(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】通信ネットワークを介して接続されたネットワークデバイス間の時刻同期を最適化する方法
(51)【国際特許分類】
H04L 41/0803 20220101AFI20230731BHJP
H04L 12/28 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
H04L41/0803
H04L12/28 200Z
(21)【出願番号】P 2022535563
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 EP2020084683
(87)【国際公開番号】W WO2021115962
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】102019219475.3
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508097870
【氏名又は名称】コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
【住所又は居所原語表記】Vahrenwalder Strasse 9, D-30165 Hannover, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヘルゲ ツィナー
【審査官】大石 博見
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-520419(JP,A)
【文献】特表2017-529806(JP,A)
【文献】特開2006-135975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 41/0803
H04L 12/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のネットワーク又は複数の第1のサブネットワーク(240、242、244)を介して互いにネットワーク接続された制御装置(200、220、222、224、226、228、230)のシステムにおいてグランドマスタークロックを定める方法(300)であり、前記ネットワーク接続された制御装置の少なくとも1つが、前記グランドマスタークロックのソースとして適しており、且つ、1つの物理的ユニットにおいてスイッチ(202、204、206)を介して第2のネットワークによってサーバーをベースにした制御装置内で通信可能に接続されている複数の機能ユニット(208、210、212、214)を組み合わせるサーバーをベースにした制御装置(200)であり、前記サーバーをベースにした制御装置(200)は、1つ又は複数のネットワークインターフェースを介して前記第1のネットワーク又は前記複数の第1のサブネットワーク(240、242、244)に接続されている、方法(300)であって、
- ネットワーク全体のベストクロックを確認すること(302)を含み、
前記方法は、前記ベストクロックがサーバーをベースにした制御装置内に位置する場合、
- 前記グランドマスタークロックのソースとして適している、選択された機能ユニットと、前記サーバーをベースにした制御装置を前記第1のネットワーク又は複数の第1のサブネットワークに接続する選択されたアクティブなネットワークインターフェースとの間の距離を確認すること(306-2)、
- 前記選択された機能ユニットのそれぞれについて、すべての選択されたネットワークインターフェースまでの平均距離を決定すること(306-3)、及び
- すべての選択されたネットワークインターフェースまでの最小平均距離を有する前記選択された機能ユニットを、前記第1のネットワーク又は前記第1のサブネットワークの定められたグランドマスタークロックとして定めること(310)、
を含む方法(300)。
【請求項2】
選択された機能ユニットが、前記グランドマスタークロックのソースとして適した前記サーバーをベースにした制御装置のすべての機能ユニットであり、前記選択されたアクティブなネットワークインターフェースまでの距離が、すべての機能ユニットのクロックに対して確認される、請求項1に記載の方法(300)。
【請求項3】
選択された機能ユニットが、所定の最小要件を満たす前記サーバーをベースにした制御装置の機能ユニットであり、前記選択されたアクティブなネットワークインターフェースまでの距離が、これらの選択された機能ユニットのクロックに対してのみ確認される、請求項1に記載の方法(300)。
【請求項4】
選択された機能ユニットが、ベストクロックの時刻同期メッセージをネットワークインターフェースに転送する前記サーバーをベースにした制御装置の機能ユニットであり、前記選択されたアクティブなネットワークインターフェースまでの距離が、これらの選択された機能ユニットのクロックに対してのみ確認される、請求項1に記載の方法(300)。
【請求項5】
選択されたアクティブなネットワークインターフェースが、前記サーバーをベースにした制御装置のすべてのアクティブなネットワークインターフェースである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法(300)。
【請求項6】
選択されたアクティブなネットワークインターフェースが、タイムクリティカルなアプリケーションを実行する制御装置が接続される第1のサブネットワークを接続する前記サーバーをベースにした制御装置のネットワークインターフェースのみである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法(300)。
【請求項7】
前記サーバーをベースにした制御装置内の定められたグランドマスタークロックが、ベストマスタークロックアルゴリズムを適用して確認されたベストクロックと同期される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法(300)。
【請求項8】
定められたグランドマスタークロックが、前記ベストマスタークロックアルゴリズムを適用して前記サーバーをベースにした制御装置内で確認されたベストクロックから基本時間領域の時刻同期メッセージを受信し、前記時刻同期メッセージを前記第1のネットワーク又は前記第1のサブネットワークに再送信する前に、受信した時刻同期メッセージに含まれるクロックの識別を自身の識別に交換する、請求項7に記載の方法(300)。
【請求項9】
ベストクロックを確認することが、
- IEEE 802.1ASに準拠したBMCAを実行すること、
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法(300)。
【請求項10】
サーバーをベースにした制御装置(200)の機能ユニット(208、210、212、214)のプロセッサ(402)によってプログラムが実行されると、前記プロセッサ(402)に請求項1~9のいずれか一項に記載の方法を実行するように促す命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項11】
請求項10に記載のコンピュータプログラム製品が格納されたコンピュータ可読媒体。
【請求項12】
マイクロプロセッサ(402)と、揮発性及び不揮発性メモリ(404、406)と、同期可能なタイマ(410)と、少なくとも1つの通信インターフェース(408)とを含み、これらが1つ又は複数のデータ線又はデータバス(412)を介して互いに通信可能に接続されている、サーバーをベースにした制御装置(200)の機能ユニット(208、210、212、214)であって、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されている、機能ユニット(208、210、212、214)。
【請求項13】
第2のネットワークを介して互いに通信可能に接続された請求項12に記載の複数の機能ユニット(208、210、212、214)と、少なくとも1つのスイッチ(202、204、206)とを有するサーバーをベースにした制御装置(200)であって、機能ユニット(214)又はスイッチ(202、206)のネットワークインターフェースが前記第2のネットワークを第1のネットワークに接続し、又は機能ユニット又はスイッチの複数のネットワークインターフェースが前記第2のネットワークをそれぞれ、前記サーバーをベースにした制御装置(200)の外側に位置する複数の第1のサブネットワークのうちの1つに接続しており、前記機能ユニット又はスイッチの2つ以上が、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されている、サーバーをベースにした制御装置(200)。
【請求項14】
請求項13に記載のサーバーをベースにした制御装置を有する車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに同期したネットワークデバイスを含む通信ネットワークに関する。
【背景技術】
【0002】
イーサネット技術は、コンピュータが互いにネットワーク接続される多くの分野で利用されており、旧来の又は独占権下にあるデータ接続及びデータバスに代わって、車両での利用も増加している。
【0003】
イーサネット接続は、送信側と受信側の間でデータパケットを伝送するために、OSI層モデルのレイヤ3で多数のスイッチングプロトコルをサポートしている。より上位のプロトコル層では、データフローのパケットへのセグメント化、通信システム間のプロセス通信、システムに依存しない形態へのデータの変換、最後にアプリケーションのための機能の提供が行われる。空間的に互いに近い場所にあるネットワーク接続されたデバイスの比較的小さなネットワークでさえ、送信側から送られてくるデータパケットを正しい受信側にルーティングするルータ及びスイッチがすでに多数存在していることがある。
【0004】
他のネットワークと同様に、イーサネットネットワークにおいても、ネットワークコンポーネント及びインターフェースの公称速度に加えて、レイテンシ又は遅延が、単位時間あたりに実際に伝送できるデータ量、及び送信側から受信側までの伝送時間に大きな影響を与える可能性がある。
【0005】
レイテンシ又は遅延の原因及び理由には様々なものがあり得る。ネットワークにおけるデータ伝送の遅延の原因は、特にいわゆる伝送遅延、すなわち送信側が通信接続又はリンク上でデータパケットを送信するために必要な時間である。この遅延は、特にデータパケットの長さ、及びネットワークの帯域幅又は速度に依存し得る。
【0006】
信号伝搬時間、又は伝播遅延とは、送信側によって通信接続を介して送信された信号が受信側に到達するまでの時間である。この遅延は、とりわけ、送信側及び受信側の間の距離と、信号の伝搬速度とに依存する。真空中の電波又は光ファイバ中の光波の伝搬速度は光速に相当するが、銅線では、信号の伝搬速度は、その構造に依存して最大で光速の3分の2まで低下し得る。
【0007】
また、スイッチのレイテンシも、使用可能なデータレートに重要な役割を果たし得る。これは、特に高性能でクラスタ化されたコンピューティングアプリケーションをサポートするネットワークに当てはまり、ここでは通信するペア又はエンドポイントのグループ間の通信経路における総遅延又は遅延の変動のいずれかを最小限に抑えることが有利である。多くの場合、スイッチのレイテンシは、接続の公称帯域幅よりも、アプリケーション又はサービスのパフォーマンス及びユーザ体験に大きな影響を与える可能性がある。
【0008】
スイッチのレイテンシ時間とは、イーサネットパケットがイーサネットスイッチを通過するのにかかる時間のことである。その概念は単純であるが、実用においては、パケットが経験する実際の遅延を大きく、時には桁違いに変化させ得る様々な要因がある。
【0009】
スイッチのレイテンシ時間は、イーサネットスイッチの入力ポートと出力ポートの間で測定される。これは、スイッチで使用されるスイッチングパラダイム(カットスルー又はストアアンドフォワード)に大きく依存する。
【0010】
ストアアンドフォワードでは、転送の決定がなされ、出力ポートを介してパケットの転送が始まる前に、パケット全体をスイッチで受信し、バッファリングする必要がある。特定の転送動作、例えばレイヤ3でのパケットのルーティングに関して、パケット転送動作に複雑なオプションが必要な場合、ストアアンドフォワードモードが必要になることがある。
【0011】
一方、カットスルー転送は、転送を決定するのに十分なデータを受信した時点で、パケットを出力ポートから転送する。例えば、単純なレイヤ2転送の場合、これは、宛先MACアドレスを受信し、関連する出力ポートを決定するためにルックアップした時点で実行され得る。カットスルー転送はパケット単位でスイッチによって決定される。
【0012】
カットスルー転送は、スイッチの低レイテンシ転送を実現し得、これはパケット長とはほとんど無関係である。しかしながら、カットスルー転送は、ある特定の条件下においてのみ可能である。カットスルー転送は、同じ速度で動作するインターフェース間でのみ、例えば1Gbps同士のインターフェースを接続する場合、行うことができる。例えば、1Gbpsと100Mbpsのインターフェース間など、異なる速度のインターフェース間では接続できない。また、カットスルー転送は、出力ポートがアイドル状態、すなわちデータフロー制御によって「停止」されておらず、送信のためにキューに入れられた未処理のフレームがない場合にのみ行うことができる。
【0013】
異なる速度のインターフェースを持つネットワークにおいて、複数のパケットフローがそのポートに向かう場合、これらのフローが必要とする帯域の合計が公称リンク容量よりも小さいとしても、ポート上でしばしば競合が発生し得、したがって多くの場合、カットスルー転送で理論的に可能であろうよりも少ないデータが転送されることは容易に理解されるだろう。
【0014】
最近のレイヤ2又はレイヤ3のスイッチは、通常、数百ナノ秒から数十マイクロ秒のレイテンシ時間を達成する。レイテンシ時間の幅が広いのは、主にスイッチのアーキテクチャと設計によるものであるが、使用例によってはさらに大きなレイテンシ時間の差が生じ得る。例えば、同時に使用されるポート数、及びトラフィックの種類、例えば、出力ポートをめぐってパケットフローが競合しない1対1のトラフィック、又はすべてのトラフィックが出力ポートをめぐって競合するフルメッシュのトラフィックは、レイテンシ時間に大きな影響を与える。それというのも、フルメッシュのトラフィックでは、データパケットはポートをめぐって競合する場合スイッチキューで比較的長い時間バッファされることがあるためである。
【0015】
また、スイッチのレイテンシは、通信経路上に位置するスイッチのすべての待ち時間の遅延が合計された、いわゆるキューイング遅延と関連付けて語られることが多い。
【0016】
データを転送するスイッチ、ルータ又は他のネットワークデバイスにおいて、これは、パケットヘッダの評価又はエラー訂正対策等に必要な時間を意味する、いわゆる処理遅延によって悪化する。高速のルータ及びスイッチでは、処理遅延はマイクロ秒以下のオーダーである。
【0017】
したがって、データパケットが送信側から受信側まで移動するのに要する合計時間は、送信遅延、信号伝搬時間、キューイング遅延、処理遅延の合計である。信号がスイッチ又は他のネットワークデバイスで受信、評価、及び/又は処理され、もっぱらその後に転送される回数が多いほど、実際の受信側に到達するまでの時間が長くなる。
【0018】
多くのネットワークにおいて、遅延のいくつかは比較的短く、とりわけ概ね一定であり、例えば、信号伝搬時間は、送信側と受信側の間の距離が変化したり、又は接続経路が変化して合計距離が長くなったり短くなったりした場合にのみ変化する。既知の長さのサブ経路があるネットワークでは、経路が変わっても、経路の個々のセグメントの既知の距離から信号伝搬時間を比較的正確に決定することができる。
【0019】
他の遅延はそれほど一定ではなく、また予想不可能であり、例えばスイッチのレイテンシは、特に、物理的なネットワークインターフェースを介して一度に送信されるのを待っているデータの量、場合によっては優先度及び時間に強く依存する。
【0020】
多くのネットワークにおいて、ネットワークデバイスに存在するタイマーの同期が必要であり、特に、安全な運転のためにセンサデータの時刻同期取得が必要な車両のネットワークにおいて必要である。車両に使用されているほぼすべてのイーサネット通信ネットワークは、この目的のために時刻同期プロトコルを使用しており、すべてのネットワークデバイスで同期しているグローバルネットワーク時刻ベースを提供している。自動車をはじめとする適用分野では、将来、時刻同期ネットワークデバイスの普及が進むと予想される。
【0021】
IEEE 802.1 AS規格は、1つのこのような時刻同期プロトコルを提供しており、これは「generalized Precision Time Protocol」の頭文字をとったgPTPとしても知られている。グランドマスター又はグランドマスタークロックとも呼ばれるネットワーク内のいわゆる「ベストクロック」を起点に、マスタースレーブクロックの階層が構築される。この例のグランドマスターはネットワークのタイムベースを提供し、ネットワーク内の他のすべてのネットワークデバイスはこれに同期される。
【0022】
gPTP(generalized Precision Time Protocol)の3つの基本機能、ベストクロックの決定、時間情報の交換、及び近隣ノード間の接続線上の伝搬時間の測定を
図1に示す。
【0023】
グランドマスターは、いわゆるベストマスタークロックアルゴリズム(BMCA)によって決定され、ネットワーク内でアナウンスされる。このため、IEEE 802.1 AS対応ネットワークデバイスは、直接接続された他のネットワークデバイスに対して、内部クロックに関する情報を含むアナウンスメッセージを周期的に送信する。内部クロックに関する情報は、それぞれのクロックの精度の示度、基準又は時間基準、及び、ネットワーク内でベストクロックを決定するために使用できる他の特性を提供する。このようなアナウンスメッセージの例を
図1a)に示す。このようなアナウンスメッセージの受信側は、受信した情報をそれ自体の内部クロックの特性と比較し、既に他のポートから受信したメッセージを他のネットワークデバイスのクロックに関する情報と比較し、他のネットワークデバイスのクロックの方が良いクロックパラメータを持っている場合、そのクロックを受け入れる。しばらくすると、ネットワーク内のベストクロックが確定され、それがネットワーク内のグランドマスターとなり、時刻同期のスパニングツリーが設定される。このプロセスにおいて、ネットワークデバイスの各ポートは、4つのポート状態のうちの1つを割り当てられる。リンクパートナーよりもグランドマスターまでの経路が短いポートに「マスターポート」の状態が割り当てられる。このノードの他のポートがまだこの状態でない場合、「スレーブ」状態が割り当てられる。ディスエーブルは、PTPプロトコルを完全にサポートできないポートによって選択される。他の3つの状態のいずれにも該当しない場合は、「パッシブ」状態が選択される。
【0024】
グランドマスターに基づいて、時刻同期メッセージがネットワーク上に拡散される。これには、
図1b)に概略的に示したSync_Follow_Up機構が使用される。マスターポートは、周期的にそれぞれの近隣リンクパートナーにSync及びFollow_Upメッセージを送信する。Syncメッセージがマスターポートを離れると、タイムスタンプが生成され、後続のFollow_Upメッセージで直ちに送信される。このタイムスタンプは、Syncメッセージの送信時点のグランドマスターの現在クロック時刻に対応する。
【0025】
時刻同期メッセージを受信したネットワークデバイスは、それを単純に転送するのではなく、直接接続されているネットワークデバイスから時刻同期メッセージを受信したコネクション上であらかじめ確定された伝播時間に関して、及び内部処理時間に関して時間情報を補正し、その後、補正された時間情報を持つ時刻同期メッセージを新たに作成して再送信する。この補正は、各ネットワークノード、すなわち適切に構成されたルータ及びスイッチ内の、いわゆる「時間認識」システムで行われる。
【0026】
接続された2つのポート間の遅延を求めるには、
図1c)に例として示した、いわゆる「ピア遅延機構」を用いる。一方のポート(発信側)は、ネットワークデバイスの直接接続されているポート(応答側)にDelay_Requestメッセージを送信し、時間t
1を有する初期タイムスタンプを生成することによって、回線遅延の測定を開始する。この初期タイムスタンプは、時刻同期メッセージの実際の送信前にイーサネットトランシーバを介してできるだけ遅く書き込まれるハードウェアタイムスタンプを表す。応答側は時刻同期メッセージが到着すると、タイムスタンプt
2を生成する。これに応答して、応答側は、Delay_Responseメッセージを送信する。このメッセージにおいて、応答側は、Delay_Requestメッセージの受信タイムスタンプt
2を送信する。このメッセージが応答側を離れると、応答側は次にタイムスタンプt
3を生成し、これは直後のDelay_Response_Follow-Upメッセージで送信される。発信側は、Delay_Responseメッセージを受信すると、タイムスタンプt
4を生成する。発信側は、4つのタイムスタンプt
1~t
4を使用して、通信経路の平均伝播時間を計算し得る。
【0027】
接続経路上の伝播時間は方向に依存して変化し得るため、Delay_Requestメッセージは互いに独立して両方の通信パートナーによって周期的に送信される。
【0028】
IEEE 802.1ASとそこで定義されたgPTP(generalized precision time protocol)に従うクロック階層の場合、1つのネットワークデバイスだけがネットワークのベストクロックを常に提供する。このように、このネットワークデバイスは、車両の時間全体を制御し、調節する。ネットワーク上のネットワークデバイスの他のすべてのクロックは、この1つのクロックのみによって管理される。一部の車両製造業者は、このイーサネット時間マスターを介して、CANなど他の規格のネットワークを同期させ、これは車両内のほぼすべてのネットワークデバイスに、グランドマスターを提供するネットワークデバイスからシステム時間が通知されることを意味する。
【0029】
グランドマスタークロックは、直接接続されたネットワークデバイスに時刻同期メッセージを周期的に送信し、ネットワークデバイスは、送信経路の事前に決定した伝搬時間及び内部処理時間に関する時間情報を補正し、その後、直接接続された他のネットワークデバイスに受信した時刻同期メッセージを再送信する。時間情報の補正は、ネットワークデバイスのすべてのタイマーが実際にグランドマスタークロックと絶対的に同期して動作することを保証するものではない。なぜなら、時間情報の補正が、タイマーの異なる時間ドリフト及びその他のハードウェア特性に起因するずれを不可避的にもたらし、これが伝播時間及び遅延等を決定する際に不正確さをもたらし得るためである。時刻同期メッセージを転送するたびに、グランドマスタークロックの基準信号からの時間情報の起こり得るずれが、これに応じて大きくなる可能性があり、すなわち、転送のたびに同期の精度が低下する。
【0030】
多くの用途において、とりわけ、適切なシステム又は部分的又は高度に自動化された運転システムによる高度な運転支援を備えた車両における用途において、狭い時間ウィンドウ内で取得した多量のセンサデータをまとめて処理し、車両のアクチュエータのための適切な制御信号を導き出さなければならない。センサデータの可能な限り正確な時間の記録は、例えば、故障又は操作ミスを再現するために分析され得るログファイルに保存する場合など、文書化のためにも非常に重要なものであり得る。操作ミスは、分散システムのデバッグだけでなく、特に保険会社及び法執行機関にとっても非常に興味深いものである。そのため、いわゆる「ハード」なリアルタイムサポートのために、信頼性が高く、且つとりわけ可能な限り正確に同期した時間情報の提供が不可欠となる。クロック時刻の同期が正確であればあるほど、例えばセンサフュージョンなどの関連機能の結果が良くなる。
【0031】
これは、サーバーをベースにした制御装置のスイッチがIEEE 802.1AS対応でない場合、すなわち、スイッチが、再送信前に送信側からの信号の伝搬時間に関する時刻同期メッセージを補正できない、とりわけスイッチ遅延に関して補正できない場合に、正確な時刻同期に関して特に問題となる。信号伝搬遅延は、送信側と受信側が空間的に近い場合は無視できる可能性があり、又はIEEE 802.1AS対応でないスイッチを介して接続された送信側と受信側の間で統計的に確定される可能性がある。しかしながら、スイッチを経由してルーティングされたネットワークトラフィックによっては、バッファリングの結果として発生する時間遅延を正確に判断することができない、或いは、多大な労力を要して初めて正確に決定することができる、つまり、このようなスイッチを経由してルーティングされた時刻同期メッセージの時間情報はかなり不正確なものとなる。
【0032】
IEEE 802.1AS対応のスイッチでも、時刻同期メッセージの転送前に必要な時間情報の補正時にずれが発生することがあり、このずれは、個々のケースは小さくても、転送のたびに積算されて、生じ得る不正確度が増していく。
【0033】
図2a)は、IEEE 802.1ASに従って同期されたネットワークデバイスにおける時間情報の生じ得るずれの変化の概略的な例を示している。
図2a)では、ネットワークデバイス100はグランドマスタークロックを提供し、時刻同期メッセージをネットワークデバイス102に再送信する。ネットワークデバイス102は、対応する時刻同期メッセージをネットワークデバイス104に送信する前に、時間情報を補正する。補正において、ネットワークデバイス102は、ネットワークデバイス100との接続において先に確定された伝搬時間だけでなく、とりわけ時刻同期の実装及びネットワークデバイスのハードウェア特性に依存する内部遅延に関する情報を使用する。ネットワークデバイスの隣には、ネットワークデバイス100によって送出された時刻だけでなく、さらなる各送信後の生じ得るずれを表すタイミング図が示されている。最初の補正の後、ネットワークデバイス100によって送信された時刻同期メッセージの時刻を表す元の単一のダッシュは、既に、さらなるダッシュによって左右に補充されている。これらのさらなるダッシュは、補正における特定のずれが生じている可能性を示す。ネットワークデバイス102は、特定の第1の生じ得るずれによって影響を及ぼされた時間情報をネットワークデバイス104に転送する。ネットワークデバイス104は、受信した時間情報を補正し、この際再び補正における特定のずれを除外することができず、この時間情報を時刻同期メッセージでネットワークデバイス106に転送する。グランドマスタークロックに実際に存在する時間からの時間情報の再び増加した生じ得るずれは、ネットワークデバイス102に関連するタイミング図と比較してより広い生じ得るずれの範囲によって表される。時刻同期メッセージが転送される方向は、ネットワークデバイス間の矢印で示される。
【0034】
したがって、補正及び転送を行うたびに、生じ得るずれの範囲が広がっていく。これは、ずれが常にずれ範囲の外縁にある必要があり、ずれが増加し続けるという意味ではなく、補正が-たとえ制御不可能であっても-逆方向に非常に上手く存在し、つまり、チェーンの最後のネットワークデバイスの時刻が、グランドマスタークロックにより近いネットワークデバイスの時刻よりも正確にグランドマスタークロックの時刻に一致する。しかしながら、これは予測できないので、最悪のケースを想定しなければならない。
【0035】
したがって、BMCAに従ってネットワーク内で最良のクロックではないクロックからの時刻同期メッセージの転送数が少ないほど、適用によっては、たとえわずかであっても客観的により優れた特性を持つが、時刻同期メッセージがネットワーク全体を横断するために多くの転送数を必要とするクロックと比較して、有利となる可能性がある。これは、とりわけベストマスタークロックアルゴリズムがシステム全体を評価しない、又は評価できなかったことも一因である。
【0036】
また、送信側から受信側へのメッセージの経路上にアクティブなコンポーネントがあると、経路が途切れるリスクが高まるため、特にネットワークデバイス間のセキュリティ関連の通信には望ましくない。
【0037】
多くの産業分野で導入されている新しいサーバーをベースにした電気・電子アーキテクチャでは、ますます多くの論理・制御機能がますます少ない数の制御ユニットに集約されてきている。サーバー又は中央コンピュータとも呼ばれるこれらの制御ユニットは、従来のコントロールコンピュータのように単一のマイクロコントローラもマイクロプロセッサも含まず、多数のマイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、システムオンチップ(SoC)等を有し、これらは環境の影響及び機械的なダメージから保護するために共有筐体に配置されている。これらの制御ユニットを以下、サーバーをベースにした制御装置と呼ぶ。共有筐体に配置された機能ユニット間を接続するために、適切なスイッチ付きのイーサネットネットワークを提供することができる。この場合、個々の機能ユニットはイーサネットスイッチのポートへ直接接続されてもよい、すなわち、対応するソケットにイーサネットプラグを差し込む必要はなく、したがって、物理層への接続を形成するいわゆるPHYモジュールにおけるイーサネットラインを介して接続するために必要となる信号レベルの変換及びその他の信号処理も必要ない。このような接続は、例えば、いわゆるバックプレーンを介して、又は、機能ユニットのイーサネットインターフェースとイーサネットスイッチのポートとの間の電気的接続を確立する対応するケーブルの適切なセットを介して行うことができる。また、複数の機能ユニット及びイーサネットスイッチを同一の回路基板上に配置し、回路基板上を走る導体路に直接接続することも考えられる。もちろん、既知の物理的なイーサネットポートと、対応するケーブルを介した接続も可能である。
【0038】
イーサネットスイッチのポート数は、サーバーをベースにした制御装置の筐体に組み込まれた機能ユニットの数に依存して、20以上であり得る。1つ又は複数のイーサネットスイッチの少なくとも1つのポートは、筐体の外にルーティングされ、ネットワークに接続される。筐体の外にルーティングされたポートは、PHYモジュールを介して実装された物理的なインターフェースを有し、これは信号のレベル変換及び他の信号処理に対する責を負う。
【0039】
PHYモジュールは、物理的な接続をアクティブ又は非アクティブにし、それを維持し、それを介してビットを伝送するための機械的、電気的及びその他の機能的補助手段を提供する。したがって、物理層はビット伝送層とも呼ばれる。ビット伝送層に割り当てられたデバイス及びネットワークコンポーネントは、例えば、トランシーバ、アンプ、ネットワークケーブル用のプラグ及びソケットである。ビット伝送層では、有線又は無線の伝送路でデジタルビット伝送を実現する。この層では、静的又は動的な多重化によって伝送媒体が共有され得る。例えば、銅線ケーブル、光ファイバケーブル、電力網、及びプラグ接続の確定など、特定の伝送媒体の仕様に加えて、これは他の要素も必要とする。さらに、1ビットを伝送する方法も、このレベルで解決しなければならない。コンピュータネットワークでは、情報はビット列又はシンボル列の形で伝送される。銅線ケーブル及び無線伝送では、変調された高周波の電磁波が情報キャリアであり、光ファイバケーブルでは、これらは1つ又は複数の特定の波長の光波である。変調方式に依存して、情報キャリアは0と1の2つの状態をとるだけでなく、もっと多くの状態をとる可能性がある。そのため、伝送の種類ごとにコードを定義する必要がある。伝送する信号を伝送媒体に適合させることは、かなりの遅延を伴う可能性がある。
【0040】
制御ユニットの筐体に配置された機能ユニットは、それぞれが他の機能ユニットから独立して実行されるソフトウェア又はファームウェアを有していてもよく、上記の方法でローカルネットワークによって互いに接続され、共通の電源を有していてもよい。この場合、個々の機能ユニットには、PHYモジュールを介してネットワークに接続されているか、他のコンポーネントと同じ筐体に配置されているかを直接判断するために使用できる情報はない。
【0041】
比較的多数の機能ユニットが配置され、1つ又は複数のスイッチを介して相互接続されているサーバーをベースにした制御装置では、不都合に配置されたグランドマスタークロックの時刻同期メッセージは、「外部」ネットワークに実際に送信される前に大きな、しばしば予測できないレイテンシを経験することが容易に明らかである。特に、できるだけ正確な取得時間又は他のネットワークデバイスと同期したデータの取得が、センサフュージョンとも呼ばれる共同処理操作の結果に対して重要となる場合、これはネットワークのより離れたネットワークデバイスで取得したデータの有用性を制限する可能性がある。
【0042】
したがって、本発明の目的は、通信ネットワークを介して接続されたネットワークデバイス間の時刻同期の最適化を提供する方法及びその方法を実施するデバイスを特定することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0043】
この目的は、請求項1に記載の方法と、請求項13に記載のサーバーをベースにした制御装置とによって達成される。実施形態及びさらなる発展については、それぞれの従属請求項に記載されている。
【0044】
第1のネットワーク又は複数の第1のサブネットワークを介して互いにネットワーク接続された制御装置のシステムで実行される、グランドマスタークロックを定めるための本発明による方法は、まず、ネットワーク全体のベストクロックを確認することを含む。これは、例えば、IEEE 802.1ASに従ってBMCAを実行することによって達成することができる。
【0045】
互いにネットワーク接続された制御装置の少なくとも1つは、サーバーをベースにした制御装置であり、これはグランドマスタークロックのソースとして適し、1つの物理的ユニット内のスイッチを介して第2のネットワークによりサーバーをベースにした制御装置内で通信可能に接続されている複数の機能ユニットを組み合わせている。サーバーをベースにした制御装置は、1つ又は複数のネットワークインターフェースを介して、第1のネットワーク又は複数の第1のサブネットワークに接続されている。1つ又は複数のネットワークインターフェースは、サーバーをベースにした制御装置のスイッチ、又は機能ユニットの1つを起点とし得る。したがって、第1のネットワーク又は第1のサブネットワークは外側に位置し、第2のネットワークは、サーバーをベースにした制御装置内に位置する。
【0046】
ネットワーク全体の事前に確認されたベストクロックがサーバーをベースにした制御装置内に位置する場合、本方法は、グランドマスタークロックのソースとして適した選択された機能ユニットと、サーバーをベースにした制御装置を第1のネットワーク又は複数の第1のサブネットワークに接続する選択されたアクティブなネットワークインターフェースとの間の距離を確認することをさらに含む。
【0047】
グランドマスタークロックのソースとしての基本的な適性は、例えば、PTPプロトコルのアナウンスメッセージを分析することによって確認することができる。別の選択肢は、PDelayメッセージをそれぞれの近隣コンポーネントに送信するか、又は接続の伝搬時間遅延の測定を開始することである。これらの測定結果から、時刻同期メッセージの経路を確認し、どの機能ユニットが時刻同期プロトコルを実際にサポートしているか、又は実行できるかを特定することができる。
【0048】
選択された機能ユニットは、グランドマスタークロックのソースとして適したサーバーをベースにした制御装置のあらゆる機能ユニット、すなわち、内部タイマーを有し、グランドマスタークロックを提供するために必要なコンピュータプログラム命令を実行するように構成することができるあらゆる機能ユニットを含み得る。代替的に、選択された機能ユニットは、そのタイマーが所定の最小要件を満たすサーバーをベースにした制御装置の機能ユニットを含み得る。例えば、ベストマスタークロックアルゴリズムによって確認されたグランドマスタークロックと同等か、わずかに悪いクロックパラメータをそのタイマーが有する機能ユニットのみを考慮することが可能である。さらなる代替案では、選択された機能ユニットは、ベストマスタークロックアルゴリズムによって確認されたグランドマスタークロックの時刻同期メッセージを、選択されたアクティブなネットワークインターフェースの1つに転送するサーバーをベースにした制御装置の機能ユニットを含み得る。後者の場合、選択された機能ユニットを確認するために、経路情報を例えば同期メッセージから読み取ることができる、又は、経路を知る必要がある場合は、この情報をシステム構成から知ることができる。
【0049】
選択されたアクティブなネットワークインターフェースは、システムの起動と終了の間にデータが少なくとも散発的に送受信される、すなわち少なくとも1つのさらなる制御装置に少なくとも一時的に到達できる、第1のネットワーク又は第1のサブネットワークへのサーバーをベースにした制御装置のあらゆるネットワークインターフェースを含み得る。代替的に、選択されたアクティブなネットワークインターフェースは、サーバーをベースにした制御装置を、タイムクリティカルなアプリケーションを実行する制御装置が接続されている第1のサブネットワークに接続するネットワークインターフェースを含み得る。タイムクリティカルなアプリケーションを実行する制御装置は、例えば、ネットワークを初期化する際に適切なメッセージを介してこれを示し得る。
【0050】
選択された機能ユニットと、選択されたネットワークインターフェースとの間の距離は、例えば、中間機能ユニット又はスイッチ等を経由したパケットの転送回数、又は通信回線の長さ、すなわち通信回線上の信号伝搬時間によって特徴づけることができる。また、距離は、例えば、2つの機能ユニット間の送信及び/又は受信モジュールの遅延の変動を記述し、変動が比較的大きい場合には、本発明による方法の目的のために距離を実質的に増加させる因子を有し得る。第1のネットワーク又は第1のサブネットワークの1つへの接続を確立するネットワークインターフェースは、例えば、伝搬時間測定によって特定することができる。これは、サーバーをベースにした制御装置内の機能ユニット間の距離が、ネットワークケーブルを介して第1のネットワーク又は第1のサブネットワークに接続された制御装置へのネットワークインターフェースの接続よりも通常かなり短いことを利用したものである。ケーブル上の信号伝搬時間は著しくより長い。さらに、ネットワークインターフェースがそれを介して第1のネットワーク又は第1のサブネットワークに接続するコンポーネントによって、サーバーをベースにした制御装置内の接続では発生しない追加の遅延、例えばいわゆるPHYレイテンシが追加される場合がある。
【0051】
この情報が構成情報等としてサーバーをベースにした制御装置の機能ユニット内に存在しない場合、ネットワークの制御装置は、それらがサーバーをベースにした制御装置の機能ユニットであるかどうかを決定するために、直接相互接続されたポート間の伝搬時間の測定を使用し得る。回路基板又はバックプレーンを介して「物理的フリー(phy-less)」な状態で互いに直接接続された機能ユニット間には、PHYモジュールと、より長い接続媒体(例えばネットワークケーブル)とを介して接続された制御装置よりも大幅に低いレイテンシが存在し得る。
【0052】
本発明による方法は、選択された機能ユニットのそれぞれについて、選択されたすべてのネットワークインターフェースまでの平均距離を決定することと、選択されたすべてのネットワークインターフェースまでの平均距離が最も小さい選択された機能ユニットを、ネットワーク全体の定められたグランドマスタークロックとして定めることとをさらに含む。定められたグランドマスタークロックは、第1のネットワーク又は第1のサブネットワークのグランドマスタークロックとして機能し、これらのネットワークに対応する時刻同期メッセージを送信する。
【0053】
最小の平均距離は、例えば、選択されたネットワークインターフェースまでの距離を合計し、その合計を選択されたネットワークインターフェースの数で割ることによって形成することができる。また、ネットワークインターフェースを経由して接続される制御装置の精度要件に応じて、選択された個々のネットワークインターフェースの距離を重み付けすることも考えられる。
【0054】
本発明による方法の実施形態では、定められたグランドマスタークロックは、サーバーをベースにした制御装置内で、ベストマスタークロックアルゴリズムによって確認されたグランドマスタークロックとそれ自体を同期させることができる。ベストマスタークロックアルゴリズムによって確認されたグランドマスタークロックは、この場合、少なくとも、定められたグランドマスタークロックとして、時刻同期メッセージを第1のネットワーク又は第1のサブネットワークに送信する機能ユニットに適用される基本時間領域を設定し得る。この基本時間領域の時刻同期メッセージは、サーバーをベースにした制御装置の外部に転送する必要はない。定められたグランドマスタークロックは、この場合、第1のネットワーク又は第1のサブネットワークに対してIEEE 802.1AS規格に従ってグランドマスタークロックの領域番号0を使用し、それ自身の識別を送信し得る。サーバーをベースにした制御装置のすべての機能ユニットは、この手順を許容又はサポートするソフトウェアを有するので、第1のネットワーク又は第1のサブネットワークは、標準化された時刻同期方法及びプロトコルと依然として適合性がある。
【0055】
上記の方法の少なくとも一部を実行するように構成されたサーバーをベースにした制御装置の機能ユニットは、マイクロプロセッサ、揮発性及び不揮発性メモリ、同期可能なタイマー並びに少なくとも1つの通信インターフェースを含み、これらは1つ又は複数のデータ線又はデータバスを介して互いに通信可能に接続されている。通信インターフェースは、機能ユニットを、サーバーをベースにした制御装置に配置された他の機能ユニットに接続する。この接続は、直接行うことも、又はルータ若しくはスイッチを介して行うこともできる。
【0056】
したがって、上記の方法の態様を実行するように構成されたサーバーをベースにした制御装置は、第2のネットワークを介して互いに通信可能に接続された複数の機能ユニットを含む。第2のネットワークは、1つ又は複数のスイッチを含み得る。機能ユニット又はスイッチのネットワークインターフェースは、第2のネットワークを、サーバーをベースにした制御装置の外側に位置する第1のネットワークに接続する。また、機能ユニット又はスイッチの複数のネットワークインターフェースが、それぞれ、第2のネットワークを、サーバーをベースにした制御装置の外側に位置する複数の第1のサブネットワークのうちの1つに接続することも考えられる。機能ユニット又はスイッチの2つ以上は、上述した方法の少なくとも一部を実行するように構成される。
【0057】
本方法で提案するように、グランドマスタークロックを、サーバーをベースにした制御装置の、それに接続されるネットワークとのインターフェースにより近い場所に再配置することにより、特定の適用ケースにおいてより高い時刻同期の精度が達成され得、これは、例えば、特定のサブネットワークが他のサブネットワークよりも時刻同期の精度に対する要求が高い場合など、とりわけ車両ネットワークにおいて有利であり得る。これは、さらに上述した
図2a)の例と比較すると、
図2b)で容易に認識可能である。ネットワークデバイス104は、時刻同期の精度に対する要求が特に高い制御装置が接続された、サーバーをベースにした制御装置の外側に位置するネットワークへのネットワークインターフェースを提供するネットワークデバイスであると仮定される。ネットワークデバイス104にグランドマスタークロックを割り当てることで、外部ネットワークへの時刻同期メッセージの転送回数が少なくなる。サーバーをベースにした制御装置内での転送もそこで遅延をもたらす可能性があるが、ネットワークデバイス106、108又は110からのデータのタイムスタンプは、
図2a)を参照して記載した例よりも、互いの最大の生じ得るずれがより小さい。それぞれのネットワークデバイスの横に表示されている最大のずれの範囲が小さくなっていることをはっきり理解することができる。ネットワークデバイス104を起点として、時間情報は最大3回補正されるが、
図2a)に示すシステムでは、最大5回補正される。
【0058】
BMCAによって確認されたグランドマスタークロックはそのままに、サブネットワークを動的に起動/停止させ得るネットワークシステムにおいても、グランドマスタークロックを、サーバーをベースにした制御装置の、それに接続されたネットワークとのインターフェースにより近い位置に再配置することで、利点を享受する可能性がある。例えば、サーバーをベースにした制御装置の第1の機能ユニットの第1のネットワークインターフェースに接続され、時刻同期精度の要求が高いサブネットワークが停止している場合、サーバーをベースにした制御装置内のグランドマスタークロックを、アクティブなままの別のサブネットワークが接続されている第2のネットワークインターフェースにより近い位置に再配置すると、そのサブネットワークの時刻同期の精度を向上させる可能性がある。時刻同期の精度に高い要求があるアプリケーション又は機能が、異なるサブネットワークに接続された制御装置間で移動される場合も同様である。この場合、アプリケーション又は機能を実行する制御装置が接続されているネットワークインターフェースにより近い場所にサーバーをベースにした制御装置内でグランドマスタークロックを再配置することが有利になる場合がある。
【0059】
この場合、本発明による方法は、標準化された時刻同期方法を使用するので、他のネットワークデバイスとのあらゆる相互作用は、標準に準拠した方法で行われ得る。本発明に従う方法による時刻同期の変更は、ネットワークに対して閉じられ、ユニットとして開発され、そのソフトウェアコンポーネントは開発中に必要に応じて適合させテストすることができる制御装置内でのみ行われる。この場合、ハードウェアの変更やコンポーネントの追加は必要ない。
【0060】
また、再配置によって、時刻同期メッセージが第1のネットワークに入る前に、より少ない数のアクティブなコンポーネントを経由するため、サーバーをベースにした制御装置内に位置するグランドマスタークロックによる時刻同期の障害の可能性を低減できるという利点もある。
【0061】
特定のサブネットワークに接続された制御装置、或いはサブネットワークによって提供される機能又はアプリケーションに適切な優先順位をつけることで、それらの時刻同期の精度を向上させることができる。特に、例えばカメラとレーダー又はライダーなど、異なるセンサからのデータの融合をこれによって改善することができる。
【0062】
また、例えば、ネットワーク内の他の制御装置のように挙動するサーバーユニットのどの機能ユニットが筐体内にあり、どれがケーブル接続を介して接続されているかに関する情報など、本方法の実行中に得られる認識は、システムの安全性を効率的に高めるために利用することができる。ケーブル接続は、回路基板上又は回路基板内の線よりも、信号を監視することによって傍受することがはるかに容易であり、特に、筐体の不正な開放が防止されているか、又は少なくとも適切な予防措置によって特定される場合はそうである。この情報は、例えば、実際に自由にアクセスできるインターフェース、又は通信接続を備えたネットワークデバイスに対して、不正に介在されたネットワークデバイスを特定するための対応するスイッチを優先的に実装するために使用することができる。このようにして、貴重なコンピュータ資源を節約することができる。
【0063】
サーバーをベースにした制御装置の機能ユニットのポートと、外部ネットワークへの接続を確立するネットワークインターフェースとの間の距離を、距離インデックスとしてネットワークのトポロジーマップに格納することができる。例えば、外部ネットワークに直接接続されているポート又はネットワークインターフェースには距離0を割り当て、サーバーをベースにした制御装置内の離れた場所にあるポート又はインターフェースには、徐々に高い距離を割り当てることができる。システムのトポロジーマップを利用できる場合、距離インデックスを本発明によるグランドマスタークロックの位置決めに使用することができる。また、距離インデックスは、時刻同期の障害の確率及び不正確さを判断する際にも使用できる。
【0064】
以下、図面を参照しながら、本発明を例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】IEEE 802.1AS規格に従うメッセージの流れを示す。
【
図2】IEEE 802.1ASに従って同期されたネットワークデバイスにおける時間情報の生じ得るずれの変化の概略例を示す。
【
図3】サーバーをベースにした制御装置とサブネットワークとを含むシステムの例示的なブロック図を示す。
【
図4】BMCAを実施した後の
図3のシステムを示す。
【
図5】本発明の第1の態様によるサーバーをベースにした制御装置内のグランドマスタークロックの発明的再配置後の
図3のシステムを示す。
【
図6】本発明の第2の態様によるサーバーをベースにした制御装置内のグランドマスタークロックの発明的再配置後の
図3のシステムを示す。
【
図7】本発明による方法の一態様の概略フローチャートを示す。
【
図8】本方法を実施するサーバーをベースにした制御装置の機能ユニットの概略ブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図中、同一又は類似の要素は、同一の参照符号で参照することができる。
【0067】
図1及び2についてはすでに上述したので、改めて考察することはしない。
【0068】
図3は、サーバーをベースにした制御装置200とサブネットワーク240、242、244とを含むシステムの例示的なブロック図を示す。サーバーをベースにした制御装置200は、ネットワークスイッチ202、204、206に接続された複数の機能ユニット208、210、212、214を含む。ネットワークスイッチ202、204、206は相互接続され、その結果、機能ユニット208、210、212、214とネットワークスイッチ202、204、206を相互接続するサーバーをベースにした制御装置内の内部サブネットワークが存在する。1つ又は複数のネットワークインターフェースに加えて、機能ユニットは、この例では、マイクロコントローラ又はマイクロプロセッサ及び関連するメモリを含み、プログラム制御された機能を実行し得る。
【0069】
機能ユニットは、例えば機能ユニット208とネットワークスイッチ202、又は機能ユニット212とネットワークスイッチ204など、ネットワークスイッチに接続されてもよいが、機能ユニットは、例えば機能ユニット214とネットワークスイッチ206など、2つのネットワークスイッチに接続されていてもよい。
【0070】
1つ又は複数のネットワークスイッチは、例えばネットワークスイッチ202及び206など、内部サブネットワークを、サーバーをベースにした制御装置の外側に位置するサブネットワークに接続するネットワークインターフェースを有し得る。
【0071】
機能ユニットはまた、それ自体が、例えば、サブネットワーク244が接続される機能ユニット214など、サーバーをベースにした制御装置の外側に位置するサブネットワークを接続するネットワークインターフェースを有し得る。機能ユニット214は、この例では、サーバーをベースにした制御装置の内部サブネットワークへの接続を確立し得る。
【0072】
サブネットワーク240は制御装置226を含み、サブネットワーク242は制御装置228、230を含み、サブネットワーク244は制御装置220、222、224を含む。制御装置220、222、224、226、228、230は例えばセンサ、アクチュエータ又は他のサーバーをベースにした制御装置であり得る。
【0073】
図4は、BMCAを実施した後の
図3のシステムを示す。機能ユニット208は、クロックシンボルで示されるシステムのグランドマスタークロックを提供する。システムのそれぞれの制御装置のタイマーを同期させるとき、時刻同期メッセージが最大6回まで補正され、転送される。まず、機能ユニット208内のグランドマスタークロックからスイッチ202に時刻同期メッセージが送信される。スイッチ202は、スイッチ206に時刻同期メッセージを送信する前に、1回目の時間情報の補正を行う。スイッチ206は、機能ユニット214に時刻同期メッセージを送信する前に、2回目の時間情報の補正を行う。機能ユニット214は、制御装置220に時刻同期メッセージを送信する前に、3回目の時間情報の補正を行う。制御装置220は、制御装置222に時刻同期メッセージを送信する前に、4回目の時間情報の補正を行う。最後に、制御装置222は、制御装置224に時刻同期メッセージを送信する前に、5回目の時間情報の補正を行う。制御装置224は、時刻同期メッセージを転送しない場合でも、それ自体で時間情報に6回目の補正を行う。時刻同期メッセージの経路は、実線の矢印で示されている。
【0074】
制御装置224において時間情報の生じ得るずれが最大であること、少なくともずれに関する不確実性がこの制御装置で最大であることは容易に理解される。システムにおいて、センサがちょうどネットワークの最も外側の端部に配置されることがしばしばあり、それに応じて、取得した測定値に割り当てられたタイムスタンプが、高い生じ得るずれを有する可能性がある。最大限の生じ得るずれを低減するために、本発明によれば、サーバーをベースにした制御装置200内の別の機能ユニット又はスイッチが、グランドマスタークロックとして適しているかどうか、また外部サブネットワークへのインターフェースにより近接して位置しているかどうかが判断される。
【0075】
図5は、本発明の第1の実施形態による、条件を満たすサーバーをベースにした制御装置200内の機能ユニットを決定し、サーバーをベースにした制御装置200内のグランドマスタークロックを再配置した後の
図3のシステムを示す図である。この例では、これは機能ユニット214であり、機能ユニット214は一方では外部サブネットワークへの独自のネットワークインターフェースを有し、他方ではシステムの他のすべてのスイッチ、機能ユニット及び制御装置に関して時刻同期メッセージの最小限の数の転送又は補正を必要とする。図に示す例では、最大で3回である。
【0076】
図6は、本発明の第2の実施形態によるサーバーをベースにした制御装置200内のグランドマスタークロックの発明的再配置後の
図3のシステムを示す。この例では、制御装置228と230は、特に高い時刻同期要求を有する。ネットワークスイッチ206は、それ自体、グランドマスタークロックを提供するように適合されている。ネットワークスイッチ206にグランドマスタークロックを再配置することは、高い要求をする制御装置に関して、特に最大でも2回という最小限の転送数を実現し、他の機能ユニット及び制御装置に関して、依然として比較的少ない転送数を有する。
【0077】
さらに、制御装置228及び230から来るデータの処理は、機能ユニット214に再配置できるので、データをできるだけ少ない中間局で転送することもできる。
【0078】
図7は、本発明による例示的な方法300のフローチャートを示す。ステップ302において、まず、例えばIEEE 802.1ASに従うベストマスタークロックアルゴリズムを適用することによって、ネットワークのベストクロックが決定される。ステップ304において、グランドマスタークロックがサーバーをベースにした制御装置内にあるかどうか確認される。そうでない場合は、ステップ304から“n”が分岐し、方法は終了される。方法は、BMCAの次の実行時に再開することができる。グランドマスタークロックがサーバーをベースにした制御装置内にある場合、ステップ304から「y」が分岐し、ステップ306において、グランドマスタークロックとして適しており、選択されたすべてのネットワークインターフェースからの平均距離が最小であるサーバーをベースにした制御装置内の機能ユニットが決定される。ステップ302で決定したグランドマスタークロックが、ステップ306で決定された機能ユニットによって提供される場合、ステップ308から「y」が分岐し、方法は終了される。そうでなければ、ステップ308から「n」が分岐し、ステップ310で、グランドマスタークロックはステップ306で決定された機能ユニットに移動され、方法は終了される。方法はBMCAの次の実行時に再開することができる。
【0079】
ステップ306は、グランドマスタークロックを移動させる候補となり得る機能ユニットを選択することを伴うステップ306-1を含み得る。これは、対象となる機能ユニットのクロックパラメータのチェックと、クロックパラメータの最小要件との比較とを含み得る。クロックパラメータは、例えばgPTPプロトコルのアナウンスメッセージに含まれる。
【0080】
ステップ306はさらに、選択された機能ユニットから、サーバーをベースにした制御装置を外部ネットワーク又はサブネットワークに接続する選択されたアクティブネットワークインターフェースまでの距離を決定することを伴うステップ306-2を含み得る。この目的のために、すべてのアクティブなネットワークインターフェースが判定されてもよい。アクティブなネットワークインターフェースは、例えば、それぞれ2つの隣接するネットワークノードの間のメッセージの伝搬時間を測定することによって確認することができ、他のネットワークノードの組と比較して、2つのネットワークノード間で著しく増加した伝搬時間が測定された場合、接続はサーバーをベースにした制御装置内に位置せず、したがってサーバーをベースにした制御装置の外側に位置するサブネットワークへのネットワークインターフェースであると仮定される可能性がある。
【0081】
ステップ306は、すべての選択されたネットワークインターフェースまでの最小平均距離を有する先に決定された機能ユニットを所定のグランドマスタークロックとして定義するステップ306-3をさらに含み得る。
【0082】
図8は、本発明による方法を実施するように構成されたネットワークデバイス400の例示的ブロック図を示す。ネットワークデバイス400は、マイクロプロセッサ402に加えて、揮発性及び不揮発性メモリ404、406と、2つの通信インターフェース408と、同期可能タイマー410とを含む。ネットワークデバイスの要素は、1つ又は複数のデータ接続又はデータバス412を介して通信可能に相互に接続される。通信インターフェース408は、物理的インターフェース又は別々の物理的インターフェースを介して実装される論理インターフェース又はポートであり得る。不揮発性メモリ406は、マイクロプロセッサ402によって実行されると、本発明による方法の少なくとも1つの実施形態を実施するプログラム命令を含む。
【符号の説明】
【0083】
100-110 ネットワークデバイス
200 サーバーをベースにした制御装置
202-206 スイッチ
208-214 機能ユニット
220-230 制御装置
240-244 サブネットワーク
300 方法
302-310 方法ステップ
400 機能ユニット
402 マイクロプロセッサ
404 RAM
406 ROM
408 通信インターフェース
410 タイマー
412 バス