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特許7321317波動歯車装置の波動発生器および波動歯車装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】波動歯車装置の波動発生器および波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20230728BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20230728BHJP
   F16C 33/56 20060101ALI20230728BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16C33/46
F16C33/56
F16C19/26
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022044726
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2023-05-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】神山 遼
(72)【発明者】
【氏名】石塚 一男
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-001781(JP,A)
【文献】特開2016-142370(JP,A)
【文献】特開2013-245709(JP,A)
【文献】特開平10-153217(JP,A)
【文献】国際公開第2015/136622(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 33/46
F16C 33/56
F16C 19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心に回転可能な非円形状のカム部材と、前記カム部材の外周側に配置された複数のころと、前記複数のころを保持するころ保持器と、を備える、波動歯車装置の波動発生器であって、
前記ころ保持器は、第1ころ保持器を含んでおり、
前記第1ころ保持器は、複数の開口部が周方向に間隔を置いて形成された、可撓性を有する筒状に形作られており、かつ、
前記第1ころ保持器は、前記ころとともに前記カム部材に取り付けられた状態において、少なくとも前記カム部材の長軸側では、前記複数の開口部の間に形成された第1掛け渡し部によって、前記ころを前記波動発生器の外周側から保持し、かつ、前記開口部によって、前記ころを回転可能に前記波動発生器の外周側に露出させる、波動歯車装置の波動発生器。
【請求項2】
前記ころ保持器は、第2ころ保持器を含んでおり、
前記第2ころ保持器は、複数の開口部が周方向に間隔を置いて形成された、可撓性を有する筒状に形作られており、かつ、
前記第2ころ保持器は、前記複数の開口部の間に形成された第2掛け渡し部によって、前記ころを前記カム部材側から保持し、かつ、前記開口部によって、前記ころを回転可能に前記カム部材側に露出させる、請求項1に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項3】
前記第1掛け渡し部は、前記ころを回転可能に保持する保持面を有しており、前記保持面は、傾斜面または曲面によって形成されている、請求項1または2に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項4】
前記第1ころ保持器は、樹脂または軽金属によって形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項5】
前記カム部材は、非円形状であり、かつ、
前記第1ころ保持器において、前記開口部における前記ころと2つの前記第1掛け渡し部との2つの接触点の間の周方向長さhx1は、下式(1)を満たし、かつ、前記第1ころ保持器の真円時における当該第1ころ保持器の内径D1は、下式(2)を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載された波動歯車装置の波動発生器。
(d:ころの直径、t1:第1ころ保持器の厚み、x1:第1ころ保持器の外周面から前記ころと第1掛け渡し部との接触点までの距離 )
a+b+d < D1 < 2・(a+d) …(2)
(a:カム部材の長軸半径、b: カム部材の短軸半径、d:ころの直径)
【請求項6】
前記第2掛け渡し部は、前記ころを回転可能に保持する保持面を有しており、前記保持面は、傾斜面または曲面によって形成されている、請求項2に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項7】
前記第2ころ保持器は、樹脂または軽金属によって形成されている、請求項2または6に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項8】
前記ころと、前記ころ保持器とによってころ軸受が形成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項9】
前記ころと、前記ころ保持器と、可撓性を有する外輪とによってころ軸受が形成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項10】
少なくとも、前記ころと、前記ころ保持器と、可撓性を有する内輪とによってころ軸受が形成されている、請求項1~7、9のいずれか1項に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項11】
内歯歯車と、可撓性を有しているとともに前記内歯歯車の内周側に配置された外歯歯車と、前記外歯歯車の内周側に配置された請求項1~10のいずれか1項に記載された、波動歯車装置の波動発生器とを備える、波動歯車装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置の波動発生器および波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置には、耐久性の向上等を目的に、カム部材と外歯歯車との間に配置される軸受として、ころ軸受を採用したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。その一方で、波動歯車装置において、ころを使用した場合、カム部材の長軸部以外の場所において、ころに遊びがある状態となるため、当該ころにスキュー(ころの傾き)が発生することがある。ころがスキュー状態のまま、カム部材の長軸部まで転動すると、波動歯車装置内で摩擦ロスが発生し、最悪の場合、ころが正常に回転できなくなる畏れもある。そのため、従来の波動歯車装置には、ころ保持器に加えて、カム部材ところとの間に、円筒バネ等のころ押し付け部材を導入し、ころの軸線方向両端を外周側に押し付けることで、スキューの発生を防止しているものも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-190826号公報
【文献】国際公開第2015/136622号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献2に記載された従来の波動歯車装置は、ころ保持器に加えて、カム部材の外周面(カム面)の幅方向両側に2つの段面を形成し、これら2つの段面のそれぞれに円筒バネを配置することによって、常時、ころを外輪軌道面に押し付ける必要がある。このため、上記従来の波動歯車装置には、各ころが2つの円筒バネによって常時押し付けられることに伴い、結果的に、摩擦ロスが増加する上、必要な部品点数も多くなるので製造コストも増加する。そのため、依然として、改善の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減でき、さらに、製造コストが抑制された、波動歯車装置の波動発生器および波動歯車装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器は、軸線を中心に回転可能な非円形状のカム部材と、前記カム部材の外周側に配置された複数のころと、前記複数のころを保持するころ保持器と、を備える、波動歯車装置の波動発生器であって、前記ころ保持器は、第1ころ保持器を含んでおり、前記第1ころ保持器は、複数の開口部が周方向に間隔を置いて形成された、可撓性を有する筒状に形作られており、かつ、前記第1ころ保持器は、前記ころとともに前記カム部材に取り付けられた状態において、少なくとも前記カム部材の長軸側では、前記複数の開口部の間に形成された第1掛け渡し部によって、前記ころを前記波動発生器の外周側から保持し、かつ、前記開口部によって、前記ころを回転可能に前記波動発生器の外周側に露出させる。
【0007】
本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころ保持器は、第2ころ保持器を含んでおり、前記第2ころ保持器は、複数の開口部が周方向に間隔を置いて形成された、可撓性を有する筒状に形作られており、かつ、前記第2ころ保持器は、前記複数の開口部の間に形成された第2掛け渡し部によって、前記ころを前記カム部材側から保持し、かつ、前記開口部によって、前記ころを回転可能に前記カム部材側に露出させるものとすることができる。
【0008】
本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器において、前記第1掛け渡し部は、前記ころを回転可能に保持する保持面を有しており、前記保持面は、傾斜面または曲面によって形成されているものとすることができる。
【0009】
本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器において、前記第1ころ保持器は、樹脂または軽金属によって形成されているものとすることができる。
【0010】
本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器において、前記カム部材は、非円形状であり、かつ、前記第1ころ保持器において、前記開口部における前記ころと2つの前記第1掛け渡し部との2つの接触点の間の周方向長さhx1は、下式(1)を満たし、かつ、前記第1ころ保持器の真円時における当該第1ころ保持器の内径D1は、下式(2)を満たすものとすることができる。
(d:ころの直径、t1:第1ころ保持器の厚み、x1:第1ころ保持器の外周面から前記ころと第1掛け渡し部との接触点までの距離)
a+b+d < D1 < 2・(a+d) …(2)
(a:カム部材の長軸半径、b: カム部材の短軸半径、d:ころの直径)
【0011】
本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器において、前記第2掛け渡し部は、前記ころを回転可能に保持する保持面を有しており、前記保持面は、傾斜面または曲面によって形成されているものとすることができる。
【0012】
本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器において、前記第2ころ保持器は、樹脂または軽金属によって形成されているものとすることができる。
【0013】
本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころと、前記ころ保持器とによってころ軸受が形成されているものとすることができる。
【0014】
本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころと、前記ころ保持器と、可撓性を有する外輪とによってころ軸受が形成されているものとすることができる。
【0015】
本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器において、少なくとも、前記ころと、前記ころ保持器と、可撓性を有する内輪とによってころ軸受が形成されているものとすることができる。
【0016】
本発明に係る、波動歯車装置は、内歯歯車と、可撓性を有しているとともに前記内歯歯車の内周側に配置された外歯歯車と、前記外歯歯車の内周側に配置された、上記のいずれかに記載された、波動歯車装置の波動発生器とを備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減でき、さらに、製造コストが抑制された、波動歯車装置の波動発生器および波動歯車装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る、波動歯車装置を、軸線方向から概略的に示す図である。
図2図1の波動歯車装置に採用された、本発明の一実施形態に係る、波動発生器を、軸線方向から概略的に示す図である。
図3図2の波動発生器に採用された、ころ保持器ユニットを、軸線方向から概略的に示す図である。
図4A図3のころ保持器ユニットのころがカム部材の短軸部にあるときの、ころところ保持器との関係を、カム部材とともに概略的に示す図である。
図4B図3のころ保持器ユニットのころがカム部材の長軸部にあるときの、ころところ保持器との関係を、カム部材とともに概略的に示す図である。
図5図2の波動発生器の、一構成要素であるころ保持器を、平面的に展開した状態で、ころとともに概略的に示す図である。
図6A】カム部材の外周面を平面的に展開した状態で、ころがカム部材の外周面上を、本発明の一実施形態に係る波動発生器を構成し得る、ころ保持器によって適切に転動している状態を例示的かつ概略的に示す図である。
図6B】カム部材の外周面を平面的に展開した状態で、ころがカム部材の外周面上でスキューしている状態を例示的かつ概略的に示す図である。
図7A】ころ保持器の開口部からころを脱落させないための、本発明の一実施形態に係る波動発生器を構成し得る、ころ保持器ところとの寸法関係を、概略的に説明するための図である。
図7B】ころ保持器の開口部からころを露出させるための、本発明の一実施形態に係る波動発生器を構成し得る、ころ保持器ところとの寸法関係を、概略的に説明するための他の図である。
図8A】第1ころ保持器の真円時における内径とカム部材およびころの寸法との関係を、概略的に説明するための図である。
図8B】第1ころ保持器の真円時における内径とカム部材およびころの寸法との関係を概略的に説明するための他の図である。
図9A】第2ころ保持器の真円時における内径とカム部材およびころの寸法との関係を概略的に説明するための図である。
図9B】第2ころ保持器の真円時における内径とカム部材およびころの寸法との関係を概略的に説明するための他の図である。
図10】本発明に係る、波動歯車装置およびその波動発生器に採用可能な、ころ軸受の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る波動歯車装置および波動発生器について説明をする。
【0020】
図1中、符号1は、本発明の一実施形態に係る波動歯車装置である。波動歯車装置1は、内歯歯車2と、可撓性を有しているとともに内歯歯車2の内周側に配置された外歯歯車3と、外歯歯車3の内周側に配置された波動発生器4とを備えている。
【0021】
本開示において、内歯歯車2は、環状の歯車である。内歯歯車2は、複数の内歯2aと、円環状本体2bと、を有している。複数の内歯2aは、円環状本体2bの内周から径方向内側に突出している。本開示において、内歯歯車2は、例えば、波動歯車装置1のハウジング(図示省略)に固定されている。内歯歯車2は、軸線О1を中心軸線として前記ハウジングに固定されている。本開示において、軸線О1は、波動歯車装置1の中心軸線である。即ち、本開示において、内歯歯車2は、軸線О1を中心軸線とする固定歯車である。さらに、本開示において、内歯歯車2は、変形が困難な高い剛性を有する剛性歯車である。内歯歯車2は、例えば、鋳鉄、合金鋼、炭素鋼などの鉄系材料、マグネシウム合金、アルミ合金、チタン合金などの軽金属合金または軽金属単体、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、POM(ポリオキシメチレン)などのエンジニアリングプラスチックなどの樹脂材によって形成されている。
【0022】
本開示において、外歯歯車3もまた、環状の歯車である。外歯歯車3は、複数の外歯3aと、円環状本体3bと、を有している。複数の外歯3aは、円環状本体3bの外周から径方向外側に突出している。本開示において、外歯歯車3は、軸線О1を中心に回転可能な回転歯車である。さらに、本開示において、外歯歯車3は、変形が容易な可撓性を有する可撓性歯車である。外歯歯車3は、例えば、円環状本体3bを薄肉に形成することによって機械的に変形及び復元をさせることができる。円環状本体3bを薄肉に形成した場合、外歯歯車3を形成するための材料は、例えば、金属、樹脂材を用いることができる。また、外歯歯車3は、例えば、可撓性を有する材料(例えば、合金鋼、炭素鋼、軽金属からなる薄肉材料や、可撓性を有するエンジニアリングプラスチックなどの樹脂材料)を用いることによって材質的に変形及び復元をさせることができる。
【0023】
波動発生器4は、軸線О1を中心に回転可能な非円形状のカム部材5と、カム部材5の外周側に配置された複数のころ6と、複数のころ6を保持するころ保持器7と、を備えている。
【0024】
本開示において、波動発生器4は、さらに駆動シャフト8を備えている。駆動シャフト8は、モータ(図示省略)などの動力源に接続されている。本開示において、駆動シャフト8は、カム部材5に接続されている。駆動シャフト8の中心軸線(回転軸線)は、軸線О1と同軸である。即ち、本開示において、波動発生器4は、波動歯車装置1の中心軸線と同一軸線上に配置されている。これによって、カム部材5は、軸線O1を中心に回転することができる。
【0025】
また、カム部材5は、軸線О1方向視(軸線О1の延在方向からみたとき)において、非円形の形状を有している。カム部材5は、内歯歯車2と同様、高い剛性を有する部材である。カム部材5の外周面F5は、カム面として機能する。本開示において、カム部材5は、2ローブ(ツーローブ)形である。2ローブ形は、図示のように、軸線О1方向視において、楕円形の形状である。
【0026】
図2には、本発明の一実施形態に係る、波動発生器4が単独で示されている。
【0027】
本開示において、ころ保持器7は、第1ころ保持器7Aを含んでいる。第1ころ保持器7Aは、複数の開口部A1(以下、「第1開口部A1」ともいう。)が軸線О1の周りで周方向に間隔を置いて形成された、可撓性を有する筒状に形作られている。また、図2に示すように、第1ころ保持器7Aは、ころ6とともにカム部材5に取り付けられた状態において、少なくともカム部材5の長軸側では、複数の第1開口部A1の間に形成された掛け渡し部72a(以下、「第1掛け渡し部72a」ともいう。)によって、ころ6を波動発生器4の外周側(以下、「波動発生器外周側」ともいう。)から保持し、かつ、第1開口部A1によって、ころ6を回転可能に波動発生器外周側に露出させている。
【0028】
ここで、「波動発生器外周側」とは、例えば、図2に示すように、軸線О1方向視において、軸線О1から遠い側をいう。あるいは、「波動発生器外周側」とは、図1に示すように、軸線О1方向視において、波動発生器4が波動歯車装置1の内部に配置された状態において、外歯歯車3等の歯車の側(以下、「歯車側」ともいう。)をいう。
【0029】
また、本開示において、ころ保持器7は、第2ころ保持器7Bを含んでいる。図2を参照すれば、第2ころ保持器7Bは、複数の開口部A2(以下、「第2開口部A2」ともいう。)が軸線О1の周りで周方向に間隔を置いて形成された、可撓性を有する筒状に形作られている。また、第2ころ保持器7Bは、複数の第2開口部A2の間に形成された掛け渡し部72b(以下、「第2掛け渡し部72b」ともいう。)によって、ころ6をカム部材5の側(以下、「カム部材側」ともいう。)から保持し、かつ、第2開口部A2によって、ころ6を回転可能にカム部材側に露出させている。
【0030】
図3は、波動発生器4に採用された軸受B1が概略的に示されている。本開示において、軸受B1は、カム部材5と外歯歯車3とを互いに回転可能に支持するころ軸受である。
【0031】
本開示において、軸受B1は、軸線О1の周りで周方向に間隔を置いて配置された複数のころ6と、可撓性を有する第1ころ保持器7Aと、同じく可撓性を有する第2ころ保持器7Bとを備えている。複数のころ6は、それぞれ、第1ころ保持器7Aと、第2ころ保持器7Bとによって、回転可能に保持されている。即ち、本開示において、軸受B1は、第1ころ保持器7Aと第2ころ保持器7Bとによって、複数のころ6を回転可能に一体化させた、ころ軸受である。
【0032】
軸受B1は、図3に示すように、カム部材5に取り付けられる前の初期状態では、真円形状である。図3では、軸線О1を中心軸線として示している。図3を参照すれば、本開示において、第1ころ保持器7Aと第2ころ保持器7Bとは、複数のころ6を軸線О1の周りに組み付けた状態において、軸線О1を中心する同心円状に配置されている。第2ころ保持器7Bは、第1ころ保持器7Aの内周側に、当該第1ころ保持器7Aに対して径方向に間隔を置いて配置されている。即ち、本開示において、第1ころ保持器7Aは、軸線О1方向視において、軸線О1を中心軸線とした真円形状の外筒に相当し、第2ころ保持器7Bは、軸線О1を中心軸線とした真円形状の内筒に相当する。
【0033】
軸受B1において、第1ころ保持器7Aと第2ころ保持器7Bとが可撓性を有している。このため、図2に示すように、軸受B1は、非円形のカム部材5にも、取り付けることができる。また、本開示において、ころ6のカム部材側部分は、第2ころ保持器7Bの第2開口部A2を通してカム部材側に露出している。このため、本開示において、軸受B1は、ころ6がカム部材5の外周面(カム面)F5に直接的に接触するように、当該カム部材5に取り付けることができる。
【0034】
外歯歯車3もまた、可撓性を有している。このため、図1に示すように、波動発生器4には、外歯歯車3を取り付けることができる。本開示において、ころ6の歯車側部分は、第1ころ保持器7Aの第1開口部A1を通して歯車側に露出している。このため、本開示において、外歯歯車3は、ころ6が外歯歯車3の内周面F3に直接的に接触するように、当該波動発生器4に取り付けることができる。
【0035】
本開示の波動発生器4において、ころ軸受は、図3に示すように、ころ6と、第1ころ保持器7Aと、第2ころ保持器7Bと、によって形成された、軸受B1である。
【0036】
図1に示すように、波動発生器4は、外歯歯車3の内周面F3に組み付けられることによって外歯歯車3を非円形に撓ませて当該外歯歯車3の外歯3aと内歯歯車2の内歯2aとを噛み合わせることができる。本開示において、外歯歯車3と内歯歯車2は、カム部材5の長軸部分の2か所の位置で噛み合っている。図1中、符号Pは、外歯歯車3の外歯3aと内歯歯車2の内歯2aとの噛み合い部分Pを示す。図1に示すように、本開示において、噛み合い部分Pは、カム部材5の2つの長軸側に位置している。
【0037】
波動発生器4において、カム部材5は、駆動シャフト8の回転とともに軸線О1を中心に回転する。これによって、カム部材5は、軸受B1のころ6を介して外歯歯車3に対して相対回転させることができる。一方、内歯歯車2は固定されており、外歯歯車3の外歯3aの歯数ZF と、内歯歯車2の内歯2aの歯数ZR と、の間には、歯数差(例えば、歯数差2)がある。このため、カム部材5を回転させると、内歯歯車2と外歯歯車3との間には、前記歯数差に起因した相対回転が生じる。これによって、外歯歯車3の噛み合い部分Pは、内歯歯車2の周方向において、カム部材5の回転方向と反対方向に移動する。本開示において、噛み合い部分Pは、カム部材5が軸線O1の周りを180度回転する毎に、内歯歯車2に対して波動発生器4の回転方向と反対方向に移動する。すなわち、本開示において、駆動シャフト8からの入力回転は、外歯歯車3からの減速回転として反転出力される。
【0038】
一方、図4Aには、軸受B1のころ6がカム部材5の短軸部にあるときの、ころ6ところ保持器7との関係が、カム部材5とともに、カム部材5およびころ保持器7が平面的に展開された状態で概略的に示されている。図4Aは、軸受B1の中心軸線(軸線О1)に対して直交する断面(以下、「軸直断面」ともいう。)で示されている。
【0039】
第1ころ保持器7Aは、第1開口部A1の間に形成された第1掛け渡し部72aによって、ころ6を歯車側に脱落させないように抜け止めしている。その一方で、カム部材5は、基本的に、当該カム部材5の長軸部以外の場所(例えば、カム部材5の短軸部)において、ころ6にカム部材5からの押し付け力を発生させることはない。このため、図4Aで示すように、第1ころ保持器7Aが歯車側から被せられたころ6は、カム部材5の長軸部以外の、例えば、カム部材5の短軸部では、第1ころ保持器7Aと接触することなく、自由な状態になっている。このため、第1ころ保持器7Aによれば、ころ6がカム部材5の長軸部以外の場所を通過するときに生じ得る、第1ころ保持器7Aおよびカム部材5との接触に伴う摩擦ロスが低減される。また、第1ころ保持器7Aは、当該第1ころ保持器7Aの真円時における内径D1を調整することによって、図4Aに示すように、ころ6の歯車側部分を第1開口部A1内に位置させるように構成されている。このため、第1ころ保持器7Aによれば、互いに隣り合うころ6の間隔は、第1ころ保持器7Aの周方向に沿った適切な間隔に保たれている。
【0040】
他方、図4Bには、軸受B1のころ6がカム部材5の長軸部にあるときの、ころ6ところ保持器7との関係が、カム部材5とともに、カム部材5およびころ保持器7が平面的に展開された状態で概略的に示されている。図4Bもまた、図4Aと同様、前記軸直断面で示されている。
【0041】
図4Bに示すように、軸受B1において、ころ6は、カム部材5の長軸部において、カム部材5と第1ころ保持器7A(第1掛け渡し部72a)とに挟まれることによって、歯車側から押さえつけられる。このため、ころ6は、第1ころ保持器7Aの第1開口部A1の形状に沿うように、当該第1開口部A1の位置に整列する。即ち、本開示において、第1ころ保持器7Aは、ころ6とともにカム部材5に取り付けられた状態において、少なくともカム部材5の長軸部(長軸側)では、複数の第1開口部A1の間に形成された第1掛け渡し部72aによって、ころ6を歯車側から保持し、かつ、第1開口部A1によって、ころ6を回転可能に歯車側に露出させる。これによって、ころ6は、カム部材5の長軸部において、スキューを生じることなく、カム部材5の外周面F5と外歯歯車3の内周面F3とに対する相対的な転動を行うことができる。このため、第1ころ保持器7Aによれば、カム部材5の長軸部において生じ得る、ころ6のスキューが防止される。その結果、第1ころ保持器7Aによれば、ころ6のスキューに起因する摩擦ロスもまた低減される。
【0042】
上述のとおり、第1ころ保持器7Aは、非円形のカム部材5に取り付けられた状態において、カム部材5の長軸側では、ころ6を歯車側から押さえつける一方、カム部材5の短軸側においては、ころ6を歯車側から押さえつけない構成になっている。即ち、第1ころ保持器1Aは、ころ6とともにカム部材5に取り付けられた状態において、少なくともカム部材5の長軸側では、第1掛け渡し部72aによって、ころ6を歯車側から保持し、かつ、第1開口部A1によって、ころ6を回転可能に歯車側に露出させる。このため、本開示の波動発生器4によれば、カム部材5の長軸部以外の場所(例えば、カム部材5の短軸部)においては、ころ6が第1ころ保持器7Aに被われつつも第1ころ保持器7Aおよびカム部材5に押し付けられることはない。このため、本開示の波動発生器4によれば、ころ6がカム部材5の長軸部以外の場所を通過するときに生じ得る、摩擦ロスが低減される。また、本開示の波動発生器4によれば、カム部材5の長軸部において、ころ6は、第1掛け渡し部72aとの接触によってスキューが生じないように規制を受けるとともに第1開口部A1から歯車側に回転可能に露出する。このため、本開示の波動発生器4によれば、ころ6がカム部材5の長軸部を通過するときに生じ得る、ころ6のスキューが防止され、これによって、当該スキューに起因する、摩擦ロスもまた低減される。したがって、本開示の波動発生器4によれば、スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減できる。また、波動発生器4を採用した、本開示の波動歯車装置1によれば、スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減できる。
【0043】
また、本開示の軸受B1のように、第1ころ保持器7Aを、複数の第1開口部A1が周方向に間隔を置いて形成された、可撓性を有する筒状に形作り、歯車側からころ6を覆うように配置した場合、軸受の外輪は、必須の構成部品ではなく、任意の部品となる。
【0044】
その一方で、例えば、特許文献2に記載された従来の波動歯車装置は、ころ保持器に加えて、カム部材の外周面(カム面)の幅方向両側に2つの段面を形成し、これら2つの段面のそれぞれに円筒バネを配置し、外輪によってころを波動発生器の外周側から覆っている。したがって、従来の波動歯車装置は、必要な部品点数も多くなるので製造コストも増加する。
【0045】
これに対し、本開示の第2ころ保持器7Aによれば、円筒バネ等の追加部品を必要とすることがない。このため、本開示の波動発生器4によれば、スキューの発生を抑制しつつ、当該スキューの発生を抑制するために必要な部品の点数を削除することができ、その結果、製造コストを低減させることができる。
【0046】
したがって、波動発生器4によれば、スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減できる波動発生器4を容易かつ安価に製造することができ、ひいては、波動歯車装置1を容易かつ安価に製造することができる。
【0047】
ところで、本開示において、第1ころ保持器7Aの第1掛け渡し部72aは、後に詳述するように、ころ6を回転可能に保持する保持面73a(以下、「第1保持面73a」ともいう。)を有している。第1保持面73aは、傾斜面または曲面によって形成されているものとすることができる。この場合、ころ6をよりスムーズに転動させるように、ころ6を第1開口部A1に対して整列させることができる。さらには、この場合、第1ころ保持器7Aところ6との接触時の応力集中を緩和させることができる。
【0048】
図4Aを参照すれば、本開示において、第1開口部A1は、第1ころ保持器7Aの外周面(歯車側表面)F72a(out)に外周側開口を形成している。前記外周側開口の、第1ころ保持器7Aの幅方向に延在する、当該外周側開口の輪郭は、第1掛け渡し部72aの外周側端縁74аによって形作られている。
【0049】
また、本開示において、第1開口部A1は、第1ころ保持器7Aの内周面(カム部材側表面)F72a(in)に内周側開口を形成している。前記内周側開口の、第1ころ保持器7Aの幅方向に延在する、当該内周側開口の輪郭は、第1掛け渡し部72aの内周側端縁75аによって形作られている。
【0050】
ここで、本開示において、第1開口部A1の周方向長さh1とは、筒状の第1ころ保持器7Aを平面的に展開したときの、当該第1ころ保持器7Aの周方向に沿って延在する、当該第1開口部A1の延在長さである。
【0051】
図4Aに示すように、本開示において、第1保持面73aは、軸直断面でみたとき(軸線方向視において)、第1開口部A1の周方向長さh1のうち、2つの第1掛け渡し部72aの外周側端縁74аの間の周方向長さh11が、2つの第1掛け渡し部72aの内周側端縁75аの間の周方向長さh12よりも短くなるように、外周側端縁74аから内周側端縁75аにむかって直線的に傾斜している。即ち、第1保持面73aは、傾斜面である。このため、本開示において、第1開口部A1の周方向長さh1は、第1ころ保持器7Aの外周面F72a(out)から内周面F72a(in)に向かうにしたがって一定の割合で長くなる。これによって、ころ6は、図4Bに示すように、軸直断面でみたとき、第1保持面73aと接触点Px1で接触する。即ち、ころ6は、図4Bに示すように、軸直断面でみたときの、第1保持面73aの接触点Px1上を、第1ころ保持器7Aの幅方向(第1掛け渡し部72aの延在方向)に線接触しながら回転することができる。したがって、本開示に係る第1保持面73aによれば、ころ6が第1掛け渡し部72aに対してよりスムーズに回転するように、ころ6を第1開口部A1に対して整列させることができる。さらには、この場合、第1ころ保持器7Aところ6とは、接触点Px1の位置で第1ころ保持器7Aの幅方向に線接触することになるため、第1ころ保持器7Aところ6との接触時の応力集中を緩和させることができる。ただし、第1保持面73aは、上記の傾斜面に代えて、曲面とすることができる。前記曲面の具体例としては、第1ころ保持器7Aの外周側(歯車側)に向かって内向きに凸の湾曲面とすることができる。前記湾曲面は、例えば、ころ6の半径を曲率半径とする湾曲面とすることができる。また、前記湾曲面は、第1ころ保持器7Aの内周側(カム部材側)に向かって外向きに凸の湾曲面とすることができる。
【0052】
図5には、筒状の第1ころ保持器7Aが、平面的に展開された状態で、第1ころ保持器7Aの外周側(歯車側)からころ6とともに概略的に示されている。
【0053】
図5を参照すれば、本開示において、ころ6は、軸線О6(「ころ軸線О6」ともいう。)を中心軸線とする直径dの円柱状部材である。本開示において、ころ6は、軸線О6を中心に回転させることができる。
【0054】
その一方で、本開示において、第1ころ保持器7Aは、ころ6の軸線方向端6eに隣接して配置された2つの環状部71a(以下、「第1環状部71a」ともいう。)と、2つの第1環状部71aを連結するとともに周方向に間隔を置いて配置された複数の第1掛け渡し部72aと、を備えている。即ち、本開示において、第1開口部A1は、2つの第1環状部71aと、2つの第1掛け渡し部72aとによって区画された四角形状の開口部である。
【0055】
図5を参照すれば、本開示において、第1ころ保持器7Aは、第1掛け渡し部72aの外周側端縁74aがころ6の軸線О6に対して平行になるように、当該ころ6に被せられている。また、第1開口部A1の周方向長さh1(この例では、2つの第1掛け渡し部72aの外周側端縁74аの間の周方向長さh11)は、ころ6の直径dよりも短い。また、本開示において、第1掛け渡し部72aには、図5に示すように、外周側端縁74aを基点に、第1ころ保持器7Aの内周側(図5の紙面裏側)に向かうにしたがって当該外周側端縁74aから離間するように傾斜する第1保持面73aが形成されている。これによって、ころ6の歯車側部分(図5の紙面表側部分)は、第1開口部A1から露出するとともに第1保持面73a上のころ6との接触点Px1(図5の平面視でみたときには、接触点Px1は、第1ころ保持器7Aの幅方向に延在する接触線Px1となる。)において、回転可能に保持されることになる。なお、本開示において、2つの第1環状部71aは、図5に示すように、ころ6の軸線方向端6eとの間に隙間を形成するように配置されている。この場合、摩擦ロスはさらに低減される。
【0056】
次いで、図6Aは、楕円形状のカム部材5の外周面F5を平面的に展開した状態で、ころ6がカム部材5の外周面F5上を、第1ころ保持器7Aによって適切に転動している状態を例示的かつ概略的に示す図である。図6Aには、第1ころ保持器7Aの第1開口部A1がころ6との関係を理解するために参考までに示されている。また、図6Bは、カム部材5の外周面F5を平面的に展開した状態で、ころ6がカム部材5の外周面F5上でスキューしている状態を例示的かつ概略的に示す図である。
【0057】
図6Aを参照すれば、ころ6は、第1ころ保持器7Aによって、ころ6の移動方向に対してスキューすることなく、カム部材5の外周面F5上を転動することができることがわかる。これに対し、図6Bに示すように、ころ保持器を有しない波動歯車装置によれば、ころ6は、ころ6の移動方向に対してスキューした状態のまま、カム部材5の外周面F5上をスライドすることになる。このスライドが、ころ6がスキューすることに伴う摩擦ロスを生じさせる。
【0058】
ところで、本開示において、カム部材5は、上述のとおり、軸線О1方向視において、非円形状である。この場合、第1ころ保持器7Aにおいて、第1開口部A1におけるころ6と2つの第1掛け渡し部72aとの2つの接触点Px1の間の周方向長さhx1(以下、「接触点長さhx1」ともいう。)は、下式(1)を満たすものとすることができる。
【0059】
【数1】
(d:ころ6の直径、t1:第1ころ保持器7Aの厚み(第1掛け渡し部72aの厚み)、x1:第1ころ保持器7Aの外周面F72a(out)からころ6と第1掛け渡し部72aとの接触点Px1までの距離(以下、「接触点距離x1」ともいう。))
【0060】
加えて、カム部材5が非円形状である場合、第1ころ保持器7Aの真円時における当該第1ころ保持器7Aの内径D1(以下、「第1ころ保持器7Aの真円内径D1」ともいう。)は、下式(2)を満たすものとすることができる。
【0061】
【数2】
(a:カム部材5の長軸半径、b: カム部材5の短軸半径、d:ころ6の直径)
【0062】
上記の式(1)および(2)を同時に満たすように、カム部材5の長軸半径aおよび短軸半径bと、ころ6の直径dと、第1ころ保持器7Aの厚みt1、第1開口部A1における接触点距離x1、接触点長さhx1および真円内径D1と、を設定する場合、後に詳述するように、用途、仕様等に応じた適切な寸法の、ころ6と、カム部材5と、第1ころ保持器7Aとを容易に導き出すことができる。この場合、スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減できる波動発生器4をより容易かつ安価に製造することができ、ひいては、波動歯車装置1をより容易かつ安価に製造することができる。
【0063】
具体的には、上記式(1)は、第1ころ保持器7Aの第1開口部A1における接触点長さhx1に着目した関係式である。
【0064】
図7Aは、第1ころ保持器7Aの第1開口部A1からころ6を脱落させないための、第1ころ保持器7Aところ6との寸法関係を、概略的に説明するための図である。図7Aは、図4Aと同様、軸直断面で示されている。
【0065】
ここで、第1開口部A1における接触点長さhx1とは、第1開口部A1の周方向長さh1のうち、1つのころ6と、当該1つのころ6を保持する2つの第1掛け渡し部72aとの接触点Px1の間の周方向長さをいう。第1開口部A1における接触点長さhx1は、ころ6を歯車側に脱落させないために、ころ6の直径dよりも小さくする必要がある。このため、図7Aに示すような幾何学的な関係から、第1開口部A1における接触点長さhx1と、ころ6の直径dとは、以下の関係式(1A)を満たすように設定する必要がある。
【0066】
【数3】
【0067】
上記関係式(1A)を満たすように、第1開口部A1における接触点長さhx1と、ころ6の直径dとを設定すれば、ころ6を第1開口部A1から脱落させないようにすることができる。
【0068】
次いで、図7Bは、第1ころ保持器7aの第1開口部A1からころ6を露出させるための、第1ころ保持器7Aところ6との寸法関係を、概略的に説明するための図である。図7Bもまた、図4Bと同様、軸直断面で示されている。
【0069】
本開示において、第1開口部A1における接触点長さhx1は、ころ6を第1開口部A1から脱落させないようにすることに加えて、当該ころ6を第1開口部A1から露出させる必要がある。このため、図7Bに示すような幾何学的な関係から、第1開口部A1における接触点距離x1および接触点長さhx1と、ころ6の直径dと、第1ころ保持器7Aの厚み(第1掛け渡し部72aの厚み)t1とを、以下の関係式(1B)を満たすように設定する必要がある。ここで、第1開口部A1における接触点距離x1とは、筒状の第1ころ保持器7Aを平面的に展開したときの、第1ころ保持器7Aの外周面F72a(out)から接触点Px1までの、第1掛け渡し部72a(第1ころ保持器7A)の厚み方向の距離をいう。
【0070】
【数4】
【0071】
上記関係式(1B)を満たすように、第1開口部A1における接触点距離x1および接触点長さhx1と、ころ6の直径dと、第1ころ保持器7Aの厚みt1とを設定すれば、ころ6を第1開口部A1から露出させることができる。例えば、第1開口部A1における接触点長さhx1は、ころ6の歯車側部分が第1ころ保持器7Aの外周側表面(第1掛け渡し部72aの外周側表面)F72a(out)の位置よりも突出するように、長くする必要がある。この条件は、関係式(1B)を満たすように、ころ6の直径dと、第1ころ保持器7Aの厚みt1と、第1開口部A1における接触点距離x1および接触点長さhx1とを設定することによって満たされる。
【0072】
上記の関係式(1A)、(1B)からも明らかなように、前述の式(1)は、第1開口部A1における接触点長さhx1に着目したものである。前述の式(1)を用いれば、ころ6を第1開口部A1から脱落させることなく、当該第1開口部A1から露出させることが可能な、ころ6の直径dと、第1ころ保持器7Aの厚み(第1掛け渡し部72aの厚み)t1と、第1開口部A1における接触点距離x1および接触点長さhx1とを容易に導き出すことができる。この場合、ころ6を第1開口部A1から脱落させることなく、当該第1開口部A1から露出させることが可能な波動発生器4をより容易かつ安価に製造することができ、ひいては、ころ6を第1開口部A1から脱落させることなく、当該第1開口部A1から露出させることが可能な波動歯車装置1をより容易かつ安価に製造することができる。
【0073】
また、上述の式(2)は、第1ころ保持器7Aが真円状態にあるときの、当該第1ころ保持器7Aの内径D1に着目した関係式である。
【0074】
図8Aは、第1ころ保持器7Aの真円時内径D1(図3参照。)と、カム部材5およびころ6との寸法関係を概略的に説明するための図である。図8Aにおいて、カム部材5には、第2ころ保持器7Bが省略された軸受B2が取り付けられている。即ち、本開示において、軸受B2は、ころ6と、第1ころ保持器7Aによって形成されている。
【0075】
第1ころ保持器7Aの真円時内径D1は、ころ6とともにカム部材5に取り付けられた状態において、少なくともカム部材5の長軸側では、第1ころ保持器7Aからころ6の側に、当該ころ6を押さえつけるような力を働かせる必要がある。このため、第1ころ保持器7Aの真円時内径D1は、少なくとも、カム部材5の2つの長軸部にそれぞれ、ころ6を配置したときの寸法よりも小さくする必要がある。図8Aを参照すれば、カム部材5の2つの長軸部にそれぞれ、ころ6を配置したときの、波動発生器4の長軸方向寸法は、カム部材5の長軸半径aところ6の直径dの和を2倍にしたときの値((a+d)×2)である。したがって、第1ころ保持器7Aの真円時内径D1と、カム部材5の長軸半径aと、ころ6の直径dとは、以下の関係式(2A)を満たすように設定する必要がある。
【0076】
【数5】
【0077】
上記関係式(2A)を満たすように、第1ころ保持器7Aの真円時内径D1と、カム部材5の長軸半径aと、ころ6の直径dとを設定すれば、図8Aに示すように、第1ころ保持器7Aをころ6とともにカム部材5に取り付けた状態において、少なくともカム部材5の長軸側では、第1ころ保持器7Aからころ6を押さえつけるような力を働かせることができる。
【0078】
図8Bは、第1ころ保持器7Aの真円時内径D1と、カム部材5およびころ6との寸法関係を概略的に説明するための他の図である。図8Bにおいても、カム部材5には、軸受B2が取り付けられている。
【0079】
第1ころ保持器7Aの真円時内径D1は、カム部材5の長軸側で変形している第1ころ保持器7Aの内周面F72a(in)の位置が当該長軸側のカム部材5上のころ軸線О6の位置よりも歯車側(波動発生器4の外周側)にあるように、大きくする必要がある。第1ころ保持器7Aがカム部材5の長軸側で変形しているときに、第1ころ保持器7Aの内周面F72a(in)の位置がカム部材5上のころ6の中心軸線О6の位置よりもカム部材側にある場合、ころ6を第1掛け渡し部72aによって、第1開口部A1内に押さえつけることが困難になるためである。このため、図8Bを参照すれば、Gauss-Kummerの式より、カム部材5の長軸半径aおよび短軸半径bと、ころ6の直径dとは、以下の関係式(2B)を満たすように設定する必要がある。
【0080】
【数6】
【0081】
上記関係式(2B)を満たすように、カム部材5の長軸半径aおよび短軸半径bと、第1ころ保持器7Aの真円時内径D1と、ころ6の直径dとを設定すれば、第1ころ保持器7Aがカム部材5の長軸側で変形しているときに、第1ころ保持器7Aの位置は、カム部材5上のころ6の中心軸線О6よりも歯車側にある。これによって、第1ころ保持器7Aがカム部材5の長軸側で変形しているときに、当該第1ころ保持器7Aは、ころ6を第1掛け渡し部72aによって、第1開口部A1内に押さえつけることができる。
【0082】
上記の関係式(2A)、(2B)からも明らかなように、前述の式(2)は、第1ころ保持器7Aの真円時直径D1に着目したものである。前述の式(2)を用いれば、第1ころ保持器7Aをころ6とともにカム部材5に取り付けた状態において、少なくともカム部材5の長軸側では、ころ6の歯車側部分を第1ころ保持器7Aの第1開口部A1から露出させると同時に、当該第1ころ保持器7Aの第1掛け渡し部72aによってころ6をカム部材側に押さえつけることが可能な、カム部材5の長軸半径aおよび短軸半径bと、ころ6の直径dと、第1ころ保持器7Aの真円時内径D1とを容易に導き出すことができる。この場合、第1ころ保持器7Aをころ6とともにカム部材5に取り付けた状態において、少なくともカム部材5の長軸側では、ころ6の歯車側部分を第1ころ保持器7Aの第1開口部A1から露出させると同時に、当該第1ころ保持器7Aの第1掛け渡し部72aによってころ6をカム部材側に押さえつけることが可能な波動発生器4をより容易かつ安価に製造することができ、ひいては、ころ6の歯車側部分を第1ころ保持器7Aの第1開口部A1から露出させると同時に、当該第1ころ保持器7Aの第1掛け渡し部72aによってころ6をカム部材側に押さえつけることが可能な波動歯車装置1をより容易かつ安価に製造することができる。
【0083】
したがって、前述の式(1)および(2)を用いれば、用途、仕様等に応じた適切な寸法の、ころ6と、カム部材5と、第1ころ保持器7Aとを容易に導き出すことができる。この場合、スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減できる波動発生器4をより容易かつ安価に製造することができ、ひいては、波動歯車装置1をより容易かつ安価に製造することができる。
【0084】
ところで、図4Aを参照すれば、本開示において、ころ保持器7は、第2ころ保持器7Bを含んでいる。第2ころ保持器7Bは、図4Aに示すように、第2掛け渡し部72bによって、ころ6をカム部材側に脱落させないように抜け止めしている。その一方で、カム部材5は、上述のとおり、基本的に、当該カム部材5の長軸部以外の場所(例えば、カム部材5の短軸部)において、ころ6にカム部材5からの押し付け力を発生させることはない。このため、図4Aで示すように、第2ころ保持器7Bを含んでいる場合も、ころ6は、例えば、カム部材5の短軸部では、第1ころ保持器7Aと接触することなく、自由な状態になっている。このため、第2ころ保持器7Bを含んでいる場合も、ころ6がカム部材5の長軸部以外の場所を通過するときに生じ得る、ころ保持器7およびカム部材5との接触に伴う摩擦ロスが低減される。また、第2ころ保持器7Bは、図4Aに示すように、第2開口部A2によって、ころ6のカム部材側部分が第2開口部A2内に位置するように構成されている。このため、第2ころ保持器7Bによれば、互いに隣り合うころ6の間隔は、第2ころ保持器7Bの周方向に沿った適切な間隔に保たれている。
【0085】
他方、図4Bに示すように、第2ころ保持器7Bは、基本的に、カム部材5の長軸部においても、ころ6に押し付け力を発生させることはない。このため、第2ころ保持器7Bを含んでいる場合も、ころ6は、カム部材5の長軸部において、カム部材5と第1ころ保持器7A(第1掛け渡し部72a)とに挟まれることによって、歯車側から押さえつけられるのみである。このため、本開示において、第2ころ保持器7Bは、ころ6および第1ころ保持器7Aとともにカム部材5に取り付けられた状態において、少なくともカム部材5の短軸側(短軸部)では、ころ6が第1ころ保持器7Aと第2ころ保持器7Bとの間で自由に動くことを許容しつつ、複数の第2開口部A2の間に形成された第2掛け渡し部72bによって、ころ6をカム部材側から脱落しないように保持し、かつ、少なくともカム部材5の長軸側(長軸部)では、第2掛け渡し部72bとの接触を極力回避しつつ、第2開口部A2によって、ころ6を回転可能にカム部材側に露出させている。加えて、少なくともカム部材5の長軸側(長軸部)では、第2ころ保持器7Bの第2開口部A2において、ころ6は、図4Aおよび図4Bに示すように、第2ころ保持器7Bの第2開口部A2の形状に沿うように、当該第2開口部A2の位置に整列する。これによって、第2ころ保持器7Bを含んでいる場合も、ころ6は、カム部材5の長軸部において、スキューを生じることなく、カム部材5の外周面F5と外歯歯車3の内周面F3とに対する相対的な転動を行うことができる。このため、第2ころ保持器7Bによれば、第1ころ保持器7Aと同様に、カム部材5の長軸部において生じ得る、ころ6のスキューが防止される。その結果、第2ころ保持器7Bによれば、第1ころ保持器7Aと同様に、ころ6のスキューに起因する摩擦ロスもまた低減される。したがって、本開示の波動発生器4のように、第2ころ保持器7Bを付加した場合、摩擦ロスを低減しつつスキューをより防止することができ、ひいては、波動発生器4を採用した、本開示の波動歯車装置1もまた、摩擦ロスを低減しつつスキューをより防止することができる。
【0086】
また、本開示の第2ころ保持器7Bのように、当該第2ころ保持器7Bを、複数の第2開口部A2が周方向に間隔を置いて形成された、可撓性を有する筒状に形作り、波動発生器4の内周側からころ6を覆うように配置した場合、軸受の内輪は、必須の構成部品ではなく、任意の部品となる。
【0087】
その一方で、例えば、特許文献2に記載された従来の波動歯車装置は、ころ保持器に加えて、カム部材の外周面(カム面)の幅方向両側に2つの段面を形成し、これら2つの段面のそれぞれに円筒バネを配置し、内輪によってころを波動発生器の内周側から覆っている。したがって、従来の波動歯車装置は、必要な部品点数も多くなるので製造コストも増加する。
【0088】
これに対し、本開示の第2ころ保持器7Aによれば、円筒バネ等の追加部品を必要とすることがない。このため、本開示の波動発生器4によれば、スキューの発生を抑制しつつ、当該スキューの発生を抑制するために必要な部品の点数を削除することができ、その結果、製造コストを低減させることができる。
【0089】
したがって、本開示のように、第2ころ保持器7Bを付加した場合、摩擦ロスを低減しつつスキューをより防止することができる波動発生器4を容易かつ安価に製造することができ、ひいては、摩擦ロスを低減しつつスキューをより防止することができる波動歯車装置1を容易かつ安価に製造することができる。
【0090】
また、第2ころ保持器7Bを付加した場合、第2ころ保持器7Bがころ6をカム部材5側から保持することになる。この場合、本開示のように、ころ6(転動体)ところ保持器(保持器)と、を軸受B1として、一体的に取り扱うことが可能となる。この場合、本開示のように、軸受B1は、軸受として単体で、例えば、流通させ、または、運搬し、または、組立作業時の一部品として用いることができる。したがって、軸受B1は、相手側のカム部材5に組み付けるときの組付け性が良好な軸受となる。したがって、軸受B1を用いれば、スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減でき、さらに、カム部材への組付け性も向上させることができる。このように、軸受B1を用いれば、スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減できる、波動発生器4を容易かつ安価に製造することができ、ひいては、波動歯車装置1を容易かつ安価に製造することができる。
【0091】
また、本開示において、第2ころ保持器7Bの第2掛け渡し部72bもまた、ころ6を回転可能に保持する保持面73b(以下、「第2保持面73b」ともいう。)を有している。第2保持面73bもまた、第1保持面73aと同様の、傾斜面または曲面によって形成されているものとすることができる。この場合、第1保持面73aと同様、ころ6をよりスムーズに転動させるように、ころ6を第2開口部A2に対して整列させることができる。さらには、この場合、第2ころ保持器7Bところ6との接触時の応力集中を緩和させることができる。
【0092】
図4Bを参照すれば、本開示において、第2開口部A2は、第2ころ保持器7Bの内周面(カム部材側表面)F72b(in)に内周側開口を形成している。前記内周側開口の、第2ころ保持器7Bの幅方向に延在する、当該内周側開口の輪郭は、第2掛け渡し部72bの内周側端縁75bによって形作られている。
【0093】
また、本開示において、第2開口部A2は、第2ころ保持器7Bの外周面(歯車側表面)F72b(out)に外周側開口を形成している。前記外周側開口の、第2ころ保持器7Bの幅方向に延在する、当該外周側開口の輪郭は、第2掛け渡し部72bの外周側端縁74bによって形作られている。
【0094】
ここで、本開示において、第2開口部A2の周方向長さh2とは、筒状の第2ころ保持器7Bを平面的に展開したときの、当該第2ころ保持器7Bの周方向に沿って延在する、当該第2開口部A2の延在長さである。
【0095】
図4Bに示すように、本開示において、第2保持面73bは、軸直断面でみたとき(軸線方向視において)、第2開口部A2の周方向長さh2のうち、2つの第2掛け渡し部72bの内周側端縁75bの間の周方向長さh22が、2つの第2掛け渡し部72bの外周側端縁74bの間の周方向長さh21よりも短くなるように、内周側端縁75bから外周側端縁74bにむかって直線的に傾斜している。即ち、第2保持面73bもまた、傾斜面である。このため、本開示において、第2開口部A2の周方向長さh2は、第2ころ保持器7Bの内周面F72b(in)から外周面F72b(out)に向かうにしたがって一定の割合で長くなる。これによって、ころ6は、後述する図7Aに示すように、軸直断面でみたとき、第2保持面73bと接触点Px2で接触することができる。即ち、ころ6は、図7Aに示すように、軸直断面でみたときの、第2保持面73bの接触点Px2上を、第2ころ保持器7Bの幅方向(第2掛け渡し部72bの延在方向)に線接触しながら回転することができる。したがって、本開示に係る第2保持面73bによれば、第1ころ保持器7Aの第1保持面73aと同様、ころ6が第2掛け渡し部72bに対してよりスムーズに回転するように、ころ6を第2開口部A2に対して整列させることができる。さらには、この場合、第2ころ保持器7Bところ6とは、第1保持面73aと同様、接触点Px2の位置で第2ころ保持器7Bの幅方向に線接触することになるため、第2ころ保持器7Bところ6との接触時の応力集中を緩和させることができる。ただし、第2保持面73bもまた、第1保持面73aと同様、上記の傾斜面に代えて、曲面とすることができる。前記曲面の具体例としては、第2ころ保持器7Bの内周側(カム部材側)に向かって内向きに凸の湾曲面とすることができる。前記湾曲面は、例えば、ころ6の半径を曲率半径とする湾曲面とすることができる。また、前記湾曲面は、第2ころ保持器7Bの外周側(歯車側)に向かって外向きに凸の湾曲面とすることができる。
【0096】
また、図5を、第2ころ保持器7Bの内周面側(カム部材側)からみたと仮定したとき、当該図5を参照すれば、本開示において、第2ころ保持器7Bもまた、第1ころ保持器7Aと同様、複数のころ6の軸線方向端6eに隣接して配置された2つの環状部71b(以下、「第2環状部71b」ともいう。)と、2つの第2環状部71bを連結するとともに周方向に間隔を配置された複数の第2掛け渡し部72bと、を備えている。即ち、本開示において、第2開口部A2もまた、第1ころ保持器7Aと同様、2つの第2環状部71bと、2つの第2掛け渡し部72bとによって区画された四角形状の開口部である。
【0097】
図5を参照すれば、本開示において、第2ころ保持器7Bもまた、第2掛け渡し部72bの内周側端縁75bがころ6の軸線О3に対して平行になるように、当該ころ6に被せられている。また、第2開口部A2の周方向長さh2(この例では、2つの第2掛け渡し部72bの内周側端縁75bの間の周方向長さh22)は、ころ6の直径dよりも短い。また、本開示において、第2掛け渡し部72bには、図5に示すように、内周側端縁75bを基点に、第2ころ保持器7Bの外周側(図5の紙面裏側)に向かうにしたがって当該内周側端縁75bから離間するように傾斜する第2保持面73bが形成されている。これによって、ころ6のカム部材側(図5の紙面表側)部分は、第2開口部A2から露出するとともに第2保持面73b上のころ6との接触点Px2(図5の平面視でみたときには、接触点Px2は、第2ころ保持器Bの幅方向に延在する接触線Px2となる。)において、回転可能に保持されることになる。なお、本開示において、2つの第2環状部71bもまた、図5に示すように、ころ6の軸線方向端6eとの間に隙間を形成するように配置されている。この場合、摩擦ロスはさらに低減される。
【0098】
また、図6Aに示すように、ころ6は、第2ころ保持器7Bによっても、ころ6の移動方向に対してスキューすることなく、カム部材5の外周面F5上を転動することができる。
【0099】
ところで、第2ころ保持器7Bにおいて、第2開口部A2におけるころ6と2つの第2掛け渡し部72bとの2つの接触点Px2の間の周方向長さhx2(以下、「接触点長さhx2」ともいう。)は、下式(3)を満たすものとすることができる。
【0100】
【数7】
(d:ころ6の直径、t2:第2ころ保持器7Bの厚み(第2掛け渡し部72bの厚み)、x2:第2ころ保持器7Bの内周面F72b(in)からころ6と第2掛け渡し部72bとの接触点までの距離(以下、「接触点距離x2」ともいう。))
【0101】
加えて、カム部材5が非円形状である場合、第2ころ保持器7Bの真円時における当該第2ころ保持器7Bの内径D2(以下、「第2ころ保持器7Bの真円内径D2」ともいう。)は、下式(4)を満たすものとすることができる。
【0102】
【数8】
(a:カム部材の長軸半径、b: カム部材の短軸半径、d:ころの直径)
【0103】
上記の式(3)および(4)を同時に満たすように、カム部材5の長軸半径aおよび短軸半径bと、ころ6の直径dと、第2ころ保持器7Bの厚みt2、第2開口部A2における接触点距離x2、接触点長さhx2および真円内径D2と、を設定する場合、後に詳述するように、用途、仕様等に応じた適切な寸法の、ころ6と、カム部材5と、第2ころ保持器7Bとを容易に導き出すことができる。この場合、摩擦ロスを低減しつつスキューをより防止することができる波動発生器4をより容易かつ安価に製造することができ、ひいては、摩擦ロスを低減しつつスキューをより防止することができる波動歯車装置1をより容易かつ安価に製造することができる。
【0104】
具体的には、上記式(3)は、第1ころ保持器7Aと同様、第2ころ保持器7Bの第2開口部A2における接触点長さhx2に着目した関係式である。
【0105】
ここで、第2開口部A2における接触点長さhx2とは、第2開口部A2の周方向長さh2のうち、1つのころ6と、当該1つのころ6を保持する2つの第2掛け渡し部72bとの接触点Px2の間の周方向長さをいう。図7Aを参照すれば、第2開口部A2における接触点長さhx2は、第1ころ保持器7Aと同様、ころ6をカム部材側に脱落させないために、ころ6の直径dよりも小さくする必要がある。このため、第1ころ保持器7Aと同様、図7Aに示すような幾何学的な関係から、第2開口部A2における接触点長さhx2と、ころ6の直径dとは、以下の関係式(3A)を満たすように設定する必要がある。
【0106】
【数9】
【0107】
上記関係式(3A)を満たすように、第2開口部A2における接触点長さhx2と、ころ6の直径dとを設定すれば、ころ6を第2開口部A2から脱落させないようにすることができる。
【0108】
次いで、図7Bを参照すれば、本開示において、第2開口部A2における接触点長さhx2は、第1開口部A1における接触点長さhx1と同様、ころ6を第2開口部A2から脱落させないようにすることに加えて、当該ころ6を第2開口部A2から露出させる必要がある。このため、第1ころ保持器7Aと同様、図7Bに示すような幾何学的な関係から、第2開口部A2における接触点距離x2および接触点長さhx2と、ころ6の直径dと、第2ころ保持器7B(第2掛け渡し部72b)の厚みt2とを、以下の関係式(3B)を満たすように設定する必要がある。ここで、第2開口部A2における接触点距離x2とは、筒状の第2ころ保持器7Bを平面的に展開したときの、第2ころ保持器7Bの内周面F72b(in)から接触点Px2までの、第2掛け渡し部72b(第2ころ保持器7B)の厚み方向の距離をいう。
【0109】
【数10】
【0110】
上記関係式(3B)を満たすように、第2開口部A2における接触点距離x2および接触点長さhx2と、ころ6の直径dと、第2ころ保持器7Bの厚みt2とを設定すれば、第1ころ保持器7Aと同様、ころ6を第2開口部A2から露出させることができる。例えば、第2開口部A2における接触点長さhx2は、ころ6のカム部材側部分が第2ころ保持器7Bの内周面(第2掛け渡し部72bの内周側表面)F72b(in)の位置よりも突出するように、長くする必要がある。この条件は、関係式(3B)を満たすように、ころ6の直径dと、第2ころ保持器7Bの厚みt2と、第2開口部A2における接触点距離x2および接触点長さhx2とを設定することによって満たされる。
【0111】
上記の関係式(3A)、(4B)からも明らかなように、前述の式(3)は、第2開口部A2における接触点長さhx2に着目したものである。前述の式(3)を用いれば、ころ6を第2開口部A2から脱落させることなく、当該第2開口部A2から露出させることが可能な、ころ6の直径dと、第2ころ保持器7Bの厚み(第2掛け渡し部72bの厚み)t2と、第2開口部A2における接触点距離x2および接触点長さhx2とを容易に導き出すことができる。この場合、ころ6を第2開口部A2から脱落させることなく、当該第2開口部A2から露出させることが可能な波動発生器4をより容易かつ安価に製造することができ、ひいては、ころ6を第2開口部A2から脱落させることなく、当該第2開口部A2から露出させることが可能な波動歯車装置1をより容易かつ安価に製造することができる。
【0112】
また、上述の式(4)は、第2ころ保持器7Bが真円状態にあるときの、当該第2ころ保持器7Bの内径D2に着目した関係式である。
【0113】
図8Aは、第2ころ保持器7Bの真円時内径D2と、カム部材5およびころ6との寸法関係を概略的に説明するための図である。
【0114】
第2ころ保持器7Bの真円時内径D2は、カム部材5の長軸側で変形している第2ころ保持器7Bの内周面F72b(in)の位置が当該長軸側のカム部材5上のころ軸線О6の位置よりもカム部材側にあるように、小さくする必要がある。第2ころ保持器7Bがカム部材5の長軸側で変形しているときに、第2ころ保持器7Bの内周面F72a(in)の位置がカム部材5上のころ6の中心軸線О6の位置よりも歯車側にある場合、ころ6よりも歯車側にある第1ころ保持器7Aと干渉してしまう可能性があるためである。このため、図9Aを参照すれば、Gauss-Kummerの式より、カム部材5の長軸半径aおよび短軸半径bと、ころ6の直径dとは、以下の関係式(4A)を満たすように設定する必要がある。
【0115】
【数11】
【0116】
上記関係式(4A)を満たすように、第2ころ保持器7Bの真円時内径D2と、カム部材5の長軸半径aと、ころ6の直径dとを設定すれば、第2ころ保持器7Bは、ころ6と不用意に干渉することがなく、さらに、第1ころ保持器7Aとも干渉することがない。
【0117】
図9Bは、第2ころ保持器7Bの真円時内径D2と、カム部材5およびころ6との寸法関係を概略的に説明するための他の図である。
【0118】
第2ころ保持器7Bの真円時内径D2は、第2ころ保持器7Bの内周面F72b(in)の周長がカム部材5の外周面F5の周長よりも長くなるように、大きくする必要がある。ここで、「周長」とは、「軸線О1の周りの周方向の長さ」をいう。第2ころ保持器7Bの真円時内径D2を、当該第2ころ保持器7Bの内周面F72b(in)の周長がカム部材5の外周面F5の周長よりも短くなるように、小さくした場合、カム部材5よりも周長が小さい場合、第2ころ保持器7Bと、カム部材5とが接触してしまう可能性があるためである。このため、図9Bを参照すれば、Gauss-Kummerの式より、カム部材5の長軸半径aおよび短軸半径bとは、以下の関係式(4B)を満たすように設定する必要がある。
【0119】
【数12】
【0120】
上記関係式(2B)を満たすように、カム部材5の長軸半径aおよび短軸半径bを設定すれば、第2ころ保持器7Bと、カム部材5との接触を回避することができる。即ち、上記関係式(4B)を満たすように、カム部材5の長軸半径aおよび短軸半径bを設定すれば、第2ころ保持器7Bと、カム部材5ともまた、干渉することがない。
【0121】
上記の関係式(4A)、(4B)からも明らかなように、前述の式(4)は、第2ころ保持器7Bの真円時直径D2に着目したものである。前述の式(4)を用いれば、ころ6の歯車側部分を第2ころ保持器7Bの第2開口部A2から露出させると同時に、ころ6と不用意に干渉することがなく、さらに、第1ころ保持器7Aおよびカム部材5とも干渉することがないような、カム部材5の長軸半径aおよび短軸半径bと、ころ6の直径dと、第2ころ保持器7Bの真円時内径D2とを容易に導き出すことができる。
【0122】
したがって、前述の式(3)および(4)を用いれば、用途、仕様等に応じた適切な寸法の、ころ6と、カム部材5と、第2ころ保持器7Bとを容易に導き出すことができる。
【0123】
本開示において、第1ころ保持器7Aは、樹脂または軽金属によって形成されているものとすることができる。この場合、既存の材料を用いることによって、第1ころ保持器7Aを容易に製造することができる。即ち、この場合、既存の材料を用いることによって波動発生器4、結果的には、波動歯車装置1を容易に製造することができる。さらに、本開示において、第2ころ保持器7Bもまた、樹脂または軽金属によって形成されているものとすることができる。この場合も、既存の材料を用いることによって波動発生器4、結果的には、波動歯車装置1を容易に製造することができる。
【0124】
ころ保持器7は、例えば、アルミニウム合金、チタン合金、それらの単体などの、可撓性を有する軽金属合金または軽金属単体、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、POM(ポリオキシメチレン)などのエンジニアリングプラスチックなどの樹脂材によって形成することができる。
【0125】
ところで、本開示において、波動発生器4は、図8に示す軸受B2のような、ころ軸受を備えていることが好ましい。本開示において、軸受B2は、ころ6と、第1ころ保持器7Aとによって形成されている。この場合、軸受B2には、内輪および外輪の2つの部材が省略されている。したがって、この場合、波動発生器4の小型化を図ることができ、結果的に、波動歯車装置1の小型化を図ることができる。
【0126】
ただし、本発明に係る、波動歯車装置およびその波動発生器において、前記ころ軸受は、ころ6と、第1ころ保持器7Aと、可撓性を有する外輪11とよって形成されているものとすることができる。この場合、こうした軸受をカム部材5に取り付けたとき、ころ6の歯車側部分は、外輪11の軌道面を転動する。したがって、この場合、ころ6を、波動発生器4の外周側においてスムーズに転動させることができる。
【0127】
また、本発明に係る、波動歯車装置およびその波動発生器において、前記ころ軸受は、少なくとも、ころ6と、第1ころ保持器7Aと、可撓性を有する内輪12とによって形成されているものとすることができる。この場合、こうしたころ軸受をカム部材5に取り付けたとき、ころ6のカム部材側部分は、内輪12の軌道面を転動する。したがって、この場合、ころ6を、カム部材側においてスムーズに転動させることができる。
【0128】
ここで、図10には、本発明に係る、波動歯車装置およびその波動発生器に採用可能な、ころ軸受の一例が概略的に示されている。
【0129】
本開示の波動発生器および波動歯車装置には、上述のとおり、図8Aの軸受B2のような、ころ6を第1ころ保持器7Aのみによって覆う構成の軸受を採用することができる。その一方で、図10の軸受B3は、ころ6と、第1ころ保持器7Aと、可撓性を有する外輪11と、可撓性を有する内輪12と、を備えている。軸受B3は、外輪11と内輪12との間に、ころ保持器7として、第1ころ保持器7Aのみを備えている。ただし、軸受B3には、第2ころ保持器7Bを付加することができる。また、軸受B3の変形例としては、外輪11または内輪12のいずれか一方を省略したものも含まれる。
【0130】
上述のとおり、本開示の波動発生器および波動歯車装置によれば、スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減でき、さらに、製造コストが抑制された、波動歯車装置の波動発生器および波動歯車装置を提供することができる。
【0131】
上述したところは、本発明に係る、例示的な実施形態を示したにすぎず、特許請求の範囲に従えば、様々な変更が可能となる。本実施形態において、波動歯車装置1および波動発生器4は、2ローブ形で説明したが、波動歯車装置1および波動発生器4は、2ローブ形に限定されるものではない。例えば、カム部材5は、複数ローブ形とすることができる。カム部材5の具体例としては、例えば、三角形状の3ローブ形、四角形状の4ローブ形が挙げられる。また、上記説明では、波動歯車装置1の動力伝達経路は、波動発生器4を入力とし、外歯歯車3を出力としたが、これに限定されるものではない。例えば、波動歯車装置1の動力伝達経路は、外歯歯車3を入力とし、波動発生器4を出力としてもよい。
【符号の説明】
【0132】
1:波動歯車装置, 2:内歯歯車, 3:外歯歯車, 4:波動発生器, 5:カム部材, 6:ころ, 7:ころ保持器, 7A:第1ころ保持器, 71a:第1環状部, 72a:第1掛け渡し部, 73a;第1保持面, 73b;第2保持面, 74a:第1掛け渡し部の外周側端縁, 75a:第1掛け渡し部の内周側端縁, 7B:第2ころ保持器, 71b:第2環状部, 72b:第2掛け渡し部, 73b;第2保持面, 74b:第2掛け渡し部の外周側端縁, 75b:第2掛け渡し部の内周側端縁, 8:駆動シャフト, 11:外輪, 12:内輪, A1:第1開口部, A2:第2開口部, B1~B3:軸受, d:ころの直径, D1:第1ころ保持器の真円時における内径, D2:第2ころ保持器の真円時における内径, F72a(out):第1ころ保持器の外周面, F72a(in):第1ころ保持器の内周面, F72b(out):第2ころ保持器の外周面, F72b(in):第2ころ保持器の内周面, h1:第1開口部の周方向長さ, h2:第2開口部の周方向長さ, hx1:第1開口部における接触点長さ(第1開口部におけるころと2つの第1掛け渡し部との2つの接触点の間の周方向長さ), hx2:第2開口部における接触点長さ(第2開口部におけるころと2つの第2掛け渡し部との2つの接触点の間の周方向長さ), О1:軸線(波動歯車装置1の中心軸線), О6;軸線(ころの軸線), Px1:ころと第1保持面との接触点, Px2:ころと第2保持面との接触点, t1:第1ころ保持器の厚み, t2:第2ころ保持器の厚み, x1:第1開口部における接触点距離(第1ころ保持器の外周面からころと第1掛け渡し部との接触点までの距離), x2:第2開口部における接触点距離(第2ころ保持器の内周面からころと第2掛け渡し部との接触点までの距離)
【要約】
【課題】スキューを防止しつつ摩擦ロスを低減できる、波動歯車装置の波動発生器および波動歯車装置を提供する。
【解決手段】波動歯車装置1の波動発生器4は、非円形状のカム部材5と、カム部材5の外周側に配置された複数のころ6と、ころ6を保持するころ保持器7と、を備える。ころ保持器7は、第1ころ保持器7Aを含んでおり、第1ころ保持器7Aは、複数の開口部A1が周方向に間隔を置いて形成された、可撓性を有する筒状に形作られており、ころ6とともにカム部材5に取り付けられた状態において、少なくともカム部材5の長軸側では、開口部A1の間に形成された掛け渡し部72aによって、ころ6を波動発生器4の外周側から保持し、かつ、開口部A1によって、ころ6を回転可能に波動発生器4の外周側に露出させる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10