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特許7321247iPS細胞の選定方法、iPS細胞の作製方法、及び制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】iPS細胞の選定方法、iPS細胞の作製方法、及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230728BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230728BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20230728BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12M1/34 B
G01N21/64 F
C12Q1/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021503381
(86)(22)【出願日】2019-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2019009194
(87)【国際公開番号】W WO2020179071
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 竜太郎
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/021472(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/092321(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/10
C12M 1/34
G01N 21/64
C12Q 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の光子数を取得し、
L-myc及びLIN28の組み合わせからなる第1の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、1.72×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第1の閾値を超えているか否かを判定し、
Sox2及びKlf4の組み合わせからなる第2の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、3.59×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第2の閾値を超えているか否かを判定し、
各組の発光遺伝子の前記光子数が、前記第1及び第2の閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定する
iPS細胞の選定方法。
【請求項2】
互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の光子数を取得し、
L-myc及びLIN28の組み合わせからなる第1の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、9.79×10-1photon/μm2/secに設定されている第1の閾値を超えているか否かを判定し、
Oct4からなる第2の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、5.93×10-1photon/μm2/secに設定されている第2の閾値を超えているか否かを判定し、
各組の発光遺伝子の前記光子数が、前記第1及び第2の閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定する
PS細胞の選定方法。
【請求項3】
互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の光子数を取得し、
L-myc及びLIN28の組み合わせからなる第1の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、5.68photon/μm2/secに設定されている第1の閾値を超えているか否かを判定し、
Oct4からなる第2の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、7.25×10-1photon/μm2/secに設定されている第2の閾値を超えているか否かを判定し、
各組の発光遺伝子の前記光子数が、前記第1及び第2の閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定する
PS細胞の選定方法。
【請求項4】
前記初期化因子を含む細胞を撮像した撮像画像において、前記細胞の集団を形成する外形の重心位置を含む所定の領域の輝度情報を用いて前記光子数を算出する
請求項1~3のいずれか一つに記載のiPS細胞の選定方法。
【請求項5】
前記判定は、前記第1及び第2の閾値に応じて設定される、複数の、良好なiPS細胞の選定確率の高い順に分類する
請求項1~3のいずれか一つに記載のiPS細胞の選定方法。
【請求項6】
互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の光子数を取得し、
L-myc及びLIN28の組み合わせからなる第1の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、1.72×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第1の閾値を超えているか否かを判定し、
Sox2及びKlf4の組み合わせからなる第2の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、3.59×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第2の閾値を超えているか否かを判定し、
各組の発光遺伝子の前記光子数が、前記第1及び第2の閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定し、
選定した細胞を、予め設定されている回数まで、新たな培養容器への植え継ぎを繰り返す
iPS細胞の作製方法。
【請求項7】
互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の光子数を取得し、
L-myc及びLIN28の組み合わせからなる第1の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、9.79×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第1の閾値を超えているか否かを判定し、
Oct4からなる第2の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、5.93×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第2の閾値を超えているか否かを判定し、
各組の発光遺伝子の前記光子数が、前記第1及び第2の閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定し、
選定した細胞を、予め設定されている回数まで、新たな培養容器への植え継ぎを繰り返す
iPS細胞の作製方法。
【請求項8】
互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の光子数を取得し、
L-myc及びLIN28の組み合わせからなる第1の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、5.68photon/μm 2 /secに設定されている第1の閾値を超えているか否かを判定し、
Oct4からなる第2の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、7.25×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第2の閾値を超えているか否かを判定し、
各組の発光遺伝子の前記光子数が、前記第1及び第2の閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定し、
選定した細胞を、予め設定されている回数まで、新たな培養容器への植え継ぎを繰り返す
iPS細胞の作製方法。
【請求項9】
前記細胞の選定処理は、初回の培養容器への植え継ぎ前に実施される
請求項6~8のいずれか一つに記載のiPS細胞の作製方法。
【請求項10】
予め設定されている回数の植え継ぎ後に、前記細胞の選定処理を実施する
請求項6~8のいずれか一つに記載のiPS細胞の作製方法。
【請求項11】
前記細胞の選定処理は、同一の培養期間内の異なる時刻、又は、異なる植え継ぎ期間同士での各時刻で実施される
請求項6~8のいずれか一つに記載のiPS細胞の作製方法。
【請求項12】
初回の培養容器への植え継ぎ前の特定時刻に取得された発光量と、該特定時刻と異なる後続の時刻に取得された発光量を取得し、後続の発光量を前記初回に取得した発光量からの減衰分を補正した補正発光量を用いて選定を行う
請求項11に記載のiPS細胞の作製方法。
【請求項13】
前記細胞を植え継ぐ前に当該細胞の第1の撮像画像を取得し、
前記細胞を、新たな培養容器に植え継いだ後の当該細胞の第2の撮像画像を取得し、
前記第1の撮像画像に写る前記細胞と、前記第2の撮像画像に写る前記細胞とを同定する
請求項6~8のいずれか一つに記載のiPS細胞の作製方法。
【請求項14】
プロセッサを含む制御装置であって、
前記プロセッサは、
互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の単位面積当たりの光子数または単位時間当たりの光子数を取得し、
L-myc及びLIN28の組み合わせからなる第1の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、1.72×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第1の閾値を超えているか否かを判定し、
Sox2及びKlf4の組み合わせからなる第2の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、3.59×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第2の閾値を超えているか否かを判定し、
各組の発光遺伝子の前記光子数が、前記第1及び第2の閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定する
制御装置。
【請求項15】
プロセッサを含む制御装置であって、
前記プロセッサは、
互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の光子数を取得し、
L-myc及びLIN28の組み合わせからなる第1の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、9.79×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第1の閾値を超えているか否かを判定し、
Oct4からなる第2の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、5.93×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第2の閾値を超えているか否かを判定し、
各組の発光遺伝子の前記光子数が、前記第1及び第2の閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定する
制御装置。
【請求項16】
プロセッサを含む制御装置であって、
前記プロセッサは、
互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の光子数を取得し、
L-myc及びLIN28の組み合わせからなる第1の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、5.68photon/μm 2 /secに設定されている第1の閾値を超えているか否かを判定し、
Oct4からなる第2の組について取得した発光遺伝子の単位面積当たりの前記光子数又は単位時間当たりの前記光子数が、7.25×10 -1 photon/μm 2 /secに設定されている第2の閾値を超えているか否かを判定し、
各組の発光遺伝子の前記光子数が、前記第1及び第2の閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定する
制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、iPS細胞の選定方法、及びiPS細胞の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
iPS(induced Pluripotent Stem)細胞は、山中因子(例えば、Oct4、Sox2、Klf4、c-myc)に代表される初期化に必要な複数の遺伝子(初期化因子)を細胞に送り込んだ後、所定の培養期間を経て誘導される。細胞の初期化をもたらす過程はリプログラミング過程と呼ばれる。リプログラミング過程におけるiPS細胞の選定が良質なiPS細胞を選定するうえで重要である。良質なiPS細胞を効率よく選定できれば、その後の再生医療のための各種臓器等への分化も良好に進むと期待されている。
【0003】
ここで、リプログラミング過程において、山中因子と同じ発現量になる発光遺伝子(発光タンパク質)の発光量を時系列に解析し、因子ごとの発現パターンの時系列での変動パターンの違いを数値化することで、良好な形状を有するコロニーの形態の中から客観的に判断してiPS細胞を選定する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、リプログラミング過程において、細胞へ送り込む山中因子の最適量を解析し、iPS細胞を良好に成長させる技術が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/092321号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Stoichiometric and temporal requirements of Oct4, Sox2, Klf4, and c-Myc expression for efficient human iPSC induction and differentiation. PNAS, 2009, Vol.106, No.31, pp12759-12764
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、iPS細胞としての性質が良好であったとしても、その後の再生医療に利用する際に、必ずしも良好な分化が進まない場合があるため、良質なiPS細胞をできるだけ多く選定できることが望ましい。
ところが、リプログラミング過程における発現パターンは、初期化因子ごとに多種多様に変動するため、最終的に良好であると判定されるiPS細胞と合致する発現パターンに一致するか類似度の高いiPS細胞を多数得ることは難しい。
また、コロニーの形態に基づいてiPS細胞を選定する場合、形態そのものが多様であるため、熟練者が判断した膨大な画像データを教師データとして用いる必要がある。さらに、形態的に良好と判定されるコロニー(例えば外縁の形状が丸みを帯び、かつ一定の面積を有するコロニー)であっても、必ずしも最終的に良好なiPS細胞であると判定されるとは限らない。
【0008】
本発明は、上記に鑑みて為されたものであって、高効率でかつ正確に良好であるiPS細胞を選定することができるiPS細胞の選定方法、及びiPS細胞の作製方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るiPS細胞の選定方法は、互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の発光量を取得し、取得した各発光遺伝子の発光量が、各々に対して予め設定されている閾値をそれぞれ超えているか否かを判定し、各発光遺伝子の発光量が、各々に対して予め設定されている閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定することを特徴とする。
【0010】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るiPS細胞の作製方法は、互いに異なる発光遺伝子によって標識された複数組の初期化因子を含む細胞を培養するリプログラミング過程において、当該細胞の各発光遺伝子の発光量を取得し、取得した各発光遺伝子の発光量が、各々に対して予め設定されている閾値をそれぞれ超えているか否かを判定し、各発光遺伝子の発光量が、各々に対して予め設定されている閾値をそれぞれ超えている場合に、当該細胞を次の処理の対象細胞に選定し、選定した細胞を、予め設定されている回数まで、新たな培養容器への植え継ぎを繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高効率でかつ正確に良好であるiPS細胞を選定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係るiPS細胞の選定システムの全体構成の一例を示す図である。
図2図2は、本発明の実施の形態1に係るiPS細胞の選定システムにおける情報通信端末の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の実施の形態1におけるiPS細胞の作製処理の流れを説明する図である。
図4図4は、本発明の実施の形態1におけるiPS細胞として良好な細胞を選定する選定処理の流れを説明する図である。
図5図5は、本発明の実施の形態1におけるiPS細胞の選定処理の流れを示す図である。
図6図6は、本発明の実施の形態2に係るiPS細胞の選定システムにおける情報通信端末の機能構成を示すブロック図である。
図7図7は、本発明の実施の形態2におけるiPS細胞の選定処理の流れを示す図である。
図8図8は、実施例におけるpCE-hULベクターの構成を示す図である。
図9図9は、実施例におけるpCE-hSKベクターの構成を示す図である。
図10図10は、実施例におけるpCXLE-hOct3/4-SfRE1ベクターの構成を示す図である。
図11図11は、実施例1の明視野画像を示す図である。
図12図12は、実施例1の第1発光タンパク質の発光画像を示す図である。
図13図13は、実施例1の第2発光タンパク質の発光画像を示す図である。
図14図14は、実施例2の明視野画像を示す図である。
図15図15は、実施例2の第1発光タンパク質の発光画像を示す図である。
図16図16は、実施例2の第2発光タンパク質の発光画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係るiPS細胞の選定方法、及びiPS細胞の作製方法について、図面を参照しながら説明する。なお、これら実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るiPS細胞の選定システムの全体構成の一例を示す図である。図2は、本発明の実施の形態1に係るiPS細胞の選定システムにおける情報通信端末の機能構成を示すブロック図である。本実施の形態1に係る選定システム1は、サンプルからの光を結像して取得した複数の画像をもとに、各種臓器へ分化するのに良好なiPS細胞を選定するシステムである。
【0015】
図1に示すように、選定システム1は、サンプル2と、サンプル2を収納した容器3と、容器3を配置するステージ4と、撮像ユニット5と、情報通信端末10と、を備える。
【0016】
サンプル2は、例えば、「体細胞のリプログラミングに必要な複数種類の初期化因子をコードする核酸」と「複数種類の初期化因子のうち少なくとも1種類と共に発現するように構成された発光レポータータンパク質(以下、発光タンパク質ともいう)をコードする核酸」とが導入された細胞である。具体的に、サンプル2は、体細胞のリプログラミングに必要な複数種類の初期化因子(Oct3/4、Klf4、Sox2、L-myc、LIN28などの転写因子)をコードする核酸と、互いに異なる波長帯域の光を発する複数種類の発光タンパク質をコードする核酸とが導入され、初期化因子と発光遺伝子との融合タンパク質を発現するような遺伝子群(コンストラクト)を含む体細胞である。
本明細書において、核酸は、遺伝子と同じ意味を有し、例えばDNA(deoxyribonucleic acid)である。発光遺伝子によって発光レポータータンパク質が発現し、発現した発光レポータータンパク質によって発光物質を発光させる。
【0017】
また、体細胞は、例えば、ヒト末梢血単核球細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cell:PBMC)を用いることができるが、これに限定されるものではない。
初期化因子をコードする核酸と、発光タンパク質をコードする核酸とは、宿主の染色体に組み込まれずに持続的に発現する形態で体細胞に導入されることが好ましい。例えば、初期化因子をコードする核酸、及び、発光タンパク質をコードする核酸は、エピソーマルベクターの形態で体細胞に導入される。この場合、エピソーマルベクターは、市販されているものであってもよいし、市販のエピソーマルベクターに、発光タンパク質をコードする核酸を組み込んだ改変ベクターであってもよい。市販のエピソーマルベクターとしては、例えば、pCXLE-hOct3/4-shp53(Addgene)、pCXLE-hSK(Addgene)、pCXLE-hUL(Addgene)を用いることができる。
【0018】
複数種の初期化因子をコードする核酸は、各々個別のベクターに組み込まれてもよいし、一つのベクターに組み込まれていてもよい。この核酸を一つのベクターに組み込む場合、例えば、口蹄疫ウイルスの2A配列やIRES配列などを経てポリシストロニックに連結して挿入することが好ましい。一例として、一つのベクターに1種類、又は2A配列を経て組み込まれる2種類の初期化因子をコードする核酸を組み込んでなるベクターを複数種作製し、それらを混合してiPS細胞の誘導に必要なすべての初期化因子をコードする核酸を体細胞に導入する。なお、遺伝子導入の操作は、既知の方法によって行うことができる。
初期化因子をコードする核酸、及び、発光タンパク質をコードする核酸に加えて、リプログラミング効率を高める追加の因子をコードする核酸を体細胞に導入してもよい。リプログラミング効率を高める追加の因子としては、リプログラミング効率を高めることが知られている因子、例えば、ドミナントネガティブ変異を導入したマウスp53、EBNA1を用いることができる。リプログラミング効率を高める追加の因子は、例えば、エピソーマルベクターの形態で体細胞に導入される。この場合、エピソーマルベクターは、市販されているもの、例えば、pCE-mp53DD(Addgene)、pCXB-EBNA1(Addgene)を用いることができる。
【0019】
体細胞のリプログラミングに必要な複数種類の初期化因子としては、例えば、上述したOct4、Klf4、Sox2、L-myc、LIN28からなる転写因子群から二つ以上選択される複数の転写因子を用いることができる。体細胞のリプログラミングに必要な初期化因子の数は、例えば3~6種類である。例えば、初期化因子として、Klf4をコードする核酸と、Sox2をコードする核酸とを含むベクター、L-mycをコードする核酸と、LIN28をコードする核酸とを含むベクター、Oct3/4をコードする核酸を含むベクターから構成されるベクターセットが挙げられる。本実施の形態では、転写因子群から選択した複数組の転写因子が用いられる。
【0020】
発光タンパク質をコードする核酸は、複数組の転写因子に対してそれぞれ発現する複数種類の核酸が用いられる。例えば、口蹄疫ウイルスの2A配列やIRES配列を経てポリシストロニックに転写因子をコードする核酸に連結することが好ましい。発光タンパク質をコードする核酸の配置は、転写因子と発光タンパク質とがともに発現する位置であればよく、転写因子をコードする核酸の上流であってもよいし、下流であってもよい。本実施の形態において、発光タンパク質は、互いに発光色が異なる(発光する光の波長帯域が異なる)ルシフェラーゼが用いられる。ルシフェラーゼとしては、例えば、P.pyralis、クリックビートル、MA-Luci2、SfRE1等を含む甲虫ルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、ウミホタルルシフェラーゼ、エクオリン、カイアシルシフェラーゼ、発光エビルシフェラーゼ等を含む海洋性ルシフェラーゼ、バクテリアルシフェラーゼ、渦鞭毛藻ルシフェラーゼなど、各種のルシフェラーゼが用いられ得る。具体的には、ルシフェラーゼとして、例えば、緑色の発光をもたらすElucルシフェラーゼ、赤色の発光をもたらすCRBルシフェラーゼ、青色の発光をもたらすウミシイタケルシフェラーゼが挙げられる。特に、ホタル由来のルシフェラーゼや、クリックビートル等の甲虫由来のルシフェラーゼは、ATP要求性であり、生物反応が失われた死細胞では光らないため、アポトーシス等で培養期間中に失活した細胞を除いた、生きた細胞を選択的に観察できる点で好ましい。
発光タンパク質は、転写因子とともに発現するため、発光タンパク質をコードする遺伝子の発現タイミング及び発現量は、初期化因子のそれらに対応しているとみなすことができる。発光タンパク質としてルシフェラーゼを用いる場合、ルシフェリンを添加して発光させる。ルシフェリンとしては、ホタルルシフェリン、バクテリアルシフェリン、渦鞭毛藻類ルシフェリン、ヴァルグリン、セレンテラジン等を用いることができる。
【0021】
サンプル2(体細胞)は、培養期間を経て、初期化因子をコードする核酸と、発光タンパク質をコードする核酸とを発現することによって体細胞のリプログラミングが誘導され、iPS細胞に変化する。この変化にあたっては、複数回の植え継ぎ期間に亘り、培養後の細胞集団の一部を植え継ぐ(所定の培養容器内で所定期間の培養を終えたコロニー(細胞集団)を新たな培養容器に移し替える)ことによって、段階的にリプログラミングが誘導される。「リプログラミング」とは、分化細胞が多能性幹細胞に変わる現象、又は、分化細胞を初期化することをいう。
遺伝子導入した単一の体細胞は、所定の期間培養するとコロニーと呼ばれる細胞集団に成長する。一般に、リプログラミング過程の全期間中に繰り返される植え継ぎは、コロニーごとの重心位置を含む所定の領域に位置する細胞集団をピペッティング等により分取することによって実施される。
【0022】
ここで、iPS細胞作製のために必要とされる植え継ぎ回数は5~10回であり、この所要回数に達するとリプログラミング過程が終了したと見做され、最後にiPS細胞としての機能を調べる試薬により合否判定される。合否判定は、細胞の分化に関する多能性を検査するための試験、例えばPCR法や免疫染色法(免染)を用いて実施される。この最終的な試験に合格したiPS細胞のみが、再生医療のための研究等の目的で使用される。
【0023】
具体的に、iPS細胞の品質評価としては、例えば、リプログラミング状態の評価や、分化能の評価が挙げられる。
リプログラミング状態の評価としては、例えば、アルカリフォスファターゼ活性の解析や、核型解析、未分化マーカーの発現解析が挙げられる。
アルカリフォスファターゼは、多能性幹細胞で高発現するため、未分化状態のマーカーの一つである。アルカリフォスファターゼ活性は、例えば、公知の手法に準じてアルカリフォスファターゼ染色を行うことによって解析できる。この解析は、アルカリフォスファターゼ染色によって、アルカリフォスファターゼ活性の有無を判定してもよいし、アルカリフォスファターゼ活性を定量化してもよい。アルカリフォスファターゼ染色は、例えば、ホルマリン固定後に、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルりん酸(BCIP)と、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)との混合液からなる基質液を加えて、アルカリフォスファターゼ活性に伴う反応産物を検出する。
核型解析は、例えば、G-band解析によって染色体の数や構造の変化を解析することによって行われる。
未分化マーカーの発現解析は、未分化マーカー遺伝子のRT-qPCRや、未分化マーカータンパク質の免疫染色によって行う。未分化マーカーとしては、例えば、Nanogや、Oct3/4、TRA1-60、TRA1-81を用いることができる。
分化能の評価は、例えば、三胚葉細胞への分化を誘導した後の、三胚葉文化マーカーの発現解析によって行われる。文化マーカーの発現解析は、分化マーカーのRT-qPCRや、分化マーカータンパク質の免疫染色によって行う。文化マーカーとしては、例えば、外胚葉マーカー(PAX6、MAP2)、中胚葉マーカー(α-SMA、Branchyury)、内胚葉マーカー(SOX17、AFP)を用いることができる。
【0024】
図3は、本発明の実施の形態1におけるiPS細胞の作製処理の流れを説明する図である。なお、本実施の形態1では、植え継ぎ処理を6回行う例を説明する。以下、植え継ぎ開始から初回の植え継ぎ処理までの期間、及び、植え継ぎ処理後から次回の植え継ぎ処理までの期間を「培養期間」ということがある。
【0025】
ステップS101において、リプログラミングに必要な複数種類の初期化因子と、少なくとも2種類の発光遺伝子との融合タンパク質を発現するような遺伝子群(コンストラクト)を体細胞に導入する。本実施の形態1では、Oct4、Klf4、Sox2、L-myc、LIN28の初期化因子を一つ又は複数組み合わせた初期化因子が用いられる。
ステップS101において初期化因子が導入された体細胞は、例えば20日~25日間培養される。
ステップS101は、リプログラミングの初期段階に相当する。リプログラミングの初期段階は、細胞が群集化することによって三次元的に隆起が始まるコロニー形成段階を含む。
【0026】
ステップS101に続くステップS102において、ステップS101の培養によって発生したコロニーを、別の培養容器に移す植え継ぎ処理(第1植え継ぎ処理)を実施する。第1植え継ぎ処理では、植え継いだコロニーを7日~10日間培養する。
【0027】
その後、ステップS102と同様にして、培養によって発生したコロニーを、新たな培養容器に植え継ぐ植え継ぎ処理を繰り返す(ステップS103~S107)。本実施の形態1では、6回の植え継ぎ処理が実施される。
【0028】
ステップS107に続くステップS108において、植え継がれ培養されることによって発生したコロニーに含まれる細胞の品質を評価する。品質評価は、例えば、上述したPCR法や免疫染色法(免染)が用いられる。
【0029】
ステップS108に続くステップS109において、品質評価の結果から、良好なiPS細胞になり得る細胞を選定する。このiPS細胞の作製処理によって作製されるiPS細胞が、再生医療のための研究等の目的で使用される。
【0030】
容器3は、具体的にはシャーレ、スライドガラス、マイクロプレートなどが挙げられる。
【0031】
撮像ユニット5は、倒立型の顕微鏡を構成する。撮像ユニット5は、サンプル2の発光画像や蛍光画像を撮像する。撮像ユニット5は、対物レンズ51と、ダイクロイックミラー52と、光源53と、CCD(Charge Coupled Device)カメラ54と、結像レンズ55と、シャッター56とを有する。
対物レンズ51は、具体的には、(開口数/倍率)2の値が0.01以上である。
ダイクロイックミラー52は、サンプル2からの光を透過するとともに、光源53から照射された励起光がサンプル2へ照射されるように励起光の進行方向を変える。換言すれば、ダイクロイックミラー52は、サンプル2の発光として検出される波長帯域の光を透過し、それ以外の波長帯域の光を折り曲げる。
撮像時、ダイクロイックミラー52は、例えば、観察する光の波長帯域に応じて、適宜、対応する透過波長(及び反射波長)のダイクロイックミラーに切り替えられる。なお、発光観察のみを行う場合は、ダイクロイックミラー52を有しない構成としてもよい。ダイクロイックミラー52を有しない構成の場合、CCDカメラ54の前段に、観察する波長帯域の光を透過するフィルタを設けてもよい。
光源53は、キセノンランプ、ハロゲン等のランプ、レーザ、又はLED(Light Emitting Diode)を用いて構成される。
CCDカメラ54は、対物レンズ51、ダイクロイックミラー52及び結像レンズ55を経由して当該CCDカメラ54の受光面に投影されたサンプル2の像を撮像し、蛍光画像又は明視野画像を取得する。また、CCDカメラ54は、情報通信端末10と有線又は無線で通信可能に接続される。ここで、サンプル2が撮像範囲中に複数存在する場合、CCDカメラ54は、当該撮像範囲中に含まれる複数のサンプル2の蛍光画像及び明視野画像を撮像してもよい。
結像レンズ55は、対物レンズ51及びダイクロイックミラー52を経由して当該結像レンズ55に入射した光を集束させて、サンプル2を含む像を結像する。
シャッター56は、光源53から照射された光の波長帯域を切り替える。換言すると、シャッター56は、光源53から出射された光を透過したり遮断したりすることで、サンプル2に照射する光の波長帯域を切り替える。
【0032】
ここで、撮像ユニット5は、ステージ4に対する配置が異なっていてもよい。また、CCDカメラは、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラに代えてもよい。
【0033】
情報通信端末10は、パーソナルコンピュータを用いて構成される。そして、情報通信端末10は、制御部11と、記憶部12と、クロック発生部13と、通信インターフェース部14と、入出力インターフェース部15と、入力部21と、出力部22とによって構成されている。情報通信端末10は、これら各部を、バスを用いて接続している。
【0034】
記憶部12は、ストレージ手段であり、具体的には、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のメモリ装置、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等を用いて構成される。そして、記憶部12は、制御部11の各部の処理により得られたデータなどを記憶する。
【0035】
クロック発生部13は、システムの時刻を計時したり、各部の動作の同期をとったりするためのクロックを発生する。
【0036】
通信インターフェース部14は、情報通信端末10と、ステージ4、CCDカメラ53及びCCDカメラ54との間における通信を媒介する。すなわち、通信インターフェース部14は他の端末と有線又は無線の通信回線を介してデータを通信する機能を有する。
【0037】
入出力インターフェース部15は、入力部21や出力部22に接続する。ここで、出力部22には、モニタの他、スピーカやプリンタを用いることができる。
入力部21は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力デバイスによって構成され、これらの入力デバイスに対する外部からの操作に応じて発生させた入力信号を入出力インターフェース部15に出力する。
【0038】
制御部11は、プログラムに基づいて種々の処理を実行する。そして、制御部11は、画像撮像指示部11aと、画像取得部11bと、発光量取得部11cと、判定部11dと、選定部11eとを有する。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)等の汎用プロセッサやASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の機能を実行する各種演算回路等の専用プロセッサを用いて構成される。
【0039】
画像撮像指示部11aは、通信インターフェース部14を経由して、CCDカメラ54へ発光画像及び/又は明視野画像の撮像を指示する。
画像取得部11bは、CCDカメラ54で撮像した発光画像及び/又は明視野画像を、通信インターフェース部14を経由して取得する。
【0040】
ここで、画像取得部11bが取得した発光画像と明視野画像とは、ステージ4の位置や、対物レンズ51を含む光学系の位置、及び対物レンズ51を含む光学系の位置が同じ場合、それぞれの位置関係は対応付けられている。なお、互いに波長帯域が異なる複数の発光画像についても同様に、位置関係は対応付けられる。
【0041】
発光量取得部11cは、発光画像に基づいて、発光タンパク質によって発光した発光物質(ここではルシフェリン)の発光量を測定する。ここで、発光タンパク質は、発光遺伝子によって発現したものであり、発光タンパク質の発現量で発光量が決まる。換言すれば、この発光量は、発光遺伝子によって発現した発光タンパク質に相当し、発光遺伝子の発光量と捉えることができる。
発光量取得部11cは、発光画像において、サンプル2中の細胞集団(コロニー)ごとに、重心位置を含む所定の領域の発光量を取得する。発光量取得部11cは、画素値(輝度)をもとに、コロニーの外縁の形状を求め、この形状の重心位置を算出する。コロニーの外縁の形状は、発光画像(又は明視野画像)を二値化して輪郭を抽出する。発光量取得部11cは、求めた重心位置を含む所定の領域の画素値をもとに発光量を算出する。発光量は、単位面積、単位時間あたりの光子数である。発光量の単位は、例えば、photon/μm2/secである。具体的に、発光量(光子数)は、検出対象の発光タンパク質の波長におけるCCDカメラ54の量子効率を用いて、以下の式によって算出される。
光子数 = (出力輝度-ダーク輝度)×変換計数/(アナログゲイン×EMゲイン×量子効率/100)
ここで、例えば、変換係数は5.8、アナログゲインは1.0、EMゲインは1200、量子効率は90に設定される。アナログゲインは、アナログの輝度信号の増幅率である。EM(電子増倍:electron multiply)ゲインは、CCDカメラ52の光検出面における電子増倍率である。
なお、本明細書で開示される測定機の種類や撮像条件、光学フィルタ特性が異なっていても、開示した上式等に基づいて、品質の判断基準としての発光量(光子数)を算出できる。
植え継ぎの際、重心位置を含む所定の領域に位置する細胞集団をピペッティングするため、重心位置又は重心位置付近の発光量を取得することがiPS細胞を選定するために必要な測定領域といえる。ここで、重心位置は、コロニーの中心付近で且つ細胞密度が最も大きい部位を含む所定面積の領域と定義することができる。具体的には、このコロニーの重心位置付近は、明視野画像で観察した際に、コロニー内で最も細胞密度が高い画像上の部位であって、所定の単位面積(例えば半径約1mm以内の円形または矩形)の領域と定義することができる。
所定の培養のコロニーごとに発光強度を求めるには、まずコロニー全体が視野に入るような観察視野において発光画像を取得し、取得した発光画像に基づいて重心位置付近に相当する領域に含まれる画素の輝度値の総和を算出することによって行われる。細胞集団の前記2種類の発光遺伝子の発光量を取得する。
【0042】
ここで、コロニーの重心位置の算出について説明する。コロニーについて取得された明視野画像中の、以下の座標に設定される点であると定義される。
【数1】
ここで、nは明視野画像を構成する画素の数を表す。
また、CCDカメラ54の画素の配列に対応し、互いに直交するx軸およびy軸からなる直交座標において、xiはi番目の画素におけるx座標を表し、yiはi番目の画素におけるy座標を表す。また、Biはi番目の画素における輝度を二値化した値を表す。n及びiは、何れも1以上の整数である。n及びiは、n≧iを満たす。コロニーの重心位置は、例えば、cellSens(セルセンス;オリンパス株式会社製)を用いて設定することが可能である。
【0043】
判定部11dは、発光量取得部11cが取得した各発光タンパク質の発光量(以下、発光遺伝子の発光量ともいう)と、予め設定されている、各発光遺伝子の発光量に係る閾値とを比較して、各発光遺伝子の発光量が閾値を超えているか否かを判定する。閾値は、各発光遺伝子の発光における光子数によって規定される。具体的に、例えば、初期化因子の組み合わせにおいて、過去の試験で良好なiPS細胞を選定できた光子数に基づいて、以下の閾値に設定される。なお、閾値は、組み合わせた発光遺伝子の相対発光量(光子数)に相当する。以下の閾値を用いれば、高効率で良好なiPS細胞を選定することができる。
・L-myc及びLIN28の光子数と、Sox2及びKlf4の光子数との組み合わせ:色分離なし
(良好なiPS細胞の選定確率:83%)
L-myc及びLIN28の光子数に対する閾値:1.72×10-1photon/μm2/sec
Sox2及びKlf4の光子数に対する閾値:3.59×10-1photon/μm2/sec
(良好なiPS細胞の選定確率:100%)
L-myc及びLIN28の光子数に対する閾値:2.30×10-1photon/μm2/sec
Sox2及びKlf4の光子数に対する閾値:3.59×10-1photon/μm2/sec
・L-myc及びLIN28の光子数と、Sox2及びKlf4の光子数との組み合わせ:色分離あり
(良好なiPS細胞の選定確率:83%)
L-myc及びLIN28の光子数に対する閾値:4.14×10-1photon/μm2/sec
Sox2及びKlf4の光子数に対する閾値:3.39×10-2photon/μm2/sec
(良好なiPS細胞の選定確率:100%)
L-myc及びLIN28の光子数に対する閾値:4.74×10-1photon/μm2/sec
Sox2及びKlf4の光子数に対する閾値:3.39×10-2photon/μm2/sec
・L-myc及びLIN28の光子数と、Oct4の光子数との組み合わせ:色分離なし
(良好なiPS細胞の選定確率:75%)
L-myc及びLIN28の光子数に対する閾値:9.79×10-1photon/μm2/sec
Oct4の光子数に対する閾値:5.93×10-1photon/μm2/sec
(良好なiPS細胞の選定確率:100%)
L-myc及びLIN28の光子数に対する閾値:5.68photon/μm2/sec
Oct4の光子数に対する閾値:7.25×10-1photon/μm2/sec
・L-myc及びLIN28の光子数と、Oct4の光子数との組み合わせ:色分離あり
(良好なiPS細胞の選定確率:71%)
L-myc及びLIN28の光子数に対する閾値:2.93photon/μm2/sec
Oct4の光子数に対する閾値:1.92×10-1photon/μm2/sec
(良好なiPS細胞の選定確率:100%)
L-myc及びLIN28の光子数に対する閾値:2.93photon/μm2/sec
Oct4の光子数に対する閾値:3.28×10-1photon/μm2/sec
ここで、「色分離あり」では、得られた信号値に対して、ダイクロイックミラー52等の光フィルタの透過率をもとにクロストークを除去する補正が行われる。これに対し、「色分離なし」では、上述したクロストークを除去する補正が行われない。
【0044】
選定部11eは、判定部11dの判定結果をもとに、良好なiPS細胞となり得る細胞を含むコロニーを選定する。具体的に、選定部11eは、各発光遺伝子の発光量が、それぞれの閾値を超えている場合、その細胞は、判定部11dの判定結果をもとに、良好なiPS細胞の選定確率が高い順に、選定した細胞を分類し、その分類結果を出力部22に表示させる。これにより、品質の高い順にできるだけ多くの良好なiPS細胞となり得る細胞を選定できるようになる。
【0045】
図4は、本発明の実施の形態1におけるiPS細胞として良好な細胞を選定する選定処理について説明する図である。図4では、L-mycとLIN28とを組み合わせた相対発光量と、Sox2とKlf4とを組み合わせた相対発光量とを取得して、これらの発光量を各初期化因子の発現量とみなして細胞の選定を行った場合を示す。例えば、L-myc及びLIN28の発光量に対する閾値がT1、Sox2及びKlf4の発光量に対する閾値がT2に設定されている場合、良好なiPS細胞となり得る細胞として選定される細胞は、各発光量が、それぞれ閾値T1及びT2以上となる領域R1に分布される。一方、各発光量が、閾値T1及びT2の少なくとも一方を下回っている領域R2~R4に分布される場合、良好なiPS細胞となり得る細胞としては選定されない。
【0046】
また、制御部11は、同一の時刻に撮像された明視野画像、及び、一つ又は複数の発光画像のうちの少なくとも二つの画像を重ね合わせた画像を生成し、出力部22に表示させる。
【0047】
入力部21は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力デバイスによって構成され、これらの入力デバイスに対する外部からの操作に応じて発生させた入力信号を制御部11に出力する。
【0048】
出力部22は、LCD(Liquid Crystal Display)又はEL(ElectroLuminescence)ディスプレイ等の表示装置や、プリンタによって構成され、制御部11の制御のもとで動作する。
【0049】
以上の構成において、選定システム1で行われる処理の一例を、図5を参照して説明する。図5は、本発明の実施の形態1におけるiPS細胞の選定処理の流れを示す図である。
【0050】
ステップS201において、画像撮像指示部11aは、CCDカメラ53へ明視野画像を撮像するよう指示する。画像取得部11bは、CDカメラ53が撮像した明視野画像を取得する。
【0051】
ステップS201に続くステップS202において、画像撮像指示部11aは、CCDカメラ53へ発光画像を撮像するよう指示する。画像取得部11bは、CDカメラ53が撮像した発光画像を取得する。この際、サンプル2に導入されている発光遺伝子を励起して発光させる波長帯域の光(励起光)をそれぞれ出射する。
制御部11は、ステップS201、S202において取得した明視野画像や、各発光遺伝子の発光画像を記憶部12に記憶させる。この際に記憶される画像は、制御上、同じ時刻に撮像したものとして処理する。例えば、画像の取得時刻を、明視野画像の取得を開始した時間に設定したり、明視野画像の取得開始時刻と、発光画像の取得終了時刻との中間の時刻に設定したりする。
【0052】
撮像処理における露光時間は、撮像系(例えば撮像素子)の感度、結像光学系の光学特性、生体試料の種類、発光遺伝子の種類、蛍光試薬の種類、培養条件(温度、培養液の成分、培養期間等)などによって適宜変更される。
通常、発光画像を取得する際の撮像素子における露光時間は、明視野画像及び蛍光画像に比べると顕著に長時間を要する(生体試料の成長段階や生体試料の大きさによっても変更され得るが、例えば5~60分間)。
また、発光画像に関する露光期間を複数に分割することで、発光画像の撮像を間欠的に行うようにしてもよい。
発光画像の取得に必要な露光時間内に細胞が動いてしまう場合であっても、精度の高い細胞評価を維持できるように撮像タイミング等が制御されることが好ましい。
【0053】
ステップS203において、発光量取得部11cは、撮像された発光画像において、サンプル2中のコロニーの重心位置を求め、該重心位置を含む所定の領域を、発光量取得領域に設定する。
【0054】
ステップS203に続くステップS204において、発光量取得部11cは、設定した領域の画素値から、コロニーにおける各発光遺伝子の発光量を取得する。
【0055】
ステップS204に続くステップS205において、判定部11dは、各発光タンパク質の発光量が閾値を超えているか否かを判定する。判定部11dは、ステップS204において取得された発光量と、予め設定されている閾値とを、発光遺伝子ごとに比較して、大小関係をそれぞれ判定する。
【0056】
その後、選定部11eが、判定部11dの判定結果をもとに、良好なiPS細胞となり得る細胞を含むコロニーを選定する(ステップS206)。具体的に、選定部11eは、各発光遺伝子の発光量が、それぞれの閾値を超えている場合(例えば、図3に示す領域R1に分布される場合)、その細胞は、良好なiPS細胞となり得る細胞を含んだコロニーとして選定する。
【0057】
以上説明した選定処理は、初回の植え継ぎ処理前や、初回の植え継ぎ期間の後半時期に実施される。培養の初期段階で細胞の選定を行うことで、良好なiPS細胞になり得る細胞のみが受け継がれる。その結果、良好なiPS細胞とはなり得ない細胞を植え継いで無駄に培養することが抑制される。
【0058】
以上説明した実施の形態1では、各発光遺伝子の発光量と閾値との比較結果を組み合わせて選定することによって、高い確率で高品質なiPS細胞になる細胞集団(コロニー)と、高い確率で低品質あるいはiPS細胞にならないと評価される細胞集団を発現量だけで選定できる。実施の形態1では、全ての細胞集団から高品質な細胞を選別し、低品質な細胞を客観的な判定で除外できる。本実施の形態1によれば、高効率でかつ正確に良好であるiPS細胞を選定することができる。
【0059】
また、実施の形態1によれば、細胞集団の重心位置付近の細胞について選定を行うことで、細胞集団の輪郭や位置ごとの細胞密度のばらつきに影響されず、選定に十分な発現量を取得できる。
【0060】
また、実施の形態1によれば、初期化因子ごとに所定の閾値を設けることで、良質な細胞集団(コロニー)を容易に分別できる。
【0061】
また、実施の形態1によれば、発光タンパク質を用いて観察、選定を行うため、細胞に対して低侵襲で処理を実施でき、かつ高定量性に優れている。ここで、蛍光タンパク質を用いて蛍光観察する場合、励起光の照射が必要になる。励起光は、細胞に対して光毒性をもたらすことが知られている、例えば、励起光は、活性酸素種の生成に関与するため、活性酸素種によって酸化的なDNAへの損傷要因となる。また、GFPに代表される蛍光タンパク質の励起波長では、membrene bleds(膜の水泡)や、細胞分裂異常が発生する。さらに、蛍光タンパク質の発現自体が細胞誘導の原因となる。これに対し、励起光を使用しない発光を観察する場合、例え長期間観察しても、細胞への損傷を抑制することができる。また、発光タンパク質の発現は、細胞に対して無害である。
また、蛍光タンパク質によって定量する場合、蛍光タンパク質検出時に、多くの場合に自家蛍光に観察される。一方で、発光タンパク質によって定量する場合、自家蛍光に起因するバックグラウンドが観察されないため、定量性に優れる。
【0062】
また、実施の形態1によれば、発光タンパク質を用いて観察、選定を行うため、初期段階の観察、選定に優れている。ここで、蛍光タンパク質の成熟には、最短でも3時間、最長では20時間程要する。特に、赤色蛍光は、成熟過程で緑色蛍光を経て成熟するため、成熟過程で緑色蛍光との区別が困難である。これに対し、ルシフェラーゼなどの発光タンパク質は、発現が誘導され次第即座に成熟する。このため、発光タンパク質は、リプログラミング初期段階の観察に適している。
【0063】
また、実施の形態1によれば、初期段階で良質なiPS細胞を選定できるので、作製の手間が大幅に軽減する。また、実施の形態1は、初期段階より後では選定を行わないので、iPS細胞の作製コストを低減することができる。
【0064】
なお、上述した実施の形態1において、絞りや位相板を配置して、位相差観察画像を取得できる構成としてもよい。
【0065】
ここで、本実施の形態1において判断基準とする初期化因子の組合せは任意である。実際、発明者らが、実施の形態1で挙げた以外の初期化因子の組合せも網羅的に実験したところ、同様に所定の閾値を算出することは可能であった。一方で、実験の結果から、上述した実施の形態1に記載されるような、L-mycとLIN28との組合せ、及び、Sox2とKlf4との組合せで評価する方が、他の組合せで評価する場合よりも良質なiPS細胞を得るうえでばらつきが少なく、効率よくiPS細胞のコロニーを選別できるという点で好ましい。
【0066】
また、本実施の形態1では、培養期間の初回(初回の植え継ぎ前)の時期(培養を開始してから間もない同一の時点)で発光量を測定する例を説明した。一方で、本実施の形態1で利用される生物発光は、継続的に定量的な光を発している。このため、同一の培養期間であれば、互いに異なる時点(例えば、特定時刻、及び、該特定時刻とは異なる後続の時刻)で発光量を測定した場合であっても、本実施の形態1の方法によって見出された閾値を超える場合には、良質なiPS細胞であると判定できることが見出された。
また、エピソーマルベクターの作用によって、細胞の発光は、培養が進行するほど実測値としての発光量が全体的に減少した後、比較的低い発光量で安定して、その後徐々に消失する傾向がある。ここで、発光量の減衰率は転写因子の種類によらず同一であり、減衰前後の同じ時刻に発光量についても、同じ時刻の各転写因子どうしの発光量の比率が、エピソーマルベクターの作用による減衰の前後で変わらないことが確認された。よって、培養の進行によって減衰した発光量の減衰率の逆数を乗算することで、経時的な減衰に起因する発光量の減少分を補正した光子数(補正発光量)が得られ、この補正発光量と、本実施の形態1で挙げた閾値とをそのまま適用して比較することが可能である。かかる補正処理を行えば、初回に限らず、植え継ぎ処理以降であっても、発光が検出できる限り良質なiPS細胞であるか否かを監視し続けて回収率を高めてもよい。
すなわち、本実施の形態1に係る選定処理は、同一の培養期間内の異なる時刻、又は、異なる培養期間における各時刻で取得された画像に基づく発光量を用いて実施することができる。この際、初回の培養容器への植え継ぎ前の特定時刻に取得された発光量と、該特定時刻と異なる後続の時刻に取得された発光量と、を取得して、後続の時刻に取得された発光量を用いて選定処理を実施する場合は、後続の発光量を、初回に取得した発光量からの減衰分を補正した補正後の発光量(補正発光量)を用いて選定を行う。
【0067】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図6は、本発明の実施の形態2に係るiPS細胞の選定システムにおける情報通信端末の機能構成を示すブロック図である。本実施の形態2に係る選定システムは、上述したサンプル2、サンプル2を収納した容器3、容器3を配置するステージ4、及び撮像ユニット5と、情報通信端末10Aと、を備える。本実施の形態2に係る選定システムは、上述した選定システム1の情報通信端末10を情報通信端末10Aに変えた以外は、同じ構成である。以下、実施の形態1とは構成が異なる情報通信端末10Aについて説明する。
【0068】
情報通信端末10Aは、パーソナルコンピュータを用いて構成される。そして、情報通信端末10Aは、制御部11Aと、記憶部12と、クロック発生部13と、通信インターフェース部14と、入出力インターフェース部15と、入力部21と、出力部22とによって構成されている。情報通信端末10Aは、これら各部を、バスを用いて接続している。
【0069】
制御部11Aは、プログラムに基づいて種々の処理を実行する。そして、制御部11Aは、画像撮像指示部11aと、画像取得部11bと、発光量取得部11cと、判定部11dと、選定部11eと、同定部11fとを有する。制御部11Aは、CPU(Central Processing Unit)等の汎用プロセッサやASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の機能を実行する各種演算回路等の専用プロセッサを用いて構成される。画像撮像指示部11a、画像取得部11b、発光量取得部11c、判定部11d、及び選定部11eは、実施の形態1と同様の構成、機能を有する。以下、同定部11fの構成及び処理について説明する。
【0070】
同定部11fは、撮像時間が異なる画像同士を比較して、各画像に写る細胞(又はコロニー)を画像間で同定し、両者を対応付ける。同定部11fは、まず、各画像の発光プロファイルから、細胞が存在し得る注目すべき領域(以下、注目領域ともいう)をそれぞれ特定する。この際に取得される発光プロファイルは、例えば、発光強度、発光強度分布、又はこれらの組み合わせを用いて作成される。
同定部11fは、特定された注目領域と、発光プロファイルとを用いて、各画像の注目領域の特徴量を算出する。同定部11fは、画像間で特徴量を比較して、注目領域に含まれる細胞(又はコロニー)を対応付ける。特徴量は、例えば、注目領域における発光強度の強度比である。なお、同定部11fは、選定部11eが用いたコロニーの発光量を用いて同定処理を実施してもよい。
本実施の形態2では、取得時間が異なる画像間の注目領域を対応付けることによって、継時的に細胞を追跡する。
【0071】
以上の構成において、選定システム1で行われる処理の一例を、図7を参照して説明する。図7は、本発明の実施の形態2におけるiPS細胞の選定処理の流れを示す図である。
【0072】
ステップS301において、画像撮像指示部11aは、上述したステップS201と同様にして、CCDカメラ53へ明視野画像を撮像するよう指示する。画像取得部11bは、CDカメラ53が撮像した明視野画像を取得する。
【0073】
ステップS301に続くステップS302において、画像撮像指示部11aは、上述したステップS202と同様にして、CCDカメラ53へ発光画像を撮像するよう指示する。画像取得部11bは、CDカメラ53が撮像した発光画像を取得する。
制御部11は、ステップS301、S302において取得した明視野画像や、各発光遺伝子の発光画像を記憶部12に記憶させる。この際に記憶される画像は、制御上、同じ時刻とする。
【0074】
ステップS303において、発光量取得部11cは、撮像された発光画像において、サンプル2中のコロニーの重心位置を求め、該重心位置を含む所定の領域を、発光量取得領域に設定する。
【0075】
ステップS303に続くステップS304において、発光量取得部11cは、設定した領域の画素値から、コロニーにおける各発光遺伝子の発光量を取得する。
【0076】
ステップS304に続くステップS305において、判定部11dは、各発光タンパク質の発光量が閾値を超えているか否かを判定する。判定部11dは、ステップS304において取得された発光量と、予め設定されている閾値とを、発光遺伝子ごとに比較して、大小関係をそれぞれ判定する。
【0077】
その後、選定部11eが、判定部11dの判定結果をもとに、良好なiPS細胞となり得る細胞を含むコロニーを選定する(ステップS306)。選定部11eは、判定部11dの判定結果をもとに、良好なiPS細胞となり得る細胞を含むコロニーを選定する。具体的に、選定部11eは、各発光遺伝子の発光量が、それぞれの閾値を超えている場合(例えば、図3に示す領域R1に分布される場合)、その細胞は、良好なiPS細胞となり得る細胞を含んだコロニーとして選定する。
【0078】
ステップS306の後、初回の植え継ぎ処理が実施される。植え継ぎ処理は、例えば、ステップS306において選定されたコロニーに対して実施される。このため、植え継ぎ処理では、良好なiPS細胞になり得ると選定されたコロニーのみが植え継がれる。植え継ぎ処理を実施後、制御部11は、植え継ぎ処理の回数を確認する(ステップS307)。制御部11は、例えば、入力部21が受け付けた入力信号に基づいて、植え継ぎ処理の回数を確認する。制御部11は、植え継ぎ処理の回数が、予め設定されている回数以上であるか否かを判断する。ここで、制御部11は、植え継ぎ処理の回数が、予め設定されている回数未満であれば(ステップS307:No)、植え継ぎ処理の回数の判断処理を繰り返す。一方、制御部11は、植え継ぎ処理の回数が、予め設定されている回数以上であると判断した場合(ステップS307:Yes)、ステップS308に移行する。
ここで設定される植え継ぎ処理の回数は、iPS細胞を作製するうえで実施される植え継ぎ回数よりも少ない回数、かつ培養した細胞を追跡するのに適切な回数が設定される。
なお、発光画像の取得可能期間は、初期化因子をコードする核酸と、発光タンパク質をコードする核酸とが体細胞内に維持される期間に限定される。例えば、初期化因子をコードする核酸と、発光タンパク質をコードする核酸とをエピソーマルベクターの形態で体細胞に導入した場合、その発光の撮像は、リプログラミング誘導開始直後、すなわちエピソーマルベクターを体細胞に導入してから、エピソーマルベクターが体細胞外へ放出されるまでの間で可能である。
【0079】
ステップS308において、画像撮像指示部11aは、上述したステップS301と同様にして、CCDカメラ53へ明視野画像を撮像するよう指示する。画像取得部11bは、CDカメラ53が撮像した明視野画像を取得する。
【0080】
ステップS308に続くステップS309において、画像撮像指示部11aは、上述したステップS302と同様にして、CCDカメラ53へ発光画像を撮像するよう指示する。画像取得部11bは、CDカメラ53が撮像した発光画像を取得する。
制御部11は、ステップS308、S309において取得した明視野画像や、各発光遺伝子の発光画像を記憶部12に記憶させる。
【0081】
ステップS310において、発光量取得部11cは、撮像された発光画像において、サンプル2中のコロニーの重心位置を求め、該重心位置を含む所定の領域を、発光量取得領域に設定する。
【0082】
ステップS310に続くステップS311において、発光量取得部11cは、設定した領域の画素値から、コロニーにおける各発光遺伝子の発光量を取得する。
【0083】
ステップS311に続くステップS312において、同定部11fは、ステップS301と、ステップS308で取得された明視野画像同士を比較して、各画像に写る細胞(又はコロニー)を画像間で同定し、両者を対応付ける。
【0084】
ステップS312に続くステップS313において、判定部11dは、各発光タンパク質の発光量が閾値を超えているか否かを判定する。判定部11dは、ステップS304において取得された発光量と、予め設定されている閾値とを、発光遺伝子ごとに比較して、大小関係をそれぞれ判定する。
【0085】
その後、選定部11eが、判定部11dの判定結果をもとに、良好なiPS細胞となり得る細胞を含むコロニーを選定する(ステップS314)。
ステップS314では、ステップS306において選定された細胞のみに対して選定を行うため、基本的にはすべての細胞が、良好なiPS細胞となり得る細胞として選定される。この際、外的な要因等によって、良好なiPS細胞とはなり得ない細胞として判断される場合があり、ステップS314では、植え継ぎ過程において、良好なiPS細胞となり得る細胞から脱落した細胞を選定するともいえる。
【0086】
以上説明した実施の形態2では、各発光遺伝子の発光量と閾値との比較結果を組み合わせるだけの簡易な手法で選定することによって、高い確率で高品質なiPS細胞になる細胞集団(コロニー)と、高い確率で低品質あるいはiPS細胞にならないと評価される細胞集団を発現量だけで選定できる。実施の形態2では、全ての細胞集団から高品質な細胞を選別し、低品質な細胞を客観的な判定で除外できる。本実施の形態2によれば、高効率でかつ正確に良好であるiPS細胞を選定することができる。
【0087】
また、実施の形態2では、上記の選定処理を、予め設定された植え継ぎ後に再度実施することによって、植え継ぎ過程で選外に変わった細胞を植え継ぎ対象から外す。本実施の形態2によれば、一層高精度に、良好であるiPS細胞を選定することができる。また、細胞の取り違いを防ぎ、作製するiPS細胞の品質を向上できる。
【0088】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含み得るものである。
【実施例
【0089】
以下、実施例によって、さらに本発明の詳細を説明する。しかし、本実施例により本発明が限定して解釈されるわけではない。本実施例では、リプログラミングの誘導因子として、Oct3/4、Sox2、Klf4、L-myc、及びLIN28を使用した。これらの誘導因子のうち、Oct3/4、Sox2及びKlf4のそれぞれに、発光レポータータンパク質として、ルシフェラーゼを連結し、各誘導因子の発現状態を発光画像から評価した。
【0090】
<1-1.ベクターの作製>
リプログラミングの誘導のために、以下の5種類のエピソーマルベクターを準備した。
(1)L-myc及びLIN28を発現するベクター(pCE-hUL-Oki_mut1)
(2)Sox2、Klf4及びOki_mut1ルシフェラーゼを発現するベクター(pCXLE-hSK-Oki_mut1)
(3)Oct3/4及びSfRE1ルシフェラーゼを発現するベクター(pCXLE-hOct3/4-SfRE1)
【0091】
これら3種類のベクターを「改変型ベクターセット」という。転写因子については、Okita K, et al., Nat. Methods 2011 May; 8(5):409-412. A more efficient method to generate integration-free human iPS cells.をもとに選択した。
【0092】
以下に、(1)~(3)のベクターの詳細を示す。図8は、実施例におけるpCE-hULベクターの構成を示す図である。図9は、実施例におけるpCE-hSKベクターの構成を示す図である。図10は、実施例におけるpCXLE-hOct3/4-SfRE1ベクターの構成を示す図である。
(1)pCXLE-hUL
pCXLE-hULは、addgeneから入手した(図8参照)。
(2)pCXLE-hSK-Oki_mut1
pCXLE-hSK-Oki_mut1は、Sox2及びKlf4とともに、発光レポータータンパク質としてOki_mut1ルシフェラーゼが発現するものに調製した。
具体的には、pCXLE-hSK(Addgene)をSpn I及びBgl IIで消化し、Kfl4の下流に、2A配列を経てOki_mut1 Luciferase(配列番号1)を組み込むことによって発現ベクターを調製した(図9参照)。なお、図9に示すKpn Iのサイトに関しては、Klf4の内部からKpn Iのサイトを含むストップコドンを削除した配列を人工合成して挿入した。
【0093】
(3)pCXLE-hOct3/4-shp53-SfRE1
pCXLE-hOct3/4-shp53-SfRE1は、Oct3/4とともに、発光レポータータンパク質としてpCXLE1ルシフェラーゼが発現するものに調製した。
具体的には、pCXLE-hOct3/4-shp53(Addgene)をKpn I及びBgl IIで消化し、hOct3/4の下流に、2A配列を経てSfRE1 Luciferase(配列番号2)を組み込むことによって発現ベクターを調製した(図10参照)。
【0094】
以下に、Oki_mut1 Luciferase及びSfRE1 Luciferaseの塩基配列を記載する。
【表1】
【表2】
【0095】
<1-2.遺伝子導入及び細胞の培養>
人ヒト末梢血単核球細胞(PBMC;Cellular Technology Limited社製)を解凍し、IL3、IL6、SCF、TPO、Flt3-LigandおよびCSFを添加した培地(AK02、味の素株式会社製)で培養した。細胞の培養には、24well培養プレートを使用した。細胞を密度2.5×106cell/wellで播種し、培地交換を行わずに、37℃、5%CO2の環境下において7日間培養した。
【0096】
7日間の培養後、PBMCに「改変ベクターセット」を、Amaxa(Lonza社製)を用いたエレクトロポレーションによって導入した。
【0097】
その後、事前にコーティング剤(iMatrix、株式会社ニッピ製)でコートした6well培養プレートに、ベクターを導入したPBMCを播種し、IL3、IL6、SCF、TPO、Flt3-LigandおよびCSFを添加した培地(AK02、味の素株式会社製)で、37℃、5%CO2の環境下において一晩培養した。なお、播種密度は2.0×106cell/wellとした。
【0098】
翌日以降、すなわち、ベクター導入後の翌々日以降については、1.5mLの培地(AK02、味の素株式会社製)を一日毎に加えて培養を継続した。ベクター導入後8日目に、iPS細胞様コロニーが形成され、12日目に発光観察を行った。
【0099】
<1-3.画像の取得>
培養12日経過時点での二つのコロニーについて、明視野画像及び発光画像を取得した。ルシフェラーゼの触媒作用に起因する発光については、培地中にルシフェリンを終濃度1mMで添加して観察した。
発光画像の取得については、発光顕微鏡LV200(オリンパス株式会社製)を用いた。CCDカメラは、ImagEM(浜松ホトニクス株式会社製)を用いた。撮像条件としては、露出時間を5分、ビニングを1×1とし、EM-gainを1200とした。対物レンズは、4倍又は20倍の対物レンズを使用した。
SfRE1ルシフェラーゼの発現に起因する発光については、515nm~560nmの光を透過するフィルタ(515-560HQ)を用いて分光した。また、Oki_mut1ルシフェラーゼの発現に起因する発光については、610nmの光を透過するフィルタ(610ALP)を用いて分光した。
【0100】
図11は、実施例1の明視野画像を示す図である。図12は、実施例1の第1発光タンパク質(SfRE1ルシフェラーゼ)の発光画像を示す図である。図13は、実施例1の第2発光タンパク質(Oki_mut1ルシフェラーゼ)の発光画像を示す図である。
明視野画像(図11)では、画像の右下辺りに、複数の細胞同士が集まってコロニーを形成していることが分かる。また、発光画像では、明視野画像におけるコロニー形成位置において、ルシフェラーゼが発光していることが分かる。
【0101】
図14は、実施例2の明視野画像を示す図である。図15は、実施例2の第1発光タンパク質(SfRE1ルシフェラーゼ)の発光画像を示す図である。図16は、実施例2の第2発光タンパク質(Oki_mut1ルシフェラーゼ)の発光画像を示す図である。
明視野画像(図11)では、画像の右下辺りに、複数の細胞同士が集まってコロニーを形成していることが分かる。また、発光画像では、明視野画像におけるコロニー形成位置において、ルシフェラーゼが発光していることが分かる。
【0102】
その後の発光量(SfRE1ルシフェラーゼ及びOki_mut1ルシフェラーゼの各発光量)に基づく選定処理では、実施例1のコロニーが、良好なiPS細胞になり得る細胞として選定された。一方で、実施例2のコロニーは、3回目の植え継ぎ時の良否判定時において、良好なiPS細胞になり得る細胞には選定されず、選定処理から脱落した。
【0103】
ここで、実施例1のコロニー(図11参照)は、領域Q1が、コロニーの外形として認識される。また、実施例2のコロニー(図14参照)は、領域Q2が、コロニーの外形として認識される。領域Q1と領域Q2とを比較すると、領域Q2の方が大きく、従来のコロニーの外形からiPS細胞の良悪を判定する方法では、実施例2が優先的に選定される。しかしながら、本実施例では、実施例1のコロニーが、良好なiPS細胞になり得る細胞として選定された。この結果から分かるように、互いに異なる初期化因子とともに発光する複数種の発光タンパク質の発光量に基づいて、良好なiPS細胞になり得る細胞を選定することによって、コロニーの大きさ等から選定するよりも高精度に良好なiPS細胞を選定できることが分かる。
【0104】
<1-4.エピソーマルベクターの残存確認>
上述した処理によって選定されたiPS細胞のゲノムDNAを鋳型として、以下の条件でPCRを行い、エピソーマルベクターの残存を確認した。
・プライマー
第1プライマー(pEP4-SF1):TTC CAC GAG GGT AGT GAA CC
第2プライマー(pEP4-SR1):TCG GGG GTG TTA GAG ACA AC
・PCR条件
94℃、2分間の熱変性処理させた後、94℃、20秒間の熱変性処理、64℃、20秒間のアニーリング処理および72℃、40秒間の伸長反応処理を30サイクル実施し、その後72℃、3分間の伸長反応処理を実施した(参考:Yu, J. et al. Human induced pluripotent stem cells free of vector and transgene sequences. Science 324, 797-801 (2009))。
PCR反応後、アガロースゲルを用いた電気泳動によってエピソーマルベクター由来のバンドの有無を確認したところ、当該バンドは確認されなかった。この結果、選定されたiPS細胞において、エピソーマルベクターが消去され、導入遺伝子の残存がないといえる。
【0105】
以上説明したiPS細胞の選定方法、及びiPS細胞の作製方法は、iPS細胞のような再生医療用の生物材料に適用できることは勿論のこと、利用可能な各種細胞の選定に貢献することができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明にかかるiPS細胞の選定方法、及びiPS細胞の作製方法は、高効率でかつ正確に良好であるiPS細胞を選定するのに有用である。
【符号の説明】
【0107】
1 選定システム
2 サンプル
3 容器
4 ステージ
5 画像撮像ユニット
10、10A 情報通信端末
11 制御部
11a 画像撮像指示部
11b 画像取得部
11c 発光量取得部
11d 判定部
11e 選定部
11f 同定部
12 記憶部
13 クロック発生部
14 通信インターフェース部
15 入出力インターフェース部
21 入力部
22 出力部
51 対物レンズ
52 ダイクロイックミラー
53 光源
54 CCDカメラ
55 結像レンズ
56 シャッター
【配列表フリーテキスト】
【0108】
配列番号 1 Oki_mut1 Luciferase
配列番号 2 SfRE1 Luciferase
配列番号 3 第1プライマー(pEP4-SF1)
配列番号 4 第2プライマー(pEP4-SR1)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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