(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】重質油の水素化処理方法
(51)【国際特許分類】
C10G 65/04 20060101AFI20230731BHJP
C10G 45/08 20060101ALI20230731BHJP
B01J 27/19 20060101ALI20230731BHJP
B01J 23/883 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C10G65/04
C10G45/08 Z
B01J27/19 M
B01J23/883 M
(21)【出願番号】P 2019117577
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-04-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 健治
(72)【発明者】
【氏名】新宅 泰
(72)【発明者】
【氏名】内田 稔
(72)【発明者】
【氏名】石原 久也
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/094012(WO,A1)
【文献】特開2013-209529(JP,A)
【文献】特開昭61-076589(JP,A)
【文献】特公昭62-041996(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 65/04
C10G 45/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱メタル部、トランジション部、脱硫部からなる重質油の水素化処理方法であって、
前記脱硫部が周期表第8族金属を異なる比率で含む触媒A群と触媒B群が2層以上で(3層以上の場合は触媒A群と触媒B群の層が交互に)積層したものであり、
前記脱硫部の上流側から数えて1層目に前記触媒A群が積層されており、
前記触媒A群は、担体に、CoとMoを活性金属成分として担持した一種以上の触媒から構成され、
前記触媒B群は、担体に、NiとMoを活性金属成分として担持した一種以上の触媒から構成され、
前記触媒A群が脱硫部中の容積割合で、10~90%使用され、前記触媒B群が脱硫部中の容積割合で10~90%使用され
ており、
前記重質油が、1~6質量%の硫黄分と、2000質量ppmを超え10000質量ppm以下の窒素分を含むことを特徴とする水素化処理方法。
【請求項2】
前記触媒A群に活性金属成分としてCoがCoO換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO
3換算で8.0~25.0質量%、Co/Moモル比が0.25~0.75の範囲で担持されていることを特徴とする請求項1に記載の水素化処理方法。
【請求項3】
前記触媒A群の活性金属成分はさらに、Niを含み、前記触媒A群における周期表第8族金属が金属酸化物(例えばCoならCoO)換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO
3換算で8.0~25.0質量%、周期表第8族金属/Moモル比が0.25~0.75であり、Co/周期表第8族金属モル比が、0.6以上の範囲で担持されたものである、請求項1または2に記載の水素化処理方法。
【請求項4】
前記触媒B群に活性金属成分としてNiがNiO換算で1.5~6.0質量量%、MoがMoO
3換算で8.0~25.0質量%、Ni/Moモル比が0.25~0.75の範囲で担持されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水素化処理方法。
【請求項5】
前記触媒B群の活性金属成分はさらに、Coを含み、前記触媒B群における周期表第8族金属が金属酸化物(例えばCoならCoO)換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO
3換算で8.0~25.0質量%、周期表第8族金属/Moモル比が0.25~0.75であり、Co/周期表第8族金属モル比が、0.4以下の範囲で担持されたものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の水素化処理方法。
【請求項6】
前記担体が、酸化物基準で、アルミナを70質量%以上の量で含む、請求項1に記載の水素化処理方法。
【請求項7】
前記担体が、さらに、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア、マグネシアおよびリン酸化物から選ばれる少なくとも1種の成分を含む、請求項6に記載の水素化処理方法。
【請求項8】
触媒A群およびB群の調製に用いた担体が水銀圧入法で測定した平均細孔径(PD)が8.0~16.0nm、水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.5~1.1ml/gであり、
触媒A群およびB群の窒素のBET法で測定した比表面積が、140~290m
2/gである、請求項1に記載の水素化処理方法。
【請求項9】
重質油の水素化処理条件が、水素分圧が5.0~20MPa、反応温度が350~420℃、液空間速度が0.1~3.0hr
-1である、請求項1に記載の水素化処理方法。
【請求項10】
原料重質油は、比重が0.9~1.05、
360℃以上の沸点である成分を80質量%以上含む蒸留性状を有する、請求項1に記載の水素化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高い脱硫、脱窒素、脱残済効率で処理可能な重質油の水素化処理方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
重質油の水素化処理プロセスにおいては、異なる機能を有する触媒を組み合わせて使用することで、個々の触媒単独よりも優れた性能が得られることが知られている。たとえば、非特許文献1に記載されている通り、担体の細孔径分布を制御することで、脱メタル選択性に優れた脱メタル触媒と、脱硫選択性に優れた脱硫触媒および、両者の中間の反応特性を示すトランジション触媒を調製し、それらを組み合わせて使用することなどが知られている。
【0003】
しかしながら、重質油の水素化処理プロセスでは、近年の原料油の更なる重質化への対応や、重質油の水素化処理プロセス後の残油接触分解装置の処理量増加へ対応するには、従来の触媒システムでは不十分であり、更なる触媒性能(脱硫、脱窒素、脱メタル、脱残炭活性)の向上が求められている。
【0004】
水素化処理触媒を用いた重質油処理方法の改良法としては、脱硫触媒単品の性能向上だけでなく、異なる細孔径や担体組成の触媒を適切に組み合わせる方法が知られている。しかしながら、それでは、近年の原料油の更なる重質化への対応や、重質油の水素化処理プロセス後の残油接触分解装置の処理量増加への対応としては不十分である。
【0005】
たとえば重質油の処理方法としては、特許文献1には、アルミナ担体にニッケル、コバルト、モリブデン、バナジウム、タングステンから選ばれた少なくとも1種類の活性金属およびホウ素化合物が担持され第1層と、通常の水素化処理触媒を充填した第2層からなる触媒層の存在下、残油を水素化する残油の水素化処理方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、重質油を水素化処理する方法において、原料重質油および原料重質油に対し0.3~10質量%の割合で熱処理油、部分核水素化油を混合し、特定の細孔分布を有する水素化脱硫触媒、水素化脱メタル触媒の存在下に重質油を水素化処理する重質油の水素化処理法が開示されている。
【0007】
一方で、軽油脱硫用途においては異なる助触媒(Ni、Co)を含む触媒を組み合わせる手法が知られており、たとえば、Co及びMoを活性金属に含む触媒と、Ni及びMoを活性金属に含む触媒とを積層して使用することも提案されている。
【0008】
特許文献3には、軽油留分を含む原料油の超深度脱硫方法として、原料油を水素とともにアルミナを主体として含む担体にモリブデン、コバルト、およびリンを含み且つ有機添加剤を含まない第1触媒に接触させて水素化脱硫する工程と、第1触媒で水素化脱硫された原料油を、アルミナを主体として含む担体に担持されたモリブデンおよびタングステンの少なくとも一方並びにニッケルおよびリンを含み、ニッケルの第8~10族金属元素に占める割合が金属元素換算で80質量%以上であり且つ有機添加剤を含まない第2触媒に接触させて水素化脱硫する工程とを含む超深度脱硫方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、固定床反応器の入り口から第一水素化域、第二水素化域、第三水素化域とし、第一水素化域にはアルミナを主成分とする多孔質担体にコバルトとモリブデンを担持した触媒を全触媒量に対して20~60容積%充填し、第二水素化域にはアルミナ85~99質量%とゼオライト1~15質量%とを含む多孔質担体にニッケルとモリブデンを担持した触媒を全触媒量に対して20~60容積%充填し、第三水素化域にはアルミナを主成分とする多孔質担体にコバルトおよび/またはニッケルと、モリブデンを担持した触媒を全触媒量に対して5~20容積%充填して、硫黄を含有する軽油を通油して水素化脱硫する、硫黄分を含有する軽油の水素化脱硫方法が開示されている。
さらに、特許文献5には、軽油留分をニッケルとモリブデンを担持した触媒の存在下に水素化脱硫し、次いでコバルトとモリブデンを担持した触媒の存在下に水素化脱硫する脱硫方法であり、硫黄分0.05質量%以下の軽油留分が得られる水素圧力および温度において水素化脱硫を行う軽油の深度脱硫方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、非特許文献1に記載されている通り灯軽油留分の脱硫と重質油の脱硫は技術自体が大きく相違する。例えば軽油と比較して重質油はS、N、Ni、V、Asphaltene、多環芳香族等の含量が非常に高く、脱メタル触媒等との組み合わせが必須であるほか、それら不純分による反応阻害が大きく働くことも考慮が必要となる。さらに、反応温度、反応圧力、液空間速度なども異なる。求められる生成油性状も大きく異なり、重質油では生成油の硫黄濃度が灯軽油よりも100倍程度高くなるが、色相は問われない。更には上記特性を反映して、既存の灯軽油用途の触媒は活性金属量が多く、かつ比表面積が高く細孔径が小さいものが脱硫活性に優れているとされており、一方で重質油用途の触媒は比較的活性金属量が少なく、かつ原料油の拡散性に適した細孔径の大きいものが脱硫活性に優れているとされるなど、灯軽油留分の脱硫触媒は、重質油水素化脱硫触媒とは明らかに技術的思想が相違しており、別の技術分野に属しているものである。
したがって、重質油の水素化処理用途において、より高い触媒活性を示す触媒システムの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平5-093190号公報
【文献】特開平7-062357号公報
【文献】国際公開2002/010314号
【文献】特開2000-109854号公報
【文献】特開平4-183786号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】加部敏明監修 「水素化精製 Science & Technology」 2000年 株式会社アイピーシー
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、従来の触媒システムよりも高い性能を示す重質油の水素化処理触媒の組み合わせおよび、重質油の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは炭化水素油の水素化処理は、様々な反応阻害を受けながら進行することに着目した。特に直接脱硫反応では、原料油である重質油中に高い濃度で、S、N、Ni、V、Asphaltene、多環芳香族などの成分を含み、それらが協奏的に反応を阻害していると本発明者らは考えた。そして、水素化処理システムの全てにわたって、同じ反応特性の触媒を使用することは、常に同様の阻害を受け続ける反応があるということになり、より優れた触媒システムとするには、阻害の受けやすさの異なる触媒を組み合わせることで、それぞれに得意とする反応が進行させることで相乗的な効果が発揮され、より高活性な触媒システムとするには有効であると考えた。
【0015】
そして、触媒の構成として、脱メタル部および脱硫部の上流側と下流側と脱メタル部と脱硫部との間のトランジション部における、NiおよびCo、Moの組み合わせを検討し、所定の組み合わせを採用することで、従来になく高活性で重質油の水素化脱硫処理が可能な触媒システムを構築できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の構成は以下の通りである。
[1]脱メタル部、トランジション部、脱硫部からなる重質油の水素化処理方法であって、脱硫部が周期表第8族金属を異なる比率で含む触媒A群と触媒B群が2層以上で積層したものであり、触媒A群は、担体に、Coを含む周期表第8族金属とMoを活性金属成分として担持した一種以上の触媒から構成され、触媒B群は、担体に、Niを含む周期表第8族金属とMoを活性金属成分として担持した一種以上の触媒から構成されたものであり、脱硫部上流側から触媒A群と触媒B群が交互に充填され、上流側に触媒A群が水素化脱硫部中の容積割合で10~90%使用され、下流側に触媒B群が水素化脱硫部中の容積割合で10~90%使用されることを特徴とする水素化処理方法。
[2]触媒A群の活性金属成分は、触媒A群における周期表第8族金属がCoであり、CoがCoO換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO3換算で8.0~25.0質量%、Co/Moモル比が0.25~0.75の範囲で担持されたものである、[1]の水素化処理方法。
[3]触媒A群の活性金属成分はさらに、周期表第8族金属であるNiを含み、触媒A群における周期表第8族金属が金属酸化物(例えばCoならCoO)換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO3換算で8.0~25.0質量%、周期表第8族金属/Moモル比が0.25~0.75であり、Co/周期表第8族金属モル比が、0.6以上の範囲で担持されたものである、[1]または[2]の水素化処理方法。
[4]触媒B群の活性金属成分は、触媒B群における周期表第8族金属がNiであり、NiがNiO換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO3換算で8.0~25.0質量%、Ni/Moモル比が0.25~0.75の範囲で担持されたものである、[1]~[3]の水素化処理方法。
[5]触媒B群の活性金属成分はさらに、周期表第8族金属であるCoを含み、触媒B群における周期表第8族金属が金属酸化物(例えばCoならCoO)換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO3換算で8.0~25.0質量%、周期表第8族金属/Moモル比が0.25~0.75であり、Co/周期表第8族金属モル比が、0.4以下の範囲で担持されたものである、[1]~[4]の水素化処理方法。
[6]担体が、酸化物基準で、アルミナを70%以上の量で含む、[1]の水素化処理方法。
[7]前記担体が、さらに、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア、マグネシアおよびリン酸化物から選ばれる少なくとも1種の成分を含む、[6]の水素化処理方法。
[8]触媒A群およびB群の調製に用いた担体が水銀圧入法で測定した平均細孔径(PD)が8.0~16.0nm、水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.5~1.1ml/gであり、触媒AおよびBの窒素のBET法で測定した比表面積が、140~290m2/gである、[1]の水素化処理方法。
[9]重質油の水素化処理条件が、水素分圧が5.0~20MPa、反応温度が350~420℃、液空間速度が0.1~3.0hr-1である、[1]の水素化処理方法。
[10]原料重質油は、比重が0.9~1.05、硫黄分1~6質量%、360℃以上の沸点である成分を80質量%以上含む蒸留性状を有する、[1]の水素化処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の技術的な着想は、細孔径の組み合わせによる拡散制御に基づいた触媒性能の向上のような物理的積層手法とは全く異なり、化学的な反応特性、特に被毒の受けやすさの違いに着目したものである。よって、助触媒種の積層システムと、細孔径に着目した積層システムの両方の特性を併せ持つ触媒の組み合わせシステムが、最も有効である。
【0018】
水素化脱硫触媒として、異なる反応性を示す触媒を積層して、各触媒層で異なる反応を促進させることで、システムとして高い触媒性能を示す水素化触媒を構築できる。
このため、本発明によれば、従来の直脱触媒積層系システムで達成しえなかった、低い硫黄分、窒素分を含み、かつ比重の低い生成油を得られる。また、触媒の生産工程上は大きな変更・改造が必要でないので、従来触媒と同じ装置を用いて、高い生産性を維持しながら直脱システムの性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものでない。
【0021】
直接脱硫装置は、
図1に示されるように、脱メタル部と脱硫部と、その間のトランジション部からなり、脱メタル部では、水素ガス存在下で、脱メタル触媒による脱メタルが主に行われ、原料油中のメタル成分が除去される。一方、脱硫部では、水素ガスの存在下で、主として脱硫触媒による水素化反応が行われ、硫黄分、窒素分及び残炭分などが除去される。
【0022】
本発明は、 脱メタル部、トランジション部、脱硫部からなる重質油の水素化処理方法であり、各部ごとに触媒が積層されている。また本発明では、脱硫部に触媒A群と触媒B群が積層したものを使用する。
【0023】
脱硫部
本発明では、脱硫部に、少なくとも2種の触媒(それぞれ触媒A群と触媒B群)を用いる。触媒A群は、担体に、Coを含む周期表第8族金属とMoを活性金属成分として担持した一種以上の触媒から構成され、触媒B群は、担体に、Niを含む周期表第8族金属とMoを活性金属成分として担持した一種以上の触媒から構成され、トランジション部側の上流側から、触媒A群と触媒B群を交互に充填して使用される。このように異なる助触媒を含む触媒を使い分けることにより、高い触媒性能を維持でき、脱硫、脱窒素、脱メタル、脱残炭活性が上昇し、特に脱硫活性の向上が顕著である。
また、この触媒A群および触媒B群の積層を繰り返してもよく、たとえば、A群-B群-A群でも、A群-B群-A群-B群のように繰り返してもよい。脱硫部に触媒を3層以上組み合わせる場合には、触媒A群の触媒は一種である必要はなく、担体に、Coを含む周期表第8族金属とMoを活性金属成分として担持したものであればよい。また同様に、触媒B群の触媒は一種である必要はなく、担体に、Coを含む周期表第8族金属とMoを活性金属成分として担持したものであればよい。
脱硫部に触媒を3層以上組み合わせる場合の各触媒の充填比率は様々な組み合わせが可能となるが、少なくともすべての触媒がそれぞれ脱硫部中5容積%以上は含まれていることが好ましく、さらにはすべての触媒がそれぞれ脱硫部中10容積%以上含まれることがより好ましい。
【0024】
触媒A群の活性金属成分は、触媒A群における周期表第8族金属がCoであり、CoがCoO換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO3換算で8.0~25.0質量%、CoO/MoO3モル比が0.25~0.75の範囲で担持されたものが好ましく、さらに、CoがCoO換算で2.5~4.5質量%、MoがMoO3換算で10~18質量%、Co/Moモル比が0.30~0.70の範囲で担持されたものがより好ましい。このような組成では、活性金属成分の量が好適であり、触媒活性点が少なすぎることがなく、かつ活性金属が多い場合に発生する活性金属の凝集が抑えられ好適に分散した活性金属成分を得ることができ、さらに周期表第8族金属の凝集が発生せず、触媒の活性点数が最大となると考えられ、高い脱硫能、脱窒素能、脱メタル能及び脱残炭活性を示す触媒システムとなる。
【0025】
触媒A群の活性金属成分はさらに、周期表第8族金属であるNiを含んでもよく、その場合の触媒A群における周期表第8族金属が金属酸化物(例えばCoならCoO)換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO3換算で8.0~25.0質量%、周期表第8族金属/Moモル比が0.25~0.75であり、Co/周期表第8族金属モル比が、0.6以上の範囲で担持されたものが好ましく、さらに、周期表第8族金属が金属酸化物(例えばCoならCoO)換算で2.5~4.5質量%、MoがMoO3換算で10~18質量%、周期表第8族金属/Moモル比が0.30~0.70であり、Co/周期表第8族金属モル比が、0.7以上の範囲で担持されたものがより好ましい。このような組成であると活性金属成分の量が好適であり、高い脱硫能、脱窒素能、脱メタル能及び脱残炭活性を示す触媒システムとなる。
【0026】
触媒B群の活性金属成分は、触媒B群における周期表第8族金属のNiであり、NiがNiO換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO3換算で8.0~25質量%、NiO/MoO3モル比が0.25~0.75の範囲で担持されたものが好ましく、さらに、NiがNiO換算で2.5~4.5質量%、MoがMoO3換算で10~18質量%、Ni/Moモル比が0.30~0.70の範囲で担持されたものがより好ましい。このような組成であると活性金属成分の量が好適であり、かつ触媒A群と異なる反応特性であることから、高い脱硫能、脱窒素能、脱メタル能及び脱残炭活性を示す触媒システムとなる。
【0027】
触媒B群の活性金属成分はさらに、周期表第8族金属であるCoを含んでもよく、その場合の触媒B群における周期表第8族金属が金属酸化物(例えばCoならCoO)換算で1.5~6.0質量%、MoがMoO3換算で8.0~25質量%、周期表第8族金属/Moモル比が0.25~0.75であり、Co/周期表第8族金属モル比が、0.4未満範囲で担持されたものが好ましく、さらに、周期表第8族金属が酸化物換算で2.5~4.5質量%、MoがMoO3換算で10~18質量%、Co/周期表第8族金属モル比が、0.3未満の範囲で担持されたものがより好ましい。このような組成であると活性金属成分の量が適度であり、かつ触媒A群と異なる反応特性であることから、高い脱硫、脱窒素、脱メタル、脱残炭活性を示す触媒システムとなる。
【0028】
水素化処理触媒に使用される無機複合酸化物担体として、公知の水素化脱硫触媒などに使用される担体であって、各種の無機物からなるものを挙げることができる。本発明の担体は、アルミニウムを主体とした無機複合酸化物である。好ましくは、担体が、酸化物基準で、アルミナを70%以上の量で含む。
担体を構成するアルミニウム以外の無機物成分としては、例えばリン酸化物、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア、マグネシア等から選ばれる少なくとも一種とアルミナとの複合酸化物などを使用することができる。さらには、ゼオライト、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト等の鉱物をアルミナと混合させてもよい。
【0029】
複合酸化物の具体例としては、例えば、アルミニウム-ケイ素、ゼオライト、アルミニウム-チタニウム、アルミニウム-リン、アルミニウム-ホウ素、アルミニウム-マグネシウム、アルミニウム-ジルコニウム、アルミニウム-ケイ素-リン、アルミニウム-チタニウム-リン等の複合酸化物が例示されるが、これらに限定されるものではない。無機複合酸化物担体の性状および形状は、担持する金属成分の種類や組成等の種々の条件および触媒の用途に応じて、適宜選択される。
前記活性金属成分を担体に高分散状態に有効に担持して触媒活性を十分に確保するためには、通常、多孔質で所定の細孔を有する担体が好適に使用される。また、担体あるいは触媒体の機械的強度や耐熱性等の物性を制御するために、担体あるいは触媒体の形成に際して適当なバインダー成分や添加剤を含有させることもできる。
【0030】
本発明で使用される触媒A群およびB群の調製に用いた担体は、水銀圧入法で測定した平均細孔径(PD)が8.0~16.0nm、水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.5~1.1ml/gであり、触媒A群およびB群のN2のBET法で測定した比表面積が、140~290m2/gである。このような特性を有する触媒は、重質油の脱硫性能に優れている。
【0031】
このような、触媒の製造方法は、特開2017-196550号公報などに記載されているように、担体となる無機複合酸化物スラリーから所定の形状の担体を調製したのち、担持成分の金属成分と無機酸及び有機酸などとを含む含浸液を、担体に含浸させて、得られた金属成分が担持された担体を100~800℃の温度で加熱処理して触媒を得る方法を採用される。
また、担体の調製にあたっては、市販の擬ベーマイト粉末等を原材料に用いてもよい。
【0032】
たとえば、先ず塩基性金属塩水溶液と酸性金属塩の水溶液を、pHが6.5~9.5、好ましくは6.5~8.5、より好ましくは6.8~8.0になるように混合して無機複合酸化物の水和物を得る。この際、塩基性金属塩水溶液には、カルボン酸塩を含むこともできる。そして無機複合酸化物の水和物のスラリーを所望の手法により熟成した後、洗浄して副生成塩を除き、アルミナを主成分とした複合酸化物スラリーを得る。ここで用いるカルボン酸塩は、ポリアクリル酸、ヒドロキシプロピルセルロース、およびシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、グルコン酸、フマル酸、フタル酸、クエン酸などの塩が挙げられる。 塩基性アルミニウム塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどが好適に使用される。また、酸性アルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが好適に使用され、リン源としては亜リン酸イオンを包含し、リン酸アンモニア、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸、亜リン酸などの水中でリン酸イオンを生じるリン酸化合物が使用可能である。ケイ素鉱酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、四塩化ケイ素などが使用可能である。また、チタン鉱酸塩としては、四塩化チタン、三塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタンなどが例示され、特に硫酸チタン、硫酸チタニルは安価であるので好適に使用される。
【0033】
得られた水和物のスラリーに、必要に応じて、有機酸類または糖類から選ばれる少なくとも1種の有機添加剤を添加して熟成することもできる。有機酸類としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が挙げられる。また糖類としては、単糖類、二糖類、多糖類等があげられる。
この時、さらに前記有機添加剤を添加し、その後にさらに捏和してもよい。
【0034】
混合物(熟成物)をスチームジャケット付双腕式ニーダーに入れて加熱捏和して成型可能な捏和物とした後、押し出し成型などにより所望の形状に成型する。
得られた成型物を、次いで例えば70~150℃、好ましくは90~130℃で加熱乾燥し、更に例えば400~800℃、好ましくは400~600℃で、例えば0.5~10時間、好ましくは2~5時間焼成してアルミナ担体を得る。得られた担体に、金属成分と炭素成分とを含む含浸液を接触させる。前記した金属成分の原料としては、例えば、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、硝酸コバルト、炭酸コバルト、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、オルトリン酸(以下、単に「リン酸」ともいう)、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、トリメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸などが用いられる。
【0035】
含浸液は、有機酸を用いてpHを4以下にして、金属成分を溶解させることが好ましい。有機酸としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が使用でき、特に、クエン酸、リンゴ酸が好適に用いられる。有機添加剤としては、糖類(単糖類、二糖類、多糖類等)が用いられる。なお有機酸に有機添加剤、例えば、ブドウ糖(グルコース;C6H12O6)、果糖(フルクトース;C6H12O6)、麦芽糖(マルトース;C12H22O11)、乳糖(ラクトース;C12H22O11)、ショ糖(スクロース;C12H22O11)等を加えてもよい。
【0036】
含浸液と接触させて得られる金属成分を担持した担体を、100~800℃、好ましくは110~700℃、さらに好ましくは450~650℃で、0.5~10時間、好ましくは1~8時間で加熱処理して、触媒を製造する。
本発明では、上記脱硫部の上流に脱メタル部とトランジション部を有するが、上記脱硫部を採用する限り、これらの構成は特に制限されない。
【0037】
以下に好ましい一態様例について説明する。
脱メタル部
脱メタル部にて、脱硫触媒にとっての触媒毒であるメタル成分を除去することにより、脱硫工程における脱硫触媒の失活を抑制し、脱硫触媒の寿命を延ばすことが可能になる。
【0038】
脱メタル触媒は、炭化水素油中に含まれるバナジウム,ニッケル,鉄等のメタル成分が下流側の脱硫触媒の活性点上に堆積し触媒を失活させるのを防ぐために設けるものである。
脱メタル触媒としては市販のものなど、従来使用されているいずれのものも使用可能である。一般に、脱メタル触媒はアルミナ含有担体に、周期律表第6族金属および第8~10族金属を担持したものが使用される。周期律表第6族の金属としては、モリブデン、タングステンなどを挙げることができるが、モリブデンが好ましい。第6族金属の担持量は、触媒基準で、酸化物基準で2~15質量%、好ましくは4~12質量%である。周期律表第8~10族の金属として、コバルト、ニッケルなどを挙げることができるが、ニッケルが好ましい。第8~10族金属の担持量は、触媒基準で、酸化物基準で1~4質量%、好ましくは1.5~2.5質量%である。担体としては、アルミナが主成分であることが望ましく、触媒の細孔径は10~25nm、好ましくは15~22nm、比表面積は、80~220m2 /g、好ましくは100~190m2 /g、細孔容量は0.4~1.0cc/g、好ましくは0.5~0.9cc/gである。
【0039】
脱メタル部は、アルミナ担体に、CoやNiやMoを活性金属成分として担持した触媒がより好ましく使用され、必要に応じて2種類以上の触媒を積層して用いてもよい。
重質油に含まれるメタル成分は、金属と炭化水素とを含む含メタル化合物である。含メタル化合物の構造は特に限定されないが、例えば、炭化水素と金属とが化学結合(例えば配位結合)を形成したり、炭化水素が微粒子状の金属を被覆している。炭化水素は、例えば、鎖状炭化水素若しくはその異性体、環状炭化水素、ヘテロ環式化合物、または芳香族炭化水素等である。また炭化水素には、アスファルテンといった、ヘキサンなどの軽質の炭化水素に溶けない成分で縮合環の芳香族炭化水素が架橋結合した成分も含まれる。
【0040】
脱メタル反応では、水素を導入して、脱メタル触媒による含メタル化合物の水素化や分解を進行させて、含メタル化合物から分離されたメタルは、脱メタル触媒に形成された無数の細孔内に取り込まれ、除去される。
触媒担体としては、水素化処理触媒として一般に使用されている多孔性無機酸化物が使用可能であり、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、アルミナ-チタニア、アルミナ-ボリア、アルミナ-マグネシア、アルミナ-シリカ-チタニアなどが挙げられる。
【0041】
トランジション部
本発明では、脱メタル部と脱硫部の間に、トランジション部が設けられる。トランジション部は、脱メタル部と脱硫部での急激な活性変化を避けるために設けられ、脱メタル部・脱硫部のいずれの機能をも有する触媒が使用される。
トランジション部で使用される触媒は、脱メタル部、脱硫部で使用される触媒と同様のものを使用可能であるが、好ましいのは脱メタル部と脱硫部の中間程度の脱硫活性を有するような触媒であり、そのために脱メタル部と脱硫部の中間程度の活性金属量を有する触媒が好ましい。
【0042】
トランジション部の触媒は、従来使用あるいは市販されている脱メタル触媒・脱硫触媒を使用可能である。一般に、トランジション部の触媒はアルミナ含有担体に、周期律表第6族金属および第8~10族金属を担持したものが使用される。周期律表第6族の金属としては、モリブデン、タングステンなどを挙げることができるが、モリブデンが好ましい。第6族金属の担持量は、触媒基準で、酸化物基準で4~18質量%、好ましくは6~12質量%である。周期律表第8~10族の金属として、コバルト、ニッケルなどを挙げることができる。第8~10族金属の担持量は、触媒基準で、酸化物基準で1~4.5質量%、好ましくは1.5~3.0質量%である。担体としては、アルミナが主成分であることが望ましく、触媒の平均細孔径は10~25nm(好ましくは14~20nm)、比表面積は、100~240m2 /g(好ましくは120~190m2 /g)、細孔容量は0.4~1.0cc/g(好ましくは0.5~0.9cc/g)である。
【0043】
トランジション部は、担体に、NiやCoやMoを活性金属成分として担持した触媒が好ましく使用され、必要に応じて2種類以上の触媒を積層して用いてもよい。
脱メタル部及びトランジション部の触媒の調製方法は、前記脱硫触媒と同様にして行うことができる。
【0044】
本発明で処理される重質油は原油の蒸留残渣を主成分とするものであり、灯軽油留分と比べて分子量分布が広く、また原油の産地によって性状が大きく異なる。代表的な中東系や中南米系の重質油は、硫黄分やアスファルテンの含有量が多く、またアスファルテン含有量の高いものは残留炭素(残炭)およびバナジウム、ニッケル等の不純物金属を多く含んでいる。重質油は、直接脱硫装置での水素化精製処理によって低硫黄重油の原料や流動接触分解装置(RFCC)の原料油となる。
【0045】
本発明で使用される重質油に、特に制限はなく、例えば原油の常圧蒸留残渣油(AR)および減圧蒸留残渣油(VR)、接触分解残油、ビスブレーキング油、ビチューメンなどの密度の高い石油留分を挙げることができる。これらの重質油は、通常アスファルテンが1質量%以上含まれているが、これらの重質油から抽出したアスファルテンも原料油として用いることができる。 本発明においては、原料油として、これらを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、コーカー油、合成原油、ナフサカット原油、重質軽油、減圧軽油、LCO、GTL(Gas To Liquid)油、ワックス等を常圧蒸留残渣油等と混合して重質油として水素化処理をすることもできる。
【0046】
原料重質油は、比重が0.9~1.05、硫黄分が1~6質量%、窒素分が2000質量ppmを超え10000質量ppm以下、360℃以上の沸点である成分が80質量%以上の蒸留性状を有するものが使用される。
前記触媒を使用した水素化処理は、固定床反応装置に、流通方向に、脱メタル部、トランジション部、脱硫部となるように前記触媒を積層して充填し、水素雰囲気下、高温高圧条件で、重質油を通液して行なわれる。
【0047】
図1は、1つの反応器を使用する本発明の方法の工程図である。
図1に示すように、原料油は反応装置上部から供給され、脱メタル部、トランジション部、脱硫部の各触媒が充填された領域の順に通過して、水素化処理される。各部に応じて、温度領域が設定され、通常メタル部が充填された低温領域と、脱硫部の高温領域および、その中間にある、トランジション部の中温度領域となるが、運転の状況に応じて、それら温度領域が異なることもある。
【0048】
なお、反応装置内における脱メタル部、トランジション部、脱硫部は、体積比で5~60:5~50:20~85が好ましい。脱メタル触媒が少なすぎると脱硫部の触媒失活と生成油のメタル濃度の上昇の原因となり好ましくない。また脱硫部の触媒が少なすぎると、生成油の硫黄濃度上昇の原因となり好ましくない。
また、脱硫部における、触媒A群と触媒B群の体積比は、10~90:90~10が好ましく、25~75:75~25がより好ましい。それぞれの触媒量が少なすぎると、異なる被毒特性の触媒積層による相乗効果を得られないため、好ましくない。
【0049】
なお、最初に行われる脱メタル部で処理された炭化水素油中には、当該処理によって除去できなかった微量の金属成分が含まれていることもあるが、こうした残留成分は続くトランジション部や水素脱硫部で処理の際に水素化され除去される。
水素化処理反応を行なうに際しては、上記のように1つの断熱型反応器で実施することもできるが、下記のように複数の断熱型反応器を各部ごとに、直列に連結して一連の処理を行なうことができる。各部間には硫化水素やアンモニア等を除去するストリッピング設備や熱回収および加熱手段を設けてもよい。
【0050】
複数の断熱型反応器を使用する場合は、連結された反応器全体について、脱メタル部、トランジション部、脱硫部は、体積比で5~60:5~50:20~85であることが好ましい。また、脱硫部における、触媒A群と触媒B群の体積比は、10~90:90~10が好ましく、25~75:75~25がより好ましい。
処理条件の一例としては、水素分圧が5.0~20MPa、温度が350~420℃、液(被処理液である炭化水素油)空間速度が0.1~3.0hr-1である。
【0051】
得られた処理油は、必要に応じて、流動接触分解装置にて接触分解処理される。上記流動接触分解装置による接触分解処理は、特に制限はなく、公知の方法、条件で行えばよい。例えば、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシアなどのアモルファス触媒や、フォージャサイト型結晶アルミノシリケートなどのゼオライト触媒を用い、反応温度450~650℃程度、好ましくは480~580℃、再生温度550~760℃程度、反応圧力0.02~5MPa程度、好ましくは0.2~2MPaの範囲で適宜選定すればよい。最終工程である流動接触分解装置にて接触分解処理された生成油は、燃料や石油化学製品の原料として使用することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0053】
<担体成分(アルミナ、リン等)および金属成分(モリブデン、コバルト、ニッケル等)の含有量の測定方法>
測定試料3gを容量30mlの蓋付きジルコニアボールに採取し、加熱処理(200℃、20分)させ、焼成(700℃、5分)した後、Na2O2 2gおよびNaOH 1gを加えて15分間溶融した。さらに、H2SO4 25mlと水200mlを加えて溶解したのち、純水で500mlになるように希釈して試料とした。得られた試料について、ICP装置(島津製作所(株)製、ICPS-8100、解析ソフトウェアICPS-8000)を用いて、各成分の含有量を酸化物換算基準で測定した。
【0054】
<窒素吸脱着測定のBET一点法により求められる触媒の表面積(比表面積N2)の測定方法>
測定試料を磁製ルツボ(B-2型)に約30mL採取し、500℃の温度で2時間加熱処理後、デシケータに入れて室温まで冷却し、測定用サンプルを得た。次に、このサンプルを1g取り、全自動表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製、マルチソーブ12型)を用いて、試料の比表面積(m2/g) をBET法にて測定した。
【0055】
<担体および触媒の平均細孔径の測定方法>
測定試料を磁製ルツボに約3g採取し、500℃の温度で1時間加熱処理後、デシケータに入れて室温まで冷却し、測定用サンプルを得たのち、水銀圧入法(水銀の接触角:150度、表面張力:480dyn/cm)によって測定した。平均細孔径は細孔容積の50 %に相当する細孔直径とした。
【0056】
<担体および触媒の細孔容積の測定方法>
測定試料を磁製ルツボに約採取し、500℃の温度で1時間加熱処理後、デシケータに入れて室温まで冷却し、測定用サンプルを得たのち、水のポアフィリング法により細孔容積を測定した。
【0057】
<炭化水素油の分析方法>
硫黄濃度はJIS K 2541-7に準拠して測定した。窒素濃度はJIS K2609に準拠して測定した。メタル(Ni及びV)濃度は石油学会JPI-5S-62に準拠して測定した。比重はJIS K 2249-1に準拠して測定した。蒸留性状はASTM D2892に準拠して測定した。
【0058】
<担体の調製>
担体Aの調製
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水35.2kgを張り込み、攪拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Al2O3として濃度7質量%)13.0kgを添加し、60℃に加温して循環させた。この時の硫酸アルミニウム水溶液(A1)のpHは2.3であった。次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液9.5kg(Al2O3として濃度22質量%)を攪拌及び循環させながら60℃を保ちながら、上記の硫酸アルミニウム水溶液(A1)に180分で添加し、アルミナ水和物(A)を得た。添加後のpHは、9.5であった。アルミナ水和物(A)を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去した。洗浄ケーキに純水を加えて、Al2O3濃度が8質量%となるように調製した後、還流器のついた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ水和物(A)を得た。
こうして得られたケーキ状のアルミナ水和物(A)を、スチームジャケットを備えた双腕式ニーダーにて練りながら所定の水分量まで濃縮捏和した。得られた捏和物を押出成型機にて1.7mmの四つ葉型の柱状に押し出し成型した。得られたアルミナ成型品は、110℃で12時間乾燥した後、さらに500℃で3時間焼成して担体Aを得た。
【0059】
担体Bの調製
担体Aの調製時に、硫酸アルミニウム水溶液を添加する際に、同時にリン酸49.2g(関東化学(株)製、P2O5として濃度61.6質量%)を添加した以外は同様にして、担体Bを得た。担体BにはリンがP2O5濃度換算で1.2質量%、アルミニウムがAl2O3濃度換算で98.8質量%(いずれも担体全量基準)含有されていた。担体Bの性状は表1に示す。
【0060】
担体Cの調製
担体Aの調製時に、硫酸アルミニウム水溶液を添加する際に、同時に硫酸チタニル水溶液1.91kg(TiO2として濃度5.0質量%)及びケイ酸ナトリウム水溶液0.40kg(SiO2として濃度24質量%)を添加した以外は同様にして、担体Cを得た。担体CにはチタンがTiO2濃度換算で3.2質量%、シリカがSiO2濃度換算で3質量%、アルミニウムがAl2O3濃度換算で93.8質量%(いずれも担体全量基準)含有されていた。担体Cの性状は表1に示す。
【0061】
<含浸液の調製>
含浸液aの調製
三酸化モリブデン(関東化学(株)製、純度100質量%)73.2gと炭酸コバルト(関東化学(株)製、CoOとして濃度61.3質量%)29.9gを、イオン交換水300mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃で5時間液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸(関東化学(株)製、P2O5として濃度61.6質量%)29.71gとクエン酸(関東化学(株)、純度100質量%)27.44gを加えて溶解させ、含浸液aを作製した。
【0062】
含浸液bの調製
三酸化モリブデン73.2gと炭酸ニッケル(富士フィルム和光純薬(株)製、NiOとして濃度55質量%)33.3gを、イオン交換水300mlに懸濁させることに変更した以外は、含浸液aの調製法と同様にして、含浸液bを作製した。
【0063】
含浸液cの調製
三酸化モリブデン73.2gと炭酸コバルト19.9gと炭酸ニッケル11.1gを、イオン交換水300mlに懸濁させることに変更した以外は、含浸液aの調製法と同様にして、含浸液cを作製した。
【0064】
含浸液dの調製
三酸化モリブデン73.2gと炭酸コバルト10.0gと炭酸ニッケル22.2gを、イオン交換水300mlに懸濁させることに変更した以外は、含浸液aの調製法と同様にして、含浸液dを作製した。
【0065】
<製造例1:脱硫触媒アの調製>
担体A500gに含浸液aを噴霧含浸させた後、250℃で乾燥し、更に電気炉にて550℃で1時間焼成して脱硫触媒ア(以下、単に「触媒ア」ともいう。以下の実施例についても同様である。)を得た。
【0066】
<製造例2:脱硫触媒イの調製>
含浸液を含浸液bに変更した以外は、触媒アの製法と同様にして、脱硫触媒イ(以下、単に「触媒イ」ともいう。以下の実施例についても同様である。)を得た。
【0067】
<製造例3:脱硫触媒ウの調製>
含浸液を含浸液cに変更した以外は、触媒アの製法と同様にして、脱硫触媒ウ(以下、単に「触媒ウ」ともいう。以下の実施例についても同様である。)を得た。
【0068】
<製造例4:脱硫触媒エの調製>
含浸液を含浸液dに変更した以外は、触媒アの製法と同様にして、脱硫触媒エ(以下、単に「触媒エ」ともいう。以下の実施例についても同様である。)を得た。
【0069】
<製造例5:脱硫触媒オの調製>
担体を担体B500gに変更した以外は、触媒アの製法と同様にして、脱硫触媒オ(以下、単に「触媒オ」ともいう。以下の実施例についても同様である。)を得た。
【0070】
<製造例6:脱硫触媒カの調製>
担体を担体C500gに変更した以外は、触媒アの製法と同様にして、脱硫触媒カ(以下、単に「触媒カ」ともいう。以下の実施例についても同様である。)を得た。
【0071】
【0072】
<実施例1~10、比較例1~3>
製造例で作製した触媒を、表2のように、脱硫部1層、脱硫部2層及び脱硫部3層に使用するように、各触媒を固定床流通式反応装置(触媒充填容積350ml)に充填した。脱メタル部には市販の脱メタル触媒CDS-DMS10(日揮触媒化成株式会社)およびトランジション部には市販のトランジション触媒CDS-DMS50(日揮触媒化成株式会社)を使用した。
【0073】
充填した触媒に対し、触媒に含まれている酸素原子を脱離させて活性化するために、予備硫化処理した。この処理は、硫黄化合物を含む液体または気体を200℃~400℃の温度、常圧~100MPaの水素圧雰囲気下の管理された反応容器中で流通させることによって行われる。
【0074】
固定床流通式反応装置内に、重質油(15℃における密度0.9759g/cm3、硫黄分4.051質量%、メタル(Ni+V)分Ni83.2質量ppm、窒素分2240質量ppm、アスファルテン4.3質量%、残留炭素分11.2質量%)を導入して水素化処理を行なった。その際の反応条件は、水素分圧が13.5MPa、液空間速度が0.3h-1、水素油比が800Nm3/klである。そして反応温度を360~380℃の範囲で変化させ、最終的に得られる生成油中の硫黄分、メタル分、窒素分、残留炭素分の分析を行った。
活性試験における試験結果は、アレニウスプロットより反応速度定数を求め、脱硫触媒部に触媒アのみを充填した組み合わせ評価結果の反応速度定数を100%とし、脱メタル活性及び脱硫活性を算出した(相対活性)。反応速度定数は、下記(1)式に基づいて求めた。
【0075】
Kn=LHSV×1/(n-1)×(1/Pn-1-1/Fn-1) …(1)
ここで、
Kn:反応速度定数
n:脱メタル反応では1.01、脱硫反応では2.0
P:処理油中のメタル濃度(質量ppm)、硫黄濃度(質量%)、残留炭素分(質量%)
F:原料油中のメタル濃度(質量ppm)、硫黄濃度(質量%)、残留炭素分(質量%)
LHSV:液空間速度(hr-1)
結果を表2に示す。
【0076】