(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ポリアミド酸組成物、ポリアミド酸組成物の製造方法およびポリイミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20230801BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08 A
(21)【出願番号】P 2019009345
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市村 俊介
(72)【発明者】
【氏名】北村 幸太
(72)【発明者】
【氏名】山下 全広
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-164125(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221374(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/191052(WO,A1)
【文献】特開2006-290965(JP,A)
【文献】特開平09-095565(JP,A)
【文献】特開平11-080257(JP,A)
【文献】特開平11-080449(JP,A)
【文献】特開2018-193569(JP,A)
【文献】特開2006-188502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73、C08L、B32B27
B65D67-69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸とジアミンから得られるポリアミド酸および有機溶媒を少なくとも含む
ポリアミド酸組成物
からなるポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記芳香族テトラカルボン酸及び前記ジアミンを、少なくとも内壁の一部が、ガラス転移温度が40℃以下の高分子材料からなる容器に収納し、
log
10
(day)≦2300×(1/T)-5.3
(ここにdayは保管時間(単位:日)、Tは保管温度(単位:K)である。)
なる関係式を満足する保管温度と保管時間の範囲内にて容器内で保管する工程と、
保管後の前記芳香族テトラカルボン酸及び前記ジアミンを重合原料として用いた前記ポリアミド酸組成物をフィルム形状に成形する工程と、
少なくとも350℃以上550℃以下の温度にて熱処理する工程と、を含み、
前記高分子材料が、前記炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、炭素数8~30の脂肪酸アミドおよび炭素数8~30の脂肪酸誘導体から少なくとも選択される1種以上の脂肪酸系化合物を添加剤として0.05~5質量%含有する、ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ジアミンはベンゾオキサゾール骨格を有する、請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記芳香族テトラカルボン酸はピロメリット酸二無水物である、請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は欠点が少なく、微細な薄膜素子形成に適した平滑な表面を有するポリイミドフィルムを得るためのポリアミド酸組成物に関し、さらにはフレキシブルな電子デバイス用基板を製造するために好適に用いられるポリアミド酸組成物とポリイミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、フレキシブル電子デバイス用の基板として好適に用いる事ができるポリイミドフィルムを提供すべく鋭意研究を行い、たとえば特許文献1~4に示す如く、ベンゾオキサゾール骨格を有する新規な化学構造を有するポリイミドフィルムを開発してきた。かかるポリイミドフィルムは極めて低い線膨張係数と高い耐熱性、低熱収縮性を示し、微細な半導体デバイス等の基板として好適に用いる事ができる。例えば特許文献5~7に示すように半導体デバイス用のサブストレートあるいは、ディスプレイ素子のサブストレートとして応用することができる。さらに本発明者らは特許文献8に示すように、ポリイミドフィルムをガラスなどの無機基板と貼り合わせることによって仮支持し、フィルム面に微細なデバイスを形成した後に無機基板から剥離するプロセスを開発してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許3858892号公報
【文献】特許3937235号公報
【文献】特許3953057号公報
【文献】特許3956940号公報
【文献】特許3761030号公報
【文献】特許3783870号公報
【文献】特許4131412号公報
【文献】特許5796292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、前記開発を推進する過程で、フィルム表面にごく僅かな、かつ緩やかな曲率の凹凸欠点が発生する現象に遭遇した。この種の欠点は通常の光学顕微鏡による最表面の拡大観察では、凹凸が緩やかであるが故に発見しにくく、強いコントラストを得ることができる微分干渉顕微鏡による観察にて観察できるものである。本発明者らは、微分干渉顕微鏡で位置を特定した欠点個所のフィルム内部を詳しく観察した結果、フィルム内部に微小気泡が発生していることを見出した。本発明者らはポリイミドフィルム内部に発生した微小気泡部分、ならびにその周辺を精査に分析してみたが、微小気泡の発生源になりそうな痕跡を見つけることはできず、かかる欠点発生は非常に不可解なものであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリイミドフィルムを作製するための前駆体であるポリアミド酸組成物、ならびにポリアミド酸組成物を製造するための原料モノマーや溶剤の中に、微小気泡の原因があることを突き止め、さらにその原因を排除する方法を見出した。
【0006】
すなわち本発明は以下の構成を有する。
[1] 芳香族テトラカルボン酸とジアミンから得られるポリアミド酸および有機溶媒を少なくとも含む組成物であって、該ポリアミド酸に対する、炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、炭素数8~30の脂肪酸アミドおよび炭素数8~30の脂肪酸誘導体の合計が0.05質量%以下であることを特徴とするポリアミド酸組成物。
[2] 少なくとも内壁の一部が、ガラス転移温度が40℃以下の高分子材料からなる容器に収納し、
log10(day)≦2300×(1/T)-5.3
(ここにdayは保管時間(単位:日)、Tは保管温度(単位:K)である。)
なる関係式を満足する保管温度と保管時間の範囲内にて保管した後の芳香族テトラカルボン酸を重合原料として用いたことを特徴とする[1]に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
[3] 少なくとも内壁の一部が、ガラス転移温度が40℃以下の高分子材料からなる容器に収納し、
log10(day)≦2300×(1/T)-5.3
(ここにdayは保管時間(単位:日)、Tは保管温度(単位:K)である。)
なる関係式を満足する保管温度と保管時間の範囲内にて保管した後のジアミンを重合原料として用いたことを特徴とする[1]に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
[4] 少なくとも内壁の一部が、ガラス転移温度が40℃以下の高分子材料からなる容器に収納し、
log10(day)≦2300×(1/T)-5.3
(ここにdayは保管時間(単位:日)、Tは保管温度(単位:K)である。)
なる関係式を満足する保管温度と保管時間の範囲内にて保管した後の有機溶剤を重合溶媒として用いたことを特徴とする[1]に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
[5] 少なくとも内壁の一部が、ガラス転移温度が40℃以下の高分子材料からなる容器に収納し、
log10(day)≦2300×(1/T)-5.3
(ここにdayは保管時間(単位:日)、Tは保管温度(単位:K)である。)
なる関係式を満足する保管温度と保管時間の範囲内にて保管した後の無機粒子の溶剤分散体を重合原料に配合することを特徴とする[1]に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
[6] 前記容器の内壁の一部を構成する高分子材料が、前記炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、炭素数8~30の脂肪酸アミドおよび炭素数8~30の脂肪酸誘導体から少なくとも選択される1種以上の化合物を0.05~5質量%含有することを特徴とする前記[2]~[5]のいずれか一項に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
[7] 前記[1]に記載のポリアミド酸組成物を少なくとも350℃以上550℃以下の温度にて熱処理することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【0007】
さらに本発明は以下の構成を有することが好ましい。
[8] 微分干渉顕微鏡によって観察される直径2μm以上の欠点数が2個/平方cm以下であることを特徴とする前記[7]の製造方法にて得られるポリイミドフィルム。
[9] 前記微分干渉顕微鏡によって観察される直径2μm以上の欠点部が、同じ平面座標位置のフィルム内部に存在するフィルム面方向の外径サイズが0.5μm以上5μm以下の空洞に由来する凸欠点であることを特徴とする[8]に記載のポリイミドフィルム。
[10] 前記空洞のフィルム厚さ方向のフィルム断面観察による外径サイズが0.1μm以上3μm以下であることを特徴とする[8]または[9]に記載のポリイミドフィルム。
[11] 芳香族テトラカルボン酸とジアミンから得られるポリアミド酸および有機溶媒を少なくとも含む組成物であって、該ポリアミド酸に対する、炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、炭素数8~30の脂肪酸アミドおよび炭素数8~30の脂肪酸誘導体から少なくとも選択される1種以上の化合物の含有量が0.05質量%以下であるポリアミド酸組成物を、
フィルム形状に成形する工程、
350℃以上550℃以下の温度で熱処理する工程
を少なくとも含むことを特徴とする[8]~[11]のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド酸組成物は、ポリイミドの前駆体であり、ポリイミドフィルム製造の中間材料として用いられる。さらに、本発明のポリアミド酸組成物は、ガラス基板のような平滑な基板に塗布、乾燥の後熱処理などを経て、ポリイミド層(最終的には基板から剥離してポリイミドフィルムとなる)を得るための、いわゆる「ワニス」として用いられる。このような工程を経て得られるガラスとポリイミド層との積層体は、ポリイミド層の上に微細加工を行ったTFT等の電子デバイスを形成したのちに基板から剥離してフレキシブルデバイスを作製するために用いられる。代表的なフレキシブルデバイスはフレキシブルディスプレイのバックプレーンである。
まず、本発明が取り扱う欠点は、ポリイミドフィルムの表面を微分干渉顕微鏡にて観察した際に見出される欠点である。微分干渉顕微鏡とは位相差の異なる観察光を重ねて使用し、被観察物の屈折率の違いや、微細な凹凸によって生じる光の干渉を利用して観察を行う位相差顕微鏡の1種である。微分干渉顕微鏡を用いる事により透明な被観察物の内部組織や、極緩やかな段差や凹凸などを高コントラストで観察することができる。
先に述べたとおり、本発明者らは本願が取り扱う欠点の該当個所のフィルム内部に、極めて小さな微小気泡が存在する事を確認しており、かかるフィルム内部の微小気泡がフィルム表面に極緩やかな段差を有する凹凸を形成し、欠点の原因となっていると考えている。
【0009】
本発明者らは、ポリアミド酸組成物に、炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、炭素数8~30の脂肪酸アミド、炭素数8~30の脂肪酸誘導体から少なくとも選択される1種以上の化合物(以下原因化合物と呼ぶ)が、検出される場合に微小気泡が発生することを突き止めた。
さらに、それら微小気泡の原因となる原因化合物の由来を調査した結果、ポリアミド酸組成物の原料であるテトラカルボン酸無水物、ジアミン、溶剤などを収容する容器の、主に内壁に使用される材料に起因することが明らかになった。すなわち、原因化合物はポリ容器の材質、あるいは金属缶の内層材、さらには収納袋の内側の材料、すなわちシーラント樹脂などに添加される固体潤滑剤や改質剤、可塑剤、安定化材等の添加剤、あるいはオリゴマー成分であった。かかる容器内壁の材質、シーラント樹脂は比較的ガラス転移温度が低い高分子材料である。このような比較的低分子量の高分子材料には、前述のような添加剤が製品を安定に供給するために用いられている。またオリゴマー成分は高分子材料であれば確率的に零にすることは困難である。
しかしながら本発明者らは鋭意検討を行った結果、容器内壁に用いられる高分子材料のガラス転移温度が40℃以下である場合に、そのような容器に収納した場合でも保安温度を適切に管理すれば、原因化合物の混入を必要最小限に留めることができることを見出した。
すなわち、ポリイミドフィルムの前駆体であるポリアミド酸組成物、あるいはその原料であるモノマー、溶剤などを、内壁がガラス転移温度が40℃以下の高分子材料で被覆された容器に収納し、40℃以下の温度となるように保管することにより、原因化合物のポリアミド酸への混入量を微小気泡が顕在化する以下の量に抑制することが可能である
【0010】
かかる微分干渉顕微鏡でないと発見困難なレベルの表面の凹凸は、一般的なフレキシブルプリント回路板やCOF、TAB等においては特段に問題とはなってこなかった。しかしながら、フレキシブルディスプレイのバックプレーンに代表されるような、フォトリソグラフ法による極微細なパターン加工が必要なTFT加工などにおいては、サブミクロンオーダーの段差であっても露光によるパターン形成の精度を低下させるため、かかる欠点を低減させることは非常に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の保管実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリイミドとはイミド結合による多量体である。一般にポリイミドはテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの縮合物として得られる。一般的なポリイミドの製法としては、溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミド酸(ポリイミド前駆体)の有機溶剤溶液(ポリアミド酸組成物とも呼ぶ)を、支持体に塗布、乾燥して前駆体フィルムとし、さらに加熱ないし触媒の作用によりイミド化反応を生じせしめてポリイミドに転化させる方法が知られている。ポリイミドをフィルム化する際には前駆体フィルムを支持体から剥離してイミド化する方法が一般的である。また、支持体を被覆する用途においては剥離せずにイミド化する手法も知られている。ガラス基板などの支持体上に前駆体溶液を塗布乾燥し、支持体上でイミド化する方法は、ポリイミドフィルムをフレキシブルデバイスの基板として用いる用途にて実用化が検討されているところである。
【0013】
本発明のテトラカルボン酸二無水物としては好ましくは芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環族テトラカルボン酸二無水物を用いる事ができる。耐熱性の観点からは芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、光透過性の観点からは脂環族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。テトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明の芳香族テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸無水物等が挙げられる。本発明ではピロメリット酸二無水物の使用が好ましい。
【0015】
本発明の脂環族テトラカルボン酸類としては、例えば、シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸等の脂環族テトラカルボン酸、およびこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも、2個の無水物構造を有する二無水物(例えば、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物等)が好適である。なお、脂環族テトラカルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
脂環式テトラカルボン酸類は、透明性を重視する場合には、例えば、全テトラカルボン酸類の80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0016】
本発明のジアミン類としては、特に制限はなく、ポリイミド合成に通常用いられる芳香族ジアミン類、脂肪族ジアミン類、脂環式ジアミン類等を用いることができる。耐熱性の観点からは、芳香族ジアミン類が好ましく、芳香族ジアミン類の中では、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類を用いる事ができる。ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類を用いると、高い耐熱性とともに、高弾性率、低熱収縮性、低線膨張係数を発現させることが可能になる。ジアミン類は、単独で用いてもよいし二種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明のジアミン類の内、芳香族ジアミン類としては、例えば、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(ビスアニリン)、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’-ビス[(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4-{4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-フルオロフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-シアノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-ビフェノキシベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル、および上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てが、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1~3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0018】
本発明の脂肪族ジアミン類としては、例えば、1,2-ジアミノエタン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,8-ジアミノオクタン等が挙げられる。
本発明の脂環式ジアミン類としては、例えば、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルシクロヘキシルアミン)等が挙げられる。
【0019】
本発明のベンゾオキサゾール構造を有するジアミン類としては、例えば、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’-p-フェニレンビス(5-アミノベンゾオキサゾール)、2,2’-p-フェニレンビス(6-アミノベンゾオキサゾール)、1-(5-アミノベンゾオキサゾロ)-4-(6-アミノベンゾオキサゾロ)ベンゼン、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール等が挙げられる。
【0020】
本発明において、好ましく用いられるポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの縮合物からなるフィルムであることが好ましく、さらに、
(a)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、少なくともベンゾオキサゾール骨格を有するジアミンを含むジアミンとの縮合物のフィルム、
(b)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、少なくとも分子内にエーテル結合を有するジアミンを含むジアミンとの縮合物のフィルム、
(c)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、少なくともフェニレンジアミンを含むジアミンとの縮合物のフィルム、
(d)ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの縮合物のフィルム、
から選択される少なくとも一種のポリイミドフィルムからなることが好ましい。
【0021】
本発明のポリイミドのフィルム膜厚は、特に限定されるものではないが、0.5μm~200μmが好ましく、更に好ましくは、3μm~50μmである。0.5μm以下では、膜厚の制御が困難であり、一部ポリイミドが欠損する部分ができる可能性がある。このため第2のポリイミド層を剥離することが困難となる場合が生じる。一方で200μm以上では、作製に時間がかかり、フィルムの膜厚斑を制御することが困難になる場合がある。ポリイミド層の膜厚斑は5%以下である事が必須であり、さらに4%以下である事が好ましく、なおさらに3%以下である事が好ましい。
【0022】
本発明のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの縮合物のフィルム、すなわちポリイミドフィルムは溶液成膜法で得ることができる。ポリイミドの溶液成膜法は、ステンレス鋼のロールないしはエンドレスベルト、あるいは、PETなどの高分子フィルムを、長尺ないしエンドレスの支持体として用い、支持体上にポリイミド樹脂の前駆体溶液を塗布し、乾燥後に支持体から剥離してポリイミド前駆体フィルムとし、好ましくはフィルムの両端をクリップないしピンにて把持して、搬送しつつ、さらに熱処理を加えてポリイミド前駆体をポリイミドへと化学反応させてポリイミドフィルムを得る方法である。かかる手法を用いて得られるポリイミドフィルムは、膜厚斑が5%以下、好ましくは3.6%以下、さらに好ましくは2.4%以下であり、引張破断強度が90MPa以上、好ましくは180MPa以上、さらに好ましくは350MPa以上、なお好ましくは450MPa以上のポリイミドフィルムとなる。
【0023】
本発明では、ポリイミド層の性状調整のために、ポリイミドに無機物を含有せしめることが可能であるが、必要最低限に留めるべきである。一般に高分子をフィルム化する際には滑剤と呼ばれる無機粒子を少量添加し、フィルム表面に積極的に微小な凸部を生成せしめ、フィルムとフィルムないしフィルムと平滑面が重なった際に、その間に空気層を巻き込むことによりフィルムの滑り性を発現させる。本発明において、ポリイミド層に含まれる酸化珪素成分は好ましくは6000ppm以下、好ましくは4500ppm以下、更に好ましくは1800ppm以下、なおさらに好ましくは900ppm以下に留めることが好ましい。過剰な滑剤の添加は、フィルム表面の粗度を大きくし、第2のポリイミド層の剥離性を阻害する場合がある。
かかる無機粒子は、有機溶剤などに分散させた状態にてポリアミド酸組成物に転嫁されることが多い。
【0024】
本発明において、欠点ないし微小気泡の外径サイズは、円形ないし球形の場合は直径であり、歪んだ形状や不定形の場合には外接円の直径を外径サイズと呼ぶ。外接円の直径は、鮮明な画像があれば、画像処理などにより比較的簡便に求める事ができる。
【0025】
本発明のポリアミド酸組成物は、ポリアミド酸の有機溶媒溶液と、ポリアミド酸の有機溶媒を乾燥させて得られるポリアミド酸フィルム(GF:ゲルフィルムないしグリーンフィルムとも呼ばれる)を含む。なお、便宜上ポリアミド酸フィルムと呼ぶが、実際にポリアミド酸溶液を支持体に塗布して乾燥させた場合には、乾燥と同時にポリアミド酸の一部で脱水縮合反応によるイミド化が進行するため、ポリアミド酸とポリイミド、および有機溶媒が共存した状態となる。
本発明では、ポリアミド酸組成物に対する炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、炭素数8~30の脂肪酸アミドおよび炭素数8~30の脂肪酸誘導体から少なくとも選択される1種以上の化合物(以下脂肪酸系化合物と呼ぶ)の含有量を規定しているが、上記の通りポリアミド酸の存在量はポリイミド化の過程によって変化するため、本発明において「ポリアミド酸の質量に対して」と云う場合には、ポリアミド酸の原料であるテトラカルボン酸とジアミンの合計量を指すこととする。
【0026】
本発明では、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸組成物に含まれる、炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、炭素数8~30の脂肪酸アミドおよび炭素数8~30の脂肪酸誘導体から少なくとも選択される1種以上の化合物の含有量がポリアミド酸の質量に対して0.1質量%以下であるポリアミド酸組成物を用いてポリイミドを得るところに特徴がある。
【0027】
本発明の炭素数8~30の脂肪酸としては飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでもよく、例えば、オクタン酸、カプリル酸、ノナン酸、ペラルゴン酸、ドデカン酸、ラウリン酸、テトラデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ペンタデシル酸、ヘキサデカン酸、パルミチン酸、9-ヘキサデセン酸、パルミトレイン酸、ヘプタデカン酸、マルガリン酸、オクタデカン酸、ステアリン酸、cis-9-オクタデセン酸、オレイン酸、11-オクタデセン酸、バクセン酸、cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸、リノール酸、9,12,15-オクタデカントリエン酸、(9,12,15)-リノレン酸、6,9,12-オクタデカトリエン酸、(6,9,12)-リノレン酸、9,11,13-オクタデカトリエン酸、エレオステアリン酸、エイコサン酸、アラキジン酸、8,11-エイコサジエン酸、5,8,11-エイコサトリエン酸、ミード酸、5,8,11-エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、ドコサン酸、ベヘン酸、テトラコサン酸、リグノセリン酸、cis-15-テトラコサン酸、ネルボン酸、ヘキサコサン酸、セロチン酸、オクタコサン酸、モンタン酸、トリアコンタン酸、メリシン酸、エルカ酸、ネルボン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等である。
【0028】
本発明の炭素数8~30の脂肪酸塩とは、前記例示した脂肪酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、二価金属塩、三価金属塩、四価金属塩などである。
【0029】
本発明の炭素数8~30の脂肪酸アミドの代表例としては、前記例示した脂肪酸とアンモニアの脱水縮合反応により得られる化合物であり、脂肪族アミドと呼ばれることもある。脂肪酸アミドとしては、例えばステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどである。
【0030】
本発明の炭素数8~30の脂肪酸誘導体とは、前記例示した脂肪酸のエステル、あるいはハロゲン置換物、不飽和結合に由来する多量体などである。
本発明ではこれら炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、炭素数8~30の脂肪酸アミドおよび炭素数8~30の脂肪酸誘導体から少なくとも選択される1種以上の化合物(脂肪酸系化合物)の含有量を、ポリアミド酸組成物中のポリアミド酸の質量に対して0.1質量%以下であり、好ましくは0.01質量%でありさらに好ましくは0.003質量%である。下限値は検出下限値以下であるため特に定めない。
【0031】
これらの脂肪酸系化合物は、極微量であればポリアミド酸組成物の溶剤に溶解した状態で存在するが、元来ポリアミド酸組成物の溶剤には相溶性が乏しいため、乾燥が進んで溶剤量が減少してくると相対的に溶解度以上の濃度に達し、析出して組成物中で微粒子ないしミセルを形成する。すなわち、この微粒子ないしミセルが、ポリアミド酸フィルム中に生成し、さらにポリアミド酸を脱水縮合してイミド化する熱処理時に熱分解ないし昇華することにより、微小気泡が生成する。これら脂肪酸系化合物量が所定の範囲内であれば、微粒子ないしミセル化が生じる濃度に達した際には十分に温度が高くなっており、微粒子ないしミセルの形で析出する前に分解ないし昇華してしまうため微小気泡は生じない。
【0032】
本発明者らは、これら脂肪酸系化合物の由来を調査した結果、これらポリアミド酸の原料やポリアミド酸溶液を保管する際の容器に由来することを突き止めた。すなわちこれら脂肪酸系化合物は容器の内壁に使用される材料から、保管中に原料やポリアミド酸溶液に移行することにより蓄積される。これら脂肪酸系化合物は化学的な安定性が比較的高いために、ポリアミド酸の重合反応や、ポリアミド酸からポリイミドに転化する際の脱水反応を直接的に阻害することは無いため見過ごされやすい。
【0033】
本発明にて用いられる、ポリアミド酸の原料、溶剤、ポリアミド酸組成物などを保管する容器の一例は、一斗缶や小型金属缶である。これら金属製の容器の内壁はポリエチレンフィルム、プロピレンフィルム、ポリオレフィンフィルム、フッ化ビニルフィルム、ポリエステルフィルムなどがラミネートされ、内容物と金属とが直接接触することを防止している。また蓋についてもシーラーとして同様の比較的柔軟な樹脂が使われていることが多い。
本発明にて用いられる、ポリアミド酸の原料、溶剤、ポリアミド酸組成物などを保管する容器の他の一例としては、いわゆるポリ容器を例示することができる。ポリ容器はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなど、化学的安定性が高く、比較的柔軟高分子材料で作られている。
本発明にて、ポリアミド酸の原料が固体の塊状ないし粉末状である場合には、ポリエステル、ナイロンなどの高分子材料製袋、いわゆるポリ袋や、内側に高分子フィルムを配した紙袋が用いられる場合がある。このような袋状容器の場合、容器の最内層はヒートシール用のシーラントであるため、内容物はシーラント層に直接的に接することとなる。
【0034】
本発明の脂肪酸系化合物は、容器の内壁やシーラントに使用されるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィンなどへの添加剤として広く用いられている。これらを全く使わない素材で内壁が覆われた容器を用いることができれば、これら脂肪酸系化合物の混入は排除できるわけであるが、現実問題としてそのような容器を手配することは困難である。
【0035】
本発明では、前述のような脂肪酸系化合物を添加剤として含む材料で内壁が覆われた容器を用いた場合でも、特定の条件下で保管を行えば、脂肪族系化合物の混入量を微小気泡が発生する量以下に抑えることができる。
すなわち、
log10(day)≦2300×(1/T)-5.3
(ここにdayは保管時間(単位:日)、Tは保管温度(単位:K)である。)
なる関係式を満足する保管温度と保管時間の範囲内であれば、脂肪酸系化合物の混入量を微小気泡発生限度以下に留めることができ、結果として微分干渉顕微鏡によって観察される直径2μm以上の欠点数が2個/平方cm以下、好ましくは1個/平方cm、さらに好ましくは1個/10平方cm、なお好ましくは1個/100平方cmであるポリイミドフィルムをえることができる。かかる関係式を満足する保管温度と保管時間は、例えば、60℃においては1か月(30日)、40℃においては3ヶ月(90日)、25℃においては8ヶ月(240日)である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
<実験例1>
精製直後の5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾールおよびピロメリット酸二無水物をそれぞれ1.5g秤量し、クロロホルム12mlとともにサンプル瓶に密栓し、超音波分散させながら、2時間抽出した。抽出液をろ過し、ろ液を窒素雰囲気下、室温で濃縮乾固させ、重クロロホルムに溶解後、1H-NMR測定(400MHz)を行った。定量のため、内部標準としてジメチルイソフタレートを50μg添加した。その結果、両原料共に少なくとも0.001質量%以上の炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、炭素数8~30の脂肪酸アミドおよび炭素数8~30の脂肪酸誘導体は検出されなかった。
【0037】
<ポリアミド酸の重合例>
この原料を用いてポリアミド酸の重合を実施した。
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール100質量部を、蒸留精製したN,N-ジメチルアセトアミド1400質量部を加えて完全に溶解させた後,ピロメリット酸二無水物96質量部を加え、さらに滑剤としてコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなる分散体(日産化学工業製「スノーテックス(登録商標)DMAC-ST30」ただし製造日から一週間以内に納入された製品)をシリカ(滑剤)がポリアミド酸溶液中のポリマー固形分総量にて0.12質量%)になるように加え、25℃の反応温度で18時間攪拌すると、褐色で粘調なポリアミド酸溶液A(ポリアミド酸組成物A)が得られた。
このポリアミド酸溶液10gを多量のクロロホルム中に再沈殿し、上澄み液を窒素雰囲気下、室温で濃縮乾固させ、重クロロホルムに溶解後、1H-NMR測定(400MHz)を行った。定量のため、内部標準としてジメチルイソフタレートを50μg添加した。その結果、少なくとも0.001質量%以上の炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、および炭素数8~30の脂肪酸誘導体は検出されなかった。また、このポリアミド酸の還元粘度は3.6dl/gであった。
【0038】
<ポリイミドフィルムの製造例>
ポリアミド酸溶液AをG3サイズ(370mm×470mmのディスプレイ基板用のガラス基板(支持体)に、四辺それぞれ5mmを余白として、精密コーターを用いてコーティングし、110℃にて5分間乾燥してガラス基板に支持されたポリアミド酸フィルム層Aを得た。TGAで測定したフィルム中の残存溶媒量は35質量%であった。
このポリアミド酸フィルム層Aの一部をガラス基板から剥離し、5g秤量し、クロロホルム50mlとともにサンプル瓶に密栓し、超音波分散させながら、2時間抽出した。抽出液をろ過し、ろ液を窒素雰囲気下で濃縮乾固させ、重クロロホルムに溶解後、1H-NMR測定(400MHz)を行った。定量のため、内部標準としてジメチルイソフタレートを50μg添加した。その結果、ポリアミド酸フィルムにおいても少なくとも0.001質量%以上の炭素数8~30の脂肪酸、炭素数8~30の脂肪酸塩、炭素数8~30の脂肪酸アミドおよび炭素数8~30の脂肪酸誘導体は検出されなかった。
同様にして得られたガラス基板に支持されたポリアミド酸フィルム層Aを真空乾燥機にて150℃×20分乾燥し、さらに、イナートオーブンにて450℃×15分間の熱処理を行い、ガラス基板に支持された厚さ25μmのポリイミドフィルム層Aを得た。
【0039】
<欠点数の計測>
得られたポリイミドフィルム層Aの四辺5mm(ガラスエッジから10mm)を余白と見做し、その内側のエリアから無作為に50mm×50mmの正方形を5個所抽出し、観察用エリアとした。観察用エリアの表面を微分干渉顕微鏡100倍(視野概ね1.5mmφ)で観察し、色むらが顕著な2μm以上の部分を欠点としてマッピングとともに個数をカウントした。なお欠点個数が75個を超えた時点(3.0個/平方cmに相当)で「欠点多数」と判断し係数は取りやめた。2μm以上の欠点個数は0.0個/平方cmであった。
【0040】
<比較実験例1>
<ポリアミド酸原料の保管>
精製直後の5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾールおよびピロメリット酸無水物を、それぞれ内面がポリオレフィンシーラントであるポリ袋に収納し、40℃にて60日間保管した。いずれも粉末原料である。
蒸留精製したN,N-ジメチルアセトアミドを、内面がポリエチレンコーティングされた金属缶に収納し、確実に密閉し、40℃にて60日官保管した。
製造から一週間以内に納入されたコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなる分散体(日産化学工業製「スノーテックス(登録商標)DMAC-ST30」)を、同様に内面がポリエチレンコーティングされた金属缶に収納し、確実に密閉し、40℃にて60日間保管した。
【0041】
この40℃にて60日間保管された原料を用い、実験例1と同様に重合操作を行いポリアミド酸溶液Bを得た。このポリアミド酸溶液B10gを多量のクロロホルム中に再沈殿し、上澄み液を窒素雰囲気下、室温で濃縮乾固させ、重クロロホルムに溶解後、1H-NMR測定(400MHz)を行った。定量のため、内部標準としてジメチルイソフタレートを50μg添加した。その結果、ポリアミド酸に対して0.12質量%のエルカ酸アミドを検出した。
【0042】
ポリアミド酸の粉末原料の保管に用いたポリ袋の内面のポリオレフィンシートを分析したところ、1.5質量%のエルカ酸アミドを検出した。同様に液体原料を保管した金属缶の内面の高分子皮膜を分析したところ、0.01質量%のステアリン酸を検出した。少なくともポリアミド酸溶液Bに含まれていたエルカ酸アミドは保管容器由来であると結論づけられる。
【0043】
得られたポリアミド酸溶液Bを用いて実験例1と同様に操作し、ガラス基板に支持されたポリイミドフィルム層Bを得た。得られたポリイミドフィルム層Bの表面を微分干渉顕微鏡で観察したところ、空気面側に2μm以上の欠点が3個/平方cmあるのを検出した。またフィルムの欠点部分の断面観察を行ったところ、フィルムの空気面から1~5μmの範囲に外径が1.0μm~1.8μmの微小気泡が観察された。
【0044】
<保管実験>
比較実験例で用いた精製直後の5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾールおよびピロメリット酸無水物を、それぞれ比較実験例で用いた内面がポリオレフィンシーラントであるポリ袋に収納し、表1に示す保管温度と保管時間の間保存し、その後に実験例1と同様の操作にてガラス基板に支持されたポリイミドフィルム層を作製し、微分干渉顕微鏡による欠点観察を行った。結果を表1に示す。ここに欠点数が1.0個/平方cm以下の場合を○、1.0個/平方cmを超え、2.0個/平方cm以下の場合を△、2.0個/平方cmを超える場合を×とした。
【0045】
【0046】
保管実験の結果を、縦軸に保管時間の対数を、横軸に保管温度の逆数を取ってプロットした結果を
図1に示す。
図1に於けるグラフ中の破線で引いた斜線が、
log
10(day)=2300×(1/T)-5.3
であり、この斜線より下の部分であれば、欠点数の低いポリイミドフィルム層が得られることが解る。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上述べてきたように、本発明の示す条件で原料を保管管理すれば、欠点発生数の少ない高品位のポリイミドフィルム層を得ることができる。本発明で得られるポリイミドフィルム層は、高品位な微細パターン形成に好適に用いることができ、特に微細なTFT形成が求められるフレキシブルディスプレイのバックプレーン製作に最適である。