(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】接着剤組成物、熱硬化性接着シート及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C09J 153/02 20060101AFI20230731BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20230731BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230731BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230731BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20230731BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20230731BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C09J153/02
C09J7/35
B32B15/08 J
B32B27/00 D
H05K3/28 C
C09J11/08
C09J11/06
(21)【出願番号】P 2021538547
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2019030600
(87)【国際公開番号】W WO2021024328
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】山本 潤
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 利之
(72)【発明者】
【氏名】伊達 和宏
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/046014(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/049873(WO,A1)
【文献】特開2011-228642(JP,A)
【文献】特開2010-261003(JP,A)
【文献】特開2018-001632(JP,A)
【文献】特開2015-131866(JP,A)
【文献】特開2011-068713(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017473(WO,A1)
【文献】特許第7090428(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/117554(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
C08G 59/40、65/48
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
当該接着剤組成物の合計100質量部に対して、
カルボキシル基を含有しないスチレン系エラストマーを75~90質量部と、
末端に重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を
15~20質量部と、
エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤を合計で
0質量部超10質量部以下とを含有し、
上記スチレン系エラストマーのスチレン比率が
5~25%である、接着剤組成物。
【請求項2】
硬化後のガラス転移温度が-40~40℃である、請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記スチレン系エラストマーの重量平均分子量が100,000以上である、請求項1
又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂が、末端に、エポキシ基及びエチレン性不飽和結合の少なくとも1種を有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
過酸化物を実質的に含有しない、請求項1~
4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
上記エポキシ樹脂硬化剤が、潜在性のあるエポキシ樹脂硬化剤である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
基材上に、請求項1~
6のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる熱硬化性接着層が形成されている熱硬化性接着シート。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の接着剤組成物の硬化物を介して、基材と配線パターンとを備える配線付樹脂基板の上記配線パターン側と、カバーレイとが積層されているプリント配線板。
【請求項9】
上記基材が、液晶ポリマーフィルムである、請求項
8に記載のプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、接着剤組成物、熱硬化性接着シート及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信の高速、大容量化により、プリント配線板に流れる信号の高周波化の傾向が加速している。それに対応するため、リジット基板やフレキシブルプリント配線板(FPC)の構成材料(例えば接着剤組成物)に、低誘電率、低誘電正接という低誘電特性が求められている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
ところで、ポリフェニレンエーテルは、低誘電特性を持つ基板用材料として優れた点も多いが、融点(軟化点)が非常に高く、常温では硬い性質を持つため、耐屈曲性に劣るという難点がある。例えば特許文献2に記載の樹脂組成物のように、樹脂全体に対して3~5割程度をポリフェニレンエーテルで構成すると、耐屈曲性に劣る傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-57346号公報
【文献】特開2016-79354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本技術は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、誘電率及び誘電正接が低く、耐屈曲性が良好な接着剤組成物、熱硬化性接着シート及びプリント配線板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術に係る接着剤組成物は、接着剤組成物の合計100質量部に対して、スチレン系エラストマーを75~90質量部と、末端に重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を3~25質量部と、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤を合計で10質量部以下とを含有し、スチレン系エラストマーのスチレン比率が30%未満である。
【0007】
本技術に係る熱硬化性接着シートは、基材上に、上述した接着剤組成物からなる熱硬化性接着層が形成されている。
【0008】
本技術に係るプリント配線板は、上述した接着剤組成物の硬化物を介して、基材と配線パターンとを備える配線付樹脂基板の上記配線パターン側と、カバーレイとが積層されている。
【発明の効果】
【0009】
本技術によれば、誘電率及び誘電正接が低く、耐屈曲性が良好な接着剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、プリント配線板の構成例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、多層プリント配線板の構成例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、耐屈曲性試験に用いたTEGの構成例を示す平面図である。
【
図4】
図4は、耐屈曲性試験に用いた測定装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本技術の実施の形態について説明する。以下で説明する成分の重量平均分子量及び数平均分子量の値は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の分子量から算出した値をいう。
【0012】
<接着剤組成物>
本技術に係る接着剤組成物は、熱硬化性の接着剤組成物であり、当該接着剤組成物の合計100質量部に対して、スチレン系エラストマー(成分A)を75~90質量部と、末端に重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂(成分B;以下、単に変性ポリフェニレンエーテル樹脂ともいう)を3~25質量部と、エポキシ樹脂(成分C)及びエポキシ樹脂硬化剤(成分D)を合計で10質量部以下とを含有する。また、本技術に係る接着剤組成物は、スチレン系エラストマーのスチレン比率が30%未満である。このような構成とすることにより、熱硬化後も誘電率及び誘電正接が低く、かつ、硬化後の接着剤組成物のガラス転移温度を低く(例えば、-40~40℃の範囲)に調整できるため、熱硬化後も耐屈曲性が良好な接着剤組成物とすることができる。このような接着剤組成物は、例えば、フレキシブルプリント配線板用の接着剤(層間接着剤)として好適に用いることができる。
【0013】
[スチレン系エラストマー]
スチレン系エラストマーは、スチレンとオレフィン(例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン)との共重合体、及び/又は、その水素添加物である。スチレン系エラストマーは、スチレンをハードセグメント、共役ジエンをソフトセグメントとしたブロック共重合体である。スチレン系エラストマーの例としては、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエンブロック共重合体などが挙げられる。また、水素添加により共役ジエン成分の二重結合をなくした、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエンブロック共重合体(水素添加されたスチレン系エラストマーともいう。)などを用いてもよい。
【0014】
スチレン系エラストマーの重量平均分子量は、100,000以上が好ましく、100,000~150,000がより好ましく、110,000~150,000がさらに好ましい。このような構成とすることにより、剥離強度(接続信頼性)、耐熱性をより良好にすることができる。
【0015】
スチレン系エラストマー中のスチレン比率は、30%未満が好ましく、5~30%がより好ましく、5~25%がさらに好ましく、10~20%が特に好ましい。このようにスチレン系エラストマーのスチレン比率を30%未満とすることにより、硬化後の接着剤組成物のガラス転移温度を例えば-40~40℃の範囲に調整できるため、耐屈曲性が良好となる。また、剥離強度(接続信頼性)、耐熱性をより良好にすることができる。一方、スチレン系エラストマーのスチレン比率が30%以上となると、硬化後の接着剤組成物のガラス転移温度が例えば100℃以上と高くなるため、耐屈曲性が悪化する傾向にある。
【0016】
特に、スチレン系エラストマーとしては、硬化後の接着剤組成物のガラス転移温度を低い範囲に調整し、耐屈曲性を良好にする観点から、重量平均分子量が100,000以上(より好ましくは110,000~150,000)であり、スチレン比率が5~25%であるスチレン系エラストマーを用いることが好ましい。
【0017】
スチレン系エラストマーの具体例としては、タフテックH1221(Mw120,000、スチレン比率12%)、タフテックH1062(Mw116,000、スチレン比率18%)、タフテックP1083(Mw103,000、スチレン比率20%)、タフテックM1943(Mw100,000、スチレン比率20%、以上旭化成社製)、ハイブラー7125(Mw110,000、スチレン比率20%、クラレ社製)が挙げられる。これらの中でも、分子量やスチレン比率の観点から、タフテックH1221、ハイブラー7125が好ましい。
【0018】
接着剤組成物中のスチレン系エラストマーの含有量は、成分Aと成分Bと成分Cと成分Dの合計100質量部に対して、75~90質量部であり、80~90質量部であってもよい。スチレン系エラストマーの含有量が75質量部未満であると、耐屈曲性が劣る傾向にある。また、スチレン系エラストマーの含有量が90質量部を超えると、相対的に他の成分(例えば成分B)の含有量が少なくなってしまうため、耐熱性が劣る傾向にある。スチレン系エラストマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
[変性ポリフェニレンエーテル樹脂]
変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有し、末端に重合性基を有する。変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、1分子中に、重合性基として、エポキシ基及びエチレン性不飽和結合の少なくとも1種を2つ以上有していることが好ましい。特に、上述したスチレン系エラストマーとの相溶性や、接着剤組成物の誘電特性の観点から、変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、両末端に、エポキシ基及びエチレン性不飽和結合(例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニルベンジル基)の少なくとも1種を有することが好ましい。
【0020】
なお、重合性基を有する化合物により変性されていないポリフェニレンエーテル樹脂、すなわち、末端に水酸基を有するポリフェニレンエーテル樹脂は、極性が強すぎるため、上述したスチレン系エラストマーとの相溶性が悪く、接着剤組成物をフィルム化できないおそれがあり、好ましくない。
【0021】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂の一例である、両末端に、ビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、例えば、2官能フェノール化合物と1官能フェノール化合物を酸化カップリングさせて得られる2官能フェニレンエーテルオリゴマーの末端フェノール性水酸基をビニルベンジルエーテル化することで得られる。
【0022】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂の重量平均分子量(又は数平均分子量)は、上述したスチレン系エラストマーとの相溶性や、接着剤組成物の硬化物を介して、基材と配線パターンとを備える配線付樹脂基板の配線パターン側とカバーレイとを熱硬化(プレス)する際の段差追従性等の観点から、1,000~3,000であることが好ましい。
【0023】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂の具体例としては、OPE-2St(両末端にビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂)、OPE-2Gly(両末端にエポキシ基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂)、OPE-2EA(両末端にアクリロイル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂、以上、三菱ガス化学社製)、Noryl SA9000(両末端にメタクリロイル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂、SABIC社製)などを用いることができる。
【0024】
接着剤組成物中の変性ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量は、成分Aと成分Bと成分Cと成分Dの合計100質量部に対して、3~25質量部であり、5~20質量部であることが好ましい。変性ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量が25質量部を超えると、硬化後の接着剤組成物のガラス転移温度が高くなるため、耐屈曲性が劣る傾向にある。また、変性ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を5質量部以上とすることにより、耐熱性をより良好にすることができる。ポリフェニレンエーテル樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂は、例えば、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、シロキサン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂等が挙げられる。特に、エポキシ樹脂は、フィルムの成形性の観点から、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂であって、常温で液状であるものが好ましい。エポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
[エポキシ樹脂硬化剤]
エポキシ樹脂硬化剤は、上述したエポキシ樹脂の硬化反応を促進する触媒である。エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、イミダゾール系、フェノール系、アミン系、酸無水物系、有機過酸化物系等を用いることができる。特に、エポキシ樹脂硬化剤は、接着剤組成物の常温での保管性(ライフ)の観点から、潜在性をもった硬化剤であることが好ましく、カプセル化されて潜在性をもったイミダゾール系の硬化剤であることがより好ましい。常温での保管性が良好となることにより、接着剤組成物の供給や使用における管理をより簡便にすることができる。具体的に、エポキシ樹脂硬化剤としては、潜在性イミダゾール変性体を核としその表面をポリウレタンで被覆してなるマイクロカプセル型潜在性硬化剤を用いることができる。市販品としては、例えば、ノバキュア3941(旭化成イーマテリアルズ社製)を用いることができる。エポキシ樹脂硬化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
接着剤組成物中のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計は、成分Aと成分Bと成分Cと成分Dの合計100質量部に対して、10質量部以下であり、5質量部以下が好ましい。エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の含有量の合計が10質量部を超えると、誘電特性が劣る傾向にある。
【0028】
[他の成分]
接着剤組成物は、本技術の効果を損なわない範囲で、上述した成分A~成分D以外の他の成分をさらに含有してもよい。他の成分としては、有機溶剤、シランカップリング剤などの接着性付与剤、流動性調整や難燃性付与のためのフィラーなどが挙げられる。有機溶剤は、特に制限されないが、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族系溶剤、エステル系溶剤などが挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、芳香族系溶剤、エステル系溶剤が好ましい。有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
接着剤組成物は、上述した成分A~成分D以外の他の成分として、例えば、変性ポリフェニレンエーテル樹脂として末端に不飽和結合を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を用いる場合、末端の不飽和結合のラジカル硬化反応を促進する触媒としての過酸化物を実質的に含有しないことが好ましい。接着剤組成物中の過酸化物の含有量の合計は、0.01質量%以下が好ましく、0.001質量%以下がより好ましい。このような構成により、接着剤組成物は、加熱により、変性ポリフェニレンエーテル樹脂が実質的に架橋しないため、硬化後のガラス転移温度を容易に低くでき、耐屈曲性をより良好にすることができる。過酸化物としては、例えば有機過酸化物が挙げられ、具体例としては、ジクミルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイドなどが挙げられる。
【0030】
<熱硬化性接着シート>
本技術に係る熱硬化性接着シートは、基材上に、上述した接着剤組成物からなる熱硬化性接着層が形成されており、フィルム形状である。熱硬化性接着シートは、例えば、上述した接着剤組成物を溶剤で希釈し、乾燥後の厚さが10~60μmとなるように、バーコーター、ロールコーター等により、基材の少なくとも一方の面に塗布し、50~130℃程度の温度で乾燥させることにより得られる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムなどの基材に、必要に応じてシリコーンなどで剥離処理がされた剥離基材を用いることができる。
【0031】
熱硬化性接着シートを構成する熱硬化性接着層の厚みは、目的に応じて適宜設定することができるが、一例として、1~100μmとすることができ、1~30μmとすることもできる。
【0032】
熱硬化性接着シートを構成する熱硬化性接着層は、上述のように熱硬化後も誘電率及び誘電正接が低く、熱硬化後も耐屈曲性が良好な接着剤組成物からなるため、例えば、フレキシブルプリント配線板の層間接着剤や、フレキシブルプリント配線板の端子部と、その裏打ちするための接続用基材とを接着固定する用途に適用できる。また、熱硬化性接着シートは、熱硬化後の剥離強度や耐熱性、常温での保管性も良好である。
【0033】
<プリント配線板>
本技術に係るプリント配線板は、上述した接着剤組成物(熱硬化性接着層)の硬化物を介して、基材と配線パターンとを備える配線付基材の配線パターン側と、カバーレイとが積層されている。プリント配線板は、例えば、配線付基材の配線パターン側とカバーレイとの間に熱硬化性接着シートの熱硬化性接着層を配置し、熱圧着することで、配線付基材とカバーレイとを一体化することにより得られる。
【0034】
配線付基材は、上述した接着剤組成物と同様に、高周波領域の電気特性が優れている、例えば、周波数1~10GHzの領域おいて、誘電率及び誘電正接が低いことが好ましい。基材の具体例としては、液晶ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド及びポリエチレンナフタレ-トのいずれかを主成分とする基材が挙げられる。これらの基材の中でも、液晶ポリマーを主成分とする基材(液晶ポリマーフィルム)が好ましい。液晶ポリマーは、ポリイミドと比較して吸湿率が非常に低く、使用環境に左右されにくいためである。
【0035】
本技術に係る接着剤組成物を用いたプリント配線板の構成例について説明する。
図1に示すプリント配線板1は、液晶ポリマーフィルム2と銅箔(圧延銅箔)3とを備える配線付基材(銅張積層板:CCL)の銅箔3側と、液晶ポリマーフィルム4とが、上述した接着剤組成物(熱硬化性接着層)からなる硬化物層5を介して積層されている。
【0036】
また、プリント配線板は、例えば
図2に示すような多層構造であってもよい。
図2に示すプリント配線板6は、ポリイミド層7(厚み25μm)と銅箔8(厚み18μm)と銅めっき層9(厚み10μm)を備える配線付基材の銅メッキ層9側と、カバーレイ10(厚み25μm)とが、上述した接着剤組成物(熱硬化性接着層)からなる硬化物層5(厚み35μm)を介して積層されている(合計厚み201μm)。
【実施例】
【0037】
以下、本技術の実施例について説明する。なお、本技術は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
<成分A>
タフテックH1221:水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(Mw120,000、スチレン比率12%)、旭化成社製
ハイブラー7125:水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(Mw110,000、スチレン比率20%)、クラレ社製
タフテックH1041:水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(Mw90,000、スチレン比率30%)、旭化成社製
タフテックH1043:水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(Mw110,000、スチレン比率67%)、旭化成社製
【0039】
<成分B>
OPE-2St2200:両末端にビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂(Mn2,200)、三菱ガス化学社製
SA9000:両末端にメタクリロイル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂(Mw1,700)、SABIC社製
SA120:両末端に水酸基を有するポリフェニレンエーテル樹脂、SABIC社製
S201A:両末端に水酸基を有するポリフェニレンエーテル樹脂、旭化成社製
【0040】
<成分C>
4032D:ナフタレン型エポキシ樹脂、DIC社製
JER828:エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製
YD014:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学社製
【0041】
<成分D>
ノバキュア3941:イミダゾール変性体を核としその表面をポリウレタンで被覆してなるマイクロカプセル型潜在性硬化剤、旭化成イーマテリアルズ社製
2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール(潜在性のないイミダゾール)
【0042】
[熱硬化性接着剤組成物の調製]
表1に示す各成分を表1に示す質量となるように秤量し、トルエン及び酢酸エチルを含む有機溶剤中に均一に混合することにより、熱硬化性接着剤組成物(熱硬化性接着層形成用塗料)を調製した。
【0043】
[熱硬化性シートの作製]
得られた熱硬化性接着剤組成物を、剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、50~130℃の乾燥炉中で乾燥することにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、厚さ25μmの熱硬化性接着層とを有する熱硬化性接着シートを作製した。
【0044】
[評価]
<熱硬化性接着層形成用塗料の塗布性(フィルムの状態)の評価>
上述の熱硬化性シートの作製の際、熱硬化性接着剤組成物の塗布性について、以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
A:接着剤組成物の相溶性が良好であり、フィルム状態で後述する評価を行うことが可能
B:接着剤組成物の相溶性が悪く、フィルム状態で後述する評価を行うことが不可能
【0045】
<誘電率>
実施例及び比較例で作製した熱硬化性接着シート同士をラミネートし、厚さ1mmの試験片を作製した後、この試験片を、160℃、1.0MPaの条件で1時間熱硬化させ、評価用試験片を作製した。この評価用試験片について、誘電率測定装置(AET社製)を用い、測定温度23℃、測定周波数10GHzにおける誘電率を求めた。結果を表1に示す。
A:誘電率が2.3未満
B:誘電率が2.3以上、2.4未満
C:誘電率が2.4以上、2.6未満
D:誘電率が2.6以上
【0046】
<誘電正接>
上述した誘電率の測定と同様の方法で、評価用試験片について誘電正接を求めた。結果を表1に示す。
A:誘電正接が0.002未満
B:誘電正接が0.002以上、0.0035未満
C:誘電正接が0.0035以上、0.005未満
D:誘電正接が0.005以上
【0047】
<剥離強度>
得られた熱硬化性接着シートを所定の大きさの短冊(2cm×5cm)にカットし、そのカットした熱硬化性接着層を2cm×7cm×50μm厚の液晶ポリマーフィルムに100℃に設定したラミネータで仮貼りした後、基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、同じ大きさの銅張積層板(厚み12μmの圧延銅箔と厚み50μmの液晶ポリマーフィルムとからなるCCL)の圧延銅箔面(粗面化処理を行っていない面)を上から重ね合わせ、160℃、1.0MPaの条件で1時間熱硬化させた。これにより、サンプルを作製した。
【0048】
得られたサンプルに対し、剥離速度50mm/minで90度剥離試験を行い、引き剥がす際に要した力(初期の剥離強度及び信頼性試験後の剥離強度)を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
[初期(上述した160℃、1.0MPaの条件での熱硬化後にそのまま測定)]
A:剥離強度が8N/cm以上
B:剥離強度が6N/cm以上、8N/cm未満
C:剥離強度が4N/cm以上、6N/cm未満
D:剥離強度が4N/cm未満
【0050】
[信頼性試験後(85℃、相対湿度85%、240時間(すなわち、上述した160℃、1.0MPaの条件での熱硬化後に、85℃、相対湿度85%の環境に240時間投入し、取り出して3時間後に測定))]
A:剥離強度が7N/cm以上
B:剥離強度が5N/cm以上、7N/cm未満
C:剥離強度が3N/cm以上、5N/cm未満
D:剥離強度が3N/cm未満
【0051】
<耐熱性>
上述のサンプルをトップ温度260℃-30秒となるリフロー工程を3回通過させ、通過後のサンプルの外観を確認し、剥離や膨れが発生していないかどうかを下記基準に従って評価した。結果を表1に示す。
A:3回通過した後も異常なし
B:2回通過で異常なし、3回目で剥離や膨れ等の異常が発生
C:1回通過で異常なし、2回目で剥離や膨れ等の異常が発生
D:1回目で剥離や膨れ等の異常が発生
【0052】
<耐屈曲性>
得られた熱硬化性接着シートを所定の大きさの短冊(1.5cm×12cm)にカットし、そのカットした熱硬化性接着層を1.5cm×12cm×50μm厚の液晶ポリマーフィルムに100℃に設定したラミネータで仮貼りした後、基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を取り除いて熱硬化性接着層を露出させた。露出した熱硬化性接着層に対し、MIT耐屈試験用のFPC-TEGに重ね合わせ、160℃、1.0MPaの条件で1時間熱硬化させた。MIT耐屈試験用のTEG11の構成を
図3に示す。TEG11は、基材としての液晶ポリマーフィルム(厚み50μm)と、圧延銅箔(厚み12μm)とからなるCCLから銅配線を形成したものである。MIT耐屈試験は、作製した試験片12を、
図4に示す構造のMIT耐折疲労試験機13にセットして行った。折り曲げ角度135°、折り曲げクランプ角度R=0.38、試験速度175cpmの条件で行った。銅配線が破断するまでの折り曲げ回数を確認した。結果を表1に示す。
A:破断までの折り曲げ回数が1200回以上
B:破断までの折り曲げ回数が600回以上、1200回未満
C:破断までの折り曲げ回数が300回以上、600回未満
D:破断までの折り曲げ回数が300回未満
【0053】
<ライフ評価>
熱硬化性シートを常温で4か月保管した後、上述した剥離強度の評価と同様の評価を行った。熱硬化性接着シートを作製した直後に評価を行った剥離強度と比べた場合の低下率を確認した。結果を表1に示す。
A:剥離強度の低下が10%未満
B:剥離強度の低下が10%以上、30%未満
C:剥離強度の低下が30%以上
【0054】
<ガラス転移温度>
実施例及び比較例で作製した熱硬化性接着シート同士をラミネートし、厚さ600μmの試験片を作製した後、この試験片を、160℃、1.0MPaの条件で1時間熱硬化させ、評価用試験片を作製した。この試験片を用いて、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製)を用いて、10℃/分の速度で、-60℃から250℃まで昇温したときに現れるガラス転移温度を求めた。なお、共重合の高分子や、多数の成分の混合物の場合、複数のtanδピークが検出される場合があるが、その際はより高い値を示すtanδピーク(弾性率の変化がより大きい方)の温度をガラス転移温度とした。結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1に示す結果から、接着剤組成物の合計100質量部に対して、スチレン系エラストマー(成分A)を75~90質量部と、末端に重合性基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂(成分B)を3~25質量部と、エポキシ樹脂(成分C)及びエポキシ樹脂硬化剤(成分D)を合計で10質量部以下とを含有し、スチレン系エラストマーのスチレン比率が30%未満である接着剤組成物は、熱硬化後も誘電率及び誘電正接が低く、かつ、硬化後の接着剤組成物のガラス転移温度を-40~40℃の範囲に調整できるため、耐屈曲性が良好であることが分かった。
【0057】
実験例6の結果から、変性ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を25質量部超とすると、ガラス転移温度が100℃と高くなり、耐屈曲性が劣ることが分かった。
【0058】
実験例8の結果から、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の合計量を10質量部超とすると、誘電正接を低くするのが困難であることが分かった。
【0059】
実験例9,10の結果から、スチレン系エラストマーのスチレン比率を30%以上とすると、ガラス転移温度が100~120℃と高くなり、耐屈曲性を良好にするのが困難であることが分かった。
【0060】
実験例11、12の結果から、末端に水酸基を有するポリフェニレンエーテル樹脂を用いると、実験例11のように誘電特性及び耐屈曲性が劣るか、実験例12のようにフィルムの状態が悪くなり、誘電率、誘電正接、剥離強度、耐熱性、耐屈曲性の評価を行うことができなかった。
【0061】
実験例の結果から、変性ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を5~20質量部とすることにより、誘電率及び誘電正接が低く、耐屈曲性が良好であり、さらに耐熱性も良好であることが分かった。
【0062】
実験例の結果から、スチレン系エラストマーの重量平均分子量を100,000以上とすることにより、剥離強度、耐熱性及び耐屈曲性をより良好にできることが分かった。
【0063】
実験例の結果から、スチレン系エラストマーのスチレン比率を30%未満とすることにより、誘電特性、剥離強度、耐熱性及び耐屈曲性をより良好にできることが分かった。
【0064】
実験例の結果から、液状のエポキシ樹脂を用いることにより、剥離強度、耐熱性及び耐屈曲性をより良好にできることが分かった。
【0065】
実験例の結果から、潜在性のあるエポキシ樹脂硬化剤を用いることにより、常温での保管性も良好にできることが分かった。
【0066】
実験例3、7、14の結果から、10GHzにおいて誘電率(Dk)が2.3以下、誘電正接(Df)が0.002未満と非常に低い値を示すにもかかわらず、液晶ポリマーフィルムと粗面化処理を施していない圧延銅箔に対して8N/cm以上の非常に高い接着強度を示すことが分かった。
【符号の説明】
【0067】
1 プリント配線板、2 液晶ポリマーフィルム、3 銅箔、4 液晶ポリマーフィルム、5 接着剤組成物からなる硬化物層、6 プリント配線板、7 ポリイミド層、8 銅箔、9 銅メッキ層、10 カバーレイ、11 TEG、12 試験片、13 MIT耐折疲労試験機、14 プランジャー、15 上部チャック、16 回転チャック、17 折曲コマ