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  • 特許-SCR活性コーティングを有する触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】SCR活性コーティングを有する触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20230731BHJP
   B01J 29/80 20060101ALI20230731BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230731BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20230731BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
B01J35/04 301L
B01J35/04 301E
B01J29/80 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 400
F01N3/08 B
F01N3/28 301P
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022005655
(22)【出願日】2022-01-18
(62)【分割の表示】P 2018543128の分割
【原出願日】2017-04-13
(65)【公開番号】P2022058647
(43)【公開日】2022-04-12
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】16165078.3
(32)【優先日】2016-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D-63457 Hanau,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フランク・ヴェルシュ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・エックホフ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ザイラー
(72)【発明者】
【氏名】アンケ・シューラー
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-528350(JP,A)
【文献】特表2016-518244(JP,A)
【文献】特表2013-507321(JP,A)
【文献】特表2013-532049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/08,3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さLの触媒基板、並びに互いに異なる2つのSCR触媒活性材料A及びBを備える触媒であって、
前記SCR触媒活性材料Aが、イオン交換鉄を含有する、レビナイト構造型のゼオライトを含み、前記SCR触媒活性材料Bが、イオン交換鉄を含有する、チャバザイト構造型のゼオライトを含み、
(i)前記SCR触媒活性材料Aが、材料ゾーンAの形態で存在し、前記SCR触媒活性材料Bが、材料ゾーンBの形態で存在し、前記触媒基板の第1の端部から生じる前記材料ゾーンAが、少なくとも前記長さLの一部にわたって延在し、前記触媒基板の第2の端部から生じる前記材料ゾーンBが、少なくとも前記長さLの一部にわたって延在し、前記触媒基板の前記第2の端部から生じる材料ゾーンBが、その長さLの10~80%にわたって延在し、
排気ガスが、前記触媒基板の前記第1の端部において前記触媒の中へ流れ、前記触媒基板の前記第2の端部において前記触媒の外へ流れ、
(ii)50~70重量%の前記SCR触媒活性材料が、前記材料ゾーンBにあり、
(iii)前記チャバザイト構造型の前記ゼオライト中の、及び前記レビナイト構造型の前記ゼオライト中の鉄の量は、Feとして交換ゼオライトの総重量に関して算出したときに、互いに独立して、0.5~10重量%である、触媒。
【請求項2】
前記チャバザイト構造型の前記ゼオライトが、6~40のSAR値を有することを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記レビナイト構造型の前記ゼオライトが、15を超えるSAR値を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記チャバザイト構造型の前記ゼオライト中の、及び前記レビナイト構造型の前記ゼオライト中の鉄の量は、Feとして交換ゼオライトの総重量に関して算出したときに、互いに独立して、1~5重量%である、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項5】
前記チャバザイト構造型の前記ゼオライト中の、及び前記レビナイト構造型の前記ゼオライト中の、ゼオライト中のスワップ鉄とゼオライト中の格子アルミニウムとの原子比率は、互いに独立して、0.25~3である、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項6】
前記チャバザイト構造型の前記ゼオライト中の、及び前記レビナイト構造型の前記ゼオライト中の、ゼオライト中のスワップ鉄とゼオライト中の格子アルミニウムとの原子比率は、互いに独立して、0.4~1.5である、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項7】
材料ゾーンAが、前記触媒基板の前記長さLの全体にわたって延在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項8】
前記触媒基板の前記第1の端部から生じる材料ゾーンAが、その長さLの20~90%にわたって延在し、前記触媒基板の前記第2の端部から生じる材料ゾーンBが、その長さLの10~70%にわたって延在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項9】
前記触媒基板の前記第1の端部から生じる材料ゾーンAが、その長さLの20~100%にわたって延在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項10】
前記触媒基板が、壁流フィルタであり、前記壁流フィルタの第1の端部において開放され、第2の端部において閉鎖されたチャネルが、材料ゾーンAによってコーティングされ、前記壁流フィルタの前記第1の端部において閉鎖され、前記第2の端部において開放されたチャネルが、材料ゾーンBによってコーティングされることを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項11】
リーン運転の内燃エンジンからの排気ガスを浄化するための方法であって、前記排気ガスが、請求項1~10のいずれか一項に記載の触媒を通じて伝導され、材料ゾーンAが、材料ゾーンBの前で、浄化されるべき前記排気ガスと接触することを特徴とする、方法。
【請求項12】
リーン運転の内燃エンジンからの排気ガスを浄化するためのシステムであって、請求項1~10のいずれか一項に記載の触媒、並びに尿素水溶液用の注入器を備え、前記注入器が、前記触媒基板の前記第1の端部の前に位置付けられることを特徴とする、システム。
【請求項13】
前記排気ガスの流れの方向において、酸化触媒、尿素水溶液用の注入器、及び請求項1~10のいずれか一項に記載の触媒を有し、前記注入器が、前記触媒基板の前記第1の端部の前に位置付けられることを特徴とする、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
担体材料上の白金が、前記酸化触媒として使用されることを特徴とする、請求項13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジンの排気ガス中の窒素酸化物を低減させるための、SCR活性コーティングを有する触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
主にリーン運転の内燃エンジンを有する自動車からの排気ガスは、具体的には、粒子放出物に加えて、一次放出物の一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、及び窒素酸化物(NOx)を含む。最大15体積%の比較的高い酸素含有量のため、一酸化及び炭化水素は、酸化によって比較的容易に無害化することができる。しかしながら、窒素酸化物の窒素への還元は、はるかに困難である。
【0003】
酸素の存在下で、排気ガスから窒素酸化物を除去するための既知の方法は、適切な触媒上でのアンモニアによる選択的触媒還元(SCR方法)である。本方法では、排気ガスから除去されるべき窒素酸化物が、アンモニアを使用して窒素及び水に転換される。
【0004】
還元剤として使用されるアンモニアは、尿素、カルバミン酸アンモニウム、又はギ酸アンモニウムなどのアンモニア前駆体化合物を排気システムに注入し、その後の加水分解よって利用可能にすることができる。
【0005】
粒子は、粒子フィルタの支援により排気ガスから極めて効果的に除去することができる。セラミック材料で作製した壁流フィルタが、特に成功している。この壁流フィルタは、多孔性壁によって形成される複数の並列チャネルから構築される。チャネルは、フィルタの2つの端部のうちの1つにおいて気密様態で交互に封止され、よって、第1のチャネルは、フィルタの第1の側部で開放し、フィルタの第2の側部で閉鎖して形成され、同様に、第2のチャンネルは、フィルタの第1の側部で閉鎖し、フィルタの第2の側部で開放して形成される。例えば、第1のチャネルに流れ込む排気ガスは、第2のチャンネルを介してだけフィルタを出ることができ、また、そうするためには、第1及び第2のチャネル間の多孔性壁を通って流れなければならない。粒子は、排気ガスが壁を通過するときに保持される。
【0006】
また、壁流フィルタをSCR活性材料でコーティングし、したがって、排気ガスから粒子及び窒素酸化物を同時に除去することも既に知られている。そのような製品は、通常SDPFと称される。
【0007】
しかしながら、必要な量のSCR活性材料がチャネル間の多孔性壁に適用される場合(いわゆる、オンウォールコーティング)、これは、フィルタにおける逆圧の許容不可能な増加をもたらし得る。
【0008】
この背景に対して、例えば特開平01-151706号及び国際公開第2005/016497号は、後方で多孔性壁に入り込むように、壁流フィルタをSCR触媒によってコーティングすること(いわゆる、インウォールコーティング)を提案している。
【0009】
また、第1のSCR触媒を多孔性壁の中へ導入すること、すなわち、細孔の内面をコーティングし、かつ第2のSCR触媒を多孔性壁の表面に配置することが提案されている(米国特許出願公開第2011/274601号を参照されたい)。第1のSCR触媒の平均粒径は、この事例において、第2のSCR触媒の平均粒径よりも小さい。
【0010】
更に、国際公開第2013/014467(A1)号では、粒子フィルタ上に2つ以上のSCR活性ゾーンを逐次的に配設することが提案されている。これらのゾーンは、異なる濃度の同じSCR活性材料、又は異なるSCR活性材料を含むことができる。いずれの事例においても、好ましくは、より熱的に安定なSCR活性材料がフィルタ入口に配置される。
【0011】
粒子フィルタは、一定の時間間隔で再生しなければならならず、すなわち、収集した煤粒子は、排気ガスの逆圧を許容可能な範囲内に保つために、燃焼させなければならない。フィルタを再生し、煤燃焼を開始するには、約600℃の排気ガス温度が必要である。燃焼中には、800℃を超え得る極めて高い温度が生じ得る。
【0012】
今日、一般的なNH-SCR触媒は、望ましくない副反応によって、亜酸化窒素(NO)の形成をもたらし得る。これはまた、例えばフィルタ再生において、粒子フィルタ及びNH-SCR触媒の組み合わせにも当てはまる。NOは、既知の温室効果ガスであるので、その形成を可能な限り防止しなければならない。
【0013】
国際公開第2015/145113号は、約1~5重量%の交換遷移金属を含む、約3~約15のSARを有する小孔ゼオライトが使用されることを特徴とする、排気ガスにおけるNO排出を低減させるための方法を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
それでも、NH-SCR触媒に対する、具体的には、形成するNOが可能な限り少ない粒子フィルタ及びNH-SCR触媒からなる組み合わせに対する必要性が存在する。
【0015】
驚くべきことに、異なるゼオライト構造型、すなわち、CHA及びLEV構造型のものが触媒上に特定の様態で配設されたときに、SCR機能を備え、かつ形成するNOがより少ない触媒が得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、長さLの触媒基板、並びに互いに異なる2つのSCR触媒活性材料A及びBを備える触媒に関するものであり、
SCR触媒活性材料Aは、イオン交換鉄及び/又は銅を含有する、レビナイト構造型のゼオライトを含み、SCR触媒活性材料Bは、イオン交換鉄及び/又は銅を含有する、チャバザイト構造型のゼオライトを含み、
(i)SCR触媒活性材料A及びBは、2つの材料ゾーンA及びBの形態で存在し、触媒基板の第1の端部から生じる材料ゾーンAは、少なくとも長さLの一部にわたって延在し、触媒基板の第2の端部から生じる材料ゾーンBは、少なくとも長さLの一部にわたって延在し、
又は
(ii)触媒基板は、SCR触媒活性材料A及びマトリックス成分から形成され、SCR触媒活性材料Bは、材料ゾーンBの形態で、少なくとも触媒基板の長さLの一部にわたって延在し、
又は
(iii)触媒基板は、SCR触媒活性材料B及びマトリックス成分から形成され、SCR触媒活性材料Aは、材料ゾーンAの形態で、少なくとも触媒基板の長さLの一部にわたって延在する。
【0017】
本発明の実施形態において、チャバザイト構造型のゼオライトは、6~40、好ましくは12~40、及び特に好ましくは25~40のSAR値(二酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの比率)を有する。
【0018】
本発明の実施形態において、レビナイト構造型のゼオライトは、15を超える、好ましくは30~50などの30を超えるSAR値を有する。
【0019】
チャバザイト構造型の可能なゼオライトは、例えば、チャバザイト及びSSZ-13の名称で知られている製品である。可能なレビナイト構造型のゼオライトは、例えば、Nu-3、ZK-20、及びLZ-132である。
【0020】
本発明の範囲内では、アルミノケイ酸塩だけでなく、ゼオライト様化合物と称されることもあるシリコアルミノリン酸塩及びアルミノリン酸塩もまた、「ゼオライト」という用語に該当する。その例は、具体的には、SAPO-34及びAlPO-34(CHA構造型)、並びにSAPO-35及びAlPO-35(LEV構造型)である。
【0021】
本発明の実施形態において、チャバザイト構造型のゼオライト並びにレビナイト構造型のゼオライトの両方は、イオン交換銅を含有する。
【0022】
チャバザイト構造型のゼオライト中の、及びレビナイト構造型のゼオライト中の銅の量は、CuOとして交換ゼオライトの総重量に関して算出したときに、互いに独立して、具体的には0.2~6重量%、好ましくは1~5重量%である。チャバザイト構造型のゼオライト中の、及びレビナイト構造型のゼオライト中の、以下Cu/Al比と称される、ゼオライト中のスワップ銅とゼオライト中の格子アルミニウムとの原子比率は、互いに独立して、具体的には0.25~0.6である。
【0023】
これは、100%の交換レベルでの二価Cuイオンによるゼオライトにおける完全な電荷平衡から始まり、50~120%のゼオライトを有する銅の理論的交換レベルに相当する。70~100%の理論的銅交換レベルに相当する、0.35~0.5のCu/Al値が特に好ましい。
【0024】
用いられるゼオライトがイオン交換鉄を含有する場合、チャバザイト構造型のゼオライト中の、及びレビナイト構造型のゼオライト中の鉄の量は、Feとして交換ゼオライトの総重量に関して算出したときに、互いに独立して、具体的には0.5~10重量%、好ましくは1~5重量%である。
【0025】
チャバザイト構造型のゼオライト中の、及びレビナイト構造型のゼオライト中の、以下Fe/Al比と称される、ゼオライト中のスワップ鉄とゼオライト中の格子アルミニウムとの原子比率は、互いに独立して、具体的には0.25~3である。0.4~1.5のFe/Al値が、特に好ましい。
【0026】
材料ゾーンAは、例えば、銅又は鉄と交換されたレビナイト構造型のゼオライト以外のいかなる触媒活性成分も含まない。しかしながら、適用可能な場合には、結合剤などの添加物を含むことができる。適当な結合剤は、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムであり、酸化アルミニウムが好ましい。本発明の実施形態において、材料ゾーンAは、銅又は鉄と交換されたレビナイト構造型のゼオライト並びに結合剤からなる。結合剤としては、酸化アルミニウムが好ましい。
【0027】
材料ゾーンBも同様に、銅又は鉄と交換されたチャバザイト構造型のゼオライト以外のいかなる触媒活性成分も含まない。しかしながら、適用可能な場合には、結合剤などの添加物を含むことができる。適当な結合剤は、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムである。本発明の実施形態において、材料ゾーンAは、銅又は鉄と交換されたチャバザイト構造型のゼオライト並びに結合剤からなる。結合剤としては、酸化アルミニウムが好ましい。
【0028】
本発明の実施形態では、20~80重量%、好ましくは40~80重量%、特に好ましくは50~70重量%の触媒活性材料が、材料ゾーンBにある。
【0029】
好ましい実施形態において、本発明は、長さLの触媒基板、及び互いに異なる2つのSCR触媒活性材料A及びBを備える触媒に関するものであり、SCR触媒活性材料Aは、イオン交換鉄及び/又は銅を含有する、レビナイト構造型のゼオライトを含み、
SCR触媒活性材料Bは、鉄交換鉄及び/又は銅を含有する、チャバザイト構造型のゼオライトを含有し、
SCR触媒活性材料A及びBは、2つの材料ゾーンA及びBの形態で存在し、触媒基板の第1の端部から生じる材料ゾーンAは、少なくとも長さLの一部にわたって延在し、触媒基板の第2の端部から生じる材料ゾーンBは、少なくとも長さLの一部にわたって延在する。
【0030】
この実施形態において、排気ガスは、好ましくは、触媒基板の第1の端部において触媒の中へ流れ、また、触媒基板の第2の端部において触媒の外へ流れる。
【0031】
この実施形態において、2つの材料ゾーンA及びBは、更に、異なる方式で触媒基板上に配設することができ、いわゆるフロースルー基板又は壁流フィルタを、触媒基板として使用することができる。
【0032】
壁流フィルタは、長さLのチャネルを備える触媒基板であり、このチャネルは、好ましくは、壁流フィルタの第1及び第2の端部の間に平行に延在し、第1又は第2の端部のいずれかにおいて気密様態で交互に封止され、また、多孔性壁によって分離される。フロースルー基板は、特に、長さLのチャネルがその2つの端部において開放されているという点で、壁流フィルタと異なる。
【0033】
本発明の以下の実施形態において、触媒基板は、壁流フィルタ又はフロースルー基板とすることができる。
【0034】
第1の実施形態において、材料ゾーンAは、触媒基板の長さLの全体にわたって延在し、一方で、触媒基板の第2の端部から生じる材料ゾーンBは、その長さLの10~80%にわたって延在する。この事例において、材料ゾーンBは、好ましくは材料ゾーンAの上に配置される。
【0035】
第2の実施形態において、触媒基板の第1の端部から生じる材料ゾーンAは、その長さLの20~90%にわたって延在し、一方で、第2の端部から生じる材料ゾーンBは、その長さLの10~70%にわたって延在する。この実施形態において材料ゾーンA及びBが重なり合う場合、材料ゾーンAは、好ましくは、材料ゾーンBの上に配置される。
【0036】
第3の実施形態において、触媒基板の第1の端部から生じる材料ゾーンAは、その長さLの20~100%にわたって延在し、一方で、材料ゾーンBは、その長さLの全体にわたって延在する。この事例において、材料ゾーンAは、好ましくは材料ゾーンBの上に配置される。
【0037】
本発明による触媒の別の実施形態において、触媒基板は、壁流フィルタとして設計される。壁流フィルタの第1の端部において開放され、第2の端部において閉鎖されたチャネルは、材料ゾーンAでコーティングされ、一方で、壁流フィルタの第1の端部において閉鎖され、第2の端部において開放されたチャネルは、材料ゾーンBでコーティングされる。
【0038】
本発明に従って使用することができるフロースルー基板及び壁流フィルタは、既知であり、市販されている。これらは、例えば、炭化ケイ素、チタン酸アルミニウム、又はコーディエライトからなる。
【0039】
未コーティング状態において、壁流フィルタは、例えば、30~80、具体的には50~75%の多孔率を有する。未コーティング状態におけるそれらの平均細孔サイズは、例えば、5~30μmである。
【0040】
概して、壁流フィルタの細孔は、いわゆる開放細孔であり、すなわち、チャネルへの接続部を有する。加えて、細孔は、概して、互いに接続される。これは、一方では、内側細孔表面の容易なコーティングを可能にし、他方では、壁流フィルタの多孔性壁を通した排気ガスの容易な通過を可能にする。
【0041】
本発明による触媒は、当業者によく知られている方法に従って、例えば、その後に熱的後処理(焼成)を伴う、一般的な浸漬コーティング方法、又はポンプコーティング及び吸引コーティング方法に従って生産することができる。当業者は、壁流フィルタの事例において、壁流フィルタのチャネルを形成する多孔性壁の上に材料ゾーンA及び/又はBが位置するように(オンウォールコーティング)、壁流フィルタの平均細孔サイズ、及びSCR触媒活性材料の平均粒径を互いに適合させることができることを知っている。しかしながら、好ましくは、SCR触媒活性材料の平均粒径は、材料ゾーンA及び材料ゾーンBの両方が、壁流フィルタのチャネルを形成する多孔性壁内に位置付けられ、よって、内側細孔表面がコーティングされる(インウォールコーティング)ように選択される。この事例において、SCR触媒活性材料の平均粒径は、壁流フィルタの細孔の中へ入り込むように十分小さくなければならない。
【0042】
しかしながら、本発明はまた、材料ゾーンA及びBのうちの一方がインウォールコーティングされ、他方がオンウォールコーティングされる実施形態も含む。
【0043】
本発明はまた、触媒基板が不活性なマトリックス成分及びSCR触媒活性材料A又はBから形成され、他方のSCR触媒活性材料、すなわち、材料B又はAが、材料ゾーンB又はAの形態で、触媒基板の長さLの少なくとも一部にわたって延在する実施形態にも関する。
【0044】
当業者には、単にコーディエライトなどの不活性材料からなるのではなく、追加的に触媒活性材料を含有する、触媒基板、フロースルー基板、及び壁流基板が知られている。これらを生産するには、10~95重量%の不活性マトリックス成分及び5~90重量%の触媒活性材料からなる混合物を、例えば、それ自体既知の方法に従って押出加工する。この事例では、それ以外の場合にも触媒基板を生産するために使用される全ての不活性材料を、マトリックス成分として使用することができる。これらのマトリックス成分は、例えば、ケイ酸塩、酸化物、窒化物、又は炭化物であり、具体的には、ケイ酸アルミニウムマグネシウムであることが好ましい。
【0045】
SCR触媒活性材料A又はBを含む押出加工された触媒基板はまた、不活性触媒基板のように、一般的な方法に従ってコーティングすることもできる。
【0046】
故に、SCR触媒活性材料Bを含む触媒基板は、例えば、SCR触媒活性材料Aを含有するウォッシュコートによって、その長さの全体又はその一部にわたってコーティングすることができる。
【0047】
同様に、SCR触媒活性材料Aを含む触媒基板は、例えば、SCR触媒活性材料Bを含有するウォッシュコートによって、その長さの全体又はその一部にわたってコーティングすることができる。
【0048】
SCR活性コーティングを有する本発明による触媒は、リーン運転の内燃エンジン、具体的にはディーゼルエンジンからの排気ガスを浄化するために、好都合に使用することができる。この事例において、触媒は、材料ゾーンAが、材料ゾーンBよりも先に、浄化されるべき排気ガスと接触するように、排気ガスストリームの中に配設されるべきである。排気ガス中に含有される窒素酸化物は、この事例において、無害な窒素及び水の化合物に変換される。
【0049】
故に、本発明はまた、リーン運転の内燃エンジンからの排気ガスを浄化するための方法にも関し、この方法は、排気ガスが、本発明による触媒を通じて導かれ、材料ゾーンBよりも先に材料ゾーンAが、浄化されるべき排気ガスと接触することを特徴とする。
【0050】
本発明による方法の還元剤としては、好ましくは、アンモニアが使用される。必要とされるアンモニアは、例えば上流の窒素酸化物トラップ触媒(リーンNOxトラップ-LNT)によって、本発明による触媒の上流で、排気ガスシステム内に形成することができる。この方法は、「パッシブSCR」として知られている。
【0051】
しかしながら、アンモニアはまた、必要に応じて本発明による触媒の上流の注入器を介して注入される尿素水溶液の形態で、車両内を移動させることもできる。
【0052】
故に、本発明はまた、リーン運転の内燃エンジンからの排気ガスを浄化するためのシステムにも関し、このシステムは、SCR活性コーティングを有する本発明による触媒、並びに尿素水溶液用の注入器を備え、注入器が、触媒基板の第1の端部の前に位置付けられることを特徴とする。
【0053】
例えば、SAE-2001-01-3625から、窒素酸化物が一酸化窒素及び二酸化窒素からなる1:1の混合物中に存在するときに、又はこの比率に近いいずれの事例においても、アンモニアとのSCR反応がより速く発生することが知られている。リーン運転の内燃エンジンからの排気ガスは、概して、二酸化窒素と比較して過剰な一酸化窒素を有するので、この文書は、SCR触媒の上流に配設される酸化触媒の支援により二酸化窒素の量を増加させることを提案している。
【0054】
故に、リーン運転の内燃エンジンからの排気ガスを浄化するための本発明によるシステムの1つの実施形態は、-排気ガスの流れの方向において-酸化触媒、尿素水溶液用の注入器、及びSCR活性コーティングを有する本発明による触媒を備え、注入器は、触媒基板の第1の端部の前に位置付けられる。
【0055】
本発明の実施形態では、担体材料上の白金が酸化触媒として使用される。
【0056】
この目的について当業者によく知られている全ての材料が、白金の担体材料として可能である。担体材料は、30~250m/gの、好ましくは100~200m/g(DIN66132に従って決定される)のBET表面を有し、具体的には、酸化アルミニウム、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、並びにこれらの酸化物のうちの少なくとも2つの混合物又は混合酸化物である。
【0057】
酸化アルミニウム、及びアルミニウム/シリコン混合酸化物が好ましい。酸化アルミニウムを使用する場合は、例えば酸化ランタンによって安定させることが特に好ましい。
【0058】
酸化触媒は、通常、フロースルー基板、具体的にはコーディエライからなるフロースルー基板上に位置付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明の応用例である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
実施例1
a)一方の端部から生じる、コーディエライトからなる従来の壁流フィルタを、4.0重量%の銅と交換されたチャバザイト構造型のゼオライトを含有するウォッシュコートで、従来の浸漬方法によってその長さの50%にわたってコーティングした。ゼオライトのSAR値は、30であった。次いで、フィルタを120℃で乾燥させた。
【0061】
b)他方の端部から生じる、工程a)において取得した壁流フィルタも同様に、第2の工程において、3.5重量%の銅と交換されたレビナイト構造型のゼオライトを含有するウォッシュコートで、従来の浸漬方法によってその長さの50%にわたってコーティングした。ゼオライトのSAR値は、31であった。続いて、500℃で2時間の乾燥及び焼成を行った。
【0062】
c)このようにして得られた壁流フィルタは、モデルガスシステムでの動的SCR試験において、250℃~550℃を超える範囲内で極めて効果的なNOx変換を示し、ここでは、モデルガスが、最初に銅レビナイトと接触し、次いで銅チャバザイトと接触する。この事例において、NOの形成は、全温度範囲にわたって、許容可能な限度内にとどまる。
【0063】
実施例2
実施例1を繰り返したが、コーディエライトからなる従来の壁流フィルタの代わりに、コーディエライトからなる従来のフロースルー基板を使用したことが異なる。4.0重量%の銅と交換されたチャバザイト構造型のゼオライト、並びに3.5重量%の銅と交換されたレビナイト構造型のゼオライトの両方を、200g/Lの量で基板に塗布した。実施例1とは対照的に、レビナイト構造型のゼオライトは、30のSAR値を有する。
【0064】
比較実施例1
実施例2を繰り返したが、工程a)において、250g/Lの、4.0重量%の銅と交換されたチャバザイト構造型のゼオライトを塗布したこと、及び工程a)において既に使用した4.0重量%の銅と交換されたチャバザイト構造型のゼオライトを、工程b)において、150g/Lの量で基板に塗布したことが異なる。
【0065】
NOx変換試験
a)実施例2及び比較実施例1による触媒を、800℃で16時間水熱的にエージングした。
【0066】
b)エージングした触媒のNOx変換、並びに触媒の前の温度に依存するNOの形成は、いわゆるNOx変換試験において、モデルガス反応器で判定した。この試験は、前処理及び種々の目標温度に対して行われる試験サイクルを含む試験手順からなる。適用したガス混合物を以下の表に示す。
【0067】
試験手順:
1.10分間にわたり600℃のN中で前処理を行う
2.目標温度に対して試験サイクルを繰り返す
a.ガス混合物1の目標温度に近づける
b.NO(ガス混合物2)を加える
c.NH(ガス混合物3)を加え、NHが20ppmを超えるまで、又は最長30分間、待機する
d.最高500℃で昇温脱離を行う(ガス混合物3)
【表1】
【0068】
500℃未満の各温度について(各事例において、60k h-1の空間速度)、20ppmのNHスリップによる変換を、試験手順範囲2cに対して判定した。500℃を超える各温度点について(100k h-1の空間速度)、試験温度範囲2cにおいて平衡状態における変換を判定した。NO濃度は、FT-IRによって全ての温度点において判定した。図1に示されるような応用例は、NOx変換の応用例、並びに異なる温度点に対するNO濃度から生じる。
【0069】
実施例2による触媒は、モデルガスが、最初に銅のレビナイトと接触し、次いで銅のチャバザイトと接触するように、一度試験した。この測定は、図1において実施例2/1として表される。
【0070】
加えて、実施例2による触媒も同様に、モデルガスが、最初に銅のチャバザイトと接触し、次いで銅のレビナイトと接触するように、「逆に」試験した。この測定は、図1において実施例2/2として表される。
【0071】
比較実施例1による触媒についても、同じ手順を使用した。図1において、250g/Lの量の銅のチャバザイトがモデルガスと最初に接触する測定は、比較実施例1/1で示され、150g/Lの量の銅のチャバザイトがモデルガスと接触する測定は、比較実施例1/2で示される。
【0072】
図1において、実施例2及び比較実施例1による触媒のNOx変換(実線を参照されたい)は、モデルガスがそれぞれの触媒に進入した側とは独立して、著しく異ならないことが分かる。しかしながら、実施例2による触媒が、モデルガスが最初に銅のレビナイトと接触し、次いで銅のチャバザイトと接触したときに、温度範囲全体にわたって、形成する亜酸化窒素がかなり少ないこと(破線を参照されたい)は極めて明白である(実施例2/1)。
図1