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特許7321618地下シェルター筐体の側壁構造、および地下シェルター筐体の側壁構造の築造方法
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  • 特許-地下シェルター筐体の側壁構造、および地下シェルター筐体の側壁構造の築造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】地下シェルター筐体の側壁構造、および地下シェルター筐体の側壁構造の築造方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
E04H9/14 K
E04H9/14 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023017170
(22)【出願日】2023-02-07
【審査請求日】2023-02-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517357826
【氏名又は名称】株式会社シェルタージャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196106
【弁理士】
【氏名又は名称】杉田 一直
(72)【発明者】
【氏名】矢野 昭彦
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-250144(JP,A)
【文献】特開平09-125426(JP,A)
【文献】特開2006-057444(JP,A)
【文献】特開昭61-113973(JP,A)
【文献】特開2005-171488(JP,A)
【文献】特開2018-059349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
E02D 29/045-29/055
E02D 5/04-5/08
E04B 2/86
E04B 1/16
E04G 9/00-9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面が地中面に接触する鋼製外殻部と、
鉄筋コンクリート製の側壁部と、
前記側壁部に密着した状態で、前記鋼製外殻部の内面に接触するシート層と、を備え、
前記シート層は、防水性能を具備するとともに水蒸気透過性能を具備する防水シートと、水分を通過させることができる排水シートとを有し、前記防水シートは、前記排水シートを介して前記鋼製外殻部に接触することを特徴とする地下シェルター筐体の側壁構造。
【請求項2】
前記防水シートは、上下方向に延びるしわが形成されることを特徴とする請求項に記載の地下シェルター筐体の側壁構造。
【請求項3】
前記鋼製外殻部は、相互に接合された状態で環状に配置される鋼矢板を有することを特徴とする請求項1または2に記載の地下シェルター筐体の側壁構造。
【請求項4】
前記鋼矢板の接合部は、前記鋼製外殻部の径方向に突出する突出部に配置されることを特徴とする請求項に記載の地下シェルター筐体の側壁構造。
【請求項5】
前記突出部は、前記鋼製外殻部の径方向の凹凸を平坦化するとともに前記接合部を止水するための充填材が充填されることを特徴とする請求項に記載の地下シェルター筐体の側壁構造。
【請求項6】
外面が地中面に接触する鋼製外殻部と、鉄筋コンクリート製の側壁部と、前記側壁部に密着した状態で、前記鋼製外殻部の内面に接触するシート層と、を備え、前記シート層は、防水性能を具備するとともに水蒸気透過性能を具備する防水シートと、水分を通過させることができる排水シートとを有し、前記防水シートは、前記排水シートを介して前記鋼製外殻部に接触することを特徴とする地下シェルター筐体の側壁構造の築造方法であって、
鋼矢板を地中に打設して前記鋼製外殻部を築造する工程と、
前記鋼製外殻部の内部領域を掘削する工程と、
前記鋼製外殻部の内面にシート層を貼り付ける工程と、
前記内面に対向する位置に型枠を設置する工程と、
前記鋼製外殻部と前記型枠との間の隙間に生コンクリートを打設する工程と、
を備えることを特徴とする地下シェルター筐体の側壁構造の築造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下に埋設される地下シェルター筐体の側壁構造、およびその側壁構造の築造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災では、地震、津波、火災が複合的に発生して多くの尊い人命が失われた。今後の発生が想定されている東海、東南海、南海の三連動地震では、東日本大震災を上回る規模の災害が予測されている。また、海外では、核兵器や、生物・化学兵器の開発による緊張状態が続いており、これらの兵器を使用した軍事攻撃の脅威が高まっている。これらの自然災害や有事災害から身を守る対策として、身近な場所に設置された地下シェルターへの避難が考えられる。地下シェルターは、経済性、施工性を勘案すると、鉄筋コンクリート製とすることが有力な選択肢となる。
【0003】
鉄筋コンクリート製の地下シェルターは、強度に優れたシェルターの筐体部分を地下に埋設できることから、火災に対して、また、核兵器などに起因する放射能に対して、他のシェルター、たとえば地上に設置するシェルターと比較して有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6593818号公報
【文献】特許第6593816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、鉄筋コンクリート製の地下シェルターは、地下水が地下室内に浸透するための通路網が形成されやすい。そのため、雨水が地中に浸透すること、あるいは地下水位が所定高さよりも高いことに起因して地下水の地下室内への浸透が懸念される。
【0006】
地下水が地下室内へ浸透すると、地下室内の湿度が上昇することから、避難環境が劣化する一因となる。さらに、コンクリーの内部に地下水が通過する通路網が形成されることで、地下シェルターの強度低下の一因となる。通路網は、網の目状に張り巡らせられる非常に細かいコンクリートのひび割れである場合が多く、その範囲を特定することはほぼ不可能である。このように地下水の浸透の真因が究明し難いことから、ひとたび地下室内への浸水が確認された場合は、有効な対策を講じることは極めて困難となる。
【0007】
本発明は、これらの問題点に着目してなされたものであり、水密性能が高く耐久性に優れた地下シェルター筐体の側壁構造、およびその側壁構造の築造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための発明は、地下シェルター筐体の側壁構造であって、外面が地中面に接触する鋼製外殻部と、鉄筋コンクリート製の側壁部と、側壁部に密着した状態で、鋼製外殻部の内面に接触するシート層と、を備え、シート層は、防水性能を具備するとともに水蒸気透過性能を具備する防水シートを有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、鉄筋コンクリート製の側壁部は、防水性能を具備するとともに水蒸気透過性能を具備する防水シートで覆われているので、何らかの要因で、仮に側壁部のコンクリートに微細なひび割れが発生したとしても、地下水のコンクリート内部への侵入は、防水シートで阻止される。また、一定要件下、鉄筋コンクリートに含まれる水分を外部に排出できる。また、防水シートは、鋼製外殻部の内面に接触しており、鋼製外殻部によって保護される。これにより、防水シートの破損、劣化等を免れ得る。
【0010】
好ましくは、シート層は、水分を通過させることができる排水シートを有し、防水シートは、排水シートを介して鋼製外殻部に接触することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、シート層は、鋼製外殻部と防水シートの双方に接触する、水分を通過させることができる排水シートを有するので、側壁部を構成する鉄筋コンクリートが硬化するとき、生コンクリートに含まれる水分を効率よく外部に排出することができる。
【0012】
好ましくは、防水シートは、上下方向に延びるしわが形成されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、防水シートは、上下方向に延びるしわが形成されるので、コンクリートに含まれる水分は、しわで集められて、排水シートを経由して外部に排出される。これにより、より一層の水分排出効果が期待できる。
【0014】
好ましくは、鋼製外殻部は、相互に接合された状態で環状に配置される鋼矢板を有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、鋼製外殻部は、相互に接合された状態で環状に配置される鋼矢板を有するので、鋼製外殻部は、高強度で施工性に優れた構成となる。
【0016】
好ましくは、鋼矢板の接合部は、鋼製外殻部の径方向に突出する突出部に配置されることを特徴とする。
【0017】
鋼矢板の接合部は、構造上、若干の隙間が設けられる状態であることから、鋼製外殻部の内部に侵入する地下水は、ほとんどが接合部を経由すると考えられる。この構成のように、接合部を鋼製外殻部の径方向に突出する突出部に配置することで、地下水が接合部を経由して側壁部内面に至る距離を長くすることができる。
【0018】
好ましくは、突出部は、鋼製外殻部の径方向の凹凸を平坦化するとともに接合部を止水するための充填材が充填されることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、突出部は、鋼製外殻部の径方向の凹凸を平坦化するとともに接合部を止水するための充填材が充填されるので、接合部からの地下水の侵入を防止できる。また、鋼製外殻部の径方向の凹凸を平坦化することで防水シートを平坦な面に設けることができる。
【0020】
上記課題を解決するための他の態様の発明は、地中面に接する鋼製外殻部と、鉄筋コンクリート製の側壁部と、前記壁と一体となった状態で、鋼製外殻部に接触するシート層とを備え、シート層は、防水性能を具備するとともに水蒸気透過性能を具備する防水シートを有することを特徴とする地下シェルター筐体の側壁構造の築造方法であって、鋼矢板を地中に打設して鋼製外殻部を築造する工程と、鋼製外殻部の内部領域を掘削する工程と、鋼製外殻部の内面にシート層を貼り付ける工程と、内面に対向する位置に型枠を設置する工程と、鋼製外殻部と型枠との間の隙間に生コンクリートを打設する工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、打設された生コンクリートが硬化するとき、生コンクリート中に含まれる水分は、生コンクリートが硬化するときの水和反応によって温度が上昇し、水蒸気となって防水シートから排出されて水滴となる。防水シートから排出された水滴は、防水シートの外面を経由して上昇し、外部に排出される。この現象によって硬化した生コンクリートの組成は、シート層近傍が緻密となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態における側壁構造の正面断面図である。
図2】同、部分平面断面図である。
図3】変形例1における側壁構造の部分平面断面図である。
図4】変形例2における側壁構造の部分平面断面図である。
図5】(a)~(c)は、築造手順を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1、2を参照して、本発明の地下シェルター筐体100の側壁構造1の実施形態を詳述する。
【0024】
地下シェルター筐体100は、床スラブ2、側壁構造1、中間スラブ4、および天井スラブ3を有している。側壁構造1の下端は、床スラブ2に、上端は天井スラブ3に接合している。また、側壁構造1の中間部は、地下空間100aを上下の2層に仕切るための中間スラブ4が設けられている。地下空間100aを上下の2層に仕切ることで、地下空間100aの効率的な利用が可能になる。中間スラブ4は、地下空間100aを上下方向に往来するための開口部(図示略)が設けられている。
【0025】
側壁構造1は、鋼製外殻部10、シート層15、および側壁部12を有している。本実施形態は、側壁構造1の内面の形状を、平面視で円形としているが、これに限られるものではない。楕円、小判型、多角形のいずれであってもよい。側壁構造1は、地上に露出しないことが好ましい。
【0026】
鋼製外殻部10は、鋼矢板11同士が接合された状態で環状に組まれた構造である。鋼矢板11の外面は地中面110に接触しており、下端部は地中に埋設されている。地中面110とは、地下シェルター筐体100を築造する前は、地中に位置して、施工後に地表面140より低い高さに位置する構造物(本実施形態で鋼矢板11となる。)と接する面である。
【0027】
鋼矢板11は径方向に突出する突出部11aを有しており、鋼矢板11の接合部13はこの突出部11aに位置するように配置されている。接合部13を突出部11aに配置することで、接合部13を側壁部12の表面に近い位置に設けた場合に比べて、側壁部12からの距離を長くすることができる。これにより、仮に接合部13から地下水等が浸透した場合でも、浸透した地下水が側壁部12の表面に到達する距離を長くできる。結果として水密性能の向上が期待できる。
【0028】
鋼矢板11の内面側の凹凸を平坦化するために、突出部11aに充填材14が充填されている。充填材14は、止水性能に優れ、施工が容易な素材であることが好ましい。具体的には、モルタル、硬質ウレタンなどであることが好ましい。例えば、モルタルを突出部11aに吹き付けた後、表面の凹凸を均すことで、鋼矢板11の内面側の凹凸を簡単に平坦化することができる。また、モルタルが硬化することで止水効果を得ることができる。なお、鋼矢板11の内面側の凹凸とは、鋼製外殻部10の径方向の凹凸に対応するものである。
【0029】
シート層15は、防水シート16と排水シート17が層状に積層された構造である。防水シート16は、防水性能を具備するとともに水蒸気透過性能を具備しており、側壁部12と密着している。排水シート17は、側壁部12に含まれる水分を排出するためのものであり、一方の面は、鋼矢板11の内面および充填材14の表面に接しており、他方の面は防水シート16に接している。
【0030】
防水シート16の素材は、JIS A6111:2016の規格で定められた水蒸気透過性能、防水性能を満たす素材であることが好ましい。例えば、デュポン社製タイベック(登録商標)シルバー(以後、タイベックシルバーと記す。)、デュポン社製タイベック(登録商標)ドレインラップ(以後、ドレインラップと記す。)が例示されるが、これに限るものではない。
【0031】
タイベックシルバーは、高密度ポリエチレン不織布にアルミニウムを蒸着させ、さらに繊維の一本一本にアルミニウムの劣化を防ぐ抗酸化樹脂コーティングを施したシートである。アルミニウムを挟んだだけの他社製品とは異なり、長期間使用しても遮熱性、防水性の劣化が少ない強靭な素材である。アルミニウムは、高い赤外線反射率を持ち、熱の放射を抑える特徴があり、高い遮熱性を有している。例えば、火災のとき、地下空間100aの温度上昇を抑制する効果が期待できる。
【0032】
ドレインラップは、高密度ポリエチレン不織布に、上下方向に延びる「しわ」が形成されたシートである。この「しわ」によって生コンクリートに含まれる水分の排出がより一層促進される。
【0033】
防水シート16は、地下シェルター筐体100を設置する場所の地質、地下水位、地下シェルターの要求性能などを勘案して適宜に選定すればよい。
【0034】
排水シート17の素材は、コンクリート型枠用の透水性シートであることが好ましい。この透水性シートはコンクリートの打設時に、型枠に張り付けて使用される素材である。生コンクリートが硬化するときに、コンクリート中の余剰水と気泡を通過させる機能を具備している。本実施形態では、アバノン(登録商標)が例示されるが、これに限るものではない。
【0035】
アバノンは、コンクリート中の余剰水と気泡を通過させる透水不織布と、透過したものを速やかに外部に排出させる排水不織布を貼り合わせた透水性型枠用シートであり、型枠に張り付けて使用することで、コンクリート表面付近の強度が増加し、表面に緻密な層ができて耐久性の向上を図ることができるものである。
【0036】
側壁部12は、鉄筋コンクリート製であり、一方の面は防水シート16に密着し、他方の面は、地下空間100aを画定している。側壁部12の厚さは、所定の放射線遮蔽性能を具備する厚さを確保することが好ましい。本実施形態では、20~40cmが例示されるが、これに限定されるわけではない。また、側壁部12を構成する鉄筋コンクリートの鉄筋量は少なくとも、コンクリートに発生するひび割れの幅を、所定幅以下に抑制できる量とすることが好ましい。側壁構造1の鉄筋量については、地下シェルター筐体100に作用する外力などを勘案して適宜に設定する。
【0037】
側壁部12の施工中に打設される生コンクリートに含まれる水分は、生コンクリートが硬化するとき水蒸気となって防水シート16から排出されて水滴となる。防水シート16から排出された水滴は、排水シート17を経由して外部に排出される。このように、生コンクリートに含まれる水分が、シート層15を経由して外部に排出されることで、生コンクリートが硬化するとき、シート層15近傍のコンクリートの組成は緻密になり、水密な層が形成される。水密な層は、他のコンクリートの部位に比べて、強度が増加し、耐久性の向上を図ることができる。
【0038】
地下シェルターの築造が完了した状態において、側壁部12に打設された生コンクリートは硬化しており、防水シート16に密着するコンクリートの近傍層は、緻密なコンクリート層となり水密性の高い層を形成している。また、側壁部12の外面は防水シート16に覆われていることから、鋼矢板11を経由して侵入しようとする地下水は防水シート16によってその侵入は遮断される。仮に、地下水が壁部に侵入したとしても水密性が高い側壁部12で遮断できる。これにより、地下水の地下空間100aへの侵入は防止できて、快適な地下空間100aを創出することができる。
【0039】
床スラブ2は、側面が鋼製外殻部10の下端部に接合する鉄筋コンクリート製の板状部材である。床スラブ2の厚さは、20~40cmであることが好ましいが、これに限定されるわけではない。また、床スラブ2と鋼矢板11との接合部13分は鋼矢板11にスタットジベルを取り付けた状態で接合することが好ましい。これにより、鋼矢板11と床スラブ2の構造的な一体化を図ることができる。
【0040】
天井スラブ3は、側壁構造1の上端に接合する鉄筋コンクリート製の板状部材であり、鋼矢板11の上端外周と接続する接合部13を有している。また、外部空間120と地下空間100aを往来するための開口部(図示略)が設けられている。天井スラブ3は所定の放射線遮蔽性能を具備できる厚さとすることが好ましい。具体的には、20~40cmであるが、これに限定されるわけではない。強度および放射線遮蔽性能をより一層高めるためる必要がある場合は、重量コンクリートを用いることが好ましい。また、接合部13と鋼製外殻部10との接合箇所は鋼製外殻部10にスタットジベルを取り付けた状態で接合することが好ましい。これにより、鋼矢板11と天井スラブ3の構造的な一体化を図ることができる。
【0041】
本実施形態では、天井スラブ3の上面は、地表面140とほぼ面一となっているが、天井スラブ3の一部または全部が地中130から突出してもよい。
【0042】
地下シェルター筐体100の築造について、図5を参照して説明する。
【0043】
鋼矢板11同士の接合部13が突部に位置するようにして鋼矢板11を順次地中130に打設して、環状に配置する(図5(a)参照)。鋼矢板11の打設は、周辺環境に配慮して、騒音や振動を極力抑えて行うことが好ましい。また、鋼矢板11同士の接合部13に止水対策を施しておくことが好ましい。また、打設する鋼矢板11は、内部を掘削したとき、ボイリングやパイピングが生じない根入れ長さを確保することが好ましい。
【0044】
鋼矢板11の外周の地中130を掘削した後、鉄筋コンクリート製の環状外周部5を築造する。鋼矢板11には、環状外周部5に埋設されるスタッドジベルが溶接されている。これにより、環状外周部5は、鋼矢板11の上端外周部と強固に結合する。
【0045】
鋼矢板11の内部領域を掘削した後、鋼矢板11にジベルを溶接して配筋を行い、生コンクリートを打設して、床スラブ2を築造する。
【0046】
突部にモルタルを吹き付けた後、モルタルを吹き付けた表面を均して、鋼矢板11の内面側の凹凸を平坦化する。平坦化した面に防水シート16を張り付け、さらに排水シート17を重ねて張り付ける(図5(b)、図2参照)。
【0047】
ライナープレートを用いた型枠を設置し、シート層15と型枠との間の隙間に生コンクリートを打設する。本実施形態では、剛性が高く強度に優れたライナープレートを型枠に使用している。ライナープレートのコンクリート接触面の凹凸は平坦化しておく。ライナープレートを型枠に使用することで、セパレーターの取付本数を極力減らすとともに、一回に打設する打設高さを極力高くすることができる。
【0048】
打設するコンクリートは、所定のワーカビリティーが確保できるもののうち、水セメント比が極力小さいものであることが好ましい。
【0049】
生コンクリート中に含まれる水分は、生コンクリートが硬化するときの水和反応によって温度が上昇することで、水蒸気となって防水シート16から排出されて水滴となる。防水シート16から排出された水滴は、排水シート17を経由して上昇し、外部に排出される。この現象によって硬化した生コンクリートの組成は、シート層15近傍が緻密となる。緻密な組成のコンクリートは水密性が高く、他の部分の硬化したコンクリートの組成に比べて、強度が増加し、耐久性が向上する。
【0050】
打設した生コンクリートが硬化した後、脱型することで、側壁構造が築造される。なお、型枠の設置、生コンクリートの打設については、数回に分けて実施してもよい。生コンクリートの打設回数は、型枠の強度、施工性、調達できる生コンクリートの量などを勘案して適宜に定めればよい。
【0051】
その後、中間スラブ4、天井スラブ3を築造することで地下シェルター筐体100が完成する(図5(c)参照)。
【0052】
本実施形態は例示であり、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で改変できることは勿論である。例えば、本実施形態では、中間スラブ4を設けて地下空間100aを2層構造としているが、中間スラブ4は設けず、地下空間100aを単層構造としてもよい。また、鋼製外殻部10は、鋼矢板11を用いて築造しているが、ライナープレートを用いてもよい。
【0053】
側壁構造1については図3に示す通り、変形例1の構成としてもよい。変形例1に示す構成は、突出部11aに充填材14を充填しておらず、鋼矢板11の突出部11aに直接シート層15を接触させた構成である。シート層15は、防水シート16と排水シート17を積層した2層構造となっている。
【0054】
さらに、図4に示す通り、変形例2の構成としてもよい。変形例2に示す構成は、変形例1と同様に、鋼矢板11の突出部11aに直接シート層15を接触させた構成であって、シート層15は防水シート16のみである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る地下シェルター筐体は、シェルター内部の避難環境を向上させることができる。さらに、核シェルターとしての使用も可能になることから産業用の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0056】
1 :側壁構造
10 :鋼製外殻部
11 :鋼矢板
11a :突出部
12 :側壁部
13 :接合部
14 :充填材
15 :シート層
16 :防水シート
17 :排水シート
100 :地下シェルター筐体
110 :地中面
【要約】
【課題】水密性能が高く耐久性に優れた地下シェルター筐体の側壁構造、およびその側壁構造の築造方法を提供する。
【解決手段】地下シェルター筐体100の側壁構造1は、外面が地中面110に接触する鋼製外殻部10と、鉄筋コンクリート製の側壁部12と、シート層15を備えている。鋼製外殻部10と、側壁部12は、シート層15を介して接触している。シート層15は、側壁部12に密着する防水シート16を有してる。防水シート16は防水性能を具備するとともに水蒸気透過性能を具備している。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5