(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】増殖した免疫細胞の集団の生成方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/17 20150101AFI20230731BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230731BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230731BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230731BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230731BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230731BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230731BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230731BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20230731BHJP
C08L 5/04 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
A61K35/17
C12N5/0783
C07K16/00
A61K47/10
A61K47/36
A61K39/395 G
A61P35/00
A61P43/00 107
C08L71/00
C08L5/04
(21)【出願番号】P 2019551697
(86)(22)【出願日】2018-03-20
(86)【国際出願番号】 US2018023318
(87)【国際公開番号】W WO2018175408
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-16
(32)【優先日】2017-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518329295
【氏名又は名称】キューティー ホールディングス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】QT HOLDINGS CORP
【住所又は居所原語表記】3F Gill Street Woburn, MA 01801 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ケヴラハン, ショーン, エッチ.
(72)【発明者】
【氏名】ボール, アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】チン, グォクィ
(72)【発明者】
【氏名】ウェルズ, スティーヴン, ビー.
(72)【発明者】
【氏名】イェスライ, ニーティヤ, ジョーティ
(72)【発明者】
【氏名】コール, ジュリー, エム.
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-506987(JP,A)
【文献】国際公開第2015/154078(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0290327(US,A1)
【文献】国際公開第2015/162211(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/165389(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0081636(US,A1)
【文献】特表2014-506671(JP,A)
【文献】Cabonate Polymers, 2014, p.1-2(DOI;10.1109/NEBEC.2014.6972908)
【文献】Langmuir, 2011, Vol.27, p.4257-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
増殖した
T細胞の集団の生成方法であって
、
T細胞の開始集団を複数の粒子と接触させる工程を含み、
前記粒子は、ヒドロゲル及び
2つの結合部分を含む複合体を含む粒子であって:
(a)前記ヒドロゲルは、
4アームポリエチレングリコール(PEG)分子を含む、アルギン酸-ポリエチレングリコール(PEG)コポリマーを含み、及び
(b
)前記
2つの結合部分は、
抗CD3抗体及び抗CD28抗体であり;
前記粒子は、50nm~100μmの少なくとも1つの断面寸法を有し;
前記接触は、
T細胞の開始集団に代謝変化を誘発するように行われ、前記代謝変化は、細胞分裂の頻度の増加、サイトカイン分泌プロファイルの変化、細胞径中央値の増加、表面分子発現プロファイルの変化、及び細胞運動性の変化より選択され;それにより増殖した
T細胞の集団を生成する、方法。
【請求項2】
前記粒子は、前記ポリマー環境中のカチオン濃度の十分な減少に応じて、固体マトリックスから溶液又は懸濁液に変化し、
前記カチオンは、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+、Zn
2+、Cu
2+、又はAl
3+である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カチオンは、Ca
2+である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒子は、
T細胞の集団を含む培養物に1:20~20:1の粒子対細胞比で投与される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖した
T細胞の集団は、開始集団と比較して100倍超の数の
T細胞を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記増殖した
T細胞の集団は、活性化
T細胞を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー環境中のカチオン濃度の減少が、EDTA、EGTA、クエン酸ナトリウム、BAPTA、クラウンエーテル、クリプタンド、フェナントロリンスルホネート、ジピリジルスルホネート、ジオキサン、DME、ジグリム、又はトリグリムの存在によって生じる、請求項2~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記結合部分は、前記ヒドロゲルに共有結合している、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記増殖したT細胞の集団は、開始集団よりも多い数又は割合のCD8
+ T細胞を含み、及び/又は
前記増殖したT細胞の集団は、開始集団よりも少ない数又は割合のCD4
+ T細胞を含み、及び/又は
前記増殖したT細胞の集団は、開始集団よりも大きいCD8対CD4 T細胞比を含む、請求項
1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記増殖したT細胞の集団は、活性化T細胞を含む、請求項
9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
治療研究において急速に台頭している分野として、癌や他の疾患を治療するために、自己又は他家免疫細胞の患者への移植を行うことがある。この目的のために、リンパ球、NK細胞、NKT細胞、CIK細胞、樹状細胞、幹細胞由来の免疫細胞、及び他の免疫細胞型やサブタイプなど、多くの種類の免疫細胞が評価されている。これまでのところ、Tリンパ球ベースの治療法は臨床的に最も進んでいるが、他の免疫細胞型は前臨床試験でかなりの治療上の見込みを示している。全血から分離されたTリンパ球は、さまざまなin vitro、in vivo、及び臨床研究及び治療用途で利用されている。例として、免疫応答、T細胞受容体シグナル伝達、サイトカイン放出、及び遺伝子発現プロファイリングの研究が挙げられる。おそらく最も重要なことに、臨床患者への後の移植のためのTリンパ球の単離と続くex vivo工学は、新規の癌治療として非常に有望である。これに対する主なアプローチは、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)のいずれかを発現するT細胞の操作である。両方のアプローチにおいて、T細胞は全血から単離され、ex vivoで活性化及び増殖され、その後ヒト被験者に注入される。
【0002】
ポリクローナルT細胞と抗原特異的T細胞の両方を全血から容易に分離できるが、その数は限られている。従って、T細胞のex vivoでの増殖を活性化及び促進するプロトコルが広く使用されている。但し、このようなex vivo操作では、注入後のT細胞の生存率、増殖、及び生存数が低下する可能性がある。従って、T細胞の活性化に使用される方法の選択は、臨床効果に重要な意味を持つ。
【0003】
in vivoでは、T細胞の活性化は2つのシグナル(T細胞受容体と抗原のエンゲージメント(シグナル1)及び共刺激分子のライゲーション(シグナル2))に依存していることが十分に確立されている。効果的な免疫応答には両方が必要である。ex vivoでは、T細胞の活性化は、T細胞をT細胞表面マーカーCD3及びCD28に対する抗体にさらし、T細胞受容体に結合させ、同時に共刺激シグナルを伝達することによって最も一般的に誘導される。
【0004】
磁気ビーズを使用する従来のex vivo T細胞活性化プロトコルには、細胞に付着した残留磁気ビーズの存在に起因する重大な欠点がある。
それは、機能と生存率の両方に悪影響を与える可能性がある。前臨床の臨床応用では、高い生存率を維持しながら、粒子が混入していない細胞が必要である。例えば、INDの最終製品リリース基準について言及したJune et al(Pilot study of redirected autologous T cells engineered to contain humanized anti-CD19 in patients with relapsed or refractory CD19+ leukemia and lymphoma previously treated with cell therapy (2015) ClinicalTrials.gov)は、抗CD3 /抗CD28コーティング常磁性ビーズの数が3x106細胞あたり100を超えてはならず、且つ細胞の生存率が70%を超えるという仕様を含んでいた。しかし、ほとんどの抗体でコーティングされた磁気ビーズベースの製品は、単離された細胞の生存率と表現型を変えない方法で、捕捉分子から結合細胞を容易に放出する能力を欠くため、ビーズの数を最小限に抑えることは、そのような治療法のクリニカルトランスレーションにおける厄介な障害となる。
【0005】
T細胞工学ベースの癌治療法に対する大きな関心と急速な拡大を考えると、既存のアプローチ(特に下流の臨床応用のため)の上記の制限を克服する、改善されたT細胞の増殖及び採取方法に対する大きなニーズがある。具体的には、ex vivoの細胞増殖プロトコルが臨床仕様を満たし、T細胞及び他の免疫細胞を一貫して再現可能に増殖させ、細胞の生存率と機能を維持し、さまざまな細胞源及び増殖剤に適用できるようにする技術に対する大きなニーズがある。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、免疫細胞(例えば、T細胞)に結合、活性化、及び増殖することができる生体適合性ヒドロゲル複合体を特徴とする。特定の実施形態では、ヒドロゲル複合体は、例えば、カチオン濃度を単に下げることにより、例えば、キレート剤を導入することにより、溶解することができ、養子免疫伝達系及び免疫細胞の他の用途のための多数のT細胞の効率的な生産を可能にする。また、本発明のヒドロゲル複合体を使用してヒドロゲル複合体を生成する方法、及び増殖した及び/又は活性化した免疫細胞(例えば、T細胞)集団を生成する方法を提供する。
【0007】
一態様では、本発明は、ヒドロゲルおよび結合部分を含む複合体を含む粒子を特徴とし、ここで、ヒドロゲルはポリマーを含み、及び結合部分は、免疫細胞の細胞表面成分に結合するように構成される。
【0008】
いくつかの実施形態では、ポリマーは天然ポリマーを含む。例示的な天然ポリマーは、アルギネート、アガロース、カラギーナン、キトサン、デキストラン、カルボキシメチルセルロース、ヘパリン、ヒアルロン酸、ポリアミノ酸、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、繊維状蛋白質ベース生体高分子、及びそれらの任意の組み合わせである。他の実施形態では、ポリマーは合成ポリマーを含む。例示的な合成ポリマーは、アルギン酸-ポリエチレングリコールコポリマー、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)(PMOXA)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、及びポリ(アクリルアミド)、ポリ(n-ブチルアクリレート)、ポリ(α-エステル)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、ポリ(L-乳酸)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ブチリル-トリヘキシル-クエン酸塩、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、ジ-イソ-ノニル-1,2-シクロヘキサンジカルボキシレート、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、延伸)、エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリ(ヘキサメチレンジイソシアネート)、ポリ(エチレン)(例えば、高密度、低密度、又は超高分子量)、高架橋ポリ(エチレン)ポリ(イソホロンジイソシアネート)、ポリ(アミド)、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(カプロラクトンジオール)、ポリ(D-乳酸)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステルポリマーアロイ、ポリエーテルスルホン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(メチルペンテン)、ポリ(プロピレン)、ポリスルホン、ポリ(ビニルクロリド)、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(スチレン-b-イソブチレン-b-スチレン)、及びそれらの任意の組み合わせである。
【0009】
ポリマーは、コポリマー、例えば、天然ポリマー(例えば、アルギネート)と、合成ポリマー(例えば、PEG又はPMOXA)とのコポリマーであってもよい。あるいは、ポリマーはアルギネートとPEGのコポリマーではない。他の例としては、ヒアルロン酸とPEG又はデキストランとPEGのコポリマーを含む。他の実施形態において、ポリマーは、アルギネートとフルオロポリマー又はシリコーンとのコポリマーではない。
【0010】
いくつかの実施形態では、細胞表面成分は、CD2、CD3、CD19、CD24、CD27、CD28、CD31、CD34、CD45、CD46、CD80、CD86、CD133、CD134、CD135、CD137、CD160、CD335、CD337、CD40L、ICOS、GITR、HVEM、ガルテクチン9(Galtectin9)、TIM-1、LFA-1、PD-L1、PD-L2、B7-H3、B7-H4、ILT3、ILT4、CDTL-4、PD-1、BTLA、MHC-I、MHC-II、デルタ様リガンド(例えば、DLL-Fc、DLL-1、又はDLL-4)、WNT3、幹細胞因子、又はトロンボポエチンである。いくつかの実施形態では、細胞表面成分は、CD2、CD3、CD27、CD28、CD46、CD80、CD86、CD134、CD137、CD160、CD40L、ICOS、GITR、HVEM、ガルテクチン9、TIM-1、LFA-1、PD-L1、PD-L2、B7-H3、B7-H4、ILT3、ILT4、CDTL-4、PD-1、BTLA、MHC-I、又はMHC-IIである。あるいは、特にポリマーがアルギネートのコポリマー(例えば、アルギネートとPEGのコポリマー)である場合、細胞表面成分は、CD2、CD3、CD27、CD28、CD46、CD80、CD86、CD134、CD137、CD160、CD40L、ICOS、GITR、HVEM、ガルテクチン9、TIM-1、LFA-1、PD-L1、PD-L2、B7-H3、B7-H4、ILT3、ILT4、CDTL-4、PD-1、BTLA、MHC-I、又はMHC-II、ではない。他の実施形態では、細胞表面成分はCD24、CD31、CD34、又はCD45である。あるいは、特にポリマーがアルギネートのコポリマー(例えば、アルギネートとPEGのコポリマー)である場合、細胞表面成分はCD24、CD31、CD34、又はCD45ではない。他の実施形態において、細胞表面成分は、CD19、CD34、CD45、CD133、CD135、CD335、CD337、DLL-Fc、DLL-1、又はDLL-4、WNT3、幹細胞因子、又はトロンボポエチン、例えば、CD19、CD133、CD135、CD335、CD337、デルタ様リガンド(例えば、DLL-Fc、DLL-1、又はDLL-4)、WNT3、幹細胞因子、又はトロンボポエチンである。
【0011】
いくつかの実施形態では、粒子の表面は、平方μmあたり少なくとも1個の結合部分(例えば、平方μmあたり少なくとも1個の結合部分、平方μmあたり少なくとも2個の結合部分、平方μmあたり少なくとも3個の結合部分、平方μmあたり少なくとも4個の結合部分、平方μmあたり少なくとも5個の結合部分、平方μmあたり少なくとも10個の結合部分、平方μmあたり少なくとも20個の結合部分、平方μmあたり少なくとも30個の結合部分、平方μmあたり少なくとも40個の結合部分、又は平方μmあたり少なくとも50個の結合部分)を含む。任意に、結合部分の1つ以上は抗体又はその抗原結合断片である。
【0012】
粒子は、1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の別個の結合部分を含んでいてもよい。
【0013】
結合部分は、抗体又はその抗原結合断片であり得る。例えば、結合部分はモノクローナル抗体又はその抗原結合断片、Fab、ヒト化抗体又はその抗原結合断片、二重特異性抗体又はその抗原結合断片、 一価抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、単鎖Fv分子、二重特異性単鎖Fv((scFv')2)分子、ドメイン抗体、ダイアボディ、トライアボディ、アフィボディ、ドメイン抗体、SMIP、ナノボディ、Fvフラグメント、Fabフラグメント、F(ab')2分子、又はタンデムscFv(taFv)フラグメントである。抗体又はその抗原結合断片は、例えば、抗CD2、抗CD3、抗CD19、抗CD24、抗CD27、抗CD28、抗CD31、抗CD34、抗CD45、抗CD46、抗CD80、抗CD86、抗CD133、抗CD134、抗CD135、抗CD137、抗CD160、抗CD335、抗CD337、抗CD40L、抗ICOS、抗GITR、抗HVEM、抗ガルテクチン9、抗TIM-1、抗LFA-1、抗PD-L1、抗PD-L2、抗B7-H3、抗B7-H4、抗ILT3、抗ILT4、抗CDTL-4、抗PD-1、抗BTLA、抗MHC-I、抗デルタ様リガンド(例えば、抗DLL-Fc、抗DLL-1、又は抗DLL-4)、抗WNT3、抗幹細胞因子、又は抗トロンボポエチンである。いくつかの態様において、抗体又はその抗原結合断片は抗CD2、抗CD3、抗CD27、抗CD28、抗CD46、抗CD80、抗CD86、抗CD134、抗CD137、抗CD160、抗CD40L、抗ICOS、抗GITR、抗HVEM、抗ガルテクチン9、抗TIM-1、抗LFA-1、抗PD-L1、抗PD-L2、抗B7-H3、抗B7-H4、抗ILT3、抗ILT4、抗CDTL-4、抗PD-1、抗BTLA、抗MHC-I、又は抗MHC-IIである。あるいは、特にポリマーがアルギネートのコポリマー(例えば、アルギネートとPEGのコポリマー)である場合、抗体又はその抗原結合断片は、抗CD2、抗CD3、抗CD27、抗CD28、抗CD46、抗CD80、抗CD86、抗CD134、抗CD137、抗CD160、抗CD40L、抗ICOS、抗GITR、抗HVEM、抗ガルテクチン9、抗TIM-1、抗LFA-1、抗PD-L1、抗PD-L2、抗B7-H3、抗B7-H4、抗ILT3、抗ILT4、抗CDTL-4、抗PD-1、抗BTLA、抗MHC-I、又は抗MHC-IIではない。いくつかの態様において、抗体又はその抗原結合断片は、抗CD24、抗CD31、抗CD34、又は抗CD45である。あるいは、特にポリマーがアルギネートのコポリマー(例えば、アルギネートとPEGのコポリマー)である場合、抗体又はその抗原結合断片は、抗CD24、抗CD31、抗CD34、又は抗CD45ではない。他の態様において、抗体又はその抗原結合断片は、抗CD19、抗CD34、抗CD45、抗CD133、抗CD335、抗CD337、抗DLL-Fc、抗DLL-1、抗DLL-4、抗WNT3、抗幹細胞因子、又は抗トロンボポエチン、例えば、抗CD19、抗CD133、抗CD335、抗CD337、抗デルタ様リガンド(例えば、抗DLL-Fc、抗DLL-1、又は抗DLL-4)、抗WNT3、抗幹細胞因子、又は抗トロンボポエチンである。
【0014】
結合部分は、シグナル1刺激物(例えば、抗CD3)又はシグナル2刺激物(例えば、抗CD28)であってもよい。シグナル1刺激物(例えば、抗CD3)とシグナル2刺激物(例えば、1:80~80:1、1:60~60:1、1:50~50:1、1:40~40:1、1:30~30:1、1:20~20:1、1:10~10:1、1:5~5:1、1:2~2:1又は約1:1)であり得る。一部の実施形態では、シグナル1刺激物は抗原特異的である。
【0015】
あるいは、複合体は3つ以上のタイプの結合部分を含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、複合体は、シグナル1刺激物(例えば、抗CD3)、シグナル2刺激物(例えば、抗CD28)、及び追加の刺激物(例えば、活性化刺激物、抑制刺激物、又はポラリジング刺激物(例えば、サイトカイン(例えば、表面結合サイトカイン、例えば、トランス提示インターロイキン))を含む。
【0016】
特定の実施形態では、結合部分はサイトカインである。例えば、サイトカインはIL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、TNF-α、又はIFN-γである。他の実施形態では、結合部分はケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド12又は低密度リポ蛋白質である。
【0017】
免疫細胞は、例えば、ナイーブ及びメモリーT細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、NK細胞、NK T細胞、CIK細胞、TIL細胞、HS細胞(未分化及び分化)、MS細胞(未分化及び分化)、iPS細胞(未分化及び分化)、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、好中球、間質細胞、及びES細胞(未分化及び分化)である。特定の実施形態では、免疫細胞は、NK細胞、CIK細胞、TIL細胞、HS細胞(未分化及び分化)、MS細胞(未分化及び分化)、iPS細胞(未分化及び分化)、又はES細胞(未分化及び分化)である。他の実施形態では、免疫細胞は、T細胞(例えば、ナイーブ又はメモリーT細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、又は細胞傷害性Tリンパ球)、又はB細胞、マクロファージ、樹状細胞、好中球である、又は間質細胞である。
【0018】
いくつかの実施形態では、例えば、ポリマーの環境におけるカチオン濃度の十分な減少、温度の変化、pHの変化、加水分解に応じて、酸化、酵素分解、物理的分解、又は他のメカニズムのために、ポリマーは、固体マトリックスから溶液又は懸濁液に変化し得る。例えば、ポリマー環境のカチオン濃度の低下は、EDTA、EGTA、クエン酸ナトリウム、BAPTA、クラウンエーテル、クリプタンド、フェナントロリンスルホネート、ジピリジルスルホネート、ジオキサン、DME、ジグリム、又はトリグリムの存在によって生じ得る。いくつかの実施形態では、カチオンは、Li+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Cu2+、又はAl3+である。いくつかの実施形態において、粒子は、例えば、粒子の環境におけるカチオン濃度の十分な減少に応じて、完全に液状化する。ここで、例えば、粒子は、磁気ビーズ基材又は磁気粒子などの分離ユニットをさらに含まない。
【0019】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、1ギガパスカル(GPa)未満、例えば、0.8 GPa、0.6 GPa、0.4 GPa、0.2 GPa、0.1 GPa、0.08 GPa、0.06 GPa、0.04 GPa、0.02 GPa、0.01 GPa、0.008 GPa、0.006 GPa、0.004 GPa、0.002 GPa、0.001 GPa、0.0008 GPa、0.0006 GPa、0.0004 GPa、0.0002 GPa、又は0.0001 GPaの弾性率を有する。いくつかの態様において、ヒドロゲルは100,000パスカル(Pa)未満の弾性率を有する。
【0020】
特定の実施形態では、粒子は、約50nm~約100μm(例えば、1μm~50μm)の少なくとも1つの断面寸法を有する。例えば、複合体は実質的に球形であり、約1μm~100μm(例えば、2μm~80μm、3μm~50μm、4μm~25μm、5μm~15μm、8μm~12μm、又は約10μm)の直径を有するいくつかの実施形態では、複数の複合体の平均直径は約1μm~100μm(例えば、2μm~80μm、3μm~50μm、4μm~25μm、5μm~15μm、8μm~12μm、又は約10μm)である。
【0021】
複合体の結合部分は、ヒドロゲルに共有結合又は非共有結合していてもよい。いくつかの実施形態では、結合部分は、アビジン-ビオチンリンカー(例えば、ストレプトアビジン-ビオチンリンカー)などのリンカーを介して接着している。例えば、ヒドロゲルはストレプトアビジンと共有結合し、その後ビオチン化結合部分に非共有結合する。
【0022】
特定の実施形態では、ポリマーは(例えば、PEG又はPMOXAとの)アルギネートのコポリマーである。そのような実施形態では、免疫細胞は、例えば、NK細胞、CIK細胞、TIL細胞、HS細胞(未分化及び分化)、MS細胞(未分化及び分化)、iPS細胞(未分化及び分化)、又はES細胞(未分化及び分化)である。他のそのような実施形態では、結合部分はサイトカイン(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、TNF-α、IFN-γ)であり、又は結合部分はケモカイン(CXCモチーフ)リガンド12又は低密度リポ蛋白質である。さらなるそのような実施形態では、細胞表面成分は、CD19、CD133、CD134、CD335、CD337、デルタ様リガンド(例えば、DLL-Fc、DLL-1、又はDLL-4)、WNT3、幹細胞因子、又はトロンボポエチンである。例えば、結合部分は、抗CD19、抗CD133、抗CD134、抗CD335、抗CD337、抗デルタ様リガンド(例えば、抗DLL-Fc、抗DLL-1、又は抗-DLL-4)、抗WNT3、抗幹細胞因子、又は抗トロンボポエチンである。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、免疫細胞の開始集団を本発明の複数の粒子と接触させることにより、増殖した免疫細胞の集団を生成する方法を特徴とする。ここで、接触は、免疫細胞の開始集団に代謝変化を誘発し、それにより、増殖した免疫細胞の集団を生成するように作用する。
【0024】
特定の実施形態では、粒子は、例えば、ポリマー環境中のカチオン濃度の十分な減少に応じて、固体マトリックスから溶液又は懸濁液に変化する。他の実施形態では、粒子は、1:20~20:1の粒子対細胞比で免疫細胞の集団を含む培養物に投与される。例えば、粒子対細胞比は、粒子対免疫細胞比であり、例えば、約5:1である。あるいは、粒子対細胞比は、複合体対末梢血単核細胞(PBMC)比であり、例えば、約10:1である。特定の実施形態では、増殖した免疫細胞の集団は、開始集団と比較して100倍の数の免疫細胞を含む。他の実施形態では、増殖した免疫細胞の集団には、活性化免疫細胞を含む。
【0025】
一態様では、本発明は、ヒドロゲル及び結合部分を含む複合体を特徴とする。ここで、ヒドロゲルは、アルギン酸-ポリエチレングリコール(PEG)コポリマーを含み、且つ結合部分は、T細胞の細胞表面成分に結合するように構成される。アルギン酸-PEGコポリマーは、ポリマー環境中のカチオン濃度の十分な減少に応じて、固体マトリックスから溶液又は懸濁液に変化し得る。例えば、ポリマー環境のカチオン濃度の低下は、EDTA、EGTA、クエン酸ナトリウム、BAPTA、クラウンエーテル、クリプタンド、フェナントロリンスルホネート、ジピリジルスルホネート、ジオキサン、DME、ジグリム、又はトリグリムの存在によって生じ得る。いくつかの実施形態では、カチオンは、Li+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Cu2+、又はAl3+である。
【0026】
いくつかの実施形態において、複合体は、複合体の環境におけるカチオン濃度の十分な減少に応じて完全に液状化する。ここで、例えば、複合体は、磁気ビーズ基材又は磁性粒子などの分離ユニットをさらに含まない。
【0027】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルの弾性率は、増殖を誘発し、増殖する集団の表現型をゆがめるのに十分である。例えば、ヒドロゲルは100,000パスカル(Pa)未満の弾性率を有し得る。そのような特性は、コポリマーの分子構造によって付与され得る。例えば、アルギン酸-PEGコポリマーは、マルチアームPEG分子(例えば、4アームPEG分子)を含み得る。
【0028】
ヒドロゲル複合体の形状は、細胞との接触に影響するため、増殖に影響を与え得る。いくつかの実施形態において、複合体は、約50nm~約100μm(例えば、1μm~50μm)の少なくとも1つの断面寸法を有する。例えば、複合体は実質的に球形であり、約1μm~100μm(例えば、2μm~80μm、3μm~50μm、4μm~25μm、5μm~15μm、8μm~12μm、又は約10μm)の間の直径を有し得る。いくつかの実施形態では、複数の複合体の平均直径は約1μm~100μm(例えば、2μm~80μm、3μm~50μm、4μm~25μm、5μm~15μm、8μm~12μm、又は約10μm)である。
【0029】
複合体の結合部分は、ヒドロゲルに共有結合又は非共有結合していてもよい(例えば、ヒドロゲル粒子、例えば、アルギン酸-PEGコポリマーのアルギン酸ドメインに共有結合している)。いくつかの実施形態では、結合部分は、アビジン-ビオチンリンカー(例えば、ストレプトアビジン-ビオチンリンカー)などのリンカーを介して接着させることができる。例えば、ヒドロゲルをストレプトアビジンと共有結合させた後、ビオチン化結合部分と非共有結合させることができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲル複合体の表面は、平方μmあたり少なくとも1個の結合部分(例えば、平方μmあたり少なくとも1つの結合部分、1平方μmあたり少なくとも2個の結合部分、1平方μmあたり少なくとも3個の結合部分、1平方μmあたり少なくとも4個の結合部分、1平方μmあたり少なくとも5個の結合部分、1平方μmあたり少なくとも10個の結合部分、1平方μmあたり少なくとも20個の結合部分、1平方μmあたり少なくとも30個の結合部分、1平方μmあたり少なくとも40個の結合部分、又は1平方μmあたり少なくとも50個の結合部分)を含む。任意に、結合部分の1つ又は複数は抗体又はその抗原結合断片である。
【0031】
結合部分は、シグナル1刺激物(例えば、抗CD3)又はシグナル2刺激物(例えば、抗CD28)であってもよい。シグナル1刺激物(例、抗CD3)とシグナル2刺激物(例、抗CD28)の両方を有する複合体では、シグナル1刺激物とシグナル2刺激物のモル比は約1:100~約100:1(例えば、1:80~80:1、1:60~60:1、1:50~50:1、1:40~40:1、1:30~30:1、1~:20~20:1、1:10~10:1、1:5~5:1、1:2~2:1、又は約1:1)であり得る。いくつかの実施形態において、シグナル1刺激物は抗原特異的である。
【0032】
あるいは、複合体は3つ以上のタイプの結合部分を含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、複合体は、シグナル1刺激物(例えば、抗CD3)、シグナル2刺激物(例えば、抗CD28)、及び追加の刺激物(例えば、活性化刺激物、抑制刺激物、又はポラリジング刺激物(例えば、サイトカイン(例えば、表面結合サイトカイン、例えば、トランス提示インターロイキン))を含む。
【0033】
結合部分は、抗体又はその抗原結合断片であり得る。例えば、結合部分は、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片、Fab、ヒト化抗体又はその抗原結合断片、二重特異性抗体又はその抗原結合断片、一価抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、単鎖Fv分子、二重特異性単鎖Fv((scFv')2)分子、ドメイン抗体、ダイアボディ、トライアボディ、アフィボディ、ドメイン抗体、SMIP、ナノボディ、Fvフラグメント、Fabフラグメント、F(ab')2分子、又はタンデムscFv(taFv)フラグメントであり得る。いくつかの態様において、抗体又はその抗原結合断片は、抗CD2、抗CD3、抗CD27、抗CD28、抗CD46、又は抗CD137である。
【0034】
一態様では、本発明は、ヒドロゲル粒子及び少なくとも2つの結合部分を含む複合体を特徴とする。ここで、ヒドロゲル粒子はアルギン酸-PEGコポリマー及びCa2+を含み、且つ結合部分は抗CD3及び抗CD28を含み、ここで、アルギン酸-PEGコポリマーは、コポリマー環境中のCa2+濃度の十分な減少に応じて、固体マトリックスから溶液又は懸濁液に変化する。
【0035】
いくつかの実施形態において、複合体は、複合体の環境におけるカチオン濃度の十分な減少に応じて完全に液状化する。ここで、例えば、複合体は、磁気ビーズ基材又は磁性粒子などの分離ユニットをさらに含まない。
【0036】
別の態様では、本発明は、アルギン酸-PEGコポリマーの霧化により生成される本発明の複合体を特徴とする。例えば、アルギン酸-PEGコポリマー溶液を噴霧器に通して噴霧スプレーを生成できる。スプレーは、アルギン酸-PEGコポリマーの架橋をもたらすのに十分なカチオン濃度を有する受容溶液に向けられ、それによりアルギン酸-PEG粒子(例えば、マイクロ粒子又はナノ粒子)を生産できる。複合体を生産するために、その後、粒子は結合部分と結合する。
【0037】
いくつかの実施形態において、アルギン酸-PEGコポリマー溶液は、30%~90%の体積割合で噴霧器を通って流れる。液滴は、噴霧器内で、ガス(例えば、加圧ガス、例えば、加圧空気又は窒素)の、例えば、1~200ポンド/平方インチ(psi)の注入により生成され得る。いくつかの実施形態において、アルギン酸-PEGコポリマー溶液は、毎分0.1~100mLの速度で噴霧器を通って流れることができる。他の実施形態では、外部混合噴霧器の場合のように、噴霧器を通るガス流の速度は、アルギン酸-PEGコポリマー溶液の速度とは独立している。さらなる実施形態において、噴霧器は、例えば、10°~30°のスプレー角度で丸いスプレーパターンを生成する。
【0038】
いくつかの実施形態では、霧化によって生成された複合体は、複合体の環境におけるカチオン濃度の十分な減少に応じて完全に液状化する。ここで、例えば、複合体は、磁気ビーズ基材又は磁性粒子などの分離ユニットをさらに含まない。
【0039】
別の態様では、本発明は、アルギン酸-PEGコポリマー溶液を噴霧器に通して噴霧溶液を生成することによる、アルギン酸-PEG粒子の生産方法を提供する。噴霧溶液は、アルギン酸粒子を生成するカチオンを有する受容溶液と接触する。いくつかの実施形態では、結合部分をアルギン酸-PEG粒子にさらに結合させて、ヒドロゲル複合体を生成する。ヒドロゲル複合体は、100,000 Pa未満の弾性率を有し得る。いくつかの実施形態では、結合部分はT細胞の細胞表面成分に結合する。
【0040】
いくつかの実施形態において、アルギン酸-PEGコポリマー溶液は、30%~90%の体積割合で噴霧器を通って流れる。液滴は、噴霧器内で、ガス(例えば、加圧ガス、例えば、加圧空気又は窒素)の、例えば、1~200ポンド/平方インチ(psi)の注入により生成され得る。いくつかの実施形態において、アルギン酸-PEGコポリマー溶液は、毎分0.1~100mLの速度で噴霧器を通って流れることができる。他の実施形態では、外部混合噴霧器の場合のように、噴霧器を通るガス流の速度は、アルギン酸-PEGコポリマー溶液の速度とは独立している。さらなる実施形態において、噴霧器は、例えば、10°~30°のスプレー角度で丸いスプレーパターンを生成する。
【0041】
別の態様では、本発明は、増殖したT細胞の集団を生成する方法を特徴とし、方法は、T細胞の開始集団を前述の態様のいずれかの複数の複合体と接触させる工程を含み、接触は、T細胞の開始集団に代謝変化を誘発し、それにより、増殖したT細胞の集団を生成する。いくつかの実施形態では、方法は、カチオンキレート剤を複合体及び増殖したT細胞の集団にさらすことにより、全ての複合体の一部を液状化する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、複合体は、複合体の環境におけるカチオン濃度の十分な減少に応じて完全に液状化する。ここで、例えば、複合体は、磁気ビーズ基材又は磁性粒子などの分離ユニットをさらに含まない。
【0042】
複合体は、T細胞の集団を有する培養物に、複合体対細胞の比が1:1~20:1、又は1:20~20:1(例えば、T細胞及び他の細胞型(例えば、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、好中球、又は間質細胞)を含む任意の表現型の細胞に対する複合体の比率)で投与され得る。追加又は代替として、複合体は、T細胞集団を含む培養物に、複合体対T細胞の比が約1:1~20:1(例えば、約5:1)で投与され得る。追加又は代替として、複合体は、T細胞集団を含む培養物に、約1:1~約20:1(例えば、約10:1)の複合体対末梢血単核細胞(PBMC)比で投与できる。
【0043】
本発明の方法は、増殖したT細胞が出発集団と比較して表現型が異なるように、T細胞集団の増殖を可能にする。例えば、増殖された集団は、開始集団と比較して、より多くの数の活性化T細胞を有していてもよい。追加又は代替として、増殖された集団は、開始集団よりも多い数又は割合のCD8+ T細胞を含んでもよい。逆に、増殖したT細胞の集団には、開始集団よりも少ない数又は割合のCD4+ T細胞を含んでもよい。追加又は代替として、増殖したT細胞の集団は、開始集団よりも大きいCD8対CD4 T細胞比を含んでいてもよい。典型的には、増殖されたT細胞の集団には、開始集団に比べてT細胞の総数が多くなる(例えば、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、又は100倍超のT細胞)。増殖したT細胞のすべて又は一部は、活性化された表現型を有していてもよい。いくつかの実施形態において、複合体は、複合体の環境におけるカチオン濃度の十分な減少に応じて完全に液状化される。
【0044】
いくつかの実施形態において、得られる細胞集団は、少なくとも2%のナイーブT細胞を有する(例えば、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、又はそれ以上、例えば、約5%、約10%、約15%、又はそれ以上)。いくつかの実施形態では、得られる細胞集団は、参照集団と比較して、ナイーブT細胞の数又は割合が大きい(例えば、対照ビーズによって増殖された細胞、例えば、10%以上、20%以上、50%以上、100%以上、例えば、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍より多く、10倍以上、又はそれ以上)。追加又は代替として、結果として得られる細胞集団は、参照集団よりも多い数又は割合のセントラルメモリーT細胞を有していてもよい(例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、75 %以上、100%以上、150%以上、200%以上、300%以上、400%以上、500%以上、1,000%以上、5,000%以上、10,000%以上、又はそれより大きい)。いくつかの態様において、ナイーブT細胞はCD45RA+細胞、CD45RA+CD62L+細胞、又はCD45RA+CCR7+細胞である。他の実施形態では、ナイーブT細胞は、細胞の参照集団よりも少ない量のIL-4及び/又はIFN-γを分泌する(例えば、参照集団は、開始集団、セントラルメモリー細胞集団、エフェクターメモリー細胞集団、又は活性化集団である)。
【0045】
一実施形態では、T細胞の集団は対象から単離される。異なる実施形態では、T細胞の集団は細胞株に由来する。一態様では、T細胞の開始集団は、キメラ抗原受容体(CAR)修飾に起因するものなどの遺伝的修飾を含む。
【0046】
一態様では、T細胞を複合体と接触させることによりT細胞において誘発される代謝変化には、生化学的又は形態学的変化を含む。この変化は、細胞分裂の頻度の増加、サイトカイン分泌プロファイルの変化(例えば、IL-4及び/又はIFN-γ)、細胞径中央値の増加、表面分子発現プロファイルの変化、又は細胞運動性の変化であってもよい。
【0047】
本明細書で使用される「平均」という用語は、一連の値の代表的な値又は離散オブジェクトの母集団の特徴を広く指す。例えば、粒子(例えば、ナノ粒子又はマイクロ粒子)又は複合体の平均直径は、範囲外のデータを除外することから得られた平均値を含む、平均、中央値、モード、又は重み付きバリアントであってもよい。特に指定のない限り、粒子又は複合体の「サイズ」はその直径である。
【0048】
本明細書で使用される「液滴」という用語は、噴霧器の液体製品を指し、「粒子」は、本明細書では、固体(例えば、ゲル又はヒドロゲル)の球形又は実質的に球形のコンストラクト(例えば、ナノ粒子又はマイクロ粒子)を指す。液滴は、固化すると粒子になる(例えば、ゲル化、例えば、カチオンにさらされると、アルギネート架橋が生じる)。
【0049】
本明細書で使用する「複合体」という用語は、1つ以上の結合部分に結びつく(例えば、結合する)ヒドロゲルコンストラクト(例えば、粒子、ディスク、ロッド、又は他の形状)を指す。
【0050】
本明細書で使用する「噴霧器を通過した液体の体積割合」及びその文法的変形は、ガスを含む噴霧器を通る全体積流量に対する噴霧器を通過した液体の体積を指す。例えば、特定の期間に噴霧器を流れる液体の体積割合V
lは、次のように与えられる。
【0051】
ここで、lは特定の期間に噴霧器を通過した液体の体積、gは特定の期間に噴霧器を通過したガスの体積である。
【0052】
本明細書で使用される「参照集団」は、細胞の任意の適切な対照集団を指す。例えば、細胞の集団の特徴は、増殖した開始集団と比較できる。あるいは、参照集団は、未処理の対照又は代替手段により処理(例えば、増殖)された対照であり得る。T細胞増殖の代替手段には、溶解、プレート結合、及び/又はビーズ又は粒子結合抗体(例えば、抗CD3及び/又は抗CD28などのT細胞活性化抗体)又はサイトカインの使用などの従来の方法を含む。例えば、T細胞の増殖集団の参照集団は、カスタムメイド又は市販の対照ビーズ(例えば、DYNABEADS(R))を使用して生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】例示としてのスプレー装置の断面図を示す概略図。
【0054】
【
図2A-2D】本発明のヒドロゲル粒子を示す顕微鏡写真。
図3A及び3Bは、結合部分コンジュゲーション前の高密度(
図2A; 1.16x10
8粒子/ml)及び低密度(
図2B; 1.16x10
7粒子/ml)でのヒドロゲル粒子を示す。
図2C及び2Dは、抗CD3及び抗CD28抗体との結合後の4x10
7粒子/mlの濃度のヒドロゲル粒子を示す。各画像のスケールバーは10μmを表す。
【0055】
【
図3】対照ビーズ及び未処理細胞と比較した、抗CD3/抗CD28抗体コートヒドロゲル複合体によるT細胞の増殖を示すグラフ。細胞を10:1及び5:1の複合体対細胞比でヒドロゲル複合体で処理した。
【0056】
【
図4A-4B】9日間の増殖後のT細胞におけるCD4及びCD8発現の変化を示す棒グラフ。
図4Aは、ヒドロゲル複合体処理対対照複合体処理の結果の、CD4
+細胞の割合の変化を示す。
図4Bは、ヒドロゲル複合体処理と対照複合体処理の結果の、CD4
+細胞の割合の変化を示す。細胞を10:1及び5:1の複合体対細胞比でヒドロゲル複合体で処理した。
【0057】
【
図5A-5D】対照ビーズと比較した、ヒドロゲル複合体による9日間の増殖でのCD8
+ T細胞及びCD4
+ T細胞の発現レベル活性化マーカーを示すグラフ。
図5A及び5Bは、経時的にCD25を発現するCD8
+ T細胞(
図5A)及びCD4
+ T細胞(
図5B)の割合を示す。
図5C及び5Dは、経時的にCD69
+を発現するCD8
+ T細胞(
図5C)及びCD4
+ T細胞(
図5D)の割合を示す。
【0058】
【
図6A-6D】CD8
+ T細胞(
図6A及び6C)及びCD4
+ T細胞(
図6B及び6D)におけるレベル活性化マーカー発現(CD25及びCD69)を測定するために使用されるデータを表すフローサイトメトリーグラフ。
図6Aは、増殖期間の2(左列)日目及び増殖期間の5日目(右列)に複合体対細胞比が10:1の対照ビーズ(上段)及びヒドロゲル複合体(下段)で処理されたCD8
+ T細胞のCD25発現を示す。
図6Bは、増殖期間の2(左列)日目及び増殖期間の5日目(右列)に複合体対細胞比が10:1の対照ビーズ(上段)及びヒドロゲル複合体(下段)で処理されたCD4
+ T細胞のCD25発現を示す。
図6Cは、増殖期間の2(左列)日目及び増殖期間の5日目(右列)に複合体対細胞比が10:1の対照ビーズ(上段)及びヒドロゲル複合体(下段)で処理されたCD8
+ T細胞のCD69発現を示す。
図6Dは、増殖期間の2(左列)日目及び増殖期間の5日目(右列)に複合体対細胞比が10:1の対照ビーズ(上段)及びヒドロゲル複合体(下段)で処理されたCD4
+ T細胞のCD69発現を示す。各グラフの集団は、シングルセルでゲーティングした後のCD4
+又はCD8
+イベントの親ゲートに由来する。側方散乱(SSC)が活性化マーカー(CD25又はCD69)に対してプロットされる。
【0059】
【
図7】T細胞の増殖を制御するリガンドとリガンド密度の制御を示すグラフ。
【0060】
【
図8】T細胞の表現型を制御するリガンドとリガンド密度の制御を示す一連のグラフ。
【0061】
【
図9】メモリー表現型を制御するリガンドとリガンド密度の制御を示す一連のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明は、免疫細胞の制御のための新規粒子及びヒドロゲル複合体を提供する。粒子及び複合体は、その内部に磁気ビーズなどの分離ユニットとともに使用してもよい。残留磁性粒子は、潜在的な毒物学的リスクを示す。さらに、残留磁性粒子を除去するには、磁気分離工程を追加する必要がある。これにより、ワークフローのコスト、時間、複雑さが増し、セル損失につながり、増殖後の回収セルの総数が減少する。これらのワークフローの課題は、細胞療法のバイオプロセッシングアプリケーションにとって重要であり、従って、常磁性ビーズフリーヒドロゲル粒子設計の開発の推進力となる。例えば、既存のT細胞増殖法は、磁性粒子(例えば、常磁性粒子)を利用して細胞分離を仲介する。細胞の分離を必要としないT細胞増殖法の場合、常磁性粒子はワークフローの複雑さと課題ももたらす。
【0063】
本発明は、磁性粒子などの基材を必要とせず、免疫細胞に結合してそれを制御する(例えば、所望のT細胞集団を増殖する)粒子又はヒドロゲル複合体を提供する。特定の実施形態では、粒子又は複合体は、増殖後に穏やかに分離することができ、例えば、増殖したT細胞の純粋な集団をもたらす。
【0064】
本明細書では、本発明の粒子又はヒドロゲル複合体を合成する方法も提供される。例えば、架橋性コポリマーの噴霧液滴懸濁液をカチオンを有する受容溶液にスプレーしてコポリマーを架橋し、ヒドロゲル粒子を形成し、その後結合部分と結合して複合体を形成する。養子T細胞療法の方法及びシステムの一部としてそのような粒子又は複合体を使用する方法も本発明により提供される。
【0065】
・結合部分
本発明は、ヒドロゲル構造(例えば、ヒドロゲル粒子)に接着した結合部分を含む複合体を特徴とする。一般に、結合部分はヒドロゲル構造の表面に位置する。
【0066】
結合部分は、標的細胞に結合した別の結合部分(例えば、抗体又はその抗原結合断片)に結合し得る。例えば、結合部分はアビジン又はストレプトアビジンであってもよく、ビオチンで標識された標的細胞に、例えば、ビオチン化抗体を介して結合してもよい。他のそのような結合部分は、標的細胞に結合した抗体に結合するプロテインA、プロテインG、及び抗種抗体(例えば、ヤギ抗ウサギ抗体)を含む。
【0067】
結合部分
結合部分は、免疫細胞(例えば、T細胞)の表面成分に結合することができる。例示的な表面成分は、CD2、CD3、CD19、CD24、CD27、CD28、CD31、CD34、CD45、CD46、CD80、CD86、CD133、CD134、CD135、CD137、CD160、CD335、CD337、CD40L、ICOS、GITR、HVEM、ガルテクチン9(Galtectin9)、TIM-1、LFA-1、PD-L1、PD-L2、B7-H3、B7-H4、ILT3、ILT4、CDTL-4、PD-1、BTLA、MHC-I、MHC-II、デルタ様リガンド(例えば、DLL-Fc、DLL-1、又はDLL-4)、WNT3、幹細胞因子、及びトロンボポエチンである。結合部分は、抗体又はその抗原結合断片、又は表面成分に結合する別の分子(例えば、サイトカイン)であってもよい。適切なサイトカインは、例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、TNF-α、及びIFN-γを含む。例示的な抗体又はその抗原結合断片は、抗CD2、抗CD3、抗CD19、抗CD24、抗CD27、抗CD28、抗CD31、抗CD34、抗CD45、抗CD46、抗CD80、抗CD86、抗CD133、抗CD134、抗CD135、抗CD137、抗CD160、抗CD335、抗CD337、抗CD40L、抗ICOS、抗GITR、抗HVEM、抗ガルテクチン9、抗TIM-1、抗LFA-1、抗PD-L1、抗PD-L2、抗B7-H3、抗B7-H4、抗ILT3、抗ILT4、抗CDTL-4、抗PD-1、抗BTLA、抗MHC-I、抗デルタ様リガンド(例えば、抗DLL-Fc、抗DLL-1、又は抗DLL-4)、抗WNT3、抗幹細胞因子、又は抗トロンボポエチンを含む結合部分は、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド12又は低密度リポ蛋白質であってもよい。好ましくは、この結合イベントは、免疫細胞(例えば、T細胞)内のシグナル伝達をもたらし、例えば、制御(例えば、標的細胞の活性化、増殖(expansion)(即ち、増殖(proliferation))、及び/又は他の表現型の変化(例えば、極性化(例えば、Th1、Th2、Th17、Treg、又は別のT細胞サブ表現型への極性化)、又は活性化の非存在下での増殖(例えば、ナイーブ表現型(例えば、CD45RA+)の保持)))をもたらす。いくつかの免疫(例えば、T細胞)の表面分子は、そのような下流の効果があることが知られている。T細胞では、T細胞受容体のクラスター化を誘発するリガンド(シグナル1)はT細胞を刺激して増殖させ得、二次シグナル(シグナル2)の存在、濃度、アフィニティ、又はアビディティに応じて、T細胞は、特定の表現型に向かって分化又は極性化し得る。本発明のシグナル1剤は抗CD3であってもよく、本発明のシグナル2剤は抗CD28であってもよい。シグナル1刺激物の他の例は、MHC-I又はMHC-II、並びに当技術分野で知られている様々な他のT細胞受容体成分のアゴニストを含む。シグナル2刺激物の他の例は、共刺激分子(例えば、CD80、CD86、CD40、ICOSL、CD70、OX40L、4-1BBL、GITRL、LIGHT、TIM3、TIM4、ICAM1、又はLFA3)のアゴニストである抗原提示細胞表面分子、CD28以外のT細胞共刺激表面分子(例えば、CD40L、ICOS、CD27、OX40、4-1BB、GITR、HVEM、ガレクチン9、TIM-1、LFA-1、及びCD2)に対する抗体、共阻害分子(例えば、CD80、CD86、PD-L1、PD-L2、B7-H3、B7-H4、HVEM、ILT3、又はILT4)のアゴニストである抗原提示細胞表面分子、及び共阻害分子(例えば、CDTL-4、PD-1、BTLA、又はCD160)に対する抗体を含む。シグナル2刺激物は、T細胞活性化の複数の側面に影響を及ぼすことが示されている。典型的には、シグナル2刺激物は、培養で増殖反応を誘導するのに必要な抗CD3の濃度を下げ、サイトカイン生産を促進してT細胞分化経路を誘導すると考えられている。重要なことに、共刺激はCD8+ T細胞の細胞溶解能を活性化するのに役立ちます。限定されないがCD2及びCD137を含む他の分子は、さまざまなT細胞集団(例えば、ナイーブ及びメモリーT細胞、Tヘルパー細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、及びマウスとヒトのサンプルからの細胞傷害性Tリンパ球)を活性化及び増殖するために標的化できる。本発明で使用するためのシグナル1及びシグナル2刺激物として有用な抗体、リガンド、及び他の薬剤のさらなる例は、WO 2003/024989に記載されている。
【0068】
本発明の粒子又は複合体は、2つ以上の異なる結合部分を含んでいてもよい。例えば、結合部分は、少なくとも1つの活性化受容体及び同族リガンドに結合することができ、これは、共刺激シグナル及び/又はサイトカインと連携して働き、免疫細胞の増殖及び活性化を誘発することができる。以下の説明はT細胞に関するものだが、他の免疫細胞でも同様のプロセスが知られている。
【0069】
抗原特異的T細胞のエンゲージメント
本発明の一態様では、結合部分は、T細胞受容体と抗原提示細胞上のペプチド-MHCとの間で生じる結合に類似した抗原特異的様式でT細胞受容体に結合し得る。抗原特異的な方法でT細胞にエンゲージする合成方法(即ち、天然の抗原提示細胞が存在しない場合)は、MHCクラスI及びMHCクラスII多量体(例えば、ダイマー、テトラマー、及びデキストラマー)を含む。説明に役立つ実例は米国特許第7,202,349号及び米国公開第2009/0061478号に記載されている。MHC-ペプチド複合体の多量体化は、ペプチド-MHCとT細胞間の相互作用のアビディティを高めるように機能し、シグナル1伝達の有効性を増加させる。抗原特異的T細胞受容体リガンドの多価提示を達成する別の手段は、リガンドをヒドロゲル構造(例えば、ヒドロゲル粒子)の表面につなぐことによるものである。アフィニティは、アビディティとは対照的に、個々の分子の結合の強さを表す。ペプチド-MHCのT細胞受容体に対するアフィニティは劇的に変化する可能性があり、以下で説明するように、シグナル1刺激物物の下流効果に影響する。本発明で使用するための抗原及びそのペプチドは、限定されないが、T細胞により認識されるメラノーマ抗原(MART-1)、メラノーマGP100、乳癌抗原、Her-2/Neu、及びムチン抗原を含む。他の関連する抗原及びそのソースは、例えば、米国特許第8,637,307号に記載されている。
【0070】
いくつかの実施形態では、下流の結果を決定する初期活性化シグナル伝達イベントがあり、即ち、複数の免疫細胞タイプの活性化は、リガンド、受容体-リガンド相互作用の半減期、及びリガンド濃度によって制御される。以下の説明はT細胞に関するものだが、他の免疫細胞でも同様のプロセスが知られている。
【0071】
T細胞の結合度の影響
シグナル1とシグナル2の結合の相対的な程度は、TCRシグナル伝達に影響を与え、さまざまな下流の表現型効果をもたらする。例えば、アビディティが低くアフィニティが高いシグナル1は、シグナル2がない場合、ナイーブCD4+ T細胞を刺激してFoxP3発現をオンにし、制御表現型へと分化させる(Gottschalk et al., Journal of Experimental Medicine 207 (2010):1701)。あるいは、十分なシグナル2刺激物のない高アビディティのシグナル1刺激物に応じて、ナイーブT細胞が消耗しやすくなり、機能性アネルギーにつながる可能性がある(Ferris et al., J Immunol Aug 15;193 (2014):1525-1530参照)。これらのいずれかの効果は、がん養子免疫療法の状況では望ましくないが、自己免疫治療のために制御性T細胞を刺激する場合に役立つかもしれない。従って、機能化された複合体を所望の割合の結合部分にさらすことにより、用途に応じて、シグナル1及びシグナル2の相対的関与を合理的に制御することができる。
【0072】
結合部分は、同じ表面又は別々の表面に結合しもよい。好ましい実施形態では、シグナル1刺激物及びシグナル2刺激物は、1:1の比率で表面(例えば、ヒドロゲル粒子の表面)に固定化される。本発明の特定の態様において、シグナル1刺激物及びシグナル2刺激物は、1:1以外の比率(例えば、約1:100~約100:1、約1:10~10:1、約1:2~2:1)で表面に固定化される。あるいは、表面に固定化されたシグナル2刺激物に対するシグナル1刺激物の比率は、1:1より大きいか、1:1未満である。
【0073】
シグナル1とシグナル2の間のシグナル伝達の相対的な強度の効果は、ターゲットT細胞の活性化状態にも依存する。例えば、ナイーブT細胞は、抗原を経験したT細胞とは異なり、T細胞受容体の刺激及び共刺激に対して異なる反応を示す。当業者は、特に慢性感染又は異常な免疫寛容の場合において、本発明の結合部分の構成を選択するときに効果を理解し、それに応じて結合部分を構成するであろう。
【0074】
・ヒドロゲル
本発明の粒子及び複合体は、ヒドロゲルを含む。いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、それらの環境のイオン組成を変えることによって(即ち、液状化)を溶解することができる。本発明のヒドロゲルは、天然ポリマー、合成ポリマー、及びそれらのコポリマーから形成することができる。例示的な天然ポリマーはアルギネート、アガロース、カラギーナン、キトサン、デキストラン、カルボキシメチルセルロース、ヘパリン、ヒアルロン酸、ポリアミノ酸、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、繊維状蛋白質ベース生体高分子(例えば、シルク、ケラチン、エラスチン、及びレシリン)、及びそれらの任意の組み合わせである。合成ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)(PMOXA)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、及びポリ(アクリルアミド)(PAAm)、ポリ(n-ブチルアクリレート)、ポリ(α-エステル)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(pNIPAAM)、ブチリル-トリヘキシル-クエン酸塩、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、ジ-イソ-ノニル-1,2-シクロヘキサンジカルボキシレート、延伸ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリ(ヘキサメチレンジイソシアネート)、高密度ポリ(エチレン)(PE)、高架橋PE、ポリ(イソホロンジイソシアネート)、低密度PE、ポリ(アミド)、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(カプロラクトンジオール)、ポリ(D-乳酸)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(エチレン)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステルポリマーアロイ、ポリエーテルスルホン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(メチルペンテン)、ポリ(プロピレン)、ポリスルホン、ポリ(ビニルクロリド)、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(スチレン-b-イソブチレン-b-スチレン)、超高分子量PE、及びそれらの任意の組み合わせを含む。特定のコポリマーは、アルギネート-PEGコポリマー又はアルギネート-PMOXAコポリマーを含む。
【0075】
一実施形態では、本発明のヒドロゲルは、国際公開第2012/106658号に一般的に記載されているように、ポリアルキレンオキシド、(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))に結合したアルギン酸(即ち、アルギネート)から形成することができる。PEGは多機能PEG(例えば、マルチアームPEG(例えば、4アームPEG))であり得る。アルギン酸の多機能PEG(例えば、4アームPEG)への結合は、アルギネートのイオン架橋のみで達成される場合と比較し、より大きな機械的強度を付与する。従って、各PEG分子の官能基の数を増やすことで、機械的特性(例えば、剛性)を制御できる。PEGは、その優れた親水性のために本発明の一部として有用であり、それは本発明の複合体への蛋白質吸着を防ぐ。複合体への血清蛋白質の吸着は、Fc受容体エンゲージメントによって生じるような、隣接細胞における異常なシグナル伝達経路をもたらす。PEGの親水性特性は、複合体内部で高い拡散性を維持するためにも機能的であり、イオン性キレート剤は、複合体内部に迅速にアクセスし、剛性を維持するカチオンを素早く隔離できる。従って、ヒドロゲル内に分岐PEG分子を組み込むと、適切な刺激にさらされたときにヒドロゲル構造が迅速に溶解する。本明細書に記載されるように、PEGとアルギネート以外のポリマーとのコポリマーを形成することにより、同様の効果を達成することができる。あるいは、他の生体適合性親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びそれらのコポリマー)を、例えば、アルギネート又は別のポリマーとともに、PEGの代わりに使用することができる(例えば、米国特許第7,214,245号を参照)PMOXAは、本明細書に記載のアルギネート又は別のポリマーのコポリマーに含まれてもよい。
【0076】
本発明のヒドロゲル複合体は、免疫細胞制御(例えば、T細胞増殖)に適した1つ以上の機械的特性(例えば、弾性率、ヤング率、圧縮率、剛性)を有することができる。例えば、ヒドロゲルの機械的特性は、本発明の複合体と接触した後、T細胞の集団(例えば、増殖したT細胞を含む集団)がナイーブ表現型(例えば、「方法」セクションで説明)の1つ以上の特性を保持できるように適切に調整することができる。ヒドロゲルの弾性率(例えば、T細胞の集団がナイーブ表現型の1つ以上の特徴を保持するのに適した)は、100パスカル(Pa)~100,000,000Pa(例えば、100 Pa~1,000 Pa、1,000Pa~10,000Pa、10,000Pa~100,000Pa、100,000Pa~1,000,000Pa、1,000,000Pa及び10,000,000Pa、又は10,000,000Pa及び100,000,000Pa、例えば、1,000,000Pa未満、900,000Pa未満、800,000Pa未満、700,000Pa未満、600,000Pa未満、500,000Pa未満、400,000Pa未満、300,000Pa未満、200,000Pa未満、100,000Pa未満、50,000Pa未満、又は10,000Pa未満)であり得る。他の実施形態では、粒子又は複合体の弾性率は1ギガパスカル(GPa)未満(例えば、0.8GPa、0.6GPa、0.4GPa、0.2GPa、0.1GPa、0.08GPa、0.06GPa、0.04GPa、0.02GPa、0.01GPa、0.008GPa、0.006GPa、0.004GPa、0.002GPa、0.001GPa、0.0008GPa、0.0006GPa、0.0004GPa、0.0002GPa、又は0.0001GPa)である。
【0077】
他の実施形態において、ヒドロゲルの機械的特性は、CD8+ T細胞を(例えば、CD4+ T細胞、又は総細胞集団(例えば、総CD3+ T細胞又は総リンパ球)に対して)優先的に増殖するように構成され得る。例えば、CD8+ T細胞を優先的に増殖するように構成されたヒドロゲルの弾性率は、100パスカル(Pa)~100,000,000Pa(例えば、100 Pa~1,000 Pa、1,000 Pa~10,000 Pa、10,000 Pa~100,000 Pa、100,000 Pa~1,000,000 Pa、1,000,000 Pa及び10,000,000 Pa、又は10,000,000 Pa及び100,000,000 Pa、例えば、1,000,000 Pa未満、900,000 Pa未満、800,000 Pa未満、700,000 Pa未満、600,000 Pa未満、500,000 Pa未満、400,000 Pa未満、300,000 Pa未満、200,000 Pa未満、100,000 Pa未満、50,000 Pa未満、又は10,000 Pa未満)である。
【0078】
アルギン酸への言及は、特に明記しない限り、塩形態(例えば、アルギン酸ナトリウム)への言及でもある。ポリマー部分のアルギン酸量は、既知の原理に従ってポリマー部分の剛性に影響を与える(例えば、ポリマー部分のカチオン量)。公知の方法に従って、一定又はほぼ一定の密度を維持しながら、アルギネートポリマー部分の剛性を変化させることができる。
【0079】
ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)及びポリプロピレンオキシドは、当技術分野で知られている。直鎖状又は分岐状の、例えば、4アーム又は8アームのポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)を使用することができる。ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)は、好ましくは10kDaと20kDaの間の分子量を有する。ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)のアルギン酸に対する例示的な比は、重量で1:2である。
【0080】
アルギン酸は、ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)及び/又は結合部分への結合に便利な基を提供する複数のカルボキシル基を自然に有する。ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)及び結合部分は、カルボキシル基に結合するための適切な基を自然に有するか、又は有するように修飾される。適切な基はアミン基を含み、これはアミノ酸を含む結合部分にしばしば見られるか、結合部分及びポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)に導入され得る。例えば、アミン末端ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)を使用できる。他の実施形態において、リンカーは、ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)上の適切な基又は結合部分をアルギン酸上のカルボキシル基へ結合するために使用され得る。ヒドロゲルでは、単一のポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)を1つ以上のアルギン酸分子に結合させることができる。ポリアルキレンオキシドが2つ以上のアルギン酸に結合する場合、組成物中のその架橋の数は、ゲルを形成するのに十分である場合もあれば十分でない場合もある。結合部分は、アルギン酸に直接結合するか、又はアルギン酸に結合したポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)に結合できる。
【0081】
ヒドロゲルは、アルギン酸とカチオン(例えば、Li+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Cu2+、又はAl3+)の非共有結合架橋によって形成される。好ましいカチオンはCa2+である。本発明のヒドロゲルのゲル化は、カチオンのキレート剤(例えば、EDTA、EGTA、クエン酸ナトリウム、BAPTA、クラウンエーテル、クリプタンド、フェナントロリンスルホン酸、ジピリジルスルホン酸、ジオキサン、DME、ジグリム、又はトリグライム)との接触により逆転し得る。好ましくは、キレート剤は、複合体溶解に関連する濃度において細胞成長及び増殖を妨害しないことがよく知られているEDTAなどの生体不活性分子である。
【0082】
アルギネート以外のポリマー及び/又はPEGの場合、結合部分を結合する方法、アルギネート及びPEGに使用される方法と類似の方法でコポリマーを形成する方法が当技術分野で知られている。
【0083】
・複合体のサイズと形状
複合体は、免疫細胞(例えば、T細胞)の表面との接触に適合する任意の形状であり得る。このため、利用可能な結合表面を最大化するために、複合体が高い表面積対体積比を有することがしばしば好ましい。さまざまなサイズ及び形状の人工抗原提示細胞プラットフォームのさまざまな機能的利点が評価されている(Fadel et al., Nano Letters 8 (2008):2070-2076;Sunshine et al., Biomaterials 35 (2014):269-277参照) 。構造の形状は、任意の適切な形状(例えば、ワイヤのように細長い、管状、即ち、ルーメンを有する、平面、又は球状)であってもよい。いくつかの実施形態では、複合体は、抗原提示細胞とT細胞との間の免疫シナプスを複製するように構成された表面を有し得る。免疫シナプスのサイズは、50nm未満~約20μmの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、本発明の複合体はの粒子であり、それは例えば、球形である。ほとんどの実施形態では、直径は1,000μm未満である。例えば、複合体の直径は、50nm~20μm(例えば、100nm~15μm、200nm~14μm、500nm~13μm、1μm~12μm、又は約10μm)であり得る。例えば、複合体は、樹状細胞又はマクロファージなどの抗原提示細胞のサイズ(約10~20μmの範囲)であり得る。あるいは、複合体は、多孔性スキャホールドなどのより大きなマトリックスを含むことができ、これは細胞の懸濁液に機械的に曝露する(例えば、浸す)ことができる。アルギネートの使用を含む、そのようなスキャホールドの合成方法は、当技術分野で知られている。
【0084】
・合成
本発明の組成物は、任意の適切な手段により合成できる。本発明の方法は、コポリマー(例えば、アルギン酸-PEG)を合成してコポリマー溶液を形成することを含む。
【0085】
アルギン酸、又は別のポリマーは、コポリマー溶液中に0.01~10%(例えば、0.1%~0.15%、0.15%~0.2%、0.2%~0.3%、0.3%~0.4%、0.4%~0.5%、0.5%~0.6%、0.6%~0.7%、0.7%~0.8%、0.8%~0.9%、0.9%~1.0%、1.0%~2%、2%~2.5%、2.5%~3%、3%~4%、4%~5%、5%~7.5%、又は7.5%~10%、例えば、約0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、0.45%、0.5%、0.6%、0.7%、0.75%、0.8%、0.9%、1.0%、1.5%、2.0%、2.25%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、又は10%)の割合(例えば、w/vパーセント)で存在し得る。
【0086】
適切なアルギン酸は、中粘度のアルギン酸(例えば、1-100kDaの中粘度アルギン酸、例えば、20kDaの中粘度アルギン酸)である。中粘度アルギン酸(例えば、20kDa中粘度アルギン酸)は、その濃度及び/又は組成(例えば、コポリマー(例えば、アルギン酸-PEGコポリマー)としてのコンジュゲーション)に応じて、1~100,000センチポアズ(cP、例えば、1~50 cP、50~100 cP、100~200 cP、200~500 cP、500~1,000 cP、1,000~5,000 cP、5,000~10,000 cP、10,000~20,000 cP、20,000~30,000 cP、30,000~40,000 cP、40,000~50,000 cP、又は50,000~100,000 cP)の水又は水溶液中の粘度を有してもよい。
【0087】
モノマーを結合することによりコポリマーを合成する方法は、当該分野で公知である(例えば、アルギン酸からアルキレンオキシド(例えば、PEG(例えば、マルチアームPEG(例えば、4アームPEG)))へ)。例えば、アルギン酸-PEGコポリマーは、アルギン酸、1-エチル-3-(-3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)、及びスルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)のバッチ反応で組み合わせたアミノ化PEGを使用して合成できる。これはPEGをアルギン酸のカルボキシレート基に結合する。いくつかの実施形態では、PEG(例えば、4アームPEGアミン)は、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1又はより大きいモル比でアルギン酸に結合する。一実施形態において、PEG(例えば、4アームPEG-アミン)は、約2:1の質量比でアルギン酸に結合する。例えば、いくつかの実施形態では、10~100mg/mlのアルギン酸(例えば、約22.5mg/mlのアルギン酸)は、5~50mg/mlのPEG-アミン(例えば、4-アームPEG-アミン)(例えば、約11.25 mg/ml PEGアミン(例えば、4アームPEGアミン))と反応する。適切な結合反応の条件は、当技術分野で知られている。一実施形態において、アルギン酸は、0.5mg/ml~2.0mg/mlのスルホ-NHS(例えば、1.1 mg/mlスルホNHS)及び0.1mg/ml~1.0mg/mlのEDC(例えば、約0.4 mg/ml EDC)を含む溶液中で12~24時間(例えば、18時間、例えば、一晩)、室温でPEGに結合する。
【0088】
得られるコポリマー溶液の粘度は、コポリマー濃度に応じて変動する。例えば、30~40mg/mlのアルギン酸-PEG濃度を有するコポリマー溶液は、50~50,000cP(例:1~50cP、50~100cP、100~200cP、200~500cP、500~1,000cP、1,000~5,000cP、5,000~10,000cP、10,000~20,000cP、20,000~30,000cP、30,000~40,000cP、40,000~50,000cP)の粘度を有し得る。
【0089】
本発明は、スプレー装置を使用してヒドロゲル複合体を合成する方法を提供する。いくつかの実施形態では、コポリマーはカチオン溶液である受容溶液(例えば、0.1M~100M、例えば、0.5M~10M、1M~5M、2M~4M、又は3M~3.5M、例えば、約3.33MのCa2+濃度を有する溶液)にスプレーされる。
【0090】
本発明は、効率的かつスケイラブルな方法でヒドロゲル複合体を合成する方法を提供する。例えば、ヒドロゲル複合体は、スプレー装置(例えば、噴霧器を含む装置)を使用して合成できる。
【0091】
一般に、ポリマー溶液(例えば、アルギン酸-PEGの水溶液)を圧縮ガス(例えば、窒素)と同時に噴霧器に注入し、ポリマー溶液を霧化し、液滴のスプレーを生産できる。このスプレーは、粒子を作成するために受容溶液に向けることができる。受容溶液はカチオン(例えば、ポリカチオン、例えば、Ca2+)を含んでもよく、アルギン酸-PEG液滴とカチオン受容溶液とが接触すると、液滴内のアルギン酸分子はカチオンにより架橋され、ヒドロゲル粒子が形成される。追加の成分が受容溶液の一部として含まれていてもよい。例えば、受容溶液は、例えば、カチオン架橋の間及び/又は後に粒子をさらに硬化させるために、イソプロピルアルコールを含んでもよい。追加又は代替として、受容溶液は、必要に応じて、当該分野で公知の他の安定剤及び/又は界面活性剤を含んでいてもよい。
【0092】
本発明の方法の様々なパラメータを調整することにより、所望の粒径を達成できる。一般に、粒子サイズ(及び、例えば、得られるヒドロゲル複合体サイズ)は、噴霧スプレーで形成される液滴のサイズに関連する(例えば、粒子サイズは、噴霧スプレーで形成された液滴のサイズに比例(例えば、正比例)するか、わずかに小さい)。外部変数がない場合、液滴サイズ(及び得られる粒子又は複合体サイズ)は、(i)噴霧器を通過するガス圧力又はガス流量の増加、(ii)噴霧器を流れる液体の体積割合の減少、(iii)ポリマー溶液の粘度の減少、及び(iv)スプレー角度の増加、とともに減少する傾向がある。
【0093】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲル粒子は、体積割合で30%~90%(例えば、体積で35%~80%、40%~75%、45%~70%、50%~65%、又は55%~60%の液滴、例えば、体積で35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、又は75%~80%の液滴)の液体をスプレーする噴霧器を使用して形成される。この体積フラクションでは、得られるヒドロゲル粒子のサイズは上記の他の要因に依存するが、平均直径は10 nm~1,000 μmの範囲である。いくつかの実施形態では、本明細書で特定される液体対ガスの体積割合は、マイクロ粒子(例えば、1.0 μm~1,000 μmの直径を有す粒子、例えば、1.0μm~500μm、1.0μm~200μm1.0 μm~100 μm1.0~50 μm1.0 μm~25 μm1.0 μm~20 μm2.0 μm~20 μm、2.0~15 μm、2.0μm~10μm、又は2.0 μm~5 μm)をもたらす。他の例では、本明細書において特定されるガス対液体の体積割合は、ナノ粒子(例えば、1.0nm~1,000nmの直径を有する粒子、例えば、5 nm~800 nm、10 nm~600 nm、15 nm~500 nm、20 nm~400 nm、25 nm~300 nm、50 nm~250 nm、又は100nm~200nm、例えば、1 nm~50 nm、50 nm~100 nm、100 nm~200 nm、200 nm~300 nm、300 nm~400 nm、400 nm~500 nm、500 nm~600 nm、600 nm~700 nm、700 nm~800 nm、800 nm~900 nm、又は900 nm~1,000 nm)をもたらし得る。
【0094】
ガス(例えば、窒素)対液体(例えば、コポリマー溶液)の体積割合は、ガスに対する液体の噴霧器を通る流量の関数である。従って、噴霧器を通る液体に対するガスの流量を増加させると、液滴サイズが小さくなる(例えば、粒子サイズが小さくなる)傾向がある。加圧リザーバーによりガス流量を制御できる。多くの実施形態では、ガス供給源は、加圧タンクであり、そして噴霧器へのガスの流量は、圧力コントロール及び/又は調整バルブによってコントロールされる。もしくは、ガスは、ポンプ(例えば、圧力コントロールポンプ)などの他の手段によって噴霧器を通って流れてもよい。噴霧器への流れ(例えば、実質的に一定の流れ)を提供する任意のガスリザーバーは、本発明の一部としての使用に適している。
【0095】
同様に、シリンジポンプ(例えば、一定流量に設定されたシリンジポンプ)などの加圧リザーバーを使用して、液体(例えば、ポリマー溶液)を噴霧器に通すことができる。あるいは、蠕動ポンプなどの他のポンプ形式を使用して、液体の流れ(例えば、ポリマー溶液の流れ)を駆動できる。蠕動ポンプなどのシステムは、長時間にわたって大量の液体処理を可能にすることにより、スケーラビリティの利点を提供する。しかしながら、噴霧器への流れ(例えば、実質的に一定の流れ)を提供する任意の液体リザーバーは、本発明の一部としての使用に適している。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態では、噴霧器は、液体の流れとガスの流れを独立してコントロールできるように構成される。このような噴霧器には、外部混合噴霧器を含む。この噴霧器では、ガスと液体の流れが別々のポイントで噴霧器ノズルから出る。外部混合噴霧器を使用すると、例えば、液体の流量を一定に保ちながら、ガス流量をそれぞれ増減させて、平均液滴サイズ(及び得られる平均粒子サイズ)を増減させることができる。
【0097】
あるいは、内部混合噴霧器を本発明の一部として使用してもよい。内部混合噴霧器は、ノズル内の液体にガスを導入する。
【0098】
例えば、ボールバルブを使用して液体リザーバー(例えば、シリンジポンプ)を噴霧器に取り付けて、液体加圧時に液体が流れるようにすることにより、液体(例えば、ポリマー溶液)対ガス(例えば、窒素)の体積割合のさらなるコントロールを維持でき、これにより、霧化プロセスの開始時と終了時の体積割合の変動を防ぐ。
【0099】
本発明のポリマー溶液は粘性(例えば、水よりも高い粘度、即ち、20-25°Cで約0.9~1センチポアズ(cP)を超える)であり得る。粘度は、ポリマー(例えば、アルギン酸-PEGコポリマー)の濃度と温度に依存し得る。液体の粘度は、霧化された液滴のサイズ(及び例えば、得られる粒子サイズ)と正の相関がある。粘性溶液の霧化液滴サイズと対応する水の霧化液滴の関係は、次のように見積もることができる。
【0100】
【0101】
ここで、D_f=粘性液体の液滴サイズ、D_w=水の液滴サイズ、V_f=粘性液体の粘度(cP)である。
【0102】
非ニュートン流体の場合、粘度はせん断速度とともに変化することが理解される。例えば、アルギン酸及び/又はPEGを含むコポリマー溶液は、ずり減粘挙動を示し、その結果、その粘度はせん断速度の増加とともに低下する。いくつかの実施形態では、コポリマー溶液の見かけ粘度は、噴霧器内のせん断力にさらされると、50%を超えて(例えば、噴霧器内のせん断力にさらされると、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%を超えて)減少する。従って、ヒドロゲルの粒子サイズに対する粘度の影響を評価する際には、噴霧器オリフィス内のコポリマー溶液の見かけ粘度を考慮すべきである。所定のせん断速度(例えば、噴霧器内)での非ニュートン流体の見かけの粘度に影響する因子は、当技術分野で知られており、既知の方法で計算及び/又は経験的にテストできる。
【0103】
噴霧器のスプレー角度は、液滴サイズに影響するもう1つのパラメータである。一般に、スプレー角度が広いほど、得られる液滴サイズは小さくなる。本発明は、1°~50°(例えば、5°~40°、10°~30°、又は15°~25°、例えば、1°~5°、5°~10°、10°~15°、15°~20°、20°~25°、25°~30°、30°~35°、35°~40°、40°~45°、又は45°~50°)のスプレー角度を使用したマイクロ粒子(例えば、1.0μm~1,000μm、例えば、1.0μm~500μm、1.0μm~200μm、1.0μm~100μm、1.0~50μm、1.0μm~25μm、1.0μm~20μm、2.0μm~20μm、2.0~15μm、2.0μm~10μm、又は2.0μm~5μmの直径を有す粒子)を合成する手段を提供する。あるいは、50°~150°(例えば、60°~140°、70°~130°、80°~120°、又は90°~110°、例えば、50°~60°、60°~70°、70°~80°、80°~90°、90°~100°、100°~110°、110°~120°、120°~130°、130°~140°、又は140°~150°)のスプレー角度を使用してナノ粒子(例えば、1.0nmから1,000nm、例えば、5nm~800nm、10nm~600nm、15nm~500nm、20nm~400nm、25nm~300nm、50nm~250nm、又は100nm~200nm、例えば、1nm~50nm、50nm~100nm、100nm~200nm、200nm~300nm、300nm~400nm、400nm~500nm、500nm~600nm、600nm~700nm、700nm~800nm、800nm~900nm、又は900nm~1,000nmの直径を有す粒子)を合成できる。
【0104】
一実施形態において、噴霧器は、スプレー角度、流速、及び液滴サイズに応じて、円錐形、半円錐形、ドーム形、又は半シリンダー形のスプレー形状を作り出す丸いスプレーパターンを生成する。従って、スプレー角は噴霧スプレーの総体積と正の相関がある。本発明のいくつかの実施形態では、噴霧器はコポリマー液滴を下向きに(例えば、受容溶液へ)スプレーし、スプレー角はスプレーの幅(例えば、直径)を決定する。いくつかの実施形態では、受容溶液の表面でのスプレーの幅は、1.0 cm~1,000 cm(例えば、2.0 cm~100 cm、3.0 cm~80 cm、5 cm~70 cm、10 cm~60 cm、20 cm~50 cm、又は20 cm~40 cm、例えば、1.0 cm~2.0 cm、2.0 cm~3.0 cm、3.0 cm~4.0 cm、5.0 cm~6.0 cm、6.0 cm~7.0 cm、7.0 cm~8.0 cm、8.0 cm~9.0 cm、10 cm~15 cm、15 cm~20 cm、20 cm~30 cm、40 cm~50 cm、50 cm~60 cm、60 cm~70 cm、70 cm~80 cm、80 cm~90 cm、90 cm~100 cm、又はそれより大きい)である。
【0105】
いくつかの実施形態では、噴霧器は、受容溶液の表面より上5cm~1,000cm(例えば、10 cm~100 cm、15 cm~85 cm、20 cm~80 cm、25 cm~75 cm、30 cm~70 cm、35 cm~65 cm、又は40 cm~60 cm、例えば、5 cm~10 cm、10 cm~15 cm、15 cm~20 cm、20 cm~25 cm、25 cm~30 cm、30 cm~40 cm、40cm~、~50 cm、50 cm~60 cm、60 cm~70 cm、70 cm~80 cm、80 cm~90 cm、90 cm~100 cm、又はそれより大きい)の高さに配置される。
【0106】
上記の高さ、幅(例えば、直径)、及びスプレーの形状を考えると、スプレーの総体積は、円錐、シリンダー、又はそれらの間の値の対応する体積として見積もることができる。従って、本発明は、1.3cm3~1000m3(例えば、2 cm3~100m3、5cm3~10m3、10cm3~5m3、50cm3~1m3、100cm3~0.1m3、又は1,000cm3~0.01m3)の円錐形の総スプレー体積、3cm3~3000m3(例えば、2 cm3~100m3、5cm3~10m3、10cm3~5m3、50cm3~1m3、100cm3~0.1m3、又は1,000cm3~0.01m3)の半シリンダー形スプレー体積、及び上記の値が由来する円錐形及びシリンダー形の体積間の任意の体積を含む。
【0107】
本発明は、上記の構成のいずれか1つ以上を収容するスプレー装置を特徴とする。いくつかの実施形態では、本発明は、例えば、噴霧器から受容溶液及び/又は受容リザーバーまでの様々な距離に適応するように変更することができるモジュール式噴霧装置を特徴とする。この場合、スプレー装置は、ユーザーがスプレーの総体積を変更できるようにするためのジャックリグアセンブリを備えている(例えば、必要に応じて噴霧器に対して受容溶液を上下に移動させることによる)。
【0108】
ヒドロゲル粒子の合成後、標準的な方法(例えば、140μmナイロンフィルターを使用した滅菌ろ過法など)を使用して粒子をろ過できる。そうでなければ、粒子懸濁液は、例えば、標準的な遠心分離/再懸濁法により、濃縮又は精製できる。
【0109】
追加又は代替として、本発明のヒドロゲル粒子及び/又は複合体は、当技術分野で現在知られている方法を使用して合成できる。例えば、ヒドロゲル複合体は、従来のマイクロエマルジョンプロセスによりマイクロ粒子として製剤化できる。様々な用途のためにアルギネートビーズを合成する方法は、当技術分野で知られている(例えば、Hatch, et al., Langmuir 27 (2011):4257-4264及びSosnik, ISRN Pharmaceutics (2014):1-17参照)。
【0110】
結合部分の結合(例えば、抗体結合)は、マレイミド/チオール及びEDC/NHS結合を含む標準的な結合技術を使用して実行できる。他の有用な結合方法は、Hermanson et al., (2013) Bioconjugate Techniques: Academic Pressに記載されている。いくつかの実施形態では、例えば、上記のように、粒子形成直後に結合部分の結合が起こる。あるいは、結合部分との結合の前に粒子を保存し(例えば、凍結懸濁液又は凍結乾燥粉末として)、細胞処理の前に結合部分の結合を実行する(例えば、細胞処理の直前に、さらなる精製、例えば、ろ過及び/又は遠心分離/再懸濁の有無にかかわらず)。
【0111】
・使用方法
本発明は、上記の粒子又はヒドロゲル複合体を使用して、免疫細胞を制御する方法(例えば、T細胞の集団を増殖する方法)を特徴とする。制御(例えば、増殖)の前に、免疫細胞(例えば、T細胞)のソースを対象又は代替ソース(例えば、凍結細胞ストック又は細胞株)から得ることができる。免疫細胞(例えば、T細胞)は、末梢血単核細胞(PBMC)、骨髄、リンパ節組織、脾臓組織、腫瘍、又は同種又は自己細胞の凍結ストックを含む多くのソースから取得できる。本発明の特定の実施形態では、当技術分野で利用可能な免疫細胞(例えば、T細胞系)を使用できる。また免疫細胞(例えば、T細胞)は、フィコール分離又はPERCOLL(登録商標)勾配など、当業者に知られている任意の数の技術を使用して、対象から収集された血液の単位から得ることができる。対象の循環血液からの細胞(例えば、PBMC)は、アフェレーシス又は白血球除去によって取得できる。通常、アフェレーシス製品には、リンパ球、例えば、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、その他の有核白血球、赤血球、及び血小板が含まれる。アフェレーシスによって収集された細胞を洗浄して、血漿画分を除去し、その後の処理工程のために適切なバッファー又は培地に細胞を入れることができる。免疫細胞(例えば、T細胞)は、磁気ビーズネガティブセレクション又は蛍光活性化細胞選別(FACS)などの従来の技術により、本発明の複合体で処理する前に濃縮できる。免疫細胞(例えば、T細胞)は、抗原特異的、抗原非特異的、又は腫瘍特異的であり得る。それらには、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、NK T細胞、又は自己免疫又は移植拒絶療法の場合は制御性T細胞の集団を含む。それらには、制御性T細胞、NK細胞、NK T細胞、CIK細胞、TIL細胞、HS細胞(未分化及び分化)、MS細胞(未分化及び分化)、iPS細胞(未分化及び分化)、又はES細胞(未分化及び分化)の集団を含む。
【0112】
単離工程に加えて、対象から得られた免疫細胞(例えば、T細胞)は、本発明の複合体とのインキュベーションの前又は後にさらに処理されてもよい。例えば、細胞は、患者の細胞に癌抗原を認識させるキメラ抗原受容体(CAR)工学のプロセスなど、特定の機能特性を備えるために遺伝子工学を受けることができる。この場合、最初の少数のCAR T細胞を実質的な活性化された集団に増殖するために、本複合体での処理の前にCAR工学手順を実施してもよい。養子療法に使用される他の遺伝的手順は、Rosenburg et al. (Nat Rev Cancer 8 (2008): 299-308)で議論されている。他の実施形態では、二重特異性T細胞エンゲージャー(BITE)技術(例えば、WO2011/057124参照)などの遺伝子改変を伴わないものなど、本発明を使用して細胞を増殖した後に手順を実施できる。他の非遺伝子処理手順は、限定されないが、IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-21、又はTGF-βによる治療を含む。
【0113】
サンプル処理
本発明の一態様では、出発免疫細胞集団(例えば、T細胞集団)を複合体とともにインキュベートする。開始細胞数対複合体の比率は、複合体のサイズと形状に依存する。この目的のために、当業者は、標的免疫細胞(例えば、T細胞)と複合体との間の表面積の比率は、得られる免疫細胞(例えば、T細胞)、増殖及び/又は活性化の程度を支配する重要な要因であることを理解するだろう。いくつかの実施形態では、標的細胞と粒子複合体(例えば、マイクロ粒子複合体(例えば、1μmから100μmの間(例えば、約10μm)の平均直径を有する複合体))との間の表面積比は、約1:100~約100:1の間(例えば、約1:100、約1:80、約1:50、約1:25、約1:10、約1:5、約1:4、約1:3、約1:2、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約10:1、約25:1、約50:1、約80:1、または約100:1)である。いくつかの実施形態では、細胞に対する粒子複合体の相対量は、細胞に対する複合体の相対数によって測定される。例えば、1 mLあたり1.2x106個のT細胞を含む最初の細胞培養、又は約400mLの容量を持つ最初の細胞培養では、粒子複合体(例えば、マイクロ粒子複合体(例えば、1μmから100μmの間(例えば、約10μm)の平均直径を有する複合体))の最初の数は0.1x106~20x106、0.5x106~10x106、1x106~6x106であり得る。いくつかの実施形態では、複合体は質量によって測定され得る。例えば、1 mLあたり1.2x106個のT細胞を含む最初の細胞培養、又は約400mLの容量を持つ最初の細胞培養では、複合体(例えば、マイクロ粒子複合体(例えば、1μmから100μmの間(例えば、約10μm)の平均直径を有する複合体))の初期質量は1.0μg/ml~1.0mg/ml(例えば、2.0μg/mL~800μg/mL、5.0μg/mL~500μg/mL、10μg/mL~400μg/mL、20μg/mL~300μg/mL、50μg/mL~250μg/mL、例えば、1.0μg/mL~5.0μg/mL、5.0μg/mL~10μg/mL、10μg/mL~20μg/mL、20μg/mL~30μg/mL、30μg/mL~40μg/mL、40μg/mL~50μg/mL、50μg/mL~60μg/mL、60μg/mL~75μg/mL、75μg/mL~100μg/mL、100μg/mL~200μg/mL、200μg/mL~250μg/mL、250μg/mL~500μg/mL、500μg/mL~750μg/mL、750μg/mL~1.0mg/mL、1.0mg/mL~1.5mg/mL、または1.5mg/mL~2.0 mg / mL)であり得る。上記の参照量のいずれもが、培養内の細胞濃度に応じてスケイラブルであることが理解され得る。開始免疫細胞(例えば、T細胞)を複合体とともにインキュベートする際に考慮すべき他の要因は、複合体表面の結合部分の密度と選択(例えば、その結合アフィニティ、又はEC50、免疫細胞(例えば、T細胞)上の受容体濃度)された特定の結合部分である。免疫細胞(例えば、T細胞)が複数日間にわたって増殖すると、それらの体積要件が増加し、複合体に割り当てることができる総体積が制限され得ることが理解され得る。
【0114】
インキュベーション手順
本発明の方法は、免疫細胞(例えば、T細胞)を適切な容器内で複合体とともにインキュベートすることを含む。そのような細胞培養容器は当技術分野で公知であり、任意の適切なサイズの細胞培養プレート、フラスコ、又はバイオリアクターを含み得る。細胞集団が増殖するにつれて、容器のタイプ又はサイズを変更できる(例えば、6ウェルプレートからT25フラスコ、T75フラスコまで)。細胞培養容器は好ましくは無菌であり、当技術分野で知られている灌流可能なシステムなどの最適なガス交換又は培地交換のために構成されてもよい。免疫細胞(例えば、T細胞)を含む細胞の集団は、当技術分野で知られているように、増殖の誘導に適した濃度で播種できる。例えば、細胞は、約0.2×106~10×106細胞/ml(例えば、0.5x106~1.5x106、例えば、約0.5x106、又は約1.2x106細胞/ml)の濃度で播種することができる。
【0115】
複合体は、例えば、溶液中で固体構造を維持するために、特別なイオン条件を必要としてもよい。例えば、細胞培養培地には、塩、例えば、CaCl2の添加により、カチオン、例えば、ポリカチオン、例えば、Ca2+などのイオンを添加できる。イオンは生理学的に適切な濃度(例えば、1.0 nM~100 mM、例えば、1.0μM~10 mM、例えば、0.1 mM~10 mM、例えば、0.1 mM、0.2 mM、0.5 mM、1.0 mM、2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mM、又は10 mM、)で存在できる。
【0116】
追加の因子は、免疫細胞(例えば、T細胞)、増殖培地を含み得る。そのような因子には、当技術分野で知られている小分子、ペプチド、及び蛋白質因子、例えば、ビタミン、アミノ酸、サイトカイン、又は成長因子を含む。T細胞などの免疫細胞の増殖をサポートすることが知られているサイトカインには、インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-4、IL-7、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、及びインターフェロンガンマ(IFN-γ)を含む。増殖培地に含まれ得る小分子因子は、mTOR阻害剤(例えば、ラパマイシン)及びAKT阻害剤(例えば、AKT阻害剤VIII)を含む。
【0117】
細胞増殖 Ex vivoの免疫細胞(例えば、T細胞)の増殖プロトコルは、特にヒトのサンプルについて十分に開発されており、培養の複数週間にわたって、しばしば細胞数が100倍の範囲で増加する。従って、物理的スペースと培地の栄養分の枯渇に対する制約を克服するために、複数回の増殖が必要になり得る。これらの制約に対処するために、本発明の複合体は、免疫細胞(例えば、T細胞)増殖プロトコルの過程(例えば、1~6週間、例えば、1~2週間、2~3週間、又は3~4週間、例えば、7日間、8日間、9日間、10日間、12日間、14日間、16日間、18日間、20日間、21日間、又はそれを超える期間)で複数回(例えば、1回、2回、又は3~12回)溶解及び再適用できる。そのような溶解/再適用サイクルは、各溶解後に遠心分離又は他の既知の方法により培地からカチオンキレート剤を洗い流すことにより達成できる。あるいは、既存の複合体の分離ユニットを除去せずに、追加の複合体を培養に導入でき、従って、培地変更の必要性を回避する。
【0118】
本発明の一態様では、免疫細胞(例えば、T細胞)増殖プロトコルは、所望の数のT細胞、代表的な表現型、又はその両方を生成するのに適した所定の時間の間進行する。例えば、本発明の方法を使用して、開始細胞(例えば、T細胞(例えば、CD4+ T細胞及び/又はCD8+ T細胞))の数を1倍から1,000,000倍以上(例えば、10倍超、100倍超、1,000倍超、10,000倍超、100,000倍超、又は1,000,000倍超、例えば、1倍~10倍、10倍~100倍、100倍~1,000倍、1,000倍~10,000倍、10,000倍~100,000倍、又は100,000倍~1,000,000倍)に増殖できる。いくつかの実施形態では、開始集団は、9日間に100倍~1,000倍(例えば、200倍~400倍、又は300倍~350倍)に増殖される。
【0119】
本発明の免疫細胞集団(例えば、T細胞)集団の表現型特性は、様々な方法によりモニターすることができ、所望の表現型が獲得された後に単離を実施できる。関連する表現型は、生化学的又は形態学的変化などの代謝変化(例えば、細胞分裂の頻度の変化、サイトカイン発現プロファイルの変化、細胞直径(例えば、セル直径の中央値)の変化、表面分子発現の変化、又は細胞運動性の変化)である。そのような変化をモニターするためのアッセイには、標準的なフローサイトメトリー法、ELISA、顕微鏡法、ミグレーションアッセイ、代謝アッセイ、及び当業者に知られている他の技術を含む。得られる細胞の表現型は、参照細胞又は参照集団と比較して決定できる。フローサイトメトリーによって決定されるマーカーの発現レベルの場合、例えば、参照集団は、染色されていない細胞又はアイソタイプ抗体で染色された細胞(例えば、「蛍光マイナス1」コントロール)の集団であってもよい。
【0120】
本発明の方法は、免疫細胞(例えば、CD4+ T細胞及び/又はCD8+ T細胞)を含む細胞の集団の増殖を提供する。いくつかの実施形態では、前述のように、ヒドロゲル複合体の1つ以上の特性(例えば、結合部分の剛性、親水性、密度及び/又は組成)は、細胞が増殖するにつれて細胞の表現型に影響を与える。例えば、免疫細胞(例えば、T細胞)の開始集団と低弾性率ポリマー部分(例えば、細胞とのインキュベーション中に1つ以上の時点で100パスカル(Pa)~100,000,000Pa(例えば、100Pa~1,000Pa、1,000Pa~10,000Pa、10,000Pa~100,000Pa、100,000Pa~1,000,000Pa、1,000,000Pa~10,000,000Pa、又は10,000,000Pa~100,000,000Pa、例えば、1,000,000Pa未満、900,000Pa未満、800,000Pa未満、700,000Pa未満、600,000Pa未満、500,000Pa未満、400,000Pa未満、300,000Pa未満、200,000Pa未満、100,000Pa未満、50,000Pa未満、又は10,000Pa未満)の弾性率を有すアルギン酸ベースのポリマー部分)を有す複合体との培養によって、得られる免疫細胞(例えば、T細胞)の集団は、参照集団と比較して、より大きい数又は割合の特定の細胞(例えば、CD8+ T細胞)を有してもよい(例えば、開始集団又は対照集団、例えば、対照ビーズ又は可溶性因子を使用)。例えば、増殖した母集団には、参照集団と比較して、1.1倍超、1.2倍超、1.3倍超、1.4倍超、1.5倍超、1.6倍超、1.7倍超、1.8倍超、1.9倍超、2倍超、2.5倍超、3倍超、4倍超、5倍超、6倍超、7倍超、8倍超、9倍超、10倍超、12倍超、15倍超、20倍超、30倍超、40倍超、50倍超、又は100倍超の特定の細胞(例えば、CD8+ T細胞)が含まれ得る。同様に、本発明の複合体を使用して増殖した免疫細胞の集団(例えば、T細胞)は、参照集団と比較して、特定の細胞(例えば、CD4+ T細胞)の数又は割合が少ない場合がある(例えば、開始集団又は対照集団、例えば、対照ビーズ又は可溶性因子を使用)。例えば、増殖した母集団には、参照集団と比較して、95%よりも少ない、90%よりも少ない、80%よりも少ない、70%よりも少ない、60%よりも少ない、50%よりも少ない、40%よりも少ない、または30%よりも少ないの特定の細胞(例えば、CD4+ T細胞)が含まれ得る(例えば、開始集団又は対照集団、例えば、対照ビーズ又は可溶性因子を使用)。同様に、増殖したT細胞集団は、参照集団よりも大きい細胞比(例えば、CD8対CD4 T細胞比)を有し得る。例えば、増殖した集団中の細胞比(例えば、CD8対CD4 T細胞比)は、参照集団と比較して、1.1倍超、1.2倍超、1.3倍超、1.4倍超、1.5倍超、1.6倍超、1.7倍超、1.8倍超、1.9倍超、2倍超、2.5倍超、3倍超、4倍超、5倍超、6倍超、7倍超、8倍超、9倍超、10倍超、12倍超、15倍超、20倍超、30倍超、40倍超、50倍超、100倍超であってもよい。典型的には、本発明の方法は、細胞集団中の免疫細胞(例えば、T細胞)を増殖するために使用でき、例えば、得られた細胞集団(例えば、混合リンパ球)は参照集団と比較して、1.1倍超、1.2倍超、1.3倍超、1.4倍超、1.5倍超、1.6倍超、1.7倍超、1.8倍超、1.9倍超、2倍超、2.5倍超、3倍超、4倍超、5倍超、6倍超、7倍超、8倍超、9倍超、10倍超、12倍超、15倍超、20倍超、30倍超、40倍超、50倍超、または100倍超の数の免疫細胞(例えば、T細胞)を含む。
【0121】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、及び/又はエフェクターメモリー細胞を含む免疫細胞の集団の増殖を可能にする。ヒドロゲルの組成は、集団(例えば、増殖した集団)に存在するナイーブT細胞、中央メモリーT細胞、及び/又はエフェクターメモリー細胞の割合及び/又は総数に影響を与え得る。例えば、T細胞の開始集団と低弾性率ポリマー部分(例えば、細胞とのインキュベーション中に1つ以上の時点で100パスカル(Pa)~100,000,000Pa(例えば、100Pa~1,000Pa、1,000Pa~10,000Pa、10,000Pa~100,000Pa、100,000Pa~1,000,000Pa、1,000,000Pa~10,000,000Pa、又は10,000,000Pa~100,000,000Pa、例えば、1,000,000Pa未満、900,000Pa未満、800,000Pa未満、700,000Pa未満、600,000Pa未満、500,000Pa未満、400,000Pa未満、300,000Pa未満、200,000Pa未満、100,000Pa未満、50,000Pa未満、又は10,000Pa未満)の弾性率を有すアルギン酸ベースのポリマー部分)を有す複合体との培養によって、得られるT細胞の集団は、高い割合のナイーブT細胞(例えば、ナイーブCD4+ T細胞又はナイーブCD8+ T細胞)を含む。いくつかの例では、ナイーブT細胞は、(例えば、参照集団と比較して)表Iの1つ以上の特性(表面マーカー又は分泌サイトカイン)を有することで特徴付けられる。
【0122】
【0123】
本明細書で提供されるヒドロゲル複合体を使用する方法は、独特な活性化マーカー発現プロファイル(例えば、CD25、CD69、及び/又は他の活性化マーカー(例えば、表面マーカー及び/又はサイトカイン分泌)でプロファイルされる発現)も誘導し得る。例えば、T細胞の開始集団と低弾性率ポリマー部分(例えば、細胞とのインキュベーション中に1つ以上の時点で100パスカル(Pa)~100,000,000Pa(例えば、100Pa~1,000Pa、1,000Pa~10,000Pa、10,000Pa~100,000Pa、100,000Pa~1,000,000Pa、1,000,000Pa~10,000,000Pa、又は10,000,000Pa~100,000,000Pa、例えば、1,000,000Pa未満、900,000Pa未満、800,000Pa未満、700,000Pa未満、600,000Pa未満、500,000Pa未満、400,000Pa未満、300,000Pa未満、200,000Pa未満、100,000Pa未満、50,000Pa未満、又は10,000Pa未満)の弾性率を有すアルギン酸ベースのポリマー部分)を有す複合体との培養は、活性化マーカー発現(例えば、CD25及び/又はCD69)のより低い発現を生じ得る。例えば、活性化マーカーの発現は、増殖プロトコルの間の1つ以上の時点でより相対的に低くてもよい(例えば、活性化マーカーのピーク発現)。活性化マーカーは、対照群に比べて遅い速度で増加する場合がある。又は、活性化マーカーは、対照群に比べて大幅にダウンレギュレーションしてもよい(例えば、初期発現又はアップレギュレーション後)。
【0124】
本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、ヒドロゲル複合体治療は、CD4+ T細胞及び/又はCD8+ T細胞のCD25アップレギュレーションを対照群と比較して遅い速度(例えば、速度の95%未満、速度の90%未満、速度の80%未満、速度の70%未満、速度の60%未満、速度の50%未満、速度の40%未満、又は速度の30%未満)で誘導する。いくつかの実施形態では、CD25発現は、増殖期間の任意の時点(例えば、増殖期間の終了時)で、対照群と比較して減少(例えば、少なくとも10%減少、少なくとも20%減少、少なくとも30%減少、少なくとも40%減少、少なくとも50%減少、少なくとも60%減少、少なくとも70%減少、少なくとも80%減少、又は少なくとも90%減少)する。
【0125】
ヒドロゲル複合体による治療は、CD4+ T細胞及びCD8+ T細胞のCD69発現にも影響を及ぼす。いくつかの実施形態では、ヒドロゲル複合体治療は、CD69のアップレギュレーションを対照群と比較して遅い速度(例えば、速度の95%未満、速度の90%未満、速度の80%未満、速度の70%未満、速度の60%未満、速度の50%未満、速度の40%未満、又は速度の30%未満)で誘導する。いくつかの実施形態では、CD69発現は、増殖期間の任意の時点(例えば、そのピーク発現又は増殖期間の終了時)で、対照群と比較して減少(例えば、少なくとも10%減少、少なくとも20%減少、少なくとも30%減少、少なくとも40%減少、少なくとも50%減少、少なくとも60%減少、少なくとも70%減少、少なくとも80%減少、又は少なくとも90%減少)する。追加又は代替として、CD69のピーク発現は、対照群と比較して、ヒドロゲル複合体治療の結果は低くてもよい(例えば、対照群のピーク発現の95%未満、90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、又は20%未満)。
【0126】
精製
カチオン(例えば、カルシウム)の存在下では、アルギン酸は架橋して固体になる。免疫細胞(例えば、T細胞)の処理が完了すると、複合体を液状化し免疫細胞(例えば、T細胞)を放出するキレート剤を含む放出バッファーでインキュベートすることにより、ヒドロゲルを溶解(液状化)できる。それにより、得られる免疫細胞(例えば、T細胞)から不純物を除去し、それを必要とする患者への注入の準備ができる。
【0127】
EDTAは、本発明で使用される特徴的なカルシウムキレート剤である。EDTAは、生理的に不活性なバッファーの形で、0.1 mM~10 mm(例えば、0.5mM~5mM、0.7mM~3mM、又は1.0mM~2.0mMの濃度、例えば、1.0mM、1.5mM又は2.0mMの濃度)の濃度で使用できる。本発明の放出バッファーは、例えば、NaCl(例えば、約137mM)、KCl(例えば、約2.7mM)、ヘペス(例えば、約25mM)及び/又はNa2H2PO4・2H2O(例えば、約0.75 mM)を含んでいてもよい。
【0128】
細胞培養培地は、遠心分離及びそれに続く、(例えば、EDTAバッファー中の)細胞ペレットの再懸濁により、イオンキレート剤溶液(例えば、EDTAバッファー)と交換できる。他の方法も使用してもよい。例えば、低濃度のキレート剤を制御可能に又は徐々に添加することにより、及び/又はCa2+添加を除去することにより、徐放が達成され得る。また、細胞/イオンキレート剤懸濁液は、例えば、約5秒間ピペッティング又はボルテックスすることによって攪拌され得る。この工程中に、ヒドロゲルが溶解し、細胞が放出される。次に、単離された細胞は、細胞培養培地又は等張液に戻され得る(例えば、患者への投与のため)。
【0129】
特定の実施形態では、免疫細胞(例えば、T細胞)に結合する結合部分(例えば、抗体)は、本発明の複合体の非存在下で細胞と接触する。次に、インキュベーション及び/又は増殖のために、T細胞に結合した結合部分に結合する複合体を加えることができる。
【0130】
ヒドロゲルを溶解する代替方法は、本明細書に記載されており、当技術分野で知られている。例えば、ヒドロゲルは、温度の変化、pHの変化、加水分解、酸化、酵素分解、又は物理的分解によって溶解できる。
【実施例】
【0131】
<実施例1>スプレー装置の構成
スプレー装置を次のように準備した。32ガロンのタンク(高さ70cm、幅55cm、RUBBERMAID(R)BRUTE(R)ラウンドコンテナ)を15.5 cmレベルブロック上に置き、タンクの上部から地面までの距離が85.5cmになるようにした。70%イソプロピルアルコールをタンクの内部にスプレーし拭き取った。ジャックリグを調整し、プラットフォームを20cmの高さに保持し、水準器を使用して水平にした。ジャックリグは、タンクの底にある4本のボルトに取り付けた。
【0132】
70%イソプロピルアルコールをタンクの断面にマッチしたスプレーリザーバーにスプレーし拭き取った。タンク内にスプレーリザーバーを設置する前に、2.0Lの受容溶液をそこに加えた。1,000mLの70%イソプロピルアルコール、970mLの滅菌水、及び30mLの3.33M CaCl2を組み合わせて受容溶液を調製し、2Lの35%イソプロピルアルコール、50mM CaCl2とした。次に、スプレーリザーバーをタンク内のジャックリグプラットフォームに配置した。
【0133】
70%イソプロピルアルコールをスプレーノズルマウントにスプレーし、拭き取り、噴霧器フィッティングを上に向けてタンクの上部リムに配置した。スプレーノズルマウントを、タンクとスプレーノズルマウントの事前に測定されたマーキングを使用し、タンクの中央に配置した。2~3/4インチのネジを使用し、スプレーノズルマウントをタンクに固定した。
【0134】
丸型スプレー噴霧器(XA ER 050 A; BETE Fog Nozzle, Inc.)を液体吸入側で、TYGON(R)チューブを介して30mLシリンジに接続されたボールバルブに取り付けた。10mLの70%イソプロピルアルコール、10mLの水、及び30mL又は空気をシリンジに順次移し、噴霧器に流した。
【0135】
噴霧器の吸気側を、チューブを介して圧縮窒素タンク調整バルブに取り付け、噴霧器をスプレーノズルマウントのフィッティング内に配置した。圧縮窒素チューブを2~3/4インチのネジを使用してスプレーノズルマウントに固定し、このときチューブの圧迫を避けるためにネジを締めすぎないように注意した。噴霧器を、ゴムバンドを1本のネジからもう1本のネジに引き伸ばすことにより、フィッティング内に固定した。
【0136】
圧縮窒素タンクバルブを開いて圧力を50psiに設定し、その時点でレギュレーターバルブを閉じた。
【0137】
70%イソプロピルアルコールをタンクカバーにスプレーし、拭き取り、カバーの開口部がチューブの両端に揃うようにタンクの上部リムに配置した。タンクの側面とタンクカバーの上部に固定されたネジを使用し、ゴム製バンドを使用してタンクカバーを所定の位置に固定した。
【0138】
<実施例2>ヒドロゲル複合体の合成
アルギン酸-PEGコポリマーを、アルギン酸ナトリウムを4アームPEGアミンに結合させることで最初に合成した。アルギン酸ナトリウムと4アームPEGアミンを2:1のアルギン酸ナトリウム対PEGアミンの比率(22.5mg/mlアルギン酸ナトリウム及び11.25mg/mlPEG-アミン)で水に溶解した後、EDC(0.4mg/ml)とスルホNHS(1.1mg/ml)を加えた。PEG-アルギン酸結合反応は、室温で一晩行った。
【0139】
ヒドロゲル複合体を、実施例1のように調製され
図1に示されたスプレー装置を使用してマイクロ粒子状に形成した。通常、スプレー装置は、コポリマー溶液を噴霧器に注入するシリンジポンプを備え、ガスシリンダーからの圧力下で、溶液をエアロゾルとしてカチオン性液体を含む噴霧容器に導き、その中でヒドロゲルが粒子に固化する。
【0140】
シリンジに上記で調製したポリマー溶液を入れた。調整バルブを開いて、50psiの圧力で圧縮窒素タンクから窒素の流れを誘導した。毎分10mLの流量に設定されたシリンジポンプを使用し、ポリマー溶液を噴霧器に自動的に注入した。噴霧器は、霧化されたスプレーを約60mmのスプレー半径で、各吸気バルブに対して垂直に下向きにスプレーした。スプレーは、混合中にスプレーリザーバー内の受容溶液と接触し、ヒドロゲル粒子は固化した。
【0141】
得られたヒドロゲル粒子の懸濁液をスプレーリザーバーから重力ろ過システム(STERIFIL(R)Aseptic System及びHolder; 140 μmナイロンフィルター)に移し、1L三角フラスコに回収した。ヒドロゲル粒子を遠心分離により濃縮し、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)に再懸濁した。
【0142】
細胞培養の直前に、抗体をヒドロゲル粒子に結合させた。抗CD3(クローンOKT3)及び抗CD28(クローン28.2)を、標準濃度のEDC及びスルホ-NHSを含むHBS中のマイクロ粒子とインキュベートし、アルギン酸-PEGヒドロゲルマイクロ粒子の表面に結合させた。
【0143】
複合体のサイズ及び形態分布を評価するために、
図2A-2Dに示すように、懸濁液を顕微鏡下で高濃度及び低濃度で視覚化した。次に、複合体を遠心分離により洗浄し、20mM Ca
2+を含むpH 7.4のHBSで保存した。
【0144】
<実施例3>抗CD3 /抗CD28ヒドロゲル複合体を使用したT細胞の増殖
T細胞を、従来の方法を使用したCD3発現の選択によってヒト末梢血から精製した。T細胞を24ウェルプレートに、ウェルあたり400mLの培地(ウシ胎児血清(FBS)、GLUTAMAXTM、HEPES、15 ng/ml IL-2、及び2mM CaCl2を添加したRPMI)あたり0.5x106細胞で播種した。実施例2に記載されているように生成されたヒドロゲル複合体を5:1又は10:1の複合体対細胞比で添加し、各複合体/細胞懸濁液を穏やかに攪拌することにより混合した。対照群は、非刺激細胞と、製造業者の指示書に従ってビーズ対細胞比が3:1の対照抗CD3/抗CD28ビーズで処理した細胞を含む。
【0145】
細胞増殖の過程で、必要に応じて2~3日ごとに、細胞培養物をより大きな容器に移し、新鮮な培地を補充した。特に、培養物を24ウェルプレートから6ウェルプレートに、6ウェルプレートからT25フラスコに、T25フラスコからT75フラスコに移した。
【0146】
9日後、細胞培養物を遠心分離し、上清を廃棄し、細胞と複合体を1mM EDTAを含むバッファーに再懸濁した。この懸濁液の撹拌により複合体が溶解し、細胞を遠心分離により洗浄した。
【0147】
増殖の過程で、細胞の総数を数えた。
図3に示すように、ヒドロゲル複合体は、対照ビーズと同程度又はそれを超える程度にT細胞増殖を誘発した(即ち、0.5x10
6セル~160x10
6セルと180x10
6セルの間、即ち、約320倍~約360倍)。重要なことに、ヒドロゲル複合体によって増殖したT細胞は、
図4A及び4Bに示されるように、対照ビーズと比較し、有意に多い数及び頻度のCD8
+細胞を含んでいた。
図4Aに示すように、対照ビーズでは、9日間の処理後、増殖した集団のCD4
+細胞の割合にほとんど影響しなかったが、ヒドロゲル複合体では、CD4
+細胞の相対数が、複合体対細胞比が5:1で30%以上、複合体対細胞比が10:1で約60%減少した。逆に、
図4Bでは、増殖した集団におけるCD8
+細胞の割合は、5:1の複合体対細胞比で約100%、10:1の複合体対細胞比でほぼ175%増加し、一方、CD8
+の頻度は、対照ビーズでの増殖の結果ではわずかに減少した。従って、ヒドロゲル複合体の増殖は対照ビーズと一致又は超えた一方で、増殖したT細胞表現型を細胞傷害性CD8
+細胞に偏向させた。
【0148】
処理の過程でCD8
+ T細胞及びCD4
+ T細胞に発現した活性化マーカーを
図5A-5Dに示す。CD25及びCD69の発現プロファイルは、対照ビーズと比較し、ヒドロゲル複合体での処理の結果で異なっていた。特に、ヒドロゲル複合体は、CD8
+ T細胞とCD4
+ T細胞の両方でCD25発現の段階的な増加を誘発し、5日目にピークに達した。対照的に、対照ビーズはCD8
+ T細胞とCD4
+ T細胞の両方でCD25発現の急速な増加を引き起こし、これは2日目に100%の発現に近づき、9日間の培養を通して維持された(
図5A及び5B)。
図5C及び5Dでは、CD69発現の動態は、ヒドロゲル複合体で処理された細胞では、対照ビーズで処理された細胞よりもアップレギュレートが小さく、培養2~5日の間に全ての処理グループで減少した。各細胞型において、ヒドロゲル複合体対細胞比が10:1の場合、ヒドロゲル複合体対細胞比が5:1の場合と比較し、CD25とCD69の発現がわずかに高くなった。
図6A~6Dは、
図5及び6に示される2日目及び8日目の複合体対細胞比が10:1の対照ビーズ及びヒドロゲル複合体に対応するフローサイトメトリーグラフを示す。
【0149】
<実施例4>リガンド及びリガンド密度の制御はT細胞増殖を制御する
初代ヒトCD3
+ Tリンパ球を1x10
6細胞/mlの密度で播種し、ウシ胎児血清、グルタミン酸、HEPES、及び組換えヒトIL-2を添加した高度RPMI培地で培養した。0日目に、様々な比率の抗体(
図7に示す比率の抗CD3、抗CD27、又は抗CD28抗体)と結合した同数のヒドロゲル複合体で細胞を刺激した。細胞増殖は集団倍加(P.D.)で示され、T細胞の増殖に対するリガンドとリガンド密度の影響を示す。
【0150】
<実施例5>リガンド及びリガンド密度の制御はT細胞表現型を制御する
初代ヒトCD3
+ Tリンパ球を1×10
6細胞/mlの密度で播種し、ウシ胎児血清、グルタミン酸、HEPES、及び組換えヒトIL-2を添加した高度RPMI培地で培養した。0日目に、様々な比率の抗体(
図8に示す比率の抗CD3、抗CD27、又は抗CD28抗体)と結合した同数のヒドロゲル複合体で細胞を刺激した。増殖した細胞集団のCD4
+及びCD8
+ T細胞の数は%細胞集団で示され、増殖した細胞集団対0日目の開始集団のCD4
+/CD8
+比に対するリガンド及びリガンド密度の影響を示す。
【0151】
<実施例6>リガンド及びリガンド密度の制御はメモリー表現型を制御する
初代ヒトCD3
+ Tリンパ球を1×10
6細胞/mlの密度で播種し、ウシ胎児血清、グルタミン酸、HEPES、及び組換えヒトIL-2を添加した高度RPMI培地で培養した。0日目に、様々な比率の抗体(
図9に示す比率の抗CD3、抗CD27、又は抗CD28抗体)と結合した同数のヒドロゲル複合体で細胞を刺激した。増殖した細胞集団のCD4
+及びCD8
+ T細胞を、初期T細胞メモリー表現型マーカーCD45RA及びCCR7の発現について分析した。データは%細胞集団で示され、増殖したCD4
+及びCD8
+細胞集団対0日目の開始集団における、CD45RA及び/又はCCR7を発現する集団に対するリガンド及びリガンド密度の影響を示す。
【0152】
他の実施形態は特許請求の範囲に記載されている。