(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】含フッ素有機硫黄化合物及びこれを用いた表面改質剤
(51)【国際特許分類】
C07C 323/05 20060101AFI20230731BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C07C323/05 CSP
C09K3/18 102
(21)【出願番号】P 2019213426
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2019079474
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】白井 智大
(72)【発明者】
【氏名】大塚 澪
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/119371(WO,A1)
【文献】特開2005-239582(JP,A)
【文献】特開2006-283180(JP,A)
【文献】特表2010-521541(JP,A)
【文献】特表2010-509395(JP,A)
【文献】国際公開第2009/151109(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 323/05
C09K 3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
(Rf
1-CH=CH-Rf
2-(CH
2)
n-S)
X-Y (1)
(式(1)中、
Rf
1は、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基であり、
Rf
2は、炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基であり、
Xは、1または2であり、
Xが1である場合、Yは水素原子またはアセチル基であり、
Xが2である場合、Yは存在せず、
nは1~8の整数である)
で示される含フッ素有機硫黄化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の含フッ素有機硫黄化合物と、溶媒を含むことを特徴とする組成物。
【請求項3】
前記溶媒が有機溶媒、水または混合溶媒である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記溶媒がアルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、極性非プロトン性溶媒またはフッ素系溶媒からなる群より選択される1種または2種以上の溶媒を含むことを特徴とする、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の含フッ素有機硫黄化合物からなる表面改質剤。
【請求項6】
請求項2から4のいずれかに記載の組成物からなる表面改質剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規含フッ素有機硫黄化合物及びこれを用いた表面改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、炭素-フッ素結合の性質に基づく特徴的な機能を有しており、例えば耐熱性、耐薬品性、撥水撥油性、低摩擦性、剥離性などの性質を示す機能性材料として用いられている。
【0003】
中でも、チオール基やジスルフィド結合等を有する含フッ素有機硫黄化合物は、単体の金属表面に結合する性質を持つことから、金属表面に上記のような機能を付与する表面改質剤として利用されている。
【0004】
これまで、含フッ素有機硫黄化合物を含む表面改質剤としては、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物が広く用いられており、例えば撥水撥油表面の作製(例えば特許文献1参照)、ナノインプリントモールドの非粘着層(例えば特許文献2参照)、防錆剤(例えば特許文献3参照)等への利用例がある。しかし、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物は、生体蓄積性等、環境に対して悪影響を与える可能性があり、問題視されている。
【0005】
これに対し、生体蓄積性が低いとされる炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物等で代替した場合、表面改質性能が炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物に比べて劣ることが知られている。
【0006】
炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基から構成される含フッ素化合物からなる表面改質剤として、種々の化合物が例示されてはいるが(例えば特許文献4参照)、結合性基としてチオール基やジスルフィド結合等を有する化合物に関する検討はなされておらず、表面改質剤としてさらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4695278号公報
【文献】国際公開第01/53889号
【文献】特開2006-283180号公報
【文献】国際公開第2017/119371号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、生体蓄積性が低いとされる炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基から構成される、新規含フッ素有機硫黄化合物並びにこれを用いた組成物及びこれを含有する撥水撥油性等に優れた表面改質剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以下に示す炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基から構成され、分子内に不飽和結合を有する含フッ素有機硫黄化合物を用いた表面改質剤が、優れた撥水撥油性等を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記一般式(1)に示される含フッ素有機硫黄化合物並びにこれを用いた組成物及び表面改質剤に係る発明である。
(Rf1-CH=CH-Rf2-(CH2)n-S)X-Y (1)
(式(1)中、
Rf1は、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基であり、
Rf2は、炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基であり、
Xは、1または2であり、
Xが1である場合、Yは水素原子またはアセチル基であり、
Xが2である場合、Yは存在せず、
nは1~8の整数である)
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素有機硫黄化合物において、Rf1基は直鎖又は分岐の炭素数1~6のパーフルオロアルキル基が好ましく、さらに直鎖のパーフルオロアルキル基が好ましい。Rf1基の構造として分岐構造を有していてもよいが、直鎖のパーフルオロアルキル基は集合体を形成しやすく、金属表面に単分子膜を形成しやすいからである。
【0013】
また、Rf2基は直鎖又は分岐の炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基が好ましく、さらに直鎖のパーフルオロアルキレン基が好ましい。Rf2基の構造として分岐構造を有していてもよいが、直鎖のパーフルオロアルキレン基は集合体を形成しやすく、金属表面に単分子膜を形成しやすいからである。
【0014】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素有機硫黄化合物における、Rf1-CH=CH-Rf2-の部分の具体的構造としては、C2F5-CH=CH-C4F8-、C2F5-CH=CH-C6F12-、C4F9-CH=CH-C4F8-、C4F9-CH=CH-C6F12、C6F13-CH=CH-C4F8-、C6F13-CH=CH-C6F12-などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
これらの構造を有する含フッ素有機硫黄化合物は、下記一般式(2)で示される、末端がヨウ素化されたフルオロアルキル化合物を出発原料として製造できる。末端がヨウ素化されたフルオロアルキル化合物(下記一般式(2)で示される化合物)は公知の化合物であり、上記した国際公開第2017/119371号(特許文献4)に記載されている。
Rf1-CH=CH-Rf2-I (2)
【0016】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素有機硫黄化合物において、Xは1または2である。Xが1である場合、Yは水素原子またはアセチル基であり、Xが2である場合、Yは存在しない。また一般式(1)において、nは1~8の整数である。
【0017】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素有機硫黄化合物は、次に例示する方法で得ることができる。
【0018】
すなわち、末端がヨウ素化されたフルオロアルキル化合物(上記一般式(2)で示される化合物)をエチレンに付加させて得られる、下記一般式(3)で示されるフルオロアルキルエチレンアイオダイドと、チオ酢酸S-カリウムを反応させることにより得られる。
Rf1-CH=CH-Rf2-CH2CH2I (3)
【0019】
あるいは末端がヨウ素化されたフルオロアルキル化合物(上記一般式(2)で示される化合物)を、上記した国際公開第2017/119371号(特許文献4)に記載の方法で不飽和結合を有するアルコールに付加させ、ヨウ素を還元的に脱離させた後、ヒドロキシ基をハロゲン基に置換し、さらにチオ酢酸S-カリウムを反応させることにより得られる。
【0020】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素有機硫黄化合物において、Xが1、Yが水素原子である含フッ素有機硫黄化合物は、上記方法で得られたチオ酢酸エステル化合物を既知の方法で加水分解することにより得られる。
【0021】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素有機硫黄化合物において、Xが2である含フッ素有機硫黄化合物は、上記方法で得られたチオール化合物に酸化剤を作用させることにより得られる。
【0022】
本発明の一般式(1)で示される含フッ素有機硫黄化合物の製造に適用可能な溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム等の(ハロゲン化)炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の極性非プロトン性溶剤、水など、反応に不活性な溶剤であればあらゆるものが使用可能である。
【0023】
本発明において用いられる溶剤は、反応に供する化合物に応じて適切に選択の上で使用でき、また反応に供する化合物が液体であれば溶剤を用いなくともよい。
【0024】
本発明の一般式(1)で表される含フッ素有機硫黄化合物の精製方法としては、公知の方応で実施可能で、例えば、中和、溶媒抽出、乾燥、ろ過、濃縮、蒸留や再結晶、カラムクロマトグラフィー等により精製し、目的物の一般式(1)で示される含フッ素有機硫黄化合物を得ることができる。
【0025】
本発明の一般式(1)で表される含フッ素有機硫黄化合物が液体である場合は、そのままあるいは必要に応じて塩基を加えることにより、それ自身が表面改質剤として機能させることができる。
【0026】
本発明の一般式(1)で表される含フッ素有機硫黄化合物のうち、Xが1、Yが水素原子である化合物及びXが2である化合物は、有機溶媒、水または2種以上の有機溶媒や、水と有機溶媒などの混合溶媒に溶解し、含フッ素有機硫黄化合物と溶媒とを含む組成物からなる表面改質剤として用いることができる。ここで表面改質剤中の含フッ素有機硫黄化合物は液体ではなく固体となることがあり、溶媒に溶解して溶液状の組成物とすることにより、塗布や浸漬等により金属表面を処理できる形態とすることができる。
【0027】
また本発明の一般式(1)で示される含フッ素有機硫黄化合物のうち、Xが1、Yがアセチル基である化合物は、有機溶媒、水または2種以上の有機溶媒や、水と有機溶媒などの混合溶媒に溶解し、必要に応じて塩基を加えることにより、含フッ素有機硫黄化合物と溶媒及び塩基を含む組成物からなる表面改質剤として用いることができる。ここで表面改質剤中の含フッ素有機硫黄化合物及び塩基は液体ではなく固体となることがあり、溶媒に溶解して溶液状の組成物とすることにより、塗布や浸漬等により金属表面を処理できる形態とすることができる。
【0028】
本発明の含フッ素有機硫黄化合物と溶媒とを含む組成物からなる表面改質剤において、固形分としての含フッ素有機硫黄化合物濃度、すなわち固形分濃度としては0.01重量%~10重量%が好ましく、0.05重量%~5重量%がより好ましい。
【0029】
本発明の含フッ素有機硫黄化合物と溶媒とを含む組成物からなる表面改質剤において、有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の極性非プロトン性溶媒、パーフルオロヘキサン、ヘキサフルオロベンゼンなどのフローラス溶媒あるいはフッ素系溶媒などが挙げられ、一般式(1)で示される含フッ素有機硫黄化合物と反応しない溶媒であればよい。これらの溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上の溶媒を用いてもよいが、1種単独で用いるのが好ましい。
【0030】
本発明の表面改質剤において、塩基としてはアンモニア水等が挙げられ、添加量としては0.01重量%~10重量%が好ましく、0.05重量%~5重量%がより好ましい。
【0031】
従って、本発明の一般式(1)で示される含フッ素硫黄化合物と上記の溶媒、及び必要に応じて塩基を含む組成物は、例えば含フッ素硫黄化合物や塩基が固体の場合に、溶液状として金属表面の処理を容易にするなど有益である。本発明の組成物中、溶媒としては有機溶媒、水または混合溶媒を用いることができ、さらに有機溶媒としては上記の通り、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、極性非プロトン性溶媒またはフッ素系溶媒からなる群より選択される1種または2種以上の溶媒であり、含フッ素有機硫黄化合物を含む組成物として有用である。
【0032】
本発明の表面改質剤による金属表面の改質は、浸漬、刷毛やワイプ、ウエス等による塗布、霧吹き等による噴射、スプレーガンによる噴射、エアゾール噴射等、任意の方法により行うことができる。
【0033】
本発明の表面改質剤により改質される金属としては、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金等が挙げられる。
【0034】
本発明の表面処理剤の具体的な用途としては、例えば、撥水撥油処理剤、非粘着機能の付与剤、防汚処理剤、防曇処理剤、離型剤等が挙げられる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の一般式(1)で示される含フッ素有機硫黄化合物を用いることにより、生体蓄積性が低いとされる炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物を有効成分として、極めて高い撥水撥油性等を与える表面改質剤を提供できる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0037】
なお、分析に当たっては下記機器を使用した。
1H-NMR,19F-NMR:ブルカー製AVANCE II 400
GC-MS:島津製作所製GCMS-QP2010 Ultra
【0038】
実施例1
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,16-ペンタコサフルオロ-9-ヘキサデセン-1-チオール(iii)の合成
1-1)1-ヨード-3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,16-ペンタコサフルオロ-9-ヘキサデセン(i)の合成
【0039】
【0040】
150mLのSUS製オートクレーブに1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,9,9,10,10,11,11,12,12,13,13,14,14,14-ペンタコサフルオロ-1-ヨード-7-テトラデセン(a1)100.00g(0.130mol)及びジターシャリブチルペルオキシド0.13g(0.003mol)を仕込み、密閉後内部を窒素置換した。その後115℃に昇温し、エチレン2.00g(0.142mol)を0.5~1.0MPaの圧力を保ちながら添加した。さらに115℃で1時間反応した後、冷却して化合物(i)103.50gを白色固体として取得した。収率は99.9%であった。
【0041】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.48(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),3.17(m,2H,CH
2
I),2.65(m,2H,CH
2
CF2)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.41(t,J=9.8Hz,3F,CF3),-114.39(m,4F,CF
2
CH), -115.50(m,2F,CF
2
CH2),-122.08(m,6F,CF2CF2CF2), -123.33(m,2F,CF2),-123.89(m,6F,CF2CF2CF2),-126.69(m,2F,CF2)
【0042】
1-2)チオ酢酸S-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,16-ペンタコサフルオロ-9-ヘキサデセン-1-イル)(2)の合成
【0043】
【0044】
50mLの3つ口フラスコにN,N-ジメチルホルムアミド25mL(富士フイルム和光純薬製)、化合物(i)5.00g(6.25mmol)及びチオ酢酸S-カリウム0.86g(富士フイルム和光純薬製、7.50mmol)を仕込み、25℃で1時間反応した。反応液をジイソプロピルエーテル50gで希釈し、水50gで3回洗浄した。有機層を減圧濃縮した後、ヘプタン10g(富士フイルム和光純薬製)で再結晶して化合物(ii)4.21gを淡黄色固体として取得した。収率は90%であった。
【0045】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.48(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),3.08(m,2H,CH
2
CF2),2.34(m,2H,CH
2
S),2.33(m,6H,CH3)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.36(t,J=9.8Hz,3F,CF3),-114.40(m,4F,CF
2
CH), -115.06(m,2F,CF
2
CH2),-122.10(m,6F,CF2CF2CF2), -123.38(m,2F,CF2),-123.89(m,6F,CF2CF2CF2),-126.70(m,2F,CF2)
GC-MS:計算値[C18H9F25OS-F]+:710、実測値:710
【0046】
1-3)3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,16-ペンタコサフルオロ-9-ヘキサデセン-1-チオール(iii)の合成
【0047】
【0048】
10mLの反応管に化合物(ii)0.50g(0.67mmol)及びメタノール2mL(富士フイルム和光純薬製)を仕込み、硫酸0.07g(和光純薬工業製、0.74mmol)をメタノール1.5mLに溶かした溶液を滴下した後、60℃で1時間反応した。反応液をジイソプロピルエーテル20gで希釈し、水20gで3回洗浄した。有機層を減圧濃縮した後、ヘプタン1.5g(富士フイルム和光純薬製)で再結晶して化合物(iii)0.31gを白色固体として取得した。収率は66%であった。
【0049】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.48(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),2.74(m,2H,CH
2
S),2.38(m,2H,CH
2
CF2),1.57(t,J=9.8Hz,1H,SH)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.37(t,J=9.8Hz,3F,CF3),-114.85(m,4F,CF
2
CH), -115.00(m,2F,CF
2
CH2),-122.09(m,6F,CF2CF2CF2), -122.32(m,2F,CF2),-123.90(m,6F,CF2CF2CF2),-126.65(m,2F,CF2)
GC-MS:計算値[C16H7F25S]+:706、実測値:706
【0050】
実施例2
4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ペンタコサフルオロ-10-ヘプタデセン-1-チオール(vii)の合成
2-1)メタンスルホン酸4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ペンタコサフルオロ-10-ヘプタデセン(iv)の合成
【0051】
【0052】
50mLの3つ口フラスコにテトラヒドロフラン25mL(富士フイルム和光純薬製)、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ペンタコサフルオロ-10-ペンタデセン-1-オール3.00g(4.26mmol)及びトリエチルアミン0.65g(和光純薬工業製、6.39mmol)を仕込み、撹拌下0℃でメタンスルホニルクロリド0.73g(和光純薬工業製、6.39mmol)を滴下した。室温で1時間反応を行った後、反応液を20gのジイソプロピルエーテルで希釈し、水20gで3回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、化合物(iv)3.29gを白色固体として取得した。収率は99%であった。
【0053】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.48(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),4.30(t,J=6.0Hz,2H,CH
2
O),2.22(m,2H,CH
2
CF2),2.08(m,2H,CH2
CH
2
CH2)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.31(t,J=9.8Hz,3F,CF3),-114.37(m,4F,CF
2
CH), -114.85(m,2F,CF
2
CH2),-122.14(m,6F,CF2CF2CF2),-123.39(m,2F,CF2),-123.92(m,6F,CF2CF2CF2),-126.71(m,2F,CF2)
【0054】
2-2)1-ヨード-4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ペンタコサフルオロ-10-ヘプタデセン(v)の合成
【0055】
【0056】
50mLの3つ口フラスコにアセトン10mL(富士フイルム和光純薬製)、化合物(iv)2.00g(2.56mmol)及びヨウ化ナトリウム0.64g(富士フイルム和光純薬製、3.83mol)を仕込み、50℃で1時間反応した。反応液を20gのジイソプロピルエーテルで希釈し、水20gで3回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、化合物(v)2.00gを淡黄色固体として取得した。収率は96%であった。
【0057】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.48(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),3.23(t,J=6.4Hz,2H,CH
2
I),2.20(m,2H,CH
2
CF2),2.15(m,2H,CH2
CH
2
CH2)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.31(t,J=9.8Hz,3F,CF3),-114.25(m,6F,CF2),-122.11(m,6F,CF2),-123.39(m,2F,CF2), -123.92(m,6F,CF2),-126.72(m,2F,CF2)
【0058】
2-3)チオ酢酸S-(4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ペンタコサフルオロ-10-ヘプタデセン-1-イル)(vi)の合成
【0059】
【0060】
25mLの3つ口フラスコにN,N-ジメチルホルムアミド25mL(富士フイルム和光純薬製)、化合物(v)1.00g(1.23mmol)及びチオ酢酸S-カリウム0.17g(富士フイルム和光純薬製、1.47mmol)を仕込み、25℃で1時間反応した。反応液をジイソプロピルエーテル10gで希釈し、水10gで3回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、化合物(vi)0.89gを淡黄色固体として取得した。収率は95%であった。
【0061】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.49(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),3.06(t,J=2.4Hz,2H,CH
2
S),2.14(m,2H,CH
2
CF2),1.91(m,2H,CH2
CH
2
CH2)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.30(t,J=9.8Hz,3F,CF3),-114.60(m,6F,CF2),-122.11(m,6F,CF2),-123.39(m,2F,CF2), -123.92(m,6F,CF2),-126.66(m,2F,CF2)
【0062】
2-4)4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,17-ペンタコサフルオロ-10-ヘプタデセン-1-チオール(vii)の合成
【0063】
【0064】
10mLの反応管に化合物(vi)0.78g(1.02mmol)及びメタノール4mL(富士フイルム和光純薬製)を仕込み、硫酸0.11g(和光純薬工業製、1.13mmol)をメタノール1mLに溶かした溶液を滴下した後、60℃で1時間反応した。反応液をジイソプロピルエーテル20gで希釈し、水20gで3回洗浄した。有機層を減圧濃縮した後、ヘプタン2g(富士フイルム和光純薬製)で再結晶して化合物(vii)0.39gを白色固体として取得した。収率は53%であった。
【0065】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.49(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),2.67(dt,J=28Hz,7.2Hz,2H,CH
2
S),2.19(m,2H,CH
2
CF2),1.91(m,2H,CH2
CH
2
CH2),1.36(t,J=8.0Hz,1H,SH)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.35(t,J=9.8Hz,3F,CF3),-114.49(m,6F,CF2),-122.36(m,6F,CF2),-123.40(m,2F,CF2), -123.97(m,6F,CF2),-126.70(m,2F,CF2)
GC-MS:計算値[C19H11F25OS-]+:720、実測値:720
【0066】
実施例3
4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,12,12,13,13,14,14,15,15,15-ヘンイコサフルオロ-10-ペンタデセン-1-チオール(xi)の合成
3-1)メタンスルホン酸4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,12,12,13,13,14,14,15,15,15-ヘンイコサフルオロ-10-ペンタデセン(viii)の合成
【0067】
【0068】
50mLの3つ口フラスコにテトラヒドロフラン25mL(富士フイルム和光純薬製)、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,12,12,13,13,14,14,15,15,15-ヘンイコサフルオロ-10-ペンタデセン-1-オール(a3)5.00g(8.28mmol)及びトリエチルアミン1.26g(和光純薬工業製、12.41mmol)を仕込み、撹拌下0℃でメタンスルホニルクロリド1.42g(和光純薬工業製、12.41mmol)を滴下した。室温で1時間反応を行った後、反応液を30gのジイソプロピルエーテルで希釈し、水20gで3回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、化合物(viii)5.32gを淡黄色油状物として取得した。収率は97%であった。
【0069】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.48(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),4.30(t,J=6.0Hz,2H,CH
2
O),3.00(s,3H,CH3),2.22(m,2H,CH
2
CF2),2.08(m,2H,CH2
CH
2
CH2)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.52(t,J=9.6Hz,3F,CF3),-114.28(m,6F,CF2), -121.90(m,4F,CF2),-123.83(m,4F,CF2),-124.70(m,2F,CF2),-126.21(m,2F,CF2)
【0070】
3-2)1-ヨード-4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,12,12,13,13,14,14,15,15,15-ペンタコサフルオロ-10-ヘプタデセン(ix)の合成
【0071】
【0072】
50mLの3つ口フラスコにアセトン8mL(富士フイルム和光純薬製)、化合物(viii)4.00g(6.00mmol)及びヨウ化ナトリウム4.50g(富士フイルム和光純薬製、30.02mol)を仕込み、60℃で2時間反応した。反応液を40gのジイソプロピルエーテルで希釈し、水40gで2回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、化合物(ix)3.83gを淡黄色油状物として取得した。収率は89%であった。
【0073】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.48(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),3.20(t,J=6.8Hz,2H,CH
2
I),2.20(m,4H,CH
2
CH
2
CF2)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.57(t,J=9.6Hz,3F,CF3),-114.02(m,6F,CF2),-121.86(m,4F,CF2),-123.80(m,4F,CF2), -123.84(m,2F,CF2),-124.68(m,2F,CF2)
【0074】
3-3)チオ酢酸S-(4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,15-ペンタコサフルオロ-10-ヘプタデセン-1-イル)(x)の合成
【0075】
【0076】
10mLの反応管にN,N-ジメチルホルムアミド5mL(富士フイルム和光純薬製)、化合物(ix)1.00g(1.40mmol)及びチオ酢酸S-カリウム0.19g(富士フイルム和光純薬製、1.68mmol)を仕込み、25℃で1時間反応した。反応液をジイソプロピルエーテル10gで希釈し、水10gで3回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、化合物(x)0.93gを淡黄色油状物として取得した。収率は99%であった。
【0077】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.50(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),2.96(t,J=7.2Hz,2H,CH
2
S),2.33(s,3H,CH3),2.19(m,2H,CH
2
CF2),1.93(m,2H,CH
2
CH2CF2)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.49(t,J=9.6Hz,3F,CF3),-114.27(m,6F,CF2),-121.90(m,4F,CF2),-123.85(m,4F,CF2), -124.67(m,2F,CF2),-126.18(m,2F,CF2)
【0078】
3-4)4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,15-ペンタコサフルオロ-10-ヘプタデセン-1-チオール(xi)の合成
【0079】
【0080】
10mLの反応管に化合物(x)0.50g(0.75mmol)及びメタノール2mL(富士フイルム和光純薬製)を仕込み、硫酸0.08g(和光純薬工業製、1.13mmol)をメタノール1mLに溶かした溶液を滴下した後、60℃で1時間反応した。反応液をジイソプロピルエーテル20gで希釈し、水20gで3回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、化合物(xi)0.32gを淡黄色油状物として取得した。収率は68%であった。
【0081】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.51(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),2.64(q,J=6.8Hz,2H,CH
2
S),2.24(m,2H,CH
2
CF2),1.96(m,2H,CH2
CH
2
CH2),1.38(t,J=8.0Hz,1H,SH)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-81.45(t,J=10.4Hz,3F,CF3),-114.27(m,6F,CF2),-121.93(m,4F,CF2),-123.87(m,4F,CF2), -124.68(m,2F,CF2),-126.18(m,2F,CF2)
GC-MS:計算値[C15H9F21S]+:620、実測値:620
【0082】
実施例4
ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,16-ペンタコサフルオロ-9-ヘキサデセニル)ジスルフィド(xii)の合成
【0083】
【0084】
25mLの3つ口フラスコにメタノール3.5mL(富士フイルム和光純薬製)、化合物(iii)0.50g(0.71mmol)及びナトリウムメトキシド0.02g(東京化成工業製、0.35mol)を仕込み、撹拌下0℃で35%過酸化水素0.05g(和光純薬工業製、1.7mmol)を滴下した。室温で時間反応し、室温で1時間反応を行った後、反応液を20gのジイソプロピルエーテルで希釈し、水20gで3回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、化合物(xii)0.50gを淡黄色固体として取得した。収率は98%であった。
【0085】
分析結果は以下の通りであった。
1H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.39(m,2H,C6F13
CH=CHC6F12),2.88(m,2H,CH
2
S),2.52(m,2H,CH
2
CF2)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:トリフルオロメチルベンゼン) δ(ppm):-82.94(t,J=9.8Hz,3F,CF3),-114.30(m,4F,CF
2
CH), -115.77(m,2F,CF
2
CH2),-122.20(m,6F,CF2CF2CF2),-122.32--124.94(m,8F,CF2)-127.91(m,2F,CF2)
【0086】
実施例5
表面改質剤の調製
実施例1で得られた化合物(iii)0.1重量%及びエタノール99.9重量%よりなる表面改質剤溶液を調製した。この表面改質剤溶液を用いて、次のような測定方法で表面改質性能の評価を行った。
【0087】
撥水撥油性評価
銅板(鏡面仕上げ、縦20mm×横10mm×厚さ1mm)をアセトン中で30分間超音波洗浄した後、表面改質剤溶液に24時間浸漬することにより、表面改質を行った。次いで、表面改質した銅板をエタノールで洗浄して風乾した後、水及びヘキサデカンのそれぞれについて1μLの液滴を滴下し、キーエンス社製マイクロスコープVHX-500Fを用いて、真横から液滴を撮影した映像から、θ/2法にて液滴の接触角を求めた。これら2種類の液滴の接触角から、Fowkes式を用いて金属表面の表面エネルギーを算出した。
【0088】
実施例6~11
実施例5において、含フッ素有機硫黄化合物、塩基、溶媒及び溶媒量を種々変更した表面改質剤溶液を用いて、種々の金属基板を同様に処理し、同様の測定を行った。
【0089】
比較例1、3
実施例4において、含フッ素有機硫黄化合物を炭素数が6のパーフルオロアルキル基からなる1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクタンチオール(シグマアルドリッチ製、化合物(ix))に替えた表面改質剤溶液を用いて、種々の金属基板を同様に処理し、同様の測定を行った。
【0090】
比較例2、4
実施例4において、表面改質を行わずに、種々の金属基板で同様の測定を行った。
得られた結果を表面改質剤の成分組成とともに、表1に示した。
【0091】
【0092】
表1の結果から、本発明の含フッ素有機硫黄化合物が、金属の表面エネルギーを大きく低下させることができ、優れた撥水撥油性を与えることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の含フッ素有機硫黄化合物は、生体蓄積性が低いとされる炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基から構成され、優れた撥水撥油性等を示す表面改質剤として利用可能である。