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特許7321457アルミニウム合金材、その製造方法及びインペラ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】アルミニウム合金材、その製造方法及びインペラ
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20230731BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20230731BHJP
   C22F 1/047 20060101ALI20230731BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20230731BHJP
   F02C 6/12 20060101ALI20230731BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20230731BHJP
   F04D 29/28 20060101ALI20230731BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20230731BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230731BHJP
【FI】
C22C21/06
C22C21/10
C22F1/047
C22F1/053
F02C6/12
F02C7/00 C
F02C7/00 D
F04D29/28 N
F04D29/28 R
F02B39/00 Q
F02B39/00 U
C22F1/00 612
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 683
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020033896
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134413
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅晶
(72)【発明者】
【氏名】杉山 知平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 尚記
【審査官】村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-179043(JP,A)
【文献】特開2013-087304(JP,A)
【文献】特開2008-088460(JP,A)
【文献】特開平01-246380(JP,A)
【文献】特開2009-144190(JP,A)
【文献】特開平05-263176(JP,A)
【文献】特開平11-181595(JP,A)
【文献】特開平02-107739(JP,A)
【文献】特開2007-083307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/00-3/02
F02C 6/12
F02C 7/00
F04D 29/28
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:1.0原子%以上10.0原子%以下、Zn:2.0原子%以上9.0原子%以下、Ni:0.25原子%以上3.0原子%以下及びCu:0.25原子%以上3.0原子%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
Alマトリクス中に第二相粒子が析出した金属組織を有する、アルミニウム合金材。
【請求項2】
Mgの含有量が3.5原子%以上9.0原子%以下である、請求項1に記載のアルミニウム合金材。
【請求項3】
Znの含有量が3.0原子%以上8.0原子%以下である、請求項1または2に記載のアルミニウム合金材。
【請求項4】
Cuの含有量がNiの含有量よりも多い、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項5】
Znの含有量に対するMgの含有量の比Mg/Znの値が0.8以上2.0以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材からなるインペラ。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材の製造方法であって、
前記化学成分を有する鋳塊を作製し、
前記鋳塊を420~500℃の温度で24~48時間加熱して溶体化処理を行い、
次いで、前記鋳塊を焼入れし、
その後、前記鋳塊を200~300℃の温度で1~100時間加熱して時効処理を行う、アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材の製造方法であって、
前記化学成分を有する鋳塊を作製し、
前記鋳塊に展伸加工を施して展伸材を作製し、
前記展伸材を420~500℃の温度で24~48時間加熱して溶体化処理を行い、
次いで、前記展伸材を焼入れし、
その後、前記展伸材を200~300℃の温度で1~100時間加熱して時効処理を行う、アルミニウム合金材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金材、その製造方法及びこのアルミニウム合金材からなるインペラに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、比強度が高いという特性を活かし、機械部品などの素材として使用されている。機械部品の中でも、例えば、ターボチャージャに組み込まれるインペラなどの輸送機用圧縮機部品には、高温下での機械的特性に優れていることが求められる。
【0003】
例えば非特許文献1には、Al-Mg-Zn三元系合金が高温における強度に優れていることが記載されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「第134回春季大会講演概要」、一般社団法人軽金属学会発行、平成30年4月26日、第317-318ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1のAl-Mg-Zn三元系合金は、クリープ特性に未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、クリープ特性に優れたアルミニウム合金材、その製造方法及びインペラを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、Mg(マグネシウム):1.0原子%以上10.0原子%以下、Zn(亜鉛):2.0原子%以上9.0原子%以下、Ni(ニッケル):0.25原子%以上3.0原子%以下及びCu(銅):0.25原子%以上3.0原子%以下を含有し、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
Alマトリクス中に第二相粒子が析出した金属組織を有する、アルミニウム合金材にある。
【発明の効果】
【0008】
前記アルミニウム合金材は、前記の通り、Mg、Zn、Ni及びCuを前記特定の範囲の含有量で含有する五元系合金である。前記アルミニウム合金材の化学成分を前記特定の範囲とすることにより、クリープ特性を改善することができる。
【0009】
以上のように、前記アルミニウム合金材は、優れたクリープ特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、試験材E1~E11及び試験材C1~C9のクリープ破断時間を示すグラフである。
図2図2は、試験材E3、E5、E7、E9及びE11のひずみ速度-時間曲線である。
図3図3は、試験材E1、E3、E4、E5及びE7の低ひずみ領域におけるクリープ曲線である。
図4図4は、試験材R1~R12のひずみ速度-時間曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記アルミニウム合金材は、Mg:1.0原子%以上10.0原子%以下、Zn:2.0原子%以上9.0原子%以下、Ni:0.25原子%以上3.0原子%以下及びCu:0.25原子%以上3.0原子%以下を含有する五元系合金である。前記アルミニウム合金材の化学成分及びその限定理由について説明する。
【0012】
・Mg:1.0原子%以上10.0原子%以下
Mgは、Znと共存することによりAlマトリクス中に第二相粒子を形成し、前記アルミニウム合金材の強度を向上させる作用を有している。前記アルミニウム合金材中のMgの含有量は、1.0原子%以上10.0原子%以下である。Mgの含有量を前記特定の範囲とすることにより、高温における前記アルミニウム合金材の強度の低下を抑制するとともに、クリープ特性を改善しやすくすることができる。
【0013】
Mgの含有量は、1.5原子%以上9.5原子%以下であることが好ましく、2.0原子%以上9.0原子%以下であることがより好ましく、3.3原子%以上8.5原子%以下であることがさらに好ましい。この場合には、前記アルミニウム合金材のクリープ特性をより改善しやすくすることができる。
【0014】
また、Mgの含有量を、好ましくは3.0原子%以上4.5原子%以下、より好ましくは3.3原子%以上4.0原子%以下とすることにより、永久ひずみが0%以上0.1%以下の低ひずみ領域におけるクリープ特性をより改善し、永久ひずみが0.1%に到達するまでに要する時間をより長くすることができる。
【0015】
Znの含有量に対するMgの含有量の比Mg/Znの値は、0.8以上2.0以下であることが好ましく、1.0以上1.5以下であることがより好ましい。この場合には、ひずみ速度-時間曲線における二次クリープ領域のひずみ速度をより小さくし、二次クリープ特性をより改善させる効果が期待できる。
【0016】
・Zn:2.0原子%以上9.0原子%以下
Znは、Znと共存することによりAlマトリクス中に第二相粒子を形成し、前記アルミニウム合金材の強度を向上させる作用を有している。前記アルミニウム合金材中のZnの含有量は、2.0原子%以上9.0原子%以下である。Znの含有量を前記特定の範囲とすることにより、高温における前記アルミニウム合金材の強度の低下を抑制するとともに、クリープ特性を改善しやすくすることができる。
【0017】
Znの含有量は、2.0原子%以上8.5原子%以下であることが好ましく、2.0原子%以上8.0原子%以下であることがより好ましい。この場合には、クリープ特性をより改善しやすくすることができる。
【0018】
・Ni:0.25原子%以上3.0原子%以下、Cu:0.25原子%以上3.0原子%以下
前記アルミニウム合金材中のNiの含有量及びCuの含有量は、それぞれ前記特定の範囲内である。前記アルミニウム合金材は、NiとCuとの両方が添加されていることにより、これらの元素のいずれか一方または両方が添加されていない場合に比べてクリープ特性を格段に向上させることができる。
【0019】
前記アルミニウム合金材中のCuの含有量は、Niの含有量よりも多いことが好ましい。この場合には、クリープ特性をより向上させることができる。
【0020】
同様の観点から、前記アルミニウム合金材中のCuの含有量は、0.5原子%以上2.5原子%以下であることが好ましい。また、前記アルミニウム合金材中のNiの含有量は、0.5原子%以上2.5原子%以下であることが好ましい。
【0021】
前記アルミニウム合金材は、例えば、輸送機用圧縮機部品、特に、ターボチャージャ用インペラとして好適である。また、前記アルミニウム合金材は、輸送機用圧縮機部品以外にも、高温環境下において使用される機械部品に好適に使用することができる。
【0022】
・製造方法
前記アルミニウム合金材は、例えば、鋳造、溶体化処理、焼入れ及び時効処理を順次実施することにより作製される。また、前記の態様の製造方法においては、必要に応じて、鋳造後の鋳塊に、均質化処理及び展伸加工を行ってもよい。
【0023】
鋳造においては、例えば、連続鋳造や半連続鋳造等の方法により、前記特定の化学成分を有する鋳塊を作製すればよい。
【0024】
鋳造後の鋳塊を加熱して均質化処理を行う場合、加熱温度は、例えば、420℃以上500℃以下の範囲から適宜設定することができる。また、均質化処理における保持時間は、例えば、10時間以上48時間以下の範囲から適宜設定することができる。均質化処理における加熱温度が低すぎる場合または保持時間が短すぎる場合には、鋳塊の均質化が不十分となり、偏析等の問題が生じるおそれがある。また、この場合には、後に塑性加工を行う際に、変形抵抗の増大を招くおそれもある。
【0025】
均質化処理における加熱温度が高すぎる場合または保持時間が長すぎる場合には、鋳塊の加熱に要するエネルギーが増大し、製造コストの増大を招くおそれがある。また、この場合には、後に塑性加工を行う際に、割れが生じやすくなるおそれもある。これらの問題をより確実に回避する観点からは、均質化処理における加熱温度を440℃以上480℃以下の範囲内とすることが好ましい。同様の観点から、均質化処理における保持時間を24時間以上30時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0026】
鋳塊に展伸加工を施す場合、展伸加工としては、熱間圧延、冷間圧延、熱間押出、冷間押出、熱間鍛造及び冷間鍛造から選択される1種の加工を実施してもよいし、これらのうち2種以上の加工を組み合わせて実施してもよい。また、展伸加工の途中において、焼鈍等の熱処理を必要に応じて行うこともできる。
【0027】
溶体化処理においては、鋳塊又は展伸材を加熱してMg等の溶質元素をAlマトリクス中に固溶させる。そして、溶体化処理が完了した直後に焼入れを行うことにより、鋳塊を過飽和固溶体とすることができる。
【0028】
溶体化処理における加熱温度は、例えば、420℃以上500℃以下の範囲から適宜設定することができる。また、溶体化処理における保持時間は、24時間以上48時間以下の範囲から適宜設定することができる。溶体化処理における加熱温度及び保持時間を前記特定の範囲とすることにより、溶質元素を鋳塊中に十分に固溶させ、後に行う時効処理によって第二相粒子を微細に析出させることができる。
【0029】
溶体化処理における加熱温度が低すぎる場合または保持時間が短すぎる場合には、溶質元素が十分に固溶せず、時効処理後の第二相粒子の量が少なくなるおそれがある。その結果、前記アルミニウム合金材のクリープ特性の悪化を招くおそれがある。溶体化処理における加熱温度が高すぎる場合または保持時間が長すぎる場合には、展伸材の加熱に要するエネルギーが増大し、製造コストの増大を招くおそれがある。
【0030】
鋳塊の焼入れ方法は特に限定されることはなく、例えば、水焼入れなどの方法を採用することができる。
【0031】
その後、溶体化処理及び焼入れによって過飽和固溶体となった鋳塊を加熱して時効処理を行う。時効処理における加熱温度は、例えば、200℃以上300℃以下の範囲から適宜設定することができる。また、時効処理における保持時間は、1時間以上100時間以下の範囲から適宜設定することができる。時効処理における加熱温度及び保持時間を前記特定の範囲とすることにより、Alマトリクス中に第二相粒子を微細に析出させることができる。
【0032】
時効処理における加熱温度が低すぎる場合または保持時間が短すぎる場合には、第二相粒子の量が少なくなるおそれがある。その結果、前記アルミニウム合金材のクリープ特性の悪化を招くおそれがある。時効処理における加熱温度が高すぎる場合または保持時間が長すぎる場合には、過時効となり、前記アルミニウム合金材のクリープ特性の悪化を招くおそれがある。これらの問題をより確実に回避する観点からは、時効処理における加熱温度を200℃以上250℃以下の範囲内とすることが好ましい。同様の観点から、時効処理における保持時間を1時間以上10時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【実施例
【0033】
前記アルミニウム合金材及びその製造方法の実施例を以下に説明する。本例では、連続鋳造法により表1に示す化学成分を有する鋳塊を作製した。なお、表1における記号「Bal.」は、残部を示す記号である。
【0034】
得られた鋳塊を表1に示す処理温度に24時間保持して溶体化処理を行い、次いで水焼入れを行った。そして、水焼入れ後の鋳塊を200℃の温度に10時間保持して時効処理を行った。以上により、表1に示すアルミニウム合金材(試験材E1~E11、C1~C9)を得た。
【0035】
得られた試験材から、ダンベル形状の試験片を採取した。この試験片を用い、JIS Z2271:2010に準じた方法によりクリープ試験を行った。クリープ試験にはシングルクリープ試験機を使用し、試験温度は200℃、試験応力は105MPaとした。また、試験片の長さは掴み部を含めて57mmとし、平行部の直径はφ4mm、掴み部の直径はφ8mmとした。
【0036】
各試験材の破断時間は、図1及び表1に示す通りであった。なお、図1の縦軸は試験材のクリープ破断時間であり、横軸はMgの含有量(原子%)である。
【0037】
【表1】
【0038】
表1及び図1において、Mgの含有量が5.0原子%である試験材E1~E4と試験材C1~C6とを比較すると、Mg、Zn、Ni及びCuを含む五元系合金からなる試験材E1~E4は、Zn、Ni及びCuのうち1種または2種以上が含まれていない試験材C1~C6に比べてクリープ破断時間が長くなっていることが理解できる。
【0039】
Mgの含有量が2.5原子%である試験材E5と試験材C7との比較、Mgの含有量が7.0原子%である試験材E8~E9と試験材C8との比較、Mgの含有量が8.0原子%である試験材E10と試験材C9との比較からも、上記と同様に、Mg、Zn、Ni及びCuを含む五元系合金からなる試験材E5~E10が、Zn、Ni及びCuのうち1種または2種以上が含まれていない試験材C7~C9に比べてクリープ破断時間が長くなっていることが理解できる。
【0040】
従って、これらの結果によれば、Mg、Zn、Ni及びCuを前記特定の範囲の含有量で含有するアルミニウム合金材は、優れたクリープ特性を有していることが理解できる。
【0041】
前述した試験材E1~E11の中でも、Mgの含有量が5.0原子%であり、Znの含有量が3.5原子%である試験材E1~E4は、他の試験材E5~E11よりもさらに優れたクリープ特性を有している。これらの結果によれば、Mgの含有量を4.0原子%以上6.5原子%以下とし、かつ、Znの含有量を3.0原子%以上5.5原子%以下とすることにより、クリープ特性をさらに改善できることが理解できる。
【0042】
また、図2に、E3、E5、E7、E9及びE11のひずみ速度-時間曲線を示す。図2の縦軸は対数スケールで表したひずみ速度(1/s)であり、横軸は試験時間(時間)である。
【0043】
図2に示したように、Znの含有量に対するMgの含有量の比Mg/Znの値が0.8以上2.0以下の範囲内である試験材E3、E7、E9、E11は、Mg/Znの値が0.8未満である試験材E5に比べて二次クリープ特性または三次クリープ特性の少なくとも一方を改善することができた。
【0044】
また、図3に、試験材E1、E3、E4、E5、E7の低ひずみ領域におけるクリープ曲線を示す。図3の縦軸は永久ひずみ到達時間(時間)であり、横軸は永久ひずみ(%)である。
【0045】
図3に示したように、Mgの含有量が3.8原子%である試験材E7は、Mgの含有量が5.0原子%である試験材E1、E3、E4やMgの含有量が2.5原子%である試験材E5に比べて、0.1%の永久ひずみに到達するまでの時間を長くすることができた。これらの結果から、Mgの含有量を3.0原子%以上4.5原子%以下とすることにより、低ひずみ領域におけるクリープ特性をより改善できることが理解できる。
【0046】
(参考例)
本例は、Mgの含有量に対するZnの含有量の比率を種々の値に変更した例である。本例では、まず、溶体化処理における処理温度を420℃以上500℃以下とした以外は、前述した試験材E1等と同様の方法により、表2に示す組成を有するAl-Mg-Zn三元系合金(試験材R1~R15)を作製した。
【0047】
これらのAl-Mg-Zn三元系合金を用い、試験材E1等と同様の方法によりクリープ試験を行った。図4に、参考例のAl-Mg-Zn三元系合金におけるクリープ曲線を示す。図4の縦軸は対数スケールで表したひずみ速度(1/s)であり、横軸は試験時間(時間)である。
【0048】
【表2】
【0049】
表2及び図4に示したように、Al-Mg-Zn三元系合金においても、前述した実施例と同様に、Znの含有量に対するMgの含有量の比Mg/Znの値が0.8以上2.0以下の範囲内である試験材R2、R3、R5~R7、R9、R11、R14は、これら以外の試験材に比べて二次クリープ特性および三次クリープ特性の少なくとも一方を改善することができた。
【0050】
また、試験材R9及び試験材R12は、前述した試験材の中でも特にクリープ特性に優れており、破断までの時間をより長くすることができた。これらの試験材においてクリープ特性が改善された理由としては、以下のような理由が考えられる。すなわち、Al-Mg-Zn三元系合金においては、Znの含有量に対するMgの含有量の比Mg/Znの値を前記特定の範囲とすることにより、結晶粒内に微細な析出物を形成することができる。
【0051】
一方、これらの析出物の総量は、Mg及びZnの含有量が多くなるほど増大する。それ故、Znの含有量に対するMgの含有量の比Mg/Znの値を前記特定の範囲とした上で、更にMg及びZnの含有量を多くすることにより、結晶粒内に加え、結晶粒界にも微細な析出物を形成することができると推測される。そして、結晶粒界に析出物が形成されることにより、結晶粒界の滑りを抑制し、ひいてはクリープ特性を改善することができると考えられる。
【0052】
前述した参考例は、別の観点から見れば、以下のようなAl-Mg-Zn三元系合金材に関する発明として把握することができる。すなわち、Al-Mg-Zn三元系合金材は、
Mg:1.0原子%以上10.0原子%以下、Zn:1.0原子%以上9.0原子%以下を含有し、Mg/Znの値が0.8以上2.0以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している。
【0053】
前記Al-Mg-Zn三元系合金材におけるMgの含有量は、3.3原子%以上であることが好ましく、4.0原子%以上であることがより好ましく、5.0原子%以上であることがさらに好ましく、6.0原子%以上であることが特に好ましい。この場合には、析出物の量をより多くし、クリープ特性の更なる向上を期待することができる。
【0054】
また、前記Al-Mg-Zn三元系合金材におけるMgの含有量は、9.5原子%以下であることが好ましい。この場合には、クリープ特性の更なる向上を期待することができる。
【0055】
前記Al-Mg-Zn三元系合金材におけるZnの含有量は、2.0原子%以上であることが好ましく、3.5原子%以上であることがより好ましく、5.0原子%以上であることがさらに好ましく、5.5原子%以上であることが特に好ましい。この場合には、析出物の量をより多くし、クリープ特性の更なる向上を期待することができる。
【0056】
また、前記Al-Mg-Zn三元系合金材におけるZnの含有量に対するMgの含有量の比Mg/Znの値は、1.0以上1.5以下であることがより好ましい。この場合には、結晶粒内の析出物をより微細化し、二次クリープ特性をより向上させる効果が期待できる。
【0057】
本発明に係るアルミニウム合金材の具体的な態様は、実施例に記載された態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
図1
図2
図3
図4