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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】異方性感圧導電膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/16 20060101AFI20230731BHJP
   H01H 1/06 20060101ALI20230731BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230731BHJP
   B32B 25/04 20060101ALI20230731BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20230731BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20230731BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20230731BHJP
   C09D 121/00 20060101ALI20230731BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230731BHJP
   C09D 7/65 20180101ALN20230731BHJP
【FI】
H01B5/16
H01H1/06 H
B32B27/18 J
B32B25/04
H01B1/22 B
C09D5/24
C09D7/62
C09D121/00
C09D5/00 D
C09D7/65
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019176425
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021057114
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】中村 理奈
(72)【発明者】
【氏名】大坪 修一
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/125993(WO,A1)
【文献】特開2018-081906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/16
H01H 1/06
B32B 27/18
B32B 25/04
H01B 1/22
C09D 5/24
C09D 7/62
C09D 121/00
C09D 5/00
C09D 7/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子を保持する第一エラストマー層と、第一エラストマー層の片面に配され、第一エラストマー層に保持された導電性粒子が接する第二エラストマー層とからなり、
前記導電性粒子は、平均粒子径が10μm以上200μm以下であり、第一エラストマー層の平面方向に単層で、互いに非接触に配され、隣接する互いに非接触の導電性粒子間の距離は10μm以上であり、かつ第二エラストマー層とは反対側に向けて、第一エラストマー層のエラストマー部分から突出しており、
第一エラストマー層は、エラストマー部分の厚さが5μm以上190μm以下であり、100%モジュラスが0.1MPa以上4.0MPa以下であり、
第二エラストマー層は厚さが0.1μm以上100μm以下であり、引張強さが0.05MPa以上8.0MPa以下であり、
第一エラストマー層のエラストマー部分の厚さが、第二エラストマー層の厚さよりも厚い、異方性感圧導電膜。
【請求項2】
前記導電性粒子の平均粒子径が、第一エラストマー層のエラストマー部分の厚さと第二エラストマー層の厚さの合計以上である、請求項1に記載の異方性感圧導電膜。
【請求項3】
第一エラストマー層に存在する、エラストマー部分と前記導電性粒子との量比が、体積比で、エラストマー部分:導電性粒子=1:1~11:1である、請求項1又は2に記載の異方性感圧導電膜。
【請求項4】
第一エラストマー層が電気絶縁性エラストマー粒子を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の異方性感圧導電膜。
【請求項5】
第二エラストマー層を導電性基材の表面に接触させて用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の異方性感圧導電膜。
【請求項6】
下記工程(a1)~(d1)を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の異方性感圧導電膜の製造方法:
(a1)基材表面に第二エラストマーを含む液を塗布し、乾燥して第二エラストマー層を形成する工程(a1-1)、又は、基材表面に紫外線硬化型又は熱硬化型の第二エラストマー前駆体を含む液を塗布し、紫外線照射又は熱により硬化反応させて第二エラストマー層を形成する工程(a1-2);
(b1)第二エラストマー層表面に、第一エラストマーと導電性粒子とを含む液を塗布して塗膜を形成する工程(b1-1)、又は、第二エラストマー層表面に、紫外線硬化型又は熱硬化型の第一エラストマー前駆体と導電性粒子とを含む液を塗布して塗膜を形成する工程(b1-2);
(c1)前記塗膜に平板をかぶせて前記導電性粒子を単層に並べる工程;
(d1)前記工程(b1-1)では前記塗膜を乾燥し、前記工程(b1-2)では紫外線照射又は熱により前記塗膜を硬化反応させて、第一エラストマー層を形成する工程。
【請求項7】
下記(a2)~(c2)を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の異方性感圧導電膜の製造方法:
(a2)基材表面に第二エラストマーを含む液を塗布し、乾燥して第二エラストマー層を形成する工程(a2-1)、又は、基材表面に紫外線硬化型又は熱硬化型の第二エラストマー前駆体を含む液を塗布し、紫外線照射又は熱により硬化反応させて第二エラストマー層を形成する工程(a2-2);
(b2)第二エラストマー層表面に導電性粒子を単層に配する工程;
(c2)前記の導電性粒子を単層に配した第二エラストマー層表面に、第一エラストマーを含む液を塗布し、乾燥して第一エラストマー層を形成する工程(c2-1)、又は、前記の導電性粒子を単層に配した第二エラストマー層表面に、紫外線硬化型又は熱硬化型の第一エラストマー前駆体を含む液を塗布し、紫外線照射又は熱により硬化反応させて第一エラストマー層を形成する工程(c2-2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性感圧導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
各種センサ、スイッチ、キーボード、タッチパネルには、一定以上の加圧力により導電性を得る感圧導電材料が使用されている。例えば、パソコンのキーボードや、ノートパソコン、タブレット、スマートフォンなどの携帯型情報処理装置のタッチパネルなどの接点には感圧導電膜が配され、一定以上の加圧力により、感圧導電膜が加圧部分で導通し、文字等が入力される仕組みになっている。
また、感圧導電材料は電動ドアの感圧センサとしても実用化されている。例えば、内部に導電体同士を互いに非接触に配したケーブル状のセンサを電動ドアに取り付ける。人や物が接触してケーブルが押し潰されると導電体同士が接触して導通し、この電気信号により電動ドアの作動を停止するなどして危険を回避することができる。
【0003】
異方性感圧導電膜は、一般的には金属粒子などの導電性粒子を基材(バインダー)中に分散させた接着フィルムである。膜厚方向の加圧によって加圧部分を膜厚方向に導通させることができ、面方向は、常時、電気的絶縁状態にある。異方性感圧導電膜は、各種感圧センサ、スイッチ、キーボード、タッチパネルなどに広く用いられている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭56-5840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スイッチ、キーボード、タッチパネルなどに用いる異方性感圧導電膜には、非加圧状態では絶縁性を確保でき、かつ、少しの加圧力で、加圧部分だけを、加圧方向(膜厚方向)に確実に導通させることができる高感度で繊細な感圧性能(高感度の通電応答性)が求められる。また、繰り返し使用しても、初期の感圧性能を十分に発現できる特性(耐久性)も求められる。感圧センサに用いる異方性感圧導電膜についても、高感度化、高耐久性の要求がある。
【0006】
本発明は、非加圧状態では絶縁性であり、厚み方向への加圧力に対して優れた通電応答性を示し、加圧状態から解放した際には初期の絶縁性を回復することができる異方性感圧導電膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
〔1〕
導電性粒子を保持する第一エラストマー層と、第一エラストマー層の片面に配され、第一エラストマー層に保持された導電性粒子が接する第二エラストマー層とからなり、
前記導電性粒子は、第一エラストマー層の平面方向に単層で、互いに非接触に配され、隣接する互いに非接触の導電性粒子間の距離は10μm以上であり、かつ第二エラストマー層とは反対側に向けて、第一エラストマー層のエラストマー部分から突出しており、
第一エラストマー層は、100%モジュラスが0.1MPa以上4.0MPa以下であり、
第二エラストマー層は厚さが0.1μm以上であり、引張強さが0.05MPa以上8.0MPa以下である、異方性感圧導電膜。
〔2〕
前記導電性粒子の平均粒子径が、第一エラストマー層のエラストマー部分の厚さと第二エラストマー層の厚さの合計以上である、〔1〕に記載の異方性感圧導電膜。
〔3〕
第一エラストマー層に存在する、エラストマー部分と前記導電性粒子との量比が、体積比で、エラストマー部分:導電性粒子=1:1~11:1である、〔1〕又は〔2〕に記載の異方性感圧導電膜。
〔4〕
第一エラストマー層が電気絶縁性エラストマー粒子を含有する、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の異方性感圧導電膜。
〔5〕
第二エラストマー層を導電性基材の表面に接触させて用いる、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の異方性感圧導電膜。
〔6〕
下記工程(a1)~(d1)を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の異方性感圧導電膜の製造方法:
(a1)基材表面に第二エラストマーを含む液を塗布し、乾燥して第二エラストマー層を形成する工程(a1-1)、又は、基材表面に紫外線硬化型又は熱硬化型の第二エラストマー前駆体を含む液を塗布し、紫外線照射又は熱により硬化反応させて第二エラストマー層を形成する工程(a1-2);
(b1)第二エラストマー層表面に、第一エラストマーと導電性粒子とを含む液を塗布して塗膜を形成する工程(b1-1)、又は、第二エラストマー層表面に、紫外線硬化型又は熱硬化型の第一エラストマー前駆体と導電性粒子とを含む液を塗布して塗膜を形成する工程(b1-2);
(c1)前記塗膜に平板をかぶせて前記導電性粒子を単層に並べる工程;
(d1)前記工程(b1-1)では前記塗膜を乾燥し、前記工程(b1-2)では紫外線照射又は熱により前記塗膜を硬化反応させて、第一エラストマー層を形成する工程。
〔7〕
下記(a2)~(c2)を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の異方性感圧導電膜の製造方法:
(a2)基材表面に第二エラストマーを含む液を塗布し、乾燥して第二エラストマー層を形成する工程(a2-1)、又は、基材表面に紫外線硬化型又は熱硬化型の第二エラストマー前駆体を含む液を塗布し、紫外線照射又は熱により硬化反応させて第二エラストマー層を形成する工程(a2-2);
(b2)第二エラストマー層表面に導電性粒子を単層に配する工程;
(c2)前記の導電性粒子を単層に配した第二エラストマー層表面に、第一エラストマーを含む液を塗布し、乾燥して第一エラストマー層を形成する工程(c2-1)、又は、前記の導電性粒子を単層に配した第二エラストマー層表面に、紫外線硬化型又は熱硬化型の第一エラストマー前駆体を含む液を塗布し、紫外線照射又は熱により硬化反応させて第一エラストマー層を形成する工程(c2-2)。
【0008】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の異方性感圧導電膜は、非加圧状態では絶縁性であり、厚み方向への加圧力に対して優れた通電応答性を示し、加圧状態を解除した際には初期の絶縁性を回復することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の異方性感圧導電膜の構造を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の異方性感圧導電膜が電気的絶縁状態にあるときの概略断面図である。
図3図3は、本発明の異方性感圧導電膜が加圧通電状態にあるときの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[異方性感圧導電膜]
本発明の異方性感圧導電膜(以下、単に「本発明の感圧導電膜」とも称す。)は、外部から一定以上の加圧力が印加されていないときには電気的絶縁状態にあり、外部から一定以上の加圧力が膜厚方向に印加された場合に当該加圧部分を膜厚方向に導通させることができ、面方向は常時、電気的絶縁状態にある。すなわち、加圧通電応答が異方性を有する導電膜である。
本発明の感圧導電膜は、導電性粒子を保持する第一エラストマー層と、第一エラストマー層の片面に配され、第一エラストマー層に保持された導電性粒子が接する第二エラストマー層とからなる。前記導電性粒子は、第一エラストマー層の平面方向に単層(一層)で、かつ互いに非接触に配されている。また、前記導電性粒子は、第二エラストマー層とは反対側に向けて、第一エラストマー層のエラストマー部分よりも突出している。
本発明において「第一エラストマー層に保持された導電性粒子が接する第二エラストマー層」という場合、後述のように、第一エラストマー層に保持された導電性粒子が、実質的にすべて、第二エラストマー層に接していることを意味する。また、本発明において「導電性粒子は、第一エラストマー層の平面方向に単層で」配されるとは、後述のように、導電性粒子が、第一エラストマー層の平面方向に、実質的に単層で配されることを意味する。
本発明に用いる感圧導電膜の好ましい実施形態について説明する。
【0012】
本発明に用いる感圧導電膜の形態を、図1に示した模式的断面図を用いて説明する。なお、各図面は、本発明の理解を容易にするための説明図であり、各部材のサイズないし相対的な大小関係等は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。また、本発明で規定する事項以外はこれらの図面に示された外形、形状に限定されるものでもない。
図1は、導電性基材表面に適用(接着)された状態の感圧導電膜を示す。図1に示した感圧導電膜100は、導電性粒子2を保持する第一エラストマー層1(第一エラストマーと導電性粒子2とを合わせて第一エラストマー層1と称す)と、第一エラストマー層1の下面に配され、実質的に全ての導電性粒子2が接する第二エラストマー層3とを有する。第二エラストマー層3は、導電性粒子2と、本発明の感圧導電膜100が適用される導電性基材4との間の絶縁層として機能する。
導電性粒子2の粒子径は、第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚みと同じかそれよりも大きい。すなわち、導電性粒子2は、第一エラストマー層1のエラストマー部分(第二エラストマー層側とは反対側の面)から突出している。
本発明において、「第一エラストマー層1のエラストマー部分から突出する」とは、導電性粒子2が接触端子(電極の端子など)と直接接触できる状態にあることを意味する。すなわち、導電性粒子2の粒子径と第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚みが同一である場合を含む。
また、第二エラストマー層に「実質的に全ての導電性粒子が接する」とは、導電性粒子の70%以上(個数基準、好ましくは80%以上)が第二エラストマー層に接していることを意味する。すなわち、本発明において「第一エラストマー層に保持された導電性粒子が接する第二エラストマー層」という場合、第一エラストマー層に保持された導電性粒子のうち30%以下(好ましくは20%以下)の導電性粒子は第二エラストマー層に接していない状態にあってもよい。
製造面を考慮すると、第一エラストマー層1に保持された導電性粒子2は、第二エラストマー層3の側に突出していないことが好ましい。
また、導電性粒子2の粒子径は、第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚さと第二エラストマー層3の厚さの合計以上であることが好ましい。こうすることで、後述するように、一定以上に加圧して導電性粒子2を導電性基材4と接触させた状態において、この導電性粒子2と接触端子との接触も確実に担保でき、圧力変化に伴う抵抗の変動をより抑えることができる。
【0013】
上記の「導電性粒子2の粒子径」が「第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚みと同じかそれよりも大きい」とは、第一エラストマー層1を構成するすべての導電性粒子2の粒子径が「第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚みと同じかそれよりも大きい」ことが好ましい。しかし、本発明はかかる形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で、第一エラストマー層を構成する導電性粒子2として、その粒子径が第一エラストマー層のエラストマー部分の厚みより小さい導電性粒子が含まれていてもよい。かかる形態の好ましい例として、導電性粒子2の平均粒子径が、第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚みと同じかそれよりも大きい形態が挙げられる。
【0014】
同様に、上記の「導電性粒子2が第一エラストマー層1のエラストマー部分から突出している」とは、第一エラストマー層1を構成するすべての導電性粒子2が「第一エラストマー層1のエラストマー部分から突出している」状態が好ましい。しかし、本発明はかかる形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で、第一エラストマー層1を構成する導電性粒子2として、その一部に、第一エラストマー層1のエラストマー部分から突出していない導電性粒子が含まれていてもよい。かかる形態の好ましい例としては、上記と同様に、導電性粒子2の平均粒子径が、第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚みと同じかそれよりも大きい形態が挙げられる。
【0015】
また、上記の「導電性粒子2の粒子径」が「第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚さと第二エラストマー層3の厚さの合計以上」とは、第一エラストマー層1を構成するすべての導電性粒子2が「第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚さと第二エラストマー層3の厚さの合計以上」であることが好ましい。しかし、本発明はかかる形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で、第一エラストマー層1を構成する導電性粒子2として、その粒子径が第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚さと第二エラストマー層3の厚さの合計よりも小さい導電性粒子が含まれていてもよい。かかる形態の好ましい例として、導電性粒子2の平均粒子径が、第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚さと第二エラストマー層3の厚さの合計以上である形態が挙げられる。
【0016】
本発明の感圧導電膜100において、導電性粒子2は、第一エラストマー層の平面方向に、実質的に単層で、かつ互いに非接触に配されている。したがって、感圧導電膜100は、その厚さ方向には加圧により導通させやすく、他方、面方向には導通し難い構造(感圧通電の異方性を発現する構造)となっている。
「導電性粒子が第一エラストマー層の平面方向に実質的に単層で配される」とは、第一エラストマー層に存在する導電性粒子のすべてが第一エラストマー層の厚さ方向に互いに重なり合わずに存在している形態に加え、第一エラストマー層を構成する導電性粒子の一部が、本発明の効果を損なわない範囲で、第一エラストマー層の厚さ方向に重なり合って存在している状態を含む意味である。かかる形態としては、第一エラストマー層を構成する導電性粒子の70%以上(個数基準、好ましくは80%以上)が、第一エラストマー層の厚さ方向に重なり合わずに単層で存在していることが好ましい。
また、「導電性粒子が平面方向に互いに非接触に配される」とは、導電性粒子同士が面方向に連なって接触し、感圧導電膜の面方向に横断する電気回路が形成された状態にないことを意味する。したがって、一部の導電性粒子が互いに接触していても、感圧導電膜の面方向に横断する電気回路が形成されていなければ、本発明では「導電性粒子が平面方向に互いに非接触に配された」形態である。
【0017】
本発明の感圧導電膜100は、接触端子等により、第一エラストマー層から第二エラストマー層の側に向けて膜厚方向に一定以上の力で加圧されると、第一エラストマー層1に保持された導電性粒子2が加圧部分において第二エラストマー層3を突き破り、導電性粒子2が導電性基材4と電気的に接続される。つまり、加圧部分において「接触端子-導電性粒子2-導電性基材4」の電気回路を形成する。この電気回路の導通にはエラストマー層が関与せず、また、外部からの加圧力に依存する複数の導電性粒子間の導通も不要であるため、低抵抗の導通状態をすばやく実現できる。
【0018】
上記の加圧による導電機構について、図2及び図3を参照して説明する。
図2及び図3は、加圧による導通機構を説明するための説明図である。図2が非加圧状態(電気的絶縁状態)を示し、図3が接触端子5で加圧したときの導通状態を示す。
図2に示すように非加圧状態では、第二エラストマー層3の絶縁性により、本発明の感圧導電膜100は電気的に絶縁状態にある。接触端子5により感圧導電膜100が膜厚方向に加圧されると、第一エラストマー層1中の導電性粒子2が加圧部分において第二エラストマー層3を突き破り、導電性粒子2が導電性基材4と直接接触して、「接触端子-導電性粒子2-導電性基材4」の電気回路が形成される(図3)。電気的絶縁状態から導通状態とするための加圧力の閾値は、第二エラストマー層3の機械的強度(具体的には引張強さ)が支配的要素となる。したがって、第二エラストマー層3は、後述する特定の引張強さを有する。
【0019】
加圧力を開放して非加圧状態に戻すと、導電性粒子2を含む第一エラストマー層1の、後述する特定の弾性特性と、第二エラストマー層の弾性とが、相俟って作用し、導電性粒子2は図2の状態へと戻る。導電性粒子2の戻りと同時に第二エラストマー層1の破れも塞がれ、図2に示す絶縁状態を回復する。この回復性を、本発明では「自己修復性」と称す。自己修復性を示す本発明の感圧導電膜100は、絶縁状態と通電状態とを繰り返す用途(具体的にはセンサ、スイッチ、キーボード又はタッチパネル)への適用に好適である。
【0020】
本発明の感圧導電膜が加圧応答の異方性を発現するため、すなわち、面方向の導通をより確実に防ぐために、第一エラストマー層の平面方向に隣接する互いに非接触の導電性粒子間の距離は10μm以上であることが好ましい。また、当該距離を10μm以上とすることにより、加圧によりエラストマー層を変形させて導電性粒子を移動させるのに必要なせん断力を抑えることができる。すなわち、荷重に対する応答性をより高めることができる。当該距離は、通常は100μm以下である。
第一エラストマー層に存在する、エラストマー部分と前記導電性粒子との量比は、目的の異方性感圧導電性能を発現できれば特に制限されない。通常は、体積比で、エラストマー部分:導電性粒子=1:1~11:1とすることが好ましく、2:1~6:1とすることがより好ましい。
【0021】
続いて、本発明の感圧導電膜100を構成する導電性粒子2、第一エラストマー層1、第二エラストマー層3についてより詳しく説明する。
【0022】
<導電性粒子2>
導電性粒子2は一次粒子であることが好ましい。これは、導電性粒子2が外部端子により押し付けられ、第二エラストマー層3を破り、導電性基材4と直接接触した状態で、より低抵抗の安定した導通状態を達成できるためである。導電性粒子2は真球状であることが好ましい。真球状であることは、拡大観察等することで把握することができる。本発明において「真球状」とは、球体であることを意味し、球体が完全な球形である場合のみならず、一見して球形と把握できる略球形である場合も含む。
導電性粒子2が真球状である場合、次式で表される真球度が70~100であることが好ましい。
真球度=100×[1-(Sa-Sb)/Sa]
Sa:導電性粒子の平面画像における導電性粒子の外接円の面積
Sb:導電性粒子の平面画像における導電性粒子の内接円の面積
真球度は、本発明に用いる導電性粒子2を無作為に50個、顕微鏡観察し、これらの平面画像に基づき得られた外接円及び内接円の面積を上記式に当てはめ、50個各々の真球度を算出し、これら50の真球度の値の平均値として定義される。
【0023】
導電性粒子2の材料は、導電性を確保できるものであれば特に限定されない。例えば、金属粒子、金属被覆粒子、導電性非金属粒子(黒鉛等)が挙げられる。
金属粒子としては、Au、Ag、Cu、Ni、Pd、プラチナなどが挙げられる。金属被覆粒子としては、銅-銀被覆粒子、ガラス-銀被覆粒子、シリカ-銀被覆粒子、ジビニルベンゼン共重合体-Ni/Au被覆粒子などを使用できる。コストおよび導電性能を考慮するとガラス-銀被覆粒子、シリカ-銀被覆粒子などが好ましい。
【0024】
導電性粒子2の平均粒子径dは、第一エラストマー層1や第二エラストマー層3の厚さを考慮し、目的に応じて適宜に設定される。例えば、導電性粒子2の平均粒子径dを10μm以上とすることができる。平均粒子径は体積基準メジアン径とする。メジアン径とは粒径分布を累積分布として表したときの累積50%に相当する。第一エラストマー層1に用いる導電性粒子2は分子量分布がある程度単分散化されたものが好ましい。第一エラストマーに保持されたすべての導電性粒子2のうち、70%(個数基準)以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくはすべての導電性粒子2が、平均粒子径±5μmの範囲内の粒径であることが好ましい。
平均粒子径dが10μm以上であることにより、導電性粒子2の取り扱い性が向上し、また、より確実に、平面方向に所望の単層に導電性粒子2を配することができる。導電性粒子2の平均粒子径dは20μm以上が好ましく、30μm以上がさらに好ましい。導電性粒子2の平均粒子径dの上限に特に制限はない。例えば、導電性粒子2の平均粒子径dを200μm以下とすることができる。導電性粒子11の平均粒子径dは150μm以下とすることもでき、100μm以下とすることも好ましい。
【0025】
<第一エラストマー層1>
第一エラストマー層1は、導電性粒子2を保持し、また自己修復性を実現するための層である。第一エラストマー層1としては、シリコーン系、アクリル系、ウレタン系などの各種のエラストマーが使用できる。
【0026】
第一エラストマー層1の物性値について説明すると、第一エラストマー層1のエラストマー部分の100%モジュラスは、好ましくは0.1MPa以上であり、より好ましくは0.5MPa以上、さらに好ましくは1.0MPa以上である。第一エラストマー層1のエラストマー部分の100%モジュラスを0.1MPa以上とすることにより、自己修復性をより確実に発現させることができ、100%モジュラスを高めることにより自己修復性をより高めることができる。第一エラストマー層1のエラストマー部分の100%モジュラスは、通常は10MPa以下であり、7MPa以下とするのが実際的であり、4MPa以下とすることも好ましい。100%モジュラスは、JIS K 6251に準拠する引張試験により得られるエラストマーの100%伸長時(2倍伸長時)の応力値のことであり、引張荷重を試験片の試験前の断面積で除した値を指す。
【0027】
導電性粒子2の、第一エラストマー層1のエラストマー部分表面からの突出部分の高さは、導電性粒子2の平均粒子径dの半分以下(1/2d以下)であることが好ましく、導電性粒子2の平均粒子径dの半分よりも小さいこと(好ましくは4/9d以下)がより好ましい。このような突出高さとすることにより、導電性粒子2を第一エラストマー層1内に、より確実に保持することができ、自己修復性をより高めることができる。また、導電性粒子2の、第一エラストマー層1のエラストマー部分表面からの突出部分の高さは、1/20d以上とすることが好ましく、1/10d以上とすることがより好ましい。こうすることで、外部端子との接触の際の高い応答性をより確実に担保することができる。
ところで、通常、導電性粒子2が第一エラストマー層1のエラストマー部分から突出していると、導電性粒子2はエラストマーから経時的に脱落することが懸念される。しかし、本発明の感圧導電膜100は、第一エラストマー層1が上記のような特定の弾性を有し、絶縁状態と導通状態とを繰り返しても導電性粒子2の脱落が生じにくい。特に、突出部分の高さを上記の範囲とすることにより、導電性粒子2の経時的脱落をより確実に防ぐことができる。その結果、厚み方向への加圧力に対して優れた応答性を示す異方性感圧導電膜を提供することが可能となる。
【0028】
第一エラストマー層は、所望の感圧異方性を示すために、エラストマー部分の体積抵抗率は好ましくは1×10Ω・cm以上であり、より好ましくは1×1010Ω・cm以上である。体積抵抗率は後述する実施例に記載の方法により決定される。
【0029】
感圧導電膜100が感圧異方性を示すための第一エラストマー層1の形成は、[第一エラストマーもしくはその前駆体]:[導電性粒子11]を、体積比で、1:1~11:1(好ましくは2:1~6:1)として、必要により溶媒中に混合して混合液(導電性粒子の分散液)を得て、この混合液を、導電性粒子2が単層になるように塗布し、乾燥ないし硬化させることにより行うことができる。かかる成膜により、導電性粒子2を互いに非接触に、第一エラストマー層1中に配することができる。第一エラストマーもしくはその前駆体と、導電性粒子2との体積比率が1:1未満の場合には、導電性粒子同士が、無負荷並びに荷重印加時に面方向に接触して異方性の感圧導電膜とならない。また、第一エラストマーもしくはその前駆体と、導電性粒子11との体積比率が11:1より大きい場合には、導電性粒子11と外部端子の接点が少なくなり、良好な導電性が得られなくなる。また、所望の感圧導電性能を損なわない範囲で、例えば、球状のシリコーンエラストマーパウダーやシリコーンレジンパウダーなどの固体状の電気絶縁性エラストマー粒子(例えば、信越化学工業製KMP-601)を上記混合物中に配合し、成膜することもできる。
【0030】
第一エラストマー層のエラストマー部分の厚さは、導電性粒子2の粒径、自己修復性能等を考慮して適宜に設定することができる。例えば、5~100μmとすることができ、10~100μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。
【0031】
<第二エラストマー層3>
第二エラストマー層3は、一定の加圧状態とされるまで、電気的絶縁性を担保するための層である。また第一エラストマー層1とともに複合的に作用して所望の自己修復性を実現する。第二エラストマー層3としては、シリコーン系、アクリル系、ウレタン系などの各種のエラストマーが使用できる。
【0032】
第二エラストマー層3は、引張強さが好ましくは0.05MPa以上である。第二エラストマー層3の引張強さを0.05MPa以上とすることにより、加圧状態から開放したときに、導電性粒子2によって破られた第二エラストマー層3をより確実に回復させることができる。自己修復性の観点から、当該引張強さは0.1MPa以上とすることが好ましい。また、第二エラストマー層3の引張強さは、好ましくは8.0MPa以下である。引張強さを8.0MPa以下とすることにより、加圧したときに、導電性粒子2によって第二エラストマー層3をより確実に突き破ることができる。
引張強さとは、JIS K 6251に準拠して測定した際に、試験片が切断するまで引っ張った時に記録される最大の引張力を、試験片の試験前の断面積で除した値である。
【0033】
第二エラストマー層3には電気絶縁性が求められ、その体積抵抗率は好ましくは1×10Ω・cm以上であり、より好ましくは1×1010Ω・cm以上である。
【0034】
第二エラストマー層3の厚さは、導電性粒子2の粒子径、絶縁性能等を考慮し適宜に設定することができるが、絶縁性をより確実に担保するため、本発明において第二エラストマー層3の厚さは0.1μm以上である。第二エラストマー層3の厚さは、例えば、0.1~100μmとすることができ、10~50μmがより好ましい。
【0035】
本発明の感圧導電膜100において、第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚さと、第二エラストマー層3の厚さとの関係は、適宜に設定することができる。低抵抗によるすばやい感圧導電性と自己修復性の両立をより高いレベルで実現する観点からは、第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚さが、第二エラストマー層3の厚さよりも厚いことが好ましい。
【0036】
<異方性感圧導電膜100の製造>
感圧導電膜100は、スプレー塗布、コーター塗布、スクリーン印刷などの塗布法により形成することができる。
例えば、離型シートを基材として用いて、この剥離シート上に、第二エラストマーを溶媒中に溶解ないし分散してなる第二エラストマー含有液を塗布し、乾燥して第二エラストマー層3を形成する。この第二エラストマー層3は、紫外線硬化型又は熱硬化型の第二エラストマー前駆体を必要により溶媒中に溶解してなる溶液を離型シート上に塗布し、必要により乾燥し、次いで紫外線又は加熱により硬化反応(付加反応、縮合反応等)させて形成することもできる。形成した第二エラストマー層3の厚さは0.1~100μmとすることが好ましく、10~50μmとすることがより好ましい。なお、第二エラストマー前駆体そのものが低粘度の液状である場合には溶媒は必要ではなく、それゆえ塗布後の乾燥は必要としない。
【0037】
続いて、第二エラストマー層3上に第一エラストマー層1を形成する。例えば、第一エラストマーを溶媒中に溶解ないし分散してなる第一エラストマー含有液中に、導電性粒子を体積比で、第一エラストマー:導電性粒子=1:1~11:1(好ましくは2:1~6:1)となるように混合して得た混合液(導電性粒子の分散液)を、第二エラストマー層3上に塗布し、塗膜上に平板を重ね、塗膜の粘度に応じて必要により加圧(自重による加圧を含む)することにより、導電性粒子2を単層に並べることができる。次いで平板を外して乾燥することで、第二エラストマー層3上に第一エラストマー層1が形成された積層体を得ることができる。上記の平板としては、ガラス板、樹脂板、金属板等を、必要により表面処理を施して離型性を高めて用いることができる。フッ素系コーティングを施したガラス板を用いることが、離形性の観点で好ましい。
上記第一エラストマー含有液は、紫外線硬化型又は熱硬化型の第一エラストマー前駆体を必要により溶媒中に溶解してなる溶液とすることもできる。この場合、第二エラストマー層3上に形成した塗膜上に平板を重ねて、平板で加圧して導電性粒子を単層に並べ、必要により平板を外してから乾燥し、次いで紫外線又は加熱により硬化反応させることにより、第一エラストマー層1を形成することができる。
なお、第一エラストマー前駆体そのものが低粘度の液状である場合には溶媒は必要ではなく、それゆえ塗膜の乾燥は必要としない。この場合、第二エラストマー層上に形成した塗布膜上に平板を重ねて、平板で加圧して導電性粒子を単層に並べ、その状態で紫外線又は熱により硬化反応させた後、平板を外して、第二エラストマー層上に第一エラストマー層を得ることもできる。
また、第二エラストマー層3上に導電性粒子2を並べて配し、この導電性粒子2を配した第二エラストマー層3上に、第一エラストマー含有液を塗布し、乾燥ないし硬化させて第一エラストマー層を形成することもできる。
なお、第一エラストマー前駆体そのものが低粘度の液状である場合には、ガラス板のような硬質の平板の代わりに、ガラス板に比べ軟質のエラストマー板を用いることが好ましい。紫外線硬化型又は加熱硬化型エラストマーを第一エラストマー前駆体として使用した場合には、軟質のエラストマー板で加圧した状態で、紫外線または加熱する事により、導電性粒子2が突出した構造の第一エラストマ―層を容易に形成することができる。
形成した第一エラストマー層1のエラストマー部分の厚さは5~100μmとすることが好ましく、10~100μmとすることがより好ましく、20~100μmとすることがさらに好ましい。
【0038】
こうして得られた感圧導電膜100は、例えば、これを適用する導電性基材4に装着する形状に切り出し、離型シートから剥がして、第二エラストマー層3と導線性基材4とが接するように導線性基材4上に張り付け、使用することができる。
【0039】
本発明の感圧導電膜100を適用する導電性基材4が複雑な形状の電極である場合などは、導電性基材4の表面に直接、感圧導電膜100を形成することもできる。この場合、感圧導電膜100を形成する上記の基材として、「離型シート」に代えて電極等の「導電性基材4」を用いればよい。
【0040】
すなわち、本発明の感圧導電膜は、下記工程(a1)~(d1)を含む方法により得ることができる。
(a1)基材表面に第二エラストマーを含む液を塗布し、乾燥して第二エラストマー層を形成する工程(a1-1)、又は、基材表面に紫外線硬化型又は熱硬化型の第二エラストマー前駆体を含む液を塗布し、紫外線照射又は熱により硬化反応させて第二エラストマー層を形成する工程(a1-2);
(b1)第二エラストマー層表面に、第一エラストマーと導電性粒子とを含む液を塗布して塗膜を形成する工程(b1-1)、又は、第二エラストマー層表面に、紫外線硬化型又は熱硬化型の第一エラストマー前駆体と導電性粒子とを含む液を塗布して塗膜を形成する工程(b1-2);
(c1)前記塗膜に平板をかぶせて前記導電性粒子を単層に並べる工程;
(d1)前記工程(b1-1)では前記塗膜を乾燥し、前記工程(b1-2)では紫外線照射又は熱により前記塗膜を硬化反応させて、第一エラストマー層を形成する工程。
【0041】
上記(b1-2)において、紫外線硬化型又は熱硬化型の第一エラストマー前駆体と導電性粒子とを含む液が低粘度の場合、(c1)において、塗膜に平板をかぶせれば、積極的に加圧しなくても導電性粒子を単層に並べることができる。
また、上記(d1)における「紫外線照射又は熱により前記塗膜を硬化反応させて、第一エラストマー層を形成する工程」は、塗膜が溶媒を含む場合には塗膜を乾燥してから行うことができ、このような形態も上記(d1)に含まれる。なお、塗膜の乾燥は、かぶせた平板を外して行うことができる。
【0042】
また、本発明の感圧導電膜は、下記工程(a2)~(c2)を含む方法により形成することができる。
(a2)基材表面に第二エラストマーを含む液を塗布し、乾燥して第二エラストマー層を形成する工程(a2-1)、又は、基材表面に紫外線硬化型又は熱硬化型の第二エラストマー前駆体を含む液を塗布し、紫外線照射又は熱により硬化反応させて第二エラストマー層を形成する工程(a2-2);
(b2)第二エラストマー層表面に導電性粒子を単層に配する工程;
(c2)前記の導電性粒子を単層に配した第二エラストマー層表面に、第一エラストマーを含む液を塗布し、乾燥して第一エラストマー層を形成する工程(c2-1)、又は、前記の導電性粒子を単層に配した第二エラストマー層表面に、紫外線硬化型又は熱硬化型の第二エラストマー前駆体を含む液を塗布し、紫外線照射又は熱により硬化反応させて第一エラストマー層を形成する工程(c2-2)。
上記(c2)における紫外線照射又は熱による塗膜の硬化反応は、必要により塗膜を乾燥してから行うことができる。
【0043】
層形成時間の短縮の観点から、第一及び第二のエラストマー層の形成には、紫外線硬化型又は熱硬化型のエラストマー前駆体を用いることが好ましい。
【0044】
本発明に用いる感圧導電膜は、本発明の規定を満たす限り、上記の形態に限定されるものではない。本発明の規定を満たす限りにおいて、上記で説明した形態の種々の変形例を本発明の感圧導電膜として適用することができる。
【0045】
本発明の感圧導電膜は、各種感圧センサ、コネクタ用の接点などに使用できる。現在、パソコンのキーボードや家電製品のスイッチパネルなどに使用されているMBSW(メンブレンスイッチ)は、プラスチック製フィルムを基材とし、導電性インクをスクリーン印刷機にて印刷して導電回路や接点を形成し、2枚の電極シートを上下対向に配置してスペーサーを介した構造になっている。シートやスペーサーなどの構成要素の厚さにより小型・省スペース化には限界がある。本発明の感圧導電膜を用いれば、薄いキーボードやスイッチパネルを作ることが可能となる。その他にも、自動ドア(エレベータ、車両、住宅ドアなど)や無人車両(バンパー)の衝突検知に用いられるタッチセンサ、津波検知や重量の管理に用いられる重量センサなどにも使用できる。
【0046】
本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例
【0047】
[分析方法]
<層厚>
感圧導電膜の断面をもとに、非接触式レーザー顕微鏡で測定した。
【0048】
<導電性粒子の平均粒子径>
マイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックSyncにて測定した。
【0049】
<隣接する互いに非接触の導電性粒子間の距離>
隣接する互いに非接触の導電性粒子間の最短距離を、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察画像に基づき決定した。
【0050】
<引張強さ、100%モジュラス>
JIS K 6251に準拠して測定した。試験片形状は、JIS5号ダンベルを採用した。
【0051】
<体積抵抗率>
JIS K 6271に準拠して、二重リング法にて測定した。
【0052】
[実施例1]
導電性基材(アルミ板)上に感圧導電膜を形成して、図1に示す導電性基材付の感圧導電膜を得た。以下に具体的に説明する。
上記導電性基材の表面に、紫外線(UV)硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4410、信越化学工業社製)を塗布し、形成した塗膜をUV照射し、60℃で2時間加熱硬化して、厚さ20μmの第二エラストマー層を形成した。
続いて、UV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4510、信越化学工業社製)に対して、平均粒子径70μm(すべての導電性粒子の粒径が65~75μmの範囲内にある)の導電性粒子(銀をガラスビーズ表面にコーティングしたガラス-銀被覆粒子。以下同様。)を、体積比で、前駆体:導電性粒子=2:1になるように混合した。この混合物をディスペンサーで真空脱泡しながら第二エラストマー層上に吐出して塗膜を形成した。フッ素系コーティングを施したガラス板を塗膜上に重ね、ガラス板で加圧(10gf~500gfの間の調整値)して導電性粒子を単層に並べた。その後、UV照射し、60℃で2時間加熱することにより塗膜を硬化させ、ガラス板を取り除き、エラストマー部分の厚さが40μmの第一エラストマー層を形成した。こうして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。なお、UV光源としてUV-LED(365nm)を使用した。この条件で作製した第二エラストマー層の引張強さは3.0MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは1.0MPaであった。
【0053】
[実施例2]
実施例1において、第二エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4551、信越化学工業社製)に変更し、また第一エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4410、信越化学工業社製)に変更した。作製した第二エラストマー層の引張強さは0.05MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは0.1MPaであった。それら以外は、実施例1と同様にして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。
【0054】
[実施例3]
実施例1において、第二エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4551、信越化学工業社製)に変更した。作製した第二エラストマー層の引張強さは0.05MPaであった。それ以外は、実施例1と同様にして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。
【0055】
[実施例4] 実施例1において、第二エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4510、信越化学工業社製)に変更し、第一エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4410、信越化学工業社製)に変更し、導電性粒子を平均粒子径10μm(すべての導電性粒子の粒径がCV値4%の範囲内にある)の導電性粒子に変更し、上記前駆体と導電性粒子を体積比で、前駆体:導電性粒子=11:1になるように混合した。作製した第二エラストマー層の引張強さは8.0MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは0.1MPaであった。また各層の膜厚を下表に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様にして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。
【0056】
[実施例5] 導電性基材(アルミ板)上に感圧導電膜を形成して、図1に示す導電性基材付の感圧導電膜を得た。以下に具体的に説明する。
上記導電性基材の表面に、熱硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR7005、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)を塗布し、形成した塗膜を、セラミックヒーターを用いて60℃で30分間加熱して硬化させ、厚さ50μmの第二エラストマー層を形成した。
続いて、熱硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR7060、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)に対して、平均粒子径150μm(すべての導電性粒子の粒径が145~155μmの範囲内にある)の導電性粒子を、体積比で、前駆体:導電性粒子=2.5:1になるように混合した。この混合物をディスペンサーで真空脱泡しながら第二エラストマー層上に吐出して塗膜を形成した。熱板を内蔵した柔軟なフッ素エラストマー板を塗膜上に重ね、フッ素エラストマー板の加圧で導電性粒子を単層に並べた。フッ素エラストマー板を加温し、60℃で30分間加熱して硬化させ、フッ素エラストマー板を取り除き、エラストマー部分の厚さが90μmの第一エラストマー層を形成した。作製した第二エラストマー層の引張強さは0.1MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは2.1MPaであった。こうして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。なお、エラストマー層の硬化速度は白金触媒を用いて調整した。
【0057】
[実施例6]
導電性基材(アルミ板)上に感圧導電膜を形成して、図1に示す導電性基材付の感圧導電膜を得た。以下に具体的に説明する。
上記導電性基材の表面に、熱硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR7005、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)を塗布し、形成した塗膜を、セラミックヒーターを用いて60℃で30分間加熱して硬化させ、厚さ10μmの第二エラストマー層を形成した。
熱硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR7060、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)に対して、平均粒子径30μm(すべての導電性粒子の粒径が25~35μmの範囲内にある)の導電性粒子とゴム粒子(信越化学社製:KMP-601、平均粒子径12μm)を、体積比で、前駆体:導電性粒子:ゴム粒子=5:1:1になるように混合した。この混合物をディスペンサーで真空脱泡しながら、テフロンシート上に吐出して塗膜を形成した。さらに、上からタンポを押し付けて、塗膜中の粒子を1層に並べるとともにタンポ上に塗膜を載せた。第二エラストマー層上に上記タンポを押し付けて塗膜を第二エラストマー層上に転写し、セラミックヒーターを用いて60℃で30分間加熱して硬化させ、第二エラストマー層上にエラストマー部分の厚さが20μmの第一エラストマー層を形成した。作製した第二エラストマー層の引張強さは0.1MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは2.1MPaであった。こうして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。
【0058】
[実施例7]
導電性基材(アルミ板)上に感圧導電膜を形成して、図1に示す導電性基材付の感圧導電膜を得た。以下に具体的に説明する。
上記導電性基材の表面に、アクリルエラストマー(商品名:クラリティLA3320 、 クラレ社製)をトルエンで溶解させた溶液を塗布し、塗膜を乾燥させて、厚さ20μmの第二エラストマー層を形成した。
さらに、アクリルエラストマー(商品名:クラリティLA2250、クラレ社製)をトルエンに溶解させた溶液に対して、平均粒子径50μm(すべての導電性粒子の粒径が45~55μmの範囲内にある)の導電性粒子を、体積比で、前駆体:導電性粒子=1:1になるように混合した。この混合物をディスペンサーで真空脱泡しながら第二エラストマー層上に吐出して塗膜を形成した。フッ素系コーティングを施したガラス板を塗膜上に重ね、ガラス板で加圧(10gf~500gfの間の調整値)して導電性粒子を単層に並べた。その後、ガラス板を取り除き、塗膜を乾燥させ、エラストマー部分の厚さが30μmの第一エラストマー層を形成した。作製した第二エラストマー層の引張強さは3.2MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは3.5MPaであった。こうして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。
【0059】
[実施例8]
実施例1において、第二エラストマー層の形成材料を熱硬化型ウレタンエラストマー前駆体(商品名:ニッポラン963、東ソー社製に対して、商品名:エムシー115、東ソー社製を混合)に変更し、第一エラストマー層の形成材料を熱硬化型ウレタンエラストマー前駆体(商品名:PANDEX CPU-P130T、DIC社製に対して、1,4-ブタンジオールとトリメチロールプロパンの混合物(7/3)を混合)に変更し、導電性粒子を平均粒子径50μm(すべての導電性粒子の粒径が45~55μmの範囲内にある)の導電性粒子に変更し、前駆体と導電性粒子を体積比で、前駆体:導電性粒子=6:1になるようにした。作製した第二エラストマー層の引張強さは6.0MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは4.0MPaであった。また各層の膜厚を下表に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様にして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。
【0060】
[実施例9]
導電性基材(アルミ板)上に感圧導電膜を形成して、図1に示す導電性基材付の感圧導電膜を得た。以下に具体的に説明する。
上記導電性基材の表面に、熱硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR7005、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)を塗布し、形成した塗膜を、セラミックヒーターを用いて60℃で30分間加熱して硬化させ、厚さ20μmの第二エラストマー層を形成した。
平均粒子径50μm(すべての導電性粒子の粒径が45~55μmの範囲内にある)の導電性粒子を、粒子サイズの穴が一定間隔で空いている金型(フォトリソグラフィを用いた金属モールドを用いた。粒子同士の最短距離は50μm)に並べ、第二エラストマー層を重ねて、導電性粒子を第二エラストマー上に転写して導電性粒子を単層に並べた。
さらに、熱硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:LSR7070、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)を導電性粒子を単層に配した第二エラストマー層表面に塗布し、セラミックヒーターを用いて60℃で30分間加熱して硬化させ、エラストマー部分の厚さが50μmの第一エラストマー層を形成した。第一エラストマー層前駆体と導電性粒子は体積比で、前駆体:導電性粒子=1.5:1になるようにした。作製した第二エラストマー層の引張強さは0.07MPa、第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは3.7MPaであった。こうして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。
【0061】
[比較例1]
実施例1において、前駆体と導電性粒子を体積比で、前駆体:導電性粒子=3.5:1になるように混合し、また各層の膜厚を下表に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様にして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。
【0062】
[比較例2]
実施例1において、第一エラストマー層の形成材料をUV硬化型シリコーンエラストマー前駆体(商品名:KER-4530、信越化学工業社製)に変更し、上記前駆体と導電性粒子を体積比で、前駆体:導電性粒子=3.5:1になるようにした。作製した第一エラストマー層のエラストマー部分の100%モジュラスは0.07MPaであった。また各層の膜厚を下表に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様にして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。
【0063】
[比較例3]
実施例7において、第一エラストマー層の形成に、前駆体と導電性粒子を体積比で、前駆体:導電性粒子=1:2になるように混合したものを用いたこと以外は、実施例7と同様にして導電性基材付の異方性感圧導電膜を得た。
【0064】
上記各実施例及び比較例で用いた導電性粒子は、いずれも真球度が70以上であった。
【0065】
[試験例1] 加圧通電特性
接触端子先端形状がφ5mmの円柱状コンタクトプローブを用いて、上記で調製した導電性基材付の異方性感圧導電膜の、異方性感圧導電膜表面へ垂直(膜厚方向)に荷重を加えたとき、測定電圧0.2V、印加電流(直流)1mAで抵抗を測定した。測定器としては、アドバンテスト社製TR2114を使用した。端子面に対する荷重は0.1gf、200gf、600gfと段階的に上げた。抵抗が200Ω以上の場合を絶縁状態と判断し、「O.R.」として示した。
結果を下表に示す。
【0066】
[試験例2] 自己修復性
上記の加圧通電特性の評価における荷重が0.1gfのときの接触端子先端の位置を初期位置とし、荷重が200gf、600gfのときの接触端子先端の位置をそれぞれ最大荷重位置とし、初期位置と最大荷重位置に接触端子先端を繰り返し往復させたときの内部抵抗を測定した。最大荷重位置から初期位置に戻したときに、内部抵抗が通電状態(抵抗5Ω以下)から絶縁状態(抵抗200Ω以上(O.R.))に回復できた回数を、下記評価基準に当てはめ、自己修復性を評価した。
結果を下表に示す。
【0067】
<自己修復性評価基準>
5点:100回以上
4点:76~99回
3点:51~75回
2点:26~50回
1点:11~25回
0点:0~10回
結果を下表に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示されるように、導電性粒子が第二エラストマー層とは反対側に向けて、第一エラストマー層のエラストマー部分よりも突出していない場合、加圧力に対する感度が低く、通電のためには大荷重を要する結果となった(比較例1)。
また、導電性粒子が第二エラストマー層とは反対側に向けて、第一エラストマー層のエラストマー部分よりも突出していない場合でも、第一エラストマー層の100%モジュラスを小さくすることにより低荷重による通電が可能になる。しかしこの場合、自己修復性を十分に発現することができない(比較例2)。
また、隣接する互いに非接触の導電性粒子間の距離が短すぎると、荷重に対する応答性に劣る結果となった。これは、膜厚方向に導電性粒子を移動させるために、第一エラストマー層にかかるせん断力が大きくなることが一因と考えられる。
これに対し、本発明の規定を満たす異方性感圧導電膜はいずれも、0.1gfでは絶縁状態を維持でき、200gfの荷重ですばやく低抵抗の通電状態を実現でき、また自己修復性にも優れていた(実施例1~9)。
【符号の説明】
【0070】
100 異方性感圧導電膜
1 第一エラストマー層
2 導電性粒子
3 第二エラストマー層
4 導電性基材
5 接触端子
図1
図2
図3