(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】カルコゲノシラシクロペンタン
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20230728BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20230728BHJP
C07F 11/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C07F7/08 R
H01L21/31 B
C07F11/00 Z
(21)【出願番号】P 2021560204
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 US2020024127
(87)【国際公開番号】W WO2020205298
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-30
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521439187
【氏名又は名称】ゲレスト・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バリー・シー・アルクレス
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・ジェー・リベラトアー
(72)【発明者】
【氏名】ユーリン・パン
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-524303(JP,A)
【文献】特開2012-256886(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0267082(US,A1)
【文献】特開2009-149980(JP,A)
【文献】Sciences Chimiques,1968年,Vol.267(5),p.411-413
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 19/00
H01L 21/31
C07F 11/00
C07F 7/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)又は(II):
【化1】
(式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e、
及びR
f
は、水素、1個
~8個の炭素原子を有するアルキル基、1個
~8個の炭素原子を有するアルコキシ基、
及び芳香族
基からなる群からそれぞれ独立に選択される。)
を有
し、式(I)中でR及びR’は、水素、1個の炭素原子を有するアルキル基、1個~8個の炭素原子を有するアルコキシ基、及び芳香族基からなる群からそれぞれ独立に選択され、式(II)中でR及びR’は、水素、1個~8個の炭素原子を有するアルキル基、1個~8個の炭素原子を有するアルコキシ基、及び芳香族基からなる群からそれぞれ独立に選択される、カルコゲノシラシクロペンタン。
【請求項2】
R
a、R
b、R
c、R
d、R
e、R
f、R、及びR’は、水素、1個
~8個の炭素原子を有するアルキル基、及び1個
~8個の炭素原子を有するアルコキシ基からなる群からそれぞれ独立に選択される、請求項1に記載のカルコゲノシラシクロペンタン。
【請求項3】
式(III):
【化2】
を有する、請求項1に記載のカルコゲノシラシクロペンタン。
【請求項4】
式(IV):
【化3】
を有する、請求項1に記載のカルコゲノシラシクロペンタン。
【請求項5】
式(V):
【化4】
を有する、請求項1に記載のカルコゲノシラシクロペンタン。
【請求項6】
式(VI):
【化5】
を有する、請求項1に記載のカルコゲノシラシクロペンタン。
【請求項7】
以下:
【化6】
から選択される構造を有する、請求項1に記載のカルコゲノシラシクロペンタン。
【請求項8】
請求項1に記載のカルコゲノシラシクロペンタンと、プロトン性物質との反応生成物
であって、プロトン性物質が、ヒドロキシル基、チオール基、及びアミン基を有する物質から選択される、反応生成物。
【請求項9】
前記プロトン性物質が、基材
に含まれている、請求項8に記載の反応生成物。
【請求項10】
ALDのための開始層をプロトン性基材上に形成する方法であって、
前記プロトン性基材を、請求項1に記載のカルコゲノシラシクロペンタンと反応させる工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
カルコゲノシラシクロペンタンに関する。
この出願は、2019年4月2日に出願された同時係属中の米国仮特許出願番号62/827,970に基づく優先権を主張し、その開示の全体を参照により本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
薄膜技術では、表面は一般に、堆積技術を可能にするために修飾されて、特定の化学官能性を示すように、あるいは基材の挙動が変更するようにされる。後者は、極薄のコンフォーマル層が必要とされる技術において特に重要である。例えば、原子層堆積(ALD)技術が、光起電力用途におけるセレン化カドミウム薄膜組成物及びテルル化カドミウム薄膜組成物、センサー用途におけるテルル化水銀カドミウム(HgCdTe)の堆積、並びに、相変化メモリ及びコンデンサ用途におけるゲルマニウム-アンチモン-テルル(GST)の堆積においてますます重要になりつつある。これらの薄膜堆積スキームにおいて観察されてきた一般的な問題は、ALDの開始段階においてサイクルあたりの成長が遅い現象(時にはALDプロセスにおけるインキュベーション又は誘導と称される現象)である。多くの場合、このゆっくりとした成長は、膜として堆積されることとなる組成と同じ組成ではない基材の反応性に関連している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
当技術分野には、堆積プロセスを効率的に開始させることができる基材の必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
式(I)又は(II):
【化1】
(式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e、R
f、R、及びR’は、水素、1個~約8個の炭素原子を有するアルキル基、1個~約8個の炭素原子を有するアルコキシ基、芳香族基、及びエーテル基からなる群からそれぞれ独立に選択される。)
を有するカルコゲノシラシクロペンタンを記述する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明は、カルコゲノシラシクロペンタンとして知られる複素環式シランの一連の新規な化合物に関する。 「カルコゲン」という用語は、周期表の第16族の元素を指し、本発明の範囲に包含されるカルコゲンには、セレン(Se)及びテルル(Te)が含まれる。したがって、本発明は、より具体的には、セレノシラシクロペンタン類及びテルロシラシクロペンタン類に関する。これらの化合物は、ヒドロキシル官能基及び他の非プロトン性官能基によって価値のある開環反応を受ける。 さらに、これらの物質による表面改質は、ALD(原子層堆積)やCVD(化学蒸着)などの薄膜堆積技術に供することができる基材をもたらす。
【0006】
本発明によるセレノシラシクロペンタン類及びテルロシラシクロペンタン類は、ケイ素-セレン結合又はケイ素-テルル結合を有する5員環構造であり、以下の式(I)及び(II):
【化2】
に示される通りの構造である。
【0007】
本発明によるカルコゲノシラシクロペンタンの最も単純な一員は、環又はケイ素上に置換基を有さない、すなわち、R
a~R
f、R、及びR’置換基のすべてが水素原子であり、以下の式(III)及び(IV):
【化3】
に示される通りの構造を有する。
【0008】
より一般的には、環炭素上の置換基R
a~R
f及びケイ素原子上の置換基R及びR’は、それぞれ独立に、水素、又は、1個から約8個、より好ましくは4個以下の炭素原子を有するアルキル基及びアルコキシ基、芳香族基、及びエーテル基から選択される有機基であり得る。より好ましくは、置換基は、水素、アルキル基、又はアルコキシ基、より好ましくは、水素、メチル基、メトキシ基、又はエトキシ基である。例えば、ケイ素原子と環炭素の1つがメチル基で置換されているカルコゲノシラシクロペンタンである、2,2,4-トリメチル-1-セレナ-2-シラシクロペンタン及び2,2,4-トリメチル-1-テルラ-2-シラシクロペンタンを以下の式(V)及び(VI):
【化4】
に示す。
【0009】
本発明による他の可能な化合物の例には、以下の構造:
【化5】
を有する化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0010】
本発明によるカルコゲノシラシクロペンタンは、スキームI:
【化6】
に示す通り、3-クロロイソブチルジメチルクロロシランとリチウムカルコゲニドとの反応によって調製することができる。
【0011】
あるいは、本発明の化合物は、スキームII:
【化7】
に示す通り、3-クロロイソブチルトリアルコキシシランとリチウムカルコゲニドとの反応によって調製することができる。
【0012】
類似の反応を実施して、シラシクロペンタン環の4位にメチル置換基を有さない本発明による代替化合物を生成させることができる。 そのような反応は当技術分野でよく理解されている。これらのアルコキシ置換化合物を、水素化アルミニウムリチウム又は水素化ジイソブチルアルミニウムを使用して還元して、ケイ素上に水素置換基を有する本発明の化合物を生成させることができる。
【0013】
本発明の物質は、ヒドロキシル基、チオール基、及びアミン基を有するものなどのプロトン性基材によって開環反応を受け、基材に対して遠位の位置に、C-Se-H(セレノール)又はC-Te-H(テルロール)の要素を生じさせる。一般的な、及び(Teについての)特定の開環反応を、スキームIII及びIV:
【化8】
【化9】
に示す。
【0014】
Harmgarthら(Zeitchrift fur Anornicische und Algemeine Chemie、2017、11501166)によるGST膜についての記述の通り、堆積用の開始層の一部としてテルル原子が利用可能になると、様々な前駆体を利用して膜をきれいに(不要な物質を含ませることなく)成長させることができる。したがって、本発明の物質から調製された基材は、きれいな(不要な物質を含まない)膜を成長させるのに効果的であるはずである。
【0015】
カルコゲノシラシクロペンタンとシラシクロペンタンとの間の別の興味深い比較が、1H NMRスペクトルにおけるSi-Meピークの相対的シフトにおいて存在する。硫黄種Si-Sは、Si-CH部分に最も一般的に関連するシフトを有する。しかし、ヘテロ原子のサイズの増加及び電気陰性度の低下により、メチルピークの顕著な高磁場シフトをもたらす。このシフトの変化は、Si原子の部分的な正電荷がより強く、したがってSiのルイス酸性度が増加すること、及び、Si-ヘテロ原子結合がヘテロリシス開裂をより受けやすくなり、求核試薬やプロトン性基質に対してより反応性になることを示している。さらに、Si-ヘテロ原子結合の一般的な結合解離エネルギーを比較すると、Si-Se及びSi-Teが同等のエネルギーを示すのに対し、Si-Nはより弱く、Si-Sはかなり強いエネルギーを示す。これらの値はホモリティック開裂のみを表しているものの、結合強度、すなわちヒドロキシル基及び他の基による開環反応の熱力学的駆動力が、有利であることを良好に示唆している。
【0016】
本発明を、以下の非限定的な例に関連して記述する。
【実施例】
【0017】
実施例1:2,2,4-トリメチル-1-セレナ-2-シラシクロペンタンの合成
【化10】
500mLのTHF中の新たに切断したLi金属(13.8g、1.9モル)に、追加の300mLのTHF中の触媒量のジフェニルアセチレン(8.8g、0.05モル)の溶液を加えた。添加はわずかに発熱性であり、赤褐色の溶液をもたらした。発熱が止まった後(約90分)、粉末滴下漏斗からセレン(75g、0.9モル)を少量ずつ加えたところ、大きな発熱が生じた。得られた混合物を、8時間加熱還流させて、最大のLi消費を確実にした。175.88g(0.9モル)の3-クロロイソブチルジメチルクロロシラン(Gelestから市販)及び1.35g(0.01モル)のBF
3・Et
2Oの溶液を調製し、先のLi
2Seに滴下すると、発熱した。この反応物を、8時間還流させた。反応物からすべての揮発性物質を高真空で除去し、得られた混合物を新たな装置で分別蒸留して(Vigreuxカラム)、2,2,4-トリメチル-1-セレナ-2-シラシクロペンタン(沸点:63~64℃/10mm;密度1.195g/mL)を得た。表題化合物を黄橙色の液体として28.7%の収率で単離した。GC-MS及びNMRは上記構造と一致している。
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz): δ 0.45 (s, 3H), 0.51 (s, 3H), 0.65 (dd, 1H, J = 11.6, 14.0 Hz), 1.13 (d, 3H, J = 6.4 Hz), 1.22 (ddd, 1H, J = 1.6, 4.8, 14.0 Hz), 2.18 (m, 1H), 2.52 (t, 1H, J = 10 Hz), 2.89 (ddd, 1H, J = 2.0, 4.8, 10.0 Hz).
【0018】
実施例2:2,2,4-トリメチル-1-テルラ-2-シラシクロペンタンの合成
【化11】
200mLのTHF中の新たに切断したLi金属(10.9g、1.6モル)に、追加の200mLのTHF中の触媒量のジフェニルアセチレン(7.3g、0.04モル)の溶液を加えた。添加はわずかに発熱性であり、赤褐色の溶液をもたらした。発熱が止まった後(約90分)、粉末添加漏斗を介してTe粉末(100g、0.8モル)を少量ずつ加えたところ、大きな発熱が生じた。得られた混合物を8時間加熱還流させて、最大のLi消費を確実にした。145.1g(0.8モル)のクロロイソブチルジメチルクロロシラン(Gelestから市販)及び1.1g(0.01モル)のBF
3・Et
2Oの溶液を調製し、先のLi
2Teに滴下すると、発熱した。この反応物を8時間還流させた。反応物からすべての揮発性物質を高真空で除去し、得られた混合物を、新たな装置で分別蒸留して(Vigreuxカラム)、2,2,4-トリメチル-1-テルラ-2-シラシクロペンタン(沸点:61~63℃/4mm)。表題化合物を無色の液体として30.3%の収率で単離した。光に曝すと、オレンジ色を帯び始める。GCMS及びNMRにより上記構造を確認した。
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz): δ 0.61 (s, 3H), 0.67 (s, 3H), 0.72 (dd, 1H, J = 10.8, 14.0 Hz), 1.14 (d, 3H, J = 6.4 Hz), 1.34 (ddd. 1H, J = 1.6, 3.6, 13.6 Hz), 2.12 (m, 1H), 2.62 (t, 1H, J = 10 Hz), 2.91 (ddd, 1H, J = 1.6, 4.4, 10.4 Hz).
【0019】
当業者であれば、上述下実施形態に、その広範な発明概念から逸脱することなく変更を加えることができることを理解されたい。また、本開示に基づいて、当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、上に示した構成要素の相対的な比率を変更することができることをさらに認識するであろう。したがって、本発明は、開示された特定の実施態様に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義された本発明の精神及び範囲内の変更態様に及ぶことが意図されていることが理解される。