(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】X線CTシステム及び医用処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
A61B6/03 373
A61B6/03 371
A61B6/03 360J
(21)【出願番号】P 2019160921
(22)【出願日】2019-09-04
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 博基
(72)【発明者】
【氏名】プラブ ベーレカー アクシャイ
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-235088(JP,A)
【文献】国際公開第2018/108849(WO,A1)
【文献】特開2010-125332(JP,A)
【文献】特開2011-245117(JP,A)
【文献】特表2017-527383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の体軸方向に沿った第1の範囲にX線を照射することで第1のX線エネルギーに対応する第1データセットを収集する第1スキャンを実行し、前記第1スキャンの後で、前記体軸方向に沿った、前記第1の範囲より狭い第2の範囲にX線を照射することで、前記第1のX線エネルギーとは異なる第2のXエネルギーに対応する第2データセットを収集する第2スキャンを実行するスキャン部と、
前記第1データセット及び前記第2データセットに基づいて、
2種類の基準物質による物質弁別を行なう処理部と、
を備えた、X線CTシステム。
【請求項2】
前記第1データセットは、X線の焦点位置及び前記被検体の少なくともいずれかを前記体軸方向に沿って移動させながら収集され、
前記第2データセットは、X線の焦点位置を前記被検体の周囲で回転させながら収集される、請求項1に記載のX線CTシステム。
【請求項3】
前記第1データセットは、X線の焦点位置を前記被検体の周囲で回転させないで収集される、請求項2に記載のX線CTシステム。
【請求項4】
前記第2データセットは、X線の焦点位置及び前記被検体を前記体軸方向に沿って移動させないで収集される、請求項3に記載のX線CTシステム。
【請求項5】
前記処理部は、前記第1データセットに基づいて2次元の第1画像データを生成し、前記第2データセットに基づいて3次元の第2画像データを生成し、前記第2画像データに基づいて2次元の第3画像データを生成し、前記第1画像データと前記第3画像データとに基づいて前記物質弁別を行なう、請求項3又は4に記載のX線CTシステム。
【請求項6】
前記処理部は、前記第2画像データにおいて前記被検体の疾患が位置する対象領域を特定し、前記第1画像データ及び前記第3画像データにおいて前記対象領域に対応する領域について、前記物質弁別を行なう、請求項5に記載のX線CTシステム。
【請求項7】
前記第2の範囲は、前記第1データセットに基づいて設定される、請求項1~6のいずれか一項に記載のX線CTシステム。
【請求項8】
被検体の体軸方向に沿った第1の範囲にX線を照射することで収集された第1のX線エネルギーに対応する第1データセット、及び、前記体軸方向に沿った前記第1の範囲より狭い第2の範囲にX線を照射することで前記第1データセットの後に収集された、前記第1のX線エネルギーとは異なる第2のXエネルギーに対応する第2データセットに基づいて、
2種類の基準物質による物質弁別を行なう処理部
を備えた、医用処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線CTシステム及び医用処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT(Computed Tomography)スキャナで収集した2種類以上のX線エネルギーに対応する投影データに基づいて、複数の基準物質による対象物の物質弁別を行い、その結果を画像として表示する技術がある。2種類のX線エネルギーを利用する場合、この技術はデュアルエナジー(Dual Energy:DE)と呼ばれ、2種類の基準物質による物質弁別が可能である。
【0003】
例えば、デュアルエナジーの技術によれば、被検体の体内における腎臓結石や脂肪、軟組織、骨といった物質を弁別することが可能である。また、例えば、デュアルエナジーの技術によれば、被検体の体内における腎臓結石がカルシウムタイプの結石であるか尿酸タイプの結石であるかを判定することができる。
【0004】
ここで、スキャンは常にデュアルエナジーで行われるものではなく、単一エネルギーでのスキャンが実行される場合も多い。また、単一エネルギーでのスキャンの結果に基づいて、デュアルエナジーでの物質弁別が必要と判断される場合もある。例えば、単一エネルギーでのスキャンを行なった結果、腎臓結石の存在が明らかとなり、この腎臓結石がカルシウムタイプか尿酸タイプかを判定するために、デュアルエナジーでの物質弁別が必要と判断される場合がある。ここで、改めてデュアルエナジーのスキャンを実行するとなれば、被検体の負担は大きく、また、被ばく量も増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-42604号公報
【文献】特開2017-518844号公報
【文献】特開2007-268274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、追加のスキャンによらずに物質弁別を行なうことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のX線CTシステムは、スキャン部と、処理部とを備える。スキャン部は、被検体の体軸方向に沿った第1の範囲にX線を照射することで第1のX線エネルギーに対応する第1データセットを収集する第1スキャンを実行し、前記第1スキャンの後で、前記体軸方向に沿った、前記第1の範囲より狭い第2の範囲にX線を照射することで、前記第1のX線エネルギーとは異なる第2のXエネルギーに対応する第2データセットを収集する第2スキャンを実行する。処理部は、前記第1データセット及び前記第2データセットに基づいて、複数の基準物質による物質弁別を行なう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るX線CTシステムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係るX線CTシステムの処理の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係るX線CTシステムの処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図4】
図4は、第2の実施形態に係る医用情報処理システムの構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、X線CTシステム及び医用処理装置の実施形態について詳細に説明する。なお、本願に係るX線CTシステム及び医用処理装置は、以下に示す実施形態によって限定されるものではない。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、
図1を参照しながら、第1の実施形態に係るX線CTシステム10の構成について説明する。
図1は、第1の実施形態に係るX線CTシステム10の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、X線CTシステム10は、架台装置110と、寝台装置130と、コンソール装置140とを有する。なお、X線CTシステム10は、X線CT装置又はX線CTスキャナとも呼ばれる。
【0011】
図1においては、非チルト状態での回転フレーム113の回転軸又は寝台装置130の天板133の長手方向をZ軸方向とする。また、Z軸方向に直交し、床面に対し水平である軸方向をX軸方向とする。また、Z軸方向に直交し、床面に対し垂直である軸方向をY軸方向とする。なお、
図1は、説明のために架台装置110を複数方向から描画したものであり、X線CTシステム10が架台装置110を1つ有する場合を示す。
【0012】
架台装置110は、X線管111と、X線検出器112と、回転フレーム113と、X線高電圧装置114と、制御装置115と、ウェッジ116と、コリメータ117と、DAS118とを有する。
【0013】
X線管111は、熱電子を発生する陰極(フィラメント)と、熱電子の衝突を受けてX線を発生する陽極(ターゲット)とを有する真空管である。X線管111は、X線高電圧装置114からの高電圧の印加により、陰極から陽極に向けて熱電子を照射することで、被検体Pに対し照射するX線を発生する。
【0014】
X線検出器112は、X線管111から照射されて被検体Pを通過したX線を検出し、検出したX線量に対応した信号をDAS118へと出力する。X線検出器112は、例えば、X線管111の焦点を中心とした1つの円弧に沿ってチャンネル方向(チャネル方向)に複数の検出素子が配列された複数の検出素子列を有する。X線検出器112は、例えば、チャネル方向に複数の検出素子が配列された検出素子列が列方向(スライス方向、row方向)に複数配列された構造を有する。
【0015】
例えば、X線検出器112は、グリッドと、シンチレータアレイと、光センサアレイとを有する間接変換型の検出器である。シンチレータアレイは、複数のシンチレータを有する。シンチレータは入射X線量に応じた光子量の光を出力するシンチレータ結晶を有する。グリッドは、シンチレータアレイのX線入射側の面に配置され、散乱X線を吸収するX線遮蔽板を有する。なお、グリッドはコリメータ(1次元コリメータ又は2次元コリメータ)と呼ばれる場合もある。光センサアレイは、シンチレータからの光量に応じた電気信号に変換する機能を有し、例えば、フォトダイオード等の光センサを有する。なお、X線検出器112は、入射したX線を電気信号に変換する半導体素子を有する直接変換型の検出器であっても構わない。
【0016】
回転フレーム113は、X線管111とX線検出器112とを対向支持し、制御装置115によってX線管111とX線検出器112とを回転させる円環状のフレームである。例えば、回転フレーム113は、アルミニウムを材料とした鋳物である。なお、回転フレーム113は、X線管111及びX線検出器112に加えて、X線高電圧装置114やウェッジ116、コリメータ117、DAS118等を更に支持することもできる。更に、回転フレーム113は、
図1において図示しない種々の構成を更に支持することもできる。以下では、架台装置110において、回転フレーム113、及び、回転フレーム113と共に回転移動する部分を、回転部とも記載する。
【0017】
X線高電圧装置114は、変圧器(トランス)及び整流器等の電気回路を有し、X線管111に印加する高電圧を発生する高電圧発生装置と、X線管111が発生するX線に応じた出力電圧の制御を行なうX線制御装置とを有する。高電圧発生装置は、変圧器方式であってもよいし、インバータ方式であってもよい。なお、X線高電圧装置114は、回転フレーム113に設けられてもよいし、図示しない固定フレームに設けられても構わない。
【0018】
制御装置115は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理回路と、モータ及びアクチュエータ等の駆動機構とを有する。制御装置115は、入力インターフェース143からの入力信号を受けて、架台装置110及び寝台装置130の動作制御を行なう。例えば、制御装置115は、回転フレーム113の回転や架台装置110のチルト、寝台装置130の動作等について制御を行なう。一例を挙げると、制御装置115は、架台装置110をチルトさせる制御として、入力された傾斜角度(チルト角度)情報により、X軸方向に平行な軸を中心に回転フレーム113を回転させる。なお、制御装置115は架台装置110に設けられてもよいし、コンソール装置140に設けられてもよい。
【0019】
ウェッジ116は、X線管111から照射されたX線量を調節するためのX線フィルタである。具体的には、ウェッジ116は、X線管111から被検体Pへ照射されるX線が予め定められた分布になるように、X線管111から照射されたX線を減衰させるX線フィルタである。例えば、ウェッジ116は、ウェッジフィルタ(wedge filter)やボウタイフィルタ(bow-tie filter)であり、所定のターゲット角度や所定の厚みとなるようにアルミニウム等を加工して作製される。
【0020】
コリメータ117は、ウェッジ116を透過したX線の照射範囲を絞り込むための鉛板等であり、複数の鉛板等の組み合わせによってスリットを形成する。なお、コリメータ117は、X線絞りと呼ばれる場合もある。また、
図1においては、X線管111とコリメータ117との間にウェッジ116が配置される場合を示すが、X線管111とウェッジ116との間にコリメータ117が配置される場合であってもよい。この場合、ウェッジ116は、X線管111から照射され、コリメータ117により照射範囲が制限されたX線を透過して減衰させる。
【0021】
DAS118は、X線検出器112が有する各検出素子によって検出されるX線の信号を収集する。例えば、DAS118は、各検出素子から出力される電気信号に対して増幅処理を行なう増幅器と、電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とを有し、検出データを生成する。DAS118は、例えば、プロセッサにより実現される。
【0022】
DAS118が生成したデータは、回転フレーム113に設けられた発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)を有する送信機から、光通信によって、架台装置110の非回転部分(例えば、固定フレーム等。
図1での図示は省略している)に設けられた、フォトダイオードを有する受信機に送信され、コンソール装置140へと転送される。ここで、非回転部分とは、例えば、回転フレーム113を回転可能に支持する固定フレーム等である。なお、回転フレーム113から架台装置110の非回転部分へのデータの送信方法は、光通信に限らず、非接触型の如何なるデータ伝送方式を採用してもよいし、接触型のデータ伝送方式を採用しても構わない。
【0023】
寝台装置130は、スキャン対象の被検体Pを載置、移動させる装置であり、基台131と、寝台駆動装置132と、天板133と、支持フレーム134とを有する。基台131は、支持フレーム134を鉛直方向に移動可能に支持する筐体である。寝台駆動装置132は、被検体Pが載置された天板133を、天板133の長軸方向に移動する駆動機構であり、モータ及びアクチュエータ等を含む。支持フレーム134の上面に設けられた天板133は、被検体Pが載置される板である。なお、寝台駆動装置132は、天板133に加え、支持フレーム134を天板133の長軸方向に移動してもよい。
【0024】
コンソール装置140は、メモリ141と、ディスプレイ142と、入力インターフェース143と、処理回路144とを有する。なお、コンソール装置140は架台装置110とは別体として説明するが、架台装置110にコンソール装置140又はコンソール装置140の各構成要素の一部が含まれてもよい。
【0025】
メモリ141は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。例えば、メモリ141は、被検体Pに対するスキャンを実行することで収集される各種のデータを記憶する。また、例えば、メモリ141は、X線CTシステム10に含まれる回路がその機能を実現するためのプログラムを記憶する。なお、メモリ141は、X線CTシステム10とネットワークを介して接続されたサーバ群(クラウド)により実現されることとしてもよい。
【0026】
ディスプレイ142は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ142は、処理回路144により生成された表示用のCT画像や、物質弁別の結果を表示する。また、例えば、ディスプレイ142は、ユーザからの各種操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示する。例えば、ディスプレイ142は、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイである。ディスプレイ142は、デスクトップ型でもよいし、コンソール装置140本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。
【0027】
入力インターフェース143は、ユーザからの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路144に出力する。例えば、入力インターフェース143は、CT画像データを再構成する際の再構成条件や、CT画像データから表示用のCT画像を生成する際の画像処理条件等をユーザから受け付ける。例えば、入力インターフェース143は、マウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、操作面へ触れることで入力操作を行なうタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、音声入力回路等により実現される。なお、入力インターフェース143は、架台装置110に設けられてもよい。また、入力インターフェース143は、コンソール装置140本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。また、入力インターフェース143は、マウスやキーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、コンソール装置140とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路144へ出力する電気信号の処理回路も入力インターフェース143の例に含まれる。
【0028】
処理回路144は、スキャン機能144a、処理機能144b、及び制御機能144cを実行することで、X線CTシステム10全体の動作を制御する。なお、スキャン機能144aは、スキャン部の一例である。また、処理機能144bは、処理部の一例である。
【0029】
例えば、処理回路144は、スキャン機能144aに相当するプログラムをメモリ141から読み出して実行することにより、被検体Pに対するスキャンを実行する。例えば、スキャン機能144aは、被検体Pに対して、位置決め撮影や本スキャンといった各種のスキャンを実行する。
【0030】
ここで、位置決め撮影については、2次元で実行されてもよいし、3次元で実行されてもよい。本実施形態では一例として、2次元の位置決め撮影を実行する場合について説明する。この場合、スキャン機能144aは、X線の焦点位置を被検体Pの周囲で回転させないで、X線の焦点位置及び被検体Pの少なくともいずれかを被検体Pの体軸方向(
図1に示すZ軸方向)に沿って移動させながら、位置決め撮影を実行する。
【0031】
例えば、スキャン機能144aは、X線管111の位置を所定の回転角度に固定し、天板133をZ軸方向に移動させながら、X線管111から被検体Pに対してX線を照射させる。また、スキャン機能144aによって位置決め撮影が実行される間、DAS118は、X線検出器112における各検出素子からX線の信号を収集し、検出データを生成する。また、スキャン機能144aは、DAS118から出力された検出データに対して前処理を施す。例えば、スキャン機能144aは、DAS118から出力された検出データに対して、対数変換処理やオフセット補正処理、チャンネル間の感度補正処理、ビームハードニング補正等の前処理を施す。なお、前処理を施した後のデータについては生データとも記載する。また、前処理を施す前の検出データ及び前処理を施した後の生データを総称して、投影データとも記載する。
【0032】
即ち、スキャン機能144aは、X線管111の位置を所定の回転角度に固定し、天板133をZ軸方向に移動させながら、X線管111から被検体Pに対してX線を照射させることで、被検体Pの体軸方向における複数の位置それぞれについて投影データを収集する。以下では、複数の投影データをまとめて、投影データセットとも記載する。即ち、スキャン機能144aは、位置決め撮影を実行することにより、投影データセットを収集する。
【0033】
また、処理回路144は、処理機能144bに相当するプログラムをメモリ141から読み出して実行することにより、スキャン結果に基づいて画像データを生成する。例えば、処理機能144bは、位置決め撮影により収集された投影データセットに基づいて位置決め画像データを生成する。なお、位置決め画像データは、スキャノ画像データやスカウト画像データと呼ばれる場合もある。
【0034】
また、本スキャンについては、例えば、コンベンショナルスキャンの方式で実行されてもよいし、ヘリカルスキャンの方式で実行されてもよいし、ステップアンドシュート方式で実行されてもよい。
【0035】
コンベンショナルスキャンの方式で本スキャンを実行する場合、スキャン機能144aは、X線の焦点位置及び被検体Pを体軸方向に沿って移動させないで、X線の焦点位置を被検体Pの周囲で回転させながら、本スキャンを実行する。例えば、スキャン機能144aは、天板133を停止させた状態で、X線管111を被検体Pの周囲で回転させながら、X線管111から被検体Pに対してX線を照射させる。
【0036】
また、ヘリカルスキャンの方式で本スキャンを実行する場合、スキャン機能144aは、X線の焦点位置及び被検体Pを体軸方向に沿って移動させるとともに、X線の焦点位置を被検体Pの周囲で回転させながら、本スキャンを実行する。例えば、スキャン機能144aは、天板133をZ軸方向に移動させるとともに、X線管111を被検体Pの周囲で回転させながら、X線管111から被検体Pに対してX線を照射させる。
【0037】
ステップアンドシュート方式で本スキャンを実行する場合、スキャン機能144aは、まず、X線の焦点位置及び被検体Pを体軸方向に沿って移動させないで、X線の焦点位置を被検体Pの周囲で回転させながら、本スキャンを実行する。例えば、スキャン機能144aは、天板133を停止させた状態で、X線管111を被検体Pの周囲で回転させながら、X線管111から被検体Pに対してX線を照射させる。次に、スキャン機能144aは、X線管111からのX線の照射を停止させた状態で、天板133をZ軸方向に移動させる。そして、スキャン機能144aは、天板133を停止させた状態で、X線管111を被検体Pの周囲で回転させながら、X線管111から被検体Pに対してX線を再度照射させる。
【0038】
スキャン機能144aによって本スキャンが実行される間、DAS118は、X線検出器112における各検出素子からX線の信号を収集し、検出データを生成する。また、スキャン機能144aは、DAS118から出力された検出データに対して、対数変換処理やオフセット補正処理、チャンネル間の感度補正処理、ビームハードニング補正等の前処理を施す。
【0039】
即ち、スキャン機能144aは、X線の焦点位置を被検体Pの周囲で回転させながらX線を被検体Pに照射することで、複数の照射方向(ビュー)のそれぞれについて投影データを収集する。即ち、スキャン機能144aは、本スキャンを実行することにより、投影データセットを収集する。
【0040】
また、処理機能144bは、本スキャンにより収集された投影データセットに基づいて、CT画像データ(ボリュームデータ)を生成する。例えば、処理機能144bは、投影データセットに基づいて、フィルタ補正逆投影法や逐次近似再構成法、逐次近似応用再構成法等を用いた再構成処理を行なうことにより、CT画像データを生成する。また、処理機能144bは、AI(Artificial Intelligence)による再構成処理を行なってCT画像データを生成することもできる。例えば、処理機能144bは、DLR(Deep Learning Reconstruction)法により、CT画像データを生成する。
【0041】
また、処理機能144bは、位置決め撮影により収集された投影データセット及び本スキャンにより収集された投影データセットに基づいて、複数の基準物質による物質弁別を行なう。例えば、本スキャンにより収集された投影データセットに基づいて被検体Pにおける疾患の存在が明らかとなった場合、処理機能144bは、疾患の解析を行なうため、位置決め撮影により収集された投影データセット及び本スキャンにより収集された投影データセットに基づいて物質弁別を行なう。なお、処理機能144bによる物質弁別については後述する。
【0042】
また、処理回路144は、制御機能144cに対応するプログラムをメモリ141から読み出して実行することにより、ディスプレイ142における表示の制御を行なう。例えば、制御機能144cは、処理機能144bにより生成された位置決め画像データやCT画像データを、公知の方法により表示用画像に変換する。一例を挙げると、制御機能144cは、入力インターフェース143を介してユーザから受け付けた入力操作等に基づいて、CT画像データを任意断面の断層像データや3次元画像データ等に変換する。そして、制御機能144cは、変換した表示用画像をディスプレイ142に表示させる。また、制御機能144cは、処理機能144bによる物質弁別の結果をディスプレイ142に表示させる。また、制御機能144cは、ネットワークを介して各種のデータを送信する。一例を挙げると、制御機能144cは、処理機能144bにより生成された位置決め画像データやCT画像データを、図示しない画像保管装置に送信して保管させる。
【0043】
図1に示すX線CTシステム10においては、各処理機能がコンピュータによって実行可能なプログラムの形態でメモリ141へ記憶されている。処理回路144は、メモリ141からプログラムを読み出して実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、プログラムを読み出した状態の処理回路144は、読み出したプログラムに対応する機能を有することとなる。
【0044】
なお、
図1においては単一の処理回路144にて、スキャン機能144a、処理機能144b、及び制御機能144cが実現するものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路144を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。また、処理回路144が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
【0045】
また、処理回路144は、ネットワークを介して接続された外部装置のプロセッサを利用して、機能を実現することとしてもよい。例えば、処理回路144は、メモリ141から各機能に対応するプログラムを読み出して実行するとともに、X線CTシステム10とネットワークを介して接続されたサーバ群(クラウド)を計算資源として利用することにより、
図1に示す各機能を実現する。
【0046】
以上、X線CTシステム10の構成例について説明した。以下、X線CTシステム10が行なう処理について、
図2を用いて詳細に説明する。
図2は、第1の実施形態に係るX線CTシステム10の処理の一例を示す図である。
【0047】
まず、スキャン機能144aは、スキャンA11を実行する。具体的には、スキャン機能144aは、
図2に示すように、X線の焦点位置を被検体Pの周囲で回転させないで、X線の焦点位置を被検体Pに対して相対的に移動させながら、被検体Pに対して、エネルギーE11のX線を照射させる。これにより、スキャン機能144aは、被検体Pの体軸方向に沿った範囲R1にX線を照射して、エネルギーE11に対応する投影データセットB11を収集する。例えば、スキャン機能144aは、X線管111の位置を所定の回転角度に固定し、天板133をZ軸方向に移動させて、投影データセットB11を収集する。また、処理機能144bは、スキャンA11により収集された投影データセットB11に基づいて、2次元の画像データC11を生成する。
【0048】
なお、スキャンA11は、第1スキャンの一例である。また、範囲R1は、第1の範囲の一例である。また、投影データセットB11は、第1投影データセットの一例である。また、エネルギーE11は、第1のX線エネルギーの一例である。また、画像データC11は、第1画像データの一例である。
【0049】
次に、制御機能144cは、画像データC11に基づく参照画像をディスプレイ142に表示させる。また、制御機能144cは、参照画像を参照したユーザからの入力操作を受け付けることで、スキャンA12のスキャン範囲である範囲R2を設定する。なお、スキャンA12は、第2スキャンの一例である。また、範囲R2は、第2の範囲の一例である。
【0050】
即ち、スキャンA11は、スキャンA12のスキャン範囲である範囲R2を設定するための位置決め撮影である。従って、スキャンA11の範囲R1は、診断対象の臓器等を含むように、比較的広域に設定されることが好ましい。また、範囲R2は、範囲R1において設定されるものであるため、通常は
図2に示すように、範囲R1より狭い範囲となる。
【0051】
次に、スキャン機能144aは、参照画像に設定された範囲R2に対して、スキャンA12を実行する。具体的には、スキャン機能144aは、
図2に示すように、X線の焦点位置を被検体Pの周囲で回転させながら、被検体Pに対して、エネルギーE12のX線を照射させる。これにより、スキャン機能144aは、被検体Pの体軸方向に沿った範囲R2にX線を照射して、エネルギーE12に対応する投影データセットB12を収集する。例えば、スキャン機能144aは、コンベンショナルスキャン、ヘリカルスキャン、ステップアンドシュートといった方式のスキャンを実行することで、投影データセットB12を収集する。
【0052】
なお、投影データセットB12は、第2投影データセットの一例である。また、エネルギーE12は、第2のX線エネルギーの一例である。エネルギーE12は、エネルギーE11とは異なるエネルギーである。
【0053】
また、処理機能144bは、スキャンA12により収集された投影データセットB12に基づいて、3次元の画像データC12を生成する。なお、画像データC12は、第2画像データの一例である。例えば、処理機能144bは、投影データセットB12に基づいて、フィルタ補正逆投影法や逐次近似再構成法、逐次近似応用再構成法、DLR法といった再構成処理を実行することにより、3次元の画像データC12を再構成する。即ち、スキャンA12は、CT画像データ(ボリュームデータ)を収集するための本スキャンである。
【0054】
なお、スキャン機能144aは、被検体Pの心拍又は呼吸の周期に応じて、スキャンA11とスキャンA12とを同期させて実行することとしてもよい。即ち、スキャン機能144aは、心拍又は呼吸による周期的な動きによってスキャンA11とスキャンA12との間の位置ずれが生じないように、スキャンA11とスキャンA12とを同期させて実行することとしてもよい。
【0055】
例えば、スキャン機能144aは、スキャンA11及びスキャンA12と並行して、被検体Pの心電波形を取得する。例えば、スキャン機能144aは、被検体Pに装着した心電計により、被検体Pの心電波形を取得する。そして、スキャン機能144aは、スキャンA11における心電波形に対して、スキャンA12における心電波形の位相が一致するように、スキャンA12を実行する。
【0056】
また、例えば、スキャン機能144aは、スキャンA11及びスキャンA12と並行して、被検体Pの呼吸波形を取得する。例えば、スキャン機能144aは、呼吸センサにより被検体Pの呼吸波形を取得する。一例を挙げると、スキャン機能144aは、呼吸センサとして、レーザ発生器と受光器を用いて呼吸波形を取得する。具体的には、スキャン機能144aは、被検体Pの腹部表面からの反射光の信号を処理し、レーザ照射から反射光受光までの時間又は反射光信号の位相変化に基づいて、レーザ発生器と被検体の腹部表面との間の距離をリアルタイムに繰り返し演算することで、呼吸波形を取得する。なお、呼吸センサの例はこれに限定されるものではなく、スキャン機能144aは、例えば、被検体Pの腹部に装着された圧力センサや、被検体Pを撮影する光学カメラ等により、呼吸波形を取得することとしても構わない。そして、スキャン機能144aは、スキャンA11における呼吸波形に対して、スキャンA12における呼吸波形の位相が一致するように、スキャンA12を実行する。
【0057】
ここで、医師等のユーザは、スキャンA12により収集された画像データC12に基づく診断を行なうことができる。例えば、まず、制御機能144cは、画像データC12に対するレンダリング処理を実行することで、表示用画像を生成する。ここで、レンダリング処理の例としては、断面再構成法(MPR:Multi Planar Reconstruction)により、画像データC12から任意断面の2次元画像を生成する処理が挙げられる。また、レンダリング処理の他の例としては、ボリュームレンダリング(Volume Rendering)処理や、最大値投影法(MIP:Maximum Intensity Projection)により、画像データC12から、3次元の情報を反映した2次元画像を生成する処理が挙げられる。そして、制御機能144cは、レンダリング処理により生成した表示用画像をディスプレイ142に表示させる。また、ユーザは、表示用画像を参照しながら、被検体Pの診断を行なうことができる。
【0058】
ここで、画像データC12に基づく診断を行なった結果として、物質弁別の処理が必要となる場合がある。例えば、診断結果として腎臓結石の存在が明らかとなり、この腎臓結石がカルシウムタイプか尿酸タイプかを判定するために、物質弁別の処理が必要と判断される場合がある。
【0059】
しかしながら、スキャンA12を完了した後、デュアルエナジーのスキャンを追加で実施するとなれば、被検体Pの被ばく量は増加してしまう。なお、デュアルエナジーのスキャン方式としては、kVスイッチング、デュアルレイヤー、デュアルソース、スプリットといった種々の方式が知られているが、いずれの方式にしても、一般には単一エネルギーのスキャンと同等若しくはそれ以上の被ばく量となる。また、改めてデュアルエナジーのスキャンを実施して再検査することとなれば、時間及び体力の面で被検体Pの負担となる。
【0060】
そこで、処理機能144bは、追加のスキャンによらずに、物質弁別を行なう。具体的には、処理機能144bは、スキャンA11及びスキャンA12によって既に収集されている投影データセットB11及び投影データセットB12に基づいて、複数の基準物質による物質弁別を行なう。
【0061】
より具体的には、処理機能144bは、まず、画像データC12に基づいて、被検体Pの疾患が位置する対象領域Q1を特定する。即ち、処理機能144bは、画像データC12において疾患に対応する領域を、対象領域Q1としてセグメンテーションする。例えば、処理機能144bは、画像データC12に基づく表示用画像を参照したユーザからの入力操作を受け付けることで、対象領域Q1を特定する。また、例えば、処理機能144bは、画像データC12を解析して疾患を抽出することで、対象領域Q1を自動的に特定する。
【0062】
次に、処理機能144bは、画像データC12に基づいて、2次元の画像データC13を生成する。ここで、画像データC13は、スキャンA11のX線照射方向に対応する2次元画像データである。また、画像データC13は、第3画像データの一例である。
【0063】
例えば、処理機能144bは、スキャンA11におけるX線照射方向に画像データC12を順投影することで、画像データC13を生成する。また、例えば、処理機能144bは、画像データC12に基づいて、スキャンA11におけるX線照射方向に垂直なMPR画像を複数生成するとともに、これらのMPR画像を合成することで、画像データC13を生成する。なお、画像データC12において特定された対象領域Q1に対応する画像データC13の領域については、領域Q2と記載する。
【0064】
また、処理機能144bは、画像データC11において、画像データC12において特定された対象領域Q1に対応する領域Q3を特定する。例えば、処理機能144bは、画像データC11と画像データC12とを位置合わせし、画像データC12の対象領域Q1に対応する領域を画像データC11において特定することで、領域Q3を特定する。また、例えば、処理機能144bは、画像データC11と画像データC13とを位置合わせし、画像データC13の領域Q2に対応する領域を画像データC11において特定することで、領域Q3を特定する。
【0065】
なお、対象領域Q1、領域Q2及び領域Q3を特定する際、処理機能144bは、画像データC11、画像データC12及び画像データC13の少なくとも1つについて、予めデノイズ等の処理を行なってもよい。また、処理機能144bは、位置合わせの処理や、対象領域Q1、領域Q2及び領域Q3を特定する処理、デノイズ等の処理の一部又は全部を、AIによって実行することとしても構わない。
【0066】
そして、処理機能144bは、画像データC11と画像データC13とに基づいて、物質弁別を行なう。即ち、スキャンA11により収集された画像データC11はエネルギーE11のデータであり、スキャンA12により収集された画像データC13はエネルギーE12のデータであることから、処理機能144bは、画像データC11と画像データC13とに基づいて、2種類の基準物質による物質弁別を行なうことができる。
【0067】
例えば、処理機能144bは、異なるエネルギーで収集された画像データC11及び画像データC13に基づいて、被検体Pの腎臓結石の位置におけるX線減衰量の比を求めることができる。即ち、処理機能144bは、エネルギーE11で収集された画像データC11の領域Q3におけるX線減衰量と、エネルギーE12で収集された画像データC13の領域Q2におけるX線減衰量との比を求めることができる。そして、処理機能144bは、X線減衰量の比に基づいて、被検体Pの腎臓結石がカルシウムタイプの結石であるか尿酸タイプの結石であるかを判定することができる。
【0068】
また、制御機能144cは、処理機能144bによる物質弁別の結果をディスプレイ142に表示させる。例えば、制御機能144cは、被検体Pの腎臓結石がカルシウムタイプの結石であるか尿酸タイプの結石であるかを示す情報を、ディスプレイ142に表示させる。
【0069】
次に、X線CTシステム10による処理の手順の一例を、
図4を用いて説明する。
図4は、第1の実施形態に係るX線CTシステム10の処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。
【0070】
ステップS101及びステップS106は、スキャン機能144aに対応する。ステップS102、ステップS107、ステップS108、ステップS109、ステップS110及びステップS111は、処理機能144bに対応する。ステップS103、ステップS104、ステップS105及びステップS112は、制御機能144cに対応する。
【0071】
まず、処理回路144は、被検体Pに対してスキャンA11を実行し、エネルギーE11に対応する投影データセットB11を収集する(ステップS101)。次に、処理回路144は、投影データセットB11に基づいて画像データC11を生成する(ステップS102)。次に、処理回路144は、画像データC11に基づいて参照画像を生成し(ステップS103)、生成した参照画像をディスプレイ142に表示させる(ステップS104)。
【0072】
ここで、処理回路144は、参照画像を参照したユーザにより、スキャンA12のスキャン範囲である範囲R2が設定されたか否かを判定し(ステップS105)、スキャン範囲が設定されていない場合には待機状態となる(ステップS105否定)。一方で、スキャン範囲が設定された場合(ステップS105肯定)、処理回路144は、参照画像に設定されたスキャン範囲に対してスキャンA12を実行し、エネルギーE12に対応する投影データセットB12を収集する(ステップS106)。次に、処理回路144は、投影データセットB12に基づいて画像データC12を生成する(ステップS107)。
【0073】
次に、処理回路144は、画像データC12において、被検体Pの疾患が位置する対象領域Q1を特定する(ステップS108)。次に、処理回路144は、3次元の画像データC12に基づいて、2次元の画像データC13を生成する(ステップS109)。また、処理回路144は、画像データC11において、対象領域Q1に対応する領域Q3を特定する(ステップS110)。なお、ステップS109及びステップS110を行なう順序は任意であり、並行して行なってもよい。
【0074】
次に、処理回路144は、エネルギーE11に対応する画像データC11とエネルギーE12に対応する画像データC13とに基づいて物質弁別を行なう(ステップS111)。そして、処理回路144は、ディスプレイ142に物質弁別の結果を表示させ(ステップS112)、処理を終了する。
【0075】
なお、これまで、物質弁別の例として、被検体Pの腎臓結石がカルシウムタイプの結石であるか尿酸タイプの結石であるかを判定する処理について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、処理機能144bは、異なるエネルギーで収集された画像データC11及び画像データC13に基づいて、各位置における2つの基準物質の混合量や混合割合を算出することもできる。
【0076】
具体的には、処理機能144bは、画像データC11及び画像データC13それぞれについて線減弱係数の分布を求め、線減弱係数の各位置(各画素)について、以下の式(1)の連立方程式を解くことで、各位置における2つの基準物質の混合量や混合割合を算出する。
【0077】
【0078】
ここで、「μ(E1)」は単色X線エネルギー「E1」における各位置の線減弱係数を示し、「μ(E2)」は単色X線エネルギー「E2」における各位置の線減弱係数を示す。また、「μα(E)」は基準物質αの線減弱係数を示し、「μβ(E)」は基準物質βの線減弱係数を示す。また、「cα」は基準物質αの混合量を示し、「cβ」は基準物質βの混合量を示す。なお、各基準物質のエネルギーごとの線減弱係数は既知である。例えば、処理機能144bは、「E1」にエネルギーE11を代入し、「E2」にエネルギーE12を代入して式(1)の連立方程式を解くことで、2種類の基準物質「α、β」による物質弁別を行なう。
【0079】
そして、処理機能144bは、物質弁別の結果を示す画像を生成する。例えば、処理機能144bは、基準物質ごとに物質弁別画像を生成する。一例を挙げると、処理機能144bは、基準物質αを強調した物質弁別画像と、基準物質βを強調した物質弁別画像とをそれぞれ生成する。また、処理機能144bは、基準物質ごとに生成した複数の物質弁別画像を用いて、各基準物質の混合割合に基づく重み付け計算処理を行なうことにより、所定のエネルギーにおける仮想単色X線画像(モノクロマティック画像とも記載する)や、密度画像、実効原子番号画像等、種々の画像を生成することもできる。また、制御機能144cは、これら物質弁別の結果を示す画像を、ディスプレイ142に表示させる。
【0080】
上述したように、第1の実施形態によれば、スキャン機能144aは、被検体Pの体軸方向に沿った範囲R1にX線を照射することでエネルギーE11に対応する投影データセットB11を収集するスキャンA11を実行する。また、スキャン機能144aは、スキャンA11の後で、被検体Pの体軸方向に沿った範囲R2にX線を照射することで、エネルギーE12に対応する投影データセットB12を収集するスキャンA12を実行する。また、処理機能144bは、エネルギーE11に対応する投影データセットB11及びエネルギーE12に対応する投影データセットB12に基づいて物質弁別を行なう。従って、第1の実施形態に係るX線CTシステム10は、スキャンA11及びスキャンA12以外の追加のスキャンによらずに、物質弁別を行なうことができる。
【0081】
また、X線CTシステム10は、スキャンA11の結果に基づいて、スキャンA12における範囲R2を設定するとともに、物質弁別を行なうことを可能とする。即ち、X線CTシステム10は、スキャンA11による被検体Pの被ばくをより有意義なものとすることができる。
【0082】
(第2の実施形態)
さて、これまで第1の実施形態について説明したが、上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0083】
例えば、これまで、スキャンA12のスキャン範囲である範囲R2をユーザが設定するものとして説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、制御機能144cは、画像データC11、又は画像データC11に基づいて生成した参照画像を解析し、診断対象の臓器等を抽出することで、範囲R2を自動設定してもよい。
【0084】
また、上述した実施形態では、位置決め撮影を2次元で実行する場合について説明した。しかしながら実施形態はこれに限定されるものではなく、X線CTシステム10は、位置決め撮影を3次元で実行する場合であっても構わない。
【0085】
例えば、スキャン機能144aは、まず、スキャンA11に代えて、3次元のスキャンA21を実行し、投影データセットB21を収集する。具体的には、スキャン機能144aは、X線の焦点位置を被検体Pの周囲で回転させながら、被検体Pに対して、エネルギーE11のX線を照射させる。これにより、スキャン機能144aは、被検体Pの体軸方向に沿った範囲R1にX線を照射して、エネルギーE11に対応する投影データセットB21を収集する。例えば、スキャン機能144aは、コンベンショナルスキャン、ヘリカルスキャン、ステップアンドシュートといった方式のスキャンを実行することで、投影データセットB21を収集する。なお、投影データセットB21は、第1データセットの一例である。
【0086】
次に、処理機能144bは、スキャンA21により収集された投影データセットB21に基づいて、3次元の画像データC21を生成する。例えば、処理機能144bは、投影データセットB21に基づいて、フィルタ補正逆投影法や逐次近似再構成法、逐次近似応用再構成法、DLR法といった再構成処理を実行することにより、3次元の画像データC21を再構成する。
【0087】
次に、制御機能144cは、画像データC21に基づいて、スキャンA12のスキャン範囲である範囲R2を設定する。次に、スキャン機能144aは、範囲R2に対してスキャンA12を実行し、エネルギーE12に対応する投影データセットB12を収集する。次に、処理機能144bは、スキャンA12により収集された投影データセットB12に基づいて、3次元の画像データC12を生成する。
【0088】
次に、処理機能144bは、3次元の画像データC21に基づいて2次元の画像データC22を生成するとともに、3次元の画像データC12に基づいて2次元の画像データC13を生成する。例えば、処理機能144bは、画像データC21及び画像データC12を同じ方向に順投影することで、画像データC22及び画像データC13を生成する。また、例えば、処理機能144bは、画像データC21及び画像データC12のそれぞれについて、同方向のMPR画像を複数生成するとともに、生成した複数のMPR画像を合成することで、画像データC22及び画像データC13を生成する。
【0089】
そして、処理機能144bは、画像データC22と画像データC13とに基づいて、物質弁別を行なう。即ち、スキャンA21により収集された画像データC22はエネルギーE11のデータであり、スキャンA12により収集された画像データC13はエネルギーE12のデータであることから、処理機能144bは、画像データC22と画像データC13とに基づいて、2種類の基準物質による物質弁別を行なうことができる。
【0090】
なお、処理機能144bは、画像データC21と画像データC12とに基づいて物質弁別を行なうこととしても構わない。即ち、処理機能144bは、スキャンA21により収集された3次元の画像データC21と、スキャンA12により収集された3次元の画像データC12とに基づいて、物質弁別を行なうこととしても構わない。
【0091】
また、物質弁別をX線CTシステム10が実行するものとして説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、物質弁別は、X線CTシステム10と異なる他の装置において実行されても構わない。以下、この点について、
図4に示す医用情報処理システム1を例として説明する。
図4は、第2の実施形態に係る医用情報処理システム1の構成の一例を示すブロック図である。医用情報処理システム1には、X線CTシステム10、及び、物質弁別を実行する医用処理装置20が含まれる。
【0092】
図4に示すように、X線CTシステム10と医用処理装置20とは、ネットワークNWを介して相互に接続される。ここで、ネットワークNWを介して接続可能であれば、X線CTシステム10及び医用処理装置20が設置される場所は任意である。例えば、医用処理装置20は、X線CTシステム10と異なる病院に設置されてもよい。即ち、ネットワークNWは、院内で閉じたローカルネットワークにより構成されてもよいし、インターネットを介したネットワークでもよい。また、
図4においてはX線CTシステム10を1つ示すが、医用情報処理システム1は複数のX線CTシステム10を含んでもよい。
【0093】
医用処理装置20は、ワークステーション等のコンピュータ機器によって実現される。例えば、医用処理装置20は、
図4に示すように、メモリ21と、ディスプレイ22と、入力インターフェース23と、処理回路24とを有する。
【0094】
メモリ21は、例えば、RAM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。例えば、メモリ21は、X線CTシステム10から送信された各種のデータを記憶する。また、例えば、メモリ21は、医用処理装置20に含まれる回路がその機能を実現するためのプログラムを記憶する。なお、メモリ21は、医用処理装置20とネットワークNWを介して接続されたサーバ群(クラウド)により実現されることとしてもよい。
【0095】
ディスプレイ22は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ22は、処理回路24による物質弁別の結果を示す画像を表示したり、ユーザからの各種操作を受け付けるためのGUI等を表示したりする。例えば、ディスプレイ22は、液晶ディスプレイやCRTディスプレイである。ディスプレイ22は、デスクトップ型でもよいし、医用処理装置20本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。
【0096】
入力インターフェース23は、ユーザからの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路24に出力する。例えば、入力インターフェース23は、CT画像データを再構成する際の再構成条件や、CT画像データから表示用のCT画像を生成する際の画像処理条件等をユーザから受け付ける。例えば、入力インターフェース23は、マウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、操作面へ触れることで入力操作を行なうタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、音声入力回路等により実現される。なお、入力インターフェース23は、医用処理装置20本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。また、入力インターフェース23は、マウスやキーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、医用処理装置20とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路24へ出力する電気信号の処理回路も入力インターフェース23の例に含まれる。
【0097】
処理回路24は、処理機能24a及び制御機能24bを実行することで、医用処理装置20全体の動作を制御する。なお、処理機能24aは、処理部の一例である。処理回路24による処理については後述する。
【0098】
図4に示す医用処理装置20においては、各処理機能がコンピュータによって実行可能なプログラムの形態でメモリ21へ記憶されている。処理回路24は、メモリ21からプログラムを読み出して実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、プログラムを読み出した状態の処理回路24は、読み出したプログラムに対応する機能を有することとなる。
【0099】
なお、
図4においては単一の処理回路24にて、処理機能24a及び制御機能24bが実現するものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路24を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。また、処理回路24が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
【0100】
また、処理回路24は、ネットワークNWを介して接続された外部装置のプロセッサを利用して、機能を実現することとしてもよい。例えば、処理回路24は、メモリ21から各機能に対応するプログラムを読み出して実行するとともに、医用処理装置20とネットワークNWを介して接続されたサーバ群(クラウド)を計算資源として利用することにより、
図4に示す各機能を実現する。
【0101】
例えば、まず、X線CTシステム10におけるスキャン機能144aは、X線の焦点位置を被検体Pの周囲で回転させず、被検体Pの体軸方向に沿った範囲R1にX線を照射することでスキャンA11を実行し、エネルギーE11に対応する投影データセットB11を収集する。或いは、スキャン機能144aは、X線の焦点位置を被検体Pの周囲で回転させながら、被検体Pの体軸方向に沿った範囲R1にX線を照射することでスキャンA21を実行し、エネルギーE11に対応する投影データセットB21を収集する。
【0102】
また、スキャン機能144aは、スキャンA11又はスキャンA21の後で、被検体Pの体軸方向に沿った範囲R2にX線を照射することでスキャンA12を実行し、エネルギーE12に対応する投影データセットB12を収集する。また、制御機能144cは、ネットワークNWを介して、投影データセットB11又は投影データセットB21と、投影データセットB12とを医用処理装置20に送信する。
【0103】
次に、医用処理装置20における処理機能24aは、投影データセットB11又は投影データセットB21と、投影データセットB12とに基づいて、複数の基準物質による物質弁別を行なう。
【0104】
例えば、処理機能24aは、投影データセットB11に基づいて、2次元の画像データC11を生成する。また、処理機能24aは、投影データセットB12に基づいて3次元の画像データC12を生成し、画像データC12に基づいて2次元の画像データC13を生成する。そして、処理機能24aは、エネルギーE11に対応する画像データC11と、エネルギーE12に対応する画像データC13とに基づいて物質弁別を行なう。
【0105】
或いは、処理機能24aは、投影データセットB21に基づいて3次元の画像データC21を生成し、画像データC21に基づいて2次元の画像データC22を生成する。また、処理機能24aは、投影データセットB12に基づいて3次元の画像データC12を生成し、画像データC12に基づいて2次元の画像データC13を生成する。そして、処理機能24aは、エネルギーE11に対応する画像データC22と、エネルギーE12に対応する画像データC13とに基づいて物質弁別を行なう。
【0106】
或いは、処理機能24aは、投影データセットB21に基づいて3次元の画像データC21を生成する。また、処理機能24aは、投影データセットB12に基づいて3次元の画像データC12を生成する。そして、処理機能24aは、エネルギーE11に対応する画像データC21と、エネルギーE12に対応する画像データC12とに基づいて物質弁別を行なう。
【0107】
そして、制御機能24bは、処理機能24aによる物質弁別の結果をディスプレイ22に表示させる。例えば、制御機能24bは、被検体Pの腎臓結石がカルシウムタイプの結石であるか尿酸タイプの結石であるかを示す情報を、ディスプレイ22に表示させる。また、例えば、制御機能24bは、処理機能24aにより生成された物質弁別の結果を示す画像を、ディスプレイ22に表示させる。
【0108】
或いは、制御機能24bは、処理機能24aによる物質弁別の結果をX線CTシステム10に送信する。この場合、X線CTシステム10における制御機能144cは、医用処理装置20から送信された物質弁別の結果を、ディスプレイ142に表示させることができる。
【0109】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、あるいは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサはメモリ141又はメモリ21に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。
【0110】
なお、
図1においては、単一のメモリ141が処理回路144の各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明した。また、
図4においては、単一のメモリ21が処理回路24の各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、複数のメモリ141を分散して配置し、処理回路144は、個別のメモリ141から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。同様に、複数のメモリ21を分散して配置し、処理回路24は、個別のメモリ21から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。また、メモリ141又はメモリ21にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。
【0111】
上述した実施形態に係る各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。即ち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。更に、各装置にて行われる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現されうる。
【0112】
また、上述した実施形態で説明した処理方法は、予め用意された処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。この処理プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、この処理プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な非一過性の記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0113】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、追加のスキャンによらずに物質弁別を行なうことができる。
【0114】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0115】
1 医用情報処理システム
10 X線CTシステム
110 架台装置
140 コンソール装置
144 処理回路
144a スキャン機能
144b 処理機能
144c 制御機能
20 医用処理装置
24 処理回路
24a 処理機能
24b 制御機能