(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】光ファイバジャイロスコープ用光源装置
(51)【国際特許分類】
G01C 19/72 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
G01C19/72 M
G01C19/72 C
(21)【出願番号】P 2023526626
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2022029126
【審査請求日】2023-05-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「研究成果展開事業 共創の場形成支援(共創の場形成支援プログラム)」、「量子航法科学技術拠点」、「量子航法科学技術に関する国立大学法人東京工業大学による研究開発」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】ミランダ マルティン サンティアゴ
(72)【発明者】
【氏名】武井 宣幸
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】上妻 幹旺
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-038093(JP,A)
【文献】特表2005-515410(JP,A)
【文献】特開2021-189094(JP,A)
【文献】国際公開第2021/124790(WO,A1)
【文献】特表2019-529881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバコイルを用いる干渉型光ファイバジャイロスコープを駆動するための光ファイバジャイロスコープ用光源装置であって、該光ファイバジャイロスコープ用光源装置は、
相対強度雑音が含まれる光を発する広帯域光源と、
前記広帯域光源から発せられる光の相対強度雑音に対して、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波(n=1,2,3・・・)の奇数倍の周波数の相対強度雑音を抑圧する雑音抑圧部と、
を具備することを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用光源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバジャイロスコープ用光源装置において、前記雑音抑圧部は、
前記広帯域光源から発せられる光を分割するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタにより分割される光を電気信号に変換する光検出器と、
前記光検出器により変換される電気信号を用いて広帯域光源をフィードバック制御するフィードバック制御部と、
を具備することを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用光源装置。
【請求項3】
請求項2に記載の光ファイバジャイロスコープ用光源装置において、前記雑音抑圧部は、さらに、光検出器により変換される電気信号に対して、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の奇数倍の周波数に対応する電気信号を抽出する、フィルタ回路を具備し、
前記フィードバック制御部は、フィルタ回路により抽出される電気信号を用いて広帯域光源をフィードバック制御する、
ことを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用光源装置。
【請求項4】
請求項3に記載の光ファイバジャイロスコープ用光源装置において、前記雑音抑圧部は、さらに、前記光検出器により変換される電気信号を複数の電気信号に分割する信号分配器を有し、
前記フィルタ回路は、信号分配器により分割される複数の電気信号に対して、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の異なる奇数倍の周波数をそれぞれ有する複数の電気信号を抽出する複数のバンドパスフィルタからなり、
前記フィードバック制御部は、複数のバンドパスフィルタにより抽出される複数の電気信号を用いて広帯域光源をフィードバック制御する、
ことを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用光源装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光ファイバジャイロスコープ用光源装置において、前記雑音抑圧部は、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の少なくとも1倍の周波数及び3倍の周波数の相対強度雑音を抑圧することを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用光源装置。
【請求項6】
請求項2に記載の光ファイバジャイロスコープ用光源装置において、該光ファイバジャイロスコープ用光源装置は、前記フィードバック制御部のカットオフ周波数よりもn次高調波の奇数倍の周波数が低くなるような、固有周波数が低い光ファイバコイルを用いる干渉型光ファイバジャイロスコープを駆動することを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用光源装置。
【請求項7】
請求項2乃至請求項6の何れかに記載の光ファイバジャイロスコープ用光源装置において、前記フィードバック制御部は、広帯域光源の駆動電流を制御することを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用光源装置。
【請求項8】
請求項1に記載の光ファイバジャイロスコープ用光源装置において、前記雑音抑圧部は、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の奇数倍の周波数を抑圧する強度変調器からなることを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用光源装置。
【請求項9】
請求項1に記載の光ファイバジャイロスコープ用光源装置において、前記雑音抑圧部は、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の奇数倍の周波数を抑圧する半導体光増幅器からなることを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバジャイロスコープ用光源装置に関し、特に、光ファイバコイルを用いる干渉型光ファイバジャイロスコープを駆動するための光ファイバジャイロスコープ用光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動制御、自律航法の急速な発展に伴い、移動体の現在位置の精度向上に関する要求が年々高まっている。自律航法技術としては、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)やINS(Inertial Navigation System:慣性航法)が知られている。
【0003】
ここで、INSに用いられるセンサとして、光ファイバジャイロスコープ(FOG:Fiber optic gyroscope)が知られている(例えば特許文献1)。FOGは、光のサニャック効果を利用した回転角速度センサである。光ファイバジャイロスコープは、光ファイバコイルを用いるものであり運動部分がなく、従来の機械式ジャイロに比べて小型でありメンテナンスフリーであるといった利点を有し注目されている。
【0004】
光ファイバジャイロスコープの回転角速度に応じて発生する位相差ΔΦは、角速度Ωにスケールファクタ(SF)を係数として乗じて求められる。即ち、以下に表される位相差ΔΦの数式の右辺の角速度Ωの係数をスケールファクタと呼んでいる。
【数1】
但し、Rは光ファイバコイルの半径、Nは光ファイバコイルの巻き数、λは波長、cは光速である。
【0005】
スケールファクタは、角速度と出力信号の比に相当するものであり、数1からも分かるように、波長λの変動を受けるものである。スケールファクタが時間的に安定しないと、一定角速度下においても位相差が揺らいでしまい、センサ出力も揺らぐことになる。結果的に、感度(出力信号)がいくら高くても、ジャイロスコープの精度の指標となるアラン偏差が長期的になるほど悪くなってしまう。したがってアラン偏差を向上させるためにスケールファクタの安定度を高める必要がある。
【0006】
このようなスケールファクタの安定度を高めるものとして、特許文献1が知られている。特許文献1は、対称波長マルチプレクサに関するものであり、波長の直交軸間のスペクトルの非対称性を軽減することで、スケールファクタエラーを軽減させた安定化光源である。しかしながら、特許文献1のような安定化光源は、スケールファクタは良好なものの、光ファイバジャイロスコープの光源として用いた場合には、レーザ光の帯域が狭く、光ファイバコイル内の光後方散乱や偏波結合等による性能劣化は避けられなかった。
【0007】
このような光ファイバコイル内の光後方散乱や偏波結合等を避けるためには、広帯域のレーザ光を用いれば良い。レーザ光のスケールファクタの安定度を高めた上で広帯域化した光ファイバジャイロスコープ用光源装置として、本願出願人と同一出願人による特許文献2が知られている。
【0008】
ここで、光ファイバジャイロスコープ用光源装置からのレーザ光を広帯域化すると、異なる周波数の光が互いに干渉することで強度に時間的な揺らぎが生ずる。この強度の揺らぎを強度雑音というが、単位周波数あたりの強度雑音を平均光パワーで割ったものは、相対強度雑音(RIN(Relative Intensity Noise))と呼ばれている。特許文献2では、光ファイバジャイロスコープ用光源装置側ではなく、干渉型光ファイバジャイロスコープ側で用いられる多機能集積光回路に対して、光ファイバコイルの固有周波数の奇数倍で位相変調することで、RINを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-184599号公報
【文献】国際公開第2021/124790号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の通り、特許文献2では、光ファイバジャイロスコープ用光源装置においてスケールファクタの安定度を高めた上で広帯域化すると共に、干渉型光ファイバジャイロスコープで用いられる多機能集積光回路に対して光ファイバコイルの固有周波数の奇数倍で位相変調することで、RINを低減していた。一方、光源装置の広帯域化による広いスペクトル内の周波数成分間のランダムな揺らぎは、光ファイバジャイロスコープにおいて非常に強いRINを引き起こす。しかしながら、光ファイバジャイロスコープにおいてRINを引き起こす雑音を光ファイバジャイロスコープ用光源装置側で予め抑圧することは、これまで行われてこなかった。このため、光ファイバジャイロスコープ用光源装置側でRINを抑圧することで光ファイバジャイロスコープのRINを抑圧する技術の開発が望まれていた。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、相対強度雑音が含まれる広帯域光源を用いても光ファイバジャイロスコープの相対強度雑音を抑圧可能な光ファイバジャイロスコープ用光源装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による光ファイバジャイロスコープ用光源装置は、相対強度雑音が含まれる光を発する広帯域光源と、広帯域光源から発せられる光の相対強度雑音に対して、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波(n=1,2,3・・・)の奇数倍の周波数の相対強度雑音を抑圧する雑音抑圧部と、を具備するものである。
【0013】
ここで、雑音抑圧部は、広帯域光源から発せられる光を分割するビームスプリッタと、ビームスプリッタにより分割される光を電気信号に変換する光検出器と、光検出器により変換される電気信号を用いて広帯域光源をフィードバック制御するフィードバック制御部と、を具備するものであれば良い。
【0014】
また、雑音抑圧部は、さらに、光検出器により変換される電気信号に対して、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の奇数倍の周波数に対応する電気信号を抽出する、フィルタ回路を具備し、フィードバック制御部は、フィルタ回路により抽出される電気信号を用いて広帯域光源をフィードバック制御する、ものであれば良い。
【0015】
また、雑音抑圧部は、さらに、光検出器により変換される電気信号を複数の電気信号に分割する信号分配器を有し、フィルタ回路は、信号分配器により分割される複数の電気信号に対して、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の異なる奇数倍の周波数をそれぞれ有する複数の電気信号を抽出する複数のバンドパスフィルタからなり、フィードバック制御部は、複数のバンドパスフィルタにより抽出される複数の電気信号を用いて広帯域光源をフィードバック制御する、ものであっても良い。
【0016】
また、雑音抑圧部は、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の少なくとも1倍の周波数及び3倍の周波数の相対強度雑音を抑圧するものであれば良い。
【0017】
また、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置は、フィードバック制御部のカットオフ周波数よりもn次高調波の奇数倍の周波数が低くなるような、固有周波数が低い光ファイバコイルを用いる干渉型光ファイバジャイロスコープを駆動するものであっても良い。
【0018】
また、フィードバック制御部は、広帯域光源の駆動電流を制御するものであれば良い。
【0019】
また、雑音抑圧部は、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の奇数倍の周波数を抑圧する強度変調器からなるものであっても良い。
【0020】
また、雑音抑圧部は、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の奇数倍の周波数を抑圧する半導体光増幅器からなるものであっても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置には、相対強度雑音が含まれる広帯域光源を用いても光ファイバジャイロスコープの相対強度雑音を抑圧可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置を説明するための概略ブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置を用いて駆動される一般的な干渉型光ファイバジャイロスコープの構成の一例を説明するための概略ブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部の具体例を説明するための概略ブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部のフィルタ回路により広帯域光源から発せられる光の変調・復調周波数のRINが抑圧された様子を説明するための概念グラフである。
【
図5】
図5は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部の他の具体例を説明するための概略ブロック図である。
【
図6】
図6は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部の複数のバンドパスフィルタにより広帯域光源から発せられる光の複数の奇数倍の周波数のRINが抑圧された様子を説明するための実測グラフである。
【
図7】
図7は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置による光ファイバジャイロスコープの出力に対するRINの抑圧効果について説明するための感度グラフである。
【
図8】
図8は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部のさらに他の具体例を説明するための概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置は、光ファイバコイルを用いる干渉型光ファイバジャイロスコープを駆動するために用いることが可能なものである。干渉型光ファイバジャイロスコープについては特に特定のものには限定されず、既存の又は今後開発されるべく如何なるものでも適用可能である。
図1は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置を説明するための概略ブロック図である。図示の通り、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置は、広帯域光源10と、雑音抑圧部20とから構成されている。雑音抑圧部20により相対強度雑音が抑圧された光が、干渉型光ファイバジャイロスコープ1に入力されれば良い。
【0024】
広帯域光源10は、相対強度雑音(RIN(Relative Intensity Noise))が含まれる光を発するものである。相対強度雑音が含まれない光源の場合には、相対強度雑音を抑圧する必要がないため、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置では、RINが含まれる光を発する広帯域光源10が用いられれば良い。また、広帯域光源10の発する光は、レーザ光であれば良い。具体的には、広帯域光源10としては、例えばSLD(Super Luminescent Diode)光源を用いることができる。SLD光源は、発光ダイオードと半導体レーザの2つの特性を持つ広帯域光源であり、発光ダイオードのように幅広いスペクトルを持ちながら、半導体レーザのように高出力の光を発するものである。SLD光源は光ファイバとの結合に優れるものであるため、光ファイバジャイロスコープ用の光源としても一般的に用いられるものである。
【0025】
雑音抑圧部20は、広帯域光源10から発せられる光のRINを抑圧するものである。より具体的には、雑音抑圧部20は、広帯域光源10から発せられる光のRINに対して、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波(n=1,2,3・・・)の奇数倍の周波数のRINを抑圧すれば良い。干渉型光ファイバジャイロスコープ1では、光ファイバコイルを通過した左回り光と右回り光、及びそれらを再結合した干渉光に対して、それぞれ光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の周波数νmで変調及び復調を施すことで、角速度信号を取り出すことができるようにしている。したがって、雑音抑圧部20では、基本的にはこの変調・復調の際に用いられる周波数νmのRINを抑圧すれば干渉型光ファイバジャイロスコープ1におけるRINも抑圧できるはずである。雑音抑圧部20のより具体的な構成については後述する。
【0026】
このように周波数ν
mのRINが抑圧された光が、干渉型光ファイバジャイロスコープ1に入力される。ここで、干渉型光ファイバジャイロスコープ1の一般的な構成について説明する。
図2は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置を用いて駆動される一般的な干渉型光ファイバジャイロスコープの構成の一例を説明するための概略ブロック図である。干渉型光ファイバジャイロスコープ1は、光サーキュレータ2と、多機能集積光回路3と、位相変調信号発生器4と、光検出器5と、同期検波器6とから主に構成されている。そして、多機能集積光回路3に光ファイバコイル7が接続されている。
【0027】
光サーキュレータ2は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置からの光と、光ファイバコイル7を通過した左回り光と右回り光とを再結合した干渉光と、を分離するものである。即ち、光サーキュレータ2は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置からの光を、多機能集積光回路3側に出力すると共に、干渉光が光サーキュレータ2に戻ってくると、光検出器5側に出力するものである。図面上、光サーキュレータ2の左側からは、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置からの光が入射され、光サーキュレータ2の右側からこの光が出力される。そして、光ファイバコイル7を通過した左回り光と右回り光とを再結合した干渉光が戻ってくると、光サーキュレータ2の右側に入射され、下側の後述の光検出器5に出力される。
【0028】
多機能集積光回路3は、偏光子3aと、Y分岐・再結合器3bと、第1位相変調器3cと、第2位相変調器3dとからなる。偏光子3aは、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置からの光が、光サーキュレータ2を介して入射されるものである。そして、偏光子3aは、単一の偏光のみを通過させる。Y分岐・再結合器3bは、偏光子3aからの入射光、即ち、単一の偏光を分岐して、光ファイバコイル7の両端にそれぞれ入射する。光ファイバコイル7の両端に入射された光は、それぞれ左回り光と右回り光となる。そして、Y分岐・再結合器3bは、光ファイバコイル7を通過した左回り光と右回り光とを再結合し、これを干渉光として光サーキュレータ2へ出力する。第1位相変調器3cは、光ファイバコイル7の一端に入射される一方の入射光を変調するものである。例えば、右回り光となる入射光を変調すれば良い。また、第2位相変調器3dは、光ファイバコイル7の他端に入射される他方の入射光を変調するものである。例えば、左回り光となる入射光を変調すれば良い。
【0029】
位相変調信号発生器4は、位相変調信号を生成するものである。位相変調信号発生器4は、多機能集積光回路3の第1位相変調器3c及び第2位相変調器3dに対して、位相変調信号を出力する。位相変調信号発生器4は、光ファイバコイルを通過した左回り光と右回り光に対して光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の周波数νmで変調するように、位相変調信号を多機能集積光回路3に対して生成する。
【0030】
光検出器5は、光ファイバコイル7を通過した左回り光と右回り光との干渉光が光サーキュレータ2から入射され、この干渉光の光強度信号を検出するものである。
【0031】
同期検波器6は、位相変調信号発生器4からの位相変調信号を参照信号として用いて復調し、光検出器5により検出される光強度信号を同期検波することで、光ファイバコイル7に対する入力角速度の検出信号を出力するものである。
【0032】
本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置による周波数νmのRINを抑圧した光を用いて、このような干渉型光ファイバジャイロスコープ1を駆動することで、光ファイバジャイロスコープのRINが抑圧される。
【0033】
次に、雑音抑圧部20の具体例について説明する。
図3は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部の具体例を説明するための概略ブロック図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示の通り、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部20は、ビームスプリッタ21と、光検出器22と、フィードバック制御部23と、フィルタ回路24とから構成されている。
【0034】
ビームスプリッタ21は、広帯域光源10から発せられる光を分割するものである。具体的には、干渉型光ファイバジャイロスコープ1へ向かう光と後述の光検出器22へ向かう光に分割するものである。
【0035】
光検出器22は、ビームスプリッタ21により分割される光を電気信号に変換するものである。光検出器22は、ビームスプリッタ21により分割される光、即ち、広帯域光源10からの光が入射され、この光の光強度信号を電気信号として検出するものである。
【0036】
フィードバック制御部23は、光検出器22により変換される電気信号を用いて広帯域光源10をフィードバック制御するものである。具体的には、フィードバック制御部23は、例えば広帯域光源10の駆動電流を制御すれば良い。広帯域光源10として、例えばSLD光源を用いた場合、SLD光源は駆動電流と出力光強度に強い相関がある。したがって、SLD光源から発せられる光の変動を光検出器22で検出し、フィードバック制御部23では変動を打ち消すようにSLD光源の駆動電流をフィードバック制御すれば良い。
【0037】
フィルタ回路24は、光検出器22により変換される電気信号に対して、光ファイバコイル7の固有周波数のn次高調波の奇数倍の周波数に対応する電気信号を抽出するものである。即ち、
図2を用いて説明した光ファイバジャイロスコープ1の位相変調信号発生器4で用いた変調信号として、例えば変調・復調周波数ν
mを用いた場合には、フィルタ回路24は、周波数ν
mの信号を抽出可能なバンドパスフィルタであれば良い。
【0038】
フィードバック制御部23は、フィルタ回路24により抽出される電気信号を用いて広帯域光源10をフィードバック制御する。これにより、周波数νmの信号を用いてフィードバック制御することになるため、周波数νmにおける雑音の影響を抑圧することが可能となる。その結果、広帯域光源10から発せられる光の周波数νmのRINを抑圧することが可能となる。なお、周波数νmの信号が抑圧できれば良いので、例えば周波数νm以下の信号をすべて通すローパスフィルタを用いてフィードバック制御しても良い。
【0039】
図4は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部のフィルタ回路により広帯域光源から発せられる光の周波数ν
mのRINが抑圧された様子を説明するための概念グラフである。図中、横軸が周波数であり、縦軸が雑音強度である。図示の通り、変調・復調周波数である周波数ν
mを中心にRINが抑圧されていることが分かる。このように変調・復調周波数のRINが抑圧された光を用いて光ファイバジャイロスコープ1を駆動すれば、光ファイバジャイロスコープ1のRINを抑圧することが可能となる。
【0040】
ここで、一見すると、光ファイバジャイロスコープ1では周波数νmで変調・復調しているため、光ファイバジャイロスコープ用光源装置でも周波数νmの信号のみを用いてフィードバック制御すれば良いように思われる。しかしながら、周波数νmのみでも効果は高いものの、さらに周波数3νmや周波数5νmといった、n次高調波の奇数倍の周波数についても雑音として出力信号に影響することを、今回初めて発見した。即ち、周波数1νmだけでなく、周波数3νmや周波数5νmといった、n次高調波の奇数倍の周波数の信号を用いてフィードバック制御することで、より効果が高いことが分かった。周波数1νmの場合よりも、さらに周波数3νmといった複数の奇数倍の周波数の信号を用いた場合のほうが、より短期安定度を改善できる。
【0041】
このように複数の奇数倍の周波数の信号を用いる具体例について説明する。
図5は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部の他の具体例を説明するための概略ブロック図である。図中、
図3と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示の通り、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部20は、
図3の構成に対して、さらに信号分配器25を有している。信号分配器25は、光検出器22により変換される電気信号を複数の電気信号に分割するものである。図示例のように、光検出器22は、例えば3つに電気信号を分割するものであれば良い。
【0042】
そして、フィルタ回路24は、信号分配器25により分割される複数の電気信号に対して、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の異なる奇数倍の周波数をそれぞれ有する複数の電気信号を抽出する複数のバンドパスフィルタ(BPF)24a,24b,24cからなるものであれば良い。即ち、信号分配器25の分配数に応じて複数のバンドパスフィルタを用意すれば良い。複数のバンドパスフィルタ24a,24b,24cは、それぞれ周波数1νmと周波数3νmと周波数5νmの信号を抽出可能なものである。
【0043】
このような構成の信号分配器25及びフィルタ回路24を用いることで、フィードバック制御部23では、複数のバンドパスフィルタ24a,24b,24cにより抽出される複数の電気信号を用いて広帯域光源10をフィードバック制御できる。なお、複数の奇数倍の周波数の信号は必ずしも図示例のように3つには限定されない。
【0044】
図6は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部の複数のバンドパスフィルタにより広帯域光源から発せられる光の複数の奇数倍の周波数のRINが抑圧された様子を説明するための実測グラフである。図中、横軸が周波数であり、縦軸が雑音強度である。この例は、周波数1ν
mと周波数3ν
mのRINを抑圧した場合の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の出力信号である。また、周波数1ν
mと周波数3ν
mのRINを抑圧した場合の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の出力信号を黒線で表し、RINを抑圧していない場合の信号出力をグレー線で表した。図示の通り、変調・復調周波数である周波数1ν
mと周波数3ν
mを中心にRINが抑圧されていることが分かる。
【0045】
なお、個々の複数の奇数倍の周波数をそれぞれ抑圧するためにバンドパスフィルタを用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、複数の奇数倍の周波数の信号をすべて通すローパスフィルタを用いてフィードバック制御しても良い。
【0046】
図7は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置による光ファイバジャイロスコープの出力に対するRINの抑圧効果について説明するための感度グラフである。図中、横軸が変調指数であり、縦軸が感度(ARW(Angle Random Walk)である。図示の通り、光ファイバジャイロスコープ用光源装置においてRINの抑圧を行わなかった場合に比べて、周波数1ν
mのRINを抑圧した場合にARWが非常に低く抑えられていることが分かる。さらに、周波数1ν
mと周波数3ν
mの2つのRINを抑圧した場合には、よりARWが低く抑えられていることが分かる。さらにまた、周波数1ν
mと周波数3ν
mと周波数5ν
mの3つのRINを抑圧した場合にも、2つのRINを抑圧した場合と比べてよりARWが低く抑えられていることが分かる。さらに高周波の奇数倍の周波数のRINを抑圧すれば、よりARWが低く抑えられる。但し、
図7によれば、雑音抑圧部における費用対効果の面からは、周波数1ν
mと周波数3ν
m、即ち、少なくとも1倍の周波数及び3倍の周波数のRINを抑圧するのが必要十分であり最も効率が良いことが分かる。
【0047】
次に、雑音抑圧部20の他の具体例について説明する。
図8は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部のさらに他の具体例を説明するための概略ブロック図である。図中、
図3と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示の通り、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置の雑音抑圧部20は、ビームスプリッタ21と、光検出器22と、フィードバック制御部23とから構成されている。即ち、
図8に示される雑音抑圧部20は、
図3に示した雑音抑圧部20で使用していたフィルタ回路24が無いものである。本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置を用いて、固有周波数が低い光ファイバコイル7を用いる干渉型光ファイバジャイロスコープ1を駆動するようにした場合には、フィルタ回路24を用いなくても変調・復調周波数のRINを抑圧できる場合がある。例えば、上述のフィードバック制御部23のカットオフ周波数よりもn次高調波の奇数倍の周波数が低くなるような、固有周波数が低い光ファイバコイルを用いる場合には、フィードバック制御部23のカットオフ周波数がフィルタ回路、具体的にはローパスフィルタと同じような働きとなる。即ち、フィードバック制御部23のカットオフ周波数よりも周波数1ν
mが低い場合には、フィードバック制御によりカットオフ周波数よりも低い周波数1ν
mを含むRINが抑圧されることになる。なお、複数のRINを抑圧する場合には、フィードバック制御部23のカットオフ周波数よりも例えば周波数3ν
mが低い場合には、周波数1ν
mと周波数3ν
mを含むRINがすべて抑圧されることになる。
【0048】
さらに、雑音抑圧部は、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波の奇数倍の周波数を抑圧することができるものであれば、上述の図示例には限定されない。例えば、
図1の雑音抑圧部20は、強度変調器からなるものであっても良い。即ち、強度変調器は、例えば周波数1ν
mの光強度を抑圧可能なものであれば良い。また、周波数1ν
mだけでなく、周波数3ν
mや周波数5ν
mの光強度を抑圧可能なものであっても良い。強度変調器を用いて上述のような特定の周波数の光強度を抑圧することで、上述と同様に、広帯域光源からの光の変調・復調周波数のRINが抑圧され、光ファイバジャイロスコープのRINを抑圧することが可能となる。
【0049】
さらにまた、雑音抑圧部20は、半導体光増幅器からなるものであっても良い。上述の強度変調器と同様、半導体光増幅器により上述のような特定の周波数の光を減衰させることで、上述と同様に、広帯域光源からの光の変調・復調周波数のRINが抑圧され、光ファイバジャイロスコープのRINが抑圧することが可能となる。
【0050】
このように、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置によれば、光ファイバジャイロスコープで問題となり得る変調・復調周波数のRINを予め光ファイバジャイロスコープ用光源装置側で抑圧しておくことで、光ファイバジャイロスコープにおいて発生し得るRINを抑圧できる。これにより、光ファイバジャイロスコープの短期安定度を改善することができる。
【0051】
なお、本発明の光ファイバジャイロスコープ用光源装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0052】
1 干渉型光ファイバジャイロスコープ
2 光サーキュレータ
3 多機能集積光回路
3a 偏光子
3b Y分岐・再結合器
3c 第1位相変調器
3d 第2位相変調器
4 位相変調信号発生器
5 光検出器
6 同期検波器
7 光ファイバコイル
10 広帯域光源
20 雑音抑圧部
21 ビームスプリッタ
22 光検出器
23 フィードバック制御部
24 フィルタ回路
24a,24b,24c バンドパスフィルタ
25 信号分配器
【要約】
相対強度雑音が含まれる広帯域光源を用いても光ファイバジャイロスコープの相対強度雑音を抑圧可能な光ファイバジャイロスコープ用光源装置を提供する。
光ファイバコイルを用いる干渉型光ファイバジャイロスコープ1を駆動するための光ファイバジャイロスコープ用光源装置は、広帯域光源10と、雑音抑圧部20とからなる。広帯域光源10は、相対強度雑音が含まれる光を発する。雑音抑圧部20は、広帯域光源10から発せられる光の相対強度雑音に対して、光ファイバコイルの固有周波数のn次高調波(n=1,2,3・・・)の奇数倍の周波数の相対強度雑音を抑圧する。