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特許7321451電解コンデンサおよび電解コンデンサ用水素吸蔵合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよび電解コンデンサ用水素吸蔵合金
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/12 20060101AFI20230731BHJP
   C22C 19/00 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
H01G9/12 Z
C22C19/00 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019127437
(22)【出願日】2019-07-09
(65)【公開番号】P2021012988
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 敦
(72)【発明者】
【氏名】冨永 誠
(72)【発明者】
【氏名】布浦 達也
(72)【発明者】
【氏名】高松 佑
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-090920(JP,A)
【文献】実開昭59-171330(JP,U)
【文献】特開平07-243409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/12
C22C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極とを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納されるケースと、を備え、
前記ケースの内部に、水素吸蔵合金が配置され、
前記水素吸蔵合金が、LaNix(1.5≦x≦3)またはLaNiAl系合金である電解コンデンサ。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金が、前記ケース内部において面状に配置されている請求項1記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金が、前記ケースの底面に配置されている請求項1または2記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
粉末の前記水素吸蔵合金が、封止体に封入されている請求項1-3いずれか一項記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記封止体の少なくとも一部が電解紙で構成される請求項4記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
陽極と陰極とを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納されるケースと、
を備える電解コンデンサの内部に収納される水素吸蔵合金であって、
前記水素吸蔵合金は、LaNix(1.5≦x≦3)またはLaNiAl系合金からなる
ことを特徴とする電解コンデンサ用水素吸蔵合金。
【請求項7】
前記水素吸蔵合金は、面状に形成されていることを特徴とする
請求項6記載の電解コンデンサ用水素吸蔵合金。
【請求項8】
前記水素吸蔵合金は、封止体に封入されていることを特徴とする
請求項6または7に記載の電解コンデンサ用水素吸蔵合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金を備えた電解コンデンサおよび電解コンデンサ用水素吸蔵合金に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、対向配置された陽極および陰極を含み構成される。例えば、電解コンデンサは、帯状のアルミニウム箔にエッチング処理を施してアルミニウム箔表面を拡大させ、このアルミニウム箔を化成処理して表面に酸化皮膜層を形成させた陽極箔と、エッチング処理のみを施した高純度のアルミニウム箔からなる陰極箔とを有する。陽極箔と陰極箔を、セパレータを介して巻回することにより、コンデンサ素子が形成される。このコンデンサ素子は電解液が含浸された後、有底筒状のケースに収納される。ケースの開口部には、弾性ゴムからなる封口体が装着され、絞り加工により外装ケースが密封される。
【0003】
近年、静電容量を増加しつつ、電解コンデンサを小型化するために、陽極箔の酸化皮膜を薄くすることで容量を増加させる方法が採用されている。ただし、電解コンデンサの耐電圧は酸化皮膜の厚さに依存するため、酸化皮膜を薄くすると陽極箔の耐電圧が低下し、電解コンデンサの漏れ電流が増加するおそれがある。漏れ電流の増加により、アノード分極反応により生成される電子の量が増加する。
【0004】
漏れ電流により発生した電子が陰極箔に移動すると、カソード分極反応として、水素ガスが生成される。水素ガスを生成するカソード分極反応は、ファラデーの法則に則り、電解コンデンサの漏れ電流により生じるアノード分極反応に比例して大きくなる。そのため、陽極箔の酸化皮膜を薄くした場合、水素ガスの発生量の増加により、電解コンデンサの内部圧力が上昇し、電解コンデンサの寿命が短くなるおそれがあった。
【0005】
電解コンデンサでは、上記のようなメカニズムで電解コンデンサ内部に水素ガスが発生し、外装ケースが膨らむ可能性があった。また、他の蓄電デバイスにおいても、水和劣化等、発生由来は異なれど水素ガスが発生し、コンデンサの内部圧力を上昇させることがあった。そのため、電解コンデンサでは、発生した水素ガスにより電解コンデンサが破裂することを防ぐために、発生した水素ガスを放出する構造が検討されてきた。一例としては、封口体に貫通孔を設けることで、水素ガスを電解コンデンサの外部に透過させる構造などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平08-335536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発生した水素ガスを解放するためのガス抜き構造は、電解コンデンサの破裂を防ぐための重要な構成である。しかし、ガス抜き弁が開弁すれば電解コンデンサの寿命が終了したことを意味するため、発生した水素ガスに対する最終手段としての立場を担うに過ぎない。そのため、水素ガスの発生を抑制する、または、発生した水素ガスを減少させることにより、電解コンデンサのケースの膨れを抑制する技術が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、ケースの膨れを抑制することができる電解コンデンサおよび電解コンデンサ用水素吸蔵合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本実施形態に係る電解コンデンサは、次の構成を有する。
(1)陽極と陰極とを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納されるケースと、を備え、前記ケースの内部に、水素吸蔵合金が配置され、前記水素吸蔵合金が、LaNix(1.5≦x≦3)またはLaNiAl系合金である。
【0010】
(2)前記水素吸蔵合金が、前記ケース内部において面状に配置されていても良い。
(3)前記水素吸蔵合金が、前記ケースの底面に配置されていても良い。
(4)粉末の前記水素吸蔵合金が、封止体に封入されていても良い。
(5)前記封止体の少なくとも一部が電解紙で構成されていても良い。
【0011】
また、本実施形態に係る電解コンデンサ用水素吸蔵合金は、次の構成を有する。
(6)陽極と陰極とを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納されるケースと、を備える電解コンデンサの内部に収納される水素吸蔵合金であって、前記水素吸蔵合金は、LaNix(1.5≦x≦3)またはLaNiAl系合金からなる。
(7)粉末の前記水素吸蔵合金が、封止体に封入されていても良い。
(8)前記封止体の少なくとも一部が電解紙で構成されていても良い。
【0012】
本発明によれば、ケースの膨れを抑制することができる電解コンデンサおよび電解コンデンサ用水素吸蔵合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の電解コンデンサの一例を示す構成図である。
図2】本実施形態の水素吸蔵合金の封止体を示す図であり、(a)はシート状の封止体(b)はチューブを用いた封止体を示す。
図3】水素吸蔵合金としてLaNixを用いた場合の、ケースの膨れ量を示すグラフである。
図4】水素吸蔵合金としてLaNiAl系合金を用いた場合の、ケースの膨れ量を示すグラフである。
図5】封止体の構成によるケースの膨れ量の違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施する形態について、図1を参照して説明する。以下では、電解コンデンサの一例として巻回型の電解コンデンサを用いて実施例を説明する。ただし、本実施形態は、積層型のコンデンサにも適用可能である。
【0015】
[1.構成]
本実施形態の電解コンデンサは、アルミニウム等の弁作用金属からなり、表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と、陰極箔とを、有する。この陽極箔と陰極箔とを、合成繊維を含有する不織布からなるセパレータを介して巻回することによりコンデンサ素子1が形成される。また、陽極箔、陰極箔にはリード線2がそれぞれ電気的に接続されている。このコンデンサ素子1は、電解液に含浸された後、有底筒状のケース3に収納される。このケース3の内部に、水素吸蔵合金4が配置されている。また、ケース3の開口部には、弾性ゴムからなる封口体5が装着され、絞り加工によりケース3が密封される。
【0016】
陽極箔は、アルミニウム等の弁作用金属の表面を、塩化物水溶液中での電気化学的なエッチング処理により粗面化して多数のエッチングピットを形成した金属箔である。陽極箔の表面には、ホウ酸アンモニウム等の水溶液中で電圧を印加して誘電体となる酸化皮膜層が形成されている。
【0017】
陰極箔は、陽極箔と同様にアルミニウム等の金属箔であり、表面にエッチング処理のみが施されているものを用いる。陽極箔及び陰極箔にはそれぞれの電極を外部に接続するためのリード線が、ステッチ、超音波溶接等により接続されている。このリード線は、アルミニウム等の金属線であり、陽極箔、陰極箔との接続部と外部との電気的な接続を担う外部接続部を含む。リード線は、巻回したコンデンサ素子の端面から導出される。
【0018】
セパレータとしては、合成繊維を主体とする不織布セパレータや、セルロース繊維を主体とするセパレータなどが挙げられる。合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系繊維、ビニロン系繊維、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系繊維、ポリイミド系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、トリメチルペンテン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アクリル繊維、アラミド繊維などが挙げられる。セルロース繊維としては、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、溶剤紡糸レーヨン繊維、コットン繊維などが挙げられる。また、合成繊維とセルロース繊維を混合したものを用いることもできる。
【0019】
コンデンサ素子1には、所定の修復化成が施されてよい。修復化成の化成液としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液を用いることができる。その後、コンデンサ素子1に所定の電圧を印加して、陽極箔及び陰極箔の表面に酸化皮膜を形成する。なお、浸漬時間は、5~120分とすることが好ましい。
【0020】
そして、コンデンサ素子1に電解液を含浸し、電解液を含浸したコンデンサ素子1を、有底筒状のアルミニウムよりなるケース3に収納し、ケース3の開口部に封口体5を装着するとともに、ケース3の端部に絞り加工を施してケース3を密封する。封口体5は例えばブチルゴム等の弾性ゴムからなり、リード線2をそれぞれ導出する貫通孔を備える。
【0021】
電解液の溶媒としては、以下に挙げるものが用いられる。なお、これらの溶媒はそれぞれ単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。溶媒としては、プロトン性極性溶媒である一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール及びオキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1,3-ブタンジオール、メトキシプロピレングリコール等)、非プロトン性溶媒であるアミド類(N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、ラクトン類、環状アミド類、カーボネート類(γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、ニトリル類(アセトニトリル)、オキシド類(ジメチルスルホキシド等)などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で使用してもよく、2種以上の有機溶媒を使用しても良い。また、電解液は水と有機溶媒を混合した溶媒を用いても良い。
【0022】
電解質としては、フタル酸塩、サリチル酸塩、安息香酸塩、アジピン酸塩、マレイン酸塩、ホウ酸塩等の溶質を用いることができる。塩としては、アミジニウム塩、イミダゾリニウム塩、ピリミジニウム塩、ホスホニウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩等が挙げられる。電解液の溶質も単一の化合物であっても良く2種以上の混合物であっても良い。
【0023】
ここで、本実施形態の電解コンデンサでは、コンデンサ素子1が収納されたケース3の内部に、水素吸蔵合金4が配置されている。水素吸蔵合金4は、水素と反応して金属水素化合物として水素を補足する性質を有する。本実施形態の水素吸蔵合金4は、LaNix(1.5≦x≦3)またはLaNiAl系合金である。水素吸蔵合金4として、価数xが1.5≦x≦3であるLaNix、またはLaNiAl系合金を用いることにより、ケース3内部で発生した水素ガスが、水素吸蔵合金4により効率的に補足され、ケース3の膨れ量が抑制される。特に、LaNiAl系合金においては、LaNixAlyとしたとき、価数xが1.9≦x≦4.9、価数yが0.1≦y≦1.5であることが望ましい。
【0024】
水素吸蔵合金4は、ケース3内部において面状に配置されていることが好ましい。図1の例では、ケース3の底面に水素吸蔵合金4を配置した例を示す。なお、ここでケース3の底面とは、リード線が外部に導出される面の対面あるいはケース3の開口部の対面のことを指す。ただし、水素吸蔵合金4は、ケース3の内周面に沿うように面状に配置されていても良い。水素吸蔵合金4を面状に配置すると、発生した水素ガスとの接触効率が向上し、ケース3の膨れ量を抑制する効果が高まる。ただし、水素吸蔵合金4の配置態様は、面状に限定されるものではない。例えば、棒状の水素吸蔵合金4をケース3内に配置しても良い。棒状の水素吸蔵合金4は、コンデンサ素子1の内部に挿入して用いることもできる。
【0025】
水素吸蔵合金4の形状は特に限定されないが、粉末状とすると水素吸蔵合金の比表面積が増えるため好ましい。水素ガスとの接触効率や取り扱いのし易さ、ケース3内部における水素吸蔵合金4の充填効率などを考慮すると、粒径を75μm~1mmにすることが望ましい。粉末状の水素吸蔵合金4は、図2に示す通り、電解紙や樹脂等の封止体6に封入することにより、所望の形状にてケース3内部に配置することが可能となる。なお、図2では、符号6a~6cが封止体を構成する部材である。粉末状の水素吸蔵後金4は、例えば2枚の矩形の電解紙6aに挟まれ、2枚の電解紙6a同士を粘着テープや接着剤等で接着することにより、面状に配置することが可能となる。また、粉末状の水素吸蔵合金4は、樹脂製のチューブ6b内部に充填され、チューブの2つの開口を電解紙や樹脂の栓6cにより封止することにより、棒状に配置することが可能となる。
【0026】
水素吸蔵合金4を封止する電解紙は、水素ガスの透過性に優れている電解紙を用いることが好ましく、セパレータに用いる電解紙と同様の電解紙を用いることができる。そのため、水素吸蔵合金4を封止する電解紙としては、合成繊維を主体とする不織布セパレータや、セルロース繊維を主体とするセパレータなどを用いることができる。合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系繊維、ビニロン系繊維、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系繊維、ポリイミド系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、トリメチルペンテン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アクリル繊維、アラミド繊維などが挙げられる。セルロース繊維としては、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、溶剤紡糸レーヨン繊維、コットン繊維などが挙げられる。また、合成繊維とセルロース繊維を混合したものを用いることもできる。
【0027】
同様に、水素吸蔵合金4を封止する樹脂は、水素ガスの透過性に優れている樹脂を用いることが好ましい。例えば、シリコン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴムを用いると良い。なお、水素ガスの透過性が不十分な材料であっても、上記の電解紙または樹脂と組み合わせて水素吸蔵合金4の封止体を構成することができる。例えば、フッ素系樹脂からなるチューブ6bに、水素吸蔵合金4を充填し、チューブ6bの開口を上記の電解紙または樹脂の栓6cにより塞ぐことで、水素ガス透過性を有する封止体6とすることができる。
【0028】
[2.作用効果]
本実施形態の電解コンデンサが奏する作用効果は、以下の通りである。
(1)陽極と陰極とを有するコンデンサ素子1と、コンデンサ素子1が収納されるケース3と、を備え、ケース3の内部に、水素吸蔵合金4が配置され、水素吸蔵合金4が、LaNix(1.5≦x≦3)またはLaNiAl系合金である。
【0029】
本実施形態の電解コンデンサでは、LaNix(1.5≦x≦3)またはLaNiAl系合金である水素吸蔵合金がケース内部に配置されている。そのため、電解コンデンサのケース内部にて発生した水素ガスが水素吸蔵合金により補足され減少する。従って、電解コンデンサのケースの膨れを抑制することが可能となり、電解コンデンサの寿命を長期化することができる。
【0030】
(2)水素吸蔵合金4が、ケース3内部において面状に配置されている。
【0031】
水素吸蔵合金を、面状に配置することにより、ケース内部の水素ガスと水素吸蔵合金の接触効率が良好となる。そのため、水素吸蔵合金が、より効率的にケース内の水素ガスを補足することが可能となる。
【0032】
(3)水素吸蔵合金4が、ケース3の底面に配置されている。
【0033】
水素吸蔵合金を、ケース底面に配置することにより、ケース内部の水素ガスと水素吸蔵合金の接触効率を向上させることができる。電解コンデンサの使用状況においては、ケースの底面側が上方に向かうように配置される場合が多い。ケース内部で発生した水素ガスは上方側、すなわちケースの底面側に移動する可能性があることから、ケースの底面に水素吸蔵合金を配置することで、水素ガスと水素吸蔵合金の接触効率が改善される。
【0034】
(4)粉末の水素吸蔵合金4が、封止体6に封入されている。
【0035】
粉末の水素吸蔵合金を用いることで、水素吸蔵合金の比表面積を大きくすることができる。そのため、ケース内部の水素ガスと水素吸蔵合金の接触効率が高められ、より多くの水素ガスが水素吸蔵合金により補足される。
【0036】
(5)封止体6の少なくとも一部が電解紙で構成される。
【0037】
電解紙は水素ガスを透過させるため、封止体の一部に電解紙を設けることにより、ケース内部の水素ガスと水素吸蔵合金をより確実に接触させることが可能となる。
【実施例
【0038】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0039】
[1.LaNix]
(コンデンサ素子の作製)
陽極箔及び陰極箔をセパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成した。陽極箔は、純度99.9%のアルミニウムを酸性溶液中で化学的あるいは電気化学的にエッチングして拡面処理した後、ホウ酸アンモニウムの水溶液中において、650Vで化成処理を行い、その表面に酸化皮膜層を形成したものを用いた。一方、陰極箔は、純度99.9%のアルミニウムをエッチングして拡面処理した電極箔を用いた。また、セパレータとしてはクラフト紙を用いた。
【0040】
(水素吸蔵合金の作製)
各実施例および比較例において、以下の水素吸蔵合金を、ポリテトラフルオロエチレンのチューブに0.7g充填し、シリコン樹脂製の栓でチューブの両端の開口を封止した。このチューブ入りの水素吸蔵合金を、巻回したコンデンサ素子の中心部に挿入して配置した。
比較例1:水素吸蔵合金なし
比較例2:LaNi
実施例1:LaNi1.5
実施例2:LaNi
実施例3:LaNi
比較例3:LaNi
比較例4:LaNi
【0041】
(電解液の作製)
電解液は、エチレングリコールを溶媒とし、ホウ酸を溶質として調合した。
【0042】
(電解コンデンサの作製)
作製した電解液をコンデンサ素子に含浸し、有底筒状のアルミニウムよりなるケースに収納し、ケースの開口端部に、ブチルゴム製の封口体を挿入し、さらにケースの端部を絞り加工することにより電解コンデンサの封口を行った。コンデンサ素子は、径30mm、長さ40mmで、450WV-390μFのものを用いた。なお、各実施例および比較例について、電解コンデンサを5個ずつ作製し、以下の試験を行った。
【0043】
上記のようにして作製した実施例1~3、および比較例1~4の電解コンデンサについて、水素ガス発生量を確認するための試験を行った。試験方法は、電解コンデンサに対して105℃にて450WVの電圧を印加し、試験開始後250時間毎に、ケース底面の膨れ量について、その高さを測定した。表1に、各実施例および比較例について、5個の電解コンデンサの底面膨れ量の平均を求めた結果を示す。
【表1】
【0044】
表1のデータを、横軸を時間、縦軸を膨れ量としてグラフにプロットした結果を図3に示す。図3からも明らかな通り、試験開始後250時間では、水素吸蔵合金が封入されていない比較例1と比べると、実施例1~3および比較例2~4の電解コンデンサでは膨れ量が少なかった。この時点では、LaNixの価数xが大きい比較例3および4の電解コンデンサにおいて、比較的膨れ量が少なかった。
【0045】
試験開始後500時間以降では、LaNixの価数xが1である比較例2において、膨れ量が急増した。同様に、250時間後までは良好な結果を示していた比較例3および4においても、膨れ量が徐々に大きくなる傾向にある。これらの比較例2~4では、水素吸蔵合金による水素ガスの補足が不十分な状態であり、ケースに膨れが生じたと考えられる。水素吸蔵合金は、所定の温度および圧力で水素の吸蔵または放出を行うことが知られている。そのため、比較例2~4では、水素圧との関係で水素の吸蔵が行えない状態、又は、吸蔵した水素が放出されている状態にあると考えられる。
【0046】
一方、LaNixの価数xが1.5≦x≦3にある実施例1~3では、試験開始後500時間以降においても、ケースの膨れ量の増加が穏やかであった。LaNixの価数xが1.5≦x≦3にある場合には、水素吸蔵合金による水素ガス補足効果が長時間持続されることが分かった。
【0047】
[2.LaNiAl系合金]
水素吸蔵合金をLaNiAl系合金として、上記と同様の方法で電解コンデンサを作製した。使用したLaNiAl系合金は以下の通りである。
実施例6:LaNi1.9Al0.1
実施例7:LaNiAl
実施例8:LaNi3.5Al1.5
実施例9:LaNi4.5Al0.5
実施例10:LaNi4.9Al0.1
【0048】
上記のようにして作製した実施例6~10、および比較例1の電解コンデンサについて、水素ガス発生量を確認するための試験を行った。試験方法は、電解コンデンサに対して105℃にて450WVの電圧を印加し、試験開始後250時間毎に、ケース底面の膨れ量について、その高さを測定した。表2に、各実施例および比較例について、5個の電解コンデンサの底面膨れ量の平均を求めた結果を示す。
【表2】
【0049】
表2のデータを、横軸を時間、縦軸を膨れ量としてグラフにプロットした結果を図4に示す。図4からも明らかな通り、試験開始後250時間以降、水素吸蔵合金が封入されていない比較例1と比べると、実施例6~10の電解コンデンサでは膨れ量の増加が穏やかであり、発生した水素ガスが水素吸蔵合金により補足されていることが分かった。この傾向は、特に、LaNi1.9Al0.1を用いた実施例6で顕著に確認された。実施例6では、試験開始後250時間以降、ケースの膨れ量がほとんど増加しておらず、発生した水素ガスが水素吸蔵合金により確実に補足されていると考えられた。
【0050】
[2.水素吸蔵合金の配置方法]
水素吸蔵合金の配置方法について検討するために、異なる構造の封止体を作製し、試験を行った。使用した水素吸蔵合金は、0.7gのLaNiAlであった。なお、電解コンデンサの作製方法は、上記と同じである。
【0051】
(実施例11)
粉末状の水素吸蔵合金をポリテトラフルオロエチレンのチューブ内部に充填し、チューブの2つの開口をシリコン樹脂製の栓で封止した。作製した水素吸蔵合金入りのチューブは、コンデンサ素子の中央部分に挿入した。
【0052】
(実施例12)
粉末状の水素吸蔵合金をポリテトラフルオロエチレンのチューブ内部に充填し、チューブの2つの開口をクラフト紙で作製した栓で封止した。作製した水素吸蔵合金入りのチューブは、コンデンサ素子の中央部分に挿入した。
【0053】
(実施例13)
粉末状の水素吸蔵合金を、2枚の矩形のクラフト紙の間に挟み、2枚のクラフト紙の端部を粘着テープで接着して封止した。作製した水素吸蔵合金入り電解紙は、ケースの底面に配置した。
【0054】
(実施例14)
1枚の矩形のクラフト紙に配置した粉末状の水素吸蔵合金をシリコン樹脂で覆った。シリコン樹脂により水素吸蔵合金と一体化したクラフト紙は、ケースの底面に配置した。
【0055】
上記のようにして作製した実施例11~14の電解コンデンサについて、水素ガス発生量を確認するための試験を行った。試験方法は、電解コンデンサに対して105℃にて450WVの電圧を印加し、試験開始後250時間毎に、ケース底面の膨れについて、その高さを測定した。表3に、各実施例について、5個の電解コンデンサの底面膨れ量の平均を求めた結果を示す。
【表3】
【0056】
表3のデータを、横軸を時間、縦軸を膨れ量としてグラフにプロットした結果を図5に示す。図5からも明らかな通り、水素吸蔵合金をクラフト紙で封止、ケースの底面に面状に配置した実施例13では、試験開始後250時間以降、ケースの膨れにほとんど変化がなく、発生した水素ガスが確実に補足されていることが分かった。水素吸蔵合金をシリコン樹脂で封止、ケースの底面に面状に配置した実施例14では、試験開始後1000時間経過時のケースの膨れが、実施例13の次に良好な値となった。以上より、水素吸蔵合金をケース内部において面状に配置することにより、水素吸蔵合金による水素ガス補足効果を高めることができることが分かった。
【0057】
また、水素吸蔵合金をチューブに封止した実施例11および12を比較すると、チューブの開口をクラフト紙の栓で封止した実施例12の方が、試験開始後1000時間経過時のケースの膨れ量が少ない値となった。これは、チューブの開口に電解紙の栓を用いた実施例12では、電解紙が水素ガスの通り道となり、水素ガスと水素吸蔵合金の接触効率がよくなったことに原因があると考えられた。従って、封止体の少なくとも一部を電解紙で構成することにより、水素吸蔵合金の水素ガス補足効率が高まることが分かった。
【符号の説明】
【0058】
1…コンデンサ素子
2…リード線
3…ケース
4…水素吸蔵合金
5…封口体
6、6a、6b、6c…封止体
図1
図2
図3
図4
図5