(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】塗料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 167/04 20060101AFI20230731BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230731BHJP
C09D 5/20 20060101ALI20230731BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20230731BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20230731BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230731BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20230731BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C09D167/04
C09D7/61
C09D5/20
C09D167/00
C09D129/04
C09D7/20
C09D5/16
C09D201/00
(21)【出願番号】P 2022009382
(22)【出願日】2022-01-25
【審査請求日】2023-02-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2021年2月8日長崎県窯業技術センター平成31年度研究報告書67号において、研究報告書の冊子を長崎県内外の企業、官公庁、大学等に発送。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2021年2月19日長崎県窯業技術センターのホームページにおける平成31年度研究報告書の公開ページにおいて、塗料組成物の研究内容について研究報告書に記載し、同研究報告書のデータを公開。 2021年7月12日令和3年度長崎県窯業技術センター研究成果発表会の要旨集において、塗料組成物の研究内容について要旨に記載し、同要旨のデータを公開。 2021年7月30日令和3年度長崎県窯業技術センター研究成果発表会(オンライン配信)において、塗料組成物の研究内容について発表資料に記載し、発表会で公開。 2021年8月30日令和3年度研究事業評価委員会工業分科会(オンライン会議)において、塗料組成物の研究内容について発表資料に記載し、会議で公開。 2021年9月3日~2021年9月10日の期間で、令和3年度長崎県窯業技術センター研究成果発表会(youtube配信)において、塗料組成物の研究内容について発表資料に記載し、発表ビデオで公開。 2021年9月7日令和3年度九州・沖縄 産業技術オープンイノベーションデーの特設ホームページの予稿集において、塗料組成物の研究内容について予稿に記載し、同予稿のデータを公開。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(73)【特許権者】
【識別番号】518016155
【氏名又は名称】アーテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510221043
【氏名又は名称】株式会社ナカムラ消防化学
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】高松 宏行
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】林田 雅博
(72)【発明者】
【氏名】白▲浜▼ 毅
(72)【発明者】
【氏名】中村 康祐
(72)【発明者】
【氏名】中頭 徹男
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-016184(JP,A)
【文献】特開平04-306268(JP,A)
【文献】特開2001-114616(JP,A)
【文献】特開平10-259240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または複数の生分解性を有する樹脂成分からなる樹脂に溶剤を添加して、前記樹脂を溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程を経た溶液に対し、
最大粒子径が1500μm以下の粒子から構成され、1種または複数の無機物成分からなる骨材を添加して混練する混合工程とを備え、
前記混合工程を経た塗料組成物は、対象物に塗布した状態で、前記対象物との間で、相対的な移動が生じうる水に対して、塗膜の膜厚が0.5μm/日以上の速さで減少する剥離性を有し、
前記無機物成分は、カオリン、または、黒鉛のうち少なくともいずれか1つを含み、
前記樹脂成分は、ポリカプロラクトン、または、ポリ乳酸のうち少なくともいずれか1つを含み、
前記溶剤は、トルエンとアセトンを含み、
前記溶解工程は、前記樹脂に、前記トルエンを添加して溶解させ、溶解した樹脂に、さらに前記アセトンを添加して、溶解した樹脂が凝集することを抑止する
塗料組成物の製造方法。
【請求項2】
1種または複数の生分解性を有する樹脂成分からなる樹脂に溶剤を添加して、前記樹脂を溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程を経た溶液に対し、
最大粒子径が1500μm以下の粒子から構成され、1種または複数の無機物成分からなる骨材を添加して混練する混合工程とを備え、
前記混合工程を経た塗料組成物は、対象物に塗布した状態で、前記対象物との間で、相対的な移動が生じうる水に対して、塗膜の膜厚が0.5μm/日以上の速さで減少する剥離性を有し、
前記無機物成分は、カオリンを含み、
前記樹脂成分は、ポリカプロラクトンを含み、
前記溶剤は、トルエン、キシレン、または、エチルベンゼンのうち少なくともいずれか1つと、アセトンを含み、
前記溶解工程は、前記樹脂に、前記トルエン、前記キシレン、または、前記エチルベンゼンのうち少なくともいずれか1つを添加して溶解させ、溶解した樹脂に、さらに前記アセトンを添加して、溶解した樹脂が凝集することを抑止する
塗料組成物の製造方法。
【請求項3】
1種または複数の生分解性を有する樹脂成分からなる樹脂に溶剤を添加して、前記樹脂を溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程を経た溶液に対し、
最大粒子径が1500μm以下の粒子から構成され、1種または複数の無機物成分からなる骨材を添加して混練する混合工程とを備え、
前記混合工程を経た塗料組成物は、対象物に塗布した状態で、前記対象物との間で、相対的な移動が生じうる水に対して、塗膜の膜厚が0.5μm/日以上の速さで減少する剥離性を有し、
前記無機物成分は、カオリン、黒鉛、セルベン、または、タルクのうち少なくともいずれか1つを含み、
前記樹脂成分は、ポリカプロラクトン、または、ポリ乳酸のうち少なくともいずれか1つを含み、
前記溶剤は、トルエン、キシレン、または、エチルベンゼンのうち少なくともいずれか1つと、アセトンを含み、
前記溶解工程は、前記樹脂に、前記トルエン、前記キシレン、または、前記エチルベンゼンのうち少なくともいずれか1つを添加して溶解させ、溶解した樹脂に、さらに前記アセトンを添加して、溶解した樹脂が凝集することを抑止する
塗料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料組成物の製造方法に関する。詳しくは、環境負荷が小さく、防汚性能の持続性に優れると共に、塗布対象物に強固に固着し、緻密な塗膜が形成可能な塗料組成物の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
対象物を保護する目的や、美観や機能性を付与する目的から、対象物の表面に対して塗布する塗料が用いられている。塗料を塗布する対象物は、建築物、車両、電気機械、金属製品、家具、皮革等、多岐に渡り、用途ごとに様々な種類の塗料が存在する。
【0003】
また、塗料の1つとして防汚塗料が用いられており、この防汚塗料は、屋外に設けられた建造物や構造物の壁面、船舶、海洋構造物等に塗布され、壁面等への汚れの付着を抑止する機能を有している。
【0004】
また、特に、防汚塗料は、船舶や海洋構造物等において、塗布した対象箇所に水生生物が付着して、機能低下や劣化が促進することを抑止する役割を有している。海洋構造物とは、例えば、洋上風力発電設備、潮流発電装置、各種ブイ、漁具、海水を冷却水として利用する施設における配管内壁、海上物資保管コンテナ等がある。
【0005】
ここで、例えば、フジツボ、イガイ、ヒドロ、カイメン、ホヤ等の海洋付着生物(水生の付着生物)が船舶に付着すると、船体摩擦抵抗の増加による燃費の増大、スピードの低下、過度な負荷による推進器の劣化促進等、種々の不具合が生じ、大きな経済的損失に繋がってしまい、海洋産業の大きな課題となっている。
【0006】
こうした水生の付着生物の付着を抑止する防汚塗料は、これまでに様々な種類が開発され、実用化されている(例えば、非特許文献1参照)。そして、これまでに実用化された防汚塗料には、防汚剤(防汚物質)が溶け出して海洋生物を忌避するタイプや、表面の微構造を制御して汚れの付着を抑制するタイプなど多くの事例が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】舛岡茂著、生物付着と防汚,塗料の研究、No.152、p47-51(2010年10月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、従前の防汚塗料は、塗膜が界面となる海水等に接触して、塗膜中の防汚物質を海水等に溶出して防汚性能を発揮するものが主であるが、この防汚物質が溶出することで、海水等の環境に影響を与えることが問題となっている。
【0009】
例えば、従前の防汚塗料には、主要な防汚薬剤として銅化合物(亜鉛化銅)が含まれており、これが防汚成分として海水等に溶出し、蓄積することで、環境に有害な影響を与えてしまうおそれがあり、環境負荷を小さくする点で不充分であった。
【0010】
また、防汚塗料では、水生の付着生物の付着を抑止しつつ、その防汚性能を長い期間担保できる持続性や、塗料として、塗布対象となる金属等を充分に保護しうる耐久性、さらには、塗料としての取り扱い性を、より一層向上させることも求められている。
【0011】
さらに、防汚塗料では、多様かつ広範囲な対象物に対して、継続的に使用されることから、塗料の製造コストを抑えたいという要望があった。
【0012】
また、船舶や海洋構造物だけでなく、陸上の屋外に設けられた建造物や構造物等を塗布対象とした際にも、微生物や紫外線の影響を受け、防汚塗料の一部が、一定の速さで剥離すれば、塗膜の新しい表面が維持でき、汚れが付きにくくなるため、汎用性の高い塗料が実現できる。
【0013】
こうしたなか、本発明者らは、柔らかく表面が崩れやすい砂岩等の堆積岩において、小型の藻類の付着が認められるものの、大型の海洋生物の付着が少ないことから、堆積岩の表面が波や風に浸食されて徐々に崩落する際に、大型の付着物も同時に除去されるという仮説を立てた。
【0014】
そして、このような堆積岩の表面が徐々に崩落する性質に着想を得て、船舶や海洋構造物等への水生の付着生物の付着を抑止できる、堆積岩に類似した脆さを有する防汚塗料について検討を進めてきた。
【0015】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、環境負荷が小さく、防汚性能の持続性に優れると共に、塗布対象物に強固に固着し、緻密な塗膜が形成可能な塗料組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明の水性塗料組成物は、最大粒子径が1500μmの粒子から構成され、1種または複数の無機物成分を含む骨材と、前記骨材を結合させるバインダーであると共に、1種または複数の生分解性を有する樹脂成分を含む樹脂と、1種または複数の有機溶剤成分を含む溶剤とを含有し、対象物に塗布した状態で、前記対象物との間で、相対的な移動が生じうる水に対して、塗膜の膜厚が0.5μm/日以上の速さで減少する剥離性を有するものとなっている。
【0017】
ここで、1種または複数の無機物成分を含む骨材を含有することによって、樹脂に厚みや強度を持たせる骨材として無機物成分を利用することができる。
【0018】
また、骨材が、最大粒子径が1500μmの粒子から構成され、1種または複数の無機物成分を含むことによって、対象物の塗布面で塗膜を形成することができ、かつ、塗料組成物を、塗布後の対象物の表面から、少しずつ剥離させることが可能となる。即ち、対象物に塗布した塗料組成物が塗膜を形成し、対象物の塗布面に付着した水生の付着生物と共に、塗膜の表面から、その一部が少しずつ剥離し、水生の付着生物の付着を抑止できる。また、海洋構造物や、陸上の屋外に設けられた建造物等の対象物の塗布面では、塗膜の新しい表面が維持され、対象物の塗布面を汚れにくくすることができる。
なお、ここでいう最大粒子径が1500μmの粒子から構成された無機物成分とは、堆積岩を構成する種々の粒子のうち、砂岩を構成する「砂」の粒子径の範囲(62.5μm~2mm)、及び、泥岩を構成する「泥」の粒子径の範囲(62.5μm以下)に含まれうる粒子径の大きさであり、塗料中の骨材として取り扱うことができる限界である最大粒子径が1500μmのものである。つまり、これを骨材の無機物成分とすることで、塗料組成物の塗膜の剥離性を、堆積岩における表面の剥離性に近づけることが可能となる。
【0019】
また、骨材を結合させるバインダーであると共に、1種または複数の樹脂成分を含む樹脂を含有することによって、樹脂で骨材の無機物成分の粒子同士を繋ぎ、最終的に塗料組成物において、塗膜を形成可能となる。
【0020】
また、樹脂が、1種または複数の生分解性を有する樹脂成分を含むことによって、塗膜の表面から、その一部が水生の付着生物と共に剥離した際や、屋外の土壌に剥離した際にも、剥離した塗料が海水や土壌等に及ぼす影響を極めて小さいものにすることができる。即ち、塗料組成物は、最終的に、骨材と樹脂で構成された塗膜を形成するため、この塗膜の一部が剥離しても、樹脂成分は微生物等の働きにより、水と二酸化炭素に分解される。この結果、塗膜の主な構成成分である樹脂が、そのままの状態で海水や土壌等の環境に蓄積することがなく、環境負荷を小さくすることができる。また、樹脂成分が生分解性を有することから、塗膜の主な成分となる樹脂が、環境中の微生物や自然劣化の影響を受け、この影響によっても、塗料組成物を、塗布後の対象物の表面から、少しずつ剥離させることが可能となる。さらに、この生分解性による微生物等の影響は、例えば、光触媒を用いた防汚塗料のように、光(紫外線)の照射が必須ではないため、屋外の構造物等で光が当たりにくい壁面や、船舶の船底、または、ある程度水深のある海中の海洋構造物等の対象物に対しても、塗料組成物を塗布して、塗膜の表面から、その一部を、少しずつ剥離させることができる。即ち、暗所の環境中でも、塗料組成物に、一定の速度での表面剥離性を付与可能となる。
【0021】
また、1種または複数の有機溶剤成分を含む溶剤を含有することによって、樹脂を溶解させ、対象物に塗布可能な塗料とすることができる。
【0022】
また、最大粒子径が1500μmの粒子から構成され、1種または複数の無機物成分を含む骨材と、骨材を結合させるバインダーであると共に、1種または複数の生分解性を有する樹脂成分を含む樹脂を含有することで、対象物における塗布したい箇所に強固に固着する塗膜を形成することができる。また、ムラの少ない緻密な塗膜を形成することが可能となる。なお、ここでいう「強固に固着する塗膜」とは、対象物における塗料組成物を塗布したい箇所に対して、塗布により形成した塗膜が充分にくっ付いて、塗布面上に一定の厚みの塗膜が維持できる状態を意味する。つまり、この対象物の塗布面上に塗膜が維持された上で、塗膜の表面から、その一部が少しずつ剥離するものとなる。
【0023】
また、対象物に塗布した状態で、対象物との間で、相対的な移動が生じうる水に対して、塗膜の膜厚が0.5μm/日以上の速さで減少する剥離性を有することによって、塗料組成物から形成した塗膜を、塗布後の対象物の表面から、少しずつ剥離させつつ、かつ、対象物の塗布面における防汚性能を長期間維持させることが可能となる。また、塗膜の一部が、一定以上の速さで剥離するため、塗膜に付着した水生の付着生物を、対象物から除去しやすくなると共に、塗膜面上で水生の付着生物が増殖することを抑止できる。また、海洋構造物や、陸上の屋外に設けられた建造物等の対象物の塗布面で、塗膜の新しい表面が維持されやすくなり、対象物の塗布面を汚れにくくすることができる。
なお、ここでいう「対象物との間で、相対的な移動が生じうる水」とは、例えば、波のある海水や、河川の水の流れのように、水自体が移動するものだけでなく、水に対して船舶や海洋構造物等の対象物が移動する態様も含まれるものを意味する。また、水と対象物の両方が移動するものも含まれる。また、ここでいう水とは、海水だけでなく、河川や湖、池、人工的なダムや貯水池等の水も含むものを意味する。
【0024】
また、本発明における防汚塗料が塗布される対象物は、必ずしも、塗膜を形成した面が常に水と接するものである必要はない。例えば、陸上に設けられた構造物も対象物に含まれる。また、本発明における「対象物との間で、相対的な移動が生じうる水」とは、陸上に設けられた構造物を対象とする場合、雨や湿度等の環境中の水分や、後述する塗膜の表面剥離性の評価のような内容で、塗膜を形成した対象面に、人工的に水を作用させた場合の水も含まれている。
【0025】
また、樹脂成分が、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、澱粉ポリエステル樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体、ポリグリコール酸、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体、ブタンジオール/長鎖ジカルボン酸共重合体、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート・コ・テレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、または、ポリビニルアルコールのうち少なくともいずれか1つを含む場合には、無機物成分を含む骨材の粒子同士を充分に繋いで、緻密な塗膜を形成しやすくなる。また、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、澱粉ポリエステル樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体、ポリグリコール酸、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体、ブタンジオール/長鎖ジカルボン酸共重合体、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート・コ・テレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、または、ポリビニルアルコールは、いずれも生分解性を有する樹脂成分であり、塗膜の表面の一部が、少しずつ水や土壌の方に剥離しても、樹脂成分は水中や土壌中で生分解され、環境負荷を小さくすることができる。
【0026】
また、無機物成分が、セルベン、砕石屑、タルク、セリサイト、ベントナイト、牡蛎殻、廃石膏、砂防ダム堆砂、ガラス屑、バーミキュライト、パーライト、海砂、川砂、ろう石、カオリン、スメクタイト、ゼオライト、または、黒鉛のうち少なくともいずれか1つを含む場合には、樹脂を介して、これらの粒子同士を繋ぎ、緻密な塗膜を形成しやすくなる。また、対象物における塗布したい箇所に強固に固着する塗膜を形成しやすくなる。また、ムラの少ない緻密な塗膜を形成することが可能となる。また、これらの無機物成分は、環境負荷が小さい成分であることから、塗膜の一部が水生の付着生物と共に水中に剥離した際や、屋外の土壌に剥離した際にも、剥離した塗料が海水や土壌等に及ぼす影響を極めて小さいものにすることができる。さらに、セルベン、タルク、セリサイト、ベントナイト、バーミキュライト、カオリン、スメクタイト、ゼオライト、ろう石、パーライト、海砂、川砂、または、黒鉛は、窯業原料や、窯業の生産過程で発生する無機物成分として入手しやすい利点がある。また、セルベン、砕石屑、牡蛎殻、廃石膏、砂防ダム堆砂、ガラス屑は、無機物の未利用資源の有効な活用に寄与し、ひいては製造コストの低減にも繋がる。
【0027】
また、有機溶剤成分が、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、アセトン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、または、プロパノールのうち少なくともいずれか1つを含む場合には、樹脂成分を充分に溶解させることができる。また、溶解後の塗料状の状態を維持しやすくなる。
【0028】
また、有機溶剤成分が、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、または、プロパノールのうち少なくともいずれか1つと、アセトンを含む場合には、樹脂成分を、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、または、プロパノールのうち少なくともいずれか1つで溶解させた上で、アセトンを介して、溶解した樹脂が凝集すること抑止しやすくなる。この結果、より一層、樹脂成分を充分に溶解させることができ、かつ、溶解後の塗料状の状態を維持しやすいものにできる。
【0029】
また、樹脂の100重量部に対して、骨材が、100~600重量部である場合には、より一層、ムラの少ない緻密な塗膜を形成しやすくなる。また、より一層、対象物における塗布したい箇所に強固に固着する塗膜を形成しやすくなる。
【0030】
また、上記の目的を達成するために、本発明の塗料組成物の製造方法は、1種または複数の生分解性を有する樹脂成分からなる樹脂に溶剤を添加して、前記樹脂を溶解させる溶解工程と、前記溶解工程を経た溶液に対し、最大粒子径が1500μmの粒子から構成され、1種または複数の無機物成分からなる骨材を添加して混練する混合工程とを備え、前記混合工程を経た塗料組成物は、対象物に塗布した状態で、前記対象物との間で、相対的な移動が生じうる水に対して、塗膜の膜厚が0.5μm/日以上の速さで減少する剥離性を有するものとなっている。
【0031】
ここで、溶解工程で、1種または複数の生分解性を有する樹脂成分からなる樹脂を用いることによって、混合工程を経た塗料組成物から形成された塗膜の表面から、その一部が水生の付着生物と共に剥離した際や、屋外の土壌に剥離した際にも、剥離した塗料が海水や土壌等に及ぼす影響を極めて小さいものにすることができる。即ち、塗膜の一部が剥離しても、樹脂成分は微生物等の働きにより、水と二酸化炭素に分解され、環境負荷を小さくすることができる。また、樹脂成分が生分解性を有することから、塗膜の主な成分となる樹脂が、環境中の微生物や自然劣化の影響を受け、この影響によっても、塗料組成物を、塗布後の対象物の表面から、少しずつ剥離させることが可能となる。さらに、暗所の環境中でも、塗料組成物に、一定の速度での表面剥離性を付与可能となる。
【0032】
また、溶解工程で、樹脂成分からなる樹脂に溶剤を添加して、樹脂を溶解させることによって、後の行程で樹脂と骨材を混ぜ、対象物に塗布可能な塗料とすることができる。
【0033】
また、混合工程で、1種または複数の無機物成分からなる骨材を用いることによって、樹脂に厚みや強度を持たせる骨材として無機物成分を利用することができる。
【0034】
また、混合工程で、最大粒子径が1500μmの粒子から構成され、1種または複数の無機物成分からなる骨材を用いることによって、塗料組成物を、塗布後の対象物の表面から、少しずつ剥離させることが可能となる。即ち、対象物に塗布した塗料組成物が塗膜を形成し、対象物の塗布面に付着した水生の付着生物と共に、塗膜の表面から、その一部が少しずつ剥離し、水生の付着生物の付着を抑止できる。また、海洋構造物や、陸上の屋外に設けられた建造物等の対象物の塗布面では、塗膜の新しい表面が維持され、対象物の塗布面を汚れにくくすることができる。
【0035】
また、混合工程で、溶解工程を経た溶液に対し、最大粒子径が1500μmの粒子から構成され、1種または複数の無機物成分からなる骨材を添加して混練することによって、樹脂で骨材の無機物成分の粒子同士を繋ぎ、最終的に塗料組成物において、塗膜を形成可能となる。また、塗料組成物により、対象物における塗布したい箇所に強固に固着する塗膜を形成することができる。また、ムラの少ない緻密な塗膜を形成することが可能となる。
【0036】
また、混合工程を経た塗料組成物が、対象物に塗布した状態で、対象物との間で、相対的な移動が生じうる水に対して、塗膜の膜厚が0.5μm/日以上の速さで減少する剥離性を有することによって、塗料組成物から形成した塗膜を、塗布後の対象物の表面から、少しずつ剥離させつつ、かつ、対象物の塗布面における防汚性能を長期間維持させることが可能となる。また、塗膜の一部が、一定以上の速さで剥離するため、塗膜に付着した水生の付着生物を、対象物から除去しやすくなると共に、塗膜面上で水生の付着生物が増殖することを抑止できる。また、海洋構造物や、陸上の屋外に設けられた建造物等の対象物の塗布面で、塗膜の新しい表面が維持されやすくなり、対象物の塗布面を汚れにくくすることができる。
【0037】
また、溶剤が、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、アセトン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、または、プロパノールのうち少なくともいずれか1つを含む場合には、樹脂成分を充分に溶解させることができる。また、溶解後の塗料状の状態を維持しやすくなる。
【0038】
また、溶剤が、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、または、プロパノールのうち少なくともいずれか1つと、アセトンを含み、溶解工程で、樹脂に、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、または、プロパノールのうち少なくともいずれか1つを添加して溶解させ、さらにアセトンを添加する場合には、樹脂成分を、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、または、プロパノールのうち少なくともいずれか1つで溶解させた上で、アセトンを介して、溶解した樹脂が凝集すること抑止しやすくなる。この結果、より一層、樹脂成分を充分に溶解させることができ、かつ、溶解後の塗料状の状態を維持しやすいものにできる。
【0039】
また、樹脂の100重量部に対して、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、または、プロパノールのうち少なくともいずれか1つが、50~200重量部であり、アセトンが、5~20重量部である場合には、より一層、樹脂成分を、トルエン等で充分に溶解させた上で、アセトンを介して、溶解した樹脂が凝集すること抑止しやすくなる。これにより、さらに、樹脂成分を充分に溶解させることができ、かつ、溶解後の塗料状の状態を維持しやすいものにできる。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る塗料組成物の製造方法は、環境負荷が小さく、防汚性能の持続性に優れると共に、塗布対象物に強固に固着し、緻密な塗膜が形成可能な塗料組成物を製造することが可能なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】樹脂と骨材を混合するボールミル処理の内容を示す概略図である。
【
図2】(a)~(d)は、セルベン‐ポリカプロラクトン複合被膜を施した金属板の写真図である。
【
図3】(a)~(d)は、タルク‐ポリカプロラクトン複合被膜を施した金属板の写真図である。
【
図4】塗膜の表面剥離性の評価に関する試験片または装置構成の概略図である。
【
図5】実施例1~4における塗料の表面剥離性評価の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例5~8における塗料の表面剥離性評価の結果を示すグラフである。
【
図7】被塗装物での腐食低減効果を観察した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を適用した塗料組成物の一例(本発明の第1の実施の形態)の組成について説明する。
【0043】
[第1の実施の形態]
ここで示す防汚塗料は、ポリカプロラクトン100重量部に対して、セルベン:100~400重量部、塩化メチレン400重量部を有している。また、ここで示す防汚塗料は、対象物に塗布して塗膜を形成した際に、後述する表面剥離性の試験条件において、塗膜の膜厚が0.9μm/日~2.6μm/日の速さで減少する剥離性を有している。
【0044】
なお、この防汚塗料の組成は、後述する製造手順にて、塩化メチレンで溶解させたポリカプロラクトンの結合剤溶液に、セルベンを添加し、混練した後のセルベン‐ポリカプロラクトンの複合塗料状溶液の組成を示している。また、この複合塗料状溶液は密閉の容器に収容されている。
【0045】
この複合塗料状溶液を対象物に塗布して塗膜を形成する際には、揮発性を有する溶剤(本組成では塩化メチレン)が、塗布作業中に徐々に気中に蒸散し、塗布後は数時間程度で指触乾燥となり、最終的には、セルベン‐ポリカプロラクトンで構成された塗膜を形成するものとなる。
【0046】
ここで、ポリカプロラクトンは、生分解性を有する樹脂成分(バインダー)であり、塗膜の主な構成成分として、セルベンの粒子同士を繋ぎ、塗膜を形成する。
【0047】
また、セルベンは、樹脂(塗膜)に厚みや強度を持たせる骨材を構成する無機物成分である。また、このセルベンは、陶磁器屑を粉砕して、篩分けにより、最大粒子径が300μm以下となるようにして得られた粉体原料である。
【0048】
また、塩化メチレンは、樹脂成分を溶解させ、樹脂成分と骨材を混合及び分散させる揮発性を有する溶剤である。
【0049】
ここで、本発明を適用した防汚塗料では、各配合原料や配合割合が上述したものに限定されるものではなく、本発明に求められる機能を逸脱しない範囲で、各成分や配合量を適宜変更することができる。
【0050】
また、本発明を適用した防汚塗料では、樹脂成分として、ポリカプロラクトン以外にも、生分解性を有し、塗膜形成能を有する樹脂であれば採用することができる。例えば、ポリ乳酸、澱粉ポリエステル樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体、ポリグリコール酸、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体、ブタンジオール/長鎖ジカルボン酸共重合体、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート・コ・テレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、または、ポリビニルアルコールを用いることができる。
【0051】
また、本発明を適用した防汚塗料では、樹脂を構成する樹脂成分は、単一の種類の成分で構成されるものだけでなく、複数の種類の樹脂成分を混合して用いることもできる。また、樹脂成分は、平均分子量が3万~20万の範囲内のものを用いることが好ましい。さらに、樹脂成分は、平均分子量が異なる、複数の成分を混合して使用することも可能である。
【0052】
また、本発明を適用した防汚塗料では、骨材を構成する無機物成分として、セルベン以外にも、環境負担が小さく、最大粒子径が1500μm以下であり、樹脂中で、充分な充填率と均一性を担保できる原料であれば骨材の無機物成分として採用することができる。例えば、砕石屑、タルク、セリサイト、ベントナイト、牡蛎殻、廃石膏、砂防ダム堆砂、ガラス屑、バーミキュライト、パーライト、海砂、川砂、ろう石、カオリン、スメクタイト、ゼオライト、または、黒鉛等を採用することができる。
【0053】
また、本発明を適用した防汚塗料では、骨材を構成する無機物成分は、単一の種類の成分で構成されるものだけでなく、複数の種類の無機物成分を混合して用いることもできる。また、無機物成分は、粒子径が異なる複数の無機物成分を混合して使用することも可能である。
【0054】
また、本発明を適用した防汚塗料では、骨材を構成する無機物成分は、最大粒子径が1500μm以下の粒子のものが採用される。ここで、最大粒子径が1500μm以下の粒子であれば、防汚塗料を対象物に塗布して形成した塗膜において、塗膜の表面から、その一部を少しずつ剥離する性能を付与することができる。即ち、塗料組成物の塗膜の剥離性を、堆積岩における表面の剥離性に近づけることが可能となる。本塗料では、一例として、セルベンは最大粒子径が300μm以下となるように設定している。
【0055】
また、骨材を構成する成分の最大粒子径は、対象物の塗布面での最大塗膜厚の3分の1以下に設定するとこで、良好な塗膜を形成することが可能となる。そのため、対象物の塗布面での最大塗膜厚を5mm程度に設定することを考慮した場合、塗膜を形成する点からも、骨材を構成する無機物成分の最大粒子径は1500μm以下となる必要がある。なお、ここでいう最大塗膜厚5mm程度とは、一般的な塗料での塗膜厚の厚みとしては、厚塗りになる塗膜厚である。
【0056】
また、本発明を適用した防汚塗料では、必ずしも、後述する表面剥離性の試験条件において、塗膜の膜厚が0.9μm/日~2.6μm/日の速さで減少する剥離性を有する必要はなく、0.5μm/日の速さ以上で減少する剥離性を有していれば充分である。
【0057】
また、本発明を適用した防汚塗料では、対象物に塗布して形成した塗膜の膜厚は適宜設定することができる。また、塗膜の膜厚は、その剥離性の速さ(剥離量)と耐用年数に応じて設定可能である。
【0058】
ここで塗膜の膜厚の一例として、100μm~5000μm(5mm)程の膜厚が想定される。例えば、0.5μm/日の速さで減少する剥離性を有する防汚塗料を用いて、最低1年間、対象物の塗布面上で、塗膜を形成した状態を維持しようとすれば、塗膜の膜厚は、200μmとなる。また、数年間の期間、防汚塗料の塗膜を維持するのであれば、塗膜の膜厚を数mm程度の厚塗りとすることもできる。
【0059】
また、本発明を適用した防汚塗料では、溶剤を構成する有機溶剤成分として、塩化メチレン以外にも、樹脂成分を溶解させ、塗料状の状態にできるものであれば、有機溶剤成分として採用しうる。例えば、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、アセトン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、または、プロパノール等の揮発性を有する有機溶剤成分を採用することができる。
【0060】
また、本発明を適用した防汚塗料では、溶剤を構成する有機溶剤成分は、単一の種類の成分で構成されるものだけでなく、複数の種類の有機溶剤成分を混合して用いることもできる。また、複数の有機溶剤成分を用いる場合には、樹脂成分に対して、複数の有機溶剤成分を同時に添加する態様だけでなく、樹脂成分に、ある種類の有機溶剤成分を添加して混合した後に、この混合物に対して別の種類の有機溶剤成分を添加するような、段階的な混合を行うこともできる。
【0061】
また、本発明を適用した防汚塗料では、必ずしも、ポリカプロラクトン100重量部に対して、セルベンが100~400重量部となる必要はない。但し、塗料組成物で、ムラの少ない緻密な塗膜を形成しやすくなり、かつ、対象物における塗布したい箇所に強固に固着する塗膜を形成しやすくなる点から、ポリカプロラクトン100重量部に対して、セルベンが100~600重量部となることが好ましい。本塗料では、一例として、ポリカプロラクトン100重量部に対して、セルベンが100~400重量部となるように設定している。
【0062】
また、本発明を適用した防汚塗料では、樹脂成分に対して、骨材の含有量を変えることで、塗膜を形成した後の、その一部の剥離量を調製することが可能である。即ち、樹脂成分に対する骨材(無機物成分)の含有量を増やすことで、塗膜の一部が剥離する速さ(剥離性)を高めることができる。
【0063】
また、本発明を適用した防汚塗料では、必ずしも、ポリカプロラクトン100重量部に対して、塩化メチレンが400重量部となる必要はなく、樹脂成分を充分に溶解させることができれば充分である。例えば、ポリカプロラクトン100重量部に対して、塩化メチレンを300重量部~1000重量部の範囲で設定することも可能である。本塗料では、一例として、ポリカプロラクトン100重量部に対して、塩化メチレンが400重量部となるように設定している。
【0064】
また、本発明を適用した防汚塗料では、必要に応じて、上記に記載した組成以外に、適宜、本発明の効果を逸脱しない範囲で、その他の成分を配合することが可能である。例えば、増粘剤、防腐剤、防カビ剤、消泡剤、難燃剤、架橋剤等の塗料の機能性を向上させる添加成分を別途配合することも可能である。
【0065】
続いて、本発明の第1の実施の形態である防汚塗料の製造方法について説明する。以下で説明する内容は、本発明における塗料組成物の製造方法の一例に該当するものである。
【0066】
[1.樹脂成分の溶解]
まず、樹脂成分であるポリカプロラクトン100重量部に対して、塩化メチレン400重量部を添加し、室温で24時間静置し、樹脂成分を溶解させて、結合剤溶液を調製した。
【0067】
[2.結合剤溶液への骨材の混合・分散]
調製した結合剤溶液に、骨材となる無機物成分となるセルベンを、ポリカプロラクトン100重量部に対して、100~400重量部添加し、セルベン‐ポリカプロラクトン複合溶液Aとした。
【0068】
このセルベン‐ポリカプロラクトン複合溶液Aを、ポットミル1に、複数のアルミナボール2と共に入れ、室温下で、回転速度50~60rpmでポットミル1を回転させ、このボールミル処理により6時間混練した(
図1参照)。以上の工程により、塗料状溶液の防汚塗料組成物を製造した。
【0069】
ここで、本発明を適用した塗料組成物の製造方法では、樹脂成分を溶剤で溶解させる際に、必ずしも、室温で静置する必要はない。例えば、温度を制御して溶解させる態様や、撹拌装置等を用いて撹拌する態様も採用しうる。また、溶解させる時間も24時間に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0070】
また、本発明を適用した塗料組成物の製造方法では、結合剤溶液に骨材を加えて混練する際に、必ずしもボールミル処理を採用する必要はない。例えば、撹拌棒を用いた手作業による混練や、3本ロールミルを用いた混練で処理することも可能であり、既知の混練・分散の手法や装置を採用することができる。
【0071】
また、本発明を適用した塗料組成物の製造方法では、結合剤溶液に骨材を加えて混練する際に、必ずしも、室温で処理する必要はなく、混練する時間も適宜設定することができる。例えば、温度を制御して混練する態様も採用しうる。また、温度条件に合わせて、混練する時間も設定することができる。
【0072】
また、本発明を適用した塗料組成物の製造方法では、樹脂成分を溶解させる工程で、複数の溶剤を段階的に添加する手法も採用しうる。
【0073】
例えば、樹脂成分のポリカプロラクトン100重量部に対して、まず、トルエン50~200重量部を添加してポリカプロラクトンを溶解させる。そして、ポリカプロラクトンが溶解した溶液に、アセトン5~20重量部を添加する。アセトンを添加することで、トルエンで溶解したポリカプロラクトンが凝集することを抑止し、より一層、ポリカプロラクトンを溶解させやすくなる。また、樹脂成分が溶解して、より一層、塗料状の状態を維持しやすくなる。
【0074】
以上で説明した本発明の第1の実施の形態である防汚塗料では、骨材と構成する無機物成分であるセルベンが、最大粒子径が1500μm以下の粒子で構成され、かつ、樹脂成分が、生分解性を有するポリカプロラクトンであることから、防汚塗料で形成した塗膜は、適度な脆さを有する塗膜となっている。
【0075】
即ち、塗膜の表面から、その一部が、0.9μm/日~2.6μm/日の速さで減少する剥離性を有する塗膜となる。これにより、塗布後の対象物の表面から、防汚塗料を、少しずつ剥離させることができる。
【0076】
つまり、対象物の塗布面に付着した水生の付着生物と共に、塗膜の表面から、その一部が少しずつ剥離し、水生の付着生物の付着を抑止できる。また、対象物の塗布面では、塗膜の新しい表面が常に維持され、対象物の塗布面を汚れにくくすることができる。
【0077】
また、セルベンは環境負担の少ない無機物成分であり、かつ、ポリカプロラクトンは生分解性を有する樹脂成分であるため、塗膜の一部が剥離しても、海水や土壌等の環境に及ぼす影響を極めて小さいものにすることができる。
【0078】
また、本防汚塗料は、暗所の環境中でも、防汚塗料が、一定の速度での表面剥離性を有することから、塗料を幅広い用途に用いることが可能となる。
【0079】
また、本防汚塗料では、塗膜の表面から、その一部が、0.9μm/日~2.6μm/日の速さで減少する剥離性を有することから、塗膜厚を調整することで、防汚性能を長期間維持できる塗料となる。
【0080】
また、本防汚塗料は、ローラーや刷毛等により対象物に塗布することが可能であり、取り扱い性に優れた塗料となる。
【0081】
また、本防汚塗料は、対象物の塗布面において、塗装のムラが少ない緻密な塗膜を形成することができる。また、対象物の塗布面に強固に固着する塗膜を形成することができる。
【0082】
ここで、本発明における第1の実施の形態である防汚塗料(ポリカプロラクトン100重量部に対して、セルベンを100重量部、200重量部、300重量部及び400重量部で混練した4種類)を、表面にブラスト加工したアルミニウム製の金属板(A1050)の表面に刷毛塗りして、室温乾燥させ、セルベン‐ポリカプロラクトン複合被膜を施した金属板の写真図を
図2(a)~
図2(d)に示す。
【0083】
なお、金属板は、防汚塗料の塗布対象物の壁面を模したものである。また、
図2(a)はセルベン100重量部、
図2(b)はセルベン200重量部、
図2(c)はセルベン300重量部、及び、
図2(d)はセルベン400重量部の塗料を塗布した金属板の写真図である。
【0084】
図2(a)~
図2(d)に示すように、本発明の第1の実施の形態である防汚塗料では、塗装のムラが少ない緻密な塗膜が形成されていた。また、金属板の塗布面に対して塗膜が強固に固着していることが確認された。
【0085】
また、本発明の第1の実施の形態において、無機物成分をセルベンからタルクに変えた防汚塗料についても同様に、金属板に塗膜を形成し、塗膜を観察した。ここでは、ポリカプロラクトン100重量部に対して、タルク100重量部~400重量部を混練した防汚塗料を、上記と同じ金属板の表面に刷毛塗りして、室温乾燥させ、タルク‐ポリカプロラクトン複合被膜を形成した(
図3(a)~
図3(d)参照)。
【0086】
また、
図3(a)はタルク100重量部、
図3(b)はタルク200重量部、
図3(c)はタルク300重量部、及び、
図3(d)はタルク400重量部の塗料を塗布した金属板の写真図である。
【0087】
図3(a)~
図3(d)に示すように、無機物成分としてタルクを採用した防汚塗料では、塗装のムラが少ない緻密な塗膜が形成されていた。また、金属板の塗布面に対して塗膜が強固に固着していることが確認された。
【0088】
以上のとおり、本防汚塗料は、対象物の塗布面において、塗装のムラが少ない緻密な塗膜を形成することができる。また、対象物の塗布面に強固に固着する塗膜を形成することができる。
【0089】
続いて、本発明を適用した塗料組成物の他の例(本発明の第2の実施の形態)の組成について説明する。
【0090】
[第2の実施の形態]
ここで示す防汚塗料は、ポリカプロラクトン100重量部、または、ポリ乳酸100重量部に対して、カオリン:100~600重量部、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、メタノール、エタノール、プロパノールの単一または複数の組み合わせ:50~200重量部、アセトン:5~20重量部を有している。また、ここで示す防汚塗料は、対象物に塗布して塗膜を形成した際に、後述する表面剥離性の試験条件において、塗膜の膜厚が0.5μm/日以上の速さで減少する剥離性を有している。
【0091】
なお、この防汚塗料の組成は、後述する製造手順にて、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、メタノール、エタノール、プロパノールの単一または複数の組み合わせ、及び、アセトンで溶解させた、ポリカプロラクトンまたはポリ乳酸の結合剤溶液に、カオリンを添加し、混練した後、カオリン‐ポリカプロラクトン(またはポリ乳酸)の複合塗料状溶液の組成を示している。また、この複合塗料状溶液は密閉の容器に収容されている。
【0092】
この複合塗料状溶液を対象物に塗布して塗膜を形成する際には、揮発性を有する溶剤が、塗布作業中に徐々に気中に蒸散し、塗布後は数時間程度で指触乾燥となり、最終的には、カオリン‐ポリカプロラクトン(またはポリ乳酸)で構成された塗膜を形成するものとなる。
【0093】
ここで、ポリカプロラクトン、または、ポリ乳酸は、生分解性を有する樹脂成分(バインダー)であり、塗膜の主な構成成分として、カオリンの粒子同士を繋ぎ、塗膜を形成する。
【0094】
また、カオリンは、樹脂(塗膜)に厚みや強度を持たせる骨材を構成する無機物成分である。また、このカオリンは、窯業原料の1種であり、篩分けにより、最大粒子径が300μm以下となるようにして得られた粉体原料である。
【0095】
また、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、メタノール、エタノール、プロパノールの単一または複数の組み合わせは、樹脂成分を溶解させ、樹脂成分と骨材を混合及び分散させる揮発性を有する溶剤である。また、アセトンは、樹脂成分を溶解すると共に、溶解した樹脂成分が凝集することを抑止するための溶剤である。
【0096】
ここで、本発明を適用した防汚塗料では、各配合原料や配合割合が上述したものに限定されるものではなく、本発明に求められる機能を逸脱しない範囲で、各成分や配合量を適宜変更することができる。
【0097】
また、本発明を適用した防汚塗料では、樹脂成分として、ポリカプロラクトンまたはポリ乳酸以外にも、生分解性を有し、塗膜形成能を有する樹脂であれば採用することができる。例えば、澱粉ポリエステル樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体、ポリグリコール酸、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体、ブタンジオール/長鎖ジカルボン酸共重合体、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート・コ・テレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、または、ポリビニルアルコールを用いることができる。
【0098】
また、本発明を適用した防汚塗料では、樹脂を構成する樹脂成分は、単一の種類の成分で構成されるものだけでなく、複数の種類の樹脂成分を混合して用いることもできる。また、樹脂成分は、平均分子量が3万~20万の範囲内のものを用いることが好ましい。さらに、樹脂成分は、平均分子量が異なる複数の成分を混合して使用することも可能である。
【0099】
また、本発明を適用した防汚塗料では、骨材を構成する無機物成分として、カオリン以外にも、環境負担が小さく、最大粒子径が1500μm以下であり、樹脂中で、充分な充填率と均一性を担保できる原料であれば骨材の無機物成分として採用することができる。例えば、セルベン、砕石屑、タルク、セリサイト、ベントナイト、牡蛎殻、廃石膏、砂防ダム堆砂、ガラス屑、バーミキュライト、パーライト、海砂、川砂、ろう石、スメクタイト、ゼオライト、または、黒鉛等を採用することができる。
【0100】
また、本発明を適用した防汚塗料では、骨材を構成する無機物成分は、単一の種類の成分で構成されるものだけでなく、複数の種類の無機物成分を混合して用いることもできる。また、無機物成分は、粒子径が異なる複数の無機物成分を混合して使用することも可能である。
【0101】
また、本発明を適用した防汚塗料では、骨材を構成する無機物成分は、最大粒子径が1500μm以下の粒子となることが好ましい。最大粒子径が1500μm以下の粒子であれば、防汚塗料を対象物に塗布して形成した塗膜において、塗膜の表面から、その一部を少しずつ剥離する性能を付与することができる。即ち、塗料組成物の塗膜の剥離性を、堆積岩における表面の剥離性に近づけることが可能となる。本塗料では、一例として、カオリンは最大粒子径が300μm以下となるように設定している。
【0102】
また、本発明を適用した防汚塗料では、溶剤を構成する有機溶剤成分として、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、アセトン、塩化メチレン、メタノール、エタノール、プロパノールの単一または複数の組み合わせ以外にも、樹脂成分を溶解させ、塗料状の状態にできるものであれば、有機溶剤成分として採用しうる。例えば、スチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、または、メチルエチルケトン等の揮発性を有する有機溶剤成分を採用することができる。
【0103】
また、本発明を適用した防汚塗料では、必要に応じて、上記に記載した組成以外に、適宜、本発明の効果を逸脱しない範囲で、その他の成分を配合することが可能である。例えば、増粘剤、防腐剤、防カビ剤、消泡剤、難燃剤、架橋剤等の塗料の機能性を向上させる添加成分を別途配合することも可能である。
【0104】
続いて、本発明の第2の実施の形態である防汚塗料の製造方法について説明する。以下で説明する内容は、本発明における塗料組成物の製造方法の一例に該当するものである。
【0105】
[1.樹脂成分の溶解]
まず、樹脂成分であるポリカプロラクトン、または、ポリ乳酸の100重量部に対して、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、メタノール、エタノール、プロパノールの単一または複数の組み合わせを、50~200重量部を添加し、湯煎で約20~90度の温度で、30分~1時間撹拌を行い、樹脂成分を溶解させ、室温にて1時間冷却した。その後、混合物にアセトン5~20重量部添加して、結合剤溶液を調製した。
【0106】
[2.結合剤溶液への骨材の混合・分散]
調製した結合剤溶液に、骨材となる無機物成分となるカオリンを、ポリカプロラクトン、または、ポリ乳酸100重量部に対して、100~600重量部添加し、カオリン‐ポリカプロラクトン(またはポリ乳酸)複合溶液Aとした。
【0107】
このカオリン‐ポリカプロラクトン(またはポリ乳酸)複合溶液を、ポットミル1に、複数のアルミナボール2と共に入れ、室温下で、回転速度50~60rpmでポットミル1を回転させ、このボールミル処理により6時間混練した(
図1参照)。以上の工程により、塗料状溶液の防汚塗料組成物を製造した。
【0108】
ここで、本発明を適用した塗料組成物の製造方法では、樹脂成分を溶剤で溶解させる際に、必ずしも、湯煎で約20~90度の温度にする必要はない。例えば、室温で静置する方法も採用しうる。また、溶解させる時間も30分~1時間に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0109】
また、本発明を適用した塗料組成物の製造方法では、結合剤溶液に骨材を加えて混練する際に、必ずしもボールミル処理を採用する必要はない。例えば、撹拌棒を用いた手作業による混練や、3本ロールミルを用いた混練で処理することも可能であり、既知の混練・分散の手法や装置を採用することができる。
【0110】
また、本発明を適用した塗料組成物の製造方法では、結合剤溶液に骨材を加えて混練する際に、必ずしも、室温で処理する必要はなく、混練する時間も適宜設定することができる。例えば、温度を制御して混練する態様も採用しうる。また、温度条件に合わせて、混練する時間も設定することができる。
【0111】
以上で説明した本発明の第2の実施の形態である防汚塗料では、骨材と構成する無機物成分であるカオリンが、最大粒子径が1500μm以下の粒子で構成され、かつ、樹脂成分が、生分解性を有するポリカプロラクトン、または、ポリ乳酸であることから、防汚塗料で形成した塗膜は、適度な脆さを有する塗膜となっている。
【0112】
即ち、塗膜の表面から、その一部が、0.5μm/日以上の速さで減少する剥離性を有する塗膜となる。これにより、塗布後の対象物の表面から、防汚塗料を、少しずつ剥離させることができる。
【0113】
つまり、対象物の塗布面に付着した水生の付着生物と共に、塗膜の表面から、その一部が少しずつ剥離し、水生の付着生物の付着を抑止できる。また、対象物の塗布面では、塗膜の新しい表面が常に維持され、対象物の塗布面を汚れにくくすることができる。
【0114】
また、カオリンは環境負担の少ない無機物成分であり、かつ、ポリカプロラクトン、または、ポリ乳酸は、生分解性を有する樹脂成分であるため、塗膜の一部が剥離しても、海水や土壌等の環境に及ぼす影響を極めて小さいものにすることができる。
【0115】
また、本防汚塗料は、暗所の環境中でも、防汚塗料が、一定の速度での表面剥離性を有することから、塗料を幅広い用途に用いることが可能となる。
【0116】
また、本防汚塗料では、塗膜の表面から、その一部が、0.5μm/日以上速さで減少する剥離性を有することから、塗膜厚を調整することで、防汚性能を長期間維持できる塗料となる。
【0117】
また、本防汚塗料は、ローラーや刷毛等により対象物に塗布することが可能であり、取り扱い性に優れた塗料となる。
【0118】
また、本防汚塗料は、対象物の塗布面において、塗装のムラが少ない緻密な塗膜を形成することができる。また、対象物の塗布面に強固に固着する塗膜を形成することができる。
【0119】
本発明を適用した塗料組成物の製造方法は、環境負荷が小さく、防汚性能の持続性に優れると共に、塗布対象物に強固に固着し、緻密な塗膜が形成可能な塗料組成物を製造可能なものとなっている。
【実施例】
【0120】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0121】
本発明を適用した塗料の実施例の試料を作製し、以下の評価を行った。
[試料の調整]
上述した本発明の第1の実施の形態の防汚塗料を調製し、表面にブラスト加工したアルミニウム製の金属板(A1050)の表面に刷毛塗りして、室温乾燥させ、セルベン‐ポリカプロラクトン複合被膜、及び、タルク‐ポリカプロラクトン複合被膜を形成した試験片100を作製した(
図4(b)~
図4(d)参照)。
【0122】
ここでは、ポリカプロラクトン100重量部に対して、セルベン100重量部を混合した塗料を実施例1、セルベン200重量部を混合した塗料を実施例2、セルベン300重量部を混合した塗料を実施例3、及び、セルベン400重量部を混合した塗料を実施例4とした。また、ポリカプロラクトン100重量部に対して、タルク100重量部を混合した塗料を実施例5、タルク200重量部を混合した塗料を実施例6、タルク300重量部を混合した塗料を実施例7、及び、タルク400重量部を混合した塗料を実施例8とした。
【0123】
[塗膜の表面剥離性の評価]
調製した実施例1~実施例8のそれぞれの塗料を金属板に塗布し、塗膜Pを形成して試験片100とした(
図4(d)参照)。塗膜の膜厚は約1500~1900μmである。この各実施例1~8を塗布した試験片100を、取付治具3(
図4(a)及び
図4(b)参照)の4面に固定し、この取付治具3を、回転軸4を介して回転装置5に取り付けた、また、取付治具3及び試験片100を、人工海水6を入れたビーカー中に入れ、回転速度120rpmで回転軸4及び取付治具3を回転させ(
図4(c)参照)、経時的に試験片100の厚さ(金属板及び塗膜の厚さ)を測定し、塗料表面からの塗料の剥離性を評価した。
【0124】
また、人工海水6は比重約1.02とした。また、試験片の厚さの測定時以外は回転軸4及び取付治具3を回転させ、約2か月間継続的に試験を行った。また、試験片100の厚さの測定では、
図4(d)に符号Sで示す番号の5カ所の定点をマイクロメーターで測定して、5カ所の厚さの測定値の平均値に基づき、塗膜Pの剥離量を評価した。評価結果を
図5及び
図6に示す。
【0125】
図5は、実施例1~4における塗料の表面剥離性評価の結果を示すグラフである。なお、符号T1~T4で示すグラフは、実施例1~4のそれぞれの塗料を塗布した試験片の厚さの変化を示している。また、
図5では、各グラフの傾きに基づき、1日当たりの試験片の厚さの減少量を算出し、この減少量を、塗膜の表面から、その一部が少しずつ剥離していく際の剥離性とした。即ち、この試験片の厚さの減少量が、本願の請求項における剥離性に相当する。また、
図5について、1日当たりの試験片の厚さの減少量は、試験片を人工海水6に接触してから、一定の日数が経過した後、厚さの減少量(減少の程度)が安定した期間における、試験片の厚さの減少量及び日数を用いて算出した。以下、
図6の実験も同様である。
【0126】
図5に示すように、実施例1は0.9μm/日(符号T1)、実施例2は1.2μm/日(符号T2)、実施例3は1.8μm/日(符号T3)、及び、実施例4は2.6μm/日(符号T4)の剥離性を示した。即ち、セルベン‐ポリカプロラクトン複合被膜は、1日当たり、0.9μm/日以上の剥離量を示した。また、セルベンの配合量の増加(結合剤の減少)に伴い、1日当たりの剥離量が増加する傾向が見られた。
【0127】
図6は、実施例5~8における塗料の表面剥離性評価の結果を示すグラフである。なお、符号T5~T8で示すグラフは、実施例5~8のそれぞれの塗料を塗布した試験片の厚さの変化を示している。また、
図6においても、各グラフの傾きに基づき、1日当たりの試験片の厚さの減少量を算出し、この減少量を、塗膜の表面から、その一部が少しずつ剥離していく際の剥離性とした。
【0128】
図6に示すように、実施例5は0.5μm/日(符号T5)、実施例6は0.7μm/日(符号T6)、実施例7は1.5μm/日(符号T7)、及び、実施例8は2.0μm/日(符号T8)の剥離性を示した。即ち、タルク‐ポリカプロラクトン複合被膜は、1日当たり、0.5μm/日以上の剥離量を示した。また、タルクの配合量の増加(結合剤の減少)に伴い、1日当たりの剥離量が増加する傾向が見られた。
【0129】
また、図示しないが、セルベン、及び、タルク以外の無機物成分、即ち、砕石屑、セリサイト、ベントナイト、牡蛎殻、廃石膏、砂防ダム堆砂、ガラス屑、バーミキュライト、パーライト、海砂、川砂、ろう石、カオリン、スメクタイト、ゼオライト、または、黒鉛を、本発明の第1の実施の形態と同様に調整した防汚塗料や、本発明の第2の実施の形態で示した防汚塗料についても、剥離量の値は異なるものの、いずれの各防汚塗料も0.5μm/日以上の剥離量を有していた。
【0130】
なお、本評価における回転速度120rpmは、非常に緩やかな水の流れを模したものである。即ち、実際の海水や河川の水の流れや滞留の速度、または、水に対して移動する船舶の船底の移動速度から見て、回転速度の条件は非常に緩やかな条件と言える。従って、より水の流れ等の条件が厳しい海水等の環境下では、対象物に塗布した塗膜の剥離量(剥離性)は、より多くなるものと推察される。
【0131】
[腐食低減効果の評価]
続いて、上記の表面剥離性の評価に用いた試験片において、各実施例の塗料を塗布した範囲と、塗料を塗布しなかった範囲を比較して、人工海水6に対する被塗装物での腐食低減効果を観察した。
図7に、観察結果の写真図を示す。
【0132】
図7は、実施例6の塗料を金属片に塗布して塗膜を形成した試験片100について、金属箇所M(塗料を塗布しない範囲)、塗料を塗布して塗膜を形成し、表面剥離性の試験後に塗膜を除去した箇所P1(塗料を塗布して、観察時に塗料を除去した範囲)、及び、塗料を塗布したままの箇所P2の各領域が観察できる撮像範囲で、試験片100を撮像した写真図である。
【0133】
ここで、
図7に示すように、試験片100のうち、金属箇所Mでは、点線で囲んだ範囲(符号R1)にあるように、人工海水の影響で、アルミニウム製の試験片の全面的な腐食が観察された。一方、試験片100の表面剥離性の試験後に塗膜を除去した箇所P1では、一点鎖線で囲んだ範囲(符号R2)にあるように、金属の腐食が低減された、きれいな表面が観察された。
【0134】
このことから、本発明を適用した防汚塗料は、対象物に塗布して塗膜を形成することで、被塗装物の腐食を低減する効果を有していることが分かった。
【0135】
続いて、本発明を適用した塗料組成物の種々の実施例を調製して、塗料の安定性または塗料作業性に関する評価を行った。
【0136】
本発明を適用した塗料の実施例を作製し、以下の評価を行った。また、一部、樹脂及び溶剤のみからなり、骨材を含まない試験例を作製して、樹脂の溶解性についても評価を行った。
【0137】
まず確認試験の内容を以下に記載する。
【0138】
[試験No.1]樹脂の溶解性
実施例の塗料、または、試験例(樹脂及び溶剤のみ)について、樹脂の溶解性を評価した。試験結果は、樹脂が溶剤に完全溶解(表の中では〇で記載)、樹脂固形の粘性が低下または粘性の低い樹脂固形の一部が残るがほぼ溶解(表の中では△で記載)、及び、樹脂が溶解しない、または、ほとんどの樹脂固形が残り一部のみ溶解(表の中では×で記載)で評価した。
【0139】
[試験No.2]溶解樹脂と骨材の混合
実施例の塗料について、溶解樹脂と骨材の混合具合(塗料化しているか)を評価した。試験結果は、溶解樹脂と骨材が完全混合(表の中では〇で記載)、溶解樹脂と骨材の混合において、骨材の濡れ性不足がみられる、または、塗料としての粘性が高く、塗装作業が困難(表の中では△で記載)、及び、樹脂が溶解しない、または、溶解樹脂と骨材が混合できない(表の中では×で記載)で評価した。
【0140】
[試験No.3~No.5]骨材の沈殿の有無
実施例の塗料について、樹脂と骨材を混合後、容器中に放置して、一定時間経過後に、容器の底における骨材の沈殿の有無を確認した。試験No.3は1時間後、試験No.4は24時間後、試験No.5は72時間後である。試験結果は、容器の底に沈殿はみられるものの、攪拌棒で容易に骨材が攪拌できる(表の中では〇で記載)、容器の底に固めの沈殿物がみられ、攪拌棒で骨材の攪拌ができる(表の中では△で記載)、及び、硬い沈殿物が見られ、攪拌棒で容易に骨材の攪拌ができない(但し、時間をかけて攪拌することで骨材を塗料中に再分散させることが可能)(表の中では×で記載)で評価した。
なお、試験No.5は、実際の塗料の使用場面を想定した場合、樹脂と骨材を混合後、容器中で72時間放置することはほとんどないため、かなり厳しい条件であり、一般的な使用環境を想定した場合、塗料や塗膜の性能に直接影響するものではない。
【0141】
[試験No.6及び試験No.7]貯蔵安定性
実施例の塗料、または、試験例(樹脂及び溶剤のみ)について、攪拌を行った塗料を容器に入れて、試験No.6は、低温(-10℃で7日間放置後、室温に1日放置)で放置し、試験No.7は、高温(50℃で7日間放置後、室温に1日放置)で放置し、放置後、攪拌棒を用いて、塗料の容器中の塗料の状態確認(状態変化)を行った。試験結果は、容器の底に沈殿はみられるものの、攪拌棒で容易に骨材が攪拌できる(表の中では〇で記載)、容器の底に固めの沈殿物がみられ、攪拌棒で骨材の攪拌ができる(表の中では△で記載)、及び、硬い沈殿物が見られ、攪拌棒で容易に骨材の攪拌ができない(表の中では×で記載)で評価した。なお、試験No.6は「JIS K5600 2-7」に相当する試験であり、試験No.7は「JIS K 5600 2-7の7」に相当する試験である。
なお、試験No.6は、実際の塗料の使用場面を想定した場合、-10度での保存は、寒冷のかなり特殊な環境下であり、一般的な使用環境を想定した場合、試験No.6の結果は、塗料や塗膜の性能に直接影響するものではない。
【0142】
[試験No.8]容器中の安定性
実施例の塗料について、攪拌後、室温に14日間放置し、再攪拌し、攪拌棒の触感によって評価を行った。試験結果は、試料中に硬い塊がなく一様になる(表の中では〇で記載)、容易に攪拌はできないものの、時間をかければ攪拌ができる(表の中では△で記載)、及び、硬い塊が残る(表の中では×で記載)で評価した。なお、試験No.8は「JIS K 5600 1-1の4.1」に相当する試験である。
【0143】
[試験No.9]刷毛塗の作業性
実施例の塗料について、攪拌後、刷毛塗装を1回行い、塗膜性状を確認した。試験結果は、問題なく刷毛塗が可能(表の中では〇で記載)、塗料粘度が高く、若干塗装性が悪くなる(表の中では△で記載)、及び、刷毛での塗装作業が困難(表の中では×で記載)で評価した。なお、試験No.9は「JIS K 5600 1-1の4.2」に相当する試験である。
【0144】
[試験No.10]乾燥時間
実施例の塗料について、塗料を塗装し、2時間後の指触乾燥を調べて評価した。試験結果は、塗装塗膜の中心を指で軽く触り指先が汚れない(表の中では〇で記載)、指触で指はよごれないものの、湿り気や塗膜の柔らかさを感じる(表の中では△で記載)、及び、塗膜が破損、または、指が汚れる(表の中では×で記載)で評価した。なお、試験No.10は「JIS K 5600 1-1の4.3」に相当する試験である。
【0145】
実施例、または、試験例について、上記の各試験を行った結果を表1~表9に示す。なお、表中の樹脂、溶剤、及び、骨材の数値は重量部を表している。
【0146】
【0147】
試験例1~3では、樹脂の溶解性は良好であり、高温での貯蔵安定性も良好であった。また、低温での貯蔵安定性は、樹脂成分のポリカプロラクトン100重量部に対して、溶剤がトルエン50重量部のみ添加する場合、不良であったが、溶剤に、トルエン50重量部とアセトン10重量部を併用、または、トルエン50重量部とアセトン10重量部を併用することで改善が見られた。
【0148】
【0149】
試験例4~9は、溶解温度は50℃~70℃、溶解時間は30分~1時間の条件である。試験例4~9は、樹脂の溶解性は良好であり、高温での貯蔵安定性も良好であった。また、低温での貯蔵安定性も、容器の底に沈殿が見られても、撹拌が可能なものであった。
【0150】
【0151】
実施例9及び実施例10では、樹脂の溶解性、溶解樹脂と骨材の混合具合、高温での貯蔵安定性、容器中の安定性、刷毛塗の作業性が良好であり、塗布して2時間後の指触乾燥で、乾燥が確認された。骨材の無機物成分はカオリン、または、黒鉛である。なお、表3の対照は、樹脂と溶剤のみで、骨材を含まないコントロールの組成物である。
【0152】
【0153】
実施例11及び実施例16では、樹脂の溶解性、高温及び低温での貯蔵安定性、容器中の安定性が良好であり、塗布して2時間後の指触乾燥で、乾燥が確認された。骨材の無機物成分はカオリン、または、黒鉛である。樹脂成分のポリカプロラクトン100重量部に対して、カオリン100~400重量部が添加されている。
【0154】
【0155】
実施例17及び実施例18では、樹脂の溶解性、溶解樹脂と骨材の混合具合、高温及び低温での貯蔵安定性、容器中の安定性、刷毛塗の作業性が良好であり、塗布して2時間後の指触乾燥で、乾燥が確認された。溶剤はトルエン100重量部に、アセトン20重量部が併用されている。骨材の無機物成分はカオリン、または、黒鉛である。
【0156】
【0157】
実施例19~21では、樹脂の溶解性、溶解樹脂と骨材の混合具合、高温及び低温での貯蔵安定性、容器中の安定性、刷毛塗の作業性が良好であり、塗布して2時間後の指触乾燥で、乾燥が確認された。樹脂成分のポリカプロラクトン100重量部に対して、溶剤はトルエン150重量部、または、200重量部に変量させた。
【0158】
【0159】
実施例22~27では、樹脂の溶解性、溶解樹脂と骨材の混合具合、高温及び低温での貯蔵安定性、容器中の安定性、刷毛塗の作業性が良好であり、塗布して2時間後の指触乾燥で、乾燥が確認された。樹脂成分はポリ乳酸であり、骨材の無機物成分はカオリン、または、黒鉛である。
【0160】
【0161】
実施例28~30では、樹脂の溶解性、溶解樹脂と骨材の混合具合、高温及び低温での貯蔵安定性、容器中の安定性、刷毛塗の作業性が良好であり、塗布して2時間後の指触乾燥で、乾燥が確認された。溶剤は、トルエン、キシレン、または、エチルベンゼン100重量部と、アセトン10重量部を併用した。骨材の無機物成分はカオリンである。
【0162】
【0163】
実施例31及び実施例31では、樹脂の溶解性、溶解樹脂と骨材の混合具合、高温及び低温での貯蔵安定性、容器中の安定性、刷毛塗の作業性が良好であり、塗布して2時間後の指触乾燥で、乾燥が確認された。溶剤は、塩化メチレン50重量部である。骨材の無機物成分はカオリンである。
【符号の説明】
【0164】
1 ポットミル
2 アルミナボール
3 取付治具
4 回転軸
5 回転装置
6 人工海水
100 試験片
【要約】
【課題】環境負荷が小さく、防汚性能の持続性に優れると共に、塗布対象物に強固に固着し、緻密な塗膜が形成可能な塗料組成物及び塗料組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】防汚塗料は、ポリカプロラクトン100重量部に対して、セルベン:100~400重量部、塩化メチレン400重量部を有している。また、ここで示す防汚塗料は、対象物に塗布して塗膜を形成した際に、後述する表面剥離性の試験条件において、塗膜の膜厚が0.9μm/日~2.6μm/日の速さで減少する剥離性を有している。
【選択図】
図5