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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】全固体リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230731BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230731BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230731BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20230731BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230731BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/38 Z
H01M4/583
H01M10/058
H01M4/36 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019095156
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020191202
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(72)【発明者】
【氏名】矢代 将斉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直毅
(72)【発明者】
【氏名】相原 雄一
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-039006(JP,A)
【文献】特開2014-096311(JP,A)
【文献】特開2018-092955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 4/38
H01M 4/583
H01M 10/058
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層と、固体電解質層と、リチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質層とをこの順に備えるものであって、
前記負極活物質層がAgを含有するものであり、
過充電した状態において前記負極活物質層近傍に析出した金属層が、γ 相又はβLi相の少なくとも一方のLi(Ag)合金を含有する全固体リチウム二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質層が、含有する負極活物質の総重量を100wt%として、Agを10wt%以上、100wt%以下含有する請求項1に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質層が、含有する負極活物質の総重量を100wt%として、Agを20wt%以上、80wt%以下含有する請求項2記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質層における単位面積当たりのAgの含有量が、0.05mg/cm以上、5mg/cm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質層における単位面積当たりのAgの含有量が、0.1mg/cm以上、2.0mg/cm以下である請求項4に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項6】
前記負極活物質層が、無定形炭素、金、白金、パラジウム、ケイ素、アルミニウム、ビスマス、錫、インジウム及び亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種を更に含む請求項1~5のいずれかに記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項7】
前記負極活物質層が、粒子状又は膜状のAgを含有する請求項1~のいずれかに記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項8】
使用時に、前記正極活物質層、前記固体電解質層及び前記負極活物質層に印加される外部圧力が1.0Mpa以下である請求項1~のいずれか1項に記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項9】
請求項1~の何れか1項に記載の全固体二次電池を、前記負極活物質層の容量を超えて充電することを特徴とする、全固体リチウム二次電池の充電方法。
【請求項10】
充電量が前記負極活物質層の充電容量の2倍以上100倍以下の間の値であることを特徴とする、請求項に記載の全固体リチウム二次電池の充電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電解質として固体電解質を使用した全固体二次電池が注目されている。このような全固体二次電池のエネルギー密度を高めるために、負極活物質としてリチウムを使用することが提案されている。リチウムの容量密度(単位質量当りの容量)は、負極活物質として一般的に使用される黒鉛の容量密度の10倍程度である。そのため、負極活物質としてリチウムを使用することにより、全固体二次電池を薄型化しつつも、その出力を高めることができる。
【0003】
負極活物質としてリチウムを使用する全固体リチウム二次電池として、例えば特許文献1には、リチウムと合金を形成する金属で形成された金属層を負極活物質層として設け、かつ負極活物質層上に非晶質炭素からなる界面層を設けたもの開示されている。この種の全固体リチウム二次電池では、充電時には界面層と負極活物質層との間に金属リチウムが析出し、放電時には当該金属リチウムがイオン化して正極層側に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-086554号公報
【文献】Naoki Suzuki等、「Synthesis and Electrochemical Properties of I4--type Li1+2xZn1-xPS4 Solid Electrolyte」、Chemistry of Materials、2018年3月9日発行、No.30、2236-2244(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような全固体リチウム二次電池では、充放電を繰り返すと、界面層と負極活物質層との間に析出した金属リチウムがイオン化して溶解することにより空隙が生じ、電池として使用できなくなる恐れがある。そのため、この種の全固体リチウム二次電池を実用的に使用する場合には、充放電により空隙が生じることを防止するため、エンドプレート等を用いて正極集電体側及び負極集電体側の両側から挟み込み、高い外圧を印加しておく必要がある。しかしながら外圧を印加するエンドプレート等の存在は、全固体二次電池の薄型化の障壁となってしまう。そのため近年では、高い外圧を印加する必要がなく、さらには放電容量にも優れた全固体リチウム二次電池の開発に対する要望が高まっている。
【0006】
そこで本発明は、高い外圧を印加する必要がなく、かつ優れた放電容量を備える全固体リチウムイオン二次電池を提供することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、リチウムと固溶体を形成できるAgの性質に着目した。そして負極活物質層内にAgを含ませることによって、エンドプレート等を用いて高い外圧を印加しなくても、充放電を繰り返すことによる負極層内での空隙の発生を抑制できることを見出し本発明に至った。すなわち、負極活物質層内にAgを含有させることで、充電を行った際には、負極層においてリチウムはAgが固溶したLi(Ag)合金として析出する。そして放電時には、Li(Ag)合金からLiのみが溶解し、固溶していたAgが残存するため、空隙の発生を抑制することができる。
【0008】
すなわち、本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、正極活物質層と、固体電解質層と、リチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質層活物質層とをこの順に備えるものであって、前記負極活物質層がAgを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い外圧を印加する必要がなく、かつ優れた放電容量を備える全固体リチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池の概略構成を模式的に示す断面図である。
図2】負極活物質層を過充電した後の同実施形態に係る全固体リチウム二次電池の概略構成を示す断面図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る全固体リチウム二次電池の変形例を示す断面図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る全固体リチウム二次電池の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の全固体リチウム二次電池の一実施形態について説明する。なお以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための全固体リチウム二次電池を例示するものであり、本発明は以下のものに限定されない。
【0012】
<1.全固体リチウム二次電池の構成>
本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池1は、正極と負極との間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う、所謂リチウム二次電池である。具体的にこの全固体リチウムイオン二次電池1は、図1に示すように、正極層10と、負極層20と、正極層10と負極層20の間に配置された固体電解質層30と備えている。
【0013】
(1)正極層
正極層10は、負極層20に向かって順に配置された正極集電体11及び正極活物質層12を有する。
【0014】
正極集電体11は板状又は箔状をなすものである。正極集電体11は、例えば、インジウム、銅、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、リチウムよりなる群から選択される1種の金属、又は2種以上の金属の合金からなるものである。
【0015】
正極活物質層12はリチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出するものである。具体的には、正極活物質層12は正極活物質と固体電解質とを含有する。
【0016】
正極活物質の具体的な態様として、例えば、コバルト酸リチウム(以下、LCOと称する)、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、NCAと称する)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、NCMと称する)、マンガン酸リチウム及びリン酸鉄リチウム等のリチウム塩、並びに硫化リチウム等を挙げることができる。正極活物質層12は、正極活物質として、これらの化合物から選択される1種のみを含んでよく、また2種以上を含んでいてもよい。
【0017】
正極活物質は、上述したリチウム塩のうち、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含んで構成されることが好ましい。ここで「層状岩塩型構造」とは、立方晶岩塩型構造の<111>方向に酸素原子層と金属原子層とが交互に規則配列し、その結果それぞれの原子層が二次元平面を形成している構造である。また「立方晶岩塩型構造」とは、結晶構造の1種である塩化ナトリウム型構造のことを意味する。具体的には、陽イオン及び陰イオンの各々が形成する面心立方格子が互いに単位格子の稜の1/2だけずれて配置された構造を表す。
【0018】
このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩として、例えば、LiNiCoAl(NCA)、又はLiNiCoMn(NCM)(ただし、0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1)等の三元系遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。正極活物質層12が、このような層状岩塩型構造を有する三元系遷移金属酸化物のリチウム塩を正極活物質として含有することにより、全固体リチウム二次電池1のエネルギー密度及び熱安定性を向上させることができる。
【0019】
ここで、正極活物質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。また、正極活物質の粒径は特に制限されず、従来の全固体リチウム二次電池の正極活物質に適用可能な範囲であればよい。なお、正極活物質層12における正極活物質の含有量も特に制限されず、従来の全固体リチウム二次電池の正極層に適用可能な範囲であればよい。
【0020】
正極活物質は被覆層によって覆われていてもよい。この被覆層は全固体リチウム二次電池の正極活物質の被覆層として既知のものであってよい。被覆層の具体的な材料として、例えばLiO-ZrO等が挙げられる。
【0021】
正極活物質層12に含まれる固体電解質は、後述する固体電解質層30に含まれる固体電解質と同種のものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0022】
また正極活物質層12は、正極活物質及び固体電解質に加えて、例えば既知の導電助剤、結着剤(バインダ)、フィラー及び分散剤等を更に含有してもよい。
【0023】
(2)負極層
負極層20は、正極層10に向かって順に配置された負極集電体21及び負極活物質層22を含む。
【0024】
負極集電体21は板状又は箔状をなすものである。負極集電体21は、リチウムと反応しない、すなわちリチウムと合金及び化合物のいずれも形成しない材料から構成されることが好ましい。負極集電体21を構成する材料としては、例えば、銅、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト及びニッケル等を挙げることができる。負極集電体21は、これらの金属のいずれか1種で構成されていてもよいし、2種以上の金属の合金又はクラッド材で構成されていてもよい。
【0025】
負極活物質層22はリチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質を1種又は2種以上含有している。後述するように、本実施形態の全固体リチウム二次電池1を過充電すると、負極活物質層22が含有する負極活物質と正極層10から移動してきたリチウムイオンとが合金又は化合物を形成し、図2に示すように、リチウムを主成分とする金属層23が負極層20に形成される(析出する)。
【0026】
本実施形態の負極活物質層22は、必須の負極活物質としてAgを含有している。そのため過充電を行った際に形成される金属層23は、リチウム中にAgが固溶したγ相やβLi相のLi(Ag)合金を含んでいる。このため放電時には、金属層23を構成するLi(Ag)合金からLiのみが溶解し、固溶していたAgが残存するため、空隙の発生を抑制することができる。
【0027】
本実施形態では、Agは負極活物質層22の中に必ずしも均一に存在している必要はなく、負極活物質層22の中で集電体層側に偏在していても良い。この場合、負極層20で反応したリチウムは負極活物質層22を通過して、負極集電体21の近傍に到達し、負極活物質層22中のAgの偏在層と反応し、Li(Ag)合金が金属層23として形成される。
【0028】
負極活物質層22が含有するAgが少なすぎると、放電時に残存するAgも少なくなるため、空隙の発生を抑制できなくなる恐れがある。そのため、負極活物質層22は、充放電を行っていない初期の状態において、含有する負極活物質の総重量を100wt%として、Agを10wt%以上含有することが好ましく、20wt%以上含有することがより好ましい。
【0029】
一方で、負極活物質層22におけるAgの含有量の上限は限定されず100wt%であってもよい。しかし、AgとLiの反応電位の関係から、Agが増えると平均放電電位が下がり電池のエネルギー密度も低下する恐れがある。そのため、高エネルギー密度化の観点から、Agの含有量は80wt%以下が好ましく、50wt%以下がより好ましい。
【0030】
負極活物質層22における、負極活物質の総重量を100wt%としたAgの含有量(wt%)は、例えば次のようにして測定することができる。すなわち、全固体リチウム二次電池1を放電した後これを解体し、負極層20の表面から負極活物質層22を回収する。そしてその回収物中のAgの含有量を、EDX、XRF又はICP等で求めることができる。また例えば、断面方向からのSEM-EDS分析からAgの含有量を知ることもできる。
【0031】
また本実施形態の全固体リチウム二次電池1を過充電して析出した金属層23が、γ相又はβLi相の少なくとも一方のLi(Ag)合金(Li-Ag固溶体)を含有していることが好ましい。このような態様のLi-Ag固溶体を含有することで、放電時における空隙の発生を効果的に抑制することができる。この場合、析出したLi-Ag固溶体におけるAgの含有量は、60wt%以下であることが好ましい。このような範囲であれば、Agの影響による平均放電電位の低下を効果的に抑制できる。一方で、析出したLi-Ag固溶体中のAgの含有量が少なすぎると、放電時に残存するAgの量が少なくなり、空隙の発生を十分に抑制できない可能性がある。そのため、析出したLi-Ag固溶体中のAgの含有量は、20wt%以上であることが好ましく、40wt%以上がより好ましい。
【0032】
金属層23がγ相又はβLi相の少なくとも一方のLi-Ag固溶体を含有していることは、例えばXRD測定によるピーク位置やピーク強度比を解析することに確認できる。
また、析出したLi-Ag固溶体中のAgの量は、例えば次のようにして測定することができる。XRD測定を行うと、純粋な金属リチウムとAgが固溶した金属リチウム(Li-Ag固溶体)とでは回折ピーク位置が異なる。Agが固溶した金属リチウムの回折ピーク位置は、Agの固溶濃度が下がるほど純粋な金属リチウムのピーク位置に近づく。具体的には、Cuターゲットを用いたXRD測定では、Agの固溶濃度が下がると、回折ピークが2θ=37.0°近傍から36.5°近傍へとシフトする。このピーク位置からAgの固溶量を見積もることができる。この他にも、ICP等でも固溶量を測定することは可能である。
【0033】
また負極活物質層22において、負極層20の積層方向から視た場合における単位面積当たりのAgの含有量が少なすぎると、放電時に残存するAgも少なくなるため、空隙の発生を抑制できなくなる恐れがある。そのため負極活物質層22における単位面積あたりのAgの含有量は、0.05mg/cm以上が好ましく、0.10mg/cm以上がより好ましい。
【0034】
一方で、単位面積当たりのAgの含有量が多すぎると、平均放電電位が下がり、電池のエネルギー密度が低下する恐れがある。そのため単位面積当たりのAgの含有量は、5mg/cm以下であることが好ましく、2mg/cm以下であることがより好ましい。
【0035】
負極活物質層22における単位面積当たりのAgの含有量は、例えば次のようにして測定することができる。すなわち、全固体リチウム二次電池1を放電した後これを解体し、負極層20の表面、または断面方向からSEM-EDSでの組成分析からAgの含有量を知ることができる。これに限らず、XPSやICP等でもAgの含有量を知ることは可能である。
【0036】
なお、充放電を行っていない初期の状態において、負極活物質層22が含有するAgは、粒子状で存在してもよく、膜状で存在してもよい。粒子状で存在する場合、Agの平均粒子径d50(直径長さ平均径)は20nm以上、1μm以下であることが好ましいが、これに限定されない。
【0037】
負極活物質層22は、Ag以外の任意の負極活物質として、例えば、無定形炭素、Au、Pt、Pd、Si、Al、Bi、Sn、In及びZnよりなる群から選択される少なくとも1種を更に含有してもよい。無定形炭素の具体例として、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック及びケッチェンブラック等のカーボンブラック、並びにグラフェン等が挙げられる。
【0038】
負極活物質層22は、含有する負極活物質の総重量を100wt%として、Ag以外の負極活物質を合計で50wt%以上含有することが好ましく、70wt%以上含有することがより好ましい。Ag以外の負極活物質の含有量は、上記したAgの含有量と同様の方法により測定することができる。
【0039】
負極活物質層22はバインダを更に含有していてもよい。バインダを含有することで、負極活物質層22を負極集電体21上で安定化させることができる。バインダを構成する材料としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン等の樹脂材料が挙げられる。バインダは、これらの樹脂材料から選択される少なくとも1種から構成されてよい。
【0040】
また負極活物質層22には、従来の全固体リチウム二次電池で使用される添加剤、例えばフィラー、分散剤、イオン導電剤等が適宜配合されていてもよい。
【0041】
(3)固体電解質層
固体電解質層30は、正極層10と負極層20の間(具体的には、正極活物質層12と負極活物質層22の間)に配置されている。固体電解質層30は、イオンを移動させることができる固体電解質を含有する。
【0042】
固体電解質は、例えば硫化物を主体とする固体電解質材料(以下、硫化物系固体電解質材料と称する)から構成される。硫化物系固体電解質材料としては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xは例えばI、Cl等のハロゲン元素)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m及びnは正の数、ZはGe、Zn又はGaのいずれか)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p及びqは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、Ga又はInのいずれか)等を挙げることができる。固体電解質は、これらの硫化物系固体電解質材料から選択される1種の材料により構成されてよく、2種以上の材料により構成されていてもよい。
【0043】
固体電解質として、上記の硫化物固体電解質材料のうち、構成元素として硫黄(S)、リン(P)及びリチウム(Li)を含むものを用いることが好ましい。具体的には、LiS-Pを含むものを用いることがより好ましい。硫化物系固体電解質材料としてLiS-Pを含むものを用いる場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50~90:10の範囲で選択されることが好ましい。
【0044】
なお固体電解質は、非晶質の状態であってもよく、結晶質の状態であってもよい。また、非晶質及び結晶質が混ざった状態でもよい。
【0045】
固体電解質層30は、バインダを更に含有してもよい。当該バインダの材料として、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリル酸等の樹脂を挙げることができる。当該バインダの材料は、正極活物質層12及び負極活物質層22内のバインダを構成する材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0046】
(4)初期充電容量比
本実施形態の全固体リチウム二次電池1は、負極活物質層22の初期充電容量に対して正極活物質層12の初期充電容量が過大になるように構成されている。後述するように、本実施形態の全固体リチウム二次電池1では、負極活物質層22の初期充電容量を超えて充電(すなわち過充電)させて使用する。充電の初期には、負極活物質層22内にリチウムが吸蔵される。すなわち、負極活物質は、正極層10から移動してきたリチウムイオンと合金又は化合物を形成する。負極活物質層22の初期充電容量を超えて充電が行われると、図2に示すように、負極活物質層22の裏側、すなわち負極集電体21と負極活物質層22との間にリチウムが析出し、このリチウムによって金属層23が形成される。金属層23は主にAgが固溶したリチウム(すなわち、Ag-Li固溶体)で構成される。このような現象は、負極活物質を特定の物質、すなわちリチウムと合金又は化合物を形成する物質で構成することで生じる。放電時には、負極活物質層22及び金属層23中のリチウムは、固溶しているAgを残存させたままイオン化し、正極層10側に移動する。したがって、全固体リチウム二次電池1では、リチウムを負極活物質として使用することができる。さらに、負極活物質層22は、金属層23を被覆するので、金属層23の保護層として機能するとともに、樹枝状の金属リチウムの析出及び成長を抑制することができる。
【0047】
本実施形態の全固体リチウム二次電池1は、負極活物質層22の初期充電容量に対する正極活物質層12の初期充電容量の比、すなわち初期充電容量比ga、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
0.01<b/a<0.5 (1)
(ここで、aは正極活物質層12の初期充電容量(mAh)であり、bは負極活物質層22の初期充電容量(mAh)である)
【0048】
初期充電容量比が0.01以下である場合、全固体リチウム二次電池1の特性が低下する恐れがある。この理由としては、負極活物質層22が保護層として十分機能しなくなることが挙げられる。例えば、負極活物質層22の厚さが非常に薄い場合、容量比が0.01以下となりうる。この場合、充放電の繰り返しによって負極活物質層22が崩壊し、樹枝状の金属リチウムが析出及び成長する恐れがある。この結果、全固体リチウム二次電池1の特性が低下することがある。そのため、初期充電容量比を0.01超が好ましい。
一方で、初期充電容量比が0.5以上になると、負極におけるリチウムの析出量が減少するため電池容量が減ってしまう恐れがある。そのため、初期充電容量比は0.5未満が好ましい。
【0049】
<2.全固体リチウム二次電池の製造方法>
次に、前記した全固体リチウム二次電池1の製造方法について説明する。本実施形態に係る全固体リチウム二次電池1は、正極層10、負極層20、及び固体電解質層30をそれぞれ作製した後、上記の各層を積層することにより得ることができる。
【0050】
(1)正極層作製工程
まず、正極活物質層12を構成する材料(正極活物質、バインダ等)を非極性溶媒に添加して、スラリー(ペーストであってもよい)を作製する。ついで、得られたスラリーを、準備した正極集電体11上に塗布する。これを乾燥させることにより積層体を得る。次いで得られた積層体を、例えば静水圧を用いて加圧することで、正極層10が得られる。なお加圧工程は省略されてもよい。
【0051】
(2)負極層作製工程
まず、負極活物質層22を構成する材料(Agを必ず含む負極活物質、バインダ等)を極性溶媒又は非極性溶媒に添加することで、スラリー(ペーストであってもよい)を作製する。ついで、得られたスラリーを準備した負極集電体21上に塗布する。これを乾燥させることにより積層体を得る。次いで、得られた積層体を例えば静水圧を用いて加圧することで、負極層20を作製する。なお加圧工程は省略されてもよい。なお、スラリーを負極集電体21に塗布する方法は、特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法等であってよい。
【0052】
(3)固体電解質層作製工程
固体電解質層30は、硫化物系固体電解質材料から形成された固体電解質により作製することができる。
【0053】
まず、溶融急冷法やメカニカルミリング法により出発原料(例えば、LiS、P等)を処理することで、硫化物系固体電解質材料を得る。
【0054】
例えば、溶融急冷法を用いる場合、出発原料を所定量混合し、ペレット状にしたものを真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することによって硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、LiS及びPの混合物の反応温度は、好ましくは400℃~1000℃であり、より好ましくは800℃~900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間~12時間であり、より好ましくは1時間~12時間である。さらに、反応物の急冷温度は、通常10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、急冷速度は、通常1℃/sec~10000℃/sec程度であり、好ましくは1℃/sec~1000℃/sec程度である。
【0055】
また、メカニカルミリング法を用いる場合、ボールミルなどを用いて出発原料を撹拌させて反応させることで、硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、メカニカルミリング法における撹拌速度及び撹拌時間は特に限定されないが、撹拌速度が速いほど硫化物系固体電解質材料の生成速度を速くすることができ、撹拌時間が長いほど硫化物系固体電解質材料への原料の転化率を高くすることができる。
【0056】
その後、得られた混合原料(硫化物系固体電解質材料)を所定温度で熱処理した後、これを粉砕することにより粒子状の固体電解質を作製することができる。固体電解質がガラス転移点を持つ場合は、熱処理によって非晶質から結晶質に変わる場合がある。
【0057】
続いて、上記の方法で得られた固体電解質を、例えば、エアロゾルデポジション法、コールドスプレー法、スパッタリング法等の既知の成膜法を用いて成膜することにより、固体電解質層30を作製することができる。なお、固体電解質層30は、固体電解質粒子単体を加圧することにより作製されてもよい。また、固体電解質層30は、固体電解質と、溶媒、バインダを混合し、塗布乾燥し加圧することにより固体電解質層30を作製してもよい。
【0058】
(4)積層工程
正極層10と負極層20とで固体電解質層30を挟むように配置し、これを例えば静水圧等を用いて加圧することにより、本実施形態に係る全固体リチウム二次電池1を得ることができる。なお、本実施形態の全固体リチウム二次電池1は、エンドプレート等を用いて高い外部圧力を印加する必要がなく、使用時において、正極層10、負極層20及び固体電解質層30に印加される外部圧力が1MPa以下であっても、上記した優れた放電容量を発揮できる。
【0059】
<3.全固体リチウム二次電池の充電方法>
次に、全固体リチウム二次電池1の充電方法について説明する。
【0060】
本実施形態の全固体リチウム二次電池1の充電方法は、全固体リチウム二次電池1を、負極活物質層22の充電容量を超えて充電(すなわち過充電)することを特徴とする。
【0061】
充電の初期には、負極活物質層22内にリチウムが吸蔵される。負極活物質層22の充電容量を超えて充電が行われると、図2に示すように、負極活物質層22の裏側、すなわち負極集電体21と負極活物質層22との間にリチウムが析出し、このリチウムによって製造時には存在していなかった金属層23が形成される。放電時には、負極活物質層22及び金属層23中のリチウムがイオン化し、正極層10側に移動する。したがって、全固体リチウム二次電池1では、リチウムを負極活物質として使用することができる。さらに、負極活物質層22は、金属層23を被覆するので、金属層23の保護層として機能するとともに、樹枝状の金属リチウムの析出及び成長を抑制することができる。これにより、全固体リチウム二次電池1の短絡及び容量低下が抑制され、ひいては、全固体リチウム二次電池1の特性が向上する。なお、本実施形態では、金属層23は予め形成されていないので、全固体リチウム二次電池1の製造コストを低減できる。
【0062】
なお金属層23は、図2に示すように負極集電体21と負極活物質層22との間に形成されるものに限らず、図3に示すように、負極活物質層22の内部に形成されてもよい。さらに、図4に示すように、金属層23が、負極集電体21と負極活物質層22との間及び負極活物質層22の内部の両方に形成されてもよい。
【実施例
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0064】
(実施例1)
<1.サンプル作製>
まず以下の手順により、負極活物質層として無定形炭素を含有する全固体リチウム二次電池のサンプル(No.1~37)を作製した。
【0065】
(1)正極層の作製
正極活物質としてLiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)を準備した。この正極活物質に対し、非特許文献1に書かれている方法により、LiO-ZrOで被覆を行った。また固体電解質として、Argyrodite型結晶であるLiPSClを準備した。また、バインダとして、ポリテトラフルオロエチレン(デュポン社製テフロン(登録商標)バインダ)を準備した。また、導電助剤としてカーボンナノファイバー(CNF)を準備した。ついで、これらの材料を、正極活物質:固体電解質:導電助剤:バインダ=88:12:2:1の質量比で混合した。混合物をシート状に引き伸ばして、正極活物質シートを作製した。そしてこの正極活物質シートを約1.7cm角に成形し、18μm厚のアルミ箔からなる正極集電体に圧着することにより、サンプルNo.1~37に用いる正極層を作製した。
【0066】
(2)負極層の作製
次にサンプルNo.1~37に用いる負極層を次のようにして作成した。
【0067】
(2-1)サンプルNo.1及び2
10μm厚のNi箔(サンプル1)と、10μm厚のSUS304箔から成る負極集電体上に30μm厚のLi金属箔を積層した積層体(サンプル2)とを準備した。これらを、それぞれ約2cm角で打ち抜き負極層とした。ただし、この負極層には、突出部があり、後述するように電池の負極用端子として用いる。このようにして、サンプルNo.1及び2に用いる負極層を作製した。
【0068】
(2-2)サンプルNo.3~13及び15~37
N-メチルピロリドン(NMP)溶液に溶かしたバインダ(クレハ社製#9300)を準備した。表1に示す負極活物質をこのバインダに投入した後、この混合溶液にNMPを少しずつ加えながら撹拌することでスラリーを作製した。そしてスクリーン印刷法により、10μm厚のSUS304箔から成る負極集電体上に、作製したスラリーを負極活物質層として塗布した。ここで、各サンプルの負極活物質層における負極活物質の含有量、負極活物質層の層厚は表1に示す値になるよう調整した。例えば、サンプルNo.15の負極層は、負極活物質層が負極活物質としてカーボンブラック(表1でCBと表記)とAgとSiを含有し、それぞれの含有量は75wt%、7.5wt%、17.5wt%である。また、負極層の積層方向(すなわち負極集電体におけるスラリーの塗布面に垂直な方向)から視た単位面積当たりのAgの含有量が、表1に示す値になるように調整した。そして、空気中で約80℃で約20分間乾燥させたのち、100℃で約12時間真空乾燥して積層体を得た。この積層体を約2cm角で打ち抜き負極層とした。ただし、この負極層には、突出部があり、後述するように電池の負極用端子として用いる。このようにして、サンプルNo.3~13及び15~37に用いる負極層を作製した。
【0069】
なお、No.3~9、11、13、15~37では、負極活物質を一様に拡散させたスラリーを負極集電体上に一層塗した。
No.10、12では、負極活物質の含有量が異なるスラリーを負極集電体上に二層塗した。具体的にはNo.10では、負極活物質としてカーボンブラック(負極活物質層全体における負極活物質の総重量を100wt%として60wt%。以下同じ。)のみを含有するスラリーをまず負極集電体上に塗布し、その上に負極活物質としてカーボンブラック(20wt%)とAg(20wt%)を含有するスラリーを塗布した。No.12では、負極活物質としてカーボンブラック(20wt%)とAg(20wt%)を含有するスラリーをまず負極集電体上に塗布し、その上に負極活物質としてカーボンブラック(60wt%)のみを含有するスラリーを塗布した。
またNo.14では、負極集電体上に負極活物質として、まずAgめっき箔を積層し、この上にCBのみを含有するスラリーを塗布した。
【0070】
【表1】
【0071】
(3)固体電解質層の作製
LiPSCl固体電解質に、当該固体電解質の質量に対して1質量%のゴム系バインダを加えた。この混合物にキシレンとジエチルベンゼンを加えながら撹拌することで、スラリーを作製した。このスラリーを不織布の上にブレードコーターを用いて塗布し、空気中で40℃で乾燥させた。これにより得られた積層体を40℃で12時間真空乾燥した。この積層体を約2.2cm角で打ち抜き、サンプルNo.1~37に用いる固体電解質層を作製した。
【0072】
(4)全固体リチウム二次電池の作製
作製した正極層、固体電解質層及び負極層をこの順で重ねて、真空中でラミネートフィルムに封じることにより全固体リチウム二次電池のサンプルNo.1~37を作製した。ここで、正極集電体と負極集電体のそれぞれ一部を、電池の真空を破らないようにラミネートフィルムから外に突出させた。これらの突出部を正極層及び負極層の端子とした。さらに、この全固体リチウム二次電池を490MPaで30分間静水圧処理した。その後、いずれのサンプルに対しても、エンドプレートによる挟み込み等による圧力の印加(加圧)を行わなかった。すなわち、各サンプルに作用していた外部圧力は1MPa以下(具体的には大気圧程度)であったといえる。
【0073】
<3.充放電試験>
作製したサンプルNo.1~37の全固体リチウム二次電池に対して、以下の要領で充放電試験を行い、その電池特性(放電容量)を評価した。
具体的には、作製した全固体リチウム二次電池を60℃の恒温槽に入れて、電池特性を評価した。第1サイクルでは、電池電圧が4.25Vになるまで0.6mA/cmの定電流で充電を行い、電流が0.5mAになるまで4.25Vの定電圧で充電を行った。その後電池電圧が2.5Vになるまで1.2mA/cmの定電流で放電を行った(0.2C放電)。第2サイクル及び第3サイクルでは、第1サイクルと同じ条件で充電を行った。そして、第2サイクルでは、電池電圧が2.5Vになるまで、2.0mA/cm(0.33C放電)の定電流で放電を行った。第3サイクルでは、電池電圧が2.5Vになるまで、6.0mA/cm(1C放電)の定電流で放電を行った。その結果を表2に示す。
ここで、0.2C放電での放電容量が100mAh/g以上であるものを放電容量に優れている(表2において〇と表記)と評価した。また、外部からの圧力の印加を行わない場合にもっとも影響を受けやすい1C放電での放電容量が100mAh/g以上であるものを、放電容量に特に優れている(表2において◎と表記)評価した。
【0074】
【表2】
【0075】
<4.評価>
表1及び表2に示すように、サンプルNo.3及び9~36は、いずれも本発明で規定する要件(負極活物質層がAgを有する)を満たす発明例たる全固体リチウム二次電池である。これらの全固体二次電池のサンプルはいずれも0.2C放電容量が100mAh/g以上であり、高い外圧を加えることなく優れた放電容量を発揮することを確認できた。
【0076】
負極活物質としてカーボンブラックとAgを含み、Ag含有量が20~25wt%であるサンプルNo.9~12は、Ag含有量が10wt%であるサンプルNo.13及び14よりも優れた放電容量を有していた。これは、サンプルNo.13及び14に比べ、サンプルNo.9~12は負極層内のAgの含有量が多く、放電時に発生する空隙をより抑制できたためであると考えられる。
【0077】
負極活物質としてカーボンブラックとAgとSiを含み、Si含有量が12.5wt%以下のサンプルNo.16~18は、Si含有量が12.5wt%超のサンプルNo.15よりも優れた放電容量を有していた。これは、サンプルNo.15に比べ、サンプルNo.16~18は、負極層内のAgの含有量が多く、放電時に発生する空隙をより抑制できたためであると考えられる。
【0078】
負極活物質としてカーボンブラック(75wt%)とAg(25wt%)を含み、単位面積当たりのAg含有量が0.1~2.0mg/cmであるサンプルNo.20~24は、単位面積当たりのAg含有量が0.1未満であるサンプルNo.25よりも優れた放電容量を有していた。これは、サンプルNo.25に比べ、サンプルNo.20~24は、負極層内の単位面積当たりのAgの含有量が多く、放電時に発生する空隙をより抑制できたためであると考えられる。
【0079】
負極活物質としてカーボンブラックとAgを含み、Ag含有量が20~80wt%であるサンプルNo.28~34は、Ag含有量が80wt%超(100wt%含む)であるサンプルNo.26及び27、並びにAg含有量が20wt%未満であるサンプルNo.35及び36よりも優れた放電容量を有していた。これは、サンプルNo.26及び27の負極層は主にAgで構成されるため、充放電時のAgとLiの反応による膨張収縮によって負極層の劣化がおこったためと考えられる。一方、Agが少ないサンプルNo.35及び36の負極層は主に比表面積の大きなCBで構成されたため、バインダ不足による負極層の強度不足によって充放電時に負極層劣化が発生したためであると考えられる。
【0080】
一方、サンプルNo.1、2、4~8及び37は、いずれも本発明で規定する要件(負極活物質層がAgを有する)を満たさない比較例たる全固体リチウム二次電池である。
【0081】
サンプルNo.1及びNo.2の全固体リチウム二次電池は、いずれも負極活物質を含んでいない。そのため、1サイクル目の充放電で負極層内に空隙が生じ、2サイクル目の充電を行うことができなかった。
【0082】
サンプルNo.4~8の全固体リチウム二次電池は、負極活物質としてカーボンブラック(CB)と、Ag以外の金属を含むものである。またサンプルNo.37の全固体リチウム二次電池は、負極活物質としてカーボンブラック(CB)のみを含むものである、これらはいずれも、優れた放電容量を示さなかった。
【符号の説明】
【0083】
1 全固体リチウム二次電池
10 正極層
11 正極集電体
12 正極活物質層
20 負極層
21 負極集電体
22 負極活物質層
23 金属層
30 固体電解質層
図1
図2
図3
図4