(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】画像処理装置、及び、磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B5/055 382
(21)【出願番号】P 2018237359
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横沢 俊
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】越智 久晃
(72)【発明者】
【氏名】谷口 陽
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0161928(US,A1)
【文献】特開2015-019958(JP,A)
【文献】特開2017-051598(JP,A)
【文献】特開2016-059584(JP,A)
【文献】国際公開第2007/043462(WO,A1)
【文献】米国特許第09092691(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00 -24/14
G01R 33/20 -33/64
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元の空間情報を持つ物理量を画素値とし且つ当該
物理量の3次元の空間情報が
それぞれ異なる複数の画像データを受け付ける受付部と、
前記複数の画像データそれぞれにおける3次元の空間情報の関係性を抽出する相互位置計算部と、
前記相互位置計算部が抽出した空間
情報の関係性
と複数の空間情報における物理量とを用いて、
画素ごとに前記物理量の3次元分布を解析しテクスチャー指標を算出するテクスチャー解析部と、を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記複数の画像データは、磁気共鳴撮像装置でMPGパルスの印加軸を異ならせて撮像した拡散強調画像から作成した複数の画像データであることを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記空間情報は、拡散強調撮像に用いるMPGパルスの印加軸方向であることを特徴とする画像処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記物理量は、見かけの拡散係数(ADC)、尖度係数(K)、遅い拡散係数、及び、速い拡散係数を含む、一次元拡散信号強度モデルにおける拡散に関する係数のいずれかであることを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記複数の画像データは、磁気共鳴撮像装置において静磁場方向に対し複数の異なる角度となる被検体位置で撮像した画像であることを特徴とする画像処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記相互位置計算部は、前記空間情報を用いて、ドロネー三角形分割し、前記テクスチャー解析部は、前記空間関係性として、ドロネー三角形分割によって結ばれた位置の情報を用いることを特徴とする画像処理装置。
【請求項7】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記相互位置計算部は、前記空間情報として、前記MPGパルスの印加軸方向を表すベクトルを用い、前記空間関係性として、前記ベクトルの内積を算出することを特徴とする画像処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記テクスチャー解析部は、前記画像データを構成する各ボクセルについて、前記空間関係性を用いて、各空間情報の近傍にある1ないし複数の近傍空間情報を選択し、選択された複数の空間情報の各物理量を、グレーレベル同時生起行列を用いて解析し、前記テクスチャー指標を算出することを特徴とする画像処理装置。
【請求項9】
請求項8に記載の画像処理装置であって、
前記テクスチャー解析部は、前記物理量を前記グレーレベル同時生起行列のマトリクスサイズに合わせて規格化することを特徴とする画像処理装置。
【請求項10】
請求項8に記載の画像処理装置であって、
前記テクスチャー指標は、均一性、局所差分度、コントラスト、乱雑度、局所相関のいずれか一つを含むことを特徴とする画像処理装置。
【請求項11】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記テクスチャー解析部がボクセル毎に算出したテクスチャー指標を画素値とする画像を生成する画像生成部をさらに備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項12】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記受付部は、前記複数の画像データとして、磁気共鳴撮像装置でMPGパルスの印加軸を異ならせて撮像した複数の拡散強調画像を受け付け、
前記拡散強調画像から、前記物理量を画素値とする画像データを作成する物理量計算部をさらに備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項13】
磁気共鳴撮像装置を用いて、印加軸が異なる複数のMPGパルスを用いて撮像した拡散強調画像または前記拡散強調画像から作成した複数の画像データを受け付ける受付部と、
前記複数のMPGパルスの印加軸方向の互いの関係を、
3次元の空間関係性として計算する相互位置計算部と、
前記画像の各ボクセルについて、
前記3次元の空間的関係性に基づき、複数の印加軸方向のそれぞれと所定の関係にある1ないし複数の印加軸方向を選択し、選択された印加軸方向についての画素値を用いて、テクスチャー指標を算出し、当該テクスチャー指標をボクセルの画素値とするテクスチャー解析部と、を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項14】
印加軸の異なる複数のMPGを用いて核磁気共鳴信号を計測する計測部と、
前記計測部が計測した核磁気共鳴信号を用いて画像を作成する画像再構成部と、
前記画像再構成部が作成した画像を処理する画像処理部と、
を備え、
前記画像処理部は、請求項1~12のいずれか一項に記載の画像処理装置を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用撮像装置で取得した画像を処理する技術に関し、特に、磁気共鳴イメージング装置で取得した画像の処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(以下、MRIと略す)装置は、静磁場内に置かれた被検体に対し高周波磁場(RF磁場)及び傾斜磁場を印加し、それによって被検体から発生する核磁気共鳴信号を取得し画像化する装置であり、RFパルスや傾斜磁場パルスの印加の条件を異ならせることにより、核磁気共鳴信号を特徴付ける被検体組織や血流の物理量を強調した画像を得たり、さらには物理量を導出したりすることができる。このような物理量は、組織等の変性や血管内の病変を知る手がかりとして重要な情報である。
【0003】
例えば、MRIを用いた撮像手法の一つに拡散強調画像(DWI: diffusion weighted image)がある。拡散強調画像は、生体組織に含まれる水分子の自己拡散を強調した画像である。急性期脳梗塞の発症直後の病変描出が可能であり、T1強調画像やT2強調画像とは異なるコントラスを示すことが知られている。一般には、MPG (motion probing gradient)パルスと呼ばれる強い傾斜磁場を印加することにより、ランダム運動する核スピンの信号強度が低下するような撮像方法を用いる。信号強度の低下は、MPGの印加方向に拡散する核スピンによって引き起こされるため、MPGの印加方向を制御することで任意方向の拡散情報が取得可能となる。また、拡散強調度はMPGの印加強度と時間に関するパラメータである拡散因子(b値)にて調整可能であり、b値が高いほど拡散強調度の高い画像を取得できる。さらに、拡散強調画像は解析により拡散係数等の拡散に関する指標を算出することができる。印加軸ごとに算出される拡散係数は見かけの拡散係数(ADC:Apparent Diffusion Coefficient)と呼ばれる。また、正規分布の3次元楕円拡散モデルを仮定したDTI (diffusion tensor imaging)では、平均拡散係数(MD:Mean Diffusivity)や異方性比率 (FA:fractional anisotropy)を算出することができる。
【0004】
MDは、平均的な拡散の大きさを知る指標であり、拡散の方向性についての情報はない。これに対し、FAは拡散分布の情報を含んでおり、異方性の強い組織構造である白質の神経走行路の構造を解析する手法として広く用いられている。一方で、神経線維が一様でないkissingやcrossing構造を持つ白質領域や拡散異方性の小さい灰白質等ではFA値が低下するため、単純な拡散分布の情報しか持たないFAでは、その部分の構造を把握することが困難となる。
【0005】
この問題に対しては、多方向にMPGを印加して取得したデータをファンク・ラドン変換し、方位分布関数(ODF:Orientation Distrubution Function)を求める手法(例えば非特許文献1)により、複数の線維が交叉するような構造にも対応可能な解析方法が提案されている。また、脳内の軸索・樹状突起の密度や方向のばらつき等の特異的な情報を推定するため、脳脊髄液成分、細胞内拡散、細胞外拡散の3つのコンパートメントから成る拡散モデルを仮定して解析する手法(例えば非特許文献2)などが提案されている。
【0006】
一方、画像処理技術を用いて、医用撮像装置で撮像した画像を処理し、診断に役立つ画像や情報を作成する手法も種々提案されている。例えば、特許文献1には、医用画像において病変と推定される領域を分割し、分割された各領域の特徴量を抽出する技術が開示されている。特徴量の抽出には、ヒストグラムやテクスチャー解析結果を特徴量ベクトルとして算出する。テクスチャー解析は、画像の空間パターンを数値化し画像分類やセグメンテーションを行う手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Maxime Descoteaux等、「Regularized, Fast, and Robust Analytical Q-Ball Imaging」、Magnetic Resonance in Medicine 58:497-510(2007)
【文献】Hui Zhang等、「NODDI:Practical in vivo neurite orientation dispersion and density imaging of the human brain」、NeuroImage 61(2012)1000-1016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に開示された方法によって提供される情報は、ボクセル毎に複雑なODFの形状が与えられるため、その領域の拡散の程度を一見して把握することが難しい。また、非特許文献2に開示された方法は、軸索・樹状突起の状態を把握することができるが、設定したモデルに適合しない領域については算出された値の解釈が困難であり、画像全体にわたって共通の解釈にて拡散の情報を分析することができない。
【0010】
一方、特許文献1に開示されるように、テクスチャー解析は、一般的に2次元画像に適用される手法であり、MD画像やFA画像等の拡散指標を値とした画像に適用することができる。これによって、MDやFAによって特徴づけられる組織の違いを明確にし、組織のセングメンテーションや正常組織と病変部位との分別に役立つ情報を提供することができる。しかし、計測データから拡散の指標を計算するDTIや非特許文献1、2等と組み合わせた解析が必要となるため、それぞれの拡散の分析方法の課題は依然として解決されない。
【0011】
本発明は、ボクセル内において空間分布を有する物理量を画像化する場合について、画像のボクセル値として物理量の分布の特徴をわかりやすく提示することができる技術を提供することを課題とする。特に、拡散係数等の物理量の分布を診断しやすい形で提示することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は画素値に内在する空間情報のみを取り出し、複数の空間情報の互いの関係性(空間的関係性)を把握する。その後、この空間的関係性を用いて、ボクセル毎にテクスチャー解析の手法を適用して、テクスチャーの指標を算出し、この指標をボクセル値とする画像を作成する。こうして作成された画像は、ボクセル内における物理量の分布の仕方、例えば、均一度、乱雑度、局所相関などを端的に表す画像であり、診断支援画像として役立つ画像となる。
【0013】
即ち、本発明の画像処理装置は、物理量を画素値とし且つ前記物理量が空間情報を持つ複数の画像データを受け付ける受付部と、前記複数の画像データそれぞれにおける空間情報の関係性を抽出する相互位置計算部と、前記相互位置計算部が抽出した空間関係性を用いて、前記物理量の分布を解析しテクスチャー指標を算出するテクスチャー解析部と、を備える。本発明の画像処理装置は、さらに、前記テクスチャー解析部がボクセル毎に算出したテクスチャー指標を、画素値とする画像を生成する画像生成部を備えることができる。
【0014】
また本発明のMRI装置は、印加軸の異なる複数のMPGを用いて核磁気共鳴信号を計測する計測部と、前記計測部が計測した核磁気共鳴信号を用いて画像を作成する画像再構成部と、前記画像再構成部が作成した画像を処理する画像処理部と、を備え、前記画像処理部は、上記の画像処理装置の機能を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モデルや近似を用いず、データに内包される物理量の空間的な分布を、テクスチャー指標として、さらにテクスチャー指標を表す画像として提示することができる。これにより物理量の空間分布が容易に把握できるようになり、対象とする組織の分別機能が向上するとともに、診断上有用な情報を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一実施形態の画像処理装置の全体構成を示すブロック図。
【
図2】(A)は、第一実施形態の画像処理装置の処理の概要を示す図、(B)は従来の処理を示す図。
【
図3】第二実施形態のMRI装置の全体構成を示すブロック図。
【
図4】第二実施形態のMRI装置の計算機の機能ブロック図。
【
図5】第二実施形態のMRI装置の動作を示すフロー図。
【
図6】拡散強調撮像のパルスシーケンスの一例を示す図。
【
図7】(A)~(C)は、空間関係性の一例として、三角形表面メッシュを説明する図。
【
図8】一般的なテクスチャー解析で用いるGLCMを説明する図。
【
図9】第二実施形態のテクスチャー解析の処理手順を示す図。
【
図10】第二実施形態のテクスチャー解析の処理手順を説明する図。
【
図11】第二実施形態のテクスチャー解析の処理手順の詳細を示すフロー図。
【
図12】(A)~(D)は第二実施形態のテクスチャー解析を適用して作成した画像を示す図、(E)及び(F)は従来の手法で算出したMD像及びFA像を示す図。
【
図13】拡散モデルのシミュレーション結果を示す図で、(A)は、複数の拡散モデルのFAを示す図、(B)~(E)は(A)と同じモデルについてテクスチャー指標を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第一実施形態>
最初に、画像処理装置の実施形態を、図面を参照して説明する。
画像処理装置200は、
図1に示すように、撮像装置で取得した画像データを受け付ける画像受付部210と、画像受付部210が受け付けた画像データに対するデータ解析を行うデータ解析部220と、データ解析部220の解析結果である新たな計算画像を生成する画像生成部230とを有する。撮像装置は、例えば、MRI装置であり、撮像条件、特に傾斜磁場の印加軸などの空間的な条件を異ならせて撮像して得た複数の画像データを取得する。画像処理装置200は、さらに、各部の処理に必要な条件や指令を入力するための入力装置250や、処理途中或いは処理後のデータを表示したり、格納したりするための表示装置(不図示)や記憶装置270などを備えていてもよい
【0018】
データ解析部220は、画像受付部210が受け付けた空間的条件が異なる複数の画像データについて、空間的条件の関係性(相互位置)を抽出し、抽出した相互位置に基づき、画像データのボクセル値の分布状態を表す指標を算出する。このためデータ解析部220は、空間的条件の関係性、すなわち、各空間的条件の相互位置を計算する相互位置計算部221と、相互位置と画像データの各ボクセル値とを用いて、ボクセル値の分布状態を表す指標(テクスチャー指標)を計算する指標計算部223とを有する。
【0019】
例えば、空間条件が方向のようなベクトルで表されるものであれば、相互位置計算部221が抽出する相互位置は、各ベクトルの相対角度や、その基底ベクトルの球表面における座標の相対位置などである。指標計算部223は、相互位置計算部221が求めた相互位置から、各ベクトルについて、相互位置が所定の関係にある1ないし複数のベクトルを選択し、これらベクトルにおける各画素値(物理量)を用いてテクスチャー解析の特徴量を算出する。テクスチャーの特徴量は、解析の手法によって、種々のものが知られており、例えば、均一性(ACM:Angular Second Moment)、局所差分度(IDM:Inverse Difference Moment)。局所差分度(Contrast)、乱雑度(Entropy)、局所的相関(Correlation)などであり、各ボクセルにおける物理量の空間分布を示す指標(テクスチャー指標)である。従って、画像生成部230が、この指標を画素値とする画像を作成することで、空間分布の特徴を表す画像が得られる。
【0020】
画像生成部230が生成した画像は、画像処理装置200が表示装置を備える場合には、表示装置に表示させてもよいし、画像データとして、撮像装置(MRI装置)100に送り、ここで必要に応じて、もとの画像データやそれを処理して得られる計算画像等とともに表示させてもよい。画像処理装置200と撮像装置100との画像データのやりとりは、インターネットや可搬媒体など公知のあらゆる転送手段を介して行うことができ、そのいずれを採用しても良い。
【0021】
また画像処理装置200を構成する各部の機能は、CPUやGPU及びメモリを備えた計算機に予めプログラムされたソフトウェアをアップロードすることにより実現することができる。また一部の機能をASICやFPGAなどのハードウェアで実現してもよい。また、撮像装置100が取得したデータから画像を作成する画像処理部を備える場合には、画像処理部が上述した画像処理装置200の機能を実現することも可能である。
【0022】
図2(A)に、本実施形態の画像処理装置の処理の概要を示す。また比較例として、
図2(B)に組織モデルを用いた従来法の処理の概要を示す。
【0023】
図2に示すように、本実施形態の手法でも従来法でも、まず空間的条件が異なる複数の計測値を入力する(S21、S31)。計測値は、撮像装置100が計測した信号あるいはそれを再構成した画像データでもよいし、撮像装置100において、さらに信号を所定の物理量に変換した画像データでもよい。前者の場合は、画像処理装置200において、受け付けた画像データを処理することによって信号を空間的条件ごとに物理量に変換し、複数の画像データを作成する(S22、S32)。各画像データを構成する各ボクセルは、特定の空間的条件における物理量、例えば特定方向における物理量であり、その後の処理の目的は、複数の空間的条件における物理量を解析し、物理量の空間的な分布の指標、あるいはそれを画像化したものを提示することである(S25、S34)。従来法では、予め仮定した空間分布のモデルを用いて物理量と方向との関係式を設定し(S33)、その関係式に近似することにより物理量の空間分布を表す指標を算出する。これに対し、本実施形態では、まず空間的条件のみで、その相互の空間的な関係性(相互位置)を算出する(S23)。次に空間的関係性と各方向の物理量とを用いて、テクスチャー解析の手法を応用して、ボクセル毎に物理量の空間分布の特徴を表す指標、例えば、均一性、局所差分度、コントラスト、乱雑度、局所的相関などを算出する(S24)。ボクセル毎に算出した指標を画像化することで、空間分布が均一であるか、乱雑であるか、局所的相関があるかなどを把握することができる。
【0024】
図2(B)に示すような予め定めた空間分布モデルを用いて指標を提示する従来の手法では、物理量と方向性との関係式が仮定する空間分布モデルに制限される。従って、対象とする組織構造と仮定するモデルの物理量の空間分布が一致しない場合は、提示される指標のもつ診断上の解釈が困難となる。例えば、物理量が楕円三次元分布に従うモデルを仮定している場合において、実際には二つの楕円三次元分布を組み合わせたような空間分布を物理量が有していた場合は、仮定モデルでは物理量の空間分布の特徴を正確に表現することができない。これに対して、本実施形態の画像処理装置によれば、モデルや近似を用いず、物理量の空間分布の特徴を求めるため、対象とする組織の如何に関わらず診断上有用な情報を提示することができる。
【0025】
<第二実施形態>
上述した第一実施形態を基本として、撮像装置100がMRI装置であって、MRI装置の画像処理部が画像処理部200の機能を備える実施形態を説明する。
【0026】
最初に本実施形態が適用されるMRI装置の全体構成を説明する。
MRI装置100は、
図3に示すように、計測部10として、静磁場を発生する静磁場磁石101と、静磁場に磁場勾配を付与する傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル102と、静磁場空間に配置された被検体103を構成する組織に含まれる原子の原子核スピン(以下、単にスピンという)に核磁気共鳴を起こさせる高周波磁場パルスを印加するRF送信コイル107と、被検体103から発生する核磁気共鳴信号を受信するRF受信コイル108と、被検体103を静磁場空間内に搬入するためのテーブル115とを備えている。計測部10は、静磁場の均一性を向上するためのシムコイル113を備えていてもよい。
【0027】
傾斜磁場コイル102は、図では省略して一つのブロックで示しているが、互いに直交する3軸方向のコイルで構成され、各軸の傾斜磁場コイルは、それぞれ、個々の傾斜磁場電源105に接続されており、各傾斜磁場電源から供給する駆動電流を制御することにより、所望の方向(印加方向)、所望の大きさの傾斜磁場を発生することができる。シムコイル113は、シム電源114に接続されており、シム電流により所定の傾斜磁場を発生する。
【0028】
RF送信コイル107は、磁気共鳴周波数のRF信号を発生する発信器や高周波増幅器などを備えた送信部106に接続され、所定の形状のRFパルスを発生する。RF受信コイル108は、高周波増幅器、直交検波回路、A/D変換器などを備えた受信部109に接続され、受信した核磁気共鳴信号を受信部109に送る。
【0029】
MRI装置100は、上述した傾斜磁場電源105、送信部106、受信部106及びシム電源114の動作を所定のパルスシーケンスに従って制御するシーケンサ104と、装置全体の制御及び信号処理等を行う計算機110を備える。本実施形態では、パルスシーケンスとして後述する拡散強調撮像のパルスシーケンスを実行する。
【0030】
計算機110は、CPUやGPU等のプロセッサとメモリとを備え、さらに、外部装置として、ユーザが装置の制御や信号処理等に必要な指令や条件などを入力するための入力装置111、処理結果などを表示する表示装置116、及び制御に必要なデータやプロブラム、処理途中のデータなどを必要に応じて格納する記憶装置112などを備えている。
【0031】
計算機110は、予めプログラムされたソフトウェアをプロセッサにアップロードし実行することで、各種制御や画像処理のための演算を行う。計算機110が実行する機能は、具体的には、
図4のブロック図に示すように、制御部30(計測制御部31、表示制御部33)及び画像処理部20、を含み、画像処理部20は、画像再構成部21、画像解析部22及び画像生成部23を含む。
【0032】
計測制御部31は、入力装置111を介してユーザが設定した撮像シーケンス(パルスシーケンス)と撮像条件をシーケンサ104に送り、計測部の動作を制御する。
【0033】
画像再構成部21は、受信部106が収集した核磁気共鳴信号に対し、フーリエ変換等の演算を行い、画像を再構成する。画像解析部22は、再構成画像に対し解析を行い、新たな画像を作成する機能を持ち、再構成画像をもとに被検体組織の物理量を算出する物理量計算部227と、
図1に示した画像処理装置200の画像解析部220と同様の機能部、即ち、相互位置計算部221及び指標計算部223とを備える。物理量計算部227が算出する物理量は、拡散強調撮像の場合、みかけの拡散係数(ADC)や拡散尖度係数(K)などの諸量を含む。これら画像処理部20の具体的な処理については後述する。
【0034】
画像生成部23は、指標計算部223が算出した指標を用いて、指標をボクセル値とする新たな画像を生成する。
表示制御部33は、画像再構成部21や物理量計算部227及び画像生成部23が生成した画像を、被検体に関する情報などとともに所定の表示形態で表示装置116に表示させる制御を行う。
【0035】
次に、上述した構成を踏まえMRI装置100の動作を説明する。ここでは拡散強調撮像を行う場合を例に、画像処理部20の動作を中心に説明する。
動作の流れは、
図5に示すように、撮像ステップS51、画像再構成ステップS52、物理量計算ステップS53、相互位置計算ステップS54、テクスチャー指標計算ステップS55、画像生成ステップS56からなる。以下、各ステップの詳細を説明する。
【0036】
[撮像ステップS51]
シーケンサ104の制御のもと、計測部10が拡散強調撮像に用いるパルスシーケンスを実行し、拡散強調画像を取得する。拡散強調パルスシーケンスの一例を
図6に示す。図示するパルスシーケンスは、スピンエコー型のEPIシーケンスで、まずスピンを励起するRFパルス602をスライス選択傾斜磁場601とともに印加し、ついでスピンを反転させるRFパルス605をスライス選択傾斜磁場604とともに印加する。励起RFパルス602と反転RFパルスとの間及び反転RFパルスの印加後に、強度の大きい傾斜磁場パルス(MPGパルス)603,606を印加する。その後、位相エンコード傾斜磁場と読み出し傾斜磁場のディフェイズパルス607,608をそれぞれ印加した後、読み出し傾斜磁場パルス612の強度を反転させながら、また位相エンコード傾斜磁場パルス611をブリップ状に印加しながら、核磁気共鳴信号をエコー信号610として収集する。1回の励起で、1枚の画像に必要なエコー信号を全て収集してもよいし、複数回の励起に分けて収集してもよい。エコー信号は、収集時の位相エンコード傾斜磁場と読み出し傾斜磁場で決まるk空間データの位置に配置され、1枚の画像に対応する1つのk空間データが収集される。
【0037】
図6ではMPGパルスを3軸(Gz、Gy、Gx)同時に印加しているが、印加する軸を異ならせて複数回のエコー信号を収集し、MPGパルスの条件が異なる複数のk空間データを収集する。MPGパルスの印加軸の数は、特に限定されないが、通常6~30程度であり、また一つの印加軸について、b値を2以上異ならせて撮像を実行してもよい。b値(s/mm
2)は、例えば500、1000、1500、2000,2500などの値から選択する。MPGパルスを印加しない(b値=0)パルスシーケンスは各印加軸共通であり、1回実行すればよく、このパルスシーケンスの撮像により得られたk空間データの再構成画像を各印加軸の参照画像とする。
【0038】
[画像再構成ステップS52及び物理量計算ステップS53]
画像再構成部21は、上記ステップS51で収集した複数のk空間データに対し、フーリエ変換等の演算を行い、画像データを作成する(S52)。即ち、画像データは、MPGパルスの印加軸および設定したb値ごとに異なる複数の画像データからなる。
【0039】
物理量計算部227は、複数の画像データを用いてみかけの拡散係数などの物理量を算出する(S53)。
まずN個の印加軸があるとすると、n(1~Nのいずれか)番目の印加軸の信号値S(n,b)は、次式(1)で与えられる。
【数1】
式(1)中、bはb値、S
0はMPGパルスを印加しない参照画像の信号値、D
n,appはみかけの拡散係数である。
【0040】
さらに物理量計算部227は、軸毎の拡散係数を用いて、従来法と同様に平均拡散係数MDや拡散異方性FAを算出してもよい。これらの算出は必須ではない。
ここで三次元回転楕円体の分布モデルを用いると、Dnは、拡散テンソルDi,jを用いて式(2)で表すことができ、それから式(3)を用いて平均拡散係数MDを、式(4)を用いて拡散異方性FAを算出することができる。
【0041】
【数2】
【数3】
式(3)中、λは拡散テンソルの固有値であり、添え字iは3軸方向のいずれかを意味する(以下、同じ)。
【数4】
【0042】
画像生成部23は、物理量計算部227が算出した物理量を画素値とする画像データを生成する。物理量は、それ自体が例えば脳血流の拡散分布状態を表す情報であり、急性脳梗塞や白質病変の診断指標となる。例えば、白質の神経線維は管状構造であるため、その走行方向に沿って拡散が大きくなるので、異方性の高い部位は白質を強調することができる。しかし、異方性が小さくなるほど、分布形状は複雑化する傾向があり、異方性の指標では十分に拡散分布を指標化できない。次のステップS54~S55では、これらの物理量では指標化できない拡散分布をテクスチャー解析の特徴量で指標化する。
【0043】
[相互位置計算ステップS54]
画像解析部22が、上述のステップS53で生成した物理量画像データ(例えば拡散係数画像)を受け取ると、画像解析の最初のステップとして、相互位置計算部221が、複数の印加軸の互いの相対位置(関係性)を計算し、データ化する。画像処理部23が受ける取るMPGパルスの印加軸の情報は、傾斜磁場パルスの各軸Gx、Gy、Gzの強度(Gx、Gy、Gz)として、たとえば(1,0,0)、(0,1,0)、(0,0,1)や(0.525,0,-0.851)、(-0.525,0,-0.851)、(0.851,0.525,0)などであり、それらの関係性は不明である。
【0044】
相互位置計算部221は、これら印加軸の情報を用いて、互いの距離や角度などの相対位置を算出する。相対位置の算出には、いくつか手法を取りえるが、ここでは相対位置の一例としてドロネー三角形分割を用いる手法を、
図7を参照して説明する。
【0045】
まずMPG印加軸方向(拡散方向(ex,ey,ez))を規格化し、それぞれ大きさ1のベクトルとする。なおMPGパルスの印加軸方向は、拡散係数という物理量と関連して定義すると拡散方向と言い換えることができるので、以下では拡散方向という。これによりMPGパルス印加軸方向すなわち拡散方向は、
図7(A)に示すように、半径1の球の上にプロットすることができる。次に、規格化した拡散方向の座標からドロネー三角形分割条件に基づき三角形表面メッシュを作成する(
図7(B))。ドロネー条件とは、各三角形の外接円が他の点を含まない、というものである。この三角形表面メッシュでは、一つの拡散方向に対し、近接する複数の拡散方向が三角形の一辺として連結された状態になる(
図7(C))。
【0046】
[テクスチャー指標計算ステップS55]
次にテクスチャー解析を応用した拡散情報の定量化を行う。テクスチャー解析の手法には、グレーレベル同時生起行列を用いる方法、濃度ヒストグラムを用いて特徴量を算出する方法、所定の相対的位置関係にある画素対の濃度値の差を用いてヒストグラムの特徴量と同様に特徴量を算出する方法(差分統計量を用いる方法)などがあるが、グレーレベル同時生起行列(GLCM:gray level cooccurrence matrix)を応用した例を説明する。最初に参考として、従来のGLCMを用いたテクスチャー解析について、
図8を用いて簡単に説明する。
【0047】
図8に示すような画像データ800があるとする。
図8左側に示す四角形内の小さい四角は画素(ボクセル)に対応し、その中の数字は画素値であり、画素値は1~5に規格化されている。
図8右側に示すGLCM801は、縦横が規格化された画素値に対応する行列(マトリックスサイズ:5×5)で、縦は画像データ800の画素の左から右の関係、横は画像の右から左の関係を示している。画像データ800の各画素のうち、画素値が1である画素に注目し、その右に隣接する画素の値が5となる組み合わせをカウントする。図中、点線で囲った組み合わせがその組み合わせに相当する。そのカウント数をGLCM801の行が1、列が5の値とする。以下、同様にしてGLCMの行と列の関係にある全ての画素の組み合わせ(画素対)を見つけ出し、そのカウント数をGLCMの対応する行と列との値とし、GLCMを完成させる。こうして得られた行列を用いて、テクスチャーの特徴量を算出する。
【0048】
本実施形態で採用するテクスチャー解析は、このGLCMの手法を応用したものであるが、医用画像などにも応用されている一般的なテクスチャー解析が2次元画像の特徴量を求めるものであるのに対し、ここでは物理量の空間分布の特徴量を算出する。つまり、対象とするデータは、撮像で得た画像データそのものではなく、それから計算によって求めた拡散分布等の物理量を表す物理量画像である。またGLCMが参照する画素の位置関係は、従来のテクスチャー解析のような画像データの二次元座標における画素の相対位置ではなく、相互位置計算部221が算出した三角形表面メッシュで結ばれた拡散方向の位置関係である。
【0049】
以下、物理量画像が、拡散係数画像である場合を例に、本実施形態のテクスチャー解析の具体的な手順を説明する。
図9に手順を示すフロー、
図10に説明図を示す。
【0050】
まず各印加軸方向の拡散係数を規格化する(S91)。具体的には、計測(算出)した拡散係数の最大値を1とする。次に、GLCMのマトリックスサイズを決定する(S92)。マトリックスサイズは、拡散係数を階調表現する際の階調数(例えばMとする)に相当し、例えば、10~50程度とする。なおマトリックスサイズは、予め相互位置計算アルゴリズムを実行するプログラムで設定しておいてもよいし、ユーザが選択可能にしてもよい。また、GLCMのマトリックスサイズによって、刻み幅が決まるため、拡散係数は規格化せずに固定値のまま計算することもできる。
【0051】
次に、
図10に示すように、三角形表面メッシュにおいて、一つの拡散方向の近傍にある1ないし複数の拡散方向を選択し(S93)、それぞれGLCMを作成する(S94)。
図10に示す例では、拡散方向p0について、最も近傍にある拡散方向から6番目に近傍にある拡散方向まで複数(ここでは6個)の拡散方向n1~n6を選択している。なお三角形表面メッシュでは、拡散方向p0の位置を頂点とする三角形(図では6つの三角形)が決まっているので、これら三角形の拡散方向p0以外の頂点の位置にある拡散方向を選択してもよい。選択する近傍拡散方向の数が予め決まっている場合は、選択した近傍拡散方向から、距離(拡散方向p0からの距離あるいはお互いの距離)を基準として所定数の近傍拡散方向を選択してもよい。
【0052】
ボクセル毎のGLCM作成(S94)の詳細を、
図11のフローを参照して説明する。処理は、画像を構成する複数(例えば256個、512個など)のボクセルのそれぞれについて、順次実行する。1つのボクセルの処理では、複数の印加軸方向のそれぞれについて、順次処理を実行する。
【0053】
まず、一つの拡散方向について、複数(ここでは6個)の近傍拡散方向を選択したならば(S941)、拡散方向p0の画素の画素値との関係を表すGLCM1~GLCM6を作成する(S942)。これらGLCMの縦軸及び横軸は、前述の通り、それぞれ拡散係数の階調に相当する。そして、例えばGLCM1であれば、拡散方向p0と拡散方向p1の拡散係数画像の画素値(拡散係数の規格化した値:規格化画素値)を同じボクセルどうし(k番目のボクセルどうし)で対比し、その組み合わせ(画素値の対)がGLCM1のどの位置かを決定し、決定したGLCM1位置のカウントとする。同じボクセルについて、拡散方向p0と他の拡散方向p2~p6についても、同様の処理を行ってGLCM2~6にカウウト数を入れる。
【0054】
以上の処理S941、S942を、拡散方向p0を別の拡散方向に変えて繰り返し、拡散方向p0と同様に6個の近傍拡散方向を選択し、同じボクセル(k番目のボクセル)について、画素値対がGLCMの1~6のどの位置かを決定し、カウント値を入れる。最終的に全ての拡散方向p0~pN(Nは印加軸の数)について、同様の処理を行い、カウント値を要素とするGLCM1~6を完成する。
ついでこれらのGLCMを平均し(S943)、
図10の左側に示すように、平均GLCMを作成する。これにより一つのボクセルについて平均GLCMの作成が完了する。
【0055】
上述した処理S941~S943を、ボクセルを変えて、実行し、最終的にすべてのボクセルについて平均GLCMを作成する(S944)。なお各ボクセルについての処理は、各方向の拡散係数画像を構成する全ボクセルについて行ってもよいが、例えば、対象領域が脳など特定の部位である場合には、閾値処理を行い、信号値が閾値以下の画素や背景となる画素の処理は省略してもよい。或いは拡散係数画像から対象領域のみを選択するマスクなどを施し、選択した領域の画素のみの処理としてもよい。
【0056】
最後に、平均GLCMの行列p(i,j)を用いて、ボクセル毎に特徴量を計算する(
図9:S95)。特徴量は、テクスチャー解析の特徴量として公知のものを求めることができる。具体的には、均一性(ASM)、局所差分度(IDM)、コントラスト(Contrast)、乱雑度(Entropy)、局所相関(Correlation)などであり、以下の式(5)~式(9)により算出することができる。これらの式において、i,jは画素対(i,j)を構成する各画素の座標、MはGLCMのマトリックスサイズ)、p(i,j)は平均GLCMの行列を表す。
【0057】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
式(9)において、μはi, jの平均値、σはi,jの標準偏差である。
【0058】
以上の処理S94、S95により、画像解析部22による解析と指標の算出(
図5:S55)が完了する。
【0059】
[画像生成ステップS56]
画像生成部23は、画像解析部22が算出した特徴量(指標)を画素値とするテクスチャー画像を作成する。画像生成部23が生成したテクスチャー画像は、表示制御部33が表示画像データに変換し、他の付帯情報等とともに表示装置116に表示する。この際、ステップS53において拡散係数画像やFA画像が作成されている場合には、これら画像を並列で或いは選択的に表示することも可能である。
【0060】
こうして表示されるテクスチャー画像は、拡散分布の空間的な特徴、例えば拡散分布の均一性や乱雑度などを示す画像であるため、モデル化によっては描出することが困難な、拡散分布が複雑な部位についても、把握しやすい情報を提供することができる。
【0061】
[第一実施形態の効果]
本実施形態のテクスチャー解析を用いて、作成したASM、IDM、Entropy、及びCorrelationの各定量画像を
図12(A)~(D)に示す。これら画像は、21つのMPG軸、1つのb値(1000[s/mm
2])で撮像を行って得た拡散強調画像から作成したものである。参考として、同じ拡散強調画像から作成したMD(平均拡散係数)画像とFA画像を、
図12(E)、(F)に示す。MD画像では、拡散係数の平均を取っているので拡散の強弱のみがわかり、方向性の情報は得られない。またFA画像では拡散方向が明確な白質は明確に描出されているが、矢印で示す複数の強拡散方向が交差する部分(交差繊維の領域)ではコントラストが下がり、明確な情報が得られない。これに対し、
図12(A)~(D)の画像では、例えばASM像とIDM像とを比較することで、或いは乱雑度の画像を観察することで、拡散分布が均一なのかバラバラなのか等の情報を得ることができ、また局所相関像から、ある領域の拡散と隣接する領域の拡散との間に相関があるのかなどの情報を得ることができる。
【0062】
図13は、シミュレーションにより、本実施形態で算出される定量値画像の優位性を確認した結果を示す図である。シミュレーションでは、拡散分布が異なる種々の拡散モデルを作成し、その中から、平均拡散係数と拡散異方性がほぼ均一になる複数のモデルを選択した。
図13(A)は、選択したモデルの拡散異方性を示すグラフで、横軸はモデルの番号である。これら複数の拡散モデルについて、21軸の拡散方向を設定し、第一実施形態の手法で拡散方向の相対位置を用いたテクスチャー解析を行い、ASM、IDM、乱雑度、及び局所相関を算出した。
図13(B)~
図13(E)はその結果を示すグラフである。これらグラフにおいても横軸はモデル番号である。この結果からわかるように、FAは、ほぼ同様の値を示す拡散モデルであっても、本実施形態のテクスチャー解析の手法を採用することで、それぞれ拡散分布の違いが明確な差となって現われることがわかる。
【0063】
以上、本発明の画像処理をMRI装置の画像処理部で実現する実施形態を説明したが、MRI装置では拡散強調画像の撮像のみ、或いは撮像から物理量計算処理までを行い、それ以降の処理を、MRI装置とは別の画像処理装置で実行してもよい。その場合、例えば画像生成部23の機能や表示装置への表示は、画像処理装置と平行してMRI装置で実行するようにしてもよい。
【0064】
本実施形態によれば、従来のような所定の組織を想定したモデルを用いずに、MPG軸即ち拡散方向の空間的な関係性を用いて、拡散画像の解析を行うことにより、組織によって拡散係数分布が一様ではなく、複雑な部分や組織についても、その複雑さを指標として示すことができ、従来のFAやMDでは得られない詳細な情報を得ることができる。またモデルや近似による制約を受けることなく、拡散計算の分布状況を把握する情報を提示できる。
【0065】
さらに本実施形態で採用した三角形表面メッシュは、一つの拡散方向と所定の空間的関係にある近傍拡散方向を一義的に決定することができ(例えば三角形表面メッシュでは、その拡散方向が頂点となる複数の三角形が定義されているので、それら三角形の他の頂点の拡散方向は一義的に決まる)、続くテクスチャー解析処理における拡散方向の選択を容易に行うことが可能となる。
【0066】
<物理量データの変形例>
第一実施形態では、画像処理部20が処理対象とする物理量データが、各印加軸の拡散係数(ADC)であったが、物理量データとして尖度係数やそれ以外のものを用いてもよい。
【0067】
例えば、b値による信号の減衰を表す式(1)は、拡散がガウシアン分布であると仮定した数学モデルであるが、非ガウシアン分布を仮定すると、式(10)で表すことができる。
【0068】
【数10】
式中、Knは拡散分布の尖度を表す尖度係数である。1つのMPG印加軸について、b値が異なる複数の条件で信号を取得することにより、式(10)から、拡散係数Dnと尖度係数Knを算出することができる。こうして算出される尖度係数も拡散係数の場合と同様に、その空間分布をテクスチャー解析によって提示することができる。
【0069】
その他、信号の減衰を示す数学モデルには2つの拡散係数を考慮したものなどがある(たとえば、式(11))。これら式で定義される速い拡散係数(D
*)と遅い拡散係数(D)も、物理量データとして拡散係数と同様に処理することができ、その空間分布の指標を算出することができる。
【数11】
【0070】
<相互位置計算の変形例>
第一の実施形態では、相互位置計算部221が、MPGパルスの印加軸の空間的関係を表すデータとして、三角形表面メッシュを算出した場合を説明したが、空間的関係は三角形表面メッシュに限らず、それぞれの関係性をデータ化したものであればよく、印加軸間の角度の情報であってもよい。
【0071】
その場合の相互位置計算及び指標計算の各ステップ(S54、S55)は、次のように変更される。まず相互位置計算ステップS54で、MPG印加方向を大きさ1に規格化することは第一実施形態と同じである。次に各印加方向がなす角度を計算する。印加方向は、傾斜磁場Gx、Gy、Gzの印加強度の組み合わせ(ax、by、cz)で決まり、例えば印加方向がGx方向であればa=1、b=c=0であり(1,0,0)、印加方向がGy方向であれば(0,1,0)、とベクトルで表現され、直交3軸に対し角度を有する場合には、(0.525,0,-0.851)、(-0.525,0,-0.851)、(0.851,0.525,0)などとベクトル表現される。これらベクトルの大きさを規格化した上で内積を取ることで角度を求めることができる。
【0072】
次に指標算出ステップS55では、各印加方向(拡散方向)の近傍印加方向を選択する際に、角度の小さい順に複数の近傍印加方向を選択する。印加方向が決まったならば、印加方向毎にGLCMを作成し、平均化すること、平均GLCMからテクスチャー解析の定量値を算出することは第一実施形態と同様である。
【0073】
<テクスチャー解析の変形例>
第一実施形態では、テクスチャー解析の手法として、グレーレベル同時生起行列(GLCM)を用いる手法を説明したが、同じ画素値が連続する長さをカウントし、その数を行列要素とするGLSZM(Gray Level Size Zone Matrix)などの行列を用いてもよい。
【0074】
さらにテクスチャー解析の手法には、濃度ヒストグラムを用いて特徴量を算出する方法や、所定の相対的位置関係にある画素対の濃度値の差を用いてヒストグラムの特徴量と同様に特徴量を算出する方法(差分統計量を用いる方法)などがあり、これらを適用してもよい。一例として、差分統計量を用いる手法を適用した変形例を説明する。
【0075】
本変形例でも、相互位置計算部221が三角形表面メッシュ等で表されるMPG印加軸の相互位置を算出しておく。次に、指標計算部223は、第一実施形態と同様に、一つの拡散方向について複数の近傍拡散方向を選択し、それぞれについて、対応する画素の対(画素対)の画素値の差(濃度差)を算出し、その差の擬似的な確率P(l)を算出する。この確率P(l)を用いて、濃度ヒストグラムから平均値(MEN)、分散(VAR)、コントラスト(CNT)、歪度(SKW)、尖度(KRT)などの特徴量を算出する式と同様の式を用いて、差分統計量に基づく特徴量を算出する。
【0076】
【0077】
以上、第二実施形態とその変形例を説明したが、これら変形例は適宜組み合わせることが可能であり、そのような組み合わせも本実施形態の変形例に含まれる。
【0078】
<第三実施形態>
第二実施形態では、MRI装置が取得する画像が拡散強調画像から算出したである場合を説明したが、本発明の画像処理装置或いはMRI装置の画像処理部が対象とする画像は拡散強調画像に限定されない。
【0079】
例えば、横緩和時間を画素値とするT2*画像や、磁化率画像は、いずれも静磁場の方向との依存性があり空間分布を有すると考えられている。従って、静磁場に対する被検体の角度(例えば頭部の角度)を異ならせて撮像した複数の画像は、それぞれが空間条件の異なる物理量の画像となる。
【0080】
従って、第一や第二実施形態と同様に、複数の位置(ここでは静磁場に対する角度)について、その相対位置をデータ化しておき、近傍位置の画像間の画素対をテクスチャー解析の手法で解析することにより、T2*や磁化率の空間分布の特徴を画像化することが可能である。
【0081】
以上、本発明の実施形態及びその変形例を説明したが、本発明の一つの特徴は、計測された物理量とそれに内在する空間情報とを、それらの関係式を前提としてモデル化して解析するのではなく、まず空間情報自体の関係性(相対位置)を算出し、その情報を利用して、所定の空間情報と紐付けられた物理量とをテクスチャー解析の手法を応用して解析することであり、この特徴を備える処理であれば、上記実施形態に限定されるものではない。また本発明の特徴は、二次元画像データにおける画素対の位置を用いたテクスチャー解析ではなく、三次元的な相対位置を用い、相対位置が所定の関係にある画素対について二次元ヒストグラムを作成するという新たな解析手法を用いるという点にもある。それにより、二次元座標では記述できないテンソルで表される物理量について、その空間分布状態を示す指標を提示することができる。
【符号の説明】
【0082】
100:撮像装置(MRI装置)、10:計測部、20:画像処理部、21:画像再構成部、22:画像解析部、23:画像生成部、30:制御部、31:計測制御部、33:表示制御部、110:計算機、111:入力装置、112:記憶装置、116:表示装置、200:画像処理装置、220:画像解析部、221:相互位置計算部、223:空間指標計算部、227:定量値計算部