(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】原始腸管細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230731BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230731BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2020515609
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2019017977
(87)【国際公開番号】W WO2019208787
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2018087225
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018247333
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】伊吹 将人
(72)【発明者】
【氏名】松田 拡敏
(72)【発明者】
【氏名】大河内 仁志
(72)【発明者】
【氏名】矢部 茂治
(72)【発明者】
【氏名】福田 沙月
【審査官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-176400(JP,A)
【文献】特表2016-520291(JP,A)
【文献】Cell Reports,2017年04月04日,vol. 19,p. 36-49, Supplemental Information
【文献】Nature Communications,2016年05月10日,vol. 7, 11463, Supplementary Information
【文献】生物工学,2014年,第9号,487-490
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
A61L
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞
集団を、アクチビンA、BMP-4及びFGF2を含む培地で培養した後、FGF2及びBMP4を添加していない培地で培養することにより分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程を含む、原始腸管細胞(PGT)の製造方法。
【請求項2】
前記内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、FGF2の非存在下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、ヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤の非存在下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、TGFβシグナル阻害剤の非存在下である、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、前記内胚葉系細胞を、インスリン、トランスフェリン及び亜セレン酸を含む培地において培養する工程である、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、前記内胚葉系細胞を
、FGF7を含む培地において培養する工程である、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原始腸管細胞の製造方法、及び原始腸管細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療は、ドナー不足を課題とする臓器移植の代替法や難病の新たな治療法開発などにおいて大きな期待が寄せられている。胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)は多能性及び無限増殖性を有しているため、再生医療に必要とされる細胞を調製するための細胞ソースとして期待されている。これらの多能性幹細胞を用いた再生医療の実用化に際しては、多能性幹細胞を効率よく目的の体細胞に分化誘導させる技術の確立が必要であり、多様な分化誘導方法について報告されている。
【0003】
例えば、膵臓β細胞は、糖尿病の細胞治療において有用であることから、多能性幹細胞から効率よく膵臓β細胞を作製する方法が検討されている。非特許文献1には、ヒトiPS細胞から機能的な膵臓β細胞を生成するためのプロセスについての総説が記載されている。非特許文献2には、ヒトiPS細胞から機能的な膵臓β細胞を効率よく生成する方法が記載されている。非特許文献2においては、ステージ1においてiPS細胞を内胚葉系細胞に分化させた後、ステージ2において、内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤であるDorsomorphin、ヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤であるSANT1、TGFβシグナル阻害剤であるSB431542、及びFGF2を含む培地中において培養することにより、原始腸管細胞(primitive gut tube:PGT)へと分化誘導している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Larry Sai Weng Loo MSc et al., Diabetes Obes Metab.2018:20-3-13
【文献】Shigeharu G.Yabe et al.,Journal of Diabetes,2017 Feb;9(2):168-179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した通り、多能性幹細胞から膵臓β細胞を分化誘導するための培養方法は報告されているが、細胞治療製剤としての治療効果の観点から、より分化誘導の効率を向上させ、膵臓β細胞としての細胞の品質を高める必要がある。
【0006】
従って、本発明は、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞から原始腸管細胞を製造する方法であって、内胚葉系細胞から効率的に原始腸管細胞を製造することを可能とするような方法、及び高い品質を有する膵臓β細胞を製造することを可能とするような上記方法を提供することを解決すべき課題とした。さらに、本発明は、細胞治療製剤として、最適な膵臓β細胞へと分化可能な原始腸管細胞を提供することを、解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養することによって原始腸管細胞を製造できることを見出した。さらに、本発明者らは、得られた原始腸管細胞から分化誘導して製造した膵臓β細胞が、糖尿病モデルマウスにおいて優れた血糖値正常化作用を示したことより、本発明による原始腸管細胞が、高い治療効果を発揮できる膵臓β細胞へ分化可能であるという点において、従来の原始腸管細胞と比較して優れていることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
<1> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程を含む、原始腸管細胞(PGT)の製造方法。
<1-1> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、原始腸管細胞(PGT)への分化誘導に適した培養条件下、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程を含む、原始腸管細胞(PGT)の製造方法。
<2> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、FGF2の非存在下である、<1>に記載の方法。
<3> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、ヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤の非存在下である、<1>又は<2>に記載の方法。
<4> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、TGFβシグナル阻害剤の非存在下である、<1>から<3>の何れか一に記載の方法。
<4A> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、レチノイン酸又はそのアナログの存在下である、<1>から<4>の何れか一に記載の方法。
<5> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、前記内胚葉系細胞を、インスリン、トランスフェリン及び亜セレン酸を含む培地において培養する工程である、<1>から<4>の何れか一に記載の方法。
<6> 多能性幹細胞から誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、前記内胚葉系細胞を、B27(登録商標)サプリメント及び/又はFGF7を含む培地において培養する工程である、<1>から<5>の何れか一に記載の方法。
<6A> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、前記内胚葉系細胞を、FGF受容体シグナル活性化剤を含む培地において培養する工程である、<1>から<6>の何れか一に記載の方法。
<6B> FGF受容体シグナル活性化剤がFGF7である、<6A>に記載の方法。
<6C> 多能性幹細胞から誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程が、前記内胚葉系細胞を、インスリン受容体シグナル活性化剤を含む培地において培養する工程である、<1>から<6>、<6A>及び<6B>の何れか一に記載の方法。
<6D> インスリン受容体シグナル活性化剤がインスリンである、<6C>に記載の方法。
<7> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞が、多能性幹細胞集団を、TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地で培養した後、FGF2及びBMP4を添加していない培地で培養することにより分化誘導された内胚葉系細胞である、<1>から<6>の何れか一に記載の方法。
<7A> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞が、以下に示す(a)から(b):
(a)多能性幹細胞を2-メルカプトエタノールを含む培地を用いて浮遊培養し、細胞集団を調製する工程、
(b)前記細胞集団を、TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地で培養した後、FGF2及びBMP4を添加していない培地で培養する工程、
により分化誘導された内胚葉系細胞である、<1>から<7>の何れか一に記載の方法。
<7B> 2-メルカプトエタノールを含む培地が、アクチビンAを添加していない培地である、<7A>に記載の方法。
<7C> 2-メルカプトエタノールを含む培地が、WNTシグナル活性化剤を添加していない培地である、<7A>又は<7B>に記載の方法。
<7D> 2-メルカプトエタノールを含む培地が、FGF2を添加していない培地である、<7A>から<7C>の何れか一に記載の製造方法。
<7E> 2-メルカプトエタノールを含む培地が、TGFβ1を添加していない培地である、<7A>から<7D>の何れか一に記載の製造方法。
<7F> 2-メルカプトエタノールを含む培地が、さらにインスリンを含む培地である<7A>から<7E>の何れか一に記載の製造方法。
<7G> FGF2及びBMP4を添加していない培地が、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム及びエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1種類以上を含む培地である<7A>から<7F>の何れか一に記載の製造方法。
<7H> TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地が、さらに2-メルカプトエタノールを含む培地である<7A>から<7G>の何れか一に記載の方法。
【0009】
<8> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤、レチノイン酸又はそのアナログ、TGF-βシグナル阻害剤ならびにヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤の存在下において培養することにより製造された原始腸管細胞(PGT)と比較して、KIT遺伝子、RAP1A遺伝子、FGF11遺伝子、FGFR4遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子発現が向上、及び/又はMDM2遺伝子、CASP3遺伝子、CDK1遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子発現が減少している、原始腸管細胞(PGT)。
<9> 前記原始腸管細胞が、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤、レチノイン酸又はそのアナログ、TGF-βシグナル阻害剤ならびにヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤の存在下において培養することにより製造された原始腸管細胞(PGT)と比較して、IGFBP3遺伝子、PTGDR遺伝子、LOX遺伝子、PAPPA遺伝子、RAB31遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が向上している細胞である、<8>に記載の原始腸管細胞(PGT)。
<10> 前記原始腸管細胞が、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤、レチノイン酸又はそのアナログ、TGF-βシグナル阻害剤ならびにヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤の存在下において培養することにより製造された原始腸管細胞(PGT)と比較して、ANGPT2遺伝子、CD47遺伝子、CDC42EP3遺伝子、CLDN18遺伝子、CLIC5遺伝子、PHLDA1遺伝子、SKAP2遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が減少している細胞である、<8>又は<9>に記載の原始腸管細胞(PGT)。
<11> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞と比較して、IGFBP3遺伝子、PTGDR遺伝子、PAPPA遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子発現が向上しているか、及び/又はANGPT2遺伝子及びFRZB遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が減少している、原始腸管細胞(PGT)。
【0010】
<21> 原始腸管細胞を含む細胞集団であって、以下に示す(a)から(d)の細胞特性を有する細胞集団:
(a)前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するFGF11遺伝子の相対発現が0.01以上であり、
(b)前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するFGFR4遺伝子の相対発現量が0.03以上であり、
(c)前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するCASP3遺伝子の相対発現量が0.006以下であり、
(d)前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するCDK1遺伝子の相対発現量が0.02以下である。
【0011】
<22> 前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するRAP1A遺伝子の相対発現量が0.03以上である、<21>に記載の細胞集団。
<23> 前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するKIT遺伝子の相対発現量が0.05以上である、<21>又は<22>に記載の細胞集団。
<24> 前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するMDM2遺伝子の相対発現量が0.03以下である、<21>から<23>の何れか一に記載の細胞集団。
<25> 前記細胞集団が、OAZ1遺伝子の発現量に対するIGFBP3遺伝子の相対発現量が10以上、OAZ1遺伝子の発現量に対するPTGDR遺伝子の発現量が0.6以上、OAZ1遺伝子の発現量に対するLOX遺伝子の相対発現量が0.6以上、OAZ1遺伝子の発現量に対するPAPPA遺伝子の相対発現量が0.01以上、及びOAZ1遺伝子の発現量に対するRAB31遺伝子の相対発現量が0.2以上である、<21>からに<24>の何れか一項に記載の細胞集団。
<26> 前記細胞集団が、OAZ1遺伝子の発現量に対するANGPT2遺伝子の相対発現量が0.0002以下、OAZ1遺伝子の発現量に対するCD47遺伝子の発現量が0.02以下、OAZ1遺伝子の発現量に対するCDC42EP3遺伝子の相対発現量が0.03以下、OAZ1遺伝子の発現量に対するCLDN18遺伝子の相対発現量が0.006以下、OAZ1遺伝子の発現量に対するCLIC5遺伝子の相対発現量が0.0001以下、OAZ1遺伝子の発現量に対するPHLDA1遺伝子の相対発現量が0.2以下、及びOAZ1遺伝子の発現量に対するSKAP2遺伝子の相対発現量が0.01以下である、<21>から<25>のいずれか一に記載の細胞集団。
<27> 多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤、TGF-βシグナル阻害剤及びヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤の存在下において培養することにより製造された原始腸管細胞(PGT)と比較して、IGFBP3遺伝子、PTGDR遺伝子、LOX遺伝子、PAPPA遺伝子、及びRAB31遺伝子のうちの1以上の遺伝子の発現が向上しているか、及び/又はANGPT2遺伝子、BMPR1B遺伝子、CD47遺伝子、CDC42EP3遺伝子、CLDN18遺伝子、CLIC5遺伝子、FRZB遺伝子、IGF2遺伝子、PHLDA1遺伝子、及びSKAP2遺伝子のうちの1以上の遺伝子の発現が減少している、原始腸管細胞(PGT)。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法は、内胚葉系細胞から効率的に原始腸管細胞を製造し、且つ、優れた血糖値正常化作用を示す膵臓β細胞へと分化可能な原始腸管細胞が得られることから、高品質な細胞治療製剤を提供することができる。また、本発明により製造された原始腸管細胞に由来する膵臓β細胞は、優れた血糖値正常化作用を示し、細胞治療製剤として優れた治療効果を有する。さらに、本発明により製造された原始腸管細胞は細胞治療製剤として最適な膵臓β細胞へと分化可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、ヒトiPS細胞から分化誘導した原始腸管細胞における原始腸管細胞マーカー遺伝子(HNF-1β、HNF-4α)の発現を解析した結果を示す。
【
図2】
図2は、ヒトiPS細胞から分化誘導した膵臓β細胞における膵臓β細胞マーカー遺伝子(INS、NKX6.1)の発現を解析した結果を示す。
【
図3】
図3は、糖尿病モデルマウスへの細胞移植実験における随時血糖値の測定結果を示す。
【
図4】
図4は、ヒトiPS細胞から分化誘導した膵臓β細胞における膵臓β細胞マーカー遺伝子(INS)の発現を解析した結果を示す。
【
図5】
図5は、比較例5及び参考例2と比べて、実施例1で発現向上する遺伝子及び発現減少する遺伝子の定量的RT-PCRの結果を示す。
【
図6】
図6は、比較例5と比べて実施例1でシグナル値が10倍以上であった遺伝子のマイクロアレイ解析の結果を示す。
【
図7】
図7は、比較例5と比べて実施例1で発現向上する遺伝子の定量的RT-PCRの結果を示す。
【
図8】
図8は、比較例5と比べて実施例1でシグナル値が10分の1以下であった遺伝子のマイクロアレイ解析の結果を示す。
【
図9】
図9は、比較例5と比べて実施例1で発現減少する遺伝子の定量的RT-PCRの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、下記の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が下記の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0015】
[用語の説明]
本発明において、「阻害剤の非存在下において」とは、「当該阻害剤を添加していない培地において」を意味する。
【0016】
本発明の培地に関して、「を添加していない」という用語は、培養物又は馴化培地において添加していないと特定されたタンパク質、ペプチド及び化合物等の因子を外因的に加えないことを指す。なお、培養物又は馴化培地において添加していないと特定されたタンパク質、ペプチド及び化合物等の因子が培養の連続的な操作により持ち込んでいる場合は、1%未満(体積/体積)、0.5%(体積/体積)未満、0.1%(体積/体積)未満、0.05%(体積/体積)未満、0.01%(体積/体積)未満、0.001%(体積/体積)未満になるように調整する。
【0017】
遺伝子発現量に関して、「が向上している」という用語は、比較対象となる細胞集団における特定の遺伝子発現量よりも遺伝子の発現が増加していることを指し、比較対象となる細胞集団に対して、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、1.6倍以上、1.7倍以上、1.8倍以上、1.9倍以上、2.0倍以上、2.1倍以上、2.2倍以上、2.3倍以上、2.4倍以上、2.5倍以上、2.6倍以上、2.7倍以上、2.8倍以上、2.9倍以上、3.0倍以上、3.1倍以上、3.2倍以上、3.3倍以上、3.4倍以上、3.5倍以上、3.6倍以上、3.7倍以上、3.8倍以上、3.9倍以上、4.0倍以上、4.1倍以上、4.2倍以上、4.3倍以上、4.4倍以上、4.5倍以上、4.6倍以上、4.7倍以上、4.8倍以上、4.9倍以上、5.0倍以上、5.1倍以上、5.2倍以上、5.3倍以上、5.4倍以上、5.5倍以上、5.6倍以上、5.7倍以上、5.8倍以上、5.9倍以上、6.0倍以上、6.1倍以上、6.2倍以上、6.3倍以上、6.4倍以上、6.5倍以上、6.6倍以上、6.7倍以上、6.8倍以上、6.9倍以上、7.0倍以上、7.1倍以上、7.2倍以上、7.3倍以上、7.4倍以上、7.5倍以上、7.6倍以上、7.7倍以上、7.8倍以上、7.9倍以上、8.0倍以上、8.1倍以上、8.2倍以上、8.3倍以上、8.4倍以上、8.5倍以上、8.6倍以上、8.7倍以上、8.8倍以上、8.9倍以上、9.0倍以上、9.1倍以上、9.2倍以上、9.3倍以上、9.4倍以上、9.5倍以上、9.6倍以上、9.7倍以上、9.8倍以上、9.9倍以上、10倍以上、11倍以上、12倍以上、13倍以上、14倍以上、15倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上、100倍以上、250倍以上、400倍以上、450倍以上、500倍以上、750倍以上、1000倍以上、5000倍以上、10000倍以上である。
【0018】
遺伝子発現量に関して、「が減少している」という用語は、比較対象となる細胞集団における特定の遺伝子発現量よりも遺伝子の発現が減少していることを指し、比較対象となる細胞集団に対して、1.1倍以下、1.2倍以下、1.3倍以下、1.4倍以下、1.5倍以下、1.6倍以下、1.7倍以下、1.8倍以下、1.9倍以下、2.0倍以下、2.1倍以下、2.2倍以下、2.3倍以下、2.4倍以下、2.5倍以下、2.6倍以下、2.7倍以下、2.8倍以下、2.9倍以下、3.0倍以下、3.1倍以下、3.2倍以下、3.3倍以下、3.4倍以下、3.5倍以下、3.6倍以下、3.7倍以下、3.8倍以下、3.9倍以下、4.0倍以下、4.1倍以下、4.2倍以下、4.3倍以下、4.4倍以下、4.5倍以下、4.6倍以下、4.7倍以下、4.8倍以下、4.9倍以下、5.0倍以下、5.1倍以下、5.2倍以下、5.3倍以下、5.4倍以下、5.5倍以下、5.6倍以下、5.7倍以下、5.8倍以下、5.9倍以下、6.0倍以下、6.1倍以下、6.2倍以下、6.3倍以下、6.4倍以下、6.5倍以下、6.6倍以下、6.7倍以下、6.8倍以下、6.9倍以下、7.0倍以下、7.1倍以下、7.2倍以下、7.3倍以下、7.4倍以下、7.5倍以下、7.6倍以下、7.7倍以下、7.8倍以下、7.9倍以下、8.0倍以下、8.1倍以下、8.2倍以下、8.3倍以下、8.4倍以下、8.5倍以下、8.6倍以下、8.7倍以下、8.8倍以下、8.9倍以下、9.0倍以下、9.1倍以下、9.2倍以下、9.3倍以下、9.4倍以下、9.5倍以下、9.6倍以下、9.7倍以下、9.8倍以下、9.9倍以下、10倍以下、20倍以下、30倍以下、40倍以下、50倍以下、60倍以下、70倍以下、80倍以下、90倍以下、100倍以下、250倍以下、400倍以下、450倍以下、500倍以下、750倍以下、1000倍以下、5000倍以下、10000倍以下である。
【0019】
<凝集体>
本発明の凝集体に関して、「凝集塊」、「クラスター」又は「スフェロイド」という用語に言い換えて使用することができ、単細胞に解離していない一群の細胞の集合体を一般的に指す。
【0020】
<多能性幹細胞>
本発明における多能性幹細胞とは、生体を構成する全て又は複数の種類の細胞に分化することができる多分化能(多能性)を有する細胞であって、適切な条件下のインビトロ(in vitro)での培養において多能性を維持したまま無限に増殖を続けることができる細胞をいう。具体的には胚性幹細胞(ES細胞)、胎児の始原生殖細胞由来の多能性幹細胞(EG細胞:Proc Natl Acad Sci U S A.1998,95:13726-31)、精巣由来の多能性幹細胞(GS細胞:Nature.2008,456:344-9)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)、体性幹細胞(組織幹細胞)などが挙げられる。多能性幹細胞は、好ましくは、iPS細胞又はES細胞であり、より好ましくはiPS細胞である。なお、「胚(embryonic)」とは、配偶子融合によって導出された胚に加えて、体細胞核移植によって、導出された胚も指す。
【0021】
ES細胞としては、任意の温血動物、好ましくは哺乳動物に由来する細胞を使用できる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、又はヒトが挙げられる。好ましくはヒトに由来する細胞を使用できる。
【0022】
ES細胞の具体例としては、着床以前の初期胚を培養することによって樹立した哺乳動物等のES細胞、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立したES細胞、及びこれらのES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変したES細胞が挙げられる。各ES細胞は当分野で通常実施されている方法や、公知文献に従って調製することができる。 マウスのES細胞は、1981年にエバンスら(Evans et al.,1981,Nature 292:154-6)や、マーチンら(Martin GR.et al.,1981,Proc Natl Acad Sci 78:7634-8)によって樹立されている。 ヒトのES細胞は、1998年にトムソンら(Thomson et al.,Science,1998,282:1145-7)によって樹立されており、WiCell研究施設(WiCell Research Institute、ウェブサイト:http://www.wicell.org/、マジソン、ウイスコンシン州、米国)、米国国立衛生研究所(National Institute of Health)、京都大学などから入手可能であり、例えばCellartis社(ウェブサイト:http://www.cellartis.com/、スウェーデン)から購入可能である。
【0023】
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、体細胞を初期化することによって得られる多能性を有する細胞である。iPS細胞の作製は、京都大学の山中伸弥教授らのグループ、マサチューセッツ工科大学のルドルフ・ヤニッシュ(Rudolf Jaenisch)らのグループ、ウイスコンシン大学のジェームス・トムソン(James Thomson)らのグループ、ハーバード大学のコンラッド・ホッケドリンガー(Konrad Hochedlinger)らのグループなどを含む複数のグループが成功している。例えば、国際公開WO2007/069666号公報には、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子、並びにOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子が記載されており、さらに体細胞に上記核初期化因子を接触させる工程を含む、体細胞の核初期化により誘導多能性幹細胞を製造する方法が記載されている。
【0024】
iPS細胞の製造に用いる体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を用いることができる。即ち、体細胞とは、生体を構成する細胞の内生殖細胞以外の全ての細胞を包含し、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。体細胞の由来は、哺乳動物、鳥類、魚類、爬虫類、両生類の何れでもよく特に限定されないが、好ましくは哺乳動物(例えば、マウスなどのげっ歯類、又はヒトなどの霊長類)であり、特に好ましくはマウス又はヒトである。また、ヒトの体細胞を用いる場合、胎児、新生児又は成人の何れの体細胞を用いてもよい。体細胞の具体例としては、例えば、線維芽細胞(例えば、皮膚線維芽細胞)、上皮細胞(例えば、胃上皮細胞、肝上皮細胞、肺胞上皮細胞)、内皮細胞(例えば血管、リンパ管)、神経細胞(例えば、ニューロン、グリア細胞)、膵臓細胞、白血球細胞(B細胞、T細胞等)、骨髄細胞、筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞)、肝実質細胞、非肝実質細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、歯周組織を構成する細胞(例えば、歯根膜細胞、セメント芽細胞、歯肉線維芽細胞、骨芽細胞)、腎臓・眼・耳を構成する細胞などが挙げられる。
【0025】
iPS細胞は、所定の培養条件下(例えば、ES細胞を培養する条件下)において長期にわたって自己複製能を有し、また所定の分化誘導条件下において外胚葉系細胞、中胚葉系細胞又は内胚葉系細胞への何れにも多分化能を有する幹細胞である。また、iPS細胞はマウスなどの試験動物に移植した場合にテラトーマを形成する能力を有する幹細胞でもよい。
【0026】
体細胞からiPS細胞を製造するためには、まず、少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する。初期化遺伝子とは、体細胞を初期化してiPS細胞とする作用を有する初期化因子をコードする遺伝子である。初期化遺伝子の組み合わせの具体例としては、以下の組み合わせをあげることができるが、これらに限定されるものではない。
(i)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子
(ii)Oct遺伝子、Sox遺伝子、NANOG遺伝子、LIN28遺伝子
(iii)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子、hTERT遺伝子、SV40 largeT遺伝子
(iv)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子
【0027】
上記以外にも、導入遺伝子をさらに減らした方法(Nature.2008 Jul 31;454(7204):646-50)、低分子化合物を利用した方法(Cell Stem Cell.2009 Jan 9;4(1):16-9、Cell Stem Cell.2009 Nov 6;5(5):491-503)、遺伝子の代わりに転写因子タンパク質を利用した方法(Cell Stem Cell.2009 May 8;4(5):381-4)などが報告されており、いずれの方法で製造されたiPS細胞でもよい。
【0028】
初期化因子の細胞への導入形態は特に限定されないが、例えば、プラスミドを用いた遺伝子導入、合成RNAの導入、タンパク質として直接導入などが挙げられる。また、microRNAやRNA、低分子化合物等を用いた方法で作製されたiPS細胞を用いてもよい。ES細胞、iPS細胞を始めとする多能性幹細胞は、市販品又は分譲を受けた細胞を用いてもよいし、新たに作製したものを用いてもよい。
【0029】
iPS細胞として、例えば253G1株、253G4株、201B6株、201B7株、409B2株、454E2株、606A1株、610B1株、648A1株、1201C1株、1205D1株、1210B2株、1231A3株、1383D2株、1383D6株、iPS-TIG120-3f7株、iPS-TIG120-4f1株、iPS-TIG114-4f1株、RPChiPS771-2株、15M63株、15M66株、HiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株、TkDN4-M株、TkDA3-1株、TkDA3-2株、TkDA3-4株、TkDA3-5株、TkDA3-9株、TkDA3-20株、hiPSC 38-2株、MSC-iPSC1株、BJ-iPSC1株等を使用することができる。
【0030】
ES細胞として、例えばKhES-1株、KhES-2株、KhES―3株、KhES-4株、KhES-5株、SEES1株、SEES2株、SEES3株、HUES8株、CyT49株、H1株、H9株、HS-181株等を使用することができる。新たに作製された臨床グレードのiPS細胞又はES細胞を用いてもよい。
【0031】
<シグナル及び因子>
(骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤)
骨形成タンパク質(BMP)シグナルとは、骨形成タンパク質(BMP)リガンドにより媒介されるシグナルであり、脊椎動物において多様な役割を果たす。胚形成の間に、背腹軸は、リガンド、受容体、補助受容体及び可溶性アンタゴニストの協調発現により形成されるBMPシグナル伝達の勾配によって確立される。BMPは、原腸形成、中胚葉誘導、器官形成及び軟骨性骨形成の重要なレギューレータであり、多能性幹細胞集団の運命を制御する。
【0032】
BMP受容体はI型受容体(activin receptor-like kinase;ALK-1、ALK-2、ALK-3又はALK-6)とII型受容体(ActRII、ActRIIB又はBMPRII)の複合体から成り、活性化したI型受容体キナーゼはR-Smad(receptor-regulated Smad)タンパク質のC末端に存在する2個のセリン残基をリン酸化する。リガンド(BMP)が受容体に結合することによりリン酸化を受けるR-Smad(Smad1、Smad5、Smad8)をBR-Smad(BMP R-Smad)と呼ばれており、リン酸化を受けた2分子のR-SmadはSmad4とヘテロ三量体を形成し,核内に移行することで標的遺伝子の転写を調節する。
【0033】
骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤とは、リガンド(BMP-4など)による受容体への結合から始まるBMPシグナルを阻害する物質であれば特に限定しないが、好ましくはALK-1、ALK-2、ALK-3及びALK-6の少なくとも1つを阻害する物質である。また、リガンドが受容体へと結合するのを妨げる物質(アンタゴニスト抗体など)をBMPシグナル阻害剤として用いることができる。
【0034】
骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤としては、特に限定しないが、例えばドルソモルフィン(Dorsomorphin)、LDN193189、LDN-214117、LDN-212854、K02288、ML347などを挙げることができる。
【0035】
(ヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤)
ヘッジホッグ(HH;Hedgehog)シグナルは胎児期の細胞増殖因子,形態形成因子として知られている。加えて,成体でのホメオスタシスや組織再生,組織幹細胞の制御にも機能し得ることが示されている。胎児期のHHシグナルの異常は,全前脳症などの先天性疾患の原因となり,成体でのHHシグナルの持続的活性は皮膚基底細胞癌や髄芽細胞腫を含む様々な癌に関連すると言われている。ヘッジホッグシグナルのリガンドとしては、哺乳類では3種類のHHリガンド(SHH;Sonic hedgehog,IHH;Indian hedgehog,DHH;Desert hedgehog)が知られている。ヘッジホッグリガンドが無い状態(オフ状態)では、ヘッジホッグファミリーリガンドに対する受容体のPatchedは、Gタンパク質共役型膜貫通タンパク質であるSmoothened(Smo)に正常に結合し、Smoothenedの膜への会合を阻害する。このオフ状態では、SuFu及び(脊椎動物におけるKif7である)COS2が、第一繊毛において、微小管に結合している転写因子のGliの集団を隔離する。GliはPKA、CKI及びGSK-3によってリン酸化され、β-TrCPを介したGli活性化因子(哺乳動物におけるGli1及びGli2)の分解が起こるか、あるいは、保存された経路においてGliの抑制因子(ショウジョウバエにおけるGli3あるいは短縮されたCi)を産生するが、これがヘッジホッグの標的遺伝子の抑制につながる。活性化状態(オン状態)では、ヘッジホッグリガンドがPatchedに結合することによってβ-Arrestinを介したSmoothenedの第一繊毛への移動が可能になるが、そこでは、これに会合していたGタンパク質活性が、Gliに作用する抑制性のキナーゼ活性を阻害するため、Gliを自由に核に移行させて、サイクリンD(Cyclin D)、サイクリンE(Cyclin E)、Myc及びPatchedなどのヘッジホッグ標的遺伝子を活性化する。
【0036】
ヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤とは、上記ヘッジホッグシグナルを阻害する物質であれば特に限定しないが、例えば、Smoに作用してシグナルを阻害する物質などがある。また、ヘッジホッグリガンドがPatched等の受容体に結合するのを阻害するアンタゴニスト抗体などもヘッジホッグシグナル阻害剤として使用することができる。
【0037】
ヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤としては、特に限定しないが、例えばSANT1、Cyclopamine、Sonidegib、PF-5274857、Glasdegib、Taladegib、BMS-833923、MK-4101、Vismodegib、GANT61、Jervine、HPI-4などを挙げることができる。例えばSANT-1は細胞透過性の強力なHHシグナルのアンタゴニストであり、Smoレセプターに直接結合することにより阻害するため、好適に用いることができる。
【0038】
(TGFβシグナル阻害剤)
TGF-β受容体(TGFβ)シグナルとは、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)のリガンドが関与するシグナル伝達であり、例えば、細胞の成長、増殖、分化及びアポトーシスなどの細胞プロセスにおいて中心的な役割を担う。TGFβシグナルは、I型受容体(ALK5)を漸増してリン酸化する、II型受容体(セリン/トレオニンキナーゼ)へのTGFβリガンドの結合が関与する。次いで、このI型受容体が、SMAD4に結合する受容体制御SMAD(R-SMAD;例えば、SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5、SMAD8、又はSMAD9)をリン酸化し、次いで、このSMAD複合体が転写調節において役割を果たす核に入る。
【0039】
TGFβシグナル阻害剤とは、上記TGFβシグナルを阻害する物質であれば特に限定しないが、例えば、ALK5に作用してそのリン酸化を阻害するような物質である。また、TGFβが受容体へと結合するのを阻害するアンタゴニスト抗体などもTGFβシグナル阻害剤として用いることができる。
【0040】
TGFβシグナル阻害剤としては、特に限定しないが、例えばSB431542、Galunisertib、LY2109761、SB525334、SB505124、GW788388、LY364947、RepSox、SD-208、Vactosertib、LDN-212854などを挙げることができる。
【0041】
(レチノイン酸)
レチノイン酸とは、ビタミンAのカルボン酸誘導体で、all-trans retinoic acid (tretinoinトレチノインとも呼ばれる)、9-cis retinoic acid (alitretinoin とも呼ばれる; 9シスレチノイン酸)、13-cis retinoic acid (isotretinoinとも呼ばれる; 13シスレチノイン酸)などいくつかの立体異性体が存在する。レチノイン酸は核内受容体の一つであるレチノイン酸受容体(retinoic acid receptor; RAR)の天然リガンドとして、生体内におけるレチノイド、カロテノイドの生理活性の主役を担っている。RARはレチノイドX受容体(retinoid X receptor; RXR:リガンドは9cisレチノイン酸)とヘテロ二量体を形成し、リガンド誘導性転写因子として、特異的な標的遺伝子群のプロモーターに結合することで標的遺伝子群の発現を正負に転写レベルで制御することが知られている。ビタミンAとは全く類似しない化学構造を持つ化合物でも、これら特異的な受容体と非常に高い結合親和性を示す合成化合物を含めて、レチノイドと称されている。
【0042】
(レチノイン酸のアナログ)
レチノイン酸のアナログとしては、レチノイン酸と同様にレチノイン酸受容体(PAR)を活性化する物質であれば特に限定しないが、例えば、EC23、EC19、AC 261066、AC 55649、Adapalene、AM 580、AM 80、BMS 753、BMS 961、CD 1530、CD 2314、CD 437、Ch 55、Isotretinoin、Tazarotene、TTNPBなどを挙げることができる。
【0043】
(インスリン受容体シグナル活性化剤)
インスリン受容体は、肝臓、骨格筋、脂肪組織、神経細胞などに発現しており、インスリン受容体シグナルは、神経回路網の形成、維持、修復に関与することが知られている。インスリンはグルコースや脂質代謝のような重要なエネルギー機能を調節する重要なホルモンであり、インスリン受容体チロシンキナーゼ(insulin receptor、IR)を活性化し、IRS(insulin receptor substrate)ファミリーのような異なる基質アダプターのリクルートとリン酸化を行う。チロシンリン酸化されたIRSは多くのシグナルパートナーに結合部位を呈示する。中でも、PI3K (phosphoinositide 3-kinase)は、主に Akt(protein kinase B)とPKC(protein kinase C)の活性化を介してインスリン機能において重要な役割を果たす。活性化されたAktは、GSK-3(glycogen synthase kinase)の阻害を介したglycogen合成、mTOR(mammalian target of rapa)と下流因子を介したタンパク合成、プロアポトーシス因子(Bad、転写因子:Forkheadファミリー、GSK-3等)の阻害による細胞生存などを引き起こす。インスリン受容体シグナルはまた、細胞の成長と細胞分裂効果を持ち、それらの効果にはRas/MAPK経路の活性化と同様に、主にAktカスケードも関与している。
【0044】
インスリン受容体シグナル活性化剤とは、上記インスリン受容体シグナルを活性化する物質であれば特に限定しないが、例えば、インスリン受容体並びにIGF受容体に結合するリガンドが挙げられる。また、PI3K、PKC又はAktを直接又は間接的に活性化するような物質であってもよい。
【0045】
インスリン受容体シグナル活性化剤としては、好ましくはインスリン、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、IGF-2などを挙げることができる。また、PI3K活性化剤であるPI3-kinase activator(SantaCruz社、製品番号:sc-3036)、740 Y-Pなどもインスリン受容体シグナル活性化剤として用いることができる。
【0046】
(FGF受容体シグナル活性化剤)
FGF(線維芽細胞増殖因子)受容体シグナルは、FGF受容体を介するシグナル伝達であり、RAS-MAPK経路やPI3K-AKT経路に流れ、細胞増殖、細胞死、血管新生、上皮間葉転換(EMT)などの様々な細胞機能に関与しており、また、胚発生 及び生後の骨格系の発生の制御において重要な役割を果たす。
【0047】
FGF受容体シグナル活性化剤とは、上記のようなシグナル伝達を活性化するような物質であればよく、FGF受容体に結合するリガンド(FGFファミリー)がその代表例である。またRAS-MAPK経路やPI3K-AKT経路の活性化剤もFGF受容体シグナル活性化剤として用いることができる。
【0048】
FGF受容体シグナル活性化剤としては、FGFファミリーを挙げることができ、好ましくは、FGF7、FGF3、FGF10、FGF22、FGF1、FGF2、FGF4、FGF5,FGF6、FGF8、FGF17、FGF18、FGF9、FGF16、FGF20、FGF19、FGF21、FGF23など挙げられ、特に好ましくはFGF7である。
【0049】
(TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤)
TGFβスーパーファミリーシグナルとは、細胞増殖の調節、分化、広汎な生物学的システムでの発達において大変重要な役割を演じている。一般的に、リガンドにより惹起されるセリン/スレオニン受容体キナーゼの多量体形成と、骨形態発生蛋白(BMP)経路についてはSmad1/5/8 といった細胞内シグナル分子のリン酸化によって、また、TGFβ/アクチビン経路ならびにNODAL/アクチビン経路についてはSmad2/3のリン酸化によってシグナルは開始される。活性化受容体によるSmadsのカルボキシル基末端のリン酸化は、それらと共通のシグナルトランスデューサーであるSmad4とのパートナーを形成し、核への移行を促す。活性化Smadsは、転写因子とパートナーを組むことで様々な生物学的効果を制御し、細胞の状態に特異的な転写調節を行うが知られている。
【0050】
TGFβスーパーファミリーシグナル経路に関与する遺伝子としては、Activin A遺伝子、BMP2遺伝子、BMP3遺伝子、BMP4遺伝子、BMP5遺伝子、BMP6遺伝子、BMP7遺伝子、BMP8遺伝子、BMP13遺伝子、GDF2(Growth differentiation factor 2)遺伝子、GDF3遺伝子、GDF5遺伝子、GDF6遺伝子、GDF7遺伝子、GDF8遺伝子、GDF11遺伝子、TGF-β1遺伝子、TGF-β2遺伝子、TGF-β3遺伝子、AMH(anti-mullerian hormone)遺伝子、paired like homeodomain 2(PITX2)遺伝子、及びNODAL遺伝子などが挙げられる。
【0051】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤としては、骨形態発生タンパク質(BMP)経路、TGFβ/アクチビン経路、及び/又はNODAL/アクチビン経路のシグナルを活性化する物質であれば特に限定されないが、例えば、アクチビンA、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8、BMP13、GDF2、GDF5、GDF6、GDF7、GDF8、GDF11、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、AMH、PITX2、及び/又はNODALなどを用いることができる。特に、TGFβ/アクチビン経路のシグナルを活性化する物質を好適に用いることができ、具体的には、アクチビンA及びBMP4からなる群から選択される少なくとも1種類を使用することが好ましく、アクチビンA及びBMP4の全てを使用することが特に好ましい。
【0052】
(WNTシグナル活性化剤)
WNTシグナルとは、β-カテニンの核移行を促し、転写因子としての機能を発揮する一連の作用をいう。WNTシグナルは細胞間相互作用に起因し、例えば、ある細胞から分泌されたWNT3Aというタンパクがさらに別の細胞に作用し、細胞内のβ-カテニンが核移行し、転写因子として作用する一連の流れが含まれる。一連の流れは上皮間葉相互作用を例とする器官構築の最初の現象を引き起こす。WNTシグナルはβ-カテニン経路、PCP経路、Ca2+経路の三つの経路を活性化することにより、細胞の増殖や分化、器官形成や初期発生時の細胞運動など各種細胞機能を制御することで知られる。
WNTシグナル経路に関与する遺伝子としては、WNT3A遺伝子などがある。
【0053】
WNTシグナル活性化剤としては、特に限定されないが、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK-3)の阻害活性を示すものであればいかなるものでもよく、例えばビス-インドロ(インジルビン)化合物(BIO)((2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、そのアセトキシム類似体BIO-アセトキシム(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-アセトキシム)、チアジアゾリジン(TDZD)類似体(4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン)、オキソチアジアゾリジン―3-チオン類似体(2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン)、チエニルα-クロロメチルケトン化合物(2-クロロ-1-(4,4-ジブロモ-チオフェン-2-イル)-エタノン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物(α-4-ジブロモアセトフェノン)、チアゾール含有尿素化合物(N-(4-メトキシベンジル)-N’-(5-ニトロ-1,3-チアゾール-2-イル)ユレア)やGSK-3βペプチド阻害剤、例えばH-KEAPPAPPQSpP-NH2、などを使用することができ、特に好ましくは、CHIR99021(CAS:252917-06-9)を使用することができる。WNT3Aも好適に用いることができる。
【0054】
[1]原始腸管細胞(PGT)の製造方法
本発明による原始腸管細胞(PGT)の製造方法は、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、原始腸管細胞(PGT)への分化誘導に適した培養条件下、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程を含む方法である。多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導については後記する。
【0055】
原始腸管細胞(PGT)への分化誘導に適した培養条件とは、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を原始腸管細胞(PGT)へ好適に分化誘導できる培養条件であれば、特に限定されない。
分化誘導培地としては、内胚葉系細胞を原始腸管細胞(PGT)へ分化誘導させる培地であれば特に限定されるものではないが、一つの実施態様として、後述する分化誘導培地にて培養することが挙げられる。
【0056】
用いる細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DMEM培地、DMEM/F12培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM-160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地、RPMI1640培地、又はEssential 6TM培地(Thermo Fisher Scientific社)等を用いることができる。また、必要に応じて前述した培地から任意に選択した2種以上の培地を混合した培地などが使用できる。なお、動物細胞の培地に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
【0057】
分化誘導培地にはさらに、ウシ血清アルブミン(BSA)又はヒト血清アルブミン(HSA)が含まれていてもよい。好ましくはBSA又はHSAに含まれる脂質が2mg/g以下、遊離脂肪酸が0.2mg/g以下である。
【0058】
前記培地におけるBSAの添加量の下限は、好ましくは0.01%(重量%)、より好ましくは0.05%、より好ましくは0.10%、より好ましくは0.15%、より好ましくは0.20%、より好ましくは0.25%である。培地におけるBSAの添加量の上限は、好ましくは1.00%、より好ましくは0.90%、より好ましくは0.80%、より好ましくは0.70%、より好ましくは0.60%、より好ましくは0.50%、より好ましくは0.40%、より好ましくは0.30%、より好ましくは0.25%である。
【0059】
分化誘導培地にはさらに、sodium pyruvateが含まれていてもよい。
前記前記培地におけるsodium pyruvateの添加量の下限は、好ましくは0.01mmol/L、より好ましくは0.05mmol/L、より好ましくは0.1mmol/L、より好ましくは0.2mmol/L、より好ましくは0.5mmol/L、より好ましくは0.6mmol/L、より好ましくは0.7mmol/L、より好ましくは0.8mmol/L、より好ましくは0.9mmol/L、より好ましくは1mmol/Lである。培地におけるsodium pyruvateの添加量の上限は、好ましくは20mmol/L、より好ましくは15mmol/L、より好ましくは10mmol/L、より好ましくは5mmol/L、より好ましくは4mmol/L、より好ましくは3mmol/L、より好ましくは2mmol/L、より好ましくは1mmol/Lである。
【0060】
分化誘導培地にはさらに、NEAA(例えば、1×non-essential amino acids(NEAA;Wako社)など)が含まれていてもよい。
培地におけるNEAAの含有量の下限は、好ましくは0.05×NEAA、より好ましくは0.1×NEAA、より好ましくは0.5×NEAA、より好ましくは0.6×NEAA、より好ましくは0.7×NEAA、より好ましくは0.8×NEAA、より好ましくは0.9×NEAA、より好ましくは1×NEAAである。培地におけるNEAAの含有量の上限は、好ましくは20×NEAA、より好ましくは15×NEAA、より好ましくは10×NEAA、より好ましくは5×NEAA、より好ましくは4×NEAA、より好ましくは3×NEAA、より好ましくは2×NEAA、より好ましくは1×NEAAである。
【0061】
分化誘導培地にはさらに、ペニシリン及びストレプトマイシンなどの抗生物質が含まれていてもよい。
前記培地におけるペニシリン含有量の下限は、好ましくは1unit/mL、より好ましくは5unit/mL、より好ましくは10unit/mL、より好ましくは20unit/mL、より好ましくは30unit/mL、より好ましくは40unit/mL、より好ましくは50unit/mL、より好ましくは60unit/mL、より好ましくは70unit/mL、より好ましくは80unit/mL、より好ましくは90unit/mL、より好ましくは100unit/mLである。上限は、好ましくは1000unit/mL、より好ましくは500unit/mL、より好ましくは400unit/mL、より好ましくは300unit/mL、より好ましくは200unit/mL、より好ましくは100unit/mLある。
【0062】
また、ストレプトマイシン含有量の下限は、好ましくは10μg/mL、より好ましくは20μg/mL、より好ましく30μg/mL、より好ましく40μg/mL、より好ましく50μg/mL、より好ましく60μg/mL、より好ましく70μg/mL、より好ましく80μg/mL、より好ましく90μg/mL、より好ましく100μg/mLである。上限は、好ましくは1000μg/mL、より好ましく500μg/mL、より好ましく400μg/mL、より好ましく300μg/mL、より好ましく200μg/mL、より好ましく100μg/mLである。
【0063】
[2]原始腸管細胞(PGT)への分化誘導に用いる分化誘導因子、及びその他の添加物
本発明による原始腸管細胞(PGT)の製造方法は、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、原始腸管細胞(PGT)への分化誘導に適した培養条件下、上述した骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下であれば、その他の分化誘導因子やその他の添加物については特に限定されないが、分化誘導効率の向上及び、より優れた膵臓β細胞へと分化可能な原始腸管細胞(PGT)を製造する観点から、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程は、FGF2の非存在下であることが好ましい。
【0064】
また、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、原始腸管細胞(PGT)への分化誘導に適した培養条件下、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程は、ヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤の非存在下であることも好ましい。ヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤の非存在下において前記内胚葉系細胞を培養することにより、分化誘導効率の向上及び、より優れた膵臓β細胞へと分化可能な原始腸管細胞(PGT)を製造することができる。
【0065】
さらに、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程は、TGFβシグナル阻害剤の非存在下であることも好ましい。TGFβシグナル阻害剤の非存在下において前記内胚葉系細胞を培養することにより、分化誘導効率の向上及び、より優れた膵臓β細胞へと分化可能な原始腸管細胞(PGT)を製造することができる。
【0066】
さらに、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程は、レチノイン酸又はそのアナログの存在下であることも好ましい。レチノイン酸及びそのアナログの存在下において前記内胚葉系細胞を培養することにより、分化誘導効率の向上及び、より優れた膵臓β細胞へと分化可能な原始腸管細胞(PGT)を製造することができる。
【0067】
一方で、分化誘導効率を向上させ、優れた膵臓β細胞へと分化可能な原始腸管細胞(PGT)を製造する観点においては、多能性幹細胞から誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程においては、好ましくは、内胚葉系細胞を、インスリン受容体シグナル活性化剤を含む培地において培養する工程であることが好ましい。
【0068】
分化誘導培地におけるインスリン受容体シグナル活性化剤の添加量の下限は、好ましくは0.001mg/L、より好ましくは0.01mg/L、より好ましくは0.1mg/L、より好ましくは1mg/L、より好ましくは2mg/L、より好ましくは3mg/Lである。培地におけるインスリン受容体シグナル活性化剤の添加量の上限は、好ましくは1000mg/L、より好ましくは500mg/L、より好ましくは100mg/L、より好ましくは90mg/L、より好ましくは80mg/L、より好ましくは70mg/L、より好ましくは60mg/L、より好ましくは50mg/L、より好ましくは40mg/L、より好ましくは30mg/L、より好ましくは20mg/L、より好ましくは10mg/Lである。
【0069】
また、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程は、内胚葉系細胞を、インスリン、トランスフェリン及び亜セレン酸を含む培地において培養することが好ましい。
インスリン、トランスフェリン及び亜セレン酸は、B27サプリメントなど市販の混合物の形態で培地に含まれていてもよい。また、インスリン、トランスフェリン及び亜セレン酸に加えてエタノールアミンが含まれていてもよい。
【0070】
培地におけるトランスフェリンの添加量の下限は、好ましくは、0.001mg/L、より好ましくは0.01mg/L、より好ましくは0.1mg/L、より好ましくは1mg/L、より好ましくは1.1mg/L、より好ましくは1.2mg/L、より好ましくは1.3mg/L、より好ましくは1.4mg/L、より好ましくは1.5mg/L、より好ましくは1.6mg/L、より好ましくは1.65mg/Lである。培地におけるトランスフェリンの添加量の上限は、好ましくは、1000mg/L、より好ましくは500mg/L、より好ましくは100mg/L、より好ましくは90mg/L、より好ましくは80mg/L、より好ましくは70mg/L、より好ましくは60mg/L、より好ましくは50mg/L、より好ましくは40mg/L、より好ましくは30mg/L、より好ましくは20mg/L、より好ましくは10mg/L、より好ましくは9mg/L、より好ましくは8mg/L、より好ましくは7mg/L、より好ましくは6mg/L、より好ましくは5mg/L、より好ましくは4mg/L、より好ましくは3mg/L、より好ましくは2mg/Lである。
【0071】
培地における亜セレン酸の添加量の下限は、好ましくは、0.001μg/L、より好ましくは0.01μg/L、より好ましくは0.1μg/L、より好ましくは1μg/L、より好ましくは1.1μg/L、より好ましくは1.2μg/L、より好ましくは1.3μg/L、より好ましくは1.4μg/L、より好ましくは1.5μg/L、より好ましくは1.6μg/L、より好ましくは1.7μg/L、より好ましくは1.8μg/L、より好ましくは1.9μg/L、より好ましくは2μg/Lである。培地における亜セレン酸の添加量の上限は、好ましくは、1000μg/L、より好ましくは500μg/L、より好ましくは100μg/L、より好ましくは90μg/L、より好ましくは80μg/L、より好ましくは70μg/L、より好ましくは60μg/L、より好ましくは50μg/L、より好ましくは40μg/L、より好ましくは30μg/L、より好ましくは20μg/L、より好ましくは10μg/L、より好ましくは9μg/L、より好ましくは8μg/L、より好ましくは7μg/Lである。
【0072】
多能性幹細胞から誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程においては、内胚葉系細胞を、FGF受容体シグナル活性化剤を含む培地において培養することが好ましく、中でもFGF7を含む分化誘導培地にて内胚葉系細胞を培養することが好ましい。但し、本明細書中上記した通り、より効率的な分化誘導の達成、及び優れた膵臓β細胞に分化誘導可能な原始腸管細胞(PGT)製造の達成という観点からは、FGF2の非存在下において培養することが好ましい。
【0073】
培地におけるFGF受容体シグナル活性化剤の添加量の下限は、好ましくは1ng/mL、より好ましくは5ng/mL、より好ましくは10ng/mL、より好ましくは20ng/mL、より好ましくは30ng/mL、より好ましくは40ng/mL、より好ましくは50ng/mLである。培地におけるFGF受容体シグナル活性化剤の添加量の上限は、好ましくは500ng/mL、より好ましくは400ng/mL、より好ましくは300ng/mL、より好ましくは200ng/mL、より好ましくは100ng/mL、より好ましくは90ng/mL、より好ましくは80ng/mL、より好ましくは70ng/mL、より好ましくは60ng/mL、より好ましくは50ng/mLである。
【0074】
好ましくは、多能性幹細胞から誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養する工程は、内胚葉系細胞を、B27(登録商標)サプリメント及び/又はFGF7を含む培地において培養する工程である。
【0075】
培地におけるB27(登録商標)サプリメントの添加量の下限は、好ましくは0.01%、より好ましくは0.1%、より好ましくは0.2%、より好ましくは0.3%、より好ましくは0.4%、より好ましくは0.5%、より好ましくは0.6%、より好ましくは0.7%、より好ましくは0.8%、より好ましくは0.9%である。培地におけるB27(登録商標)サプリメントの添加量の上限は、好ましくは10%、より好ましくは9%、より好ましくは8%、より好ましくは7%、より好ましくは6%、より好ましくは5%、より好ましくは4%、より好ましくは3%、より好ましくは2%、より好ましくは1%である。
【0076】
培地におけるFGF7の添加量の下限は、好ましくは1ng/mL、より好ましくは5ng/mL、より好ましくは10ng/mL、より好ましくは20ng/mL、より好ましくは30ng/mL、より好ましくは40ng/mL、より好ましくは50ng/mLである。培地におけるFGF7の添加量の上限は、好ましくは500ng/mL、より好ましくは400ng/mL、より好ましくは300ng/mL、より好ましくは200ng/mL、より好ましくは100ng/mL、より好ましくは90ng/mL、より好ましくは80ng/mL、より好ましくは70ng/mL、より好ましくは60ng/mL、より好ましくは50ng/mLである。
【0077】
また、分化誘導培地は、上述した以外の血清成分又は血清代替成分を含んでいてもよい。血清成分又は血清代替成分としては、例えば、アルブミン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素(例えば亜鉛、セレン)、N2サプリメント、N21サプリメント(R&D Systems社)、NeuroBrew-21サプリメント(Miltenyibiotec社)、Knockout serum replacement(KSR)、2-メルカプトエタノール、3’チオールグリセロール、並びにこれらの均等物が挙げられる。
【0078】
分化誘導培地には、さらに各種の添加物、抗生物質、抗酸化剤などを加えてもよい。例えば、0.1mMから5mMのピルビン酸ナトリウム、0.1から2%(体積/体積)の非必須アミノ酸、0.1から2%(体積/体積)のペニシリン、0.1から2%(体積/体積)のストレプトマイシン、0.1から2%(体積/体積)のアンフォテリシンB、カタラーゼ、グルタチオン、ガラクトース、レチノイン酸(ビタミンA)、スーパーオキシドディスムターゼ、アスコルビン酸(ビタミンC)、D-α-トコフェロール(ビタミンE)などを添加してもよい。
【0079】
内胚葉系細胞から原始腸管細胞への分化誘導における培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃から40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1から10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0080】
内胚葉系細胞から原始腸管細胞(PGT)への分化誘導は、接着培養又は浮遊培養のいずれでも実施するができるが、浮遊培養が好ましい。浮遊培養は、後述する浮遊培養の条件によって行うことができ、さらに、予めマイクロキャリア等に接着させて浮遊培養しても良いし、細胞のみで構成された細胞凝集塊の状態で浮遊培養しても良いし、細胞凝集塊の中にコラーゲン等の高分子が混在していても良く、形態は特に限定しない。
【0081】
浮遊培養は、培地の粘性等や凹凸を有するマイクロウェル等を用いた静置培養であってもよいし、スピナー等を利用して液体培地が流動する条件での培養であってもよいが、好ましくは液体培地が流動する条件での培養である。液体培地が流動する条件での培養としては、細胞の凝集を促進するように液体培地が流動する条件での培養が好ましい。細胞の凝集を促進するように液体培地が流動する条件での培養としては、例えば、旋回流、揺動流等の流れによる応力(遠心力、求心力)により細胞が一点に集まるように液体培地が流動する条件での培養や、直線的な往復運動により液体培地が流動する条件での培養が挙げられ、旋回流及び/又は揺動流を利用した培養が特に好ましい。
【0082】
浮遊培養に用いる培養容器は、好ましくは容器内面への細胞の接着性が低い容器が好ましい。このような容器内面への細胞の接着性が低い容器としては、例えば生体適合性がある物質で親水性表面処理されているようなプレートが挙げられる。例えば、NunclonTMSphera(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用できるが特に限定はされない。また、 培養容器の形状は特に限定されないが、例えば、ディッシュ状、フラスコ状、ウェル状、バッグ状、スピナーフラスコ状等の形状の培養容器が挙げられる。
【0083】
凝集体を形成させる期間としては、6時間を超える期間であれば特に限定されないが、具体的には、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、又は2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間の期間において凝集体を形成させることが好ましい。
【0084】
浮遊培養培地としては、多能性幹細胞を増殖可能な成分が含まれるのであれば特に限定されないが、1から100μMのY-27632(Cayman社)を含むmTeSR1(Veritas社)培地、又は1から100μMのY-27632(Cayman社)、1から100mg/mL BSAを含むEssential8TMなどを使用することができる。
【0085】
浮遊培養における攪拌又は旋回の条件としては、懸濁液中において多能性幹細胞が凝集体を形成し得る範囲であれば特に限定されないが、上限は、好ましくは200rpm、より好ましくは150rpm、さらに好ましくは120rpm、より好ましくは100rpm、より好ましくは90rpm、より好ましくは80rpm、もっと好ましくは70rpm、より好ましくは60rpm、特に好ましくは50rpm、最も好ましくは45rpmとすることができる。下限は好ましくは1rpm、より好ましくは10rpm、さらに好ましくは20rpm、より好ましくは30rpm、より好ましくは40rpm、特に好ましくは45rpmとすることができる。旋回培養の際の旋回幅は特に限定されないが、下限は、例えば1mm、好ましくは10mm、より好ましくは20mm、最も好ましくは25mmとすることができる。旋回幅の上限は、例えば200mm、好ましくは100mm、好ましくは50mm、より好ましくは30mm、最も好ましくは25mmとすることができる。旋回培養の際の回転半径もまた特に限定されないが、好ましくは旋回幅が前記の範囲となるように設定される。回転半径の下限は例えば5mm、好ましくは10mmであり、上限は例えば100mm、好ましくは50mmとすることができる。旋回培養の条件をこの範囲とすることで、適切な寸法の細胞凝集体を製造することが容易となるため好ましい。
【0086】
また、浮遊培養は、揺動(ロッキング)撹拌により液体培地を流動させながら行う揺動培養であってもよい。揺動培養は、液体培地と細胞を収容した培養容器を概ね水平面に垂直な平面内で揺動させることにより行う。揺動速度は特に限定されないが、例えば1分間に2から50回、好ましくは4から25回(一往復を1回とする)揺動させることができる。揺動角度は特に限定されないが、例えば0.1°から20°、より好ましくは2°から10°とすることができる。揺動培養の条件をこの範囲とすることで、適切な寸法の細胞凝集塊を製造することが可能となるため好ましい。
【0087】
更に、上記のような旋回と揺動とを組み合わせた運動により撹拌しながら培養することもできる。
【0088】
スピナーフラスコ状の培養容器を用いた浮遊培養は、培養容器の中に攪拌翼を使用して、液体培地を攪拌しながら行う培養である。回転数や培地量は特に限定されない。市販のスピナーフラスコ状の培養容器であれば、メーカー推奨の培養液量を好適に使用することができ、例えばABLE社のスピナーフラスコ等も好適に用いることができる。
【0089】
本発明において、浮遊培養における細胞の播種密度は、細胞が凝集体を形成する播種密度であれば特に限定されないが、1×105から1×107cells/mLであることが好ましい。細胞の播種密度は、2×105cells/mL以上、3×105cells/mL以上、4×105cells/mL以上、又は5×105cells/mL以上が好ましく、9×106cells/mL以下、8×106cells/mL以下、7×106cells/mL以下、6×106cells/mL以下、5×106cells/mL以下、4×106cells/mL以下、3×106cells/mL以下、2×106cells/mL以下、1.9×106cells/mL以下、1.8×106cells/mL以下、1.7×106cells/mL以下、1.6×106cells/mL以下、1.5×106cells/mL以下が好ましい。特に、5×105cells/mLから1.5×106cells/mLの範囲の細胞密度が好適である。
【0090】
細胞の凝集体は、凝集体当たり数百から数千の細胞を含む。本発明において、細胞凝集体の大きさ(直径)は、特に限定されないが、例えば、50μm以上、55μm以上、60μm以上、65μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、100μm以上、110μm以上、120μm以上、130μm以上、140μm以上、150μm以上、であり、且つ、1000μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下が挙げられる。150μmから400μmの範囲の直径を有する細胞凝集体は本発明で好適である。上記範囲以外の直径を有する細胞凝集体が混在していても良い。
ここでいう「細胞凝集体の大きさ(直径)」は、例えば、顕微鏡で観察したとき、観察像での最も細胞凝集塊の幅の広い部分の寸法をいうことができる。
【0091】
浮遊培養の際の培養液量は使用する培養容器によって適宜調整することができるが、例えば12ウェルプレート(1ウェルあたりの平面視でのウェル底面の面積が3.5cm2)を使用する場合は0.5ml/ウェル以上、1.5ml/ウェル以下とすることができ、より好ましくは1ml/ウェルとすることができる。例えば6ウェルプレート(1ウェルあたりの平面視でのウェル底面の面積が9.6cm2)を使用する場合は、1.5mL/ウェル以上、好ましくは2mL/ウェル以上、より好ましくは3mL/ウェル以上とすることができ、6.0mL/ウェル以下、好ましくは5mL/ウェル以下、より好ましくは4mL/ウェル以下とすることができる。例えば125mL三角フラスコ(容量が125mLの三角フラスコ)を使用する場合は、10mL/容器以上、好ましくは15mL/容器以上、より好ましくは20mL/容器以上、より好ましくは25mL/容器以上、より好ましくは30mL/容器以上とすることができ、50mL/容器以下、より好ましくは45mL/容器以下、より好ましくは40mL/容器以下とすることができる。例えば500mL三角フラスコ(容量が500mLの三角フラスコ)を使用する場合は、100mL/容器以上、好ましくは105mL/容器以上、より好ましくは110mL/容器以上、より好ましくは115mL/容器以上、より好ましくは120mL/容器以上とすることができ、150mL/容器以下、より好ましくは145mL/容器以下、より好ましくは140mL/容器以下、より好ましくは135mL/容器以下、より好ましくは130mL/容器以下、より好ましくは125mL/容器以下とすることができる。例えば1000mL三角フラスコ(容量が1000mLの三角フラスコ)を使用する場合は、250mL/容器以上、好ましくは260mL/容器以上、より好ましくは270mL/容器以上、より好ましくは280mL/容器以上、より好ましくは290mL/容器以上とすることができ、350mL/容器以下、より好ましくは340mL/容器以下、より好ましくは330mL/容器以下、より好ましくは320mL/容器以下、より好ましくは310mL/容器以下とすることができる。例えば2000mL三角フラスコ(容量が2000mLの三角フラスコ)の場合は、500mL/容器以上、より好ましくは550mL/容器以上、より好ましくは600mL/容器以上とすることができ、1000mL/容器以下、より好ましくは900mL/容器以下、より好ましくは800mL/容器以下、より好ましくは700mL/容器以下とすることができる。例えば3000mL三角フラスコ(容量が3000mLの三角フラスコ)の場合は、1000mL/容器以上、好ましくは1100mL/容器以上、より好ましくは1200mL/容器以上、より好ましくは1300mL/容器以上、より好ましくは1400mL/容器以上、より好ましくは1500mL/容器以上とすることができ、2000mL/容器以下、より好ましくは1900mL/容器以下、より好ましくは1800mL/容器以下、より好ましくは1700mL/容器以下、より好ましくは1600mL/容器以下とすることができる。例えば2L培養バッグ(容量が2Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、100mL/バッグ以上、より好ましくは200mL/バッグ以上、より好ましくは300mL/バッグ以上、より好ましくは400mL/バッグ以上、より好ましくは500mL/バッグ以上、より好ましくは600mL/バッグ以上、より好ましくは700mL/バッグ以上、より好ましくは800mL/バッグ以上、より好ましくは900mL/バッグ以上、より好ましくは1000mL/バッグ以上とすることができ、2000mL/バッグ以下、より好ましくは1900mL/バッグ以下、より好ましくは1800mL/バッグ以下、より好ましくは1700mL/バッグ以下、より好ましくは1600mL/バッグ以下、より好ましくは1500mL/バッグ以下、より好ましくは1400mL/バッグ以下、より好ましくは1300mL/バッグ以下、より好ましくは1200mL/バッグ以下、より好ましくは1100mL/バッグ以下とすることができる。例えば10L培養バッグ(容量が10Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、500mL/バッグ以上、より好ましくは1L/バッグ以上、より好ましくは2L/バッグ以上、より好ましくは3L/バッグ以上、より好ましくは4L/バッグ以上、より好ましくは5L/バッグ以上とすることができ、10L/バッグ以下、より好ましくは9L/バッグ以下、より好ましくは8L/バッグ以下、より好ましくは7L/バッグ以下、より好ましくは6L/バッグ以下とすることができる。例えば、20L培養バッグ(容量が20Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、1L/バッグ以上、より好ましくは2L/バッグ以上、より好ましくは3L/バッグ以上、より好ましくは4L/バッグ以上、より好ましくは5L/バッグ以上、より好ましくは6L/バッグ以上、より好ましくは7L/バッグ以上、より好ましくは8L/バッグ以上、より好ましくは9L/バッグ以上、より好ましくは10L/バッグ以上とすることができ、20L/バッグ以下、より好ましくは19L/バッグ以下、より好ましくは18L/バッグ以下、より好ましくは17L/バッグ以下、より好ましくは16L/バッグ以下、より好ましくは15L/バッグ以下、より好ましくは14L/バッグ以下、より好ましくは13L/バッグ以下、より好ましくは12L/バッグ以下、より好ましくは11L/バッグ以下とすることができる。例えば50L培養バッグ(容量が50Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、1L/バッグ以上、より好ましくは2L/バッグ以上、より好ましくは5L/バッグ以上、より好ましくは10L/バッグ以上、より好ましくは15L/バッグ以上、より好ましくは20L/バッグ以上、より好ましくは25L/バッグ以上とすることができ、50L/バッグ以下、より好ましくは45L/バッグ以下、より好ましくは40L/バッグ以下、より好ましくは35L/バッグ以下、より好ましくは30L/バッグ以下とすることができる。培養液量がこの範囲であるとき、適切な大きさの細胞凝集体が形成され易い。
【0092】
使用する培養容器の容量は適宜選択することができ特に限定されないが、液体培地を収容する部分の底面を平面視したときの面積として、下限が、例えば0.32cm2、好ましくは0.65cm2、より好ましくは0.95cm2、さらに好ましくは1.9cm2、もっと好ましくは3.0cm2、3.5cm2、9.0cm2、又は9.6cm2の培養容器を用いることができ、上限としては、例えば1000cm2、好ましくは500cm2、より好ましくは300cm2、より好ましくは150cm2、より好ましくは75cm2、もっと好ましくは55cm2、さらに好ましくは25cm2、さらにより好ましくは21cm2、さらにもっと好ましくは9.6cm2、又は3.5cm2の培養容器を用いることができる。
【0093】
内胚葉系細胞から原始腸管細胞への分化誘導の培養期間は、一般的には24時間から120時間であり、好ましく48時間から96時間程度である。例えば、72時間である。
【0094】
[3]原始腸管細胞(Primitive Gut Tube:PGT)
原始腸管細胞は、前腸、中腸、後腸を形成する。中腸は卵黄嚢とつながっており、後腸からは胚体外の尿膜が分岐している。また、前腸からは呼吸器系の咽頭も形成される。
胃や腸のように腸管がそのまま分化するものと、肝臓、胆嚢、膵臓、(脾臓(リンパ性器官))などのように腸管から出芽するような形で形成されるものがある。内胚葉系細胞から原始腸管細胞への分化は、原始腸管細胞に特異的な遺伝子の発現量を測定することにより確認することができる。原始腸管細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、HNF-1β、HNF-4αなどを挙げることができる。
【0095】
原始腸管細胞は、一般的に、HNF-1β又はHNF-4αのうちの少なくとも1つを発現する。
HNF-1β(hepatocyte nuclear factor 1 beta)の遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されている(ID:6928を参照)。
HNF-4α(octamer-binding transcription factor 4)の遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されている(ID:3172を参照)。
【0096】
本発明の原始腸管細胞においては、パスウェイ名「Biosynthesis of amino acids」(http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?map=hsa04015&show_description=show)に関する遺伝子発現が向上していることが好ましい。例えば、N-acetylglutamate synthase(NAGS)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000161653)、aldolase, fructose-bisphosphate A(ALDOA)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000149925)、aldolase, fructose-bisphosphate C(ALDOC)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000109107)、aminoadipate aminotransferase(AADAT)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000109576)、argininosuccinate synthase 1(ASS1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000130707)、branched chain amino acid transaminase 1(BCAT1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000060982)、enolase 1(ENO1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000074800)、enolase 2(ENO2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000111674)、glutamate-ammonia ligase(GLUL)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000135821)、phosphofructokinase, liver type(PFKL)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000141959)、phosphofructokinase, platelet(PFKP)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000067057)、phosphoglycerate kinase 1(PGK1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000102144)、phosphoserine phosphatase(PSPH)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000146733)、pyrroline-5-carboxylate reductase 1(PYCR1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000183010)、pyruvate kinase, muscle(PKM)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000067225)、serine hydroxymethyltransferase 2(SHMT2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000182199)、transketolase(TKT)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000163931)などの遺伝子の発現量が既存の方法で調製した原始腸管細胞と比較して向上していることが好ましい。これらの遺伝子の発現量が多いことは、細胞内のアミノ酸合成に関与する酵素が増加し、分化に必要なタンパク質の材料となるアミノ酸の生合成が活発になることから、分化誘導により好適な状態の細胞であることを意味する。
【0097】
本発明の原始腸管細胞においては、パスウェイ名「Rap1 signaling pathway」(http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?map=hsa04015&show_description=show)に関する遺伝子発現が向上していることが好ましい。例えば、KIT proto-oncogene receptor tyrosine kinase(KIT)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000157404)、RAP1A, member of RAS oncogene family(RAP1A)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000116473)、Rap guanine nucleotide exchange factor 4(RAPGEF4)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000091428)、adenylate cyclase 7(ADCY7)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000121281)、adenylate cyclase 8(ADCY8)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000155897)、afadin, adherens junction formation factor(AFDN)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000130396)、amyloid beta precursor protein binding family B member 1 interacting protein(APBB1IP)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000077420)、angiopoietin 1(ANGPT1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000154188)、calmodulin 1(CALM1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000198668)、ephrin A1(EFNA1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000169242)、ephrin A3(EFNA3)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000143590)、ephrin A5(EFNA5)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG0000018434)、fibroblast growth factor 11(FGF11)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000161958)、fibroblast growth factor receptor 3(FGFR3)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000068078)、fibroblast growth factor receptor 4(FGFR4)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000160867)、glutamate ionotropic receptor NMDA type subunit 2A(GRIN2A)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000183454)、insulin like growth factor 1(IGF1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000017427)、membrane associated guanylate kinase, WW and PDZ domain containing 3(MAGI3)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000081026)、phosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 1(PIK3R1) 遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000145675)、phosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 5(PIK3R5)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000141506)、phospholipase C beta 1(PLCB1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000182621)、phospholipase C epsilon 1(PLCE1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000138193)、placental growth factor(PGF)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG0000011963)、platelet derived growth factor D(PDGFD)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000170962)、platelet derived growth factor receptor alpha(PDGFRA)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000134853)、regulator of G-protein signaling 14(RGS14)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000169220)、signal induced proliferation associated 1 like 2(SIPA1L2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000116991)、talin 2(TLN2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000171914)、vascular endothelial growth factor C(VEGFC)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000150630)などの遺伝子の発現量が既存の方法で調製した原始腸管細胞と比較して向上していることが好ましい。これらの遺伝子の発現量が多いことは、細胞接着の増加や組織の3次元構造化などに寄与することが考えられ、分化誘導により好適な状態の細胞であると考えられる。
【0098】
本発明の原始腸管細胞においては、パスウェイ名「Pathways in cancer」(http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?map=hsa05200&show_description=show)に関する遺伝子発現が向上していることが好ましい。例えば、A-Raf proto-oncogene, serine/threonine kinase(ARAF)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000078061)、BCR, RhoGEF and GTPase activating protein(BCR)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG0000018671)、C-X-C motif chemokine receptor 4(CXCR4)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG0000012196)、CCAAT/enhancer binding protein alpha(CEBPA)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000245848)、Cbl proto-oncogene C(CBLC)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000142273)、KIT proto-oncogene receptor tyrosine kinase(KIT)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000157404)、MDS1 and EVI1 complex locus(MECOM)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000085276)、SMAD family member 3(SMAD3)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000166949)、adenylate cyclase 7(ADCY7)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000121281)、adenylate cyclase 8(ADCY8)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000155897)、catenin alpha 3(CTNNA3)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000183230)、collagen type IV alpha 3 chain(COL4A3)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000169031)、collagen type IV alpha 5 chain(COL4A5)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000188153)、collagen type IV alpha 6 chain(COL4A6)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000197565)、cyclin D1(CCND1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000110092)、egl-9 family hypoxia inducible factor 1(EGLN1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG0000013576)、endothelial PAS domain protein 1(EPAS1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000116016)、endothelin receptor type A(EDNRA)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000151617)、fibronectin 1(FN1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000115414)、frizzled class receptor 1(FZD1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000157240)、frizzled class receptor 2(FZD2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000180340)、laminin subunit beta 1(LAMB1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000091136)、lysophosphatidic acid receptor 6(LPAR6)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000139679)、mitogen-activated protein kinase 10(MAPK10)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000109339)、patched 1(PTCH1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000185920)、peroxisome proliferator activated receptor gamma(PPARG) 遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000132170)、phosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 1(PIK3R1) 遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000145675)、phosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 5(PIK3R5)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000141506)、phospholipase C beta 1(PLCB1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000182621)、phospholipase C gamma 2(PLCG2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000197943)、prostaglandin E receptor 2(PTGER2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000125384)、protein inhibitor of activated STAT 2(PIAS2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000078043)、retinoid X receptor alpha(RXRA)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000186350)、solute carrier family 2 member 1(SLC2A1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000117394)、transforming growth factor beta 1(TGFB1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000105329)、transforming growth factor beta receptor 2(TGFBR2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000163513)、tropomyosin 3(TPM3)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000143549)、vascular endothelial growth factor C(VEGFC)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000150630)などの遺伝子の発現量が既存の方法で調製した原始腸管細胞と比較して向上していることが好ましい。これらの遺伝子の発現量が多いことは、分化に必要な様々なシグナルパスウェイが活性化される可能性があり、分化誘導により好適な状態の細胞であると考えられる。
【0099】
本発明の原始腸管細胞においては、パスウェイ名「p53 signaling pathway」(http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?map=hsa04115&show_description=show)に関する遺伝子発現が減少していることが好ましい。例えば、BCL2 associated X, apoptosis regulator(BAX)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000087088)、Fas cell surface death receptor(FAS)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000026103)、MDM2 proto-oncogene(MDM2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000135679)、PERP, TP53 apoptosis effector(PERP)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000112378)、STEAP3 metalloreductase(STEAP3)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000115107)、caspase 3(CASP3)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000164305)、caspase 8(CASP8)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000064012)、cyclin D2(CCND2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000118971)、cyclin E2(CCNE2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000175305)、cyclin dependent kinase 1(CDK1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000170312)、cyclin dependent kinase 6(CDK6)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000105810)、cyclin dependent kinase inhibitor 1A(CDKN1A)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000124762)、damage specific DNA binding protein 2(DDB2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000134574)、phorbol-12-myristate-13-acetate-induced protein 1(PMAIP1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000141682)、protein phosphatase, Mg2+/Mn2+ dependent 1D(PPM1D)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000170836)、reprimo, TP53 dependent G2 arrest mediator candidate(RPRM)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000177519)、ribonucleotide reductase regulatory TP53 inducible subunit M2B(RRM2B)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000048392)、serpin family B member 5(SERPINB5)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000206075)、serpin family E member 1(SERPINE1)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000106366)、sestrin 2(SESN2)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000130766)、stratifin(SFN)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000175793)、zinc finger matrin-type 3(ZMAT3)遺伝子(ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000172667)などの遺伝子の発現量が既存の方法で調製した原始腸管細胞と比較して減少していることが好ましい。これらの遺伝子の発現量が少ないことは、細胞死が抑制される可能性があり、分化誘導により好適な状態の細胞であると考えられる。
【0100】
本発明の原始腸管細胞(PGT)としては、後記する比較例5の方法(即ち、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤、レチノイン酸又はそのアナログ、TGF-βシグナル阻害剤ならびにヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤の存在下において培養する)により製造された原始腸管細胞(PGT)と比較して、KIT遺伝子、RAP1A遺伝子、FGF11遺伝子、FGFR4遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子発現が向上、及び/又はMDM2遺伝子、CASP3遺伝子、CDK1遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子発現が減少している細胞を挙げることができる。
【0101】
本発明の原始腸管細胞(PGT)においては、好ましくは、比較例5の方法により製造された原始腸管細胞(PGT)と比較して、IGFBP3遺伝子、PTGDR遺伝子、LOX遺伝子、PAPPA遺伝子、RAB31遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子が向上している。
本発明の原始腸管細胞(PGT)においては、好ましくは、比較例5の方法により製造された原始腸管細胞(PGT)と比較して、ANGPT2遺伝子、CD47遺伝子、CDC42EP3遺伝子、CLDN18遺伝子、CLIC5遺伝子、PHLDA1遺伝子、SKAP2遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子が減少している。
【0102】
本発明の原始腸管細胞(PGT)の別の例としては、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞と比較して、IGFBP3遺伝子、PTGDR遺伝子、PAPPA遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子発現が向上しているか、及び/又はANGPT2遺伝子及びFRZB遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が減少している、原始腸管細胞(PGT)を挙げることができる。
【0103】
本発明の原始腸管細胞(PGT)のさらに別の例としては、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤、TGF-βシグナル阻害剤及びヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤の存在下において培養することにより製造された原始腸管細胞(PGT)と比較して、IGFBP3遺伝子、PTGDR遺伝子、LOX遺伝子、PAPPA遺伝子、及びRAB31遺伝子のうちの1以上の遺伝子の発現が向上しているか、及び/又はANGPT2遺伝子、BMPR1B遺伝子、CD47遺伝子、CDC42EP3遺伝子、CLDN18遺伝子、CLIC5遺伝子、FRZB遺伝子、IGF2遺伝子、PHLDA1遺伝子、及びSKAP2遺伝子のうちの1以上の遺伝子の発現が減少している、原始腸管細胞(PGT)を挙げることができる。
【0104】
さらに本発明によれば、原始腸管細胞を含む細胞集団であって、以下に示す(a)から(d)の細胞特性を有する細胞集団が提供される:
(a)前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するFGF11遺伝子の相対発現が0.01以上であり、
(b)前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するFGFR4遺伝子の相対発現量が0.03以上であり、
(c)前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するCASP3遺伝子の相対発現量が0.006以下であり、
(d)前記細胞集団が、β-Actin遺伝子の発現量に対するCDK1遺伝子の相対発現量が0.02以下である。
【0105】
前記細胞集団においては、
β-Actin遺伝子の発現量に対するRAP1A遺伝子の相対発現量が0.03以上である;
β-Actin遺伝子の発現量に対するKIT遺伝子の相対発現量が0.05以上である;又は
β-Actin遺伝子の発現量に対するMDM2遺伝子の相対発現量が0.03以下である;
の何れか一以上が満たされていてもよい。
【0106】
前記細胞集団においては、OAZ1遺伝子の発現量に対するIGFBP3遺伝子の相対発現量が10以上、OAZ1遺伝子の発現量に対するPTGDR遺伝子の発現量が0.6以上、OAZ1遺伝子の発現量に対するLOX遺伝子の相対発現量が0.6以上、OAZ1遺伝子の発現量に対するPAPPA遺伝子の相対発現量が0.01以上、及びOAZ1遺伝子の発現量に対するRAB31遺伝子の相対発現量が0.2以上であってもよい。
前記細胞集団においては、OAZ1遺伝子の発現量に対するANGPT2遺伝子の相対発現量が0.0002以下、OAZ1遺伝子の発現量に対するCD47遺伝子の発現量が0.02以下、OAZ1遺伝子の発現量に対するCDC42EP3遺伝子の相対発現量が0.03以下、OAZ1遺伝子の発現量に対するCLDN18遺伝子の相対発現量が0.006以下、OAZ1遺伝子の発現量に対するCLIC5遺伝子の相対発現量が0.0001以下、OAZ1遺伝子の発現量に対するPHLDA1遺伝子の相対発現量が0.2以下、及びOAZ1遺伝子の発現量に対するSKAP2遺伝子の相対発現量が0.01以下であってもよい。
【0107】
β-Actin(NCBI Gene ID;60)遺伝子の発現量に対するFGF11(ENSEMBL GENE ID:ENSG00000161958)遺伝子の相対発現量は0.01以上であるが、好ましくは0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上、0.1以上であってもよい。FGF11遺伝子は、「Rap1 signaling pathway」に関与する遺伝子であることから、β-Actin遺伝子に対するFGF11遺伝子の相対発現量が0.01以上であることは、細胞接着の増加や組織の3次元構造化などに寄与することが考えられ、分化誘導により好適な状態の細胞であると考えられる。
【0108】
β-Actin遺伝子の発現量に対するFGFR4(ENSEMBL GENE ID:ENSG00000160867)遺伝子の相対発現量は0.03以上であるが、好ましくは0.04以上、0.05以上、0.1以上であってもよい。FGFR4遺伝子は、「Rap1 signaling pathway」に関与することから、β-Actin遺伝子に対するFGFR4遺伝子の相対発現量が0.03以上であることは、細胞接着の増加や組織の3次元構造化などに寄与することが考えられ、分化誘導により好適な状態の細胞であると考えられる。
【0109】
β-Actin遺伝子の発現量に対するCASP3(ENSEMBL GENE ID:ENSG00000164305)遺伝子の相対発現量は0.006以下であるが、好ましくは0.005以下、0.004以下、0.003以下、0.002以下、0.001以下、0.0005以下、0.0001以下であってもよい。CASP3遺伝子は、「p53 signaling pathway」に関与することから、β-Actin遺伝子に対するCASP3遺伝子の相対発現量が0.006以下であることは、細胞死が抑制される可能性があり、分化誘導により好適な状態の細胞であると考えられる。
【0110】
β-Actin遺伝子の発現量に対するCDK1(ENSEMBL GENE ID:ENSG00000170312)遺伝子の相対発現量は0.02以下であるが、好ましくは0.01以下、0.005以下、0.001以下であってもよい。CDK1遺伝子は、「p53 signaling pathway」に関与することから、β-Actin遺伝子に対するCDK1遺伝子の相対発現量が0.02以下であることは、細胞死が抑制される可能性があり、分化誘導により好適な状態の細胞であると考えられる。
【0111】
β-Actin遺伝子の発現量に対するRAP1A(ENSEMBL GENE ID:ENSG00000116473)遺伝子の相対発現量は0.03以上であるが、好ましくは0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上、0.1以上であってもよい。RAP1A遺伝子は、「Rap1 signaling pathway」に関与することから、β-Actin遺伝子に対するRAP1A遺伝子の相対発現量が0.03以上であることは、細胞接着の増加や組織の3次元構造化などに寄与することが考えられ、分化誘導により好適な状態の細胞であると考えられる。
【0112】
β-Actin遺伝子の発現量に対するKIT(ENSEMBL GENE ID:ENSG00000157404)遺伝子の相対発現量は0.05以上であるが、好ましくは0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上、0.1以上、0.5以上であってもよい。KIT遺伝子は、「Rap1 signaling pathway」に関与することから、β-Actin遺伝子に対するKIT遺伝子の相対発現量が0.05以上であることは、細胞接着の増加や組織の3次元構造化などに寄与することが考えられ、分化誘導により好適な状態の細胞であると考えられる。
【0113】
β-Actin遺伝子の発現量に対するMDM2(MDM2 proto-oncogene ENSEMBL_GENE_ID:ENSG00000135679)遺伝子の相対発現量は0.03以下であるが、好ましくは0.02以下、0.01以下、0.005以下、0.001以下であってもよい。MDM2遺伝子は、「p53 signaling pathway」に関与することから、β-Actin遺伝子に対するMDM2遺伝子の相対発現量が0.03以下であることは、細胞死が抑制される可能性があり、分化誘導により好適な状態の細胞であると考えられる。
【0114】
OAZ1(ornithine decarboxylase antizyme 1, 遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:4946を参照)遺伝子の発現量に対するIGFBP3(Insulin like growth factor binding protein 3、NCBI Gene ID;3486)遺伝子の相対発現量は10以上であるが、好ましくは11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上であってもよい。IGFBP3遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において高発現していることから、原始腸管細胞の陽性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0115】
OAZ1遺伝子の発現量に対するPTGDR(Prostaglandin D2 receptor、NCBI Gene ID;5729)遺伝子の相対発現量は0.6以上であるが、好ましくは0.7以上、0.8以上、0.9以上、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上であってもよい。PTGDR遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において高発現していることから、原始腸管細胞の陽性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0116】
OAZ1遺伝子の発現量に対するLOX(Lysyl oxidase、NCBI Gene ID;4015)遺伝子の相対発現量は0.6以上であるが、好ましくは0.7以上、0.8以上、0.9以上、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上であってもよい。LOX遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において高発現していることから、原始腸管細胞の陽性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0117】
OAZ1遺伝子の発現量に対するPAPPA(Pappalysin 1、NCBI Gene ID;5069)遺伝子の相対発現量は0.01以上であるが、好ましくは0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上であってもよい。PAPPA遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において高発現していることから、原始腸管細胞の陽性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0118】
OAZ1遺伝子の発現量に対するRAB31(RAB31、member RAS oncogene family、NCBI Gene ID;11031)遺伝子の相対発現量は0.2以上であるが、好ましくは0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上であってもよい。RAB31遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において高発現していることから、原始腸管細胞の陽性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0119】
OAZ1遺伝子の発現量に対するANGPT2(Angiopoietin 2、NCBI Gene ID;285)遺伝子の相対発現量は0.0002以下であるが、好ましくは0.0001以下、0.00009以下、0.00008以下、0.00007以下、0.00006以下、0.00005以下、0.00004以下、0.00003以下、0.00002以下、0.00001以下であってもよい。ANGPT2遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において発現が低いことから、原始腸管細胞の陰性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0120】
OAZ1遺伝子の発現量に対するCD47(CD47 molecule、NCBI Gene ID;961)遺伝子の相対発現量は0.02以下であるが、好ましくは0.01以下、0.009以下、0.008以下、0.007以下、0.006以下、0.005以下、0.004以下、0.003以下、0.002以下、0.001以下であってもよい。CD47遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において発現が低いことから、原始腸管細胞の陰性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0121】
OAZ1遺伝子の発現量に対するCDC42EP3(CDC42 effector protein 3、NCBI Gene ID;10602)遺伝子の相対発現量は0.03以下であるが、好ましくは0.02以下、0.01以下、0.009以下、0.008以下、0.007以下、0.006以下、0.005以下、0.004以下、0.003以下、0.002以下、0.001以下であってもよい。CDC42EP3遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において発現が低いことから、原始腸管細胞の陰性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0122】
OAZ1遺伝子の発現量に対するCLDN18(Claudin 18、NCBI Gene ID;51208)遺伝子の相対発現量は0.006以下であるが、好ましくは0.005以下、0.004以下、0.003以下、0.002以下、0.001以下、0.0009以下、0.0008以下、0.0007以下、0.0006以下、0.0005以下、0.0004以下、0.0003以下、0.0002以下、0.0001以下であってもよい。CLDN18遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において発現が低いことから、原始腸管細胞の陰性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0123】
OAZ1遺伝子の発現量に対するCLIC5(Chloride intracellular channel 5、NCBI Gene ID;53405)遺伝子の相対発現量は0.0001以下であるが、好ましくは0.00009以下、0.00008以下、0.00007以下、0.00006以下、0.00005以下、0.00004以下、0.00003以下、0.00002以下、0.00001以下であってもよい。CLIC5遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において発現が低いことから、原始腸管細胞の陰性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0124】
OAZ1遺伝子の発現量に対するPHLDA1(Pleckstrin homology like domain family A member 1、NCBI Gene ID;22822)遺伝子の相対発現量は0.2以下であるが、好ましくは0.1以下、0.09以下、0.08以下、0.07以下、0.06以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下、0.01以下、0.009以下、0.008以下、0.007以下、0.006以下、0.005以下、0.004以下、0.003以下、0.002以下、0.001以下であってもよい。PHLDA1遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において発現が低いことから、原始腸管細胞の陰性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0125】
OAZ1遺伝子の発現量に対するSKAP2(Src kinase associated phosphoprotein 2、NCBI Gene ID;8935)遺伝子の相対発現量は0.01以下であるが、好ましくは0.009以下、0.008以下、0.007以下、0.006以下、0.005以下、0.004以下、0.003以下、0.002以下、0.001以下、0.0009以下、0.0008以下、0.0007以下、0.0006以下、0.0005以下、0.0004以下、0.0003以下、0.0002以下、0.0001以下であってもよい。SKAP2遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において発現が低いことから、原始腸管細胞の陰性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0126】
OAZ1遺伝子の発現量に対するFRZB(fizzled related protein、NCBI Gene ID;2487)遺伝子の相対発現量は0.085以下であるが、好ましくは0.08以下、0.07以下、0.06以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下、0.01以下、0.009以下、0.008以下、0.007以下、0.006以下、0.005以下、0.004以下、0.003以下、0.002以下、0.001以下であってもよい。FRZB遺伝子は、本発明の原始腸管細胞において発現が低いことから、原始腸管細胞の陰性マーカー遺伝子になると考えられる。
【0127】
[4]膵臓β細胞への分化誘導
<膵臓β細胞>
膵臓β細胞は、膵内分泌前駆細胞から分化した細胞であり、インスリンを分泌する細胞である。膵内分泌前駆細胞から膵臓β細胞への分化は、膵臓β細胞に特異的な遺伝子の発現量を測定することにより確認することができる。膵臓β細胞に特異的な遺伝子としては、インスリン、NKX6.1、MAFA、PDX1などを挙げることができる。
【0128】
<膵臓β細胞への分化誘導>
内胚葉系細胞から膵臓β細胞への分化誘導は、一般的に内胚葉系細胞(胚体内胚葉:Definitive endoderm:DE)→原始腸管細胞(Primitive Gut Tube:PGT)→後前腸細胞(Posterior Foregut:PFG)→膵臓前駆細胞(Pancreatic Progenitor:PP)→内分泌前駆細胞(Endocrine Precursor:EP)→膵臓β細胞(pancreaticβcell:β)という順番で行うことができる。
【0129】
内胚葉系細胞から膵臓β細胞への分化誘導における培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃から40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1から10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0130】
内胚葉系細胞から原始腸管細胞への分化誘導については、本明細書において上記した通りである。
【0131】
原始腸管細胞から後前腸細胞への分化誘導に用いる培地としては、基礎培地(例えば、DMEM培地など)に、抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)、NEAA(非必須アミノ酸)、B27supplement、EC23、及びSANT1を添加した培地を用いることができる。
【0132】
原始腸管細胞から後前腸細胞への分化誘導の培養期間は、一般的には、一般的には48時間から144時間であり、好ましく72時間から120時間程度である。
【0133】
後前腸細胞から膵臓前駆細胞への分化誘導に用いる培地としては、基礎培地(例えば、DMEM培地など)に、抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)、NEAA(非必須アミノ酸)、FGF-10、B27supplement、EC23、ALK5インヒビターII、及びインドラクタムVを添加した培地を用いることができる。
【0134】
後前腸細胞から膵臓前駆細胞への分化誘導の培養期間は、一般的には、一般的には24時間から120時間であり、好ましく48時間から96時間程度である。
【0135】
膵臓前駆細胞から内分泌前駆細胞への分化誘導に用いる培地としては、基礎培地(例えば、Advanced-DMEM培地など)に、抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)、B27supplement、EC23、SANT1、ALK5インヒビターII、及びExcedin-4を添加した培地を用いることができる。
【0136】
膵臓前駆細胞から内分泌前駆細胞への分化誘導の培養期間は、一般的には、一般的には24時間から120時間であり、好ましく48時間から96時間程度である。
【0137】
内分泌前駆細胞から膵臓β細胞への分化誘導に用いる培地としては、基礎培地(例えば、Advanced-DMEM培地など)に抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)、B27supplement、BMP-4、HGF、IGF-1、ALK5インヒビターII、Excedin-4、ニコチンアミド、及びForskolinを添加した培地を用いることができる。
【0138】
膵臓β細胞への分化は、膵臓β細胞に特異的な遺伝子の発現量を測定することにより確認することができる。膵臓β細胞に特異的な遺伝子としては、例えばINS(Insulin)、NKX6.1(NK6 homeobox 1)などを挙げることができる。
INSの遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されている(ID:3630)、またNKX6.1の遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されている(ID:4825)。
【0139】
内分泌前駆細胞から膵臓β細胞への分化誘導の培養期間は、一般的には96時間から240時間程度である。
【0140】
上記の方法により得られる膵臓β細胞は、インスリン分泌能が高く、糖尿病に対して高い治療効果を発揮できる。即ち、本発明の方法を利用して膵臓β細胞(インスリン産生細胞と言い換える場合がある)を得た場合には、これをカテーテルなどであるいは免疫隔離デバイス等に封入して移植することにより、糖尿病の治療へ利用できる。また、膵臓β細胞などの物質代謝が可能な膵臓系の細胞を得ることにより、その膵臓β細胞が産生したインスリンを直接注射することにより、I型糖尿病の治療に用いることもできる。
【0141】
以下、多能性幹細胞から内胚葉系細胞の製造方法について説明する。多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導方法については、通常知られている方法であれば何でもよく、下記の具体的態様には特に限定されない。
【0142】
[5]多能性幹細胞の維持培養
本発明の製造方法においては、多能性幹細胞を培養することによって分化誘導された内胚葉系細胞を使用する。
内胚葉系細胞への分化誘導を行う前の多能性幹細胞は、未分化維持培地を用いて未分化性を維持したものとすることが好ましい。未分化維持培地を用いて多能性幹細胞の未分化性を維持する培養のことを、多能性幹細胞の維持培養ともいう。
【0143】
未分化維持培地は、多能性幹細胞の未分化性を維持できる培地であれば特に限定されないが、例えば、マウス胚性幹細胞及びマウス人工多能性幹細胞の未分化性を維持する性質を有していることが知られているleukemia inhibitory factorを含む培地や、ヒトiPSの未分化性を維持する性質を有していることが知られているbasic FGF(Fibroblast growth factor)を含む培地等が挙げられる。例えば、ヒトiPS細胞培地(20%Knockout serum replacement(KSR;Gibco社)、1×non-essential amino acids(NEAA;Wako社)、55μmol/L 2-メルカプトエタノール(2-ME;Gibco社)、7.5ng/mL recombinant human fibroblast growth factor2(FGF2;Peprotech社)、0.5×Penicillin and Streptomycin(PS;Wako社)を含むDMEM/Ham’s F12(Wako社)、又はEssentail8培地(Thermo Fisher Scientific社)、STEMPRO(登録商標) hESC SFM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、mTeSR1(Veritas社)、TeSR2(Veritas社)、StemFit(登録商標)等を使用することができるが、特に限定されない。
【0144】
多能性幹細胞の維持培養は、好適なフィーダー細胞(例えば、SL10フィーダー細胞、SNLフィーダー細胞等)上において上記の未分化維持培地を用いて行うことができる。また、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン又はマトリゲル等の細胞接着タンパク質や細胞外マトリックスをコートした細胞培養用ディッシュ上においても上記した未分化維持培地を用いて行うことができる。
【0145】
培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃から40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1から10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0146】
多能性幹細胞の維持培養は継代しながら所望の期間行うことができ、例えば、維持培養後の継代数1から100、好ましくは継代数10から50、より好ましくは継代数25から40の多能性幹細胞を用いて、凝集体の形成や分化誘導を行うことが好ましい。
【0147】
[6]多能性幹細胞の浮遊培養による凝集体の形成
多能性幹細胞の凝集体を形成するための実施形態の一つとしては、未分化で維持培養している細胞を、accumax(Innovative Cell Technologies社)等によりフィーダー細胞から剥がし、3から4回ヒトiPS細胞培地でリンスをしてフィーダー細胞を除くことができる。次いで、ピペッティングにより小さな細胞塊又はシングルセルに砕き、それら細胞を培地中に懸濁した後に、懸濁液中の多能性幹細胞が凝集体を形成するまでの期間にわたって攪拌又は旋回させながら浮遊培養する。浮遊培養についての好ましい態様は、内胚葉系細胞を浮遊培養にて原始腸管細胞(PGT)へ分化誘導させる際の態様と同様である。
【0148】
培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃から40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1から10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0149】
[7]多能性幹細胞の前培養
上記多能性幹細胞の凝集体又は多能性幹細胞を内胚葉系細胞に分化誘導する前に、2-メルカプトエタノールを含む培地を用いて浮遊培養し、細胞集団を調製することができる。
前培養に用いる培地は、細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DMEM培地、DMEM/F12培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM-160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地、RPMI1640培地、又はEssential 6TM培地(Thermo Fisher Scientific社)等を用いることができる。
【0150】
多能性幹細胞の前培養は、浮遊培養にて実施する。上述した浮遊培養の条件によって行うことができ、さらに、予めマイクロキャリア等に接着させて浮遊培養しても良いし、細胞のみで構成された細胞凝集塊の状態で浮遊培養しても良いし、細胞凝集塊の中にコラーゲン等の高分子が混在していても良く、形態は特に限定しない。
【0151】
前培養に用いる培地中における2-メルカプトエタノールの濃度としては、分化誘導の効率が向上する範囲であれば特に限定されないが、例えば、2-メルカプトエタノールの濃度として、1μM以上、2μM以上、5μM以上、10μM以上、20μM以上、30μM以上、40μM以上、又は50μM以上が好ましく、200μM以下、150μM以下、120μM以下、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、又は60μM以下が好ましい。
【0152】
前培養に用いる培地は、FGF2(Fibroblast Growth Factor 2)を添加していない培地であることも好ましい。FGF2を添加していない培地を使用することにより、内胚葉系細胞への分化効率をより向上することができる場合がある。
前培養に用いる培地は、TGFβ1(Transforming growth factor-β1)を添加していない培地であることも好ましい。TGFβ1を添加していない培地を使用することにより、内胚葉系細胞への分化効率をより向上することができる場合がある。
【0153】
前培養に用いる培地は、WNTシグナル活性化剤を添加していない培地であることも好ましい。WNTシグナル活性化剤を添加していない培地を使用することにより、内胚葉系細胞への分化効率をより向上することができる場合がある。
前培養に用いる培地は、アクチビンA(本明細書中において「ACTIVIN A」と言い換える場合がある)を添加していない培地であることも好ましい。アクチビンAを添加していない培地を使用することにより、内胚葉系細胞への分化効率をより向上することができる場合がある。
【0154】
前培養用の培地には、アミノ酸、抗生物質、抗酸化剤、その他の添加物を加えてもよい。例えば0.1から2%(体積/体積)のNEAA(非必須アミノ酸)、0.1から2%(体積/体積)のペニシリン/ストレプトマイシン、0.1から20mg/mLのBSA又は1から25%(体積/体積)(好ましくは1から20%(体積/体積))のKnockout serum replacement (KSR)などを添加してもよい。
【0155】
培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃から40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1から10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0156】
多能性幹細胞の前培養の培養期間は、多分化能が向上するまで培養する日数であれば特に限定されないが、例えば1週間を超えない期間であれば良い。より具体的には、6日未満、5日未満、4日未満、3日未満、又は、6時間から48時間であり、12時間から36時間程度であり、18時間から24時間である。
【0157】
[8]内胚葉系細胞への分化誘導
本発明においては、上記の前培養で得られた細胞集団を、内胚葉系細胞に分化誘導できる条件下で培養することによって、内胚葉系細胞を製造することができる。
【0158】
内胚葉系細胞は、消化管、肺、甲状腺、膵臓、肝臓などの器官の組織、消化管に開口する分泌腺の細胞、腹膜、胸膜、喉頭、耳管、気管、気管支、尿路(膀胱、尿道の大部分、尿管の一部)などへと分化する能力を有し、一般的に、胚体内胚葉(DE)と言われることがある。多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化は、内胚葉系細胞に特異的な遺伝子の発現量を測定することにより確認することができる。内胚葉系細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、SOX17、FOXA2、CXCR4、AFP、GATA4、EOMES等を挙げることができる。なお、本明細書中において、内胚葉系細胞を胚体内胚葉と言い換えて使用することがある。
【0159】
多能性幹細胞を内胚葉系細胞に分化誘導する際には、分化誘導化培地を使用して多能性幹細胞の培養を行う。
分化誘導化培地としては、多能性幹細胞を分化誘導させる培地であれば特に限定されるものではないが、例えば、血清含有培地や、血清代替成分を含有した無血清培地等が挙げられる。
【0160】
用いる細胞の種類に応じて、霊長類ES/iPS細胞用培地(リプロセル培地)、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの培地から任意に選択した2種以上の培地を混合した培地などが使用できる。なお、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
【0161】
分化誘導培地は、血清成分又は血清代替成分を含んでいてもよい。血清成分又は血清代替成分としては、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素(例えば亜鉛、セレン)、B-27サプリメント(Thermo Fisher Scientific社)、N2サプリメント、N21サプリメント(R&D Systems社)、NeuroBrew-21サプリメント(Miltenyibiotec社)、Knockout serum replacement(KSR)、2-メルカプトエタノール、3’チオールグリセロール、並びにこれらの均等物が挙げられる。
【0162】
分化誘導培地には、さらに各種の添加物、抗生物質、抗酸化剤などを加えてもよい。例えば、0.1mMから5mMのピルビン酸ナトリウム、0.1から2%(体積/体積)の非必須アミノ酸、0.1から2%(体積/体積)のペニシリン、0.1から2%(体積/体積)のストレプトマイシン、0.1から2%(体積/体積)のアンフォテリシンB、カタラーゼ、グルタチオン、ガラクトース、レチノイン酸(ビタミンA)、スーパーオキシドディスムターゼ、アスコルビン酸(ビタミンC)、D-α-トコフェロール(ビタミンE)などを添加してもよい。
【0163】
分化誘導培地にはさらに、分化誘導因子を添加する。分化誘導因子の詳細については後記する。
【0164】
分化誘導時における多能性幹細胞の培養は、浮遊培養であることが好ましい。細胞はマイクロキャリア等に接着させて浮遊培養しても良いし、細胞のみで構成された細胞凝集塊の状態で浮遊培養しても良いし、細胞凝集塊の中にコラーゲン等の高分子が混在していても良く、形態は特に限定しない。
【0165】
分化誘導のための培養における培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃から40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1から10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0166】
多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化培養の培養期間は、内胚葉系列の細胞特性が呈する細胞型になっているのであれば特に限定されないが、例えば、2週間以内であればよく、より具体的には2日以上8日以内であり、より好ましくは2日以上7日以内であり、さらに好ましくは3日以上6日以内であり、一例としては4日又は5日である。
【0167】
[9]内胚葉系細胞への分化誘導に用いる分化誘導因子、及びその他の添加物
好ましくは、内胚葉系細胞は、多能性幹細胞集団を、TGFβ(Transforming growth factor-β)スーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地で培養した後、FGF2及びBMP4(Bone morphogenetic protein 4)を添加していない培地で培養することにより分化誘導された内胚葉系細胞である。
【0168】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地においてアクチビンAを使用する場合、アクチビンAの添加初期濃度は、好ましくは1ng/mL以上、2ng/mL以上、3ng/mL以上、5ng/mL以上、10ng/mL以上、20ng/mL以上、30ng/mL以上、40ng/mL以上、又は50ng/mL以上であり、好ましくは1,000ng/mL以下、900ng/mL以下、800ng/mL以下、700ng/mL以下、600ng/mL以下、500ng/mL以下、400ng/mL以下、300ng/mL以下、200ng/mL以下、150ng/mL以下又は100ng/mL以下である。
【0169】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地においてFGF2を使用する場合、FGF2の添加初期濃度は、好ましくは1ng/mL以上、2ng/mL以上、3ng/mL以上、5ng/mL以上、10ng/mL以上、20ng/mL以上、30ng/mL以上、又は40ng/mL以上であり、好ましくは1,000ng/mL以下、900ng/mL以下、800ng/mL以下、700ng/mL以下、600ng/mL以下、500ng/mL以下、400ng/mL以下、300ng/mL以下、200ng/mL以下、150ng/mL、100ng/mL以下、90ng/mL以下、80ng/mL以下、又は70ng/mL以下である。
【0170】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地においてBMP4を使用する場合、BMP4の添加初期濃度は、好ましくは1ng/mL以上、2ng/mL以上、3ng/mL以上、5ng/mL以上、6ng/mL以上、7ng/mL以上、8ng/mL以上、9ng/mL以上、10ng/mL以上、11ng/mL以上、12ng/mL以上、13ng/mL以上、14ng/mL以上、又は15ng/mL以上であり、好ましくは1,000ng/mL以下、900ng/mL以下、800ng/mL以下、700ng/mL以下、600ng/mL以下、500ng/mL以下、400ng/mL以下、300ng/mL以下、200ng/mL以下、150ng/mL、100ng/mL以下、90ng/mL以下、80ng/mL以下、70ng/mL以下、60ng/mL以下、50ng/mL以下、40ng/mL以下、又は30ng/mL以下である。
【0171】
FGF2及びBMP4を添加していない培地は、アクチビンAを含むことが好ましい。
FGF2及びBMP4を添加していない培地がアクチビンAを含む場合におけるアクチビンAの添加初期濃度は、好ましくは1ng/mL以上、2ng/mL以上、3ng/mL以上、5ng/mL以上、10ng/mL以上、20ng/mL以上、30ng/mL以上、40ng/mL以上、又は50ng/mL以上であり、好ましくは1,000ng/mL以下、900ng/mL以下、800ng/mL以下、700ng/mL以下、600ng/mL以下、500ng/mL以下、400ng/mL以下、300ng/mL以下、200ng/mL以下、150ng/mL以下又は100ng/mL以下である。
【0172】
FGF2及びBMP4を添加していない培地は、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム及びエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
インスリンの添加濃度は、好ましくは0.001μg/mL以上、0.01μg/mL以上、0.05μg/mL以上、0.1μg/mL以上、0.2μg/mL以上であり、好ましくは10,000μg/mL以下、1,000μg/mL以下、100μg/mL以下、10μg/mL以下、9μg/mL以下、8μg/mL以下、7μg/mL以下、6μg/mL以下、5μg/mL以下、4μg/mL以下、3μg/mL以下、2μg/mL以下である。トランスフェリンの添加濃度は、好ましくは0.001μg/mL以上、0.01μg/mL以上、0.05μg/mL以上、0.06μg/mL以上、0.07μg/mL以上、0.08μg/mL以上、0.09μg/mL以上、0.1μg/mL以上、0.11μg/mL以上であり、好ましくは10,000μg/mL以下、1,000μg/mL以下、100μg/mL以下、10μg/mL以下、9μg/mL以下、8μg/mL以下、7μg/mL以下、6μg/mL以下、5μg/mL以下、4μg/mL以下、3μg/mL以下、2μg/mL以下、1.9μg/mL以下、1.8μg/mL以下、1.7μg/mL以下、1.6μg/mL以下、1.5μg/mL以下、1.4μg/mL以下、1.3μg/mL以下、1.2μg/mL以下、1.1μg/mL以下である。亜セレン酸ナトリウムの添加濃度は、好ましくは0.001ng/mL以上、0.01ng/mL以上、0.1ng/mL以上であり、好ましくは10,000ng/mL以下、1,000ng/mL以下、100ng/mL以下、10ng/mL以下、1ng/mL以下である。エタノールアミンの添加濃度は、好ましくは0.001μg/mL以上、0.01μg/mL以上、0.02μg/mL以上、0.03μg/mL以上、0.04μg/mL以上であり、好ましくは10,000μg/mL以下、1,000μg/mL以下、100μg/mL以下、10μg/mL以下、1μg/mL以下、0.9μg/mL以下、0.8μg/mL以下、0.7μg/mL以下、0.6μg/mL以下、0.5μg/mL以下、0.4μg/mL以下である。
【0173】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地は、さらに2-メルカプトエタノールを含むことが好ましい。2-メルカプトエタノールを作用することにより、内胚葉系細胞への分化誘導効率を高めることができる。
【0174】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地は、さらにWNTシグナル活性化剤を含むことが好ましい。
【0175】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地においてCHIR99021を使用する場合、添加初期濃度は、好ましくは0.01μM以上、0.02μM以上、0.03μM以上、0.04μM以上、0.05μM以上、0.1μM以上、0.2μM以上、0.3μM以上、0.4μM以上、0.5μM以上、0.6μM以上、0.7μM以上、0.8μM以上、0.9μM以上、1μM以上、又は2μM以上であり、好ましくは100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、45μM以下、40μM以下、35μM以下、30μM以下、25μM以下、20μM以下、15μM以下、10μM以下又は5μM以下である。より好ましくは3μM又は4μMである。
【0176】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地は、少なくともグルコースを含む。前記培地中に含まれるグルコース濃度の下限は、細胞が増殖できる濃度であれば特に限定されないが、0.01g/L以上が好ましい。また、前記培地中に含まれるグルコース濃度の上限は、細胞が死滅しない濃度であれば特に限定されないが、例えば10g/L以下が好ましい。他の実施態様として、内胚葉系列の体細胞に効率的に分化させる観点においては、グルコースを2.0g/L未満で含有する培地が好ましい。TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地におけるグルコースの濃度は、1.0g/L以下でもよく、0.9g/L以下でもよく、0.8g/L以下、0.7g/L以下、0.6g/L以下でもよい。TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地がグルコースを含む場合における、グルコースの濃度の下限は特に限定されないが、0.01g/L以上でもよく、0.02g/L以上、0.05g/L以上、0.1g/L以上、0.2g/L以上、0.3g/L以上、0.4g/L以上、0.5g/L以上でもよい。
【0177】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0178】
[実施例1]
<多能性幹細胞の維持培養>
ヒトiPS細胞株TKDN4-M(東京大学医科学研究所)はMITOMYCIN-C(WAKO社)で処理をしたSNL FEEDER細胞上でヒトiPS細胞培地(20% KNOCKOUT SERUM REPLACEMENT(KSR;GIBCO社)、1×NON-ESSENTIAL AMINO ACIDS(NEAA;WAKO社)、55μmoL/L 2-MERCAPTETHANOL(2-ME;GIBCO社)、7.5NG/ML RECOMBINANT HUMAN FIBROBLAST GROWTH FACTOR(FGF2;PEPROTECH社)、0.5×PENICILLIN AND STREPTOMYCIN (PS;WAKO社)を含むDMEM/HAM‘S F12(WAKO社))で未分化維持培養を行った。又は、VITRONECTIN(GIBCO)でコーティングしたプレート上で、1×PENICILLIN AND STREPTOMYCIN AND AMPHOTERICIN B(WAKO社)を含むESSENTIAL 8培地(E8;GIBCO社)で未分化維持培養した。なお、播種時のみ最終濃度10μMとなるように Y-27632を添加して培養した。培養は、37℃、5%のCO2濃度雰囲気下で行った。
【0179】
<凝集体の作製>
ヒトiPS細胞株TkDN4-M(東京大学医科学研究所)は、1回PBSでリンスを行い、accumax(Innovative Cell Technologies社)にて37℃で5分から15分インキュベートしてからピペッティングによりシングルセルまで分散して回収した。3×107個の細胞を10μMのY-27632を含むmTeSR1の培地30mL中に懸濁し、30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)へ移し6チャネルマグネチックスターラー(ABLE社)に装着して45rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を1日間行った。
【0180】
<多能性幹細胞の前培養>
維持培養にて得られた凝集体を形成した細胞集団を、20%(体積/体積) Knockout serum replacement(KSR;Gibco社)、1×non-essential amino acids(NEAA;Wako社)、55μmol/L 2-メルカプトエタノール(2-mercaptethanol;Gibco社)、0.5×Penicillin and Streptomycin(PS;Wako社)を含むDMEM/Ham’s F12(Wako社)に懸濁し、30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)へ移し、6チャネルマグネチックスターラー(ABLE社)に装着して45rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を1日間行った。
【0181】
<内胚葉系細胞への分化誘導>
前培養にて得られた凝集体を形成した細胞集団を、最初の1から2日目は、0.5%Bovine Serum Albumin(BSA; sigma)、0.4×PS、1mmol/L sodium pyruvate(Wako社)、1×NEAA、80ng/mL recombinant human アクチビンA(Peprotech社)、50ng/mL FGF2(Peprotech社)、20ng/mL recombinant bone morphogenetic protein 4(BMP4;Peprotech社)、3μmol/L CHIR99021(Wako社)を含むRPMI1640(Wako社)で浮遊培養した。3日目はこの培地からBMP4、FGF2、CHIR99021を除いて浮遊培養を行い、4日目はさらに1%KSRを加えた培地で浮遊培養を1日間行った。なお、浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、45rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0182】
<内胚葉系細胞から原始腸管細胞(PGT)への分化誘導方法の検討>
上記で得られた内胚葉系細胞から原始腸管細胞(Primitive Gut Tube;PGT)へ分化誘導した。具体的には、0.25%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL recombinant human FGF7(Peprotech社)、1%B27supplement(Gibco社)、0.3%ITS-X(Wako社)を含むRPMI1640培地で3日間浮遊培養した。浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、55rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0183】
[参考例1]
<内胚葉系細胞から原始腸管細胞(PGT)への分化誘導方法の検討>
実施例1と同様の方法でで得られた内胚葉系細胞から原始腸管細胞(Primitive Gut Tube;PGT)へ分化誘導した。具体的には、0.25%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL recombinant human FGF7(Peprotech社)、0.3%(V/V)ITS-X(Wako社)、1%B27supplement(Gibco社)、0.2μM LDN193189(Cayman社)を含むRPMI1640培地で3日間浮遊培養した。なお、浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、55rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0184】
[参考例2]
<内胚葉系細胞から原始腸管細胞(PGT)への分化誘導方法の検討>
実施例1と同様の方法で得られた内胚葉系細胞から原始腸管細胞(Primitive Gut Tube;PGT)へ分化誘導した。具体的には、0.25%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL recombinant human FGF7(Peprotech社)、1%B27supplement(Gibco社)、0.67μM EC23、1μM Dorsomorphin、10μM SB431542、0.25μM SANT1を含むRPMI1640培地で3日間浮遊培養した。なお、浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、55rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0185】
[実施例2]
<内胚葉系細胞から原始腸管細胞(PGT)への分化誘導方法の検討>
実施例1と同様の方法でで得られた内胚葉系細胞から原始腸管細胞(Primitive Gut Tube;PGT)へ分化誘導した。具体的には、0.25%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL recombinant human FGF7(Peprotech社)、0.3%(V/V)ITS-X(Wako社)、1%B27supplement(Gibco社)、0.67μM EC23、10μM SB431542、0.25μM SANT1を含むRPMI1640培地で3日間浮遊培養した。なお、浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、55rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0186】
[比較例1]
<内胚葉系細胞から原始腸管細胞(PGT)への分化誘導方法の検討>
実施例1と同様の方法でで得られた内胚葉系細胞から原始腸管細胞(Primitive Gut Tube;PGT)へ分化誘導した。具体的には、0.25%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL recombinant human FGF7(Peprotech社)、0.3%(V/V)ITS-X(Wako社)、1%B27supplement(Gibco社)、0.2μM LDN193189(Cayman社)、10μM SB431542、0.25μM SANT1、0.67μM EC23を含むRPMI1640培地で3日間浮遊培養した。なお、浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、55rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0187】
[比較例2]
<内胚葉系細胞から原始腸管細胞(PGT)への分化誘導方法の検討>
実施例1と同様の方法でで得られた内胚葉系細胞から原始腸管細胞(Primitive Gut Tube;PGT)へ分化誘導した。具体的には、0.25%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL recombinant human FGF7(Peprotech社)、0.3%(V/V)ITS-X(Wako社)、1%B27supplement(Gibco社)、0.2μM LDN193189(Cayman社)、0.25μM SANT1、0.67μM EC23を含むRPMI1640培地で3日間浮遊培養した。なお、浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、55rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0188】
[比較例3]
<内胚葉系細胞から原始腸管細胞(PGT)への分化誘導方法の検討>
実施例1と同様の方法でで得られた内胚葉系細胞から原始腸管細胞(Primitive Gut Tube;PGT)へ分化誘導した。具体的には、0.25%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL recombinant human FGF7(Peprotech社)、0.3%(V/V)ITS-X(Wako社)、1%B27supplement(Gibco社)、0.2μM LDN193189(Cayman社)、10μM SB431542、0.67μM EC23を含むRPMI1640培地で3日間浮遊培養した。なお、浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、55rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0189】
[比較例4]
<内胚葉系細胞から原始腸管細胞(PGT)への分化誘導方法の検討>
実施例1と同様の方法でで得られた内胚葉系細胞から原始腸管細胞(Primitive Gut Tube;PGT)へ分化誘導した。具体的には、0.25%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL recombinant human FGF7(Peprotech社)、0.3%(V/V)ITS-X(Wako社)、1%B27supplement(Gibco社)、0.2μM LDN193189(Cayman社)、10μM SB431542、0.25μM SANT1を含むRPMI1640培地で3日間浮遊培養した。なお、浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、55rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0190】
[比較例5]
<内胚葉系細胞から原始腸管細胞(PGT)への分化誘導方法の検討>
実施例1と同様の方法でで得られた内胚葉系細胞から原始腸管細胞(Primitive Gut Tube;PGT)へ分化誘導した。具体的には、0.25%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL recombinant human FGF7(Peprotech社)、0.3%(V/V)ITS-X(Wako社)、1%B27supplement(Gibco社)、1μM Dorsomorphin、10μM SB431542、0.25μM SANT1を含むRPMI1640培地で3日間浮遊培養した。なお、浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、55rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0191】
<膵臓β細胞への分化誘導>
実施例1、参考例1、参考例2、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3、及び比較例4に記載の方法にて得られた原始腸管細胞から膵臓β細胞への分化誘導は、Yabe SG, Fukuda S, Takeda F, Nashiro K, Shimoda M, Okochi H. Efficient generation of functional pancreatic β-cells from human induced pluripotent stem cells. J Diabetes. 2017 Feb;9(2):168-179に記載の方法に基づいて実施した。
【0192】
具体的にはPosterior Fore Gut(PFG)分化はPS、NEAA、B27、EC23、SANT1を含むDMEM培地(Wako社)で4日間培養した。
Pancreatic Progenitor(PP)分化はPS、NEAA、50ng/mL recombinant human FGF10(Peprotech社)、B27、EC23、SANT1、Alk5 inhibitor II(Biovision社)、indolactam V(ILV;Cayman社)を含むDMEM培地で3日間浮遊培養した。
【0193】
Endocrine Progenitor分化はPS、B27、EC23、SANT1、Alk5 inhibitor II、50ng/mL Exendin4(Sigma社)を含むDMEM系培地(Gibco社)で3から7日間浮遊培養した。
【0194】
膵臓β細胞分化は、PS、B27、10ng/mL BMP4、50ng/mL recombinant human hepatocyte growth factor(HGF;Peprotech社)、50ng/mL insulin-like growth factor 1(IGF1;Peprotech社)、Alk5 inhibitor II、50ng/mL Exendin4、5mmol/L nicotinamide(Sigma社)、5μmol/L forskolin(Wako社)を含むDMEM系培地で6から10日間浮遊培養した。これにより得られた細胞をiPS-β細胞と称する。
なお、浮遊培養は30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)を6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着し、65rpmの速度で攪拌しながら37℃の5%CO2インキュベーター内で浮遊培養を行った。
【0195】
[分化効率の解析]
実施例1、参考例1、参考例2、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3、及び比較例4にて作製した原始腸管細胞集団の分化効率及びiPS-β細胞への分化効率を調べるために、以下に示す手順にて、定量的RT-PCRにて分析した。
<定量的RT-PCR>
分化誘導した原始腸管細胞及びiPS-β細胞のtotalRNAをISOGEN(Wako社)により単離・精製し、PrimeScriptII(Takara Bio社)を用いてcDNAの合成を行った。ここで合成したcDNAを鋳型とし、GoTaq qPCR master mix(Promega社)を使いMyiQ qPCR machine(Bio-Rad社)により定量PCRを実行した。検出はSYBR Greenによるインターカレーション法で、遺伝子発現量比較は比較Ct法による相対定量法で行った。各遺伝子の発現レベルはハウスキーピング遺伝子であるOAZ1又はβ-Actinにより標準化した。
【0196】
定量PCRに使用したプライマーの塩基配列は次のとおりである。
HNF-1β F:GAG ATC CTC CGA CAA TTC AAC C(配列番号1)
HNF-1β R:AAA CAG CAG CTG ATC CTG ACT G(配列番号2)
HNF-4α F:AAG AGA TCC ATG GTG TTC AAG GAC(配列番号3)
HNF-4α R:AGG TAG GCA TAC TCATTG TCA TCG(配列番号4)
OAZ1 F:GTC AGA GGG ATC ACA ATC TTT CAG(配列番号5)
OAZ1 R:GTC TTG TCG TTG GAC GTT AGT TC(配列番号6)
INS F:TTG TGA ACC AAC ACC TGT GC(配列番号7)
INS R:GTG TGT AGA AGA AGC CTC GTT CC(配列番号8)
NKX6.1 F:ATC TTC GCC CTG GAG AAG AC(配列番号9)
NKX6.1 R:CGT GCT TCT TCC TCC ACT TG(配列番号10)
KIT F:GCC ATC ATG GAG GAT GAC GA(配列番号11)
KIT R:TGC CAT CCA CTT CAC AGG TAG(配列番号12)
RAP1A F:GCC AAC AGT GTA TGC TCG AA(配列番号13)
RAP1A R:TCC GTG TCC TTA ACC CGT AA(配列番号14)
FGF11 F:GGC ATG ACT GAA CCT GCA TC(配列番号15)
FGF11 R:CGT ATG AGG TCT GGA GTG CAA(配列番号16)
FGFR4 F:TCC TTG ACC TCC AGC AAC GA(配列番号17)
FGFR4 R:GGC CTG TCC ATC CTT AAG CC(配列番号18)
MDM2 F:CCC GGA TTA GTG CGT ACG AG(配列番号19)
MDM2 R:GCA ATG GCT TTG GTC TAA CCA G(配列番号20)
CASP3 F:ACT GTG GCA TTG AGA CAG AC(配列番号21)
CASP3 R:TTT CGG TTA ACC CGG GTA AG(配列番号22)
CDK1 F:AGG TCA AGT GGT AGC CAT GA(配列番号23)
CDK1 R:TGT ACT GAC CAG GAG GGA TAG(配列番号24)
β-Actin F:CCT CAT GAA GAT CCT CAC CGA(配列番号25)
β-Actin R:TTG CCA ATG GTG ATG ACC TGG(配列番号26)
【0197】
<測定の結果>
遺伝子発現量を測定した結果を
図1及び
図2に示す。
図1及び
図2の結果は、下記表にまとめて示す。
【0198】
【0199】
【0200】
実施例1及び参考例1のそれぞれにおいて、原始腸管細胞への分化誘導が認められた。また、参考例1に記載の方法にて得られた原始腸管細胞に対して、実施例1に記載の方法にて得られた原始腸管細胞では、PGTマーカー(HNF-1β及びHNF-4α)遺伝子の発現量が向上しており(
図1)、実施例1における原始腸管細胞への分化誘導が参考例1と比較して高いことが明らかとなった。すなわち、内胚葉系細胞を骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養すると、原始腸管細胞への分化誘導効率が向上することが明らかとなった。
【0201】
参考例1及び参考例2に記載の方法にて得られた原始腸管細胞をさらにiPS-β細胞まで分化誘導した細胞に対して、実施例1に記載の方法にて得られた原始腸管細胞をさらにiPS-β細胞まで分化誘導した細胞では、INS遺伝子、NKX6.1遺伝子の発現が向上していた(
図2)。また、比較例1から比較例4に記載の方法にて得られた原始腸管細胞をさらにiPS-β細胞まで分化誘導した細胞に対して、実施例2に記載の方法にて得られた原始腸管細胞をさらにiPS-β細胞まで分化誘導した細胞では、INS遺伝子の発現が向上していた(
図4)。
これにより、実施例1又は実施例2における原始腸管細胞への分化誘導効率が参考例1及び参考例2と比較して高いことが明らかとなった。すなわち、内胚葉系細胞を骨形成タンパク質(BMP)シグナル阻害剤の非存在下において培養すると、原始腸管細胞への分化誘導効率が向上することが明らかとなった。また、比較例4に記載の方法にて得られた原始腸管細胞をさらにiPS-β細胞まで分化誘導した細胞ではINS遺伝子の発現が減少したことから、内胚葉系細胞をBMPシグナル阻害剤非存在下かつレチノイン酸アナログ等をさらに添加することでよりINS遺伝子の発現が向上すると考えられる(
図4)。
【0202】
[実施例3]
<糖尿病モデルマウスへの移植実験(糖尿病モデルnon-obese diabetic(NOD)-severe combined dimmunodeficiency(SCID)マウス実験)>
実施例1及び参考例2の方法で得られた原始腸管細胞からそれぞれ膵臓β細胞への分化誘導において得られたiPS-β細胞を、HBSSで一回リンスした後に、3.33μg/mLのiMatrix-511(Wako社)を含むHBSSに懸濁し、懸濁した細胞をハミルトンシリンジ(ハミルトン社)により糖尿病モデルNOD/SCIDマウス(日本クレア社)の左腎被膜下に移植した(6×106個の細胞を投与)。糖尿病モデルNOD/SCIDマウスは130mg/kgのstreptozotocin(STZ;Sigma社)を尾静脈より投与し血糖値が250mg/dL以上となった個体を使用した。移植(0日)はSTZ投与(-14日)から14日後に行った。随時血糖値は尾静脈より血液を採取しグルテストNeoアルファ(三和化学社)を用いて測定した。
【0203】
糖尿病モデルマウスの随時血糖を測定した結果を
図3に示す。
実施例1の方法で調製した原始腸管細胞から分化誘導して得られたiPS-β細胞を移植したマウス個体(
図3実施例1)では、移植後40日程度で血糖値が正常値(200mg/dL以下)まで低下しており、iPS-β細胞が血糖値を制御していることがわかる。一方、参考例2の方法で調製した原始腸管細胞から分化誘導して得られたiPS-β細胞を移植したマウス個体(
図3参考例2)では、移植後71日が経過しても血糖値が正常値(200mg/dL以下)まで低下することはなかった。これらの結果より、本発明の方法により得られた原始腸管細胞から分化誘導して得られた体細胞(膵臓β細胞)は、糖尿病の治療応用などにおいて、効果的であることが期待できる。また、本発明の方法により製造された原始腸管細胞は細胞治療剤として最適な膵臓β細胞へと分化可能であるといえる。
【0204】
[実施例4]原始腸管細胞集団の網羅的遺伝子発現解析
原始腸管細胞集団の網羅的遺伝子発現解析を下記の方法にて実施した。
<RNA抽出>
実施例1に記載の方法で培養して分化誘導した内胚葉系細胞、実施例1、参考例2及び比較例5に記載の方法で培養して分化誘導した原始腸管細胞からtotalRNAをISOGEN(Wako社)により単離・精製した。
【0205】
<DNAマイクロアレイ解析>
抽出したtotalRNAを用いて、DNAマイクロアレイ解析を行った。
(1)cRNA合成
3’IVT PLUS ReagentKitを用いてcRNA合成を行った。方法はAffymetrix(登録商標)推奨プロトコールに準ずる。totalRNA(100ng)から逆転写反応によりcDNAを作製した。作製したcDNAからin vitro transcriptionにより、cRNAに転写してビオチン標識を行った。
【0206】
(2)ハイブリダイゼーション
標識cRNA(12.5μg)をハイブリダイゼーションバッファーに加え、Human Genome U133 Plus 2.0 Array上で16時間のハイブリダイゼーションを行った。GeneChip(登録商標)Fluidics Station450にて洗浄・フィコエリスリン染色後、GeneChip(登録商標)Scanner 3000 7Gでスキャンを行い、AGCC(Affymetrix(登録商標)GeneChip(登録商標)Command Console(登録商標)Software)にて画像解析、Affymetrix(登録商標)Expression ConsoleTMを用いて数値化を行った。
【0207】
なお、上記(1)、(2)の各工程については、株式会社理研ジェネシスが提供する、Affymetrix社製DNAマイクロアレイ「GeneChip(登録商標):Human Genome U133 Plus 2.0 Array」を使用した受託解析サービスを利用した(https://rikengenesis.jp/contents/ja_JPY/microarray_affymetrix.html)。本受託解析サービスは、サンプル(トータルRNA等)を提供するだけで、GeneChip(登録商標)を使用した網羅的遺伝子発現解析を行ってくれるものである。
【0208】
<DNAマイクロアレイデータを用いたエンリッチメント解析>
データの統計解析はR version3.4.2及びBioconductor version3.6(The R Foundation for Statistical Computing,2017)を用いて実施した。また、エンリッチメント解析はThe Database for Annotation,Visualization and Integrated Discovery(DAVID)6.8(National Institute of Allergy and Infectious Diseases(NIAID),NIH)を利用した (https://david.ncifcrf.gov/home.jsp) 。
【0209】
上記DNAマイクロアレイ解析によって得られたAffymetrix arrayデータ(CELファイル)並びに参考例2に記載の方法で培養して分化誘導した原始腸管細胞集団由来のAffymetrix arrayデータ(CELファイル)を ReadAffy()関数でRに読み込んだ。その後、rma() 関数を用いてマイクロアレイデータの正規化を行った。この rma() 関数はRobust Multi-array Average(RMA)法を実施する関数である (Irizarry R, Hobbs B, Collin F, Beazer-Barclay Y, Antonellis K, Scherf U, Speed T. Exploration, normalization, and summaries of high density oligonucleotide array probe level data. Biostatistics. 2003;4:249.) 。RMA法は現在、最も一般的に用いられている正規化方法のひとつであり、Background correcting、Normalizing、Calculating Expression を一括して行う。なお、RMA法は perfect match (PM) 値に対して底が2の対数変換を施して正規化処理を実施するため、正規化後の結果も底が2の対数変換値で出力される。
【0210】
次に、正規化後のシグナルについて、実施例1に記載の方法で培養して分化誘導した原始腸管細胞集団由来のシグナル値と参考例2に記載の方法で培養して分化誘導した原始腸管細胞集団由来のシグナル値の差分を計算した。
【0211】
RMA法による正規化後のシグナルは底が2の対数変換が成されている。ゆえに、シグナルの差分は fold changeに対する底が2の対数変換値である(log2(x)-log2(y)=log2(x/y))。よって、差分に対して逆変換を行うことで、fold changeを計算した。その後、fold changeが2以上の転写産物と、0.5以下の転写産物を抽出して、それぞれ発現変動遺伝子とした。今回の実験では各条件のサンプルの反復はないこと、及びサンプル数が1であることから、t検定やそれに関連する、仮説検定手法に基づく発現変動遺伝子の選択ができない。そのため、一般的に使用されている基準として、fold changeが2以上及び0.5以下という基準を採用した。Fold changeが2以上あるいは0.5以下の転写産物をエンリッチメント解析の対象とした。
【0212】
エンリッチメント解析とは、発現変動遺伝子のうち、機能の多いものを解析する手法であり、アノテーション解析のひとつである。例えば、発現変動遺伝子は確率論的に転写因子が相対的に多いのか、細胞周期が多いのか、等を解析することが可能である。上記の解析で選択された転写産物リストを、発現量などの情報は除いてDAVIDに読み込ませ、エンリッチメント解析を実施した。DAVIDでは様々なエンリッチメント解析が可能であるが、多数の解析を実施することによる多重性のリスクを低減するために、今回はKEGG pathway解析に限定して解析を実施した。
【0213】
KEGG pathway解析は、DAVIDがKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)データベース (www.genome.jp/kegg/) にアクセスし、転写産物リストと相関が高い pathway を統計的に抽出することで実施される。Pathway 毎に相関性に対するp値が表示されるが、一度に多数のpathwayに対して仮説検定を実施するため、DAVIDでは様々な多重性調整p値を算出することが可能である。今回の解析では、その中でも、マイクロアレイ解析で最も一般的に用いられているBenjamini-Hochberg法を用いることとした (Benjamini, Y; Hochberg, Y (1995). "Controlling the false discovery rate: a practical and powerful approach to multiple testing". Journal of the Royal Statistical Society, Series B. 57 (1): 289-300.) 。Benjamini-Hochberg法で算出された調整p値を用いて、シグナルセットと相関の高いpathwayを選択した。Bonferroni法でさらに多重性を調整して、調整p値が0.05/20>0.0033=3.3-E3未満であるときに、当該pathwayを統計的に有意なpathwayであると判断することとした。
【0214】
エンリッチメント解析の結果、参考例2に記載の方法で培養して分化誘導した原始腸管細胞集団に比べて、実施例1に記載の方法で培養して分化誘導した原始腸管細胞集団では、パスウェイ名「Biosynthesis of amino acids」(http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?map=hsa04015&show_description=show)、パスウェイ名「Rap1 signaling pathway」(http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?map=hsa04015&show_description=show)及びパスウェイ名「Pathways in cancer」(http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?map=hsa05200&show_description=show)に関する遺伝子発現が向上し、パスウェイ名「p53 signaling pathway」(http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?map=hsa04115&show_description=show)に関する遺伝子発現が減少していた。発現が変動していた遺伝子については、表3から6に示す。上記に含まれる遺伝子について定量的RT-PCRによる発現解析を上記の方法で行ったところ、例えば、KIT遺伝子、RAP1A遺伝子、FGF11遺伝子、及びFGFR4遺伝子については、参考例2又は比較例5と比較して実施例1で発現が向上しており、またMDM2遺伝子、CASP3遺伝子、及びCDK1遺伝子については、参考例2又は比較例5と比較して実施例1で発現が減少していた(
図5)。
図5で示したグラフの数値は表7に示した。したがって、エンリッチメント解析の結果から得られたこれらの遺伝子の発現量が変動することにより、原始腸管細胞及びiPS-β細胞への分化効率が向上したと考えらえる。なお、
図5及び表7におけるハウスキーピング遺伝子は、β-Actinである。
【0215】
<DNAマイクロアレイデータを用いた分化マーカー遺伝子の抽出>
上記DNAマイクロアレイ解析によって得られたAffymetrix arrayデータ(CELファイル)をAffymetrix(登録商標)Expression Console
TMソフトウェアを用いて変換して得られたデータ(CHPファイル)をTranscriptome Analysis Console
TMソフトウェアにて読み込み、シグナル値を得た(底が2の対数変換値)。このシグナル値を整数に変換した。比較例5に記載の方法で培養した原始腸管細胞集団から得られた各遺伝子(各プローブ)のシグナル値と比べて、実施例1に記載の方法で培養した原始腸管細胞集団から得られた各遺伝子(各プローブ)のシグナル値が10倍以上又は10分の1以下となった遺伝子を抽出し、
図6及び
図8に示した。
図6で示したグラフの数値を表8に、
図8で示したグラフの数値を表9に示した。これらの遺伝子は分化誘導培養における好適な遺伝子マーカーとなりうると考えられる。
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
【0223】
<定量的RT-PCR>
実施例1、参考例2及び比較例5に記載の方法で培養して分化誘導した原始腸管細胞について、上記した<定量的RT-PCR>と同様の方法により、IGFBP3遺伝子、PTGDR遺伝子、LOX遺伝子、PAPPA遺伝子、RAB31遺伝子の発現量を測定した。各遺伝子の情報及びプライマー配列を表10(配列は配列表の配列番号27~36に記載した)に示す。測定結果を
図7に示す。
実施例1、参考例2及び比較例5に記載の方法で培養して分化誘導した原始腸管細胞について、上記した<定量的RT-PCR>と同様の方法により、ABGPT2遺伝子、CD47遺伝子、CDC42EP3遺伝子、CLIDN18遺伝子、CLIC5遺伝子、PHLDA1遺伝子、SKAP2遺伝子の発現量を測定した。各遺伝子の情報及びプライマー配列を表11(配列は配列表の配列番号37~50に記載した)に示す。測定結果を
図9に示す。
図7及び
図9で示したグラフの数値を表12に示した。実施例5に記載の方法で培養して分化誘導した原始腸管細胞における遺伝子発現と比較して、実施例1に記載の方法で培養して分化誘導した原始腸管細胞における遺伝子発現はDNAマイクロアレイデータの結果と同様の傾向を示すことを確認できた。
【0224】
【0225】
【0226】
【配列表】