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特許7321434過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法
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  • 特許-過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/16 20060101AFI20230731BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
A01N37/16
A01P3/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019550328
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2018039923
(87)【国際公開番号】W WO2019087972
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2017211873
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】加藤 光弘
(72)【発明者】
【氏名】影山 智津子
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/027258(WO,A2)
【文献】特表2013-515072(JP,A)
【文献】特開平10-218718(JP,A)
【文献】特開平02-142709(JP,A)
【文献】加藤光弘 他3名,食品添加物によるカンキツ貯蔵病害の軽減効果,平成29年度日本植物病理学会大会プログラム・講演要旨予稿集,2017年04月12日,79
【文献】大越俊行,過酢酸製剤の特徴と有効性,ジャパンフードサイエンス,日本,日本食品出版株式会社,2016年,6月号,16-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/16
A01P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収穫された果実を、その果梗部ともども、その貯蔵および/または輸送の前に、10ppm以上100ppm未満の濃度で過酢酸を含む殺菌剤に接触させる工程を含み、前記接触工程が、殺菌剤に果実を、その果梗部ともども、0~40℃の温度環境下、5秒以上5分以下で浸漬することによって行われることを特徴とする、過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法であって
但し、前記接触工程は密閉下で行われるものではなく、かつ殺菌剤は2-ヒドロキシ有機酸を含まない、方法。
【請求項2】
接触工程後、殺菌剤の洗浄工程を含まない、請求項1に記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
【請求項3】
接触工程後、乾燥工程を含む、請求項1または2に記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
【請求項4】
収穫された果実が、カンキツ類の果実である、請求項1~のいずれか一項に記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
【請求項5】
収穫された果実が、ナス科植物の果実である、請求項1~のいずれか一項に記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
【請求項6】
貯蔵病害が、青かび病、緑かび病および/または灰色かび病である、請求項またはに記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法に関する。具体的には、収穫された果実の貯蔵病害の抑制方法であって、果実の表面全体およびその果梗部を、その貯蔵および/または輸送の前に、特定濃度の過酢酸を含む殺菌剤に接触させる工程を含むことを特徴とする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物流網が発達し、各種農産物が国内の遠隔地または海外へも供給されることも珍しくはなくなった。しかしながら、国内の遠隔地または海外への供給の際には、依然として数日から数週間の貯蔵および/または輸送期間を要するため、収穫後の農産物を当該期間中、損なうことなく保管することが益々重要になっている。特に、農産物の収穫後から、貯蔵、輸送、販売に至るまでの期間に生じるいわゆる「貯蔵病害」は、果実、特に果物や野菜などの生鮮食品を腐敗させるため問題となる。貯蔵病害は、収穫前に感染した病原菌に起因する場合や、収穫後の種々の作業中に生じた傷口から新たに感染した病原菌に起因する場合があり、そのような貯蔵病害として、黒かび病、炭疽病、灰色かび病、青かび病、緑かび病などが知られている。またこれらの貯蔵病害は、ペニシリウム(Penicillium)属菌やボトリチス(Botrytis)属菌などの各種糸状菌(一般に、カビと称される)に由来することも知られている。
【0003】
このような貯蔵病害の対策として、農薬の使用や、貯蔵管理技術の改善など様々な試みがなされている。しかしながら、特に海外への輸出の際には、残留農薬基準が国内と異なるため、国内で使用している貯蔵病害を対象とした農薬が使用できない場合がある。また国内でも、農薬の使用は、しばしば消費者に忌避される。したがって、農薬の使用以外の貯蔵病害の対策が求められている。
【0004】
日本では、ポストハーベスト農薬に類するものとして、防カビ剤(オルトフェニルフェノール、ビフェニル、チアベンダゾール等)および防虫剤(ピペロニルブトキシド)が食品添加物として認められている。また近年、過酢酸製剤が食品添加物として認可された。過酢酸は従前、農園芸用殺菌剤として、例えば、イネ、トマト、白菜、キャベツの病害用殺菌剤として、灌注処理により適用可能なことが知られている(例えば、特許文献1参照)。また黒胡椒などの香辛料を、特定の濃度範囲および温度範囲にある過酢酸水溶液で処理することにより、風味劣化が無く、殺菌することができる旨が報告されている(例えば、特許文献2参照)。さらに農産物の殺菌に、エネルギー(熱・圧力)を利用して過酢酸から放出させた発生期原子状酸素を利用する方法が報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-258005号公報
【文献】特開2007-252369号公報
【文献】特表2005-514169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、農薬を使用しない、果実の貯蔵病害の抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、近年、日本で食品添加物として認可され、また世界各国でもその使用が認可されている過酢酸製剤に着目し鋭意検討した結果、極めて低濃度の過酢酸により収穫された果実を処理することにより、その貯蔵病害を、国内の遠隔地または海外への供給に要する数日から数週間にわたる貯蔵および/または輸送期間の間、抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
したがって、本発明は以下のとおりである:
[1] 収穫された果実を、その果梗部ともども、その貯蔵および/または輸送の前に、10ppm以上100ppm未満の濃度で過酢酸を含む殺菌剤に接触させる工程を含むことを特徴とする、過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
[2] 接触工程が、殺菌剤に果実を、その果梗部ともども、浸漬することによって行われる、上記[1]に記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
[3] 浸漬が、0~40℃の温度環境下で、5秒以上5分以下で実施される、上記[2]に記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
[4] 接触工程が、殺菌剤を果実に、その果梗部ともども、噴霧することによって行われる、上記[1]に記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
[5] 接触工程後、殺菌剤の洗浄工程を含まない、上記[1]~[4]のいずれかに記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
[6] 接触工程後、乾燥工程を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
[7] 収穫された果実が、カンキツ類の果実である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
[8] 収穫された果実が、ナス科植物の果実である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
[9] 貯蔵病害が、青かび病、緑かび病および/または灰色かび病である、上記[7]または[8]に記載の過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法は、食品添加物として認可されている過酢酸を極めて低濃度で殺菌剤として用いることから、収穫された果実に適用可能な、安価かつ安全な方法である。また本発明の殺菌方法は、果実を、その果梗部ともども、殺菌剤に浸漬させたり、果実に、その果梗部ともども、殺菌剤を噴霧したりすることにより容易に実施され、かつ続く殺菌剤の洗浄工程が不要であること等から、簡便な操作で容易に実施することができる。さらに本発明の方法は、糸状菌の殺菌効果が高く、貯蔵病害を、国内の遠隔地または海外への供給に要する数日から数週間にわたる貯蔵および/または輸送期間の間、抑制できる優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で実施した、青かび病菌および緑かび病菌による温州ミカンの貯蔵病害の抑制試験の結果を示したグラフである。
図2】実施例2で実施した、灰色かび病菌によるピーマンの貯蔵病害の抑制試験の結果を示したグラフである。
図3】実施例3で実施した、青かび病菌および緑かび病菌による温州ミカン(片山温州)の貯蔵病害の抑制試験の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0011】
(果実)
本発明の適用対象である「収穫された果実」は、摘果された果物や野菜を意味し、特に、貯蔵および/または輸送の際に、貯蔵病害が懸念される果物や野菜であれば特に限定されない。果物の例としては、リンゴ、ナシなどのバラ科植物の果実、ミカン、イヨカン、レモン、キンカンなどのミカン科植物の果実が挙げられ、好ましい例としては、ミカン(温州ミカン)、イヨカン、レモン、キンカンなどのミカン科のカンキツ類の果実が挙げられる。野菜の例としては、スイカ、ゴーヤ、トウガン、カボチャ、メロンなどのウリ科植物の果実、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科植物の果実が挙げられ、好ましい例としては、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科植物の果実が挙げられる。
また「果梗部」は、一般に、枝や茎から分かれて細く伸び、その先に果実をつけている部分を指すが、本発明で言う「果梗部」とは、収穫の際、果梗が果実に近いところで切り落とされた、萼(がく)や蔕(へた)を含む部分を指す。
【0012】
(殺菌剤)
本発明の方法で使用される「殺菌剤」は、所定の濃度の過酢酸を含む水溶液である。過酢酸の濃度は、10ppm以上100ppm未満であり、その下限値は、好ましくは20ppm以上、より好ましくは25ppm以上であり、その上限値は、好ましくは90ppm以下、より好ましくは80ppm以下、特に好ましくは50ppm以下である。水溶液中において、過酢酸は、下記式
【化1】

で示されるような平衡状態にある。本発明における過酢酸の濃度とは、総過酸化物を過酢酸に換算した濃度を意味する。
【0013】
本発明における殺菌剤としては、市販の過酢酸製剤を使用してもよく、また市販の過酢酸製剤を所定の濃度に希釈して使用してもよい。なお市販の過酢酸製剤は、過酢酸、酢酸、過酸化水素及び水の他に、場合により1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(別名:エチドロン酸;HEDP)やオクタン酸(その場合、副生する過オクタン酸)を含む。
【0014】
(貯蔵病害)
本発明における「貯蔵病害」は、農産物の収穫後から、貯蔵、輸送、販売に至るまでの期間に生じる病害を指し、いわゆる市場で発生する「市場病害」、貯蔵中に発生する「貯蔵病害」、および輸入農産物の輸送中に発生する「輸入病害」なども含むものとする。貯蔵病害として、具体的には、ペニシリウム(Penicillium)属菌、ボトリチス(Botrytis)属菌、ゲオトリクム(Geotrichum)属菌などに由来する、青かび病(病原菌名:Penicillium italicum)、緑かび病(病原菌名:Penicillium digitatum)、灰色かび病(病原菌名:Botrytis cinerea)、白かび病(病原菌名:Geotrichum candidum)などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法により抑制され得る貯蔵病害の典型例としては、ペニシリウム属菌またはボトリチス属菌などの糸状菌に由来する、青かび病、緑かび病および/または灰色かび病である。
例えば、灰色かび病は空気伝染性の病害であり、収穫後、貯蔵中の果実がこれに感染すると、灰色のカビが生じ、腐敗が進行する。灰色かび病菌(Botrytis cinerea)は低温、暗所、高湿度条件下で菌核が発芽し、菌糸接触伝染で感染が広がることから、収穫後の果実に感染した果実が含まれたり、収穫後の種々の作業中に生じた傷口から新たに病原菌に感染したりすると、貯蔵中に感染が広がる。本発明の貯蔵病害の抑制方法で処理された果実は、数日から数週間の貯蔵および/または輸送期間にわたって、その貯蔵病害を抑制することができる。なお本発明において、「貯蔵病害を抑制する」とは、後述の実施例で示すように、無処理群または対照薬群の供試果実と比較して、本発明の方法により処理された供試果実の腐敗果数や腐敗果における腐敗面積率が低下することを意味する。
【0015】
(接触工程)
本発明の貯蔵病害の抑制方法は、収穫された果実を、その果梗部ともども、その貯蔵および/または輸送の前に、10ppm以上100ppm未満の濃度で過酢酸を含む殺菌剤に接触させる工程を含むことを特徴とする。接触工程は、殺菌剤が果実の表面に十分に塗布される手段であれば特に限定されないが、典型的には、収穫された果実を、その果梗部ともども、殺菌剤に浸漬するか、または収穫された果実に、その果梗部ともども、殺菌剤を噴霧することにより実施される。浸漬時間は使用する果実の種類、産地、殺菌剤中の過酢酸濃度および温度などによっても異なるが、通常、5秒以上5分以下の範囲で実施される。また浸漬は、通常、0~40℃の温度環境下で、好ましくは常温(雰囲気温度;例えば、25℃±10℃)で実施される。
例えば、温州ミカンを殺菌剤に入れただけでは、その比重により、温州ミカンが浮いて殺菌剤の液面より上に出てしまう部分があるので、温州ミカンなどはその果梗部を含め、その全体を殺菌剤中に押し込むようにして、十分に浸漬させる必要がある。特に果梗部は、萼(がく)や蔕(へた)と呼ばれる、果実の全体表面に比べて複雑な凹凸形状があり、また、収穫の際に果梗が果実に近いところで切り落とされる為に短くて、収穫後の時間経過と共に果実表面に比べて乾燥硬化するので、果梗部への殺菌剤の接触が不足すると、貯蔵期間中の振動や衝撃により果梗部が果実表面と接触して、果実表面を傷付けると共に果梗部に生き残っていた病原菌を果実表面に感染させてしまい、その結果、果実を腐敗させてしまう。そのため、果実表面のみならず、果梗部への殺菌剤の十分な接触が重要になるのである。
【0016】
(洗浄工程)
接触工程の終了後、果実を殺菌剤から分離し、流水あるいは溜水で殺菌剤を洗浄してもよいが、本発明の方法で使用される殺菌剤(過酢酸)は、自然に蒸散または分解され、またその最終分解物(水、酸素、酢酸)が無毒であることから、殺菌剤の洗浄工程は省いてもよい。
【0017】
(乾燥工程)
本発明の方法において、接触工程、および場合により洗浄工程に付した果実を、さらに乾燥工程に付してもよい。乾燥は、通常、0~40℃の温度で、1~24時間の範囲で、好ましくは常温での風乾(すなわち、自然乾燥)で実施される。
【実施例
【0018】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。
【0019】
試験例1:寒天培地での検定
対象菌:青かび病菌(Penicillium italicum)および緑かび病菌(Penicillium digitatum)
培地の作成:滅菌したポテトデキストロース寒天(PDA)培地を約45℃に冷却した後、各薬剤(過酢酸、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸ナトリウム)が所定の濃度(10、25、50、100、200ppm)となるように添加して検定培地を作成した。
方法:青かび病菌および緑かび病菌の胞子懸濁液をPDA培地上で画線培養し、一晩培養した後に単胞子を検定培地に移植した(各区3反復)。25℃暗所条件下で5日間培養した後、培地上の菌糸伸長をノギスで測定した。各薬剤の濃度を25ppmに調整した培地上での青かび病菌および緑かび病菌の菌糸伸長を測定した結果、過酢酸のみが菌糸伸長の阻害という結果(すなわち、抗菌性)を示した。過酢酸の結果を表1に、次亜塩素酸カルシウムの結果を表2に、そして次亜塩素酸ナトリウムの結果を表3に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
試験例2:液体培地での検定
対象菌:青かび病菌(Penicillium italicum)および緑かび病菌(Penicillium digitatum)
培地の作成:ポテトデキストロース(PD)液体を5mLずつ滅菌試験管に分注し、各薬剤(過酢酸、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸ナトリウム)が所定の濃度(10、25、50、100、200ppm)となるように添加して検定培地を作成した。
方法:青かび病菌および緑かび病菌の胞子懸濁液(約1×10個/mL)を100μLずつ検定培地に加えて、25℃、150rpmで5日間振とう培養後、生育の有無(にごり)により判定した(各区3反復)。各薬剤の濃度を25ppmに調整した培地上での青かび病菌および緑かび病菌の生育を観察した結果、過酢酸のみが生育しないという結果(すなわち、抗菌性)を示した。過酢酸の結果を表4に、次亜塩素酸カルシウムの結果を表5に、そして次亜塩素酸ナトリウムの結果を表6に示す。
【0024】
【表4】
【0025】
【表5】
【0026】
【表6】
【0027】
実施例1:貯蔵病害の抑制
対象菌:青かび病菌(Penicillium italicum)および緑かび病菌(Penicillium digitatum)
供試果実:温州ミカン(ゆら早生)、各区10果3反復
方法:各果4箇所に虫ピン5本を束ねた針で深さ約2mmの傷をつけた後、青かび病菌および緑かび病菌の胞子懸濁液(1×10cfu/mL)を噴霧接種した。翌日、果実をバケツ内の所定の濃度の各薬剤溶液(10L)へ押し込んで前述の果梗部を含む果実面すべてが溶液中に十分に漬かるように2分間浸漬処理した。同浸漬処理後は、果実を取り出し、重ならないように広げて一晩(17時間)乾燥させ、容器につめて貯蔵した。菌接種7日後に腐敗果数を調査した。なお4箇所のうち1箇所以上腐敗した果実を腐敗果とした。貯蔵7日後の評価において、80ppmの過酢酸水溶液で浸漬処理した供試果実の腐敗果数は、他の薬剤(200ppmの次亜塩素酸カルシウム水溶液、200ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液および水道水)で処理した供試果実の腐敗果数に比べて少なくなることを確認した。結果を図1に示す。
【0028】
実施例2:貯蔵病害の抑制
対象菌:灰色かび病菌(Botrytis cinerea)
供試果実:ピーマン、各10果
方法:ピーマン1果あたり2箇所にタワシで傷をつけた後に、対象菌の胞子懸濁液(1×10cfu/mL)を噴霧接種した。4時間後に80ppmの過酢酸水溶液(10L)へ押し込んで果梗部を含む果実面すべてが溶液中に十分に漬かるように5秒間浸漬処理した。同浸漬処理後は、果実を取り出し、重ならないように広げて3時間風乾させ、容器につめて20℃の部屋で保管した。処理14日後に腐敗果における腐敗面積率(果実全体の表面積を100とした場合の腐敗した面積)を調査した。貯蔵14日後の評価において、80ppmの過酢酸水溶液で浸漬処理した供試果実の腐敗果における腐敗面積率は、無処理の供試果実の腐敗果における腐敗面積率に比べて少なくなることを確認した。結果を図2に示す。
【0029】
実施例3:貯蔵病害の抑制
対象菌:青かび病菌(Penicillium italicum)および緑かび病菌(Penicillium digitatum)
供試果実:温州ミカン(片山温州)、各区果実10kg 5反復
方法:供試果実を、容器内の所定の濃度の各薬剤溶液(80ppmの過酢酸水溶液、200ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液または水道水)へ押し込んで前述の果梗部を含む果実面すべてが溶液中に十分に漬かるように2分間浸漬処理した。果実を取り出し、重ならないように新聞紙上に広げて一晩乾燥させた。次いで、果実を10kgダンボール箱に詰め、8℃に設定した冷風貯蔵庫にて貯蔵した。59日後の腐敗果数を調査し、腐敗果率を算出した。貯蔵59日後の評価において、80ppmの過酢酸水溶液で浸漬処理した供試果実の腐敗果率は0%であり、他の薬剤(200ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液および水道水)で処理した供試果実の腐敗果率に比べて著しく抑制されていることを確認した。結果を表7~9および図3に示す。
【0030】
【表7】
【0031】
【表8】
【0032】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の方法は、食品添加物として認可されている過酢酸を極めて低濃度で殺菌剤として用いることから、収穫された果実に適用可能な、安価かつ安全な方法である。また本発明の殺菌方法は、果実を殺菌剤に浸漬させたり、果実に殺菌剤を噴霧したりすることにより容易に実施され、かつ続く殺菌剤の洗浄工程が不要であること等から、簡便な操作で容易に実施することができる。さらに本発明の方法は、糸状菌の殺菌効果が高く、貯蔵病害を、国内の遠隔地または海外への供給に要する数日から数週間の貯蔵および/または輸送期間の間、有意に抑制できる優れたものである。
図1
図2
図3