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特許7321667ケイ酸リチウムガラスセラミック製の有形物体の強度を増大させるための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ケイ酸リチウムガラスセラミック製の有形物体の強度を増大させるための方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20230731BHJP
   A61C 5/77 20170101ALI20230731BHJP
   A61C 13/003 20060101ALI20230731BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20230731BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20230731BHJP
   C03B 32/02 20060101ALI20230731BHJP
   C03C 10/04 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C03C21/00 101
A61C5/77
A61C13/003
A61C13/083
A61K6/831
C03B32/02
C03C10/04
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2017560969
(86)(22)【出願日】2016-05-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2016061439
(87)【国際公開番号】W WO2016188904
(87)【国際公開日】2016-12-01
【審査請求日】2018-07-06
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】102015108173.3
(32)【優先日】2015-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515304558
【氏名又は名称】デンツプライ・シロナ・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】504013395
【氏名又は名称】デグデント・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】フェチャー、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】フォルクル、ローター
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】増山 淳子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-117747(JP,A)
【文献】特開2013-67554(JP,A)
【文献】特開2011-225441(JP,A)
【文献】米国特許第6703590(US,B1)
【文献】H.Fischer et al.,Chemical strengthening of a dental lithium disilicate glass-ceramic material,J.Biomed. Mater. Res.,2008年 1月 9日,Vol.87A/Issue3,p.582-587
【文献】W.Holand,G.Beall,Glass ceramic Technology,2002年,pp.291-292
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
C03C1/00-14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸リチウムガラスセラミック製の医療用の有形物体(10)またはこの一部の強度を増大させるための方法であって、
前記ケイ酸リチウムガラスセラミックが40~60体積%の範囲のガラス相を有し、より大きな直径のアルカリ金属イオンによるリチウムイオンの置きかえによって、ケイ酸リチウムガラスセラミック製の前記有形物体(10)に表面圧縮応力を発生させるために、より大きな直径のイオンを伴う1種以上のアルカリ金属の塩を含むまたは含有する溶融物(14)に前記有形物体を、t≧5分の時間tにわたって430℃≦T≦530℃の温度Tで接触させておき、次いで、前記溶融物を前記有形物体から除去し、このとき、前記有形物体を完全に浸漬させるのにちょうど必要な量の塩を前記溶融物のために使用し、
・前記有形物体を完全に浸漬させるのにちょうど必要な量としての前記塩から、プレス加工または圧縮によって塩物体(18)を調製し、前記塩物体を前記有形物体(10)上に設置し、または前記有形物体を前記塩物体上に直接もしくは間接的に設置し、次いで前記塩物体を溶融させるか、または、
・前記有形物体を完全に浸漬させるのにちょうど必要な量の塩が除去可能な封かん材(22)が付いたカプセル(20)中で利用可能にされており、前記塩をカプセル(20)中で溶解させ、次いで前記有形物体を前記溶融物中に浸漬させるか、または、
・前記有形物体が前記有形物体を完全に浸漬させるのにちょうど必要な量の塩を含有する耐熱性ホイルによって包み込まれている
のいずれかを満たし、
前記有形物体(10)を、重量百分率での以下の成分:
・SiO2 58.1~59.1
・P25 5.8~5.9
・Al23 1.9~2.0
・Li2O 18.5~18.8
・K2O 1.9~2.0
・ZrO2 8~12
・CeO2 1.0~2.0
・Tb47 1.0~1.5
・Na2O 0~0.2、
・Na2O+K2O 2.5以下、
または
・SiO2 56.0~59.5
・P25 4.0~6.0
・Al23 2.5~5.5
・Li2O 13.0~15.0
・K2O 1.0~2.0
・ZrO2 8~12
・CeO2 1.0~2.0
・Tb47 1.0~1.2
・Na2O 0.2~0.5、
・Na2O+K2O 2.5以下、
を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
方法。
【請求項2】
開口部を有する第3の入れ物と共に前記有形物体(10)を、前記カプセル(20)内に存在する前記溶融物中に浸漬すること
を特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イオン交換を可能にする前記アルカリ金属の塩に、リン酸塩を添加して、リチウムイオンを結合させること
を特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Na、K、Csおよび/またはRbイオンをアルカリ金属イオンとして使用して、前記表面圧縮応力を発生させること
を特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶融物(14)が、前記有形物体(10)を着色する1種以上の元素を含有すること
を特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1種以上の着色する元素が、58~70までの範囲の原子番号の1種以上のランタニドであること
を特徴とする、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種の着色する元素が、バナジウム、マンガン、鉄、イットリウムおよびアンチモンの群からの元素であること
を特徴とする、
請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記1種以上の着色する元素が、アルカリイオンを含有する前記溶融物(14)中に溶解された状態で含有されること
を特徴とする、
請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記有形物体(10)を、カリウムイオンを含有する溶融物(14)またはナトリウムイオンを含有する溶融物または、カリウムイオンとナトリウムイオンとの混合物を含有する溶融物中でアニーリングすること
を特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
350℃≦T≦600℃の温度Tにおいて、0.5時間≦t≦10時間の時間tにわたって、前記有形物体(10)をアニーリングすること
を特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記有形物体(10)を、出発成分として少なくとも、SiO2、Al23、Li2O、K2O、P25およびZrO2を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ガラス溶融物が、少なくとも1種の着色用金属酸化物を含有すること
を特徴とする、
求項11に記載の方法。
【請求項13】
冷却の途中または室温への冷却後に前記ガラス溶融物からブランクを形成し、次いで前記ブランクに、温度TW1において時間tW1にわたって少なくとも1回の第1の熱処理W1を施し、このとき、620℃≦TW1≦800℃であり、および1分≦tW1≦200分であること
を特徴とする、
求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の熱処理W1を2つの工程で実施し、このとき、第1の工程において、温度TSt1が、630℃≦TSt1≦690℃に設定されており、および第2の工程において、温度TSt2が、720℃≦TSt2≦780℃に設定されており、および/または前記温度TSt1に至るまでの加熱速度ASt1が、1.5K/分≦ASt1≦2.5K/分であり、および前記温度TSt2に至るまでの加熱速度ASt2が、8K/分≦ St2≦12K/分であること
を特徴とする、
求項13に記載の方法。
【請求項15】
記ブランクに、前記第1の熱処理W1後に温度TW2において時間tW2にわたって第2の熱処理W2を施し、このとき、800℃≦TW2≦1040℃であり、および/または2分≦tW2≦200分であること
を特徴とする、
求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1または第2の熱処理の工程の後、前記有形物体(10)を、研削および/もしくはミリングまたはプレス加工によって前記ブランクから調製すること
を特徴とする、
求項15に記載の方法。
【請求項17】
ケイ酸リチウムガラスセラミック製の医療用物品またはこの一部の形態である有形物体(10)であって、
前記ケイ酸リチウムガラスセラミックが40~60体積%の範囲のガラス相を有し、前記有形物体の出発組成中8~12重量%の濃度のZrO 2 を含み、より大きな直径のアルカリイオンによるリチウムイオンの置きかえによって、前記有形物体(10)に表面圧縮応力を発生させること
前記有形物体(10)を、重量百分率での以下の成分:
・SiO2 58.1~59.1
・P25 5.8~5.9
・Al23 1.9~2.0
・Li2O 18.5~18.8
・K2O 1.9~2.0
・ZrO2 8~12
・CeO2 1.0~2.0
・Tb47 1.0~1.5
・Na2O 0~0.2、
・Na2O+K2O 2.5以下、
または
・SiO2 56.0~59.5
・P25 4.0~6.0
・Al23 2.5~5.5
・Li2O 13.0~15.0
・K2O 1.0~2.0
・ZrO2 8~12
・CeO2 1.0~2.0
・Tb47 1.0~1.2
・Na2O 0.2~0.5、
・Na2O+K2O 2.5以下、
を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
有形物体。
【請求項18】
前記アルカリ金属イオンが、Na、K、Csおよび/またはRbイオンであること
を特徴とする、
請求項17に記載の有形物体。
【請求項19】
前記リチウムイオンを置きかえるアルカリイオンの百分率が、表面を起点として10μmの深さに至るまでで、5~20重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から8乃至12μmの深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、5~10重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から12乃至14μmの層深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、4~8重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から14乃至18μmの深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、1~3重量%までの範囲であり、前記アルカリイオンの重量百分率が、層を経るごとに低下していくこと
を特徴とする、
請求項17に記載の有形物体。
【請求項20】
より大きな直径のアルカリイオンによるリチウムイオンの置きかえによって、請求項1に記載の有形物体(10)に表面応力を発生させるための、有形物体を完全に浸漬させるのにちょうど必要な量の少なくとも1種のアルカリ金属塩を充填した、カプセル(20)の使用であって、前記有形物体が、前記カプセル中で溶融させた前記少なくとも1種のアルカリ金属塩によって被覆され、前記カプセルは除去可能な封かん材を有する、使用。
【請求項21】
除去可能な封かん材と周囲のフランジ状の縁(21)を有するカプセル中の請求項1に記載の有形物体を完全に浸漬させるのにちょうど必要な量にした塩を溶融させるための加熱デバイス(28)であって、
前記加熱デバイス(28)が、前記カプセル(20)の外形幾何形状に、その領域の少なくとも一部にわたって、幾何学的に適合している入れ物(30)を有し、階段状のくぼみ(32)を有し、これは前記フランジ状の縁(21)に適合すること
を特徴とする、
加熱デバイス(28)。
【請求項22】
前記加熱デバイス(28)の前記入れ物(30)が、前記加熱デバイス(28)の加熱プレート内に配置されていること
を特徴とする、
請求項21に記載の加熱デバイス。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、ケイ酸リチウムガラスセラミックを含む医療用有形物体、好ましくは、歯科用有形物体またはこのような物体の一部の形態、特にブリッジ、クラウン、コーピング、インレー、アンレーもしくはベニアの形態である医療用有形物体の強度を増大させるための方法に関する。
【0002】
歯科技術において実績のある方法は、強度および生体適合性が理由となって、歯科用修復材の製作のためのブランクとしてケイ酸リチウムガラスセラミックを使用することであった。メタケイ酸リチウムを主要結晶相として含有するケイ酸リチウムブランクの場合、大きな工具の摩耗なしで難なく機械加工できることは、利点であることが判明した。この製品は、後続する熱処理を行ったときに、二ケイ酸リチウムガラスセラミックに変換され、すると高い強度を有するようになる。この製品は、良好な光学特性および十分な化学的安定性も有する。対応する方法は、たとえば、DE19750794A1またはDE10336913B4において開示されている。
【0003】
高い強度と同時に良好な透光性も達成するために、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウムまたはこれらの混合物の群からの少なくとも1種の安定剤、特に、酸化ジルコニウムである少なくとも1種の安定剤が、炭酸リチウム、石英、酸化アルミニウム等、すなわち、通常の出発成分の形態で出発原材料に添加される。ここで、たとえば、DE102009060274A1、WO2012/175450A1、WO2012/175615A1、WO2013/053865A2またはEP2662342A1に注目が寄せられる。
【0004】
I.L.Denryら、Enhanced Chemical Strengthening of Feldspathic Dental Porcelain、J Dent Res、1993年10月、1429~1433頁およびR.R.Seghiら、Effects of Ion Exchange on Hardness and Fracture Toughness of Dental Ceramics、The International Journal of Prosthodontics、第5巻、No.4、1992、309~314頁の刊行物は、リューサイト沈殿物が存在していてもよい長石質ガラスの品種から構成される、複合セラミックについての調査を開示している。強度を増大させるために、二工程方式の方法により、リチウムイオンによってナトリウムイオンを置きかえ、次いで、カリウムイオンによってリチウムイオンを置きかえることが提案された。より小さなイオンは、ルビジウムイオンによって置きかえることもできる。これにより、酸化ルビジウムが使用された場合では、最大で80%に至るまでの強度の増大が可能になった。しかしながら、ルビジウムは、セラミックの熱膨張係数が増大するという欠点を有する。
【0005】
DE3015529A1は、歯科用磁器の機械的強度を改善するための方法を開示している。この方法において、エナメル中でアルカリイオンが交換されるように、修復材をエナメルによってコーティングする。この目的のために、200℃乃至エナメルの転移点の温度で修復材を溶融塩の浴中に浸漬する。
【0006】
US4784606Aは、ガラス製の歯列矯正具を開示しており、この歯列矯正具の強度は、イオン交換によって増大されている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、簡便なプロセス技術の手法の使用により、有形物体の強度を増大し得るように、上記種類の方法をさらに発展させることである。この方法を用いた場合、強度を増大させるのに必要な手段によって、有形物体中の不純物の存在を防止することも可能である。
【0008】
さらなる側面において、本方法は、訓練を受けていない者が、所望の程度まで強度を増大させることも可能である。
【0009】
本発明の目的は、より大きな直径のアルカリイオンによるリチウムイオンの置きかえによって、ケイ酸リチウムガラスセラミックを含むまたは含有する有形物体に表面圧縮応力を発生させ、有形物体を、対応するアルカリ金属イオンを含有する溶融物によって被覆し、有形物体を、時間tにわたって溶融物と接触させておき、次いで、溶融物を有形物体から除去し、このとき、アルカリ金属イオンを含有するアリコートにした量の塩を溶融物のために使用することによって、実質的に達成される。
【0010】
有形物体を、開口部を有する第1の入れ物、たとえばバスケットの中に配置し、これにより、
・ 有形物体を収容した第1の入れ物を、溶融物中に導入し、または
・ 塩を、有形物体を収容した第1の入れ物内に導入し、溶融させ、または
・ 有形物体が入った第1の入れ物を、塩上に配置し、次いでこの塩を溶融させる
ようにすることが、可能である。
【0011】
独立に提案された一解決法として、小分けにした塩は、引裂きまたは回して外すことによって除去可能な封かん材が付いた下記において第2の入れ物と呼ばれている入れ物、たとえばカプセルの中に入れた状態で利用可能にされている。特に、有形物体を塩上に設置した後で、塩を溶融させること、または塩を第2の入れ物内で溶融させ、次いで有形物体を溶融物中に浸漬することが可能である。本発明は、下記において第3の入れ物と呼ばれている開口部を有する入れ物と共に有形物体を、第2の入れ物内に存在する溶融物中に浸漬する可能性も包含する。
【0012】
さらなる好ましい提案によれば、本発明は、物体を、小分けにした量の塩が中に存在する下記において第4の入れ物と呼ばれている入れ物としての耐熱性ホイルによって包み込むこと、および、次いで塩を溶融させることを教示している。
【0013】
驚くべきことに、ケイ酸リチウムガラスセラミック製の有形物体中に存在するリチウムイオンをより大きなアルカリ金属イオンによって置きかえると、元応力およびこの結果としての表面圧縮応力が発生し、強度の実質的な増大につながることが判明した。
【0014】
驚くべきことに、同時に、耐腐食性も増大したことが判明した。イオン交換によって強度が増大すると、DIN EN ISO6872-2009-01において指定されている3点曲げ測定法によって測定して500MPa超、好ましくは800MPa超の曲げ強さ値が得られたことに加えて、耐薬品性も改善され、この改善により、DIN EN ISO6872-2009-1における方法によって測定しても95μg×cm-2未満の化学的溶解度がもたらされたことが判明した。
【0015】
表面圧縮応力を発生させるために使用されるアルカリ金属イオンは、好ましくは、Na、K、Csおよび/またはRbイオンである。
【0016】
本発明によれば、利用可能にしようとする物体の幾何形状、歯科用有形物体の場合は特にブリッジ、クラウン、コーピング、インレー、アンレーもしくはベニアの幾何形状を結果として有することになる有形物体を、ある期間の時間tにわたって溶融物中でアニーリングして、より大きな直径のアルカリ金属イオンによるリチウムイオンの所望の置きかえを可能にし、この結果、所望の表面圧縮応力が発生し、強度が増大する。
【0017】
有形物体を完全に浸漬させるのにちょうど必要な量になるように溶融物を小分けし、この結果、アニーリング後、すなわち、イオン交換後に溶融物が処分され、この結果、強度を増大させるプロセスごとに、新たな塩およびこの塩による新たな溶融物が使用され、この結果、溶融物を1回より多く使用する方法に比較して汚染がないことが、特に定められている。しかしながら、対応する溶融物が1回より多く使用される場合でも、本発明からの逸脱ではないが、これは、好ましくない。
【0018】
有形物体を、カリウムイオンを含有する溶融物中でアニーリングすることが、特に定められており、好ましい塩溶融物は、KNO3、KClまたはK2CO3塩溶融物である。
【0019】
好ましくは、本発明は、有形物体を、カリウムイオンを含有する溶融物、特にKNO3、KClもしくはK2CO3を含有する溶融物またはナトリウムイオンを含有する溶融物、特にNaNO3、酢酸ナトリウムもしくは有機酸のナトリウム塩を含有する溶融物、または、カリウムイオンとナトリウムイオンとの混合物を特に50:50mol%の比で含有する溶融物、好ましくはNaNO3およびKNO3を含有する溶融物中に配置し、またはこの溶融物によって被覆することを特徴とする。
【0020】
イオン交換中に一定のイオン交換能力が確実に存在するようにするために、本発明は、塩に進入しているリチウムイオンを結合させておくことをさらに提案している。特に、イオン交換を可能にするアルカリ金属塩に、塩、たとえばアルカリ金属リン酸塩、たとえばK2HPO4を添加することによって、リチウムイオンを結合させておくことが提案されている。溶融物中のリチウムイオンの含量は、リン酸リチウムの沈殿によって低減される。
【0021】
上記の事柄と独立に、表面領域において必要なイオン交換は、≧300℃、特に350℃≦T≦600℃、好ましくは430℃≦T≦530℃の温度Tにおいて、t≧5分、特に0.5時間≦t≦10時間、特に好ましくは3時間≦t≦8時間の期間の時間tにわたって、有形物体を溶融物中でアニーリングする場合に、特に良好であることが判明している。
【0022】
上記領域におけるアニーリングまたは接触時間をより短くして、30分以下にしても、原則的に、表面領域において所望の表面圧縮応力を発生させるのに十分である。20μm以上の深さまで有形物体の強度を増大させることが所望される限り、たとえば6または10時間というより長い接触またはアニーリング時間が、アニーリング温度に応じて必要となる。
【0023】
省エネルギーの温度制御された態様で塩を溶融できるようにするため、および、所望の長さの時間にわたって有形物体をアニーリングできるようにするために、本発明は、下記において第5の入れ物と呼ばれている入れ物が入った加熱デバイスを特徴としており、この第5の入れ物は、第2の入れ物の外形寸法の幾何形状に、その領域の少なくとも一部にわたって適合させる。第5の入れ物は、加熱デバイスの加熱プレート内に収納することが可能である。
【0024】
有形物体または有形物体が得られるブランクは、ガラス溶融物から製作することが好ましく、このガラス溶融物は、出発成分として少なくとも、SiO2、Al23、Li2O、K2O、少なくとも1種の核形成剤、たとえばP25および少なくとも1種の安定剤、たとえばZrO2を含有する。
【0025】
特定の様式において、本発明は、リチウムイオンが、より大きなアルカリイオン、特にカリウムおよび/またはナトリウムイオンによって置きかえられることだけでなく、出発物質の強度およびこの結果としての有形物体が得られる有形物体またはブランクのガラス相の強度を増大させるために、溶解された少なくとも1種の安定剤、特にZrO2の形態の少なくとも1種の安定剤が含有されており、この安定剤の濃度が、好ましくは、初期組成に対して8~12重量%までの範囲であることも特徴とする。
【0026】
特に、本発明は、合計が100重量%である重量百分率での以下の成分:
・ SiO2 50~80、好ましくは52~70、特に好ましくは56~61
・ 核形成剤、たとえばP25、0.5~11、好ましくは3~8、特に好ましくは4~7
・ Al23 0~10、好ましくは0.5~5、特に好ましくは1.5~3.2
・ Li2O 10~25、好ましくは13~22、特に好ましくは14~21
・ K2O 0~13、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5
・ Na2O 0~1、好ましくは0~0.5、特に好ましくは0.2~0.5
・ ZrO2 0~20、好ましくは4~16、特に6~14、特に好ましくは8~12
・ CeO2 0~10、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5
・ Tb47 0~8、好ましくは0.5~6、特に好ましくは1.0~2.0
・ 任意に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの群からの1種以上のアルカリ土類金属の1種以上の酸化物0~20、好ましくは0~10、特に好ましくは0~5
・ 任意に、B23、MnO2、Fe23、V25、TiO2、Sb23、ZnO、SnO2およびフルオリドの群からの1種以上の添加剤0~6、好ましくは0~4
・ 任意に、原子番号57、59~64、66~71の希土類金属、特にランタン、イットリウム、プラセオジム、エルビウムおよびユウロピウムの1種以上の酸化物0~5、好ましくは0~3
を含有するガラス溶融物から、有形物体またはブランクを製作することを特徴とする。
【0027】
「任意に…1種以上の酸化物」は、1種以上の酸化物がガラス溶融物中に含有されることが、絶対に必要とは限らないことを意味する。
【0028】
特に、物体またはブランクは、合計が100重量%である重量百分率での以下の成分:
【0029】
【表1】
【0030】
を含有する。
【0031】
ある態様において、本発明は、冷却中または室温への冷却後にブランクをガラス溶融物から形成し、次いでブランクに、温度TW1においてある期間の時間tW1にわたって、第1の熱処理W1を少なくとも施し、このとき、620℃≦TW1≦800℃、特に650℃≦TW1≦750℃であり、および/または1分≦tW1≦200分、好ましくは10分≦tW1≦60分であることを特徴とする。有形物体は、ブランク/熱処理済みブランクから製作される。
【0032】
核およびメタケイ酸リチウム結晶は、第1の熱処理工程中に形成される。対応するケイ酸リチウムガラスセラミックブランクは、有形物体、すなわち、歯科用物品への加工によって難なく形成することができ、工具の摩耗は、最小限である。
【0033】
有形物体は、上記組成のブランクまたはペレットからのプレス加工によって製作することもでき、1回以上の熱処理工程は、プレス加工手順の最中または後に実施することができる。
【0034】
特に、最終的な結晶化を得るために、特に二ケイ酸リチウム結晶を生成するまたはメタケイ酸塩結晶を二ケイ酸塩結晶に変換するために、第1の熱処理W1後のケイ酸リチウムガラスセラミックブランクに、温度TW2で時間tW2にわたって第2の熱処理W2を施し、このとき、800℃≦TW2≦1040℃、好ましくは800℃≦TW2≦900℃であり、および/または2分≦tW2≦200分、好ましくは3分≦tW2≦30分であることが、定められている。
【0035】
下記の温度値および加熱速度は、好ましくは、予備結晶化または最終的な結晶化につながる熱処理工程のために選択される。第1の熱処理W1の場合、第1の保持段階が、640℃~680℃までの範囲であり、第2の保持段階が、720℃~780℃までの範囲である、二工程方式の手法が、特に定められている。各保持段階において、加熱されているブランクは、特定の期間の時間にわたってある温度に保持されるが、第1の段階において、この時間は、好ましくは、35乃至45分であり、第2の段階において好ましくは、15乃至25分である。
【0036】
第1の熱処理段階後または第2の熱処理段階後のいずれかにおいて、ただし、好ましくは第2の熱処理段階後において、研削またはミリングによってブランクを加工して、所望の幾何形状の有形物体を得る。続いて、有形物体は、-上薬を実際に施用せずに-模擬的な上薬の焼成を施され、または手で研磨する。同じ事柄が、プレス加工によって有形物体を得る場合にも当てはまる。
【0037】
次いで、利用可能にされた有形物体を塩溶融物中でアニーリングする。塩溶融物は、着色用添加剤、特に、セリウムからイッテルビウムまで(原子番号58~70)の1種以上のランタニドおよび/またはバナジウム、マンガン、鉄、イットリウム、アンチモンの群からの1種以上の元素を特に含む着色用添加剤を含有してもよい。
【0038】
塩溶融物から取り出し、冷却し、付着しているあらゆる塩溶融物/ペーストの残留物を除去した後で、このようにして利用可能にされた有形物体をある程度加工することが必要な場合、この有形物体は、特に、歯科用修復材として活用されてもよい。強度の増大を考慮すると、有形物体は、特に、複数単位型ブリッジであってもよい。
【0039】
対応する有形物体の試料は、800MPa超の曲げ強さ値を達成できることを実証した。この値は、DIN EN ISO6872:2009-1において指定されている曲げ強さ用の3点法を使用して測定された。
【0040】
DIN EN ISO6872:2009-1において指定されている加水分解試験で得られた化学溶解度の値は、95μg×cm-2未満だった。したがって、本発明による方法は、有形物体の強度だけでなく、耐腐食性も増大させた。
【0041】
特に、1種以上のアルカリ金属塩を含む塩をプレス加工または圧縮して、塩物体に変え、この塩物体を有形物体上に設置し、または有形物体をこの塩物体上に設置し、次いで塩物体を溶融させ、この結果、塩溶融物が有形物体を完全に包み込み、所望のイオン交換を実施することができることが、定められている。このプロセスにおいて、有形物体は、開口部を有する入れ物内に収納されていてもよい。
【0042】
さらなる提案によれば、上記のように1種以上のアルカリ塩を含むまたは含有する溶融塩によってイオン交換を実施可能にするために、塩は、回して外すことまたは引裂きによって除去可能な封かん材が付いた入れ物、すなわち、第2の入れ物、たとえばカプセルの中に入れたアリコートの状態で利用可能にされている。同時に、第2の入れ物は、有形物体が塩上に設置されている状態で塩を溶融させるように、有形物体のための入れ物として使用することもできる。当然ながら、最初に塩を溶融させ、次いで溶融物中に有形物体を浸漬することも可能である。上記の説明は、最初に塩によって有形物体を取り囲み、次いで塩を溶融させる可能性も含む。開口部を有する入れ物、たとえばワイヤーバスケットを用いて溶融物中に有形物体を浸漬する可能性もある。
【0043】
上記の事柄と独立に、有形物体は、塩と接触させたときに最初から室温であるようにすべきである。従来の技術水準からの脱却として、有形物体は、塩/溶融物中でのアニーリング前に、最初に加熱されることがない。
【0044】
本発明によれば、ガラス相が、20~65体積%、特に40~60体積%であることも、特に定められている。
【0045】
したがって、本発明は、ケイ酸リチウム結晶が、35~80体積%、特に40~60体積%までの範囲で存在する、有形物体もまた特徴とする。ここで、ケイ酸リチウム結晶は、P25が含有される場合、二ケイ酸リチウム結晶、メタケイ酸リチウム結晶およびリン酸リチウム結晶の合計を意味する。
【0046】
特に、有形物体は、リチウムイオンを置きかえるアルカリ金属イオンの濃度が、特にカリウムイオンが使用される場合、表面から10μmの深さに至るまでで、5~20重量%までの範囲であることを特徴とする。表面から8乃至12μmの深さにおいて、アルカリイオンは、5~10重量%までの範囲で存在すべきである。表面から12乃至14μmの深さにおいて、アルカリイオンは、4~8重量%までの範囲で存在すべきである。表面から14乃至18μmの深さにおいて、対応するアルカリイオンの範囲は、1乃至3重量%である。アルカリイオンの重量百分率は、層を経るごとに低下していく。
【0047】
上記のように、重量百分率の値は、有形物体中にすでに存在するアルカリイオンを考慮に入れない。この数値は、特に、カリウムイオンに当てはまる。
【0048】
本発明のさらなる詳細、利点および特徴は、そこからこれらの特徴が単独でおよび/または組み合わさって派生することになる、特許請求の範囲から派生するだけでなく、以下に与えられている例からも派生する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】ケイ酸リチウムガラスセラミック材料製の有形物体に表面圧縮応力を発生させるための配置の第1の態様の概略図である。
図2】ケイ酸リチウムガラスセラミック材料製の有形物体に表面圧縮応力を発生させるための配置の第2の態様の概略図である。
図3】ケイ酸リチウムガラスセラミック材料製の有形物体に表面圧縮応力を発生させるための配置の第3の態様の概略図である。
図4】ケイ酸リチウムガラスセラミック材料製の有形物体に表面圧縮応力を発生させるための配置の第4の態様の概略図である。
図5】ケイ酸リチウムガラスセラミック材料製の有形物体に表面圧縮応力を発生させるための配置の第5の態様の概略図である。
図6】ケイ酸リチウムガラスセラミック材料製の有形物体に表面圧縮応力を発生させるための配置のさらなる態様の概略図である。
図7】塩を保持するためのカプセルの図である。
図8】塩溶融物および有形物体が入った図7によるカプセルの図である。
図9】加熱デバイスの図である。
【好ましい態様の説明】
【0050】
ケイ酸リチウムガラスセラミック製の有形物体のガラス成分中に存在するリチウムイオンが、より大きな直径のアルカリ金属イオンによって置きかえられる結果として、表面圧縮応力が発生し、強度の増大につながることは、最初に例示すべきである。
【0051】
下記の試験において、目視により一様な混合物が得られるまで、少なくとも原材料、たとえば炭酸リチウム、石英、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムをドラムミキサー内で混合した。試験のために使用された製造業者のデータに従った組成が、以下に与えられている。
【0052】
下記は、原則的に、以下に与えられている試験に当てはまる。
【0053】
対象とする混合物を、高温に耐え切る白金合金るつぼ内において1500℃の温度で5時間の期間にわたって溶融させた。続いて、溶融物を型に注ぎ込んで、長方形の物体(ブロック)を得た。続いて、ブロックに、第1の熱処理工程と称されている二工程方式の熱処理を施して、メタケイ酸リチウム結晶を主要結晶相として精製した(第1の処理工程)。これにより、ブロックを、第1の熱処理工程W1において2K/分の加熱速度で660℃に加熱し、この温度に40分保持した。次いで、ブロックを10K/分の加熱速度で750℃にさらに加熱した。供試材をこの温度に20分保持した。この熱処理が核形成に影響し、メタケイ酸リチウム結晶が形成される。
【0054】
次いで、ブロックに第2の熱処理工程W2(第2の処理工程)を施して、二ケイ酸リチウム結晶を主要結晶相として形成する。この熱処理工程において、ブロックを、ある期間の時間t2にわたって温度T2に維持した。対応する値が、以下に与えられている。次いで、ブロックを室温に冷却した。
【0055】
次いで、長方形形状の曲げ操作対象のロッド(供試材)を、機械によるブロックの研削によって冷却済みブロックから得た(第3の処理工程)。曲げ操作対象のロッドは、長さ15mm、幅4.1mmおよび高さ1.2mmという寸法を有していた。次いで、一部の供試材の縁部を、1200番手の炭化ケイ素研磨紙を使用して平滑化した。Struers Knuth-Rotor回転研削機を、研削のために使用した。次いで、供試材の面を研削した(第4の処理工程)。ここでもやはり、1200番手のSiC研磨紙を使用した。次いで、上薬の焼成(第5の処理工程)を、材料の施用なしでさらなる一部の供試材に実施した。この上薬の焼成(第3の熱処理工程と称される)は、温度T3においてある期間の時間t3にわたって実施された。上薬の焼成を実施して、表面のあらゆるクラックを密封する。
【0056】
3点曲げ強さ測定を、DIN EN ISO6872:2009-01において指定されているように実施した。この目的のために、供試材(小さなロッド)を、10mmの距離を空けて2個の支持体に取り付けた。荷重を与えるピストンは、ロッド間にある供試材に作用したが、このとき、ロッドの先端が、0.8mmの半径を有する供試材と接触していた。
【0057】
供試材に、DIN EN ISO6872:2009-01において指定されている加水分解試験も施した。
【0058】
例1(本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミック)
製造業者の仕様書に従った下記の(重量百分率における)出発組成を使用して、ケイ酸リチウムガラスを得、このケイ酸リチウムガラスセラミック材料によっていくつかの試験を実施した。
【0059】
【表2】
【0060】
ガラス相の百分率は、40~60体積%までの範囲だった。
a) 試験系列第1番
20本のロッドを得、処理工程1~5を実施した。最終的な結晶化(第2の熱処理工程)を、830℃の温度T2において、5分の期間の時間t2にわたって実施した。上薬の焼成(第5の処理工程)を、4分の期間の時間t3にわたって820℃の温度T3で実施した。
【0061】
次いで、これらのロッドのうちの10本に、さらなる処理なしで3点曲げ強さ試験を施すと、322MPaの平均値が得られた。
【0062】
次いで、残りの10本のロッドを、工業用純品KNO3の塩浴中において、480℃の温度で1時間アニーリングした。次いで、ロッドを溶融物から取り出し、温水を使用して溶融物の残留物を除去した。次いで、3点曲げ強さ測定を、上記のように実施した。平均3点曲げ強さの値は、750MPaだった。
b) 試験系列第2番
20本のロッドを、試験系列第1番の場合と同様にして得た。上薬の焼成直後に3点曲げ強さ試験を10本のロッドに実施すると、347MPaの曲げ強さの平均値が得られた。次いで、他の10本のロッドを、工業用純品KNO3の溶融物中において480℃の温度で10時間アニーリングした。曲げ強さの平均値は、755MPaだった。
c) 試験系列第3番
次いで、化学的溶解度を、第1の試験系列の場合と同様にして得たロッドで、KNO3溶融物中でアニーリングされたロッドと、アニーリングされていないロッドの両方について、DIN EN ISO6872:2009-01において与えられている方法によって測定した。カリウムイオン溶融物中でアニーリングされていないロッドは、96.35μg×cm-2の初期値を有していた。アニーリングされたロッドの化学的溶解度の値は、90.56μg×cm-2だった。
d) 試験系列第4番
次いで、ロッドを上記出発物質から得たが、処理工程1~3のみを施し、すなわち、ロッドの縁部を平滑化または研磨しておらず、上薬の焼成を行わなかった。調製された20本のロッドのうちの10本に曲げ強さ測定を実施すると、187MPaの平均値が得られた。次いで、他の10本のロッドを、工業用純品KNO3の塩溶融物中において580℃の温度で10時間アニーリングした。3点曲げ強さの平均値は、571MPaだった。
e) 試験系列第5番
さらなる20本のロッドを、上記組成のケイ酸リチウム材料から調製したが、これらのロッドには、処理工程1~4のみを実施し、すなわち、上薬の焼成を実施しなかった。アニーリングされていない10本のロッドの場合、233MPaの曲げ強さの平均値が得られた。次いで、他の10本のロッドを、NaNO3溶融物中において480℃で20分アニーリングした。ロッドは、620MPaの曲げ強さを有していた。
【0063】
上記試験により、すべての供試材は、これらすべての供試材が良好な機械的調製を受けたか(試験系列a)、b)、e))、良好な機械的調製を受けなかった(試験系列d))かにかかわらず、アルカリイオン溶融物中でのアニーリング前に100%超強度が増大したことが明らかになった。
【0064】
初期値の偏差に関しては、すなわち、アニーリングなしの場合に関しては、同じ分類の出発物質の相異なるバッチから供試材を得たこと、および、供試材の調製の差異があったことに留意すべきである。
【0065】
例2(本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミック)
重量百分率における次の組成のケイ酸リチウム材料を、上記のように溶融させた。
【0066】
【表3】
【0067】
ガラス相の百分率は、40~60体積%までの範囲だった。
【0068】
溶融材料を白金製の型に注ぎ込んで、歯科用炉内でプレス加工してプレスドセラミックを得るための丸いロッド(ペレット)を得た。これにより、長方形形状の空洞を埋没材料中に形成して、例1に従った測定のための供試材ロッドを得た。ロッドの寸法は、試験系列a)~e)のロッドの寸法に対応していた。プレス加工対象の材料は、埋没材料に取り込んだ状態で860℃の温度で30分プレス加工した。次いで、1乃至1.5barのジェット圧力により110μmの平均直径の酸化アルミニウム粒子を使用して、ロッドを埋没材料から取り出して、可能な限り損傷を少なく保った。次いで、試験系列a)、b)およびe)に従って縁部を平滑化し、表面を研磨した(第4の処理工程)。上薬の焼成(第5の処理工程)は、行わなかった。供試材を相応に調製し、DIN EN ISO6872:2009-01において指定されている供試材のうちの50%に、曲げ強さ測定を直接施した。次いで、残りの供試材を、アルカリイオン溶融物中でアニーリングした。
f) 試験系列第6番
10個の供試材の縁部を平滑化し、表面を研磨した。これらの供試材は、264MPaの平均曲げ強さを有していた。次いで、10個の供試材を、工業用純品KNO3塩溶融物中において420℃で10時間アニーリングした。平均曲げ強さは、464MPaだった。
g) 試験系列第7番
10個の供試材は、254MPaの平均曲げ強さを有していた。10個の供試材を、工業用純品KNO3塩溶融物中において500℃で10時間アニーリングした。平均曲げ強さは、494MPaだった。
h) 試験系列第8番
アニーリングされていない10個の供試材は、204MPaの平均曲げ強さを有していた。さらなる10個の供試材を、工業用純品NaNO3塩溶融物中において480℃で10分アニーリングした。平均曲げ強さは、475MPaだった。
強度の初期値の偏差は、相異なるバッチの使用および供試材の調製の性質が原因である。
【0069】
例3(技術水準のガラスセラミック)
歯科用炉内に押し込んでセラミックをプレス加工するために、商用ペレットを使用した。ペレットの分析により、重量百分率における次の組成が明らかになった。
【0070】
【表4】
【0071】
ガラス相の百分率は、5~15体積%だった。
【0072】
対応するペレットを、歯科用炉内において920℃の温度で30分プレス加工した。次いで、ペレットの縁部を平滑化し、処理工程第4番に従って研磨を実施した。
i) 試験系列第9番
10個の供試材の測定により、平均曲げ強さが422MPaであることが明らかになった。
【0073】
10個の供試材を、工業用純品NaNO3塩溶融物中において480℃で20分アニーリングした。アニーリング後、平均曲げ強さは、355MPaだった。
【0074】
例4(技術水準によるガラスセラミック)
分析によれば、重量百分率における次の組成を有する、ケイ酸リチウムガラスセラミック製の市販のブロックを使用した。
【0075】
【表5】
【0076】
ガラス相の百分率は、5~15体積%だった。
【0077】
例1に関しては、対応する寸法の供試材ロッドを、第3および第4の処理工程に従ってブロック(有形物体)の研削によって調製し、ロッドの縁部を平滑化し、続いて表面を研磨した。
【0078】
供試材中の主要結晶相として二ケイ酸リチウム結晶を得るために、製造業者のデータに従って、最終的な結晶化を、10分の期間にわたって供試材を850℃に加熱することによって実施した。
j) 試験系列第10番
上記種類の3点曲げ強さ測定を、これらの10個の供試材に実施した。得られた平均値は、352MPaだった。さらなる10個の供試材を、工業用純品KNO3溶融物中において480℃で10時間アニーリングした。平均曲げ強さは、594MPaだった。
k) 試験系列第11番
さらなる20個の供試材を、対応するバッチから調製し、最終的な結晶化も含めるが第4の処理工程は除いて同じ処理工程を実施し、この結果、供試材の良好な機械的調製はなかった(供試材の縁部の研磨または平滑化はなかった)。
【0079】
このようにして調製された供試材のうちの10個は、331MPaの曲げ強さの平均値を有していた。10個の供試材を、KNO3溶融物中において480℃で10時間アニーリングした。曲げ強さの平均値は、477MPaだった。
l) 試験系列第12番
供試材を、試験系列第10番(j)の場合と同様にして調製した。アニーリングされていない10個の供試材の曲げ強さの平均値は、381MPaだった。10個の供試材を、工業用純品NaNO3溶融物中において480℃で20分アニーリングした。強度の平均値は、348MPaだった。
【0080】
上記例/試験系列の比較により、供試材のガラス相中におけるアルカリ酸化物の合計含量が低いとき、すなわち、結晶化の実施後で、セラミック材料中のガラスの百分率が高い場合、リチウムイオンを、他のより大きな直径のアルカリイオンによって置きかえることができ、この結果、所望の表面圧縮応力が発生し、結果として強度が増大することが示されている。同時に、耐薬品性が改善されている。これらの効果は、例3および4から明瞭であるように、使用しようとする有形物体、すなわち、供試材中のガラス相の百分率が20%未満、特に15%未満である場合に低減され、または全く見受けられない。この理由として可能性があるのは、おそらくはガラス相の百分率と独立に、ガラス相中におけるアルカリ酸化物の含量、すなわち、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの含量が出発組成に対して2.5重量%超、特に3重量%超であるという点である。出発組成におけるLi2Oの百分率もまた、同様に影響を与え、すなわち、リチウムイオンの百分率を高くすると、表面圧縮応力が増大するように酸化ナトリウムおよび酸化カリウムとリチウムイオンとの交換を増進することができる。
【0081】
可能性のある説明は、次のとおりである。表面圧縮応力を発生させるイオン交換が、ガラスセラミック供試材の表面と塩溶融物との界面で起き、このプロセスが、ガラスセラミックのアルカリイオンの拡散によって制御される。リチウムイオンは、ガラスセラミックから表面に拡散し、この表面において、リチウムイオンが塩溶融物から出たアルカリイオンによって置きかえられると、塩溶融物から出たアルカリイオンが、リチウムイオンを置きかえた後に、表面からガラスセラミックの内部領域に拡散する。ケイ酸リチウムガラスセラミック中のガラス相の百分率が高く、アニーリング前に、ガラス相中のカリウムイオンおよびナトリウムイオンの百分率が比較的低い場合は、ガラス相の百分率が低く、ガラス相中の元々のアルカリイオンの百分率(酸化ナトリウムおよび酸化カリウム)が比較的高いガラスセラミック材料に比較して、推進力およびこの結果としてのイオン交換能力がより高く/より効果的になる。
【0082】
これは、ガラス相中のリチウムイオンの百分率を高めること、すなわち、沈殿物中に結合しておらず、したがって、イオン交換に利用できるリチウムイオンの百分率を高めることによって、さらに強化してもよい。沈殿物は、Li-SiおよびLi-P沈殿物である。
【0083】
本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミック供試材を対象にして実施されたさらなる測定により、リチウムイオンを置きかえるアルカリイオンの百分率が、表面から10μmの深さに至るまでで、5~20重量%までの範囲であることが示されている。表面から8乃至12μmの深さにおいて、アルカリイオンは、5~10重量%までの範囲で存在する。表面から12乃至14μmの深さにおいて、アルカリイオンは、4~8重量%までの範囲で存在する。表面から14乃至18μmの深さにおいて、アルカリイオンの範囲は、1乃至3重量%であり、アルカリイオンの重量百分率が、層を経るごとに低下していく。
【0084】
走査型電子顕微鏡を使用して検査したときには、カリウムイオンの貯蔵にかかわらず、カリウムイオンを含有する塩溶融物中でアニーリングされていない供試材に比較して、微細構造に差異がなかった。
【0085】
上記の結果として、本教示によれば、リチウムイオンがより大きな直径のアルカリ金属イオンによって置きかえられたときに、表面圧縮応力が発生するということになる。ケイ酸リチウムガラスセラミック材料からできた有形部品の強度を増大させるために、本発明による多様な手段が提案されており、図面を参照しながら説明する。
【0086】
たとえばブリッジまたはクラウンの形態であるケイ酸リチウムガラスセラミック製の有形物体10の強度を改善するという目的で、すなわち、本発明の教示に従ってより大きな直径のアルカリイオンによってリチウムイオンを置きかえて、表面圧縮応力を発生させるという目的で、図1図5の態様例によれば、(第6の入れ物とも呼ばれる)容器12が使用されており、この容器12内では、ブリッジまたはクラウンが溶融物14によって完全に包み込まれている。この目的のために、図1の態様例に従って、硝酸カリウムを入れ物12の中に導入し、溶融させる。温度は、約480℃だった。あらかじめミリングによって得た二ケイ酸リチウム結晶を主要結晶相として有するケイ酸リチウムガラスセラミック製の有形物体10を、表面欠陥を密封するための上薬の焼成の実施後に溶融物14中に導入した。代替的には、手による平滑化を実施した。次いで、室温の有形物体10を、第1の入れ物とも呼ばれるバスケット16の中に配置し、次いでバスケット16を、簡潔性のために下記においてクラウン10と呼ばれている有形物体10と一緒にして溶融物12中に浸漬し、8時間の期間にわたって溶融物中でアニーリングした。次いで、クラウン10が入ったバスケット16を溶融物12から取り出し、冷却した後、存在する溶融物の残留物をクラウン10から除去した。このとき、続いてクラウン10を加工することはしなかった。
【0087】
概略図から分かるように、クラウン10が溶融物14中に完全に浸漬されるように溶融塩をアリコート化する。イオン交換が実施された後、新たな溶融物中でさらなる修復材を処理することができるように溶融物を処分する。
【0088】
リチウムイオン交換能力を維持可能にするために、たとえばK2HPO4を硝酸カリウム塩に添加してもよく、ケイ酸リチウムガラスセラミック物体から出たリチウムイオンが、リン酸イオンとの間でリン酸リチウムの形態の沈殿物を形成し、この結果、硝酸カリウム溶融物がリチウムイオンに富まなくなるという利点が生じる。K2HPO4は、リチウムイオンを得るものとして機能する。
【0089】
図1の例においては、クラウン10を溶融物14中に浸漬するが、図2の例の態様によれば、最初に、クラウン10をバスケット16と一緒に、容器12の中に導入する。アルカリ金属イオン塩、特に硝酸カリウムまたはたとえば硝酸ナトリウムと硝酸カリウムとの混合物、一例を挙げるならばカリウムの金属イオン塩からできた、プレス加工または圧縮された物体18を、上記種類の熱処理によって塩物体18が溶融してクラウン10が溶融物中に完全に浸漬されるようにすべく、クラウン10上に配置する。次いで、図1の例に従って温度と時間による処理を実施することができる。同じ事柄が、除去および清浄化にも当てはまる。
【0090】
原則的に、図3の例の態様は、図2の例の態様に対応するが、クラウン10がバスケット16によって導入されるのではなく、補助なしで容器12内に導入されるという限定がある。
【0091】
図1の例の態様の場合と同様に、図2および図3による例の態様の有形物体は、塩物体18と接触したときに室温であるようにすべきである。
【0092】
図4および図5の例の態様は、クラウン10を塩物体18上に直接配置し、または最初に、開口部を有する入れ物、たとえばワイヤーバスケット16内に配置し、次いでワイヤーバスケット16を塩物体18上に配置するという点で、図1図3の例の態様と異なる。この塩物体18は、容器12の中に入っている。次いで、塩物体18を溶融させる。これにより、塩物体18は、クラウン10が溶融物によって完全に包み込まれることを確実にする体積を有する。
【0093】
塩物体18に関しては、この塩物体18が、塩粒子漏出の危険性がない簡便な取扱いを可能にするためのプラスチック製被覆材を有してもよいことに留意すべきである。次いで、プラスチック製被覆材を、採用された温度において溶解させる。
【0094】
クラウン10が溶融カリウム塩によって完全に包み込まれているさらなる態様の形態が、図6において示されている。この目的のために、耐熱性ホイル、特に金属ホイル26を使用するが、この金属ホイル26中には、アリコートにした量のカリウム塩24が存在する。ホイル26は、第4の入れ物と呼ばれている。上記アリコートにした量は、塩24/塩24から形成された溶融物によってクラウン10が完全に包み込まれるように選択される。次いで、金属ホイル26を密封し、すなわち、クラウン10と一緒になった塩24の全体を、金属ホイル26によって取り囲む。次いで、温度と時間による処理を、上記のように実施して、塩を溶融させ、上記のようにカリウム塩溶融物中でクラウン10をアニーリングし、この結果、イオン交換を実施することが可能となり、この結果、表面圧縮応力が発生する。
【0095】
図7および図8の例の態様によれば、アリコートにした量のカリウム塩またはカリウム塩の混合物を、カプセル20、たとえばアルミニウム製のカプセル20内に導入する。第2の入れ物とも呼ばれるカプセル20は、フランジ状の縁21に沿って延在するフタ22によって密封されている。クラウン10を硬化させるために、カプセル20内の塩24を溶融させ、次いでクラウン10を導入すること、または、クラウン10を塩上に配置し、クラウン10および塩を塩24の溶融に必要な温度にすることのいずれかを行う。当然ながら、最後の選択肢は、開いたカプセル20、すなわち、フタ22が縁21から少なくとも部分的に取り除かれており、おそらくは完全に取り除かれた状態のカプセル20を伴う。
【0096】
当然ながら、クラウン10が、第3の入れ物と称されるワイヤーバスケット内に設置されており、この結果、クラウン10が、クラウン10と一緒に溶融物中に浸漬される可能性もあることには、さらに留意すべきである。
【0097】
上記の事柄と独立に、クラウン10は、塩24/溶融物と最初に接触したときに室温であるようにすべきである。
【0098】
図9において単なる概略として示されているように、第2の入れ物と称されるカプセル20内の塩を、エネルギーの観点から好ましい様式で溶融させるという目的で、炉28を使用してもよい。炉28は、第5の入れ物と称される入れ物30を有し、この入れ物30は、カプセル20が入れ物30の内壁と隣接して良好な伝熱が可能になるように、カプセル20の外形幾何形状に適合している。カプセル20の周縁部をなしているフランジ状の縁21は、入れ物30にある階段状のくぼみ32と幾何形状が適合した状態で延在することが、図9から分かる。
【0099】
上記時間と温度による処理の後には、アルカリ金属イオン、特にナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンが有形物体、たとえばクラウン10の表面層から内部領域に拡散する可能性を排除するために、さらなる処理工程、特に、200℃超の温度処理工程は行われない。
以下に、出願当初の請求項を実施の態様として付記する。
[1] ケイ酸リチウムガラスセラミック製の医療用の、好ましくは歯科用の、有形物体(10)またはこの一部、特にブリッジ、クラウン、コーピング、インレー、アンレーまたはベニアの強度を増大させるための方法であって、
より大きな直径のアルカリ金属イオンによるリチウムイオンの置きかえによって、ケイ酸リチウムガラスセラミック製の前記有形物体(10)に表面圧縮応力を発生させ、前記有形物体を、より大きな直径のイオンを伴う1種以上のアルカリ金属の塩を含むまたは含有する溶融物(14)によって被覆し、前記有形物体を、時間tにわたって温度Tで前記溶融物と接触させておき、次いで、前記溶融物を前記有形物体から除去し、このとき、アリコートにした量の塩を前記溶融物のために使用すること
を特徴とする、
方法。
[2] 前記アリコートにした量としての前記塩から、プレス加工または圧縮によって塩物体(18)を調製すること、および、前記塩物体を前記有形物体(10)上に設置し、または前記有形物体を前記塩物体上に直接もしくは間接的に設置し、次いで前記塩物体を溶融させること
を特徴とする、
[1]に記載の方法。
[3] 前記有形物体(10)を、開口部を有する第1の入れ物(16)、たとえばワイヤーバスケットの中に設置し、次いで、
・ 前記有形物体(10)が入った前記第1の入れ物を、前記溶融物(14)中に浸漬し、または
・ 前記有形物体が入った前記第1の入れ物を、前記塩中に導入し、次いで前記塩を溶融させ、または
・ 前記有形物体が入った前記第1の入れ物を、前記塩もしくは前記塩物体上に設置し、前記塩の溶融と同時に、形成している前記溶融物中に前記有形物体が浸漬されること
を特徴とする、
[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記有形物体(10)を小分けにした量の塩を含有する耐熱性ホイル(26)によって包み込み、次いで前記塩を溶融させること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[5] 前記小分けにした塩が、たとえば引裂きによって除去可能な封かん材(22)が付いた第2の入れ物(20)、たとえばカプセルの中に入れた状態で利用可能にされていること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[6] 前記有形物体(10)を前記塩上に設置した後、前記塩を溶融させること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[7] 前記塩を前記第2の入れ物(20)内で溶融させ、次いで、前記有形物体を前記溶融物中に浸漬すること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[8] 開口部を有する第3の入れ物と共に前記有形物体(10)を、前記第2の入れ物(20)内に存在する前記溶融物中に浸漬すること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[9] イオン交換を可能にする前記アルカリ金属塩に、リン酸塩、たとえばK 2 HPO 4 を添加して、リチウムイオンを結合させること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[10] Na、K、Csおよび/またはRbイオンをアルカリ金属イオンとして使用して、前記表面圧縮応力を発生させること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[11] 前記溶融物(14)が、前記有形物体(10)を着色する1種以上の元素を含有すること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[12] 前記1種以上の着色する元素が、58~70までの範囲の原子番号の1種以上のランタニド、好ましくはセリウム、プラセオジム、テルビウムおよび/またはエルビウムであること
を特徴とする、
少なくとも[11]に記載の方法。
[13] 少なくとも1種の着色する元素が、バナジウム、マンガン、鉄、イットリウムおよびアンチモンの群からの元素であること
を特徴とする、
少なくとも[11]に記載の方法。
[14] 前記1種以上の着色する元素が、アルカリイオンを含有する前記溶融物(14)中に溶解された状態で含有されること
を特徴とする、
少なくとも[11]に記載の方法。
[15] 前記有形物体(10)を、カリウムイオンを含有する溶融物(14)、特にKNO 3 、KClもしくはK 2 CO 3 を含有する溶融物またはナトリウムイオンを含有する溶融物、特にNaNO 3 、酢酸ナトリウムもしくは有機酸のナトリウム塩を含有する溶融物、または、カリウムイオンとナトリウムイオンとの混合物を特に50:50のモル百分率の比で含有する溶融物、好ましくはNaNO 3 およびKNO 3 を含有する溶融物中でアニーリングすること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[16] T≧300℃、特に350℃≦T≦600℃、好ましくは430℃≦T≦530℃の温度Tにおいて、特に、t≧5分、好ましくは0.5時間≦t≦10時間、特に好ましくは3時間≦t≦8時間の時間tにわたって、前記有形物体(10)をアニーリングすること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[17] 前記有形物体(10)を、出発成分として少なくとも、SiO 2 、Al 2 3 、Li 2 O、K 2 O、少なくとも1種の核形成剤、たとえばP 2 5 および少なくとも1種の安定剤、たとえばZrO 2 を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
先行する請求項の少なくとも1項に記載の方法。
[18] 前記ガラス溶融物が、少なくとも1種の着色用金属酸化物、たとえばCeO 2 および/またはTb 4 7 を含有すること
を特徴とする、
少なくとも[17]に記載の方法。
[19] 前記有形物体(10)または前記有形物体が製造されるブランクを、重量百分率での以下の成分:
・ SiO 2 50~80、好ましくは52~70、特に好ましくは56~61
核形成剤、たとえばP 2 5
0.5~11、好ましくは3~8、特に好ましくは4~7
・ Al 2 3 0~10、好ましくは0.5~5、特に好ましくは1.5~3.2
・ Li 2 O 10~25、好ましくは13~22、特に好ましくは14~21
・ K 2 O 0~13、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5
・ Na 2 O 0~1、好ましくは0~0.5、特に好ましくは0.2~0.5
・ ZrO 2 0~20、好ましくは4~16、特に6~14、特に好ましくは8~12
・ CeO 2 0~10、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5
・ Tb 4 7 0~8、好ましくは0.5~6、特に好ましくは1.0~2.0
・ 任意に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの群からの1種以上のアルカリ土類金属の1種以上の酸化物
0~20、好ましくは0~10、特に好ましくは0~5、
・ 任意に、B 2 3 、MnO 2 、Fe 2 3 、V 2 5 、TiO 2 、Sb 2 3 、ZnO、SnO 2 およびフルオリドの群からの1種以上の添加剤
0~6、好ましくは0~4
・ 任意に、原子番号57、59~64、66~71の希土類金属、特にランタン、イットリウム、プラセオジム、エルビウム、ユウロピウムの1種以上の酸化物
0~5、好ましくは0~3
を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
少なくとも[17]に記載の方法。
[20] 前記ガラス溶融物が、重量百分率での出発成分としての以下:
SiO 2 58.1±2.0
2 5 5.0±1.5
Al 2 3 4.0±2.5
Li 2 O 16.5±4.0
2 O 2.0±0.2
ZrO 2 10.0±0.5
CeO 2 0~3、好ましくは1.5±0.6
Tb 4 7 0~3、好ましくは1.2±0.4
Na 2 O 0~0.5、好ましくは0.2~0.5
を含有すること
を特徴とする、
少なくとも[17]に記載の方法。
[21] 冷却の途中または室温への冷却後に前記ガラス溶融物から前記ブランクを形成し、次いで前記ブランクに、温度T W1 において時間t W1 にわたって少なくとも1回の第1の熱処理W1を施し、このとき、620℃≦T W1 ≦800℃、特に650℃≦T W1 ≦750℃であり、および/または1分≦t W1 ≦200分、好ましくは10分≦t W1 ≦60分であること
を特徴とする、
少なくとも[17]に記載の方法。
[22] 前記第1の熱処理W1を2つの工程で実施し、このとき、特に第1の工程において、温度T St1 が、630℃≦T St1 ≦690℃に設定されており、および/または第2の工程において、温度T St2 が、720℃≦T St2 ≦780℃に設定されており、および/または前記温度T St1 に至るまでの加熱速度A St1 が、1.5K/分≦A St1 ≦2.5K/分であり、および/または前記温度T St2 に至るまでの加熱速度A St2 が、8K/分≦T St2 ≦12K/分であること
を特徴とする、
少なくとも[21]に記載の方法。
[23] 前記ケイ酸リチウムガラスセラミックブランクに、前記第1の熱処理W1後に温度T W2 において時間t W2 にわたって第2の熱処理W2を施し、このとき、800℃≦T W2 ≦1040℃、好ましくは800℃≦T W2 ≦870℃であり、および/または2分≦t W2 ≦200分、好ましくは3分≦t W2 ≦30分であること
を特徴とする、
少なくとも[21]に記載の方法。
[24] 前記第1または第2の熱処理の工程の後、特に前記第1の熱処理の工程の後、前記有形物体(10)を、研削および/もしくはミリングまたはプレス加工によって前記ブランクから調製し、このとき、1回以上の前記熱処理の工程を、プレス加工の最中または後に実施すること
を特徴とする、
少なくとも[21]に記載の方法。
[25] ケイ酸リチウムガラスセラミック製の医療用、特に歯科用、物品またはこの一部の形態、特にブリッジ、クラウン、コーピング、インレー、アンレーまたはベニアの形態である有形物体(10)であって、
より大きな直径のアルカリイオンによるリチウムイオンの置きかえによって、前記有形物体(10)に表面圧縮応力を発生させること
を特徴とする、
有形物体。
[26] 前記アルカリ金属イオンが、Na、K、Csおよび/またはRbイオン、特にNaイオンもしくはKイオン、またはNaおよびKイオンであること
を特徴とする、
[25]に記載の有形物体。
[27] 前記有形物体(10)または前記有形物体が調製されるブランクのガラス相が、前記有形物体の強度を増大させる少なくとも1種の安定剤、特にZrO 2 の形態の少なくとも1種の安定剤を含有し、前記有形物体の出発組成における前記安定剤の濃度が、好ましくは8~12重量%であること
を特徴とする、
[25]または[26]に記載の有形物体。
[28] 前記有形物体(10)を、重量百分率での以下の成分:
・ SiO 2 50~80、好ましくは52~70、特に好ましくは56~61
・ 核形成剤、たとえばP 2 5
0.5~11、好ましくは3~8、特に好ましくは4~7
・ Al 2 3 0~10、好ましくは0.5~5、特に好ましくは1.5~3.2
・ Li 2 O 10~25、好ましくは13~22、特に好ましくは14~21
・ K 2 O 0~13、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5
・ Na 2 O 0~1、好ましくは0~0.5、特に好ましくは0.2~0.5
・ ZrO 2 0~20、好ましくは4~16、特に6~14、特に好ましくは8~12
・ CeO 2 0~10、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5
・ Tb 4 7 0~8、好ましくは0.5~6、特に好ましくは1.0~2.0
・ 任意に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの群からの1種以上のアルカリ土類金属の1種以上の酸化物
0~20、好ましくは0~10、特に好ましくは0~5、
・ 任意に、B 2 3 、MnO 2 、Fe 2 3 、V 2 5 、TiO 2 、Sb 2 3 、ZnO、SnO 2 およびフルオリドの群からの1種以上の添加剤
0~6、好ましくは0~4
・ 任意に、原子番号57、59~64、66~71の希土類金属の1種以上の酸化物、特にランタン、イットリウム、プラセオジム、エルビウム、ユウロピウムの1種以上の酸化物
0~5、好ましくは0~3
を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
少なくとも[25]に記載の有形物体。
[29] 前記有形物体(10)を、重量百分率での以下の成分:
SiO 2 58.1±2.0
2 5 5.0±1.5
Al 2 3 4.0±2.5
Li 2 O 16.5±4.0
2 O 2.0±0.2
ZrO 2 10.0±0.5
CeO 2 0~3、好ましくは1.5±0.6
Tb 4 7 0~3、好ましくは1.2±0.4
Na 2 O 0~0.5、好ましくは0.2~0.5
を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
少なくとも[25]に記載の有形物体。
[30] 前記ガラス相が、20~65体積%までの範囲であること
を特徴とする、
少なくとも[25]に記載の有形物体。
[31] 前記物体(10)の35%乃至80体積%が、ケイ酸リチウム結晶であること
を特徴とする、
少なくとも[25]に記載の有形物体。
[32] 前記リチウムイオンを置きかえるアルカリイオンの百分率が、表面を起点として10μmの深さに至るまでで、5~20重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から8乃至12μmの深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、5~10重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から12乃至14μmの層深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、4~8重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から14乃至18μmの深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、1~3重量%までの範囲であり、前記アルカリイオンの重量百分率が、層を経るごとに低下していくこと
を特徴とする、
[25]から[31]の少なくとも1項に記載の有形物体。
[33] より大きな直径のアルカリイオンによるリチウムイオンの置きかえによって、ケイ酸リチウムセラミック材料製の有形物体(10)に表面応力を発生させるための少なくとも1種のアルカリ金属塩を充填した、カプセル(20)の使用であって、
前記有形物体が、前記カプセル中で溶融させた前記少なくとも1種のアルカリ金属塩によって被覆されている、
使用。
[34] 少なくとも[5]に記載の前記第2の入れ物(20)、たとえばカプセル内のアリコートにした前記塩を溶融させるための加熱デバイス(28)であって、
前記加熱デバイス(28)が、少なくとも領域において、前記第2の入れ物(20)の外形幾何形状に幾何学的に適合している第5の入れ物(30)を有すること
を特徴とする、
加熱デバイス(28)。
[35] 前記第5の入れ物(30)が、前記加熱デバイス(28)の加熱プレート内に配置されていること
を特徴とする、
[34]に記載の加熱デバイス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9