(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】消費電力推定システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230731BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230731BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20230731BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20230731BHJP
【FI】
H02J3/00 130
H02J3/38 130
H02J3/38 160
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2019104766
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】519202603
【氏名又は名称】朝原 元夢
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝原 春海
(72)【発明者】
【氏名】朝原 元夢
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-059986(JP,A)
【文献】特開2006-060885(JP,A)
【文献】特開2009-050064(JP,A)
【文献】特開2011-239488(JP,A)
【文献】特開2013-165176(JP,A)
【文献】特開2013-232147(JP,A)
【文献】特開2014-082868(JP,A)
【文献】特開2015-153368(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129045(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/090152(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/203610(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 50/06
H02J 3/00
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
系統電源、複数の太陽光発電設備及び複数の風力発電設備から電力が電力系統に供給され、前記電力系統から電力が供給される各負荷の消費電力の総和を推定する消費電力推定システムであって、
計測用太陽光発電設備と、
前記計測用太陽光発電設備の発電出力を計測する第1計測器と、
計測用風力発電設備と、
前記計測用風力発電設備の発電出力を計測する第2計測器と、
前記系統電源から前記電力系統に供給される電力を計測する第3計測器と、
前記複数の太陽光発電設備の発電出力の総和を推定する際に用いる第1係数を推定し、前記複数の風力発電設備の発電出力の総和を推定する際に用いる第2係数を推定し、前記第1計測器の計測値と
前記第1係数を乗じた積と、前記第2計測器の計測値と
前記第2係数を乗じた積と、前記第3計測器の計測値とを総和して、その総和を前記各負荷の消費電力の総和として推定する推定手段を有するコンピューターと、
を備える消費電力推定システム。
【請求項2】
前記
推定手段は、前記第1計測器、前記第2計測器及び前記第3計測器の計測値の時系列に対して所定の処理を行った上で、最小二乗法を用いて前記第1係数及び前記第2係数を推定する
請求項1に記載の消費電力推定システム。
【請求項3】
前記コンピューターが、
前記第1計測器の計測値と計測時刻とを対応付けて記憶部に記録することを繰り返し実行することによって、それら計測値と計測時刻を時系列で配列した第1時系列データを前記記憶部に蓄積する第1蓄積手段と、
前記第2計測器の計測値と計測時刻とを対応付けて前記記憶部に記録することを繰り返し実行することによって、それら計測値と計測時刻を時系列で配列した第2時系列データを前記記憶部に蓄積する第2蓄積手段と、
前記第3計測器の計測値と計測時刻とを対応付けて前記記憶部に記録することを繰り返し実行することによって、それら計測値と計測時刻を時系列で配列した第3時系列データを前記記憶部に蓄積する第3蓄積手段と、
前記第1時系列データ、前記第2時系列データ及び前記第3時系列データの計測値の時間平均を算出し、それらの時間平均から前記第1係数及び前記第2係数を算出する係数算出手段と、を有する
請求項1に記載の消費電力推定システム。
【請求項4】
前記係数算出手段が、次式に従って前記第1係数及び前記第2係数を算出する請求項3に記載の消費電力推定システム。
【数1】
但し、KSは前記第1係数であり、KWは前記第2係数であり、L0は定数であり、PGS(t)は前記第1時系列データの計測値を計測時刻tにより表した関数であり、PGW(t)は前記第2時系列データの計測値を計測時刻tにより表した関数であり、P(t)は前記第3時系列データの計測値を計測時刻tにより表した関数であり、オーバーラインは時間平均を表す。
【請求項5】
前記コンピューターが、
前記第1計測器の計測値と計測時刻とを対応付けて記憶部に記録することを繰り返し実
行することによって、それら計測値と計測時刻を時系列で配列した第1時系列データを前記記憶部に蓄積する第1蓄積手段と、
前記第2計測器の計測値と計測時刻とを対応付けて前記記憶部に記録することを繰り返し実行することによって、それら計測値と計測時刻を時系列で配列した第2時系列データを前記記憶部に蓄積する第2蓄積手段と、
前記第3計測器の計測値と計測時刻とを対応付けて前記記憶部に記録することを繰り返し実行することによって、それら計測値と計測時刻を時系列で配列した第3時系列データを前記記憶部に蓄積する第3蓄積手段と、
前記第1時系列データ、前記第2時系列データ及び前記第3時系列データをバンドストップフィルタにより濾波することによって前記第1係数及び前記第2係数を算出する係数算出手段と、を有する
請求項1に記載の消費電力推定システム。
【請求項6】
前記係数算出手段が、次式に従って前記第1係数及び前記第2係数を算出する請求項5に記載の消費電力推定システム。
【数2】
但し、KSは前記第1係数であり、KWは前記第2係数であり、PGS(t)は前記第1時系列データの計測値を計測時刻tにより表した関数であり、PGW(t)は前記第2時系列データの計測値を計測時刻tにより表した関数であり、P(t)は前記第3時系列データの計測値を計測時刻tにより表した関数であり、F[PGS(t)]はPGS(t)を前記バンドストップフィルタによって濾波することにより得られる関数であり、F[PGW(t)]はPGW(t)を前記バンドストップフィルタによって濾波することにより得られる関数であり、F[P(t)]はP(t)を前記バンドストップフィルタによって濾波することにより得られる関数であり、P(t)、PGS(t)又はPGS(t)をX(t)とし、前記バンドストップフィルタの遮断周波数帯域をfCL~fCH[Hz]とした場合、F[X(t)]をラプラス変換することによって得られる伝達関数f(s)は次式の通りである。
【数3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、系統電源、複数の太陽光発電設備及び複数の風力発電設備から電力を受ける電力系統から電力が供給される各負荷の消費電力の総和を推定する消費電力推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統には、電力会社の系統電源のほか、他の者の太陽光発電設備及び風力発電設備から電力が供給される。電力系統の運用上、電力の需給のバランスを取る必要があるので、電力系統に接続される各負荷の消費電力の総和を推定する必要がある。各負荷の消費電力の総和を推定するためには、系統電源の発電出力のほか、太陽光発電設備及び風力発電設備の発電出力も把握する必要がある。そこで、太陽光発電設備及び風力発電設備の発電出力を推定するための技術が開発されている(特許文献1~3参照)。また、太陽光発電設備及び風力発電設備に計測器を設置すれば、太陽光発電設備及び風力発電設備の発電出力を把握することができる。ところが、電力系統に接続される全ての太陽光発電設備及び風力発電設備に計測器を設置することは、コスト上の問題があるうえ、現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/121202号
【文献】特開2016-192864号公報
【文献】国際公開第2015/079554号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、電力系統に接続される太陽光発電設備及び風力発電設備に計測器を設置せずとも、各負荷の消費電力の総和を把握できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、系統電源、複数の太陽光発電設備及び複数の風力発電設備から電力が電力系統に供給され、前記電力系統から電力が供給される各負荷の消費電力の総和を推定する消費電力推定システムは、計測用太陽光発電設備と、前記計測用太陽光発電設備の発電出力を計測する第1計測器と、計測用風力発電設備と、前記計測用風力発電設備の発電出力を計測する第2計測器と、前記系統電源から前記電力系統に供給される電力を計測する第3計測器と、前記複数の太陽光発電設備の発電出力の総和を推定する際に用いる第1係数を推定し、前記複数の風力発電設備の発電出力の総和を推定する際に用いる第2係数を推定し、前記第1計測器の計測値と前記第1係数を乗じた積と、前記第2計測器の計測値と前記第2係数を乗じた積と、前記第3計測器の計測値とを総和して、その総和を前記各負荷の消費電力の総和として推定する推定手段を有するコンピューターと、を備える。
【0006】
以上によれば、第1計測器の計測値と第1係数を乗ずると、その積は各太陽光発電設備から電力系統に供給される電力の総和にほぼ等しい。第2計測器の計測値と第2係数を乗ずると、その積は各風力発電設備から電力系統に供給される電力の総和にほぼ等しい。従って、それらの積と第3計測値の計測値との総和が各負荷の消費電力の総和にほぼ等しい。よって、各太陽光発電設備及び各風力発電設備に計測器を設置せずとも、各負荷の消費電力の総和を推定することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の幾つかの実施形態によれば、各太陽光発電設備及び各風力発電設備に計測器を設置せずとも、各負荷の消費電力の総和を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の消費電力推定システム及び電力系統のブロック図である。
【
図2】第2実施形態の消費電力推定システム及び電力系統のブロック図である。
【
図3】第3実施形態の消費電力推定システム及び電力系統のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0010】
〔第1の実施の形態〕
1.消費電力推定システム
図1は消費電力推定システム1を電力系統50とともに示したブロック図である。
電力系統50の送電線が遮断器等の保護機器を介して変電所内の母線52に接続され、電力会社の系統電源51から潮流電力が変電所内の母線52を介して電力系統50に供給される。電力系統50には、複数の負荷53が接続されている。これら負荷53は、電力系統50から供給される電力を消費する需要家の機器である。負荷53は電力系統50に接続されている機器であれば、どのようなものであってもよい。例えば負荷53は家庭用電気機器、事業用電気機器等である。
【0011】
電力系統50には、複数の太陽光発電設備54が連系されている。太陽光発電設備54は太陽光のエネルギーを電力に変換して、その電力を電力系統50に供給する。太陽光発電設備54は電力系統50に連系されていれば、どのようなものであってもよい。例えば太陽光発電設備54は家庭用太陽光発電設備、事業用太陽光発電設備等である。
【0012】
電力系統50には、複数の風力発電設備55が連系されている。風力発電設備55は風力を電力に変換して、その電力を電力系統50に供給する。風力発電設備55は電力系統50に連系されていれば、どのようなものであってもよい。例えば風力発電設備55は家庭用風力発電設備、事業用風力発電設備等である。
【0013】
消費電力推定システム1は各負荷53の消費電力の総和を推定するものである。この消費電力推定システム1は推定装置10、計測用太陽光発電設備60、計測用風力発電設備70、第1計測器69、第2計測器79及び第3計測器59を備える。
計測用太陽光発電設備60は電力会社の変電所等に設置されている。計測用太陽光発電設備60は太陽光のエネルギーを電力に変換する。
図1に示す例では、計測用太陽光発電設備60の発電電力が電力系統50に供給されていないが、母線52を介して電力系統50に供給されるものとしてもよい。
計測用風力発電設備70は風力を電力に変換する。
図1に示す例では、計測用風力発電設備70の発電電力が電力系統50に供給されないが、母線52を介して電力系統50に供給されるものとしてもよい。
第1計測器69は、計測用太陽光発電設備60から電力系統50に供給される太陽光発電電力を計測して、その計測値を表す信号を推定装置10に出力する。なお、第1計測器69は計測用太陽光発電設備60の発電電力を間接的に計測するものでもよい。つまり、第1計測器69は、日射量を計測して、その日射量から計測用太陽光発電設備60の発電電力を演算し、その発電電力の値を表す信号を推定装置10に出力するものでもよい。
第2計測器79は、計測用風力発電設備70から電力系統50に供給される風力発電電力を計測して、その計測値を表す信号を推定装置10に出力する。なお、第2計測器79は計測用風力発電設備70の発電電力を間接的に計測するものでもよい。つまり、第2計測器79は、風力を計測して、その風力から計測用発電設備70の発電電力を演算し、その発電電力を表す信号を推定装置10に出力するものでもよい。
第3計測器59は、電力系統50の送電線(特に母線52の出力部に近い部分)に接続されている。第3計測器59は、系統電源51から電力系統50に供給される潮流電力を計測して、その計測値を表す信号を推定装置10に出力する。
【0014】
推定装置10はコンピューター11及び記憶部12を有する。なお、推定装置10は、コンピューター11に接続されたキーボード、ポインティングデバイス及びディスプレイ等を備えていてもよい。
【0015】
コンピューター11は、CPU、ROM、RAM、GPU、システムバス及びハードウェアインタフェース等を有する。記憶部12は、半導体メモリ又はハードディスクドライブ等からなる記憶装置である。記憶部12は、コンピューター11に内蔵されたものでもよいし、コンピューター11に外付けされたものでもよい。
【0016】
記憶部12には、コンピューター11にとって実行可能な推定プログラム20が格納されている。コンピューター11は推定プログラム20に従って以下のような処理を実行する。
【0017】
2.コンピューターの処理
(1) 計測値取得処理
コンピューター11は、計測器59,69,79の計測値を取得する。
【0018】
(2) 電力推定処理
コンピューター11は、次式(1)のように、第1計測器69の計測値から各太陽光発電設備54の発電出力の総和を推定する。コンピューター11は、次式(2)のように、第2計測器79の計測値から各風力発電設備55の発電出力の総和を推定する。コンピューター11は、次式(3)のように、計測器59,69,79の計測値から各負荷53の消費電力の総和を推定する。
【0019】
【0020】
ここで、PSは各太陽光発電設備54の発電出力の総和の推定値であり、PGSは第1計測器69によって計測された電力の値であり、KSは係数であり、PWは各風力発電設備55の発電出力の総和の推定値であり、PGWは第2計測器79によって計測された電力の値であり、KWは係数であり、Lは各負荷53の消費電力の総和の推定値であり、Pは第3計測器59によって計測された潮流電力の値である。
【0021】
KSは、次式(4)のように、計測用太陽光発電設備60の定格出力に対する各太陽光発電設備54の定格出力(公称最大出力)の総和の比であり、KWは、次式(5)のように、計測用風力発電設備70の定格出力に対する各風力発電設備55の定格出力の総和の比である。
【0022】
【0023】
上記式(4)及び(5)において、PS maxは各太陽光発電設備54の定格出力(公称最大出力)の総和であり、PGS maxは計測用太陽光発電設備60の定格出力であり、PW max各風力発電設備55の定格出力の総和であり、PGW maxは計測測用風力発電設備70の定格出力である。
【0024】
ここで、KS及びPS maxは、各太陽光発電設備54の調査及び集計によって予め求められたものであって、定数である。また、KW及びPW maxは、各風力発電設備55の調査及び集計によって予め求められたものであって、定数である。KS及びKWは予め推定プログラム20に組み込まれている。
【0025】
(3) 記録処理
コンピューター11は、各太陽光発電設備54の発電出力の総和の推定値PS、各風力発電設備55の発電出力の総和の推定値PW、各負荷53の消費電力の総和の推定値Lを記憶部12に記録する。なお、コンピューター11は、それらの推定値PS,PW,Lをディスプレイに表示させてもよい。
【0026】
3.有利な効果
第1計測器69の計測値とKSを乗ずると、その積は各太陽光発電設備54から電力系統50に供給される電力の総和にほぼ等しい。第2計測器79の計測値とKWを乗ずると、その積は各風力発電設備55から電力系統50に供給される電力にほぼ等しい。そうすると、それらの積と第3計測器59の計測値との総和が各負荷53の消費電力の総和にほぼ等しい。よって、各太陽光発電設備54及び各風力発電設備55に計測器を設置せずとも、各負荷53の消費電力の総和を推定することができる。
【0027】
〔第2の実施の形態〕
1.消費電力推定システム
図2を参照して、第2実施形態の消費電力推定システム101について説明する。
第2実施形態の電力系統50、系統電源51、母線52、負荷53、太陽光発電設備54、風力発電設備55、計測用太陽光発電設備60、計測用風力発電設備70及び計測器59,69,79は第1実施形態のそれらと同一であるので、これらの説明は省略する。
【0028】
2.コンピューターの処理
第2実施形態における記憶部12に記憶された推定プログラム120がコンピューター11に実行させる処理と、第1実施形態における記憶部12に記憶された推定プログラム20がコンピューター11に実行させる処理が相違する。相違点の概要について説明すると、第1実施形態では、KS及びKWが予め求められた定数であるのに対して、第2実施形態では、コンピューター11が計測器59,69,79の計測値の時系列の時間平均から最小二乗法の誤差関数を用いてKS及びKWを推定する。以下、コンピューター11が推定プログラム120に従って実行する処理について説明する。
【0029】
(1) 計測値の取得・蓄積処理
コンピューター11は、計測器59,69,79の計測値を取得するとともに、それらの計測値を計測時刻に対応付けてそれら計測値と計測時刻を記憶部12に記録する。コンピューター11はこのような処理を短周期で繰り返し実行することによって、計測器59,69,79の計測値の時系列データ121,122,123を記録部12に蓄積する。計測時刻は、例えば計測器59,69,79によって電力が計測された時刻でもよいし、コンピューター11が計測器59,69,79から計測値を取得した時刻でもよい。
【0030】
ここで、時系列データ121は、第3計測器59の計測値(つまり、系統電源51の出力電力)と計測時刻とを対応付けてこれらを時系列で配列したデータ列である。従って、時系列データ121は、第3計測器59の計測値及び計測時刻を変数として、第3計測器59の計測値を計測時刻で表した関数といえる。以下、時系列データ121に相当する関数をP(t)と表す。tは計測時刻であり、P(t)は第3計測器59の計測値である。
【0031】
時系列データ122は、第1計測器69の計測値(つまり、計測用太陽光発電設備60の出力電力)と計測時刻とを対応付けてこれらを時系列で配列したデータ列である。以下、時系列データ122に相当する関数をPGS(t)と表す。tは計測時刻であり、PGS(t)は第1計測器69の計測値である。
【0032】
時系列データ123は、第2計測器79の計測値(つまり、計測用風力発電設備71の出力電力)と計測時刻とを対応付けてこれらを時系列で配列したデータ列である。以下、時系列データ122に相当する関数をPGW(t)と表す。tは計測時刻であり、PGW(t)は第1計測器69の計測値である。
【0033】
(2) 係数推定処理
コンピューター11は、PGS(t)、PGW(t)及びP(t)の時間平均を用いた最小二乗法によって求まる式(6)のように、所定時刻Tの係数KS、係数KW及び定数L0を推定する。所定時刻Tは、ゼロから時系列データ121,122,123における最終時刻までの間の任意の時刻である。最終時刻とは、コンピューター11が計測器59,69,79から最後に計測値を取得した時刻、つまり現在時刻をいう。コンピューター11がリアルタイムに、つまり、計測器59,69,79から計測値を取得して即時に係数KS、係数KW及び定数L0を推定するのであれば、所定時刻Tは最終時刻である。
【0034】
【0035】
ここで、式(6)においてオーバーラインは、時系列データ121,122,123におけるゼロから所定時刻Tまでの計測値の時間平均を表す。つまり、以下の通りである。
【0036】
【0037】
上記の式(6)について詳細に説明する。
時刻tにおける各負荷53の消費電力の総和L(t)を計測器59,69,79の計測値P(t),PGS(t),PGW(t)によって表すと次式(7)の通りとなる。
【0038】
【0039】
最小二乗法を用いてP(t),PGS(t),PGW(t)から係数KS,KWを算出するために使用する誤差関数Eは次式(8)のように表せる。
【0040】
【0041】
ここで、PGS(t),PGW(t)がL(t)と独立して変動するものとし、L(t)の変動はPGS(t),PGW(t)の変動に対して相関性が十分に低いものとする。そうすると、L(t)は0以上の数であるため、L(t)を時刻に関わらず一定の定数L0と置き換えることができる。そうすると、式(8)は次式(8A)のように表せる。
【0042】
【0043】
KS、KW及びL0が一定の値であるので、EのKS、KW又はL0に関する偏微分は次式のように表せる。
【0044】
【0045】
以上の式(9)~(11)から行列方程式(6)が求まる。
【0046】
(3) 電力推定処理
コンピューター11は、式(12)のように、所定時刻Tにおける第1計測器69の計測値からその時刻Tにおける各太陽光発電設備54の発電出力の総和を推定する。コンピューター11は、式(13)のように、所定時刻Tにおける第2計測器79の計測値からその時刻Tにおける各風力発電設備55の発電出力の総和を推定する。コンピューター11は、式(14)のように、所定時刻Tにおける計測器59,69,79の計測値からその時刻Tにおける負荷53の消費電力の総和を推定する。
【0047】
【0048】
ここで、PS(T)は所定時刻Tにおける各太陽光発電設備54の発電出力の総和の推定値であり、PGS(T)は第1計測器69によって所定時刻Tに計測された電力の値であり、PW(T)は所定時刻Tにおける各風力発電設備55の発電出力の総和の推定値であり、PGW(T)は第2計測器79によって所定時刻Tに計測された電力の値であり、L(T)は所定時刻Tにおける各負荷53の消費電力の総和の推定値であり、P(T)は第3計測器59によって所定時刻Tに計測された潮流電力の値である。
【0049】
(4) 記録処理
コンピューター11は、各太陽光発電設備54の発電出力の総和の推定値PS(T)、各風力発電設備55の発電出力の総和の推定値PW(T)、負荷53の消費電力の総和の推定値L(T)を記憶部12に記録する。なお、コンピューター11は、それらの推定値をディスプレイに表示させてもよい。
【0050】
3.有利な効果
KS、KWは計測器59,69,79の計測値の時系列の時間平均から最小二乗法を用いて推定されたものである。そのため、各太陽光発電設備54及び各風力発電設備55の調査及び集計を行わずとも済む。よって、各太陽光発電設備54及び各風力発電設備55に計測器を設置せずとも、各負荷53の消費電力の総和を低コストで推定することができる。
【0051】
〔第3の実施の形態〕
1.消費電力推定システム
図3を参照して、第3実施形態の消費電力推定システム201について説明する。
第3実施形態の電力系統50、系統電源51、母線52、負荷53、太陽光発電設備54、風力発電設備55、計測用太陽光発電設備60、計測用風力発電設備70及び計測器59,69,79は第1実施形態のそれらと同一であるので、これらの説明は省略する。
【0052】
2.コンピューターの処理
第3実施形態における記憶部12に記憶された推定プログラム220がコンピューター11に実行させる処理と、第1実施形態における記憶部12に記憶された推定プログラム20がコンピューター11に実行させる処理が相違する。相違点の概要について説明すると、第1実施形態では、KS及びKWが予め求められた定数であるのに対して、第3実施形態では、コンピューター11が計測器59,69,79の計測値の時系列をバンドストップフィルタで濾波処理した上で最小二乗法の誤差関数を用いてKS及びKWを推定する。以下、コンピューター11が推定プログラム120に従って実行する処理について説明する。
【0053】
(1) 計測値の取得・蓄積処理
コンピューター11は、計測器59,69,79の計測値の時系列データ121,122,123を記録部12に蓄積する。この処理は第2の実施の形態における蓄積処理と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0054】
(2) 係数推定処理
コンピューター11は、PGS(t)、PGW(t)及びP(t)をバンドストップフィルタによって濾過することによって得られる関数F[P(t)]、F[PGW(t)]及びF[PGS(t)]を用いた最小二乗法によって求まる式(15)のように、係数KS及び係数KWを推定する。
【0055】
【0056】
ここで、式(15)において、F[ ]は遮断周波数帯域をfCL~fCH[Hz]としたバンドストップフィルタを表す関数であり、F[P(t)]は時系列データ121つまりP(t)をバンドストップフィルタによって濾波することにより得られる関数であり、F[PGS(t)]は時系列データ122つまりPGS(t)をバンドストップフィルタによって濾波することにより得られる関数であり、F[PGW(t)]は時系列データ123つまりPGW(t)をバンドストップフィルタによって濾波することにより得られる関数である。P(t)、PGS(t)又はPGS(t)をX(t)と表し、F[X(t)]のカットオフ周波数fcLに対応する時定数をTLとし、カットオフ周波数fcHに対応する時定数をTHとすると、F[X(t)]をラプラス変換することによって得られる伝達関数f(s)は次式のように表せる。
【0057】
【0058】
【0059】
上記の式(15)について詳細に説明する。
時刻tにおける各負荷53の消費電力の総和L(t)を計測器59,69,79の計測値P(t),PGS(t),PGW(t)によって表すと式(7)の通りとなる。
【0060】
【0061】
ところで、太陽光発電設備54が増設されると、各太陽光発電設備54の発電出力の総和が増大するため、太陽光発電設備54の増設は、その総和の時間的変化の長周期成分として表れる。風力発電設備55の増設は各風力発電設備55の発電出力の総和の時間的変化の長周期成分として表れる。一方、天候は刻々と変化するものであり、雲の動きは各太陽光発電設備54の発電出力の総和の時間的変化の短周期成分として表れる。また、風速の変化は各風力発電設備55の発電出力の総和の時間的変化の短周期成分として表れる。そのような長周期成分及び短周期成分を反映させるために、バンドストップフィルタを用いる。
【0062】
一方、一日の周期では、太陽が昇っている時間に需用者の社会生活が営まれるため、太陽が昇っている時間では電力需要が大きく、太陽が沈んでいる時間では電力需要が小さい。従って、一日の周期では、各負荷53の消費電力の総和が各太陽光発電設備54の発電出力の総和と同じように変化するため、各負荷53の消費電力の総和と各太陽光発電設備54の発電出力の総和は相関性がある。同様に、一日の周期では、各負荷53の消費電力の総和が各風力発電設備55の発電出力の総和と同じように変化する。このような一日の周期の成分を除去するため、バンドストップフィルタを用いる。
【0063】
式(7)をバンドストップフィルタによって濾波すると、中周期成分、つまりL(t)が除去される。そのため、式(7)をバンドストップフィルタによって濾波した上で、最小二乗法を用いて係数KS,KWを算出するために使用する誤差関数Eは次式(17)のように表せる。
【0064】
【0065】
誤差が最小となるKSとKWを求めると、次式のように表せる。
【0066】
【0067】
以上の式(18),(19)から行列方程式(15)が求まる。
【0068】
(3) 電力推定処理
コンピューター11は、式(12)のように、所定時刻Tにおける第1計測器69の計測値からその時刻Tにおける各太陽光発電設備54の発電出力の総和を推定する。コンピューター11は、式(13)のように、所定時刻Tにおける第2計測器79の計測値からその時刻Tにおける各風力発電設備55の発電出力の総和を推定する。コンピューター11は、式(14)のように、所定時刻Tにおける計測器59,69,79の計測値からその時刻Tにおける負荷53の消費電力の総和を推定する。
【0069】
【0070】
(4) 記録処理
コンピューター11は、各太陽光発電設備54の発電出力の総和の推定値PS(T)、各風力発電設備55の発電出力の総和の推定値PW(T)、負荷53の消費電力の総和の推定値L(T)を記憶部12に記録する。なお、コンピューター11は、それらの推定値をディスプレイに表示させてもよい。
【0071】
3.有利な効果
KS及びKWは計測器59,69,79の計測値の時系列から推定されたものである。そのため、各太陽光発電設備54及び各風力発電設備55の調査及び集計を行わずとも済む。よって、各太陽光発電設備54及び各風力発電設備55に計測器を設置せずとも、各負荷53の消費電力の総和を低コストで推定することができる。
【0072】
また、バンドストップフィルタを用いたので、各負荷53の消費電力の総和と各太陽光発電設備54の発電出力の総和は相関性があっても、KS及びKWを正確に推定することができる。また、刻々変化する天候や発電設備53,54の増減に対応して、KS及びKWを正確に推定することができる。
【0073】
〔変形例〕
上記各実施形態では、系統電源51から電力が供給される電力系統50の数が1であった。それに対して、系統電源51から電力が供給される電力系統50の数が複数であり、各電力系統50の送電線が保護機器を介して変電所内の母線52に接続されていてもよい。この場合、第3計測器59の数も複数であり、第3計測器59が各電力系統50の送電線(特に母線52の出力部に近傍部分)に接続されている。そして、上述の説明におけるPは各第3計測器59によって計測された潮流電力の値の総和であり、P(T)は各第3計測器59によって所定時刻Tに計測された潮流電力の値の総和である。
【符号の説明】
【0074】
1,101,201…消費電力推定システム
11…コンピューター
12…記憶部
50…電力系統
51…系統電源
53…負荷
54…太陽光発電設備
55…風力発電設備
59…第3計測器
60…計測用太陽光発電設備
69…第1計測器
70…計測用風力発電設備
79…第2計測器
121…時系列データ(第3時系列データ)
122…時系列データ(第1時系列データ)
123…時系列データ(第2時系列データ)