹脂複合粒子の製造方法である。
【0017】
<混合ステップ>
混合ステップは、水溶液中で、銀イオンと、水溶性の樹脂(a)と、を混合するステップである。混合ステップにより、銀イオンを水溶性樹脂(a)に固定化し、銀-樹脂複合体(A)を得る。銀イオンの供給源と水溶性の樹脂(a)とを純水に加えて水溶液とし混合するが、この際混合しながら加熱してもよい。
【0018】
混合ステップは、40℃以上85℃以下で行うことが好ましく、60℃以上80℃以下で行うことがより好ましい。また、加熱する場合には加熱設定温度に到達してから、通常60分以上240分以下維持し、90分以上120分以下維持することが好ましい。なお、銀と水溶性樹脂(a)との固定化のためには、加熱は、撹拌下で行うことが好ましい。
【0019】
混合ステップにおいて、添加する銀イオンの量は特に限定されず、複合粒子に含有させる所望の銀イオン量を考慮して添加すればよく、水溶性樹脂(a)100質量部に対しAg金属量換算で40質量部以上80質量部以下であることが好ましい。
【0020】
<重合ステップ>
重合ステップは、上記混合ステップで得られた複合体(A)と重合性モノマー(B)とを混合することで重合性モノマー(B)を重合させ、コア-シェル構造を有する複合粒子を得るステップである。複合体(A)と重合性モノマー(B)との混合比は特に限定されないが、重合性モノマー(B)100質量部に対し通常100質量部以上500質量部以下であり、200質量部以上400質量部以下であることがより好ましい。
重合ステップにおいては、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤は重合性モノマーの重合を開始させられるものであればよく、典型的には、有機過酸化物系の重合開始剤が挙げられる。重合開始剤を添加する場合、重合性モノマー(B)100質量部に対し通常0.01質量部以上5質量以下であり、0.1質量部以上1質量部以下であることがより好ましい。
【0021】
本形態においては、他のステップを含んでいてもよいが、上記二つのステップにより、銀-樹脂複合粒子を得ることができる。本形態の製造方法により、高い含有量で銀を含んだ複合粒子を得ることができる。本形態の複合粒子において、銀の含有量は好ましくは1.0質量%以上2.5質量%以下である。
また、本形態の複合粒子は、平均粒子径が50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、また1μm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。なお、平均粒子径は、電子顕微鏡による観察において、任意に選択した20個以上の粒子の粒子径をそれぞれ測定し、その平均として算出できる。なお、球状ではない粒子の場合、その長径を粒子径とする。
【0022】
銀が樹脂に固定化されず、単に混合するのみで複合粒子を製造した場合、銀は局所的に粒子表面に配置されているのみであり(
図2参照)、経時的安定性が乏しいため、例えば容器内に数週間保存することにより、粒子表面から多くの銀が落下して容器の底に偏在することとなる。
【0023】
一方で、水溶性樹脂(a)に銀が固定化されている本形態では、容器中で数か月保存しても、水溶性樹脂(a)と銀とが固定化されたままであり、粒子表面に多くの銀が均一に存在する状態を維持することができる(
図1参照)。なお、本明細書で「銀が均一に存在する」とは、粒子表面に銀が部分的に偏在していないことをいい、粒子の直径を含む任意の外周のうち、銀が存在しない長さが連続して円周の20%以上とならないことが好ましく、銀が存在しない長さが連続して円周の10%以上とならないことが好ましい。
【0024】
そのため、本形態では消臭・抗菌効果が長期間持続する複合粒子を提供することができる。また、銀の含有量が高いことから、抗菌効果のみならず抗真菌効果及び抗ウィルス効果をも奏し、抗真菌剤、抗菌剤、抗ウィルス剤としても使用することができる。本形態の複合粒子を抗真菌剤、抗菌剤又は抗ウィルス剤として、組成物中に含有させる場合、その含有量は特に限定されず、効果を奏する範囲とすればよいが、組成物中に含有させる複合粒子の割合は、通常0.01質量%以上1.0質量%以下であり、0.02質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。
【0025】
抗真菌剤の対象となる真菌としては、クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)等のクラドスポリウム(Cladosporium)属、アオカビ(Penicillium citrinum)等のペニシリウム(Penicillium)属、コウジカビ(Aspergillus brasiliensi
s)等のアスペルギルス(Aspergillus)属、ススカビ(Alternaria alternata)等のアルテルナリア(Alternaria)属、アカカビ(Fusarium solani)等のフザリウム(Fusarium)属、Eurotium herbariorum等のユーロチウム(Eurotium)属、ロドトルラ属(Rhodotorula mucilaginosa)等の赤色酵母類、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属、エキソフィアラ(Exophiala)属等の黒色酵母類、フォーマ(Phoma)属、カンジダ(Candida)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等が挙げられる。
【0026】
また、抗菌剤の対象となる菌類としては、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリヒア(Escherichia)属、Methylobacterium mesophilicum等のメチロバクテリウム(Methylobacterium)属、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)等のシュードモナス(Pseudomonas)属、Serratia marcescens等のセラチア(Serratia)属などのグラム陰性菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等のスタフィロコッカス(Staphylococcus)属、Bacillus subtilis、Bacillus cereus等のバチルス(Bacillus)属細菌、乳酸菌などのグラム陽性菌等が挙げられる。
また、抗ウィルス剤の対象となるウィルスとしては、H1N1インフルエンザウイルス、豚コロナウイルス(α-コロナウィルス属)、エンテロウイスルが挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により、その範囲が限定されるものではない。
【0028】
<実施例>
(銀-水溶性樹脂複合体の調製)
硝酸銀(シグマアルドリッチ社製)0.63gと、ポリエチレンイミン樹脂(アミン価18mgKOH/g、重量平均分子量75000、シグマアルドリッチ社製)を純分として2.00gと、純水43.20gと、を丸底フラスコに加え、窒素流入雰囲気で70℃で120分間加熱攪拌し、銀が水溶性樹脂に固定化された、銀-水溶性樹脂複合体溶液を得た。
【0029】
(銀-樹脂複合粒子の調製)
上記得られた複合体溶液45.85gと、MMA(シグマアルドリッチ社製)3.00gと、重合開始剤としてtert-ブチルヒドロペルオキシド(シグマアルドリッチ社製)0.01gと、純水10gと、を丸底フラスコに加え、窒素流入雰囲気で70℃で120分間加熱攪拌し、茶色の複合粒子分散物を得た。粒子をTEMで観察したところ、粒子表面に均一にAg粒子の存在が確認できた。得られた複合粒子のTEM画像を
図1に示す。
図1から、樹脂粒子の表面に均一にAgが固定化されていることが理解できる。
【0030】
(安定性評価)
得られた複合粒子をビーカーに入れ、常温で5か月間保存したところ、性状の変化は見られなかった。
【0031】
<参考例>
(複合粒子の調製)
ポリエチレンイミン樹脂(アミン価18mgKOH/g、重量平均分子量750000シグマアルドリッチ社製)2.00gとMMA、シグマアルドリッチ社製)3.00gと、重合開始剤としてtert-ブチルヒドロペルオキシド(シグマアルドリッチ社製)0
.01gと、純水42.2gと、を丸底フラスコに加え、窒素流入雰囲気で80℃で120分間加熱し、白濁したコアシェル構造を有する複合樹脂分散物を得た。
【0032】
(Agの導入)
得られた複合樹脂分散物に硝酸銀(シグマアルドリッチ社製)0.015gと、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(シグマアルドリッチ社製)0.05gと、純水2.8gを添加し、開放下で常温で1440分撹拌することで、銀を保有させた複合樹脂分散物を得た。得られた複合粒子のTEM画像を
図2に示す。
図2から、Agは樹脂粒子の表面に偏在していることが理解できる。
【0033】
(安定性評価)
得られた複合樹脂分散物をビーカーに入れ、常温で2週間保存したところ、黒色のAg粒子がビーカーの底部分に沈降していた。
【0034】
<抗菌/抗真菌試験>
抗菌/抗真菌試験は、JISZ2801:2006に準じて行った。
抗菌/抗真菌試験には、A1000系アルミニウム板の表面を十分に洗浄し、実施例および参考例に示す分散液(調製直後)を3g/m2となるように塗布し、常温にて24時間乾燥させ、5cm四方に切断したものを抗菌試験片として使用した。常温で2週間保管した後、表面に付着した雑菌を除去する目的で70重量%のエチルアルコールで表面を洗浄後、所定量の試験菌を含有する試験菌液0.4mlを抗菌試験片へ塗布し、無菌化クリアフィルムでカバーし、35℃×95%のインキュベータにて24時間保管した。その後、試験片とクリアフィルムを10mlの無菌寒天培地水溶液にて洗浄し、その洗浄液を寒天培地に培養し、コロニーカウントを実施した。
試験菌は、菌類として黄色ブドウ球菌、緑膿菌、真菌類としてカンジタアビカンを用い、抗菌性評価の成立性および各試験片の抗菌効果はJISZ2801:2006に従って行った。
【0035】
<試験成立性>
抗菌処理を施さなかった試験片の24時間後の生菌数において、3検体の値がすべて6.2×102個cm-2以上となったときを試験成立とした。
【0036】
<抗菌活性値>
次の式によって抗菌活性値を求めた。
R=Ut-At
ここで、
R: 抗菌活性値
Ut: 無加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
At: 抗菌加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
<抗菌性評価>
S:抗菌活性値が4.00以上
A:抗菌活性値が3.00以上かつ4.00未満
B:抗菌活性値が2.00以上かつ3.00未満
C:抗菌活性値が2.00未満(抗菌性無し)
【0037】
<試験液の調製>
試験液は実施例および参考例の分散液の純分が0.5%、エチルアルコールが30%となるように純水と混合して作成した。
【0038】
<抗ウィルス試験1>
ノンエンベローブタイプウイルスへの抗ウィルス性評価として、試験ウィルスをインフルエンザN1H1として、ウイルス阻害リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応試験(rRT-PCR法)により実施した。実施例および参考例に示す溶液と試験ウィルスとの接触時間は10分とし、Madin-Darby Canine Kidney(MDCK)細胞から検体を採取し、ウイルス生存を検出した。各検体のインフルエンザウイルスのコピー数を陽性対照(製品なし)と比較して測定することにより、各溶液の抗ウィルス有効性を評価した。
【0039】
<抗ウィルス試験2>
エンベローブタイプウィルスへの抗ウィルス性評価として、試験ウィルスをエンテロウィルス(EV71)と豚コロナウィルス(PEDV)の2種として、プラーク減少中和試験(PRNT法)により実施した。実施例および参考例に示す溶液と試験ウィルスとの接触時間は10分として、VERO(アフリカミドリザルの腎臓)細胞中の残りのウイルスを
検出した。37℃で3日間培養した後、感染細胞を固定して染色した。陽性対照(製品なし)と比較して各サンプルのEV71のプラーク数を観察することにより、各溶液の有効性を評価した。
【0040】
<抗ウィルス性評価基準(抗ウィルス試験1および2共通)>
S:有効性99.96以上
A:有効性99.93以上99.96未満
B:有効性99.90以上99.93未満
C:有効性99.90未満
【0041】
上記評価結果を表1に示す。なお、全ての試験において試験成立となった。
【表1】
【0042】
これらの結果から、本形態の複合粒子は消臭・抗菌作用を有するのみならず、抗真菌作用及び抗ウィルス作用も有することが理解できる。