(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】化粧シート及び化粧部材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20230801BHJP
B32B 33/00 20060101ALI20230801BHJP
E04F 13/07 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B33/00
E04F13/07 B
(21)【出願番号】P 2019082875
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】折原 隆史
(72)【発明者】
【氏名】冨永 孝史
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-162748(JP,A)
【文献】特開2019-056054(JP,A)
【文献】特開2016-007792(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056499(WO,A1)
【文献】特開2017-035894(JP,A)
【文献】特開2015-189160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
E04F 13/00- 13/30
C09J 1/00-201/10
C08J 5/00- 5/02、 5/12- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に絵柄層を印刷形成した着色熱可塑性樹脂層の前記絵柄層面に、透明な接着性樹脂層を介して表面に凹凸部が形成された透明熱可塑性樹脂層と表面保護層がこの順序に積層された化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層はバイオマスポリエチレン樹脂のみからなり、該透明熱可塑性樹脂層は20質量%以上60質量%以下のバイオマス低密度ポリエチレン樹脂と40質量%以上80質量%以下のバイオマス高密度ポリエチレン樹脂がブレンドされた樹脂組成物からなるものであることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記透明熱可塑性樹脂層に凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化粧シートの裏面側をプライマー層と接着剤層を介して任意の基材に貼り合わせた化粧部材。
【請求項4】
前記化粧部材は、折り曲げ加工が施されているか、または前記化粧シートがラッピング加工を施されているものであることを特徴とする請求項3に記載の化粧部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化粧シートに関し、特に炭酸ガス排出量の少ない化粧シート及びこれを用いた化粧部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化を防止する観点からすべての製品ジャンルにおいて炭酸ガス排出量の少ない製品が求められるようになってきた。製品を製造するために使用する原材料についても、その原材料を製造するためにどれだけの炭酸ガスが排出されるかが問題となる。一般的に化粧シートに用いられる熱可塑性樹脂は、ナフサを原料とするものが多いため、化粧シートの炭酸ガス排出量を低減することは、困難であった。
【0003】
特許文献1、2に記載された化粧シートは、農産物由来の原料を用いて製造されるポリ乳酸を用いた化粧シートである。ポリ乳酸は石油に依存せず、トウモロコシ、ジャガイモ、さつまいも等の農産物から製造されるでんぷんを原料として合成されるため、再生産可能な材料として注目されている。
【0004】
これに対して近年、砂糖きびの搾りかすから作られるアルコールを原料として製造されるポリエチレン樹脂が注目されるようになってきた。このポリエチレン樹脂は、食料を原料としない為、炭酸ガス削減効果ばかりでなく、地球環境全体に対する貢献度が極めて大きいという特徴がある。
【0005】
これらのポリエチレン樹脂は、一般的にバイオマスポリエチレンと呼ばれ、製品のカーボンフットプリント低減に貢献するものであるが、実際の化粧シートに応用しようとすると、いくつかの問題が生じることが分かった。
【0006】
具体的には、化粧シートとして必要とされる表面硬度を出すことができなかったり、曲げ加工性が悪い等の問題が生じることが判明したのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-73998号公報
【文献】特開2008-80703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、環境に優しいバイオマスポリエチレン樹脂を用いながら、十分な表面硬度と加工適性を兼ね備えた化粧シート及びこれを用いた化粧部材を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、表面に絵柄層を印刷形成した着色熱可塑性樹脂層の前記絵柄層面に、透明な接着性樹脂層を介して表面に凹凸部が形成された透明熱可塑性樹脂層と表面保護層がこの順序に積層された化粧シートであって、前記透明熱可塑性樹脂層はバイオマスポリエチレン樹脂のみからなり、該透明熱可塑性樹脂層は20質量%以上60質量%以下のバイオマス低密度ポリエチレン樹脂と40質量%以上80質量%以下のバイオマス高密度ポリエチレン樹脂がブレンドされた樹脂組成物からなるものであることを特徴とする化粧シートである。
【0010】
本発明に係る化粧シートは、透明熱可塑性樹脂層としていずれもバイオマス由来の低密度ポリエチレン樹脂と高密度ポリエチレン樹脂がブレンドされた樹脂組成物を用いたことにより、化粧シートとして必要とされる表面硬度と加工適性を両立することができた。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記透明熱可塑性樹脂層に凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧シートである。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の化粧シートの裏面側をプライマー層と接着剤層を介して任意の基材に貼り合わせた化粧部材である。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、前記化粧部材が、折り曲げ加工が施されているか、または前記化粧シートがラッピング加工を施されているものであることを特徴とする請求項3に記載の化粧部材である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る化粧シートは、化粧シートの構成材料の相当部分を占める透明熱可塑性樹脂層としてバイオマス由来のポリエチレン樹脂を用いたことにより、従来の製品に比較して炭酸ガスの発生量を削減することができた。
【0015】
透明熱可塑性樹脂層としていずれもバイオマス由来の低密度ポリエチレン樹脂と高密度ポリエチレン樹脂が特定の比率でブレンドされた樹脂組成物を用いたことにより、化粧シートとして必要とされる表面硬度と加工適性を両立させることができた。
【0016】
本発明に用いた透明熱可塑性樹脂は、フィルムの透明度が高いため、得られる化粧シートは意匠性において優れている。また、この樹脂は、押し出しラミネート加工においても加工性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に係る化粧シートの一実施態様における層構成を模式的に示した断面説明図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した化粧シートを基材に貼り合わせた化粧部材の一実施態様における層構成を模式的に示した断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を参照しながら本発明に係る化粧シートについて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る化粧シートの一実施態様における層構成を模式的に示した断面説明図である。本発明に係る化粧シート9は、表面に絵柄層2を印刷形成した着色熱可塑性樹脂層1の絵柄層面に、透明な接着性樹脂層3を介して表面に凹凸部7が形成された透明熱可塑性樹脂層4と表面保護層5がこの順序に積層された化粧シートであって、透明熱可塑性樹脂層4は20質量%以上60質量%以下のバイオマス低密度ポリエチレン樹脂と40質量%以上80質量%以下のバイオマス高密度ポリエチレン樹脂がブレンドされた樹脂組成物からなるものであることを特徴とする。
【0019】
着色熱可塑性樹脂層1は、熱可塑性樹脂に、顔料、無機充填剤、安定剤等を添加した熱可塑性樹脂組成物をシート状に成形したものを使用する。ここに使用する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等のポリオレフィン系樹脂や、エチレン-酢酸ビニル共重合体またはその鹸化物、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体等のポリオレフィン系共重合体樹脂や
、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、共重合ポリエステル樹脂(代表的には1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂である通称PET-G)等のポリエステル系樹脂や、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂や、6-ナイロン、6,6ナイロン、6,10ナイロン、12ナイロン等のポリアミド系樹脂や、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂や、セルロースアセテート、ニトロセルロース等の繊維素系樹脂や、ポリ乳酸樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の含塩素系樹脂や、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂、またはこれらから選ばれる2種または3種以上の共重合体や混合物を使用することができる。
【0020】
絵柄層2は、各種の印刷法によって形成され、印刷方式としては、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法等の印刷法が用いられる。最も一般的なのはグラビア輪転印刷法であり、連続した絵柄を効率的に印刷することができる。
【0021】
絵柄層2を形成するために使用するインキとしては、化粧シートとして必要とされる耐久性を考慮して、耐光性の高い顔料をそれぞれの印刷方式に適したバインダーに分散した専用のインキを使用する。
【0022】
接着性樹脂層3は、透明熱可塑性樹脂層4と2層同時に押し出しラミネートする際に絵柄層2と透明熱可塑性樹脂層4とを接着させるために使用するもので、透明熱可塑性樹脂層4が極性基を持たないポリオレフィン系樹脂の場合には必須となる。接着性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂に各種極性基を導入した変性ポリオレフィン系樹脂が用いられる。無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂等が一般的である。
【0023】
透明熱可塑性樹脂層4としては、バイオマス由来の低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂とバイオマス由来の高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂を特定の比率でブレンドした透明樹脂を使用する。比率としては、LDPEが20質量%以上、60質量%以下であり、HDPEが40質量%以上、80質量%以下であることが必要である。
【0024】
透明熱可塑性樹脂層4として、LDPEが60質量%を超える樹脂を用いると、曲げ加工適性は良好であるが、表面硬度が不足し、逆にHDPEが80質量%を超える樹脂を用いると表面硬度は十分であるが、曲げ加工適性に問題が生じる可能性がある。
【0025】
透明熱可塑性樹脂層4には、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、結晶化核剤等必要な添加剤を添加しても良い。
【0026】
接着性樹脂層3と透明熱可塑性樹脂層4は、2軸押出機を用いて2層の共押出しで絵柄層面に密着させると能率良く形成することができる。この時冷却ロールをエンボスロールとすることで、貼り合わせと同時に凹凸部7を形成することができる。このようにして形成された凹凸部7は、エンボスロールの再現性が良好であり、その結果意匠性の高い化粧シートが得られることになる。
【0027】
凹凸部7が形成された透明熱可塑性樹脂層4の表面には、表面保護層5を形成する。表面保護層5は、化粧シート表面の耐傷性や表面硬度を向上させ、適度な表面光沢を与える目的で形成されるものであり、熱硬化型アクリルウレタン樹脂、紫外線硬化型アクリル樹脂、電子線硬化型アクリル樹脂等の通常ハードコートと呼ばれる樹脂組成物を薄く塗布す
ることで形成される。これらの中で、紫外線硬化型塗料や電子線硬化型塗料等の電離放射線硬化型塗料は、硬化に要する時間も短くて済み、高硬度の塗膜がえられるため好ましい。
【0028】
化粧シート9は、通常何らかの基材に貼り合わせて使用されるものであるため、基材との接着性を向上させる目的で、着色熱可塑性樹脂層1の裏面にプライマー層6を形成しておくと良い。プライマー層6としては、粗面を形成するために充填剤を添加したアクリルウレタン樹脂等、接着性に優れたコート剤が用いられる。
【0029】
図2は、
図1に示した化粧シート9を基材8に貼り合わせた化粧部材10の一実施態様における層構成を模式的に示した断面説明図である。基材8としては、金属板、各種木質材料、プラスチック材料等が用途に合わせて用いられる。
【0030】
基材8に化粧シート9を貼り合わせた化粧部材10は、通常さらに何らかの後加工が施されるのが一般的である。以下実施例に従い、本発明に係る化粧シートについてさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0031】
<実施例1>
着色熱可塑性樹脂層として厚さ55μmの着色ポリエチレン樹脂を使用し、表面にコロナ放電処理を施した後、ウレタン樹脂系インキを用いてグラビア印刷法により絵柄層を形成した。絵柄層面に、2軸押出機を用いて接着性樹脂層と透明熱可塑性樹脂層を共押出してエンボスロールに圧着し、貼り合わせと同時に凹凸部を形成した。接着性樹脂層としては、マレイン酸変性ポリエチレン樹脂を使用した。透明熱可塑性樹脂層としては、バイオマス低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂とバイオマス高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂を50/50の比率でブレンドした樹脂を使用した。
【0032】
透明熱可塑性樹脂層の凹凸面にアクリル樹脂系紫外線硬化型樹脂からなる表面保護層を形成し、着色熱可塑性樹脂層の裏面にはコロナ放電処理を施した後にプライマー層を形成した。こうして得られた化粧シートを接着剤を用いてMDF(中密度木質繊維板)に貼り合わせて化粧部材とした。
【0033】
<実施例2>
透明熱可塑性樹脂層のLDPEとHDPEの比率を20/80とした以外は実施例1と同様にして化粧シートを作製し、同様に化粧部材を作製した。
【0034】
<実施例3>
透明熱可塑性樹脂層のLDPEとHDPEの比率を60/40とした以外は実施例1と同様にして化粧シートを作製し、同様に化粧部材を作製した。
【0035】
<比較例1>
透明熱可塑性樹脂層をLDPEのみとした以外は、実施例1と同様にして化粧シートを作製し、同様に化粧部材を作製した。
【0036】
<比較例2>
透明熱可塑性樹脂層をHDPEのみとした以外は、実施例1と同様にして化粧シートを作製し、同様に化粧部材を作製した。
【0037】
それぞれの化粧部材を、以下の評価項目について評価した。
<表面硬度>
化粧シートとしての耐傷性を十分有しているか評価した。
<押し出し適性>
生産ラインにおいて支障がないか評価した。
<透明度>
化粧シートにした際に意匠的に支障がないか評価した。
<曲げ加工適性>
MDFに貼り合わせた化粧部材を用いてVカット加工適性を確認した。
以上の結果を表1に示す。
【0038】
【0039】
透明熱可塑性樹脂層としてLDPEを100質量%用いた比較例1では、表面硬度が不足しており、HDPEを100質量%用いた比較例2では、曲げ加工適性が不足している。LDPEとHDPEの配合比がそれぞれ20質量%以上60質量%以下、40質量%以上80質量%以下の範囲に含まれる実施例1~3では、それぞれバランスのとれた性能が発揮されていることが分かる。
【符号の説明】
【0040】
1・・・着色熱可塑性樹脂層
2・・・絵柄層
3・・・接着性樹脂層
4・・・透明熱可塑性樹脂層
5・・・表面保護層
6・・・プライマー層
7・・・凹凸部
8・・・基材
9・・・化粧シート
10・・・化粧部材
11・・・接着剤層