(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】左右輪駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20230801BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20230801BHJP
H02P 5/46 20060101ALI20230801BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20230801BHJP
【FI】
B60L15/20 S
F16H57/04 G
H02P5/46 F
B60L3/00 H
(21)【出願番号】P 2019043491
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-116701(JP,A)
【文献】特開2018-093612(JP,A)
【文献】特開2010-254203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
F16H 57/04
H02P 5/46
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右輪を駆動する第一モーター及び第二モーターと、前記第一モーター及び前記第二モーターのトルク差を増幅して前記左右輪の各々に伝達する歯車機構とを具備する左右輪駆動装置において、
前記第一モーターと前記歯車機構との間の動力伝達経路に接続され、前記第一モーター及び前記第二モーターに供給される冷媒を吐出する機械式のポンプと、
前記第一モーターの回転数に基づき、前記ポンプの動作に由来する損失トルクと前記損失トルクを補填するための前記第一モーターのトルク加算値とを算出する算出部と、
前記第一モーターの要求トルクに前記トルク加算値を加算したトルクが発生するように前記第一モーターを制御する制御部とを備える
ことを特徴とする左右輪駆動装置。
【請求項2】
前記ポンプから吐出された前記冷媒を前記第一モーターに導入する第一冷媒通路と、
前記ポンプから吐出された前記冷媒を前記第二モーターに導入する第二冷媒通路とを備え、
前記第一冷媒通路が、前記第二冷媒通路よりも大きい断面積を有する
ことを特徴とする請求項1記載の左右輪駆動装置。
【請求項3】
前記ポンプから吐出された前記冷媒を前記第一モーターに導入する第一冷媒通路と、
前記ポンプから吐出された前記冷媒を前記第二モーターに導入する第二冷媒通路と、
前記第一冷媒通路に介装され、前記第一モーターに供給される前記冷媒の流量を制御する第一バルブと、
前記第二冷媒通路に介装され、前記第二モーターに供給される前記冷媒の流量を制御する第二バルブとを備え、
前記制御部が、前記車両の
旋回状況に応じて前記第一バルブ及び前記第二バルブの開度を制御する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の左右輪駆動装置。
【請求項4】
前記制御部が、前記第一モーター及び前記第二モーターのうち、旋回内輪よりも旋回外輪に多くの駆動力を伝達する一方に供給される前記冷媒の流量が増加し、他方に供給される前記冷媒の流量が減少するように、前記第一バルブ及び前記第二バルブの開度を制御する
ことを特徴とする請求項3記載の左右輪駆動装置。
【請求項5】
前記制御部が、前記第一モーター及び前記第二モーターのうち、旋回外輪よりも旋回内輪に多くの駆動力を伝達する一方に供給される前記冷媒の流量が増加し、他方に供給される前記冷媒の流量が減少するように、前記第一バルブ及び前記第二バルブの開度を制御する
ことを特徴とする請求項3記載の左右輪駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の左右輪を駆動する左右輪駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の左右輪を電動機で駆動する車両用駆動装置において、電動機を冷却するためのオイルポンプをその電動機で駆動するようにしたものが知られている。すなわち、電動機の動力伝達経路に機械式のオイルポンプ(メカポンプ)を介装させ、オイルポンプから吐出される冷却油でその電動機を冷却するものである。このようなオイルポンプに入力される駆動力は、電動機の回転数が上昇するにつれて大きくなり、冷却油の吐出量を増大させるように作用する。したがって、車両の走行速度に応じた冷却性能を確保することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存の技術では、二つの電動機が車両に搭載されている場合に、片方の電動機でオイルポンプが駆動されている。一方、オイルポンプを作動させることで駆動損失が発生することから、二つの電動機の負荷や回転数が不均衡となり、左右輪それぞれの駆動力が不安定になることがある。特に、二つの電動機のトルク差を増幅して左右輪の各々に伝達する歯車機構(差動機構や遊星歯車機構)を具備する左右輪駆動装置においては、二つの電動機に同一のトルクを発生させたとしても、左右輪に定常的なトルク差が生じてしまう。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、左右輪駆動装置に関し、左右輪の意図しないトルク差を減少させることである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)開示の左右輪駆動装置は、車両の左右輪を駆動する第一モーター及び第二モーターと、前記第一モーター及び前記第二モーターのトルク差を増幅して前記左右輪の各々に伝達する歯車機構とを具備する左右輪駆動装置である。本装置は、前記第一モーターと前記歯車機構との間の動力伝達経路に接続され、前記第一モーター及び前記第二モーターに供給される冷媒を吐出する機械式のポンプを備える。
【0007】
また、前記第一モーターの回転数に基づき、前記ポンプの動作に由来する損失トルクと前記損失トルクを補填するための前記第一モーターのトルク加算値とを算出する算出部を備える。さらに、前記第一モーターの要求トルクに前記トルク加算値を加算したトルクが発生するように前記第一モーターを制御する制御部を備える。
【0008】
(2)前記ポンプから吐出された前記冷媒を前記第一モーターに導入する第一冷媒通路と、前記ポンプから吐出された前記冷媒を前記第二モーターに導入する第二冷媒通路とを備えることが好ましい。また、前記第一冷媒通路が、前記第二冷媒通路よりも大きい断面積を有することが好ましい。
【0009】
(3)前記第一冷媒通路に介装され、前記第一モーターに供給される前記冷媒の流量を制御する第一バルブと、前記第二冷媒通路に介装され、前記第二モーターに供給される前記冷媒の流量を制御する第二バルブとを備えることが好ましい。また、前記制御部が、前記車両の旋回状況に応じて前記第一バルブ及び前記第二バルブの開度を制御することが好ましい。
【0010】
(4)前記制御部が、前記第一モーター及び前記第二モーターのうち、旋回内輪よりも旋回外輪に多くの駆動力を伝達する一方に供給される前記冷媒の流量が増加し、他方に供給される前記冷媒の流量が減少するように、前記第一バルブ及び前記第二バルブの開度を制御することが好ましい。
【0011】
(5)前記制御部が、前記第一モーター及び前記第二モーターのうち、旋回外輪よりも旋回内輪に多くの駆動力を伝達する一方に供給される前記冷媒の流量が増加し、他方に供給される前記冷媒の流量が減少するように、前記第一バルブ及び前記第二バルブの開度を制御することが好ましい。
【0012】
別言すれば、前記制御部が、前記第一モーター及び前記第二モーターのうち、出力されるモータートルク(あるいはモーター駆動力)の大きい一方に供給される前記冷媒の流量が増加し、他方に供給される前記冷媒の流量が減少するように、前記第一バルブ及び前記第二バルブの開度を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
ポンプの動作に由来する損失トルクを第一モーターの要求トルクに加算することで、左右輪の意図しないトルク差を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態としての左右輪駆動装置の構成を説明するための模式図である。
【
図2】モーター回転数と左右輪の回転数との関係を示す共線図である。
【
図3】モーター回転数と損失トルクとの関係を示すグラフである。
【
図4】モーターの制御手順を説明するためのフローチャートである。
【
図5】バルブの制御手順の例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】バルブの制御手順の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.構成]
以下、図面を参照して実施形態としての左右輪駆動装置を説明する。本装置は、
図1に示す車両のAYC装置15に適用される。このAYC装置15は、AYC(アクティブヨーコントロール)機能を持った車両用のディファレンシャル装置であり、左右輪の間に介装される。AYC機能とは、左右駆動輪における駆動力(駆動トルク)の分担割合を主体的に制御することでヨーモーメントの大きさを調節し、これを以て車両のヨー方向の姿勢を安定させる機能である。本実施形態のAYC装置15は、AYC機能だけでなく、回転力を左右輪に伝達して車両を走行させる機能と、車両旋回時に発生する左右輪の回転数差を受動的に吸収する機能とを併せ持つ。
【0016】
AYC装置15の内部には、第一モーター1,第二モーター2,ポンプ3が内蔵される。第一モーター1は車両の右側に配置され、第二モーター2は左側に配置される。これらの第一モーター1,第二モーター2は、図示しないバッテリーの電力で駆動される交流モーターであり、好ましくは出力特性がほぼ同一とされる。左右駆動輪のトルクは可変であり、第一モーター1,第二モーター2のトルク差が増幅されて左右輪の各々に伝達される。
【0017】
本実施形態では、第一モーター1,第二モーター2のそれぞれが、歯車機構8(差動機構や遊星歯車機構など)を介して、右車輪に繋がる右軸13と左車輪に繋がる左軸14とに接続される。第一モーター1,右軸13,左軸14,第二モーター2の四者は、回転力を相互に伝達可能とされる。第一モーター1は、左軸14よりも右軸13に多くの駆動力を伝達し、第二モーター2は右軸13よりも左軸14に多くの駆動力を伝達する。
【0018】
各々の回転速度は、
図2に示すように、共線図上で「第一モーター1、右軸13、左軸14、第二モーター2」の順序で直線状に配置される値となる。したがって、左右駆動輪の回転数差は、第一モーター1及び第二モーター2の回転数差に比例した大きさとなる。また、第一モーター1及び第二モーター2の回転数が同一であるときに、左右駆動輪の回転数も同一となる。なお、左右駆動輪の負荷が同一であるとすれば、第一モーター1及び第二モーター2のトルクの大小関係が、そのまま左右駆動輪のトルクの大小関係に反映される。
【0019】
続いて、第一モーター1,第二モーター2の冷却構造について説明する。
図1に示すように、第一モーター1は第一冷却油通路4(第一冷媒通路)に介装され、第二モーター2は第二冷却油通路5(第二冷媒通路)に介装される。これらの冷却油通路4,5は、第一モーター1,第二モーター2を冷却しつつ潤滑する冷却油が循環する冷媒通路である。
図1中において、冷却油は第一冷却油通路4の内部を反時計回りに循環し、第二冷却油通路5の内部を時計回りに循環する。また、第一冷却油通路4及び第二冷却油通路5のうち、第一モーター1,第二モーター2からの戻り油が流通する区間は一本に合流している。
【0020】
第一冷却油通路4及び第二冷却油通路5の合流区間には、ポンプ3が介装される。ポンプ3は、第一モーター1,第二モーター2のそれぞれに供給される冷却油(冷媒)を吐出する機械式の圧送装置(メカポンプ)である。このポンプ3は、少なくとも第一モーター1と歯車機構8との間の動力伝達経路に接続される。好ましくは、図示しない減速ギヤを介して、ポンプ3が第一モーター1の回転軸に接続される。ポンプ3がモーター1の回転軸に接続される場合には、
図2の共線図に示すように、ポンプ3の回転数が第一モーター1と同一の回転数となる。また、ポンプ3が減速ギヤを介してモーター1の回転軸に接続される場合には、
図2中に破線で示すように、ポンプ3の回転数が第一モーター1の回転数に比例する負の値をとりうる。
【0021】
ポンプ3を駆動するための動力は、おもに第一モーター1で賄われる。ポンプ3の動作に由来する車軸上の駆動損失トルクと第一モーター1の回転数との関係は、
図3に示すように、モーター回転数が上昇するにつれて損失トルクが増大し、かつ、その増加勾配が減少する関係となる。このように、ポンプ3を駆動することで生じるトルクロスの大きさは、第一モーター1の回転数に基づいて算出することができる。
【0022】
第一冷却油通路4には第一バルブ6が介装され、第二冷却油通路5には第二バルブ7が介装される。各バルブ6,7は、二つの冷却油通路4,5が合流区間から分岐する箇所の近傍に配置される。第一バルブ6は、第一モーター1に供給される冷却油の流量を制御する流量制御弁であり、第二バルブ7は、第二モーター2に供給される冷却油の流量を制御する流量制御弁である。
【0023】
第一冷却油通路4の断面積は、好ましくは第二冷却油通路5の断面積よりも大きめの値に設定される。これにより、第一モーター1が第二モーター2よりも冷却されやすくなり、モーター1,2の温度差に由来するトルク差が生じにくくなる。一方、それぞれの冷却油通路4,5における冷却油の流量は、第一バルブ6及び第二バルブ7の開度を調節することで制御されうる。したがって、第一冷却油通路4の断面積は、第二冷却油通路5の断面積と同一であってもよい。第一バルブ6,第二バルブ7が省略された構成においては、第一冷却油通路4の断面積を第二冷却油通路5の断面積を大きく設定するとよい。
【0024】
各モーター1,2及び各バルブ6,7の作動状態は、制御装置10によって制御される。制御装置10は、左右輪の意図しないトルク差を減少させるための制御を実施する電子制御装置(コンピューター)である。制御装置10には、プロセッサー(中央処理装置),メモリー(メインメモリ),記憶装置(ストレージ),インタフェース装置などが内蔵され、これらが内部バスを介して接続される。また、制御装置10には、アクセル開度センサー16,車速センサー17,操舵角センサー18が接続される。
【0025】
アクセル開度センサー16は、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するセンサーである。また、車速センサー17は車両の走行速度(車速)を検出するセンサーであり、操舵角センサー18はステアリングの操舵角を検出するセンサーである。これらのセンサー16~18で検出された情報は、第一モーター1,第二モーター2の各々に要求されるトルクや出力の大きさ(すなわち、要求トルクや要求出力など)を算出するのに用いられる。
【0026】
なお、AYC機能を制御するための電子制御装置(AYC-ECU)が車両に搭載されている場合には、この電子制御装置から左右駆動輪の総トルク,トルク差,各モーター1,2の回転数,通電電流値,電圧値,周波数などの情報を取得することで、各モーター1,2の要求トルクを把握することも可能である。この場合、上記のセンサー16~18を省略することができる。
【0027】
制御装置10の内部には、
図1に示すように、算出部11と制御部12とが設けられる。これらの要素は、制御装置10の機能を便宜的に分類して示したものであり、制御装置10のハードウェア資源を用いて実行されるソフトウェアとして設けられる。個々の要素を独立したプログラムとして記述してもよいし、複数の機能を兼ね備えた複合プログラムとして記述してもよい。
【0028】
算出部11は、第一モーター1の回転数に基づき、ポンプ3の動作に由来する損失トルク(車軸上駆動損失トルク)とこれを補填するためのトルク加算値とを算出するものである。損失トルクは、
図3に示すようなマップや数式を利用して、第一モーター1のモータ回転数に基づいて算出可能である。また、トルク加算値は、第一モーター1から右軸13までの動力伝達経路における減速ギヤ比で損失トルクを除した値とされる。
【0029】
制御部12は、少なくとも算出部11で算出されたトルク加算値に基づいて第一モーター1,第二モーター2の作動状態を制御する機能を持つ。ここでは、第一モーター1の要求トルクにトルク加算値を加算した大きさのトルクが発生するように、第一モーター1が制御される。一方、第二モーター2は、第二モーター2の要求トルクが発生するように制御される。第一モーター1,第二モーター2の制御状態を以下に例示する。
【0030】
【0031】
表1に示すように、本実施形態ではポンプ3の動作に由来する損失トルクが第一モーター1によって補填される。例えば、直進走行時に第二モーター2の要求トルクが所定値Aであるとき、従来例では第一モーター1の要求トルクも所定値Aに設定される。その結果、車軸上駆動損失トルクにトルク差増幅率(ポンプ3から右軸13までの動力伝達経路における減速ギヤ比)を乗じた大きさの車軸トルク差が発生してしまう。一方、本実施形態では、左右輪の駆動トルク差(車軸トルク差)を0にするために、所定値Aとトルク加算値(車軸上駆動損失トルク/減速ギヤ比)との和に相当するトルクを第一モーター1に発生させている。これにより、少なくとも左右輪の意図しないトルク差が減少する。また、車両の直進走行時における左右輪の駆動トルク差(車軸トルク差)が0になる。
【0032】
また、制御部12は、車両の走行状態に応じて第一バルブ6,第二バルブ7の開度を制御する機能を併せ持つ。第一バルブ6,第二バルブ7の開度は、第一モーター1及び第二モーター2のうち、旋回内輪よりも旋回外輪に多くの駆動力を伝達する一方に供給される冷却油の流量が増加するように制御される。例えば、車両の右旋回時には、第二モーター2側の流量が増加するように、第二バルブ7の開度が開放方向に制御される。このとき、第一バルブ6の開度は閉鎖方向に制御される。好ましくは、第一モーター1に供給される冷却油の流量が、第二モーター2に供給される冷却油の流量よりも多くなるように、第一バルブ6及び第二バルブ7の開度が制御される。
【0033】
反対に、車両の左旋回時には第一バルブ6の開度が開放方向に制御されるとともに、第二バルブ7の開度が閉鎖方向に制御される。好ましくは、第一モーター1に供給される冷却油の流量が、第二モーター2に供給される冷却油の流量よりも少なくなるように、第一バルブ6及び第二バルブ7の開度が制御される。これらの制御により、モーター1,2の発熱量や温度差に由来するトルク差が発生しにくくなる。
【0034】
なお、車両の直進走行時には、第一モーター1の出力が第二モーター2の出力よりもやや大きい状態となることから、第一モーター1に供給される作動油量を第二モーター2に供給される作動油量よりもやや多くすることが考えられる。しかし、第一モーター1及び第二モーター2の出力差に由来する発熱量差や温度差が十分に小さい場合には、作動油量がほぼ同一となるように、第一バルブ6及び第二バルブ7の開度を制御してもよい。
【0035】
[2.フローチャート]
図4は、制御装置10によるモーター1,2の制御手順を説明するためのフローチャートである。このフローは、モーター1,2の作動中に所定周期で繰り返し実行される。算出部11は、第一モーター1の回転数に基づき、ポンプ3の動作に由来する損失トルク(車軸上駆動損失トルク)を算出する(ステップA1)。
【0036】
また、第一モーター1から右軸13までの動力伝達経路における減速ギヤ比で損失トルクを除算して、トルク加算値を算出する(ステップA2)。その後、損失トルクが補填されるように、制御部12が第一モーター1と第二モーター2とを制御する。このとき、第二モーター2の出力は、通常通り、要求トルクが発生するように制御される。これに対し、第一モーター1の出力は、要求トルクにトルク加算値を加算したトルクが発生するように制御される(ステップA3)。
【0037】
図5は、制御装置10によるバルブ6,7の制御手順を説明するためのフローチャートである。このフローも、モーター1,2の作動中に所定周期で繰り返し実行される。ここでは、バルブ6,7の作動状態が車両の旋回状況に応じて三種類〔左旋回時,右旋回時,それ以外(直進走行時や停止時)〕に分類される。車両の旋回状況は、例えばステアリングの操舵角や左右輪のスリップ状態などに基づいて判定可能である(ステップB1,B2)。
【0038】
左旋回時には、第一モーター1に供給される冷却油の流量が第二モーター2に供給される冷却油の流量よりも多くなるように、第一バルブ6及び第二バルブ7の開度が制御される(ステップB3)。一方、右旋回時には、第二モーター2に供給される冷却油の流量が第一モーター1に供給される冷却油の流量よりも多くなるように、第一バルブ6及び第二バルブ7の開度が制御される(ステップB4)。また、左旋回及び右旋回のいずれでもなければ、ステップB3と同様に、第一モーター1に供給される冷却油の流量が第二モーター2に供給される冷却油の流量よりも多くなるように、第一バルブ6及び第二バルブ7の開度が制御される(ステップB5)。このような制御により、モーター1,2の発熱量や温度差に由来するトルク差が発生しにくくなる。
【0039】
図6は、
図5のステップB1,B2における判定条件を変更した変形例である。ここでは、車両の旋回方向が判定される代わりに、第一モーター1から出力されるトルク(右モータートルク)と第二モーター2から出力されるトルク(左モータートルク)との大小関係が判断される。ステップC1では、左モータートルクが右モータートルクよりも小さいか否かが判定される。反対に、ステップC2では、左モータートルクが右モータートルクよりも大きいか否かが判定される。
【0040】
例えば、車両が左旋回中であっても、スリップの発生により左モータートルクが右モータートルクよりも大きくなることがある。このような場合、ステップC2の条件が成立し、第二モーター2に供給される冷却油の流量が第一モーター1に供給される冷却油の流量よりも多くなるように、第一バルブ6及び第二バルブ7の開度が制御される(ステップC4)。
【0041】
反対に、車両の右旋回中において、左モータートルクが右モータートルクよりも小さくなることがある。このような場合、ステップC1の条件が成立し、第一モーター1に供給される冷却油の流量が第二モーター2に供給される冷却油の流量よりも多くなるように、第一バルブ6及び第二バルブ7の開度が制御される(ステップC3)。左右のモータートルクが同一である場合には、
図5の制御と同様に、第一モーター1に供給される冷却油の流量が第二モーター2に供給される冷却油の流量よりも多くなるように、第一バルブ6及び第二バルブ7の開度が制御される(ステップC5)。このような制御により、モーター1,2の発熱量や温度差に由来するトルク差が発生しにくくなる。
【0042】
[3.効果]
(1)上述の実施形態では、第一モーター1の回転数に基づいて損失トルクとトルク加算値とが算出され、第一モーター1の要求トルクにトルク加算値を加算したトルクが発生するように、第一モーター1が制御される。このように、ポンプ3の動作に由来する損失トルクを第一モーター1の要求トルクに加算することで、左右輪の意図しないトルク差を減少させることができる。また、左右輪の駆動トルクが同一であるとき、理論上のトルク差を0にすることができる。
【0043】
(2)第一冷却油通路4の断面積を第二冷却油通路5の断面積よりも大きくすることで、第一冷却油通路4の流路抵抗を減少させることができ、ポンプ3が接続されている第一モーター1を第二モーター2よりも冷却されやすくすることができる。したがって、モーター1,2の温度差に由来するトルク差を減少させることができる。
【0044】
なお、第一冷却油通路4の断面積が大きいことは、右旋回時よりも左旋回時における冷却性能を向上させる上で有利となることを意味する。一般に、右旋回,左旋回の各々の発生頻度には大差がないものの、左側通行の道路では左旋回時の旋回半径が右旋回時の旋回半径よりも小さく、第一モーター1(左旋回時の旋回外輪である右輪に多くの駆動力を伝達する右側モーター)の発熱量が増加しやすい傾向がある。したがって、日本をはじめとして、オーストラリア,イギリス,東南アジア,インドなど左側通行の道路網が普及している国々においては、第一冷却油通路4の断面積を大きくすることで、左右のモーター1,2を効率よく冷却することができる。
【0045】
(3)第一冷却油通路4,第二冷却油通路5に第一バルブ6,第二バルブ7を介装し、車両の走行状態に応じてバルブ開度を制御することで、各モーター1,2に供給される冷却油の流量を精度よく調節することができ、左右のモーター1,2を効率よく冷却することができる。また、たとえ第一冷却油通路4及び第二冷却油通路5の断面積が同一であったとしても、それぞれの冷却油通路4,5を流れる冷却油の流量を自在に調整することができる。
【0046】
(4)第一バルブ6,第二バルブ7のバルブ開度は、旋回内輪よりも旋回外輪に多くの駆動力を伝達する一方のモーター1,2に供給される冷却油の流量が増加するように制御される。このように、温度上昇しやすい旋回外輪側のモーター1,2への冷却油量を多くすることで、モーター1,2の温度差を小さくすることができ、駆動トルク差を減少させることができる。したがって、左右輪の意図しないトルク差を減少させることができ、トルク安定性を高めることができる。
【0047】
(5)また、左右のモーター1,2の駆動トルクは、常に旋回内輪側よりも旋回外輪側が大きくなるとは限らない。例えば、旋回中にスリップした場合には、旋回内輪側の駆動トルクが増加することや、旋回外輪側の駆動トルクが減少することがあり、旋回内輪側の駆動トルクが旋回外輪側の駆動トルクよりも一時的に大きくなる場合がある。このような場合、旋回外輪よりも旋回内輪に多くの駆動力を伝達する一方のモーター1,2に供給される冷却油の流量を増加させることで、モーター1,2の温度差を小さくすることができ、駆動トルク差を減少させることができる。したがって、左右輪の意図しないトルク差を減少させることができ、トルク安定性を高めることができる。
【0048】
[4.変形例]
上記の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、本実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。上述の実施形態では、冷却油を冷媒として冷却装置を説明したが、冷媒の種類は不問である。例えば、冷却油の代わりに冷却水を用いた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 第一モーター
2 第二モーター
3 ポンプ
4 第一冷却油通路
5 第二冷却油通路
6 第一バルブ
7 第二バルブ
8 歯車機構
10 制御装置
11 算出部
12 制御部
15 AYC装置