(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】含浸されたセル型炭素ナノ構造体で強化された多機能性ナノコンポジット
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230731BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230731BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230731BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230731BHJP
C09D 11/00 20140101ALI20230731BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230731BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C09D201/00
C09D7/61
C09D11/00
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2019560047
(86)(22)【出願日】2018-01-19
(86)【国際出願番号】 US2018014549
(87)【国際公開番号】W WO2018136810
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2021-01-05
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519263833
【氏名又は名称】ディキンソン・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ビショップ,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ブリル,デイビッド・アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】テリッツィ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,アバイ・ブイ
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-538363(JP,A)
【文献】特開2013-166849(JP,A)
【文献】特開2010-007067(JP,A)
【文献】特開2012-201689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C09D,C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体マトリックス相と、
前記液体マトリックス相中に分散された直径1,000μm以下のナノ構造化炭素粒子と
を含む分散体であって、
前記液体マトリックス相は、モノマー、樹脂、プレポリマー、ポリマー、硬化剤および触媒のうちの少なくとも1種類を含み;
複数の前記ナノ構造化炭素粒子は、相互連結したセル型サブユニットの多セル型の網目を含み、複数の当該セル型サブユニットは、
厚さ100nm以下のセル壁、及び
直径が500μm以下であり、前記液体マトリックス相の一部で含浸されている内包的キャビティ
を含み、
多セル型の網目の各々は、周りでそれが形成され
たテンプレート粒子に構造的に対応し、当該テンプレート粒子は、相互連結した構造サブユニットの網目を含む、
分散体。
【請求項2】
前記複数の相互連結したセル型サブユニットの各々は、
厚さ10nm以下のセル壁、及び
直径100nm以下の内包的キャビティ
を含む、
請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
前記多セル型の網目は、変形及び崩壊の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の分散体。
【請求項4】
前記マトリックス相が溶媒をさらに含む、請求項1に記載の分散体。
【請求項5】
前記マトリックス相が熱可塑性ポリマーを含む、請求項1に記載の分散体。
【請求項6】
前記マトリックス相がエポキシ官能性樹脂を含む、請求項1に記載の分散体。
【請求項7】
前記マトリックス相が、以下のリスト:アミン、フェノール、チオール、ルイス酸または酸無水物から選択される1種類以上の硬化剤を含む、請求項1に記載の分散体。
【請求項8】
前記マトリックス相がポリオレフィンまたは変性ポリオレフィンを含む、請求項1に記載の分散体。
【請求項9】
前記マトリックス相がウレアまたは変性ウレアを含む、請求項1に記載の分散体。
【請求項10】
前記ナノ構造化炭素粒子の一部が0.40以下のラマン2-D/Gピーク強度比を示す、請求項1に記載の分散体。
【請求項11】
前記ナノ構造化炭素粒子の一部が0.20以下のラマン2-D/Gピーク強度比を示す、請求項1に記載の分散体。
【請求項12】
前記ナノ構造化炭素粒子の一部が化学官能基で官能性付与されている、請求項1に記載の分散体。
【請求項13】
前記化学官能基が前記ナノ構造化炭素粒子に共有結合している、請求項12に記載の分散体。
【請求項14】
前記化学官能基が酸素官能基である、請求項13に記載の分散体。
【請求項15】
前記内包的キャビティが、前記マトリックスと化学的に相違する成分で少なくとも部分的に充填されている、請求項1に記載の分散体。
【請求項16】
前記分散体が、インク及び添加剤の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の分散体。
【請求項17】
前記分散体が導電性である、請求項1に記載の分散体。
【請求項18】
固体マトリックス相と、
前記固体マトリックス相中に分散された直径1,000μm以下のナノ構造化炭素粒子と
を含むナノコンポジットであって、
前記固体マトリックス相は、モノマー、樹脂、プレポリマー、ポリマー、硬化剤および触媒のうちの少なくとも1種類を含み;
複数の前記ナノ構造化炭素粒子は、相互連結したセル型サブユニットの多セル型の網目を含み、複数の当該セル型サブユニットは、
厚さ100nm以下のセル壁、及び
直径が500μm以下であり、前記固体マトリックス相の一部で含浸されている内包的キャビティ
を含み、
多セル型の網目の各々は、周りでそれが形成され
たテンプレート粒子に構造的に対応し、当該テンプレート粒子は、相互連結した構造サブユニットの網目を含む、
ナノコンポジット。
【請求項19】
前記複数の相互連結したセル型サブユニットの各々は、
厚さ10nm以下のセル壁、及び
直径100nm以下の内包的キャビティ
を含む、
請求項18に記載のナノコンポジット。
【請求項20】
前記多セル型の網目は、変形及び崩壊の少なくとも1つを含む、請求項18に記載のナノコンポジット。
【請求項21】
前記ポリマーが熱可塑性ポリマーを含む、請求項18に記載のナノコンポジット。
【請求項22】
前記ポリマーが熱硬化性ポリマーを含む、請求項18に記載のナノコンポジット。
【請求項23】
前記熱硬化性ポリマーが部分硬化型である、請求項22に記載のナノコンポジット。
【請求項24】
前記熱硬化性ポリマーがエポキシを含む、請求項23に記載のナノコンポジット。
【請求項25】
前記エポキシがビスフェノールAのジグリシジルエーテルを含む、請求項24に記載のナノコンポジット。
【請求項26】
前記マトリックス相と同様の組成を有する材料の対応する特性より高い最大引張強度、高い引張弾性率、高い破断伸び、高いGIC臨界歪みエネルギー解放率、高い最大曲げ強度、高い曲げ弾性率、高い最大圧縮強度、高い圧縮弾性率、高い硬度または高い衝撃強度のうちの少なくとも1つを示す、請求項18に記載のナノコンポジット。
【請求項27】
前記マトリックス相と同様の組成を有する材料のKIC破壊靱性より高いKIC破壊靱性を示す、請求項18に記載のナノコンポジット。
【請求項28】
前記ナノコンポジットが導電性である、請求項18に記載のナノコンポジット。
【請求項29】
前記ナノ構造化炭素粒子の一部が化学官能基で官能性付与されている、請求項18に記載のナノコンポジット。
【請求項30】
前記化学官能基が前記ナノ構造化炭素粒子に共有結合している、請求項29に記載のナノコンポジット。
【請求項31】
前記化学官能基が酸素官能基である、請求項30に記載のナノコンポジット。
【請求項32】
前記内包的キャビティが、前記マトリックスと化学的に相違する成分で少なくとも部分的に充填されている、請求項18に記載のナノコンポジット。
【請求項33】
繊維強化相をさらに含む、請求項18に記載のナノコンポジット。
【請求項34】
前記繊維強化相がチョップドファイバーを含む、請求項33に記載のナノコンポジット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年1月19日に出願された米国特許仮出願第62/448,129号の優先権を主張するものであり、この仮出願は引用によりその全体があらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、液体マトリックスまたは固体マトリックス中に内包的に含浸されたセル型炭素ナノ構造体で構成された新規な分類の液状分散体および固形ナノコンポジットに関する。
【背景技術】
【0003】
近年、sp2-混成炭素が充填されたポリマー系ナノコンポジットが広く研究されている。sp2炭素は、その次元と幾何構造に基づいて分類され得る。いわゆるゼロ次元炭素ナノ構造体としては、バックミンスターフラーレンおよびカーボン量子ドットが挙げられる。1次元炭素ナノ構造体としては、カーボンナノチューブおよびナノファイバーが挙げられ、これらはすべて、線状のナノ構造化形態構造を共通して有するものであり得る。2次元炭素としては、単層グラフェンおよび多層グラファイト状ナノプレートレットが挙げられる。これらは多くの場合、バルクグラファイト前駆体からハマー法などの液相剥離法を用いて作製される。バルクグラファイト状構造体、例えば炭素繊維または炭素粉末はsp2炭素の3次元ファミリーを構成する。
【0004】
低次元炭素、例えばナノチューブおよびグラフェンナノプレートレットは素晴らしい機械的特性、熱的特性および電気的特性を有するが、その低次元性により、複合材用途における使用が困難にもなる。液体マトリックス(「マトリックス」は本明細書において、炭素ナノ粒子の周囲の液体または固体の連続相と定義する)中にブレンドした場合、表面間のファン・デル・ワールス相互作用によって炭素ナノ粒子が互いに付着することが引き起こされ、不規則なクラスターに自己組織化する。炭素クラスターまたは「塊状体」は、マトリックス中にブレンドした場合に低次元炭素が表面エネルギー最小の3次元形態に戻る傾向を反映している。この効果によってマトリックスとフィラーが相分離し得、複合材の性能が劣化し得る。この相分離に対処するため、研究者らはグラフェン粒子間に「スペーサー」粒子を導入した[1~3]。スペーサーは、塊状化自体を抑制するものではないが、効率的な粒子間付着を許容しないことによって塊状体の密度および炭素の表面積の隠蔽を制限する。スペーサーがないと、ナノプレートレットは、
図1Aに示すように、その幾何構造のため密に塊状化し得る。
図1Aは、ナノプレートレットの断面図、および空間的に密な低表面積クラスターを形成するためにナノプレートレットの両面がどのようにして他のナノプレートレットに付着するために近接可能であるかを示す。
【0005】
ポーラス炭素ナノ構造体は、2次元の特性と3次元の特性の両方を有する将来有望な代替品をもたらす。文献でのかかる材料の例としては、規則性メソポーラスカーボン(OMC)および「3Dグラフェン」が挙げられる。OMC粒子の場合、研究者らは、テンプレート指示型(-directed)合成により得られ得る高度に規則性のナノアーキテクト形態構造を高く評価する[4]。OMCの特長の1つは、その内包的空孔構造(「内包的」は本明細書において、テンプレートによって作出された炭素内の内部キャビティまたは内部表面をいい、一方、「外在的(exohedral)」は、炭素構造体の表側の表面をいう)とナノ構造化壁の組合せによって高い比表面積が可能になることであり、この表面積は、該内包的表面が内包的空孔の崩壊によって隠蔽されない限り保持される。内包的空孔によってもたらされる間隔が、液体中におけるナノチューブおよびナノプレートレットの問題の解決策を提供し得る。残念ながら、空孔は多くのOMC変形体で10nmより小さく、空孔対壁の直径方向の比が小さくなる。大きな内包的キャビティを有する炭素と比べると、OMCは空間的に密であり、内部に含浸させて湿潤させることが困難であり得る。現在の研究のOMCへの応用は、ほとんどが吸着とエネルギー貯蔵に重点が置かれている。
【0006】
一部の3Dナノ炭素は大きな内包的キャビティを含むものであり、これは、理論的には、卓越したナノコンポジット構成を創製するために使用することができる。顕著な一例が、ナノ構造化壁を有する相互連結チューブラーカーボン網目であるエアログラファイトで得られている。Garlof,et al.によって報告されているように、エアログラファイトは、「ポリマー系ナノコンポジットの改善された電気伝導率および機械的強化のための大きな可能性を示す。3Dナノ炭素をポリマーマトリックス中に組み込むことによって、分散型炭素ナノ粒子の使用とは対照的に、塊状化および制御された網目トポロジーの欠如などのいくつかの欠点が回避され得、したがって、「理想的な」複合材が創製され得る」[5]。具体的には、Garlofに、液状エポキシ樹脂が真空含浸によって内包的および外在的に注入され得るモノリシックプリフォームとしてのエアログラファイトが記載されている。網目の相互連結性は、Mecklenburgによれば、自身を支持する能力および導電性ポリマー系ナノコンポジットでは、高度に広がった浸透性骨格としての機能を果たす能力のため、「エアログラファイトファミリーの共通の構造的動機」である[6]。
【0007】
OMCと同様、非崩壊エアログラファイト試験片は、ナノ構造化形体間に間隔をもたらす。しかしながら、相互連結された連続炭素構造体は欠点を有し得る。高度に多孔質の連続的相互連結炭素モノリスの有効な注入および濡れには低粘度の熱硬化性樹脂および真空注入プロセスが必要とされ得、これにより、ナノコンポジットの製作、特に、厚いナノコンポジット部材の製作において複雑性が導入され得る。さらに、流動分散体は繊維強化と一体化でき、慣用的な工作機械器具設備および製造プロセスを用いて製作され得るが、連続的相互連結炭素は、厚い成型部材または薄く塗布される接着剤および被覆材の製作にすぐに実用化される可能性は低い。多くのナノコンポジット用途では不連続炭素ナノ粒子の流動性液状分散体が望ましい。
【0008】
本発明は、とりわけ、セル型形態構造を有する不連続フィラー相の実用的な利点をもたらす類型のポーラス3D炭素ナノ構造体が充填された連続相で構成された多相材料に関する。このようなセル構造体は、ほとんどのCMK-型OMCより大きな内包的キャビティを有する。そのテンプレート指示型キャビティおよび壁の形態構造により、高度に一定したサイズおよび形状分布を有するセル粒子が作製されることが可能となり得る。セル壁内の裂けは、ポリマーマトリックス材料の浸潤を許容し得る。これにより、他の同様のサブユニットとファン・デル・ワールス相互作用によって自己組織化し得る内包的に含浸されたセル型サブユニットが空間的に広がった多セル型多相網目内に入り、形態学的相混合がもたらされ得る。
【0009】
例示の目的のために、
図1Bに仮想球状セルの2次元の図を示す。セルは不連続粒子である。
図1Cは、このような仮想セル粒子の自己組織化クラスターによって創製された空間的に広がった網目の2次元の図である。フィラーは不連続的であるため、この類型の炭素(本明細書では、集合的に「セル型炭素」または「セル型炭素構造体」と称し、個々には「セル」または「セル構造体」と称する)が充填されたナノコンポジットは、液状樹脂中に分散させることができ、流動性前駆体が必要とされる部材の製作が容易になり得る。他の炭素と比べて、セル型炭素およびその誘導体では、より大きくてあまり細長くないキャビティ、ナノ構造化壁、テンプレート指示型幾何構造およびトポグラフィならびに不連続形状因子が得られ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本明細書において、マトリックス連続相および内包的に含浸されたセル型炭素ナノ構造体の不連続相で構成された新規な分類の多相分散体およびナノコンポジットを記載する。マトリックスは、1種類以上の熱硬化性もしくは熱可塑性のポリマー、プレポリマー、樹脂、モノマー、溶媒またはその混合物からなるものであり得る。セル型炭素は、マトリックス全体に個々の粒子または粒子のクラスターとして分散されていてもよく、共有結合または非共有結合により化学的に官能性付与されていてもよい。セル型炭素は、液体または固体のフィラーが内包的に含浸されていてもよく、内包的空隙が実質的にないものであってもよい。セル型炭素に加えて、他のフィラーまたは強化材、例えば繊維強化材をマトリックス中に共分散させてもよい。ポリマー系ナノコンポジットの実施形態は、種々の硬化状態、例えば、未硬化、部分硬化または「Bステージ」硬化および完全硬化を示すものであり得る。マトリックスは室温で固体、液体またはゲルであり得、本発明の利用可能性を制限しないものである。
【0011】
本発明の目的の1つは、新規なセル型炭素相の効果のため向上した機械的特性および導電特性を有するポリマー系ナノコンポジットを作製することである。本発明の別の目的は、多種多様な配合物状態のインク、被覆材、塗料、シーラント、接着剤、成型プラスチック、発泡体、繊維強化複合材および他のポリマー用途に使用され得るナノコンポジットを作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書に記載のナノコンポジットは、先行技術と比べて利点をもたらす。セル型炭素は、低次元炭素に伴う問題である液体中での空間的に密な塊状体の形成に耐えることができ得る。これは、マトリックス液による濡れに利用可能な内包的表面を有するものであり得るが、隣接する粒子に付着することは幾何学的に不可能になっている。また、セル型炭素誘導体、例えば湾曲寸断体も、粒子間付着の効率を低減させる非平面状の凸形または凹形の表面を有するものであり得る。他のポーラスナノ構造化炭素網目、例えばエアログラファイトを用いて作製されたナノコンポジットとは異なり、分散型セル型炭素が充填されたナノコンポジットは、プリフォームが必要とされ得ず、種々の部材を製作するのがより容易であり得る。
【0013】
さらなる利点および用途は、以下の詳細説明から当業者に容易に明白であろう。本明細書における実施例および説明は、本質的に例示的であって限定的ではないとみなされたい。
【0014】
例示的な実施形態を、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、他の粒子と相互作用および付着して空間的に密なクラスター化または積層および表面隠蔽をもたらすことがあり得る2つの利用可能な面を有するナノプレートレットの2次元断面図である。
【
図1C】
図1Cは、球状セルの自己組織化クラスターによって形成された空間的に広がった網目の2次元の図である。この空間的広がりは、利用可能でない内部キャビティおよび表面の結果である。
【
図2】
図2は、どのようにセル壁が、壁(矢印のある点線で示す)の方位に対して異なる方位の炭素格子(実線で示す)で構成され得るかを示す。第1の図は、炭素格子が壁の方位と多かれ少なかれ同じ平面内の方位である壁構成を示す。第2の図は、炭素格子が複雑な方位を有する壁構成を示す。どちらの図も、どのように層間間隔が異なり得るかを示す。第3の図は、異なる点の壁厚が、測定点においてセル壁に対してまあまあ垂直な弦を引くことにより、どのように測定され得るかを示す。
【
図3】
図3は、数多くの小セルで構成された繊維状のナノ構成のセル型炭素構造体のSEM顕微鏡写真である。繊維性のマイクロ構造体はどの寸法においても100nmより大きいが、そのバルク相はすべて100nmより細いため、その形体はすべて、依然として組成においてナノ構造化型である。
【
図4】
図4は、2次元で示した2つの仮想セル型炭素構造体のイラスト図である。薄いセル壁を黒の二重線で示している。セルの外部が薄いグレーの領域である。内包的キャビティが白色の領域である。左底部のスケールバーは参考のため10nmの長さを示す。上の構造体では、点線の基準円で示しているように、10nm直径の円を完全にキャビティ内に描くことができている。下の構造体では、10nm直径の円を完全にキャビティ内に描くことができていないが、10nm長さの2つの直交するセグメントで示しているように、10nm以上である2つの垂直な弦をキャビティ内に描くことができている。
【
図5】
図5は、多数のキャビティを含む仮想セル型構造体のイラスト図である。厚いセル壁を濃いグレーの領域で示している。セルの外部が薄いグレーの領域である。セル内部のキャビティは白色の領域である。左底部のスケールバーは参考のため10nmの長さを示す。この仮想構造体のキャビティの大部分は、どちらも10nm直径で描いた2つの点線の基準円で示しているように、10nmより大きい。しかしながら、一方のキャビティは、拡大挿入図で示しているように、10nm直径の基準円内に完全に含まれていることが示されるように、どの方向での10nmより小さい。
【
図6】
図6は、1つの外在的な孔を含む仮想の小葉状セル型構造体のイラスト図である。薄いセル壁を黒の二重線で示している。セルの外部が薄いグレーの領域である。内包的キャビティが白色の領域である。左底部のスケールバーは参考のため10nmの長さを示す。このイラスト図に示すように、外在的な孔の存在により、局所キャビティ形体が創製されることによってキャビティ形態構造の複雑性が増大する。このイラスト図では、局所キャビティ直径は普遍的に10nmより大きい。
【
図7】
図7は、
図6のものと同様であるが5つの外在的な孔を含む仮想セル型構造体のイラスト図である。薄いセル壁を黒の二重線で示している。セルの外部が薄いグレーの領域である。内包的キャビティが白色の領域である。左底部のスケールバーは参考のため10nmの長さを示す。このイラスト図の構造体もやはり、いくぶん小葉状であるが、空間孔密度が高いため、より樹状となっている。このイラスト図では、局所キャビティ直径が優勢的に10nmより大きいが、局所キャビティ直径が10nmより小さい領域も存在しており、これは、10nmの基準線が該領域内のキャビティを横切って描かれていることで示している。
【
図8】
図8は、
図6および
図7のものと同様であるがずっと高空間密度の外在的な孔を含む仮想ポーラス構造体のイラスト図である。薄いセル壁を黒の二重線で示している。セルの外部が薄いグレーの領域である。内包的キャビティが白色の領域である。左底部のスケールバーは参考のため10nmの長さを示す。高空間密度の外在的な孔によって樹状構造体が創製されている。このイラスト図では、局所キャビティ直径が、10nmの基準線で示されているように優勢的に10nmより小さく、したがって、この構造体は第2の基準を満たさない。
【
図9】
図9は、粒子構造体の4つの例のイラスト図である。セル壁を黒の二重線または濃いグレーの領域で示している。セルの外部が薄いグレーの領域である。内包的キャビティは白色の領域である。左から右に向かって、第1の構造体は、5:1より大きく10:1より小さいアスペクト比を有する細長い線状のキャビティ構造体であり、ここで、アスペクト比はキャビティの最大直径に対するその長さと定義する。第2の構造体は、分岐のため非線状である非常に細長い(すなわち、10:1より大きいアスペクト比)キャビティ構造体である。第3の構造体は、各々が5:1より小さいアスペクト比を有する複数の不連続キャビティを含むものである。右側の第4の構造体は、ナノチューブに典型的な単一の線状の非常に細長いキャビティを含むものである。
【
図10】
図10は、三元テンプレート-殻-マトリックス系のイラスト図である。テンプレート相は中心のグレーの領域であり、殻は黒色の領域であり、マトリックスは模様のある外側の領域である。このイラスト図は、セル型炭素が決定論的に形成される系を反映している。セル壁の形成は、はっきりした明確なテンプレート相の周囲に、殻によって内包的テンプレートと外在的マトリックスが隔離されるようにコンフォーマルに起こる。
【
図11】
図11は、双筒型中空類円柱体テンプレートで成長させたセル型炭素構造体のSEM顕微鏡写真である。テンプレート内の孔はセル型炭素構造体に引き継がれており、2つの外在的な孔が横行している双筒型形態構造が得られている。外在的な孔は、テンプレート式セルキャビティにとって外因的であるため、セル型キャビティの一部とはみなされない。セルキャビティは、形成中、内包的テンプレート相に空間的に対応し、一方、外在的な孔は、形成中、マトリックス相が占める空間に対応する。
【
図12】
図12は、シート様マイクロ構造体に相互連結された離散化セルで構成されたセル型炭素構造体のSEM顕微鏡写真である。白い円内にみられ得るように、数多くの外在的な孔が隣接するセル間に観察され得る。
【
図13】
図13は、変質セルのSEM顕微鏡写真である。合成時のセルは形態構造が回転楕円体であったが、テンプレート抽出プロセスによってもたらされた合成後の機械的ストレスのため、粒子は湾曲寸断体に破断されている。寸断体の凹形湾曲部は凸形テンプレートでの粒子の形成を反映している。この寸断体は互いに付着するが、この画像はまた、粒子に引き継がれた湾曲部によってもたらされた大きな粒子間空間が保持されていることも示す。
【
図14】
図14は、面内格子欠陥を含んでおり、格子がテンプレートの周囲に形成される際にその表面に適合することが可能であるセル粒子のSEM顕微鏡写真である。そのため、この顕微鏡写真のセル壁は、皺または折り重なりの形跡を示さず、平滑に継ぎ目なく湾曲しているようにみえる。セル壁の欠陥性、およびおそらく、sp2格子を相互連結するsp3結合によって機械的により丈夫になっている可能性があり、これは、インタクトなセル型構造体およびテンプレート抽出後は寸断体がないことから推断され得る。
【
図15】
図15は、格子が面内格子欠陥を有していない条件下で形成されたセル粒子のSEM顕微鏡写真である。その結果、セル壁は表面上に数多くの皺および折り重なりを示し、非平面状のテンプレート表面上でドレープされた平面状炭素格子のトポロジー的ミスマッチを反映している。格子の高い結晶性の面内構造体によって互いにより容易に剪断されることが可能になり、セル壁内に裂けが引き起こされ得る。セル型構造体は、この顕微鏡写真では
図14と比べて、より寸断されているようにみえる。
【
図16】
図16は、各セル型炭素サンプルS1、S2、S3、S4およびS5を合成するために使用したCVD反応器の時間対設定温度を示す図表である。一番上のダイアグラムは、S1およびS3で使用した時間対設定温度であり、一方、下のダイアグラムはS2に関するものである。
【
図17】
図17はS1、S2、S3、S4およびS5炭素サンプルのラマンスペクトルである。S1およびS3のスペクトルは、顕著な2Dピークおよび高いDピークを示す。S2サンプルは無定形のラマンスペクトルを示す(1500cm
-1におけるずっと高い底形体によって容易に識別可能)。炭素サンプルのピーク強度比を下に示している。
【
図18】
図18は、100mL/分のアルゴン流下の不活性雰囲気中および10℃/分の加熱速度で作成されたTGA曲線を示す。この図表は、S1、S2、S3、S4、S5、XC72RおよびXGNP-C-750の、初期サンプル質量に対するパーセンテージとしての質量損失対温度を示す。600℃未満での質量損失は主として炭素以外の元素、例えば酸素によるものである。
【
図19】
図19は、S3炭素サンプルのSEM顕微鏡写真である。このサンプルは、各々が単一の内包的キャビティを有する個々の立方形のセルで構成されている。平均キャビティ直径は40nm~80nmであり、平均セル壁厚は10nm未満である。
【
図20】
図20は、エポキシ樹脂マトリックス中での高剪断混合およびその後のアセトンでのすすぎ洗浄による抽出後の
S5炭素サンプルのSEM顕微鏡写真である。欠陥性の炭素格子で構成された
S5炭素構造体は、より結晶性の炭素格子で構成された炭素構造体よりインタクト性を示す。
S5セルは、顕微鏡写真の右側からわかるように、エポキシ中に混合後も依然として大部分がインタクトである。しかしながら、左側に示されるように、変質の場合もみとめられる。
【
図21】
図21は、テンプレート抽出プロセス後のS4炭素サンプルのSEM顕微鏡写真である。
【
図22】
図22は、テンプレート抽出プロセス後のS5炭素サンプルのSEM顕微鏡写真である。
【
図23】
図23は、実験Aで作製したエポキシナノコンポジットのうちの1つの破面のSEM顕微鏡写真である。この画像では、ほぼ4μm直径のセル型クラスターが観察され得る。クラスターは、エポキシ樹脂中の個々のサブミクロン粒子の塊状化によって形成され、その位置は、回転楕円体のプルアウトパターンによって推断され得る。この一例のようなクラスターはミクロンスケールの形体とナノスケールの形体の両方を有し、これは、いろいろな強化機構の評価の一助となり得る。
【
図24】
図24は、ナノコンポジットをミリングするためにクライオイオンレーザーを使用することによって創製されたエポキシナノコンポジット表面のSEM顕微鏡写真である。このナノコンポジットサンプルでは、ミリングされた表面がすべて平滑であり、未含浸のキャビティの切断に起因する孔食をほとんど示さなかった。この具体的な顕微鏡写真は、エポキシマトリックス内に観察可能なセル構造体の代表例を示す。
図8の形状のこのセル構造体の存在は、内包的エポキシの斑点出現から推定され得る。外在的エポキシはクライオイオンレーザーに対して反応を示さないが、内部相は、レーザーの熱に曝露した場合、安定でなかった。キャビティ内には、いろいろな領域が推定され得る。最も明白なのは、セル壁の内包的表面をハグ(hug)する不安定な相である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
セル型炭素は、ポーラスのsp2-混成炭素構造体の広い分類のサブセットを構成する。その形態学的多様性、ならびに非セル型のポーラス炭素の多様性のため、本発明者らは、まず、1つ以上特定の様式では同様であり得るが全体論的にみた場合には異なる他の炭素からセル型炭素を分類学的に差別化する一貫性があり、かつ意味のある一組の特性を列挙する。ポーラスのsp2-混成炭素構造体のより広い分類としては、限定されないが、シングルウォールナノチューブ、マルチウォールナノチューブ、カーボンマイクロチューブ、フラーレン、石油コークス、チャー、規則性メソポーラスカーボン、カーボンセノスフェア、グラフェンエアロゲル、フォールデッド(folded)型もしくはクランプルド(crumpled)型グラフェンナノプレートレット、カップ積層型ナノチューブまたは中空カーボンナノファイバー、ポーラス炭素繊維などが挙げられる。
【0017】
セル型炭素は、キャビティのサイズと形状、バルク状態の形体の厚さ、および粒子の幾何構造に基づいて、また、このような粒子で構成された集団の分布特性に基づいて互いに異なる。このような特長により、種々の用途への好適性が決定される。本発明者らは、セル型炭素を、以下の基準のうちの少なくともいくつかを示すものであると定義する:
1.セル型炭素のバルク相は典型的にはナノ構造化されている、すなわち、少なくとも1つの測定軸において平均して100nmより小さい形体で構成されている。個々のセルのバルク相はそのセル壁であり、その厚さは、
図2に示すように、測定点の壁に対して実質的に垂直に引いた弦において測定され得る。多セル粒子では、隣接したセル壁が、同じくナノ構造化された一体化型のバルク相を形成する。セル型炭素はナノ構造化されているが、連続した多セル型のマイクロ構造を有するが100nmより厚いバルク相は有していない
図3のセル型マイクロファイバーに例示しているように、マイクロ構造化されている場合もあり得る。
【0018】
2.セル型炭素のキャビティは10nm以上であり得る。幾何学的に、これを、10nm直径の円をキャビティの2D画像内部に嵌め込むことによって
図4に示す。キャビティは、同じく
図4に示すように、10nm直径の円が該キャビティ内に嵌め込まれていなくても該キャビティが任意の2つの垂直な弦において10nmを超えている場合、この基準を満たし得る。多数のキャビティを有する構造体では、その大部分が10nmより大きい。したがって、
図5に図示した構造体は、10nmより小さいキャビティを有するにもかかわらず、この基準を満たしている。
図6~8に示すように外在的な孔が導入されている場合、セルは小葉状または樹状となり得る。かかる構造体では、キャビティは一般的に局所的に10nm以上のキャビティ直径を有する。したがって、
図6および
図7に図示した構造体は該当するが、
図8の構造体は該当しない。
【0019】
3.セル型炭素のキャビティは、非常に細長いのと線状の両方でない。本明細書において定義する場合、「非常に細長い線状のキャビティ」は10:1より大きいアスペクト比を有するものであり、ここで、アスペクト比は該線状構造の最大直径に対する長さの比である。本明細書において定義する場合、「線状の」とは、5:1より大きいアスペクト比を有する分岐のない連続構造体を示す。明瞭性重視のため、
図9に4つの例を含める。図の左側の最初の3つの構造体は、この定義に従う線状構造である。しかしながら、
図9の一番右側の構造体は、カーボンナノチューブと同様、線状と非常に細長いの両方である。したがって、この構造体は基準#3を示すものでない。
【0020】
4.セル型炭素構造体は、1,000μmより長い長さスケールにおいて不連続である。したがって、セル型炭素集団の凝集体形状因子は、典型的には、液体中に分散させることができる粉末または微細な顆粒状粉末である。
【0021】
5.セル型炭素は、そのキャビティ形態構造および内包的表面形体を、気体、液体または固体のテンプレーツザテンプレーツ(templatesthe template’s)から引き継いでいる。これは、2つの相違する内部相と外部相の界面でのセル壁のコンフォーマル(conformal)合成によりもたらされる(
図10に示すとおり)。穿孔されたテンプレート状に形成されるセル型構造体は外在的な孔を引き継ぎ得る。外在的な孔は内包的セルキャビティの一部ではない。一例は、2つの外在的な孔が双筒型中空類円柱体テンプレートから引き継がれた
図11に示すセル型炭素である。別の例は、全体にセル間に数多くの外在的な孔が観察され得るセル型シートである
図12に示すセル型炭素である。
【0022】
6.「セル型炭素誘導体」は、合成後に機械的、熱的、電気的または化学的プロセスによって形態学的に改変されたセル型炭素である。このようなプロセスの結果、該誘導体は寸断、変形、崩壊または他の構造変化に供され得る。それでもなお、このような誘導体は、そのセル型前駆体と共通するいくつかの形態学的特性を有する。
図13は、回転楕円体セル型炭素前駆体の寸断体を示す。この寸断体は、依然としてその前駆体の基本形状を示しているが、より開放状態の構成であり、内側および外側のセル壁表面ではなく凹形および凸形の曲線を有する。
【0023】
本明細書における分類のセル型炭素は、最初の5つの基準を示すべき、または第6の基準に整合する誘導体構造を有するべきものである。第6の基準に記載のような誘導体構造は一般的に、セル型炭素として分類可能な前駆体構造から誘導される。基準1~5を評価するための測定は、電子顕微鏡検査または他の適当な高分解能画像処理法を用いて行なわれ得る。2次元の顕微鏡写真を用いて行なわれる測定、例えばSEMまたはTEMでは各セル型炭素の構造体の完全な3次元マッピングは得られ得ないが、それでもなお、かかる測定は、セル型構造体の集団に関する一般形体を測定するために使用され得る。本明細書において行なった、または図示した測定はすべて、2次元の顕微鏡写真の解析に基づいたものである。
【0024】
基準#1により、セル型炭素を、ナノ構造化壁がないポーラス炭素と区別する。壁が厚いほど炭素の比表面積が小さくなり、粒子密度(すなわち、炭素の質量を、囲まれた空孔を含む全容積で割り算したもの)が増大する。セル型炭素に関する薄壁により、厚壁中空炭素の低粒子密度に適合し得るがずっと小さい内包的キャビティを有する中空構成が可能になる。より薄くてより多くの2次元の壁によってもまた、ナノコンポジットにおけるフィラーの重要な特性であるより大きな界面表面積、ならびにバルク炭素材料に対して2次元の炭素材料によって示される他の特性(例えば、卓越した導電性および機械的特性など)がもたらされる。
【0025】
基準#2は、セル型炭素のキャビティのサイズに関する。セル型炭素を、中くらいのサイズであるそのキャビティにより他のポーラス炭素の形態構造と区別する。より小さい方のものはポーラスナノ構造化炭素(ナノチューブ、フラーレン、規則性メソポーラスカーボンなど)であり、より大きいサイズのものは、もっと大きな中空炭素構造体(セノスフェア、中空炭素小球体など)である。小型と大型の間のポーラス形態構造は、より一般的には10nmより小さいかまたは1,000nmより大きい平均空孔直径を有するポーラス炭素ではめったにみられない範囲のキャビティサイズである。容積測定の観点ではこの範囲は空孔直径の3乗の関数であり、例えば、それぞれ10nmおよび1,000nmの直径を有する2つの仮想球状空孔間には容積測定において106の差がある。ほとんどのナノ構造化炭素の空孔が小さいと、その粒子密度および比多孔度に対する制限が小さくなる。例えば、1nm未満の直径を有するフラーレンは中空であるが、そのキャビティは、2つのグラファイト平面間の空間の2倍より少し大きいにすぎない。同様に、ほとんどのカーボンナノチューブは非常に長い中央空孔が横行しているが、典型的な空孔直径は数ナノメートルにすぎない。一部のセル型炭素は一桁を大幅に超え、あまり密でない。
【0026】
基準#2はいくつかの理由で重要である。密度低下は、シンタクチックフォームなどの、浮力または軽量化のために使用される材料において望ましい特長である。小キャビティを有するほとんどの炭素は、特に浮揚性のあるものではない。セル型炭素中に含まれた空孔に気体ではなく液体または固体のマトリックス材料が含浸されている場合であっても、その低い空間密度は好都合である。例えば、セル型炭素は、マトリックス中において浸出を達成するための優れた構造体である。薄壁セルは、低浸出閾値をもたらす3次元の軽量網目に密にかつ連続的に充填されたものであり得、これは、コストの大部分が導電性を得るのに必要とされる炭素の量によるものであるナノコンポジット製品、例えば導電性インクにとっては魅力的な特長であり得る。また、大きな内包的キャビティによっても、セル型炭素が複合材全体において低い重量パーセンテージで高いナノコンポジット容積分率を占めることが可能になる。最後に、より大きな内包的範囲を有するセル型構造体ほど、潜在的に、機械的ストレスに応答してより大きな弾性変形または塑性変形を行ない得る。
【0027】
基準#3により、線状のキャビティ形態構造を有するセル型炭素を、細長さに基づいてナノチューブおよびマイクロチューブと区別する。一般に、カーボンナノチューブなどの非常に細長い線状粒子は、不充分な充填密度、束状化効率によりもつれる傾向[7]、およびコロイド状分散体における粘度上昇という欠点を有する。この理由のため、中空ナノファイバーは多くの場合、ミリングされるが、高エネルギーミリングプロセスであっても実用的には限界を有する。一例として、ミリングによってどれだけ多くの粒子不足が生じ得るかという限界があり、劇的な不足は長時間のプロセス時間が必要とされ得る。第2に、ミリングプロセスは、破片が生じることによって粒径分布および形態学的一定性にマイナスの影響を及ぼし得る。対照的に、線状構造および大きく切断型の形状因子を有するセル粒子は初めから創製され得る。切断型の構造体は、もつれにくいものであり得、卓越した充填密度をもたらすものであり得、非常に細長い構造体ほど深刻に粘度が上昇しないものであり得る。また、大きく切断型のキャビティ形状は、含浸が必要とされる場合に望ましいものであり得、それは、これによって拡散性流体流への非常に細長いナノ構造体の到達不可能性が緩和されるためである[8~9]。あるいはまた、細長い構造体がナノコンポジットにおける浸出のために所望される場合、分岐した(すなわち、非線状の)セル形態構造が使用され得る。かかる形態構造により、クラスター化粒子が互いに相互貫入できないため潜在的にもつれにくいまま空間的に広がった網目が可能になる。
【0028】
基準#4により、セル型炭素を、1,000μmスケール以上においてモノリシックまたは相互連結型のポーラス炭素プリフォーム、例えばエアログラファイトと区別する。これは、セル型炭素が、その構造的不連続性のため流動性ナノコンポジット分散体中に容易に分散可能である限り、実用上重要であり得る。分散性は、多くの製品実現、例えば定量吐出インク、スプレッド塗装、不融性樹脂などに好都合である。また、これにより、真空含浸があまり重要でなくなるため、キャビティの濡れおよび含浸がより容易になる。
【0029】
基準#5により、セル型炭素を、そのテンプレート式キャビティおよび内部トポグラフィに基づいて他のポーラス炭素と区別する。本明細書で用いる場合、用語「テンプレート」は、ネスト化(nested)テンプレート-殻-マトリックス(1-2-3)系などのように周囲にセル型炭素(またはその炭素系前駆体)の殻がコンフォーマル合成または組織化された固体、液体または気体の内部領域をいう。この三元系では、炭素または炭素系前駆体の殻(2)が内部テンプレート(1)と外部マトリックス(3)の界面に存在する。殻の幾何構造、サイズおよび内包的トポグラフィはすべて、殻の形成中にテンプレートから引き継がれる。テンプレート-殻-マトリックス系の例としては:気体の外部マトリックス(3)中に浮遊させた炭素系液滴(2)内部に閉じ込められた気体のブローワント(blowant)テンプレート(1);水性マトリックス(3)中の酸化グラフェンナノプレートレット(2)によって被覆された油滴(1);および炭素系の気体マトリックス(3)内部に存在する炭素殻(2)内部の金属酸化物テンプレート(1)が挙げられる。
【0030】
テンプレート式キャビティは、セル型炭素を他のポーラス炭素と差別化する重要な構成的特性である。セルキャビティ形態構造が粒子集団においてランダムでないため、および粒子のセル壁がコンフォーマルで2次元であるため、高度に一様な粒子集団が可能である(が、必要ではない;実際、一様な粒子集団の有益性の1つは、これをブレンドすると、個別調整される複合材特性のための制御された多分散系粒子分布を創製できることである)。対照的に、ほとんどのキャビティ含有炭素は、明確なテンプレート相がない炭素-マトリックスの二元系で合成されるため、ランダムで不規則なキャビティ形態構造を有する。例えば、液相剥離によって作製された数層のグラフェンナノプレートレット(GNP)には、折り重なり、皺、粒子間付着または周囲マトリックスとのランダムな相互作用の結果としての偶発的なキャビティが生じ得る。しかしながら、明確なテンプレート相がないため、このようなキャビティは不規則であり得る。同様に、水熱合成されたグラフェンエアロゲル中における不規則なキャビティは、水性マトリックス中での酸化グラフェンナノプレートレットのランダムな自己組織化の結果であり得る。この系は、明確なテンプレート相がないものであり得、炭素とマトリックスのみで構成されている。あるいはまた、炭素は、この3つの相のいずれもが本明細書において定義する「テンプレート」に該当しない三元系に形成され得る。例えば、石油コークスまたはチャーは、内部揮発種(相1)が外部ガス雰囲気(相3)中の炭素系構造体(相2)内を移動するにつれて生成されるランダムに生じた空孔構造を示す。しかしながら、このような揮発種は、その周囲にコンフォーマルに炭素構造体が合成または組織化されるのではなく、内部から外に出た揮発種によって炭素構造体がランダムにエッチングされるため、テンプレートの基準を満たさない場合があり得る。
【0031】
基準#6は、主としてセル型炭素前駆体から誘導されたものであるが合成後の加工処理によって、もはやセル型炭素の基準のすべてを満たさないか、またはセル型炭素と非セル型炭素の両方に関する形体を示すかのいずれかとなるように形態学的に改変されている炭素構造体に関する。例えば、金属酸化物テンプレートで作製されたセル型炭素は、該金属酸化物テンプレートを溶解させる酸抽出プロセスに供され得るが、該プロセスではセル型構造体のランダムな破損および変質が引き起こされる場合があり得る。かかるサンプルの一例を、変質セルのSEM顕微鏡写真である
図13に示す。作製時、このような粒子は形態構造が回転楕円体であったが、テンプレート抽出によって生じる合成後の機械的ストレスのため、該粒子は破損して湾曲寸断体になった。寸断体の凹形湾曲部は凸形テンプレートでの粒子の形成を反映している。この寸断体は互いに付着するが、この画像はまた、粒子に引き継がれた湾曲部によってもたらされた大きな粒子間空間が保持されていることも示す。別の一般的な誘導体は、セル壁が、インタクトなまま、崩壊するのに充分薄く、そのキャビティの平坦化のため、収縮したようにみえる誘導体が得られるセル型炭素ナノ粒子である。かかる誘導体に液体または固体のフィラーを含浸させるとそのキャビティの3次元性が回復し得る。
【0032】
誘導体構造は、そのセル型炭素前駆体の特性の多くを有するため重要である。セル寸断体は、例えば、もはや内部空孔を有しないものであり得るが、密な塊状化および表面積隠蔽を幾何学的に不可能にする高い湾曲度を保持しているものであり得る。[その非平面性により、ナノコンポジット内において粒子間間隔および表面積の保持がもたらされ得る]。一部の特定の場合では、該誘導体は、そのセル型前駆体に対して好ましい場合さえあり得る。ポットライフが短い二成分樹脂系の場合のように、セルキャビティへの液体マトリックス材料の急速な含浸が所望される場合、開放陥凹部を有する寸断体表面の方が、より容易にかつより速く、次いで、よりインタクトな独立セル型構成の内包的表面が湿潤し、含浸される。逐次工程でブレンドされた多種類の液体成分を有するナノコンポジットマトリックスでは、よりインタクトなセル型構造体の内部と外部で成分組成を平衡状態にすることは、該多成分組成物の反応性が高い場合は特に、困難であり得る。
【0033】
セル型誘導体が重要である別の理由は、該誘導体が、そのセル型前駆体と比べて、多くの場合、複数の炭素粒子をナノコンポジット分散体中に含んでいることである。これに関連して、セル型炭素に関する本開示の基準では、多くの場合、厳密な構造の定義がナノコンポジット中に実際に見出される誘導体構造の前駆体に適用され得る。
【0034】
セル型炭素構成
セル型炭素の型の多様性の理由の1つは、格子レベルおよびセルレベルでの組成の多様性である。セル壁は、重なり合うパッチワーク構成で互いに付着している単一原子厚の炭素格子で構成されたラメラ構造体である。該格子は、セル壁の構成単位であり、サイズ、形状、方位、分子タイリングおよび表面化学によって異なる。格子レベルおよびセルレベルでの構成を調整することにより、同じ粒径、同じ幾何構造およびさらには同じ壁厚を共通して有する2つの仮想セルは劇的に異なる特性を有することになり得よう。
【0035】
格子のバリエーションの起点の1つはその分子タイリングである。これは、無定形にタイリングして短距離秩序または長距離秩序を有していない場合もあり、結晶性が高い場合もあり得る。結晶性の場合では、六方晶にタイリングされ得る(例えば、グラフェン格子)か、またはなんらかの他のタイリング(例えば、ヘッケライト(haeckelite)タイリング)を有し得る。格子レベルでのいろいろな構成により、いろいろな挙動が生じ得る。例えば、5-、6-および7-員環で構成された無定形にタイリングされた格子は電気絶縁性であり得るが、無欠陥グラフェン格子は導電性が高い[10]。8%~10%の欠陥性環で構成されたグラフェン格子は、張力下で延性破壊およびクレージングが起こり得るが、比較的無欠陥の格子では脆性破壊が起こり、卓越した強度と弾性率を有する[11~12]。また、完全に結晶性のグラフェンシートは平面状であり、したがって、湾曲表面に完全に適合することがトポロジー的にできないものであり得る。この理由のため、湾曲テンプレートで形成されたグラフェン格子で構成されたセル型炭素は、皺および折り重なりを示すことがあり得る。セル壁がより欠陥性の結晶構造体で構成されている(すなわち、5員環、6員環、7員環などを含む)場合、格子が湾曲テンプレートに適合するのに皺または折り重なりは必要でない。最後に、多層セル壁には潜在的に、重なり合うsp2格子を相互連結するsp3-混成結合が含まれていることがあり得る。
【0036】
このようなトポロジーによる違いの視覚的証拠は
図14および
図15において観察され得る。
図14に示したSEM画像では、セル壁が、その平滑表面およびインタクトなセル構造体がベースのsp3-混成結合によって相互連結されたものであり得る欠陥性の炭素格子で構成されている。
図15に示したSEM画像では、セル壁が、剪断および層間剥離をより受け易く、テンプレート抽出後、皺表面または折り重なった表面が生じ(線状表面形体の形になる)てセル構造体があまりインタクトでなくなり得る結晶性炭素格子で構成されている。
【0037】
また、この壁は表面化学によっても異なり得る。「初期状態(pristine)」(すなわち、比較的無欠陥)のグラフェン格子は、実質的に底面官能性付与を有していないが、還元型酸化グラフェンまたは酸化グラフェン格子は酸素部分を有する。種々の官能性付与法が、オリゴマーおよびポリマーをセル壁にグラフトさせるために使用され得る。該壁を構成する重なり合う格子は、その格子化学ならびに互いに対するその方位の両方に基づいて、いろいろな層間間隔を有し得る(例えば、ABバーナル積層または乱層積層)。
【0038】
いろいろな分子タイリング、官能性、積層パターンおよび層間間隔を有することに加え、該格子は、横寸法、すなわちその形状および面積によって異なり得る。これもまた、格子およびセル壁の機械的、電気的、熱的および化学的特性の重要な決定因子であり得る。例えば、大きな格子ほど、小さい格子より少ないトンネリングで電子伝達が可能となり得、潜在的に炭素構造体の電気抵抗が小さくなる。
【0039】
また、ナノコンポジットの特性を変更するためにセルレベルでの構成が調整されることもあり得る。壁が厚いほど、炭素の密度、比表面積および比多孔度が大きくなり得る。また、セル壁の構造は、該壁に対する格子方位のため、内部で異なる場合があり得る。格子がセル壁表面と平行な方位である場合、そのエッジのケミストリーは他の格子によって隠蔽され得る。しかしながら、格子が、エッジが露出するような方位である場合では、そのエッジのケミストリーはセル壁表面の特性に大きな影響を及ぼし得る。この原理は、他の非セル型炭素でも実例が示されている。例えば、カップ積層型ナノチューブは、グラフェンのほとんどのエッジが露出している管壁構成を有する。この方位により壁表面の全体的な反応性が、格子底面が支配的な壁表面と比べて高まり、カップ積層型ナノチューブを多くの系により容易に分散できるようになる[13]。
図2は、2つの異なる格子方位のセル壁を示す。
【0040】
セル壁が異なり得る別の様式はその多孔度である。多層セル壁は、グラファイトに特徴的であるように、おそらくサブナノメートルの層間空孔を有している。しかしながら、壁を貫通する横空孔は、より可変的であり得、非常に重要であり得る。この横空孔は、合成時の不完全な壁形成またはテンプレート抽出中に形成された裂けの結果によるものかもしれない。横空孔の数およびサイズはセルキャビティの内外への拡散流の速度に影響を及ぼし得る。セル壁が有する空孔が少ないほど、小さいほど、マトリックス液が含浸するのに長く時間がかかり得る。
【0041】
手順の概論
本明細書に記載の炭素セルおよびセル型誘導体はすべて、粉末テンプレートでの化学気相成長(CVD)を用いて合成した。しかしながら、これらは一例にすぎず、本明細書に記載の合成手順もまたそうであることは理解されよう。セル型炭素を成長させるためのこのプロセスは、米国特許仮出願第62/294,751号に、より詳細に記載している。いくつかの炭素生成プロトコルを使用し、ポリマー系ナノコンポジットに物理的、機械的および電気的特性を付与するためのセル型炭素の有用性を実証する目的で、いろいろなサイズ、形状および壁組成のセル型炭素および誘導体を合成した。
【0042】
使用したテンプレートはすべて、酸化マグネシウム(MgO)粉末の等級品であった。MgOは、炭素系前駆体ガスの熱触媒分解においてよく知られた触媒である。CVD成長は種々の温度にてチューブ炉内で、いくつかの炭化水素前駆体を用いて行なった。
【0043】
CVDが終了した後、得られたMgO/Cコア-シェルヘテロ構造体を希塩酸(HC1)と反応させてMgOテンプレート粒子を溶解させ、炭素殻をインタクトなまま残した。次いで、この炭素をMgCl2水溶液で濾過し、水性の炭素ペーストを作製した。このペーストを脱イオン水で充分にすすぎ洗浄し、次いで再度濾過した。一部の場合では、溶媒交換法を使用して水をアセトンに置き換え、アセトンペーストを得た。次いで、このペーストをナノコンポジット配合物中に直接ブレンドするか、またはエバポレーションによって乾燥させて乾燥粉末を形成し、これがナノコンポジット中にブレンドされ得るか、もしくはさらなるCVD成長に供され得る。
【0044】
試験用のナノコンポジットを作出するため、セル型炭素および誘導体を、比較用の市販の他の非セル型炭素とともにマトリックス中に分散させた。熱硬化性ナノコンポジットを注出し、注型し、硬化させ、機械加工して熱硬化性試験片を形成した。熱可塑性ナノコンポジットは、ホットプレスシステムを用いて成型し、熱可塑性試験片を形成した。被覆材サンプルは、ポリエチレン(PET)膜上にナノコンポジット分散体をコーティングすることによって作製した。
【0045】
セル型炭素の合成
セル型炭素の3つのサンプル(S1~S3)をCVDによって、100mm ODの石英管、ステンレス鋼フランジ、ガス供給口およびシングルバス排出口(single bas outlet)を備えたMTI回転式チューブ炉内で合成した。プロセスガスはすべて、Praxair製のものであった。
【0046】
S1では、メタン/アルゴン混合物を供給ガスとして使用した。このサンプルでは、500グラムサンプルのElastomag 170 MgO(「EL170」)を、炉の加熱ゾーン内部の石英管(OD 100mm)内に装填した。回転は使用しなかった。反応器を室温から1050℃の設定温度まで50分間かけて直線的漸増的に昇温させ、500sccmのAr流下にて、その温度で30分間維持した。次に、Ar流を変えずに保持したまま、500sccmのCH4流を開始した。これを30分間継続した。次いでCH4流を中止し、反応器を継続Ar流下で室温まで冷却した。次いでMgOをHC1での酸エッチングによって抽出し、水性MgCl2ブライン中に炭素を含むスラリーを得た。次いで、この炭素をブラインから濾過し、脱イオン水で3回すすぎ洗浄し、水性ペーストとして収集した。次いで、溶媒交換法を使用して水をアセトンに置き換え、S1のアセトン/セル型炭素ペーストを得た。
【0047】
S2では、プロピレン/アルゴン混合物を供給ガスとして使用した。このサンプルでは、500グラムサンプルのEL170を、炉の加熱ゾーン内部の石英管内に装填した。回転は使用しなかった。500sccmのAr流下の間に、反応器を室温から1050℃の設定温度まで50分間かけて直線的漸増的に昇温させ、次いで750℃まで30分間かけて直線的漸減的に降温させ、次いで、その温度で30分間維持した。次に、Ar流を変えずに保持したまま、250sccmのC3H6流を開始した。これを60分間継続した。次いでC3H6流を中止し、反応器を継続Ar流下で室温まで冷却した。次いでMgOをHClでの酸エッチングによって抽出し、水性MgCl2ブライン中に炭素を含むスラリーを得た。次いで、この炭素をブラインから濾過し、脱イオン水で3回すすぎ洗浄し、水性ペーストとして収集した。次いで、溶媒交換法を使用して水をアセトンに置き換え、S2のアセトン/セル型炭素ペーストを得た。
【0048】
S3では、メタン/アルゴン混合物を供給ガスとして使用した。このサンプルでは、300グラムサンプルの酸化マグネシウム煙(金属マグネシウムを燃焼させることによって作製)を、炉の加熱ゾーン内部の石英管内に装填した。回転は使用しなかった。500sccmのAr流下、反応器を室温から1050℃の設定温度まで50分間かけて直線的漸増的に昇温させ、その温度で30分間維持した。次に、Ar流を変えずに保持したまま、800sccmのCH4流を開始した。これを30分間継続した。次いでCH4流を中止し、反応器を継続Ar流下で室温まで冷却した。MgOをHClでの酸エッチングによって抽出し、水性MgCl2ブライン中に炭素を含むスラリーを得た。次いで、この炭素をブラインから濾過し、脱イオン水で3回すすぎ洗浄し、水性ペーストとして収集した。次いで、溶媒交換法を使用して水をアセトンに置き換え、S3のアセトン/セル型炭素ペーストを得た。
【0049】
S4では、メタン/アルゴン混合物を供給ガスとして使用した。このサンプルでは、500グラムサンプルのEL170を、炉の加熱ゾーン内部の石英管(OD 100mm)内に装填した。反応中、チューブの回転を使用した。反応器を室温から1050℃の設定温度まで50分間かけて直線的漸増的に昇温させ、500sccmのAr流下にて、その温度で30分間維持した。次に、Ar流を変えずに保持したまま、1000sccmのCH4流を開始した。これを45分間継続した。次いでCH4流を中止し、反応器を継続Ar流下で室温まで冷却した。次いでMgOをHClでの酸エッチングによって抽出し、水性MgCl2ブライン中に炭素を含むスラリーを得た。次いで、この炭素をブラインから濾過し、脱イオン水で3回すすぎ洗浄し、水性ペーストとして収集した。このペーストを、有効塩素が10~15%の次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaOCl)に添加した。NaOCl溶液に対する炭素の比は1:40であった。この混合物を室温で24時間撹拌した。次いで、炭素をこの漂白剤から濾過し、脱イオン水で3回すすぎ洗浄し、水性ペーストとして収集した。次いで、溶媒交換法を使用して水をアセトンに置き換え、S4のアセトン/セル型炭素ペーストを得た。
【0050】
S5では、プロピレン/アルゴン混合物を供給ガスとして使用した。このサンプルでは、900℃で一晩焼成させた500グラムサンプルのEL170を、炉の加熱ゾーン内部の石英管内に装填した。回転は使用しなかった。500sccmのAr流下の間に、反応器を室温から750℃の設定温度30分間かけて直線的漸増的に昇温させ、次いで、その温度で30分間維持した。次に、Ar流を変えずに保持したまま、1000sccmのC3H6流を開始した。これを30分間継続した。次いでC3H6流を中止し、反応器を継続Ar流下で室温まで冷却した。次いでMgOをHC1での酸エッチングによって抽出し、水性MgCl2ブライン中に炭素を含むスラリーを得た。次いで、この炭素をブラインから濾過し、脱イオン水で3回すすぎ洗浄し、水性ペーストとして収集した。次いで、溶媒交換法を使用して水をアセトンに置き換えた。得られたアセトン/セル型炭素ペーストを乾燥させて炭素粉末を生成させた。次いで、この粉末を、1,3双極子付加環化プロトコルを用いて官能性付与した。このため、当量部のN-メチルグリシンと4-ホルミル安息香酸をDMF中に溶解させた。この溶液にセル型炭素粉末を添加し、N2雰囲気下で96時間還流した。還流後の官能性付与された炭素をアセトンで3回、充分に洗浄し、S5のアセトン/官能性付与セル型炭素ペーストを得た。
【0051】
参考のため、
図16の図表は、CVD時間対各セル型炭素サンプルを合成するために使用した設定温度を示す。
【0052】
炭素の特性評価
各セル型炭素サンプルを、抽出後に、ラマンスペクトル解析、TGA、SEMおよびTEMの画像処理ならびに灰分試験を用いて特性評価した。
【0053】
ラマンスペクトル解析は、テンプレート材料の抽出後の炭素セル(S1、S2およびS3)に対して実施し、
図17に示す。3つの主なスペクトル特徴は、典型的にはsp2結合炭素と関連している:Gバンド、2Dバンド(あるいはまた、Gバンドと称する)およびDバンドである。Gバンドはすべてのsp2炭素で存在し、したがってsp2炭素結晶のラマン署名を示すものであり得る。このバンド内のピークは1585cm-1に観察される。2DまたはG’バンドは、2500cm-1~2800cm-1の間に存在し、2次元方向における連続sp2炭素構造化と関連している。Dバンドは、1200cm-1~1400cm-1の間に存在し、格子の欠陥と関連している。欠陥が増大すると、Dピークの強度は最大に達し得、その後、欠陥の増大によってピークはブロード化し、高さが低くなる。このブロード化が起こった場合、DピークとGピークの間の底が浅くなる(すなわち、その強度が増大する)。したがって、底強度を測定するとDピークのブロード化が示され得る。したがって、本開示では、DピークとGピークの間の底である「Tバンド」を第4の特徴として規定する。Tバンドの強度は、Dピークと関連している波数とGピークと関連している波数の間に存在する極小強度値と定義する。G、2D、DおよびTバンドの強度を本明細書では、それぞれI
G、I
2D(またはI
G’)、I
DおよびI
Tと表示する。
【0054】
ラマンスペクトルは、さまざまな理由(そのいくつかは対象の構造形体と直接関係ない)で、サンプル内の位置ごとに異なり得る。したがって、本明細書に記載の実験で作製されるテンプレート式炭素の代表的な特徴を保証するため、以下の手順を使用した。第1に、各炭素サンプルについて60個の相違する点スペクトルを測定した。測定は、点同士の間隔が50μmの6×10個の点の長方形格子において行なう。次いで、この60個の相違する点スペクトルを平均し、複合スペクトルを得た。本明細書において報告したピーク強度比はすべて、この60個の点スペクトルの測定から得た複合スペクトルに関するものである。
【0055】
図17のサンプルS1およびS3のスペクトルは、中程度から高度の2次元の規則化(ordering)を示す。これは、その顕著な2Dピークに示される(0.46より大きいI
2D/I
G比)。対照的に、サンプルS2は、実質的に2Dピークを示しておらず(0.10より小さいI
2D/I
G比)、非常に幅広のDピークを示しており、より欠陥性の結晶構造体であることを示す。
【0056】
TGA解析は、テンプレート材料の抽出後および共有結合的官能性付与後(S4)の炭素セルに対して実施した。TGA曲線(
図18)は、質量保持を初期サンプル質量に対するパーセンテージとして示し、不活性アルゴン雰囲気中で100mL/分のアルゴン流速および10℃/分の加熱速度を用いて作成した。
【0057】
SEM解析は、S1、S2およびS3手順を用いて成長させ、テンプレート抽出した炭素セルに対して実施した。S1手順を用いて成長させた炭素での結果を
図15に示す。S2手順を用いて成長させた炭素での結果を
図14に示す。S3手順を用いて成長させた炭素での結果を
図19に示す。S4手順を用いて成長させた炭素での結果を図
21に示す。S5手順を用いて成長させた炭素での結果を図
20に示す。
【0058】
実験A
ポリマー中における炭素ナノ構造体の最も将来有望な使用の1つは、脆性の熱硬化性ポリマーに対する強化剤である。低次元炭素は、その高いアスペクト比、高い表面積および強度により、さまざまな熱可塑性樹脂のための良い候補となっている。多くの他の強化材とは異なり、炭素はポリマーのガラス転移温度を低下させないことが示されており、航空宇宙産業などの業界における高温用途には重要なことである。
セル形態構造は、いくつかの理由で、強化用として好都合であり得る。第1に、その構成により、2次元の壁によって囲まれた3次元のキャビティのため、セル型炭素に占有させることが可能となるはずであり、実際、単位炭素重量あたりの容積分率は他の低次元カーボンフィラーよりずっと大きい。本開示において記載するセル型構造体にはマトリックス材料が内包的に含浸されており、そのため、この含浸セルは、ナノコンポジット内において一種のネスト化ナノコンポジットフィラーを構成する。第2に、セル型炭素およびその誘導体は、多セル型構造体にクラスターする傾向にあり、マイクロスケールの形体とナノスケールの形体の両方を有する空間的に広がった強化フレームワークがもたらされる。これにより、ナノフィラーに特徴的な強化様式に加えてマイクロフィラーに特徴的な特定の強化様式が容易になる。例えば、ミクロンスケールのシリカ強化材の理論的モデルでは、亀裂ピニング、粒子の架橋、微小亀裂の発生およびクラックディフレクションが主な強化機構であることが示唆されており、一方、ナノスケール強化材のモデルは、強化効果が粒子のデボンディング(その後、空隙が成長する)および付随するシアバンディングによるものであるとしている[14]。特に、高表面積ナノ構造体のマトリックスからのデボンディングにより、強化ナノコンポジットにおいて破壊エネルギーが放散される。したがって、ミクロンスケールの側面とナノスケールの側面の両方を提供するフィラーは強化用途に魅力的なはずである。
【0059】
セル型形態構造で強化した熱硬化性ナノコンポジットと、非セル型形態構造で強化した熱硬化性ナノコンポジット(対比)を比較するため、二成分エポキシ配合物を用いてモデル系を作出した。純粋に形態に基づいた炭素間の最も公正な比較を行なうため、化学的官能性付与は導入しなかった。全部で5つのナノコンポジットサンプルを作製し、試験した。対照エポキシサンプルは炭素なしで作製した(“A0”)。格子の結晶性による効果をコントロールするため、異なる結晶化度を有する2つのセル型炭素サンプル(S1およびS2)を選択した。S1炭素サンプルはより結晶性炭素格子構造体で構成されたものであり、一方、S2炭素サンプルはより欠陥性の炭素格子構造体で構成されたものであった。次いで、これらの炭素を2つのナノコンポジットサンプル(それぞれ“A1”および“A2”)中に組み込んだ。
【0060】
その他の炭素サンプルは、いくつかの潜在因子のバランスをとるために選択した。第1に、平面状の形態構造と非平面状の形態構造の両方を有する炭素を試験することが所望された。第2に、ミクロンスケールの粒子を含む炭素ならびにサブミクロン粒子を含む炭素を試験することが所望された。第3に、酸素部分を含有している炭素、また、酸素部分を含有していない炭素を試験することが所望された。第4に、結晶性である炭素、また、欠陥性である炭素を試験することが所望された。最後に、使用するセル型炭素と比べて同等のまたはより大きな表面積を含む炭素を試験することが所望された。これらの考慮事項をできるだけシンプルに容易にするため、市販のカーボンブラック(Cabot Vulcan XC72R)サンプルおよび市販のグラフェンナノプレートレット(XG Science X-GNP-C-750)サンプルを選択した。以下の表1は、これらのサンプルの特性の概要を示す:
【表1】
【0061】
A1およびA2のエポキシ分散体を作製した(後述する手順に従って)後、ナノコンポジット中のセル型炭素サンプルの粒子の形状を、アセトンでのすすぎ洗浄によってS1およびS2炭素を抽出することにより調べた後、SEM解析を行なった。S1炭素のSEM解析では、
図13にみられるもののような湾曲寸断体が示された。欠陥性または変質したセル構造体の方がインタクトなセル構造体より優位を占めていた。他方、S2炭素のSEM解析では、一部の場合では寸断を伴う概ねインタクトなセル集団が示された。図
14は、アセトンでのすすぎ洗浄後のS2炭素の顕微鏡写真であり、優位を占めていたインタクトなセル構造体が右側に観察され得、一方、少数派の変質したセル構造体の一例が左側に観察され得る。S1炭素の寸断型の性質およびS2炭素の概ねインタクトな性質は、無定形炭素の格子が結晶性炭素の格子より延性であるという理論的予測と整合する。XC72RおよびX-GNP-C-750の粒子の形状は分散によって変わらないと推測し、それぞれ文献および製造業者のデータシートから導いた。
【0062】
サンプルの表面酸化を、TGAを用いて測定される元の質量から600℃において保持されていた質量を引き算することにより推定した。
図18に示すようなXC72RおよびX-GNP-C-750での質量損失は、文献に報告されたXC72Rの酸素データ(0.3%)および製造業者のデータシートに報告されたX-GNP-C-750の酸素データ(6%より大きい)と合理的に一致する。
【0063】
S1およびS2炭素サンプルの結晶性構造体を、
図17に示すようにラマンスペクトルを用いて特性評価した。格子核の沈み込みおよび消滅(quenching)を伴うCVD炭素成長の構造上の効果のため、S1などのセル型炭素のラマンスペクトルは、セル壁のより結晶性の外側層に関するスペクトルシグナルとより欠陥性の(格子がより小さいため)内側層に関するスペクトルシグナルの複合材を反映する。この無定形の背景はともかく、S1のスペクトルは外側層内の結晶性炭素の存在を示し、したがって結晶性と表示する。S2では、外側層内に大きな格子の出現にもかかわらず、この大きな格子が面内欠陥を含むため、結晶性のシグナルは観察されない。XC-72Rのラマンスペクトルは示していないが、予測どおり無定形炭素を反映していた。また、X-GNP-C-750のラマンスペクトルも示していないが、データシートでみることができ、比較的結晶性の格子構造が確認される。しかしながら、分光計の製造業者によって提供された特性評価のガイドには、結晶性構造体は、大きなナノプレートレットと小さなナノプレートレットの両方が存在するためラマンによって確認することは困難であると示されている[18]。
【0064】
サンプルの比表面積をBET解析を用いて調べた。X-GNP-C-750について製造業者によって示された表面積は750m2/gであるが、特性評価のガイドは、これが、小さくて(<100nm)高表面積のナノプレートレットと大きくて(1~2μm)低表面積のナノプレートレットの混合物で得られた平均値であると説明されている。したがって、ナノコンポジットでは、実際には、有意に異なる表面積を有する2つのナノプレートレットフィラー相が存在している。
【0065】
このような炭素サンプルを使用し、各ナノコンポジットサンプルA1~A4についてマスターバッチを、Momentive Epon 828(“828”)とHuntsman Araldite LY1556(“1556”)の二官能性エポキシ樹脂の1:1の容量比のプリブレンド中1.33重量%の炭素で調製した。炭素を、高剪断ローターステーター混合器を15,000rpmで用いて90分間分散させ、4つのマスターバッチサンプルを得た。
【0066】
次いで、成分Aの樹脂の分散体を作製するため、各マスターバッチサンプルを828/1556プリブレンドと混合して希釈した。炭素を成分A分散体中に、硬化剤の添加後のナノコンポジットの最終炭素重量分率が0.3%となるように負荷した(表1参照)。混合中のマスターバッチおよび828/1556プリブレンドの温度は60℃であった。混合は、シンキー製ダブルプラネタリーミキサー内で3分間、2,000rpmおよび封入空気を除去するための25kPaの真空にて行なった。
【0067】
次いで、得られた各成分Aサンプルを成分B(Aradur 34055エポキシ硬化剤または“34055”)と、二工程混合プロセスでブレンドした。ブレンド中、A成分およびB成分はどちらも35℃であった。第1工程では、成分Bを成分Aに、1,100rpmでのCowlesブレード混合下で1.5分間添加した。この後、ダブルプラネタリーミキサーを用いた第2混合工程を3分間、2,000rpmおよび封入空気を除去するための25kPaの真空にて行なった。
【0068】
次いで、得られた各A+B混合物(40℃+/-5℃の)を、離型剤で前処理しておいた長方形の彫込み金型内に注出した。これらを室温で20分間ゲル化させ、次いで60℃の硬化炉内に移した。次いでサンプルを60℃で2時間硬化させた後、速やかに金型から離型し、60℃でさらに2時間硬化させた。次いで硬化炉を80℃まで15分間かけて直線的漸増的に昇温させた。サンプルを80℃でさらに6時間硬化させ、次いで室温まで冷却させた。
【0069】
炭素なしのエポキシサンプルA0では、828/1556プリブレンドを35℃まで加熱した。次いで、34055硬化剤を1,100rpmでのCowlesブレード混合下で1.5分間添加した。次いで、この混合物をダブルプラネタリーミキサー内で3分間、2,000rpmおよび封入空気を除去するための25kPaの真空にてブレンドした。次いで、得られた混合物を、前処理済みの同じ金型内に注出し、ナノコンポジットサンプルA1~A4と同じゲル化/硬化サイクルに供した。以下の表2は、サンプルA0-A5に対して使用した重量比を示す:
【表2】
【0070】
サンプルA0~A4の各々を、ASTM D 5045による破壊靱性(KIc)について、3点曲げ(SENB)試験片を用いて試験した。試験片と作成するため、鉛直横スリットをエポキシブロックの中心に機械加工した。次いで、カミソリの刃をこのスリット内に挿入し、機械加工したスリットの底面に亀裂が発生するまでハンマーでコツコツ叩いた。試験片の寸法はW=19.05mm、L=83.82mm、B=7.5mm~8.5mmであった。横スリットは4mmの深さを有しており、発生した亀裂は3.6mm~7.4mmの長さであり、“a”値は7.6~11.4mmおよび“a/W”値は0.4~0.6となった。試験片は、Wyoming Test Fixtures製のSENB 3点曲げ試験冶具および1001b(445N)のロードセルを有する油圧万能試験システムで機械的に試験した。万能試験システムは10mm/分の一定のクロスヘッド速度で操作した。データを、Windows PCに接続したNational Instruments USB-6341データ収集システムを用いて記録した。試験片の寸法はミツトヨ製のデジタルキャリパーを用いて測定した。
【0071】
以下の表3は、サンプルA0~A4の破壊靱性と引張試験の結果を示す。
【表3】
【0072】
この結果は、同じ荷重負荷、さらなる分散剤は全くなし、および全く同じ混合プロトコルを用いたブレンドにおいて、S1およびS2のセル型形態構造ではグラフェンナノプレートレットおよびカーボンブラックよりエポキシの靱性が有意に大きく改善されたことを示す。この結果は、本明細書に記載のモデル配合物の元素的性質にもかかわらず得られ、低負荷量および表面加工が全くなしであっても、セル型炭素およびその誘導体は脆性の熱硬化性樹脂、例えばエポキシに対して有意な強化効果をもたらし得ることが示唆される。これは、その特有の形態構造によるものであり得る
A1とA2の両方の破面のフラクトグラフィー解析は、
図23に示したものなどの多セル型組織の存在を示す。個々のサブユニットはサブミクロンであるが、組織はサイズが3μm~20μmの範囲である。密な塊状体とは反対に、セル型炭素の組織は、セルの含浸のため、容積のほとんどがマトリックス材料である。
【0073】
含浸は、ナノコンポジットの平面状断面を作成し、空隙を探すことにより示され得る。
図24は、A2型サンプルをクライオイオンレーザーを用いてミリングすることによって得た代表的な断面のSEM顕微鏡写真である。ミリングされた表面は平滑であり、フレームの中心に
図8の形状のセルの存在が推断され得る。実験Aに記載のナノコンポジットのミリングされた表面の解析から、未含浸のキャビティはないことが明白であり、その断面は、ミリングされた表面内の穴として観察可能であり得よう。変質セル構造体の開放性ならびに最終のナノコンポジットを調製する連続工程で液状樹脂ナノコンポジットが広範に力強くブレンドされることを仮定すると、充分な含浸が期待される。
【0074】
だが、興味深いことに、大部分がインタクトであるセル型構造体が組み込まれたナノコンポジット、例えばA2のクライオイオンミリングされた表面のSEM解析は、
図24に観察され得るような、セルの内部と外部間の相の違いの存在を示す。実際、セル型の断面の輪郭は、周囲のエポキシマトリックスとは異なって熱的に不安定であり、かつクライオイオンレーザーに曝露された場合に明白に液状化される架橋または可塑化が不充分なエポキシの識別可能な内部相の斑点の出現のため、
図24においてのみ、識別することができる。
【0075】
かかる相の存在は、おそらく、概ねインタクトなS2セルの封入度合ならびに実験Aに記載の二成分エポキシ系の比較的短いポットライフに関連している。2つの反応性成分を一緒に混合する前に、炭素は、おそらく、樹脂マトリックスによって浸透されて湿潤する時間を有する。しかしながら、2つの反応性成分のブレンド時間は、硬化反応の急速な開始によって制約を受ける。ポットライフが短いポリマー系によってもたらされるブレンドの制約を考慮すると、浸透流と滲出流にとってセルの内部と外部で完全な平衡を得るために必要とされる時間が不充分なのかもしれない。換言すると、セルの膜が、セル内部の物質がセル外部の混合物と速やかに平衡化することを妨げる障壁を強くしている。さらに、剪断の混合効果および周囲の流体における乱流からの隔離により、セルの膜において局所的で非同時的な架橋が生じることがあり得よう。例えば、外側のマトリックスとの流体交換が起こるセル壁開口の単なる内部だけの架橋は、キャビティのより深い内部の領域と比べて、より急速に開始され得よう。このような壁開口における早期の硬化開始は、物質移動が必要とされる箇所にボトルネックが精密に生じることによって平衡をさらに抑制し得る。また、非同時的硬化は、セルキャビティ内のいろいろな領域でのポリマーの明白な相分離に寄与することがあり得る。
図24などの画像のすべてにみられ得るかかる明確な相の一例は、セル壁の内壁をハグする斑点領域である。これは、キャビティのバルク内部で架橋および固化が起こる際の未架橋の液状樹脂の周縁化(peripheralization)のために起こり得る。あるいはまた、セル型炭素粉末の調製にアセトンなどの溶媒が使用される場合、これは、不充分な乾燥プロセスではセル内部から完全に除去され得ない。おそらく非常に複雑であるこのような内部相の形成の背後にある真の機構に関係なく、理論に拘束されることは本開示の目的ではない。
【0076】
炭素セル内に含まれた低架橋密度の二次的な封入ポリマー相の存在は特有であり、文献には充分に報告されていない。かかる複雑な構造は、内部ポリマー相の可塑性と壁内の炭素格子の潤滑性を併せ持つため、熱硬化性ポリマーの機械的特性、特にその靱性および伸長能を改善するために潜在的に有益であり得る。例えば、シリコンコアが封入されたセル型炭素殻は、リチウム化および脱リチウム化の際、引張応力に応答した炭素格子の互いに対する摺動能のため、内部のシリコンの200%を超える容積測定的拡張および収縮に対応し得る[19]。機械的に同様の「伸縮自在の(telescopic)」プルアウト効果が、ナノチューブ/マトリックス界面が機械的ストレスを最外チューブラー格子に移行させるのに充分強い場合、多壁カーボンナノチューブにおいて起こることが知られている[20~21]。セルの最外格子と外部ポリマー相間の充分なストレス移行を、セルの最内格子と可塑化内部ポリマー相間の充分なストレス移行とともに考慮すると、複雑な局所ストレスに応答して等方的に伸長または収縮し得る複合材フィラーが形成され得よう。最良の効果を得るため、セル型炭素は、外部マトリックスおよび内部ポリマーとのより良好な結合のために化学的に官能性付与されることが必要な場合があり得る。
【0077】
実験B
エポキシの強化に加えて、低次元炭素ナノ構造体は、引張特性、例えば最大引張強度および引張弾性率を改善し得る。セル型炭素ナノ構造体は特に、外在的炭素表面とポリマーマトリックス間の界面がマトリックスから炭素へのストレス移行を可能にするのに充分強ければ、ポリマーに対して引張強化をもたらすはずである。しかしながら、界面が不充分である場合、セル型炭素ナノ構造体はナノプレートレットおよびナノチューブよりも悪い性能を示し、実にポリマー単独より悪い性能を示すことが予測され得る。これはセルの3次元性のためである。例えば、ナノプレートレットのマトリックスとの結合が不充分であり、そのため界面が引張応力下で破壊する場合、ポリマーが炭素から剥離して2D亀裂が形成され得る。他方、10μmの多セル型組織のマトリックスとの結合が不充分であり、そのため界面が引張応力下で破壊し、ポリマーがクラスターから剥離する場合、クラスターのサイズおよび形状に跡を残す(track)不連続部がポリマー内に形成される。この効果は、換言すると、10μmの3次元的不連続部、本質的には、炭素クラスターは存在しているが強化または連結性をもたらさない空隙をマトリックス内に導入する。サンプルに炭素組織がより多く装填されるほど、より多くの不連続部が導入され、引張特性が進行的に劣化することになる。
【0078】
この懸念を緩和するため、セル型炭素が化学的に官能性付与されたナノコンポジットを試験することが所望された。ナノコンポジットサンプルを作製するためにS4およびS5セル型炭素を選択した。多官能性(>2)エポキシ系を選択し、セル型炭素が改善され得るかを、自動車、航空宇宙産業ならびにポリマーの耐用年数を通してより大きな寸法安定性およびガラス転移温度が必要とされる他の厳しい用途において一般的に使用される高架橋密度を有する系において調べた。
【0079】
S4およびS5炭素サンプルを使用し、2つのマスターバッチを、エポキシ樹脂プリブレンド中1.33重量%の炭素で調製した。プリブレンドは35重量%濃度の二官能性Momentive Epon 828(“828”)樹脂、35重量%濃度の二官能性Momentive Epon 862(“862”)、および30重量%濃度の四官能性Huntsman Araldite LY9721(“9721”)で構成されたものであった。炭素を、高剪断ローターステーター混合器を15,000rpmで用いて90分間分散させ、2つのマスターバッチサンプルを得た。
【0080】
次いで、成分Aの樹脂の分散体を作製するため、各マスターバッチサンプルを828/862/1556プリブレンドと混合して希釈した。炭素を成分A分散体中に、硬化剤の添加後のナノコンポジットの最終炭素重量分率が、B1およびB2で、それぞれ0.5%および0.3%となるように負荷した(表4参照)。混合中のマスターバッチおよび828/862/9721プリブレンドの温度は70℃であった。混合は、シンキー製ダブルプラネタリーミキサー内で3分間、2,000rpmおよび封入空気を除去するための25kPaの真空にて行なった。
【0081】
次いで、得られた各成分Aサンプルを成分B(Aradur 3473エポキシ硬化剤または“3473”)と、二工程混合プロセスでブレンドした。第1工程では、室温(25℃)成分Bを成分A(およそ60℃)に、1,100rpmでのCowlesブレード混合下で1.5分間添加した。この後、ダブルプラネタリーミキサーを用いた第2混合工程を3分間、2,000rpmおよび封入空気を除去するための25kPaの真空にて行なった。次いで、得られた各A+B混合物(45℃+/-5℃の)を、離型剤で前処理して60℃に予熱しておいた長方形の金型内に注出した。次いでサンプルを120℃で2時間、160℃で2時間、200℃で2時間、最後に220℃で4時間硬化させた。次いでサンプルを室温まで冷却させた。冷却されたら、サンプルを金型から離型し、CNCミルを用いて引張試験片にカットした。
【0082】
炭素なしの対照サンプルB0では、828/862/9721プリブレンドを60℃まで加熱した。次いで、3473硬化剤(25℃)を1,100rpmでのCowlesブレード混合下で1.5分間添加した。次いで、この混合物をダブルプラネタリーミキサー内で3分間、2,000rpmおよび封入空気を除去するための25kPaの真空にてブレンドした。次いで、得られた混合物を、前処理して予熱された同じ金型内に注出し、ナノコンポジットサンプルB1およびB2と同じ硬化サイクルに供した。
【0083】
以下の表4は、サンプルB0~B2に対して使用した重量比を示す:
【表4】
【0084】
引張試験を、ASTM D638に従い、Type IVの試験片寸法を用いて行なった。引張試験片は、Epsilon 3542伸び計および5001b(2224N)のロードセルを有する油圧万能試験システムで機械的に試験した。万能試験システムは5mm/分の一定のクロスヘッド速度で操作した。データを、Windows PCに接続したNational Instruments USB-6341データ収集システムを用いて記録した。試験片の寸法はミツトヨ製のデジタルキャリパーを用いて測定した。
【0085】
以下の表5は、各サンプル型の平均最大引張強度(UTS)、平均引張弾性率および平均破断伸びの値を示す:
【表5】
【0086】
官能性付与されたセル型炭素サンプルの各々について、3つの引張特性はすべて、多官能性エポキシベースラインと比べて改善された。これは、低次元炭素で強化されたポリマー系ナノコンポジットは一般的に破断伸びの有意な低下を示すため、特に注目に値する。表面化学、ブレンド手順、負荷レベルおよび他の要素の最適化によって本明細書に開示したモデルナノコンポジット系における引張データがさらに改善されるであろうことが期待される。
【0087】
実験C
セル型炭素構成は、ポリマーの機械的特性の改善のために好都合であり得、また、多セル型の浸透性網目が生じるため、低重量分率で電気伝導率も向上させ得る。二成分エポキシ配合物を用いてモデル系を作製した。全部で9つのナノコンポジットサンプル(C1~C9)を、S1セル型炭素、Cabot Vulcan XC72RおよびXG Science X-GNP-C-750を用いていろいろな炭素負荷レベルで作製し、シート抵抗について試験した。
【0088】
第1に、3つのマスターバッチサンプル(各炭素型について1つずつ)を、Epon 828(“828”)およびAraldite LY1556(“1556”)二官能性エポキシ樹脂の1:1の容量比のプリブレンド中1.33重量%の炭素で調製した。炭素を、IKA高剪断ローターステーター混合器を15,000rpmで用いて90分間分散させた。
【0089】
次いで、成分Aの樹脂の3つの分散体を作製するため、各マスターバッチを828/1556プリブレンドと混合して希釈した。炭素を成分A分散体中に、硬化剤の添加後のナノコンポジットの最終炭素重量分率が、0.3%、0.6%および0.9%重量となるように負荷した(表1参照)。混合中のマスターバッチおよび828/1556プリブレンドの温度は60℃であった。混合は、シンキー製ダブルプラネタリーミキサー内で3分間、2,000rpmおよび封入空気を除去するための25kPaの真空にて行なった。
【0090】
次いで、得られた各成分Aサンプルを成分B(Aradur 34055エポキシ硬化剤または“34055”)と、二工程混合プロセスでブレンドした。ブレンド中、A成分およびB成分はどちらも35℃であった。第1工程では、成分Bを成分Aに、1,100rpmでのCowlesブレード混合下で1.5分間添加した。この後、ダブルプラネタリーミキサーを用いた第2混合工程を3分間、2,000rpmおよび封入空気を除去するための25kPaの真空にて行なった。
【0091】
次いで、得られた各A+B混合物(40℃+/-5℃の)を、離型剤で前処理しておいた長方形の彫込み金型内に注出した。これらを室温で20分間ゲル化させ、次いで60℃の硬化炉内に移した。次いでサンプルを60℃で4時間硬化させた。次いで硬化炉を80℃まで15分間かけて直線的漸増的に昇温させた。サンプルを80℃でさらに6時間硬化させ、次いで室温まで冷却させ、金型から離型した。
【0092】
次いでサンプルの底面(金型と接触している表面)を600グリットのサンドペーパーで磨き、表面汚れの全くないナノコンポジットを露出させた。次いで導電性銀塗料を、2つの平行な1cmの長さの線状に互いに1cm空けて塗布し、オーム/平方メートルの測定のためのブスバーを作製した。銀泥が完全に乾燥したら、試験片を、電気抵抗測定(オーム)用の2端子型ワイヤ式マルチメータ用プローブセットを用いて試験した。試験片は、各銀ブスバーに1つのプローブを取り付けて試験した。
【0093】
以下の表6は、実験Cで作製したナノコンポジットサンプルのサンプル組成および結果を示す。
【表6】
【0094】
電気伝導率に関して、C1およびC6は静電散逸性材料(すなわち、106~1012Ω/sq)と分類され得、一方、C2およびC3は導電性材料(すなわち、101~106Ω/sq)と分類され得る。Rsを“N.R.”と記載している試験片はすべて、2端子型ワイヤ式マルチメータ用プローブを用いて導電性の測定値が得られるのに充分導電性ではなかった。
【0095】
全体的な結果は、セル型炭素が、モデル配合物におけるこの単純なブレンドプロセスの使用でXC72RカーボンブラックおよびXGnP-C-750グラフェンナノプレートレットの両方より非常に優れた性能を示すことを示す。この性能は、MgOテンプレートの再利用と併せて、本明細書に開示したものなどの方法を用いてセル型炭素を生産するコストが、理論的にはナノプレートレットまたはナノチューブの製造コストよりずっと低くなるため、有望である。さらに、S3サンプルは離散型ナノセル粒子で構成されており、一方、一部のセル型炭素はずっと大きく、ずっと大きいアスペクト比の粒子構造体を有する場合があり得る。一例として、繊維状またはシート様の形態構造を有するナノアーキテクトカーボンフォームは、そのアスペクト比に基づいて導電性が高くなり得る。
【0096】
セル型炭素充填型熱硬化性ナノコンポジットの用途は数多くあり得、プリンテッド・エレクトロニクス、多機能性塗料、センサー、導電性複合材など、もっとあり得る。向上した機械的特性と電気伝導率の多機能的組合せは、一部の用途、例えばピエゾ抵抗式検知能を有する複合材において有益であり得る。
【0097】
実験D
熱硬化性ポリマーに加えて、熱可塑性樹脂もいくつかの用途、特に導電性被覆材では電気伝導率の恩恵を被り得る。セル型炭素ナノ構造体が熱可塑性樹脂に導電性を付与する能力を実証するため、塩素化ポリオレフィン(“CPO”)を用いてモデル系を作製した。CPOは、自動車用プラスチック、例えばポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアミドまたはブレンド用の導電性プライマーとして一般的に使用されている。このような導電性被覆材は、製造業者が塗料および被覆材を静電的方法によってプラスチックパーツに塗布することを可能にし、したがって移行効率が高まる。全部で3つのナノコンポジットサンプル(D1~D4)を作製し、被覆材として塗布し、シート抵抗について試験した。
【0098】
マスターバッチ炭素分散体をまず、0.75グラムのS3炭素を0.75グラムの分散剤(Byk Chemie,BYK-145)と98.5グラムのトルエンのプリブレンドと合わせることにより調製した。トルエンとBYK-145は、マグネチックスターラーバーとマグネチックスターラーを有する120ml容の広口ガラス瓶内で、およそ200rpmで10分間、事前にブレンドした。S3粉末をプリブレンドに添加し、30分間撹拌した。次いで瓶に蓋をしてBranson 3510 Sonication浴内に1時間入れた後、蓋をあけ、400rpmのマグネチックスターラーに戻した。次いで、1/2インチの先端を有する超音波プローブを液面から1インチ下に沈めた。プローブはSonics Vibra-Cell制御装置に取り付けられ、このプローブで60%の振幅にて、合計エネルギーの読み値が75キロジュールに達するまで分析した。
【0099】
次いでマスターバッチ分散体をCPO溶液と混合し、1%、2%、5%および10%重量のS3:CPO固体の4つのサンプル(D1~D4)を得た(表3参照)。CPOは、キシレン中20%のCPOのEastman 730-1である。分散体およびCPO溶液を、マグネチックスターラーを用いて400rpmで30分間混合し、次いで浴中で1時間、超音波処理し、次いで、400rpmでさらに15分間、再度磁気撹拌した。
【0100】
各被覆材をPET膜(.007”DuPont Melinex 453)にピペットによって塗布し、種々の厚さの円筒形被覆を形成した。次いで被覆材を60℃で2時間オーブン乾燥させ、室温で一晩放置した後、試験した。サンプルの厚さは、Thwing-Albert Instrument Company製のModel 89-100のThickness Testerを用いて測定した。シート電気抵抗の比較試験では、各サンプルについて40umの乾燥膜厚(dft)を使用した(結果については表2参照)。シート抵抗はKeithly 2400 SourceMeter 4端子プローブを用いて測定した。
【0101】
以下の表7は、実験Dで作製したナノコンポジットサンプルのサンプル組成および測定されたシート抵抗を示す。
【表7】
【0102】
実験E
低次元炭素ナノ構造体が研究されている一般的な用途は、電子ディスプレイ用の電気的に導電性薄膜、自動車のウィンドウ用の防曇膜、およびさまざまな用途でのセンサーである。以下の実施例は、インク中に配合されたこのような新規な炭素構造体が導電性薄膜を生成する可能性を示す。
【0103】
炭素を分散させるための溶液を、20ml容のガラス製シンチレーションバイアル内で11グラムのDI水と5.5グラムのエタノール(工業用グレード)を混合することによって調製した。次いで、変性ウレア(BYK Chemie GmbH BYK-420)を添加し、混合物を浴中で1時間、超音波処理した。次いで、0.47グラムのEvonik TEGO Dispers 760W、分散用添加剤を添加し、15分間、磁気撹拌した。
【0104】
次に、0.3グラムのS3炭素をこの混合物に添加した。次いで混合物を30分間、磁気撹拌した後、浴中で1時間、超音波処理した。バイアルを水/氷浴中に入れた。次いで、8G混合発生器を有する高剪断IKA浸漬型ミキサー(Ultra-Turrax T25)を混合物中の1インチの箇所に浸漬させた。次いでサンプルを、20k min.-1で1時間混合し、混合物が過熱(およそ<60℃)しないようにするために水浴中に氷を補充した。
【0105】
次に、サンプルを200rpmで磁気撹拌しながら、1/2インチの先端を有する超音波プローブを表面から1インチ下に浸漬させた。プローブはSonics Vibra-Cell制御装置に取り付けられ、このプローブで20%の振幅にて、合計エネルギーの読み値が4.5キロジュールに達するまで分析した。起泡を制御するため、DuPont Capstone FS-63含フッ素界面活性剤をDI水とエタノールの1:1の溶液中に含む.05グラムの5%溶液を添加した。超音波処理は、サンプルをおよそ60℃より下に維持するために水浴に氷を再度添加しながら、合計13.5キロジュールに達するまで継続した。
【0106】
得られたインクをPET膜(.007”DuPont Teijin Melinex 453)にピペットによって塗布し、次いで、Meyer Rod RDS8を用いて非常に薄い湿潤膜に広げ、この湿潤膜を120℃の炉内に1時間入れて膜を充分に乾燥させた。
【0107】
乾燥膜を翌日試験した。全透過率は、Thermo Scientific Evolution 60S UV- Visible Spectrophotometerを用いて、550nm波長において64.5%であると測定された。裸の基材の透過率の読み値は88%であり、炭素被覆材の透過率は550nmにおいて73%であることが示された。シート抵抗は、4端子プローブ(Guardian IndustriesモデルSRM232-1000)を用いて測定した。平均シート抵抗は698オーム/sqであると測定された。
【0108】
諸実施形態
本明細書に示した方法および材料は多くの潜在的実施形態を有する。任意の適当なサイズ、形態構造および表面化学のテンプレート(例えば、酸化物テンプレート)を用いて形成されるセル型炭素ナノ構造体が使用され得る。炭素に変換され得る任意の炭素系前駆体が炭素源として使用され得る。化学気相成長を伴う実施形態では、種々のキャリアガスが前駆体ガスと組み合わせて使用され得る。種々のガス圧力、温度、流速、反応時間および反応器型が使用され得る。テンプレート式炭素は、多重CVD反応、例えば抽出後自己触媒反応を用いて成長させてもよい。セル型炭素ナノ構造体は、共有結合または非共有結合によって化学的に官能性付与され得、例えば、種々の酸化剤への曝露により生じる酸素基で官能性付与され得る。本明細書に示していないものも含む、このようなプロセスパラメータの数多くの組合せが、本発明の種々の実施形態において使用され得る。
【0109】
一実施形態は、液体マトリックス相中の炭素ナノ構造体の分散体を含む。マトリックス相は、モノマー、樹脂、プレポリマー、ポリマー、硬化剤、触媒および溶媒のうちの1種類以上を含むものである。炭素ナノ構造体は、セル型構造体、例えばキャビティを有し、各キャビティは、セル型構造体の1つ以上の壁で実質的に囲まれている。キャビティの大部分は10nm以上の直径を有する。キャビティの大部分には液体または固体のいずれかが内包的に含浸されており、その化学組成は外在的マトリックスと同様であっても異なっていてもよい。
【0110】
別の実施形態は、液体マトリックス相中の炭素ナノ構造体のナノコンポジットを含む。マトリックス相は、モノマー、樹脂、プレポリマー、ポリマー、硬化剤および触媒のうちの1種類以上を含むものである。炭素ナノ構造体は、セル型構造体、例えばキャビティを有し、各キャビティは、セル型構造体の1つ以上の壁で実質的に囲まれている。キャビティの大部分は10nm以上の直径を有する。キャビティの大部分には液体または固体のいずれかが内包的に含浸されており、その化学組成は外在的マトリックスと同様であっても異なっていてもよい。
【0111】
1から47まで連続番号を付した以下の実施形態は、本明細書に記載の種々の実施形態の非網羅的な一覧を示す。
【0112】
実施形態1:液体マトリックス相と該液体マトリックス相中に分散されたナノ構造化炭素とを含む分散体であって、該液体マトリックス相は、モノマー、樹脂、プレポリマー、ポリマー、硬化剤および触媒のうちの1種類以上を含むものであり;該ナノ構造化炭素は:テンプレートによって形成された構造部を有する1つ以上の壁;1つ以上のキャビティを備えたセル型構造体を有しており、各キャビティは:該1つ以上の壁で実質的に囲まれており;該マトリックス相の一部が含浸している分散体。
【0113】
実施形態2:該1つ以上の壁の大部分が100nm以下の厚さを有し;該1つ以上のキャビティの大部分が:10nm以上の直径と;線状構造および10:1より小さいアスペクト比;非線状構造および10:1より大きいアスペクト比;または非線状構造および10:1より小さいアスペクト比のうちの1つとを有し;該セル型構造体の大部分が1mm以下の直径を有する、実施形態1の分散体。
【0114】
実施形態3:該1つ以上の壁の該構造部が、該テンプレートによって形成された該構造部と異なるように物理的または化学的に改変されている、実施形態1および2のいずれか1つの分散体。
【0115】
実施形態4:該物理的改変が、該1つ以上の壁の該構造部を寸断または変形させるものである、実施形態3の分散体。
【0116】
実施形態5:該構造部の変形によって該1つ以上のキャビティが実質的に崩壊される、実施形態4の分散体。
【0117】
実施形態6:該ナノ構造化炭素の一部が単セル粒子を含む、実施形態1~5のいずれか1つの分散体。
【0118】
実施形態7:該ナノ構造化炭素の一部が多セル粒子を含む、実施形態1~6のいずれか1つの分散体。
【0119】
実施形態8:該マトリックス相が溶媒をさらに含む、実施形態1~7のいずれか1つの分散体。
【0120】
実施形態9:該マトリックス相が熱可塑性ポリマーを含む、実施形態1~8のいずれか1つの分散体。
【0121】
実施形態10:該マトリックス相がエポキシ官能性樹脂を含む、実施形態1~9のいずれか1つの分散体。
【0122】
実施形態11:該マトリックス相が、以下のリスト:アミン、フェノール、チオール、ルイス酸または酸無水物から選択される1種類以上の硬化剤を含む、実施形態1~10のいずれか1つの分散体。
【0123】
実施形態12:該マトリックス相がポリオレフィンまたは変性ポリオレフィンを含む、実施形態1~11のいずれか1つの分散体。
【0124】
実施形態13:該マトリックス相がウレアまたは変性ウレアを含む、実施形態1~12のいずれか1つの分散体。
【0125】
実施形態14:該ナノ構造化炭素の一部が0.40以下のラマン2-D/Gピーク強度比を示す、実施形態1~13のいずれか1つの分散体。
【0126】
実施形態15:該ナノ構造化炭素の一部が0.20以下のラマン2-D/Gピーク強度比を示す、実施形態1~14のいずれか1つの分散体。
【0127】
実施形態16:該ナノ構造化炭素の一部がテンプレート指示型化学気相成長によって合成される、実施形態1~15のいずれか1つの分散体。
【0128】
実施形態17:該テンプレート指示型化学気相成長法が800℃未満の温度で行なわれる、実施形態1~16のいずれか1つの分散体。
【0129】
実施形態18:該ナノ構造化炭素の一部が化学官能基で官能性付与されている、実施形態1~17のいずれか1つの分散体。
【0130】
実施形態19:該化学官能基が該ナノ構造化炭素に共有結合している、実施形態18の分散体。
【0131】
実施形態20:該化学官能基が酸素官能基である、実施形態19の分散体。
【0132】
実施形態21:該キャビティに、該マトリックスと化学的に相違する成分が少なくとも部分的に充填されている、実施形態1~20のいずれか1つの分散体。
【0133】
実施形態22:液体マトリックス相と該液体マトリックス相中に分散されたナノ構造化炭素とを含むインクであって、該液体マトリックス相は、モノマー、樹脂、プレポリマー、ポリマー、硬化剤、触媒および溶媒のうちの2種類以上を含むものであり;該ナノ構造化炭素は:テンプレートによって形成された構造部を有する1つ以上の壁;1つ以上のキャビティを備えたセル型構造体を有しており、各キャビティは:該1つ以上の壁で実質的に囲まれており;該マトリックス相の一部が含浸しているインク。
【0134】
実施形態23:材料の特性を改良するための添加剤であって:液体マトリックス相と該液体マトリックス相中に分散されたナノ構造化炭素とを含んでおり、該液体マトリックス相は、モノマー、樹脂、プレポリマー、ポリマー、硬化剤および触媒のうちの1種類以上を含むものであり;該ナノ構造化炭素は:テンプレートによって形成された構造部を有する1つ以上の壁;1つ以上のキャビティを備えたセル型構造体を有しており、各キャビティは:該1つ以上の壁で実質的に囲まれており;該マトリックス相の一部が含浸している添加剤。
【0135】
実施形態24:該特性が機械的特性または電気的特性である、実施形態23の添加剤。
【0136】
実施形態25:固体マトリックス相と該固体マトリックス相中に包埋されたナノ構造化炭素とを含むナノコンポジットであって、該固体マトリックス相は、モノマー、樹脂、プレポリマー、ポリマー、硬化剤および触媒のうちの1種類以上を含むものであり;該ナノ構造化炭素は:テンプレートによって形成された構造部を有する1つ以上の壁;1つ以上のキャビティを備えたセル型構造体を有しており、各キャビティは:該1つ以上の壁で実質的に囲まれており;該マトリックス相の一部が含浸しているナノコンポジット。
【0137】
実施形態26:該1つ以上の壁の大部分が100nm以下の厚さを有し;該1つ以上のキャビティの大部分が:10nm以上の直径と;線状構造および10:1より小さいアスペクト比;非線状構造および10:1より大きいアスペクト比;または非線状構造および10:1より小さいアスペクト比のうちの1つとを有し;該セル型構造体の大部分が1mm以下の直径を有する、実施形態25のナノコンポジット。
【0138】
実施形態27:該1つ以上の壁の該構造部が、該テンプレートによって形成された該構造部と異なるように物理的または化学的に改変されている、実施形態25~26のいずれか1つのナノコンポジット。
【0139】
実施形態28:該物理的改変が、該1つ以上の壁の該構造部を寸断または変形させるものである、実施形態27のナノコンポジット。
【0140】
実施形態29:該構造部の変形によって該1つ以上のキャビティが実質的に崩壊される、実施形態28のナノコンポジット。
【0141】
実施形態30:該ナノ構造化炭素の一部が単セル粒子を含む、実施形態25~29のいずれか1つのナノコンポジット。
【0142】
実施形態31:該ナノ構造化炭素の一部が多セル粒子を含む、実施形態25~30のいずれか1つのナノコンポジット。
【0143】
実施形態32:該ポリマーが熱可塑性ポリマーを含む、実施形態25~31のいずれか1つのナノコンポジット。
【0144】
実施形態33:該ポリマーが熱硬化性ポリマーを含む、実施形態25~32のいずれか1つのナノコンポジット。
【0145】
実施形態34:該熱硬化性ポリマーが部分硬化型である、実施形態33のナノコンポジット。
【0146】
実施形態35:該熱硬化性ポリマーがエポキシを含む、実施形態33~34のいずれか1つのナノコンポジット。
【0147】
実施形態36:該エポキシがビスフェノールAのジグリシジルエーテルを含む、実施形態35のナノコンポジット。
【0148】
実施形態37:該マトリックス相を含む材料のものより高い最大引張強度、高い引張弾性率、高い破断伸び、高いGIC臨界歪みエネルギー解放率、高い最大曲げ強度、高い曲げ弾性率、高い最大圧縮強度、高い圧縮弾性率、高い硬度または高い衝撃強度のうちの少なくとも1つを示す、実施形態25~36のいずれか1つのナノコンポジット。
【0149】
実施形態38:該マトリックス相を含む材料のものより高いKIC破壊靱性を示す、実施形態25~37のいずれか1つのナノコンポジット。
【0150】
実施形態39:該マトリックス相を含む材料のものより高い電気伝導率を示す、実施形態25~38のいずれか1つのナノコンポジット。
【0151】
実施形態40:該ナノ構造化炭素の一部が化学官能基で官能性付与されている、実施形態25~39のいずれか1つのナノコンポジット。
【0152】
実施形態41:該化学官能基が該ナノ構造化炭素に共有結合している、実施形態40のナノコンポジット。
【0153】
実施形態42:該化学官能基が酸素官能基である、実施形態40~41のいずれか1つのナノコンポジット。
【0154】
実施形態43:該キャビティに、該マトリックスと化学的に相違する成分が少なくとも部分的に充填されている、実施形態25~42のいずれか1つのナノコンポジット。
【0155】
実施形態44:繊維強化相をさらに含む、実施形態25~43のいずれか1つのナノコンポジット。
【0156】
実施形態45:該繊維強化相がチョップドファイバーを含む、実施形態25~44のいずれか1つのナノコンポジット。
【0157】
実施形態46:固体マトリックス相と該固体マトリックス相中に分散されたナノ構造化炭素とを含む膜または被覆材であって、該固体マトリックス相は、モノマー、樹脂、プレポリマー、ポリマー、硬化剤および触媒のうちの1種類以上を含むものであり;該ナノ構造化炭素は:テンプレートによって形成された構造部を有する1つ以上の壁;1つ以上のキャビティを備えたセル型構造体を有しており、各キャビティは:該1つ以上の壁で実質的に囲まれており;該マトリックス相の一部が含浸している膜または被覆材。
【0158】
実施形態47:固体マトリックス相と該固体マトリックス相中に分散されたナノ構造化炭素を含む成型鋳造物であって、該固体マトリックス相は、モノマー、樹脂、プレポリマー、ポリマー、硬化剤および触媒のうちの1種類以上を含むものであり;該ナノ構造化炭素は:テンプレートによって形成された構造部を有する1つ以上の壁;1つ以上のキャビティを備えたセル型構造体を有しており、各キャビティは:該1つ以上の壁で実質的に囲まれており;該マトリックス相の一部が含浸している成型鋳造物。
【0159】
後に一連の値またはパラメータを伴う語句「未満」、「~より大きい」、「最大」、「少なくとも」、「以下」、「以上」または他の同様の語句に対する言及は、その語句が該一連の値またはパラメータの各値またはパラメータに適用されることを意図する。例えば、酸素の重量パーセントが1%,0.5%または0.1%未満であり得るという記載は、酸素の重量パーセントが1%未満、0.5%未満または0.1%未満であり得るということを意味していることを意図する。
【0160】
本出願では、本文および図においていくつかの数値範囲を開示している。たとえ本明細書において厳密な範囲限定が逐語的に記載されていなくても、本開示は、開示された数値範囲全体において実施することができるため、開示された数値範囲は、開示された数値範囲内の範囲または値をサポートしている。
【0161】
上記の説明は、当業者が本開示物を作製し、使用することを可能にするために提示している。本実施形態に対する種々の修正が当業者に容易に明白であり、本明細書に規定した一般原理は、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく他の実施形態および用途に適用され得る。したがって、本開示は、図示した実施形態に限定されることを意図するものではなく、本明細書に開示した原理および特長に整合する最も広い範囲を許容するものとする。最後に、本出願において言及した特許および刊行物の全開示内容は引用により本明細書に組み込まれる。
【0162】