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特許7321503イヌリンを含む筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】イヌリンを含む筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/125 20160101AFI20230731BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230731BHJP
   A61K 31/733 20060101ALI20230731BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230731BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20230731BHJP
   A23F 3/16 20060101ALN20230731BHJP
   A23C 9/152 20060101ALN20230731BHJP
   A21D 13/80 20170101ALN20230731BHJP
   A21D 2/18 20060101ALN20230731BHJP
   A61P 19/10 20060101ALN20230731BHJP
   A61P 19/02 20060101ALN20230731BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20230731BHJP
【FI】
A23L33/125
A23L2/00 F
A23L2/52
A61K31/733
A61P21/00
A61P19/08
A23F3/16
A23C9/152
A21D13/80
A21D2/18
A61P19/10
A61P19/02
A23L2/00 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019095341
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020189799
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-02-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】502281585
【氏名又は名称】フジ日本精糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 重信
(72)【発明者】
【氏名】樋口 満
(72)【発明者】
【氏名】原 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 静香
(72)【発明者】
【氏名】小枝 貴弘
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-522822(JP,A)
【文献】特表2013-510865(JP,A)
【文献】特表2008-508286(JP,A)
【文献】国際公開第2012/066485(WO,A1)
【文献】特開2011-093862(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0128372(US,A1)
【文献】特開2008-173115(JP,A)
【文献】特開2016-166176(JP,A)
【文献】BUIGUES Cristina et al.,Effect of a Prebiotic Formulation on Frailty Syndrome: A Randomized, Double-Blind ClinicalTrial,Int J Mol Sci.,2016年06月14日,vol.17, iss. 6, article 932,p. 1-12
【文献】BUENO-VARGAS, Pilar et al.,Maternal Dietary Supplementation with Oligofructose-Enriched Inulin in Gestating/Lactating RatsPreserves Maternal Bone and Improves Bone Microarchitecture in Their Offspring,PLOS ONE,2016年04月26日,vol. 11, no. 4,e0154120
【文献】伴野安彦、和田正,低カルシウム飼料飼育ラットの骨密度減少に対する酵素法で作られたイヌリンの効果,薬理と治療,2007年,vol. 35, no. 6,p. 601-605
【文献】KIM, Yun-Young et al.,The Effect of Chicory Fructan Fiber on Calcium Absorption and Bone Metabolism in Korean Postmenopausal Women,Nutritional Sciences,2004年,vol. 7, no. 3,p. 151-157
【文献】BUIGUES Cristina et al.,Effect of aPrebiotic Formulation on Frailty Syndrome: A Randomized, Double-Blind ClinicalTrial,Int J Mol Sci.,2016年06月14日,vol.17, iss. 6, article 932,p. 1-12
【文献】BUENO-VARGAS, Pilar et al.,Maternal DietarySupplementation with Oligofructose-Enriched Inulin in Gestating/Lactating RatsPreserves Maternal Bone and Improves Bone Microarchitecture in Their Offspring,PLOS ONE,2016年04月26日,vol. 11, no. 4,e0154120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/40-5/49;31/00-31/29
A23L 2/00-2/84
A23F 3/00-5/50
A21D 2/00-17/00
A01J 1/00-99/00;A23C1/00-23/00
A61K 31/33-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌリンを有効成分として含む、筋肉量減少抑制剤であって、イヌリンが以下の特徴を有する前記筋肉量減少抑制剤
イヌリン;
(1)平均重合度4以下のフラクトオリゴ糖のイヌリン全体における割合が5%以下である
(2)平均重合度が5以上30以下である
(3)スクロースのフルクトース側に2分子以上のD-フルクトースがβ-(2→1)結合で脱水重合した構造を有する
【請求項2】
さらに骨密度減少抑制作用を有する、請求項1に記載の筋肉量減少抑制剤。
【請求項3】
イヌリンの用量が、一日当たり3.6g以上8g以下である、請求項1又は2に記載の筋肉量減少抑制剤
【請求項4】
一週間に3回以上、METs4.8以上の強度のレジスタンス運動及びMETs4.8以上の強度の有酸素運動をそれぞれ10分以上行う運動期間中の対象者に投与又は摂取させるための、請求項1~3のいずれかに記載の筋肉量減少抑制剤
【請求項5】
対象者が65歳以上の高齢者である請求項1~のいずれかに記載の筋肉量減少抑制剤
【請求項6】
鎖長4以下のフラクトオリゴ糖成分の用量が一日当たり3.6g以下であることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の筋肉量減少抑制剤
【請求項7】
ロコモティブシンドローム予防用である、請求項1~のいずれかに記載の筋肉量減少抑制剤
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の筋肉量減少抑制剤を含有する、筋肉量減少抑制用組成物。
【請求項9】
筋肉量減少抑制用食品組成物、あるいは筋肉量減少抑制用飲料組成物である、請求項に記載の筋肉量減少抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌリンを含む筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤に関する。本発明はまた、前記筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤を含む筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
約800万人と言われる団塊の世代(1947~1949年生まれ)が後期高齢者となる2025年問題を控え、健康寿命を伸ばすことが注目されている。健康寿命を長く保つために、動脈硬化、認知症などの疾病対策と合わせて、ロコモティブシンドローム(以下、ロコモと称することがある)という概念が広く認知されている。この概念を提唱した日本整形外科学会によるとロコモとは運動器症候群の通称で、骨や関節、筋肉など運動器の衰えが原因で、「立つ」「歩く」といった機能(移動機能)が低下している状態とされている。運動器の健康維持に重要な骨量や筋肉量は、年を重ねるにつれて減少または低下することが知られている。
【0003】
ロコモをきたす障害として、骨においては骨粗しょう症や骨折、関節では変形性関節症、神経や筋ではサルコペニアなどが挙げられる。骨粗鬆症は骨折や変形性関節症を生じやすく、ロコモにおいては大変重要な疾患である。その定義は、NIHコンセンサス会議2000によると「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」であり、腰椎、大腿骨、橈骨または中手骨などの骨密度の低下が一つの基準となっている。サルコペニアは加齢による筋肉の減少のことを示し、高齢者の健康寿命を考える上で非常に重要な疾患とされている。その診断には歩行速度と骨格筋量の低下、握力の低下が基準となっている。
【0004】
近年、特定保健用食品や機能性表示食品などの制度の制定により、保健機能食品及びそれらの機能を有する食品素材に大きな関心が寄せられている。高齢者の間でも、頻繁にサプリメント、いわゆる健康食品が利用されている。
【0005】
このようなサプリメント又は健康食品素材の一つとして食物繊維がある。厚生労働省が食物繊維を、成人男性で1日当たり20g、成人女子で1日当たり18g摂取することを推奨していることもあり、食物繊維を添加して保健機能を付加した食品も数多く上市されている。食物繊維の生理機能として整腸作用が挙げられる。平成28年度の厚生労働省国民生活基礎調査では、人口1000人に対する便秘症あるいは便秘傾向の有訴者は、男性24.5人、女性45.7人であり、便秘症はありふれた症状である。年齢別の割合において、中年層までは女性の割合が高い。しかし、年齢が高くなるにつれて男性の割合も増え、80代では男女差がなくなっている。高齢者の便秘は、加齢に伴う食事量やADL(日常生活動作)の低下、生理的機能の低下などの原因で起こるとされ、シニアの健康維持に不足している栄養素の一つとして食物繊維が挙げられる。食物繊維は、大きく不溶性食物繊維と水溶性食物繊維に分けられる。
【0006】
食物繊維を高齢者向けのサプリメント、健康食品素材として利用するニーズは高い。しかしながら、骨量に関して一部の食物繊維の過剰摂取が腸からのカルシウムの吸収を阻害するとされていること、及び筋肉量に対する食物繊維の効果は必ずしも明確ではないことなどの理由からロコモティブシンドロームの予防という観点における食物繊維の評価は低いものであった。
【0007】
サルコペニアと食物繊維の関連は明らかではない。非特許文献1において、フラクトオリゴ糖とイヌリンをおおよそ1対1の割合で混合したものをフレイルと評価された高齢者に一日あたり6.9g摂取させたところ、抗疲労の指標及び利き手握力が有意に増加したとの記載があるが、利き手ではない手の握力について差はない。この原因として、非特許文献2にあるように、疲労感が各種生理現象及び筋力に影響することが知られており、疲労感が軽減した結果、利き手握力が増加したものと考えられる。
【0008】
食物繊維がミネラルの吸収を促進するという事実は1980年代後半にすでに見出されている。特許文献1には、食物繊維、カルシウム及びマルチトールを含有する飲食物が開示されているが、一部の食物繊維が示すとされているミネラルの吸収阻害作用を抑えるべくカルシウムを添加したものである。しかしながら、動物実験によりカルシウムの吸収促進作用が認められている難消化性デキストリンを用いた非特許文献3では、平均年齢60歳以上の高齢糖尿病予備軍を対象に13.5g/日もの食物繊維を摂取させたが、踵骨の音響的骨評価値(OSI)において有意な差が認められなかった。食物繊維のミネラル吸収促進作用のメカニズムは十分に解明されておらず、さらには食物繊維による骨への影響も十分に明らかではない。
【0009】
カルシウム吸収促進が認められている食物繊維にイヌリンがある。非特許文献4において同様にオリゴフラクトース(平均重合度4)と鎖長の長いイヌリン(平均重合度25)を1対1の割合で8g/日及び800mg/日以下のカルシウムを摂取させることで未成年者(平均11.8±0.2歳)のカルシウム吸収促進及び骨密度の増加が確認されている。厚生労働省がまとめた年齢別Caの推奨量において骨量がもっとも蓄積される時期は男子13~16歳、女子11~14歳とされており、高齢者との差は大きい。事実、非特許文献5では高齢女性にチコリイヌリン(鎖長範囲2-60,平均鎖長10)を8g/日摂取させた試験では(被検者の一日あたりのカルシウム摂取量は約500mg/日程度と評価)、ミネラル吸収には有意な効果が確認されたが、骨密度と骨代謝マーカーについては有意な差は確認できなかった。
【0010】
同様に、非特許文献6では、オリゴフラクトース(鎖長範囲3-8、平均鎖長4)と鎖長の長いイヌリン(鎖長範囲10-65、平均鎖長25)とを1対1の割合の混合物10g/日を高齢女性に摂取させたところ、カルシウム及びマグネシウムの吸収促進に有意な差が認められた。しかしながら、骨代謝マーカーにおいては、摂取前の期間との差はあるが、プラゼボとの有意な差が認められておらず、またカルシウム、マグネシウムの吸収が促進されていた対象者のTスコアは減少しており、その効果は明確ではない。Tスコアは骨粗しょう症診断基準の一つである。
【0011】
非特許文献7では3.6g/日のフラクトオリゴ糖(鎖長範囲2~4)及び800mg/日のカルシウムを高齢女性に摂取させたところ、骨密度が有意に増加したことを確認している。非特許文献7の結果は、鎖長の長いイヌリンよりもイヌリンの低鎖長部分であるフラクトオリゴ糖が、骨密度に対してより顕著な効果を示すことを意味していると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開H5-67号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】International Journal of Molecular Sciences. 2016 Jun; 17(6): 932-. Buigues C et. al. Effect of a Prebiotic Formulation on Frailty Syndrome: A Randomized, Double-Blind Clinical Trial.
【文献】体力科学2000 49,495-502. 長澤吉則ら 握力持続発揮時の力量と主観的筋疲労感覚の関係
【文献】徳島文理大学研究紀要 第87号 平成26年3月 宮崎千佳ら 糖尿病および骨粗鬆症関連指標に及ぼす難消化性デキストリン負荷の影響について
【文献】Am J Clin Nutr. 2005 Aug; 82(2): 471-6. Abrams SA et al. A combination of prebiotic short- and long-chain inulin-type fructans enhances calcium absorption and bone mineralization in young adolescents.
【文献】Nutritional Sciences, 7(3), 2004,151-157. Y.Y. Kim et al. The effect of chicory fructan fiber on calcium absorption and bone metabolism in Korean postmenopausal women.
【文献】British Journal of Nutrition. (2007), 97, 365-372. Leah H et al. Effects of oligofructose-enriched inulin on intestinal absorption of calcium and magnesium and bone turnover markers in postmenopausal women.
【文献】The Journal of Nutrition. 2014, 144(3), 297-303. Mary M. Slevin et al. Supplementation with Calcium and Short-Chain Fructo-Oligosaccharides Affects Markers of Bone Turnover but Not Bone Mineral Density in Postmenopausal Women.
【文献】Heymsfield SB, Smith R, Aulet M, Bensen B, Lichtman S, Wang J and Pierson R.J Jr (1990)Appendicular skeletal muscle mass: measurement by dual-photon absorptiometry. Am J Clin Nutr 52: 214-218.
【文献】Wang ZM, Visser M, Ma R, Baumgartner RN, Kotler D, Gallagher D, Heymsfield S.B (1996)Skeletal muscle mass: evaluation of neutron activation and dual-energy X-ray absorptiometry methods. J Appl Physiol 80: 824-831.
【文献】Zhao Chen, ZiMian Wang, Timothy Lohman, Steven B. Heymsfield, Eric Outwater, Jennifer S. Nicholas, Tamsen Bassford, Andrea LaCroix, Duane Sherrill, Mark Punyanitya,Guanglin Wu, and Scott Going (2007) Dual-Energy X-Ray Absorptiometry Is a Valid Tool for Assessing Skeletal Muscle Mass in Older Women J. Nutr. 137: 2775-2780
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
食物繊維は、緩下する可能性が低く且つ整腸作用を有し、さらに一般の食品に利用できる。食物繊維がロコモ予防の機能を有するのであれば、高齢者のQOLの向上に寄与できることは明白である。発明者らは鋭意研究の結果、イヌリンの摂取により除脂肪量及び除脂肪軟組織量の減少が抑えられること、並びにイヌリンの摂取により骨密度の減少が抑えられることを発見し本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は具体的には、以下の通りである。
<1>イヌリンを有効成分として含む、筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤。
<2>イヌリンの用量が、一日当たり3.6g以上8g以下である、<1>に記載の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤。
<3>運動期間中に投与又は摂取するための、<1>又は<2>に記載の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤。
<4>65歳以上の高齢者に投与又は摂取するための、<1>~<3>のいずれかに記載の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤。
<5>鎖長4以下のフラクトオリゴ糖成分の用量が一日当たり3.6g以下であることを特徴とする、<1>~<4>のいずれかに記載の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤。
<6>ロコモティブシンドローム予防用である、<1>~<5>のいずれかに記載の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤。
<7><1>~<6>のいずれかに記載の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤を含有する、筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制用組成物。
<8>筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制用食品組成物、あるいは筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制用飲料組成物である、<7>に記載の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制用組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明におけるロコモ予防機能をもつ食品は、イヌリンを有効成分とすることで飲食品など全般に幅広く応用できる汎用性の高いものである。また、イヌリンの持つ整腸作用によりロコモ予防以外の健康の維持、疾病の予防なども期待できる。本発明に使用可能なイヌリンは、小麦やキク科植物などに含まれ、古くから喫食経験がある物質である。また人体への安全性が高く、副作用の心配をする必要がなく長期にわたり継続的に服用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】イヌリン摂取、ボート漕ぎ運動、又はイヌリン摂取及びボート漕ぎ運動による身体組成の変化を表すグラフである。
図2】イヌリン摂取、ボート漕ぎ運動、又はイヌリン摂取及びボート漕ぎ運動による骨密度の変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(イヌリン)
本明細書において、イヌリンとはGFn(G:グルコース、F:フラクトース、n:フラクトースの数(n≧2))で表されるフラクタンの重合体であり、スクロースのフルクトース側に2分子以上のD-フルクトースがβ-(2→1)結合で脱水重合した構造を有するものを意味する。イヌリンは通常重合度の異なる集合体として販売されている。例えば、植物由来のイヌリンは、植物の種類によって多少の差異があるものの、その重合度の分布としては約8~60の範囲にあり、平均重合度は約30前後であることが知られている。本発明において使用されるイヌリンは、好ましくは平均重合度が5以上30以下である。本発明において使用されるイヌリンは、低重合体(平均重合度4以下のイヌリン)の含量が少ないこと、具体的には使用されるイヌリン全体における割合が5%以下であることが望ましい。本発明において使用されるイヌリンは、溶解度及び風味の観点から、砂糖に酵素を作用させて精製したものを使用することが好ましい。また、イヌリンの低重合体(平均重合度4以下)であるフルクトオリゴ糖のイヌリン全体における割合は、風味の維持及び吸湿性を低く維持する観点から、50%以下、好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、最も好ましくは10%以下である。
【0019】
本発明に使用されるイヌリンは植物から抽出されたもの、化学的に合成されたもの、酵素により産生されたものなどに特に制限されるものではなく、どのような由来であっても整腸機能の改善作用を発揮することができる。イヌリンの重合度に着目した場合、重合度の大きさにより性質は異なり、低重合体(特に重合度4以下)は甘味を呈し、高重合体(特に30以上)は水に溶けにくい特徴を持っている。そのためその重合度の分布が加工特性や味質・食感に影響を与える。従って好ましくは平均重合度が5以上30以下であり、低重合体の含量が少ないこと、具体的には、使用されるイヌリン基準で5%以下であることが望ましい。
【0020】
本発明に用いるイヌリンは既知の方法で分析できる。例えば、フラクタンとして測定する方法としてAOAC999.03法は酵素で処理を行い分光光度を測定することで食品中のフラクタンを測定する方法である。また、AOAC997.08法は酵素で処理し陽イオン交換クロマトグラフィーにより分析することで食品中のフラクタンを測定する方法である。水溶性食物繊維として測定する場合には、その他に酵素HPLC法を用いることもできる。
またイヌリンの重合度を測定する方法も既知の方法で分析することができる。例えばAOAC997.03法においては酵素での処理前後においてグルコースとフラクトースの量比を測定することで平均重合度を得ることができる。GPC法(ゲル浸透クロマトグラフィー)は、SECやGFPとも呼ばれ、ポリマーの分子量を測定する方法として広く用いられている。この方法でもイヌリンの分子量、すなわち重合度を測定することもできる。また、光散乱を用いる方法、核磁気共鳴法(NMR)、粘度や蒸気圧や氷点降下などの物理的現象を用いる方法などの様々な方法でその重合度を測定することができる。
【0021】
本発明の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤は、本発明の効果を損なわない範囲内で、イヌリン以外の食物繊維、例えば、難消化性デキストリン等を含むことができるが、含まなくともよい。
【0022】
(一日当たりの用量)
本発明において、一日当たりのイヌリンの投与又は摂取量は、好ましくは3.6g以上8g以下である。下限は、4.0g/日以上が好ましく、4.5g/日以上がより好ましい。
上限は、7.5g/日以下が好ましく、7.0g/日以下がより好ましく、6.5g/日以下がさらに好ましく、6.0g/日以下がさらに好ましく、5.5g/日以下が最も好ましい。
具体的な範囲としては、1日あたり、好ましくは4.0g/日以上7.5g/日以下、より好ましくは4.5g/日以上7.0g/日以下、さらに好ましくは4.5g/日以上6.5g/日以下、さらに好ましくは4.5g/日以上6.0g/日以下、最も好ましくは4.5g/日以上5.5g/日以下である。一日当たりのイヌリンの投与又は摂取量が少ない方が、腹部の張りを訴える対象を減少させ、そしてイヌリン含有食品及び飲料の範囲を拡大できることができ、好ましい。
上記用量は一日当たりの用量であり、何回かに分けて、例えば朝昼夜に分けて摂取してもよいが、一回で摂取又は投与することが好ましい。投与または摂取期間は、特に限定されるものではないが、好ましくは1か月以上、さらに好ましくは2か月以上、最も好ましくは3か月以上である。
【0023】
イヌリンの低重合体(平均重合度4以下)であるフルクトオリゴ糖をイヌリンと共に摂取することもできるが、摂取しないこともできる。フルクトオリゴ糖の一日当たりの用量は、例えば、6.0g/日以下、5.5g/日以下、5.0g/日以下、4.5g/日以下、4.0g/日以下、3.6g/日以下、又は3.0g/日以下である。フルクトオリゴ糖は甘みを有することから、多量のフルクトオリゴ糖をイヌリンと共に食品等に投与すると食品等の風味に影響を与える可能性があり、好ましくない。
【0024】
(対象)
本発明の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤は、ヒトに対して投与又は摂取させるためのものであり、好ましくは、65歳以上の高齢者、より好ましくは65歳以上の女性に投与又は摂取させるためのものである。本発明の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤は、好ましくは、毎週少なくとも3回の運動を行う対象に対して投与又は摂取させるためのものである。
【0025】
本明細書において「運動期間中」とは、イヌリンを摂取している又は投与される対象が毎週少なくとも3回の運動を行っていることを意味する。毎週少なくとも3回の運動を継続的に3か月以上行っているものに対してイヌリンを摂取させる又は投与することが好ましい。本発明における「運動」とは有酸素運動とレジスタンス運動であればよく、有酸素運動として、ウォーキング、ジョギング、ランニング、サイクリング、水泳、エアロビクスダンス、エクササイズ、各種球技などが挙げられる。レジスタンス運動とは標的とする筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動であり、レジスタンス運動としてスクワットや腕立て伏せ、ダンベル体操などの自宅で実施できるものやトレーニングジムなどで機器を使用して行うものなど特に制限はない。
【0026】
中でも有酸素運動とレジスタンス運動の両方の特性をもつローイング(ボート漕ぎ運動)はもっとも効果的な運動の一つであり、トレーニングチューブなどを使うことで専用器具がなくても、自宅で安全に行うことができる。国立健康栄養研究所のMETs表より推定すると、ローイング運動とはMETs4.8程度の労力の運動である。実施例において、対象の運動頻度は週三回であり、運動時間はそれぞれ8~10分程度であった。これは、METs2.5の軽度の筋トレなどのレジスタンス運動を約19分とMETs3.8の軽度のウォーキングなどの有酸素運動を約13分程度と同等と考えられる。本発明において、運動は、一週間当たり、METs4.8相当の有酸素運動を10分以上かつMETs4.8相当のレジスタンス運動を10分以上であることが好ましい。また、本発明において、運動は、一週間当たり、METs2.5相当の有酸素運動を19分以上かつMETs3.8相当のレジスタンス運動を13分以上であることが好ましい。なお、「MET」とはMetabolic Equivalentの略称であり、運動強度を示す単位である。
本発明の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤は、好ましくは、一週間に3回以上運動をする対象に摂取又は投与させるためのものである。本発明の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤は、より好ましくは、一週間に3回以上、METs4.8以上の強度のレジスタンス運動及びMETs4.8以上の強度の有酸素運動をそれぞれ10分以上行う対象に摂取又は投与させるためのものである。ローイングを10分以上行うことは、レジスタンス運動及び有酸素運動の両方を10分以上行うことに該当するので、投与対象は運動としてローイングを行うことが好ましい。
【0027】
(筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤)
本明細書において、「筋肉量減少抑制」とは、筋肉を構成する筋線維の減少及び/又は筋の横断面積やその積算値により評価された筋肉量の減少を防止することを意味する。本明細書において、「筋肉量減少」とは、筋ジストロフィー、疾患性サルコペニア等の疾患による筋肉量減少と、加齢性サルコペニア、フレイル等による加齢による筋肉量減少、及び運動不足等による生活習慣を原因とする筋肉量減少の全てを含む。本発明の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤は、筋ジストロフィー、疾患性サルコペニア、加齢性サルコペニア、及びフレイルの予防用に使用することができる。なお、筋肉量とは、好ましくは全身における筋肉量を意味するが、脚部など特定箇所の筋肉量を意味することを除外するものではない。「サルコペニア」とは、筋肉量が減少して筋力低下や、身体機能低下をきたした状態であり、高齢者が罹患することが多い。
本明細書において、「骨密度減少抑制」とは、加齢、栄養状態、ホルモンバランス等により、骨の密度が減少することを防止することである。本明細書において、「骨密度減少」とは、閉経、ホルモンバランスの変化等による加齢による骨密度減少、及び極端なダイエット、運動不足、喫煙等による生活習慣を原因とする骨密度減少の全てを含む。本発明の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤により、加齢、閉経、極端なダイエット、運動不足、喫煙など様々な要因による骨粗鬆症等の骨密度の低下に起因する疾患を予防することができる。
本発明の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤は、好ましくは、筋肉量減少抑制及び骨密度減少抑制の両方の作用を有する。
【0028】
(ロコモティブシンドローム)
本発明の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤は、ロコモティブシンドロームの予防に使用することができる。ロコモティブシンドロームとは、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」を意味し、「運動器」とは、身体を動かすために関わる組織や器管のことで、骨、筋肉、関節、靭帯、腱、神経などである。本発明の筋肉量減少抑制又は骨密度減少抑制剤は、ロコモティブシンドロームを有する65歳以上の高齢者に投与又は摂取させることができる。
【0029】
本発明における筋肉量減少抑制作用又は骨密度減少抑制作用をもつ食品組成物又は飲料組成物としては、例えば、炭酸飲料、各種果汁、果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果肉飲料や果粒入り果実飲料、各種野菜を含む野菜系飲料、豆乳・豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料などの一般飲料や前述のような飲料を含んだアルコール飲料;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席味噌汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズドライ食品などの即席食品類;タバコなどの嗜好飲料・嗜好品類;パン、マカロニ・スパゲッティ、麺類、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉、ギョーザの皮などの小麦粉製品;キャラメル・キャンディー、チューイングガム、チョコレート、クッキー・ビスケット、ケーキ・パイ、スナック・クラッカー、和菓子・米菓子・豆菓子、デザート菓子などの菓子類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類、甘味料などの基礎調味料;風味調味料、調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類などの複合調味料・食品類;バター、マーガリン類、マヨネーズ類、植物油などの油脂類;牛乳・加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリームなどの乳・乳製品;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済み冷凍食品などの冷凍食品、水産缶詰め、果実缶詰め・ペースト類、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、水産乾物類、佃煮類などの水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物・煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)などの農産加工品;ベビーフード、ふりかけ・お茶漬けのりなどの市販食品;液剤;錠剤;カプセル剤;顆粒剤;散剤;細粒剤などが挙げられる。
【0030】
本発明の食品組成物又は飲料組成物は、所望により、酸化防止剤、香料、酸味料、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、香辛料、pH調整剤、安定剤、植物油、動物油、糖及び糖アルコール類、ビタミン、有機酸、果汁エキス類、野菜エキス類、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の添加物及び素材を単独で又は2種以上組み合わせて配合することができる。これらの素材及び添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜決定することができる。
【0031】
本発明の食品組成物又は飲料組成物は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(PETボトル)、金属缶、金属箔又はプラスチックフィルムと複合された紙容器、アルミパウチなどのパウチ、プラスチック容器、ビニール容器、PTP(プレス・スルー・パッケージ)包装、及びガラス瓶などの瓶等の通常の包装容器に充填して提供することができ、その容量についても特に限定されない。
【0032】
本発明の食品組成物及び飲料組成物には、機能性食品(飲料)及び健康食品(飲料)が含まれる。本明細書において「健康食品(飲料)」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品又は飲料を意味し、「機能性食品(飲料)」とは、前記「健康食品(飲料)」の中でも、前記の種々の生体調節機能(すなわち、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統の調節機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品又は飲料を意味する。
【0033】
イヌリンの食品組成物又は飲料組成物への配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はなく、食品組成物又は飲料組成物基準で、通常0.1~10重量%、又は、1~5重量%である。
【実施例
【0034】
以下に製造例及び実施例を記載し本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において特に説明のない限り、%は重量%を示す。
【0035】
〔製造例1.イヌリン入りカテキン緑茶〕
カテキンの抗酸化作用や殺菌作用などの健康機能はよく知られ、高濃度のカテキンを配合した緑茶が市販され、苦味の低減に環状デキストリンの添加など様々な工夫がされているものの、依然として苦味と味のバランスについては工夫の余地がある。イヌリンはマスキング効果をもち苦味などを感じにくくする一方、その配合量が多すぎるとその他の呈味成分にも影響してしまう可能性がある。ここでイヌリンの最適な添加量を検証するため、カテキン濃度の高い市販緑茶にイヌリンを加えることでイヌリンのマスキング効果とその他の味への影響について検証した。下表の配合に従い、高カテキン含有緑茶にイヌリンを添加し試験品1~5を得た。試験品1~5についてそれぞれパネラーが官能試験を実施した。結果を以下に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
試験例3においてイヌリンがカテキンをマスキングすることで強い苦みを低減しつつも茶の香りを感じることができている。試験例よりイヌリンの添加量を1%とすると一般的な容器入りのお茶の量の500mlに、一本当たり4.5g~5g程度のイヌリンを摂取することができる高カテキン茶を得ることができる。
試験例4及び5のようにイヌリン添加量を増やすと、苦みをマスキングするのみではなく、茶の香りに関してもマスキングしてしまうという不具合が生じた。
【0039】
〔製造例2.イヌリン入り豆乳〕
豆乳は良質なタンパク質、必須脂肪酸であるリノール酸、リノレン酸を多く含有し栄養価が高いことが知られている。また、大豆イソフラボンの有するコレステロール低下作用や骨粗鬆症の予防、動脈硬化の予防などの生理機能はよく知られ、健康志向の飲料として数多くの豆乳飲料が市販されている。一方で、大豆由来の青臭さや苦渋味を有するため、飲みにくいと感じられる原因となり、嗜好性の強い飲料を好む消費者の購買意欲低下につながっている。苦味の低減に環状デキストリンの添加など様々な工夫がされているものの、依然として大豆臭や苦渋味と味のバランスについては工夫の余地がある。
イヌリンはマスキング効果をもち大豆臭やタンパク臭、苦渋味などを感じにくくする一方、その配合量が多すぎるとその他の呈味成分にも影響してしまう可能性がある。ここでイヌリンの最適な添加量を検証するため、市販無調整豆乳にイヌリンを加えることでイヌリンのマスキング効果とその他の味、飲みやすさについて検証した。下表の配合に従い、無調整豆乳にイヌリンを添加し試験品1~6を得た。試験品1~6について、それぞれパネラーが官能試験を実施した。結果を以下に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
試験例5においてイヌリンが大豆臭をマスキングすることで強い大豆臭を低減し、飲みやすくすることができている。試験例よりイヌリンの添加量を2%とすると一般的な容器入りの豆乳の量の250mlに、一本当たり4.5g~5g程度のイヌリンを摂取することができる豆乳飲料を得ることができる。
試験例6のようにイヌリン添加量を増やすと、大豆臭をマスキングし飲みやすくなるのみならず、甘味を非常に強く感じてしまうという不具合が生じた。
【0043】
〔製造例3.イヌリン入り紅茶〕
飲料の多様化が進み、2015年の家計調査によると茶類の市場が減少する中、紅茶類への家計における支出金額は一定しており、市場において一定の地位を占めている。紅茶には、何も加えないストレートティーのほか、ミルクや砂糖を加えるなどして、紅茶の風味とともにミルクや甘さを加えた飲み方が浸透している。また、紅茶飲料を密封容器に充填した容器詰めの紅茶飲料も広く販売されている。水溶性食物繊維は生理機能を有し、溶解性が高く、低粘度であり、味への影響が比較的少ないことから種々の飲料に利用されている。しかしながら、紅茶飲料に過剰な量の水溶性食物繊維を加えると、香味立ちがマスキングされてしまい、水っぽい味になってしまう。加えて、水溶性食物繊維として広く利用されている難消化性デキストリンやイヌリン自体の味が飲料の呈味に直接影響を与えてしまうといった課題がある。そこでイヌリンの最適な添加量を検証するため、市販の加糖紅茶及び加糖ミルクティーにイヌリンを加えた場合の、イヌリンのマスキング効果とその他の味への影響について検証した。下表の配合に従い、それぞれの紅茶飲料にイヌリンを添加し試験品1~6を得た。それぞれの紅茶飲料の試験品1~6について、それぞれパネラーが官能試験を実施した。結果を以下に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
加糖紅茶では、試験例3において、イヌリンがカテキンをマスキングすることで、強い苦みやエグ味を低減しつつも、紅茶の香りを感じることができている。イヌリンの添加量を0.8~1.0%とすると、一般的な容器入りの量の500mlにおいて、一本当たり4~5g程度のイヌリンを摂取することができる紅茶を得ることができる。しかしながら、添加量が0.4%以下であると、紅茶の香りは強く感じられるが、イヌリンのカテキンマスキング効果が十分でない。また、添加量が1.2%以上になると、カテキンの苦み・エグ味が大きく低減するのみならず、紅茶の香りも強くマスキングしてしまうという不具合が生じた。
【0047】
【表7】
【0048】
【表8】
【0049】
加糖ミルクティーでは、試験例2と3において、イヌリンを0.8~1.0%添加すると、紅茶の苦み・エグ味を低減し、乳のコク感を向上させつつも、紅茶の香りも感じることができている。イヌリンの添加量を0.8~1.0%とすると、一般的な容器入りのミルクティーの量の500mlに、一本当たり4.0~5.0g程度のイヌリンを摂取することができるミルクティーを得ることができる。添加量が0.4%以下であると、乳のコク感は向上するものの、苦み・エグ味のマスキングが十分でなく、後味の苦み・エグ味が残るという不具合が生じた。また、添加量が1.2%以上になると、乳のコク感はより一層向上するものの、苦み・エグ味とともに紅茶の香りも強くマスキングしてしまい、また甘味が強く出てしまうため、ミルクティ-らしくないぼやけた風味になるという不具合が生じた。
【0050】
〔製造例4.イヌリン入り経口補水液〕
経口補水液とは、脱水症の改善及び治療を目的として水に電解質等を溶解した治療に利用される溶液である。しかしながら高齢者の慢性的脱水症や暑熱環境下での労働や、スポーツ後の飲料や熱中症の対策として様々な領域で活用され、一般に浸透し市販されるまでになった。適正な経口補水液としてNaイオンとブドウ糖のモル濃度比が1:1~2であり、その浸透圧が血清(おおよそ285mOsm/L)より低いことが特徴として挙げられる。しかしながら一般のスポーツドリンクとは異なり塩類の濃度が高く味はまだ工夫の余地がある。イヌリンには塩類の味をまろやかにする効果があり、高分子であるため浸透圧にあまり影響を及ぼすことなく添加でき、経口補水液への添加において好ましい素材である。そこでイヌリンの最適な添加量を検証するため、下記の配合でイヌリンのマスキング効果とその他の味への影響について検証した。調整した経口補水液にイヌリンを添加し試験品1~5を得た。試験品1~5について、それぞれパネラーが官能試験を実施した。結果を以下に示す。
【0051】
【表9】
【0052】
【表10】
【0053】
試験例より、イヌリンは、塩類の苦み・エグ味を低減するが、フレーバーに影響を及ぼすことが確認できた。パネラーは、イヌリンの添加量が0.5または1.0%で最も好ましいと評価した。イヌリンの添加量を0.5~1.0%とすると、塩類の苦み・エグ味を低減しつつも、フレーバーを弱めすぎることはなかった。イヌリンの添加量を0.5~1.0%とすることで一般的な容器入りの経口補水液の量の500mlで、一本当たり2.5~5.0g程度のイヌリンを摂取することができる経口補水液を得ることができる。しかしながら添加量が2%以上であると、苦み・エグ味のマスキングは強くなるものの、フレーバーが弱くなるという不具合が生じた。
【0054】
〔製造例5.イヌリン入り低脂肪乳及び無脂肪乳〕
牛乳は、カルシウムのみならず、良質なタンパク質やビタミンをバランスよく含んでおり、栄養学的に優れていることが知られている。健康志向の高まりから、牛乳よりも低カロリーであり、牛乳と同様に豊富な栄養素を含む低脂肪乳や無脂肪乳の需要が増えている。一方で、低脂肪乳や無脂肪乳は乳脂肪含有量の低下により、乳らしい風味やコクが損なわれた満足感に欠けるものであり、味質の改善が望まれている。イヌリンは乳感のエンハンス効果をもち、脂肪のようなコク感を強める一方、その配合量が多すぎるとその他の呈味成分にも影響してしまう可能性がある。ここでイヌリンの最適な添加量を検証するため、市販の低脂肪乳及び無脂肪牛乳にイヌリンを加えることで、イヌリンのエンハンス効果とその他の味への影響について検証した。下表の配合に従い、低脂肪乳及び無脂肪乳にイヌリンを添加し試験品1~8を得た。試験品1~8について、それぞれパネラーが官能試験を実施した。結果を以下に示す。
【0055】
【表11】
【0056】
【表12】
【0057】
試験例3、4及び8においてイヌリンが乳臭さや雑味を低減しつつも、適度な甘味と乳のコク感を向上させることができている。試験例よりイヌリンの添加量を1.0~1.5%とすると、一般的な容器入りの低脂肪牛乳の量の450mlに、一本当たり4.0~6.8g程度のイヌリンを摂取することができる低脂肪乳及び無脂肪牛乳を得ることができる。
試験例2、3のようにイヌリン添加量を減らすと、乳由来の乳臭さや雑味が若干低減し、乳のコク感も若干向上するものの、対照区と比べて大きな味質の向上が見られなかった。
試験例5、6のようにイヌリン添加量を増やすと、乳のコク感はより一層向上するものの、甘味が強く出てしまうため、乳らしい風味のバランスが崩れてしまうという不具合が生じた。
【0058】
〔製造例6.イヌリン入り大豆粉使用焼菓子〕
予防医学の考え方の普及が進む中、健康食品の市場規模の拡大とともに栄養強化食品が増えつつある。とりわけ、日本人にとって古くから馴染みがあり、「畑の肉」としてよく知られている大豆タンパク質も、従来の加工食品への利用の他、パンや菓子といった食品カテゴリーへの活用の幅が広がっている。大豆は必須アミノ酸が豊富に含む高タンパク素材でありながら、糖質含量が小麦や米よりも比較的少ないため、糖質代替としての利用方法が見出されている。高たんぱく訴求や糖質量低減目的でパンや菓子へ添加されることも多いが、大豆特有の強い青臭さや雑味が風味を損なうため、パンや菓子といった嗜好性の高い食品においては、風味の改善が求められている。
イヌリンはマスキング効果をもち大豆臭やタンパク臭、苦渋味などを感じにくくする効果がある一方、添加量によっては物性などに影響を及ぼす可能性がある。そこでイヌリンの最適な添加量を検証するため、下記の配合でイヌリンのマスキング効果とその他の物性などについて検証した。下記の配合に基づき試験品1~2を得た。試験品1~2について、それぞれパネラーが官能試験を実施した。結果を以下に示す。
【0059】
【表13】
【0060】
【表14】
【0061】
試験例2においてイヌリンが大豆臭をマスキングすることで強い大豆臭を低減し、風味を改善することができている。また、サクミと口溶けの向上が見られ、タンパク高配合による食感の不具合を改善することができている。試験例よりイヌリンの添加量を10%とすると、大きめのクッキー(直径10cm)50gに一枚当たり、又は、一般的な大きさのクッキー(直径5cm)10gに五枚当たり、4.5g~5g程度のイヌリンを摂取することができるタンパク強化クッキーを得ることができる。
【0062】
【表15】
【0063】
【表16】
【0064】
試験例2においてイヌリンが着色や歯付きといった不具合を生じさせることなく、大豆由来の独特な臭みや雑味をマスキングすることで、強い大豆臭・雑味を低減し、風味を改善することができている。
試験例を考慮すると、イヌリンの添加量を16%とすると一般的なバータイプ菓子の量の30gに、一本当たり4.3g~4.8g程度のイヌリンを摂取することができる大豆粉使用ソフトバー菓子を得ることができる。
【0065】
〔実施例1.機能の検証〕
年齢65~79歳の高齢女性55名を対象に介入試験を実施した。介入として3カ月間の栄養介入と3カ月間の週3回の運動介入を実施した。栄養介入には表3に記載のイヌリン入り食品またはプラセボ食を水に溶いてムース状とし、毎朝食後に摂取させた。運動介入としてローイング運動を実施した。その方法は週1日、大学内e-Rowingを用いたトレーニングを行い、週2日、自宅でゴムチューブを用いたトレーニング200回/日を実施した。大学内で実施したトレーニングでは計12週のうち、1週目→5週目では徐々に強度を上げ、5週目では200回運動を行った。その出力は個人差があるものの30~80Wの出力、最大10分程度であった。また、ボート漕ぎ運動の前後でケガの防止のためストレッチ体操を中心とした体操をトレーナーとともに実施している。
【0066】
【表17】
【0067】
介入前にプレ測定を実施した。対象者を4群に分け、それぞれ、
(A)運動介入+イヌリン入り試験食群(n=11)、
(B)運動介入+プラセボ試験食群(n=11)、
(C)運動介入なし+イヌリン入り試験食群(n=14)、
(D)運動介入なし+プラセボ試験食群(n=14)
とした。3カ月の介入前後でDXA法によって全身測定を行った。DXA(dual energy X-ray absorptiometry:DXA)法とは、二重エネルギーエックス線吸収測定法と呼ばれる異なる2つのエネルギーを持ったエックス線を照射し、物質透過前後の吸収差を利用し、対象を測定する方法である。骨および軟組織の吸収率の差を利用し、透過後のX線量を測定することで、骨密度、脂肪および除脂肪量を測定できる。DXA法は手早く(約5~6分)、正確で非浸潤性であり信頼の高く骨粗鬆症診断基準(ガイドライン)でもDXA法を用いることが推奨されている。本試験では3カ月の介入前後でDXA法によって全身測定を行った。測定は骨密度、脂肪量、除脂肪量を計測し、骨塩量、体脂肪量、及び除体脂肪体重を算出した。除体脂肪体重は筋量以外の重量も含むが,実際の筋量との相関が極めて高いとされており(非特許文献8~10参照)、除体脂肪体重を筋量とみなして扱った。また、体の各部位での評価については腰椎を中心に、加齢による骨変性が部分的に認められる事例もあり、全身での評価のみを指標とした。
対象者には測定の12時間前から飲食を控えるように指示し、測定に際しては身につけていた金属類を外し、検査用の衣服に着替えさせた。全ての測定にはHologic社製HorizonAを使用し、解析ソフトはAPEX software version 13.6.0.4を用いた。スキャニングは放射線源として140kVpと100kVpの2つのエネルギー量の光子を生成するX線管を用い、スキャン方式はファンビーム(fan beam mode)で行った。全身の測定所要時間は約6分であった。熟練した放射線技師が測定手順書どおりに測定した。結果を図1及び2に示す。
【0068】
(除脂肪軟組織量及び除脂肪量)
(A)群では、(D)群と比較して、除脂肪軟組織量及び除脂肪量(除体脂肪体重)の減少が有意に少ない結果となった。(B)群及び(C)群では、有意差はなかったものの、(D)群と比較して、除脂肪軟組織量及び除脂肪量(除体脂肪体重)の減少が有意に少なくなる傾向が見られた。したがって、イヌリンを摂取することで、筋肉量の減少を抑制できることが示された。
【0069】
(骨密度)
(A)群、(B)群、及び(C)群のいずれにおいても、(D)群と比較して、骨密度の減少が有意に少ない結果となった。したがって、イヌリンを摂取することで、骨密度の減少を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明におけるロコモ予防機能をもつ食品は、イヌリンを有効成分とすることで飲食品など全般に幅広く応用できる汎用性の高いものである。また、イヌリンの持つ整腸作用によりロコモ以外の健康の維持、疾病の予防などが期待できる。
図1
図2