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特許7322143リン酸を含む水性媒体から希土類元素を抽出するための抽出剤の相乗的混合物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】リン酸を含む水性媒体から希土類元素を抽出するための抽出剤の相乗的混合物の使用
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/40 20060101AFI20230731BHJP
   C07C 235/06 20060101ALI20230731BHJP
   C07F 9/09 20060101ALI20230731BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20230731BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20230731BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20230731BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C22B3/40
C07C235/06
C07F9/09 Z
C22B3/08
C22B3/26
C22B3/38
C22B59/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021516462
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 FR2019052238
(87)【国際公開番号】W WO2020065201
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】1858788
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(73)【特許権者】
【識別番号】519204973
【氏名又は名称】オーシーピー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドレイアディス,エウジェン
(72)【発明者】
【氏名】デュシェーヌ,マリー-テレーズ
(72)【発明者】
【氏名】オウアートゥ,アブラ
(72)【発明者】
【氏名】マズーズ,ハミッド
(72)【発明者】
【氏名】ディーバ,ドリス
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特公昭45-002832(JP,B1)
【文献】特開2007-327085(JP,A)
【文献】特表2017-531097(JP,A)
【文献】特開2018-031051(JP,A)
【文献】特開2017-094236(JP,A)
【文献】特公昭50-037158(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第108715931(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109642270(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0185964(US,A1)
【文献】NAYAK, P.K. et al.,Single-cycle separation of americium(III) from simulated high-level liquid waste using tetra-bis(2-ethyhexyl)diglycolamide and bis(2-ethylhexyl)phosphoric acid solution,Journal of Environmental Chemical Engineering,NL,ELSEVIER,2013年,Vol.1,559-565
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸を含む水性媒体から少なくとも1つの希土類を抽出するための、以下を含む混合物の使用:
- 式(I)の第1抽出剤:
【化1】

式中、R1及びR2は、同一又は異なり、6~12個の炭素原子を含む飽和もしくは不飽和の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基、又は、1~10個の炭素原子を含む飽和もしくは不飽和の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基で任意に置換されたフェニル基を表す;並びに、
- 式(II)の第2抽出剤:
【化2】

式中、R3は、6~12個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す。
【請求項2】
1及びR2が、6~12個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、1~10個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されたフェニル基を表す、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
1及びR2が、8~10個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は、6~10個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されたフェニル基を表す、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
1及びR2が互いに同一である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
第1抽出剤が、ジ(2-エチルヘキシル)リン酸である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
3が、8~10個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
第2抽出剤が、N,N,N’,N’-テトラオクチル-ジグリコールアミドである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
抽出剤の混合物が、ジ(2-エチルヘキシル)リン酸、及び、N,N,N’,N’-テトラオクチル-ジグリコールアミドを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
抽出剤の混合物が有機希釈剤に溶解して使用される、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
有機希釈剤中の抽出剤の混合物を含有する水と混和しない有機溶液と、水性媒体との少なくとも1つの接触を含み、次に水性媒体の有機溶液からの分離を含み、それによって少なくとも希土類を含む有機溶液が得られる、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
有機溶液が、0.2mol/L~2mol/Lの第1抽出剤及び0.05mol/L~2mol/Lの第2抽出剤を含む、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
さらに、少なくとも希土類を含む有機溶液と、酸又は塩基の水溶液との少なくとも1つの接触を含み、次に有機溶液の水溶液からの分離を含み、それによって少なくとも希土類を含む水溶液が得られる、請求項10又は11に記載の使用。
【請求項13】
水性媒体が0.5mol/L~10mol/Lのリン酸を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
水性媒体が、硫酸によるリン鉱石の浸出で得られるリン酸水溶液である、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
希土類が、イットリウム、ランタン、ネオジム、ジスプロシウム、イッテルビウム、及びそれらの混合物から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類を抽出及び回収する分野に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、硫酸によるリン鉱石への攻撃で得られるリン酸水溶液などのリン酸を含む水性媒体中に存在する少なくとも1つの希土類を抽出するための相乗効果抽出剤の混合物の使用に関する。
【0003】
特に本発明は、リン鉱石の処理において、これらの鉱石中に存在する希土類を処理することを視野に入れて用途を見出す。
【背景技術】
【0004】
希土類(以下「RE」という)には、類似した特性を特徴とする金属が含まれる。すなわち、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、及び全てのランタニド(メンデレーエフ周期表に記載されている原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)までの15の化学元素に相当する)である。
【0005】
このグループには、原子番号が61以下の「軽」RE(スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、及びネオジム)と、原子番号が62以上の「重」RE(サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム)が存在する。
【0006】
REの特殊な電子配置、特にその閉殻していない電子の4fサブシェルは、それに特有の化学的、構造的、及び物理的特性を与える。これらの特性は、ガラス及びセラミック産業、研磨、触媒作用(特に石油や自動車)、ハイテク合金の製造、永久磁石、光学機器(特に写真装置やカメラ)、発光体、電気自動車又はハイブリッド車の充電式電池、風力タービンの交流発電機など、高度で多様な産業用途に利用されている。
【0007】
その結果、REはいわゆる「技術的」金属の一部を形成し、その獲得は極めて重要であるが、これらの特定の金属に対する世界的な成長と需要の影響下で脅かされてもいる。
【0008】
現在、REはバストネサイト硬岩の鉱床や、モナザイト及びゼノタイムの沖積鉱床などの在来型資源から生産されている。しかし、リン酸やリン酸肥料の製造に利用され、且つ、REの濃度は確かに比較的低いが、それでもREの高収益の生産をもたらすことができるリン鉱石(天然リン酸塩とも呼ばれる)などの別の非在来型資源も存在する。
【0009】
リン酸及びリン酸肥料の製造を目的としたリン鉱石の処理は、事前に破砕や粉砕されたこれらの鉱石を、通常98%硫酸である濃酸で攻撃又は浸出することから始まる。これにより、リン酸トリカルク(tricalcic phosphate)がリン酸H3PO4と不溶性硫酸カルシウム(又はリン石膏)に変換される。この攻撃により、4mol/Lを超える濃度のリン酸水溶液(出発鉱石中のREの含有量に応じて、またその鉱石に適用される処理方法に応じて、さまざまな濃度のREを含む)が得られる。
【0010】
硫酸によるリン鉱石の浸出で得られるリン酸水溶液からREを回収する手段の1つは、この水溶液を濾過及び濃縮した後、液液抽出、又は溶媒抽出に供する手段である。この手段は、REと親和性を有する有機希釈剤中に1つ以上の抽出剤を含む有機溶液に、この水溶液を接触させてREを有機溶液に移動させるものである。
【0011】
この抽出は、硫酸によるリン鉱石の浸出で得られるリン酸水溶液にも存在する他の多くの金属(以下「金属不純物」という)に対して、特に、Fe3+イオンの形で存在し、その濃度がこの種の溶液では通常1g/Lを超える鉄に対して効率的且つ同時に選択的でなければならない。
【0012】
科学文献の研究は、リン酸媒体からREを抽出するために少数の抽出剤が試験されていることを示す[非特許文献1(以下「参考文献[1]」という)参照]。
【0013】
抽出剤の2つの大きな区分が研究されている。すなわち:
- 酸抽出剤とも呼ばれる陽イオン交換抽出剤;これらは主に有機リン酸、有機ホスホン酸、又は有機ホスフィン酸などの有機リン酸化合物である;これらは、例えばジ-2-エチルヘキシルリン酸(又はD2EHPA又はHDEHP)、ジ(n-オクチルフェニル)リン酸(又はDOPPA)、2-エチルヘキシル-2-エチルヘキシルホスホン酸(又はHEH[EHP]又はPC88A)、及びビス(トリメチル-2,4,4-ペンチル)ホスフィン酸(参考:Cyanex(商標)272として販売されている)である:及び、
- リン酸塩、ホスフィンオキシド、又はジグリコールアミドなどの中性抽出剤とも呼ばれる溶媒和抽出剤;これらは、例えばリン酸トリ-n-ブチル(又はTBP)、トリオクチルホスフィンオキシド(又はTOPO)、及びN,N,N’,N’-テトラオクチル-ジグリコールアミド(又はTODGA)である。
【0014】
有機リン酸に関しては、これらの酸を用いてREを抽出することは、REが存在する媒体の酸性度に大きく依存することが分かる。従って、D2EHPA及びその類似体(例えばDOPPA)は、4mol/Lのリン酸を超える酸性度で重REを適切に抽出することを可能にするが、その酸性度で軽REを抽出することは可能ではない。これは、軽REの定量的抽出は、0.5mol/L未満のリン酸の酸性度(すなわち、硫酸によるリン鉱石の浸出で得られるリン酸水溶液の酸性度の少なくとも8分の1)でのみ得られるためである。
【0015】
また有機リン酸には、抽出速度が遅く、遷移金属、特に鉄に対する親和性を有するという欠点がある。そのため、D2EHPAによるFe3+イオンの競合抽出は、この抽出剤によるREの抽出を著しく低下させるが、一方、Al3+、Ca2+、又はMg2+などの他の金属不純物の存在は、この抽出にあまり影響を与えないようである[非特許文献2(以下「参考文献[2]」という)参照]。
【0016】
この選択性の低さを克服するための第一の可能性は、REの抽出を進める前に、還元剤を使用してFe3+イオンをFe2+イオン(有機リン酸ではほとんど抽出されない)に還元することである。それでもなお、この操作のコストは、REの直接的な選択的回収によってもたらされる経済的利益と比較して非常に高いことが判明するかもしれない。第二の可能性は、リン酸水溶液からREを抽出する前に、リン酸水溶液から鉄を除去することを目的とした操作を追加することである。例えば、鉄を選択的に沈殿させた後、濾過によって沈殿物を除去することによるが、これは第一に実施が困難であり、従って工業的にはあまり興味のない方法である。また第二に生成されるリン酸の最終的な品質が変化する危険性がある。
【0017】
例えば、陽イオン交換体と溶媒和交換体(solvating exchanger)を含む抽出剤の混合物を使用すると、場合によっては抽出剤を単独で使用して得られるものと比較して、液液抽出の性能の大幅な改善が可能になることが知られている。
【0018】
ただし研究によると、リン酸を含む媒体の存在下では、D2EHPAなどの有機リン酸とTBP又はホスフィンオキシド(Cyanex(商標)923)などの溶媒和抽出剤を含む混合物は、有機リン酸単独での抽出で得られるものよりも、(REの分配係数により定量化された)抽出性能が劣るという点で、REの抽出に拮抗することが示される[前述の参考文献[2];非特許文献3(以下「参考文献[3]」という)参照]。
【0019】
DGA類に関しては、PUREXプロセスのラフィネートから3価のアクチニドとランタニドを共抽出することを目的とする使用済み核燃料の処理に関する研究を背景として、これらは日本のチームによって開発された抽出剤の一群を代表するが、NdFeB永久磁石の製造によるスクラップからREをリサイクルするためにも研究されている。
【0020】
このように特許文献1(以下「参考文献[4]」という)においては、TODGAなどの24個以上の炭素原子を有する親油性の対称性DGAが、NdFeB永久磁石の処理で得られる硝酸水溶液から、ジスプロシウム、プラセオジム、及びネオジムを、定量的に回収するだけではなく、この相に存在する他の金属元素、特に鉄やホウ素に対して選択的に回収することを可能とすることが示された。
【0021】
参考文献[4]には、REが抽出される水溶液が優先的に硝酸溶液である場合、それは硫酸又はリン酸溶液であってもよいことが示されている。しかし、この文献には、リン酸溶液(この種の溶液に存在するリン酸イオンは、硝酸溶液に存在する硝酸イオンよりもはるかに強く錯化することが知られている)からのTODGAによるREの抽出に関する実験結果は報告されていない。
【0022】
一方、特許文献2(以下「参考文献[5]」という)では、0.5mol/L~5mol/Lのリン酸を含む水溶液からTODGAを含む有機相でランタン、ネオジム、ガドリニウム、ジスプロシウム及びイッテルビウムを抽出すると、抽出率が全て2%未満になることが示された。これは試験した全てのリン酸濃度についてのことである。
【0023】
このように参考文献[5]は、硝酸水溶液からREを抽出するためにTODGAを使用した場合に得られる抽出性能は、リン酸水溶液からのREの抽出に置き換えできないことを確認している。
【0024】
最後に、硫酸によるリン鉱石の浸出で得られるリン酸水溶液からのREの抽出ではなく、使用済み核燃料の処理に関連するものであるが、最初に非特許文献4(以下「参考文献[6]」という)に、次に非特許文献5(以下「参考文献[7]」という)に報告されたP.K.Nayakらの研究を引用する必要がある。
【0025】
この研究は、n-ドデカン中の有機リン酸(この場合はD2EHPA)と親油性の対称性DGA(この場合はN,N,N’,N’-テトラ(2-エチルヘキシル)ジグリコールアミド(又はTEHDGA))を含む抽出剤の混合物が、高活性の硝酸水溶液中に存在するFe3+イオンの非常に著しい抽出をもたらすことを示す。例えば、n-ドデカン中の0.25mol/LのD2EHPAと0.1mol/LのTEHDGAを含む混合物の場合、バッチ試験では鉄の分配係数が約1.2となり、ミキサーセトラ試験では存在する鉄の80%超が有機相に抽出される(参考文献[5]参照)。
【0026】
また、アメリシウムとユウロピウムを含む水溶液中の硝酸濃度が1mol/Lを超える場合、D2EHPAとTODGAを含む抽出剤の混合物がこの溶液からユウロピウムを抽出する能力は、TODGA単独で得られる能力と同じであることも示している(参考文献[6]を参照)。
【0027】
従って、この研究により、鉄を含む硝酸水溶液及び/又は硝酸濃度が1mol/Lを超える硝酸水溶液からREを抽出する場合、有機リン酸とDGAを含む抽出剤の混合物の使用は、DGA単独の使用と比較して利点がないと結論付けることができる。
【0028】
上記を考慮すると、硫酸によるリン鉱石の浸出で得られる水溶液と同様の酸性度を有するリン酸水溶液から、軽質及び重質の全てのREを抽出することを可能にする抽出剤又は抽出剤の混合物(両者ともこの溶液中に存在し得る他の金属に対して、特に鉄に対して、効果的且つ選択的である)を提供することが真に求められている。
【0029】
しかし本発明者らは研究の中で、予想外にもH2EHPAなどの有機リン酸とTODGAなどの親油性の対称性ジグリコールアミドを含む抽出剤の混合物が、酸濃度が4mol/L超であっても、リン酸を含む水溶液中に存在する全てのREを、鉄に対して効率的且つ選択的に抽出できることを見出した。
【0030】
また本発明者らは、この抽出剤の混合物は、以下の理由から、このリン酸水溶液からのREの抽出に相乗効果をもたらすことを見出した:
- 第一に、先行技術によって既知であり、また本発明者らが検証したように(下記の実施例2を参照)、D2EHPAなどの有機リン酸は、4mol/Lを超えるリン酸を含む水性媒体からの軽REの抽出には適さない;及び
- 第二に、参考文献[5]によって既知であり、また本発明者らによって裏付けられたように(下記実施例1を参照)、TODGAなどの親油性の対称性DGAは、それらが単独で使用される場合、0.5mol/Lを超えるリン酸を含む水性媒体から希土類を抽出することができない。
【0031】
本発明は、これらの実験的発見に基づいている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【文献】国際公開第2016/046179号
【文献】国際公開第2016/177695号
【非特許文献】
【0033】
【文献】S.Wu et al.,Chemical Engineering Journal 2018,335,774-800
【文献】L.Wang et al.,Hydrometallurgy 2010,101(1-2),41-47
【文献】D.K.Singh et al.,Desalination and Water Treatment 2012,38(1-3),292-300
【文献】P.K.Nayak et al.,J.Environ.Chem.Eng.2013,1(3),559-565
【文献】P.K.Nayak et al.,Sep.Sci.Technol.2014,49(8),1186-1191
【発明の概要】
【0034】
従って、本発明の対象は、リン酸を含む水性媒体から少なくとも1つのREを抽出するための、以下を含む混合物の使用である:
- 有機リン酸であり、以下の式(I)に従った第1抽出剤:
【0035】
【化1】
【0036】
式中、R1及びR2は、同一又は異なり、6~12個の炭素原子を含む飽和もしくは不飽和の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基、又は、1~10個の炭素原子を含む飽和もしくは不飽和の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基で任意に置換されたフェニル基を表す;並びに、
- 親油性の対称性DGAであり、以下の式(II)に従った第2抽出剤:
【0037】
【化2】
【0038】
式中、R3は、6~12個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す。
【0039】
上記及び下記において、「6~12個の炭素原子を含む飽和もしくは不飽和の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基」は、直鎖状又は1つ以上の分岐を有し、合計6、7、8、9、10、11又は12個の炭素原子を含む任意のアルキル、アルケニル又はアルキニル基を意味する。
【0040】
同様に、「1~10個の炭素原子を含む飽和もしくは不飽和の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基」は、直鎖状又は1つ以上の分岐を有し、合計1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の炭素原子を含む任意のアルキル、アルケニル又はアルキニル基を意味する。
【0041】
さらに、「6~12個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」は、直鎖状又は1つ以上の分岐を有し、合計6、7、8、9、10、11又は12個の炭素原子を含む任意のアルキル基を意味する。
【0042】
上記及び下記において、「水性媒体」、「水溶液」及び「水相」という用語は、「有機溶液」及び「有機相」という用語が同等で交換可能であるのと同様に、同等で交換可能である。
【0043】
「・・・から・・・(・・・~・・・)」という表現は、ある範囲の濃度に適用される場合、この範囲の境界が含まれることを意味することを意図する。
【0044】
本発明によれば、上記の式(I)においてR1及びR2は、同一又は異なり、優先的に、6~12個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されたフェニル基を表す。
【0045】
さらに、好ましくは、R1及びR2は、同一又は異なり、以下を表す:
- n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、イソノニル、n-デシル、イソデシル、2-エチルヘキシル、2-ブチルヘキシル、2-メチルヘプチル、2-メチルオクチル、1,5-ジメチルヘキシル、2,4,4-トリメチルペンチル、1,2-ジメチル-ヘプチル、2,6-ジメチルヘプチル、3,5,5-トリメチルヘキシル、3,7-ジメチルオクチル、2,4,6-トリメチルヘプチル等の基などの8~10個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基;又は、
- n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、イソノニル、n-デシル、イソデシル、1-エチルペンチル、2-エチルヘキシル、2-ブチルヘキシル、2-メチルヘプチル、2-エチルヘプチル、2-メチルオクチル、2-メチルノニル、1,5-ジメチルヘキシル、2,4,4-トリメチルペンチル、1,2-ジメチルヘプチル、2,6-ジメチルヘプチル、3,5,5-トリメチルヘキシル、3,7-ジメチルオクチル、2,4,6-トリメチルヘプチル等の基などの6~10個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されたフェニル基。
【0046】
さらに、好ましくは、R1及びR2は互いに同一である。
【0047】
上記式(I)の抽出剤の中で、R1及びR2が互いに同一であり、8~10個の炭素原子を含む分岐アルキル基を表すものが特に優先される。
【0048】
その抽出剤は、例えばD2EHPAであり、R1及びR2が2-エチルヘキシル基を表す上記の式(I)に従っている。
【0049】
本発明によれば、上記の式(II)において、R3は、好ましくは、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、イソノニル、n-デシル、イソデシル、2-エチルヘキシル、2-ブチルヘキシル、2-メチルヘプチル、2-メチルオクチル、1,5-ジメチルヘキシル、2,4,4-トリメチルペンチル、1,2-ジメチル-ヘプチル、2,6-ジメチルヘプチル、3,5,5-トリメチルヘキシル、3,7-ジメチルオクチル、2,4,6-トリメチルヘプチル等の基などの8~10個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す。
【0050】
上記の式(II)の抽出剤の中で、R3が8~10個の炭素原子を含む直鎖アルキル基を表すものが特に優先される。
【0051】
その抽出剤は、例えば、R3がn-オクチル基を表す上記の式(II)に従ったTODGAである。
【0052】
本発明によれば、抽出剤の混合物は、好ましくは、D2EHPA及びTODGAの混合物である。
【0053】
さらに、抽出剤の混合物は、優先的に有機希釈剤に溶解して使用される。有機希釈剤は、炭化水素又は脂肪族及び/又は芳香族炭化水素の混合物など親油性抽出剤を可溶化するために使用が提案されている任意の非極性有機希釈剤であってもよい。この希釈剤の例としては、n-ドデカン、水素化テトラプロピレン(TPH)、灯油、並びに、Isane(商標)IP-185(Total)、Isane IP-175(Total)、Shellsol(商標)D90(Shell Chemicals)及びEscaid(商標)110 Fluid(Exxon Mobil)という名称で販売されている希釈剤を挙げることができ、Isane IP-185が好ましい。
【0054】
さらに抽出剤の混合物は、好ましくは、REが存在する水性媒体から液液抽出によってREを抽出するために使用される。この場合、この混合物の使用は、少なくとも水性媒体を、有機希釈剤中の抽出剤の混合物を含む水と混和しない有機溶液と接触させ、次いで水性媒体を有機溶液から分離し、それによってREを含む有機溶液を得ることを含む。
【0055】
水性媒体と接触する有機溶液は、典型的には、0.2mol/L~2mol/Lの第1抽出剤及び0.05mol/L~2mol/Lの第2抽出剤を含む。
【0056】
言うまでもなく、これらの範囲における第1及び第2抽出剤のそれぞれの濃度の選択は、使用する抽出剤、及び場合によっては抽出を優先したいREに依存するであろう。
【0057】
従って、例えば第1抽出剤としてD2EHPAを含み、第2抽出剤としてTODGAを含む混合物の場合、有機溶液は、好ましくは、0.2mol/L~1.5mol/LのD2EHPAと、0.1mol/L~0.5mol/LのTODGAを含むであろう。
【0058】
本発明によれば、液液抽出による水性媒体からのREの抽出の後に、REが抽出された有機溶液からこのREを逆抽出することが好ましい。この場合、この逆抽出は、少なくとも有機溶液を酸又は塩基の水溶液と接触させ、次いで有機溶液を水溶液から分離することを含み、それによってREを含む水溶液が得られる。
【0059】
REが抽出される水性媒体は、有利には0.5mol/L~10mol/L、好ましくは2mol/L~6mol/L、さらに好ましくは4mol/L~5mol/Lのリン酸を含む。
【0060】
この水性媒体は、特に、硫酸によるリン鉱石の浸出で得られるリン酸水溶液であってもよい。
【0061】
この水溶液は、30mg/L~1200mg/L、より正確には100mg/L~1000mg/Lの範囲の総濃度のREを含むことができ、また、鉄だけではなく、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛、クロム、バナジウム等の一定数の金属不純物を含むことができる。
【0062】
いずれにしても、REは、イットリウム、ランタン、ネオジム、ジスプロシウム、イッテルビウム、及びそれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0063】
本発明の他の特徴と利点は、添付の図を参照する以下のさらなる説明から明らかになるであろう。
【0064】
このさらなる説明は、本発明の対象の例示としてのみ与えられており、いかなる場合においても、この対象を限定するものと解釈してはならないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1図1A及び図1Bは、0.5mol/LのD2EHPAと変化させたモル濃度のTODGAを含む有機相を用いて、5種類のRE(すなわち、イットリウム、ランタン、ネオジム、ジスプロシウム、イッテルビウム)と鉄を含むリン酸の水相で行った抽出試験の結果を示す。図1Aは、有機相中のTODGAのモル濃度([TODGA]と表記)の関数として、REと鉄の分配係数(DMと表記)の変化を対数スケールで示し、図1Bは、TODGAの濃度の関数として、REと鉄の分離係数(FSTR/Feと表記)の変化を対数スケールで示す。比較のために、抽出剤としてD2EHPAのみを含む有機相を用いて同じ操作条件で得られたDM値及びFSTR/Feの値もこれらの図に示される。
図2図2は、変化させたモル濃度のD2EHPAと0.5mol/LのTODGAを含む有機相を用いて、上記5種類のREと鉄を含むリン酸水相で行った抽出試験の結果を示す。より具体的には、この図は、有機相中のD2EHPAのモル濃度([D2EHPA]と表記)の関数として、REと鉄の分配係数(DMと表記)の変化を算術スケールで示す。
図3図3は、様々な酸性水相を用いて行われた、上記5種類のRE、鉄、0.5mol/LのD2EHPA、及び0.25mol/LのTODGAを含む有機相の逆抽出試験中に得られた逆抽出の収率(RMと表記;%)を示す。
図4図4A及び図4Bは、比較のために、モル濃度を変えながらD2EHPAのみを抽出剤とする有機相を用いて、上記5種類のREと鉄を含むリン酸の水相で行った抽出試験の結果を示す。図4Aは、有機相中のD2EHPAのモル濃度([D2EHPA]と表記)の関数として、REと鉄の分配係数(DMと表記)の変化を対数スケールで示し、図4Bは、1mol/LのD2EHPAを含む有機相で得られたREと鉄の分離係数(FSTR/Feと表記)を示す。
図5図5は、比較のために、0.5mol/LのD2EHPAと変化させたモル濃度のTBPを含む有機相を用いて、上記5種類のREと鉄を含むリン酸水相で行った抽出試験の結果を示す。より具体的には、この図は、有機相中のTBPのモル濃度([TBP]と表記)の関数として、REと鉄の分配係数(DMと表記)の変化を算術スケールで示す。また抽出剤としてD2EHPAのみを含む有機相を用いて同じ操作条件で得られたDM値もこの図に示される。
図6図6は、比較のために、0.5mol/LのD2EHPAと変化させたモル濃度のTOPOを含む有機相を用いて、上記5種類のREと鉄を含むリン酸水相で行った抽出試験の結果を示す。より具体的には、この図は、有機相中のTOPOのモル濃度([TOPO]と表記)の関数として、REと鉄の分配係数(DMと表記)の変化を算術スケールで示す。また抽出剤としてD2EHPAのみを含む有機相を用いて同じ操作条件で得られたDM値もこの図に示される。 図3及び図4Bでは、エラーバーは、様々な分析的及び実験的不確実性を包含する10%の相対的不確実性に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下の実施例で報告された抽出試験は、全て、天然リン酸塩をH2SO4で浸出してH3PO4を製造する間に実際に得られたリン酸水溶液を代表する人工的な水溶液のアリコートを水相として使用して実行した。
【0067】
この人工的な水溶液は、リン酸の他に、3種類の軽RE(すなわち、イットリウム、ランタン、及びネオジム)、2種類の重RE(すなわち、ジスプロシウム、及びイッテルビウム)、並びに主要な有害不純物(すなわち、鉄)を含む。これは、対応する金属の酸化物を+3の酸化状態で濃H3PO4溶液に溶解し、この溶液のH3PO4の濃度を4.6mol/Lに調整することで調製した。
【0068】
金属元素の質量による組成を以下の表Iに示す。
【0069】
【表1】
【0070】
有機相は、有機希釈剤としてIsane(商標)IP185を用いて調製し、4.6mol/LのH3PO4を含む水溶液と接触させて事前に平衡させた。
【0071】
また以下の実施例で報告された抽出試験及び逆抽出試験は、全て、体積が1.5mL未満のマイクロチューブ内で、45℃の温度で、有機相と水相の体積比(O/A)を1にして、Vibrax(商標)スターラによる撹拌下で、これらの相を20分間の1回の接触に供して実行した。遠心分離後、有機相と水相を沈降によって分離した。
【0072】
分配係数、分離係数、及び逆抽出の収率は、液液抽出分野の慣例に従って算出した。すなわち:
- 2つの相(有機相と水相)の間の金属元素Mの分配係数(DMと表記)は以下と等しい:
【0073】
【数1】
【0074】
式中、
[M]org,f=抽出(又は逆抽出)後の有機相中のMの濃度;
[M]aq,f=抽出(又は逆抽出)後の水相中のMの濃度;及び、
[M]aq,i=抽出(又は逆抽出)前の水相中のMの濃度である。
- 2種の金属元素M1とM2の間の分離係数(FSM1/M2と表記)は以下と等しい:
【0075】
【数2】
【0076】
式中、
M1=金属元素M1の分配係数;及び
M2=金属元素M2の分配係数である。
- 有機相の金属元素Mの逆抽出の収率(RMと表記)は以下と等しい:
【0077】
【数3】
【0078】
式中、
[M]aq,f=逆抽出後の水相中のMの濃度;及び、
[M]org,i=逆抽出前の有機相中のMの濃度である。
【0079】
REを含む水相又は有機相(最初の人工的な溶液、抽出後の水相及び有機相、逆抽出後の水相など)の多元素分析は、金属元素を測定可能な濃度に希釈した後、誘導結合によって生成されたアルゴンプラズマを光源とする原子発光分析によって行った。
【実施例
【0080】
実施例1:本発明に従った抽出剤D2EHPA/TODGAの混合物によるREの抽出
1.1-抽出試験
第1の一連の試験
有機相として、0.5mol/LのD2EHPAと、0.1mol/L、0.25mol/L、0.5mol/L、又は1mol/Lの濃度のTODGAを含む溶液と、比較のために0.5mol/LのD2EHPAを含み、しかしTODGAを含まない溶液を用いて抽出試験を行った。
【0081】
図1Aは、これらの試験の最後に得られたREと鉄の分配係数(DM)の変化を、有機相中のTODGAの濃度の関数として示す。
【0082】
この図に示すように、D2EHPAにTODGAを加えると、REの分配係数が大幅に増加し、その結果、リン酸の水相でそれらが抽出される。
【0083】
D2EHPA/TODGA混合物は、特にジスプロシウム、イッテルビウム、イットリウムとの親和性が高い。
【0084】
その親和性はランタンとネオジムに対して著しく低いが、それでもD2EHPA単独の親和性(DLa<0.01)と比較すると、高い親和性(DLa max=2.3)を維持している。
【0085】
またD2EHPAにTODGAを加えると、D2EHPA単独の場合に比べて鉄の分配係数が3倍低下した。この分配係数は、TODGAの濃度が0.25mol/Lまでの範囲で非常に小さい(DFe=0.005)。これは、D2EHPA/TODGA混合物が有する、鉄に対するREの優れた選択性を明確に示す。
【0086】
有機相中のTODGA濃度の関数としての、REと鉄の間の分離係数FSTR/Feの変化を図1Bに示す。
【0087】
この図は、FSTR/Feの最大値はイッテルビウムなどの重REでは非常に顕著であり(FSYb/Fe>12,500)、ランタンなどの軽REでは非常に十分な値を維持していることを示す(FSLa/Fe=460)。
【0088】
比較として、有機相中0.5mol/Lの濃度のD2EHPA単独で得られるREと鉄の間の最良の分離係数は、イッテルビウムと鉄の間の分離係数である。これは、D2EHPA/TODGA混合物で得られる分離係数よりも少なくとも20倍小さい(FSYb/Fe≒600)。
【0089】
第2の一連の試験
0.5mol/LのTODGAを含み、且つ、D2EHPAを0.1mol/L、0.5mol/L、1mol/L、又は2mol/Lの濃度で含む溶液を有機相として使用し、試験を行った。
【0090】
図2は、これらの試験の最後に得られたREと鉄の分配係数(DM)の変化を、有機相中のD2EHPAの濃度の関数として示す。
【0091】
この図に示すように、TODGAにD2EHPAを加えると、REの分配係数が大幅に増加し、その結果、リン酸の水相でそれらが抽出される。
【0092】
全てのREについて良好な抽出性能を得るためには,混合物中のD2EHPAの濃度が0.1mol/Lを超える必要がある。例えば、混合物中のD2EHPAの濃度が0.1mol/L(DLa=0.06)のときにはランタンの分配係数は非常に小さくなるが、混合物中のD2EHPAの濃度が0.5mol/L(DLa=2.2)のときには非常に大きく増加する。比較として、0.5mol/Lの濃度のD2EHPA単独のランタンへの親和性は非常に小さい(DLa=0.01)。
【0093】
これらの結果は参考文献[5]の結果を裏付けている。すなわち、TODGA単独では、リン酸の水相からREを抽出することはできない。
【0094】
一方、これらの結果は、D2EHPAの濃度を少なくともTODGAの濃度と等しくし、好ましくはTODGAの濃度の2倍として使用することで、全てのREの良好な抽出を得ることが可能になることを示す。
【0095】
1.2-逆抽出試験
逆抽出試験は、以下を用いて行った:
- 有機相として:0.5mol/LのD2EHPAと0.25mol/LのTODGAを含む混合物を用いて、上記1.1項で行った抽出試験から得られた有機相のアリコート;及び、
- 水相として:以下を含む水溶液:
※0.5mol/L、1mol/Lもしくは6mol/LのH2SO4;又は、
※1mol/LのHSO及び0.125mol/LのNa2SO4;又は、
※5mol/Lもしくは10mol/LのH3PO4
【0096】
図3は、これらの試験の最後に得られた逆抽出の収率RMを示す。
【0097】
この図が示す通り、高濃度H3PO4水溶液(5mol/L又は10mol/L)では、ランタン、ネオジム、及び鉄の逆抽出もまた可能であるが,有機相に残存するイットリウム、ジスプロシウム、及びイッテルビウムの逆抽出はできない。
【0098】
希硫酸(H2SO4)の水溶液(0.5mol/L及び1mol/L)は、ランタン及びネオジム、部分的にイットリウム、ジスプロシウム及びイッテルビウムをほぼ定量的に逆抽出することできる。1mol/LのH2SO4溶液は、0.5mol/LのH2SO4溶液よりも、鉄に対するREの逆抽出選択性を向上させる。0.125mol/Lの範囲でNa2SO4を添加すると、選択性はさらに向上するが、イットリウム、ネオジム、及びジスプロシウムの逆抽出の収率が低下する不利益がある。
【0099】
また図3は、6mol/LのH2SO4を含む水溶液によって、鉄が部分的に、しかし選択的に逆抽出されることを示す。
【0100】
従って、REの抽出から得られた有機相を例えば任意にNa2SO4を加えた希硫酸溶液を用いたREの逆抽出の工程に供する前に、この有機相に存在する鉄を選択的に除去するため、この有機相を例えば6mol/LのH2SO4を含む水溶液による洗浄工程に供するスキームの実施を想定することが可能である。
【0101】
硫酸と硫酸ナトリウムの両方を含む水溶液で得られた結果は、逆抽出後の水溶液中に存在するREを、例えばREとナトリウムの二重硫酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩等の形で沈殿させて回収するスキームを想定することも可能である。この種の沈殿は文献で知られている。
【0102】
実施例2:D2EHPA単独によるREの抽出(比較例)
比較のために、有機相として、0.1mol/L、0.5mol/L、1mol/L、1.5mol/L、又は2mol/LのD2EHPAを含む溶液を用いて抽出試験を実施した。
【0103】
図4Aは、これらの試験の最後に得られたREと鉄の分配係数(DM)の変化を、有機相中のD2EHPAの濃度の関数として示す。
【0104】
この図は、D2EHPAによるREの抽出が、REのイオン半径の増加とともに減少することを明確に示す。このように、D2EHPAは、イットリウム、ジスプロシウム、イッテルビウムなどのイオン半径が小さいREに対して良好な親和性を有するが、ランタンやネオジムなどのイオン半径が大きいREを抽出することは不可能又はほとんど不可能である(有機相中のD2EHPAの濃度に関係なくDM<0.1)。
【0105】
さらに、有機相のD2EHPA濃度を1mol/Lとして得られたREと鉄の間の分離係数FSTR/Fe図4Bに示す。これらの分離係数は、イッテルビウムでは十分である(FSYb/Fe=500)。一方、他のREでは全く十分ではなかった。
【0106】
有機相中のD2EHPAの濃度の関数としては、これらの分離係数の有意な変動は観察されないことに留意すべきである。
【0107】
実施例3:D2EHPA/TBP混合物、及びD2EHPA/TOPO混合物によるREの抽出(比較例)
TODGAは溶媒和抽出剤であるため、D2EHPAとTODGA以外の溶媒和抽出剤を含む混合物が、D2EHPAをTODGAとの混合物で使用した場合と同様の相乗効果を有する可能性があるか否かを確認するために抽出試験を行った。
【0108】
これらの抽出試験は、有機相として、0.5mol/LのD2EHPAと以下を含む溶液を使用して実行した:
- 0.1mol/L、0.25mol/L、又は0.5mol/Lの濃度のリン酸トリ-n-ブチル(もしくはTBP);又は、
- 0.1mol/L、0.25mol/L、又は0.5mol/Lの濃度のトリオクチルホスフィンオキシド(又はTOPO)。
【0109】
これらの試験の最後に得られた結果を分配係数(DM)の観点から、D2EHPA/TBP混合物については図5に、D2EHPA/TOPO混合物については図6に示した。
【0110】
図5に示すように、D2EHPAにTBPを添加すると、REの分配係数が大幅に低下し、その結果、リン酸の水相でのそれらの抽出が低下する(ランタンとネオジムの場合、D2EHPA単独では既にこれらは抽出されないため除外する)。
【0111】
有機相中のTBP濃度が高くなるにつれて、このDMの減少が全て大きくなることは、すなわち、リン酸水溶液からのREの抽出に対するD2EHPA/TBP混合物の拮抗作用の存在を示している。
【0112】
同様に、図6は、有機相中のTOPO濃度の関数としてのREの分配係数の一定の減少を示している。またリン酸水溶液からのREの抽出に対するD2EHPA/TOPO混合物の拮抗効果の存在も示している。
【0113】
これらの結果は、D2EHPA/TBP混合物及びD2EHPA/TOPO混合物について、上記参考文献[2]及び[3]に記載された結果を裏付けており、リン酸を含む水溶液からREを抽出したい場合、D2EHPAなどの有機リン酸と溶媒和抽出剤を含む混合物の使用は原理的に意味がないことが確認された。
【0114】
引用された参考文献:
[1] S.Wu et al.,Chemical Engineering Journal 2018,335,774-800
[2] L.Wang et al.,Hydrometallurgy 2010,101(1-2),41-47
[3] D.K.Singh et al.,Desalination and Water Treatment 2012,38(1-3),292-300
[4] 国際公開第2016/046179号
[5] 国際公開第2016/177695号
[6] P.K.Nayak et al.,J.Environ.Chem.Eng.2013,1(3),559-565
[7] P.K.Nayak et al.,Sep.Sci.Technol.2014,49(8),1186-1191
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6