(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】神経幹細胞増殖用培地
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0797 20100101AFI20230731BHJP
【FI】
C12N5/0797
(21)【出願番号】P 2020550394
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038217
(87)【国際公開番号】W WO2020075534
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2018192367
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507307374
【氏名又は名称】学校法人神戸学院
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】桝谷 晃明
(72)【発明者】
【氏名】水谷 健一
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-124982(JP,A)
【文献】特開2002-069097(JP,A)
【文献】特開2017-048150(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0137038(US,A1)
【文献】特開2005-218308(JP,A)
【文献】特表2010-529855(JP,A)
【文献】特開2005-278641(JP,A)
【文献】特表平10-509592(JP,A)
【文献】特許第6317053(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0073587(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0154552(US,A1)
【文献】Mol. Cell. Neurosci.,2004年,Vol.26,pp.75-88
【文献】Stem Cells,2004年,Vol.22,pp.798-811
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGF-2、EGF及びプロテオグリカンを含有
し、
前記プロテオグリカンが、サケ鼻軟骨由来のプロテオグリカンで、コンドロイチン硫酸型プロテオグリカンである、神経幹細胞増殖用培地。
【請求項2】
プロテオグリカンの含有量が、1μg/ml以上である、請求項
1に記載の培地。
【請求項3】
前記培地が浮遊培養用の培地である、請求項1又は2に記載の培地。
【請求項4】
FGF-2、EGF及びプロテオグリカンを含有する培地を用いて、神経幹細胞を培養 する工程を含む、神経幹細胞の増殖方法
で、
前記プロテオグリカンが、サケ鼻軟骨由来のプロテオグリカンで、コンドロイチン硫酸型プロテオグリカンである、当該方法。
【請求項5】
プロテオグリカンの含有量が、1μg/ml以上である、請求項
4に記載の神経幹細胞の増殖方法。
【請求項6】
前記培地が浮遊培養用の培地である、請求項4又は5に記載の神経幹細胞の増殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規神経幹細胞増殖用培地、その培地を用いた神経幹細胞増殖方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病や脊椎損傷などの神経疾患の治療に、ドナー不足さらには倫理的問題などから、神経幹細胞を移植することも検討されている(非特許文献1、特許文献1)。
【0003】
iPS細胞の発見により、例えば、患者本人からiPS細胞を作って、そのiPS細胞から神経幹細胞を誘導することが可能になり、自分の細胞を治療に使用できる自家移植を行うことも期待されている。しかし、患者本人の細胞からiPS細胞を経て神経幹細胞を作成するのに、半年以上と長い期間を要すると考えられている。それに加えて、iPS細胞は細胞の株ごとに安全性や分化の方向性が大きく異なると考えらえており、安全なiPS細胞であることを検証するにはさらに長い期間を要するのが現状である。更に、脊髄損傷においては、患者の症状が固定する前に神経幹細胞を移植しないと効果がないと考えられている。そのため、例えば、このように細胞移植が有効な期間が限られる疾患では、iPS細胞の移植技術を用いても患者本人の細胞を治療に使うことは難しいと考えられている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Takeshi Matsuiら:STEM CELLS 2012,30:1109-1119頁
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在も、例えば、患者自身の細胞から短時間で容易に安全な神経幹細胞(神経系の未分化な組織幹細胞)を製造する手段、より好ましくは分化された細胞が含有されずに神経幹細胞を製造する手段、が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、短期間で容易に神経幹細胞を製造する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明の1つは、「FGF-2、EGF及びプロテオグリカンを含有する、神経幹細胞増殖用培地」である。好ましくは、プロテオグリカンがコンドロイチン硫酸型プロテオグリカンであり、より好ましくは、プロテオグリカンがサケ鼻軟骨由来のプロテオグリカンである。
【0009】
他の実施形態は、「FGF-2、EGF及びプロテオグリカンを含有する培地を用いて、神経幹細胞又を培養する工程を含む、神経幹細胞の増殖方法」である。
【発明の効果】
【0010】
この培地を用いることにより、短期間で容易に神経幹細胞を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】各投与群のニューロスフェアの形成数の測定結果である。縦軸は、ニューロスフェア(NS)の形成割合(%)を示すが、具体的にはコントロール群のNSの形成数を100(%)とした場合のNSの形成割合(%)を示す。Dunnet法による統計解析を行い、*は有意差を示し、p<0.05である。
【
図3】各投与群のニューロスフェアの観察結果である。
【
図6】実験4の結果(スフェアの観察結果)である。図中の「―」は、200μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明にかかる培地について説明する。
【0013】
(神経幹細胞)
神経幹細胞は、自己複製能と多分化能を併せもった、神経系の未分化な組織幹細胞、である。ヒトなどの哺乳類の胎生期の脳では、神経幹細胞が先ずは盛んに増殖することで自らの数を指数関数的に増やし、次いで、非対称分裂を生み出す。また、胎生後期や生後の脳では、アストロサイトやオリゴデンドロサイトを生み出すことが知られている。神経幹細胞は、中枢神経系を構成する主要な細胞型であるニューロン、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイトの供給源となる細胞である。本発明では、好ましくはヒト、マウスなどの哺乳類由来の細胞を用いる。
【0014】
(プロテオグリカン)
プロテオグリカンはコアタンパク質にコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸等のグリコサミノグリカン(以下GAGと表す。)と呼ばれる糖鎖が共有結合した糖タンパク質である。プロテオグリカンは、細胞外マトリックスの主要構成成分の一つとして皮膚や軟骨など体内に広く分布している。GAG鎖は分岐を持たない長い直鎖構造を持つ。多数の硫酸基とカルボキシル基を持つため負に荷電しており、GAG鎖はその電気的反発力のために延びた形状をとる。また、プロテオグリカンは、糖の持つ水親和性により、多量の水を保持することができる。プロテオグリカンに含まれる多数のGAG鎖群はスポンジのように水を柔軟に保持しながら、弾性や衝撃への耐性といった軟骨特有の機能を担っている。
【0015】
プロテオグリカンのコアタンパク質はマトリックス中の様々な分子と結合する性質をもつ。軟骨プロテオグリカンの場合、N末端側にヒアルロン酸やリンクタンパク質との結合領域を持ち、これらの物質と結合すること、同一分子間で会合することもある。C末端にはレクチン様領域、EGF様領域などを持ち様々な他の分子と結合する。この性質により、プロテオグリカンはそれぞれの組織にあった構造を築く。プロテオグリカンのうち、コンドロイチン硫酸型プロテオグリカンは、コンドロイチン硫酸がコアタンパク質に共有結合されているプロテオグリカンである。
【0016】
サケ鼻軟骨由来のプロテオグリカンは、サケの鼻軟骨から抽出して得られたプロテオグリカンである。ここで、サケは、例えばサケ属(Oncorhynchus)に属する魚であるが、好ましくは細胞増殖性(例えば、培養したい細胞をより効率的に培養すること)の観点で学名が「Oncorhynchus keta」のサケが選択される。また、本発明に係る培地に含まれるプロテオグリカンの含有量は、例えば細胞増殖性の観点で、下限は好ましくは1μg/ml以上、より好ましくは2μg/ml以上、より好ましくは5μg/ml以上、更に好ましくは10μg/ml以上である。
本発明に係る培地に含まれるプロテオグリカンは、例えば公報(日本特許第6317053号公報)に記載の方法で作製される。
【0017】
(FGF-2)
FGF-2(Fibroblast Growth Factor-2、繊維芽細胞成長因子)は、bFGFとも呼ばれ、動物の神経組織、下垂体、副腎皮質、胎盤などから単離できる。FGF-2は、神経分化、生存、再生を誘導すると共に、胚発生や分化を調節することが知られている。FGF-2は、例えば、細胞増殖因子、血管新生因子、神経栄養因子として幅広い機能を有し、ES細胞やiPS細胞を始めとする様々な細胞に対して、増殖活性を示す。
【0018】
(EGF)
EGF(Epidermal Growth Factor、上皮増殖因子)は、上皮性細胞をはじめとする種々の細胞に対し増殖を促進する作用を持つポリペプチドである。EGFの作用は種特異性が少なく,上皮細胞,繊維芽細胞,肝細胞などさまざまな細胞に対し増殖効果を示す。生体においては細胞の増殖・分化に重要な役割を果たしている成長因子と考えられている。
【0019】
(培地について)
本発明で用いる、FGF-2、EGF及びプロテオグリカンを含有されるために用いる基礎培地は、公知の培地を用いることができる。例えば、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、ビタミン)を含む培地(例えば、Iscove改変ダルベッコ培地(IMDM)、RPMI、DMEM(例えば、以下実施例にて用いたDMEM/ハムF-12培地(ナカライテスク株式会社、08460-95))、Fischer培地、α培地、Leibovitz培地、L-15培地、NCTC培地、F-12培地、MEM、McCoy培地)などである。また、必要に応じて、更なる添加物(抗生物質など)も含まれてもよい。
【0020】
本発明で用いる培地には、好ましくは、血清は含まれない場合もある。血清が含まれない場合もあるのは、血清には未知の分化誘導剤が含まれており、本発明のニューロン割合が高い分化を阻害し得る可能性もあるためである。例えば、GABA作動性ニューロン以外のニューロンを優先的に誘導したい場合には、血清の存在によりGABA作動性ニューロンの誘導割合が高くなる可能性があるため、血清は存在しないことが好ましいと考えられている。
【0021】
本発明で用いる培地の物質の状態は特に制限がないが、培地調製の簡便さ(例えば浮遊培養を行うときには培地調製をよりしやすいと考えられること)などの観点で液体培地の方が好ましい。
【0022】
(神経幹細胞の増殖方法)
本発明の培地を用いて神経幹細胞を増殖させるために培養する期間は特に限定しないが、培養させる細胞を播種してから少なくとも3日間以上、好ましくは5日間以上、更に好ましくは7日以上が好ましい。
【0023】
この培養する温度は特に限定しないが、増殖の最適化を更に図る観点で、下限は好ましくは36~37℃以上、より好ましくは36℃以上、更に好ましくは36.5℃以上、増殖の最適化を更に図る観点で、上限は好ましくは38.5℃以下、より好ましくは38℃以下、更に好ましくは37.5℃以下、である。
【0024】
この培養する環境のCO2濃度は特に限定しないが、増殖の最適化を更に図る観点で、下限は好ましくは3.5%以上、より好ましくは4%以上、更に好ましくは4.5%以上、増殖の最適化を更に図る観点で、上限は好ましくは10%以下、より好ましくは6%以下、更に好ましくは5.5%以下、である。
【0025】
この培養の仕方(例えば、浮遊培養、接着培養)は特に限定しないが、培養の簡便さ(例えば、含有成分を均質に混合しやすいと考えられること)などの観点で浮遊培養の方が好ましい。
【実施例】
【0026】
[実験1:ニューロスフェア(NS)の形成数の測定と、NSの観察]
FGF-2、EGF及びプロテオグリカンを含有することに培養される細胞が神経幹細胞であることを確認等するために、NSの形成数の測定とNSの形態の観察を行った。
【0027】
(神経幹細胞の培養の手順)
実験1で行った神経幹細胞の培養の手順(実験手順)を以下説明する。なお、
図1には、この実験手順の模式図を示す。日本エスエルシー株式会社製のICRマウスを用いて妊娠14日目のメスのマウスを作製した。そして、そのマウスの体内に存在するマウス胎児を取り出し、そのマウス胎児の大脳皮質から分散した細胞を準備した。この分散では、0.05w/v%トリプシン(富士フイルム和光純薬株式会社の製品(0.25w/v%トリプシン-1mmol/l EDTA・4Na溶液(フェノールレッド含有)(商品コード:201-16945、209-16941))をPBSにて希釈したもの)を用いた。この分散した細胞のうち24万個の細胞を用いて、以下の投与群(コントロール、培地1、培地2、培地3)を作製した。この細胞を、6万個/1サンプルずつ、分けて用いた。所定の液体培地が存在している6ウェルプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、CAT#140675)に播種する。6ウェルプレートに、1ウェルあたり、所定の液体培地が2ml、この細胞が1万個存在するように、各ウェルに均等に播種した。この播種後、37℃、5%CO
2の環境下で、7日間培養した。7日間培養後、所定の位相差顕微鏡(倍率20倍)により、各投与群の6ウェルプレート中の形成された細胞塊を観察した。この観察において、形成された細胞塊のうち半径50μm以上のものをニューロスフェアと定めて、このニューロスフェアの数を測定した。なお、この7日間培養後の観察の比較対象として、各投与群の培養0日の観察も所定の位相差顕微鏡(倍率20倍)を用いて同様に行った。
【0028】
各投与群(コントロール、培地1、培地2、培地3)の液体培地の組成は以下である。なお、どの投与群でも、基礎培地としてDMEM/ハムF-12(ナカライテスク株式会社、08460-95)を用いたが、以下では、50ml中の各成分の組成を示す。
(コントロール)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカンの含有なし
【0029】
(培地1)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカン 最終濃度10μg/ml
【0030】
(培地2)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカン 最終濃度100μg/ml
【0031】
(培地3)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカン 最終濃度1000μg/ml
【0032】
なお、この各投与群(コントロール、培地1、培地2、培地3)に含有されている成分は、以下のものを用いた。
・N2:N-2 Supplement(100X)
(gibco:17502-048)
・B27:B-27TM Plus SupplementビタミンA不含(50X) (gibco:A35828-01)
・Heparin: ヘパリンナトリウム(ナカライテスク(商品コード:17513-96、17513-41、17513-54)
・抗生物質:ペニシリン―ストレプトマイシン(WAKO:168-23191)
・bFGF:bFGF(funakoshi:100-18B)
・EGF:EGF(funakoshi:315-09)
・プロテオグリカン:プロテオグリカン、サケ鼻軟骨由来(富士フイルム和光純薬会社(商品コード:162-22131、168-22133))
【0033】
(各投与群のニューロスフェア(NS)の形成数の測定結果)
この測定結果を
図2に示す。この
図2で示しているのは、コントロール群のNSの形成数を100(%)とした場合のNSの形成割合(%)である。培地1は117.317753376014%であり、培地2は134.677950940218%であり、培地3は149.305508553623%である。プロテオグリカンの含有量が増加することにより、NSの形成数が増加することが確認された。培地2と培地3については、コントロールと比べ、統計学的に有意にNSの形成数が増加することが確認された。
【0034】
(NSの観察結果)
この観察結果を
図3に示す。7日間培養後の観察結果(
図3の「培養7日」)の比較対象として、培養0日(
図3の「培養0日」)の観察結果も挙げている。コントロールに比べ、培地1~3では、多くのNSが確認された。なお、
図3の矢印で示しているのは、一部のNSである。
【0035】
よって、FGF-2、EGF及びプロテオグリカンを含有することにより、より多くの神経幹細胞を増殖することが確認された。
【0036】
[実験2:デュアルルシフェラーゼアッセイ(Hes-1の転写活性の確認)]
神経幹細胞の未分化性の維持とアストロサイトへの分化を制御するタンパク質(転写因子)であるHes-1の転写活性を確認することにより、上述の神経幹細胞(FGF-2、EGF及びプロテオグリカンを含有することに培養された細胞)が、未分化性の維持等がされているかどうかを確認した。
【0037】
このデュアルルシフェラーゼアッセイの手順を以下説明する。
まず、神経幹細胞を準備した。なお、
図4には、この実験手順の模式図を示す。日本エスエルシー株式会社製のICRマウスを用いて妊娠14日目のメスのマウスを作製した。そして、そのマウスの体内に存在するマウス胎児を取り出し、そのマウス胎児の大脳皮質から分散した細胞を準備した。この分散では、0.05w/v%トリプシン(富士フイルム和光純薬株式会社の製品(0.25w/v% トリプシン-1mmol/l EDTA・4Na溶液(フェノールレッド含有)(商品コード:201-16945、209-16941))をPBSにて希釈したもの)を用いた。この分散した細胞を、約6万個/1サンプルずつに分けて、以下の7つの投与群(コントロール、培地1、培地2、培地3、培地4、培地5、培地6)用のサンプルを作製した。
【0038】
このサンプルに、トランスフェクション試薬(Thermo Fisher SCIENTIFIC社、Neon(登録商標) Transfection System)を用いて、Hes-1cDNA及びレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)を遺伝子導入した。Hes-1cDNA及びレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)は、addgene社製の「pHes1(2.5k)-luc(Plasmid #43806)」を用いた。この遺伝子導入後、各投与群(コントロール、培地1、培地2、培地3、培地4、培地5、培地6)の液体培地を用いて、37℃、5%CO2の環境下で、1日間培養した。1日間培養後、各サンプルにルシフェラーゼ基質(Thermo Fisher SCIENTIFIC、NeonTM Transfection System)を添加して、検出システム(プロメガ株式会社、GloMaxTM Discover Microplate Reader)を用いて、各サンプルのルシフェラーゼの発現を観察した。
【0039】
このデュアルルシフェラーゼアッセイで用いた各投与群(コントロール、培地1、培地2、培地3、培地4、培地5、培地6)の液体培地の組成は以下である。コントロールと培地1と培地2と培地3は、上述の実験1で用いた液体培地と同じ組成である。なお、どの投与群でも、基礎培地としてDMEM/ハムF-12(ナカライテスク株式会社、08460-95)を用いたが、以下では、50ml中の各成分の組成を示す。なお、この培養において、コーニング社の「CostarTM 24 ウェル」を用いた。
【0040】
(コントロール)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカンの含有なし
【0041】
(培地1)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカン 最終濃度10μg/ml
【0042】
(培地2)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカン 最終濃度100μg/ml
【0043】
(培地3)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカン 最終濃度1000μg/ml
【0044】
(培地4)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGFの含有なし
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカン 最終濃度1000μg/ml
【0045】
(培地5)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGFの含有なし
・プロテオグリカン 最終濃度1000μg/ml
【0046】
(培地6)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 150μl(最終濃度30ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカンの含有なし
【0047】
なお、この各投与群(コントロール、培地1、培地2、培地3、培地4、培地5、培地6)に含有されている成分は、以下のものを用いた。
・N2:N-2 Supplement(100X)
(gibco:17502-048)
・B27:B-27TM Plus SupplementビタミンA不含(50X)
(gibco:A35828-01)
・Heparin: ヘパリンナトリウム(ナカライテスク(商品コード:17513-96、17513-41、17513-54)
・抗生物質:ペニシリン―ストレプトマイシン(WAKO:168-23191)
・bFGF:bFGF(funakoshi:100-18B)
・EGF:EGF(funakoshi:315-09)
・プロテオグリカン:プロテオグリカン、サケ鼻軟骨由来(富士フイルム和光純薬会社(商品コード:162-22131、168-22133))
【0048】
各ウェルにおけるルシフェラーゼの発現量(Hes-1の転写活性)の観察結果を以下記載する。コントロール群の発現量を100としたところ、培地1の群の発現量は123.83、培地2の群の発現量は131.24、培地3の群の発現量は159.51、培地4の群の発現量は113.85、培地5の群の発現量は119.67、培地6の群の発現量は131.55であった。ルシフェラーゼの発現量が高いほど、Hes-1の転写活性が高くなり、神経幹細胞の未分化性を維持している細胞と考えられる。培地6はポジティブコントロールとして神経幹細胞の未分化能を維持している細胞とするが、培地6(プロテオグリカンは含有しないがコントロールと比較してbFGFの含有量が3倍である培地)と比較して、培地1、培地2及び培地3の群(FGF-2、EGF及びプロテオグリカンを含有することに培養された細胞)が神経幹細胞の未分化性を維持していることが確認された。
【0049】
[実験3:NSの形成数の測定]
プロテオグリカンの代わりに、GAGを含有した培地にて、この培地で培養された細胞がNSの形成ができるかどうかを確認した。この実験3において、GAGは、プロテオグリカンと異なり、コアタンパク質が結合されていない。
【0050】
この実験3の手順を以下説明する。なお、
図5には、この実験手順の模式図を示す。日本エスエルシー株式会社製のICRマウスを用いて妊娠14日目のメスのマウスを作製した。そして、そのマウスの体内に存在するマウス胎児を取り出し、そのマウス胎児の大脳皮質から分散した細胞を準備した。この分散では、0.05w/v%トリプシン(富士フイルム和光純薬株式会社の製品(0.25w/v% トリプシン-1mmol/l EDTA・4Na溶液(フェノールレッド含有)(商品コード:201-16945、209-16941))をPBSにて希釈したもの)を用いた。この分散した細胞のうち18万個の細胞を用いて、以下の投与群(コントロール、培地2、培地7)を作製した。この細胞を、6万個/1サンプルずつ、分けて用いた。所定の液体培地が存在している6ウェルプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、CAT#140675)に播種する。6ウェルプレートに、1ウェルあたり、所定の液体培地が2ml、この細胞が1万個存在するように、各ウェルに均等に播種した。この播種後、37℃、5%CO
2の環境下で、6日間培養した。6日間培養後、所定の位相差顕微鏡(倍率20倍)により、各投与群の6ウェルプレート中の形成された細胞塊を観察した。この観察において、形成された細胞塊のうち半径50μm以上のものをニューロスフェアと定めて、このニューロスフェアの数を測定した。なお、この6日間培養後の観察の比較対象として、各投与群の培養0日の観察も所定の位相差顕微鏡(倍率20倍)を用いて同様に行った。
【0051】
各投与群(コントロール、培地2、培地7)の液体培地の組成は以下である。コントロールと培地2は、上述の実験1で用いた液体培地と同じ組成である。なお、どの投与群でも、基礎培地としてDMEM/ハムF-12(ナカライテスク株式会社、08460-95)を用いたが、以下では、50ml中の各成分の組成を示す。
(コントロール)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカンの含有なし
【0052】
(培地2)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・プロテオグリカン 最終濃度100μg/ml
【0053】
(培地7)
・N2 500μl
・B27 1ml
・Heparin 50μl(最終濃度2ng/ml)
・抗生物質 100μl
(最終濃度ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン10μg/ml)
・bFGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・EGF 50μl(最終濃度10ng/ml)
・GAG 最終濃度100μg/ml
【0054】
なお、この各投与群(コントロール、培地2、培地7)に含有されている成分は、以下のものを用いた。
・N2:N-2 Supplement(100X)
(gibco:17502-048)
・B27:B-27TM Plus SupplementビタミンA不含(50X)
(gibco:A35828-01)
・Heparin: ヘパリンナトリウム(ナカライテスク(商品コード:17513-96、17513-41、17513-54)
・抗生物質:ペニシリン―ストレプトマイシン(WAKO:168-23191)
・bFGF:bFGF(funakoshi:100-18B)
・EGF:EGF(funakoshi:315-09)
・プロテオグリカン:プロテオグリカン、サケ鼻軟骨由来(富士フイルム和光純薬会社(商品コード:162-22131、168-22133))、なおこのプロテオグリカンから常法によりGAGのみを精製し作製したものが実験3で用いたGAGである。
【0055】
NSの形成数の測定結果を次に記載する。コントロールの群のNSの形成数を100(%)とした場合のNSの形成割合(%)である。培地2の群は118.7%であり、培地7の群は58.8%であった。プロテオグリカンの構造(コアタンパク質とGAG構造との結合構造)により、NSの形成ができることが示唆された。
【0056】
[実験4:グリア細胞を生み出す可能性のある幹細胞の作製結果]
本発明で用いる、FGF-2、EGF及びプロテオグリカンを含有されるために用いる培地が、神経幹細胞だけでなく、グリア細胞を生み出す可能性のある幹細胞(神経幹細胞に比べ老化した細胞)を作製できる可能性について記載する。次のように実験を行った。
【0057】
まず、次のように、神経幹細胞を準備した。日本エスエルシー株式会社製のICRマウスを用いて妊娠14日目のメスのマウスを作製した。そして、そのマウスの体内に存在するマウス胎児を取り出し、そのマウス胎児の大脳皮質から分散した細胞を準備した。この分散では、0.05w/v%トリプシン(富士フイルム和光純薬株式会社の製品(0.25w/v% トリプシン-1mmol/l EDTA・4Na溶液(フェノールレッド含有)(商品コード:201-16945、209-16941))をPBSにて希釈したもの)を用いた。この分散した細胞のうち12万個の細胞を用いて、以下の投与群(コントロール、培地3)を作製した。この細胞を、6万個/1サンプルずつ、分けて用いた。所定の液体培地が存在している6ウェルプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、CAT#140675)に播種した。6ウェルプレートに、1ウェルあたり、所定の液体培地が2ml、この細胞が1万個存在するように、各ウェルに均等に播種した。この播種後、37℃、5%CO2の環境下で、7日間培養した。7日間培養後、できた細胞塊を再分散した。
【0058】
次に、この再分散した細胞(12万個)を用いて、以下の投与群(コントロール、培地3)を作製した。この細胞を、6万個/1サンプルずつ、分けて用いた。所定の液体培地が存在している6ウェルプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、CAT#140675)に播種した。6ウェルプレートに、1ウェルあたり、所定の液体培地が2ml、この細胞が1万個存在するように、各ウェルに均等に播種した。この播種後、37℃、5%CO2の環境下で、7日間培養した。7日間培養後、できた細胞塊について、所定の位相差顕微鏡(倍率20倍)を用いて、スフェア(二次スフェア)の形成数などを確認した。
【0059】
なお、コントロールと培地3は、上述の実験1で用いた液体培地と同じ組成である。
【0060】
実験結果を
図6に示す。
図6では、このスフェア(二次スフェア)の写真を示す。
図6の矢印で示すのが二次スフェアである。培地3の群では、二次スフェア(グリア細胞を生み出す可能性のある幹細胞)の形成を確認できた。このスフェアの形成数であるが、コントロールの群のスフェアの形成数を100%とした場合、培地3の群では132.7%であった。
【0061】
以上、本発明の実施の形態(実施例も含め)について、図面も参照して説明してきたが、本発明の具体的構成は、これに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、設計変更等があっても、本発明に含まれるものである。