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特許7321610癒着防止剤及びそれを用いた癒着防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】癒着防止剤及びそれを用いた癒着防止方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20230731BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230731BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230731BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
A61L31/04 120
A61K9/10
A61K47/36
A61K47/38
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022528834
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2021020791
(87)【国際公開番号】W WO2021246388
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2020095280
(32)【優先日】2020-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大畑 淳
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓道
(72)【発明者】
【氏名】藤本 栞理
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0015564(US,A1)
【文献】国際公開第2005/000374(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/099083(WO,A1)
【文献】特開平03-167201(JP,A)
【文献】SULTANA, T., et al.,TEMPO oxidized nano-cellulose containing thermo-responsive injectable hydrogel for post-surgical per,Materials Science & Engineering: C,2019年,Vol.102,pp.12-21.
【文献】磯貝 明,バイオ系ナノファイバーの調製と高機能部材への応用展開,繊維学会誌,2009年,Vol.65, No.1,pp.7-8.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてアニオン化されたナノセルロース及びアニオン化されたナノキチンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオン化されたナノ材料、並びに液状媒体を含み、アニオン化されたナノ材料が液状媒体中に分散してなる癒着防止剤であって、癒着防止剤中のアニオン化されたナノ材料の濃度が、0.1~10重量%であり、アニオン化されたナノ材料に含まれるアニオン性基が、カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基及び硫酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種であり、癒着防止剤の粘度(37℃)が、0.5~2000mPa・sである、癒着防止剤。
【請求項2】
アニオン化されたナノ材料が、アニオン化されたナノセルロースである、請求項1に記載の癒着防止剤。
【請求項3】
アニオン化されたナノセルロースが、アニオン化されたセルロースナノファイバー及びアニオン化されたセルロースナノクリスタルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の癒着防止剤。
【請求項4】
アニオン化されたナノ材料が、アニオン化されたナノキチンである、請求項1に記載の癒着防止剤。
【請求項5】
アニオン化されたナノキチンが、アニオン化されたキチンナノファイバー及びアニオン化されたキチンナノクリスタルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の癒着防止剤。
【請求項6】
液状媒体が水を含む媒体である、請求項1~のいずれかに記載の癒着防止剤。
【請求項7】
癒着防止剤に含まれる総固形分中のアニオン化されたナノ材料の含有量が、25重量%以上である、請求項1~のいずれかに記載の癒着防止剤。
【請求項8】
腹腔内の臓器又は組織に適用するための、請求項1~のいずれかに記載の癒着防止剤。
【請求項9】
粘度(37℃)が、0.5~2000mPa・sである癒着防止剤を製造するための、アニオン化されたナノセルロース及びアニオン化されたナノキチンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオン化されたナノ材料、並びに液状媒体を含み、アニオン化されたナノ材料が液状媒体中に分散してなり、アニオン化されたナノ材料の濃度が、0.1~10重量%であり、アニオン化されたナノ材料に含まれるアニオン性基が、カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基及び硫酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種である液状分散体の使用。
【請求項10】
癒着防止剤の製造方法であって、有効成分としてアニオン化されたナノセルロース及びアニオン化されたナノキチンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオン化されたナノ材料と、液状媒体とを混合して、アニオン化されたナノ材料の濃度が、0.1~10重量%であり、アニオン化されたナノ材料に含まれるアニオン性基が、カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基及び硫酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種であり、粘度(37℃)が0.5~2000mPa・sである癒着防止剤を調製する工程を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒着防止剤及びそれを用いた癒着防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癒着とは、互いに分離しているべき組織の表面が線維性の組織で連結又は融合された状態のことをいう。腹部手術後には高頻度に癒着が発生し、癒着性腸閉塞、再手術の困難化及びリスク増大、妊孕性の低下、並びに慢性腹痛の原因となる。特に、癒着に起因する腸閉塞に陥った場合には生命の危険に瀕することから、臨床的にも重大な問題となっている。
【0003】
癒着を防止する手段として、シート状の癒着防止材(セプラフィルム(登録商標)、インターシード(登録商標))及びゲル状の癒着防止材(アドスプレー(登録商標))が市販されている。これらは何れも腹壁切開創下や損傷部に貼布又はスプレーし、切開創又は損傷部と隣接する臓器との間に物理的隔壁を設けることによって癒着を軽減する。
【0004】
シート状の癒着防止材は、貼付部位の癒着を軽減したというエビデンスが認められているが、一方で、癒着性腸閉塞の発生率を低下させるというエビデンスはないとの系統的レビューが報告されている(例えば、非特許文献1)。ゲル状の癒着防止材は、2液を混合し損傷部位周辺に噴霧し速やかにゲル化させて癒着防止効果を発揮するものであるが、2液の調製が煩雑であり、かつ癒着防止効果は適用部位に限局される。これら既存の癒着防止材が癒着性腸閉塞を完全に防止できない理由は、癒着発生が明確に予測される腹壁切開創下又は損傷部に対してのみ使用されるためである。
【0005】
実際には、癒着の発生する部位は不特定であり腹腔内の広範囲にわたるため、既存の癒着防止材を用いても腹腔内全体の癒着を完全には防止することはできない。さらに、癒着性腸閉塞の原因の大半は、癒着発生部位が予測困難な腸管、とりわけ小腸が関与する癒着であることから、癒着防止製品の更なる改善が望まれている。
このような臨床的な問題を解決するためには、癒着発生が明確に予測される腹壁切開創下や損傷部だけでなく、癒着発生部位が予測困難な腸管、とりわけ小腸といった腹腔内の広範囲にわたる癒着を防止する必要がある。
【0006】
特許文献1には、パルプ由来ナノセルロース水分散液を肝臓切除面に塗布することにより、癒着防止効果が認められたことが記載されている。また、特許文献2には、微生物セルロース材料を傷害部位に適用することで、傷害部位に組織癒着を最小限にできることが記載されている。
【0007】
特許文献3及び非特許文献2には、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びポリエチレングリコールからなるヒドロゲル組成物が、腹膜組織の癒着防止に用い得ることが記載されている。当該ゲル組成物は、4℃では透明液体であるが、25℃及び37℃でゲル化して流動性がなくなる性質を有していることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/099083号;実施例19
【文献】国際公開第2010/080264号
【文献】米国特許出願公開第2019/0015564号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Intra‐peritoneal prophylactic agents for preventing adhesions and adhesive intestinal obstruction after non-gynaecological abdominal surgery, Cochrane Database Syst Rev. 2009 Jan 21;(1):CD005080. doi: 10.1002/14651858.CD005080.pub2.
【文献】Materials Science and Engineering C 102(2019) 12-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、新規な癒着防止剤、及びそれを用いた癒着防止方法を提供することを課題とする。更に、癒着発生が予測される組織又は臓器の損傷部位又は炎症部位のみならず、腹腔内の広範囲に癒着を防止ができる癒着防止剤、及びそれを用いた癒着防止方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をした結果、アニオン化されたナノセルロース又はアニオン化されたナノキチンの水性分散液が、損傷部位又は炎症部位において効果的に癒着を防止できることを見出した。また、当該水性分散液は、体温付近で増粘することがない(粘度が高くならず流動性を維持する)ため、損傷部位又は炎症部位だけでなくその周辺の腹腔内にまで広く適用することができ、腹腔内の広範囲で癒着を防止できることをも見出した。かかる知見に基づいて更に検討を加えることにより、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、癒着防止剤及びそれを用いた癒着防止方法を提供する。
項1.有効成分としてアニオン化されたナノセルロース及びアニオン化されたナノキチンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオン化されたナノ材料を含む癒着防止剤。
項2.アニオン化されたナノ材料が、アニオン化されたナノセルロースである、項1に記載の癒着防止剤。
項3.アニオン化されたナノセルロースが、アニオン化されたセルロースナノファイバー及びセルロースナノクリスタルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項2に記載の癒着防止剤。
項4.アニオン化されたナノセルロースに含まれるアニオン性基が、カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基及び硫酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種である、項2又は3に記載の癒着防止剤。
項5.アニオン化されたナノ材料が、アニオン化されたナノキチンである、項1に記載の癒着防止剤。
項6.アニオン化されたナノキチンが、アニオン化されたキチンナノファイバー及びアニオン化されたキチンナノクリスタルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項5に記載の癒着防止剤。
項7.アニオン化されたナノキチンに含まれるアニオン性基が、カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基及び硫酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種である、項5又は6に記載の癒着防止剤。
項8.さらに液状媒体を含み、アニオン化されたナノ材料が液状媒体中に分散してなる、項1~7のいずれかに記載の癒着防止剤。
項9.液状媒体が水を含む媒体である、項8に記載の癒着防止剤。
項10.癒着防止剤中のアニオン化されたナノ材料の濃度が、0.1~10重量%である、項8又は9に記載の癒着防止剤。
項11.癒着防止剤の粘度(37℃)が、0.5~2000mPa・sである、項8~10のいずれかに記載の癒着防止剤。
項12.癒着防止剤に含まれる総固形分中のアニオン化されたナノ材料の含有量が、25重量%以上である、項8~11のいずれかに記載の癒着防止剤。
項13.腹腔内の臓器又は組織に適用するための、項1~12のいずれかに記載の癒着防止剤。
項14.腹腔内の臓器又は組織の癒着防止に使用するための、アニオン化されたナノセルロース及びアニオン化されたナノキチンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオン化されたナノ材料。
項15.癒着防止剤を製造するための、アニオン化されたナノセルロース及びアニオン化されたナノキチンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオン化されたナノ材料の使用。
項16.癒着防止剤として使用するための、アニオン化されたナノセルロース及びアニオン化されたナノキチンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオン化されたナノ材料。
項17.項1~13のいずれかに記載の癒着防止剤を、腹腔内の臓器又は組織に適用することを含む、癒着防止方法。
項18.癒着防止剤の製造方法であって、有効成分としてアニオン化されたナノセルロース及びアニオン化されたナノキチンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオン化されたナノ材料と、液状媒体とを混合する工程を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の癒着防止剤は、癒着を防止しようとする部位に有効成分であるアニオン化されたナノ材料を適用することにより、効果的に癒着を防止することができる。本発明の癒着防止剤は、有効成分を含む分散液(特に、水性分散液)の剤型とすることができる。当該分散液は、体温付近でも粘度が小さく適度な流動性を有するため、癒着発生が明確に予測される腹壁切開創下や損傷部だけでなく、癒着発生が予測困難な、腸管(とりわけ小腸)等の腹腔内の広範囲にわたる組織表面全体に、有効成分を接触又は付着させることができる利点を有する。
【0014】
本発明の癒着防止剤は、このように腹壁切開創下や損傷部に限局されず、腹腔内の広範囲にわたる癒着を防止することが可能となるため、臨床的に重大な問題となっている癒着性腸閉塞の原因となる腸管(とりわけ小腸)が関与する癒着を防止することができる。
【0015】
本発明の癒着防止剤は、損傷部位の治癒に必要な期間において癒着を効果的に防止できるため、癒着による合併症を低減することができる。治癒後は体内に吸収されるため、異物反応等による新たな癒着を惹起することもない。
【0016】
本発明の癒着防止剤は、典型的には有効成分を含む分散液の剤型であるため、使用前に複雑な処理(事前調合、形状調整等)を経る必要がなく、取り扱い性に優れている。また、当該分散液は、室温から体温付近で適度な流動性を有しているため、そのまま損傷部位の表面を含む腹腔内の広範囲に適用(滴下、スプレー、塗布、ディップ(浸漬)、注入等)することができる。そのため、癒着防止剤は、開腹手術のみならず低侵襲の内視鏡手術において好適に用いられる。
【0017】
本発明の癒着防止剤は、有効成分としてアニオン化されたナノ材料を含んでいるため、上記の優れた癒着防止効果を発揮すると考えられる。これに対し、未修飾のナノ材料又はカチオン化されたナノ材料では、本発明のような癒着防止効果は発揮することはできず、むしろ癒着を増悪してしまう場合がある(図2~4及び9、比較例1及び4~7を参照)。また、サブナノオーダーの平均径を有するセルロース分子鎖(径0.4nm程度)をもつカルボキシメチルセルロース(CMC)では、アニオン化されていても溶液の剤型では本発明のような優れた癒着防止効果は得られない(図2及び3、比較例2及び3を参照)。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】アニオン化されたナノ材料の顕微鏡写真である。(a)カルボキシル化CNF、(b)カルボキシル化CNC、(c)カルボキシル化キチンNC
図2】実施例18で示された癒着防止試験の結果を示すグラフである。
図3】実施例19で示された癒着防止試験の結果を示すグラフである。
図4】実施例20で示された癒着防止試験の結果を示すグラフである。
図5】実施例21で示された癒着防止試験の結果を示すグラフである。
図6】実施例22で示された癒着防止試験の結果を示すグラフである。
図7】実施例23で示された癒着防止試験の結果を示すグラフである。
図8】実施例24で示された癒着防止試験の結果を示すグラフである。
図9】実施例25で示された癒着防止試験の結果を示すグラフである。
図10】実施例26で示された癒着防止試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。
1.癒着防止剤
本発明の癒着防止剤は、有効成分としてアニオン化されたナノセルロース及びアニオン化されたナノキチンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオン化されたナノ材料を含むことを特徴とする。本発明の癒着防止剤は、アニオン化されたナノ材料と液状媒体とを含み、アニオン化されたナノ材料が液状媒体中に分散されてなる分散液の剤型であることが好ましい。
【0020】
(1)アニオン化されたナノセルロース
アニオン化されたナノ材料のうちアニオン化されたナノセルロースについて説明する。 植物の細胞壁の中では、平均繊維径が約3~4nmのセルロースミクロフィブリル(エレメンタリーフィブリル)が基本骨格物質(基本エレメント)として存在する。このセルロースミクロフィブリルは、セルロース分子鎖(平均径は約0.4nm)の数十本が規則的に集合した束からなる極細の単繊維であり、このセルロースミクロフィブリルが集まって植物の骨格を形成している。本発明において、ナノセルロースとは、植物繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)をその繊維をナノサイズレベルまで解きほぐしたものである。尚、ここで言う繊維径とは繊維の直径を意味する。
【0021】
本発明のアニオン化されたナノセルロースは、ナノセルロースの表面に存在するセルロース分子鎖上のグルコースの水酸基の一部がアニオン化、即ちアニオン性基に化学修飾されたものである。そのため、アニオン変性されたナノセルロースと表記することもある。
【0022】
ナノセルロースは、一般的にその製造方法に由来して基本構造が相違する場合があり、その相違に基づいて、例えば、ファイバー状のセルロースナノファイバー(以下「CNF」とも表記する)、及びクリスタル状のセルロースナノクリスタル(以下「CNC」とも表記する)に分類することができる。
【0023】
本発明のアニオン化されたCNFの平均繊維径は、通常3~100nmであり、好ましくは3~50nmであり、より好ましくは3~10nmである。その平均繊維長は、通常0.3~200μmであり、好ましくは0.5~50μm、より好ましくは0.5~10μmである。アスペクト比は、通常、50以上であり、好ましくは50~10000であり、より好ましくは50~1000である。尚、ここで言う平均とは相加平均を意味する。
【0024】
本発明のアニオン化されたCNCの平均繊維径は、通常3~100nmであり、好ましくは3~50nmであり、より好ましくは3~10nmである。その平均繊維長は、通常100~400nmであり、好ましくは100~300nmであり、より好ましくは100~200nmである。アスペクト比は、通常、50未満である。
【0025】
本発明のアニオン化されたナノセルロースは、このCNF及びCNCのそれぞれがアニオン化されたものであり、上記CNF及びCNCそれぞれの特徴を有している。本発明のアニオン化されたナノセルロースは、アニオン化されたセルロースナノファイバー(以下「アニオン化CNF」とも表記する)、及びアニオン化されたセルロースナノクリスタル(以下「アニオン化CNC」とも表記する)の両方を含む概念である。
【0026】
本発明のアニオン化されたナノセルロースが有するアニオン性基としては、脱プロトン化してマイナスの電荷を帯びることができる基であり、例えば、カルボキシル基(-COOH)、硫酸エステル基(-O-SOH)、リン酸エステル基(-O-PO)、カルボキシメチル基(-CHCOOH)、亜リン酸エステル基(-P(OR)、-P(O)(OR)、ここで、Rは独立して水素原子又は有機基(例えば、アルキル基等)である。)、硝酸エステル基(-O-NOH)等が挙げられる。
【0027】
本発明のアニオン化されたナノセルロースとしては、好ましくは、カルボキシル基を有するナノセルロース(以下「カルボキシル化ナノセルロース」とも表記する)、硫酸エステル基を有するナノセルロース(以下「硫酸エステル化ナノセルロース」とも表記する)、リン酸エステル基を有するナノセルロース(以下「リン酸エステル化ナノセルロース」とも表記する)、カルボキシメチル基を有するナノセルロース(以下「カルボキシメチル化ナノセルロース」とも表記する)等を挙げることができる。
【0028】
これらは、必要に応じ、カチオン性の原子又は原子団と共に塩を形成していてもよい。当該塩としては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)の塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム(例えば、テトラアルキルアンモニウム等)との塩等が挙げられる。好ましくはアルカリ金属の塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。なお、本発明のアニオン化されたナノセルロースは、上記のアニオン性基を有するナノセルロース及びその塩を包含する意味に用いられる。
【0029】
カルボキシル化ナノセルロースは、セルロースを構成するグルコースの6位の水酸基、或いはグルコースの2位及び3位の水酸基がカルボキシル基に化学修飾された構造を有している。例えば、該6位の水酸基の一部が酸化されカルボキシル基に変換されたもの(例えば、TEMPOを用いた酸化法)、該2位及び3位の水酸基の一部が酸化されカルボキシル基に変換されたもの(例えば、次亜塩素酸ナトリウム5水和物を用いた酸化法)等が挙げられる。カルボキシル化ナノセルロースは、公知の方法、例えば、特開2008-001728号、特開2017-155024号、国際公開第2018/230354号、ACS Sustainable Chem Eng 2020, 8, 17800-17806等に従い又は準じて製造することができる。
【0030】
カルボキシル化ナノセルロースにおける、カルボキシル基の濃度(官能基導入量)は、通常、0.1~10mmol/gであり、好ましくは0.1~5mmol/gであり、より好ましくは0.1~2.5mmol/gである。官能基導入量は、通常、カルボキシル化ナノセルロースを含む水分散液(スラリー)を、アルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)で中和滴定することにより求めることができる。例えば、実施例の[導入官能基含量の測定1]の記載に従い測定することができる。
【0031】
硫酸エステル化ナノセルロースは、通常、ナノセルロースの表面に存在するセルロースを構成するグルコースの2位、3位及び/又は6位の水酸基の一部が硫酸で化学修飾された構造を有している。硫酸エステル化ナノセルロースは、公知の方法、例えば、国際公開第2018/131721号等に従い又は準じて製造することができる。
【0032】
硫酸エステル化ナノセルロースにおける、硫酸エステル基の濃度(官能基導入量)は、通常、0.1~10mmol/gであり、好ましくは0.1~5mmol/gであり、より好ましくは0.1~2.5mmol/gである。官能基導入量は、通常、硫酸エステル化ナノセルロースを含む水分散液(スラリー)を、アルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)で中和滴定することにより求めることができる。例えば、実施例の[導入官能基含量の測定2]の記載に従い又は準じて測定することができる。
【0033】
リン酸エステル化ナノセルロースは、通常、ナノセルロースの表面に存在するセルロースを構成するグルコースの2位、3位及び/又は6位の水酸基の一部がリン酸で化学修飾された構造を有している。リン酸エステル化ナノセルロースは、公知の方法、例えば、国際公開第2014/185505号等に従い又は準じて製造することができる。
【0034】
リン酸エステル化ナノセルロースにおける、リン酸エステル基の濃度(官能基導入量)は、通常、0.1~10mmol/gであり、好ましくは0.1~5mmol/gであり、より好ましくは0.1~2.5mmol/gである。官能基導入量は、例えば、実施例の[導入官能基含量の測定2]の記載に従い又は準じて測定することができる。
【0035】
カルボキシメチル化ナノセルロースにおける、カルボキシメチル基の濃度(官能基導入量)は、通常、0.06~3.82mmol/gであり、好ましくは0.3~3.64mmol/gであり、より好ましくは0.6~3.44mmol/gである。官能基導入量は、例えば、実施例の[導入官能基含量の測定1]の記載に従い又は準じて測定することができる。
【0036】
本発明の癒着防止剤には、アニオン化されたナノセルロースを1種又は複数種含んでいてもよい。アニオン化されたナノセルロースのうち、癒着防止の効果がより向上する観点から、アニオン化CNFよりもアニオン化CNCが好ましい。
【0037】
(2)アニオン化されたナノキチン
アニオン化されたナノ材料のうちアニオン化されたナノキチンについて説明する。
キチンとは、節足動物や甲殻類の外骨格すなわち外皮、軟体動物の殻皮の表面などの多くの無脊椎動物の体表を覆うクチクラや、キノコなど菌類の細胞壁などの主成分である。キチンは、直鎖型の含窒素多糖高分子であり、ポリ-β1-4-N-アセチルグルコサミンを意味し、その構造は、セルロースと類似の構造であるが、2位炭素の水酸基がアセトアミド基になっている。即ち、N-アセチルグルコサミンの1,4-重合物である。ナノキチンとは、上記の原料から得られるキチンをナノサイズレベルまで解きほぐしたものである。
【0038】
本発明のアニオン化されたナノキチンは、ナノキチンの表面に存在するN-アセチルグルコサミンの水酸基の一部がアニオン化、即ちアニオン性基に化学修飾されたものである。そのため、アニオン変性されたナノキチンと表記されることもある。
【0039】
ナノキチンは、一般的にその製造方法に由来して基本構造が相違する場合があり、その相違に基づいて、例えば、ファイバー状のキチンナノファイバー(以下「キチンNF」とも表記する)、及びクリスタル状のキチンナノクリスタル(以下「キチンNC」とも表記する)に分類することができる。
【0040】
本発明のアニオン化されたキチンNFの平均繊維径は、通常3~100nmであり、好ましくは3~50nmであり、より好ましくは3~10nmである。その平均繊維長は、通常0.5~200μmであり、好ましくは0.5~50μm、特に好ましくは0.5~10μmである。アスペクト比は、通常、50以上であり、好ましくは50~10000、より好ましくは50~1000である。
【0041】
本発明のアニオン化されたキチンNCの平均繊維径は、通常3~100nmであり、好ましくは3~50nmであり、より好ましくは3~10nmである。その平均繊維長は、通常100~400nmであり、好ましくは100~300nmであり、より好ましくは100~200nmである。アスペクト比は、通常、50未満である。
【0042】
本発明のアニオン化されたナノキチンは、このキチンNF及びキチンNCのそれぞれがアニオン化されたものであり、上記キチンNF及びキチンNCそれぞれの特徴を有している。本発明のアニオン化されたナノキチンは、アニオン化されたキチンナノファイバー(以下「アニオン化キチンNF」とも表記する)、及びアニオン化されたキチンナノクリスタル(以下「アニオン化キチンNC」とも表記する)の両方を含む概念である。
【0043】
本発明のアニオン化されたナノキチンが有するアニオン性基としては、脱プロトン化してマイナスの電荷を帯びることができる基であり、例えば、カルボキシル基(-COOH)、硫酸エステル基(-O-SOH)、リン酸エステル基(-O-PO)、カルボキシメチル基(-CHCOOH)、亜リン酸エステル基(-P(OR)、-P(O)(OR)、ここで、Rは前記に同じ。)、硝酸エステル基(-O-NOH)等が挙げられる。そのうち、カルボキシル基が好ましい。
【0044】
本発明のアニオン化されたナノキチンとしては、好ましくは、カルボキシル基を有するナノキチン(以下、「カルボキシル化ナノキチン」とも表記する)、硫酸エステル基を有するナノキチン(以下、「硫酸エステル化ナノキチン」とも表記する)、リン酸エステル基を有するナノキチン(以下、「リン酸エステル化ナノキチン」とも表記する)、カルボキシメチル基を有するナノキチン(以下「カルボキシメチル化ナノキチン」とも表記する)等を挙げることができる。
【0045】
これらは、必要に応じ、カチオン性の原子又は原子団と共に塩を形成していてもよい。当該塩としては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)の塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム(例えば、テトラアルキルアンモニウム等)との塩等が挙げられる。好ましくはアルカリ金属の塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。なお、本発明のアニオン化されたナノキチンは、上記のアニオン性基を有するナノキチン及びその塩を包含する意味に用いられる。
【0046】
カルボキシル化ナノキチンは、通常、ナノキチンの表面に存在するN-アセチルグルコサミンの6位の水酸基の一部がカルボキシル基に化学修飾された構造を有している。例えば、該6位の水酸基の一部が酸化(例えば、TEMPO酸化)されカルボキシル基に変換されたもの等が挙げられる。カルボキシル化ナノキチンは、公知の方法、例えば、Biomacromolecules 2008, 9, 192-198等に従い又は準じて製造することができる。
【0047】
カルボキシル化ナノキチンにおける、カルボキシル基の濃度(官能基導入量)は、通常、0.1~10mmol/gであり、好ましくは0.1~5mmol/gであり、より好ましくは0.1~2.5mmol/gである。官能基導入量は、例えば、実施例の[導入官能基含量の測定1]の記載に従い測定することができる。
【0048】
硫酸エステル化ナノキチンは、通常、ナノキチンの表面に存在するN-アセチルグルコサミンの3位及び/又は6位の水酸基の一部が硫酸で化学修飾された構造を有している。硫酸エステル化ナノキチンは、公知の方法、例えば、Carbohydrate Polymers, 2018, 197, 349-358等に従い又は準じて製造することができる。
【0049】
硫酸エステル化ナノキチンにおける、硫酸エステル基の濃度(官能基導入量)は、通常、0.1~10mmol/gであり、好ましくは0.1~5mmol/gであり、より好ましくは0.1~2.5mmol/gである。官能基導入量は、例えば、実施例の[導入官能基含量の測定2]の記載に準じて測定することができる。
【0050】
リン酸エステル化ナノキチンにおける、リン酸エステル基の濃度(官能基導入量)は、通常、0.1~10mmol/gであり、好ましくは0.1~5mmol/gであり、より好ましくは0.1~2.5mmol/gである。官能基導入量は、例えば、実施例の[導入官能基含量の測定2]の記載に準じて測定することができる。
【0051】
カルボキシメチル化ナノキチンにおける、カルボキシメチル基の濃度(官能基導入量)は、通常、0.06~3.82mmol/gであり、好ましくは0.3~3.64mmol/gであり、より好ましくは0.6~3.44mmol/gである。官能基導入量は、例えば、実施例の[導入官能基含量の測定1]の記載に従い又は準じて測定することができる。
【0052】
本発明の癒着防止剤には、アニオン化されたナノキチンを1種又は複数種含んでいてもよい。本発明のアニオン化されたナノキチンのうち、アニオン化キチンNCが好ましく、カルボキシル化されたキチンナノクリスタル(以下「カルボキシル化キチンNC」とも表記する)がより好ましい。
【0053】
(3)液状媒体
本発明の癒着防止剤に含み得る液状媒体は、薬学的に許容できる水を含んでいることが好ましい。即ち、液状媒体は水性液状媒体であることが好ましい。
【0054】
該水性液状媒体としては、例えば、滅菌水、精製水、蒸留水、イオン交換水、超純水等の水;生理的食塩水、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、リンゲル液等の電解質水溶液;リン酸緩衝溶液、トリス塩酸緩衝溶液等の緩衝溶液;グリセリン、エチレングリコール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機物を含有する水溶液;グルコース、スクロース、マルトース等の糖分子を含有する水溶液;ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を含む水溶液;オクチルグルコシド、ドデシルマルトシド、プルロニック(登録商標)(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール/ポリエチレングリコール共重合体)等の界面活性剤を含む水溶液;細胞内液、細胞外液、間質液、リンパ液、髄液、血液、胃液、血清、血漿、唾液、涙、精液、尿等の体液;又はこれらの混合液等が挙げられる。このうち、精製水、生理的食塩水、リンゲル液等が好ましい。
【0055】
本発明の癒着防止剤は、上記成分の他に、保存安定性の向上、治療効果及び癒着防止効果の促進、取扱性の向上、細菌感染の防止等の観点から、必要に応じて、さらに抗菌剤、抗生剤、抗炎症剤、血行改善剤、ステロイド剤、酵素阻害剤、増殖因子、各種ビタミン等の薬理成分;賦形剤、粘度調節剤、ゲル化剤、pH調整剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤等の添加剤;窒素ガス、炭酸ガス等のガス担体等を含んでいてもよい。
【0056】
(4)剤型
本発明の癒着防止剤は、腹腔内の組織や臓器の表面に適用するため、アニオン化されたナノ材料が液状媒体(特に、水性液状媒体)に分散した分散液(特に、水性分散液)の剤型であることが好ましい。本発明の癒着防止剤には、アニオン化されたナノ材料を1種又は複数種含んでいてもよい。本発明の癒着防止剤が分散液の場合、当該分散液には、癒着防止効果が発揮される有効量のアニオン化されたナノ材料を含んでいる。癒着防止剤(分散液)中に含まれるアニオン化されたナノ材料の濃度は、癒着防止剤(分散液)の総量に対して、通常、0.01~10重量%(wt%)であり、好ましくは0.1~5重量%であり、より好ましくは0.2~3重量%であり、特に好ましくは0.3~2重量%である。
【0057】
本発明の癒着防止剤は、癒着防止のための有効成分としてアニオン化されたナノ材料を含み、好ましくは有効成分としてアニオン化されたナノ材料から必須としてなり、より好ましくは有効成分としてアニオン化されたナノ材料のみからなる。癒着防止剤に含まれる総固形分中のアニオン化されたナノ材料の含有量は、通常、25重量%以上であり、好ましくは30~100重量%であり、より好ましくは30~80重量%であり、特に好ましくは30~60重量%である。総固形分中のアニオン化されたナノ材料の含有量が100重量%未満の時、本発明の癒着防止剤は電解質、糖などの添加剤を含む。
【0058】
本発明の癒着防止剤が分散液の場合、操作性や腹腔内で広範囲に適用できるという観点から、常温から体温付近の範囲で適度な流動性を有していることが好ましい。例えば、癒着防止剤(分散液)の粘度は、その温度が0~40℃(さらに、25~37℃、特に37℃付近)の時に、通常、0.5~2000mPa・sであり、0.5~1000mPa・sであることが好ましい。特に、アニオン化されたナノクリスタルの場合、0.5~100mPa・sであることがより好ましい。これにより、癒着防止剤(分散液)を、癒着発生が予測される損傷部位だけでなく、癒着発生が予想困難な部位を含む腹腔内の組織表面全体に接触又は付着させることができる。なお、粘度は、実施例に記載されるように、回転式粘度計を用いて測定することができる。
【0059】
本発明の癒着防止剤のpHは、生体への安全性の観点から、通常、4~8であり、好ましくは6~7.5である。
【0060】
本発明の癒着防止剤は、上記の分散液を、例えば、液剤;エアゾール剤やポンプスプレー剤などのスプレー剤;塗布剤;注射剤等の剤型とすることもできる。その使用形態に応じて、組織上に直接適用することができ、かつ操作性がよい剤型に製剤化することができる。
【0061】
本発明に係る癒着防止剤は、製薬上許容される担体をさらに含む組成物であってもよい。製薬上許容される担体は、使用する剤形に合わせて選択することができ、ガス担体又は液体担体等であってもよい。
【0062】
(5)好ましい態様
癒着防止剤の好ましい一実施形態としては、アニオン化されたナノ材料及び液状媒体(特に、水性液状媒体)を含む水性分散液であり、アニオン化されたナノ材料が、カルボキシル基の濃度が0.1~2.5mmol/gであるカルボキシル化されたナノセルロース(特に、カルボキシル化CNC)であり、癒着防止剤に含まれるカルボキシル化されたナノセルロースの濃度が0.3~2重量%(wt%)であり、癒着防止剤に含まれる総固形分中のアニオン化されたナノ材料の含有量が30~100重量%であり、温度が25~37℃(特に37℃付近)における粘度が0.5~2000mPa・s(特に、0.5~1000mPa・s)である、癒着防止剤が挙げられる。
【0063】
癒着防止剤の好ましい他の実施形態としては、アニオン化されたナノ材料及び液状媒体(特に、水性液状媒体)を含む水性分散液であり、アニオン化されたナノ材料が、硫酸エステル基の濃度が0.1~2.5mmol/gである硫酸エステル化されたナノセルロース(特に、硫酸エステル化CNC)であり、癒着防止剤に含まれる硫酸エステル化されたナノセルロースの濃度が0.3~2重量%(wt%)であり、癒着防止剤に含まれる総固形分中のアニオン化されたナノ材料の含有量が30~100重量%であり、温度が25~37℃(特に37℃付近)における粘度が0.5~2000mPa・s(特に、0.5~1000mPa・s)である、癒着防止剤が挙げられる。
【0064】
癒着防止剤の好ましい他の実施形態としては、アニオン化されたナノ材料及び液状媒体(特に、水性液状媒体)を含む水性分散液であり、アニオン化されたナノ材料が、リン酸エステル基の濃度が0.1~2.5mmol/gであるリン酸エステル化されたナノセルロース(特に、リン酸エステル化CNC)であり、癒着防止剤に含まれるリン酸エステル化されたナノセルロースの濃度が0.3~2重量%(wt%)であり、癒着防止剤に含まれる総固形分中のアニオン化されたナノ材料の含有量が30~100重量%であり、温度が25~37℃(特に37℃付近)における粘度が0.5~2000mPa・s(特に、0.5~1000mPa・s)である、癒着防止剤が挙げられる。
【0065】
癒着防止剤の好ましい他の実施形態としては、アニオン化されたナノ材料及び液状媒体(特に、水性液状媒体)を含む水性分散液であり、アニオン化されたナノ材料が、カルボキシメチル基の濃度が0.06~3.82mmol/gであるカルボキシメチル化されたナノセルロース(特に、カルボキシメチル化CNC)であり、癒着防止剤に含まれるカルボキシメチル化されたナノセルロースの濃度が0.3~2重量%(wt%)であり、癒着防止剤に含まれる総固形分中のアニオン化されたナノ材料の含有量が30~100重量%であり、温度が25~37℃(特に37℃付近)における粘度が0.5~2000mPa・s(特に、0.5~1000mPa・s)である、癒着防止剤が挙げられる。
【0066】
癒着防止剤の好ましい他の実施形態としては、アニオン化されたナノ材料及び液状媒体(特に、水性液状媒体)を含む水性分散液であり、アニオン化されたナノ材料が、カルボキシル基の濃度が0.1~2.5mmol/gであるカルボキシル化されたナノキチン(特に、カルボキシル化キチンNC)であり、癒着防止剤に含まれるカルボキシル化されたナノキチンの濃度が0.3~2重量%(wt%)であり、癒着防止剤に含まれる総固形分中のアニオン化されたナノ材料の含有量が30~100重量%であり、温度が25~37℃(特に37℃付近)における粘度が0.5~2000mPa・s(特に、0.5~1000mPa・s)である、癒着防止剤が挙げられる。
【0067】
2.癒着防止剤の調製
本発明に係る癒着防止剤は、アニオン化されたナノ材料及び液状媒体を含むことが好ましく、本発明の癒着防止効果を発揮できる範囲で、必要に応じ、更に他の成分を添加してもよい。癒着防止剤は、通常、アニオン化されたナノ材料と液状媒体とを混合して調製することができる。具体的には、液状媒体中にアニオン化されたナノ材料を均一に分散させることにより調製することができる。分散方法としては、超音波分散法、撹拌法(例えば、ホモミキサー等)等を用いて均一に分散させることにより調製することができる。
【0068】
本発明の癒着防止剤は、腹腔内の臓器、組織等に適用されることから、滅菌処理されていることが好ましい。滅菌処理は、高圧蒸気滅菌、ろ過滅菌、電子線滅菌等の公知の方法が採用できる。
【0069】
3.癒着防止剤の使用方法
本発明の癒着防止剤は、癒着を防止する部位に使用(適用)することで効果的に癒着を防止できる。
【0070】
癒着を防止する部位としては、例えば、人又は動物の臓器、組織等における炎症部位又は損傷部位が挙げられる。特に、手術の切開部位、手術中の処置により人為的に生じた損傷部位、体内の内因性又は外因性の炎症部位等が挙げられる。臓器としては、例えば、胃、小腸、大腸、十二指腸、腸間膜、腹膜、盲腸、肝臓、心臓、心膜、肺、脳、卵巣、子宮、脾臓、大網、眼球等が挙げられ、組織としては、例えば、骨、脊椎、神経、軟骨、靱帯、腱、皮膚、管(血管、卵管等)、脂肪等が挙げられる。
【0071】
本発明の癒着防止剤は、粘度が小さく適度な流動性を有する液状分散体(例えば、水性分散液)の剤型とすることにより、癒着発生が明確に予測される上記の腹壁切開創下や損傷部だけでなく、癒着発生部位が予測困難な腸管、とりわけ小腸といった腹腔内の広範囲にわたる組織表面全体に有効成分を接触又は付着させて癒着を防止することができる。
【0072】
本発明の癒着防止剤は、液状分散体(例えば、水性分散液)の剤型とすることができ、通常、液剤、スプレー剤(エアゾール剤、ポンプスプレー剤等)、塗布剤、注射剤等に製剤化することができる。この製剤を、癒着を防止する部位の表面に、滴下、曝露、スプレー、塗布等して投与することができる。
【0073】
癒着防止剤の使用量は、その癒着防止効果が発揮できる量であれば特に限定はない。癒着防止剤(液状分散体)は、癒着を防止する部位が癒着防止剤で被覆されるように適用することができる。
【0074】
本発明の癒着防止剤は、2液剤型の癒着防止剤に必要な使用前の調合、シート状の癒着防止材に必要な形状又はサイズの調整等のような複雑な前処理を経ることなくそのまま癒着を防止する部位に適用できるため、取扱い性に優れている。そのため、特に、低侵襲の内視鏡手術において好適に用いられる。
【0075】
本明細書において用いられる用語「を含む」、「を含有する」又は「を有する」には、「から必須としてなる」及び「のみからなる」の概念も包含するものとして解釈される。
【実施例
【0076】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
実施例及び比較例に用いた材料について説明する。なお、以下の実施例及び比較例で用いる略記号の意味は、次のとおりである。
CNF:セルロースナノファイバー
CNC:セルロースナノクリスタル
CMC:カルボキシメチルセルロース
キチンNC:キチンナノクリスタル
キチンNF:キチンナノファイバー
キトサンNF:キトサンナノファイバー
TEMPO:2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル
DMSO:ジメチルスルホキシド
【0078】
実施例及び比較例で得られた分散液の性質は、以下のように測定した。
【0079】
[固形分濃度の測定]
固形分濃度は、水分計(MOC63u、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。標準乾燥自動停止モード(乾燥温度:105℃、終了条件:30秒間の水分変化率が0.05%以下)で分散液の固形分濃度を測定した。
【0080】
[形状(繊維長、繊維径)の測定]
走査型プローブ顕微鏡を用いて繊維形状を測定した。超純水で0.005重量%(wt%)に希釈した分散液10μLをマイカ基板に滴下し、室温で乾燥させ、観察用試料とした。試料を走査型プローブ顕微鏡(環境制御型ユニットE-sweep、株式会社日立ハイテクサイエンス製)にセットし、マイクロカンチレバーSI-DF40(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、DFMモードで繊維画像を取得した(図1(a)、図1(b)及び図1(c))。
画像からランダムに50個の繊維を選択し、画像解析ソフト(Gwyddion、http://gwyddion.net/)を用いて1本1本の繊維長及び繊維径を測定し、それぞれ最小及び最大の数値範囲で表した。また、繊維長及び繊維径の平均を相加平均にて求めた。なお、ファイバーの繊維長の最大値については、正確な測定が困難であるため、おおよその値として示した。
【0081】
[導入官能基含量の測定1](カルボキシル基の濃度)
伝導度滴定法によりカルボキシル基濃度を測定した。具体的には、ナノセルロース分散液又はナノキチン分散液を0.3wt%に調整後、0.1N塩酸水溶液によってpHを約2.0に調整した。電位差自動滴定装置(AT-510、京都電子工業株式会社製)を用い、0.05N水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHが11になるまで電気伝導度を測定した。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式に従い、カルボキシル基濃度を求めた。
カルボキシル基濃度(mmol/g)=V(mL)×0.05/ナノセルロース重量(g)
カルボキシル基濃度(mmol/g)=V(mL)×0.05/ナノキチン重量(g)
【0082】
[導入官能基含量の測定2](リン酸エステル基又は硫酸エステル基の濃度)
先行文献(特開2017-25468号)を参考に、リン酸エステル基又は硫酸エステル基濃度を測定した。具体的には、リン酸エステル化CNF分散液又は硫酸エステル化CNF分散液を0.2wt%に調整し、強酸性イオン交換樹脂による処理を行った後に、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、電気伝導度を測定した。強酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式に従い、リン酸エステル基又は硫酸エステル基濃度を求めた。
リン酸エステル基濃度(mmol/g)=V(mL)×0.1/ナノセルロース重量(g)
硫酸エステル基濃度(mmol/g)=V(mL)×0.1/ナノセルロース重量(g)
【0083】
[粘度の測定]
回転式粘度計(HAAKE RS-6000、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて粘度を測定する。実際には、Rotモード(回転粘度測定)にて、各分散液を下部プレート(Lower Plate TMP60)にのせ、センサー(Cone C60/1° Ti L)を用いて測定し(Rot時間依存性測定;モード:CR、せん断速度:100 1/s、ギャップ0.052mm、温度:25℃及び37℃)、測定開始5分後までの粘度平均値を計測した。なお、純水の粘度は、25℃で0.83mPa・s、37℃で0.70mPa・sであった。
【0084】
[カルボキシル基を導入したCNFの製造例]
先行文献(特開2013-249448号、セルロース繊維B6の製造)を参考に、カルボキシル基を導入したCNFを製造した。
具体的には、針葉樹パルプ2gに、水150mL、臭化ナトリウム0.25g、TEMPO試薬0.025gを加え、13wt%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を24.0mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応中は、0.5N水酸化ナトリウムを滴下しながら分散液のpHを10~11に保持し、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間は120分)。
反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和し、ろ過と水洗を繰り返して精製した後、ミクロフィブリルの表面が酸化されたセルロース繊維を得た。遠心分離機で固液分離した後、純水を加えて固形分濃度4wt%に調整した。
24%水酸化ナトリウム水溶液にてスラリーのpHを10に調整し、スラリーの温度を30℃として水素化ホウ素ナトリウムをセルロースの繊維に対して0.2mmol/g加え、2時間反応させることで還元処理した。反応後、0.1N塩酸を添加して中和し、ろ過と水洗を繰り返して精製した後、セルロース繊維を得た。
これに純水を加え1wt%に希釈し、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング社製、H11)を用いて圧力100MPaで1回処理し、カルボキシル基を導入したCNFを製造した。
【0085】
[実施例1~4](カルボキシル化CNF分散液の調製)
上記のカルボキシル基を導入したCNFに、固形分濃度が0.2wt%(実施例1),0.4wt%(実施例2),0.8wt%(実施例3)及び1.2wt%(実施例4)になるように蒸留水(大塚蒸留水、株式会社大塚製薬工場製)を加えた後、高速回転ミキサー(ポリトロンホモジナイザー、株式会社セントラル科学貿易製)処理を行うことで均一なカルボキシル化CNF分散液を得た。得られた分散液は、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0086】
[リン酸エステル基を導入したCNFの製造例]
先行文献(特開2017-25468号、比較例2)を参考に、リン酸エステル基を導入したCNFを製造した。
具体的には、尿素30.0g、リン酸二水素ナトリウム二水和物16.6g、リン酸水素二ナトリウム12.4gを純水32.8gに溶解させて、リン酸化試薬を調製した。針葉樹晒クラフトパルプのシートを、カッターミル及びピンミルで処理し、綿状の繊維にした後、この繊維を絶乾重量で30g取り、リン酸化試薬を均一に吹きかけ、薬液含浸パルプを得た。
次に、薬液含浸パルプを140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機にて120分間加熱処理し、リン酸エステル化パルプを得た。これをパルプ質量で3g分取し、イオン交換水300mLを加え、攪拌して均一に分散させた後、ろ過脱水して脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートをイオン交換水300mLで希釈し、攪拌しながら1N水酸化ナトリウムを滴下しイオン交換水300mLを加え、pH12~13のパルプスラリーを得た。このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、イオン交換水300mLを加え、攪拌して均一に分散させた後、ろ過脱水して脱水シートを得る工程を2回繰り返した。
洗浄脱水後に得られたリン酸エステル化パルプの脱水シートにイオン交換水を加え、攪拌し、0.5wt%のスラリーにした。このスラリーを解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス-2.2S)を用いて、21500回転/分で30分間処理し、リン酸エステル基を導入したCNFを製造した。
【0087】
[実施例5~6](リン酸エステル化CNF分散液の調製)
上記のリン酸エステル基を導入したCNFに、固形分濃度が0.8wt%(実施例5)及び1.2wt%(実施例6)になるように蒸留水を加えた後、高速回転ミキサー処理を行うことで均一なリン酸エステル化CNF分散液を得た。得られた分散液は、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0088】
[硫酸エステル基を導入したCNFの製造例]
先行文献(国際公開第2018/131721号、実施例14)を参考に、硫酸エステル基を導入したCNFを製造した。
具体的には、DMSO18g、無水酢酸2g(解繊溶液における濃度は9.8wt%)と硫酸0.5g(解繊溶液における濃度は2.4wt%)を50mLのサンプル瓶に入れ、十分に攪拌後、解繊溶液を調製した。この解繊溶液にセルロースパルプ0.6gを加え、室温(23℃)で80分攪拌した。次に、0.75wt%炭酸水素ナトリウム水溶液400mLを加え、室温(23℃)で10分間混ぜた後、遠心分離により上澄みを除いた。残った沈殿物(セルロース繊維)に純水400mLを加えて均一分散するまで攪拌し、遠心分離により上澄みを除き、同様の操作を4回繰り返した。
遠心分離によって得られた沈殿物に純水を加え、全体の重量が150gになるまで希釈した。これを、高速回転ミキサー(ポリトロンホモジナイザー、株式会社セントラル科学貿易製)を用いて3分間攪拌することによって硫酸エステル基を導入したCNFを製造した。
【0089】
[実施例7](硫酸エステル化CNF分散液の調製)
上記の硫酸エステル基を導入したCNFに、固形分濃度が0.8wt%(実施例7)になるように蒸留水を加えた後、高速回転ミキサー処理を行うことで均一な硫酸エステル化CNF分散液を得た。
【0090】
[比較例1](未修飾CNF分散液の調製)
セルロースミクロフィブリルの表面に化学修飾を施していない未修飾CNFとして、市販のBiNFi-s(登録商標)、WMa-10002(株式会社スギノマシン製、固形分濃度2.0wt%)を使用した。固形分濃度が0.8wt%(比較例1)になるように蒸留水を加えた後、高速回転ミキサー処理を行うことで未修飾CNF分散液を得た。得られた分散液は、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0091】
[比較例2~3](CMC溶液の調製)
ミクロフィブリルを有しないセルロースとして、市販のカルボキシメチルセルロースナトリウム(セロゲンAGガムMキョクホウ、エーテル化度0.82、第一工業製薬株式会社製)を使用した。固形分濃度が0.8wt%(比較例2)及び1.5wt%(比較例3)になるように蒸留水に溶解させた後、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0092】
[実施例8~13](カルボキシル化CNC分散液の調製)
セルロースミクロフィブリル表面のグルコースの6位にカルボキシル基を導入したCNCとして、市販のカルボキシル化CNC(Cellulose Lab社製、TEMPO酸化品、官能基濃度1.2又は2.0mmol/g、固形分濃度2.0wt%)を使用した。固形分濃度が0.1wt%(実施例8),0.5wt%(実施例9),1.0wt%(実施例10),1.5wt%(実施例11)及び2.0wt%(実施例12)、1.2wt%(実施例13)になるように蒸留水を加えた後、高速回転ミキサー処理を行うことで均一なカルボキシル化CNC分散液を得た。得られた分散液は、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0093】
[カルボキシル基を導入したCNCの製造例]
先行文献(国際公開第2018/230354号、ACS Sustainable Chem Eng 2020, 8, 17800-17806)を参考に、セルロースミクロフィブリル表面のグルコースの2位及び3位にカルボキシル基を導入したCNCを製造した。
具体的には、次亜塩素酸ナトリウム五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)42.8gに、水、6M塩酸、未修飾CNC(固形分量1g)を加えて攪拌し、濃度22%、pH11.0の水溶液とした。前記水溶液を30℃に保温しながら、pH11.0を維持するために5M水酸化ナトリウムを添加して、2時間スターラーで攪拌した。得られた液に酸化還元電位が-100mV以下となるまで亜硫酸ナトリウムを加え、残存する次亜塩素酸ナトリウムを還元して反応を終了した。透析チューブ(材質:再生セルロース、分画分子量:3,500、Fisher Scientific社製)に入れ、1週間の透析を行った。超音波ホモジナイザー(LUH300、ヤマト科学株式会社製)を用いて、定振幅制御モード(出力振幅設定値:55%)で3分間のインターバル運転(1分間ON→1分間OFF)を行い、懸濁液を超音波破砕した。破砕処理後の懸濁液を遠心分離し、上清を回収し、カルボキシル基を導入したCNCを製造した。
【0094】
[実施例14](カルボキシル化CNC分散液の調製)
上記のカルボキシル基を導入したCNCに、固形分濃度が1.0wt%(実施例14)になるように蒸留水(大塚蒸留水、株式会社大塚製薬工場製)を加え、カルボキシル化CNC分散液を得た。得られた分散液は、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0095】
[硫酸エステル基を導入したCNCの製造例]
先行文献(Cellulose Commun,2016,23,193-199)を参考に、硫酸エステル基を導入したCNCを製造した。
具体的には、木材由来微結晶セルロース(ナカライテスク株式会社)10gを65%硫酸100mLに懸濁し、45℃で60分間撹拌した。蒸留水200mLを加え、反応を停止させた。反応液を遠心分離し、上澄みをデカントで捨て、沈殿物に蒸留水を適量加え、激しく振盪することで完全に懸濁した後、再度遠心分離した。遠心分離後の上澄みが透明の間、この洗浄工程を繰り返した。遠心分離後、上澄みが濁った状態になったら、上澄みを回収した。上澄みが濁っている間は回収工程を継続し、濁りが無くなった時点で回収を終了した。回収したCNC懸濁液を透析膜(MWCO14000)に入れ、透析外液が中性になるまで透析した。CNC懸濁液を透析膜に入れたまま10%濃度のポリエチレングリコール(分子量20000)溶液に浸漬し、固形分濃度が2%程度になるまで濃縮した。
【0096】
[実施例15](硫酸エステル化CNC分散液の調製)
上記の硫酸エステル基を導入したCNCに、固形分濃度が1.0wt%(実施例15)になるように蒸留水(大塚蒸留水、株式会社大塚製薬工場製)を加え、硫酸エステル化CNC分散液を得た。得られた分散液は、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0097】
[カルボキシメチル基を導入したCNCの製造例]
先行文献(LWT-Food Science and Technology,2017,86,318-326)を参考に、カルボキシメチル基を導入したCNCを製造した。
具体的には、CNC粉末(Cellulose Lab社製)1gをイソプロパノール100mLに懸濁し、撹拌した。12N水酸化ナトリウム水溶液1mLを滴下し、撹拌を続けた。クロロ酢酸1.42gをイソプロパノール15mLに溶解させ、溶液として滴下し、50℃で50分間撹拌した。12N水酸化ナトリウム水溶液1mLを滴下し、60℃でさらに1時間撹拌した。90%酢酸水溶液0.5mLを滴下し、中性にした。反応液が室温に下がるまで静置した。桐山ロートでろ過し、残渣を80%メタノール75mLで2回洗浄した後、メタノール50mLで1回洗浄した。45℃で24時間乾燥させ、粉末状のカルボキシメチル基を導入したCNCを得た。
【0098】
[実施例16](カルボキシメチル化CNC分散液の調製)
上記のカルボキシメチル基を導入したCNCを、固形分濃度が1.0wt%(実施例16)になるように蒸留水(大塚蒸留水、株式会社大塚製薬工場製)に溶解させた後、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0099】
[比較例4](未修飾CNC分散液の調製)
セルロースミクロフィブリルの表面に化学修飾を施していない未修飾CNCとして、市販のCNC(Cellulose Lab社製、脱硫酸品、固形分濃度2.0wt%)を使用した。固形分濃度が1.5wt%(比較例4)になるように蒸留水を加えた後、高速回転ミキサー処理を行うことで均一な未修飾CNC分散液を得た。得られた分散液は、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0100】
[比較例5](4級アンモニウム化CNC分散液の調製)
セルロースミクロフィブリル表面に4級アンモニウム基を導入したCNCとして、市販の4級アンモニウム化CNC(Cellulose Lab社製、固形分濃度1.5wt%)(比較例5)を使用した。高速回転ミキサー処理後、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0101】
[カルボキシル基を導入したキチンNCの製造例]
Fanらの方法(Biomacromolecules 2008,9,192-198)を参考に、カルボキシル化キチンNCを製造した。
具体的には、キチン粉末(富士フイルム和光純薬株式会社製)3gに、水300mL、臭化ナトリウム0.3g、TEMPO試薬0.048gを加え、次亜塩素酸ナトリウム五水和物(有効塩素39%以上)10.1gを添加し、室温で反応を開始させた。反応中は、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら分散液のpHを10に保持し、45分間反応させた後、エタノール(99.5)を10mL添加し、酸化反応を停止させた。0.5N水酸化ナトリウム水溶液で反応液のpHを7.0付近に調整した後、遠心分離により上澄みを除いた。残った沈殿物に超純水を加えて均一分散するまで攪拌し、遠心分離により上澄みを除き、同様の操作を3回繰り返した。
遠心分離によって得られた沈殿物に超純水50mLを加え、懸濁後、透析チューブ(材質:再生セルロース、分画分子量:3,500、Fisher Scientific社製)に入れ、5日間の透析を行った。超音波ホモジナイザー(LUH300、ヤマト科学株式会社製)を用いて、定振幅制御モード(出力振幅設定値:55%)で60分間のインターバル運転(1分間ON→1分間OFF)を行い、懸濁液を超音波破砕した。破砕処理後の懸濁液を遠心分離し、上清を回収し、カルボキシル基を導入したキチンNCを製造した。
【0102】
[実施例17](カルボキシル化キチンNCの調製)
上記のカルボキシル基を導入したキチンNCに、固形分濃度が1.0wt%(実施例17)になるように蒸留水を加えた後、高速回転ミキサー処理を行うことで均一なカルボキシル化キチンNC分散液を得た。
【0103】
[比較例6](未修飾キチンNF分散液の調製)
キチンミクロフィブリルの表面に化学修飾を施していない未修飾キチンNFとして、市販のキチンNF(BiNFi-s(登録商標)、SFo-20002、株式会社スギノマシン製、固形分濃度2.0wt%)を使用した。固形分濃度が1.0wt%(比較例6)になるように蒸留水を加えた後、高速回転ミキサー処理を行うことで均一な未修飾キチンNF分散液を得た。得られた分散液は、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0104】
[比較例7](キトサンNF分散液の調製)
キトサンミクロフィブリルの表面に化学修飾を施していないキトサンNFとして、市販のキトサンNF(BiNFi-s(登録商標)、EFo-20002、株式会社スギノマシン製、固形分濃度2.0wt%)を使用した。固形分濃度が1.0wt%(比較例7)になるように蒸留水を加えた後、高速回転ミキサー処理を行うことで均一な未修飾キトサンNF分散液を得た。得られた分散液は、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った。
【0105】
実施例1~17及び比較例1~7の分散液の性質(形状、官能基、分散液の粘度)の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0106】
[実施例18](マウス癒着モデルを用いたカルボキシル化CNF分散液の癒着防止効果-未修飾CNF分散液及びCMC溶液との比較)
(試験方法)
6~7週齢のBALB/cA Jcl系雄性マウス(日本クレア株式会社製)を用い、ケタミン・キシラジン混合麻酔下にて開腹後、盲腸を露出した。盲腸の腸間膜反対側の1ヵ所を、バイポーラコアギュレーションフォーセプス(E4052-CT、コヴィディエンジャパン株式会社製)を用いて5Wの出力(SurgiStat、コヴィディエンジャパン株式会社製)で1秒間焼灼した。その後、カルボキシル化CNF分散液(実施例3)、未修飾CNF分散液(比較例1)、又はCMC溶液(比較例2)を0.25mL/bodyで腹腔内に滴下投与し、閉腹した。対照群は、同量の生理食塩液とした。なお、本試験方法は、Kosakaらの方法(Nature Medicine 2008, Vol.14, No.4, 437-441)を参考にした。術後7日目に試験群を秘匿した状態で、盲腸焼灼部と他の臓器の癒着を下記の6段階のスコアで評価した。群ごとに、癒着スコアの平均値±標準誤差を算出した。
スコア0:癒着なし
スコア1:1ヵ所の薄い膜状の癒着
スコア2:2ヵ所以上の薄い膜状の癒着
スコア3:局所的に厚い癒着
スコア4:播種状に付着した厚い癒着又は2ヵ所以上の局所的に厚い癒着
スコア5:極めて厚く血管新生も認められる癒着又は2ヵ所以上の播種状に付着した厚い癒着
(試験結果)
癒着評価の結果を図2に示した。カルボキシル化CNF分散液は、対照群と比較して明らかに癒着スコアを低減した。一方、未修飾CNF分散液及びCMC溶液は癒着スコアを低減しなかった。
これらの結果から、分散液中のセルロースがミクロフィブリル構造(セルロース分子鎖の集合体)を有するファイバー状であること、且つ、その表面がカルボキシル基に修飾されていることによって癒着防止作用が得られることが分かった。
【0107】
[実施例19](マウス癒着モデルを用いたカルボキシル化CNC分散液の癒着防止効果-未修飾CNC分散液、4級アンモニウム化CNC分散液、及びCMC溶液との比較)
(試験方法)
実施例18と同様の方法及び条件で試験を行った。カルボキシル化CNC分散液(実施例11)、未修飾CNC分散液(比較例4)、4級アンモニウム化CNC分散液(比較例5)又はCMC溶液(比較例3)を0.25mL/bodyで投与した。対照群は、同量の生理食塩液とした。
(試験結果)
癒着評価の結果を図3に示した。カルボキシル化CNC分散液は、対照群と比較して明らかに癒着スコアを低減した。一方、未修飾CNC分散液、4級アンモニウム化CNC分散液及びCMC溶液は癒着スコアを低減しなかった。
これらの結果から、分散液中のセルロースがミクロフィブリル構造を有するクリスタル状であること、且つ、その表面がカルボキシル基に修飾されていることによって癒着防止作用が得られることが分かった。一方、4級アンモニウム化したCNC分散液では癒着防止効果が見られなかったことから、ミクロフィブリル表面の修飾官能基を、カチオン性ではなくアニオン性とすることが重要である推察された。
【0108】
[実施例20](ラット小腸癒着モデルを用いたアニオン化CNF分散液の癒着防止効果-未修飾CNF分散液との比較)
(試験方法)
7~8週齢のCrl:CD(SD)系雄性ラット(日本チャールスリバー株式会社)を用い、ケタミン・キシラジン混合麻酔下にて開腹し、精巣上体周囲脂肪を切除した。回盲部を体外に露出させ、盲腸から10cmの範囲の小腸を指に巻きつけた乾燥ガーゼで溢血が認められる程度擦過した。臓器を腹腔内に戻し、生理食塩液10mLを用いて腹腔内を洗浄した。洗浄後の残液は可能な限り吸引除去した。その後、カルボキシル化CNF分散液(実施例3)、リン酸エステル化CNF分散液(実施例5)、硫酸エステル化CNF分散液(実施例7)、又は未修飾CNF分散液(比較例1)を2mL/bodyで腹腔内に滴下投与し、閉腹した。対照群は、同量の生理食塩液とした。なお、本試験方法は、山内らの方法(特開平7-101866号)を参考にした。術後7日目に試験群を秘匿した状態で、腸管を含む腹腔内の広範囲に形成される癒着の長さを測定した。群ごとに、癒着の長さ(mm)の平均値±標準誤差を算出した。
(試験結果)
癒着評価の結果を図4に示した。カルボキシル化CNF分散液、リン酸エステル化CNF分散液及び硫酸エステル化CNF分散液は、対照群と比較していずれも明らかに癒着の長さを低減した。一方、未修飾CNF分散液は癒着の長さを低減しなかった。
これらの結果から、セルロースナノファイバーのミクロフィブリル表面の化学修飾は、カルボキシル基に限らず、リン酸エステル基や硫酸エステル基といったアニオン性官能基に置換することによって癒着防止作用が得られることが分かった。
【0109】
[実施例21](ラット小腸癒着モデルを用いた各種アニオン化CNC分散液の癒着防止効果-生理食塩液との比較)
(試験方法)
実施例20と同様の方法及び条件で試験を行った。カルボキシル化CNC分散液(実施例14、グルコースの2位及び3位の水酸基をカルボキシル基に修飾)、硫酸エステル化CNC分散液(実施例15)、又はカルボキシメチル化CNC分散液(実施例16)を2mL/bodyで投与した。対照群は、それぞれ同量の生理食塩液とした。
(試験結果)
癒着評価の結果を図5に示した。カルボキシル化CNC分散液、硫酸エステル化CNC分散液及びカルボキシメチル化CNC分散液は、対照群と比較していずれも癒着の長さを低減した。
これらの結果から、セルロースナノクリスタルのミクロフィブリル表面の化学修飾は、カルボキシル基に限らず、硫酸エステル基やカルボキシメチル基といったアニオン性官能基に置換することによって癒着防止作用が得られることが分かった。さらに、グルコースの2位及び3位の水酸基をカルボキシル基に修飾したCNC(実施例14)及び後に実施例23に示すようにグルコースの6位の水酸基をカルボキシル基に修飾したCNC(実施例10)はいずれも癒着の長さを低減していることから、癒着防止作用においてカルボキシル基の修飾位置に選択性はないことが分かった。
【0110】
[実施例22](ラット小腸癒着モデルを用いたカルボキシル化CNF分散液の癒着防止効果-濃度依存性)
(試験方法)
実施例20と同様の方法及び条件で試験を行った。0.2wt%(実施例1),0.4wt%(実施例2)及び0.8wt%(実施例3)のカルボキシル化CNF分散液を2mL/bodyで投与した。対照群は、同量の生理食塩液とした。
(試験結果)
癒着評価の結果を図6に示した。対照群と比較して0.2wt%、0.4wt%及び0.8wt%の濃度において癒着の長さを低減した。更に、0.4wt%及び0.8wt%の濃度においては有意に癒着の長さを低減した。
【0111】
[実施例23](ラット小腸癒着モデルを用いたカルボキシル化CNC分散液の癒着防止効果-濃度依存性)
(試験方法)
実施例20と同様の方法及び条件で試験を行った。0.1wt%(実施例8),0.5wt%(実施例9),1.0wt%(実施例10),1.5wt%(実施例11)及び2.0wt%(実施例12)のカルボキシル化CNC分散液を2mL/bodyで投与した。対照群は、同量の生理食塩液とした。
(試験結果)
癒着評価の結果を図7に示した。対照群と比較して0.1~2.0wt%のすべての濃度で癒着の長さを低減した。更に1.5及び2.0wt%では有意に癒着の長さを低減した。
【0112】
[実施例24](ラット小腸癒着モデルを用いたカルボキシル化CNF分散液とカルボキシル化CNC分散液の癒着防止効果の比較)
(試験方法)
実施例20と同様の方法及び条件で試験を行った。1.2wt%のカルボキシル化CNF分散液(実施例4)と1.2wt%のカルボキシル化CNC(実施例13)分散液を2mL/bodyで投与した。対照群は、同量の生理食塩液とした。
(試験結果)
癒着評価の結果を図8に示した。カルボキシル化CNF分散液及びカルボキシル化CNC分散液は、対照群と比較していずれも癒着の長さを低減し、カルボキシル化CNC分散液は、カルボキシル化CNF分散液に対して有意に癒着の長さを低減した。
これらの結果から、癒着防止の効果がより向上する観点から、カルボキシル化CNFよりもカルボキシル化CNCがより好ましいことが分かった。
【0113】
[実施例25](ラット小腸癒着モデルを用いたカルボキシル化キチンNC分散液の癒着防止効果-未修飾キチンNF分散液、キトサンNF分散液との比較)
(試験方法)
実施例20と同様の方法及び条件で試験を行った。カルボキシル化キチンNC分散液(実施例17)、未修飾キチンNF分散液(比較例6)、又はキトサンNF分散液(比較例7)を2mL/bodyで投与した。対照群は、同量の生理食塩液とした。
(試験結果)
癒着評価の結果を図9に示した。カルボキシル化キチンNC分散液は、対照群と比較して明らかに癒着の長さを低減した。一方、未修飾キチンNF分散液は癒着の長さを低減しなかった。カチオン性のキトサンNF分散液では、明らかな癒着の増悪がみられた(10例中6例で多数の臓器が絡んだ塊状の癒着を形成していたため癒着の長さを正確に測定できなかった。従って、癒着の長さの平均を求めることは不可であった)。
これらの結果から、セルロースと同様に、キチンのミクロフィブリル表面がカルボキシル基に修飾されていることによって癒着防止作用が得られることが分かった。
【0114】
[実施例26](ウサギアキレス腱癒着モデルを用いたアニオン化CNF分散液の癒着防止効果)
(試験方法)
11週齢のKbl:JW系雄性ウサギ(北山ラベス株式会社製)を用い、ケタミン・キシラジン混合麻酔下でアキレス腱(ヒラメ筋腱)周囲の皮膚を剃毛した後、専用装具とギプス(スリーエムジャパン株式会社製)を用いて膝関節を90°、足首関節を180°に固定した。動物を腹臥位に固定し、足首周囲の皮膚をポビドンヨード(Meiji Seikaファルマ株式会社製)及び消毒用エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社)で交互に清拭し十分に消毒した。処置部の皮膚を2.5cm切開し、2cmの周囲組織を切除し、ヒラメ筋腱を単離した。腱をメスで切断後、5-0縫合糸を用いて単結紮およびModified-Kessler法で縫合した。出血がないことを確認した後、術部を生理食塩液で洗浄した。カルボキシル化CNF分散液(実施例4)又はリン酸エステル化CNF分散液(実施例6)を0.30mL/bodyで術部に滴下投与し閉創した。対照群は、同量の生理食塩液とした。皮膚を3-0ナイロン糸で縫合した。閉創部に医療脱脂綿(キュアレット、川本産業株式会社製)を置き、さらにギプス用包帯(オルテックス、村中医療器株式会社製)で覆った。大腿部から指先までをギプスで固定し、さらに伸縮包帯(エラストポア、ニチバン株式会社製)でギプスを保護した。術後14日目に試験群を秘匿した状態で、ヒラメ筋腱の処置範囲2cmを5つのエリアに分け、それぞれのエリアの癒着を下記の5段階のスコアで評価した。5つのエリアの合計を個体代表値とし、群ごとに、癒着スコアの平均値±標準誤差を算出した。
スコア0:癒着なし
スコア1:容易に鈍的に剥離可能
スコア2:鈍的に剥離可能
スコア3:一部に鋭的剥離を要する
スコア4:全てに鋭的剥離を要する
(試験結果)
癒着評価の結果を図10に示した。カルボキシル化CNF分散液及びリン酸エステル化CNF分散液は、対照群と比較して癒着スコアを低減した。
これらの結果から、アニオン化CNFは、腹部臓器の癒着防止に限らない、手足の腱においても癒着防止作用を発揮することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の癒着防止剤は、癒着を防止する部位に適用することにより、効果的に癒着を防止できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10