(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】光学部材、硬化性組成物、及び光学部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20230731BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20230731BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
G02B1/14
G02B5/22
G02C7/02
(21)【出願番号】P 2018229139
(22)【出願日】2018-12-06
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】関口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 照夫
(72)【発明者】
【氏名】窪田 省吾
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132665(JP,A)
【文献】特開2001-288412(JP,A)
【文献】特開平05-093170(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124204(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/119736(WO,A1)
【文献】特開平09-265059(JP,A)
【文献】特開平05-287241(JP,A)
【文献】特開2008-158483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/14
G02B 5/22
G02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材と、ハードコート層と、を有する
眼鏡レンズであって、
前記ハードコート層が、無機酸化物と紫外線吸収剤とを含有する硬化性組成物の硬化物であり、
前記紫外線吸収剤の含有量が、前記硬化物中、0.5~15質量%であり、
前記硬化性組成物中、波長300~450nmに吸収端を有する無機酸化物の含有量が、前記無機酸化物の総量100質量%に対して、0~50質量%である、
眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記紫外線吸収剤が、ヒドロキシ基を1以上含む有機化合物を含有する、請求項1に記載の
眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記紫外線吸収剤が、式(1):
【化1】
〔式中、nは1~3の整数であり、R
1は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基であり、mは0又は1である。〕で表される化合物である、請求項1又は2に記載の
眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記硬化性組成物中、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化タングステン、及び酸化イットリウムの合計の含有量が、前記無機酸化物の総量100質量%に対して、0~50質量%である、請求項1~3のいずれかに記載の
眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記ハードコート層の膜厚が、0.5~50μmである、請求項1~4のいずれかに記載の
眼鏡レンズ。
【請求項6】
前記ハードコート層が、前記プラスチック基材の両面に形成されている、請求項1~5のいずれかに記載の
眼鏡レンズ。
【請求項7】
請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法であって、
前記硬化性組成物をプラスチック基材に塗工し硬化させて、ハードコート層を形成する工程を含む、
眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハードコート層を有する光学部材、硬化性組成物、及び光学部材の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック眼鏡レンズ等の光学部材は、ガラスと比べて軽量で耐衝撃性に優れているが、表面硬度が不十分であるため表面を種々のハードコート層で被覆して耐擦傷性を向上させている。
【0003】
特許文献1は、レンズ基板及び/又はその上に形成されたハードコート層中にベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤及び立体障害アミン系紫外線吸収剤のうちから選択された紫外線吸収剤1種又は2種以上を含み、該ハードコート層上に所定の厚さ以上で形成された二酸化チタン層を含む多層反射防止膜を有することを特徴とする眼鏡レンズが記載されている。当該眼鏡レンズによれば、400nmまでの紫外線をカットすることができ、長期間の屋外使用による紫外線照射によっても反射防止膜にクラックが発生しない眼鏡レンズを提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載のハードコート層は、光学部材が紫外光に長時間さらされるとプラスチック基材の黄変により、光学部材が黄変することがあった。より長期間の使用に耐えうるよう、さらに高い基準の耐黄変性が求められている。
本開示の実施形態は、紫外線照射に対して、優れた耐黄変性を示す、光学部材、硬化性組成物、及び光学部材の製造方法に関する。
【0006】
また、別の側面からは、上記特許文献1に記載のハードコート層は、光学部材が高湿環境下において、長時間光にさらされるとハードコート層にクラックが発生することがあった。
本開示の実施形態は、高湿条件下における光照射に対して、優れた耐クラック性を示す、光学部材、硬化性組成物、及び光学部材の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ハードコート層中に、所定量の紫外線吸収剤を含ませることで、上述の紫外線照射に対して耐黄変性が向上することを見出した。
本開示の実施形態は、以下の〔1〕~〔3〕に関する。
〔1〕プラスチック基材と、ハードコート層と、を有する光学部材であって、
前記ハードコート層が、無機酸化物と紫外線吸収剤とを含有する硬化性組成物の硬化物であり、
前記紫外線吸収剤の含有量が、前記硬化物中、0.5~15質量%である、光学部材。
〔2〕無機酸化物と紫外線吸収剤とを含有する硬化性組成物であって、
前記紫外線吸収剤の含有量が、前記硬化性組成物の有効分の総量100質量%に対して、0.5~15質量%である、硬化性組成物。
〔3〕〔2〕に記載の硬化性組成物をプラスチック基材に塗工し硬化させて、ハードコート層を形成する工程を含む、光学部材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
上述した本開示の実施形態は、紫外線照射に対して、優れた耐黄変性を示す、光学部材、硬化性組成物、及び光学部材の製造方法を提供することができる。
また、本開示の実施形態は、高湿条件下における光照射に対して、優れた耐クラック性を示す、光学部材、硬化性組成物、及び光学部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例3により得られた眼鏡レンズの透過率のスペクトルである。
【0010】
[光学部材]
本開示の実施形態に係る光学部材は、プラスチック基材と、ハードコート層と、を有する。
ハードコート層は、無機酸化物と紫外線吸収剤とを含有する硬化性組成物の硬化物である。
更には、紫外線吸収剤の含有量が、硬化物中、0.5~15質量%である。
以上の構成によれば、紫外線照射に対して、優れた耐黄変性を示す、光学部材、硬化性組成物、及び光学部材の製造方法を提供することができる。
そして、以上の構成によれば、高湿条件下における光照射に対して、優れた耐クラック性を示す、光学部材、硬化性組成物、及び光学部材の製造方法を提供することができる。
【0011】
本明細書において用いる用語の意味を以下に説明する。
「硬化性組成物の有効分」とは、硬化性組成物中に含まれる、溶剤(水を含む)以外の成分を意味する。
置換基を有する基についての「炭素数」とは、該置換基を除く部分の炭素数をいうものとする。
「波長300~450nmに吸収端を有する無機酸化物」とは、その無機酸化物単体により形成した蒸着膜の透過波長領域の下限値(吸収端)が波長300~400nmである、無機酸化物を意味する。
酸化チタンは400nmに、酸化セシウムは400nmに、酸化タンタルは350nmに、酸化ジルコニウムは330nmに、酸化イットリウムは300nmにそれぞれの吸収端を有する。
酸化ケイ素は200nmに、酸化アルミニウムは200nmに、酸化マグネシウムは200nmにそれぞれの吸収端を有する。
上記以外の無機酸化物の吸収端は、無機酸化物単体により形成した蒸着膜の透過波長域を測定し、その下限値とする。
【0012】
光学部材としては、例えば、眼鏡レンズ、スポーツ用ゴーグル、サンバイザー、安全保護シールド、ヘルメットシールドが挙げられる。これらの中でも、眼鏡レンズが好ましい。
【0013】
<ハードコート層>
ハードコート層は、硬化性組成物の硬化物である。
ハードコート層は、例えば、プラスチック基材に、硬化性組成物を塗工し、硬化させて形成される。ハードコート層は、耐黄変性をより向上させる観点から、好ましくは、プラスチック基材の両面に形成される。
【0014】
〔硬化性組成物〕
硬化性組成物は、優れた耐クラック性を示す光学部材を得る観点から、無機酸化物と紫外線吸収剤とを含有する。
【0015】
(無機酸化物)
無機酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化タングステンが挙げられる。
波長300~450nmに吸収端を有する無機酸化物の含有量は、硬化性組成物中の無機酸化物の総量100質量%に対して、0~50質量%である。波長300~450nmに吸収端を有する無機酸化物の含有量は、無機酸化物の総量に対して、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~20質量%、更に好ましくは0~10質量%、更に好ましくは0~1質量%である。
波長300~450nmに吸収端を有する無機酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化タングステンが挙げられる。
一方、波長300~450nmに吸収端を有する無機酸化物に該当しない、無機酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムが挙げられる。
これらは1種類又は2種類以上を用いてもよい。
酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化タングステン、及び酸化イットリウムの合計の含有量が、無機酸化物の総量100質量%に対して、0~50質量%である。当該合計の含有量は、無機酸化物の総量に対して、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~20質量%、更に好ましくは0~10質量%、更に好ましくは0~1質量%である。
【0016】
無機酸化物は、無機酸化物粒子等の無機酸化物ゾルを添加してもよい。
無機酸化物粒子は、有機処理剤等により表面処理されていてもよい。
無機酸化物粒子の平均粒径は、好ましくは1~100nm、より好ましくは5~50nm以上、更に好ましくは8~30nmである。
ここで、無機酸化物粒子の平均粒径は、BET(Brunauer - Emmett - Teller equation)法による比表面積データから算出される値である。
【0017】
硬化性組成物中、無機酸化物の含有量は、硬化性組成物の有効分の総量100質量%に対して、好ましくは10~80質量%、より好ましくは20~70質量%、更に好ましくは30~60質量%である。
【0018】
硬化物中、無機酸化物の含有量は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは20~75質量%、更に好ましくは40~70質量%、更に好ましくは50~70質量%である。
【0019】
無機酸化物粒子は、無機酸化物粒子を水中に分散させた水分散無機酸化物ゾルを硬化性組成物に配合して使用してもよい。水分散無機酸化物ゾルを使用することで、硬化性組成物中で無機酸化物粒子が、コロイド状に分散し、塗膜中に無機酸化物粒子が偏在する現象が抑止されるという効果を奏する。水分散無機酸化物ゾルとしては、水分散酸化ケイ素ゾルが好ましい。
【0020】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤は、硬化性組成物中での優れた溶解性を得る観点から、ヒドロキシ基を1以上含む有機化合物が好ましく、ヒドロキシ基を2以上含む有機化合物がより好ましい。
紫外線吸収剤は、好ましくはベンゾトリアゾール化合物であり、より好ましくは、式(1):
【化1】
〔式中、nは1~3の整数であり、R
1は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基であり、mは0又は1である。〕で表される化合物である。
nは、硬化性組成物中での優れた溶解性を得る観点から、好ましくは2又は3であり、より好ましくは2である。
R
1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
mは、好ましくは0である。
ベンゾトリアゾール化合物としては、例えば、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールが挙げられる。これらの中でも、ハードコート層の透明性を高める観点から、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、又は、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールが好ましく、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールがより好ましい。
【0021】
紫外線吸収剤の含有量は、優れた耐黄変性を得る観点から、及び、優れた耐クラック性を得る観点から、硬化性組成物の有効分の総量100質量%に対して、好ましくは0.4~15質量%、より好ましくは0.5~13質量%、更に好ましくは2~12質量%、更に好ましくは3~10質量%である。
【0022】
紫外線吸収剤の含有量は、優れた耐黄変性を得る観点から、及び、優れた耐クラック性を得る観点から、硬化性組成物中、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~18質量%、更に好ましくは0.5~7質量%、更に好ましくは1~5質量%である。
【0023】
紫外線吸収剤の含有量は、優れた耐黄変性を得る観点から、及び、優れた耐クラック性を得る観点から、硬化物中、好ましくは0.5~15質量%、より好ましくは1~13質量%、更に好ましくは2~12質量%、更に好ましくは3~12質量%、更に好ましくは6~12質量%である。
硬化物中の含有量は、後述の有機シラン化合物を含む場合、有機シラン化合物の2つのSi-OR部位により、Si-O-Siが形成され、-OR基が完全に脱離されたと仮定して、Si-OR基の脱離量を、差し引いて算出した理論値である。
【0024】
(有機シラン化合物)
硬化性組成物は、有機シラン化合物を含有していてもよい。
有機シラン化合物は、例えば、オルガノシラン部位及びエポキシ基を有する。なお、オルガノシラン部位とは、ケイ素-炭素結合を有する部位を意味する。エポキシ基とは、炭素-炭素―酸素により形成される三員環部位を意味する。
有機シラン化合物は、好ましくは、式(2):
【化2】
〔式中、R
21は、エポキシ基又は当該基を含む置換基を有する、炭素数1~20の1価の炭化水素基であり、R
22は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又はアシル基であり、R
23は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又はアシル基であり、aは1~4の整数であり、bは0~3の整数である。但し、(a+b)は3以下の整数である。〕で表される化合物である。
R
21の官能基としては、例えば、エポキシ基、グリシジルオキシ基が挙げられる。
R
21の炭化水素基の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、そして、好ましくは15以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは10以下である。なお、当該炭素数は置換基を含む炭化水素基の総炭素数を意味する。
R
21としては、例えば、γ-グリシドキシメチル基、γ-グリシドキシエチル基、γ-グリシドキシプロピル基、β-エポキシシクロヘキシルメチル基、β-エポキシシクロヘキシルエチル基、β-エポキシシクロヘキシルプロピル基が挙げられる。
【0025】
R22及びR23のアルキル基は、好ましくは炭素数1~8の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基である。
R22及びR23のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、へキシル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基が挙げられる。
R22及びR23のアリール基は、好ましくは炭素数6~10のアリール基である。当該アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基が挙げられる。
R22及びR23のアラルキル基は、好ましくは炭素数7~10のアラルキル基である。当該アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基が挙げられる。
R22及びR23のアシル基は、好ましくは炭素数2~10のアシル基である。当該アシル基としては、例えば、アセチル基が挙げられる。
これらの中でも、R22及びR23は、メチル基、又はエチル基が好ましい。
aは、好ましくは1~3の整数であり、より好ましくは1又は2の整数であり、更に好ましくは1である。
bは、好ましくは0~3の整数であり、より好ましくは0又は1の整数であり、更に好ましくは0である。
式(2)の化合物にR21が複数存在する場合には、その複数のR21は、同一でも互いに異なっていてもよい。R22及びR23についても同様である。
【0026】
有機シラン化合物としては、例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-エチル-3-{[3-(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタンが挙げられる。これらの中でも、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましく、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0027】
有機シラン化合物の含有量は、硬化性組成物の有効分の総量100質量%に対して、好ましくは5~80質量%、より好ましくは10~70質量%、更に好ましくは15~60質量%、更に好ましくは30~50質量%である。
【0028】
硬化物中、有機シラン化合物由来の部位の含有量は、好ましくは5~80質量%、より好ましくは10~70質量%、更に好ましくは15~60質量%、更に好ましくは30~50質量%である。
硬化物中の有機シラン化合物由来の部位の含有量は、-OR基が完全に脱離し、Si-O-Siが形成されたと仮定して、-OR基の脱離量を、差し引いて算出した理論値である。
【0029】
(多官能エポキシ化合物)
硬化性組成物は、多官能エポキシ化合物を含有していてもよい。多官能エポキシ化合物は、有機シラン化合物ではないことが好ましい。
多官能エポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レソルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エチレン-ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレン-ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノールポリエチレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ラウリルアルコールポリエチレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0030】
多官能エポキシ化合物が含まれる場合、多官能エポキシ化合物の含有量は、硬化性組成物の有効分の総量に対して、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~20質量%、更に好ましくは5~10質量%である。
【0031】
多官能エポキシ化合物が含まれる場合、硬化物中、多官能エポキシ化合物由来の部位の含有量は、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~20質量%、更に好ましくは5~10質量%である。
【0032】
(硬化触媒)
硬化性組成物は、硬化触媒を含有していてもよい。硬化触媒としては、例えば、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)[Al(acac)3]等が挙げられる。
硬化触媒の含有量は、硬化性組成物の有効分の総量100質量%に対して、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%、更に好ましくは1~5質量%である。
硬化触媒の含有量は、硬化物中、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%、更に好ましくは1~5質量%である。
【0033】
硬化性組成物には、均一な膜を形成するために、有機溶剤が含まれていてもよい。
有機溶剤は、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、アセタール系溶剤、及び非極性溶剤から選ばれる少なくとも1種が好ましく、具体的には、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下「PGM」ともいう)、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル等が挙げられる。
【0034】
硬化性組成物は、上述した成分に加えて、レベリング剤、フッ素化合物、染料、顔料、フォトクロミック剤、帯電防止剤等の公知の添加剤を配合することもできる。
硬化性組成物は、これらの中でも、紫外線照射及び高湿条件下において耐クラック性を向上させる観点から、好ましくは、フッ素化合物を含む。
フッ素化合物としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、ケイフッ化水素酸、ケイフッ化カリウム、ホウフッ化水素酸、ホウフッ化スズ、ホウフッ化銅、ホウフッ化鉛、ホウフッ化亜鉛、ホウフッ化ナトリウム、ホウフッ化カリウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化アンモニウム、フッ化ジルコニウムカリウム、フッ化チタンカリウム、精製フッ化カルシウム、六フッ化リン酸カリウムが挙げられる。
フッ素化合物の含有量は、硬化性組成物の有効分の総量100質量%に対して、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%、更に好ましくは1~5質量%である。
フッ素化合物の含有量は、硬化物中、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%、更に好ましくは1~5質量%である。
【0035】
硬化性組成物における、有効分の総量は、硬化性組成物全体に対して、好ましくは1~70質量%、より好ましくは5~50質量%、更に好ましくは10~40質量%である。
硬化性組成物における、フィラー/マトリックス質量比(以下、単に「F/M」ともいう)は、好ましくは0.4~2.5、より好ましくは0.6~2.0、更に好ましくは0.6~1.2である。
なお、フィラー/マトリックス質量比とは、無機酸化物の合計量と、有機シラン化合物、及び多官能エポキシ化合物の合計量との質量比を意味する。
【0036】
硬化性組成物は、上記各成分を混合することで得られる。硬化性組成物の製法方法は、例えば、無機酸化物と、紫外線吸収剤と、必要に応じて有機シラン化合物と、多官能エポキシ化合物と硬化触媒とを加えて撹拌混合させる工程を有する。
そして、硬化性組成物は、光学部材のハードコート層の形成に用いることができる。
【0037】
ハードコート層の厚さは、耐黄変性をより向上させる観点から、好ましくは0.5~50μm、より好ましくは5~20μm、更に好ましくは1~5μmである。
【0038】
<プラスチック基材>
プラスチック基材の材質は、例えば、ポリチオウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂などのポリウレタン系材料;ポリスルフィド樹脂などのエピチオ系材料;ポリカーボネート系材料;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート系材料;等が挙げられる。
プラスチック基材の材質は、好ましくは、ポリチオウレタン樹脂、ポリスルフィド樹脂、及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、ポリチオウレタン樹脂、及びポリスルフィド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは、ポリチオウレタン樹脂である。
【0039】
プラスチック基材は、例えば、眼鏡用レンズ基材、ゴーグル用基材、安全保護シールド用基材、ヘルメットシールド用基材が挙げられる。これらの中でも、眼鏡用レンズ基材が好ましい。
眼鏡用レンズ基材としては、フィニッシュレンズ、セミフィニッシュレンズのいずれであってもよい。レンズ基材の表面形状は特に限定されず、平面、凸面、凹面等のいずれであってもよい。
本開示の眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等のいずれであってもよい。例えば、一例として、累進屈折力レンズについては、通常、近用部領域(近用部)及び累進部領域(中間領域)が、前述の下方領域に含まれ、遠用部領域(遠用部)が上方領域に含まれる。
【0040】
眼鏡用レンズ基材の厚さ及び直径は、特に限定されるものではないが、厚さは通常1~30mm程度、直径は通常50~100mm程度である。
眼鏡用レンズ基材の屈折率neは、例えば、1.50~1.80であり、1.53~1.80であってもよく、1.55~1.80であってもよく、1.58~1.80であってもよく、1.60~1.80であってもよく、1.67~1.80であってもよく、1.70~1.80であってもよい。
【0041】
<その他の層>
光学部材は、上述の他、プラスチック基材とハードコート層の間に、プライマー層を備えていてもよく、ハードコート層上に反射防止層を備えていてもよい。
【0042】
光学部材は、波長380nm~780nmの光の平均透過率が、光学部材の透明性確保のため、好ましくは60~90%、より好ましくは70~98%、更に好ましくは75~95%である。
なお、波長380nm~780nmの光の平均透過率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0043】
[光学部材の製造方法]
実施形態に係る光学部材の製造方法は、紫外線照射に対して、優れた耐黄変性を示す光学部材を得る観点から、上述の硬化性組成物をプラスチック基材に塗工し硬化させて、ハードコート層を形成する工程を含む。
【0044】
硬化性組成物をプラスチック基材に塗工する方法としては、ディッピング法、スピン法、スプレー法等が通常行われる方法として適用されるが、面精度の面からディッピング法、スピン法が好ましい。
なお、塗料を基板上に塗工する前に、酸、アルカリ、各種有機溶剤による化学処理、プラズマ、紫外線等による物理的処理、各種洗剤による洗浄処理を、行うことも可能である。
なお、硬化性組成物は、プラスチック基材上に直接又は他の層を介して、塗工してもよい。
【0045】
硬化性組成物の硬化は、熱処理であっても、光照射であってもよい。
熱処理により硬化させる場合、硬化性組成物の硬化温度は、好ましくは60~180℃、より好ましくは70~150℃、更に好ましくは80~130℃である。
熱処理により硬化させる場合、加熱時間は、好ましくは30分~5時間、より好ましくは40分~4時間、更に好ましくは45分~3時間である。
【実施例】
【0046】
以下、具体的な実施例を示すが、本特許請求の範囲は、以下の実施例によって限定されるものではない。以下に記載の操作及び評価は、特記しない限り大気中室温下(20~25℃程度)で行った。
【0047】
[測定方法]
<透過率スペクトル>
透過率は、波長280nm~780nmの領域の光について、分光光度計「U-4100」(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。
<波長380nm~780nmの光の平均透過率>
上記透過率の測定結果から、波長380nm~780nmの光の平均透過率を算出した。
【0048】
[評価方法]
<耐UV光黄変試験>
UV照射前に、YI値の測定を行った。
その後、UVランプ(UVA-340ランプ)を備えた照射装置内で、温度45℃、放射照度0.77W/m2の条件でUVを4時間照射、その後、4時間消灯する操作を繰り返し、合計6日間UV照射を行い、YI値を測定した。
UV照射の前後のYI値の差(ΔYI値)で、耐UV光黄変特性を評価した。
なお、YI値は、分光透過率測定器(商品名「DOT-3」、株式会社村上色彩技術研究所製)を用いてSCI方式(正反射光を含む)にて、280-780nmの透過光で測定を行った。
【0049】
<耐クラック試験>
光学部材を準備し、QUV紫外線蛍光管式促進耐候試験機(Q-Lab社製)において、温度45℃の高温環境及び相対湿度90%の高湿度環境下、0.77W/m2の条件で10日間紫外線照射した。試験後の光学部材について、光学部材の幾何学中心部分と、端部を顕微鏡により確認し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
A:光学部材の幾何学中心部分及び端部にクラックが発生していない。
B:光学部材の幾何学中心部分及び端部のいずれか一方にクラックが発生し、他方にクラックが発生していない。
C:光学部材の幾何学中心部分及び端部の両方にクラックが発生している。
D:光学部材の幾何学中心部分及び端部のいずれか一方に明らかなクラックが発生し、他方にわずかなクラックが発生している。
E:光学部材の幾何学中心部分及び端部の両方に明らかなクラックが発生している。
【0050】
<実施例1>
(硬化性組成物の調製)
容器に、表1に示す配合量の各種原料を混合し、撹拌した後、濾過を行って、硬化性組成物を得た。
(塗工硬化)
眼鏡用レンズ基材(S+0.00D、屈折率1.67、直径75mm、肉厚5.0mm、ポリチオウレタン樹脂)を45℃、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液にて5分間浸漬処理して、十分に乾燥を行った。
その後、上記方法で調製された硬化性組成物を用いて、スピン法(回転速度:1000rpm)で塗工を行った。
更に、80℃で20分加熱し、その後110℃で2時間加熱することにより、硬化性組成物を熱硬化させて、ハードコート層を形成した。当該操作により両面にハードコート層を形成した。得られたハードコート層の膜厚は、3.1μmであった。
上述の<耐UV光黄変試験>の方法により評価を行い、その結果を表1に示した。
【0051】
<実施例2~3、比較例1>
硬化性組成物の配合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、ハードコート層を形成した。上述の<耐UV光黄変試験>の方法により評価を行い、その結果を表1に示した。
実施例3で作成した眼鏡レンズについては、その透過スペクトルを測定し、
図1に示した。なお、視感透過率は、80%であった。
【0052】
【0053】
表1中で示した材料は以下の通りである。
(無機酸化物)
シリカゾル:水分散酸化ケイ素ゾル(分散媒:水)
(有機シラン化合物)
Si-1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(溶剤)
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
MeOH:メタノール
(紫外線吸収剤)
UV-1:2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール
【0054】
実施例及び比較例の対比から、本発明の硬化性組成物により、ハードコート層を形成したプラスチック基材は、UV照射に対する優れた耐黄変性を示すことがわかる。
【0055】
<実施例11~13、比較例11>
硬化性組成物の配合を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、ハードコート層を形成した。上述の<耐クラック試験>の方法により評価を行い、その結果を表2に示した。
【0056】
【0057】
表2中で示した略号は、表1と同じである。
【0058】
実施例及び比較例の対比から、本発明の硬化性組成物により、形成したハードコート層は、高湿条件下における光照射に対して、優れた耐クラック性を示すことがわかる。