(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ポリオルガノシロキサン及びその熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 77/04 20060101AFI20230731BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C08G77/04
C08L83/04
(21)【出願番号】P 2021565925
(86)(22)【出願日】2019-05-06
(86)【国際出願番号】 CN2019085596
(87)【国際公開番号】W WO2020223864
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドワン,ホイフェン
(72)【発明者】
【氏名】ティアン,シュワイ
(72)【発明者】
【氏名】シュ,カイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ヘン
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-109260(JP,A)
【文献】特開平06-330464(JP,A)
【文献】特開昭58-189257(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105838079(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00-77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式を特徴とするポリオルガノシロキサン。
【化1】
[式中、aは6~18の間の任意の整数であり、
nは0.7~20の間の任意の数であり、
mは
60~1500の間の任意の数であり、
m/nは20を超える任意の数であり、
R
1は各場合に独立してC1~C5アルキル基又はフェニル基であり、
R
2は各場合に独立してC1~C5アルキル基であり、
XはC2~C6アルケニル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び水素の中から選択される1つ以上の基を表す。]
【請求項2】
Xの一部がアルコキシ基であることを特徴とする、請求項1に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項3】
X基の総モル数に基づいて、Xの少なくとも20モル%がアルコキシ基であることを特徴とする、請求項2に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項4】
Xの一部がビニル基であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項5】
X基の総モル数に基づいて、Xの少なくとも45mol%がビニル基であることを特徴とする、請求項4に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項6】
X基の総モル数に基づいて、Xの少なくとも65mol%及びXの少なくとも20mol%が、それぞれビニル基及びアルコキシ基であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項7】
Xの一部が水素原子であることを特徴とする、請求項1に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項8】
mが
60~380の間の任意の数であり、m/nが20
超500
以下の任意の数であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項9】
mが60~160の間の任意の数であり、m/nが50~150の間の任意の数であることを特徴とする、請求項8に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項10】
25℃で10~200mPa・sの動的粘度を特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項11】
3,000~10,000g/molの数平均分子量を特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項12】
1.6~2.0の多分散性指数を特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項13】
以下を含む、熱伝導性シリコーン組成物。
a) 請求項1~12のいずれか一項に記載のポリオルガノシロキサン、及び
b) 熱伝導性充填剤。
【請求項14】
成分b)が、成分a)の100重量部に基づいて、25~3000重量部の量で用いられることを特徴とする、請求項13に記載のシリコーン組成物。
【請求項15】
成分b)が、0.1~120μmの平均粒径を有することを特徴とする、請求項13又は14に記載のシリコーン組成物。
【請求項16】
成分a)及び成分b)がシリコーン組成物の総重量の95重量%超を占めることを特徴とする、請求項13~15のいずれか一項に記載のシリコーン組成物。
【請求項17】
さらに以下を含むことを特徴とする、請求項13~15のいずれか一項に記載のシリコーン組成物。
c) オルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び
d) Ptをベースとする触媒。
【請求項18】
希釈剤及び可塑剤が、シリコーン組成物の総重量に基づいて、0.1重量%未満の総量で存在することを特徴とする、請求項13~17のいずれか一項に記載のシリコーン組成物。
【請求項19】
充填剤表面処理剤が、シリコーン組成物の総重量に基づいて、0.1重量%未満の量で存在することを特徴とする、請求項13~18のいずれか一項に記載のシリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオルガノシロキサン及びその熱伝導性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車産業は急速に成長した。パワーバッテリーは電気自動車の主要技術として認識されている。パワーバッテリーモジュールの温度上昇は、電池性能の劣化につながる可能性があり、これは電気自動車の安全性、信頼性及び耐用年数を低下させるため、放熱はパワーバッテリーにとって重要である。典型的には、熱管理のための経路は、加熱素子から始まり、熱界面材料を介してヒートシンクに至る。放熱の向上には、熱界面材料の熱抵抗の低下が必要である。一般に、これは、例えば、熱伝導率を増加させ、熱界面材料のボンドライン厚を減少させ、熱接触抵抗を減少させることによって実現することができる。
【0003】
熱界面材料は、主にポリマーをベースとするマトリックス及び熱伝導性充填剤で構成される。ポリマーマトリックス、例えば、オルガノポリシロキサンは、通常、良好な熱伝導体ではないので、熱伝導性充填剤を加えることにより、その熱伝導率を高める必要がある。いくつかの先行技術において試みが行われた。
【0004】
CN1803925Aは、実施例1において、600mm2/秒の粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサン100部、アルミナ400部、オルガノハイドロジェンポリシロキサン5部及び白金をベースとする触媒0.2部を含む組成物の硬化物から形成された成形品と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン100部及び難燃剤0.1部を含む表面層とを含む熱伝導性シリコーン成形品を開示する。シリコーン成形品は、その加工性、耐熱性及び難燃性について知られているが、その熱伝導率については開示されていない。
【0005】
CN105838079Aは、実施例3において、300cpsの粘度を有するオクチル含有ビニル末端シリコーン油30部、水素シリコーン油0.2部、白金をベースとする触媒0.02部、石英粉末120部及びアルミナ120部を含む低オイルブリーディング熱伝導性シリコーングリース組成物を開示する。この組成物は1.85W/m・Kmの熱伝導率を有する。
【0006】
CN105482465Aは、実施例2において、540mPa・sの粘度を有する、ビニル側鎖を有するオクチル含有ポリジメチルシロキサン100部、オルガノハイドロジェンポリシロキサン12部、水酸化アルミニウム100部、白金をベースとする触媒0.1部及び低応力添加剤10部を含む超応力付加硬化シリコーンゴム組成を開示する。この組成物の粘度は1,300mPa・sであり、その熱伝導率は開示されていない。
【0007】
また、ベースポリマー、すなわち、ポリオルガノシロキサン中の熱伝導性充填剤の分散性をさらに改善することを目的としたいくつかの先行技術があり、そこでは充填剤をシランカップリング剤又は加水分解性基含有オリゴシロキサンで処理する。EP1726622B1は、実施例1において、400mPa・sの粘度を有するジメチルビニルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン7.87部、アルミナ88.5部、ビニル基及びアルミナを処理するためのトリメトキシシリルエチル基を含むオルガノポリシロキサン1.2部、トリメチルシロキシ末端ジメチルシロキサンとメチルハイドロジェンシロキサンとのコポリマー0.3部、19mPa・sの粘度を有するシラノール末端ジメチルシロキサンとメチルビニルシロキサンとのコポリマー0.2部、及び白金をベースとする触媒0.05部を含む熱伝導性シリコーン組成物を開示する。この組成物は60Pa・sの粘度及び2.7W/m・℃の熱伝導率を有する。
【0008】
US200180030327Aは、実施例2Bにおいて、50,000ダルトン未満の分子量を有するシリコーン油A4.6部、50,000ダルトン未満の分子量を有するシリコーン油B4.6部、アルミナ90部、アルミナを処理するためのセチルトリメトキシシラン0.5部、阻害剤0.1部及び触媒0.2部を含む熱界面材料を開示する。熱サイクルを繰り返した後、熱界面材料にほとんど油滴又は亀裂が観察されない。その実施例2Aにおいて、この米国出願はまた、50,000ダルトン未満の分子量を有する2つのシリコーン油及び60,000ダルトンを超える分子量を有するシリコーン油を含む熱界面材料を開示しており、これは反復熱サイクル試験後にかなりの油だれ及び亀裂を示す。しかし、本特許は、熱界面材料の熱伝導率を開示しない。
【0009】
上述の特許文献に記載されているベースポリマーに熱伝導性充填剤を大量に充填すると、生じたシリコーン組成物の粘度が上昇し、流動性が低下する傾向があり、したがって、小さな間隙を完全に充填することができない。さらに、高度に充填されたシリコーン組成物は、低い熱抵抗経路を作り出すように、低い組立圧力で細いボンドラインを達成することができず、それによってそれらの熱伝導率が制限される。したがって、より良好な熱伝導率を達成するためには、高い充填剤充填でも、より低い粘度を有するポリオルガノシロキサンを開発することが依然として必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】中国特許出願公開第1803925号明細書
【文献】中国特許出願公開第105838079号明細書
【文献】中国特許出願公開第105482465号明細書
【文献】欧州特許第1726622号明細書
【文献】米国特許出願公開第20018/0030327号明細書
【発明の概要】
【0011】
上記の技術的課題を解決するために、本開示は、同じ熱伝導性充填剤充填において、他のポリオルガノシロキサンと比較して、得られたシリコーン組成物の粘度を著しく低下させ、流動性及び加工性を改善することができるポリオルガノシロキサンを提供し、これは、小さな間隙を埋めるのを容易にし、低い組立圧力で細いボンドラインを達成し、それにより組成物の熱伝導率を改善する。一方、同じ粘度を有する熱伝導性シリコーン組成物については、ベースポリマーとして使用される本開示のポリオルガノシロキサンは、大幅に多量の熱伝導性充填剤を受け入れることができ、それによりそれらの熱伝導率が改善する。
【0012】
本開示において、ポリシロキサンの「構造式」は、特に断りのない限り、1H NMR分光法(核磁気共鳴)及び任意の29Si NMR分光法によって測定される。1H NMR分光法では、水素結合した原子及び官能基は周知のデータベース及び文献を参照して測定でき、一方29Si NMRは1H NMR分光法では正確に測定できない水素結合した原子及び基を検証したり、測定したりするのにさらに使われる。ポリシロキサンの分子組成を解析する場合、まず1H NMRスペクトルのベースラインを平準化した後、異なる種類の水素のシグナルピークを4回以上積分し、相対積分偏差が1%未満のピーク面積を求める。29Si NMR分光法が必要な場合には、同じ方法で種類の異なる種類のケイ素のシグナルピーク面積を求め、次に水素及びケイ素のシグナルピーク面積を比例変換して、ポリシロキサンの各基の単位のモル数を計算する。最後に、末端基解析によりポリシロキサンの構造式を測定する。一般に、NMR分光法によって測定される構造式は平均的な分子式である。本開示のポリシロキサンの構造式は、一般に入手可能なNMR分光法を用いて測定できることは事実である。しかし、ポリシロキサンの構造式の解析を容易にするために高品質のNMRスペクトルを得るには、1H NMR分光法には試験溶媒として重水素化クロロホルム及び内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を含まないクロロホルム、及び29Si NMR分光法には試験溶媒として重水素化ベンゼン及び緩和試薬としてクロムアセチルアセトネートが好ましい。
【0013】
本開示においては、「数平均分子量」(Mn)は、特に断りのない限り、NMR分光法により測定される。
【0014】
本開示において、「動的粘度」は、特に断りのない限り、DIN 51562に従って25℃で測定される。
【0015】
本開示において、「粒径」という用語は、粒子の等価直径、すなわち、試験される粒子と同じか又は類似の体積を有する均質な球状粒子の直径を指す。
【0016】
本開示において、「非存在下」とは、熱伝導性シリコーン組成物の総重量に基づいて、0.1重量%未満の、例えば、0.05重量%未満の又は0.01重量%未満でさえある量で存在することを意味する。
【0017】
<ポリオルガノシロキサン>
本開示の第1の態様は、式Iに示す構造式を有するポリオルガノシロキサンを提供する:
【0018】
【化1】
式中、aは6~18の間の任意の整数であり、
nは0.7~20の間の任意の数であり、
mは10~1500の間の任意の数であり、
m/nは20より大きい任意の数であり、
R
1は各場合に独立してC1~C5アルキル基又はフェニル基であり、
R
2は各場合に独立してC1~C5アルキル基であり、
XはC2~C6アルケニル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び水素の中から選択される1つ以上の基を表す。
【0019】
さらに、式Iでは、aは6、8、10、12、14、16又は18、特に6~16の間の任意の整数、より具体的には6~12の間の任意の整数とすることができる。
【0020】
nは0.7~3の間、4~8の間、9~14の間、又は15~20の間の任意の数、特に0.7~3の間、例えば0.7~1.2の間の任意の数とすることができる。
【0021】
mは10~220の間、220~380の間、380~660の間、660~850の間、850~1000の間、又は1000~1500の間の任意の数とすることができる。
【0022】
m/nは20、50、100、150、200、300、500、700、900、1100、1300、又は1500など、20を超える任意の数である。
【0023】
R1はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はフェニル基、好ましくはメチル基であることができる。
【0024】
R2はR1と同じか又は異なるC1~C5アルキル基、好ましくはメチル基であることができる。
【0025】
本明細書の好ましい実施形態では、R1及びR2はいずれもメチルである。
【0026】
末端基Xの全ては、C2~C6アルケニル(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、好ましくはビニル基)、アルコキシ基、ヒドロキシル基又は水素であることができる。あるいは末端基Xの一部はビニル基であり、残りはアルコキシ基であるか、又は一部はビニル基であり、残りはヒドロキシル基であるか、又は一部はアルコキシ基であり、残りはヒドロキシル基であるか、又は一部はビニル基であり、一部はアルコキシ基であり、残りはヒドロキシル基である。
【0027】
本明細書の一実施形態において、ポリオルガノシロキサンは、aが6~18の間の任意の整数であり、nが0.7~20の間の任意の数であり、mが10~380の間、例えば、60~220の間の任意の数であり、m/nが20~500の間、例えば、50~300の間の任意の数を表し、XがC2~C6アルケニル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び水素の中から選択される1つ以上の基を表す式Iに示す構造式を有する。本明細書のより具体的な実施形態において、ポリオルガノシロキサンは、aが6~18の間の任意の整数であり、nが0.7~20の間の任意の数であり、mが10~160の間、例えば、60~160の間の任意の数であり、m/nが20~150の間、例えば、50~150の間の任意の数であり、XがC2~C6アルケニル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び水素の中から選択される1つ以上の基を表す式Iに示す構造式を有する。
【0028】
本明細書の別の実施形態において、ポリオルガノシロキサンは、aが6~18の間の任意の整数であり、nが0.7~20の間の任意の数であり、mが380~850の間、例えば、380~660の間の任意の数であり、m/nが20~1200の間、例えば、50~900の間の任意の数であり、XがC2~C6アルケニル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び水素の中から選択される1つ以上の基を表す式Iに示す構造式を有する。
【0029】
さらに別の実施形態において、ポリオルガノシロキサンは、aが6~18の間の任意の整数であり、nが0.7~20の間の任意の数であり、mが850~1500の間、例えば、850~1200の間の任意の数であり、m/nが20~1700の間、例えば、50~1500の間の任意の数であり、XはC2~C6アルケニル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び水素の中から選択される1つ以上の基を表す式Iに示す構造式を有する。
【0030】
本明細書の一実施形態において、ポリオルガノシロキサンは、aが6~18の間の任意の整数であり、nが0.7~20の間の任意の数であり、mが10~1500の間の任意の数であり、m/nが20を超える任意の数であり、Xの一部がアルコキシ基である式Iに示す構造式を有する。上記の実施形態では、特に、X基の総モル数に基づくXの少なくとも20モル%、例えば、35モル%又は45モル%はアルコキシ基である。上記の割合は、1H NMR分光法及び任意の29Si NMR分光法により測定される。具体的には、該割合は、以下の基
【0031】
【化2】
におけるX基からの全ての水素シグナルのピーク面積に対する以下の基
【0032】
【化3】
におけるR基からの全ての水素シグナルのピーク面積の比によって変換され、Rはアルキル基を表し、Xはビニル基、アルコキシ基及びヒドロキシル基の中から選択される1つ以上の基を表す。
【0033】
本明細書の別の実施形態では、ポリオルガノシロキサンは、aが6~18の間の任意の整数であり、nが0.7~20の間の任意の数であり、mが10~1500の間の任意の数、m/nが20を超える任意の数であり、Xの一部がビニル基である式Iに示す構造式を有する。上記の実施形態では、特に、X基の総モル数に基づいて、Xの少なくとも45モル%、例えば、55モル%又は65モル%はビニル基である。上記の割合は、アルコキシ基に関して先の方法で詳細に記載されているように、1H NMR分光法及び任意の29Si NMR分光法によって測定される。
【0034】
さらに別の実施形態において、ポリオルガノシロキサンは、aが6~18の間の任意の整数であり、nが0.7~20の間の任意の数であり、mが10~1500の間の任意の数であり、m/nが20を超える任意の数であり、Xの一部がビニル基であり、Xの一部がアルコキシ基である式Iに示す構造式を有する。上記の実施形態において、特に、Xの少なくとも55モル%がビニル基であり、Xの少なくとも35モル%がアルコキシ基であるか、又はXの少なくとも45モル%がビニル基であり、Xの少なくとも45モル%がアルコキシ基であるか、又はXの少なくとも65モル%がビニル基であり、Xの少なくとも20モル%がアルコキシ基であり、全ての割合はX基の総モル数に基づく。上記実施形態のいずれか1つにおいて、特に、Xの少なくとも55モル%はビニル基であり、Xの少なくとも35モル%はアルコキシ基であり、Xの少なくとも10モル%はヒドロキシル基であるか、又はXの少なくとも45モル%はビニル基であり、Xの少なくとも45モル%はアルコキシ基であり、Xの少なくとも10モル%はヒドロキシル基であるか、又はXの少なくとも65モル%はビニル基であり、Xの少なくとも20モル%はアルコキシ基であり、Xの最大で10モル%はヒドロキシル基であり、全ての割合はX基の総モル数に基づく。上記の割合は、アルコキシに関して先の方法で詳細に記載されているように、1H NMR分光法及び任意の29Si NMR分光法によって測定される。
【0035】
本明細書の一実施形態において、ポリオルガノシロキサンは、aが6~18の間の任意の整数であり、nが0.7~20の間の任意の数であり、mが10~1500の間の任意の数であり、m/nが20を超える任意の数であり、Xの一部が水素原子である式Iに示す構造式を有する。このようなポリオルガノシロキサンは、ヒドロキシル末端ポリシロキサン、ジアルコキシシラン又はそのオリゴマー、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン及びオリゴマーのホスホニトリルクロリドを出発材料として用いて調製することができる。
【0036】
本開示のポリオルガノシロキサンは、適切には1000未満、例えば、900、800、700、600、500、400、300又は200mPa・s未満、好ましくは10~200mPa・sという25℃における動的粘度を有する。ポリオルガノシロキサンの粘度が低すぎる場合、熱伝導性充填剤が充填されたシリコーン組成物は沈降しやすく、一方、ポリオルガノシロキサンの粘度が高すぎると、同じ充填剤充填で有意な粘度低下効果を持たないシリコーン組成物が生じる。
【0037】
本開示のポリオルガノシロキサンは、適切には60,000g/mol未満、例えば、50,000、40,000又は30,000g/mol未満、特に5,000~20,000g/molの間の重量平均分子量(Mw)を有する。数平均分子量(Mn)は適切には30,000g/mol未満であり、例えば、25,000、20,000又は15,000g/mol未満、特に3000~10,000g/molの間である。多分散性指数Mw/Mnは、適切には1.5~2.0の間、例えば、1.6~2.0の間、又は1.7~1.9の間である。
【0038】
本開示のポリオルガノシロキサンは、単一のポリオルガノシロキサン化合物、及び2種以上のポリオルガノシロキサン化合物の組合せを含む。個々のポリオルガノシロキサン分子について、m及びnは上記の範囲内の整数であり、X基において上に挙げたのいずれか1つが100%、あるいは1つが50%、1つが50%を占める。しかし、2種以上の異なるポリオルガノシロキサン化合物の混合物では、m及びnは範囲内の正の数であり、これは平均値を表し、X基では、上に挙げた個々のものの割合は、0~100%の範囲内の任意の数であり得、これは平均値を表し、全てのX基の合計割合は100%である。
【0039】
本開示のポリオルガノシロキサンの例は以下を含むが、これらに限定されるものではない。
((H2C=CH)(CH3)2SiO)1.54((CH3)2SiO)89.50((CH3)(C8H17)SiO)0.99(Si(OCH3)(CH3)2)0.46
((H2C=CH)(CH3)2SiO)1.43((CH3)2SiO)77.69((CH3)(C8H17)SiO)0.81(Si(OCH3)(CH3)2)0.57
((H2C=CH)(CH3)2SiO)1.46((CH3)2SiO)78.89((CH3)(C8H17)SiO)0.81(Si(OCH3)(CH3)2)0.54
((H2C=CH)(CH3)2SiO)1.00((CH3)2SiO)150.10((CH3)(C8H17)SiO)1.50(Si(OCH3)(CH3)2)1.00
((H2C=CH)(CH3)2SiO)1.20((CH3)2SiO)133.40((CH3)(C12H25)SiO)1.40(Si(OCH3)(CH3)2)0.80、及び
((H2C=CH)(CH3)2SiO)1.36((CH3)2SiO)76.70((CH3)(C8H17)SiO)0.85(Si(OCH3)(CH3)2)0.64
【0040】
<熱伝導性シリコーン組成物>
本開示の第2の態様は、以下を含む熱伝導性シリコーン組成物を提供する:
a) 本発明の第一の態様によるポリオルガノシロキサン、及び
b) 熱伝導性充填剤。
【0041】
成分a)
成分a)は、本開示の熱伝導性シリコーン組成のベースポリマーとして使用され、本開示の第1の態様に従った分子構造を有する単一のポリオルガノシロキサン化合物、又は前記分子構造における2種以上のポリオルガノシロキサン化合物の組合せとすることができる。
【0042】
本明細書の好ましい実施形態において、成分a)は、aが6~18の間の任意の整数であり、mが60~160の間の任意の数であり、nが0.7~3の間の任意の数であり、m/nが50~150の間の任意の数であり、Xの少なくとも20mol%がアルコキシ基である式Iに示す構造式を有する。
【0043】
別のより具体的な実施形態において、成分a)は、aが6~16の間の任意の整数であり、mが70~100の間の任意の数であり、nが0.7~1.2の間の任意の数であり、m/nが70~130の間の任意の数であり、Xの少なくとも65mol%がビニル基であり、Xの少なくとも20mol%がアルコキシ基である式Iに示す構造式を有する。
【0044】
成分b)
成分b)の平均粒径は特に制限しないが、0.1~120μm、さらに0.1~50μmの範囲が好ましい。成分b)が好ましい範囲を下回る平均粒径を有する場合、成分b)の添加中にシリコーン組成物の粘度が上昇する一方、粒径が好ましい範囲を上回ると、充填剤粒子間の隙間がより広がり、空気吸着が促進され、それにより熱伝導率が低下する。成分b)の形状は特に制限されておらず、球形、円柱状、針状、円板状、又は非晶質であり得る。成分b)は、単一の充填剤であってもよいし、2種以上の異なる充填剤の混合物であってもよい。2種以上の異なる充填剤を使用する場合、平均粒径が変動する場合がある。
【0045】
適切な熱伝導性充填剤の非限定的な例としては、金属(アルミニウム、銅、ニッケル、金、銀、ガリウム、インジウム、及びケイ素など)、金属酸化物(アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、酸化ジルコニウム、及び二酸化ケイ素など)、金属窒化物(窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素など)、金属炭化物(炭化ホウ素及び炭化ケイ素など)及び非金属(グラファイト及びグラフェンなど)が挙げられる。本明細書の一実施形態において、熱伝導性充填剤はアルミナである。本明細書の別の実施形態では、熱伝導性充填剤は、アルミナと酸化亜鉛との混合物である。
【0046】
本開示の一実施形態において、成分b)は、0.1~120μm、例えば、0.1~50μmの平均粒径を有する単一の充填剤である。本明細書の別の実施形態において、成分b)は、充填剤b1)、すなわち、平均粒径が20μm以上の熱伝導性充填剤、及び充填剤b2)、すなわち、平均粒径が20μm未満の熱伝導性充填剤を含む。本明細書のさらに別の実施形態において、成分b)は、充填剤b1)、すなわち、平均粒径が20μm以上100μm以下、例えば、30μmを超え60μm以下である熱伝導性充填剤、及び充填剤b2)、すなわち、平均粒径が0.1μm以上20μm未満、例えば、1μm以上10μm以下である熱伝導性充填剤を含む。上記の実施形態の両方において、充填剤b2)に対する充填剤b1)の質量比は、適切には0.3~5、例えば、0.3~2の範囲である。
【0047】
成分b)は、100重量部の成分a)に基づいて、典型的には25~3,000重量部の量で用いられる。成分a)は、特に有利に、高い充填量の成分b)の存在下で得られるシリコーン組成物の粘度を低下させることができ、それによって熱伝導率を改善する。成分b)の高い充填量は、特定の熱伝導性充填剤の密度及びポリオルガノシロキサンとの相溶性に従って当業者によって測定することができ、一般に熱伝導性充填剤の種類によって変化する。例えば、100重量部の成分a)に基づいて、アルミナ充填剤を750~1,350重量部の量で使用する場合、この量を高充填量とみなすことができる。100重量部の成分a)に基づいて、窒化ホウ素充填剤を100~150重量部の量で使用する場合、この量を高充填量とみなすことができる。しかし、100重量部の成分a)に基づいて、グラファイト充填剤を25重量部までの量で使用する場合、この量を高充填量とみなすことができる。
【0048】
本開示においては、成分b)が表面処理に供されるか否かは特に制限されるものではない。しかし、製造コストを削減し、表面処理剤残留物により引き起こされる熱伝導率へのダメージを避けるために、表面処理されていない熱伝導性充填剤が好ましい。
【0049】
本開示の一実施形態において、成分a)及びb)は、シリコーン組成物の総重量に基づいて、95%超、例えば、96%、97%、98%、99%又はそれ以上を占める。
【0050】
本開示において、熱伝導性シリコーン組成物の形態は、特に制限されず、これは、室温において、グリース状、ペースト状、スラリー様、又は粘土様であり得る。本開示の組成物は、非硬化性であり得るか、又は架橋剤(成分c)及び触媒(成分d)を添加することによって硬化性の形態に変換することができる。本開示の組成物が硬化性である場合、それはゲル様生成物(すなわち、熱伝導性シリコーンゲル)、又はゴム状生成物(すなわち、熱伝導性シリコーンゴム)を形成するように硬化させることができ、ここで、硬化は組成物の調製中に実施することができ、すなわち、成分が混合された後に加熱硬化されるか、又は組成物の使用中に硬化が起こり、すなわち、組成物は、加熱素子からの熱によって硬化され、硬化メカニズムは特に制限されず、適切なメカニズムには、ヒドロシリル化及び縮合が含まれるが、ヒドロシリル化反応が好ましく、これは、組成物が副生成物を生成せずに迅速に硬化することを可能にするためである。硬化性熱伝導性シリコーン組成物の包装形態は特に制限されず、1包又は2包で供給することができる。
【0051】
成分c)
架橋剤の種類は、成分a)、すなわちポリオルガノシロキサンの分子構造、より具体的には成分a)の末端基Xの種類によって測定することができる。成分(c)が含まれた後、本開示の熱伝導性シリコーン組成物は硬化可能な形態に変換される。
【0052】
- ヒドロシリル化による本開示の組成物の硬化
成分a)の末端基Xの40mol%超、例えば、50mol%超、60mol%超、70mol%超、又は80mol%超、又は90mol%超がビニル基である。特定の場合において、成分a)中のXの少なくとも65mol%はビニル基であり、Xの少なくとも20mol%はアルコキシ基である。
【0053】
上記の場合のいずれか1つにおいて、成分(c)は、典型的には、平均して1分子当たり少なくとも3個のSi-H基を有するものをはじめとするオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。Si-H基の位置は特に制限されず、それらは側基としてのみ、又は側基及び末端基の両方として存在することができる。
【0054】
上記の場合のいずれか1つにおいて、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、25℃で適切には10~500mPa・s、例えば、50~300mPa・sの動的粘度を有する。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、シリコーン組成物の下流用途の対象となる量で使用することができ、成分a)に関して過剰であってもなくてもよい。
【0055】
- 縮合による本開示の組成物の硬化
成分a)の末端基Xの50mol%超、例えば、60mol%超、70mol%超、又は80mol%超、又は90mol%超がアルコキシ基及び/又はヒドロキシルである。
【0056】
この場合、成分(c)は、シラノール基との縮合反応を起こすことができる活性物質の中から選択される。これには、典型的には、多官能性(官能性3以上)のアルコキシシラン、アシルオキシシラン、ケトキシイミノシラン及びアルケニルオキシシランなど、1分子あたり少なくとも3個のケイ素結合した加水分解性基を含むシランが含まれる。
【0057】
上記の場合のいずれか1つにおいて、シランはシリコーン組成物の下流用途の対象となる量で使用することができ、成分a)に関して過剰であってもなくてもよい。
【0058】
成分d)
触媒の種類は、成分a)、すなわち、ポリオルガノシロキサンの分子構造、及び成分(c)中の架橋剤の種類、より具体的には成分a)ポリオルガノシロキサン中の末端基Xの種類及び成分(c)中の架橋剤の種類によって測定することができる。成分(d)は、主に、本開示の熱伝導性シリコーン組成物の硬化を促進するために使用される。
【0059】
- ヒドロシリル化による本開示の組成物の硬化
成分d)として白金をベースとする触媒を選択することができる。
【0060】
白金をベースとする触媒の非限定的な例としては、塩化白金酸、塩化白金酸塩、白金のオレフィン錯体、及び白金のアルケニルシロキサン錯体が挙げられる。
【0061】
白金をベースとする触媒は、所望の硬化速度に従う量で使用することができ、これは、通常、効果的なヒドロシリル化反応を保証するために必要とされる最小量である。
【0062】
- 縮合による本開示の組成物の硬化
縮合反応触媒は任意成分であり、成分(c)がケトキシム等を加水分解性基とするシランの場合は一般に必要ない。
【0063】
縮合反応触媒の非限定的な例としては、有機チタン触媒(テトラ-n-ブチルチタン酸塩、テトライソブチルチタン酸塩、テトラ-t-ブチルチタン酸塩、テトライソプロピルチタン酸塩、テトライソオクチルチタン酸塩、ジイソブチルビス(アセチルアセトン)チタン酸塩、ジイソプロピルビス(アセト酢酸エチル)チタン酸塩など)、有機スズ触媒(ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクタノエート及びジブチルスズジアセチルアセトネートなど)が挙げられる。
【0064】
縮合反応触媒は、所望の硬化速度に従う量で使用することができ、これは、通常、効果的な縮合反応を保証するために必要とされる最小量である。
【0065】
他の任意成分
本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、必要に応じて他の成分を、そのような成分が本発明の効果を損なわない限り、さらに含むことができる。任意に加えることができる他の成分としては、充填剤表面処理剤、希釈剤及び可塑剤及び反応阻害剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
充填剤表面処理剤は、典型的には、2つ以上(例えば、3つ)の加水分解性基を有するシラン又はシロキサンオリゴマーを含む。2つ以上、特に3つの加水分解性基を有するシランはシランカップリング剤としても知られており、その非限定的な例としては、オクチルトリメトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン及びセチルトリメトキシシランが挙げられる。2つ以上(例えば、3つ)の加水分解性基を有するシロキサンオリゴマーは、典型的には、末端アルコキシ基又は側鎖アルコキシ基を含むシロキサンオリゴマーを含み、オリゴマーは、一般的に100未満、例えば、80未満又は50未満の重合度を有する。成分b)、すなわち、熱伝導性充填剤を充填剤表面処理剤で処理することにより、ベースポリマー中の成分b)の分散性を向上させることができる。それにもかかわらず、本開示の成分a)の優れた特性、及び充填剤表面処理剤残留物が熱伝導率を損ない、製造コストを上昇させるという事実を考慮すると、本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、充填剤表面処理剤なしで調製されることが好ましい。
【0067】
本明細書における希釈剤及び可塑剤は、材料の粘度を低下させ、流動性を上昇させることができる非水性液体を指す。適切な希釈剤及び可塑剤の非限定的な例としては、25℃で10~5,000mPa・sの粘度を有するジメチルシリコーン油、25℃で15~300mPa・sの粘度を有するMDTシリコーン油、25℃で5~100mPa・sの粘度を有するα,ω-ジメトキシポリジメチルシロキサン、25℃で10~100mm2/秒の粘度を有する鉱油、アセトン、エステル(フタル酸エステル、二塩基エステル、リン酸エステル及びポリエステルなど)、及びアルキル芳香族化合物(ドデシルベンゼンなど)が挙げられる。典型的には、希釈剤及び可塑剤をシリコーン組成物に添加して、高充填量でのその粘度を低下させることができることは真実である。それにもかかわらず、本開示の成分a)の優れた特性、及び浸出又は揮発するときに希釈剤及び可塑剤が容易に熱伝導率の低下をもたらす空洞を形成する可能性があるという事実を考慮すると、本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、希釈剤及び/又は可塑剤なしで調製されることが好ましい。
【0068】
反応阻害剤の非限定的な例としては、アセチレン化合物(3-メチル-1-ブチン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール及び3,7,11-トリメチル-ドデシン-3-オールなど)、ポリビニルポリシロキサン、アミド化合物及びマレイン酸塩化合物が挙げられる。ヒドロシリル化反応では、ビニル含有シリコーン油は反応阻害剤を添加しないと水素シリコーン油と非常に速く反応し、熱伝導性シリコーン組成物の可使時間に影響を及ぼす。
【0069】
本開示の一実施形態において、熱伝導性シリコーン組成物は、式Iに示すポリオルガノシロキサン100重量部、及び熱伝導性充填剤500~1,350重量部を含む。本明細書のより具体的な実施形態において、熱伝導シリコーン組成物は、aが6~18の間の任意の整数であり、mが60~160の間の任意の数であり、nが0.7~3の間の任意の数であり、m/nが50~150の間の任意の数であり、Xの少なくとも65mol%がビニル基であり、Xの少なくとも20mol%がアルコキシ基である式Iに示すポリオルガノシロキサン100重量部及び熱伝導性充填剤500~1,350重量部、好ましくは750~1,350重量部を含む。前記実施形態のいずれか1つにおいて、熱伝導性充填剤は、アルミナ、又はアルミナと酸化亜鉛との混合物である。
【0070】
本開示の別の実施形態において、熱伝導性シリコーン組成物は、式Iに示すポリオルガノシロキサン100重量部、熱伝導性充填剤200~700重量部、架橋剤5~15重量部及び触媒0.1~1重量部を含む。本明細書のより具体的な実施形態において、熱伝導性シリコーン組成物は、aが6~18の間の任意の整数であり、mが60~160の間の任意の数であり、nが0.7~3の間の任意の数であり、m/nが50~150の間の任意の数であり、Xの少なくとも65mol%がビニル基であり、Xの少なくとも20mol%がアルコキシ基である式Iに示すポリオルガノシロキサン100重量部、熱伝導性充填剤200~700重量部、好ましくは300~550重量部、架橋剤5~15重量部、及び触媒0.1~1重量部を含む。前記実施形態のいずれか1つにおいて、熱伝導性充填剤は、アルミナ、又はアルミナと酸化亜鉛との混合物である。
【0071】
<使用>
本開示の第3の態様は、さらに、電気自動車、電子部品、半導体、チップ、家電、通信及びコンピュータ、特に電池、ECU、モータ、電子部品などを効果的に冷却することができる電気自動車のための熱界面材料としての本開示の第2の態様の熱伝導性シリコーン組成物の使用を提供する。
【0072】
<ポリオルガノシロキサン組成物>
本開示の第4の態様はまた、以下を含むポリオルガノシロキサン組成物を提供する。
i) 本開示の第1の態様によるポリオルガノシロキサン、
ii) 充填剤、
iii) オルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び
iv) 白金をベースとする触媒、並びに
任意に、
v) 阻害剤、及び
vi) ビニルシロキサン。
【0073】
それらの中で、成分iii)、iv)及びv)は、それぞれ本開示の第2の態様によるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、白金をベースとする触媒、及び反応阻害剤であり、成分ii)は、典型的には、ヒュームドシリカを含み、任意に当技術分野で慣用的に使用される様々な充填剤も含み、ヒュームドシリカは、未処理でも、又は表面処理剤、例えば、メチルシラン又はシラザン、例えば、ヘキサメチルジシラザン又はテトラメチルジビニルジシラザンによって処理されていてもよく、成分vi)は、成分i)とは異なるビニル含有ポリオルガノシロキサンを指す1種以上のビニルシロキサンを含む。本開示の一実施形態において、成分vi)は、25℃で5,000~1,000,000、特に5,000~100,000mPa・sの動的粘度を有するビニル末端ポリオルガノシロキサン、及び任意に25℃で5,000mPa・s未満、例えば、3,000mPa・s未満の動的粘度を有するビニル含有ポリオルガノシロキサンを含む。
【0074】
上記のポリオルガノシロキサン組成物は、必要に応じて他の成分をさらに含むことができるが、希釈剤及び可塑剤を添加しない方が好ましい。この低粘度ポリオルガノシロキサン組成物は、特にスクリューなしの射出成形機での射出成形に使用でき、絶縁体、ケーブル付属品、アノードキャップ、スパークプラグカバー、難燃性ワイヤなどのシリコーンゴム部品を作ることができる。
【0075】
ポリオルガノシロキサン組成物は1包又は2包で供給することができる。2包形態の場合は、成分iii)及び成分iv)が同じ包装に入っていない限り、他の成分がどの包装に入っているかは特に制限されない。射出成形を容易にするために、2包中の詰物の粘度は同一又は類似でなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1a】実施例1のポリオルガノシロキサンポリマーA-1の
1H NMRスペクトルを示す。
【
図1b】実施例1のポリオルガノシロキサンポリマーA-1の
29Si NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0077】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、それらの範囲に限定されない。以下の実施例に規定する条件のない試験方法は、いずれも従来の方法及び条件、又は製品仕様により選択される。
【0078】
ポリオルガノシロキサンの構造式及び数平均分子量の特徴づけ
1H NMR分光法及び29Si NMR分光法により測定した。
【0079】
1H NMR分光法
試験溶媒:重水素化クロロホルム
内部標準物質:TMSを含まないクロロホルム
分光計:Bruker Avance III HD 400
サンプリングヘッド:5mm BBOプローブ
測定パラメータ:
パルスシーケンス(Pulprog)=zg30
TD=65536
NS=64
DS=2
SWH=7211.54Hz
FIDRES=0.11Hz
AQ=4.54s
RG=86.97
DW=69.33μs
DE=6.50μs
TE=298.2K
D1=5s
SFO1=400.15MHz
【0080】
一部の測定パラメータは、分光計の種類によって適切に調整する必要がある場合がある。
【0081】
29Si NMR分光法
試験溶媒:重水素化ベンゼン
緩和試薬:クロムアセチルアセトネート
内部標準物質無添加
分光計:Bruker Avance III HD 400
サンプリングヘッド:5mm BBOプローブ
測定パラメータ:
パルスシーケンス=zgig60
TD=65536
NS=2048
DS=4
SWH=16025.64Hz
FIDRES=0.24Hz
AQ=2.04s
RG=196.53
DW=31.20μs
DE=13.00μs
TE=298.1k
D1=5s
SFO1=79.49MHz
【0082】
一部の測定パラメータは、分光計の種類によって適切に調整する必要がある場合がある。
【0083】
ポリオルガノシロキサンの各基の単位及びそのモル数を主として1H NMR積分によって得、基の種類を29Si NMR分光法によってさらに測定する。積分を実施する場合は、まずNMRスペクトルのベースラインを平準化した後、ピーク積分区間を選択し、各ピークを4回以上積分し、相対偏差が1%未満の平均ピーク面積を算出する。最後に、ポリシロキサンの分子組成を末端基法で解析してポリシロキサンの構造式を求めることにより、その数平均分子量を算出する。
【0084】
シリコーン組成物の粘度の測定
DIN EN ISO 3219(液状、乳濁状又は分散状の樹脂-回転粘度計による定せん断速度での粘度の測定方法)に従って実施する。
【0085】
実施例及び比較例で用いた原料は全て市販されており、詳細な情報は以下のとおりである。
Wacker Chemicalsにより供給されたWACKER(R) FINISH WS 62 M(DIN 51562に従って25℃で測定した動粘度が50~110mpa・sのヒドロキシル末端ポリジメチルシロキサン)、
塩基性触媒、25重量%の濃度のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液、
TCIにより供給されたエンドキャッパー、ビニルテトラメチルジシロキサン、
Wacker Chemicalsにより供給されたELASTOSIL(R)VINYLPOLYMER 120(ビニル基を含むポリジメチルシロキサンであり、25℃で測定した動粘性率が120mPa・sである)、
アルミナA、平均粒径40μmの球状アルミナ粉末、
アルミナB、平均粒径5μmの球状アルミナ粉末、
アルミナC、平均粒径20μmの球状アルミナ粉末、
アルミナD、平均粒径2μmの球状アルミナ粉末、
酸化亜鉛、平均粒径5μmの非球状酸化亜鉛粉末、
Wacker Chemicalsにより供給されたWACKER CATALYST EP、プラチナをベースとする触媒、
Wacker Chemicalsにより供給された、鎖延長剤としての25℃で約60mPa・sの動的粘度を有する水素含有ポリジメチルシロキサン1、
Wacker Chemicalsにより供給された、架橋剤としての、25℃で150~240mPa・sの動的粘度を有する水素含有ポリジメチルシロキサン2、
Wacker Chemicalsにより供給されたWACKER Inhibitor PT 88、阻害剤、
WACKER(R) AK 100、Wacker Chemicalsにより供給された、DIN 53019に従って25℃で測定した動的粘度が約100mm2/秒のポリジメチルシロキサン。
【0086】
別に規定するもののほか、下表の「重量%」は熱伝導性シリコーン組成物の総重量に基づく。
【実施例】
【0087】
[実施例1]ポリオルガノシロキサン
ポリオルガノシロキサンポリマーA変形例は、以下のように調製した。
(a) ヒドロキシル末端ポリシロキサン、ジアルコキシシラン及び塩基性触媒を窒素雰囲気下でフラスコに加え、撹拌し、80~100℃に加熱し、2~4時間重縮合反応を行った。
(b) エンドキャッパーを窒素雰囲気下でフラスコに加え、100~140℃に加熱して3~6時間平衡反応を行った。
(c) 得られた混合物をさらに160℃に加熱し、窒素雰囲気下で1時間触媒を分解した。
(d) 得られた上記混合物を蒸留フラスコに移し、175℃及び30mbarで2時間蒸留して、低沸点(大部分は小分子シロキサン)を除去し、最後に室温まで冷却してポリオルガノシロキサンを得た。
【0088】
表1に、各ポリマーA変形例の原料の量及び方法パラメータを列挙する。
【0089】
表2は、1H NMR分光法及び29Si NMR分光法で測定した各ポリマーA変形例の構造式、数平均分子量、25℃での動的粘度を列挙する。
【0090】
【0091】
【0092】
ポリマーA変形例の中で、ポリマーA-1は1.826という多分散性指数(Mw/Mn)を有し、これを溶離剤としてテトラヒドロフランを用いて、DIN 55672を基準にPSS SECcurityゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。
【0093】
[実施例2]非硬化性熱伝導性シリコーン組成物
表3の配合に従い、ポリオルガノシロキサンポリマーA-1、ポリマーB(WLASTOSIL(R) VINYLPOLYMER 120)及び熱伝導性充填剤を混合し、非硬化性の熱伝導性シリコーン組成物N-1~N-4’を得た。組成物の粘度を0.5s-1及び25s-1のせん断速度で測定した。その結果、ポリマーA-1は、同じ熱伝導性充填剤充填でポリマーBよりも組成物の粘度を低下させる効果が高いことが分かった。
【0094】
【0095】
表4の配合に従い、ポリオルガノシロキサンポリマーA-1、A-2、A-4、ポリマーB及び熱伝導性充填剤を混合し、非硬化性の熱伝導性シリコーン組成物N-5~N-8’を得た。組成物の粘度を10s-1のせん断速度で測定した。その結果、本開示のポリオルガノシロキサンであるポリマーAは、同じ熱伝導性充填剤充填でポリマーBよりも組成物の粘度を低下させるのに有効であり、ポリマーA-1は粘度の低下においてポリマーA-2及びA-4よりもわずかに優れていることがわかった。
【0096】
【0097】
表5において、ポリオルガノシロキサンポリマーA-1の粘度低下効果を、ポリマーC(NMR分光法によって特徴付けられる構造式(CH3)3SiO((CH3)2SiO)80((CH3)(C8H17)SiO)2Si(CH3)3、及び25℃で測定した100mPa・sの動的粘度を有するシリコーン油、「The method for preparing long chain alkyl silicone oil using hydrogen silicone oil as a starting material」最後の第3段落、413頁、Synthesis and Application of Organic Silicon Products[M]、北京:Chemical Industry Press、2009年、Lai Guoqiao、Xing Songminらを参考にして調製する)の粘度低下効果と同じ熱伝導性充填剤充填で比較する。その結果、ポリマーA-1の方がポリマーCよりも粘度を低下させる効果が高いことが分かった。
【0098】
【0099】
表6は、ポリオルガノシロキサンポリマーA-1及びポリマーD(WACKER(R) AK 100)の90%及び91%の熱伝導性充填剤充填における粘度変化を検討したものである。結果は、ポリマーA-1が同じ熱伝導性充填剤充填においてポリマーDと比較して、得られた組成物の粘度を著しく低下させ、したがって流動性及び加工性を改善できることを示す。さらに、同じ粘度を有する組成物について、ポリマーA-1は、ポリマーDよりも多量の熱伝導性充填剤を受容し、それにより組成物の熱伝導率を増加させる。ポリマーDは、その熱伝導性シリコーン組成物の成形、保存及び使用中に浸出傾向があることでよく知られていることに注意すべきである。
【0100】
【0101】
[実施例3]硬化性熱伝導性シリコーン組成物
表7の配合に従い、ポリオルガノシロキサンポリマーA-1及び他の成分を混合して成分AとBを得、さらにこれを質量比1:1で混合し、硬化性の熱伝導性シリコーン組成物組成物Cを得た。成分A及びBの粘度をせん断速度0.5s-1及び25s-1で測定した。結果は表8のとおりであった。
【0102】
【0103】