(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ケイ酸リチウムガラスセラミック製の有形物体の強度を増大させるための方法
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20230731BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20230731BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20230731BHJP
A61K 6/00 20200101ALI20230731BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20230731BHJP
A61K 6/84 20200101ALI20230731BHJP
C03B 32/02 20060101ALI20230731BHJP
C03C 10/04 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C03C21/00 101
A61C5/70
A61C13/00
A61K6/00
A61K6/831
A61K6/84
C03B32/02
C03C10/04
(21)【出願番号】P 2017560975
(86)(22)【出願日】2016-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2016061460
(87)【国際公開番号】W WO2016188914
(87)【国際公開日】2016-12-01
【審査請求日】2018-07-06
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】102015108171.7
(32)【優先日】2015-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515304558
【氏名又は名称】デンツプライ・シロナ・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】504013395
【氏名又は名称】デグデント・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】プロエプスター、ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ボルマン、マルクス
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】増山 淳子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-515659(JP,A)
【文献】特表2013-543831(JP,A)
【文献】特開昭60-156446(JP,A)
【文献】特開昭63-117747(JP,A)
【文献】H.Fischer et al.,Chemical strengthening of a dental lithium disilicate glass-ceramic material,J.Biomed. Mater. Res.,2008年 1月 9日,Vol.87A/Issue3,p.582-587
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C10/00-10/16
C03C21/00
A61C13/00-13/38
A61K6/00-6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸リチウムガラスセラミック製の医療用有形物体(10)の強度を増大させるための方法であって、
より大きな直径のアルカリ金属イオンによるリチウムイオンの置きかえによって、ケイ酸リチウムガラスセラミック製の前記有形物体(10)に表面圧縮応力を発生させる方法であり、前記有形物体を、アルカリ金属を含有するペースト(12)によって被覆することを含み、前記有形物体を、5分以上の時間tにわたって300℃以上の温度Tで前記ペーストと接触させておき、次いで、前記ペーストを前記有形物体から除去することを含み、
ここで、前記有形物体(10)を、カリウムイオンを含有するペースト(14)またはナトリウムイオンを含有するペーストまたは、カリウムイオンとナトリウムイオンとの混合物を含有するペーストによって被覆すること
前記有形物体(10)を、重量百分率での以下の成分:
・SiO
2 58.1~59.1
・P
2O
5 5.8~5.9
・Al
2O
3 1.9~2.0
・Li
2O 18.5~18.8
・K
2O 1.9~2.0
・ZrO
2 9.5~10.5
・CeO
2 1.0~2.0
・Tb
4O
7 1.0~1.5
・Na
2O 0~0.2、
・Na
2O+K
2O 2.5以下、
または
・SiO
2 56.0~59.5
・P
2O
5 4.0~6.0
・Al
2O
3 2.5~5.5
・Li
2O 13.0~15.0
・K
2O 1.0~2.0
・ZrO
2 9.5~10.5
・CeO
2 1.0~2.0
・Tb
4O
7 1.0~1.2
・Na
2O 0.2~0.5、
・Na
2O+K
2O 2.5以下、
を含有するガラス溶融物から調製すること
前記有形物体(10)のガラス相が40~60体積%であること
を特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記有形物体(10)を、前記ペースト(12)としての前記アルカリ金属イオンを含有する塩の粘性のある溶液または分散物によってコーティングすること
を特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペースト(12)を、前記有形物体(10)上へのスプレー塗りによって前記有形物体に施用すること
を特徴とする、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ペースト(12)を得るために、塩を、1,4-ブタンジオール、ヘキサントリオールの群からの少なくとも1種の物質またはこれらの2種の物質の混合物と混合すること
を特徴とする、
請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
厚さDとなるように、前記ペースト(12)を表面に施用することを特徴とする、請求項1~4何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
Na、K、Csおよび/またはRbイオンを、アルカリ金属イオンとして使用して、前記表面圧縮応力を発生させることを特徴とする、
請求項1~5何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記有形物体(10)または前記有形物体が製造されるブランクを、出発成分として少なくとも、SiO
2、Al
2O
3、Li
2O、K
2O、少なくとも1種の核形成剤および少なくとも1種の安定剤を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
請求項1~6何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ガラス溶融物が、少なくとも1種の着色用金属酸化物を含有すること
を特徴とする、
請求項1~7何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
冷却の途中または室温への冷却後に前記ガラス溶融物からブランクを形成し、次いで前記ブランクに、温度T
W1において時間t
W1にわたって少なくとも1回の第1の熱処理W1を施し、このとき、620℃≦T
W1≦800℃であり、および/または1分≦t
W1≦200分であることを特徴とする、
請求項1~8何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の熱処理W1を2つの工程で実施し、このとき、第1の工程において、温度T
St1が、630℃≦T
St1≦690℃に設定されており、および/または第2の工程において、温度T
St2が、720℃≦T
St2≦780℃に設定されており、および/または前記温度T
St1に至るまでの加熱速度A
St1が、1.5K/分≦A
St1≦2.5K/分であり、および/または前記温度T
St2に至るまでの加熱速度A
St2が、8K/分≦
A
St2≦12K/分であること
を特徴とする、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前
記ブランクに、前記第1の熱処理W1後に温度T
W2において時間t
W2にわたって第2の熱処理W2を施し、このとき、800℃≦T
W2≦1040℃であり、および/または2分≦t
W2≦200分であること
を特徴とする、
請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1または第2の熱処理の工程の後、前記有形物体(10)を、研削および/もしくはミリングまたはプレス加工によって前記ブランクから調
製するこ
とを特徴とする、
請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、好ましくは歯科用有形物体またはこのような物体の一部、特にブリッジ、クラウン、コーピング、インレー、アンレーまたはベニアの形態である、ケイ酸リチウムガラスセラミックを含む医療用有形物体の強度を増大させるための方法に関する。
【0002】
歯科技術においては、ケイ酸リチウムガラスセラミック製のブランクの光学的特徴ならびに強度および生体適合性を理由として、歯科修復材の製造のためにケイ酸リチウムガラスセラミック製のブランクを使用することが、実証されてきた。熱処理により、ガラスセラミックの最終的な結晶化を起こすと、良好な光学的品質および十分な化学的安定性が特に得られる。対応する方法は、たとえば、DE19750794A1またはDE10336913B4において開示されている。
【0003】
高い強度と同時に良好な透光性も達成するために、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウムまたはこれらの混合物の群からの少なくとも1種の安定剤、特に、酸化ジルコニウムである少なくとも1種の安定剤が、炭酸リチウム、石英、酸化アルミニウム等、すなわち、通常の出発成分の形態で出発材料に添加される。ここで、たとえば、DE102009060274A1、WO2012/175450A1、WO2012/175615A1、WO2013/053865A2またはEP2662342A1に注目が寄せられる。ケイ酸リチウムを含有するこれらの酸化ジルコニウムの機械加工は、結晶化した最終的な状態においても可能である。
【0004】
I.L.Denryら、Enhanced Chemical Strengthening of Feldspathic Dental Porcelain、J Dent Res、1993年10月、1429~1433頁およびR.R.Seghiら、Effects of Ion Exchange on Hardness and Fracture Toughness of Dental Ceramics、The International Journal of Prosthodontics、第5巻、No.4、1992、309~314頁の刊行物は、リューサイト沈殿物が存在していてもよい長石質ガラスの品種から構成される、複合セラミックについての調査を開示している。強度を増大させるために、二工程方式の方法により、リチウムイオンによってナトリウムイオンを置きかえ、次いで、カリウムイオンによってリチウムイオンを置きかえることが提案された。より小さなイオンは、ルビジウムイオンによって置きかえることもできる。これにより、酸化ルビジウムが使用された場合では、最大で80%に至るまでの強度の増大が可能になった。しかしながら、ルビジウムは、セラミックの熱膨張係数が増大するという欠点を有する。
【0005】
DE3015529A1は、歯科用磁器の機械的強度を改善するための方法を開示している。この方法において、エナメル中でアルカリイオンが交換されるように、修復材をエナメルによってコーティングする。この目的のために、200℃乃至エナメルの転移点の温度で修復材を溶融塩の浴中に浸漬する。
【0006】
US4784606Aは、ガラス製の歯列矯正具を開示しており、この歯列矯正具の強度は、イオン交換によって増大されている。
【0007】
ケイ酸塩ガラス物品、たとえばボトルの硬度を増大させるための方法が、DE2401275A1において開示されており、好ましくは、物品を少なくとも370℃に加熱し、アルカリ金属塩の微粉状混合物によってスプレー塗りする。これにより、強度を増大させるイオン交換が可能になる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、簡便なプロセス技術による手段を使用して有形物体(form body)の強度を増大させることができるように、上記種類の方法を発展させるためのものである。
【0009】
さらなる目的は、訓練を受けていない者であっても、所望の度合いまで強度の増大を可能にするためのものである。
【0010】
本発明の目的は、より大きな直径のアルカリ金属イオンによるリチウムイオンの置きかえによって、ケイ酸リチウムガラスセラミック製の有形物体に表面圧縮応力を発生させ、有形物体を、アルカリ金属を含有するペーストによって被覆し、有形物体を、時間tにわたって温度Tでペーストと接触させておき、次いで、ペーストを有形物体から除去することによって、実質的に解決される。
【0011】
これにより、ペーストを、原則的に室温に対応する温度の有形物体に施用する。次いで、ペーストを施用された有形物体を、≧300℃、特に350℃≦T≦600℃の温度Tに加熱する。
【0012】
ナトリウムおよび/またはカリウムイオンを、好ましくは、アルカリイオンとして使用して、表面圧縮応力を発生させる。
【0013】
ケイ酸リチウムガラスセラミック製の有形物体中に存在するリチウムイオンをNa/Kイオンによって置きかえると、元応力がある程度発生し、この結果として表面圧縮応力も発生し、実質的な強度の増大が起きることが判明した。驚くべきことに、1時間未満という非常に短いアニーリング時間でさえも、強度の実質的な増大につながることが判明した。これは、従来の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミック(Ivoclarという会社のe.max CAD)との明確な対比をなしており、従来の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックに関しては、リチウムイオンがナトリウムイオンによって置きかえられた場合に強度増大効果が見受けられない。下記の例1および2から明らかなように、上記ガラスセラミックを用いた場合であっても、同じ度合いの強度増大効果は見受けられない。
【0014】
本発明によれば、有形物体を、ある期間の時間tにわたって所望の度合いまでアルカリ金属イオン、特にNaイオンおよび/またはKイオンを含有するペーストによって包み込み、すなわち、有形物体をペースト層によって被覆して、より大きな直径のNaイオンまたはKイオンによるリチウムイオンの所望の置きかえを容易にし、この結果、所望の表面圧縮応力が生み出され、結果として強度の増大が起きる。
【0015】
上記の事柄と独立に、表面領域において必要なイオン交換は、有形物体を、≧300℃、特に350℃≦T≦600℃、好ましくは430℃≦T≦530℃の温度Tにおいて、t≧5分、好ましくは10分≦t≦40分の期間の時間tにわたって、対応するペーストと接触させておく場合に特に良好である。
【0016】
上記領域における接触時間を短くして、40分以下にしても、原則的に、表面領域において所望の表面圧縮応力を発生させるのに十分である。しかしながら、20μm以上の深さに達するまで有形物体の強度を増大させることが所望される場合、たとえば6または10時間というより長い接触時間が、ペーストと接触したときの温度に応じて必要となる。
前記リチウムイオンを置きかえるアルカリイオンの百分率が、表面を起点として10μmの深さに至るまでで、5~20重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から8乃至12μmの深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、5~10重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から12乃至14μmの層深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、4~8重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から14乃至18μmの深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、1~3重量%までの範囲であり、前記アルカリイオンの重量百分率が、層を経るごとに低下していく。
【0017】
好ましい一態様において、有形物体を、カリウムイオンを含有するペースト、特にKNO3、KClもしくはK2CO3を含有するペーストまたはナトリウムイオンを含有するペースト、特にNaNO3、酢酸ナトリウムもしくは有機酸のナトリウム塩を含有するペースト、または、カリウムイオンとナトリウムイオンとの混合物を特に50:50のmol%の比で含有するペースト、好ましくはNaNO3およびKNO3を含有するペースト中でアニーリングする。
【0018】
有形物体または有形物体由来のブランクは、ガラス溶融物から製作することが好ましく、このガラス溶融物は、出発成分として少なくとも、SiO2、Al2O3、Li2O、K2O、少なくとも1種の核形成剤、たとえばP2O5および少なくとも1種の安定剤、たとえばZrO2を含有する。
【0019】
特定の様式において、本発明は、リチウムイオンが、より大きなアルカリイオン、特にカリウムおよび/またはナトリウムイオンによって置きかえられることだけでなく、出発物質の強度およびこの結果としての有形物体が得られる有形物体またはブランクのガラス相の強度を増大させるために、溶解された少なくとも1種の安定剤、特にZrO2の形態の少なくとも1種の安定剤が含有されており、この安定剤の濃度が、好ましくは、初期組成に対して8~12重量%までの範囲であることも特徴とする。
【0020】
特に、本発明は、合計が100重量%である重量百分率での以下の組成:
・ SiO2 50~80、好ましくは52~70、特に好ましくは56~61
・ 核形成剤、たとえばP2O5、
0.5~11、好ましくは3~8、特に好ましくは4~7
・ Al2O3 0~10、好ましくは0.5~5、特に好ましくは1.5~3.2
・ Li2O 10~25、好ましくは13~22、特に好ましくは14~21
・ K2O 0~13、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5
・ Na2O 0~1、好ましくは0~0.5、特に好ましくは0.2~0.5
・ ZrO2 0~20、好ましくは4~16、特に6~14、特に好ましくは8~12
・ CeO2 0~10、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5
・ Tb4O7 0~8、好ましくは0.5~6、特に好ましくは1.0~2.0
・ 任意にマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの群からの、1種以上のアルカリ土類金属の酸化物または1種以上のアルカリ土類金属
0~20、好ましくは0~10、特に好ましくは0~5
・ 任意にB2O3、MnO2、Fe2O3、V2O5、TiO2、Sb2O3、ZnO、SnO2およびフルオリドの群からの1種以上の添加剤
0~6、好ましくは0~4
・ 任意に原子番号57、59~64、66~71の希土類金属、特にランタン、イットリウム、プラセオジム、エルビウムおよびユウロピウムの1種以上の酸化物
0~5、好ましくは0~3
を有するガラス溶融物から、有形物体またはブランクを製作することを特徴とする。
【0021】
「任意に1種以上の酸化物」は、1種以上の酸化物がガラス溶融物中に含有されることが、絶対に必要とは限らないことを意味する。
【0022】
特に、物体またはブランクは、合計が100重量%である重量百分率での以下の組成:
【0023】
【0024】
を有する。
【0025】
ある態様において、本発明は、冷却中または室温への冷却後にブランクをガラス溶融物から形成し、次いでブランクに、温度TW1においてある期間の時間tW1にわたって、第1の熱処理W1を少なくとも施し、このとき、620℃≦TW1≦800℃、特に650℃≦TW1≦750℃であり、および/または1分≦tW1≦200分、好ましくは10分≦tW1≦60分であることを特徴とする。有形物体は、ブランク/熱処理済みブランクから製作される。
【0026】
対応するケイ酸リチウムガラスセラミックブランクは、難なく加工することができ、工具の摩耗は、最小限である。対応するブランクは、所望の幾何形状になるようにプレス加工することもできる。
【0027】
特に、最終的な結晶化を達成するために、第1の熱処理W1後のケイ酸リチウムガラスセラミックブランクに、温度TW2においてある期間の時間tW2にわたって第2の熱処理W2を施し、このとき、800℃≦TW2≦1040℃、好ましくは800℃≦TW2≦900℃であり、および/または2分≦tW2≦200分、好ましくは3分≦tW2≦30分であることが、定められている。
【0028】
下記の温度値および加熱速度は、好ましくは、予備結晶化または最終的な結晶化につながる熱処理工程のために選択される。第1の熱処理W1の場合、第1の保持段階が、640℃~680℃までの範囲であり、第2の保持段階が、720℃~780℃までの範囲である、二工程方式の手法が、特に定められている。各段階において、加熱されているブランクは、ある期間の時間にわたってある温度に保持されるが、第1の段階において、この時間は、好ましくは、35乃至45分であり、第2の段階において、好ましくは、15乃至25分である。
【0029】
本発明によれば、ガラス相が、20~65体積%、特に40~60体積%であることも、特に定められている。
【0030】
したがって、本発明はまた、ケイ酸リチウム結晶が、35~80体積%、特に40~60体積%までの範囲で存在する、有形物体を特徴とする。ここで、ケイ酸リチウム結晶は、P2O5が含有される場合、二ケイ酸リチウム結晶、メタケイ酸リチウム結晶およびリン酸リチウム結晶の合計を意味する。
【0031】
第1の熱処理段階後または第2の熱処理段階後のいずれかにおいて、ただし、好ましくは第2の熱処理段階後において、研削またはミリングによってブランクを加工して、所望の幾何形状の有形物体を得る。次いで、この有形物体は、上薬の焼成を施され、または上薬の施用なしの場合、素手で研磨される。同じ事柄が、プレス加工によって有形物体を得る場合にも当てはまる。
【0032】
次いで、利用可能な有形物体を、必要なアルカリ金属イオン、特にNaイオンおよび/またはKイオンを含有するペーストによって被覆する。
【0033】
冷却し、付着しているあらゆるペーストの残留物を除去した後で、このようにして利用可能にされた有形物体をある程度加工することが必要な場合、この有形物体は、特に、歯科修復材として活用されてもよい。強度の増大を考慮すると、有形物体は、特に、複数単位型ブリッジであってもよい。
【0034】
対応する有形物体の試料は、800MPa超の曲げ強さ値を達成できることを実証した。これらの値は、DIN EN ISO 6872:2009-1において指定されている曲げ強さ用の3点法を使用して測定した。
【0035】
本発明は、有形物体を、ペーストとしての粘性のあるナトリウム塩溶液またはナトリウム塩分散物によってコーティングまたはスプレー塗りすることを特徴とする。このようにするために、ナトリウム塩を、1,4-ブタンジオール、ヘキサントリオールの群からの少なくとも1種の物質またはこれらの2種の物質の混合物と混合することが、特に意図されている。
【0036】
特に、40μm未満、好ましくは20μm未満の平均粒径d50を有するアルカリ金属塩、たとえばナトリウム塩、特にNaNO3塩を、液体状有機マトリックス、たとえば1,4-ブタンジオールおよび/またはヘキサントリオールと一緒にして、ペーストとして使用する。硝酸ナトリウムの吸湿挙動は、より長い期間の時間にわたって通常の外気の下で貯蔵することは、塩の凝集が起きることを意味する。このため、対応する粒径を有するナトリウム塩は、商用として提供されていない。したがって、特殊な工程によってナトリウム塩を粉砕して、ボールミルを使用するまたはアルコール中での湿式研削を用いる適切な手順によって商用の原材料を調製する。
【0037】
上記の事柄と独立に、ペーストは、すべての表面が被覆されるほどに有形物体に施用されるが、特に0.5mm以上の厚さD、好ましくは1mm<D<3mmの厚さDを維持すべきである。しかしながら、すべての表面がペーストによって被覆されているとは限らない場合および/または1つ以上の表面がペーストによって完全に被覆されているとは限らない場合でも、本発明からの逸脱ではない。
【0038】
本発明のさらなる詳細、利点および特徴は、特許請求の範囲、およびそこから単独でまたは組み合わさって得られる特徴から派生するだけでなく、以下に与えられている例からも派生する。
【0039】
下記の試験において、目視により一様な混合物が得られるまで、少なくとも原材料、たとえば炭酸リチウム、石英、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムをドラムミキサー内で混合した。試験のために使用された製造業者のデータに従った組成が、以下に与えられている。
【0040】
下記は、原則的に、以下に与えられている試験に当てはまる。
【0041】
対象とする混合物を、高温に耐え切る白金合金るつぼ内において1500℃の温度で5時間の期間にわたって溶融させた。続いて、溶融物を型に注ぎ込んで、長方形の物体(ブロック)を得た。続いて、ブロックに、第1の熱処理工程と称されている二工程方式の熱処理を施して、メタケイ酸リチウム結晶を主要結晶相として精製した(第1の処理工程)。これにより、ブロックを、第1の熱処理工程W1において2K/分の加熱速度で660℃に加熱し、この温度に40分保持した。次いで、ブロックを10K/分の加熱速度で750℃にさらに加熱した。供試材をこの温度に20分保持した。この熱処理が核形成に影響し、メタケイ酸リチウム結晶が形成される。
【0042】
次いで、ブロックに第2の熱処理工程W2(第2の処理工程)を施して、二ケイ酸リチウム結晶を主要結晶相として形成する。この熱処理工程において、ブロックを、ある期間の時間t2にわたって温度T2に維持した。対応する値が、以下に与えられている。次いで、ブロックを室温に冷却した。
【0043】
次いで、長方形の曲げ操作対象のロッド(供試材)を、機械によるブロックの研削によって冷却済みブロックから得た(第3の処理工程)。曲げ操作対象のロッドは、長さ15mm、幅4.1mmおよび高さ1.2mmの寸法を有していた。次いで、一部の供試材の縁部を、1200番手(granulation of 1200)の炭化ケイ素研磨紙を使用して平滑化した。Struers Knuth-Rotor回転研削機を、研削のために使用した。次いで、供試材の面を研削した(第4の処理工程)。ここでもやはり、1200番手のSiC研磨紙を使用した。
【0044】
3点曲げ強さ測定を、DIN EN ISO6872:2009-01において指定されているように実施した。この目的のために、供試材(小さなロッド)を、10mmの距離を空けて2個の支持体に取り付けた。荷重を与えるピストンは、0.5mm/分でロッドどうしの間にある供試材に働きかけたが、このとき、ロッドの先端が、0.8mmの半径を有する供試材と接触していた。
【0045】
例1
(本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミック)
製造業者の仕様書に従った下記の(重量百分率での)出発組成を使用して、ケイ酸リチウムガラスを得、このケイ酸リチウムガラスセラミック材料によっていくつかの試験を実施した。
【0046】
【0047】
ガラス相の百分率は、40~60体積%までの範囲である。
a) 試験系列第1番
最初に、20本のロッドを調製し、これらのロッドに処理工程1~4を実施した。最終的な結晶化(第2の熱処理工程)を、5分の期間の時間t2にわたって830℃の温度T2で実施した。
【0048】
これらのロッドのうちの5本に、さらなる処理なしで3点曲げ強さ試験を施した。289MPaの平均値が、得られた。
【0049】
5本のロッドを、粒径分布に指定がない市販の硝酸ナトリウムを出発用の塩として含有するペーストによってコーティングしたが、この出発用の塩は、1,4-ブタンジオールの液体状有機マトリックス中に溶かされていた。ペースト層の厚さは、2mmだった。次いで、供試材を、Ney-Vulcan焼成オーブン内において480℃の温度で20分アニーリングした。次いで、供試材を冷却し、ペーストの残留物を、脱イオン水を含有する超音波浴中に5分以下にわたって浸漬することによって除去した。次いで、3点曲げ強さ測定を、前述のように実施した。3点曲げ強さの平均値は、489MPaだった。残りの10本のロッドを全く同じように処理し、異なる試験設備において試験した。これらのロッドの3点曲げ強さの平均値は、526MPaだった。
b) 試験系列第2番
試験系列第1番および未処理の供試材を利用した場合の上記の比較用の値に従って、さらなる10個の供試材を調製した。これらの供試材を、1,4-ブタンジオールの液体状有機マトリックス中に溶かされた粒径分布に指定がない同じ市販の硝酸ナトリウムを出発用の塩として含有するペーストによってコーティングした。ペースト層の厚さは、2mmだった。次いで、供試材を、Austromat3001セラミックプレス炉内において20分の期間にわたって480℃の温度でアニーリングした。次いで、供試材を冷却し、ペーストの残留物を、脱イオン水を含有する超音波浴中に5分以下にわたって浸漬することによって除去した。次いで、3点曲げ強さ測定を、前述のように実施した。3点曲げ強さの平均値は、556MPaだった。
c) 試験系列第3番
30本のロッドを、上記で与えられた出発材料から調製した。次いで、これらのロッドを、1,4-ブタンジオールの液体状有機マトリックス中に溶かされた粒径分布に指定がない市販の硝酸カリウムを出発用の塩として含有するペーストによってコーティングした。ペースト層の厚さは、2mmだった。次いで、これらの供試材のうちの10個を、Austromat2001セラミックプレス炉内において480℃の温度で20分、30分および40分アニーリングした。次いで、供試材を冷却し、ペーストの残留物を、脱イオン水を含有する超音波浴中に5分以下にわたって浸漬することによって除去した。次いで、3点曲げ強さ測定を、前述のように実施した。3点曲げ強さの平均値は、20分後に377MPaであり、30分後に376MPaであり、40分後に426MPaだった。
d) 試験系列第4番
15本のロッドを、上記で与えられた出発材料から調製した。これらのロッドを、硝酸ナトリウムを出発用の塩として含有するペーストによってコーティングしたが、この出発用の塩は、ふるいに通して、31μm未満の粒径にしており、1,4-ブタンジオールおよびヘキサントリオールの液体状有機マトリックス中に含有されていた。ペースト層の厚さは、2mmだった。供試材のうちの10個を、Austromat3001セラミックプレス炉内において20分の期間にわたって480℃の温度でアニーリングした。次いで、供試材を冷却し、ペーストの残留物を、脱イオン水を含有する超音波浴中に5分以下にわたって浸漬することによって除去した。供試材のうちの5個を、ペーストを用いないで、同じ炉内において480℃で20分加熱し(基準用供試材)、さらに、超音波浴中で5分以下にわたって清浄化した。次いで、3点曲げ強さ測定を、上記のように実施した。3点曲げ強さの平均値はペーストを用いない場合で312MPaであり、ペースト中のアニーリング後に624MPaだった。ペーストを用いたコーティング後の個別の値のすべては、500MPa超であり、最大値は、766MPa以下だった。供試材を同等の手段によって調製し、純粋な硝酸ナトリウム溶融物中において480℃で20分アニーリングした場合、曲げ強さの平均値は、620MPaであり、個別の値の一つは、500MPa未満だった。
e) 試験系列第5番
上記組成を有する10個のケイ酸リチウム材料製のフルアナトミカルクラウンを調製し、歯科技術方法によって高光沢になるまで研磨した。これらのクラウンのうちの5個を、粒径分布に指定がない市販の硝酸ナトリウムを出発用の塩として含有するペーストによってコーティングしたが、この出発用の塩は、1,4-ブタンジオールの液体状有機マトリックス中に溶かされていた。ペースト層の厚さは、2mmだった。次いで、供試材を、Ney-Vulcan焼成オーブン内において480℃の温度で20分アニーリングした。次いで、供試材を冷却し、ペーストの残留物を、脱イオン水を含有する超音波浴中に5分以下にわたって浸漬することによって除去した。次いで、クラウンをチタン製スタンプ上に配置し、合着させた。簡便な加圧試験において、破壊まで鋼球によってクラウンに荷重を与えた。5個の未処理のクラウンの平均破壊荷重は、2106Nであり、処理済み供試材の場合、平均破壊荷重は、3714Nだった。
【0050】
ナトリウムイオンを有するペーストの使用により、500MPa超の値に3点曲げ強さを増加できることが、上記試験から明らかである。実際の条件に近い試験においてフルアナトミカルクラウンを使用したとき、ちょうど20分のアニーリング後に、やはり、顕著な強度の増大があった。絶対値によって示された平均値からのバラつきは、セラミックにおける統計学的誤差分布の結果であり、これが、破壊の原因である。
【0051】
例2
(本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミック)
重量百分率での次の組成のケイ酸リチウム材料を、上記のように溶融させた。
【0052】
【0053】
ガラス相の百分率は、40~60体積%までの範囲だった。
【0054】
溶融材料を白金製の型に注ぎ込んで、歯科用炉内でプレス加工してプレスドセラミックを得るための丸いロッド(ペレット)を得た。これにより、長方形の空洞を埋没材料に形成して、測定のための供試材ロッドを得た。ロッドの寸法は、試験系列a)~e)のロッドの寸法に対応する。プレス加工対象の材料を、埋没材料に取り込んだ状態で860℃の温度で30分プレス加工した。次いで、1乃至1.5barのジェット圧力により平均直径110μmの酸化アルミニウム粒子を使用して、ロッドを埋没材料から取り出して、可能な限り損傷を少なく保った。次いで、試験系列a)、b)およびc)に従って縁部を平滑化し、表面を研磨した(第4の処理工程)。次いで、残りの供試材を、ナトリウム塩および1,4-ブタンジオールのペースト中でアニーリングした。
f) 試験系列第6番
10個の供試材を、試験系列a)~c)と同様にして調製した。5個の未処理の供試材は、335MPaの3点曲げ強さの平均値を有していた。他の5個の供試材を、粒径分布に指定がない市販の硝酸ナトリウムを出発用の塩として含有するペーストによってコーティングしたが、この出発用の塩は、1,4-ブタンジオールの液体状有機マトリックス中に溶かされていた。ペースト層の厚さは、2mmだった。次いで、供試材を、Ney-Vulcan焼成炉内において480℃の温度で15分アニーリングした。次いで、供試材を冷却し、ペーストの残留物を、脱イオン水を含有する超音波浴中に5分以下にわたって浸漬することによって除去した。次いで、3点曲げ強さ測定を、上記のように実施した。3点曲げ強さの平均値は、385MPaだった。
g) 試験系列第7番
5個の供試材を、試験系列a)~c)と同様にして調製した。したがって、試験系列e)から得た未処理の供試材の比較用の値が、ここでも当てはまる。供試材を、粒径分布に指定がない市販の硝酸ナトリウムを出発用の塩として含有するペーストによってコーティングしたが、この出発用の塩は、1,4-ブタンジオールの液体状有機マトリックス中に溶かされていた。ペースト層の厚さは、2mmだった。次いで、供試材を、Ney-Vulcan焼成炉内において480℃の温度で20分アニーリングした。次いで、供試材を冷却し、ペーストの残留物を、脱イオン水を含有する超音波浴中に5分以下にわたって浸漬することによって除去した。次いで、3点曲げ強さ測定を、上記のように実施した。3点曲げ強さの平均値は、463MPaだった。
【0055】
さらなる5本のロッドを全く同じように処理し、異なる試験設備において試験した。平均3点曲げ強さは、420MPaだった。
【0056】
類似の出発材料を用いた試験系列a)~c)に比較して、いずれの場合においても顕著な強度の増大がなかったことが、明白である。
【0057】
出発強度の値の変動は、相異なるバッチおよび供試材の調製の性質が原因である。
【0058】
例3
(技術水準のガラスセラミック)
歯科用炉内でプレス加工して、プレス加工対象のセラミックを得るための商用ペレットを、使用した。ペレットの分析により、重量百分率での次の組成が明らかになった。
【0059】
【0060】
ガラス相の百分率は、5~15体積%だった。
【0061】
対応するペレットを、歯科用炉内において920℃の温度で30分プレス加工した。次いで、ペレットの縁部を平滑化し、研磨を実施した。
h) 試験系列第8番
9個の未処理の供試材を測定すると、422MPaの平均曲げ強さが得られた。
全く同じように処理された10個の供試材を、工業用純品NaNO3溶融物中において480℃で20分アニーリングした。アニーリング後の平均曲げ強さは、358MPaだった。
例4(技術水準によるガラスセラミック)
分析によれば、重量百分率での次の組成を有する、ケイ酸リチウムガラスセラミック製の市販ブロックを使用した。
【0062】
【0063】
ガラス相の百分率は、5~15体積%だった。
【0064】
例1に関しては、対応する寸法の供試材ロッドをブロック(有形物体)の研削によって調製し、縁部を平滑化した後で表面を研磨した。
【0065】
最終的な結晶化のために、製造業者の指示書に従って、供試材を10分の期間にわたって850℃で加熱した。
【0066】
アニーリングされていない11個の供試材の平均強度値は、381MPaだった。
10個の供試材を、工業用純品NaNO3溶融物中において480℃で20分アニーリングした。平均強度値は、348MPaだった。
【0067】
上記例/試験系列の比較により、供試材のガラス相中におけるアルカリ酸化物の合計含量が低いとき、すなわち、結晶化の実施後で、セラミック材料中のガラスの百分率が高い場合、リチウムイオンを、他のより大きな直径のアルカリイオンによって置きかえることができ、この結果、所望の表面圧縮応力が発生し、結果として強度が増大することが示されている。この効果は、例3および4から明瞭であるように、使用しようとする有形物体中のガラス相の百分率が20%未満、特に15%未満である場合に低減され、または全く見受けられない。この理由として可能性があるのは、おそらくはガラス相の百分率と独立に、ガラス相中のアルカリ酸化物の含量、すなわち、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの含量が、出発組成に対して2.5重量%超、特に3重量%超であるという点である。出発組成におけるLi2Oの百分率もまた、同様に影響を与え、すなわち、リチウムイオンの百分率を高くすると、表面圧縮応力が増大するようにナトリウムおよびカリウムイオンとリチウムイオンとの交換を増進することができる。
【0068】
可能性のある説明は、次のとおりである。表面圧縮応力を発生させるイオン交換が、ガラスセラミック供試材の表面と塩との界面で起き、このプロセスが、ガラスセラミックのアルカリイオンの拡散によって制御される。リチウムイオンは、ガラスセラミックから表面に拡散し、この表面において、リチウムイオンが、塩から出たアルカリイオンによって置きかえられると、塩から出たアルカリイオンが、リチウムイオンを置きかえた後に、表面からガラスセラミックの内部領域に拡散する。ケイ酸リチウムガラスセラミック中のガラス相の百分率が高く、アニーリング前に、ガラス相中のカリウムイオンおよびナトリウムイオンの百分率が比較的低い場合は、ガラス相の百分率が低く、ガラス相中の元々のアルカリイオンの百分率(酸化ナトリウムおよび酸化カリウム)が比較的高いガラスセラミック材料に比較して、駆動力およびこの結果としてのイオン交換能力がより高くなり、またはより効果的になる。
【0069】
これは、ガラス相中のリチウムイオンの百分率を高めること、すなわち、沈殿物中に結合しておらず、したがって、イオン交換に利用できるリチウムイオンの百分率を高めることによって、さらに強化してもよい。沈殿物は、Li-SiおよびLi-P沈殿物である。
【0070】
走査型電子顕微鏡を使用して検査したときには、カリウムイオンの組入れにかかわらず、カリウムイオンを含有する塩ペースト中でアニーリングされていない供試材に比較して、微細構造に差異がなかった。
【0071】
上記の結果として、本教示によれば、リチウムイオンがより大きな直径のアルカリ金属イオンによって置きかえられたときに、表面圧縮応力が発生するということになる。ケイ酸リチウムガラスセラミック材料からできた有形部品の強度を増大させるために、本発明による多様な手段が提案されており、図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【好ましい実施形態の説明】
【0073】
より大きな直径のアルカリ金属イオンによって、ケイ酸リチウムガラスセラミック製のクラウン10中のリチウムイオンを置きかえることにより、表面圧縮応力を発生させて、歯科用有形物体、たとえばクラウン10の表面強度の増大を促進するために、クラウン10のすべての面を、アルカリ金属塩を含むまたはアルカリ金属塩を含有するペースト12によって包み込むことが、想定される。ペーストを得るために、対応する塩または1,4-ブタンジオールもしくはヘキサントリオールまたはこれらの混合物との塩混合物を混合して、所望の粘度の塩溶液、特に非常に粘性のある、したがって、濃厚な塩溶液または分散物を得る。次いで、このようにしてペースト12によってコーティングされたクラウン10に、ある期間の時間にわたって熱処理を施す。この目的のために、クラウン10を、歯科用実験室で使用される一般的なセラミック焼成炉内において、10~40分までの範囲の期間の時間tにわたって430~530℃までの範囲の温度で加熱する。冷却後、クラウン10上に外皮(crust)として残留しているペーストを、特に脱イオン水を使用して、超音波浴中で最大10分除去する。アルカリ金属イオン、特にナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンがクラウン10の表面層から内部領域に拡散する可能性を排除するために、さらなる処理工程、特に200℃超の熱処理工程は実施されない。
以下に、本発明の実施態様を付記する。
[1]
ケイ酸リチウムガラスセラミック製の医療用有形物体(10)、好ましくは歯科用有形物体またはこのような歯科用有形物体の一部、特にブリッジ、クラウン、コーピング、インレー、アンレーまたはベニアの強度を増大させるための方法であって、
より大きな直径のアルカリ金属イオンによるリチウムイオンの置きかえによって、ケイ酸リチウムガラスセラミック製の前記有形物体(10)に表面圧縮応力を発生させ、前記有形物体を、アルカリ金属を含有するペースト(12)によって被覆し、前記有形物体を、時間tにわたって温度Tで前記ペーストと接触させておき、次いで、前記ペーストを前記有形物体から除去すること
を特徴とする、
方法。
[2]
前記有形物体(10)を、前記ペースト(12)としての前記アルカリイオンを含有する塩の粘性のある溶液または分散物によってコーティングすること
を特徴とする、
1に記載の方法。
[3]
前記ペースト(12)を、前記有形物体(10)上へのスプレー塗りによって前記有形物体に施用すること
を特徴とする、
1または2に記載の方法。
[4]
前記ペースト(12)を得るために、前記塩を、1,4-ブタンジオール、ヘキサントリオールの群からの少なくとも1種の物質またはこれらの2種の物質の混合物と混合すること
を特徴とする、
先行記載の方法。
[5]
特に0.5mm以上の厚さD、特に1mm<D<3mmの厚さDにおいて、前記ペースト(12)を、好ましくは、前記有形物体(10)のすべての表面に施用することを特徴とする、
先行す記載の方法。
[6]
Na、K、Csおよび/またはRbイオン、特にNaもしくはKイオンまたはNaおよびKイオンを、アルカリ金属イオンとして使用して、前記表面圧縮応力を発生させることを特徴とする、
先行記載の方法。
[7]
前記有形物体(10)を、カリウムイオンを含有するペースト(14)、特にKNO
3
、KClもしくはK
2
CO
3
を含有するペースト、またはナトリウムイオンを含有するペースト、特にNaNO
3
、酢酸ナトリウムもしくは有機酸のナトリウム塩を含有するペースト、または、カリウムイオンとナトリウムイオンとの混合物を特に50:50のモル百分率の比で含有するペースト、好ましくはNaNO
3
およびKNO
3
を含有するペーストによって被覆すること
を特徴とする、
先行記載の方法。
[8]
前記有形物体(10)を、T≧300℃、特に350℃≦T≦600℃、好ましくは430℃≦T≦530℃の温度Tにおいて、特にt≧5分、好ましくは0.1時間≦t≦0.5時間、特に好ましくは15~20分の時間tにわたって前記ペーストと接触させておくこと
を特徴とする、
先行す記載の方法。
[9]
前記有形物体(10)または前記有形物体が製造されるブランクを、出発成分として少なくとも、SiO
2
、Al
2
O
3
、Li
2
O、K
2
O、少なくとも1種の核形成剤、たとえばP
2
O
5
および少なくとも1種の安定剤、たとえばZrO
2
を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
先行記載の方法。
[10]
前記ガラス溶融物が、少なくとも1種の着色用金属酸化物、たとえばCeO
2
および/またはTb
4
O
7
を含有すること
を特徴とする、
少なくとも9に記載の方法。
[11]
前記有形物体(10)または前記有形物体が製造されるブランクを、重量百分率での以下の成分:
・ SiO
2
50~80、好ましくは52~70、特に好ましくは56~61・ 核形成剤、たとえばP
2
O
5
、
0.5~11、好ましくは3~8、特に好ましくは4~7
・ Al
2
O
3
0~10、好ましくは0.5~5、特に好ましくは1.5~3.2・ Li
2
O 10~25、好ましくは13~22、特に好ましくは14~21・ K
2
O 0~13、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5・ Na
2
O 0~1、好ましくは0~0.5、特に好ましくは0.2~0.5・ ZrO
2
0~20、好ましくは4~16、特に6~14、特に好ましくは8~12・ CeO
2
0~10、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5・ Tb
4
O
7
0~8、好ましくは0.5~6、特に好ましくは1.0~2.0・ 任意にマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの群からの、1種以上のアルカリ土類金属の酸化物または1種以上のアルカリ土類金属
0~20、好ましくは0~10、特に好ましくは0~5、
・ 任意にB
2
O
3
、MnO
2
、Fe
2
O
3
、V
2
O
5
、TiO
2
、Sb
2
O
3
、ZnO、SnO
2
およびフルオリドの群からの1種以上の添加剤
0~6、好ましくは0~4
・ 任意に原子番号57、59~64、66~71の希土類金属、特にランタン、イットリウム、プラセオジム、エルビウム、ユウロピウムの1種以上の酸化物
0~5、好ましくは0~3
を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
少なくとも9に記載の方法。
[12]
前記ガラス溶融物が、重量百分率での出発成分としての以下:
SiO
2
58.1±2.0
P
2
O
5
5.0±1.5
Al
2
O
3
4.0±2.5
Li
2
O 16.5±4.0
K
2
O 2.0±0.2
ZrO
2
10.0±0.5
CeO
2
0~3、好ましくは1.5±0.6
Tb
4
O
7
0~3、好ましくは1.2±0.4
Na
2
O 0~0.5、好ましくは0.2~0.5
を含有すること
を特徴とする、
少なくとも9に記載の方法。
[13]
冷却の途中または室温への冷却後に前記ガラス溶融物から前記ブランクを形成し、次いで前記ブランクに、温度T
W1
において時間t
W1
にわたって少なくとも1回の第1の熱処理W1を施し、このとき、620℃≦T
W1
≦800℃、特に650℃≦T
W1
≦750℃であり、および/または1分≦t
W1
≦200分、好ましくは10分≦t
W1
≦60分であることを特徴とする、
少なくとも9に記載の方法。
[14]
前記第1の熱処理W1を2つの工程で実施し、このとき、特に第1の工程において、温度T
St1
が、630℃≦T
St1
≦690℃に設定されており、および/または第2の工程において、温度T
St2
が、720℃≦T
St2
≦780℃に設定されており、および/または前記温度T
St1
に至るまでの加熱速度A
St1
が、1.5K/分≦A
St1
≦2.5K/分であり、および/または前記温度T
St2
に至るまでの加熱速度A
St2
が、8K/分≦T
St2
≦12K/分であること
を特徴とする、
少なくとも9に記載の方法。
[15]
前記ケイ酸リチウムガラスセラミックブランクに、前記第1の熱処理W1後に温度T
W2
において時間t
W2
にわたって第2の熱処理W2を施し、このとき、800℃≦T
W2
≦1040℃、好ましくは800℃≦T
W2
≦870℃であり、および/または2分≦t
W2
≦200分、好ましくは3分≦t
W2
≦30分であること
を特徴とする、
少なくとも9に記載の方法。
[16]
前記第1または第2の熱処理の工程の後、特に前記第1の熱処理の工程の後、前記有形物体(10)を、研削および/もしくはミリングまたはプレス加工によって前記ブランクから調製し、このとき、1回以上の前記熱処理の工程を、プレス加工の最中または後に実施すること
を特徴とする、
少なくとも9に記載の方法。
[17]
医療用物品、特に歯科用物品または歯科用物品の一部、特にブリッジ、クラウン、コーピング、インレー、アンレーまたはベニアの形態であるケイ酸リチウムガラスセラミック製の有形物体(10)であって、
より大きな直径のアルカリイオンによるリチウムイオンの置きかえによって、表面圧縮応力を前記有形物体(10)に発生させること
を特徴とする、
有形物体。
[18]
前記アルカリ金属イオンが、Na、K、Csおよび/またはRbイオン、特にNaイオンもしくはKイオンまたはNaおよびKイオンであること
を特徴とする、
17に記載の有形物体。
[19]
前記有形物体(10)または前記有形物体が調製されるブランクのガラス相が、前記有形物体の強度を増大させる少なくとも1種の安定剤、特にZrO
2
の形態の少なくとも1種の安定剤を含有し、前記有形物体の出発組成における前記安定剤の濃度が、好ましくは8~12重量%であること
を特徴とする、
17または18に記載の有形物体。
[20]
前記有形物体(10)を、重量百分率での以下の成分:
・ SiO
2
50~80、好ましくは52~70、特に好ましくは56~61・ 核形成剤、たとえばP
2
O
5
、
0.5~11、好ましくは3~8、特に好ましくは4~7
・ Al
2
O
3
0~10、好ましくは0.5~5、特に好ましくは1.5~3.2・ Li
2
O 10~25、好ましくは13~22、特に好ましくは14~21・ K
2
O 0~13、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5・ Na
2
O 0~1、好ましくは0~0.5、特に好ましくは0.2~0.5・ ZrO
2
0~20、好ましくは4~16、特に6~14、特に好ましくは8~12・ CeO
2
0~10、好ましくは0.5~8、特に好ましくは1.0~2.5・ Tb
4
O
7
0~8、好ましくは0.5~6、特に好ましくは1.0~2.0・ 任意にマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの群からの、1種以上のアルカリ土類金属の酸化物または1種以上のアルカリ土類金属
0~20、好ましくは0~10、特に好ましくは0~5、
・ 任意にB
2
O
3
、MnO
2
、Fe
2
O
3
、V
2
O
5
、TiO
2
、Sb
2
O
3
、ZnO、SnO
2
およびフルオリドの群からの1種以上の添加剤
0~6、好ましくは0~4
・ 任意に原子番号57、59~64、66~71の希土類金属の1種以上の酸化物、特にランタン、イットリウム、プラセオジム、エルビウム、ユウロピウムの1種以上の酸化物
0~5、好ましくは0~3
を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
少なくとも17に記載の有形物体。
[21]
前記有形物体(10)を、合計が100重量%である重量百分率での以下の成分:SiO
2
58.1±2.0
P
2
O
5
5.0±1.5
Al
2
O
3
4.0±2.5
Li
2
O 16.5±4.0
K
2
O 2.0±0.2
ZrO
2
10.0±0.5
CeO
2
0~3、好ましくは1.5±0.6
Tb
4
O
7
0~3、好ましくは1.2±0.4
Na
2
O 0~0.5、好ましくは0.2~0.5
を含有するガラス溶融物から調製すること
を特徴とする、
少なくとも17に記載の有形物体。
[22]
前記有形物体が、20~65体積%までの範囲のガラス相を有すること
を特徴とする、
少なくとも17に記載の有形物体。
[23]
前記有形物体が、前記物体(10)に対して35体積%乃至80体積%のケイ酸リチウム結晶を含有すること
を特徴とする、
少なくとも17に記載の有形物体。
[24]
前記リチウムイオンを置きかえるアルカリイオンの百分率が、表面を起点として10μmの深さに至るまでで、5~20重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から8乃至12μmの深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、5~10重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から12乃至14μmの層深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、4~8重量%までの範囲であり、および/または、前記表面から14乃至18μmの深さにおいて、アルカリイオンの百分率が、1~3重量%までの範囲であり、前記アルカリイオンの重量百分率が、層を経るごとに低下していくことを特徴とする、
17から23の少なくとも1に記載の有形物体。
[25]
特に先行記載のケイ酸リチウムガラスセラミック材料製の有形物体をコーティングするための、少なくとも1種のアルカリ金属塩を含有するペーストの使用。