(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】アシストモータのパワーインバータの短絡故障時におけるブレーキトルクを補償する方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/028 20160101AFI20230731BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230731BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
H02P29/028
B62D5/04
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2020543783
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 FR2019050399
(87)【国際公開番号】W WO2019162622
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-01-13
(32)【優先日】2018-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブシェ アルノー
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/129359(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/027521(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0217480(US,A1)
【文献】特開2006-158182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/028
B62D 5/04
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと、アシストモータ(2)に給電するインバータ(1)とを備える車両のパワーステアリングシステムを、前記アシストモータの一相(U,V,W)と前記インバータ(1)の電気配線(14,15,16)との間で短絡タイプの故障が検出されたときに、駆動する方法であって、
前記アシストモータ(2)の磁界に対して制御可能ゾーン(ZC)と制御不可能ゾーン(ZNC)とを求めることが意図される構成ステップと、
前記制御可能ゾーンにおいて空間平均ブレーキトルクを補償するステップと
を備え、前記補償するステップは、
前記制御可能ゾーン(ZC)について前記アシストモータの相対電気的位置(α
r)を検出するフェーズと、
空間平均モータトルク(C
mm)
を測定されたステアリングホイールトルク(C
vm)の関数として算出するフェーズと、
前記空間平均モータトルク(C
mm)を瞬時モータトルク(C
mi)に変換するフェーズと、
前記アシストモータ(2)
の相電流を制御するフェーズと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ステアリングホイールの回転方向を前記アシストモータ(2)の回転方向と比較するアクティベーションステップを備える、請求項1に記載の駆動方法。
【請求項3】
前記アクティベーションステップは、ステアリングホイールトルク(C
vm)及び/又は前記アシストモータの速度(V
m)を所定の閾値と比較する、請求項2に記載の駆動方法。
【請求項4】
前記構成ステップは、前記故障による影響を受けていない前記アシストモータ(2)の2つの相(φ)を求める、請求項1~3のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項5】
前記検出フェーズは、空間平均モータトルク(C
mm)を算出する前記フェーズの実行を引き起こす、請求項1~4のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項6】
前記変換フェーズは、前記瞬時モータトルク(C
mi)を前記制御可能ゾーン(ZC)について前記アシストモータの相対電気的位置(α
r)の関数として表す設定点曲線を実現する、請求項1~5のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項7】
前記制御フェーズは、前記相電流のベクトル監視を行うために、「非活性化インバータスイッチング」(C0)と称される、第1スイッチンググループ及び第2スイッチンググループのスイッチングを連続して行う、請求項1~6のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項8】
前記制御不可能ゾーンにおいて前記故障によって引き起こされる前記空間平均ブレーキトルクを推定するステップを備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の駆動方法。
【請求項9】
前記算出フェーズは、前記推定ステップ中に推定された前記空間平均ブレーキトルク(C
fm)を使用して、前記空間平均モータトルク(C
mm)を求める、請求項8に記載の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパワーステアリングシステムの分野、より具体的には、アシストモータの一相とインバータの電力線との間の短絡タイプの故障中におけるパワーステアリングシステムの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のパワーステアリングシステムの目的は、ステアリングホイールに力を与えることによって運転者が車両の軌道を制御することを可能にすることである。
【0003】
一般的に、ステアリングシステムは、そのステアリングホイールがステアリングコラムに接続されたいくつかの要素、ラック、及びそれぞれがロッドに接続された2つの車輪を備える。ラックは、ステアリングホイールを、ステアリングコラムを経由して、ロッドを経由して、車輪に接続することを可能にする部品であり、すなわち、ラックは、運転者によってステアリングホイールに与えられた力を、車両の車輪の向きの変更に変換する。
【発明の概要】
【0004】
車両の電動パワーステアリングシステムは、アシストモータを使用し、ステアリングコンピュータによって駆動され、車両の車輪の向きを変更するために運転者によって必要とされるステアリングホイール上の力を減少させる。車輪の向きを変更するために、ステアリングホイールに与えられる力、すなわち、ステアリングホイールトルクに応じて、アシストモータはアシスト力、すなわち、モータトルクをラックに与える。
【0005】
その次に、以下の説明において、アシストモータは、励磁ロータ又は永久磁石を備え、それぞれU、V及びWと呼ばれる3相によって給電される、3相同期モータであるとみなされるであろう。
【0006】
インバータは、インバータの接地に関連する電気配線のそれぞれの部分が「ローサイド」と呼ばれ、インバータの給電に関連する電気配線のそれぞれの部分が「ハイサイド」と呼ばれる3つの電力線を含む。当業者に知られる回路図によると、各電気配線は、「ローサイド」部に、「ローサイド」とみなされるMOSFETタイプの第1スイッチングセルを、「ハイサイド」部に、「ハイサイド」と呼ばれるMOSFETタイプの第2スイッチングセルを含む。
【0007】
アシストモータの相は、インバータの電気配線によって供給される。より具体的には、各相は、「ローサイド」スイッチングセルと「ハイサイド」スイッチングセルとの間の電気配線に接続される。
【0008】
インバータは、アシストモータの回転の方向、速度及びモータトルクを決定する。
【0009】
パワーステアリングシステムの動作中に、アシストモータの相とインバータの電気配線との間に短絡タイプの故障が現れ得る。一般的に、このタイプの故障は、スイッチングセルの故障中に現れる。
【0010】
短絡タイプの故障がパワーステアリングシステムにおいて検出されるとき、アシストモータは、非活性化状態、すなわち全てのスイッチングセルがもはや電圧を受けない状態にあるインバータによって、もはや駆動されない。
【0011】
モータの回転中に起電力によって誘導される電流は、生成されてアシストモータのレベルでブレーキトルクを引き起こす。よって、ブレーキトルクは、ステアリングホイールを回転させるのに運転者によって必要とされる作動力を増加させることによって、ステアリングホイールの回転に対抗する。したがって運転者は、ステアリングホイールブロックに類似した感じを抱く。
【0012】
自動車の供給者は、アシストモータの相のレベルで開放する回路を加えることによってブレーキトルクの生成を防止する。開放する回路は、パワーステアリングのコスト、体積及び用地を増加させる電気機械的又は静的なリレーで主に構成される。更に、これらの付加されるリレーは、重大な故障のリスクを増加させ、したがってパワーステアリングシステムの全体の信頼性を低下させる。
【0013】
本発明の目的は、ステアリングホイールと、アシストモータに給電するインバータとを備える車両のパワーステアリングシステムを、前記アシストモータの一相と前記インバータの電気配線との間で短絡タイプの故障が検出されたときに、駆動する方法であって、
前記アシストモータの磁界に対して制御可能ゾーンと制御不可能ゾーンとを求めることが意図される構成ステップと、
前記制御可能ゾーンにおいて空間平均ブレーキトルクを補償するステップと、
を備える方法を提案することによって、前述の不利な点の全て又は一部を改善することである。
【0014】
インバータに接続されたアシストモータは、3つの相を備える。短絡タイプの故障は、アシストモータの相を、インバータの給電線の「ローサイド」部又は「ハイサイド」部と接触させる。よって、故障に関係する相は、アシストモータの正常な電力供給をもはや保証できない。すなわち、その相は、アシストモータの一様な磁界を生成するためにもはや監視され得ない。しかし、2つの相は正常に動作し続ける。
【0015】
よって、短絡タイプの故障は、電気的回転の全体にわたってアシストモータの磁界を監視することができないことにつながる。制御可能ゾーン及び制御不可能ゾーンは、電気角によって特徴づけられる電気的回転において、短絡した相、短絡している「ローサイド」又は「ハイサイド」部、アシストモータの方向及び回転速度に応じて、規定され得る。
【0016】
構成ステップは、制御可能ゾーン及び制御不可能ゾーンの特性を出力信号によって送信する。
【0017】
更に、短絡タイプの故障は、アシストモータの回転中に生成される起電力によって、ブレーキトルクを引き起こす。
【0018】
空間平均ブレーキトルクは、アシストモータに与えられ、1つの電気的回転にわたって平均されたブレーキトルクである。より一般的には、空間平均量は、1つの電気的回転にわたって平均されたアシストモータの電気的な量として規定される。これらの空間平均量は、アシストモータが回転しているときにのみ理解される。
【0019】
よって、前記方法は、制御不可能ゾーンにおいて与えられるブレーキトルクより完全に大きい制御可能ゾーンにおける平均モータトルクを提供するために、アシストモータを平均モータトルクで駆動することに本質がある。制御可能ゾーンでは、平均モータトルクは、推定空間平均ブレーキトルクが加えられるステアリングホイールトルクの関数として通常の状況において与えられる平均モータトルク以上である。制御不可能ゾーンでは、ブレーキトルクのみが与えられる。
【0020】
推定空間平均ブレーキトルクは、パワーステアリングシステムが開ループ又は閉ループの監視をされるかどうかに応じて、固定値又は可変値を有し得る。
【0021】
開ループ監視の場合、推定空間平均ブレーキトルクは、一定であるとみなされ、例えば、アシストモータに与えられ得る空間平均ブレーキトルクの最大値に実質的に対応し得る。確かに、推定空間平均ブレーキトルクが固定されているとき、一定であるとみなされる空間平均ブレーキトルクと実際の空間平均ブレーキトルクとの間の差に対応する、付加される平均モータトルクは、実際の空間平均ブレーキトルクと動きに対抗するラックの作動力との組み合わせによって次の制御不可能ゾーンにおいて部分的に消費される。
【0022】
閉ループ監視の場合、推定空間平均ブレーキトルクは、相電流及び電気角の測定値から計算される。空間平均ブレーキトルクが計算されるとき、制御可能ゾーンにおいて提供される平均モータトルクは、少なくとも、制御不可能ゾーンにおいて与えられるブレーキトルクに等しい。
【0023】
モータトルク、したがってステアリングホイールトルクは、したがって、1つの電気的回転において一様ではなく、制御可能ゾーンと制御不可能ゾーンとの間で変化を示す。しかし、説明された方法を用いると、運転者はステアリングホイールトルクブロックの印象を感じない。運転者は、修理を行う前に、車両を、その安全性を保証する状況に置き得る。
【0024】
本発明の一つの特徴によると、前記方法は、前記ステアリングホイールの回転方向を前記アシストモータの回転方向と比較するアクティベーションステップを備える。
【0025】
「短絡」タイプの故障は、静止状態から回転状態へもはや自律的に移ることができないアシストモータの通常の動作の質を低下させる。アシストモータは、例えば運転者によって行われるステアリングホイールの回転によって、又は車両の自然な戻りによって、「起動」、すなわち回転させられなければならない。アシストモータの回転速度が低いとき、空間平均ブレーキトルクは運転者に感じられないように非常に低い。
【0026】
アクティベーションステップは、補償ステップの性能を保証するために、ステアリングホイールの回転方向がアシストモータの回転方向と同じ方向であることを確認する。
【0027】
よって、アシストモータがステアリングホイールの回転方向と同じ方向に既に回転しているときにのみ、向きを変えることを意図する運転者を支援するために、補償ステップは、実行され得る。
【0028】
本発明の特徴によると、前記アクティベーションステップは、ステアリングホイールトルク及び/又は前記アシストモータの速度を所定の閾値と比較する。
【0029】
前記方法は、制御可能ゾーンと制御不可能ゾーンとの間で、モータトルクに、したがってステアリングホイールトルクに、変動を引き起こす。しかし、ステアリングホイールトルクが大きいとき及び/又はアシストモータの速度が高いとき、すなわち、所定の閾値より大きいとき、感じられるステアリングホイールトルクは減少する。実際、感じられるステアリングホイールトルクの変動の周波数は、アシストモータの回転速度に直接比例する。
【0030】
更に、感じられるステアリングホイールトルクの変動は、パワーステアリングシステムのある特定の要素の固有のねじれによってのみではなく、パワーステアリングシステムの低減システムによっても低減される。アシストモータの極の対の数の増加、パワーステアリングシステムの合成の低下、又は減速比の増加は、ステアリングホイールトルクの一様な感じを向上させるための有利なパラメータである。
【0031】
よって、前記方法は、インバータの給電線と短絡しているアシストモータの相を考慮することによって、他の相及び他の給電線は動作しているのであるが、感じられるステアリングホイールトルクが実質的に一様であることを確実にする。感じられるステアリングホイールトルクは、推定空間ブレーキトルクが可変であるとき、特により一様である。
【0032】
本発明の特徴によると、前記構成ステップは、前記故障による影響を受けていない前記アシストモータの2つの相を求める。
【0033】
よって、前記方法は、故障の特性、すなわち、故障している相、及び電気配線の部分に応じて異なる構成パラメータを有する短絡タイプの故障の場合に、同じ方策を使用する。
【0034】
本発明の特徴によると、前記補償するステップは、
前記制御可能ゾーンについて前記アシストモータの相対電気的位置を検出するフェーズと、
空間平均モータトルクを前記測定されたステアリングホイールトルクの関数として算出するフェーズと、
前記空間平均モータトルクを瞬時モータトルクに変換するフェーズと、
前記アシストモータの前記相電流を制御するフェーズと
を備える。
【0035】
算出フェーズは、測定された電気角、アシストモータの測定された回転速度、並びに構成ステップによって求められた制御可能ゾーン及び制御不可能ゾーンに関係したデータを入力として受け取る。
【0036】
好ましくは、算出フェーズは、制御可能ゾーンの入口に関して、アシストモータの符号なし電気的位置を求める。
【0037】
算出フェーズは、インバータをスイッチングするのに役立ち採用されるべきステアリングホイールトルクの方向も、アシストモータの回転方向の関数として規定する。
【0038】
インバータの6個のスイッチングセルの位置のセットを、インバータのスイッチングと称する。スイッチングセルは、開位置又は閉位置を取り得る。
【0039】
算出フェーズは、アシストモータに与えられるべき空間平均モータトルクを、測定されたステアリングトルクの関数として推定することを可能にする。
【0040】
変換フェーズは、アシストモータに与えられるべき瞬時モータトルクを求めるために、空間平均モータトルク及びアシストモータの相対電気的位置を入力として受け取る。
【0041】
最後に、制御フェーズは、アシストモータを2つの動作している相によって制御するために、瞬時モータトルク、アシストトルクの方向、及び故障によって劣化していないアシストモータの相を受け取る。制御フェーズの役割は、当業者に知られている、パーク/クラーク(Park/Clarke)参照マークにおける電流のベクトル監視によって、制御可能ゾーンにおける瞬時モータトルクの特性を再現することである。
【0042】
本発明の特徴によると、前記検出フェーズは、空間平均モータトルクを算出する前記フェーズの実行を引き起こす。
【0043】
よって、検出フェーズは、アシストモータが制御可能ゾーンに入るたびに算出ステップが実行されることを可能にする。
【0044】
本発明の1つの特徴によると、前記変換フェーズは、前記瞬時モータトルクを前記制御可能ゾーンについて前記アシストモータの相対電気的位置の関数として表す設定点曲線を実現する。
【0045】
よって、瞬時モータトルクは、制御可能ゾーンについてアシストモータの相対電気的位置に応じた分布を有する。分布は、例えば制御可能ゾーンに中心を置いた壁がん曲線又は正弦曲線の半分に従い得る。
【0046】
設定点曲線は、制御可能ゾーンにおいて積分された瞬時モータトルクが空間平均モータトルクに等しくなるように調整可能である。
【0047】
本発明の1つの特徴によると、前記制御フェーズは、前記相電流のベクトル監視を行うために、「非活性化インバータスイッチング」と称される、第1スイッチンググループ及び第2スイッチンググループのスイッチングを連続して行う。
【0048】
アシストモータが制御不可能ゾーンに入るとき、インバータのスイッチングセルは、インバータの非活性化スイッチングに対応する、すなわち、全てのスイッチングセルが開状態である状態に入る。
【0049】
アシストモータが制御可能ゾーンに入るとき、インバータのスイッチングセルは、故障に応じて2つの取り得る状態に連続して入る。
【0050】
本発明の1つの特徴によると、前記駆動方法は、前記制御不可能ゾーンにおいて前記故障によって引き起こされる前記空間平均ブレーキトルクを推定するステップを備える。
【0051】
制御不可能ゾーンにおいて故障によって引き起こされる空間平均ブレーキトルクは、実際の空間平均ブレーキトルクである。
【0052】
よって、閉ループ監視の場合、推定空間平均ブレーキトルクは、アシストモータの利用可能な相の電流、電気角、及び回転速度から計算される。推定空間平均ブレーキトルクは、可変であり、実際の空間平均ブレーキトルクに実質的に等しい。
【0053】
本発明の1つの特徴によると、前記算出フェーズは、前記推定ステップ中に推定された前記空間平均ブレーキトルクを使用して、前記空間平均モータトルクを求める。
【0054】
推定ステップ中に推定された空間平均ブレーキトルクは、制御可能ゾーンにおいて、1つの電気的回転にわたって平均して補償される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
本発明は、以下の説明からよりよく理解される。説明は、非制限的な例として与えられ、添付の図面を参照して説明される、本発明による実施形態に関する。
【
図2】
図2は、短絡タイプの故障をしたアシストモータに接続された駆動されていないインバータの等価図である。
【
図3】
図3は、アシストモータの制御可能ゾーン及び制御不可能ゾーンの、短絡タイプの故障及びアシストトルク方向の関数としての表示である。
【
図4】
図4は、瞬時モータトルクを制御可能ゾーンに対するアシストモータの相対電気的位置の関数として表す設定点曲線の図示である。
【
図5】
図5は、インバータのスイッチングテーブルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図2は、車両の電動パワーステアリングシステムにおいてインバータ1をアシストモータ2に接続する回路図を示す。
【0057】
インバータ1は、接地部12と給電部13とを有する直流発電機11によって給電される電子機器であって、3相交流を供給することを可能にする。
【0058】
インバータ1は、発電機11の接地部12と発電機11の給電部13との間に並列に配置された3つの電気配線14,15,16を含む。各電気配線14,15,16は、「ローサイド」スイッチングセル117,118,119、すなわち、発電機11の接地部12に接続されたスイッチングセルと、「ハイサイド」スイッチングセル17,18,19、すなわち、発電機11の給電部13に接続されたスイッチングセルとを含む。スイッチングセル17,18,19,117,118,119は、MOSFETタイプのものである。したがって、インバータ1は、3個の「ローサイド」スイッチングセル117,118,119と、3個の「ハイサイド」スイッチングセル17,18,19とを含む。
【0059】
各電気配線14,15,16は、「ローサイド」スイッチングセル117,118,119と「ハイサイド」スイッチングセル17,18,19との間に、位相線U,V,Wを含む。したがって、3つの位相線U,V,Wが存在する。
【0060】
各位相線U,V,Wは、アシストモータ2のコイル28,27,29に給電する。
【0061】
通常動作時において、位相線U,V,Wに流れ込む電流は、アシストモータ2のロータ200の回転方向、回転速度及びモータトルクを決定する回転磁界を作り出す。
【0062】
正方向及び負方向は、任意に定義される。正方向は、以下の説明において反時計回り(sens trigonometrique)に対応する。
【0063】
図2の回路図において、位相線Uに接続された「ローサイド」スイッチングセル119に不具合があり、インバータ1の、位相線Uと発電機11の接地部12との間の短絡タイプの故障を引き起こしている。短絡したスイッチングセルは閉位置にある。位相線V及びWは依然として機能しているが、位相線Uは機能していない。
【0064】
短絡タイプの故障が存在するとき、ロータ200の回転によって起電力が発生し、アシストモータ2のレベルでブレーキトルクを作り出す。
【0065】
不具合のある位相線U、アシストモータ2の回転の速度及び方向、並びに短絡したインバータ11の接地部12又は給電部13に応じて、アシストモータ2の電気的な回転において制御可能ゾーンZC及び制御不可能ゾーンZNCを求めることが可能である。
【0066】
制御不可能ゾーンZNCは、起電力がブレーキトルクを引き起こす電気角に対応する。
【0067】
制御可能ゾーンZCは、1電気回転から制御不可能ゾーンZNCの電気角を減じたものに対応する。制御可能ゾーンZCの角位置Z
C対応する制御可能ゾーンZCの入口角位置及び出口角位置Z
Cは、確定したコイル27,28,29に対して定義される。
図3において、角位置Z
Cは、位相線Uによって給電されるコイル27に対して求められる。不具合のある位相線によって給電されるコイルに対して角位置を求めることが好ましい。
【0068】
図3において見られるように、アシストモータ2が正方向にアシストするときに位相線Uの接地部12との短絡に対応し、アシストモータ2が負方向にアシストするときに位相線Uの給電部13との短絡に対応する第1制御不可能ゾーン25が存在する。
【0069】
アシストモータ2が負方向にアシストするときに位相線Uの接地部12との短絡に対応し、アシストモータ2が正方向にアシストするときに位相線Uの給電部13との短絡に対応する第2制御不可能ゾーン22が存在する。
【0070】
アシストモータ2が正方向にアシストするときに位相線Vの接地部12との短絡に対応し、アシストモータ2が負方向にアシストするときに位相線Vの給電部13との短絡に対応する第3制御不可能ゾーン24が存在する。
【0071】
アシストモータ2が負方向にアシストするときに位相線Vの接地部12との短絡に対応し、アシストモータ2が正方向にアシストするときに位相線Vの給電部13との短絡に対応する第4制御不可能ゾーン21が存在する。
【0072】
アシストモータ2が正方向にアシストするときに位相線Wの接地部12との短絡に対応し、アシストモータ2が負方向にアシストするときに位相線Wの給電部13との短絡に対応する第5制御不可能ゾーン26が存在する。
【0073】
最後に、アシストモータ2が負方向にアシストするときに位相線Wの接地部12との短絡に対応し、アシストモータ2が正方向にアシストするときに位相線Wの給電部13との短絡に対応する第6制御不可能ゾーン23が存在する。
【0074】
アシストモータ2の回転速度が零であるとき、制御不可能ゾーン21,22,23,24,25,26の角度は、60°の電気角に等しい。よって、制御可能ゾーンZCは、アシストモータ2の電気角での1回転から制御不可能ゾーンZNCに対応する角度を減じたもの、すなわち300°に対応する。
【0075】
アシストモータ2の回転速度が増加するにつれ、制御不可能ゾーンZNCの角度が増加する。
【0076】
制御不可能ゾーンZNCにおいて生成されたブレーキトルクの合計値及び制御不可能ゾーンZNCにおける分布は、アシストモータ2の回転速度によって決まる。
【0077】
よって、位相Uが接地部12と短絡しているという状況にアシストモータ2があるとき、及び、閉ループ監視の場合には、
図1に表されているような本発明による方法は、構成ステップにおいて、短絡している位相線U及び接地部12に特有の構成パラメータZ
c,φを規定することを可能にする。構成パラメータZ
c,φは特に、2つの動作可能な位相線φと同様に、制御可能ゾーンZCの入口及び出口角位置Z
cである。
【0078】
閉ループ監視において、推定ステップは、アシストモータ2の回転速度Vm、モータの測定された電気角αm、及び、動作可能な位相線V,Wのそれぞれにおいて利用可能な位相電流iに関係する情報を、入力として受け取る。
【0079】
よって推定ステップは、制御不可能ゾーンZNC上の起電力によって与えられる推定空間平均ブレーキトルクCfmを求める。すなわち、推定ステップは、次の制御可能ゾーンZCにおいて提供されて次の制御不可能ゾーンZNCにおいて与えられるブレーキトルクを打ち消すトルクの最小値を、回転速度の関数として計算する。
【0080】
本発明による方法は、アシストモータ2の回転速度Vm及び測定されたステアリングホイールトルクCvmを入力として受け取るアクティベーションステップを実行する。
【0081】
アクティベーションステップは、測定されたステアリングホイールトルクCvm及びアシストモータ2の回転速度Vmが所定の値、例えば測定されたステアリングホイールトルクCvmについては5Nm、アシストモータ2の回転速度Vmについては50rpm、より大きいとき、及びそれらが同じ方向であるときに、空間平均ブレーキトルクを補償するステップを起動することを可能にする。これのために、アクティベーションステップはアクティベーション信号を送り続ける。条件が満たされないとき、すなわちアクティベーション信号が発されないときには、アクティベーションステップは、非活性化インバータスイッチングと呼ばれる非活性化状態にあるインバータ1を駆動しない。このアクティベーションステップは、動作可能な位相線V,Wのそれぞれにおける利用可能な位相電流iも受け取り得る。
【0082】
補償ステップは、検出フェーズ、算出フェーズ、変換フェーズ及び制御フェーズを含む。
【0083】
検出フェーズは、構成ステップ中に求められた制御可能ゾーンZCの入口及び出口角位置Zcとともに、アシストモータ2の測定された電気角αm及び回転速度Vmを入力として受け取る。
【0084】
検出フェーズは、制御可能ゾーンZCの入口に対する、符号なしの、モータ2の相対電気的位置αrを求め、動作可能な位相線V,WのアシストトルクRの方向を、アシストモータ2の回転方向の関数として規定もする。
【0085】
最後に、検出フェーズは、アクティベーション信号eによって、各電気的回転における算出フェーズの実現を行う。
【0086】
算出フェーズは、検出フェーズのアクティベーション信号e、測定されたステアリングホイールトルクCvm及び推定空間平均ブレーキトルクCfmを入力として受け取る。
【0087】
算出フェーズは、運転者のための許容ステアリングトルクを維持するために、制御可能ゾーンZCで与えられるべき平均モータトルクCmmを計算する。算出フェーズは、故障のない状況における測定されたステアリングホイールトルクCvmを考慮に入れ、推定空間平均ブレーキトルクCfmを補償する。
【0088】
変換フェーズは、制御可能ゾーンZCで与えられるべき平均モータトルクC
mmを、アシストモータ2の相対電気的位置α
rの関数として瞬時モータトルクC
miに変換する。平均モータトルクC
mmは、制御可能ゾーンZCでの瞬時モータトルクC
miの積分に等しい。平均モータトルクC
mmは、
図4に示された設定点曲線に従って、制御可能ゾーンZCにわたって、我々の場合0°から300°まで、分布する。制御不可能ゾーンZNCは、300°から360°までの範囲の電気角に対応する。
【0089】
制御フェーズは、
図5に表されたスイッチングテーブルに従ってインバータ1によってアシストモータ2の2つの動作可能な位相線V,Wを制御するために、アシストモータのアシストトルクの方向R、2つの動作可能な位相線V,W、及び瞬時モータトルクC
miを受け取る。
【0090】
アクティベーション信号及び不具合のあるスイッチングセルに応じて、インバータの21通りの実現可能なスイッチングが存在する。
【0091】
スイッチングは、インバータのスイッチングセルのそれぞれの位置を決定する。
【0092】
例えば、スイッチングC31は、位相線Uの「ローサイド」スイッチングセルは閉位置にあり、位相線Uの「ハイサイド」スイッチングセルは開位置にあり、位相線Vの「ローサイド」スイッチングセルは閉位置にあり、位相線Vの「ハイサイド」スイッチングセルは開位置にあり、位相線Wの「ローサイド」スイッチングセルは閉位置にあり、位相線Wの「ハイサイド」スイッチングセルは開位置にあることを規定する。
【0093】
非活性化されたスイッチングインバータは、6個のスイッチングセルが開位置にある受動的スイッチングC0にある。制御不可能ゾーンにおいて、インバータは非活性化されたスイッチングインバータである。
【0094】
制御可能ゾーンにおいて、インバータは連続する2つの実現可能な能動的スイッチングにある。
【0095】
図2に表された故障、すなわち位相線Uを接地部12と短絡させることによる故障については、位相線Uの「ローサイド」スイッチングセルは閉じられている。よって、インバータは、能動的スイッチングC31,C34,C35,C36,C205,C206,C209,C210、すなわち位相線Uの「ローサイド」スイッチングセル119が閉位置にある能動的スイッチングのうちの1つを使用して制御され得る。
【0096】
更に、位相線Uが給電部13と短絡しているときに利用可能なスイッチングに対応する実現可能な「能動的」スイッチングC32,C33,C37,C38,C207,C208,C211,C212が存在する。
【0097】
位相線Vが接地部12と短絡しているときに利用可能なスイッチングに対応する実現可能な「能動的」スイッチングC31,C32,C36,C37,C201,C202,C210,C212が存在する。
【0098】
位相線Vが給電部13と短絡しているときに利用可能なスイッチングに対応する実現可能な「能動的」スイッチングC33,C34,C35,C38,C203,C204,C209,C211が存在する。
【0099】
位相線Wが接地部12と短絡しているときに利用可能なスイッチングに対応する実現可能な「能動的」スイッチングC31,C32,C33,C34,C201,C203,C205,C207が存在する。
【0100】
位相線Vが給電部13と短絡しているときに利用可能なスイッチングに対応する実現可能な「能動的」スイッチングC35,C36,C37,C38,C202,C204,C206,C208が存在する。
【0101】
アクティベーション信号が発されたとき各電気的回転において、インバータは、利用可能な8つの制御スイッチングの全て又は一部を用いる制御可能ゾーンにおける監視フェーズと、スイッチングC0に対応する制御不可能ゾーンにおける受動的フェーズとを連続して経る。
【0102】
もちろん、本発明は添付の図に説明され表された実施形態に限定されない。特にさまざまな要素の構成の観点から、又は技術的な等価物の置換によって、その結果本発明の保護の範囲を逸脱することなく、改変が依然として可能である。