(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】安定化されたエソメプラゾールマグネシウム水和物含有腸溶性固形製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4439 20060101AFI20230731BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230731BHJP
A61P 1/04 20060101ALN20230731BHJP
A61K 9/16 20060101ALN20230731BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61K47/02
A61P1/04
A61K9/16
(21)【出願番号】P 2019074435
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】307020615
【氏名又は名称】キョーリンリメディオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】覚張 直樹
(72)【発明者】
【氏名】玉川 清崇
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大知
(72)【発明者】
【氏名】早苗 千晶
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-034929(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0184024(US,A1)
【文献】特開2009-209048(JP,A)
【文献】特表2009-517466(JP,A)
【文献】特表2008-502740(JP,A)
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2017年,Vol. 523,pp. 189-202
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)非活性物質からなる内核の表面に、エソメプラゾールマグネシウム水和物、水溶性高分子、
分散剤、並びにケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種以上の無機アルカリ塩類を含む主薬層を被覆する工程、(ii)水溶性高分子及び水不溶性物質を含む保護層を主薬層に被覆する工程、(iii)腸溶性高分子及び可塑剤を含む腸溶層を保護層に被覆する工程、
並びに、(iv)50~70℃で1~5時間加温する工程を含むことを特徴とする腸溶性固形製剤の製造方法。
【請求項2】
無機アルカリ塩類が
酸化マグネシウムであることを特徴とする、
請求項1に記載の腸溶性固形製剤の製造方法。
【請求項3】
加温する工程が60℃、3時間であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の腸溶性固形製剤の製造方法。
【請求項4】
主薬層、保護層及び腸溶層が溶液又は懸濁液として被覆されることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の腸溶性固形製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れたエソメプラゾールマグネシウム水和物を含有する腸溶性固形製剤とその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトンポンプ阻害薬(PPI)であるエソメプラゾールマグネシウム水和物は、胃粘膜壁細胞における胃酸分泌の最終過程を担うプロトンポンプを選択的に阻害する作用により、強力な酸分泌抑制効果を発揮する。また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍に加え、ヘリコバクター・ピロリ除菌療法などにも使用されており、酸分泌抑制薬における中心的な薬剤として広く使用されている。
【0003】
一方、エソメプラゾールマグネシウム水和物はオメプラゾールやランソプラゾール等の他のプロトンポンプ阻害薬と同様に、酸に非常に不安定なベンズイミダゾール系化合物であり、人に経口投与する場合は胃酸による分解を防ぐための製剤化技術が不可欠となる。
【0004】
胃酸から有効成分を守るための製剤化技術として腸溶化が良く知られており、この技術は、有効成分を含む内核を調製し(不活性成分からなる核に有効成分を被覆した内核の場合もある)、この内核の表面に保護層(分離層と呼ぶ場合もある)を被覆し、更に保護層の表面に胃で溶解せず腸で溶解する成分(腸溶層)を被覆することが基本構成となる。
【0005】
しかしながら、ベンズイミダゾール系化合物は、酸による分解だけではなく、水分、温度、光及び製剤化に必要な種々の添加剤との配合等、様々な因子の影響も受けて分解する。従って、ベンズイミダゾール系化合物を医薬品として開発するためには、腸溶化以外の製剤的工夫が必要となり、それに関連した技術がいくつか報告されている。
【0006】
例えば、ベンズイミダゾール系化合物を含む内核を構成する成分に工夫をして安定化した例として、塩基性無機塩を配合した技術(特許文献1)、アルカリ化合物を配合した技術(特許文献2)、カラギーナンを配合した技術(特許文献3)が各々開示されている。
【0007】
また、保護層の被覆成分に製剤的工夫を加えて安定化した例として、水で急速に崩壊する賦形剤、又は水溶性高分子で被覆した技術(特許文献4)、陽イオン交換能を有する胃液抵抗性ポリマーを保護層とした技術(特許文献5)、低粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を結合剤および/または分離層の構成成分とした技術(特許文献6)、特定の白濁点を有するヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を分離層の成分として使用した技術(特許文献7)等が開示されている。
【0008】
更に、内核、保護層及び腸溶層の各々の組成や配合比を工夫し安定化を図った技術も開示されている(特許文献8、特許文献9)。
【0009】
しかしながら、これらは特定のベンズイミダゾール系化合物の安定化に適した技術であり、エソメプラゾールマグネシウム水和物に対する安定化効果を示唆するものではない。従って、エソメプラゾールマグネシウム水和物に適した安定化技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭62-277322号公報
【文献】特開昭62-258320号公報
【文献】特表2009-534441号公報
【文献】特表2011-530569号公報
【文献】特表2000-514051号公報
【文献】特表2002-500665号公報
【文献】特表2002-529397号公報
【文献】特表2003-520224号公報
【文献】特表2002-523443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、エソメプラゾールマグネシウム水和物を含む腸溶性固形製剤の経時的な変色や分解物の増加を抑制した製剤とその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、非活性物質からなる内核の表面に1層目成分としてエソメプラゾールマグネシウム水和物、水溶性高分子、無機アルカリ塩類及び分散剤を含む主薬層を被覆し、これに2層目成分として水溶性高分子及び水不溶性物質を含む保護層を被覆し、これに3層目成分として腸溶性高分子及び可塑剤を含む腸溶層を被覆した腸溶性固形製剤を調製し、更にこの腸溶性固形製剤を50~70℃で加温することにより、保存中の経時的な変色と分解物の生成を著しく抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち本発明は、以下の発明を含む。
(1)(a)非活性物質からなる内核、(b)内核の表面に被覆された、エソメプラゾールマグネシウム水和物、水溶性高分子、無機アルカリ塩類及び分散剤を含む主薬層、(c)主薬層に被覆された、水溶性高分子及び水不溶性物質を含む保護層、並びに、(d)保護層に被覆された、腸溶性高分子及び可塑剤を含む腸溶層、を含有することを特徴とする腸溶性固形製剤。
(2)無機アルカリ塩類がケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、(1)に記載の腸溶性固形製剤。
(3)腸溶性固形製剤が50~70℃で1~5時間加温されたものであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の腸溶性固形製剤。
(4)(i)非活性物質からなる内核の表面に、エソメプラゾールマグネシウム水和物、水溶性高分子、無機アルカリ塩類及び分散剤を含む主薬層を被覆する工程、(ii)水溶性高分子及び水不溶性物質を含む保護層を主薬層に被覆する工程、並びに、(iii)腸溶性高分子及び可塑剤を含む腸溶層を保護層に被覆する工程、を含有することを特徴とする腸溶性固形製剤の製造方法。
(5)無機アルカリ塩類がケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、(4)に記載の腸溶性固形製剤の製造方法。
(6)腸溶性固形製剤を50~70℃で1~5時間加温することを特徴とする、(4)又は(5)に記載の腸溶性固形製剤の製造方法。
(7)主薬層、保護層及び腸溶層が溶液又は懸濁液として被覆されることを特徴とする、(4)から(6)のいずれか一つに記載の腸溶性固形製剤の製造方法。
(11)非活性物質が白糖、D-マンニトール、トウモロコシデンプン及び結晶セルロースからなる群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、(1)から(7)のいずれか一つに記載の腸溶性固形製剤又はその製造方法。
(12)非活性物質からなる内核が平均粒子径100~600μmの粒子であることを特徴とする、(1)から(7)のいずれか一つに記載の腸溶性固形製剤又はその製造方法。
(13)水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール及びコリドンからなる群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、(1)から(7)のいずれか一つに記載の腸溶性固形製剤又はその製造方法。
(14)分散剤がポリソルベート及びラウリル硫酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、(1)から(7)のいずれか一つに記載の腸溶性固形製剤又はその製造方法。
(15)水不溶性物質がタルク及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、(1)から(7)のいずれか一つに記載の腸溶性固形製剤又はその製造方法。
(16)腸溶性高分子がメタクリル酸コポリマーLDであることを特徴とする、(1)から(7)のいずれか一つに記載の腸溶性固形製剤又はその製造方法。
(17)可塑剤がクエン酸トリエチル、モノステアリン酸グリセリン及びポリエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、(1)から(7)のいずれか一つに記載の腸溶性固形製剤又はその製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、エソメプラゾールマグネシウム水和物を含有する腸溶性固形製剤の経時的な変色及び分解が抑制できるため、高品質で安全性の高い医薬品を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において「腸溶性」とは、胃では溶解せず腸で溶解するように設計された医薬品の機能を表すものである。
【0016】
本明細書において「固形製剤」とは、患者の治療に用いられる医薬品の形態が固体の状態で投与されるものであり、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤及び錠剤等の形態を有する製剤が挙げられる。
【0017】
本明細書において「非活性物質」とは、医薬品の添加剤として用いられる成分のうち、一般的な使用量では生理活性を示さない成分のことである。添加剤として用いられる成分であれば特に限定されないが、乳糖、白糖、果糖、粉末還元麦芽糖水あめ、ブドウ糖、トレハロース、D-マンニトール、キシリトール、エリスリトール、D-ソルビトール、キシリトール、マルチトース、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、デキストリン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、沈降炭酸カルシウム、軽質無水ケイ酸等が挙げられ、特に白糖、D-マンニトール、トウモロコシデンプン、結晶セルロースが好適である。
【0018】
本明細書において「内核」とは、複数の層を有する固形製剤の中心を構成する物質であり、その形態は特に限定されないが、粒子や錠剤の形態を有していることが主薬層、保護層及び腸溶層を被覆するのに好適である。内核は平均粒子径100~600μmの粒子が好ましく、200~400μmの粒子であることが特に好ましい。
【0019】
本明細書において「主薬層」とは、内核の表面に被覆して層を形成させる成分のことであり、エソメプラゾールマグネシウム水和物を主成分とし、更に無機アルカリ塩類、分散剤及び水溶性高分子を含む。更に他の成分を含んでも良い。
【0020】
本明細書において「保護層」とは、主薬層の表面に被覆して、層を形成させる成分のことであり、その目的は主薬層のエソメプラゾールマグネシウム水和物と腸溶層の腸溶性高分子とが直接接触することで生ずる分解を防ぐためであり、水溶性高分子及び水不溶性物質を含む。更に分散剤等の他の成分を含んでも良い。
【0021】
本明細書において「腸溶層」とは、保護層の表面に被覆して、層を形成する成分であり、胃酸に溶解せず腸液で溶解する高分子(腸溶性高分子)を主な構成成分とし、更に可塑剤を含む。更に接着防止剤、着色剤及び遮光剤等の他の成分を含んでも良い。尚、この腸溶層の表面に任意の成分を被覆することもできる。
【0022】
本明細書における「水溶性高分子」の種類や組成は特に限定されないが、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール、コリドン等を用いることができる。
【0023】
本明細書における「無機アルカリ塩類」の種類や組成は特に限定されないが、エソメプラゾールマグネシウム水和物の分解を抑制するために、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを用いることが好ましく、特に酸化マグネシウムが好適である。また、無機アルカリ塩類の配合量はエソメプラゾールマグネシウム水和物100質量部に対して1~20質量部であることが好ましく、5~15質量部であることが更に好ましく、7~13質量部であることが特に好ましい。
【0024】
本明細書における「分散剤」の種類は特に限定されないが、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。
【0025】
本明細書における「水不溶性物質」の種類は特に限定されないが、タルク、カオリン、リン酸水素カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等を用いることができる。
【0026】
本明細書における「腸溶性高分子」の種類は特に限定されないが、ヒプロメロース・フタル酸エステル、ヒプメロース・コハク酸・酢酸エステル、カルボキシメチルエチルセルロース、メタクリル酸コポリマーS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD等を用いることができ、特にメタクリル酸コポリマーLDが好適である。
【0027】
本明細書における「可塑剤」の種類は特に限定されないが、ポリエチレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリエチル、モノステアリン酸グリセリン等を用いることができ、特にクエン酸トリエチルが好ましい。
【0028】
本明細書において主薬層、保護層及び腸溶層を被覆する際に用いる装置は特に限定されないが、本発明に係る固形製剤が散剤、細粒剤又は顆粒剤等の粒子であれば流動層コーティング装置が好適であり、錠剤であれば錠剤コーティング装置が好適である。
【0029】
本明細書における腸溶性固形製剤は、エソメプラゾールマグネシウム水和物の分解を抑制するために、50~70℃で数時間(例えば1~5時間)加温することが好ましい。
【実施例】
【0030】
次に実施例を挙げて、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【実施例1】
【0031】
核粒子として平均粒子径が約300μmの白糖・デンプン球形顆粒600.8gを流動層造粒装置で75℃の気流化で流動させ、以下の組成比で調製した主薬層の懸濁液を噴霧・被覆し、1層目の粒子を調製した。
(主薬層懸濁液の組成比)
エソメプラゾールマグネシウム水和物 891.2g
ヒプロメロース2910 134.2g
酸化マグネシウム 74.2g
ポリソルベート80 18.0g
精製水 5409.0g
【0032】
続いて、1層目粒子800gを用い流動層造粒装置で流動化させながら、以下の組成比で調製した保護層の懸濁液を噴霧・被覆し、2層目の粒子を調製した。
(保護層懸濁液の組成比)
ヒドロキシプロピルセルロース 87.7g
タルク 331.3g
ステアリン酸マグネシウム 21.5g
精製水 3101.0g
【0033】
続いて、2層目粒子1000gを流動層造粒装置で流動化させながら、以下の組成比で調製した腸溶層の懸濁液を噴霧・被覆し、3層目の腸溶性粒子を得た。
(腸溶層懸濁液の組成比)
メタクリル酸コポリマーLD 1000.0g
クエン酸トリエチル 30.0g
モノステアリン酸グリセリン 15.0g
ポリソルベート80 1.58g
精製水 393.9g
【0034】
上記腸溶性粒子をステンレス製のトレーに入れて、棚式乾燥機にて60℃で3時間加温した。
【実施例2】
【0035】
核粒子として平均粒子径が約300μmの白糖・デンプン球形顆粒600.8gを流動層造粒装置で75℃の気流化で流動させ、以下の組成比で調製した主薬層の懸濁液を噴霧・被覆し、1層目の粒子を調製した。
(主薬層懸濁液の組成比)
エソメプラゾールマグネシウム水和物 891.2g
ヒプロメロース2910 134.2g
酸化マグネシウム 98.9g
ポリソルベート80 18.0g
精製水 5409.0g
【0036】
続いて、1層目粒子800gを用い流動層造粒装置で流動化させながら、以下の組成比で調製した保護層の懸濁液を噴霧・被覆し、2層目の粒子を調製した。
(保護層懸濁液の組成比)
ヒドロキシプロピルセルロース 87.7g
タルク 331.3g
ステアリン酸マグネシウム 21.5g
精製水 3101.0g
【0037】
続いて、2層目粒子1000gを流動層造粒装置で流動化させながら、以下の組成比で調製した腸溶層の懸濁液を噴霧・被覆し、3層目の腸溶性粒子を得た。
(腸溶層懸濁液の組成比)
メタクリル酸コポリマーLD 1000.0g
クエン酸トリエチル 30.0g
モノステアリン酸グリセリン 15.0g
ポリソルベート80 1.58g
精製水 393.9g
【0038】
上記腸溶性粒子をステンレス製のトレーに入れて、棚式乾燥機にて60℃で3時間加温した。
【実施例3】
【0039】
核粒子として平均粒子径が約300μmの白糖・デンプン球形顆粒600.8gを流動層造粒装置で75℃の気流化で流動させ、以下の組成比で調製した主薬層の懸濁液を噴霧・被覆し、1層目の粒子を調製した。
(主薬層懸濁液の組成比)
エソメプラゾールマグネシウム水和物 891.2g
ヒプロメロース2910 134.4g
酸化マグネシウム 148.4g
ポリソルベート80 18.4g
精製水 5409.0g
【0040】
続いて、1層目粒子800gを用い流動層造粒装置で流動化させながら、以下の組成比で調製した保護層の懸濁液を噴霧・被覆し、2層目の粒子を調製した。
(保護層懸濁液の組成比)
ヒドロキシプロピルセルロース 87.5g
タルク 331.3g
ステアリン酸マグネシウム 21.3g
精製水 3096.8g
【0041】
続いて、2層目粒子1000gを流動層造粒装置で流動化させながら、以下の組成比で調製した腸溶層の懸濁液を噴霧し、3層目の腸溶性粒子を得た。
(腸溶層懸濁液の組成比)
メタクリル酸コポリマーLD 1000.0g
クエン酸トリエチル 30.0g
モノステアリン酸グリセリン 15.0g
ポリソルベート80 1.58g
精製水 393.9g
【0042】
上記腸溶性粒子をステンレス製のトレーに入れて、棚式乾燥機にて60℃で3時間加温した。
【0043】
[比較例1]
上記実施例3において、棚式乾燥機による腸溶性粒子の加温工程を省略したものを比較例1とした。
【0044】
[比較例2]
核粒子として平均粒子径が約300μmの白糖・デンプン球形粒子600.8gを流動層造粒装置で75℃の気流化で流動させ、以下の組成比で調製した主薬層の懸濁液を噴霧・被覆し、1層目の粒子を調整した。
(主薬層懸濁液の組成比)
エソメプラゾールマグネシウム水和物 891.2g
ヒプロメロース2910 134.2g
ポリソルベート80 18.0g
精製水 5409.0g
【0045】
続いて、1層目粒子800gを用い流動層造粒装置で流動化させながら、以下の組成比で調製した保護層の懸濁液を噴霧・被覆し、2層目の粒子を調製した。
(保護層懸濁液の組成比)
ヒドロキシプロピルセルロース 87.7g
タルク 331.3g
ステアリン酸マグネシウム 21.5g
精製水 3101.0g
【0046】
続いて、2層目粒子1000gを流動層造粒装置で流動化させながら、以下の組成比で調製した腸溶層の懸濁液を噴霧・被覆し、3層目の腸溶性粒子を得た。
(腸溶層懸濁液の組成比)
メタクリル酸コポリマーLD 997.6g
クエン酸トリエチル 29.9g
モノステアリン酸グリセリン 14.9g
ポリソルベート80 1.57g
精製水 392.8g
【0047】
上記腸溶性粒子をステンレス製のトレーに入れて、送風定温恒湿器にて60℃で3時間加温した。
【0048】
[比較例3]
上記比較例2において、送風定温恒湿器による腸溶性粒子の加温工程を省略したものを比較例3とした。
【0049】
実験例1
実施例1~3及び比較例1~3で得られた各々の腸溶性粒子をバイアルビンに充填し、60℃の条件下で4週間保存し、各試料中に生成した分解物の合計量をHPLC法により測定した。結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
上記結果より、製剤中に酸化マグネシウムを添加した実施例1~3は、酸化マグネシウムを添加しなかった比較例2に比して、分解物の増加量が著しく少なく、分解物の増加量が抑制されていることが確認された。また、加温工程を含む実施例3及び比較例2は、各々、当該工程を含まない比較例1及び比較例3に比して、分解物の増加量が著しく抑制されることが確認された。
【0052】
<試験例1>
エソメプラゾールマグネシウム水和物及びメタクリル酸コポリマーLの2成分を各々1:1の質量比で混合し、その混合物をバイアルビンに充填した。
【0053】
<試験例2>
エソメプラゾールマグネシウム水和物、メタクリル酸コポリマーL及びケイ酸カルシウムの3成分を各々1:1:0.33の質量比で混合し、その混合物をバイアルビンに充填した。
【0054】
<試験例3>
エソメプラゾールマグネシウム水和物、メタクリル酸コポリマーL及びメグルミンの3成分を各々1:1:0.33の質量比で混合し、その混合物をバイアルビンに充填した。
【0055】
<試験例4>
エソメプラゾールマグネシウム水和物、メタクリル酸コポリマーL及び酸化マグネシウムの3成分を各々1:1:0.33の質量比で混合し、その混合物をバイアルビンに充填した。
【0056】
<試験例5>
エソメプラゾールマグネシウム水和物、メタクリル酸コポリマーL及び炭酸マグネシウムの3成分を各々1:1:0.33の質量比で混合し、その混合物をバイアルビンに充填した。
【0057】
<試験例6>
エソメプラゾールマグネシウム水和物、メタクリル酸コポリマーL及び水酸化マグネシウムの3成分を各々1:1:0.33の質量比で混合し、その混合物をバイアルビンに充填した。
【0058】
<試験例7>
エソメプラゾールマグネシウム水和物、メタクリル酸コポリマーL及びケイ酸マグネシウムの3成分を各々1:1:0.33の質量比で混合し、その混合物をバイアルビンに充填した。
【0059】
実験例2
試験例1から試験例7で調製した各混合物を40℃相対湿度75%の条件下で4週間保存し、各試料中に生成した分解物の合計量をHPLC法により測定した。結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
腸溶性高分子は酸に不安定な物質を保護する目的で用いられるが、腸溶性高分子には酸性の置換基が存在し、その置換基と酸に不安定な物質が直接接触すると分解が生ずる。そのため、腸溶性高分子のメタクリル酸コポリマーとエソメプラゾールマグネシウム水和物を1:1の質量比で混合した試験例1の混合物を40℃相対湿度75%で4週間保存すると27.5%の分解物が生じた。一方、試験例1の混合物に種々の塩基性物質を加えた試験例2から試験例7の混合末を同様の条件下で4週間保存した結果、添加する塩基性物質の種類により分解物の生成量が異なり、無機アルカリ塩類であるケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムを添加した混合末では、エソメプラゾールマグネシウム水和物の分解が抑制できることが確認された。特に試験例4の酸化マグネシウムの分解抑制効果は顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、エソメプラゾールマグネシウム水和物を含有する固形製剤の経時的な変色及び分解が抑制できるため、高品質で安全性の高い医薬品を提供することが可能となった。